(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】液中の放射性セシウム濃度の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/167 20060101AFI20240205BHJP
G01T 7/02 20060101ALI20240205BHJP
G21F 9/12 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
G01T1/167 A
G01T1/167 C
G01T7/02 A
G21F9/12 501B
(21)【出願番号】P 2020066467
(22)【出願日】2020-04-02
【審査請求日】2023-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】591130319
【氏名又は名称】東京パワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【氏名又は名称】吉水 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】上村 竜一
(72)【発明者】
【氏名】石川 晃平
(72)【発明者】
【氏名】金井 羅門
(72)【発明者】
【氏名】田中 寿
(72)【発明者】
【氏名】川本 徹
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-246049(JP,A)
【文献】国際公開第2015/137483(WO,A1)
【文献】特開2013-50438(JP,A)
【文献】特開2013-160666(JP,A)
【文献】国際公開第2015/164269(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/167,7/02
G21F 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液中の放射性セシウム濃度の測定方法であって、
工程1:放射性セシウム濃度の測定対象となる対象液を容器に導入する工程、
工程2:前記容器に放射性セシウム吸着材を担持した繊維片を投入し、前記対象液及び前記繊維片を攪拌しながら前記繊維片に放射性セシウムを吸着させた後、放射性セシウムを吸着した繊維片と前記対象液とを分離する工程、
工程3:前記放射性セシウムを吸着した繊維片の放射性セシウム濃度を、検出器を用いて測定する工程、
工程4:得られた放射性セシウム濃度から、対象液中の放射性セシウム濃度を算出する工程、
を含むことを特徴とする放射性セシウム濃度の測定方法。
【請求項2】
前記工程2において、前記容器内に対象液及び繊維片を攪拌する邪魔板及び/又は攪拌機を設置し、攪拌を実施する請求項1に記載の放射性セシウム濃度の測定方法。
【請求項3】
前記工程2において放射性セシウムを吸着した繊維片をそのまま用い、前記工程1及び前記工程2を複数回繰り返すことを特徴とする請求項1又は2に記載の放射性セシウム濃度の測定方法。
【請求項4】
前記工程2において、前記容器に放射性セシウム吸着材を担持した繊維片を投入した後、さらに連続的に前記対象液を導入、排水しながら放射性セシウムを前記繊維片に吸着させることを特徴とする請求項1又は2に記載の放射性セシウム濃度の測定方法。
【請求項5】
前記繊維片として、放射性セシウム吸着材を担持する面の大きさが0.04~4.0cm
2のものを複数使用することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の放射性セシウム濃度の測定方法。
【請求項6】
前記放射性セシウム吸着材が、主たる組成が組成式
A
xM[M’(CN)
6]
y・zH
2O
(組成式中、Mは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子を表し、M’は、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子を表し、Aは、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の陽イオンを表し、xは0~3、yは0.1~1.5、zは0~6の数値を表す。)
で表される金属シアノ錯体であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の放射性セシウム濃度の測定方法。
【請求項7】
前記組成式において、Mが銅であり、M’が鉄である請求項6に記載の放射性セシウム濃度の測定方法。
【請求項8】
前記容器に投入する繊維片の質量を、放射性セシウム濃度を測定する対象液の総量に対する比で、0.05~5.0g/Lとすることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の放射性セシウム濃度の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液中の放射性セシウム濃度を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チェルノブイリ発電所や福島第一原子力発電所などの、原子力発電所からの放射性物質漏洩事故においては、放射性セシウムが、長期間にわたりその放射能量が高く、課題となる。その前提として、適切な放射能濃度の測定が必要となる。その中でも、水中の放射性セシウムイオン濃度は、時間の経過とともに大きな変動があるため、定期的な分析が必要である。また、事故から長期間経過した場合においては、放射能濃度が低くなるため、その測定については、事前の濃縮作業などが必要となることが多い(これを前処理法と呼ぶ)。特に、海水中の放射性セシウム濃度の測定については、放射性セシウムと、海水中に大量に含まれるナトリウム、カリウムの性状が類似しているため、放射性セシウムのみを濃縮するために特別な作業が必要となる。
【0003】
現在、最も使用されている前処理法としては、文部科学省が昭和51年に出版している「放射性セシウム分析法」(非特許文献1)によるものである。本文献によると、海水中の放射性セシウムの濃度を測定するための前処理法として、リンモリブデン酸アンモニウムを使用する方法が記載されている。これは、セシウムイオン吸着材として知られているリンモリブデン酸アンモニウムにセシウムイオンを吸着させたのち、塩酸で溶離、さらに熱板上で蒸発濃縮させる方法である。
【0004】
本方法は、精度は高いものの、極めて作業が煩雑であること、海水を採取する現地での作業は困難で、分析室等に大量の海水を持ち帰り、作業を行う必要があることなどの課題があった。
この課題を解決するため、採水現地で放射性セシウムのみを吸着材に吸着させ、濃縮したうえで、分析室にその吸着材を持ち帰り、吸着材中の放射性セシウム濃度をゲルマニウム半導体検出器などで測定、海水中の放射性セシウム濃度を算出する方法が提案されている(特許文献1~4等)。いずれの場合も吸着材を担持させた繊維片をカラムやカートリッジに充填し、そこに放射性セシウムイオンを含有する測定対象液を通水することにより放射性セシウムイオンを吸着材に吸着させることで濃縮する後処理法である。
このようなカラムやカートリッジを用いた方法においては、対象液と吸着材の接触を確実にできるため、高流量で通液しても放射性セシウムを捕獲できることから提案がなされたものである。
【0005】
しかしながら、カラムやカートリッジを用いた方法の問題点は、対象液のすべてをカラムもしくはカートリッジに通液する必要があることである。ここで重要な点は、必要な対象液の量は、対象液中に含まれる放射性セシウムの濃度によって決定されることである。放射性セシウムの濃度測定を行う場合、ゲルマニウム半導体検出装置などでは、実際には濃度ではなく、放射性セシウムの放射能量を測定しており、そのため、測定試料内の放射性セシウム量に下限が存在する。よって、前処理の濃縮においては、対象液中の放射性セシウム濃度が低いほど、濃縮率をあげる、すなわち、必要な対象液の量が増えることを意味する。例として、検出器の定量下限が1ベクレル(Bq)であり、対象試料の容器容量が2Lである場合を考える。この場合、対象液中の放射性セシウム濃度が0.1Bq/Lであった場合、濃縮率は5倍、すなわち10Lの対象液を2Lに濃縮することで測定が可能となる。一方、対象液中の放射性セシウム濃度が1mBq/L(=0.001Bq/L)であった場合、500倍の濃縮、すなわち1000Lの対象液を2Lに濃縮する必要がある。
【0006】
このように、対象液の濃度が低い場合に、カラムもしくはカートリッジに通水する方法は困難が発生する。カラム等に通水する場合、その通水流量を大きく上げることは難しい。カートリッジ内には吸着材を担持した繊維片などが入っており、圧力損失が大きいためである。このことから、対象液の濃度が低い場合には、長時間の通液工程が避けられない。また、その通液に必要な時間、すなわち処理時間は濃度に反比例して長くなっていく。
【0007】
この、通液に必要な時間が濃度に反比例して長くなる問題を解決する方法として、吸着材のスラリーを対象液に添加することで吸着材に放射性セシウムを吸着させ、その後凝集剤を添加して固液分離したうえで、吸着材の放射性セシウム濃度を測定し、その濃度から対象液中の放射性セシウム濃度を算定する方法が提案されている(特許文献5等)。
本方法では、対象液中の濃度に反比例した処理時間の増大は避けることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2013/187505号
【文献】特許第5354627号公報
【文献】特開2014-59280号公報
【文献】特開2016-133324号公報
【文献】特開2019-152525号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】http://www.kankyo-hoshano.go.jp/series/main_pdf_series_3.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のとおり、測定対象液に添加した吸着材に放射性セシウムを吸着させた後、凝集剤を添加して固液分離したうえで、吸着材の放射性セシウム濃度を測定する方法によれば、対象液中の濃度に反比例した処理時間の増大は避けることが可能となる。しかしながら、吸着材としてスラリーを使用しているため、その回収には凝集沈殿材の添加、固液分離などの新たな作業が必要となり、吸着材の回収に手間を要するなどの課題が残っている。
このように、放射性セシウムイオンの水中濃度を測定するにあたり、低濃度の場合であっても、吸着材を利用して高速にその濃縮が可能であり、さらにはその吸着材の回収が容易な前処理法が必要とされている。
【0011】
本発明は、こうした現状を鑑みてなされたものであって、対象液中の放射性セシウム濃度が低濃度の場合であっても、対象液濃度に反比例して処理時間が増大することを避けることができ、さらに、対象液と吸着材の固液分離を簡便に行うことができる方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、様々な検討の結果、放射性セシウム吸着材を担持した繊維片を用い、これを測定対象液を導入した容器内に投入し、攪拌することにより、放射性セシウムを該繊維片に吸着させ、その繊維片の放射性セシウム濃度を測定することで、低濃度の場合であっても高速に濃縮することができ、且つ、対象液と吸着材の固液分離を簡便に行うことができることを見いだした。
【0013】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]液中の放射性セシウム濃度の測定方法であって、
工程1:放射性セシウム濃度の測定対象となる対象液を容器に導入する工程、
工程2:前記容器に放射性セシウム吸着材を担持した繊維片を投入し、前記対象液及び前記繊維片を攪拌しながら前記繊維片に放射性セシウムを吸着させた後、放射性セシウムを吸着した繊維片と前記対象液とを分離する工程、
工程3:前記放射性セシウムを吸着した繊維片の放射性セシウム濃度を、検出器を用いて測定する工程、
工程4:得られた放射性セシウム濃度から、対象液中の放射性セシウム濃度を算出する工程、
を含むことを特徴とする放射性セシウム濃度の測定方法。
[2]前記工程2において、前記容器内に対象液及び繊維片を攪拌する邪魔板及び/又は攪拌機を設置し、攪拌を実施する[1]に記載の放射性セシウム濃度の測定方法。
[3]前記工程2における放射性セシウムを吸着した繊維片をそのまま用い、前記工程1及び前記工程2を複数回繰り返すことを特徴とする[1]又は[2]に記載の放射性セシウム濃度の測定方法。
[4]前記工程2において、前記容器に放射性セシウム吸着材を担持した前記繊維片を投入した後、さらに連続的に前記対象液を導入、排水しながら放射性セシウムを前記繊維片に吸着させることを特徴とする[1]又は[2]に記載の放射性セシウム濃度の測定方法。
[5]前記繊維片として、放射性セシウム吸着材を担持する面の大きさが0.04~4.0cm2のものを複数使用することを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の放射性セシウム濃度の測定方法。
[6]前記放射性セシウム吸着材が、主たる組成が組成式
AxM[M’(CN)6]y・zH2O
(組成式中、Mは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子を表し、M’は、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子を表し、Aは、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の陽イオンを表し、xは0~3、yは0.1~1.5、zは0~6の数値を表す。)
で表される金属シアノ錯体であることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載の放射性セシウム濃度の測定方法。
[7]前記組成式において、Mが銅であり、M’が鉄である[6]に記載の放射性セシウム濃度の測定方法。
[8]前記容器に投入する繊維片の質量を、放射性セシウム濃度を測定する対象液の総量に対する比で、0.05~5.0g/Lとすることを特徴とする[1]~[7]のいずれかに記載の放射性セシウム濃度の測定方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、カラムやカートリッジへの通液をすることなく、対象液が導入された容器内の繊維片に吸着した放射線セシウムの濃度を測定することにより、対象液中の放射性セシウム濃度を測定することができる。そのため、対象液中の放射性セシウム濃度が低くなって必要とする対象液の量が増えても、容器に導入する対象液を複数回入れ替え、同じ繊維片での吸着を繰り返し行うことで、吸着する放射性セシウムの量を増やすことになり、放射性セシウム濃度の低下に反比例して通液時間が増大することを避けることができる。また、大量の対象液を吸着処理することで繊維片にはより多くの放射性セシウムが吸着され、これにより放射性セシウムの検出効率が上がり、測定所要時間を大幅に短縮できる。さらに、用いる繊維片を複数にすることにより、吸着材と対象液の接触機会を増やすことになるため、放射性セシウムの吸着を迅速にし、かつ吸着後の繊維片を固液分離することが極めて容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】対象液攪拌容器への邪魔板の設置例を示す模式図
【
図3】実施例1における、2Lの試験液からのセシウム137吸着試験の結果を示す図
【
図4】実施例2における、75Lの試験液からのセシウム137吸着試験を10回繰り返した結果を示す図
【
図5】実施例3における、2Lの試験液からのセシウム137吸着試験の結果を示す図
【
図6】実施例4における、3Lの試験液を用いた不織布使用量とセシウム137吸着率依存試験の結果を示す図
【
図7】実施例5で用いた、羽形状の異なる3種のスクリューを撮影した写真
【
図8】実施例5における、2Lの試験液を用いた攪拌羽形状によるセシウム137の吸着率の違いを示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明するが、これらの実施形態は、この発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
本発明は、様々な実施の形態及びその変形を含むものであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【0017】
本発明の一実施形態(以下、「本実施形態」という。)は、液中の放射性セシウム濃度の測定方法において、
工程1:放射性セシウム濃度の測定対象となる対象液を容器に導入する工程
工程2:前記容器に放射性セシウム吸着材を担持した繊維片を投入し、前記対象液及び前記繊維片を攪拌しながら前記繊維片に放射性セシウムを吸着させた後、放射性セシウムを吸着した繊維片と前記対象液とを分離する工程
工程3:前記放射性セシウムを吸着した繊維片の放射性セシウム濃度を、検出器を用いて測定する工程
工程4:得られた放射性セシウムの濃度から、対象液中の放射性セシウム濃度を算出する工程
を含むことを特徴とする放射性セシウム濃度の測定方法に係る。
【0018】
図1は、本実施形態における工程1~3の実施形態の1例を示す模式図である。
該図に示すように、本発明の放射性セシウムの測定方法の好ましい実施形態では、採取された対象液が導入された溶器中に、放射性セシウム吸着材を担持させた繊維片を投入し、攪拌機等により対象液及び繊維片を攪拌しながら、前記対象液中の放射性セシウムを前記繊維片に吸着させ、その後、放射性セシウムを吸着した繊維片と前記対象液とを分離して、繊維片に吸着した放射線セシウムを検出器による測定に供する。
該図に示すように、好ましい実施形態においては、用いる繊維片を複数にすることにより、吸着材と対象液の接触機会を増やすことになるため、放射性セシウムの吸着を迅速にし、かつ吸着後の繊維片を固液分離することが極めて容易となる。
【0019】
対象液の容量より容器の容量が大きい場合には、該図に示すように、1バッチ処理で吸着が完了するので、繊維片を容器から取り出して測定に供する。
一方、対象液の容量が容器の容量より大きい場合には、固液分離して、容器に導入する対象液を複数回入れ替え、同じ繊維片を繰り返し吸着処理に使用するため、必ずしもその都度繊維片を容器から取り出す必要はなく、所定量の対象液の吸着処理を終了した時点で取り出して測定に供する。
【0020】
本実施形態における工程4において、繊維片の放射性セシウム濃度の測定により得られた放射性セシウム濃度(A)から、対象液中の放射性セシウム濃度(P)は、
式:対象液中の放射性セシウム濃度(P)
=繊維片の放射性セシウム濃度(A)×補正係数K´
から算出される。
ここで、補正係数K´=100/Kであり、Kは、同じ測定容器、放射性セシウム吸着材、繊維片、及び測定方法を用いて、濃度既知の放射性セシウム水溶液中の放射性セシウム濃度を測定して得られた繊維片の放射性セシウム吸着率(%)である。
【0021】
本実施形態では、放射性セシウム吸着材を担持させた繊維片を用いるとともに、対象液及び繊維片を攪拌しながら前記対象液中の放射性セシウムを前記繊維片に吸着させることで、対象液中の放射性セシウム濃度が低くなって必要とする対象液の量が増えても、容器に導入する対象液を複数回入れ替え、同じ繊維片での吸着を繰り返し行うことで、吸着する放射性セシウムの量を増やすことになり、放射性セシウム濃度の低下に反比例して通液時間が増大することを避けることが可能となる。さらに、大量の対象液を吸着処理することで繊維片にはより多くの放射性セシウムが吸着され、これにより放射性セシウムの検出効率が上がり、測定所要時間を大幅に短縮できる。
【0022】
以下、本実施形態に係る各要素について、その詳細を順に記載する。なお、数値範囲の記載(2つの数値を「~」でつないだ記載)については、下限及び上限として記載された数値をも含む意味である。
【0023】
[放射性セシウム吸着材]
本実施形態における放射性セシウム吸着材としては、放射性セシウムの吸着性能を有するものであれば、特に限定されないが、好ましくは、放射性セシウムの高い吸着性能を有する金属シアノ錯体が用いられる。なかでも、放射性セシウムの吸着速度が高い銅-鉄シアノ錯体を用いることにより、採取した対象液への放射性セシウムの再溶解をなくすことが可能となるため、放射性セシウム濃度が極希薄な海水であっても、繊維片を放射線検出器による測定に供するだけで、正確な放射性セシウムのモニタリングが可能となる。
【0024】
放射性セシウム吸着材の望ましい粒径としては、一般論として、セシウムイオンの吸着速度は材料の比表面積が高いほど速いことが多く、その観点から言うと、一次平均粒径が、500nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましく、100nm以下が特に好ましい。粒径の下限に特に制限はないが、4nm以上であることが実際的である。本発明において、一次粒径とは、一次粒子の直径をいい、その円相当直径を粉末X線構造解析のピークの半値幅より導出したものでもよい。また、配位子などが粒子表面に吸着している場合もあるが、その場合も一次粒径としては、配位子を除いた粒径を指すものとする。
【0025】
(金属シアノ錯体)
本実施形態において、放射性セシウムの吸着材として好ましく用いられる金属シアノ錯体は、その主たる組成が、式
AxM[M’(CN)6]y・zH2O
で表されるものであって、M、M’が同定されている場合、M-M’シアノ錯体といい、例えばM=銅、M’=鉄である場合、銅-鉄シアノ錯体という。
【0026】
上記式において、金属原子Mは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子が好ましく、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛からなる群から選ばれる一種または二種以上の金属原子がより好ましく、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛からなる群から選ばれる一種または二種以上の金属原子が特に好ましい。
金属原子M’は、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種または二種以上の金属原子が好ましく、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、白金からなる群から選ばれる一種または二種以上の金属原子がより好ましく、鉄、コバルトからなる群から選ばれる一種または二種以上の金属原子がより好ましい。
Aは、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、バリウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の陽イオンである。
【0027】
また、水以外の溶媒や、不純物として他のイオン等、組成に陽に現れていない材料が含まれていてもよい。
【0028】
金属シアノ錯体の結晶構造は、面心立方構造が一般的であるが、必ずしもそれに制限されない。例えば、K0.67Zn[Fe(CN)6]0.67・zH2Oは六方晶を取る。また、M’に配位するシアノ基は6個が一般的である。xは0~3が好ましく、0~2.5がより好ましく、0~2が特に好ましい。yは0.1~1.5が好ましく、0.4~1.3がより好ましく、0.5~1が特に好ましい。zは0~6が好ましく、0.5~5.5がより好ましく、1~5が特に好ましい。ただし、x、y、zは不純物として塩が含まれていたり、金属シアノ錯体型錯体の内部構造に取り込まれていない水分を材料が有する場合などは、その効果を除去して評価されなければならない。
【0029】
金属シアノ錯体の合成法に特に制限はないが、目的とした組成を均一に実現できる手法が好ましい。また、加工の都合上錯体表面が各種材料で修飾されていてもよい。具体的な手法としては、例えば特開2006-256954号公報、特開2013-173077号公報などに記載の手法が利用できる。粒子表面に露出した金属サイトにもアンモニア吸着が可能であるため、比表面積の大きいナノ粒子の方が望ましい。また実用上は、粒子は均一であることが望ましいため、特開2013-173077号公報に記載された均一なナノ粒子製造方法などが適当である。
【0030】
[繊維片]
本実施形態おける繊維片とは、不織布、織物、編み物などの繊維素材からなるものであり、当該繊維片を構成する成分は特に限定されないが、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、スチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などの合成樹脂、綿、絹などの自然由来樹脂などが使用できる。合成樹脂を使用する場合、それを構成するポリマーは、直鎖上であっても分岐状であってもよく、立体構造及び結晶性がいかなるものであってもよい。また、これら例示以外の成分が含まれていてもよい。また、使用する繊維片は、本発明の方法に使用して放射性セシウムを吸着したものであっても、放射性セシウム吸着量が飽和吸着量に達していない場合は再度利用できる。
【0031】
繊維片の形状としては、縦、横、高さのうち、一辺が他の二辺に比較して大きい、板状、布状などの二次元構造を有することが、製造上、取り扱い上の観点から望ましい。ここでいう縦、横、高さについては、直方体の辺を表すものでもよいか、たとえば楕円形状の場合、長径と短径のように、その形状の代表的な長さであわわしてもよい。繊維片の放射性セシウム吸着材を担持する面の大きさとしては、0.04~4.0cm2であることが好ましく、0.1~2.0cm2であることが特に好ましく、0.2~1.0cm2であることがさらに好ましい。
【0032】
繊維片の厚みとしては、0.01~4.0mmであることが好ましく、0.02~2.0mmであることがより好ましく、0.05~1.0mmであることが特に好ましい。
【0033】
放射性セシウム吸着材を繊維片に担持する方法としては、十分に接着し、工程を進めるにあたり、脱落が十分に少ない方法であれば特に問題はない。
担持する方法の1例として放射性セシウムの吸着材として金属シアノ錯体を用いる場合を挙げると、金属シアノ錯体のナノ粒子を合成し、そのナノ粒子を繊維片に担持する方法や、繊維片を浸した液中で金属シアノ錯体を析出させ、繊維片に担持させる方法などが利用できる。また、繊維片を溶融状態とし、その溶融状態の繊維片に金属シアノ錯体を担持する方法なども利用できる。担持の際に、必要に応じてバインダやその架橋剤等を添加してもよい。
【0034】
放射性セシウム吸着材の繊維片に対する質量比率については、十分な放射性セシウム吸着量と、十分な脱落防止の観点から決定される。放射性セシウム吸着材の重量比率が低いと、放射性セシウムの吸着量が十分でなく、正しい測定ができなくなる。一方、放射性セシウム吸着材の重量比が高いと、繊維片への担持が十分でない部分が発生しやすく、結果として脱落量が増加する。
具体的には、放射性セシウム吸着材として金属シアノ錯体を用いる場合を挙げると、当該質量比率は1~50%が好ましく、1.5~20%がより好ましく、2~10%が特に好ましい。
【0035】
金属シアノ錯体を担持した繊維片として、銅-鉄シアノ錯体を担持した不織布、鉄-鉄シアノ錯体(プルシアンブルー)を担持した不織布等が既に市販されており、本発明における放射性セシウム吸着材を担持した繊維片としては、入手が容易な市販品を用いることができる。
【0036】
[容器]
本実施形態における容器は、測定対象液を十分に導入することができれば特に制限はないが、吸着時に繊維片と対象液が十分に攪拌されることにより、吸着速度を向上させることが可能である必要がある。
この観点から、容器内に邪魔板を設置することが好ましい。
図2は、攪拌容器内に設置される攪拌機の例を示すものであるが、設置する邪魔板の形状や数は、特に限定されず、容器の大きさ、繊維片の大きさ、数等々により適宜選択することができる。
【0037】
また、攪拌方法については、十分に攪拌ができれば特に制限はないが、攪拌羽を有する撹拌機を使用する方法や、ポンプなどで水流を作り、その水流で攪拌する方法などが利用できる。撹拌機に取り付ける攪拌羽の例として、例えば、後述する実施例で用いたスクリュー等(
図7参照)が挙げられる。
【0038】
本実施形態では、前記容器に繊維片を投入し、攪拌機等により所定時間攪拌しながら、前記対象液中の放射性セシウムを前記繊維片に吸着させ、その後、前記放射性セシウムを吸着した繊維片を取り出して対象液と分離した後に、繊維片に吸着した放射線セシウムを検出器による測定に供するものであるが、測定に用いる繊維片は、複数回繰り返し使用しても十分な吸着が可能である。
したがって、本発明においては、測定対象液の総量が、容器容量以上であっても、同じ不織布を用いて、吸着を繰り返すことで、対象液中の放射性セシウム濃度を測定できる。また、容器内に繊維片を投入後、測定対象液を連続的に導入、排水しながら放射性セシウムを吸着させることもできる。この観点からすると、容器の容量については、対象液の総量より大きい必要はなく、対象液の総量や、吸着の繰り返し回数等により適宜決定できる。
吸着した放射性セシウムが多い程、検出器を用いたセシウム濃度測定の時間を短くすることができるため、対象液の総量を多くすることで測定時間を短くすることができるが、吸着の繰り返し回数が増えて作業時間が増え、一方、対象液の総量を少なくすると、繰り返し回数を減らすことができ、作業時間は短くなるが、放射性セシウム濃度の測定時間が長くなる。したがって、測定する対象液の好ましい総量(=繰り返し回数)は、想定される対象液の濃度ごとに決められるが、具体的には、対象液の総量50~5000Lに対して、容器の容量は、0.02~2倍が好ましい。
【0039】
繊維片による放射性セシウムの吸着率は、容器に導入される対象液の量に対する繊維片の量及び撹拌時間により変化するが、この繊維片の量が少ないと吸着率が充分でなく、吸着速度の観点からは繊維片の量は多い方が好ましい。しかしながら、繊維片を測定する容器の容量以上の繊維片を用いた場合は、後工程における検出器を用いた繊維片の放射性セシウムの測定において、測定を複数回に分ける必要が生じるなどの不都合が生じる。例えば、検出器を用いた測定において繊維片を2Lの測定容器で一度に測定する場合は、容器に投入できる繊維片の大きさは30000cm2(質量250gに相当)が最大であり、このとき、対象液総量が50~5000Lの場合、投入する繊維片の質量と対象液総量の比は0.05~5.0g/Lとなる。
【0040】
[放射性セシウムの測定法]
繊維片に吸着した放射性セシウムの測定法には特に制限はなく、一般的に使用される方法を使用することができる。例えば、ゲルマニウム半導体検出器や、NaIシンチレータなどが利用できる。
また、放射性セシウムの測定に用いる容器は、U8容器や、マリネリ容器などの一般的に放射能濃度の検出に使用する容器が利用できるが、本発明用に新たに容器を作成してもよい。ただし、その場合は検出器の検出強度と、容器内の放射能濃度の関係を表す検量線を別途準備する必要がある。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。
【0042】
<調製例:放射性セシウムを含有する測定対象液の調製>
(試験用原液の調製)
放射性セシウムが付着した木材を燃焼し、得られた飛灰と純水を混合振盪した溶液をろ紙(孔径0.45μm)でろ過した液を試験用原液1とした。該試験用原液1中の安定セシウムイオン濃度及び放射性セシウム濃度を測定したところ、安定セシウムは0.3mg/L、セシウム137は約10,000Bq/kgであった。
これをさらに50倍に希釈し、セシウム137濃度が約200Bq/kgとした試験用原液2を調製した。
なお、以下の実施例を含め、放射性セシウム濃度の測定には、ゲルマニウム半導体検出器(ORTEC社製(GEM30))及び多重波高分析器(SEIKO EG&G社製(MCA7600))を用いた。
【0043】
(試験液1の調製)
前記試験用原液2に海水を添加して、セシウム137濃度が1.68Bq/Lになるように調製し、試験液1とした。
【0044】
(試験液2の調製)
前記試験用原液2に海水を添加して、セシウム137濃度が0.030Bq/Lになるように調製し、試験液2とした。
【0045】
<実施例1:銅-鉄シアノ錯体を担持した不織布による2Lの小規模試験>
容器に、前記試験液1を2L導入し、銅-鉄シアノ錯体を担持した不織布(日本バイリーン製、担持量0.4mg/cm
2、不織布質量8.6mg/cm
2)800cm
2(不織布質量3.44g/Lに相当)を投入した。なお、不織布には、1cm
2程度の大きさに裁断したものを用いた。以下の各実施例においても同様とした。
攪拌羽(
図7のスクリューC(マキタ社製))を取り付けた攪拌機(日立工機社製(UM15V)を使用し、その攪拌羽が前記試験液の中心部にくるように配置して、1200回転/分で1分間攪拌した。
【0046】
攪拌終了後、不織布を回収し、試験水を0.45μmろ紙でろ過した。得られた不織布、ろ液、及びろ紙のそれぞれについて、セシウム137濃度を測定した。
測定完了後、同じ不織布とろ液を再度前記容器内に導入し、再び1分間の攪拌を実施したのち、同様の作業を行い、不織布、ろ液及びろ紙のセシウム137濃度を測定した。同様の工程を4回実施した。
【0047】
得られた結果を、前記試験液中の放射性セシウム(Cs)量を100とした場合の、不織布、ろ液、及びろ紙における分布(%)として、
図3に示す。
得られた結果から、銅-鉄シアノ錯体を担持した不織布は、海水中に投入するだけで放射性セシウムを吸着することが分かった。吸着率は計4分で88.7%に達した。
【0048】
<実施例2:銅-鉄シアノ錯体を担持した不織布による大規模容量容器を使用した繰り返し利用試験>
容積100Lの容器に、実施例1と同じ撹拌機を設置した装置を作製した。
本装置内に、前記の試験液2を75L導入するとともに、実施例1と同じ銅-鉄シアノ錯体を担持した不織布を30,000cm2(不織布質量3.44g/Lに相当)投入した。その後、1200回転/分で2分間攪拌を行った。不織布を回収後、セシウム137濃度を評価した。
その後、前記試験液2と、前述の試験に使用した不織布を合わせて容器に導入し、一回目と同様の攪拌、不織布のセシウム137濃度の評価を行った。同様の作業を計10回行った。
【0049】
得られた結果を、前記試験液中の総Cs量に対するセシウム吸着率として、
図4に示す。
得られた結果から、10回の繰り返しの平均吸着率は90.6%であり、75Lの試験水でも、十分な吸着が確認できた。また、各バッチ毎の吸着率にはばらつきがあるものの、10回の吸着試験の中で吸着率の明らかな減少は見られず、10回の繰り返しでも十分な吸着が可能であることが分かった。これは、10回の測定に同じ不織布が利用できること、及び対象液の体積が容器容積の10倍でも、吸着を繰り返すことで本発明の方法が適用できることを示している。
【0050】
<実施例3:鉄-鉄シアノ錯体を担持した不織布による2Lの小規模試験>
容器に、前記試験液1を2L導入し、鉄-鉄シアノ錯体を担持した不織布(日本バイリーン製)1000cm2(不織布質量4.3g/Lに相当)を投入後、実施例1と同じ攪拌機を使用し、1200回転/分で、30秒の攪拌、1分の攪拌、及び3分間の攪拌を行った。攪拌終了後、不織布を回収し、試験液を0.45μmろ紙でろ過した。得られた不織布について、実施例1と同様にしてセシウム137濃度を測定した。
【0051】
得られた結果を、前記試験液中の総Cs量に対する不織布へのセシウム吸着率(%)として、
図5に示す。
得られた結果から、鉄-鉄シアノ錯体を担持した不織布は、海水中に投入するだけで放射性セシウムを吸着することが分かった。吸着率は計3分で74.5%に達した。
【0052】
<実施例4:不織布使用量と吸着率依存試験>
容器に、前記試験液1を3L導入し、不織布量の異なる4種の条件として、実施例3と同じ鉄-鉄シアノ錯体を担持した不織布を、247cm2、1482cm2、2964cm2、12000cm2(それぞれ82.3cm2/L、494cm2/L、988cm2/L、4000cm2/Lに相当)投入後、実施例1と同じ攪拌機を使用し、1200回転/分で、15秒から3分間攪拌した。攪拌終了後、不織布を回収し、試験水を0.45μmろ紙でろ過した。得られた不織布、ろ液について、セシウム137濃度を測定した。
【0053】
得られたろ液中のセシウム濃度及び不織布への吸着率を
図6に示す。
得られた結果から、攪拌条件下が等しい場合、不織布量が82.3cm
2/L(0.70g/Lに相当)程度の場合、3分の攪拌でも吸着率は66.1%程度であるのに対し、不織布量が494cm
2/L(4.25g/Lに相当)以上であれば、1分程度で80%以上のセシウムを吸着することがわかった。
【0054】
<実施例5:攪拌羽形状によるセシウム吸着率の違い>
容器に、前記試験液1を2L導入し、実施例3と同じ鉄-鉄シアノ錯体を担持した不織布を1cm角に裁断した繊維片1000枚(1000cm
2)(不織布質量4.3g/Lに相当)を投入後、実施例1と同じ攪拌機に、形状の異なる攪拌羽(スクリューA、B:日立工機社社製、スクリューC:マキタ社製)を装着し、1200回転/分で、1分間攪拌した。用いたスクリューA、B、Cの写真を
図7に示す。
攪拌終了後、不織布を回収し、試験水を0.45μmろ紙でろ過した。得られた不織布について、セシウム137濃度を測定した。
【0055】
得られた結果を、前記試験液中の総Cs量に対する不織布へのセシウム吸着率(%)として、
図8に示す。図中、A、B、Cは、用いたスクリューを示している。
得られた結果から、攪拌回転数、攪拌時間は同じでも、攪拌羽の形状により吸着率は大きく異なり、より羽の面積の大きいスクリューCでは1分後のセシウム吸着率は70.5%であった。
【0056】
以上のとおり、数分の攪拌で放射性セシウム吸着材を担持した繊維片に放射性セシウムを吸着させることが可能となり、極めて短時間での前処理が可能となることがわかる。
したがって、工程1~3により、予め濃度既知の放射性セシウム水溶液のセシウム濃度を測定して得られた繊維片の放射性セシウム吸着率(%)を求めておき、測定する対象液について、同じ測定容器、同じ金属シアノ錯体、同じ繊維片、及び同じ測定方法を用いて繊維片の放射性セシウム濃度(A)を測定し、得られた放射性セシウム濃度(A)から、対象液中の放射性セシウム濃度(P)は、次式によって、算出することができる。
式:対象液中の放射性セシウム濃度(P)
=繊維片の放射性セシウム濃度(A)×補正係数K´
ここで、補正係数K´=100/Kであり、Kは、前記の濃度既知の放射性セシウム水溶液のセシウム濃度を測定して得られた繊維片の放射性セシウム吸着率(%)である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の方法によれば、測定対象液の放射性セシウム濃度は、放射性セシウム吸着材を担持させた不織布のみの評価で推測できることから、低濃度の河川、海などの環境水の放射性セシウム濃度が測定可能となる。