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特許7430629粒状組成物、粒状組成物の製造方法、および粒状組成物の溶出性改善方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】粒状組成物、粒状組成物の製造方法、および粒状組成物の溶出性改善方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4965 20060101AFI20240205BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240205BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20240205BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240205BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20240205BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240205BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240205BHJP
   A61P 7/02 20060101ALN20240205BHJP
   A61P 9/08 20060101ALN20240205BHJP
   A61P 9/10 20060101ALN20240205BHJP
   A61P 11/08 20060101ALN20240205BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20240205BHJP
【FI】
A61K31/4965
A61K9/14
A61K9/16
A61K9/20
A61K9/48
A61K47/26
A61K47/36
A61P7/02
A61P9/08
A61P9/10
A61P11/08
A61P43/00 105
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020500991
(86)(22)【出願日】2019-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2019006317
(87)【国際公開番号】W WO2019163822
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2022-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2018029093
(32)【優先日】2018-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004156
【氏名又は名称】日本新薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】田中 利憲
(72)【発明者】
【氏名】山田 理恵
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/098998(WO,A1)
【文献】川北公夫 ほか,粉体の錠剤圧縮,応用物理,1965年,Vol. 34, No. 5,pp. 360-363
【文献】舩越 嘉郎,III編 造粒の応用,造粒ハンドブック,第1版,オーム社,1991年,p. 498
【文献】柏原 俊夫,第4章 経口投与製剤の設計と開発のストラテジー,経口投与製剤の設計と評価,株式会社薬業時報社,1995年,p. 54
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化合物(I)を含む粒状組成物の製造方法であって、
前記化合物(I)と、糖アルコール類、デンプン類、および糖類からなる群から選択される少なくとも1つ以上の賦形剤とを混合した混合物を圧縮成形して圧縮成形物を得る圧縮成形工程を含んでなり、
前記圧縮成形工程において、
孔部を介して前記混合物を押出す押出機を用いて押出造粒法を行い、
前記孔部の径が0.2mm~0.5mmであり、
前記粒状組成物が顆粒剤、散剤、カプセル剤の充填物、粒状錠、ドライシロップ剤または細粒剤である、粒状組成物の製造方法。
【化1】
【請求項2】
前記粒状組成物における前記化合物(I)の溶出性が前記圧縮成形工程前の前記混合物における前記化合物(I)の溶出性よりも高い、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記粒状組成物の空隙率が45%以下である、請求項1または請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記粒状組成物の粒径が5mmよりも小さい、請求項1~請求項3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記圧縮成形物を破砕する破砕工程をさらに含む、請求項1~請求項4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
以下の化合物(I)を含む粒状組成物における前記化合物(I)の溶出性を改善する方法であって、
前記化合物(I)と、糖アルコール類、デンプン類、および糖類からなる群から選択される少なくとも1つ以上の賦形剤とを混合した混合物を圧縮成形して圧縮成形物を得る圧縮成形工程を含んでなり、
前記圧縮成形工程において、
孔部を介して前記混合物を押出す押出機を用いて押出造粒法を行い、
前記孔部の径が0.2mm~0.5mmであり、
前記粒状組成物が顆粒剤、散剤、カプセル剤の充填物、粒状錠、ドライシロップ剤または細粒剤である、方法。
【化2】
【請求項7】
前記粒状組成物における化合物(I)の溶出性が前記圧縮成形工程前の前記混合物における化合物(I)の溶出性よりも高い、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記粒状組成物の空隙率が45%以下である、請求項6または請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記粒状組成物の粒径が5mmよりも小さい、請求項6~請求項8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記圧縮成形物を破砕する破砕工程をさらに含む、請求項6~請求項9のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-{4-[N-(5,6-ジフェニルピラジン-2-イル)-N-イソプロピルアミノ]ブチルオキシ}-N-(メチルスルホニル)アセトアミド(以下、「化合物(I)」と称する。)を含む粒状組成物に関する。また本発明は、化合物(I)を含む粒状組成物の製造方法に関する。また本発明は、化合物(I)を含む粒状組成物における化合物(I)の溶出性を改善する溶出性改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次の構造式:
【化1】
で示される化合物(I)は、優れたプロスタグランジンI(PGIともいう)受容体作動作用を有し、血小板凝集抑制作用、血管拡張作用、気管支筋拡張作用、脂質沈着抑制作用、白血球活性化抑制作用など、種々の薬効を示すことが知られている(例えば特許文献1)。また、化合物(I)は錠剤として処方されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2002/088084号
【非特許文献】
【0004】
【文献】Hepatology,2007,Vol.45,No.1,p159-169.
【文献】Folia Pharmacologica Japonica, Vol.117,No.2,p.123-130,2001,Abstruct.
【文献】International Angiology,29,Suppl.1 to No.2,p.49-54,2010.
【文献】Jpn.J.Clin.Immunol.,16(5),409-414,1993.
【文献】Jpn.J.Thromb.Hemost.,1:2,p.94-105,1990,Abstruct.
【文献】J.Rheumatol.,2009,36(10),2244-2249.
【文献】Japan J.Pharmacol.,43,p.81-90,1987.
【文献】New Engl. J. Med., 2015, 24, 2522-2533.
【文献】CHEST 2003, 123, 1583-1588.
【文献】Br.Heart J.,53,p.173-179,1985.
【文献】The Lancet,1,4880,pt 1,p.569-572,1981.
【文献】Eur. J. Pharmacol.,449,p.167-176,2002.
【文献】The Journal of Clinical Investigation,117,p.464-472,2007.
【文献】Am. J. Physiol.Lung Cell Mol. Physiol.,296:L648-L656,2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、嚥下能力の低い小児や高齢者が錠剤を服用することは困難である。嚥下しやすい錠剤としてOD錠やチュアブル錠が開発されているが、唾液の分泌が少ない高齢者にとっては必ずしも服用しやすい錠剤とはいえない。
【0006】
これに対し、散剤、細粒剤、顆粒剤、粒状錠およびドライシロップなどの粒状の製剤(粒状組成物)は、高齢者も服用しやすく、服薬コンプライアンスが向上するとともに、服用量の変更の自由度が高まるため非常に有用である。
【0007】
また、製剤を製造する場合、通常は薬効成分の溶出性を高める製剤技術が用いられる。一般的に、薬効成分の錠剤からの溶出性は、その錠剤が顆粒または粉末に崩壊するまでの時間に依存する。このため、錠剤の場合、顆粒や粉末の場合よりも薬効成分の速やかな溶出が期待できない。
【0008】
以上より、化合物(I)を含む粒状組成物の処方が望まれている。顆粒剤などの粒状組成物は通常造粒物であり、一般的には流動層造粒法などにより調製される。しかしながら、化合物(I)を含む顆粒剤の処方を検討する過程において、流動層造粒法で得られた顆粒剤では化合物(I)の溶出性が低いことが明らかとなった。すなわち、化合物(I)を含む粒状組成物において、化合物(I)に賦形剤などを付着させるのみでは化合物(I)の溶出が緩慢になり、溶出性が低いことが明らかとなった。
【0009】
本発明は、化合物(I)の溶出性を向上できる粒状組成物の製造方法を提供することを目的とする。また本発明は、粒状組成物における化合物(I)の溶出性を向上できる溶出性改善方法を提供することを目的とする。また本発明は、化合物(I)の溶出性を向上できる粒状組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、粒状組成物の製造中に化合物(I)と、糖アルコール類、デンプン類、および糖類からなる群から選択される少なくとも1つ以上の賦形剤とを混合して圧縮成形することにより化合物(I)の溶出性が改善することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明は、化合物(I)を含む粒状組成物の製造方法であって、化合物(I)と、糖アルコール類、デンプン類、および糖類からなる群から選択される少なくとも1つ以上の賦形剤とを混合した混合物を圧縮成形して圧縮成形物を得る圧縮成形工程を含む。
【0012】
また本発明は、上記構成の粒状組成物の製造方法において、前記粒状組成物における化合物(I)の溶出性が前記圧縮成形工程前の前記混合物における化合物(I)の溶出性よりも高いことが好ましい。
【0013】
また本発明は、上記構成の粒状組成物の製造方法において、前記粒状組成物の空隙率が45%以下であることが好ましい。
【0014】
また本発明は、上記構成の粒状組成物の製造方法において、前記粒状組成物の粒径が5mmよりも小さいことが好ましい。
【0015】
また本発明は、上記構成の粒状組成物の製造方法において、前記圧縮成形工程が、ローラー圧縮法、打錠圧縮法、ブリケット法、スラッグ法、および押出造粒法のいずれか一つにより行われることが好ましい。
【0016】
また本発明は、上記構成の粒状組成物の製造方法において、前記圧縮成形工程では、孔部を介して前記混合物を押出す押出機を用いて前記押出造粒法を行い、前記孔部の径が0.2mm~0.5mmであることが好ましい。
【0017】
また本発明は、上記構成の粒状組成物の製造方法において、前記圧縮成形物を破砕する破砕工程をさらに含むことが好ましい。
【0018】
また本発明は、上記構成の粒状組成物の製造方法において、前記粒状組成物が顆粒剤、散剤、カプセル剤の充填物、粒状錠、ドライシロップ剤または細粒剤であることが好ましい。
【0019】
本発明は、化合物(I)を含む粒状組成物における化合物(I)の溶出性を改善する溶出性改善方法であって、化合物(I)と、糖アルコール類、デンプン類、および糖類からなる群から選択される少なくとも1つ以上の賦形剤とを混合した混合物を圧縮成形して圧縮成形物を得る圧縮成形工程を含む。
【0020】
また本発明は、上記構成の溶出性改善方法において、前記粒状組成物における化合物(I)の溶出性が前記圧縮成形工程前の前記混合物における化合物(I)の溶出性よりも高いことが好ましい。
【0021】
また本発明は、上記構成の溶出性改善方法において、前記粒状組成物の空隙率が45%以下であることが好ましい。
【0022】
また本発明は、上記構成の溶出性改善方法において、前記粒状組成物の粒径が5mmよりも小さいことが好ましい。
【0023】
また本発明は、上記構成の溶出性改善方法において、前記圧縮成形工程が、ローラー圧縮法、打錠圧縮法、ブリケット法、スラッグ法、および押出造粒法のいずれか一つにより行われることが好ましい。
【0024】
また本発明は、上記構成の溶出性改善方法において、前記圧縮成形工程では、孔部を介して前記混合物を押出す押出機を用いて前記押出造粒法を行い、前記孔部の径が0.2mm~0.5mmであることが好ましい。
【0025】
また本発明は、上記構成の溶出性改善方法において、前記圧縮成形物を破砕する破砕工程をさらに含むことが好ましい。
【0026】
また本発明は、上記構成の溶出性改善方法において、粒状組成物が顆粒剤、散剤、カプセル剤の充填物、粒状錠、ドライシロップ剤または細粒剤であることが好ましい。
【0027】
本発明の粒状組成物は、化合物(I)と、糖アルコール類、デンプン類、および糖類からなる群から選択される少なくとも1つ以上の賦形剤とが混合された状態であって空隙率が45%以下である。
【0028】
また本発明は、上記構成の粒状組成物において、粒径が5mmよりも小さいことが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の粒状組成物の製造方法によると、化合物(I)の溶出性を向上させた粒状組成物を得ることができる。また、本発明の溶出性改善方法によると、粒状組成物における化合物(I)の溶出性を向上させることができる。また、本発明の粒状組成物によると、化合物(I)の溶出性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施形態の粒状組成物に含まれる化合物(I)のI型結晶の粉末X線回折スペクトルチャートである。縦軸はピーク強度(単位:cps)を示し、横軸は回折角2θ(単位:°)を示す。
図2】本発明の一実施形態の粒状組成物に含まれる化合物(I)のII型結晶の粉末X線回折スペクトルチャートである。縦軸はピーク強度(単位:cps)を示し、横軸は回折角2θ(単位:°)を示す。
図3】本発明の一実施形態の粒状組成物に含まれる化合物(I)のIII型結晶の粉末X線回折スペクトルチャートである。縦軸はピーク強度(単位:cps)を示し、横軸は回折角2θ(単位:°)を示す。
図4】本発明の一実施形態の粒状組成物の製造工程を示す工程図である。
図5】実施例1及び比較例1における化合物(I)の溶出率の経時的推移を示す図である。縦軸は溶出率(単位:%)を示し、横軸は時間(単位:分)を示す。
図6】実施例2及び比較例2における化合物(I)の溶出率の経時的推移を示す図である。縦軸は溶出率(単位:%)を示し、横軸は時間(単位:分)を示す。
図7】実施例3及び比較例3における化合物(I)の溶出率の経時的推移を示す図である。縦軸は溶出率(単位:%)を示し、横軸は時間(単位:分)を示す。
図8】実施例4及び比較例4における化合物(I)の溶出率の経時的推移を示す図である。縦軸は溶出率(単位:%)を示し、横軸は時間(単位:分)を示す。
図9】実施例5及び比較例5における化合物(I)の溶出率の経時的推移を示す図である。縦軸は溶出率(単位:%)を示し、横軸は時間(単位:分)を示す。
図10】実施例6~8及び比較例6における化合物(I)の溶出率の経時的推移を示す図である。縦軸は溶出率(単位:%)を示し、横軸は時間(単位:分)を示す。
図11】比較例7、8における化合物(I)の溶出率の経時的推移を示す図である。縦軸は溶出率(単位:%)を示し、横軸は時間(単位:分)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施形態の粒状組成物について説明する。本明細書において、「粒状組成物」とは、粉末原料を後述の混合工程及び圧縮成形工程を経て粉末原料よりも大きな粒状に加工したものを意味する。
【0032】
<1.粒状組成物の構成>
本実施形態の粒状組成物は、例えば、顆粒剤、散剤、細粒剤、粒状錠、ドライシロップ剤などを包含する。また、粒状組成物は例えば直接に内服するための内服固形剤として使用することができる。また、粒状組成物は例えば水またはシロップなどに分散させた懸濁剤として使用することもできる。また、粒状組成物をカプセルに充填して使用することもできる。すなわち、粒状組成物をカプセル剤の充填物として利用することができる。
【0033】
粒状組成物は化合物(I)と賦形剤とを含む。例えば特許文献1に記載の方法に従って化合物(I)を容易に製造することができる。また、化合物(I)には以下の3つの形態の結晶(I型結晶、II型結晶及びIII型結晶)が存在する。
【0034】
図1図3は、それぞれI型結晶、II型結晶、及びIII型結晶の粉末X線回折スペクトルチャート(粉末X線回折図)である。各図において、縦軸はピーク強度(単位:cps)を示し、横軸は回折角2θ(単位:°)を示す。X線回折装置(RINT-UltimaIII、株式会社リガク製)を用いて粉末X線回折スペクトルを測定した。この時、ターゲットをCu、電圧を40kV、電流を40mA、スキャンスピードを4°/minとした。
【0035】
(1)I型結晶は、粉末X線回折図がCu Kα放射線(λ=1.54Å)を用いて得られるものであって、化合物(I)の粉末X線回折スペクトルにおいて、次の回折角2θ:9.4°、9.8°、17.2°及び19.4°で回折ピークを示す。
(2)II型結晶は、粉末X線回折図がCu Kα放射線(λ=1.54Å)を用いて得られるものであって、化合物(I)の粉末X線回折スペクトルにおいて、次の回折角2θ:9.0°、12.9°、20.7°及び22.6°で回折ピークを示す。
(3)III型結晶は、粉末X線回折図がCu Kα放射線(λ=1.54Å)を用いて得られるものであって、化合物(I)の粉末X線回折スペクトルにおいて、次の回折角2θ:9.3°、9.7°、16.8°、20.6°及び23.5°で回折ピークを示す。
【0036】
粒状組成物に含まれる化合物(I)は、上記のI型、II型、III型結晶のいずれであってもよく、またこれらの結晶の混合物であってもよく、または非晶系であってもよい。化合物(I)の結晶としてはI型結晶が好ましい。
【0037】
粒状組成物に含まれる賦形剤は、糖アルコール類、デンプン類、および糖類からなる群から選択される少なくとも1つ以上であればよい。なお、糖アルコール類、デンプン類、および糖類は、化合物(I)1重量に対して1~30000重量であると好ましく、100~6000重量であるとより好ましく、300~4000重量であるとより一層好ましい。
【0038】
糖アルコール類の例としては、D-マンニトール、エリスリトール、キシリトール、D-ソルビトール、イソマルト、マルチトール、ラクチトールなどを挙げることができる。D-マンニトール、エリスリトール、キシリトール、D-ソルビトール、イソマルトが好ましく、D-マンニトール、エリスリトール、イソマルトがより好ましい。
【0039】
デンプン類の例としては、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コメデンプン、コムギデンプンなどを挙げることができる。トウモロコシデンプン、バレイショデンプンが好ましく、トウモロコシデンプンがより好ましい。
【0040】
糖類の例としては、マルトース、トレハロース、ラクトース、グルコース、フルクトース、スクロースなどを挙げることができる。マルトース、トレハロース、グルコース、ラクトースが好ましく、グルコース、ラクトースがより好ましい。
【0041】
詳細を後述するように、粒状組成物は化合物(I)と賦形剤との混合物が圧縮成形された状態である。これにより、粒状組成物における化合物(I)の溶出性を向上させることができる。また、粒状組成物の空隙率が45%以下であると、化合物(I)の溶出性をより向上できるため好ましい。なお、空隙率についての詳細は後述する。
【0042】
また、粒状組成物の粒径が5mmよりも小さいと、服用者が服用しやすく、また服用量の変更の自由度が高まるため好ましい。粒状組成物の粒径が3mm以下であると、服用者がより服用しやすくなり、また服用量の変更の自由度がより高まるためより好ましい。ここで、「粒径」とは「平均粒子径」を意味し、顕微鏡法(目視法)または画像解析法により測定する。
【0043】
粒状組成物は賦形剤に加えて、各種の医薬品添加物を含んでもよい。医薬品添加物としては、製剤学的に許容され、かつ薬理学的に許容されるものであれば特に制限されず、例えば、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤、着色剤、コーティング剤、矯味剤、発泡剤、甘味剤、香料、抗酸化剤、界面活性剤、可塑剤、糖衣剤などを挙げることができる。これらの医薬品添加物を単独で用いても二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0044】
粒状組成物をコーティング剤または糖衣剤により公知の方法でコーティングすると、粒状組成物の美観の向上や識別性の確保を図ることができるため好ましい。また、粒状組成物に着色剤を含有させると、粒状組成物の光安定性の向上や識別性の確保を図ることができるため好ましい。また、粒状組成物に矯味剤または香料を含有させると、粒状組成物の風味を容易に改善できるため好ましい。
【0045】
結合剤としては、例えば、ゼラチン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒプロメロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、アラビアゴム、デキストラン、ポリビニルアルコール、アルファー化デンプンなどを挙げることができる。
【0046】
崩壊剤としては、例えば、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、部分アルファー化デンプン、結晶セルロース、トウモロコシデンプンなどを挙げることができる。
【0047】
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、ワックス類、DL-ロイシン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、マクロゴール、軽質無水ケイ酸などを挙げることができる。
【0048】
流動化剤としては、例えば、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸カルシウムなどを挙げることができる。
【0049】
着色剤としては、例えば、酸化チタン、タルク、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、食用黄色4号、食用黄色4号アルミニウムレーキなどを挙げることができる。
【0050】
コーティング剤としては、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、エチルセルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、メタクリル酸コポリマーLD、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルなどを挙げることができる。
【0051】
矯味剤としては、例えば、果糖、キシリトール、ブドウ糖、DL-リンゴ酸などを挙げることができる。
【0052】
発泡剤としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、乾燥炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなどを挙げることができる。
【0053】
甘味剤としては、例えば、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、ソーマチン、果糖、ブドウ糖、カンゾウ、キシリトールなどを挙げることができる。
【0054】
香料としては、例えば、l-メントール、ペパーミントなどを挙げることができる。
【0055】
抗酸化剤としては、例えば、亜硝酸ナトリウム、アスコルビン酸、天然ビタミンE、トコフェロールなどを挙げることができる。
【0056】
界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、モノオレイン酸ソルビタン、スクワランなどを挙げることができる。
【0057】
可塑剤としては、例えば、クエン酸トリエチル、プロピレングリコール、マクロゴールなどを挙げることができる。
【0058】
糖衣剤としては、例えば、精製白糖、沈降炭酸カルシウム、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、カオリン、酸化チタン、マクロゴール、ステアリン酸、エチルセルロースなどを挙げることができる。
【0059】
化合物(I)は、優れたPGI受容体作動作用を有しており、PGIが関与する疾患、例えば、一過性脳虚血発作(TIA)、糖尿病性神経障害(例えば、非特許文献1を参照)、糖尿病性壊疽(例えば、非特許文献1を参照)、末梢循環障害(例えば、慢性動脈硬化症、慢性動脈閉塞症(例えば、非特許文献2を参照))、間欠性跛行(例えば、非特許文献3を参照)、末梢動脈塞栓症(例えば、非特許文献5を参照)、レイノー病(例えば、非特許文献4を参照)、膠原病(例えば、全身性エリテマトーデス、強皮症)(例えば、非特許文献6を参照)、混合性結合組織病、血管炎症候群、経皮的冠動脈形成術(PTCA)後の再閉塞・再狭搾、動脈硬化症、血栓症(例えば、急性期脳血栓症、肺塞栓症)(例えば、非特許文献5、非特許文献7を参照)、高血圧、肺動脈性肺高血圧症や慢性血栓塞栓性肺高血圧症などの肺高血圧症(例えば、非特許文献8、非特許文献9を参照)、虚血性疾患(例えば、脳梗塞、心筋梗塞(例えば、非特許文献10を参照))、狭心症(例えば、安定狭心症、不安定狭心症)(例えば、非特許文献11を参照)、糸球体腎炎(例えば、非特許文献12を参照)、糖尿病性腎症(例えば、非特許文献1を参照)、慢性腎不全、アレルギー、気管支喘息(例えば、非特許文献13を参照)、潰瘍、蓐瘡(床ずれ)、アテレクトミー及びステント留置などの冠動脈インターベンション後の再狭窄、透析による血小板減少、臓器又は組織の線維化が関与する疾患[例えば、腎臓疾患(例えば、尿細管間質性腎炎)、呼吸器疾患(例えば、間質性肺炎(肺線維症)、慢性閉塞性肺疾患(例えば、非特許文献14を参照)など)、消化器疾患(例えば、肝硬変、ウイルス性肝炎、慢性膵炎、スキルス胃癌)、心血管疾患(例えば、心筋線維症)、骨・関節疾患(例えば、骨髄線維症、関節リウマチ)、皮膚疾患(例えば、手術後の瘢痕、熱傷性瘢痕、ケロイド、肥厚性瘢痕)、産科疾患(例えば、子宮筋腫)、泌尿器疾患(例えば、前立腺肥大症)、その他の疾患(例えば、アルツハイマー病、硬化症腹膜炎、I型糖尿病、手術後臓器癒着)]、勃起不全(例えば、糖尿病性勃起不全、心因性勃起不全、精神病性勃起不全、慢性腎不全による勃起不全、前立腺摘出のための骨盤内手術後の勃起不全、加齢や動脈硬化に伴う血管性勃起不全)、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病、腸結核、虚血性大腸炎、ベーチェット病に伴う腸潰瘍)、胃炎、胃潰瘍、虚血性眼疾患(例えば、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、虚血性視神経症)、突発性難聴、無血管性骨壊死、非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)(例えば、ジクロフェナック、メロキシカム、オキサプロジン、ナブメトン、インドメタシン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、セレコキシブ)投与に伴う腸管傷害(例えば、十二指腸、小腸、大腸で発症する傷害であれば特に制限されないが、例えば、十二指腸、小腸、大腸に生じるびらんなどの粘膜傷害や潰瘍)、脊柱管狭窄症(例えば、頚部脊柱管狭窄症、胸部脊柱管狭窄症、腰部脊柱管狭窄症、広範脊柱管狭窄症、仙骨狭窄症)に伴う症状(例えば、麻痺、知覚鈍麻、疼痛、しびれ、歩行能力の低下)の予防剤又は治療剤として有用である。また、本発明の粒状組成物は、遺伝子治療又は自己骨髄細胞移植などの血管新生療法の促進剤、末梢血管再建術又は血管新生療法における血管形成促進剤としても有用である。
【0060】
<2.本実施形態の粒状組成物の製造方法及び化合物(I)の溶出性改善方法>
次に、粒状組成物の製造方法について説明する。図4は、粒状組成物の製造工程を示す工程図である。製造工程は、混合工程、圧縮成形工程、破砕工程、分級工程、及び付加工程を有する。なお、粒状組成物における化合物(I)の溶出性を改善する溶出性改善方法も製造方法と同様に行われる。
【0061】
<2-1.混合工程>
混合工程では、粉末状の化合物(I)と、糖アルコール類、デンプン類、および糖類からなる群から選択される少なくとも1つ以上の粉末状の賦形剤とを均一に混合して混合物を得る。なお、「混合」には、化合物(I)と賦形剤とを均一に混ぜ合わせて、複数の小さい粒子を相互に付着凝集させて大きい粒子に成長させるいわゆる「造粒」が行われる場合も含まれる。
【0062】
混合工程は混合機を用いて行われる。混合機に特に限定はなく、例えば、容器回転型混合機、機械撹拌式混合機、気流式ミキサー、または捏和式ミキサーなどを用いることができる。また、混合機として造粒機を用いて混合工程を行ってもよい。造粒機に特に限定はなく、例えば流動層造粒機、撹拌造粒機、回転造粒機などを用いることができる。
【0063】
<2-2.圧縮成形工程>
混合工程後の圧縮成形工程では、混合工程で調製された混合物を圧縮成形して圧縮成形物を得る。この時、圧縮成形物の空隙率は45%以下であると好ましい。圧縮成形工程は圧縮成形機を用いて行われる。圧縮成形方法に特に限定はなく、例えばローラー圧縮法、打錠圧縮法、ブリケット法、スラッグ法、または押出造粒法が好ましい。
【0064】
ローラー圧縮法(ローラーコンパクティング法)では圧縮成形機としてローラーコンパクターを用いる。ローラーコンパクターは、回転軸を水平に配した2本のロールを有する。2本のロールは回転軸に直交する方向で互いに対向して配置される。2本のロール間には所定の隙間が設けられ、2本のロールは互いに反対方向に回転する。
【0065】
回転する2本のロール間の隙間に混合工程で得られた混合物を供給し、2本のロールによって混合物を加圧して圧縮成形する。これにより、ローラー圧縮法で圧縮成形工程が行われ、シート状(薄板状)又はフレーク状の圧縮成形物が形成される。なお、ロールの表面は平滑でもよく、微小な凹凸を複数有してもよい。ロールの表面に微小な凹凸を複数設けると、ロール上で混合物が保持され易くなり、圧縮効率を向上できるため好ましい。
【0066】
この時、混合物に対する加圧力の大きさは、化合物(I)の溶出性を向上させることができる大きさであれば特に限定はなく、0.5N/mm以上であると好ましく、0.5~25N/mmであるとより好ましく、0.5~10N/mmであるとより一層好ましい。
【0067】
打錠圧縮法(タブレッティング法)では圧縮成形機として打錠機を用いる。打錠機としては例えば単発式の打錠機またはロータリー式の打錠機などを用いることができる。打錠機は円筒形状の臼及び上下一対の金属棒(上杵、下杵)を有する。圧縮成形工程において、上杵及び下杵が、臼に充填された混合物を上下方向で挟んで圧縮成形する。これにより、打錠圧縮法で圧縮成形工程が行われ、円盤状の圧縮成形物が形成される。
【0068】
この時、混合物に対する加圧力の大きさは、化合物(I)の溶出性を向上させることができる大きさであれば特に限定はなく、10N/mm以上であると好ましい。また、混合物に対する加圧力は10~1500N/mmであるとより好ましく、10~700N/mmであるとより一層好ましい。
【0069】
ブリケット法では圧縮成形機としてブリケットマシンを用いる。ブリケットマシンは、回転軸を水平に配した2本のロールを有する。2本のロールは回転軸に直交する方向で互いに対向して配置される。2本のロール間には所定の隙間が設けられ、2本のロールは互いに反対方向に回転する。ロールの表面には複数のポケットがロールの回転方向に並んで凹設される。なお、ポケットはブリケットの母型であり、ポケットの容積は約0.3cm~約200cmであると好ましい。
【0070】
圧縮成形工程において、回転する2本のロール間の隙間に混合工程で調製された混合物を供給し、2本のロールによって混合物を加圧して圧縮成形する。これにより、ブリケット法で圧縮成形工程が行われ、ブリケット(圧縮成形物)が形成される。
【0071】
この時、混合物に対する加圧力の大きさは、化合物(I)の溶出性を向上させることができる大きさであれば特に制限はなく、10N/mm以上であると好ましい。また、混合物に対する加圧力は10~1500N/mmであるとより好ましく、10~700N/mmであるとより一層好ましい。
【0072】
押出造粒法では、圧縮成形機として押出造粒機を用いる。押出造粒機は、混合工程で調製された混合物を収納して複数の円形の孔部を開口する収納室と、収納室内の混合物を複数の孔部に向けて押圧する押圧部とを有する。押出造粒機の押出方式にはスクリュー押出方式、プランジャー押出方式、及びローラー押出方式などがある。押圧部はそれぞれスクリュー、プランジャー及びローラーに相当する。また、孔部は例えばダイ孔またはスクリーン(多孔板)の孔である。スクリュー押出方式の場合、粒状組成物の生産効率を容易に向上できるため好ましい。
【0073】
押出造粒法を用いる場合には、混合工程において、化合物(I)と賦形剤とに溶媒を加えて練合する。これにより、練合物(混合物)が得られる。なお、溶媒としては例えば水又はエタノール又は各種結合剤溶液(水溶液又はエタノールを含む水溶液)などを挙げることできる。圧縮成形工程において、練合物を押出造粒機の収納室に収納し、押出造粒機の押圧部により練合物を孔部から押出造粒機の外部に押出す。これにより、円柱状の圧縮成形物が得られる。
【0074】
なお、押出造粒機の孔部の径は0.5mm以下が好ましく、0.2~0.5mmがより好ましい。押出造粒機の収納室の押出方向に直交する断面積は通常、孔部の面積よりも十分に大きいため、孔部の径を0.5mm以下にすると、練合物に対してより十分に圧力を加えることができる。なお、押出部の構成により練合物に対して十分に大きい圧力を加えることができる押出造粒機(例えば2軸スクリュー型など)を用いる場合には、押出造粒機の孔部の径は0.5mmよりも大きくてもよい。
【0075】
スラッグ法は、混合工程で調製された混合物を乾燥状態のまま加圧して円柱状の粉末圧縮成形塊(スラッグ、圧縮成形物)にする方法である。粉末圧縮成形塊の大きさに特に限定はなく、粉末圧縮成形塊の直径を例えば約20mmにすることができる。
【0076】
以上のように、ローラー圧縮法、打錠圧縮法、ブリケット法、スラッグ法、または押出造粒法により圧縮成形工程を行うと、圧縮成形物を容易に形成することができる。
【0077】
<2-3.破砕工程>
圧縮成形工程後の破砕工程において、破砕機などを用いて圧縮成形物を破砕する。破砕工程により、圧縮成形物から粒状の破砕物が形成される。以下の説明において、「粒状の破砕物」を「成粒物」という場合がある。
【0078】
なお、圧縮成形工程後で破砕工程の前に、解砕機を用いて圧縮成形物を解きほぐす解砕工程を行ってもよい。これにより、破砕工程において、圧縮成形物を安定して破砕することができる。
【0079】
<2-4.分級工程>
破砕工程後の分級工程では、気流式分級機または篩などを用いて破砕物を分級する。これにより、所望の粒径の成粒物を容易に得ることができる。なお、破砕が不十分なために分級工程の際に除去された破砕物を再度、破砕工程で破砕してもよい。
【0080】
<2-5.付加工程>
分級工程後の付加工程では、分級工程で分級された成粒物を医薬品添加物と混合する。付加工程における混合方法は、上述の混合工程における混合方法と同様である。付加工程により、成粒物に医薬品添加物を添加する。
【0081】
以上の製造工程により、粒状組成物が形成される。本実施形態の製造方法によると、圧縮成形工程を含む。これにより、化合物(I)の溶出を速やかにし、化合物(I)の溶出性を向上できる粒状組成物を容易に形成することができる。また、本実施形態の溶出性改善方法によると、圧縮成形工程を含む。これにより、化合物(I)の溶出を速やかにし、粒状組成物における化合物(I)の溶出性を向上させることができる。
【0082】
また、粒状組成物における化合物(I)の溶出性は、圧縮成形工程前の混合物における化合物(I)の溶出性よりも高い。
【0083】
なお、本実施形態において、粒状組成物の製造方法は圧縮成形工程を含んでいればよく、その他の工程については特に制限はない。例えば、Powder Technology and Pharmaceutical Processes (D. Chulia他, Elsevier Science Pub Co (December 1,1993))のような刊行物に記載されている一般的な方法を用いてもよい。
【0084】
また、混合工程において、賦形剤に加え、賦形剤以外の医薬品添加物をさらに加えて混合を行ってもよい。
【0085】
また、圧縮成形工程において、混合物に対する加圧力を時間の経過とともに徐々に大きくしてもよい。また、圧縮成形工程の前期における加圧力を圧縮成形工程の後期における加圧力よりも大きくしてもよい。これにより、圧縮成形物の割れ等の損傷を防止し、圧縮成形物を安定して形成することができる。
【0086】
以下に本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
表1は、実施例1~5の粒状組成物及び比較例1~5に含まれる賦形剤を示す。表2は、実施例6~8の粒状組成物の製造方法の圧縮成形工程における圧縮成形方法を示す。
【実施例1】
【0090】
スラッグ法を用いて実施例1の粒状組成物を調製した。混合工程において、3mgの化合物(I)と297mgのD-マンニトール(マンニットP、三菱商事フードテック株式会社製)とを混合し、300mgの混合物を得た。次に圧縮成形工程において、精密万能試験機(AG-X、株式会社島津製作所製)を用いて混合物に対して130.1N/mmの圧力を加えて圧縮成形物を得た。破砕工程において圧縮成形物を破砕し、分級工程において、目開き1700μmの篩を通過した成粒物のうち20mgを実施例1の粒状組成物(顆粒剤)とした。この時、破砕物全てが篩を通過するように圧縮成形物を破砕した。
【実施例2】
【0091】
実施例2の粒状組成物では、賦形剤としてエリスリトール(エリスリトール50M、物産フードサイエンス株式会社製)を用いた。その他は実施例1と同様に調製した。
【実施例3】
【0092】
実施例3の粒状組成物では、賦形剤としてイソマルト(galenIQ 720、BENEO-Palatinit社製)を用いた。その他は実施例1と同様に調製した。
【実施例4】
【0093】
実施例4の粒状組成物では、賦形剤としてトウモロコシデンプン(日食コーンスターチW、日本食品化工株式会社製)を用いた。その他は実施例1と同様に調製した。
【実施例5】
【0094】
実施例5の粒状組成物では、賦形剤として乳糖水和物(Pharmatose(登録商標)200M、DFE Pharma社製)を用いた。その他は実施例1と同様に調製した。
【実施例6】
【0095】
ローラー圧縮法を用いて実施例6の粒状組成物を調製した。混合工程において、0.2mgの化合物(I)、900mgのD-マンニトール(マンニットP、三菱商事フードテック株式会社製)、及び99.8mgのトウモロコシデンプン(日食コーンスターチW、日本食品化工株式会社製)を混合して1000mgの混合物を得た。次に、圧縮成形工程において、ローラーコンパクター(TF-MINI、フロイント産業株式会社製)を用いて混合物に対して10N/mmの圧力を加えて薄板状の圧縮成形物を得た。次に、破砕工程において、圧縮成形物を破砕して破砕物(成粒物)を得た。その後、分級工程において、目開き710μmの篩を通過した成粒物を実施例6の粒状組成物(顆粒剤)とした。この時、破砕物全てが篩を通過するように圧縮成形物を破砕した。なお、以下の実施例7、8及び比較例6において、化合物(I)、D-マンニトール、トウモロコシデンプンは実施例6と同様のものを使用した。
【実施例7】
【0096】
打錠圧縮法を用いて実施例7の粒状組成物を調製した。混合工程において、0.2mgの化合物(I)、930mgのD-マンニトール、19.8mgのトウモロコシデンプンを流動層装置(MP-01、株式会社パウレック製)に入れ、混合しながら10%ヒドロキシプロピルセルロース(HPC-SSL、日本曹達株式会社製)水溶液をスプレー噴霧した。これにより、50mgのヒドロキシプロピルセルロースを含む顆粒(混合物)を得た。得られた顆粒に15mgのステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸マグネシウム特製品、太平化学産業株式会社製)を混合し、1015mgの混合物を得た。次に圧縮成形工程において、ロータリー式打錠機(コレクト、株式会社菊水製作所製)を用いて780.9N/mmの圧力を混合物に加えて圧縮成形し、実施例7として1個当たり直径約2mm、質量5mgの円盤状の粒状組成物を複数得た。
【実施例8】
【0097】
押出造粒法を用いて実施例8の粒状組成物を調製した。混合工程において、0.2mgの化合物(I)、960mgのD-マンニトール、19.8mgのトウモロコシデンプンを撹拌混合造粒装置(VG-05、株式会社パウレック製)に入れ、混合しながら10%ヒドロキシプロピルセルロース水溶液を添加した。これにより、20mgのヒドロキシプロピルセルロースを含む1000mgの練合物(混合物)を得た。なお、ヒドロキシプロピルセルロースは実施例7と同様のものを用いた。
【0098】
得られた練合物を湿式押出造粒機(マルチグランMG-55、株式会社ダルトン製)を用いて孔径0.5mmのスクリーンを介して押出し、造粒物(圧縮成形物)とした。得られた造粒物を60℃にて乾燥し、次に破砕工程において、造粒物を破砕して破砕物(成粒物)を得た。その後、分級工程において、目開き1700μmの篩を通過した成粒物を実施例8の粒状組成物(顆粒剤)とした。この時、破砕物全てが篩を通過するように圧縮成形物を破砕した。
【0099】
[比較例1]
実施例1に対して圧縮成形工程以降を経ていない混合物20mgを比較例1とした。その他は実施例1と同様に調製した。
【0100】
[比較例2]
実施例2に対して圧縮成形工程以降を経ていない混合物20mgを比較例2とした。その他は実施例2と同様に調製した。
【0101】
[比較例3]
実施例3に対して圧縮成形工程以降を経ていない混合物20mgを比較例3とした。その他は実施例3と同様に調製した。
【0102】
[比較例4]
実施例4に対して圧縮成形工程以降を経ていない混合物20mgを比較例4とした。その他は実施例4と同様に調製した。
【0103】
[比較例5]
実施例5に対して圧縮成形工程以降を経ていない混合物20mgを比較例5とした。その他は実施例5と同様に調製した。
【0104】
[比較例6]
実施例7に対して圧縮成形工程以降を経ていない混合物を比較例6とした。その他は実施例7と同様に調製した。
【0105】
[比較例7]
比較例7として、賦形剤を使用せずに化合物(I)のみを実施例1と同様の方法で圧縮成形した。その他は実施例1と同様に調製した。
【0106】
[比較例8]
圧縮成形していない化合物(I)を比較例8とした。その他は比較例7と同様に調製した。
【0107】
上記のように調製した実施例1~8の粒状組成物、及び比較例1~8について溶出試験を行った。溶出試験は、第17改正日本薬局方の溶出試験法に従った。溶出試験機(NTR-6000シリーズ、富山産業株式会社製)を用いて、溶出試験液として水を用いてパドル法により溶出試験を実施した。この時、溶出試験液の容積を900mL、溶出試験液の温度を37±0.5℃、パドルの回転数を50rpmとした。各実施例及び各比較例についてそれぞれ全量を溶出試験液に投入し、試験開始から5、10、15、30、45、60、90及び120分後に溶出試験液を採取して0.45μmフィルター(Whatman、GE Healthcare社製)でろ過後に、高速液体クロマトグラフィーを用いて化合物(I)の溶出率を測定した。
【0108】
図5図9は、それぞれ実施例1~5の粒状組成物における化合物(I)の溶出率の経時的推移を示すとともに、それぞれ比較例1~5における化合物(I)の溶出率の経時的推移を示す。図10は、実施例6~8の粒状組成物及び比較例6における化合物(I)の溶出率の経時的推移を示す。図11は、比較例7、8における化合物(I)の溶出率の経時的推移を示す。図5図11において、縦軸は溶出率(単位:%)を示し、横軸は時間(単位:分)を示す。実線E1~E8はそれぞれ実施例1~8の場合を示し、破線C1~C8はそれぞれ比較例1~8の場合を示す。
【0109】
図5図9に示すように、実施例1~5の粒状組成物は比較例1~5と比較して化合物(I)の溶出率が向上した。以上より、化合物(I)と賦形剤との混合物を圧縮成形することにより化合物(I)の溶出性が向上することがわかる。
【0110】
図10に示すように、実施例6~8の粒状組成物は比較例6と比較して化合物(I)の溶出率が向上した。また、実施例6~8のいずれの粒状組成物において、試験開始後120分の化合物(I)の溶出率は70%以上であった。一方、圧縮成形工程を経ていない比較例6では、試験開始後120分の化合物(I)の溶出率は41.2%であった。以上より、ローラー圧縮法、打錠圧縮法、または押出造粒法により圧縮成形工程を行っても化合物(I)の溶出性を向上できることがわかる。
【0111】
図11に示すように、比較例7、8の溶出率は試験開始から120分で20%未満であり、比較例7、8の溶出率に大きな差はなかった。以上より、粒状組成物における化合物(I)の溶出性の向上には、糖アルコール類、デンプン類および糖類からなる群から選択される賦形剤が必要であることがわかる。
【0112】
なお、アセトアミノフェン、インドメタシン、セリプロロール塩酸塩について、本実施形態と同様に賦形剤と混合した上で圧縮成形した場合の溶出率は圧縮成形しない場合の溶出率とほぼ同程度であった。
【0113】
化合物(I)と賦形剤との混合物を圧縮成形することにより、粒状組成物における化合物(I)の溶出性が向上する詳細なメカニズムは不明であるが、圧縮成形工程により化合物(I)と賦形剤との間に相互作用が生じたものと推測される。なお、本発明は上記メカニズムに拘束されるものではない。
【0114】
次に、粒状組成物の空隙率と化合物(I)の溶出性との関係を調べる実験を行った。混合工程において、0.2mgの化合物(I)と、D-マンニトールと、トウモロコシデンプンと、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースと、ヒドロキシプロピルセルロースと、ステアリン酸マグネシウムとを混合して混合物を得た。なお、化合物(I)、D-マンニトール、トウモロコシデンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、およびステアリン酸マグネシウムは上記の実施例で用いたものと同様のものを用いた。
【0115】
圧縮成形工程において、打錠圧縮法を用いて混合物に対して圧力を加えて円盤状の顆粒を形成した。この顆粒を本実験に用いた粒状組成物とした。この時、混合物に対する加圧力を0~509.6N/mmの範囲で可変した。
【0116】
次に、粒状組成物の1個当たりの質量M(単位:g)を測定するとともに、粒状組成物の直径及び厚みに基づいて粒状組成物の1個当たりの体積V(単位:mm)を算出した。ここで、体積Vは空隙を含む見かけの体積である。また、乾式自動密度計(アキュピックII 1340、株式会社島津製作所製)を用いて定容積膨張法により粒状組成物における混合物自体(空隙を含まない粒状組成物)の真密度ρ(単位:g/mm)を測定した。そして、下記の式(1)により粒状組成物の空隙率ε(単位:%)を算出した。
【0117】
ε=100×(V-M/ρ)/V・・・(1)
【0118】
空隙率εを算出後に粒状組成物について上記の溶出試験と同様の溶出試験を行った。
【0119】
本実験の結果、圧縮成形工程における混合物に対する加圧力が大きい時に空隙率εは小さく、化合物(I)の溶出率は大きかった。そして、粒状組成物の空隙率εが45%以下では化合物(I)の溶出率が、圧縮成形工程を行っていない場合の溶出率よりも十分に大きいことがわかった。
【0120】
なお、本実験では粒状組成物の体積V(見かけ体積)を直径及び厚みに基づいて算出し、空隙率εを求めたが、例えばタップ密度測定法を用いて空隙率εを求めてもよい。具体的には、秤量した試料(複数の粒状組成物)を例えばメスシリンダー等に入れた後に、かさ減り度がなくなるまでメスシリンダーを軽く叩いて、試料における各粒状組成物間の隙間を減らす。そして、メスシリンダーの目盛りを読みとって試料の体積V(見かけの体積)を測定する。その後、乾式自動密度計を用いて試料の真密度ρを測定し、上記の式(1)から空隙率εを求める。この方法によると、不規則形状の粒状組成物の空隙率εも容易に求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、化合物(I)と賦形剤とを含む粒状組成物に利用することができる。


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11