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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】緑茶飲料
(51)【国際特許分類】
   A23F 3/16 20060101AFI20240205BHJP
【FI】
A23F3/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020002025
(22)【出願日】2020-01-09
(65)【公開番号】P2021108567
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】596126465
【氏名又は名称】アサヒ飲料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 慈
(72)【発明者】
【氏名】山本 広晃
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-523016(JP,A)
【文献】特開平10-117687(JP,A)
【文献】米国特許第3966986(US,A)
【文献】Food Research International,2013年,Vol.53,pp.864-874
【文献】J. Agric. Food Chem.,1995年,Vol.43,pp.1621-1625
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑茶飲料であって、
1‐ペンテン‐3‐オールの含有量が40ppb以下であり、
その含有量が0.3~1000ppbであるネロリドールを含有する、緑茶飲料。
【請求項2】
1‐ペンテン‐3‐オールの含有量が20ppb以上である、請求項1に記載の緑茶飲料。
【請求項3】
ネロリドールの含有量が0.6~100ppbである、請求項1または2に記載の緑茶飲料。
【請求項4】
1‐ペンテン‐3‐オールの含有量が40ppb以下である緑茶飲料において、ネロリドールの含有量を0.3~1000ppbとすることを含む、緑茶飲料における番茶臭抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は緑茶飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば容器詰め茶飲料の製造には、コストや調達の観点から三番茶や秋冬番茶などのいわゆる低級茶葉が用いられることも珍しくない。
一方、低級茶葉を多く使用するようになると、番茶臭(青臭や木茎臭とも称される、生木のような青臭さ)と呼ばれる好ましくない香りが強く感じられるようになることがある。このように番茶臭が強く感じられるようになると緑茶飲料の香気が損なわれ嗜好性が低下してしまうため、好ましくない。
【0003】
緑茶飲料における香気の改善に関するものとしては、例えば特許文献1~4が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-143467号公報
【文献】特開2012-000088号公報
【文献】特開2012-000089号公報
【文献】国際公開第2011/162201号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、緑茶飲料において、飲んだときに番茶臭が感じられるのを抑えることができる新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究の結果、番茶臭と1-ペンテン3-オールとの間に相関があること、およびネロリドールを所定の範囲内の含有量で緑茶飲料中に含有させることにより茶飲料における番茶臭を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 緑茶飲料であって、
1‐ペンテン‐3‐オールの含有量が40ppb以下であり、
その含有量が0.3~1000ppbであるネロリドールを含有する、緑茶飲料。
[2] 1‐ペンテン‐3‐オールの含有量が20ppb以上である、[1]に記載の緑茶飲料。
[3] ネロリドールの含有量が0.6~100ppbである、[1]または[2]に記載の緑茶飲料。
[4] 1‐ペンテン‐3‐オールの含有量が40ppb以下である緑茶飲料において、ネロリドールの含有量を0.3~1000ppbとすることを含む、緑茶飲料における番茶臭抑制方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、緑茶飲料において、飲んだときに番茶臭が感じられるのを抑えることができる新規な技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の1つの実施形態について、詳細に説明する。
本実施形態は、緑茶飲料に関し、具体的には、1‐ペンテン‐3‐オールの含有量が40ppb以下であり、その含有量が0.3~1000ppbであるネロリドールを含有する、緑茶飲料に関する。
【0010】
本明細書において、緑茶飲料とは、Camellia sinensisから得られる葉や茎から製茶された緑茶葉(蒸し茶、煎茶、玉露、抹茶、番茶、玉緑茶、釜炒り茶、中国緑茶などの不発酵茶に分類される茶)の、水や熱水などを用いて抽出した抽出液(緑茶抽出液)を配合した飲料の総称を意味する。
緑茶抽出液は特に限定されず、緑茶を抽出して得られた抽出液のみからなる液体、当該抽出液を濃縮または希釈した液体等を例示することができ、これら液体を濃縮乾燥して得られる抽出物を再度水等に溶解または分散させたものであってもよい。
また、異なる種類に由来する緑茶葉から抽出された抽出液等を混合したものでもよく、緑茶葉と玄米等の穀物類、ジャスミン花、その他のハーブ等のフレーバー類等との混合物を抽出して得られた抽出液であってもよい。
なお、緑茶飲料における緑茶由来成分の割合は特に限定されず、当業者が適宜設定することができ、例えば、タンニンについて35~100mg/100ml(酒石酸鉄比色法に基づき測定)である範囲とすることができる。
【0011】
茶葉の抽出条件については特に限定されず、使用される茶葉の種類や量、組成などを考慮して当業者が適宜設定することができる。
ここで、上述のとおり、緑茶飲料においては、低級茶葉とも称される、三番茶やそれ以降に摘まれた秋冬番茶などの茶葉を原料として用いる場合に番茶臭が感じられるようになることが多い。
そのため、特に限定されないが、本実施形態においては、該番茶臭が感じられるのを抑えることができるので、三番茶やそれ以降に摘まれた秋冬番茶などの茶葉を用いて得られた緑茶抽出液を含むようにすることが例示できる。
【0012】
抽出工程では、一般的な抽出方法を採用可能であり、例えば、水蒸気蒸留、液化炭酸ガス抽出、アルコール抽出、熱水抽出等の従来公知の抽出方法を用いることができる。また、抽出に用いる抽出溶媒の種類は、特に限定されないが、水を抽出溶媒とする場合は、脱イオン交換処理精製したもの又は蒸留水を用いることが好ましい。これらは、安価、手軽であり、且つ安全に調製し抽出設備に供することができる。水以外の抽出溶媒としては、エタノールやその他の親水性有機溶媒が挙げられる。また、抽出溶媒に対して、抽出効率化の目的で、食品添加物のいわゆる炭酸塩(炭酸水素ナトリウム(重曹)等)、リン酸塩、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸等を適宜添加してもよい。
抽出温度は、特に限定されないが、例えば35℃以上100℃以下とすることが挙げられる。抽出時間も特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。
【0013】
本実施形態においては、緑茶飲料中に、40ppb以下の含有量で1‐ペンテン‐3‐オールを含有し、また、0.3~1000ppbの含有量でネロリドールを含有する。
【0014】
1‐ペンテン‐3‐オールは緑茶などにおいて含まれる成分として知られている。本発明者は、該1‐ペンテン‐3‐オールの含有量が緑茶飲料中で増加すると番茶臭もより感じられるようになることを明らかにした。
【0015】
ネロリドールは化学式:C1526Oで表されるセスキテルペンの一種であり、1‐ペンテン‐3‐オールと同じく緑茶に含まれる成分として知られている。ネロリドールにはシス型、トランス型の異性体が存在する。本実施形態において、ネロリドールはシス型、トランス型のいずれであってもよく、これらの割合は特に限定されない(後述のネロリドールの含有量は、これらシス型、トランス型の合算値とすることができる)。
【0016】
1‐ペンテン‐3‐オールの含有量が40ppb以下である緑茶飲料において、ネロリドールの含有量を0.3~1000ppbとすることで、ネロリドールの含有量が範囲外にある場合と比較して、グリーン感などはそのままかそれ以上として番茶臭を抑えることができる。
【0017】
なお、本明細書において、グリーン感とは、若葉様とも称される香りをいう。グリーン感が増すと新鮮さ(より早い時期に摘まれたように感じられる感覚)がより連想されるようになり緑茶の香気が高まるため、好ましい。
グリーン感をより感じることができるようになるため、ネロリドールの含有量は0.6~100ppbが好ましい。さらに、番茶臭のさらなる抑制の観点から、ネロリドールの含有量は、より好ましくは1~100ppbである。
【0018】
また、1‐ペンテン‐3‐オールの含有量は40ppb以下である限り特に限定されないが、本発明の構成を適用することで、20ppb未満に適用する場合よりもより番茶臭抑制の効果を感じることができるので、20ppb以上、40ppb以下(より好ましくは20ppb以上35ppb以下、さらにより好ましくは20ppb以上30ppb以下)が好ましい。
【0019】
本実施形態の緑茶飲料は、本発明の目的を達成することができる範囲で他の成分を含有していてもよく、特に限定されない。具体的には、他の成分として、香料、ビタミン、ミネラル、酸化防止剤、色素、乳化剤、保存料、調味料、酸味料などを挙げることができる。例えばこれらのうち1種又は2種以上を組み合わせて含有するようにしてもよい。
また、本実施形態の緑茶飲料について、pH等も特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。
【0020】
本実施形態に係る緑茶飲料の製造方法に関する処理フローの一例を、容器詰めの緑茶飲料とする場合を例に挙げて説明する。
まず、茶葉について抽出処理を行い、続いて濾過を行うことにより緑茶葉等の固形分を除去し、緑茶抽出液を得る。
次に、得られた緑茶抽出液について、必要に応じて希釈、pH調整、含有成分の添加、加熱殺菌等の処理を行った後、容器に充填し、容器詰めの緑茶飲料を得る。
【0021】
ネロリドール、1‐ペンテン‐3‐オールの含有量の調整は緑茶飲料の製造工程のいずれかで行うことができ、特に限定されず、例えば容器詰め前の得られた緑茶抽出液に対して行うようにすることができる。調整の具体的な方法については、例えば化合物の添加や緑茶抽出液の希釈などを挙げることができる。
また、ネロリドール、1‐ペンテン‐3‐オールの含有量は、例えば実施例に示す条件でのGC-MSを用いて測定することができる。
【0022】
容器への封入方法なども特に限定されず、例えば常法に従って行うことができる。容器も公知のものを適宜選択して用いることができ、素材や形状など特に限定されない。容器の具体例としては、PETボトル等の透明又は半透明のプラスチック容器、透明又は半透明のビン、スチール缶やアルミニウム缶等の金属缶、紙容器等が挙げられる。
【0023】
以上、本実施形態によれば、緑茶飲料において、飲んだときに番茶臭が感じられるのを抑えることができる新規な技術を提供することができる。
そのため、商品価値のより高い緑茶飲料を提供することが可能である。
【実施例
【0024】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0025】
<GC-MSの分析条件>
緑茶飲料中におけるネロリドール、1‐ペンテン‐3‐オールの含有量は、GC-MSを用いて、以下の条件で測定した。
・機器 GC:Agilent 6980 GC System(アジレント・テクノロジー社製)
MS:Agilent 5973N GC/MS Triple Quad(アジレント・テクノロジー社製)
・カラム:DB-WAX UI、30m×0.25mm、膜厚0.25μm(アジレント・テクノロジー社製)
・試料調製:SPME用ヘッドスペースバイアル(20mL容量)に塩化ナトリウム3.5g、サンプル10mL、各濃度標準液、内部標準液(シクロヘキサノール)を添加し密栓する。
・前処理 装置:GERSTEL MPS2
SPMEファイバー:50/30μm DVB/CAR/PDMS、StableFlex 24ゲージ(スペルコ社製)
条件:IncubationTemp50℃
IncubationTime10分
AgitatorOnTime10分
AgitatorOffTime1分
AgitatorSpeed500rpm
ExtractionTime30分
DesorptionTime5分
・GC/MS 注入方式:スプリットレス
キャリアガス:He(1.0ml/分)流量一定モード
注入口温度:240℃
MS入口温度:240℃
昇温プログラム:40℃2分→8℃/分→240℃(10分間保持)
定量イオン:ネロリドール m/z69
1-ペンテン-3オール m/z57
(内標)シクロヘキサノール m/z57
イオン化方法 :EI
四重極温度 :150℃
イオン源温度 :230℃
・定量法 :標準添加検量線法。SIMから算出した面積(内標比)を用い、ネロリドールはcis・trans合算値で算出した。
【0026】
[緑茶サンプル1の調製]
緑茶葉(やぶきた種、静岡県産秋冬番茶弱火焙煎)80gを2400gの65℃の純水で7分間抽出し、ステンレスメッシュ(80メッシュ)で濾過して茶殻を除いた後、さらに2号ろ紙で濾過し、冷却して抽出液を得た。得られた抽出液に、L-アスコルビン酸ナトリウムを4g、L-アスコルビンを3g、重炭酸ナトリウムを2.7g添加し、純水で10000gに定容し、調合液を得た。得られた調合液をUHT殺菌(140℃、30秒間)した後、無菌的にPETボトルに充填し、緑茶サンプル1を得た。
緑茶サンプル1中の1‐ペンテン‐3‐オールは35ppb、ネロリドールは0.1ppbであった。
【0027】
[緑茶サンプル2の調製]
緑茶葉(やぶきた種、静岡県産二番茶弱火焙煎)80gを2400gの65℃の純水で7分間抽出し、ステンレスメッシュ(80メッシュ)で濾過して茶殻を除いた後、さらに2号ろ紙で濾過し、冷却して抽出液を得た。得られた抽出液に、L-アスコルビン酸ナトリウムを4g、L-アスコルビンを3g、重炭酸ナトリウムを2.7g添加し、純水で10000gに定容し、調合液を得た。得られた調合液をUHT殺菌(140℃、30秒間)した後、無菌的にPETボトルに充填し、緑茶サンプル2を得た。
緑茶サンプル2中の1‐ペンテン‐3‐オールは12ppb、ネロリドールは0.5ppbであった。
【0028】
[参考試験]
緑茶サンプル2に対して、1‐ペンテン‐3‐オールを表1の濃度となるように添加して参考例1~4を作製し、専門パネル6名で官能評価にて評価した。
該評価においては緑茶サンプル1を番茶臭の基準品(評点:5点)とし、「番茶臭の強さ」と「グリーン感の強さ」を9段階で評価した(評点の数値が大きいほど、番茶臭またはグリーン感が強く感じられた)。また、参考として、おいしさについても9段階評価にて評価を行った。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
表1から理解できるとおり、1‐ペンテン‐3‐オールの含有量に比例して番茶臭が強く感じられるようになった。
【0031】
[試験例1]
緑茶サンプル1に対して、ネロリドールを表2の濃度となるように添加して評価サンプル(比較例1~2、実施例1~6)を作製し、専門パネル6名で官能評価にて、試験例1と同様に評価した。
【0032】
【表2】
【0033】
表2から理解できるとおり、ネロリドールの含有量を0.3~1000ppbとすることで、グリーン感はそのまままたはそれ以上で番茶臭を抑えることができた。
【0034】
[試験例2]
緑茶サンプル1を純水で1.77倍希釈し、緑茶サンプル3を得た。緑茶サンプル3に対して、ネロリドールを表3の濃度となるように添加して評価サンプル(実施例7~11)を作製し、専門パネル6名で官能評価にて、基準品を緑茶サンプル3とした以外は試験例1と同様の方法で評価を行った。
【0035】
【表3】
【0036】
表3から理解できるとおり、ネロリドールの含有量を0.3~1000ppbとすることで、グリーン感はそのまま、またはそれ以上で番茶臭を抑えることができた。