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特許7430622鉄道車両の車輪フランジの摩耗診断システムおよび摩耗診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】鉄道車両の車輪フランジの摩耗診断システムおよび摩耗診断方法
(51)【国際特許分類】
   B61K 9/12 20060101AFI20240205BHJP
   G01B 21/00 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
B61K9/12
G01B21/00 W
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020184679
(22)【出願日】2020-11-04
(65)【公開番号】P2022074554
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】521475989
【氏名又は名称】川崎車両株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 紀代乃
(72)【発明者】
【氏名】吉松 雄太
(72)【発明者】
【氏名】三津江 雅幸
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-209174(JP,A)
【文献】国際公開第2016/076307(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61K 9/12
G01B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車輪のフランジの摩耗度を診断するシステムであって、
前記フランジとレールとの衝突の発生点を特定可能な衝突関連値と、前記フランジの摩耗度との対応関係を示す対応関係情報を記憶する記憶器と、
前記車両が軌道の曲線区間を走行したときの前記レールに対する前記フランジの衝突の発生を判定するフランジ衝突判定器と、
前記フランジ衝突判定器の判定結果に基づいて、前記曲線区間における前記衝突の発生点を特定可能な衝突関連値を算出する衝突関連値算出器と、
前記対応関係情報を参照して、算出された前記衝突関連値から前記フランジの摩耗度を診断する診断器と、を備える、鉄道車両の車輪フランジの摩耗診断システム。
【請求項2】
前記車両が前記曲線区間に進入したことを示す基準点を判定する基準判定器を更に備え、
前記衝突関連値算出器は、前記基準判定器の判定結果と前記フランジ衝突判定器の判定結果とに基づいて、前記衝突関連値を算出する、請求項1に記載の鉄道車両の車輪フランジの摩耗診断システム。
【請求項3】
前記基準判定器は、前記基準点として、前記車両が前記曲線区間に進入した時点を示す基準時点を判定し、
前記衝突関連値算出器は、前記衝突関連値として、前記基準時点から、前記フランジ衝突判定器により前記衝突の発生が判定された衝突発生時点までの間に前記車両が走行した走行距離を算出する、請求項2に記載の鉄道車両の車輪フランジの摩耗診断システム。
【請求項4】
前記鉄道車両は、前記鉄道車両の台車の挙動を検出可能なセンサを備え、
前記フランジ衝突判定器は、前記センサの検出値に基づき、前記衝突の発生を判定し、
前記基準判定器は、前記センサの検出値に基づき、前記基準点を判定する、請求項2または3に記載の鉄道車両の車輪フランジの摩耗診断システム。
【請求項5】
前記鉄道車両は、前記鉄道車両の台車の挙動を検出可能なセンサを備え、
前記フランジ衝突判定器は、前記センサの検出値に基づき、前記衝突の発生を判定する、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉄道車両の車輪フランジの摩耗診断システム。
【請求項6】
前記センサの検出値は、前記台車の車幅方向の加速度、前記台車の鉛直軸回りの角加速度、前記台車の鉛直軸回りの角速度、および、前記台車の鉛直軸回りの回転角のうちの少なくとも1つである、請求項4または5に記載の鉄道車両の車輪フランジの摩耗診断システム。
【請求項7】
鉄道車両の車輪のフランジの摩耗度を診断する方法であって、
前記フランジとレールとの衝突の発生点を特定可能な衝突関連値と、前記フランジの摩耗度との対応関係を取得する対応関係取得ステップと、
前記車両が軌道の曲線区間を走行したときの前記レールに対する前記フランジの衝突の発生を判定するフランジ衝突判定ステップと、
前記フランジ衝突判定ステップの判定結果に基づいて、前記曲線区間における前記衝突の発生点を特定可能な衝突関連値を算出する衝突関連値算出ステップと、
前記対応関係を参照して、算出された前記衝突関連値から前記フランジの摩耗度を診断する診断ステップと、を有する、鉄道車両の車輪フランジの摩耗診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車輪のフランジの摩耗度の診断システムおよび診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が軌道における曲率半径が小さい曲線区間を走行する際は、鉄道車両の車輪のフランジがレールと接触する。このレールとの接触によりフランジは摩耗するため、従来からフランジの形状や寸法が適正な範囲となるよう点検されている。特許文献1には、フランジ厚みなどを自動的に測定する専用の寸法測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-209174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の寸法測定装置では、輪軸をセットするまでに時間と労力を要するため、フランジの摩耗の程度をより容易に診断できる方法が求められる。
【0005】
そこで、本発明は、鉄道車両の車輪のフランジの摩耗度を容易に診断することができる鉄道車両の車輪フランジの摩耗診断システムおよび摩耗診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る鉄道車両の車輪フランジの摩耗診断システムは、鉄道車両の車輪のフランジの摩耗度を診断するシステムであって、前記フランジとレールとの衝突の発生点を特定可能な衝突関連値と、前記フランジの摩耗度との対応関係を示す対応関係情報を記憶する記憶器と、前記車両が軌道の曲線区間を走行したときの前記レールに対する前記フランジの衝突の発生を判定するフランジ衝突判定器と、前記フランジ衝突判定器の判定結果に基づいて、前記曲線区間における前記衝突の発生点を特定可能な衝突関連値を算出する衝突関連値算出器と、前記対応関係情報を参照して、算出された前記衝突関連値から前記フランジの摩耗度を診断する診断器と、を備える。
【0007】
上記の構成によれば、レールに対するフランジの衝突の発生についての判定結果に基づき衝突関連値を算出し、その衝突関連値からフランジの摩耗度を診断する。このため、鉄道車両の営業走行中に得られるデータを用いて、容易にフランジ摩耗度を診断できる。
【0008】
また、本発明の一態様に係る鉄道車両の車輪フランジの摩耗診断方法は、鉄道車両の車輪のフランジの摩耗度を診断する方法であって、前記フランジと前記レールとの衝突の発生点を特定可能な衝突関連値と、前記フランジの摩耗度との対応関係を取得する対応関係取得ステップと、前記車両が軌道の曲線区間を走行したときの前記レールに対する前記フランジの衝突の発生を判定するフランジ衝突判定ステップと、前記フランジ衝突判定ステップの判定結果に基づいて、前記曲線区間における前記衝突の発生点を特定可能な衝突関連値を算出する衝突関連値算出ステップと、前記対応関係を参照して、算出された前記衝突関連値から前記フランジの摩耗度を診断する診断ステップと、を有する。
【0009】
上記の方法によれば、レールに対するフランジの衝突の発生についての判定結果に基づき衝突関連値を算出し、その衝突関連値からフランジの摩耗度を診断する。このため、鉄道車両の営業走行中に得られるデータを用いて、容易にフランジ摩耗度を診断できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鉄道車両の車輪のフランジの摩耗度を容易に診断することができる鉄道車両の車輪フランジの摩耗診断システムおよび摩耗診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る摩耗診断方法に用いられる摩耗診断システムの概略構成を説明する図である。
図2】車輪とレールとの接触箇所近傍を拡大した拡大正面断面図である。
図3図1に示す摩耗診断システムのブロック図である。
図4】実施形態に係る摩耗診断方法の流れを示すフローチャートである。
図5】フランジの摩耗度と軌道の曲線区間における衝突発生位置との関係の一例を説明する図である。
図6】(A)は、車両走行中における車両位置の軌道の曲率の時間的推移の一例を示すグラフであり、(B)は、台車の旋回中心軸回りの角度変化量の時間的推移の一例を示すグラフであり、(C)は、台車の旋回中心軸回りの角速度変化量の時間的推移の一例を示すグラフである。
図7】変形例に係る摩耗診断システムの概略構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る鉄道車両の車輪フランジの摩耗診断システムおよび摩耗診断方法を説明する。
【0013】
図1は、実施形態に係る摩耗診断方法に用いられる摩耗診断システム100の概略構成を説明する図である。摩耗診断システム100は、鉄道車両1の台車3における車輪10のフランジ12の摩耗度を診断するためのシステムである。摩耗診断システム100の構成を説明する前に、まず図1および2を参照して、鉄道車両1の構成について説明する。以下の説明において、鉄道車両1は、単に車両1と称することもある。
【0014】
図1には、車両1の床下平面図が示されている。車両1は、客室を有する車体2と、車体2を支持する2つの台車3とを有する。2つの台車3は、車体2の長手方向の両端部寄りに配置されている。車体2と各台車3との間には、それぞれ二次サスペンション(図示せず)が介在している。二次サスペンションは、例えば空気ばねである。
【0015】
台車3は、台車枠4を備える。台車枠4は、横梁4aと一対の側梁4bとを有する。横梁4aは、車幅方向に延びる。一対の側梁4bは、横梁4aの車幅方向の両端部にそれぞれ接続されて車両長手方向に延びる。横梁4aの中央には、台車3の台車枠4と車体2とを接続する牽引装置(図示せず)が設けられている。牽引装置は、台車3の牽引力を車体2に伝達する。例えば車両1が軌道の曲線区間を通過する際、台車3は、牽引装置の中心ピンを中心に車体2に対して旋回する。図1には、台車3の旋回中心軸Oが示されている。
【0016】
台車枠4の車両長手方向両側に、それぞれ輪軸5が配置されている。輪軸5は、車幅方向に沿って延びる車軸6と、車軸6に設けられた一対の車輪10とを有する。車軸6の両端部は、それぞれ軸受(図示せず)により回転自在に支持されており、軸受は、軸箱7に収容されている。軸箱7と側梁4bとの間には、一次サスペンション(図示せず)が介在している。一次サスペンションは、例えばコイルばねである。
【0017】
輪軸5の左右一対の車輪10は、それぞれ、軌道の一対のレールと接触する。図2は、車輪10とレールRとの接触箇所近傍を拡大した拡大正面断面図である。車輪10は、レールRに上方から接触する踏面11と、レールRに車幅方向内側から対向するフランジ12とを有する。踏面11の車幅方向内側にフランジ12の外面が連続している。
【0018】
踏面11には、フランジ12から車幅方向外側に離れるにつれて縮径するような勾配が設けられている。踏面11の勾配によって、車両1が軌道のカーブを走行する際に輪軸5に自己操舵機能が働く。すなわち、車両1が軌道のカーブを走行する際に、輪軸5は遠心力により軌道外周側に向かう。その結果、輪軸5の左右一対の車輪10のうち、軌道外周側の車輪10は、その径がより大きな部分でレールRと接触し、軌道内周側の車輪10は、その径がより小さな部分でレールRと接触する。こうして、軌道のカーブでの左右の車輪10の行路差が解消されて、輪軸5はカーブを滑らかに曲がることが可能となっている。
【0019】
しかし、軌道における曲率半径が小さい急なカーブでは、レールRとの接触箇所の左右の車輪10の径差では左右の車輪10の行路差を吸収できず、軌道外周側の車輪10のフランジ12は、レールRと衝突する。以下、レールRに対するフランジ12の衝突を、便宜上「フランジ衝突」と称することとする。レールRに対するフランジ12の接触により、フランジ12は摩耗する。つまり、図2に二点鎖線で示すように、フランジ12の摩耗が進むにつれフランジ12の厚みが小さくなり、車幅方向におけるフランジ12とレールRとの間の隙間が大きくなる。本実施形態の摩耗診断システム100は、フランジ12の摩耗度を診断する。以下、摩耗診断システム100について説明する。
【0020】
(摩耗診断システムの構成)
図3は、図1に示す摩耗診断システム100のブロック図である。摩耗診断システム100は、角速度センサ21と、速度発電機22と、データ処理装置30とを備える。
【0021】
角速度センサ21は、台車3の鉛直軸回り(すなわち旋回中心軸O)の角速度データを検出するものである。角速度センサ21の検出値は、角速度情報と、角速度を計測したときの時間情報とを含む。また、本実施形態では、角速度センサ21は、横梁4aにおける車幅方向中央に配置されている(図1参照)。すなわち、角速度センサ21は、台車3の旋回中心軸Oの近傍に配置されている。
【0022】
速度発電機22は、車両1の車輪10の回転数に応じて車両1の走行速度に比例した周波数の電圧である速度データを検出するものである。速度発電機22の検出値は、速度情報と、加速度を計測したときの時間情報とを含む。例えば、速度発電機22は、車両1が有する8つの軸箱7のうちの1つに取り付けられている。
【0023】
データ処理装置30は、ハードウェア面において、プロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ及びI/Oインターフェース等を有する。データ処理装置30は、機能面において、記憶部31、基準判定部32、フランジ衝突判定部33、速度取得部34、衝突関連値算出部35、診断部36及び出力部37を有する。記憶部31は、不揮発性メモリなどにより実現される。基準判定部32、フランジ衝突判定部33、速度取得部34、衝突関連値算出部35、および診断部36は、不揮発性メモリに保存されたプログラムに基づいてプロセッサが揮発性メモリを用いて演算処理することで実現される。出力部37は、I/Oインターフェースなどにより実現される。
【0024】
記憶部31は、フランジ衝突の発生点を特定可能な衝突関連値と、フランジ12の摩耗度との対応関係を示す対応関係情報を記憶している。本実施形態では、対応関係情報における衝突関連値は、軌道の所定の曲線区間に進入した時点からフランジ衝突の発生時点までの間に鉄道車両1が走行した走行距離である。走行距離とフランジ12の摩耗度との対応関係や、走行距離の計測に関して、詳細は後述する。
【0025】
基準判定部32は、角速度センサ21の検出値に基づき、車両1が所定の曲線区間に進入したことを示す基準点を判定する。本実施形態では、基準判定部32は、基準点として、車両1が所定の曲線区間に進入した時点を示す基準時点を判定する。
【0026】
フランジ衝突判定部33は、角速度センサ21の検出値に基づき、車両1が軌道の曲線区間Sを走行したときのフランジ衝突の発生を判定する。本実施形態では、フランジ衝突判定部33は、車両1が曲線区間Sを走行したときのフランジ衝突の発生時点を判定する。
【0027】
速度取得部34は、速度発電機22から走行速度を取得する。
【0028】
衝突関連値算出部35は、基準判定部32の判定結果とフランジ衝突判定部33の判定結果と速度取得部34の取得結果とに基づいて、曲線区間Sにおけるフランジ衝突の発生点を特定可能な衝突関連値を算出する。具体的には、衝突関連値算出部35は、衝突関連値として、基準判定部32により判定された基準時点から、フランジ衝突判定部33により判定された衝突発生時点までの間に車両1が走行した走行距離を算出する。
【0029】
診断部36は、対応関係情報を参照して、衝突関連値算出部35により算出された衝突関連値からフランジ12の摩耗度を診断する。
【0030】
出力部37は、診断部36による診断結果を、表示装置や記憶装置等の外部の装置に出力する。なお、出力部37は、I/Oインターフェースでなくてもよく、例えば、液晶ディスプレイなどの表示装置やプリンタなどの印刷装置、スピーカなどの音響出力装置など、何らかの出力装置であってもよい。
【0031】
(摩耗診断方法の流れ)
次に、摩耗診断システム100を用いたフランジ12の摩耗度の診断方法について、図4~6を参照して説明する。
【0032】
図4は、本実施形態に係る摩耗診断方法の流れを示すフローチャートである。本実施形態の摩耗診断方法では、まず、摩耗診断システム100を用いて、車両1が軌道における所定の曲線区間を走行するときのフランジ衝突の発生点を特定可能な衝突関連値と、フランジ12の摩耗度との対応関係を示す対応関係情報を取得する(ステップS1:対応関係取得ステップ)。
【0033】
ここで、フランジ衝突の発生点を特定可能な衝突関連値について、図5および6を参照して詳しく説明する。図5は、フランジ12の摩耗度と軌道Tの所定の曲線区間Sにおけるフランジ12とレールRとの衝突の発生点との関係の一例を説明する図である。図5には、所定の曲線区間Sを含む軌道Tの概略平面図が示されている。車両1が軌道Tを営業運転(つまり営業走行速度)で走行する際、この曲線区間Sにおけるいずれかの位置でフランジ衝突が発生する。本実施形態において、曲線区間Sは、軌道Tの曲率が所定値C以下となる軌道Tの区間である。なお、図5では、矢印で示す車両進行方向に車両1が軌道Tを走行するものとして説明する。
【0034】
また、図5には、軌道T上のいくつかの車両位置に関して、レールRに対する車両走行中の輪軸5の相対位置が示されている。具体的には、車両1が直線区間を走行中の任意の時間t0における輪軸5の位置と、時間t0より後に車両1が曲線区間Sに進入した時間t1における輪軸5の位置、時間t1より後にフランジ衝突が発生した時間t2における輪軸5の位置が示されている。
【0035】
時間t0において、つまり車両1が直線区間を走行中、輪軸5に遠心力は働かない。このため、左右の車輪10のフランジ12とレールRとの間の車幅方向の隙間は同じである。時間t1において、つまり車両1が曲線区間Sに進入した時間t1において、輪軸5には遠心力が作用しており、輪軸5が軌道外周側に移動する。このため、軌道外周側の車輪10のフランジ12は、レールRとの間の車幅方向の隙間は、車両1が直線区間を走行するときのフランジ12とレールRの隙間よりも大きくなる。
【0036】
そして、時間t1の後、軌道Tの曲率が大きくなるにつれ、輪軸5に作用する遠心力も大きくなり、輪軸5は更に軌道外周側に移動する。その結果、時間t2に、軌道外周側の車輪10のフランジ12は、レールRに車幅方向に衝突する。
【0037】
このようなフランジ衝突の発生点は、フランジ12の摩耗量に応じて変わってくる。より詳しくは、フランジ12の摩耗が進むにつれ、上述したように車幅方向におけるレールRとフランジ12との間の隙間の大きさが変わるため、車両1が同じ曲線区間を同じ走行速度で走行したときのフランジ衝突の発生点は、フランジ12の摩耗量に応じたものとなる。
【0038】
例えば、図5には、フランジ12の摩耗量がX0である車両1を営業走行速度で走行させたときのフランジ衝突の発生位置P0および発生時間t2と、フランジ12の摩耗量がX0より大きいX1である車両1を営業走行速度で走行させたときのフランジ衝突の発生位置P1および発生時間t2’とが示されている。フランジ12の摩耗量X1である車両1のフランジ衝突の発生位置P1は、フランジ12の摩耗量がX0(<X1)である車両1のフランジ衝突の発生位置P0に比べて、車両進行方向前方に位置する。また、摩耗量がX1である車両1における曲線区間Sに進入した時点t1からフランジ衝突の発生時間t2’までの時間間隔t2’-t1は、摩耗量がX0である車両1における曲線区間Sに進入した時点t1からフランジ衝突の発生時間t2までの時間間隔t2-t1に比べて長い(図6(B)および図6(C)参照)。
【0039】
このようにフランジ衝突の発生点とフランジ12の摩耗度には相関があるため、事前の計測によって、フランジ衝突の発生点を特定可能な衝突関連値と、フランジ12の摩耗量との対応関係を予め導出しておき、導出された対応関係を対応関係情報として記憶部31に記憶させている。
【0040】
本実施形態において、衝突関連値は、車両1が曲線区間Sに進入したと判定された時点から、フランジ衝突が発生したと判定された時点までの間に車両1が走行した走行距離である。走行距離の計測は、基準判定部32、フランジ衝突判定部33、速度取得部34、および衝突関連値算出部35により行う。
【0041】
具体的には、車両1に軌道Tを走行させる間、角速度センサ21で角速度を検出し、また、速度発電機22にて車両1の走行速度を検出する。角速度センサ21および速度発電機22の各検出値は、データ処理装置30に入力される。
【0042】
データ処理装置30において、基準判定部32は、角速度センサ21の検出値に基づき、車両1が曲線区間Sに進入した時点を示す基準時点を判定する。基準判定部32による基準時点の判定方法について、図6(A)を参照して説明する。
【0043】
図6(A)は、車両1がある速度(例えば営業走行速度)で走行している間の車両1の走行位置の軌道Tの曲率の時間的推移の一例を示すグラフである。横軸は、車両1走行中の経過時間を示し、縦軸は、基準判定部32により算出された車両1の走行位置における軌道Tの曲率である。基準判定部32は、角速度センサ21の検出値から、車両1の走行位置における軌道Tの曲率を算出する。基準判定部32は、算出した曲率が所定値C以下になるか否かを判定する。算出した曲率が所定値C以下になったと判定した場合、所定値C以下になったと判定された時点(図6(A)のt=t1)を、車両1が曲線区間Sに進入した時点と判定する。
【0044】
また、フランジ衝突判定部33は、角速度センサ21の検出値に基づき、車両1が曲線区間Sを走行したときのフランジ衝突の発生を判定する。フランジ衝突判定部33によるフランジ衝突の発生点の判定方法について、図6(B)を参照して説明する。
【0045】
図6(B)は、車両1がある速度(例えば営業走行速度)で走行している間の台車3の旋回中心軸O回りの角度変化量の時間的推移の一例を示すグラフである。横軸は、車両1走行中の経過時間を示し、縦軸は、フランジ衝突判定部33により算出した台車3の旋回中心軸O回りの単位時間当たりの角度変化量(すなわち台車3の角速度)である。
【0046】
フランジ衝突判定部33は、角速度センサ21の検出値に基づき、図6(B)に示すような台車3の旋回中心軸O回りの角度変化量を算出する。そして、フランジ衝突判定部33は、算出した角度変化量からフランジ衝突の発生時点(図6(B)のt=t2)を判定する。フランジ衝突発生時点の判定方法は、特に限定されない。例えば、フランジ衝突判定部33は、車両1が曲線区間Sに進入したと判定された時点以降に、算出した角度変化量が予め定めた閾値を初めて超えたまたは下回った時点をフランジ衝突の発生時点と判定してもよい。または、フランジ衝突判定部33は、算出した角度変化量の絶対値のピーク値を抽出し、抽出したピーク値のうち、車両1が曲線区間Sに進入したと判定された時点以降に予め定めた閾値を初めて超えた時点をフランジ衝突の発生時点と判定してもよい。
【0047】
フランジ衝突判定部33によるフランジ衝突の発生点の別の判定方法について、図6(C)を参照して説明する。図6(C)は、車両1がある速度(例えば営業走行速度)で走行している間の台車3の旋回中心軸O回りの角速度変化量の時間的推移の一例を示すグラフである。横軸は、車両1走行中の経過時間を示し、縦軸は、台車3の旋回中心軸O回りの単位時間当たりの角速度変化量(すなわち台車3の角加速度)から所定の低周波成分を除いたものである。
【0048】
車両1が曲線区間Sに進入後、車両位置における軌道Tの曲率が徐々に大きくなるにつれ、角速度センサ21の検出値である角速度の絶対値も緩やかに大きくなる。このため、フランジ衝突判定部33は、この角速度センサ21の検出値の緩やかな変化を除く低周波除去処理を実行する。このように低周波除去処理実行を実行することによって、図6(C)に示すように、角速度変化量からフランジ衝突の発生点を特定しやすくなる。
【0049】
フランジ衝突判定部33は、図6(C)に示すような低周波除去処理実行後の角速度変化量からフランジ衝突の発生時点(図6(C)のt=t2)を判定する。フランジ衝突発生時点の判定方法は、特に限定されない。例えば、フランジ衝突判定部33は、車両1が曲線区間Sに進入したと判定された時点以降に、低周波除去処理実行後の角速度変化量が予め定めた閾値を初めて超えたまたは下回った時点をフランジ衝突の発生時点と判定してもよい。または、フランジ衝突判定部33は、低周波除去処理実行後の角速度変化量の絶対値のピーク値を抽出し、抽出したピーク値のうち、車両1が曲線区間Sに進入したと判定された時点以降に予め定めた閾値を初めて超えた時点をフランジ衝突の発生時点と判定してもよい。
【0050】
速度取得部34は、速度発電機22の検出値に基づき、車両1が曲線区間Sを走行する際の車両1の走行速度を算出する。
【0051】
衝突関連値算出部35は、基準判定部32の判定結果とフランジ衝突判定部33の判定結果と速度取得部34の取得結果とに基づいて、基準時点からフランジ衝突の発生時点までの間に車両1が走行した走行距離を算出する。
【0052】
また、フランジ12の摩耗量は、例えば、周知の計測器によって別途計測される。衝突関連値算出部35の算出結果として得られた走行距離と、周知の計測器によって計測されたフランジ12の摩耗量とを対応付ける。こうして、フランジ12の摩耗量を変えて複数回走行距離の計測を行うことによって、走行距離とフランジ12の摩耗量とを対応付ける対応関係情報を作成でき、作成した対応関係情報は記憶部31に記憶させる。対応関係情報は、基準時点からフランジ衝突の発生時点までの間の走行距離に対して、フランジ12の摩耗量が一意に定まる形式のものであればよい。例えば、対応関係情報は、基準時点からフランジ衝突の発生時点までの間の走行距離とフランジ12の摩耗量とを一対一で対応させる式(関数)である。
【0053】
こうして取得した対応関係情報を参照することで、基準時点からフランジ衝突の発生時点までの間に車両1が走行した走行距離から、フランジ12の摩耗診断が可能となる。基準時点からフランジ衝突の発生時点までの間に車両1が走行した走行距離は、対応関係情報を作成したときと同様の方法により算出する。
【0054】
すなわち、図4のステップS1の後、車両1の営業運転走行中に、角速度センサ21および速度発電機22により角速度および加速度を検出し、検出されたデータをデータ処理装置30へ入力する(ステップS2:データ取得ステップ)。角速度センサ21および速度発電機22により検出された各種検出値は、無線通信などの電気通信によりデータ処理装置30へ送信されてもよいし、作業者などによってUSBメモリなどの記憶媒体にコピーされてデータ処理装置30へ移されてもよい。
【0055】
次に、基準判定部32が、角速度センサ21の検出値に基づき、車両1が曲線区間Sに進入した時点を示す基準点を判定する(ステップS3:基準点判定ステップ)。また、フランジ衝突判定部33は、角速度センサ21の検出値に基づき、車両1が曲線区間Sを走行したときのフランジ衝突の発生を判定する(ステップS4:フランジ衝突判定ステップ)。
【0056】
衝突関連値算出部35は、ステップS3における基準判定部32の判定結果と、ステップS4におけるフランジ衝突判定部33の判定結果と、速度取得部34の取得結果とに基づいて、基準時点からフランジ衝突の発生時点までの間に車両1が走行した走行距離を算出する(ステップS5:衝突関連値算出ステップ)。
【0057】
診断部36は、対応関係情報を参照して衝突関連値算出部35で算出された衝突関連値からフランジ12の摩耗度を診断する。本実施形態では、対応関係情報が、走行距離とフランジ12の摩耗量との関係を定めるものであるため、診断部36は、衝突関連値算出部35で算出された衝突関連値からフランジ12の摩耗度として、フランジ12の摩耗量を診断する(ステップS6:診断ステップ)。作業者は、出力部37が出力する診断結果を確認して、車両1のフランジ12の摩耗度を把握できる。例えば、作業者は、診断結果から、どの車両の車輪を優先的に転削するかなどを計画することができる。
【0058】
以上に説明したように、本実施形態によれば、レールRに対するフランジ12の衝突の発生についての判定結果に基づき衝突関連値を算出し、その衝突関連値からフランジ12の摩耗度を診断する。このため、鉄道車両1の営業走行中に得られるデータを用いて、容易にフランジ12摩耗度を診断できる。
【0059】
また、本実施形態では、車両1が曲線区間Sに進入したことを示す基準点を基準判定部32により判定し、この基準点を衝突関連値の算出に用いる。すなわち、フランジ衝突が生じる直前の基準点を用いて、フランジ衝突の発生点を特定することができる。これにより、例えば車体2に設けたGPS(Global Positioning System)センサなどを用いてグローバルな座標系においてフランジ衝突が発生した絶対位置を特定する場合に比べて、衝突の発生点を精度よく特定できる。
【0060】
また、本実施形態では、衝突関連値算出部35が、衝突関連値として、基準判定部32により判定された基準時点から、フランジ衝突判定部33により衝突の発生が判定された衝突発生時点までの間に車両1が走行した走行距離を算出する。このため、軌道TにおけるレールRとフランジ12との衝突点を把握しやすい。
【0061】
また、本実施形態では、基準判定部32は、角速度センサ21の検出値に基づき、基準点を判定し、フランジ衝突判定部33は、角速度センサ21の検出値に基づき、衝突の発生を判定する。すなわち、1つの角速度センサ21で、鉄道車両1が曲線区間Sに進入したことを表す基準点と、レールRに対してフランジ12が衝突する衝突発生点の双方を判定できる。
【0062】
(その他の実施形態)
なお、本発明は前述した実施形態および変形例に限定されるものではなく、その構成を変更、追加、又は削除することができる。
【0063】
例えば、上記実施形態では、走行距離を取得するために、速度発電機22から車両1の走行速度を算出したが、鉄道車両1の走行速度は、車体2に設けた車両前後方向の加速度を検出する加速度センサを車体2に設けて、当該加速度センサの検出値から走行速度を算出してもよい。また、データ処理装置30にて走行速度を取得しなくてもよく、衝突関連値算出部35は、データ処理装置30の外部から車両1の走行距離情報とそれに紐づけられた時間情報とを含むデータを取得してよい。この場合、基準時点からフランジ衝突の発生時点までの間の走行距離は、基準判定部32の判定結果とフランジ衝突判定部33の判定結果と取得した走行距離情報とを用いて算出されてもよい。
【0064】
例えば、上記実施形態では、衝突関連値は、基準時点から衝突発生時点までの間の車両1の走行距離であったが、衝突関連値は、これに限られない。衝突関連値は、フランジ衝突の発生点を特定可能な値であればよい。
【0065】
例えば、衝突関連値は、車両1が曲線区間Sを所定速度で走行した場合における基準時点からフランジ衝突の発生が判定された衝突発生時点までの時間であってもよい。
【0066】
例えば、衝突関連値は、車両1が曲線区間Sを所定速度で走行した場合におけるフランジ衝突の発生位置であってもよい。例えば、衝突関連値算出部35は、周知の車両位置特定装置(例えば車体2に設けたGPSセンサや、軌道Tの曲線区間に設けたセンサ等)を用いて、フランジ衝突判定部33により判定されたフランジ衝突の発生時刻における車両位置を特定してもよい。この場合、基準点の判定や走行距離の算出がなされなくてもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、フランジ衝突の発生を判定するための物理量として、台車3の鉛直軸回りの角速度、および、台車3の鉛直軸回りの回転角が例示されたが、フランジ衝突の発生を別の種類の物理量に基づき判定してもよい。すなわち、摩耗診断システム100は、フランジ衝突の発生を検知可能なセンサとして、角速度センサ21とは異なる、台車3の挙動を検出可能なセンサを備えていてもよい。例えば、台車3の車幅方向の加速度を検出する加速度センサを台車3に設けて、当該加速度センサの検出値に基づきフランジ衝突の発生を判定してもよい。ただし、フランジ衝突の発生を検知可能なセンサは、台車3の車両1幅方向の加速度、台車3の鉛直軸回りの角加速度、台車3の鉛直軸回りの角速度、および、台車3の鉛直軸回りの回転角のうちの少なくとも1つを検出するものであることが好ましい。これらの物理量はいずれも、フランジ衝突の際に検出する際に大きく変化するものであり、衝突判定が容易となる。
【0068】
また、摩耗診断システム100は、フランジ衝突の発生を検知可能なセンサを複数備えていてもよい。図7は、変形例に係る摩耗診断システム101の概略構成を説明する図である。この変形例に係る摩耗診断システム101では、台車3が有する4つの軸箱7に、それぞれ、フランジ衝突の発生を検知可能なセンサ(例えば加速度センサ)21が設けられている。このように、台車3にフランジ衝突の発生を検知可能なセンサを複数設けることで、フランジ衝突の発生を判定する精度が向上する。
【0069】
また、台車3が有する4つの軸箱7のいずれかにフランジ衝突の発生を検知可能なセンサを1つ設けてもよい。この場合、車両1の長手方向外側に位置する軸箱7にセンサを設けるのが好ましい。車両1の長手方向外側の車輪10にて比較的大きいフランジ衝突が発生するためである。
【0070】
また、車両1が上りと下りで同じ路線を走行する場合など、車両1が有する2つの台車3に同等のフランジ摩耗が発生しているとみなせる場合、摩耗診断システム100は、車両1が有する2つの台車3のうちの一方にだけ、フランジ衝突の発生を検知可能なセンサを設けてもよい。この場合、センサを設けない台車3のフランジ12の摩耗度は、センサを設けた台車3のフランジ12の摩耗度と同じとして推定してもよい。
【0071】
また、フランジ衝突の発生を検知可能なセンサは、車体2に設けられてもよい。ただし、フランジ衝突の発生を検知可能なセンサは、台車3(例えば、台車枠4、軸箱7など)に設けられている方が好ましい。車体2にセンサを設ける場合、フランジ衝突による台車3の挙動が車体2のセンサにまで伝わりにくいためである。
【0072】
また、上記実施形態では、1つの角速度センサ21で、鉄道車両1が曲線区間Sに進入したことを表す基準点と、レールRに対してフランジ12が衝突する衝突発生点の双方を判定したが、基準点の判定と衝突発生点の判定とは、互いに異なるセンサの検出値に基づき行われてもよい。例えば、基準点の判定は、軌道Tの曲線区間Sの進入位置のレールRの傍に、進入位置に車輪10が到達したことを検知する検知センサを設けて、当該検知センサにより基準時点の判定を行ってもよい。
【0073】
データ処理装置30は、鉄道車両1にあってもなくてもよい。データ処理装置30は、車体2の床下などに配置されてもよい。また、データ処理装置30は、パーソナルコンピュータなどの車両1外部の情報端末装置であってもよい。
【0074】
基準判定部32は、基準点として、車両1が曲線区間Sに進入した時点を示す基準時点を判定したが、基準判定部32は、基準点として、車両1が曲線区間Sに進入した位置を判定してもよい。フランジ衝突判定部33は、車両1が曲線区間Sを走行したときのフランジ衝突の発生時点を判定したが、フランジ衝突判定部33は、車両1が曲線区間Sを走行したときのフランジ衝突の発生位置を判定してもよい。例えば、フランジ衝突判定部33は、フランジ衝突の発生位置として、速度取得部34の取得結果を用いて車両1の走行距離を算出してもよい。この場合、車両1の走行距離は、例えば一日の総走行距離でもよいし、軌道上のある位置からの車両1の走行距離でもよい。この場合、例えば、フランジ衝突判定ステップで、図6(B)や図6(C)のグラフの代わりに、横軸を車両1の走行距離とし、縦軸を単位距離当たりの角度の変化量または角速度の変化量とするグラフから、フランジ衝突が発生したときの走行距離を判定してもよい。
【0075】
また、フランジ衝突の発生の判定方法は上記実施形態で説明されたものに限定されない。図6(C)とともに説明された低周波除去処理は、角速度変化量以外の物理量(例えば台車3の車幅方向の加速度など)に対しても適用可能である。
【0076】
また、上記実施形態では、衝突関連値とフランジの摩耗度との対応関係は、衝突関連値と、周知の計測器によって計測されたフランジ12の摩耗量との対応関係を示すものであったが、フランジの摩耗度は摩耗量でなくてもよい。例えば、フランジの摩耗度は、予め定めた摩耗度のレベルやOK/NGのいずれかを示す判定結果(例えば、「転削不要」であることを示すOKと、「転削必要」であることを示すNG)等であってもよい。
【0077】
上記実施形態では、対応関係情報を取得する際に、走行距離の計測を、基準判定部32、フランジ衝突判定部33、速度取得部34、および衝突関連値算出部35により行ったが、対応関係情報の取得方法はこれに限られない。対応関係情報は、実際の車両1の営業運転により取得したものでなくてもよく、車両1の実験的走行によりまたはシミュレーションにより取得してもよい。
【0078】
また、車両1に曲線区間Sを走行させることによって得られた対応関係情報を、その曲線区間Sとは異なる別の曲線区間でのフランジ衝突の判定に利用することも可能である。この場合、営業走行速度や曲線区間の曲率などの観点から、対応関係情報を別の曲線区間で用いるための制約を設けてもよい。
【0079】
例えば雨天時の徐行運転と通常の営業運転とでは、車両1の走行速度が変わるが、車両1の走行速度が変わると、フランジ衝突の発生点が大幅に変わる可能性がある。このため、診断部36は、所定の曲線区間Sを走行する間の鉄道車両1の走行速度が所定の範囲内にあるか否かを判定し、走行速度が所定の範囲内にある場合にフランジ12の摩耗度の診断を行い、走行速度が所定の範囲内にない場合にはフランジ12の摩耗度の診断を行わなくてもよい。これにより、ステップS1における対応関係取得の際の走行速度とステップS2における走行速度とがかけ離れているときのフランジ摩耗の診断を防ぐことができ、その結果、診断精度を向上させることができる。
【0080】
また、上記実施形態では、基準判定部32が、角速度センサ21の検出値に基づき、車両1が曲線区間Sに進入した時点を示す基準点を判定したが、センサの検出結果から作業者が基準点を判定してもよい。すなわち、上記ステップS3において、作業者が、角速度センサ21などのセンサの検出値から図6(A)のようなグラフを作成して、グラフの結果から基準点を判定してもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、フランジ衝突判定部33は、角速度センサ21の検出値に基づき、車両1が曲線区間Sを走行したときのフランジ衝突の発生を判定したが、センサの検出結果から作業者がフランジ衝突の発生点を判定してもよい。すなわち、上記ステップS4において、作業者が、角速度センサ21などのセンサの検出値から図6(B)や6(C)のようなグラフを作成して、グラフの結果からフランジ衝突の発生点を判定してもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、対応関係情報は、基準時点からフランジ衝突の発生時点までの間の走行距離とフランジ12の摩耗量とを一対一で対応させる式(関数)であったが、衝突関連値とフランジ12の摩耗度との対応関係は、対応表として作成されてもよい。すなわち、上記ステップS6では、作業者が、作成した対応表を参照して、衝突関連値に対応するフランジの摩耗度を把握してもよい。
【0083】
また、本発明は、上記実施形態で説明された構成とは異なる構成の鉄道車両にも適用可能である。例えば、鉄道車両が備える台車の数は、2つでなくてもよい。また、台車の位置は、車体の長手方向の端部寄りに配置されていなくてもよい。また、台車は、ボルスタレス台車でなくてもよく、ボルスタ付き台車でもよい。左右の車輪を車軸で一体化した通常の輪軸、いわゆる一体型輪軸を用いた鉄道車両でなくてもよく、例えば輪軸を左右に分離して各々を個別に回転可能とした鉄道車両にも適用してもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、フランジ衝突の発生要因として、レールRとの接触箇所の左右の車輪10の径差では左右の車輪10の行路差を吸収できないことを説明したが、これは一例にすぎない。例えば、車輪10の踏面11が摩耗することにより左右の車輪10で踏面勾配や車輪径が異なる場合、遠心力が働かないときでも、輪軸5の左右方向中央位置が一対のレールRの中央位置に対してずれることがある。また、車両1が曲線区間Sに進入して以降もそのまま輪軸5が直進しようとすることによって、レールRの延在方向に対して車輪10(車軸6に垂直な面)がなす角が大きくなっていく。その結果、軌道外周側の車輪10がレールRに迫り、軌道内周側の車輪10がレールRから遠ざかるため、実質的に輪軸5がレールRに対して軌道外周側に移動する。この場合にもフランジ衝突は発生し得る。フランジ衝突の発生要因に関係なく、フランジ衝突の発生点とフランジ12の摩耗度には相関があるため、本発明は、発生要因に関係なく、フランジ衝突によるフランジ度を診断可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 :鉄道車両
2 :車体
3 :台車
10 :車輪
12 :フランジ
21 :角速度センサ
30 :データ処理装置
31 :記憶部
32 :基準判定部
33 :フランジ衝突判定部
34 :速度算出部
35 :衝突関連値算出部
36 :診断部
100 :摩耗診断システム
O :旋回中心軸
R :レール
S :曲線区間
T :軌道
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7