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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/22 20060101AFI20240205BHJP
   B60C 9/04 20060101ALI20240205BHJP
   D07B 1/06 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
B60C9/22 B
B60C9/04 D
D07B1/06 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019225831
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2021094916
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】松本 恭平
(72)【発明者】
【氏名】矢鳴 里奈
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-304307(JP,A)
【文献】特開2003-089303(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0275837(US,A1)
【文献】特開2006-298095(JP,A)
【文献】特開2015-027849(JP,A)
【文献】特開2001-322404(JP,A)
【文献】特開2014-133316(JP,A)
【文献】特開2015-128922(JP,A)
【文献】特開2011-025807(JP,A)
【文献】特開2014-008928(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0159154(US,A1)
【文献】特開2017-101352(JP,A)
【文献】特開2012-076674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/22
B60C 9/04
D07B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部間にトロイド状に延在する少なくとも1枚のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのクラウン部タイヤ半径方向外側に配置された少なくとも1層のベルト層からなるベルトとを備えるタイヤであって、
前記ベルト層が、撚り合わされずに一列に引き揃えられた複数本の金属フィラメントからなる補強素子をベルト層用エラストマーにより被覆してなり、該金属フィラメント同士の間の最小隙間距離が、0.01mm以上0.24mm未満であり、該金属フィラメント同士の間の最大隙間距離が、0.3mm以上2.0mm以下であって、
前記カーカスプライが、有機繊維コードをカーカス用エラストマーにより被覆してなり、該有機繊維コードの1本あたりの総繊度が500dtex以上5000dtex以下であって、かつ、該カーカスプライの単位面積あたりに含まれる該有機繊維コードの体積Scと、該カーカス用エラストマーの体積Srとの比率Sc/Srが、0.05より大きく0.65以下であることを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
前記補強素子が、2本以上20本以下の金属フィラメントからなる金属フィラメント束である請求項記載のタイヤ。
【請求項3】
前記金属フィラメントの線径が、0.15mm以上0.40mm以下である請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記有機繊維コードの1本あたりの総繊度が500dtex以上4000dtex未満である請求項1~のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項5】
前記有機繊維コードの撚り係数が0.3以上0.8以下である請求項1~のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項6】
前記金属フィラメントを被覆するベルト用エラストマーのうち前記カーカスに接する側の厚みと、前記カーカスプライの厚みと、の総和が、0.45mm以上2.0mm以下である請求項1~のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤに関し、詳しくは、撚り合わされずに引き揃えられた複数本の金属フィラメントからなる補強素子を、エラストマーで被覆してなるベルト層を備えたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、強度が必要とされるタイヤの内部には、リング状のタイヤ本体の子午線方向に沿って埋設された補強コードを含むカーカスが配置され、カーカスのタイヤ半径方向外側には、ベルト層が配置される。このベルト層は通常、スチール等の金属コードをエラストマーで被覆してなるエラストマー-金属コード複合体を用いて形成され、タイヤに耐荷重性、耐牽引性等を付与している。
【0003】
近年、自動車の燃費を向上させるために、タイヤを軽量化する要求が高まっている。タイヤの軽量化の手段として、ベルト補強用の金属コードが注目され、金属フィラメントを撚らずにベルト用コードとして使用する技術が多数公開されている。例えば、特許文献1には、単一のモノフィラメントからなるスチールコード本体の周囲に熱可塑性樹脂中にエラストマーを分散させた熱可塑性エラストマー組成物を被覆したタイヤ補強用スチールコード、および、これを使用したタイヤが開示されている。また、特許文献2には、同一の径の2~6本の主フィラメントを、撚り合わせることなく単一の層をなすように並列させて主フィラメント束とし、主フィラメントより小径で真直の1本のスチールフィラメントをラッピングフィラメントとして主フィラメント束の周囲に巻き付けてなるスチールコードを、タイヤベルト層に用いた空気入りラジアルタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-053495号公報
【文献】特開2012-106570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1や特許文献2で提案されているように、金属のモノフィラメントをエラストマーで被覆してベルトコードを形成することで、ベルトの薄ゲージ化による軽量化を図ることができ、モノフィラメントを束として用いれば、モノフィラメント束間の距離の確保による耐ベルトエッジセパレーション(BES)性の向上も図ることができる。しかしながら、特許文献1や特許文献2では、タイヤの騒音・振動の問題については検討されておらず、騒音や振動の抑制についても満足できるタイヤの実現が求められていた。
【0006】
そこで、本発明の目的は、撚り合わされずに引き揃えられた複数本の金属フィラメントからなる補強素子を、エラストマーで被覆してなるベルト層を備えるタイヤにおいて、軽量性に優れるとともに、騒音や振動を抑制することができるタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、ベルト層の補強素子を構成する金属フィラメントの条件、および、カーカスプライの条件を下記のとおり規定することにより、上記課題を解消できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、一対のビード部間にトロイド状に延在する少なくとも1枚のカーカスプライからなるカーカスと、該カーカスのクラウン部タイヤ半径方向外側に配置された少なくとも1層のベルト層からなるベルトとを備えるタイヤであって、
前記ベルト層が、撚り合わされずに一列に引き揃えられた複数本の金属フィラメントからなる補強素子をベルト層用エラストマーにより被覆してなり、該金属フィラメント同士の間の最小隙間距離が、0.01mm以上0.24mm未満であり、該金属フィラメント同士の間の最大隙間距離が、0.3mm以上2.0mm以下であって、
前記カーカスプライが、有機繊維コードをカーカス用エラストマーにより被覆してなり、該有機繊維コードの1本あたりの総繊度が500dtex以上5000dtex以下であって、かつ、該カーカスプライの単位面積あたりに含まれる該有機繊維コードの体積Scと、該カーカス用エラストマーの体積Srとの比率Sc/Srが、0.05より大きく0.65以下であることを特徴とするものである。
【0009】
本発明のタイヤにおいては、前記補強素子が、2本以上20本以下の金属フィラメントからなる金属フィラメント束であることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明のタイヤにおいては、前記金属フィラメントの線径が、0.15mm以上0.40mm以下であることが好ましい。さらにまた、本発明のタイヤにおいては、前記有機繊維コードの1本あたりの総繊度が500dtex以上4000dtex未満であることが好ましい。
【0011】
さらにまた、本発明のタイヤにおいては、前記有機繊維コードの撚り係数が0.3以上0.8以下であることが好ましい。さらにまた、本発明のタイヤにおいては、前記金属フィラメントを被覆するベルト用エラストマーのうち前記カーカスに接する側の厚みと、前記カーカスプライの厚みと、の総和が、0.45mm以上2.0mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、撚り合わされずに引き揃えられた複数本の金属フィラメントからなる補強素子を、エラストマーで被覆してなるベルト層を備えるタイヤにおいて、軽量性に優れるとともに、騒音や振動を抑制することができるタイヤを提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤの概略片側断面図である。
図2】本発明の一好適な実施の形態に係るベルト層の幅方向における部分断面図である。
図3図2に示すベルト層における補強素子の一構成例に係る金属コードを示す概略平面図である。
図4】ベルトのうちカーカスに接する最内層ベルト層と、カーカスのうちベルトに接する最外層カーカスプライとを取り出して示す拡大部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のタイヤについて、図面を用いて詳細に説明する。
【0015】
図1に、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤの概略片側断面図を示す。図示するタイヤ100は、接地部を形成するトレッド部101と、このトレッド部101の両側部に連続してタイヤ半径方向内方へ延びる一対のサイドウォール部102と、各サイドウォール部102の内周側に連続するビード部103とを備えた空気入りタイヤである。
【0016】
本発明のタイヤは、図示するように、一対のビード部103間にトロイド状に延在して、トレッド部101、サイドウォール部102およびビード部103を補強する少なくとも1枚、図示する例では1枚のカーカスプライからなるカーカス104を骨格とする。また、カーカス104のクラウン部タイヤ半径方向外側には、トレッド部101を補強する少なくとも1層のベルト層、図示する例では2層の第1ベルト層105aおよび第2ベルト層105bからなるベルト105が配置されている。ここで、カーカスプライは2枚以上であってもよく、ベルト層は3層以上であってもよい。
【0017】
本発明においては、ベルト105が、下記に詳述する複数本の金属フィラメントからなる補強素子をベルト層用エラストマーにより被覆してなるベルト層により形成されるとともに、カーカス104が、下記に詳述する条件を満足するカーカスプライにより形成される点が重要である。これにより、後述するように、軽量性に優れるとともに、騒音や振動を抑制することができるタイヤを実現することが可能となった。
【0018】
まず、本発明のタイヤに係るベルト層の構成について、図面を用いて詳細に説明する。図2は、本発明の一好適な実施の形態に係るベルト層の幅方向における部分断面図である。また、図3は、図2に示すベルト層における補強素子の一構成例に係る金属コードを示す概略平面図である。
【0019】
本発明に係るベルト層は、撚り合わされずに一列に引き揃えられた複数本の金属フィラメント1からなる補強素子2を、ベルト層用エラストマー3により被覆して形成されている。このような構成とすることで、第1ベルト層105aおよび第2ベルト層105bの厚みを薄くすることができ、タイヤの軽量化を図ることができる。なお、本発明に係る金属フィラメントは、実質的に真直の金属フィラメントである。ここで、真直の金属フィラメントとは、意図的に型付けをしておらず、実質的に型がついていない状態の金属フィラメントを指す。
【0020】
図示する例では、補強素子2は、複数本の金属フィラメント1が、撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コード2であるが、本発明においてはこれに限られない。本発明における補強素子2は、撚り合わされずに一列に引き揃えられた複数本の金属フィラメント1が、均等に配置されているものであってもよい。特には、補強素子2は、複数本の金属フィラメント1が、撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コード2であることが好ましい。
【0021】
補強素子2が、図示するような束からなる金属コード2である場合、金属フィラメント1は、好適には2本以上、より好適には5本以上であって、好適には20本以下、より好適には12本以下、さらに好適には10本以下、特に好適には9本以下の金属フィラメント束で金属コード2を構成する。図示する例においては、5本の金属フィラメント1が、撚り合わされずに引き揃えられて、金属コード2を形成している。
【0022】
本発明においては、補強素子2を構成する金属フィラメント1同士の間の最小隙間距離が、0.01mm以上0.24mm未満である。隣り合う金属フィラメント1同士の間の最小隙間距離を、0.01mm以上とすることで、ベルト層用エラストマー3を十分に金属フィラメント1同士の間に十分に浸透させることが可能となる。一方、上記最小隙間距離を0.24mm未満とすることで、金属フィラメント1同士の間におけるセパレーションの発生を抑制できる。補強素子2を構成する金属フィラメント1同士の間の最小隙間距離は、好適には0.03mm以上0.20mm以下、より好適には0.03mm以上、0.18mm以下である。
【0023】
なお、補強素子2が、図示するような束からなる金属コード2である場合、金属コード2を構成する金属フィラメント1同士の間隔w1が、上記最小隙間距離に相当する。
【0024】
本発明において、補強素子2を構成する金属フィラメント1同士の間の最大隙間距離は、好適には0.25mm以上2.0mm以下、より好適には0.3mm以上、1.8mm以下であって、さらに好適には0.35mm以上、1.5mm以下である。金属フィラメント1同士の間の最大隙間距離を0.25mm以上とすることで、ベルト幅方向端部のコード端を起点としたゴム剥離が隣り合う金属コード間に伝播する、ベルトエッジセパレーションの発生を抑制することができる。また、金属フィラメント1同士の間の最大隙間距離を2.0mm以下とすることで、ベルトの剛性を維持することができる。
【0025】
なお、補強素子2が、図示するような束からなる金属コード2である場合、金属コード2同士の間の間隔w2が、上記最大隙間距離に相当する。
【0026】
また、本発明において、金属フィラメント1の線径は、0.15mm以上0.40mm以下であることが好ましい。より好ましくは0.18mm以上、さらに好ましくは0.20mm以上であって、また、好ましくは0.35mm以下である。金属フィラメント1の線径を0.40mm以下とすることで、タイヤの軽量効果が十分に得られる。一方、金属フィラメント1の線径を0.15mm以上とすることで、十分なベルト強度を発揮できる。
【0027】
本発明においては、隣り合う金属フィラメント1間にエラストマー3を十分に浸透させることができるものであるが、隣り合う金属フィラメント間にエラストマーによって被覆されていない非エラストマー被覆領域が連続して存在することを抑止する観点からは、以下の条件を満足することが好ましい。すなわち、補強素子2が、図示するような束からなる金属コード2である場合には、金属コード2内で隣り合う金属フィラメント1の、金属コード2の幅方向側面におけるエラストマー被覆率が、単位長さ当たり10%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。さらに好ましくは50%以上被覆されており、80%以上被覆されていることが特に好ましい。もっとも好ましくは、90%以上被覆されている状態である。これにより、ベルト層における耐腐食進展性を確保するとともに、ベルトの面内剛性を向上させ、操縦安定性を改善する効果を良好に得ることができる。
【0028】
ここで、本発明において、エラストマー被覆率とは、例えば、エラストマーとしてゴムを用い、金属コードとしてスチールコードを用いた場合、スチールコードをゴム被覆し、加硫した後、得られたゴム-スチールコード複合体からスチールコードを引き抜き、スチールコードを構成するスチールフィラメント同士の間隙に浸透したゴムにより被覆されている、スチールフィラメントの金属コード幅方向側面の長さを測定し、下記算出式に基づいて算出した値の平均をいう。
エラストマー被覆率=(ゴム被覆長/試料長)×100(%)
なお、エラストマーとして、ゴム以外のエラストマーを用いた場合、および、金属コードとして、スチールコード以外の金属コードを用いた場合も、同様に算出することができる。
【0029】
本発明において、金属フィラメント1は、一般に、鋼、すなわち、鉄を主成分(金属フィラメントの全質量に対する鉄の質量が50質量%を超える)とする線状の金属をいい、鉄のみで構成されていてもよいし、鉄以外の、例えば、亜鉛、銅、アルミニウム、スズ等の金属を含んでいてもよい。
【0030】
また、本発明において、金属フィラメント1の表面状態については特に制限されないが、例えば、下記の形態をとることができる。すなわち、金属フィラメント1としては、表面のN原子が2原子%以上60原子%以下であって、かつ、表面のCu/Zn比が1以上4以下であることが挙げられる。また、金属フィラメント1としては、フィラメント表面からフィラメント半径方向内方に5nmまでのフィラメント最表層に酸化物として含まれるリンの量が、C量を除いた全体量の割合で、7.0原子%以下である場合が挙げられる。
【0031】
また、本発明において、金属フィラメント1の表面には、めっきが施されていてもよい。めっきの種類としては、特に制限されず、例えば、亜鉛(Zn)めっき、銅(Cu)めっき、スズ(Sn)めっき、ブラス(銅-亜鉛(Cu-Zn))めっき、ブロンズ(銅-スズ(Cu-Sn))めっき等の他、銅-亜鉛-スズ(Cu-Zn-Sn)めっきや銅-亜鉛-コバルト(Cu-Zn-Co)めっき等の三元系合金めっきなどが挙げられる。これらの中でも、ブラスめっきや銅-亜鉛-コバルトめっきが好ましい。ブラスめっきを有する金属フィラメントは、ゴムとの接着性が優れているからである。なお、ブラスめっきは、通常、銅と亜鉛との割合(銅:亜鉛)が、質量基準で60~70:30~40、銅-亜鉛-コバルトめっきは、通常、銅が60~75重量%、コバルトが0.5~10重量%である。また、めっき層の層厚は、一般に100nm以上300nm以下である。
【0032】
さらにまた、本発明においては、金属フィラメント1の線径や抗張力、断面形状については、特に制限はない。例えば、金属フィラメント1としては、抗張力(filament strength)が2500MPa(250kg/mm)以上のものを用いることができ、これにより、タイヤの耐久性を維持しつつ、ベルトに使用する金属量を低減でき、騒音性を改善することができる。さらに、金属フィラメント1の幅方向の断面形状も特に制限されず、真円状や楕円状、矩形状、三角形状、多角形状等とすることができるが、真円状が好ましい。なお、本発明において、補強素子2が、図示するような束からなる金属コード2である場合に、金属コード2を構成する金属フィラメント1の束を拘束する必要がある場合には、金属フィラメント束にラッピングフィラメント(スパイラルフィラメント)を巻回してもよい。
【0033】
さらに、本発明においては、ベルト層中の補強素子2を被覆するベルト層用エラストマー3の、JIS K 6251(2010年)に準拠し測定した50%モジュラス値が、1.5MPa以上であることが好ましい。好ましくは1.8MPa以上、より好ましくは2.0MPa以上である。このようなエラストマーを補強素子2の被覆に用いると、補強素子2が長手方向に伸張した場合であっても、補強素子2内部のエラストマーが高剛性であるため、補強素子2の長手方向への伸張を阻害して、ベルトの剛性をさらに向上させることができる。その結果、操縦安定性をより向上させることができる。なお、ベルト層用エラストマー3としてゴム組成物を用いる場合のゴム組成物の上記50%モジュラス値は、各ゴム組成物のサンプルを、145℃で40分間加硫して加硫ゴムとした後、JIS K 6251(2010年)に準拠して測定した値である。
【0034】
このようなベルト層用エラストマー3としては、例えば、従来、金属コードを被覆するために用いていたゴムの他、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR、高シスBRおよび低シスBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR等のジエン系ゴムおよびその水添物、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M-EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー等のオレフィン系ゴム、Br-IIR、CI-IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br-IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、塩素化ポリエチレンゴム(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレンゴム(M-CM)等の含ハロゲンゴム、メチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴム等のシリコンゴム、ポリスルフィドゴム等の含イオウゴム、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン-プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム等のフッ素ゴム、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等の熱可塑性エラストマーが挙げられる。これらのベルト層用エラストマー3は1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
また、ベルト層用エラストマー3には、硫黄、加硫促進剤、カーボンブラックの他に、タイヤやコンベアベルト等のゴム製品で通常使用される老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸等を適宜配合することができる。
【0036】
本発明において、ベルト層を形成するベルトトリートは、既知の方法にて作製することができる。例えば、複数本の金属フィラメント1を、所定の間隔で平行に並べてなる補強素子2を、ベルト層用エラストマー3により被覆するか、または、複数本の金属フィラメント1を撚り合わせずに引き揃えた金属フィラメント束からなる金属コード2を、ベルト層用エラストマー3により被覆して作製することができる。
【0037】
本発明において、ベルト層を形成するベルトトリートの厚みは、0.30mm以上、1.00mm以下とすることが好ましい。ベルトトリートの厚みを上記範囲とすることで、軽量性および低転がり抵抗を確保しつつ、耐久性を向上することができる。
【0038】
また、ベルト105におけるコード角度は、タイヤ周方向に対し30°以下とすることができる。
【0039】
次に、本発明に係るカーカス104について説明する。
本発明においては、カーカス104を構成するカーカスプライとして、カーカス用エラストマーにより被覆されてなる有機繊維コードからなり、この有機繊維コードの1本あたりの総繊度が500dtex以上5000dtex以下であって、カーカスプライの単位面積あたりに含まれる有機繊維コードの体積Scとカーカス用エラストマーの体積Srとの比率Sc/Srが、0.05より大きく0.65以下であるものを用いる。
【0040】
上記条件を満足するカーカスプライを用いることで、カーカスプライの減衰性を高めることができ、耐久性を維持しつつ、騒音・振動性能を向上することができる。よって、このようなカーカスプライと、軽量性に優れる上記ベルト層とを組み合わせることで、軽量性と騒音・振動性能とを両立させたタイヤを得ることができる。
【0041】
本発明に係るカーカス104において、有機繊維コードの1本あたりの総繊度は、500dtex以上5000dtex以下であることが必要である。また、下限値は、好適には650dtex以上、より好適には1000dtex以上であって、上限値は、好適には4800dtex以下、より好適には4600dtex以下、特に好適には4000dtex未満である。有機繊維コードの1本あたりの総繊度を、500dtex以上とすることで、十分なカーカス強度を確保して、良好な耐久性を得ることができ、5000dtex以下とすることで、軽量性および低転がり抵抗のメリットを十分に得ることができる。
【0042】
本発明に係るカーカス104において、カーカスプライの単位面積あたりに含まれる有機繊維コードとカーカス用エラストマーとの体積比率Sc/Srは、0.05より大きく0.65以下であることが必要である。また、下限値は、好適には0.10以上、より好適には0.15以上であって、上限値は、好適には0.63以下である。上記体積比率Sc/Srが、0.05以下であると、十分なカーカス強度が確保できず、耐久面で懸念があり、0.65を超えると、音および振動の減衰性が十分に確保できず、騒音や振動を抑制する点でのメリットが小さくなり、いずれにしても本発明の効果が得られない。
【0043】
また、本発明に係るカーカス104に用いる有機繊維コードとしては、撚り係数が0.3以上0.8以下であることが好ましく、0.35以上0.7以下であることがより好ましい。上記有機繊維コードの撚り係数を0.3以上0.8以下とすることで、コードの耐疲労性と強力とを両立することができ、好ましい。上記有機繊維コードの撚り本数は、例えば、2本撚りまたは3本撚りとすることができる。
【0044】
本発明においては、上記有機繊維コードの具体的な材質については特に制限はなく、従来カーカス用途に使用されているもののうちから適宜選択して用いることができる。具体的には例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、脂肪族ポリアミド(ナイロン)、芳香族ポリアミド(アラミド)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアリレート、レーヨン、ポリケトン等の有機繊維の少なくとも一種からなるものを用いることができる。
【0045】
また、カーカス用エラストマーについても特に制限はなく、従来、カーカス用途に用いられているゴム組成物等を用いることができ、これ以外にも、例えば、前述したベルト用エラストマーと同様のものを適宜用いることができる。本発明において、カーカス用エラストマーとベルト用エラストマーとは、同種のものを用いてもよく、また、異なる種類のものを用いてもよい。
【0046】
本発明において、カーカスプライを形成するプライトリートの厚みは、0.4mm以上1.6mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.4mm以上1.5mm以下である。プライトリートの厚みを、1.6mm以下にすることで軽量化および低転がり抵抗を達成することができ、0.4mm以上とすることで、耐久性を確保することができる。なお、カーカスプライにおける有機繊維コードのコード角度は、通常、タイヤ周方向に対してほぼ直交する方向、例えば、70°以上90°以下の角度とすることができる。
【0047】
図4に、ベルトのうちカーカスに接する最内層ベルト層と、カーカスのうちベルトに接する最外層カーカスプライとを取り出して示す拡大部分断面図を示す。図中の符号4は、カーカスプライに埋設された有機繊維コードを示す。本発明のタイヤにおいては、ベルト、図示する例ではベルト層105aにおける、金属フィラメント1を被覆するベルト用エラストマー3のうちカーカス104に接する側の厚みt1と、カーカスプライの厚み、図示する例ではカーカス104の厚みt2と、の総和Tが、0.45mm以上2.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.3mm以上2.0mm以下である。すなわち、ベルト105のうちカーカス104に接する最内層ベルト層に埋設された金属フィラメント1の表面から、カーカス104のうちベルト105に接する最外層カーカスプライのタイヤ半径方向内面までに含まれるエラストマーの総厚みが、0.45mm以上2.0mm以下であることが好ましい。このような範囲とすることで、低転がり抵抗を確保しつつ、騒音および振動の抑制性能を良好に発揮させることができるので、好ましい。
【0048】
本発明のタイヤ100においては、上記所定のベルトおよびカーカスを配置する以外の点については特に制限されるものではない。例えば、ベルト105のタイヤ径方向外側にベルト補強層を配置してもよく、その他の補強部材を用いてもよい。また、一対のビード部103には、それぞれビードコア106を配置することができ、カーカス104は、通常、ビードコア106の周りに内側から外側に巻き上げて係止される。さらに、図示はしないが、ビードコア106のタイヤ径方向外側には、断面先細り状のビードフィラーを配置することができる。さらにまた、タイヤ100に充填する気体としては、通常のまたは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0049】
本発明においては、タイヤ種には制限はなく、図示するタイヤは乗用車用タイヤであるが、トラック・バス用タイヤや大型タイヤなど、いかなるタイヤにも適用することができる。
【0050】
本発明の具体的な実施形態に係るタイヤとしては、例えば、図1に示すような、一対のビード部間にトロイド状に延在し、コード角度がタイヤ周方向に対し実質的に90°である1枚のカーカスプライからなるカーカスと、そのクラウン部タイヤ半径方向外側に配置され、タイヤ周方向に対するコード角度が±28°である2層のベルト層からなるベルトとを備えるものが挙げられる。
【0051】
このタイヤにおいて、ベルト層は、線径0.26mmの真直のスチールフィラメントを、5本で、撚り合わせずに一列に引き揃えたスチールフィラメントの束からなるスチールコードを、上下両側から、例えば、下記の組成を有するゴム組成物よりなる厚さ0.5mm程度のシートにより被覆することで、形成することができる。このスチールフィラメントの束内における隣り合う金属フィラメント同士の間の最小隙間距離w1は0.15mm、スチールフィラメントの束からなるスチールコード同士の間の最大隙間距離w2は0.48mmとすることができ、打ち込み本数は105本/50mm(21束/50mm)とすることができる。
【0052】
天然ゴム 100質量部
カーボンブラック*1 61質量部
亜鉛華 5質量部
老化防止剤*2 1質量部
加硫促進剤*3 1質量部
硫黄*4 5質量部
*1)N326、DBP吸油量 72ml/100g、NSA 78m/g
*2)N-フェニル-N’-1,3-ジメチルブチル-p-フェニレンジアミン(商品名:ノクラック6C、大内新興化学工業株式会社製)
*3)N,N’-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(商品名:ノクセラーDZ、大内新興化学工業株式会社製)
*4)不溶性硫黄(商品名:クリステックスHS OT-20、フレキシス社製)
【0053】
また、このタイヤにおいて、カーカスプライは、繊度が1100dtex(550dtex/2、1本あたりの総繊度:550dtex)、撚り係数が0.50であるアラミドからなる有機繊維コードを、打ち込み本数47本/50mmにて、汎用のカーカス用ゴム組成物により被覆して形成することができる。この場合のカーカスプライの単位面積あたりに含まれる有機繊維コードの体積Scと、カーカス用エラストマーの体積Srとの比率Sc/Srは、0.20とすることができる。
【0054】
さらに、このタイヤにおいて、ベルト層におけるスチールフィラメントを被覆するベルト用エラストマーのうちカーカスに接する側の厚みと、カーカスプライの厚みとの総和は、0.35mmとすることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 金属フィラメント
2 補強素子(金属コード)
3 ベルト層用エラストマー
4 有機繊維コード
100 タイヤ
101 トレッド部
102 サイドウォール部
103 ビード部
104 カーカス
105 ベルト
105a 第1ベルト層
105b 第2ベルト層
106 ビードコア
図1
図2
図3
図4