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特許7430514鋳造合金、母合金粉末の製造方法及び、鋳造合金の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】鋳造合金、母合金粉末の製造方法及び、鋳造合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 30/00 20060101AFI20240205BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20240205BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20240205BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20240205BHJP
   C22F 1/16 20060101ALI20240205BHJP
   C22F 1/18 20060101ALI20240205BHJP
   C22C 14/00 20060101ALN20240205BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240205BHJP
【FI】
C22C30/00
B22F9/04 C
C22C21/00 N
C22F1/04 Z
C22F1/16 Z
C22F1/18 H
C22C14/00 Z
C22F1/00 611
C22F1/00 621
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 692A
C22F1/00 692Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019201044
(22)【出願日】2019-11-05
(65)【公開番号】P2021075740
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】森田 眞弘
(72)【発明者】
【氏名】早川 昌志
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋介
【審査官】櫻井 雄介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-094628(JP,A)
【文献】特開平08-144000(JP,A)
【文献】国際公開第2012/102162(WO,A1)
【文献】特開平02-175831(JP,A)
【文献】特開平03-193853(JP,A)
【文献】特開平06-271901(JP,A)
【文献】米国特許第4865666(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 30/00
C22C 21/00ー21/18
B22F 9/04
C22F 1/04
C22F 1/16
C22F 1/18
C22F 1/00
C22C 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti、AlFe及び不可避的不純物からなる母合金粉末製造用の鋳造合金であって、
Tiの含有量が25質量%~45質量%、Alの含有量が25質量%~68質量%、Feの含有量が7質量%~20質量%であり、
Ti、Al及びFeを含む化合物で形成されるL1 2 相を含み、
SEMの分析による断面観察で、前記L12相についての面積比が0.275以下である鋳造合金。
【請求項2】
Alの含有量とFeの含有量が、質量比でAl:Fe=5.0:0.5~5.0:3.0を満たす、請求項1に記載の鋳造合金。
【請求項3】
前記L1 2 相についての面積比が0.016以上である請求項1又は2に記載の鋳造合金。
【請求項4】
母合金粉末を製造する方法であって、請求項1~3のいずれか一項に記載の鋳造合金を粉砕する粉砕工程を含む、母合金粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の鋳造合金を製造する方法であって、
原料を溶解し、鋳造して合金塊を得る溶解鋳造工程と、前記合金塊を1000℃~1200℃に加熱する加熱工程と、前記加熱工程で加熱した前記合金塊を50℃/min以上の速度で冷却する急冷工程とを含む、鋳造合金の製造方法。
【請求項6】
前記急冷工程で、水冷により前記合金塊を冷却する、請求項に記載の鋳造合金の製造方法。
【請求項7】
前記鋳造合金のAlの含有量とFeの含有量が、質量比でAl:Fe=5.0:0.5~5.0:3.0を満たす、請求項又はに記載の鋳造合金の製造方法。
【請求項8】
前記溶解鋳造工程で、Ti、Al及びFeのそれぞれの純金属原料を、比重の軽い純金属原料から順番に層状に溶解炉に配置する、請求項5~7のいずれか一項に記載の鋳造合金の製造方法。
【請求項9】
母合金粉末を製造する方法であって、請求項のいずれか一項に記載の鋳造合金の製造方法の前記急冷工程で得られる鋳造合金を粉砕する粉砕工程を含む、母合金粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粉末冶金法の原料作製等に用いられ得る鋳造合金、母合金粉末の製造方法、及び鋳造合金の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタン合金は、軽量で優れた耐食性及び高い比強度を有する等といった理由から、航空宇宙機器用材料として広く利用されている。その他、チタン合金はさらに生体適合性を有し、医療機器用材料としても用いられる。
一方、チタン合金は成形加工性に難があり、溶解鋳造法により得た鋳塊を加工する方法では、最終形状を得るまでに多数の複雑な工程が必要になる。このことは、製造コストの増大を招く。また、チタン合金の溶解鋳造法では合金元素の偏析が生じやすく、用途によっては要求特性を満たすことが容易ではない場合がある。
【0003】
これに対し、近年は、素粉末混合法等の粉末冶金法が、比較的低コストで溶解鋳造法と同程度の機械的特性が得られること等から注目されている。粉末冶金法では一般に、所望の組成になるように調整した原料粉末を成形し、必要に応じて焼結等することが行われ、これにより容易にニアネットシェイプ製品が得られる。なお、製品の種類や用途等によっては、成形の後に焼結をせずに、当該成形体のまま流通することがある。
【0004】
この種の粉末冶金法に用いる原料粉末に関し、特許文献1には、「Ti-5Al-2.5Fe組成の焼結合金用の母合金であって、AlとFeの割合が目標比率を維持していて、使用にあたり配合が単純にでき、しかも粉砕性が良くて、150μm以下の粉末が容易に得られる母合金用の合金組成物を提供すること」を目的とし、「Ti:5~50wt%、Fe:11~38wt%を含み、残部が不可避的不純物を含むAlから成ることを特徴とする焼結合金用母合金」が提案されている。
【0005】
特許文献2は、「Al20~80原子%、Fe0.5~10原子%および残部が実質的にTiからなることを特徴とする焼結性に優れたTi-Al系金属間化合物粉末」を開示している。この「Ti-Al系金属間化合物粉末」によれば、「Ti-Al系金属間化合物粉末成形体の焼結時に現われる液相の範囲が低温側に広くなるので、低温での焼結によっても高い焼結密度を有する製品が得られ、さらに比較的粗い原料粉末を使用する場合にも、高い焼結密度が得られる。従って、Ti-Al系金属間化合物焼結体の機械的特性のみならず、耐熱性、対酸化性、耐磨耗性などをも大幅に改善することができる。」としている。
また特許文献2には、「Al20~80原子%、Fe0.5~10原子%および残部が実質的にTiである組成になるように配合された原料粉末混合物を成形し、成形体を不活性雰囲気下で加熱して1100~1400℃の温度範囲で焼結を行なうことを特徴とする高密度Ti-Al系金属間化合物焼結体の製造方法」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平2-175831号公報
【文献】特開平6-271901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1及び2にも記載されているような、Al及びFeを含有するチタン合金は、いわゆるユビキタス元素を合金元素とするので、低コストで製品の製造が可能である。したがって、所要の特性を損なうことなしに、そのようなTi-Al-Fe合金の製品を粉末冶金法により製造できれば、製造コストの更なる低減を実現できる。なお特に、5質量%程度のAl及び1質量%程度のFeを含有するTi-5Al-1Fe合金や、5質量%程度のAl及び2質量%程度のFeを含有するTi-5Al-2Fe合金は、Ti-6Al-4V合金とほぼ同レベルの機械的特性を有することから有望と考えられる。
このような状況の下、粉末冶金法によるTi-Al-Fe合金製品の製造技術を確立させることが望ましい。
【0008】
Ti-Al-Fe合金の粉末冶金法では、原料粉末として、純Ti粉末、Al粉末、Fe粉末等の合金元素粉末や、Ti-Al母合金粉末、Ti-Al-Fe母合金粉末等の母合金粉末を用いることができるが、なかでも、三元素を含むTi-Al-Fe母合金粉末を用いることが、焼結後のAlやFeの偏析を抑制する観点から好ましい。
【0009】
かかるTi-Al-Fe母合金粉末は、溶解鋳造によるインゴット等の鋳造合金を粉砕することにより作製できる。しかしながら、一般にTi-Al-Fe合金は粉砕性に乏しいものもあることから、Ti-Al-Fe母合金粉末の効率的な微細化は困難であった。
ここで、Ti-Al-Fe合金の粉末冶金法でAl及びFeの偏析を抑制してそれらの合金成分を均一に拡散させるため、Ti-Al-Fe母合金粉末の作製時には鋳造合金を適切に微細に粉砕することが望まれる。粗粒の母合金粉末を使用した場合は圧粉体の密度が向上しにくいのみならず、AlとFeの分散が不十分となった場合、結果として偏析に近い状態が生じうるからである。
【0010】
特許文献1及び2のいずれも、母合金粉末を作製するために粉砕に供される鋳造合金の粉砕性について十分な検討がなされていない。なお、特許文献2では、Ti-Al-Fe合金粉末を得るため、所定の粉末を溶解した後にアトマイズを行っており、比較的高価であるアトマイズ装置が必要になることもあってコストの増大が否めない。
【0011】
この発明の目的は、Ti-Al-Fe合金の粉末冶金法の原料粉末の作製に良好に用いることができる鋳造合金、母合金粉末の製造方法及び、鋳造合金の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は鋭意検討の結果、Ti、Al及びFeを含む化合物によるL12相をある程度含む鋳造合金であれば良好な粉砕性を有すること、及び、そのような鋳造合金を粉砕すれば微細な母合金粉末が得られやすくなることの新たな知見を得た。また、そのような鋳造合金は、原料に対して溶解鋳造を行って得られる合金塊を、所定の温度に加熱した後に急冷することで製造できることを見出した。
【0013】
この発明の鋳造合金は、Ti、Al及びFeを含有し、Tiの含有量が25質量%~45質量%、Alの含有量が25質量%~68質量%、Feの含有量が7質量%~20質量%であって、Ti、Al及びFeの合計含有量が90質量%以上であり、SEMの分析による断面観察で、Ti、Al及びFeを含む化合物で形成されるL12相についての面積比が0.275以下であるというものである。
【0014】
上記の鋳造合金は、Alの含有量とFeの含有量が、質量比でAl:Fe=5.0:0.5~5.0:3.0を満たすことが好ましい。
【0015】
この発明の母合金粉末の製造方法は、上記のいずれかの鋳造合金を粉砕する粉砕工程を含むものである。
【0016】
この発明の鋳造合金の製造方法は、Ti、Al及びFeを含有し、Tiの含有量が25質量%~45質量%、Alの含有量が25質量%~68質量%、Feの含有量が7質量%~20質量%であって、Ti、Al及びFeの合計含有量が90質量%以上である鋳造合金を製造する方法であって、原料を溶解し、鋳造して合金塊を得る溶解鋳造工程と、前記合金塊を1000℃~1200℃に加熱する加熱工程と、前記加熱工程で加熱した前記合金塊を50℃/min以上の速度で冷却する急冷工程とを含むものである。
【0017】
上記の鋳造合金の製造方法では、前記急冷工程で、水冷により前記合金塊を冷却することが好適である。
【0018】
また、上記の鋳造合金の製造方法では、前記鋳造合金のAlの含有量とFeの含有量が、質量比でAl:Fe=5.0:0.5~5.0:3.0を満たすことが好ましい。
【0019】
この発明の母合金粉末の製造方法は、上記のいずれかの鋳造合金の製造方法の前記急冷工程で得られる鋳造合金を粉砕する粉砕工程を含むものである。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、鋳造合金を、Ti-Al-Fe合金の粉末冶金法の原料粉末の作製に良好に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1の鋳造合金の断面における変換処理前と変換処理後のCOMP像である。
図2】実施例2の鋳造合金の断面における変換処理前と変換処理後のCOMP像である。
図3】実施例3の鋳造合金の断面における変換処理前と変換処理後のCOMP像である。
図4】比較例1の鋳造合金の断面における変換処理前と変換処理後のCOMP像である。
図5図1の実施例1の変換処理後のCOMP像から数値化した各明度範囲におけるピクセル数の割合を示すグラフである。
図6図2の実施例2の変換処理後のCOMP像から数値化した各明度範囲におけるピクセル数の割合を示すグラフである。
図7図3の実施例3の変換処理後のCOMP像から数値化した各明度範囲におけるピクセル数の割合を示すグラフである。
図8図4の比較例1の変換処理後のCOMP像から数値化した各明度範囲におけるピクセル数の割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
(鋳造合金)
この発明の一の実施形態の鋳造合金は、Ti、Al及びFeを含有し、Tiの含有量が25質量%~45質量%、Alの含有量が25質量%~68質量%、Feの含有量が7質量%~20質量%であって、Ti、Al及びFeの合計含有量が90質量%以上であり、SEMの分析による断面観察で、Ti、Al及びFeを含む化合物で形成されるL12相についての面積比が0.275以下であるというものである。
【0023】
鋳造合金の組成として、Tiの含有量は25質量%~45質量%であり、Alの含有量が25質量%~68質量%であり、Feの含有量は7質量%~20質量%であることが好ましい。但し、Ti、Al及びFeの合計含有量は、100質量%以下であることを前提とする。また、Ti、Al及びFeの合計含有量は、90質量%以上とする。したがって、Ti、Al及びFeの合計含有量は、90質量%~100質量%である。なお、Ti、Al及びFeの合計含有量は、95質量%以上としてよく、99質量%以上としてよい。
【0024】
Ti含有量、Al含有量、及びFe含有量がそれぞれ上記の範囲内であれば、後述するようにL12相についての面積比の値が低くなって(すなわちL12相の面積が大きくなって)粉砕性が大きく向上し得る傾向がある。
より詳細には、Ti含有量を25質量%以上とすることにより、延性に富むAlをある程度少なくすることができて、鋳造合金の粉砕性が向上する。また、Ti含有量を45質量%以下とすることにより、粉砕が困難なTi、Al系化合物の生成を抑えて、優れた粉砕性を実現することができる。
また、Fe含有量を20質量%以下にすることにより、粉砕性を悪化させるTi2Al3Feが多量にあらわれることを抑制することができる。Fe含有量を7質量%以上にすることにより、粉砕性を悪化させるTiAlが多量にあらわれることを抑制することができる。
【0025】
このような観点から、Ti含有量は、より好ましくは30質量%~42質量%とする。また好ましくは、Tiの含有量は、32質量%以上である。Fe含有量は、より好ましくは8質量%~19質量%とする。また好ましくは、Fe含有量が15質量%以下である。
【0026】
なお、鋳造合金のAl含有量は、25質量%~68質量%、好ましくは45質量%~55質量%とすることができる。
【0027】
L12相の面積を大きくするとの観点から、鋳造合金中のAlの含有量とFeの含有量とは、質量比でAl:Fe=5.0:0.5~5.0:3.0を満たすことが好ましい。Al含有量に対してFeの含有量を少なくし過ぎないことにより、Al又はTiAlによる粉砕性の悪化を抑制することができる。また、Al含有量に対してFeの含有量を多くし過ぎないことにより、L12相の減少を抑えて、粉砕性をさらに良好に高めることができる。
【0028】
鋳造合金には、Ti、Al及びFe以外の元素として、Cr、Mn、Nb、Mo、Ni及びZnからなる群から選択される少なくとも一種を含むことがある。当該少なくとも一種は、L12相に含まれる場合がある。これらの元素の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0029】
また鋳造合金には、不可避的不純物として、Cu及びOからなる群から選択される少なくとも一種の元素が含まれることがある。なお、Cuは、たとえば溶解で使用する水冷るつぼの材質等に由来して、鋳造合金に含まれることがある。このような不可避的不純物を含む場合、当該不可避的不純物の含有量は、複数種を含む場合はそれらの合計で、たとえば0.01質量%~0.2質量%、典型的には0.05質量%~0.3質量%である。
【0030】
鋳造合金には、Ti、Al及びFeを含む化合物で形成されるL12相が含まれる。このL12相は、典型的にはTiAl(3-x)Fexで表される化合物であり、ここでxは、0.1≦x≦0.4の関係を満たす。L12相は、鋳造合金の破砕性の向上に寄与するものであり、L12相がある程度多く含まれる鋳造合金を破砕することにより、微細なTi-Al-Fe合金である母合金粉末が得られやすくなる。その理由は必ずしも明確ではないが、L12相の多くを占めるTiAl(3-x)Fex(0.1≦x≦0.4)が、非常に脆性の高いTiAl3中のAlの一部がFeに置換されたものであると考えられ、TiAl3と同程度の脆性を有することによるものと考えられる。但し、この発明は、このような理由に限定されるものではない。
【0031】
具体的には、鋳造合金の断面をSEMで観察した場合、鋳造合金は、L12相についての面積比が0.275以下であるものとする。L12相についての面積比が0.275以下である鋳造合金は優れた粉砕性を有し、微細な母合金粉末の製造に適したものになる。言い換えれば、L12相についての面積比がこれよりも大きい場合、鋳造合金の粉砕性が十分に向上せず、母合金粉末を十分に微細なものとすることができない。この観点から、鋳造合金のL12相についての面積比は、0.130以下、さらに0.050以下であることが好ましい。なお、L12相についての面積比は、0.000以上となる。
【0032】
鋳造合金の断面におけるL12相についての面積比は、具体的には次のようにして算出する。鋳造合金の断面の一部について、SEMで倍率が500倍の画像(COMP像)を撮影する。この画像は、例えば日本電子株式会社製JXA-8100により取得する。なお、COMP像(反射電子像)は、試料の平均原子番号の差(組成の違い)を示す像であって、重いものほど白く、軽いものほど黒く映る。たとえば、ポアないしボイドやゴミは軽いので黒くなり、Feを多量に含む相は相対的に重いので白くなる。この画像をHTML基本16色に変換して色数を減らし、該画像の1ピクセル毎の明度を、RGBカラーモデルにて数値化する。すなわち、「明度=R*0.299+G*0.587+B*0.114」により明度を求める。
ここで、当該変換処理では、白色から黒色までの色は16色中4色(RGBの000(黒)、128128128、192192192、255255255(白))しかないので、実質的には4色に変換していることになる。なお、それらの4色の閾値はそれぞれ、666666、178178178、225225225である。RGBの000(黒)はボイド又はゴミ等とみなし、128128128及び192192192をL12相の黒色とし、255255255(白)をそれ以外の相の白色とする。そして、黒色のピクセル数に対する白色のピクセル数の比(白色/黒色)を計算する。なお、明度の数値が50以下の範囲はポア等とみなして、上記の白色/黒色の算出に用いない。この画像分析を鋳造合金の断面の異なる5箇所について行い、それらの5箇所で白色/黒色の計算値の平均を算出し、この平均値を上述したL12相についての面積比とする。
【0033】
なお、仮にL12相がTiAl(3-x)Fex(0.1≦x0.4)で表される化合物を含む場合、L12相が当該化合物を含むことは、X線回折法により確認することができる。具体的には、鋳造合金から採取したサンプルから、X線回折結果であるX線回折プロファイルを得る。そして、X線回折プロファイルに、Kα2線に起因するピークの除去等の所要の処理を施す。その後、ICDD(International Centre for Diffraction Data)のPDF(Powder Diffraction File)に基いて、2θ=39.300°~39.650°の範囲内で、TiAl(3-x)Fex{111}面の検出ピークの有無を確認する。
【0034】
(鋳造合金の製造方法)
上述したような鋳造合金を製造する方法の一例には、たとえば、原料を溶解して鋳造し、合金塊を得る溶解鋳造工程と、その合金塊を1000℃~1200℃、好ましくは1100℃~1200℃に加熱する加熱工程と、加熱工程で加熱した前記合金塊を50℃/min以上の速度で冷却する急冷工程とが含まれる。
【0035】
溶解鋳造工程では、アーク溶解炉等の適切な溶解炉を用いて、所定の組成になるように配合したTi、Al及びFeのそれぞれの純金属原料を溶解することができる。
所定の組成は、上述の通りであって、Tiの含有量が25質量%~45質量%、Alの含有量が25質量%~68質量%であり、Feの含有量が7質量%~20質量%とする。但し、Ti、Al及びFeの合計含有量は、100質量%以下であることを前提とする。また、Ti、Al及びFeの合計含有量は、90質量%以上とする。なお、Ti、Al及びFeの合計含有量は、95質量%以上としてよく、99質量%以上としてよい。Ti、Al及びFe以外の元素として、Cr、Mn、Nb、Mo、Ni及びZnからなる群から選択される少なくとも一種を含むことがあることも上述のとおりである。この組成としつつ、後述の加熱工程及び冷却工程を行うことにより、断面観察におけるL12相の面積を良好に増大させることができる。
【0036】
また溶解鋳造工程では、Ti、Al及びFeのそれぞれの純金属原料を、比重の軽い純金属原料から順番に層状に溶解炉に配置することが望ましい。具体的には、下側から順に純Al原料、純Ti原料及び純Fe原料を配置する。これにより、溶湯中の成分分離を抑制することができる。
そしてまた、鋳造合金での偏析を防止するため、所定の溶解処理後にインゴットを上下反転して再度溶解処理を行うといったような、インゴットを反転させる複数回の溶解処理を行うことが好ましい。複数回以上、たとえば三回以上の溶解を行うことにより、より均質な組成のインゴットとなる。
【0037】
加熱工程では、上記の溶解鋳造工程で得られて一旦冷えた合金塊を再度加熱し、1000℃~1200℃の温度にする。この加熱温度が低すぎると、L12以外の相が多くあらわれることで粉砕性が悪化することが懸念される。一方、加熱温度が高すぎると、1250℃程度で液相が現れるため、適切な熱処理ではなくなる可能性がある。上記の温度を保持する時間は、たとえば30分~1440分、好ましくは120分~300分とすることができる。保持時間をある程度長くすることにより、均質にL12があらわれる。保持時間を長くし過ぎないことにより、熱処理にかかる費用が減る。
【0038】
その後、加熱工程で加熱した前記合金塊を50℃/min以上の速度で冷却する急冷工程を行うことが重要である。急冷工程により、加熱工程で生成させたL12相を多く残したままの冷却となり、製造される鋳造合金のL12相についての面積比の値を上述したように小さくすることができると考えられる。但し、このような理論に限定されるものではない。
【0039】
急冷工程での冷却は、水冷、油冷又は空冷等の種々の手法により行うことができるが、水による冷却である水冷が、上記の冷却速度を実現しつつ簡便に行い得る点で好ましい。
【0040】
溶解鋳造工程、加熱工程及び急冷工程の各工程を経ることにより、先述したようなL12相についての面積比の値が小さい鋳造合金を製造することができる。
【0041】
(母合金粉末の製造方法)
上述したL12相についての面積比が0.275以下である鋳造合金、又は、上述した鋳造合金の製造方法により製造された鋳造合金に対しては、粉砕工程を行うことができる。粉砕工程では、当該鋳造合金を粉砕して、母合金粉末とする。なお、粉末の製造にはアトマイズ法もあるが、この実施形態では、粉砕という簡易な処理にて、高価な装置を使用することなしに、母合金粉末を製造することができる。
【0042】
粉砕工程では、種々の粉砕方法を採用可能である。粉砕方法として具体的には、たとえば、ボールミル又は破砕ローターを使用することや、高圧ガスの噴出による粒子同士の衝突を利用すること等を挙げることができる。
【0043】
粉末冶金法で母合金粉末を用いる場合、偏析の抑制及び密度の向上等の観点から、母合金粉末は微細なものであることが好ましい。
微細な母合金粉末を得るため、必要に応じて、粉砕工程後に、粒径の小さいものを得るための分級工程を行うことができる。分級工程では、気流による乾式分級が可能であり、また篩を用いる篩別でもよい。なお、この分級工程で篩により篩別する場合、目開きの異なる複数の篩を用いた複数段階の篩別を行うこととしてもよい。
【0044】
これにより製造される母合金粉末は、Ti、Al及びFeを含有するものである。例えば、断面におけるL12相についての面積比の値が小さい鋳造合金を用いたことにより、上記の粉砕工程及び分級工程等を経て得られる母合金粉末は微細なものになる。このような母合金粉末は、粉末冶金法によるTi-5Al-1Fe合金やTi-5Al-2Fe合金等のチタン合金の製造に好適に用いることができる。
【0045】
母合金粉末の粒子サイズは、150μm以下であることが好ましい。例えば、150μm角のメッシュ篩を使用して分級し、篩下を回収することで粒子サイズ150μm以下の母合金粉末を得ることができる。このような微細な母合金粉末は、それを用いて粉末冶金法により製造した製品でのAl及びFeの偏析を抑制し、それらをTi中に十分に拡散させることをもたらすからである。
【0046】
上述した母合金粉末は、必要に応じて、純チタン粉末及び/又はAl、Fe以外の合金元素からなる粉末等と混合させ、粉末冶金法による所定のチタン合金の製造等に好適に用いることができる。このチタン合金には、Ti-5Al-1Fe合金及び、Ti-5Al-2Fe合金の他、Ti-5Al-1Fe-x合金、Ti-5Al-2Fe-x合金のような、5mass%Al及び、1mass%Feもしくは2mass%Feを含有するとともに、さらに第3、第4の合金成分を含むチタン合金も含まれる。ここで、Al、Fe以外の元素からなる粉末とは、一般的なチタン合金に用いられる合金元素、例えば、V、Cr、Mn、Nb、Mo、Ni、Zn、Sn、Zr、Si、またはセラミック粉末、もしくは対象成分同士の母合金粉末を指すが、上記元素に限定されるものではない。
【実施例
【0047】
次に、この発明を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、それに限定されることを意図するものではない。
【0048】
純Ti原料、純Al原料及び、純Fe原料を、電子天秤を用いて所定の量に秤量した後、アーク溶解炉を用いて三回の溶解鋳造を行って、50gのボタンインゴット(合金塊)を得た。このボタンインゴットを1150℃に加熱し、その温度を2時間にわたって保持した後に、水冷により50℃/min以上の速度で急冷した。これにより、実施例1~3及び比較例1~4の各鋳造合金を作製した。
【0049】
実施例1~3及び比較例1~4の鋳造合金は、表1に示すように、組成が異なるものである。比較例2~4は、組成が異なること並びに、加熱及び急冷を行っていないことを除いて、実施例1と同様にして鋳造合金を作製した。Ti、Al及びFeの含有量は、株式会社日立ハイテクサイエンス社製のSPS-3100を用いて、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)により測定した。
【0050】
実施例1~3及び比較例1~4の各鋳造合金に対して、先述したように、SEMによる断面観察(ボタンインゴットの厚さ方向における深さ1/4位置の断面観察)を行い、L12相についての面積比を算出した。その結果を表1に示す。
なお、実施例1~3及び比較例1の鋳造合金のそれぞれについて、色数を減らす変換前(COMP像)と変換後に得られた断面のCOMP像を、図1~4にそれぞれ示す。さらに、変換後の画像に基づき求めた各明度範囲におけるピクセル数の割合を示すグラフを図5~8にそれぞれ示す。
【0051】
上記の実施例1~3及び比較例1~4の各鋳造合金の粉砕性を確認する試験を行った。ここでは、鋳造合金をハンマーで粗く砕いた後、20tプレスで3mm以下に粉砕し、粗破砕粉を得た。次いで、ボールミルとして、容器に直径10mmのSUS製ボール約10kgと粗粉砕粉を入れ、84rpm、20hの条件で粉砕した。粉砕後、粉末を取り出し、150μmメッシュで篩い、150μmメッシュの篩下となる粉体を回収した。これにより計測された150μmの篩下質量を投入質量で割った割合(〔150μmの篩下質量/粗粉砕粉質量〕×100)を歩留まりとした。その結果を表1に示す。歩留まりが30%以上であれば、歩留まりが良好であると判断する。
【0052】
【表1】
【0053】
粉砕性の試験結果より、実施例1~3はいずれも歩留まりが良好であった。一方、比較例1~4は、歩留まりが低い結果となった。これは、比較例1~4では鋳造合金の断面のL12相についての面積比の値が大きかったことによるものと考えられる。
【0054】
以上より、この発明によれば、粉砕性に優れた鋳造合金が得られることが解かった。このような鋳造合金はTi-Al-Fe合金の粉末冶金法の原料粉末の作製に良好に用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8