(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】レーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/53 20140101AFI20240205BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20240205BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20240205BHJP
B23K 26/08 20140101ALI20240205BHJP
【FI】
B23K26/53
B23K26/00 P
B23K26/08 F
(21)【出願番号】P 2020079498
(22)【出願日】2020-04-28
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 剛志
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-111946(JP,A)
【文献】特開平08-238582(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106862777(CN,A)
【文献】特開平07-060469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に沿って延びると共に前記第1方向に交差する第2方向に沿って配列された複数のラインが設定された対象物に、前記ラインに沿ってレーザ光を照射することによって、前記ラインに沿って前記対象物に改質領域を形成するためのレーザ加工装置であって、
前記対象物を支持するための支持部と、
前記支持部に支持された前記対象物に対して前記レーザ光を照射するための第1レーザ加工ヘッド及び第2レーザ加工ヘッドと、
前記第1レーザ加工ヘッド及び前記第2レーザ加工ヘッドを、それぞれ、前記第1方向及び前記第2方向に沿って移動させるための第1移動機構と、
少なくとも、前記第1レーザ加工ヘッド及び前記第2レーザ加工ヘッドからの前記レーザ光の照射、並びに、前記第1移動機構による前記第1レーザ加工ヘッド及び前記第2レーザ加工ヘッドの移動を制御するための制御部と、
を備え、
前記第1移動機構は、
前記第1方向に沿って延びると共に前記第1レーザ加工ヘッドが取り付けられており、前記第1レーザ加工ヘッドを前記第1方向に沿って移動させるための第1移動部と、
前記第1方向に沿って延びると共に前記第2レーザ加工ヘッドが取り付けられており、前記第2レーザ加工ヘッドを前記第1方向に沿って移動させるための第2移動部と、
前記第2方向に沿って延びると共に前記第1移動部及び前記第2移動部が取り付けられており、前記第1移動部及び前記第2移動部のそれぞれを前記第2方向に沿って移動させるための第3移動部と、
を含み、
前記制御部は、
前記第2移動部による前記第2レーザ加工ヘッドの前記第1方向に沿った移動を示す第2移動線の、前記第1方向に沿った基準線からの前記第2方向へのズレ量を取得する取得処理と、
前記取得処理の後に、少なくとも前記第2レーザ加工ヘッドから前記レーザ光が出力されている状態において、前記第1方向に沿って前記第2レーザ加工ヘッドを移動させるように前記第2移動部を制御することにより、前記ラインに沿って前記対象物に前記レーザ光を照射する照射処理と、を実施し、
前記照射処理では、前記制御部は、前記第3移動部の制御によって前記ズレ量の分だけ前記第2方向に前記第2レーザ加工ヘッドを移動させながら、前記第2移動部の制御によって前記第2レーザ加工ヘッドを前記第1方向に移動させる、
レーザ加工装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記取得処理では、
前記ズレ量の取得用のサンプルが前記支持部に支持されている状態において、前記第1レーザ加工ヘッドから前記レーザ光を出力させながら、前記第1移動部の制御により前記第1レーザ加工ヘッドを前記第1方向に沿って移動させることにより、前記第1方向に沿って前記サンプルに前記レーザ光を照射して、前記第1移動部による前記第1レーザ加工ヘッドの前記第1方向に沿った移動を示す第1移動線としての第1加工線を、前記レーザ光の加工痕によって前記サンプルに形成する第1形成処理と、
前記サンプルが前記支持部に支持されている状態において、前記第2レーザ加工ヘッドから前記レーザ光を出力させながら、前記第2移動部の制御により前記第2レーザ加工ヘッドを前記第1方向に沿って移動させることにより、前記第1方向に沿って前記サンプルに前記レーザ光を照射して、前記レーザ光の加工痕によって前記第2移動線としての第2加工線を前記サンプルに形成する第2形成処理と、
前記第1加工線と前記第2加工線との比較に基づいて、前記第1加工線を前記基準線とした前記ズレ量を取得するズレ量取得処理と、
を実施する、
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記第1方向に沿って前記支持部を移動させると共に、前記第1方向及び前記第2方向に交差する第3方向に沿った回転軸の周りに前記支持部を回転させるための第2移動機構をさらに備え、
前記制御部は、前記照射処理の前に、前記第2移動機構の制御によって、前記第1移動部による前記第1レーザ加工ヘッドの前記第1方向に沿った移動を示す第1移動線に前記ラインが一致するように前記支持部を回転させるアライメント処理を実施し、
前記照射処理では、前記制御部は、前記第1レーザ加工ヘッド及び前記第2レーザ加工ヘッドから前記レーザ光が出力されている状態において、前記第2移動機構の制御によって前記第1方向に沿って前記支持部を移動させると共に、前記第1移動部及び前記第2移動部の制御によって、前記第1レーザ加工ヘッド及び前記第2レーザ加工ヘッドを前記第1方向に沿って前記支持部と反対方向に移動させることにより、前記ラインに沿って前記対象物に前記レーザ光を照射する、
請求項1又は2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記第1レーザ加工ヘッド及び前記第2レーザ加工ヘッドには、光源から出力された前記レーザ光を導入するための光ファイバが接続されており、
前記制御部は、前記照射処理において、前記第1方向に沿った前記第1レーザ加工ヘッド及び前記第2レーザ加工ヘッドの速さを、前記第1方向に沿った前記支持部の速さよりも小さくする、
請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記第1移動機構は、前記第1方向に互いに対向して配置された一対の前記第3移動部を含み、
前記第1移動部及び前記第2移動部は、前記一対の第3移動部に掛け渡されて支持されている、
請求項1~4のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
第1方向に沿って延びると共に前記第1方向に交差する第2方向に沿って配列された複数のラインが設定された対象物に、前記ラインに沿ってレーザ光を照射することによって、前記ラインに沿って前記対象物に改質領域を形成するためのレーザ加工装置であって、
前記対象物を支持するための支持部と、
前記支持部に支持された前記対象物に対して前記レーザ光を照射するための第1レーザ加工ヘッド及び第2レーザ加工ヘッドと、
情報を表示すると共に入力を受け付けるための入力受付部と、
前記入力受付部を制御するための制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記第1レーザ加工ヘッドからの前記レーザ光による前記対象物の加工条件と、前記第2レーザ加工ヘッドからの前記レーザ光による前記対象物の加工条件と、の少なくとも一部を互いに独立して設定するための入力を受け付けるための情報を前記入力受付部に表示させる表示処理を実施
し、
前記制御部は、前記表示処理において、前記第1レーザ加工ヘッドの加工条件を基準としたときの、前記第2レーザ加工ヘッドの加工条件の前記基準からの補正量の入力を受け付けるための情報を前記入力受付部に表示させる、
レーザ加工装置。
【請求項7】
前記第1レーザ加工ヘッド及び前記第2レーザ加工ヘッドを、それぞれ、前記第1方向及び前記第2方向に沿って移動させるための第1移動機構をさらに備え、
前記制御部は、前記第1移動機構による前記第1レーザ加工ヘッド及び前記第2レーザ加工ヘッドの移動を制御し、
前記第1移動機構は、
前記第1方向に沿って延びると共に前記第1レーザ加工ヘッドが取り付けられており、前記第1レーザ加工ヘッドを前記第1方向に沿って移動させるための第1移動部と、
前記第1方向に沿って延びると共に前記第2レーザ加工ヘッドが取り付けられており、前記第2レーザ加工ヘッドを前記第1方向に沿って移動させるための第2移動部と、
前記第2方向に沿って延びると共に前記第1移動部及び前記第2移動部が取り付けられており、前記第1移動部及び前記第2移動部のそれぞれを前記第2方向に沿って移動させるための第3移動部と、
を含み、
前記制御部は、前記表示処理において、前記第2移動部による前記第2レーザ加工ヘッドの前記第1方向に沿った移動を示す第2移動線の、前記第1方向に沿った基準線からの前記第2方向へのズレ量に対する前記補正量の入力を受け付けるための情報を前記入力受付部に表示させる、
請求項6に記載のレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ワークを保持する保持機構と、保持機構に保持されたワークにレーザ光を照射するレーザ照射機構と、を備えるレーザ加工装置が記載されている。特許文献1に記載のレーザ加工装置では、集光レンズを有するレーザ照射機構が基台に対して固定されており、集光レンズの光軸に垂直な方向に沿ったワークの移動が保持機構によって実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したようなレーザ加工装置にあっては、スループットの向上が望まれている。スループットの向上のためには、例えば、保持機構によるワークの移動速度を増大させることが考えられる。しかしながら、ワークの移動速度を増大させようとしても、ワークの移動が、目標の速度での等速移動に達するまでに要する加速時間も増大する。このため、ワークの移動速度の増大では、一定以上のスループットの向上が困難である。
【0005】
本発明者は、このような問題に接して鋭意研究を進めた結果、以下の知見を得た。すなわち、互いに独立して移動可能な2つのレーザ加工ヘッドを、少なくとも一部の時間において同時に稼働させることにより、スループットを向上可能である。このとき、加工の対象物に設定された加工予定のラインに沿ってレーザ光を照射するために、レーザ加工ヘッドを当該ラインに沿って移動させることが考えられる。しかしながら、この場合には次のような新たな問題点が生じ得る。
【0006】
すなわち、レーザ加工ヘッドが1つである場合には、そのレーザ加工ヘッドの移動の軌跡である移動線に対して、例えば対象物を支持する支持部を回転させることにより、加工予定のラインを一致させることができる。一方、レーザ加工ヘッドが2つであり、それぞれのレーザ加工ヘッドの移動線が互いに平行でない場合等には、対象物を支持する支持部を回転させて一方のレーザ加工ヘッドの移動線に当該ラインを一致させると、他方のレーザ加工ヘッドの移動線が当該ラインからずれる。このようなズレは、加工品質の低下に繋がるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、スループットを向上すると共に加工品質の低下を抑制可能なレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るレーザ加工装置は、第1方向に沿って延びると共に第1方向に交差する第2方向に沿って配列された複数のラインが設定された対象物に、ラインに沿ってレーザ光を照射することによって、ラインに沿って対象物に改質領域を形成するためのレーザ加工装置であって、対象物を支持するための支持部と、支持部に支持された対象物に対してレーザ光を照射するための第1レーザ加工ヘッド及び第2レーザ加工ヘッドと、第1レーザ加工ヘッド及び第2レーザ加工ヘッドを、それぞれ、第1方向及び第2方向に沿って移動させるための第1移動機構と、少なくとも、第1レーザ加工ヘッド及び第2レーザ加工ヘッドからのレーザ光の照射、並びに、第1移動機構による第1レーザ加工ヘッド及び第2レーザ加工ヘッドの移動を制御するための制御部と、を備え、第1移動機構は、第1方向に沿って延びると共に第1レーザ加工ヘッドが取り付けられており、第1レーザ加工ヘッドを第1方向に沿って移動させるための第1移動部と、第1方向に沿って延びると共に第2レーザ加工ヘッドが取り付けられており、第2レーザ加工ヘッドを第1方向に沿って移動させるための第2移動部と、第2方向に沿って延びると共に第1移動部及び第2移動部が取り付けられており、第1移動部及び第2移動部のそれぞれを第2方向に沿って移動させるための第3移動部と、を含み、制御部は、第2移動部による第2レーザ加工ヘッドの第1方向に沿った移動を示す第2移動線の、第1方向に沿った基準線からの第2方向へのズレ量を取得する取得処理と、取得処理の後に、少なくとも第2レーザ加工ヘッドからレーザ光が出力されている状態において、第1方向に沿って第2レーザ加工ヘッドを移動させるように第2移動部を制御することにより、ラインに沿って対象物にレーザ光を照射する照射処理と、を実施し、照射処理では、制御部は、第3移動部の制御によってズレ量の分だけ第2方向に第2レーザ加工ヘッドを移動させながら、第2移動部の制御によって第2レーザ加工ヘッドを第1方向に移動させる。
【0009】
このレーザ加工装置は、対象物に対してレーザ光を照射するための2つのレーザ加工ヘッド(第1レーザ加工ヘッド及び第2レーザ 加工ヘッド)を有している。そして、第1レーザ加工ヘッド及び第2レーザ加工ヘッドは、第1移動機構の第1移動部及び第2移動部によって、対象物に設定されたラインの延びる第1方向に沿って移動可能とされている。よって、少なくとも一部の時間において、第1レーザ加工ヘッド及び前記第2レーザ加工ヘッドを同時に稼働することによって、スループットを向上可能である。
【0010】
さらに、このレーザ加工装置では、制御部が、第2移動部による第2レーザ加工ヘッドの第1方向に沿った第2移動線の、第1方向に沿った基準線からの第2方向へのズレ量を取得する取得処理を実施する。対象部に設定されたラインは、第1方向に沿っている。したがって、ここで取得された第2移動線の基準線からのズレ量は、照射処理におけるラインからのズレ量に相当する。そして、照射処理では、第2レーザ加工ヘッドは、当該ズレ量の分だけ第2方向に移動されながら第1方向に移動させられる。よって、対象物に設定されたラインが、第1レーザ加工ヘッドの移動線に一致させられた場合であっても、第2レーザ加工ヘッドの第2移動線が当該ラインからずれることが抑制され、加工品質の低下が抑制され得る。
【0011】
本発明に係るレーザ加工装置では、制御部は、取得処理では、ズレ量の取得用のサンプルが支持部に支持されている状態において、第1レーザ加工ヘッドからレーザ光を出力させながら、第1移動部の制御により第1レーザ加工ヘッドを第1方向に沿って移動させることにより、第1方向に沿ってサンプルにレーザ光を照射して、前記第1レーザ加工ヘッドの第1方向に沿った移動を示す第1移動線としての第1加工線をレーザ光の加工痕によってサンプルに形成する第1形成処理と、サンプルが支持部に支持されている状態において、第2レーザ加工ヘッドからレーザ光を出力させながら、第2移動部の制御により第2レーザ加工ヘッドを第1方向に沿って移動させることにより、第1方向に沿ってサンプルにレーザ光を照射して、レーザ光の加工痕によって第2移動線としての第2加工線をサンプルに形成する第2形成処理と、第1加工線と第2加工線との比較に基づいて、第1加工線を基準線としたズレ量を取得するズレ量取得処理と、を実施してもよい。このように、サンプルを実際に加工することによって形成された第1加工線及び第2加工線を、ズレ量の算出のための第1移動線及び第2移動線として利用すれば、より高精度にズレ量を求めることが可能となる。
【0012】
本発明に係るレーザ加工装置は、第1方向に沿って支持部を移動させると共に、第1方向及び第2方向に交差する第3方向に沿った回転軸の周りに支持部を回転させるための第2移動機構をさらに備え、制御部は、照射処理の前に、第2移動機構の制御によって、ラインが第1移動線に一致するように支持部を回転させるアライメント処理を実施し、照射処理では、制御部は、第1レーザ加工ヘッド及び第2レーザ加工ヘッドからレーザ光が出力されている状態において、第2移動機構の制御によって第1方向に沿って支持部を移動させると共に、第1移動部及び第2移動部の制御によって、第1レーザ加工ヘッド及び第2レーザ加工ヘッドを第1方向に沿って支持部と反対方向に移動させることにより、ラインに沿って対象物にレーザ光を照射してもよい。このように、対象物を支持する支持部とレーザ加工ヘッドとの双方を移動させれば、対象物に対するレーザ光の集光点の移動速度が向上され、加工速度が向上される。
【0013】
また、この場合には、集光点の目標の移動速度が、支持部及びレーザ加工ヘッドのそれぞれで分担される。このため、支持部及びレーザ加工ヘッドの一方を移動させる場合と比較して、それぞれの移動速度を抑えることが可能である。この結果、支持部及びレーザ加工ヘッドの加減速に係る時間及び距離が削減され得る。
【0014】
ここで、レーザ加工ヘッドの重量は、支持部の重量よりも軽量であることが一般的である。したがって、集光点を目標の移動速度で移動させるに際して、レーザ加工ヘッドを支持部よりも速く移動させる(すなわち、レーザ加工ヘッドの速度の負担を相対的に大きくする)ことが考えられる。
【0015】
これに対して、本発明に係るレーザ加工装置では、第1レーザ加工ヘッド及び第2レーザ加工ヘッドには、光源から出力されたレーザ光を導入するための光ファイバが接続されており、制御部は、照射処理において、第1方向に沿った第1レーザ加工ヘッド及び第2レーザ加工ヘッドの速さを、第1方向に沿った支持部の速さよりも小さくしてもよい。このように、レーザ加工ヘッドに対して光源からレーザ光を導入するための光ファイバが接続されている場合には、レーザ加工ヘッドと支持部との重量の関係に関わらず、レーザ加工ヘッドを相対的に遅くする(すなわち、レーザ加工ヘッドの速度の負担を相対的に小さくする)ことによって、光ファイバの保護を図ることが可能である。
【0016】
本発明に係るレーザ加工装置では、第1移動機構は、第1方向に互いに対向して配置された一対の第3移動部を含み、第1移動部及び第2移動部は、一対の第3移動部に掛け渡されて支持されていてもよい。この場合、第1レーザ加工ヘッド及び第2レーザ加工ヘッドのそれぞれが確実に支持される。
【0017】
ここで、本発明に係るレーザ加工装置では、第1方向に沿って延びると共に第1方向に交差する第2方向に沿って配列された複数のラインが設定された対象物に、ラインに沿ってレーザ光を照射することによって、ラインに沿って対象物に改質領域を形成するためのレーザ加工装置であって、対象物を支持するための支持部と、支持部に支持された対象物に対してレーザ光を照射するための第1レーザ加工ヘッド及び第2レーザ加工ヘッドと、情報を表示すると共に入力を受け付けるための入力受付部と、入力受付部を制御するための制御部と、を備え、制御部は、第1レーザ加工ヘッドからのレーザ光による対象物の加工条件と、第2レーザ加工ヘッドからのレーザ光による対象物の加工条件と、の少なくとも一部を互いに独立して設定するための入力を受け付けるための情報を入力受付部に表示させる表示処理を実施する。
【0018】
このレーザ加工装置は、対象物に対してレーザ光を照射するための2つのレーザ加工ヘッド(第1レーザ加工ヘッド及び第2レーザ 加工ヘッド)を有している。よって、少なくとも一部の時間において、第1レーザ加工ヘッド及び前記第2レーザ加工ヘッドを同時に稼働することによって、スループットを向上可能である。
【0019】
また、このレーザ加工装置では、制御部が、第1レーザ加工ヘッドからのレーザ光による対象物の加工条件と、第2レーザ加工ヘッドからのレーザ光による対象物の加工条件と、の少なくとも一部を互いに独立して設定するため入力を受け付けるための情報を入力受付部に表示させる。したがって、第1レーザ加工ヘッド及び前記第2レーザ加工ヘッドのそれぞれによる対象部のレーザ加工の加工品質に差(レーザ加工ヘッドの機差)が生じないように、第1レーザ加工ヘッド及び前記第2レーザ加工ヘッドのそれぞれの加工条件を設定することによって、加工品質の低下を抑制可能である。
【0020】
本発明に係るレーザ加工装置では、制御部は、表示処理において、第1レーザ加工ヘッドの加工条件を基準としたときの、第2レーザ加工ヘッドの加工条件の基準からの補正量の入力を受け付けるための情報を入力受付部に表示させてもよい。この場合、レーザ加工ヘッドの機差を抑制するための入力が容易となる。
【0021】
本発明に係るレーザ加工装置では、第1レーザ加工ヘッド及び第2レーザ加工ヘッドを、それぞれ、第1方向及び第2方向に沿って移動させるための第1移動機構をさらに備え、制御部は、第1移動機構による第1レーザ加工ヘッド及び第2レーザ加工ヘッドの移動を制御し、第1移動機構は、第1方向に沿って延びると共に第1レーザ加工ヘッドが取り付けられており、第1レーザ加工ヘッドを第1方向に沿って移動させるための第1移動部と、第1方向に沿って延びると共に第2レーザ加工ヘッドが取り付けられており、第2レーザ加工ヘッドを第1方向に沿って移動させるための第2移動部と、第2方向に沿って延びると共に第1移動部及び第2移動部が取り付けられており、第1移動部及び第2移動部のそれぞれを第2方向に沿って移動させるための第3移動部と、を含み、制御部は、表示処理において、第2移動部による第2レーザ加工ヘッドの第1方向に沿った移動を示す第2移動線の、第1方向に沿った基準線からの第2方向へのズレ量に対する補正量の入力を受け付けるための情報を入力受付部に表示させてもよい。このように、レーザ加工ヘッドの機差の補正量の一例として、上述したズレ量を用いることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、スループットを向上すると共に加工品質の低下を抑制可能なレーザ加工装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の平面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示されたレーザ加工装置の部分的な側面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示されたレーザ加工装置のレーザ加工ヘッドの正面図である。
【
図4】
図4は、
図3に示されるレーザ加工ヘッドの側面図である。
【
図5】
図5は、
図3に示されたレーザ加工ヘッドの光学系の構成図である。
【
図6】
図6は、変形例のレーザ加工ヘッドの光学系の構成図である。
【
図7】
図7は、変形例のレーザ加工ヘッドの光学系の構成図である。
【
図8】
図8は、レーザ加工装置の動作を示す模式的な上面図である。
【
図9】
図9は、レーザ加工装置の動作を示す模式的な上面図である。
【
図10】
図10は、レーザ加工装置の動作を示す模式的な上面図である。
【
図11】
図11は、偏心補正の説明をするための模式的な平面図である。
【
図12】
図12は、偏心補正の説明をするための模式的な平面図である。
【
図13】
図13は、偏心補正の説明をするための模式的な平面図である。
【
図14】
図14は、偏心補正の説明をするための模式的な平面図である。
【
図15】
図15は、偏心補正の説明をするための模式的な平面図である。
【
図16】
図16は、偏心補正の変形例を説明をするための模式的な平面図である。
【
図17】
図17は、同一の加工条件により2つのレーザ加工ヘッドを用いて加工を行った場合の加工結果を示す図である。
【
図18】
図18は、同一の加工条件により2つのレーザ加工ヘッドを用いて加工を行った場合の加工結果を示す図である。
【
図20】
図20は、入力受付部が表示する入力画面の一例を示す図である。
【
図21】
図21は、補正量の入力を受け付けるための情報の一例を示す図である。
【
図22】
図22は、補正量の入力を受け付けるための情報の一例を示す図である。
【
図23】
図23は、機差補正を行う前後の加工条件を示す表である。
【
図24】
図24は、機差補正を経て実際に加工を行った場合の加工結果を示す切断面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。なお、各図には、X軸、Y軸、及び、Z軸によって規定される直交座標系を示す場合がある。X方向は、第1方向の一例であり、第1の水平方向である。Y方向は、第1方向に交差する第2方向の一例であり、第2の水平方向である。Z方向は、第1方向及び第2方向に交差する第3方向の一例であり、鉛直方向である。
[レーザ加工装置の構成]
【0025】
図1及び
図2に示されるように、レーザ加工装置1は、移動機構5(第2移動機構)、移動機構6(第1移動機構)、支持部7、光源ユニット8、制御部9、レーザ加工ヘッド10A(第1レーザ加工ヘッド)、レーザ加工ヘッド10B(第2レーザ加工ヘッド)、及び、一対のカメラACを備えている。
【0026】
移動機構5は、固定部51と、移動部53と、取付部55と、を有している。固定部51は、装置フレーム1aに取り付けられている。移動部53は、固定部51に設けられたレールに取り付けられており、Y方向に沿って移動することができる。取付部55は、移動部53に設けられたレールに取り付けられており、X方向に沿って移動することができる。支持部7は、取付部55に設けられた回転軸に取り付けられており、Z方向に平行な軸線を中心として回転することができる。すなわち、移動機構5は、支持部7を、X方向及びY方向に沿って移動するための機能、及び、Z方向に沿った軸の周りに回転させるための機能を有している。
【0027】
移動機構6は、一対のY軸移動部(第3移動部)61、X軸移動部(第1移動部)62A、X軸移動部(第2移動部)62B、Z軸移動部63,64、及び、取付部65,66,67A,67Bを有している。一対のY軸移動部61は、X方向に互いに対向して配置され、Y方向に沿って(ここでは略平行に)延びている。X軸移動部62Aは、X方向に沿って延びており、X方向の両端において、取付部67Aを介してY軸移動部61に設けられたレールに取り付けられている。すなわち、X軸移動部62Aは、一対のY軸移動部61に掛け渡されて支持されている。これにより、X軸移動部62Aは、Y軸移動部61によってY方向に沿って移動可能とされている。すなわち、Y軸移動部61は、X軸移動部62AをY方向に移動させるための機能を有している。
【0028】
Z軸移動部63は、Z方向に沿って延びており、X軸移動部62Aに設けられたレールに取り付けられている。これにより、Z軸移動部63は、X軸移動部62AによってX方向に沿って移動可能とされている。Z軸移動部63には、取付部65を介してレーザ加工ヘッド10Aが取り付けられている。したがって、X軸移動部62Aは、Z軸移動部63ごと、レーザ加工ヘッド10AをX方向に沿って移動させるための機能を有している。レーザ加工ヘッド10Aは、取付部65を介して、Z軸移動部63に設けられたレールに取り付けられている。これにより、レーザ加工ヘッド10Aは、Z軸移動部63によってZ方向に沿って移動可能とされている。すなわち、Z軸移動部63は、レーザ加工ヘッド10AをZ方向に沿って移動させるための機能を有している。このように、移動機構6は、レーザ加工ヘッド10Aを、X方向、Y方向、及び、Z方向に沿って3次元的に移動可能に保持している。
【0029】
X軸移動部62Bは、X方向に沿って延びており、X方向の両端において、取付部67Bを介してY軸移動部61に設けられたレールに取り付けられている。すなわち、X軸移動部62Bは、一対のY軸移動部61に掛け渡されて支持されている。これにより、X軸移動部62Bは、Y軸移動部61によってY方向に沿って移動可能とされている。すなわち、Y軸移動部61は、X軸移動部62BをY方向に移動させるための機能を有している。
【0030】
Z軸移動部64は、Z方向に沿って延びており、X軸移動部62Bに設けられたレールに取り付けられている。これにより、Z軸移動部64は、X軸移動部62BによってX方向に沿って移動可能とされている。Z軸移動部64には、取付部66を介してレーザ加工ヘッド10Bが取り付けられている。したがって、X軸移動部62Bは、Z軸移動部64ごと、レーザ加工ヘッド10BをX方向に沿って移動させるための機能を有している。レーザ加工ヘッド10Bは、取付部66を介して、Z軸移動部64に設けられたレールに取り付けられている。これにより、レーザ加工ヘッド10Bは、Z軸移動部64によってZ方向に沿って移動可能とされている。すなわち、Z軸移動部64は、レーザ加工ヘッド10AをZ方向に沿って移動させるための機能を有している。このように、移動機構6は、レーザ加工ヘッド10Bを、X方向、Y方向、及び、Z方向に沿って3次元的に移動可能に保持している。
【0031】
支持部7は、上述したように、移動機構5の取付部55に設けられた回転軸に取り付けられており、Z方向に平行な軸線を中心線として回転することができる。つまり、支持部7は、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動することができ、Z方向に平行な軸線を中心線として回転することができる。支持部7は、X方向及びY方向に沿って対象物100を支持する。対象物100は、例えば、ウェハである。
【0032】
レーザ加工ヘッド10Aは、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物100に対してレーザ光L1を照射するためのものである。レーザ加工ヘッド10Bは、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物100に対してレーザ光L2を照射するためのものである。
【0033】
一対のカメラACは、互いに異なる倍率を有しており、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物100を撮像するためのものである。カメラACは、一例として、レーザ加工ヘッド10Aと共に、取付部65を介してZ軸移動部63に取り付けられている。カメラACは、例えば、対象物100を透過する光を用いて、対象物100のデバイスパターンや、改質領域及び改質領域から延びる亀裂の形成状態等を撮像することができる。カメラACによって得られた画像は、例えば、対象物100に対するレーザ光L1,L2の照射位置のアライメントや、レーザ光L1,L2の照射条件の調整等に供される。
【0034】
光源ユニット8は、1対の光源81,82を有している。光源81は、レーザ光L1を出力する。レーザ光L1は、光源81の出射部81aから出射され、光ファイバ2によってレーザ加工ヘッド10Aに導光される。すなわち、レーザ加工ヘッド10Aには、光源81から出力されたレーザ光L1を導入するための光ファイバ2が接続されている。光源82は、レーザ光L2を出力する。レーザ光L2は、光源82の出射部82aから出射され、別の光ファイバ2によってレーザ加工ヘッド10Bに導光される。すなわち、レーザ加工ヘッド10Bには、光源82から出力されたレーザ光L2を導入するための光ファイバ2が設けられている。
【0035】
制御部9は、レーザ加工装置1の各部(複数の移動機構5,6、レーザ加工ヘッド10A,10B、カメラAC、及び光源ユニット8等)を制御する。制御部9は、処理部91と、記憶部92と、入力受付部93と、を有している。処理部91は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。処理部91では、プロセッサが、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)を実行し、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信を制御する。記憶部92は、例えばハードディスク等であり、各種データを記憶する。入力受付部93は、各種情報を表示すると共に、ユーザから各種情報の入力を受け付けるインターフェース部である。本実施形態では、入力受付部93は、GUI(Graphical User Interface)を構成している。
【0036】
以上のように構成されたレーザ加工装置1による加工の一例について説明する。当該加工の一例は、ウェハである対象物100を複数のチップに切断するために、格子状に設定された複数のラインのそれぞれに沿って対象物100の内部に改質領域を形成する例である。
【0037】
まず、対象物100を支持している支持部7がZ方向において1対のレーザ加工ヘッド10A,10Bと対向するように、移動機構5が、X方向及びY方向のそれぞれに沿って支持部7を移動させる。続いて、対象物100において一方向に延在する複数のラインがX方向に沿うように、移動機構5が、Z方向に平行な軸線を中心線として支持部7を回転させる。これにより、対象物100には、X方向に沿って延びると共にY方向に沿って配列された複数のライン(
図1に示されたラインC)が設定されることとなる。
【0038】
続いて、一方向に延在する一のライン上にレーザ光L1の集光点が位置するように、移動機構6が、Y方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。その一方で、一方向に延在する他のライン上にレーザ光L2の集光点が位置するように、移動機構6が、Y方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Bを移動させる。続いて、対象物100の内部にレーザ光L1の集光点が位置するように、移動機構6が、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。その一方で、対象物100の内部にレーザ光L2の集光点が位置するように、移動機構6が、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Bを移動させる。
【0039】
続いて、光源81がレーザ光L1を出力してレーザ加工ヘッド10Aが対象物100にレーザ光L1を照射すると共に、光源82がレーザ光L2を出力してレーザ加工ヘッド10Bが対象物100にレーザ光L2を照射する。それと同時に、一方向に延在する一のラインに沿ってレーザ光L1の集光点が相対的に移動し(レーザ光L1がスキャンされ)、且つ、一方向に延在する他のラインに沿ってレーザ光L2の集光点が相対的に移動する(レーザ光L2がスキャンされる)ように、移動機構5が、X方向に沿って支持部7を移動させると共に、移動機構6が、X方向に沿って、支持部7と反対方向に、レーザ加工ヘッド10A,10Bを移動させる。このようにして、レーザ加工装置1は、対象物100において一方向に延在する複数のラインのそれぞれに沿って、対象物100の少なくとも内部に改質領域を形成する。
【0040】
続いて、対象物100において一方向と直交する他方向に延在する複数のラインがX方向に沿うように、移動機構5が、Z方向に平行な軸線を中心線として支持部7を回転させる。これにより、対象物100には、X方向に沿って延びると共にY方向に沿って配列された複数の別のライン(
図1に示されたラインC)が設定されることとなる。
【0041】
続いて、他方向に延在する一のライン上にレーザ光L1の集光点が位置するように、移動機構6が、Y方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。その一方で、他方向に延在する他のライン上にレーザ光L2の集光点が位置するように、移動機構6が、Y方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Bを移動させる。続いて、対象物100の内部にレーザ光L1の集光点が位置するように、移動機構6が、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。その一方で、対象物100の内部にレーザ光L2の集光点が位置するように、移動機構6が、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Bを移動させる。
【0042】
続いて、光源81がレーザ光L1を出力してレーザ加工ヘッド10Aが対象物100にレーザ光L1を照射すると共に、光源82がレーザ光L2を出力してレーザ加工ヘッド10Bが対象物100にレーザ光L2を照射する。それと同時に、他方向に延在する一のラインに沿ってレーザ光L1の集光点が相対的に移動し(レーザ光L1がスキャンされ)、且つ、他方向に延在する他のラインに沿ってレーザ光L2の集光点が相対的に移動する(レーザ光L2がスキャンされる)ように、移動機構5が、X方向に沿って支持部7を移動させると共に、移動機構6が、X方向に沿って、支持部7と反対方向にレーザ加工ヘッド10A,10Bを移動させる。このようにして、レーザ加工装置1は、対象物100において一方向と直交する他方向に延在する複数のラインのそれぞれに沿って、対象物100の少なくとも内部に改質領域を形成する。
【0043】
なお、上述した加工の一例では、光源81は、例えばパルス発振方式によって、対象物100に対して透過性を有するレーザ光L1を出力し、光源82は、例えばパルス発振方式によって、対象物100に対して透過性を有するレーザ光L2を出力する。そのようなレーザ光が対象物100の内部に集光されると、レーザ光の集光点に対応する部分においてレーザ光が特に吸収され、対象物100の内部に改質領域が形成される。改質領域は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。
【0044】
パルス発振方式によって出力されたレーザ光が対象物100に照射され、対象物100に設定されたラインに沿ってレーザ光の集光点が相対的に移動させられると、複数の改質スポットがラインに沿って1列に並ぶように形成される。1つの改質スポットは、1パルスのレーザ光の照射によって形成される。1列の改質領域は、1列に並んだ複数の改質スポットの集合である。隣り合う改質スポットは、対象物100に対するレーザ光の集光点の相対的な移動速度及びレーザ光の繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
[レーザ加工ヘッドの構成]
【0045】
引き続いて、レーザ加工ヘッドの構成について具体的に説明する。
図3及び
図4に示されるように、レーザ加工ヘッド10Aは、筐体11と、入射部12と、レーザ光調整部13と、集光部14と、を備えている。筐体11は、第1壁部21及び第2壁部22、第3壁部23及び第4壁部24、並びに、第5壁部25及び第6壁部26を有している。第1壁部21及び第2壁部22は、X方向において互いに対向している。第3壁部23及び第4壁部24は、Y方向において互いに対向している。第5壁部25及び第6壁部26は、Z方向において互いに対向している。
【0046】
第3壁部23と第4壁部24との距離は、第1壁部21と第2壁部22との距離よりも小さい。第1壁部21と第2壁部22との距離は、第5壁部25と第6壁部26との距離よりも小さい。なお、第1壁部21と第2壁部22との距離は、第5壁部25と第6壁部26との距離と等しくてもよいし、或いは、第5壁部25と第6壁部26との距離よりも大きくてもよい。
【0047】
レーザ加工ヘッド10Aでは、第1壁部21は、移動機構6のY軸移動部61と反対側に位置しており、第2壁部22は、Y軸移動部61側に位置している。第3壁部23は、移動機構6の取付部65側に位置しており、第4壁部24は、取付部65とは反対側であってレーザ加工ヘッド10B側に位置している(
図2参照)。すなわち、第4壁部24は、レーザ加工ヘッド10Bの筐体(第2筐体)にY方向に沿って対向する対向壁部である。第5壁部25は、支持部7とは反対側に位置しており、第6壁部26は、支持部7側に位置している。
【0048】
筐体11は、第3壁部23が移動機構6の取付部65側に配置された状態で筐体11が取付部65に取り付けられるように、構成されている。具体的には、次のとおりである。取付部65は、ベースプレート65aと、取付プレート65bと、を有している。ベースプレート65aは、Z軸移動部63に設けられたレールに取り付けられている(
図2参照)。取付プレート65bは、ベースプレート65aにおけるレーザ加工ヘッド10B側の端部に立設されている(
図2参照)。筐体11は、第3壁部23が取付プレート65bに接触した状態で、台座27を介してボルト28が取付プレート65bに螺合されることで、取付部65に取り付けられている。台座27は、第1壁部21及び第2壁部22のそれぞれに設けられている。筐体11は、取付部65に対して着脱可能である。
【0049】
入射部12は、第5壁部25に配置されている。入射部12は、筐体11内にレーザ光L1を入射させる。入射部12は、X方向においては第1壁部21側に片寄っており、Y方向においては第4壁部24側に片寄っている。つまり、X方向における入射部12と第1壁部21との距離は、X方向における入射部12と第2壁部22との距離よりも小さく、Y方向における入射部12と第4壁部24との距離は、X方向における入射部12と第3壁部23との距離よりも小さい。
【0050】
入射部12には、光ファイバ2の出射端部2aが接続されている。具体的には、入射部12は、第5壁部25に形成された孔25aを含む部分である。第5壁部25には、取付部25bが設けられている。取付部25bには、出射端部2aの本体部分2bがボルト等によって取り付けられている。この状態で、孔25aには、出射端部2aの先端部分2cが挿通されている。これにより、光ファイバ2の出射端部2aは、入射部12に対して着脱可能である。第5壁部25と本体部分2bとの間には、カバー25cが配置されている。カバー25cは、孔25aと先端部分2cとの間に形成された隙間を覆っている。一例として、出射端部2aにおいては、戻り光を抑制するアイソレータが本体部分2b内に配置されており、レーザ光L1をコリメートするコリメータレンズが先端部分2c内に配置されている。なお、入射部12は、光ファイバ2の出射端部2aが接続可能となるように構成されたコネクタ等であってもよい。
【0051】
レーザ光調整部13は、筐体11内に配置されている。レーザ光調整部13は、入射部12から入射したレーザ光L1を調整する。レーザ光調整部13は、筐体11内において、仕切壁部29に対して第4壁部24側に配置されている。レーザ光調整部13は、仕切壁部29に取り付けられている。仕切壁部29は、筐体11内に設けられており、筐体11内の領域を第3壁部23側の領域と第4壁部24側の領域とに仕切っている。仕切壁部29は、筐体11の一部分として構成されている。レーザ光調整部13が有する各構成は、第4壁部24側において仕切壁部29に取り付けられている。仕切壁部29は、レーザ光調整部13が有する各構成を支持する光学ベースとして機能している。
【0052】
集光部14は、第6壁部26に配置されている。具体的には、集光部14は、第6壁部26に形成された孔26aに挿通された状態で、第6壁部26に配置されている。集光部14は、レーザ光調整部13によって調整されたレーザ光L1を集光しつつ筐体11外に出射させる。集光部14は、X方向においては第2壁部22側(一方の壁部側)に片寄っており、Y方向においては第4壁部24側に片寄っている。すなわち、集光部14は、Z方向からみて、筐体11における第4壁部(対向壁部)24側に偏って配置されている。つまり、X方向における集光部14と第2壁部22との距離は、X方向における集光部14と第1壁部21との距離よりも小さく、Y方向における集光部14と第4壁部24との距離は、X方向における集光部14と第3壁部23との距離よりも小さい。
【0053】
図5に示されるように、レーザ光調整部13は、反射部(第1反射部)31と、アッテネータ32と、光軸調整部33と、を有している。反射部31、アッテネータ32及び光軸調整部33は、X方向に沿って延在する第1直線A1上に配置されている。反射部31は、Z方向において入射部12と対向している。すなわち、反射部31は、Z方向において光ファイバ2の出射端部2aと対向している。反射部31は、入射部12から入射したレーザ光L1を第2壁部22側に反射する。反射部31は、例えば、ミラー又はプリズムである。アッテネータ32は、反射部31で反射されたレーザ光L1の出力を調整する。光軸調整部33は、アッテネータ32によって出力が調整されたレーザ光L1を第6壁部26側に反射する。
【0054】
光軸調整部33は、入射部12から入射したレーザ光L1の光軸を調整するための部分である。本実施形態では、光軸調整部33は、第1ステアリングミラー331と、反射部材332と、第2ステアリングミラー333と、を有している。
【0055】
第1ステアリングミラー331は、第1直線A1上に配置されている。第1ステアリングミラー331は、ミラー331a及びホルダ331bによって構成されている。ミラー331aは、ホルダ331bに取り付けられている。ホルダ331bは、仕切壁部29に取り付けられている。ホルダ3331は、ミラー331aの向きの調整が可能となるようにミラー331aを保持している。第1ステアリングミラー331は、アッテネータ32によって出力が調整されたレーザ光L1を第6壁部26側に反射する。
【0056】
反射部材332は、第1ステアリングミラー331で反射されたレーザ光L1を第2壁部22側に反射する。反射部材332は、例えば、ミラー又はプリズムである。
【0057】
第2ステアリングミラー333は、第2直線A2上に配置されている。第2ステアリングミラー333は、ミラー333a及びホルダ333bによって構成されている。ミラー333aは、ホルダ333bに取り付けられている。ホルダ333bは、仕切壁部29に取り付けられている。ホルダ333bは、ミラー333aの向きの調整が可能となるようにミラー333aを保持している。第2ステアリングミラー333は、反射部材332で反射されたレーザ光L1を第6壁部26側に反射する。
【0058】
一例として、各ホルダ331b,333bに対しては、第2壁部22に形成された蓋付の開口(図示省略)を介した工具のアクセスが可能である。これにより、後述する観察部17によって取得される画像等を見つつ工具を操作することで、集光部14に入射するレーザ光L1の光軸が集光部14の光軸に一致するように、各ミラー331a,333aの向きを調整することができる。
【0059】
レーザ光調整部13は、ビームエキスパンダ34と、反射部(第2反射部)35と、を更に有している。光軸調整部33、ビームエキスパンダ34及び反射部35は、Z方向に沿って延在する第2直線A2上に配置されている。ビームエキスパンダ34は、光軸調整部33で反射されたレーザ光L1の径を拡大する。反射部35は、ビームエキスパンダ34で径が拡大されたレーザ光L1を第1壁部21側且つ第5壁部25側に反射する。反射部35は、例えば、ミラー又はプリズムである。
【0060】
レーザ光調整部13は、反射型空間光変調器36と、結像光学系37と、を更に有している。反射型空間光変調器36、結像光学系37及び集光部14は、Z方向に沿って延在する第3直線A3上に配置されている。反射型空間光変調器36は、反射部35で反射されたレーザ光L1を変調しつつ第6壁部26側に反射する。反射型空間光変調器36は、例えば、反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。結像光学系37は、反射型空間光変調器36の反射面36aと集光部14の入射瞳面14aとが結像関係にある両側テレセントリック光学系を構成している。結像光学系37は、3つ以上のレンズによって構成されている。
【0061】
第1直線A1、第2直線A2及び第3直線A3は、Y方向に垂直な平面上に位置している。第2直線A2は、第3直線A3に対して第2壁部22側に位置している。レーザ加工ヘッド10Aでは、Z方向に沿って入射部12から筐体11内に入射したレーザ光L1は、反射部31で反射されて、第1直線A1上を進行する。第1直線A1上を進行したレーザ光L1は、光軸調整部33で反射されて、第2直線A2上を進行する。第2直線A2上を進行したレーザ光L1は、反射部35及び反射型空間光変調器36で順次に反射されて、第3直線A3上を進行する。第3直線A3上を進行したレーザ光L1は、Z方向に沿って集光部14から筐体11外に出射される。
【0062】
レーザ加工ヘッド10Aは、ダイクロイックミラー15と、測定部16と、観察部17と、駆動部18と、回路部19と、を更に備えている。
【0063】
ダイクロイックミラー15は、第3直線A3上において、結像光学系37と集光部14との間に配置されている。つまり、ダイクロイックミラー15は、筐体11内において、レーザ光調整部13と集光部14との間に配置されている。ダイクロイックミラー15は、第4壁部24側において仕切壁部29に取り付けられている。ダイクロイックミラー15は、レーザ光L1を透過させる。ダイクロイックミラー15は、非点収差を抑制する観点では、例えば、キューブ型、又は、ねじれの関係を有するように配置された2枚のプレート型が好ましい。
【0064】
測定部16は、筐体11内において、第3直線A3に対して第1壁部21側に配置されている。つまり、測定部16は、X方向においては、集光部14に対して第1壁部21側に配置されている。測定部16は、第4壁部24側において仕切壁部29に取り付けられている。測定部16は、対象物100の表面(例えば、レーザ光L1が入射する側の表面)と集光部14との距離を測定するための測定光L10を出力し、集光部14を介して、対象物100の表面で反射された測定光L10を検出する。つまり、測定部16から出力された測定光L10は、集光部14を介して対象物100の表面に照射され、対象物100の表面で反射された測定光L10は、集光部14を介して測定部16で検出される。
【0065】
より具体的には、測定部16から出力された測定光L10は、第4壁部24側において仕切壁部29に取り付けられたビームスプリッタ20、及びダイクロイックミラー15で順次に反射され、集光部14から筐体11外に出射される。対象物100の表面で反射された測定光L10は、集光部14から筐体11内に入射してダイクロイックミラー15及びビームスプリッタ20で順次に反射され、測定部16に入射し、測定部16で検出される。
【0066】
観察部17は、筐体11内において、第3直線A3に対して第1壁部21側に配置されている。つまり、観察部17は、X方向においては、集光部14に対して第1壁部21側に配置されている。観察部17は、第4壁部24側において仕切壁部29に取り付けられている。観察部17は、対象物100の表面(例えば、レーザ光L1が入射する側の表面)を観察するための観察光L20を出力し、集光部14を介して、対象物100の表面で反射された観察光L20を検出する。つまり、観察部17から出力された観察光L20は、集光部14を介して対象物100の表面に照射され、対象物100の表面で反射された観察光L20は、集光部14を介して観察部17で検出される。
【0067】
より具体的には、観察部17から出力された観察光L20は、ビームスプリッタ20を透過してダイクロイックミラー15で反射され、集光部14から筐体11外に出射される。対象物100の表面で反射された観察光L20は、集光部14から筐体11内に入射してダイクロイックミラー15で反射され、ビームスプリッタ20を透過して観察部17に入射し、観察部17で検出される。なお、レーザ光L1、測定光L10及び観察光L20のそれぞれの波長は、互いに異なっている(少なくともそれぞれの中心波長が互いにずれている)。
【0068】
駆動部18は、第4壁部24側において仕切壁部29に取り付けられている。駆動部18は、例えば圧電素子の駆動力によって、第6壁部26に配置された集光部14をZ方向に沿って移動させる。
【0069】
回路部19は、筐体11内において、仕切壁部29に対して第3壁部23側に配置されている。つまり、回路部19は、筐体11内において、レーザ光調整部13、測定部16及び観察部17に対して第3壁部23側に配置されている。回路部19は、仕切壁部29から離間している。回路部19は、例えば、複数の回路基板である。回路部19は、測定部16から出力された信号、及び反射型空間光変調器36に入力する信号を処理する。回路部19は、測定部16から出力された信号に基づいて駆動部18を制御する。一例として、回路部19は、測定部16から出力された信号に基づいて、対象物100の表面と集光部14との距離が一定に維持されるように(すなわち、対象物100の表面とレーザ光L1の集光点との距離が一定に維持されるように)、駆動部18を制御する。
【0070】
なお、仕切壁部29には、測定部16、観察部17、駆動部18及び反射型空間光変調器36のそれぞれと回路部19とを電気的に接続するための配線が通る切欠き、孔等(図示省略)が形成されている。また、筐体11には、回路部19と制御部9(
図1参照)とを電気的に接続するための配線等が接続されるコネクタ(図示省略)が設けられている。
【0071】
レーザ加工ヘッド10Bは、レーザ加工ヘッド10Aと同様に、筐体11と、入射部12と、レーザ光調整部13と、集光部14と、ダイクロイックミラー15と、測定部16と、観察部17と、駆動部18と、回路部19と、を備えている。ただし、レーザ加工ヘッド10Bの各構成は、
図2に示されるように、1対の取付部65,66間の中点を通り且つY方向に垂直な仮想平面に関して、レーザ加工ヘッド10Aの各構成と面対称の関係を有するように、配置されている。
【0072】
例えば、レーザ加工ヘッド10Aの筐体11は、第4壁部24が第3壁部23に対してレーザ加工ヘッド10B側に位置し且つ第6壁部26が第5壁部25に対して支持部7側に位置するように、取付部65に取り付けられている。これに対し、レーザ加工ヘッド10Bの筐体11は、第4壁部24が第3壁部23に対してレーザ加工ヘッド10A側に位置し且つ第6壁部26が第5壁部25に対して支持部7側に位置するように、取付部66に取り付けられている。
【0073】
レーザ加工ヘッド10Bの筐体11は、第3壁部23が取付部66側に配置された状態で筐体11が取付部66に取り付けられるように、構成されている。具体的には、次のとおりである。取付部66は、ベースプレート66aと、取付プレート66bと、を有している。ベースプレート66aは、Z軸移動部63に設けられたレールに取り付けられている。取付プレート66bは、ベースプレート66aにおけるレーザ加工ヘッド10A側の端部に立設されている。レーザ加工ヘッド10Bの筐体11は、第3壁部23が取付プレート66bに接触した状態で、取付部66に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Bの筐体11は、取付部66に対して着脱可能である。
[レーザ加工ヘッドの作用及び効果]
【0074】
レーザ加工ヘッド10Aでは、入射部12から集光部14に至るレーザ光L1の光路上に、入射部12から入射したレーザ光L1の光軸を調整するための光軸調整部33が配置されている。これにより、例えば、メンテナンス等のために光ファイバ2の出射端部2aを筐体11から外し、再度、光ファイバ2の出射端部2aを入射部12に接続した際に、集光部14に入射するレーザ光L1の光軸を集光部14の光軸に一致させることができる。また、入射部12がX方向において筐体11の第1壁部21側に片寄っており、集光部14がX方向において筐体11の第2壁部22側に片寄っている。これにより、入射部12から光軸調整部33に至るレーザ光L1の光路が長くなるのを抑制することができ、その結果として、集光部14に入射するレーザ光L1の光軸が集光部14の光軸からずれるのを抑制することができる。よって、レーザ加工ヘッド10Aによれば、レーザ光L1を精度良く集光することができる。
【0075】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、入射部12が筐体11の第5壁部25に配置されており、レーザ光調整部13において、光軸調整部33が、反射部31及びアッテネータ32の後段(レーザ光L1の進行方向における下流側)、且つビームエキスパンダ34、反射部35、反射型空間光変調器36及び結像光学系37の前段(レーザ光L1の進行方向における上流側)に、配置されている。ビームエキスパンダ34、反射部35、反射型空間光変調器36及び結像光学系37の前段(レーザ光L1の進行方向における上流側)に配置されている。これにより、レーザ光L1の成形に関する構成である「ビームエキスパンダ34、反射部35、反射型空間光変調器36、結像光学系37及び集光部14」に入射するレーザ光L1の光軸を調整することができるため、レーザ光L1をより精度良く集光することができる。また、入射部12が第5壁部25に配置されており、レーザ光調整部13において、アッテネータ32が、反射部31と光軸調整部33との間に配置されている。これにより、アッテネータ32の適用による筐体11の大型化を抑制することができる。
【0076】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、レーザ光L1を出力する光源が筐体11内に設けられていないため、筐体11の小型化を図ることができる。更に、筐体11において、第3壁部23と第4壁部24との距離が第1壁部21と第2壁部22との距離よりも小さく、第6壁部26に配置された集光部14がY方向において第4壁部24側に片寄っている。これにより、第3壁部23及び第4壁部24が互いに対向するY方向に沿って筐体11を移動させる場合に、例えば、第4壁部24側に他の構成(例えば、レーザ加工ヘッド10B)が存在したとしても、当該他の構成に集光部14を近付けることができる。また、第3壁部23と第4壁部24との距離が第1壁部21と第2壁部22との距離よりも小さいため、第3壁部23及び第4壁部24が互いに対向するY方向に沿って筐体11を移動させる場合に、筐体11が占有する空間を小さくすることができる。更に、入射部12及び集光部14がY方向において第4壁部24側に片寄っているため、筐体11内の領域のうちレーザ光調整部13に対して第3壁部23側の領域に他の構成(例えば、回路部19)を配置する等、当該領域を有効に利用することができる。
【0077】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、回路部19が、筐体11内において、レーザ光調整部13に対して第3壁部23側に配置されている。これにより、筐体11内の領域のうちレーザ光調整部13に対して第3壁部23側の領域を有効に利用することができる。
【0078】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、レーザ光調整部13が、筐体11内において、仕切壁部29に対して第4壁部24側に配置されており、回路部19が、筐体11内において、仕切壁部29に対して第3壁部23側に配置されている。これにより、回路部19で発生する熱がレーザ光調整部13に伝わり難くなるため、回路部19で発生する熱によってレーザ光調整部13に歪みが生じるのを抑制することができ、レーザ光L1を適切に調整することができる。更に、例えば空冷又は水冷等によって、筐体11内の領域のうち第3壁部23側の領域において回路部19を効率良く冷却することができる。
【0079】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、レーザ光調整部13が仕切壁部29に取り付けられている。これにより、レーザ光調整部13を筐体11内において確実に且つ安定的に支持することができる。
【0080】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、回路部19が仕切壁部29から離間している。これにより、回路部19で発生する熱が仕切壁部29を介してレーザ光調整部13に伝わるのをより確実に抑制することができる。
【0081】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、測定部16及び観察部17が、筐体11内の領域のうち集光部14に対して第1壁部21側の領域に配置されており、回路部19が、筐体11内の領域のうちレーザ光調整部13に対して第3壁部23側に配置されており、ダイクロイックミラー15が、筐体11内においてレーザ光調整部13と集光部14との間に配置されている。これにより、筐体11内の領域を有効に利用することができる。更に、レーザ加工装置1において、対象物100の表面と集光部14との距離の測定結果に基づいた加工が可能となる。また、レーザ加工装置1において、対象物100の表面の観察結果に基づいた加工が可能となる。
【0082】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、回路部19が、測定部16から出力された信号に基づいて駆動部18を制御する。これにより、対象物100の表面と集光部14との距離の測定結果に基づいてレーザ光L1の集光点の位置を調整することができる。
【0083】
以上の作用及び効果は、レーザ加工ヘッド10Bによっても同様に奏される。
【0084】
また、レーザ加工装置1では、各レーザ加工ヘッド10A,10Bによってレーザ光L1が精度良く集光されるため、対象物100を効率良く且つ精度良く加工することができる。
【0085】
また、レーザ加工装置1では、1対の取付部65,66のそれぞれが、Y方向及びZ方向のそれぞれに沿って移動する。これにより、対象物100をより効率良く加工することができる。
【0086】
また、レーザ加工装置1では、支持部7が、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動し、Z方向に平行な軸線を中心線として回転する。これにより、対象物100をより効率良く加工することができる。
[レーザ加工ヘッドの変形例]
【0087】
図6に示されるように、入射部12が筐体11の第1壁部21に配置されており、レーザ光調整部13において、光軸調整部33が、アッテネータ32の後段、且つビームエキスパンダ34、反射部35、反射型空間光変調器36及び結像光学系37の前段に、配置されていてもよい。
図6に示されるレーザ加工ヘッド10Aでは、入射部12、アッテネータ32及び光軸調整部33(具体的には、光軸調整部33の第1ステアリングミラー331)が、第1直線A1上に配置されている(その他は、
図5に示されるレーザ加工ヘッド10Aと同じである)。
図6に示されるレーザ加工ヘッド10Aでは、アッテネータ32が、入射部12から入射したレーザ光L1の出力を調整する。これによれば、レーザ光L1の成形に関する構成である「ビームエキスパンダ34、反射部35、反射型空間光変調器36、結像光学系37及び集光部14」に入射するレーザ光L1の光軸を調整することができるため、レーザ光L1をより精度良く集光することができる。また、入射部12と光軸調整部33との間にアッテネータ32が配置されているため、アッテネータ32の適用による筐体11の大型化を抑制することができる。更に、レーザ加工装置1の低背化を図ることができる。以上の構成は、レーザ加工ヘッド10Bにも適用可能である。
【0088】
また、レーザ加工ヘッド10Aでは、
図7に示されるように、入射部12が筐体11の第5壁部25に配置されており、レーザ光調整部13において、光軸調整部33が、アッテネータ32、反射部31、ビームエキスパンダ34、反射部35、反射型空間光変調器36及び結像光学系37の前段に、配置されていてもよい。
図7に示されるレーザ加工ヘッド10Aでは、光軸調整部33(具体的には、光軸調整部33の第2ステアリングミラー333)、アッテネータ32及び反射部31が、第1直線A1上に配置されており、光軸調整部33(具体的には、光軸調整部33の第1ステアリングミラー331)がZ方向において入射部12と対向しており、反射部31がZ方向においてビームエキスパンダ34と対向している(その他は、
図5に示されるレーザ加工ヘッド10Aと同じである)。
図7に示されるレーザ加工ヘッド10Aでは、光軸調整部33が、入射部12から入射したレーザ光L1を筐体11の第2壁部22側に反射し、アッテネータ32が、光軸調整部33で反射されたレーザ光L1の出力を調整し、反射部31が、アッテネータ32によって出力が調整されたレーザ光L1を筐体11の第6壁部26側に反射し、ビームエキスパンダ34が、反射部31で反射されたレーザ光L1の径を拡大する。これによれば、レーザ光L1の成形に関する構成である「ビームエキスパンダ34、反射部35、反射型空間光変調器36、結像光学系37及び集光部14」に入射するレーザ光L1の光軸を調整することができるため、レーザ光L1をより精度良く集光することができる。また、光軸調整部33と反射部31との間にアッテネータ32が配置されているため、アッテネータ32の適用による筐体11の大型化を抑制することができる。以上の構成は、レーザ加工ヘッド10Bにも適用可能である。
【0089】
また、
図5及び
図6のそれぞれに示されるレーザ加工ヘッド10Aにおいて、アッテネータ32は、光軸調整部33とビームエキスパンダ34との間に配置されていてもよい。また、
図7に示されるレーザ加工ヘッド10Aにおいて、アッテネータ32は、反射部31とビームエキスパンダ34との間に配置されていてもよい。また、
図5、
図6及び
図7のそれぞれに示されるレーザ加工ヘッド10Aにおいて、アッテネータ32は、ビームエキスパンダ34の後段(例えば、反射部35と反射型空間光変調器36との間)に配置されていてもよい。以上のそれぞれの構成は、レーザ加工ヘッド10Bにも適用可能である。
【0090】
また、光軸調整部33は、第1ステアリングミラー331と、反射部材332と、第2ステアリングミラー333と、を有するものに限定されない。光軸調整部33は、入射部12から入射したレーザ光L1の光軸を調整するための構成を有していればよい。一例として、光軸調整部33は、X方向に沿って第1壁部21側から入射したレーザ光L1を第1壁部21側且つ第5壁部25側に反射する第1ステアリングミラー331と、第1ステアリングミラー331で反射されたレーザ光L1をZ方向に沿って第6壁部26側に反射する第2ステアリングミラー333と、を有するものであってもよい。また、第1ステアリングミラー331及び第2ステアリングミラー333のそれぞれは、電動で動作する電動ミラーであってもよい。その場合、第1ステアリングミラー331及び第2ステアリングミラー333は、観察部17によって取得された画像に基づいて各ミラー331a,333aの向きを自動で調整するように構成されていてもよい。
【0091】
また、筐体11は、第1壁部21、第2壁部22、第3壁部23及び第5壁部25の少なくとも1つがレーザ加工装置1の取付部65(又は取付部66)側に配置された状態で筐体11が取付部65(又は取付部66)に取り付けられるように、構成されていればよい。
【0092】
また、回路部19は、測定部16から出力された信号、及び/又は、反射型空間光変調器36に入力する信号を処理するものに限定されず、レーザ加工ヘッドにおいて何らかの信号を処理するものであればよい。
【0093】
また、光源ユニット8は、1つの光源を有するものであってもよい。その場合、光源ユニット8は、1つの光源から出力されたレーザ光の一部を出射部81aから出射し且つ当該レーザ光の残部を出射部82aから出射するように、構成されていればよい。
[レーザ加工装置の動作等について]
【0094】
引き続いて、レーザ加工装置1の動作について説明する。
図8は、レーザ加工装置の動作を示す模式的な上面図である。
図1及び以降の図においては、レーザ加工ヘッド10A,10Bの模式化された内部を示す。
図1,8に示されるように、支持部7には、対象物100が支持されている。なお、図中の符号Sは、上述した測定部16や観察部17といったように、改質領域を形成するためのレーザ光L1,L2の照射に係る光学系以外の光学系を代表して示している。
【0095】
対象物100には、上述したように、X方向に沿って延びると共にY方向に沿って配列された複数のラインCが設定されている。ラインCは、仮想的な線であるが、実際に描かれた線であってもよい。なお、対象物100には、Y方向に沿って延びると共にX方向に沿って配列された複数のラインも設定されているが、その図示が省略されている。
【0096】
レーザ加工装置1は、制御部9の制御のもとで各ラインCに沿ったレーザ加工を行う照射処理を実施する。制御部9は、照射処理では、少なくとも、移動機構5による支持部7の移動と、移動機構6によるレーザ加工ヘッド10A,10Bの移動と、レーザ加工ヘッド10A及びレーザ加工ヘッド10Bからのレーザ光L1,L2の照射と、を制御する。レーザ加工装置1にあっては、制御部9は、照射処理として、第1処理と第2処理とを実行する(照射処理は、第1処理と第2処理とを含む)。
【0097】
第1処理は、複数のラインCの一のラインCに対してレーザ加工ヘッド10Aからのレーザ光L1をX方向にスキャンする処理である。第2処理は、複数のラインCのうちの別のラインCに対してレーザ加工ヘッド10Bからのレーザ光L2をX方向にスキャンする処理である。
【0098】
制御部9がレーザ光L1,L2をX方向にスキャンするとは、以下のような動作によりそれぞれの集光点をX方向に沿って移動させることである。すなわち、まず、移動機構6のY軸移動部61、及びZ軸移動部63,64を介して、レーザ加工ヘッド10A,10BをY方向及びZ方向に移動させて、レーザ光L1,L2の集光点を、それぞれのラインC上であって対象物100の内部となる位置に位置させた状態とする。そして、その状態において、移動機構5を介して支持部をX方向に沿って移動させると共に、X軸移動部62A,62Bを介してレーザ加工ヘッド10A,10BをX方向に沿って、支持部7と反対方向に移動させることにより、対象物100内をラインCに沿ってX方向に沿ってレーザ光L1,L2の集光点を移動させる。
【0099】
特に、ここでは、制御部9は、第1処理と第2処理とを、少なくとも一部の時間において重複するように実行する。すなわち、制御部9は、一のラインCに沿ってレーザ光L1がスキャンされている状態と、別のラインCに沿ってレーザ光L2がスキャンされている状態とが、同時に実現されるようにする。つまり、制御部9は、レーザ加工ヘッド10Aとレーザ加工ヘッド10Bとを同時に稼働する。これにより、1つのレーザ加工ヘッドを用いた加工に比べて明確にスループットの向上が図られる。
【0100】
制御部9は、1つのラインCに沿ったレーザ光L1,L2のスキャンが完了すると、レーザ加工ヘッド10A,10Bのそれぞれを独立してラインCの間隔の分だけY方向(必要に応じてZ方向)に移動させて、次のラインCに沿ったレーザ光L1,L2のスキャン(すなわち第1処理及び第2処理)を続ける。制御部9は、概ねラインCの本数分だけこの動作を続けて行うことにより、全てのラインCに沿って改質領域Mを形成する。
【0101】
このとき、制御部9は、複数のラインCのうちの対象物100のY方向の一方の端部に位置するラインCからY方向の内側のラインCに向けて順に第1処理を実行する。これと共に、制御部9は、複数のラインCのうちの対象物100のY方向の他方の端部に位置するラインCからY方向の内側のラインに向けて順に第2処理を実行する(これを主加工処理と称する)。Y方向の一方の端部に位置するラインCと、Y方向の他方の端部に位置するラインCとは、X方向について互いに同一の長さを有している。
【0102】
この点についてより詳細に説明する。主加工処理においては、まず、制御部9は、Y軸移動部61及びZ軸移動部63を制御することにより、レーザ加工ヘッド10AをY方向及びZ方向に移動させる。これにより、レーザ光L1の集光点を、対象物100のY方向の一方の端部に位置するラインC上であって対象物100の内部となる位置に位置させた状態とする。同時に、制御部9は、Y軸移動部61及びZ軸移動部64を制御することにより、レーザ加工ヘッド10BをY方向及びZ方向に移動させる。これにより、レーザ光L2の集光点を、対象物100のY方向の他方の端部に位置するラインC上であって対象物100の内部となる位置に位置させた状態とする。このとき、レーザ光L1の集光点のX方向の位置とレーザ光L2の集光点のX方向の位置とは、例えば一致している。
【0103】
その状態において、制御部9は、移動機構5の移動部53を制御することにより、支持部7をX方向に沿って移動させる。また、その状態において、制御部9は、X軸移動部62Aを制御することにより、レーザ加工ヘッド10AをX方向に沿って支持部7と反対方向に移動させる。さらに、制御部9は、その状態においえt、X軸移動部62Bを制御することにより、レーザ加工ヘッド10BをX方向に沿って支持部7と反対方向に移動させる。これにより、対象物100内を、それぞれのラインCに沿ってX方向に沿ってレーザ光L1,L2の集光点が移動させられる。
【0104】
すなわち、制御部9は、レーザ加工ヘッド10A,10Bからレーザ光L1,L2が出力されている状態において、X方向に沿って支持部7とレーザ加工ヘッド10A,10Bとを互いに反対方向に移動させるように移動機構5,6を制御することにより、それぞれのラインCに沿って対象物100にレーザ光L1,L2を照射する(照射処理を実施する)。
【0105】
特に、制御部9は、第1処理として、X方向に沿って支持部7とレーザ加工ヘッド10Aとを互いに反対方向に移動させるように、移動機構5及び移動機構6(X軸移動部62A)を制御し、第2処理として、第1処理と同一のタイミングにおいて、X方向に沿って支持部7とレーザ加工ヘッド10Bとを互いに反対方向に移動させるように、移動機構5及び移動機構6(X軸移動部62B)を制御する。これにより、それぞれのラインCに対する第1処理と第2処理とが、同時に開始されると共に同時に完了する。すなわち、ここでは、第1処理と第2処理とがその全体において重複している。これにより、ラインCに沿って対象物100の内部に改質領域Mが形成される。
【0106】
なお、照射処理における支持部7のX方向に沿った移動の速さと、レーザ加工ヘッド10A,10BのX方向に沿った移動の速さとの関係は、合計の速さが集光点の移動の速さの目標値に至る範囲において制御部9が任意に設定できる。一例として、ここでは、制御部9は、X方向に沿ったレーザ加工ヘッド10A,10Bの速さを、X方向に沿った支持部7の速さよりも小さくする。さらに、レーザ加工ヘッド10Aの速度及びレーザ加工ヘッド10Bの速度は、レーザ光L1,L2の照射の対象となるラインCの長さが互いに同一の場合には、互いに同一とすることができる。ただし、例えば、レーザ光L1の照射の対象となるラインCの長さと、レーザ光L2の照射の対象となるラインCの長さとが、互いに異なる場合等には、レーザ加工ヘッド10Aの速度とレーザ加工ヘッド10Bの速度とを互いに異ならせてもよい。
【0107】
続いて、制御部9は、Y軸移動部61を制御することにより、レーザ加工ヘッド10AをY方向に移動させる。これにより、レーザ光L1の集光点が、対象物100のY方向の一方の端部から1つだけ内側に位置するラインC上であって、対象物100の内部となる位置に位置させた状態とされる。同時に、制御部9は、Y軸移動部61を制御することによって、レーザ加工ヘッド10Bを移動させる。これにより、レーザ光L2の集光点が、対象物100のY方向の他方の端部から1つだけ内側に位置するラインC上であって、対象物100の内部となる位置に位置させた状態とされる。このとき、レーザ光L1の集光点のX方向の位置とレーザ光L2の集光点のX方向の位置とは、例えば一致している。
【0108】
その状態において、制御部9は、移動機構5,6の制御により、支持部7とレーザ加工ヘッド10A,10BとをX方向に沿って互いに反対方向に移動させることにより、対象物100内をそれぞれのラインCに沿ってX方向に沿ってレーザ光L1,L2の集光点を移動させる。これにより、ここでも、それぞれのラインCに対する第1処理と第2処理とが、同時に開始されると共に同時に完了する。すなわち、ここでも、第1処理と第2処理とがその全体において重複している。この制御部9の動作を繰り返し行うことにより、対象物100のより内側のラインCに至るまで、レーザ加工ヘッド10Aとレーザ加工ヘッド10Bとを同時に稼働させて無駄なくレーザ加工ができる。
【0109】
なお、各図においては、説明の必要上から、改質領域Mを実線として示しているが、対象物100の表面から実際に改質領域Mが見えていることを要さない。
【0110】
ここで、
図9に示されるように、上記の動作を繰り返すうちに、より対象物100の内側の領域において、レーザ加工ヘッド10Aとレーザ加工ヘッド10Bとの位置関係が、互いの距離がY方向にこれ以上縮まらない位置関係(例えば、互いに接触する間近の状態)となり、且つ、それぞれの集光部14の間の距離Dに相当する対象物100の領域に、未加工のラインCが残存している場合がある。この場合には、上記のように第1処理と第2処理とを同時に実行することが困難となる。したがって、制御部9は、この場合には、次のような後加工処理を実行する。
【0111】
すなわち、
図10に示されるように、制御部9は、主加工処理の結果、レーザ加工ヘッド10Aとレーザ加工ヘッド10BとがY方向について最接近したときに、対象物100におけるそれぞれの集光部14の間の領域に一部のラインCが残存しているときには、レーザ加工ヘッド10Aを対象物100の当該領域から退避させつつ、レーザ加工ヘッド10Bからのレーザ光L2を当該一部のラインCに対してX方向にスキャンする(第2処理を実行する)後加工処理を実行する。なお、レーザ加工ヘッド10Aとレーザ加工ヘッド10Bとは逆でもよい。
【0112】
これにより、全てのラインCに対してレーザ加工が完了する。その後、必要に応じて、支持部7を回転させることによりラインCに交差するラインをX方向に沿うように設定し、上記の動作を繰り返すことができる。
[偏心補正の実施形態]
【0113】
引き続いて、レーザ加工装置1の偏心補正に係る制御について説明する。
図11に示されるように、レーザ加工装置1では、Z方向からみたとき、レーザ加工ヘッド10AをX方向に沿って移動させるためのX軸移動部62Aと、レーザ加工ヘッド10BをX方向に沿って移動させるためのX軸移動部62Bとが、互いに平行でない(偏心が生じている)場合がある。ここでは、一例として、X軸移動部62AがX方向と平行であり、且つ、X軸移動部62BがX方向に対してY方向に傾斜している場合が挙げられている。
【0114】
このような場合には、例えば、支持部7を回転させることにより、Z方向からみてレーザ加工ヘッド10Aの移動線(第1移動線)をラインCに一致させると、レーザ加工ヘッド10Bの移動線(第2移動線)がラインCに対して傾斜することとなる。したがって、その状態において照射処理を実施し、レーザ加工ヘッド10A,10BのそれぞれをラインCに沿って移動させると、レーザ加工ヘッド10Aによる改質領域MAはラインCと一致するものの、レーザ加工ヘッド10Bによる改質領域MBにはラインCからのずれΔyが生じる。
【0115】
したがって、レーザ加工装置1では、照射処理に先立って、このようなずれΔyを補正するための制御(偏心補正)が実施される。なお、レーザ加工ヘッド10A,10Bの移動線とは、一例として、Z方向からみたときのX軸移動部62A,62Bの延在方向、すなわち、Z方向からみたときのレーザ加工ヘッド10A,10B(集光部14)の移動の軌跡によって規定され得る。引き続いて、この偏心補正に係る制御を具体的に説明する。
【0116】
偏心補正では、まず、
図12に示されるように、支持部7に対してサンプル100Tが支持されている状態とされる。サンプル100Tは、例えばベアウェハである。続いて、制御部9は、Y軸移動部61の制御により、レーザ光L1の集光点のY方向の位置が、サンプル100Tの中心に位置するように、レーザ加工ヘッド10AをY方向に移動させる。これと共に、制御部9は、レーザ光L1の集光点のZ方向の位置をサンプル100Tの表面に一致させる。このために、制御部9は、例えば、Z軸移動部63を制御することにより、レーザ加工ヘッド10AをZ方向に移動させることができる。
【0117】
続いて、制御部9は、サンプル100Tが支持部7に支持されている状態において、レーザ加工ヘッド10Aからレーザ光L1を出力させながら、X軸移動部62Aの制御によりレーザ加工ヘッド10AをX方向に沿って移動させる第1形成処理を実施する。この第1形成処理により、X方向に沿ってサンプル100Tにレーザ光L1が照射され、レーザ光L1の加工痕によって加工線(第1加工線)DAが形成される。加工線DAは、レーザ加工ヘッド10Aの移動線(第1移動線)に相当する。
【0118】
続いて、
図13に示されるように、制御部9は、Y軸移動部61の制御により、サンプル100T上の領域からレーザ加工ヘッド10Aを退避させると共に、レーザ光L2の集光点のY方向の位置が、サンプル100Tの中心に位置するように、レーザ加工ヘッド10AをY方向に移動させる。これと共に、制御部9は、レーザ光L2の集光点のZ方向の位置をサンプル100Tの表面に一致させる。このために、制御部9は、例えば、Z軸移動部64を制御することによって、レーザ加工ヘッド10BをZ方向に移動させることができる。
【0119】
続いて、制御部9は、サンプル100Tが支持部7に支持されている状態において、レーザ加工ヘッド10Bからレーザ光L2を出力させながら、X軸移動部62Bの制御によりレーザ加工ヘッド10BをX方向に沿って移動させる第2形成処理を実施する。この第2形成処理により、X方向に沿ってサンプル100Tにレーザ光L2が照射され、レーザ光L2の加工痕によって加工線(第2加工線)DBが形成される。加工線DBは、レーザ加工ヘッド10Bの移動線(第2移動線)に相当する。
【0120】
続いて、制御部9は、移動機構6及びカメラACの制御により、サンプル100Tを撮像すると共に、得られた画像に基づいて加工線DA,DBの形成状態を示す情報を取得する。そして、制御部9は、加工線DAと加工線DBとの比較に基づいて、加工線DBの加工線DA(基準線)からのY方向へのズレ量を取得する(ズレ量取得処理)。ここでは、
図14に示されるように、加工線DBの始点(X=0)における加工線DAからのズレ量をbとし、加工線DBの終点(X=300)における加工線DAからのズレ量をaとして、加工線DBの全体でのズレ量ΔYを、ΔY=((a-b)/300)x+bとして取得する(xはX方向の座標)。以上のように、偏心補正では、制御部9は、X軸移動部62Bによるレーザ加工ヘッド10BのX方向に沿った移動を示す移動線(加工線DB)の、X方向に沿った(一致する)基準線(加工線DA)からのY方向へのズレ量ΔYを取得する取得処理を実施することとなる。
【0121】
このズレ量ΔYの式は、X-Y平面における加工線DBの直線の式であるから、上述した照射処理において、レーザ加工ヘッド10BをX方向に移動させるときに、当該ズレ量ΔYの式に応じたY座標となるようにレーザ加工ヘッド10BをY方向にも移動させることによって、当該偏心が補正される。
【0122】
すなわち、
図15に示されるように、照射処理(第2処理)では、制御部9はY軸移動部61の制御によってズレ量ΔYの分だけ(ズレ量ΔYを相殺するように)Y方向にレーザ加工ヘッド10Bを移動させながら(図中の矢印AA)、X軸移動部62Bの制御によってレーザ加工ヘッド10BをX方向に移動させる(図中の矢印AB)。これにより、レーザ加工ヘッド10BのY方向への偏心が補正され、レーザ加工ヘッド10BについてラインCに一致する改質領域MBが形成される。なお、制御部9は、この照射処理に先立って、移動機構5の制御によって、ラインCがレーザ加工ヘッド10Aの移動線に一致するように、支持部7を回転させるアライメント処理を実施している。したがって、レーザ加工ヘッド10Aについても、ラインCに一致する改質領域MAが形成される。
[偏心補正の第1変形例]
【0123】
なお、偏心補正の上記の例では、1つの対象物100が支持部7に支持される例を挙げたが、
図16に示されるように、複数(ここでは2つ)の対象物100A,100Bが支持部7に支持されて同時に加工される場合でも適用され得る。引き続いて、この変形例について説明する。なお、前者の偏心補正を、レーザ加工ヘッド10A,10BをX方向に沿って移動させるためのX軸移動部62A,62Bのズレに起因することから、軸ズレ補正という場合がある。また、以下の対象物100A,100Bの互いの姿勢のズレに起因したズレの補正については、ウェハズレ補正という場合がある。
【0124】
この例では、X軸移動部62A,62BがX方向と平行であり、レーザ加工ヘッド10A,10Bに機差が生じていないものの、対象物100A,100Bの互いの姿勢のズレに伴って、対象物100A,100Bにそれぞれ設定されたラインCが互いに平行でない。したがって、例えば、支持部7を回転させることによって、対象物100AのラインCがレーザ加工ヘッド10Aの移動線に一致させられた場合、対象物100BのラインCに対してレーザ加工ヘッド10Bの移動線が傾斜することとなる。したがって、この状態で照射処理を実施すると、レーザ加工ヘッド10Aによる改質領域MAは対象物100AのラインCに一致するものの、レーザ加工ヘッド10Bによる改質領域MBには、対象物100BのラインCからのズレΔyが生じる。
【0125】
このズレΔyを補正するための偏心補正では、次のような処理が実施される。なお、ここでは、既に、上記のアライメント処理が実施され、レーザ加工ヘッド10Aの移動線に対して対象物100AのラインCが一致させられた状態とする。ここでは、まず、制御部9が、移動機構6及びカメラACを制御することによって、対象物100Bを撮像する。続いて、制御部9は、得られた画像に基づいて、対象物100BのラインCが設定される方向と、X軸移動部62Bによるレーザ加工ヘッド10Bの移動線(ここではX方向と一致しており同義である)とのずれ量を取得する。ここでは、一例として、画像中におけるデバイス領域のエッジの延びる方向や、デバイス領域のエッジ間のストリート領域が延びる方向をラインCが設定される領域とし、レーザ加工ヘッド10Bの移動線(X方向)と比較することにより、当該ずれ量を取得することができる。
【0126】
つまり、この例では、制御部9は、X軸移動部62Bによるレーザ加工ヘッド10BのX方向に沿った移動を示す移動線(第2移動線)の、X方向に沿った基準線(対象物100Bに設定されたラインC)からのY方向へのズレ量を取得する取得処理を実施することとなる。そして、制御部9は、照射処理(第2処理)において、Y軸移動部61の制御によって当該ズレ量の分だけ(ズレ量を相殺するように)Y方向にレーザ加工ヘッド10Bを移動させながら、X軸移動部62Bの制御によってレーザ加工ヘッド10BをX方向に移動させる。これにより、レーザ加工ヘッド10Bについても、対象物100BのラインCに一致する改質領域MBが形成される。
[偏心補正の第2変形例]
【0127】
さらに、上記の例では、レーザ加工ヘッド10A,10Bの一方の移動線をラインCに一致させたときの他方の移動線のズレ量を補正する例について説明した。しかしながら、偏心補正は、レーザ加工ヘッド10A,10Bの両方の移動線のズレ量を補正する場合にも適用され得る。この例では、レーザ加工装置1は、X軸移動部62A,62Bと異なる別のX軸移動部(構成はX軸移動部62A,62Bと同様)を備え、カメラACが当該別のX軸移動部に取付られる。そして、偏心補正では、制御部9は当該別のX軸移動部の延在方向を基準線として、X軸移動部62A,62Bによるレーザ加工ヘッド10A,10Bのそれぞれの移動線の、当該基準線からのY方向へのズレ量を取得する。
【0128】
そして、制御部9は、照射処理(第1処理及び第2処理)において、Y軸移動部61の制御によって当該ズレ量の分だけ(ズレ量を相殺するように)Y方向にレーザ加工ヘッド10A,10Bを移動させながら、X軸移動部62A,62Bの制御によってレーザ加工ヘッド10A,10BをX方向に移動させる。すなわち、ここでは、制御部9は、レーザ加工ヘッド10A,10Bの両方の偏心補正を行う。
[偏心補正のその他の変形例]
【0129】
上記の実施形態に係る偏心補正の例では、サンプル100Tの表面にレーザ光L1,L2の集光点を合わせてレーザ光L1,L2を照射することによって、サンプル100Tの表面に、ズレ量の取得のための加工線DA,DBを形成した。しかしながら、加工線DA,DBは、サンプル100Tの内部に形成されてもよい。この場合には、制御部9は、サンプル100Tの内部にレーザ光L1,L2の集光点を合わせてレーザ光L1,L2を照射することにより、サンプル100Tの内部に改質領域からなる加工線DA,DBを形成する。そして、制御部9は、カメラACを用いて、サンプル100Tを透過する光によりサンプル100Tの内部を撮像し、加工線DA,DBの形成状態を示す情報を取得する。
[レーザ加工装置の作用及び効果]
【0130】
以上説明したように、レーザ加工装置1は、対象物100に対してレーザ光L1,L2を照射するための2つのレーザ加工ヘッド10A,10Bを有している。そして、レーザ加工ヘッド10A,10Bは、移動機構6のX軸移動部62A,62Bによって、対象物100に設定されたラインCの延びるX方向に沿って移動可能とされている。よって、少なくとも一部の時間において、レーザ加工ヘッド10A,10Bを同時に稼働することによって、スループットを向上可能である。
【0131】
さらに、レーザ加工装置1では、制御部9が、X軸移動部62Bによるレーザ加工ヘッド10BのX方向に沿った移動線の、X方向に沿った基準線からのX方向へのズレ量ΔYを取得する取得処理を実施する。対象物100に設定されたラインCは、X方向に沿っている。したがって、ここで取得された移動線の基準線からのズレ量ΔYは、照射処理におけるラインCからのズレ量に相当する。そして、照射処理では、レーザ加工ヘッド10Bは、当該ズレ量ΔYの分だけY方向に移動されながらX方向に移動させられる。よって、対象物100に設定されたラインCが、レーザ加工ヘッド10Aの移動線に一致させられた場合であっても、レーザ加工ヘッド10Bの移動線が当該ラインCからずれることが抑制され、加工品質の低下が抑制され得る。
【0132】
また、レーザ加工装置1では、制御部9は、取得処理では、ズレ量ΔYの取得用のサンプル100Tが支持部7に支持されている状態において、レーザ加工ヘッド10Aからレーザ光L1を出力させながら、X軸移動部62Aの制御によりレーザ加工ヘッド10AをX方向に沿って移動させることにより、X方向に沿ってサンプル100Tにレーザ光L1を照射して、レーザ光L1の加工痕によって移動線としての加工線DAをサンプル100Tに形成する第1形成処理を実施する。
【0133】
また、制御部9は、サンプル100Tが支持部7に支持されている状態において、レーザ加工ヘッド10Bからレーザ光L2を出力させながら、Y軸移動部61の制御によりレーザ加工ヘッド10BをX方向に沿って移動させることにより、X方向に沿ってサンプル100Tにレーザ光L2を照射して、レーザ光L2の加工痕によって移動線としての加工線DBをサンプル100Tに形成する第2形成処理を実施する。そして、制御部9は、加工線DAと加工線DBとの比較に基づいて、加工線DAを基準線としたズレ量ΔYを取得するズレ量取得処理を実施する。このように、サンプル100Tを実際に加工することによって形成された加工線DA,DBを、ズレ量ΔYの算出のための移動線として利用すれば、より高精度にズレ量を求めることが可能となる。
【0134】
また、レーザ加工装置1では、制御部9は、照射処理の前に、移動機構5の制御によって、ラインCがレーザ加工ヘッド10Aの移動線に一致するように支持部7を回転させるアライメント処理を実施する。そして、制御部9は、照射処理では、レーザ加工ヘッド10A,10Bからレーザ光L1,L2が出力されている状態において、移動機構5の制御によってX方向に沿って支持部7を移動させると共に、X軸移動部62A,62Bの制御によって、レーザ加工ヘッド10A,10BをX方向に沿って支持部7と反対方向に移動させることにより、ラインCに沿って対象物100にレーザ光L1,L2を照射する。
【0135】
このように、対象物100を支持する支持部7とレーザ加工ヘッド10A,10Bとの双方を移動させれば、対象物100に対するレーザ光L1,L2の集光点の移動速度が向上され、加工速度が向上される。また、この場合には、集光点の目標の移動速度が、支持部7及びレーザ加工ヘッド10A,10Bのそれぞれで分担される。このため、支持部7及びレーザ加工ヘッド10A,10Bの一方を移動させる場合と比較して、それぞれの移動速度を抑えることが可能である。この結果、支持部7及びレーザ加工ヘッド10A,10Bの加減速に係る時間及び距離が削減され得る。
【0136】
ここで、レーザ加工ヘッド10A,10Bの重量は、支持部7の重量よりも軽量であることが一般的である。したがって、集光点を目標の移動速度で移動させるに際して、レーザ加工ヘッド10A,10Bを支持部7よりも速く移動させる(すなわち、レーザ加工ヘッド10A,10Bの速度の負担を相対的に大きくする)ことが考えられる。
【0137】
これに対して、レーザ加工装置1では、レーザ加工ヘッド10A,10Bには、光源81から出力されたレーザ光L1,L2を導入するための光ファイバ2が接続されている。そして、制御部9は、照射処理において、X方向に沿ったレーザ加工ヘッド10A,10Bの速さを、X方向に沿った支持部7の速さよりも小さくする。このように、レーザ加工ヘッド10A,10Bに対して光ファイバ2が接続されている場合には、レーザ加工ヘッド10A,10Bと支持部7との重量の関係に関わらず、レーザ加工ヘッド10A,10Bを相対的に遅くする(すなわち、レーザ加工ヘッド10A,10Bの速度の負担を相対的に小さくする)ことによって、光ファイバ2の保護を図ることが可能である。
【0138】
さらに、レーザ加工装置1では、移動機構6は、X方向に互いに対向して配置された一対のY軸移動部61を含み、X軸移動部62A,62Bは、一対のY軸移動部61に掛け渡されて支持されている。このため、レーザ加工ヘッド10A,10Bのそれぞれが確実に支持される。
[機差補正の実施形態]
【0139】
上記実施形態では、レーザ加工ヘッド10A,10Bの機差補正として、偏心補正の一例を説明した。しかし、レーザ加工装置1では、その他の機差補正を行うことも可能である。引き続いて、機差補正の一例について説明する。
【0140】
図17及び
図18は、同一の加工条件により2つのレーザ加工ヘッドを用いて加工を行った場合の加工結果を示す図である。
図17は、レーザ加工ヘッド10Aによる加工結果を示し、
図18は、レーザ加工ヘッド10Bによる加工結果を示している。
図17の(a)及び
図18の(a)は、対象物100のラインCに沿った切断面であり、改質領域Mが露出した切断面を示す写真である。
図17の(b)及び
図18の(b)は、対象物100のラインCに交差する断面を示す模式図である。
【0141】
ここでの加工条件は、一例として
図19の表に示される条件とされる。
図19の表のうち、1パス、2パス等の横軸に記載されたパス数は、レーザ光L1,L2のスキャン回数に相当する。つまり、ここでは、レーザ光L1,L2を、1つのラインCに対して4回スキャンしている。また、縦軸の焦点数に示されるように、1パスについてのみ、レーザ光L1,L2が2つに分岐されて2焦点とされている。したがって、ここでは、1つのラインCに対して5つの改質領域M1,M2,M3,M4,M5が形成される。
【0142】
図19の表の縦軸のZH(μm)は、対象物100内におけるレーザ光L1,L2の集光点のZ方向の位置に対応している。VD(μm)は、レーザ光L1,L2を複数に分岐して焦点数を2以上にしたときの、隣り合う改質領域間の間隔である。さらに、集光状態パラメータは、球面収差、非点収差等のレーザ集光状態を可変させるためのパラメータである。なお、ここでは400μmの厚さの対象物100を用いている。
【0143】
図17,18に示されるように、レーザ加工ヘッド10A,10Bに共通して
図19に示される加工条件としても、それぞれの加工結果に差異が生じる場合がある。より具体的には、
図18に示されるレーザ加工ヘッド10Bを用いた場合には、
図17に示されるレーザ加工ヘッド10Aを用いた場合と比較して、それぞれの改質領域M1~M5からの亀裂FAの伸展量が少ない。この結果、
図18の例では、改質領域M3と改質領域M4との間に、黒スジBAが発生している。黒スジBAとは、互いに隣り合う改質領域Mの間に、それぞれの改質領域Mから延びる亀裂FA同士が繋がっていない領域が生じた場合に、当該領域に対応する位置において切断面に発生する暗色のスジである。
【0144】
レーザ加工装置1では、このような2つのレーザ加工ヘッド10A,10Bの加工結果の差異、すなわち機差を補正するための機能を有している。すなわち、レーザ加工装置1では、制御部9が、レーザ加工ヘッド10Aからのレーザ光L1による対象物100の加工条件と、レーザ加工ヘッド10Bからのレーザ光L2による対象物100の加工条件と、の少なくとも一部を互いに独立して設定するため入力を受け付けるための情報(
図20の入力画面G等)を入力受付部93に表示させる表示処理を実施する。
【0145】
図20は、入力受付部が表示する入力画面の一例を示す図である。
図20に示されるように、入力画面Gは、基本的な加工条件(基本条件)の選択を受け付けるための基本条件受付部G1を含む。制御部9は、例えば、基本条件受付部G1で対象物100の厚さに応じた基本条件の選択(図示の例では「T400μm基本条件」)を受け付けると、当該選択に応じた加工条件(例えば
図19に示されるような加工条件)を設定する。
【0146】
また、入力画面Gは、機差補正を行う項目(補正項目)を選択するための補正項目受付部G2を含む。補正項目受付部G2が選択を受け付ける補正項目は、図示の例では、偏心補正G21、加工補正G22、AF補正G23、及び、レーザONOFF補正G24である。偏心補正G21は、上述した偏心補正である。
【0147】
制御部9は、偏心補正G21の選択を受け付けると、
図21の(a)に示されるように、偏心補正G21の具体的な補正量の入力を受け付けるための情報(補正量入力画面G21p)を入力受付部93に表示させる。ここでは、一例として、レーザ加工ヘッド10Bに関する補正量入力画面G21pを図示しているが、レーザ加工ヘッド10Aについても同様に表示され得る。補正量入力画面G21pでは、X軸移動部62Aによるレーザ加工ヘッド10AのX方向に沿った移動を示す移動線(例えば加工線DA)を基準線として、X軸移動部62Bによるレーザ加工ヘッド10BのX方向に沿った移動を示す移動線(例えば加工線DB)の当該基準線からのY方向へのズレ量に対する補正量の入力を受け付ける。「X座標1」は、レーザ加工ヘッド10Bの移動線の始端のX座標であり、「X座標2」は、レーザ加工ヘッド10Bの移動線の終端のX座標である。
【0148】
このように、制御部9は、表示処理において、レーザ加工ヘッド10Aの加工条件を基準としたときの、レーザ加工ヘッド10Bの加工条件の当該基準からの補正量の入力を受け付けるための情報(補正量入力画面G21p)を、入力受付部93に表示させる。より具体的には、制御部9は、上述したように、X軸移動部62Aによるレーザ加工ヘッド10AのX方向に沿った移動を示す移動線(例えば加工線DA)を基準線として、X軸移動部62Bによるレーザ加工ヘッド10BのX方向に沿った移動を示す移動線(例えば加工線DB)の当該基準線からのY方向へのズレ量に対する補正量の入力を受け付けるための情報(補正量入力画面G21p)を、入力受付部93に表示させる。
【0149】
制御部9は、入力画面Gの補正項目受付部G2において他の補正項目の選択を受け付けた場合についても、上記の補正量入力画面G21pに相当する情報を入力受付部93に表示させる。
図21の(b)は、補正項目受付部G2において加工補正G22の選択を受け付けた場合の補正量入力画面G22pを示す。なお、補正量入力画面G22pの「Zハイト補正」は、
図19の加工条件における「ZH(μm)」のレーザ加工ヘッド10Aを基準とした補正量を示す。また、補正量入力画面G22pの「集光補正」は、
図19の加工条件における「集光パラメータ」のレーザ加工ヘッド10Aを基準とした補正量を示す。
【0150】
図22の(a)は、補正項目受付部G2においてAF補正G23の選択を受け付けた場合の補正量入力画面G23pを示す。上述したように、レーザ加工装置1では、測定部16から出力された信号に基づいて、対象物100の表面と集光部14との距離が一定に維持されるように(すなわち、対象物100の表面とレーザ光L1,L2の集光点との距離が一定に維持されるように)、駆動部18を制御するオートフォーカス制御(AF制御)が実施される。補正量入力画面G23pでは、このAF制御における各種の条件の補正量を受け付ける。
【0151】
具体的には、補正量入力画面G23pの「AF追従開始位置」は、レーザ加工ヘッド10Aを基準としたときの、レーザ加工ヘッド10BのAF制御を開始するX方向の位置の補正量を示す。補正量入力画面G23pの「AF固定距離」は、レーザ加工ヘッド10Aを基準としたときの、対象物100の表面とレーザ光L2の集光点との距離を一定に維持しつつ加工を行う距離(対象物100のエッジからの距離)の補正量を示す。また、補正量入力画面G23pの「AF光量」は、レーザ加工ヘッド10Aを基準としたときの、レーザ加工ヘッド10Bの測定部16における測定光L10の光量の補正量を示す。さらに、補正量入力画面G23pの「AFゲイン」は、対象物100の表面変位に対して追従するように集光部14を動かすための制御信号の強さの補正量を示す。より具体的には、「AFゲイン」は、例えば駆動部18を動かす圧電素子を制御するためのフィードバック制御のゲイン(例えば、PID制御の比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲイン)強度を補正するための複数段階(例えば10段階)に分けたパラメータである。
【0152】
図22の(b)は、補正項目受付部G2においてレーザONOFF補正G24の選択を受け付けた場合の補正量入力画面G24pを示す。補正量入力画面G24pの「エッジOFF距離」は、エッジOFF区間の長さの補正量である。エッジOFF区間とは、対象物100のエッジから所定の位置までの区間であって、レーザをOFFとして改質領域を形成しない区間である。これは、レーザをONしてから実際にパルスが一定の出力で発振されるまでのバラつき等で発生するズレの補正のためのものである。また、補正量入力画面G24pの「ONOFF位置」は、対象物100内の一部の所定領域でレーザをOFFして改質領域を形成しない領域を形成する加工を実施する際の、改質領域が形成される位置のズレの補正量を示す。
【0153】
以上のように、例えば、入力画面Gの基本条件受付部G1で「T400μm基本条件」を受け付けると共に、補正項目受付部G2で加工補正G22の選択を受け付け、且つ、補正量入力画面G22pで
図21の(b)に示される補正量の入力を受け付けた場合、制御部9は、まず、レーザ加工ヘッド10Aについては、
図19に示される加工条件と同様に基準となる加工条件(
図23の(a))を設定しつつ、レーザ加工ヘッド10Bについては、
図19に示される加工条件に対して
図21の(b)に示される各補正量を加味した条件(
図23の(b))を設定する。これにより、機差補正が行われる。
【0154】
この状態において、制御部9は照射処理を実施する。
図24は、機差補正を経て実際に加工を行った場合の加工結果を示す切断面の写真である。
図24の(a)は、レーザ加工ヘッド10Aによる加工結果を示し、
図24の(b)は、レーザ加工ヘッド10Bによる加工結果を示す。
図24に示されるように、
図18の例で発生していた黒スジBFの発生が抑えられ、レーザ加工ヘッド10A,10Bについて均一な加工状態が得られている。
【0155】
以上のように、レーザ加工装置1では、制御部9が、レーザ加工ヘッド10Aからのレーザ光L1による対象物100の加工条件と、レーザ加工ヘッド10Bからのレーザ光L2による対象物100の加工条件と、の少なくとも一部を互いに独立して設定するため入力を受け付けるための情報(入力画面G等)を入力受付部93に表示させる。したがって、レーザ加工ヘッド10A,10Bのそれぞれによる対象物100のレーザ加工の加工品質に差(レーザ加工ヘッド10A,10Bの機差)が生じないように、レーザ加工ヘッド10A,10Bのそれぞれの加工条件を設定することによって、加工品質の低下が抑制され得る。
【0156】
また、レーザ加工装置1では、制御部9は、表示処理において、レーザ加工ヘッド10Aの加工条件を基準としたときの、レーザ加工ヘッド10Bの加工条件の基準からの補正量の入力を受け付けるための情報(補正量入力画面G21p等)を入力受付部93に表示させる。このため、レーザ加工ヘッド10A,10Bの機差を抑制するための入力が容易である。
【0157】
以上の実施形態は、本発明に係るレーザ加工装置の一実施形態について説明したものである。したがって、上記のレーザ加工装置1は、任意に変形され得る。例えば、以上の例では、X軸移動部62A,62Bが、一対のY軸移動部61に掛け渡されて支持されている場合を示した。しかし、移動機構6は、単一のY軸移動部61を含み、X軸移動部62A,62Bは、当該単一のY軸移動部61に片持ち梁の状態で支持されていてもよい。
【符号の説明】
【0158】
1…レーザ加工装置、5…移動機構(第2移動機構)、6…移動機構(第1移動機構)、7…支持部、9…制御部、10A…レーザ加工ヘッド(第1レーザ加工ヘッド)、10B…レーザ加工ヘッド(第2レーザ加工ヘッド)、61…Y軸移動部(第3移動部)、62A…X軸移動部(第1移動部)、62B…X軸移動部(第2移動部)、93…入力受付部、100…対象物、100T…サンプル、AC…カメラ。