(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】金属基材用ポリマーコーティング組成物およびその使用
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20240205BHJP
B32B 15/09 20060101ALI20240205BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240205BHJP
B29C 63/02 20060101ALI20240205BHJP
B29C 48/21 20190101ALI20240205BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20240205BHJP
B29C 48/88 20190101ALI20240205BHJP
B29C 55/06 20060101ALI20240205BHJP
B29C 55/08 20060101ALI20240205BHJP
B29C 55/12 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B15/09 A
B65D65/40 D
B29C63/02
B29C48/21
B29C48/305
B29C48/88
B29C55/06
B29C55/08
B29C55/12
(21)【出願番号】P 2020560772
(86)(22)【出願日】2019-04-23
(86)【国際出願番号】 EP2019060298
(87)【国際公開番号】W WO2019211117
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2022-04-22
(32)【優先日】2018-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンネス、ビレム、パティアシナ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、パウル、ペニング
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-001447(JP,A)
【文献】特開2006-095892(JP,A)
【文献】特開2010-094890(JP,A)
【文献】特開平09-085917(JP,A)
【文献】特開2002-338709(JP,A)
【文献】特開2001-150621(JP,A)
【文献】特表2014-518781(JP,A)
【文献】特開2002-178471(JP,A)
【文献】特開2002-355926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
B29C 48/00-48/96
B29C 55/00-55/30、61/00-61/10
C08G 63/00-64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材(M)上にラミネートするための延伸されたポリマーフィルムであって、
前記ポリマーフィルムは、接着層(A)およびバルク層(B)を備え、
前記接着層は、前記金属基材への接着を目的とし、20~50重量%の非結晶性コポリエステルと、50~80重量%のポリブチレンテレフタレート(PBT)と、0~10重量%のポリマーおよび添加剤とを含んでなり、
前記バルク層は、91重量%以上のPBTと、9%以下のその他のポリマーおよび添加剤とからなり、
前記ポリマーフィルムは、長手方向(MDO)にのみ、幅方向(TDO)にのみ、または二軸(BO)に延伸されている、前記ポリマーフィルム。
【請求項2】
前記バルク層(B)上のトップ層(T)をさらに備える、請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項3】
前記トップ層が、95重量%以上のPBTと、5%以下のその他のポリマーおよび添加剤とからなる、請求項2に記載のポリマーフィルム。
【請求項4】
前記トップ層、前記バルク層および前記接着層に加えて、1以上のポリマー層を備える、請求項2または3に記載のポリマーフィルム。
【請求項5】
前記バルク層が、95重量%以上のPBTと、5%以下のその他のポリマーおよび添加剤とからなる、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマーフィルム。
【請求項6】
前記バルク層が、99重量%以上のPBTと、1%以下のその他のポリマーおよび添加剤とからなる、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマーフィルム。
【請求項7】
前記ポリマーフィルム中の合計PBT含有量が、88重量%以上、好ましくは90重量%以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリマーフィルム。
【請求項8】
前記ポリマーフィルム中の合計PBT含有量が、98重量%以下、好ましくは96重量%以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリマーフィルム。
【請求項9】
前記接着層の厚みが2μm以上8μm以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリマーフィルム。
【請求項10】
前記ポリマーフィルムの合計厚みが10μm以上50μm以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載のポリマーフィルム。
【請求項11】
前記非結晶性ポリエステルがPETgである、請求項1~10のいずれか一項に記載のポリマーフィルム。
【請求項12】
前記非結晶性ポリエステルが、IPA-PETである、請求項1~11のいずれか一項に記載のポリマーフィルム。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のポリマーフィルムを製造する方法であって、以下の工程:
・2つ以上の押出機において、ポリマー顆粒の適切な混合物を溶融する工程;
・前記溶融されたポリマーをフラット押出ダイに通して、前記2以上の層からなるポリマーフィルムを形成する工程;
・1以上の冷却、キャスティングまたはカレンダリングロールを使用して、前記押出されたポリマーフィルムを冷却し、固体ポリマーフィルムを形成する工程;
・前記押出されたポリマーフィルムの端部をトリミングする工程;
・長手方向(MDO)にのみ、幅方向(TDO)にのみ、または二軸(BO)に延伸力を作用させることにより、延伸ユニット内で前記固体ポリマーフィルムを延伸して、前記固体ポリマーフィルムの厚みを減少させる工程;
・必要に応じて、前記延伸されたポリマーフィルムの端部をトリミングする工程;
・必要に応じて、前記延伸されたポリマーフィルムを巻き取る工程
を含んでなる、前記方法。
【請求項14】
金属基材(M)にポリマーフィルムをラミネートして積層体を製造するための、請求項1~12に記載のポリマーフィルムまたは請求項13に記載の方法で製造されたポリマーフィルムの使用であって
、
前記金属基材(M)および前記ポリマーフィルムをラミネート装置に通し、前記ポリマーフィルムを前記金属基材に熱接着させることにより、延伸されたポリマーフィルムを前記金属基材上にラミネートして、ポリマーコーティングされた基材を製造し、
次いで、前記ポリマーコーティングされた基材を後加熱して、前記ポリマーフィルムの配向性および結晶性を低下させ、
次いで、前記後加熱されたポリマーコーティングされた基材を冷却する、好ましくは高速冷却または急冷することにより
、
前記金属基材(M)に前記ポリマーフィルムをラミネートして前記積層体を製造するための前記使用。
【請求項15】
人間または動物が消費する食料または飲料を包装する容器または容器部品の製造に使用するための、請求項14に記載の
使用により製造された積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基材をコーティングするための、特に包装用鋼基材をコーティングするためのポリマーコーティング組成物、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーでコイルコーティングされた包装用鋼(polymer coil-coated packaging steels)は、ますます注目を集めている。シートおよびコイルのラッカーシステム(sheet and coil lacquered systems)と比較した場合の利点には、コーティング塗布時に揮発性有機化合物(VOC)がないこと、塗布プロセスの品質が一貫していること、および製品に食品法上の問題がないことが挙げられる。Tata Steelは、2000年からポリマーコーティングされた包装用鋼(Protact(登録商標))を供給している。製品は、主に食品市場(端部、深絞り缶、2ピース缶)で売り出されており、最も頻繁に適用されるポリマーコーティングは、PETおよびPPである。このようなポリマーコーティングを鋼基材に接着させることは、プロセス中で最も困難な作業の1つと考えられている。以前に、(化学的に)修飾されたPETおよびPP樹脂を使用することで接着を確立することができることが示された。しかしながら、製缶および食品産業におけるポリマーストリップの処理の際に、製品は、非常に要求の厳しい処理、例えば、成形(深絞り加工または壁しごき加工)、感熱印刷および滅菌に頻繁に供される。
【0003】
一般的に、缶の金属表面に様々な組成のポリエステルフィルムをラミネートして、腐食性の環境条件に対する保護バリアを提供する。これらのバリアフィルムは、通常、金属の両側にラミネートされ、その結果、容器の内側および外側の金属表面はそれぞれ、入れられた物および外部の周囲環境による劣化から保護される。食品容器の場合、容器は充填された後、レトルト処理にさらされる。レトルト処理は、通常、表面を生蒸気と一定時間接触させて缶を滅菌し、内容物を低温殺菌または部分的に調理することを含む。生蒸気とは、蒸気が容器の表面に直接接触することを意味する。蒸気は通常、過熱(すなわち、水の沸点以上に)されている。ポリマーコーティングされた容器は、これらの条件に耐えることができる必要がある。
【0004】
プラスチックラミネートされた金属容器のレトルト処理は、容器の品質に悪影響を与える可能性がある。特に関心を引く分野は、金属容器の外側にある視覚的に観察可能な欠陥であって、変色または曇ったスポットまたは領域として現れる欠陥である。缶詰業界において、この欠陥は、「かぶり(blushing)」として知られている。かぶりの防止に多くの注意が払われてきた。かぶりとは、熱処理、例えば、滅菌または低温殺菌の間に透明コーティングが白化することである。ポリエステルコーティングされた金属基材において、この現象は、そのような熱処理中の、最初は非晶質であるポリエステルコーティングの結晶化に関連していると考えられている。
【0005】
包装材料のポリマーコーティングのための好ましいポリマーフィルム組成物は、ポリエチレンテレフタレート(「PET」)である。この材料は、かぶりの影響を受けやすい。ポリマーフィルムのかぶり耐性を改善するための最も一般的な方法の1つは、少なくともポリマーフィルムの最も外側の表面で、ポリブチレンテレフタレート(「PBT」)をPETとブレンドすることに依拠している。ポリマーフィルムの最も外側の表面は、金属基材にラミネートした後の最も外側の表面でもある。
【0006】
コーティング調合物に最大60%のPBTを添加することにより、かぶりの問題を効果的に解決可能であることが知られている(EP0576682-A1、EP0685509-A1およびEP1690675-Alを参照)。EP1186633-A2には、10~70重量%のPETおよび90~30重量%のPBTを含んでなるポリエステル樹脂組成物から作製されたポリエステルフィルムが開示されている。しかしながら、このブレンドは、PETおよびPBTの間のエステル交換による損失のため、個々の成分の有益な効果が失われる。エステル交換の問題は、EP1186633のようにエステル交換を阻害するリン含有化合物を添加することで解決可能である。
【0007】
残念ながら、PBTのこの結晶性のため、金属基材への接着は不十分である。また、フィルム、特に延伸フィルムを金属基材上にラミネートする場合、ラミネートプロセスを実行するのは非常に困難な場合がある。この理由は、金属基材を高温、例えば、PBTの融点(約223℃)以上に予熱しない限り、フィルムが金属基材に付着しないためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、金属基材への熱接着または直接の押出の後に、金属基材への優れた接着性を有するポリマーフィルムを提供すると同時に、優れたかぶり防止特性を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本目的は、請求項1に記載の方法で達成される。好ましい実施形態は、従属請求項に提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、コーティング中の副層の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、かぶり試験で蒸気にさらした後の試験パネルを示す図である。
【
図3】
図3は、かぶり試験の構成の図解を示す図である。
【
図4a】
図4aは、PBT樹脂の示差走査熱量計(DSC)サーモグラムを示す図である。
【
図4b】
図4bは、PET樹脂の示差走査熱量計(DSC)サーモグラムを示す図である。
【
図4c】
図4cは、PETg樹脂の示差走査熱量計(DSC)サーモグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、コーティング調合物中のPBTの量を増加させることにより、より良好でより堅牢な非かぶり性能(non-blushing performance)が得られることを見出した。このトピックの研究の過程において、本発明者らは、先行技術のPET/PBTブレンドではなく、実質的に純粋な(ホモポリマー)PBTを使用すると、優れた結果が得られることを見出した。コーティングとして純粋なPBTを使用することには、PET/PBTブレンドを使用するよりもさらなる有利が存在する。例えば、エステル交換反応の危険性がなく、結果として、これを防止するために必要な化合物も不要になる。PBTは、非常に速く結晶化するポリマーであり、薄いフィルムまたはコーティングの形態で提供された場合、可視光を散乱しない非常に微細な結晶子をもたらす。結晶構造のため、PBTは、湿った状態で結晶化に適切な温度に加熱された場合、実質的な追加の結晶化を受けたり、粗い結晶を生成したり、あるいは、大量の水を吸収したりしない。したがって、PBTフィルムおよびコーティングは、例えば、滅菌プロセス中に、優れたかぶり耐性を提供する。
【0012】
非常に高いPBT含有量を有するポリマーフィルムの不十分な接着の問題は、20~50重量%の非結晶性コポリエステルと、80~50重量%のPBTと、必要に応じて0~10重量%のその他のポリマーおよび添加剤とからなる接着層を使用することによって、本発明に従って解決される。本発明の文脈において、非結晶性コポリエステルとは、非常にゆっくりと結晶化する(すなわち、熱処理の時間枠内に結晶化しない)コポリエステルまたはまったく結晶化しないコポリエステルを意味する。コポリエステルが結晶化するか否かは、熱分析によって比較的簡単に判断可能である。示差走査熱量計で10℃/分の加熱速度で樹脂材料を加熱し、180~280℃の温度範囲で吸熱融解ピークが存在しないことを確認することにより、結晶化が生じなかったと判断可能である。融解ピークが観察された場合は、結晶相が存在し、結晶相が存在する場合は、ポリマーが結晶化可能であると推定される(例えば、
図4a~4cを参照)。
【0013】
このような非結晶性コポリマーを接着層に添加することにより、PBTの結晶構造が破壊され、ラミネーション時に金属基材に付着させることが可能になり、様々な用途でポリマーコーティングされた材料の使用時に長期間の接着が提供される。
【0014】
しかしながら、非結晶性コポリエステルは、金属基材に接触する接着層にのみ添加されることが必須である。
【0015】
フィルムのその他の層またはすべての層に、接着性を改善するのに有効な量(20~50重量%)で非結晶性コポリエステルを添加すると、コーティングのかぶり耐性が低下する。また、金属基材のみに接触する接着層に非結晶性コポリエステルを添加する際、接着層中のコポリエステルの量が多すぎないようにする必要がある。この場合も、コーティングまたはフィルムのかぶり耐性が低下するためである。実験的調査により、本発明者らは、接着層中の非結晶性コポリエステルの量が50重量%を超える場合、コーティングのかぶり耐性が、もはや許容不可能な程度まで低下することを見出した。接着層中の非結晶性コポリエステルの量が20重量%未満である場合、金属基材に対するコーティングの接着性の改善は、もはや許容不可能な程度まで低下する。
【0016】
接着層は、必要に応じて、0~10重量%のその他のポリマーおよび添加剤を含み得る。これらの添加剤は、一般的な添加剤、例えば、離型剤、潤滑剤またはブロッキング防止剤などである。通常、これらの添加物を含むマスターバッチの形態で、これらの添加剤をポリマーに添加する。必要に応じて、離型剤および/またはブロッキング防止剤を、フィルムのトップ層(top layer)および/または接着層に添加剤として添加して、フィルムの製造後にフィルムラインの適切なフィルム巻き取りおよび巻き戻しを可能にする。ポリエステルベースのマスターバッチの形態で添加剤を添加するため、マスターバッチのポリエステルベースがPETの場合、これはフィルムの全体的なPBT含有量にもわずかな影響を及ぼす。前述の添加剤をPETキャリア樹脂に含むマスターバッチは市販されている。したがって、このマスターバッチの接着層への添加は、少量のPETの添加をも意味する。非結晶性コポリエステルの添加が請求された範囲内であるという条件において、これらの少量では、接着層の接着特性またはかぶり特性に有意な影響を与えることが見出されなかった。しかしながら、非結晶性コポリエステルおよびPBT以外のその他のポリマーの量を最小限に維持することが好ましい。
【0017】
一実施形態において、接着層は、25重量%以上、好ましくは30重量%以上の非結晶性コポリエステルを含む。一実施形態において、接着層は、45重量%以下の非結晶性コポリエステルを含む。
【0018】
一実施形態において、ポリマーフィルムは2層からなり、接着層およびバルク層(B)を備え、バルク層は、91重量%以上のPBTと、9%以下のその他のポリマーおよび添加剤とからなる。好ましくは、バルク層は、95重量%以上のPBTと、5%以下のその他のポリマーおよび添加剤とからなり、より好ましくは、バルク層は、99重量%以上のPBTと、1%以下のその他のポリマーおよび添加剤とからなる。
【0019】
別の実施形態において、ポリマーフィルムは3層からなり、バルク層(B)の上のトップ層(T)をさらに備え、バルク層は91重量%以上のPBTと、9重量%以下のその他のポリマーおよび添加剤とからなる。好ましくは、バルク層は、95重量%以上のPBTと、5%以下のその他のポリマーおよび添加剤とからなり、より好ましくは、バルク層は、99重量%以上のPBTと、1%以下のその他のポリマーおよび添加剤とからなる。
【0020】
ポリマーフィルムが3層からなる実施形態において、トップ層(T)は、91重量%以上のPBTと、9%以下のその他のポリマーおよび添加剤とからなる。好ましくは、トップ層は、95重量%以上のPBTと、5%以下のその他のポリマーおよび添加剤とからなり、より好ましくは、トップ層は、99重量%以上のPBTと、1%以下のその他のポリマーおよび添加剤とからなる。
【0021】
一実施形態において、ポリマーフィルム中の合計PBT含有量は、88重量%以上、好ましくは90重量%以上である。ポリマーフィルムの合計PBT含有量が低すぎる場合、かぶり性能は不十分になる。
【0022】
一実施形態において、ポリマーフィルム中の合計PBT含有量は、99重量%以下、好ましくは98重量%以下、より好ましくは96重量%以下、さらにより好ましくは95重量%以下である。この上限未満では、ポリマーフィルムの接着性がさらに向上し、かぶり性能を良好なレベルに維持する。
【0023】
一実施形態において、接着層の厚みは2μm以上8μm以下である。
【0024】
一実施形態において、フィルムの合計厚みは、10μm以上50μm以下、好ましくは12μm以上40μm以下、より好ましくは15μm以上35μm以下である。
【0025】
好ましい実施形態において、非結晶性ポリエステルはPETgである。
【0026】
一実施形態において、非結晶性ポリエステルはIPA-PETである。好ましくは、IPA-PET中のIPAの量は、20%以上、より好ましくは25%以上である。適切なIPA_PETのIPAは約30%である。
【0027】
一実施形態において、ポリマーフィルムは、トップ層、バルク層および接着層に加えて、1以上のポリマー層を備える。
【0028】
第2の態様によれば、本発明はまた、本発明に従ってポリマーフィルムを製造する方法であって、以下の工程:
・2つ以上の押出機において、ポリマー顆粒の適切な混合物を溶融する工程;
・前記溶融されたポリマーをフラット押出ダイに通して、前記2以上の層からなるポリマーフィルムを形成する工程;
・1以上の冷却、キャスティングまたはカレンダリングロールを使用して、前記押出されたポリマーフィルムを冷却し、固体ポリマーフィルムを形成する工程;
・前記押出されたポリマーフィルムの端部をトリミングする工程;
・長手方向(MDO)にのみ、幅方向(TDO)にのみ、または二軸(BO)に延伸力を作用させることにより、延伸ユニット内で前記固体ポリマーフィルムを延伸して、前記固体ポリマーフィルムの厚みを減少させる工程;
・必要に応じて、前記延伸されたポリマーフィルムの端部をトリミングする工程;
・必要に応じて、前記延伸されたポリマーフィルムを巻き取る工程
を含んでなる、前記方法において具体化される。
【0029】
この方法により、フィルムの製造が可能になり、延伸および必要に応じたトリミングの直後、または必要に応じた巻き取りの後に、そのフィルムを金属基材(M)にラミネートすることができる。
【0030】
第3の態様によれば、本発明はまた、加熱された金属基材(M)の片側または両側にポリマーフィルムをラミネートして積層体(laminate)を製造するための、本発明によるポリマーフィルムの使用であって、
(i)前記金属基材および前記1以上のポリマーフィルムをラミネート装置に通し、前記ポリマーフィルムを前記金属基材に熱接着させることにより、延伸されたポリマーフィルムを前記金属基材上にラミネートして、ポリマーコーティングされた基材を製造し、
次いで、前記ポリマーコーティングされた基材を後加熱して、前記ポリマーフィルムの配向性および結晶性を低下させ、
次いで、前記後加熱されたポリマーコーティングされた基材を冷却する、好ましくは高速冷却または急冷することにより、あるいは、
(ii)金属基材(M)にキャストフィルムをラミネーション(「直接押出(direct extrusion)」)し、
次いで、ポリマーコーティングされた基材を冷却する、好ましくは高速冷却または急冷することにより、
前記加熱された金属基材(M)の片側または両側に前記ポリマーフィルムをラミネートして前記積層体を製造するための前記使用においても具体化される。
【0031】
積層体は、両側に本発明によるポリマーフィルムを備えていてもよく、あるいは、片側のみに本発明によるポリマーフィルムを備え、反対側に異なるポリマーフィルムを備えていてもよい。
【0032】
第4の態様によれば、本発明はまた、金属基材の片側または両側に本発明によるポリマーフィルムでラミネートされた金属基材からなる積層体であって、人間または動物が消費する食料または飲料を包装する容器または容器部品の製造に使用するための積層体において具体化される。容器部品は、例えば、2ピース缶用の蓋または3ピース缶用の蓋および底部であり得る。
【0033】
一実施形態において、圧延方向および幅方向にわたって平均された、Ra値として表される積層体の粗さは、0.19μm以下、好ましくは0.18μm以下である。
【実施例】
【0034】
次いで、本発明を、以下の非限定的な例によってさらに説明する。
【0035】
キャストフィルムラミネーションによって、あるいは、フィルムをキャスティングおよび延伸(MDO)し、次いで、異なるフィルム組成物を使用して、ラミネーションによってフィルムをポリマー基材上にラミネートすることによって、A/B層構造およびA/B/T層構造を有するフィルムを製造した。フィルムの合計厚みは、15μmであり、接着層(A)の厚みは3μm、バルク層(B)の厚みは9μm、トップ層(T)の厚みは3μmであった。2層システム(D2S-2およびD3S-2)の場合、接着層(A)の厚みは3μm、バルク層(B)の厚みは12μmであった。バルク層は、これら2層システムのトップ層でもある。予熱された金属基材(この場合、連続アニーリングされた0.18mm ECCS Temper 67(HR30T=67)低炭素鋼)に、ポリマーフィルムをラミネートし、熱接着した。鋼基材は重要ではなく、いかなる金属基材、特に包装用途に適切ないかなる鋼基材も使用することができる。基材には、金属コーティング、例えば、クロムコーティング(ECCSなどのように)またはFeSn(EP2625319のように)またはクロム-クロム-酸化物(EP3011080のTCCT(登録商標)のように)など(ただしこれらに限定されない)を設けることができる。
表1のポリマーフィルムを金属ストリップの一方の側に、フィルムの片側にヒートシール可能な層を備える15μmの透明フィルム(Mitsubishi Hostaphan(登録商標)RHST15(PET))を金属ストリップのもう一方の側にラミネートし、得られた積層体を後加熱してポリマーフィルムを溶融し、直後に急冷した。
【0036】
【0037】
表1の「接着」の列は、ISO 2409:1992、第2版に記載されている「クロスハッチ」(ドイツ語:Gitterschnitt、GT)法の「クロスカット」で決定された接着の結果の概要を示す。モーター駆動装置に取り付けられた、それぞれ5mm間隔の4つの刃(4x5mmの形状)で構成される切削工具(Erichsenモデル295)を使用して、クロスカット試験を実施した。「-」は、接着性が不十分であることを意味する。表2に、いくつかのサンプルの詳細な結果を示す。a)脱塩水(demi-water)およびb)ボーンブロス(bone broth)中で、121℃で90分間の滅菌後、平らな(flat)材料および変形させた(deformed)材料(Erichsenドーム)で、接着性能を試験した。
【0038】
脱塩水およびボーンブロスでの滅菌後の様々なコーティングの接着性能を、表2にまとめた。表に示すように、純粋なPBTコーティングのコーティング接着性は、非結晶性コポリエステルとしてPETgを接着層に添加することで劇的に改善される。最小量の30%PETgでさえ、接着性の回復に効果的である。GTの値5は、表面の65%を超えて影響を与えることを意味する。値1は、影響を与えるのが5%未満であることを意味する。0は剥離がないことを意味する。
【0039】
【0040】
「かぶり」の列は、かぶり試験の結果を示す。表1の「+」は、かぶり性能が十分である(かぶりがまったくない、あるいは、有意なかぶりがない)ことを意味する。
【0041】
以下のように、かぶり性能を評価した(
図3およびその説明も参照)。この試験では、鍋にたっぷりと沸騰した水とつながっている開いたシリンダー(open cylinder)の上に、ポリマーコーティングされた金属基材の平らなサンプルを載置し、その結果、サンプルが開いたシリンダーを覆い、シリンダー内の明確に規定された範囲内で蒸気がサンプルに衝突するようにする。試験は15分間実行され、次いで、材料の白化変色の兆候を視覚的に検査する。
図3に、構成の図解を示す。ホットプレート(1)により、水でいっぱいにした圧力鍋型鍋(2)をたっぷり沸騰させて、蒸気を発生させる。鍋には、蓋(3)が備えられ、蓋(3)は、中央に小さな穴を有し、その穴を通って、蒸気が鍋から出る。蓋の上部の穴を覆っているのは、直径75mm、高さ50mmの開いた円筒形アダプター(4)である。寸法12x12cmのポリマーコーティングされた材料(5)の平らなサンプルを、円筒形のアダプターの上に載置し、例えば、小さな重りで、適所に維持し、レトルト処理中の蒸気の影響をシミュレートする。沸騰している水からの蒸気は、円筒形のアダプターで囲まれた領域の試験サンプルに衝突する。サンプルが開いたリングに接触するリングがはっきりと視認可能である。例えば、
図2の右下の画像では、かぶりの程度を円で判断する。この方法は、非常に定性的な尺度であるが、様々なポリマーコーティングされたサンプルをすばやく簡単に、レトルト操作を代表する方法で比較することができる。
【0042】
PBTは、主成分(好ましくは80~100%、より好ましくは90~100%)としてテレフタル酸成分(好ましくは80~100%、より好ましくは90~100%)と1,4-ブタンジオール成分との重縮合によって、連続的な固体重縮合の有無にかかわらず得られる。このPBTは、繰り返しブチレンテレフタレート構造を有し、結晶性が高く、結晶化速度が速く、Tgが低く、したがって、缶の成形に適切である。PBTは、好ましくは、以下の特性:好ましくは0.60~2.2、より好ましくは1.0~1.5の固有粘度;好ましくは50000~200000、より好ましくは80000~150000の重量平均分子量;および好ましくは1.5~5.0、より好ましくは1.5~2.5の分子量の分布(数平均分子量に対する重量平均分子量の比(D=MW/Mn))を有する。
【0043】
純粋な(ホモポリマー)PETに加えて、共重合によって修飾されたPETも利用可能である。場合によっては、コポリマーの修飾された特性が、特定の用途にとってより望ましい。例えば、エチレングリコール(EG)の代わりにシクロヘキサンジメタノール(CHDM)を、ポリマー主鎖に追加可能である。この構成要素は、置換されるエチレングリコールユニットよりもはるかに大きい(6個の追加の炭素原子)ため、エチレングリコールユニットのように隣接する鎖にフィット(fit)しない。これにより、結晶化が阻害される。一般に、このようなPETは、PETgまたはPET-G(グリコール変性ポリエチレンテレフタレート)として知られている。Eastman Chemical、SK ChemicalsおよびSelenisは、相当なPETgメーカーである。本発明の文脈においてCHDMの使用が好ましいが、PETgを生成し、非結晶性PETgを得るのに使用可能なその他のコモノマーの例は、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオールまたは1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-グルシトール(イソソルビド)である。
【0044】
別の一般的な修飾剤は、イソフタル酸であり、1,4-(パラ)結合テレフタレートユニットの一部と置換する。テレフタル酸をイソフタル酸に置換すると、PET鎖にねじれ(kink)が生じ、結晶化が阻害され、ポリマーの融点が低下する。1,2-(オルト-)結合または1,3-(メタ-)結合は、鎖に角度を生じさせ、これも結晶化度を乱す。これらのコポリエステルは、一般に、IPA-PET、A-PETまたはPETA(酸変性ポリエチレンテレフタレート)と呼ばれ、本発明によるポリマーフィルムで使用可能な非結晶性ポリエステル(例えば、30%IPAを有するIPA-PET)でもある。
【0045】
本発明によれば、ポリマーフィルムは、少なくとも2層を備える。金属基材に接触する層(「接着層」)は、20~50重量%のコポリエステル樹脂と、50~80重量%のPBTと、必要に応じた0~10重量%のその他のポリマーおよび添加剤とを含む。コポリエステル樹脂は、非結晶性であるという特性を有する。適切なコポリエステルの例は、グリコール変性ポリエステルPETg、例えば、Eastman Chemical Co.から市販されているEastar Copolyester 6763またはSK Chemicalsから市販されているSkygreenS2008である。また、IPA-PETが非結晶性であることを保証するのに十分に高いIPA修飾の量を有するIPA変性ポリエステル樹脂を使用することができる。ポリエステルが非結晶性であるか否かは、上記のように決定可能である。
【0046】
本発明で使用される非結晶性PETgは、二酸成分としてTPAを有し、ジオール成分としてEGおよびCHDMの混合物を有し、後者は、ジオール成分の約30重量%に相当する。
【0047】
接着層の上の1以上の層は、本質的にPBTからなる。適切なPBT樹脂の例は、DuPont製のCrastin FG6129、SABIC製のValox 315、Lanxess製のPocan B1600またはBASF製のUltradur B4500FCである。特定の少量の添加剤(例えば、添加剤マスターバッチの形態で添加することができるブロッキング防止剤または離型剤)を上層に使用することができる。したがって、上層は、91~100重量%のPBTと、0~9重量%のその他のポリマーおよび添加剤とからなる。
【0048】
3以上の層の場合、バルク層は実質的にPBTからなり、これは、PBTの好ましい特性に有意に影響を及ぼさないわずかな量のその他の化合物が存在してもよいことを意味すると理解する必要がある。
【0049】
制限されない様々な形態および様々な方法によって、コーティング組成物を金属基材に適用することができる。例えば、多層押出コーティングのプロセスによって、コーティング組成物を金属基材に適用することができる。
【0050】
多層押出およびキャスティングによって作製され、必要に応じて一方向または二方向に延伸された、事前に製造されたポリマーフィルム(pre-fabricated polymer film)の形態で、組成物を準備してもよい。したがって、コーティング組成物は、無配向のキャストフィルム、機械方向配向(MDO)フィルム、幅方向配向(TDO)フィルム、または二軸配向(BO)フィルムとして準備される。次いで、フィルムを巻き戻し、フィルムをラミネートニップに移送し、フィルムを金属基材にラミネートすることによって、事前に製造されたフィルムを金属基材にラミネートする。
【0051】
コーティングの厚みは特に制限されないが、コストおよび機能の間で最適化される。典型的には、ポリマーフィルムの合計厚みは、10~50μm、好ましくは12~40μm、より好ましくは15~35μmである。接着層の厚みは、典型的には2~8μm、好ましくは3~6μmである。コーティング中の副層の最小数は、接着層およびバルク層の2であり(
図1aを参照)、使用時、接着層は、金属基材およびバルク層の間に位置する。より好ましいのは、接着層A、バルク層Bおよびトップ層Tからなる3層コーティングであり、B層およびT層は、91~100重量%のPBTからなるが、必ずしも同一の組成を有する必要はない。例えば、B層は100重量%のPBTからなり、一方で、トップ層は、95~100重量%のPBTと、0~5重量%のブロッキング防止剤または離型剤とを含むマスターバッチからなっていてもよい。使用時、接着層は、金属基材およびバルク層の間に位置し、トップ層はバルク層の上に位置する。A層、B層、T層に加えて、追加の層が存在してもよい。
図1cは、トップ層の上の追加の層「X」を示し、
図1dは、トップ層およびバルク層の間の追加の層「X」を示す。これらの(およびその他の)追加の層は、本発明に従って既に存在する層によっては提供することができないある特定の機能が必要とされる場合に使用され得る。
【0052】
この例において、接着層は、非結晶性コポリマーであるPETgの様々な添加量を示す。例D1Sは、PETgを含まず、D2S~D4Sはそれぞれ、30重量%、45重量%、70重量%のPETgを含んでいた。接着層の残りの部分は、PBTと、2重量%のトップ層におけるものと同一の離型剤マスターバッチとからなっていた。AおよびTの一方または両方の層における離型剤の存在は、キャスティングおよび延伸後のポリマーフィルムの巻き取り性にとって重要である。ポリマーフィルムが基材上にラミネートされるとすぐに、接着層の離型剤は、もはや特定の機能を有さないが、トップ層の離型剤は製品の放出に有益である(ポリマーフィルムが缶の内部に使用される場合)。
【0053】
図2に、上述のかぶり試験で蒸気にさらした後の試験パネルを示す。材料D2S(左上)(30%PETg接着層)では、かぶりがまったく観察されず、材料D3S(右上)(45%接着層)では、非常に軽いかぶりしか観察されない。結果は、目視よりも写真でより顕著である。このレベルのかぶりは、許容可能と見なされる。材料D4S(左下)(70%PETg接着層)では、かぶりが非常にはっきりと観察可能であり、これは許容することができない。最後に、Mitsubishi RHST15フィルムでコーティングされた材料の裏側も、PET参照材料として試験を実施した。この場合、非常に顕著なかぶりが観察される。結果は、接着層におけるPETgが、PBTコーティングのかぶり性能に悪影響を与えることを明確に示すが、PETgの量が50%未満で維持される場合、この影響は無視することができる。
【0054】
本発明によるポリマーフィルムを金属基材上に設けた後、本発明に従って製造された積層体は、後加熱および冷却される。この後加熱および冷却は、積層体の粗さに作用する(を減少させる)。受け取った材料(as-received material)の表面粗さは、半径2μmのスキッドレスチップを備え、0.5mm/秒の移動速度で動作するBMT Expertシステムを使用して決定された。測定長さおよびカットオフ値は、JIS B 0601:2001に準拠して、それぞれ2.4mmおよび0.8mmとした。粗さのプロファイルは、鋼基材の圧延方向に対して平行および垂直に、所与のサンプルに対して3回決定され、これら6回の測定値のそれぞれからの算術平均粗さRa値が平均化された。圧延方向および幅方向にわたる平均であるRa値は、すべての場合で、0.20μm未満である(表3)。
【0055】
【0056】
図4a~4cには、ポリマーが本発明の文脈において結晶性であるか否かを決定することを可能にする、本明細書で上記された熱分析試験の例が示されている。
【0057】
以下の
図4a~4cは、様々なポリマー樹脂の示差走査熱量計(DSC)サーモグラムを示す。DSCサーモグラムは、熱流量対温度のプロットである。本グラフにおいて、y軸の正方向は発熱熱流量(「発熱(exo up)」の表現)に対応する。これは、吸熱(融解)ピークが下向きのピークとして観察されることを意味する。DSCサーモグラムは、受け取ったポリマー樹脂材料の5~20mgのサンプルを、Mettler Toledo DSC821e機器において、0℃から300℃に10℃/分の加熱速度で加熱することによって得られた。PBT(
図4a)およびPET(
図4b)の両方の樹脂は、180~280℃の温度範囲で1つ以上の吸熱(融解)ピークを示すが、PETg(
図4c)はこの温度範囲にピークを全く示さない。上記のように、融解ピークが観察された場合は、結晶相があり、結晶相がある場合は、ポリマーは結晶性であると推定される(例えば、
図4a~4cを参照)。したがって、本発明の文脈において、PETGは非結晶性と特徴付けられ、PBTおよびPETは結晶性と特徴付けられる。