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特許7430640壁しごき加工によって缶本体を製造する方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】壁しごき加工によって缶本体を製造する方法および装置
(51)【国際特許分類】
   B21D 51/26 20060101AFI20240205BHJP
   B21D 22/28 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
B21D51/26 X
B21D22/28 L
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020542365
(86)(22)【出願日】2019-02-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 EP2019052573
(87)【国際公開番号】W WO2019154743
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】18155405.6
(32)【優先日】2018-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ、ボダン
(72)【発明者】
【氏名】フレデリック、ヨンカー
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-042644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 51/26
B21D 22/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方側がポリマーフィルム(12)で、または、一方側および他方側がそれぞれポリマーフィルム(12)およびポリマーフィルム(13)でコーティングされた金属シートから、底部および管状本体部を備える缶本体(9)を製造する方法であって、
前記方法は、
前記コーティングされた金属シート(11)から円形ディスクを製造し、
次いで、前記ディスクをカップ(3)であって、カップ(3)の外側にポリマーフィルム(12)が設けられているカップ(3)に深絞り加工し、
次いで、前記カップを再絞り加工し、
次いで、前記再絞り加工されたカップ(5)を壁しごき加工で缶本体(9)に成形し、ここで、パンチ(1)を使用して、前記再絞り加工されたカップ(5)を移動させて1つ以上の壁しごきリング(6,7)に連続して通すことによって、前記壁しごき加工を一回のストロークで実施する、
ことを含み、
前記方法は、
前記パンチ(1)が、直径D0の円筒状の前端部(1c)と、後端に向かう直径D1の後端部(1a)とを有し、
D1<D0であり、
前記前端部(1c)が、移行部(1b)によって前記後端部(1a)から分離されており、
前記パンチの直径が、前記移行部において徐々に減少しており、
前記パンチの前記前端部から前記後端部への前記移行部(1b)の形状が、連続した曲線であり、
前記曲線の接線と前記パンチの中心線との間のテーパ角度(α)が、前記移行部にわたって一定でなく、
前記曲線の一次導関数が、前記移行部に少なくとも1つの変曲点を有する
ことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記金属シートが鋼シートである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ある金属シート(11)の少なくとも1つの表面が有機樹脂(12)でフィルムラミネート加工または直接押出コーティングされることにより、前記コーティングされた金属シートが得られ、前記有機樹脂がポリエステル樹脂であり、樹脂フィルムの厚みが、単層フィルムの場合は5~100μm、多層フィルムの場合は合計5~100μmである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属シート(11)の一方側および他方側がそれぞれポリマーフィルム(12)およびポリマーフィルム(13)でコーティングされる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
第1の壁しごきリングの入口角度(α)が、3.5~4.5°であり、前記第1の壁しごきリングの出口角度(β)が、2.5~3.5°である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記壁しごき加工の操作中に、いかなる外部冷却剤も、前記缶本体に直接適用されない、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記壁しごき加工の操作中に、前記パンチおよび/または前記壁しごきリングの内部冷却を使用する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記金属シートが、
非コーティング鋼シート(ブラックプレート)、
錫コーティング鋼シート(ブリキ)、
クロム-クロム酸化物コーティング鋼シート(ECCS)、
拡散アニーリングによって80%以上のFeSn(50原子%の鉄および50原子%のスズ)からなる鉄-スズ合金が表面に形成されたブリキ、
3価クロム電解液からの電気めっきにより製造されたクロム-クロム酸化物コーティング鋼シート(TCCT)
からなる金属シートの群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
第1の壁しごきリング(6)の後方に配置された追加の壁しごきリング(7)が使用され、後続の壁しごきリングの入口角度が、それぞれ、前の壁しごきリングの入口角度よりも小さい、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
第2の壁しごきリング(7)の入口角度(α)が、存在する場合、1.75°以上および/または2.25°以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
パンチ(1)と1つ以上の壁しごきリング(6,7)とを備えた、
前記パンチによって、再絞り加工されたカップ(5)であって、カップ(5)の外側にポリマーフィルム(12)が設けられているカップ(5)を前記1つ以上の壁しごきリングに通すことにより、前記再絞り加工されたカップの壁厚を減少させるための、壁しごき加工装置であって、
前記パンチ(1)は、直径D0の円筒形の前端部(1c)と、後端に向かう直径D1の後端部(1a)とを有し、
D1<D0であり、
前記前端部(1c)は、移行部(1b)によって前記後端部(1a)から分離されており、
前記パンチの直径は、前記移行部において徐々に減少し、
前記パンチの前記前端部から前記後端部への前記移行部(1b)の形状は、連続した曲線であり、
前記曲線の接線と前記パンチの中心線との間の角度は、前記移行部にわたって一定でなく、
前記曲線の一次導関数は、前記移行部に少なくとも1つの変曲点を有する、前記壁しごき加工装置。
【請求項12】
前記連続した曲線の、前記曲線と前記前端部との接続点(14)および/または前記曲線と前記後端部との接続点(15)における接線が、その両端で、それぞれ、前記前端部および/または前記後端部の接線に対して同等である(すなわち、曲線からパンチへ滑らかに移動する)、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
D0が一定であるか、あるいはD0およびD1の両方が一定である、請求項11または12に記載の装置。
【請求項14】
第1の壁しごきリングの入口角度(α)が、3.5~4.5°であり、前記第1の壁しごきリングの出口角度(β)が、2.5~3.5°である、請求項1113のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
第1の壁しごきリング(6)の後方に配置された追加の壁しごきリング(7)が使用され、後続の壁しごきリングの入口角度が、それぞれ、前の壁しごきリングの入口角度よりも小さい、請求項1114のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
第2の壁しごきリング(7)の入口角度(α)が、存在する場合、1.75°以上および/または2.25°以下である、請求項1115のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法に従って製造された缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも片側がポリマー層でコーティングされた金属シートから、底部および管状本体部を備える缶本体を製造する方法であって、この方法は、最初に、金属シートから円形ディスクを製造し、次いで、このディスクを少なくとも外側にポリマー層を有するカップに深絞り加工し、次いで、壁しごき加工によって、このカップを缶本体に成形し、ここで、カップを移動させて1つ以上の壁しごきリングを連続して通すことによって、この壁しごき加工を1回のストロークで実施する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この性質の方法は、アルミニウムシートを含むラミネートに基づくEP0402006-A1に記載されている。この特許は、壁しごきリングからの提案された出口角度と、1~4°から選択されるその入口角度と、各壁しごき工程後の外部冷却との組み合わせを使用することによって、このラミネートの処理に関する問題を解決することを提案している。この特許はまた、壁しごきリングに対する特定の材料の選択を提案している。
【0003】
従来技術の方法による金属シートおよびポリマー層に基づくラミネートから缶本体を製造するための壁しごき加工により、様々な問題が発生する可能性があることが見出されている。これらの問題のいくつかは、ポリマーコーティングされた金属基材を処理する応用技術に関連する。ポリマー層は金属シートよりも柔軟である。そのようなラミネートの壁しごき加工の間、缶本体の開口端近くのポリマー層が、パンチとダイとの間に挟まれる可能性があり、その結果、ポリマー糸(polymer threads)(「毛(hairs)」)が形成されるリスクが存在する。
【0004】
これらの毛の形成を防止する必要がある。なぜなら、缶から外れた毛は、壁しごきツールを汚染する、あるいは、缶本体の内部に残存する可能性があるためである。これが起こった場合、毛が充填された缶に残存する可能性があるため、缶を洗浄して乾燥させることによって毛を除去する必要がある。
【0005】
壁しごき加工の間、コーティング自体のせん断力(shear force)が過剰に高くなる可能性がある。この過剰なせん断は、ポリマー層を損傷するリスクの増加をもたらす。損傷の1つのタイプは、いわゆるスカッフィング(scuffing)と呼ばれ、スカッフィングはコーティングに損傷を与え、金属基材と壁しごきツールとの接触および/または視覚的に許容できない缶壁の仕上がりを引き起こす可能性がある。あるいは、非常に深刻なケースでは、缶体壁の破裂を引き起こす可能性がある。したがって、変形挙動の変化が、できる限り滑らかに実施されることが重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、缶本体の壁縁での毛の形成を防止する壁しごき加工のための方法および装置を提供することである。
【0007】
また、本発明の目的は、ラミネートの滑らかな変形挙動を提供する壁しごき加工のための方法および装置を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、様々な処理段階における様々な処理システムを示す図である。
図2図2は、両側にポリマーフィルムを備えた場合における、ポリマーコーティングされた金属シートの概略的な断面を示す図である。
図3図3は、後端部1a、移行部1bおよび前端部1c、ならびに接続点14および15を備えたパンチの概略部分および誇張部分、そして、移行部におけるテーパ角度(φ)の意味を示すための切り抜きを示す図である。
図4図4は、壁しごき加工の操作の詳細を示す図である。
図5図5は、(円錐台の)入口面および出口面の間にランド領域がある壁しごきリングの作業面の細部を概略的に示す図である。
図6図6は、顕著な毛の形成を伴う直線的なパンチによる従来技術の方法の例(A)を示し、下半分(B)では、本発明によるパンチが毛の形成を示さないことを示す図である。
図7図7Aは、本発明の移行部の形状を概略的に示し、図7BおよびCは、D0とD1との間の直線的な移行について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上記目的の1つ以上は、独立請求項1および従属請求項2~6に記載の方法で達成される。
【0010】
第2の態様によれば、本発明は、独立請求項7および従属請求項8~12による装置においても具現化される。
【0011】
片側がポリマー層でコーティングされた金属シートから、底部および管状本体部を備える缶本体を製造する方法は、最初に、金属シートから円形ディスクを製造し、次いで、このディスクをカップに深絞り加工し、ここで、カップの外側に上記ポリマー層が設けられており、次いで、このカップを再絞り加工し、次いで、壁しごき加工によって缶本体に成形し、ここで、パンチを使用して、再絞り加工されたカップを移動させて1つ以上の壁しごきリングを連続して通すことによって、壁しごき加工を一回のストロークで実施することを含む。好ましくは、金属シートは鋼シートである。
【0012】
本発明によるパンチは、直径がD1である一方の部分よりも大きい直径D0である他方の部分(D0>D1)を有する2つの円筒状部分を備える。パンチの直径がパンチの前端部の大径D0からパンチの後端部の小径D1へと急激に移行することなく徐々に減少する移行部によって、両方の円筒状部分は分離されている。本発明によれば、この緩やかな減少は、滑らかである必要があり、急激な変化は存在してはならない。移行部におけるこれらの不連続性はまた、壁しごき加工プロセスに不連続性を引き起こし得、したがって、ポリマー層の損傷または壁しごき加工プロセスにおける妨害の原因となり得る。これは、通常、高速および大容量において発生する。
【0013】
D0からD1への緩やかな減少は、いくつかの方法で達成可能である。例として、しかしそれに限定されることなく、減少は、tanh関数を使用して説明可能である。図7Aは、移行部の形状を概略的に示しており、D0からD1への減少が誇張されている。しかしながら、減少の形状は、tanh(x)で表され、図7Aでは一次および二次導関数もプロットされている。一次導関数の滑らかさは、移行部に不連続性がないことを示し、二次導関数は、移行部に変曲点が((0,0)で)存在することを示し、これは、二次導関数の値がこの点で符号が変化しているためである。テーパ角度(tapering angle)(φ)は一定でない。変曲点の存在は必須であり、なぜなら、それ以外の場合、移行部と後端部との接続点または移行部と前端部との接続点で滑らかな移行はあり得ないからである。しかしながら、変曲点が移行部の正確に真ん中である必要はない。適切な関数または関数の組み合わせを選択することにより、変曲点を一方または他方の接続点に近づけることができる。図7BおよびCは、D0とD1との間の同一の直線的な移行を示している。この移行は滑らかではなく、一次導関数に不連続性を有し、変曲点が存在しないことは明らかである。キンク(kinks)における二次導関数の値は0から無限大になり、ゼロに戻るため、符号の変化はない。
【0014】
D0からD1への移行が滑らかかつ緩やかであり、テーパ角度(φ)が一定でないことが必須であり、接続部における移行部から後端部または前端部への移行も滑らかであることが好ましい。したがって、これを可能にする移行を説明する関数を選択する必要がある。図7Aに示すように、先端でのtanh(x)の接線は、一次導関数の値がほぼゼロになるようなものである。後端部および前端部は円筒状であり、好ましくは一定の直径であるため、後端部または前端部を表す関数(すなわち直線)の値は、一次導関数のゼロの値を有する。これにより、接続点におけるtanh(x)と後端部または前端部との間の移行を滑らかにすることができる。
【0015】
一直線のテーパ(taper)はまた、一定のテーパ角度のために、D0からD1への直径の緩やかな減少を提供するが、滑らかな減少は提供しないことに留意されたい。図7Bおよび7Cのテーパ関数(tapered function)を選択すると、キンクは機械加工され、機械加工の結果として常に非常に小さな半径になる。しかしながら、この小さな半径では、移行はテーパになり、テーパ角度(φ)は一定である。この場合、変曲点は存在しない。テーパ角度が一定である場合、二次導関数の曲線は、符号を変化させないが、ゼロになり、一直線のテーパの末端に到達した場合にのみ符号を変化させる。本発明によるパンチは、一直線のテーパを有さないことに留意されたい。ポリマーコーティングされた金属基材をこのようなパンチで処理する場合、テーパ角度が0からφに変化する移行と、テーパ角度がφから0に変化する移行とで、ポリマーは配向を変化させる必要がある。各移行が急激であり、滑らかではなく、したがって、壁しごき加工プロセス中に材料の流れに不規則性を引き起こす可能性があり、不規則性はプロセス中の損傷または妨害の原因となり得る。
【0016】
使用される金属シートは、
非コーティング鋼シート(ブラックプレート)、
錫コーティング鋼シート(ブリキ)、
クロム-クロム酸化物コーティング鋼シート(ECCS)、
拡散アニーリングによって80%以上のFeSn(50原子%の鉄および50原子%のスズ)からなる鉄-スズ合金が表面に形成されたブリキ、
3価クロム電解液からの電気めっきにより製造されたクロム-クロム酸化物コーティング鋼シート(TCCT)
からなる金属シートの群から選択されることが好ましい。また、第1の壁しごきリングの入口角度(α)は3.5~4.5°であり、第1の壁しごきリングの出口角度(β)は2.5~3.5°であることが好ましい。
【0017】
したがって、本発明は、i).非コーティング鋼シート(ブラックプレート)、ii).錫コーティング鋼シート(ブリキ)、iii).クロム-クロム酸化物コーティング鋼シート(ECCS)、iv).拡散アニーリングによって80%以上のFeSn(50原子%の鉄および50原子%のスズ)からなる鉄-スズ合金が表面に形成されたブリキ、またはv).3価クロム電解液からの電気めっきにより製造されたクロム-クロム酸化物コーティング鋼シート(TCCT)からなる群から選択された金属シートを使用する場合、本発明による1つまたは複数の壁しごきリングの利点は、壁しごき加工中の毛の形成が防止または最小化されることであるという事実にある。複数のリングを使用する場合、後続の壁しごきリングの入口角度は、それぞれ、前の壁しごきリングの入口角度よりも小さい必要がある。第1の壁しごきリングに続く第2以降の壁しごきリングでは、スカッフィングを防止するために、入口角度をより小さくする必要がある。第1の壁しごきリングの膨張力(expansion force)が過剰になるのを防止するために、この第1の壁しごきリングの入口角度は3.5~4.5°である必要があることが見出された。
【0018】
壁しごきリング6および7の入口角度αを上記の条件に適合させると、形成される缶本体9の表面に関して良好な結果が得られることが見出された。その良好な結果とは、壁しごきリングに許容できないほど高い膨張力を生じず、そして最も重要なのは毛が存在しないことである。このような良好な結果は、例えば、壁しごきリング6および7の入口角度αが、例えば、それぞれ4°および2°になるように選択される場合に得られる。上述のようにポリマーコーティングの材料を選択すると、コーティングが無傷の缶が得られ、毛が形成されるリスクまたはコーティングが金属床(metal base)から分離するリスクは無視することができる。
【0019】
好ましくは、本発明による方法は、外部冷却剤なしで使用される。外部冷却剤に関して、EP0402006-A1のように壁しごき加工の操作中に缶に直接適用される冷却剤を意味する。冷却剤はまた、通常、潤滑剤を含み、あるいは、それ自体で潤滑作用を提供して、壁しごき加工の操作を容易にする。本発明による方法では、ポリマー層が潤滑作用を提供する。パンチおよび/または壁しごきリングもしくは壁しごきリング間のスペーサーの内部冷却の形で内部冷却を使用することが可能である。この場合、いかなる外部冷却剤も必要ない。乾式処理(dry process)と呼ばれるこの処理は、処理に必要な大量の冷却剤によって妨害されることはなく、缶本体をリンスして余分な冷却剤を除去し、その後に乾燥する必要もない。
【0020】
ポリマー層は、それぞれが特定の特性を有する2つ以上の層を備えることが好ましい。基材両側に3層ポリマーコーティングシステムを使用することが好ましい。基材両側の3層のコーティングは、接着層、メイン層、表面層で構成されている。表面層は、界面特性、例えば、剥離性が最適化され、接着層によって鋼への最適な接着が提供され、メイン層はより一般的な機能、例えば、バリア特性を提供する機能を有する。下記の表に概要を示す。
【0021】
発明者らは、長さLを有する円筒状ランド領域が各壁しごきリングの入口と出口との間に存在し、Lが0.6mm以下、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.3mm以下であり、好ましくは、第1の壁しごきリングのLは、第2の壁しごきリングのLとは異なる場合に有益であることを見出した。
【0022】
壁しごき加工された缶本体は、パンチおよび缶本体の内面の滑らかさと、缶に保持された張力との結果として、パンチに対して非常にきつく接着することがある。一実施形態において、第2の壁しごきリングにおける減少(RED2:the reduction in the second wall-ironing ring)、または2つより多くの壁しごきリングが使用されている場合、最後の壁しごきリングにおける減少(RED_Last:the reduction in the last wall-ironing ring)は、缶本体の張力を除去するように選択され、これにより、パンチからの缶本体のストリッピング(stripping)が容易になる。この目的のためのRED2による減少(またはRED_Last)は、好ましくは低く選択され、好ましくは0.1~10%である。
【0023】
好ましい実施形態において、第1の壁しごきリングで10~60%のRED1値だけカップの壁厚を減少させ、存在する場合、第2の壁しごきリングで0.1~30%のRED2値だけカップの壁厚をさらに減少させる。より好ましくは、第1の壁しごきリングで20~55%のRED1値だけ減少させ、かつ/あるいは、第2の壁しごきリングでカップの壁厚を、2%以上、好ましくは5%より大きなRED2値だけさらに減少させる。
【実施例
【0024】
フィルムラミネート加工によって、厚み0.10~0.50mmの鋼ストリップの片側(缶の外側になる側)に合計厚み30μmの3層ポリマーコーティングシステムを適用する。この例では、得られたコーティングされたストリップを使用して、直径73mmのカップを2つの工程で製造し、このとき、ポリマーコーティングされた側がカップの外側を形成する。第1工程において、直径150mmの円形ディスクから直径100mmのカップを深絞り加工する。第2工程において、さらなる深絞り加工操作により、このカップを最終径73mmのカップに成形する。概略図については、図1を参照されたい。このカップを壁しごき加工機に搬送し、毎分180~600ストロークの速度の壁しごき加工と、再絞りリングの後の第1の壁しごきリングおよび第2の壁しごきリングの使用とにより、カップの壁厚を減少させる。第1の壁しごきリングは、入口角度α1および出口角度β1を備え、カップの壁厚を10~60%の値(RED1)だけ減少させ、第2の壁しごきリングは、入口角度α2および出口角度β2を備え、カップの壁厚を2~25%の値RED2だけ薄く減少させる。
【0025】
【表1】
【0026】
これらの実験は、外部冷却剤を使用せずに入口角度4°および出口角度3°によって、ポリマーコーティングされたストリップの大部分で優れた結果が提供されることを示した。スカッフィングは観察されなかった。比較実験において、角度が良好な結果を得るために重要であることが示された。本発明による方法は、二酸化チタンを全くまたはごくわずかしか含まないポリマーコーティングに特に適している。しかしながら、発明者らは、研磨効果を有する硬質粒子、例えば、TiOを有するフィルムの積層(loading)のため、白い層がスカッフィングする傾向が多少強いことを見出した。しかし、これらのフィルムも請求される設定で処理可能であった。発明者らは、二酸化チタンで着色された缶の意図された外側に白いコーティングを使用する場合、第1の壁しごきリングの入口角度αが約1.5~2.5°であることが好ましいことを見出した。これは、第1の壁しごきリングの入口角度が3.5~4.5°で処理された場合、硬い二酸化チタン粒子が、フィルムへの損傷のリスクを高めるこすり洗い効果(scouring effect)を有することによって引き起こされると考えられている。本発明による方法と同様に、白い二酸化チタンで着色されたコーティングは、第1の壁しごきリングの出口角度(β)が2.5~3.5°でさらに処理可能であり、存在する場合、第2の壁しごきリングの入口角度(α)が1.5~2.5°で、出口角度(β)が2.75~3.25°でさらに処理可能である。
【0027】
【表2】
【0028】
本発明による方法によって処理することができるポリマーコーティング鋼基材は、好ましくは、重縮合物、例えば、ポリエステル、コポリエステル(PET、PBT、ポリエチレンフラノエート(PEF)、ポリ(乳酸)(PLA)を含む)または、ポリアミド、ポリオレフィン、エラストマー、結晶化可能な重付加ポリマー、または押出によってフィルムに成形可能なその他のポリマーなどに基づく。ポリマーコーティングは、1以上の層からなっていてもよい。好ましくは、ポリマーコーティング層は、ポリエチレンテレフタレート、IPA変性ポリエチレンテレフタレート、CHDM変性ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンフラノエート、ポリ(乳酸)またはそれらのコポリマーもしくはブレンドを含むか、あるいはそれらからなる。
【0029】
新規の方法および装置の手順は、添付の図でより詳細に説明されている。
【0030】
図1は、深絞り加工によって予備成形されたカップ3を、壁しごき加工によって仕上がった缶本体9に成形する方法を示す。カップ3は、再絞りスリーブ(redraw sleeve)2および再絞りダイ(redraw die)4の間に配置される。パンチ1を右に移動させると、再絞り加工工程により、カップ3が最終仕上がり缶9の内径になる。
【0031】
次いで、パンチ1によって、製造物を(この例では)2つの壁しごきリング6および7に連続して押し通す。リング8はオプションのストリッパーリング(stripper ring)である。壁しごき加工により、その最終的な壁の厚みおよび壁の長さで成形された缶本体が提供される。最後に、パンチ1をオプションの底部ツール10に向かって動かすことによって、缶本体9の底部を成形する。
【0032】
パンチ1を引っ込めることにより、缶9をパンチ1から取り外すことができ、横方向に放出することができる。オプションのストリッパーリングがこれを補助することができる。次いで、缶9は、トリミングされ、オプションでネックが付けられ、充填後に蓋が設けられる。
【0033】
図2は、例えば、壁しごきリング5を通して形成される缶壁の一部分の詳細図を提供する。パンチ1は図式的に示されている。
【0034】
壁しごきリング5の入口面は、壁しごきリングの軸方向に対して入口角度αで向かっている。形成される壁の材料の厚みは、パンチ1および壁しごきリング5の間で減少する。この材料は、実際の金属缶本体壁11と、両側にポリマー層12および13とを備える。ポリマー層12は缶本体の外側になり、ポリマー層13は缶本体の内側になり、最終的に缶の内容物と接触するようになる。図は、3層11、12、および13すべての厚みを減少させる方法を示す。
【0035】
図5は、(円錐台形の)入口面および出口面の間にランド領域を有する壁しごきリングの作業面の細部を概略的に示す。ランド領域と入口面との間の移行の半径、およびランド領域と出口面との間の移行の半径は、0.1~10mm、好ましくは0.2~5mmである。
【0036】
壁しごきリングは、好ましくは、壁しごきリングの円錐台形入口表面と円錐台形出口表面とを接続する間に位置する長さLのランド領域を備える。ランド領域は円筒状リングであり、長さが0.6mm以下、好ましくは0.5mm以下、さらにより好ましくは0.3mm以下である。
【0037】
図6は、顕著な毛の形成を伴う直線的なパンチによる従来技術の方法の例(A)を示し、下半分(B)では、本発明によるパンチが毛の形成を示さないことを示す。
本発明は、以下の発明を包含する。
[1]片側または両側がポリマーフィルム(12)でコーティングされた金属シートから、底部および管状本体部を備える缶本体(9)を製造する方法であって、
前記方法は、
コーティングされた金属シート(11)から円形ディスクを製造し、
次いで、前記ディスクをカップ(3)に深絞り加工し、
次いで、前記カップを再絞り加工し、
次いで、前記再絞り加工されたカップ(5)を壁しごき加工で缶本体(9)に成形し、ここで、パンチ(1)を使用して、前記再絞り加工されたカップ(5)を移動させて1つ以上の壁しごきリング(6,7)に連続して通すことによって、前記壁しごき加工を一回のストロークで実施する、
ことを含み、
前記方法は、
前記パンチ(1)が、直径D0の円筒状の前端部(1c)と、後端に向かう直径D1の後端部(1a)とを有し、
D1<D0であり、
前記前端部(1c)が、移行部(1b)によって前記後端部(1a)から分離されており、
前記パンチの直径が、前記移行部において徐々に減少しており、
前記パンチの前記前端部から前記後端部への前記移行部(1b)の形状が、連続した曲線であり、
前記曲線の接線と前記パンチの中心線との間のテーパ角度(α)が、前記移行部にわたって一定でなく、
前記曲線の一次導関数が、前記移行部に少なくとも1つの変曲点を有する
ことを特徴とする、前記方法。
[2]前記金属シートが鋼シートである、[1]に記載の方法。
[3]ある金属シート(11)の少なくとも1つの表面が有機樹脂(12)でフィルムラミネート加工または直接押出コーティングされることにより、前記コーティングされた金属シートが得られ、前記有機樹脂がポリエステル樹脂であり、樹脂フィルムの厚みが、単層フィルムの場合は5~100μm、多層フィルムの場合は合計5~100μmである、[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記金属シート(11)の両側が、ポリマーフィルム(12,13)でコーティングされる、[3]に記載の方法。
[5]第1の壁しごきリングの入口角度(α)が、3.5~4.5°であり、前記第1の壁しごきリングの出口角度(β)が、2.5~3.5°である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記壁しごき加工の操作中に、いかなる外部冷却剤も、前記缶本体に直接適用されない、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記金属シートが、
非コーティング鋼シート(ブラックプレート)、
錫コーティング鋼シート(ブリキ)、
クロム-クロム酸化物コーティング鋼シート(ECCS)、
拡散アニーリングによって80%以上のFeSn(50原子%の鉄および50原子%のスズ)からなる鉄-スズ合金が表面に形成されたブリキ、
3価クロム電解液からの電気めっきにより製造されたクロム-クロム酸化物コーティング鋼シート(TCCT)
からなる金属シートの群から選択される、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]パンチ(1)と1つ以上の壁しごきリング(6,7)とを備えた、
前記パンチによって、再絞り加工されたカップ(5)を前記1つ以上の壁しごきリングに通すことにより、前記再絞り加工されたカップの壁厚を減少させるための、壁しごき加工装置であって、
前記パンチ(1)は、直径D0の円筒形の前端部(1c)と、後端に向かう直径D1の後端部(1a)とを有し、
D1<D0であり、
前記前端部(1c)は、移行部(1b)によって前記後端部(1a)から分離されており、
前記パンチの直径は、前記移行部において徐々に減少し、
前記パンチの前記前端部から前記後端部への前記移行部(1b)の形状は、連続した曲線であり、
前記曲線の接線と前記パンチの中心線との間の角度は、前記移行部にわたって一定でなく、
前記曲線の一次導関数は、前記移行部に少なくとも1つの変曲点を有する、前記壁しごき加工装置。
[9]前記連続した曲線の、前記曲線と前記前端部との接続点(14)および/または前記曲線と前記後端部との接続点(15)における接線が、その両端で、それぞれ、前記前端部および/または前記後端部の接線に対して同等である(すなわち、曲線からパンチへ滑らかに移動する)、[8]に記載の装置。
[10]D0が一定であるか、あるいはD0およびD1の両方が一定である、[8]または[9]に記載の装置。
[11]第1の壁しごきリングの入口角度(α)が、3.5~4.5°であり、前記第1の壁しごきリングの出口角度(β)が、2.5~3.5°である、[8]~[10]のいずれかに記載の装置。
[12]前記第1の壁しごきリング(6)の後方に配置された追加の壁しごきリング(7)が使用され、後続の壁しごきリングの入口角度が、それぞれ、前の壁しごきリングの入口角度よりも小さい、[8]~[11]のいずれかに記載の装置。
[13]第2の壁しごきリング(7)の入口角度(α)が、存在する場合、1.75°以上および/または2.25°以下である、[8]~[12]のいずれかに記載の装置。
[14][1]~[7]のいずれかに記載の方法に従って製造された缶。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7