(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】発酵ビールテイストアルコール飲料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12C 12/00 20060101AFI20240205BHJP
C12C 5/02 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
C12C12/00
C12C5/02
(21)【出願番号】P 2021065425
(22)【出願日】2021-04-07
【審査請求日】2021-04-09
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2020097175
(32)【優先日】2020-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】日野出 舞子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 啓介
【合議体】
【審判長】植前 充司
【審判官】磯貝 香苗
【審判官】加藤 友也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-195801(JP,A)
【文献】特開2018-198619(JP,A)
【文献】特開2016-214253(JP,A)
【文献】特開2017-176168(JP,A)
【文献】特開2018-29563(JP,A)
【文献】日本醸造協會雑誌、1976年、第71巻、第7号、pp.505-510
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C
C12G
A23L2/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食塩相当量が0.02~0.19g/100ml、原麦汁エキスが6~8%、かつ、糖質が
0.5g/100ml未満であって、塩化ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸カルシウムからなる群のうち一以上の塩が含まれる、発酵ビールテイストアルコール飲料。
【請求項2】
アルコール含有量が1~6%(v/v)である、請求項1に記載の発酵ビールテイストアルコール飲料。
【請求項3】
食塩相当量が、0.02~0.09g/100mlである、請求項1または2に記載の発酵ビールテイストアルコール飲料。
【請求項4】
麦芽使用比率が、50%以上である、請求項1~3のいずれかに記載の発酵ビールテイストアルコール飲料。
【請求項5】
食塩相当量を0.02~0.19g/100ml、原麦汁エキスを6~8%、かつ、糖質を
0.5g/100ml未満になるように調整することを含み、塩化ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸カルシウムからなる群のうち一以上の塩を添加する、発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法。
【請求項6】
食塩相当量を、0.02~0.09g/100mlになるように調整することを含む、請求項
5に記載の発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法。
【請求項7】
食塩相当量を0.02~0.19g/100ml、原麦汁エキスを6~8%、かつ、糖質を
0.5g/100ml未満になるように調整することを含み、塩化ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸カルシウムからなる群のうち一以上の塩を添加する、発酵ビールテイストアルコール飲料の呈味改善方法。
【請求項8】
食塩相当量を、0.02~0.09g/100mlになるように調整することを含む、請求項
7に記載の発酵ビールテイストアルコール飲料の呈味改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵ビールテイストアルコール飲料、特に、呈味が改善された低糖質の発酵ビールテイストアルコール飲料およびその製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
「アルコール飲料」とは、エチルアルコールを実質的な量で含有する飲料をいう。酒税法では、体積アルコール度数1%以上の飲料を酒類としている。
2018年4月の酒税法改正において、「ビール」は以下のように定義されるようになった。「ビール」とは、(イ)麦芽、ホップおよび水を原料として、これらを発酵させたもの「イ号ビール」;(ロ)麦芽、ホップ及びその他の一定の副原料(麦、米、とうもろこし、こうりやん、ばれいしよ、でんぷん、糖類又はカラメル)を原料として発酵させたものであって、その原料に使用した麦その他の一定の副原料の重量が麦芽の重量の100分の50(50重量%)以下のもの「ロ号ビール」;および(ハ)イ号又はロ号ビールにホップまたは一定の副原料を加えて発酵させたもの「ハ号ビール」である。使用できる副原料は、ホップのほか、麦芽の重量の100分の5(5重量%)の重量範囲内で、例えば、果実、コリアンダー又はその種、こしょうなどの香辛料、蜂蜜その他の含糖質物、食塩又はみそ、茶、コーヒー若しくはココアなどが挙げられる。また、「発泡酒」とは、次に掲げる酒類であって、(イ)麦芽又は麦を原料の一部とした酒類(麦芽又は麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留したものを原料の一部としたものを除く。);(ロ)イに掲げる酒類以外の酒類で、ホップ又は財務省令で定める苦味料を原料の一部としたもの;および(ハ)イ又はロに掲げる酒類以外の酒類で、香味、色沢その他の性状がビールに類似するものとして政令で定めるもののいずれかで、発泡性を有するもの(アルコール分が二十度未満のものに限る。)をいう。
本明細書において、便宜上、「ビール」および「発泡酒」を総称して、ビールテイストアルコール飲料という。さらに、「ビール」および、ビール同様の発酵工程を経て製造された発泡酒を総称して、発酵ビールテイストアルコール飲料という。
【0003】
近年の消費者の健康志向から、糖質オフ(100mlあたり2.5g以下)や糖質ゼロ(100mlあたり0.5g以下)とされる低糖質の発酵ビールテイストアルコール飲料に対する需要が高まっている。
多くの低糖質発酵ビールテイストアルコール飲料が開発され、市場に出回っている。例えば、特許文献1は、発酵飲料中の原麦汁エキスを6.0重量%以上とし、かつ糖質を0.7g/100ml以下とすることにより、発酵飲料の濃醇さやうま味を保ちながら、糖質由来の後味のキレの悪さを低減させた発酵飲料およびその製造方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-198619号公報
【文献】特開2017-176168号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】消費者庁、食品表示基準について(平成27年3月30日 消食表第139号 別添139号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、低糖質の発酵ビールテイストアルコール飲料の需要が高いが、糖質はコク感を生じさせる成分であるので、糖質の量が低減された発酵ビールテイストアルコール飲料は、ビールらしい呈味のバランスに影響する。また、低糖質発酵ビールテイストアルコール飲料を製造するには、まず、仕込段階で酵素などを使用して資化性糖を増やし、良好な状態で発酵をさせて糖質を減少させ、さらに貯蔵~製品化までの間に、ある程度ビールを希釈すればいいが、過度に希釈すると水っぽくなり、発酵ビールテイストアルコール飲料の飲み応えが低下し、苦味の粗さや後味のえぐ味が目立つようになる。
そこで、本発明は、低糖質であって、呈味のバランスのとれた発酵ビールテイストアルコール飲料を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、酒税法改正により新たに添加することが認められた副原料を用いて、低糖質発酵ビールテイストアルコール飲料の呈味バランスをとるための調査をした。その結果、適量の食塩を添加することにより、味がきりっとひきしまり、さらには、呈味のバランスがよくなって、後キレが良くなることが分かった。
ここで、酒税法で副原料として認められる「食塩」とは、日本標準商品分類で分類番号75-11として分類されるものであり、塩化ナトリウム(NaCl)の純度が99%以上のものをいう。
【0008】
特許文献2は、食塩の含有量が1mg/100mL以上であり、ナトリウムの含有量が5mg/100mL以上650mg/100mL以下であるアルコール飲料を開示する。この文献において、食塩および由来が限定されないナトリウムを所定範囲の量となるように含有することにより、アルコール飲料のアルコール感と酸味とを低減させるとともに、味により厚みを付けることを目的としている。
しかしながら、上記アルコール飲料に食塩の含有量は、0.001g/100mlと換算され、本発明のアルコール飲料に含有される食塩の量(0.04~0.19g/100ml)と比較してかなり少なく、本発明の課題である、味がきりっとひきしまり、さらには、呈味のバランスがよくなって、後キレが良くなったとはいえない。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酒税法により添加することが認められた副原料を用いて、低糖質であっても、味がきりっとひきしまった、さらには、呈味のバランスのとれた発酵ビールテイストアルコール飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、第1の局面において、灰分が0.1~0.2g/100ml、さらに好ましくは、0.1~0.16g/100ml、原麦汁エキスが10%以下、好ましくは5~10%、より好ましくは5~9.5%、さらに好ましくは6~8%であり、かつ、糖質が1.0g/100ml以下、好ましくは0.7g/100ml以下、さらに好ましくは0.5g/100ml以下である、発酵ビールテイストアルコール飲料を提供する。
【0011】
本発明の発酵ビールテイストアルコール飲料は、ある一形態において、アルコール含有量が1~9%(v/v)、好ましくは1~6%(v/v)、より好ましくは1~5%(v/v)、さらに好ましくは、1~4%(v/v)である。
【0012】
本発明の発酵ビールテイストアルコール飲料は、ある一形態において、食塩相当量が、0.02g/100ml以上または0.04g/100ml以上であり、0.19g/100ml以下または0.09g/100ml以下であり、例えば、0.02~0.19g/100mlまたは0.04~0.19g/100ml、好ましくは0.02~0.09g/100mlまたは0.04~0.09g/100mlである。
【0013】
本発明の発酵ビールテイストアルコール飲料は、ある一形態において、前記灰分に、塩化ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸カルシウムからなる群のうち一以上の塩が含まれる。
【0014】
本発明の発酵ビールテイストアルコール飲料は、ある一形態において、麦芽使用率が50%以上である。
【0015】
本発明は、第2の局面において、灰分を0.1~0.2g/100ml、さらに好ましくは、0.1~0.16g/100ml、原麦汁エキスを10%以下、好ましくは5~10%、より好ましくは5~9.5%、さらに好ましくは6~8%になるように、かつ、糖質が1.0g/100ml以下、好ましくは0.7g/100ml以下、さらに好ましくは0.5g/100ml以下になるように調整することを含む、発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法を提供する。
【0016】
本発明の発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法は、ある一形態において、食塩相当量を、0.02g/100ml以上または0.04g/100ml以上とし、0.19g/100ml以下または0.09g/100ml以下になるように、例えば、0.02~0.19g/100mlまたは0.04~0.19g/100ml、好ましくは0.02~0.09g/100mlまたは0.04~0.09g/100mlになるように調整することを含む。
【0017】
本発明の発酵ビールテイストアルコール飲料の製造方法は、ある一形態において、前記灰分に、塩化ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸カルシウムからなる群のうち一以上の塩が含まれる。
【0018】
本発明は、第3の局面において、灰分を0.1~0.2g/100ml、さらに好ましくは、0.1~0.16g/100ml、原麦汁エキスを10%以下、好ましくは5~10%、より好ましくは5~9.5%、さらに好ましくは6~8%になるように、かつ、糖質が1.0g/100ml以下、好ましくは0.7g/100ml以下、さらに好ましくは0.5g/100ml以下になるように調整することを含む、発酵ビールテイストアルコール飲料の呈味改善方法を提供する。
【0019】
本発明の発酵ビールテイストアルコール飲料の呈味改善方法は、ある一形態において、食塩相当量を、0.02g/100ml以上または0.04g/100ml以上とし、0.19g/100ml以下または0.09g/100ml以下になるように、例えば、0.02~0.19g/100mlまたは0.04~0.19g/100ml、好ましくは0.02~0.09g/100mlまたは0.04~0.09g/100mlになるように調整することを含む。
【0020】
本発明の発酵ビールテイストアルコール飲料の呈味改善方法は、ある一形態において、前記灰分に、塩化ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸カルシウムからなる群のうち一以上の塩が含まれる。
【0021】
<分析手法>
[糖質]
2015年4月1日施行の食品表示法による「食品表示基準」で定義される糖質は、式(1):
【0022】
【数1】
により算定される。また、炭水化物は、式(2):
【0023】
【数2】
で算定される。
アルコール含有食品(ここでは、ビールテイストアルコール飲料)の場合、「固形分重量」を式(2)の「総重量」と規定する。ここで、「固形分重量」は、検体100gから水分およびアルコールの重量を差し引いて得られた重量相当分を意味する。一方、いわゆる「真正エキス (wt%)」は、ビールの水分やアルコールを蒸発乾固させて、その重量相当分をwt%で表す。そうすると、アルコール含有食品中の固形分重量は、「真正エキス」とほぼ等しくなる。また、ビールテイストアルコール飲料は、実質脂質を含有しない。なお、ビール類の比重をほぼ1として、検体100gを100mlとする。
よって、式(1)および(2)と上記事項を根拠として、アルコール含有食品の糖質は、式(3):
【0024】
【数3】
と定義される。
上記式(3)に含まれる糖質以外の成分の分析方法は、当該分野で公知の分析手法を用いて決定することができる(例えば、非特許文献1)。
【0025】
[真正エキス]
真正エキスは、国際技術委員会(Brewery Convention of Japan; BCOJ)で定めたアルコライザー法により決定する。
【0026】
[タンパク質]
タンパク質量は、窒素定量換算法により算出する。まず、燃焼法またはケルダール法を用いて全窒素含有量を測定する。ここでは、BCOJで定めたケルダール法を用いる。測定された全窒素含有量に、別途、食品毎に定められた窒素・タンパク質換算係数を乗じてタンパク質量を決定する。ビールテイストアルコール飲料に対しては、前記係数として6.25を用いる。
【0027】
[灰分]
灰分は、直接灰化法、酢酸マグネシウム添加灰化法または硫酸添加灰化法で決定する。ここでは、直接灰化法を用いる。
【0028】
[食物繊維]
食物繊維は、高速液体クロマトグラフ法またはプロスキー法により決定する。ここでは、高速液体クロマトグラフ法を用いる。
【0029】
[食塩相当量]
まず、ナトリウムの含量を、原子吸光光度法(灰化法)または誘導結合プラズマ発光分析法によって測定する。つぎに、測定されたナトリウム含量が全てNaCl由来であると仮定して、式(4):
【0030】
【0031】
本発明のビールテイストアルコール飲料は、例えば、以下に説明する方法により製造することができる。本明細書における発酵飲料とは、発酵原料の種類にかかわらず、発酵原料を酵母により発酵させる発酵工程を経て製造される飲料を意味する。また、発酵ビールテイストアルコール飲料とは、発酵工程を経て製造される飲料であって、ビールらしさを有する飲料を意味する。具体的には、ビール、発泡酒、リキュール等が挙げられる。なお、本発明でいうビールテイストアルコール飲料とは、発酵工程を経ず、香料などを添加して製造することもできる。
【0032】
発酵原料とは酵母を使用して発酵させることができるビールテイストアルコール飲料の原料をいう。発酵原料には、麦芽、穀類及び副原料が含まれる。副原料とは、麦芽と穀類以外の発酵原料を意味する。該副原料としては、例えば、大麦、小麦、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃん等のデンプン原料、及び液糖や砂糖等の糖原料が挙げられる。液糖とは、澱粉質を酸又は糖化酵素により分解、糖化して製造されたものが主であり、主にグルコース、マルトース、マルトトリオース等が含まれる。また、ショ糖液糖のように、単にショ糖を水に溶解した液糖も存在する。
【0033】
発酵飲料の製造方法は、発酵原料液に酵母を接種して発酵させる発酵工程を有する。酵母を接種する前の発酵原料液又は前記発酵工程中の発酵液に、アルコール類を添加することもできる。
【0034】
発酵原料液等に添加するアルコール類の量は、目的の製品品質、特に最終製品たる発酵飲料の目的とするアルコール濃度を考慮して適宜調整できる。例えば、発酵原料液等に添加するアルコール類の量としては、添加したアルコール類により、製造される発酵飲料のアルコール濃度が1容量%以上増大させられる量が好ましく、製造される発酵飲料のアルコール濃度が1~4容量%増大させられる量がより好ましい。
【0035】
発酵原料液等に添加するアルコール類としては、アルコールを含むものであれば特に限定されるものではなく、例えば、原料用アルコールであってもよく、スピリッツ、ウィスキー、ブランデー、ウオッカ、ラム、テキーラ、ジン、焼酎等の蒸留酒であってもよい。本発明に係る発酵飲料の製造方法において用いられるアルコール類としては、発酵飲料の呈味性に対してあまり影響を与えることなくアルコール濃度を高められることから、原料用アルコールや、ウオッカ等の特徴的な香味が少ない蒸留酒が好ましく、原料用アルコールがより好ましい。
【0036】
発酵飲料の製造方法において、アルコール類を添加する時期は、仕込工程以降であればよいが、発酵工程にアルコール類を添加する場合には、添加したアルコール類を充分に発酵液と馴染ませることができるため、アルコール類を添加した後にも発酵が充分に進行することが好ましい。具体的には、例えば、アルコール類を添加した後の発酵液のアルコール濃度が、発酵完了までの間にアルコール類添加時点よりも1容量以上は増大するように、アルコール類を添加することが好ましい。
【0037】
発酵開始前にアルコール類を添加する場合、発酵原料液にアルコール類を添加して混合した後に酵母を接種してもよく、発酵原料液に酵母を接種した後にアルコール類を添加して混合し、発酵を開始してもよい。また、発酵原料液を予め、酵母を接種する第1の液汁と、アルコール類を混合する第2の液汁とに分けて調製し、両者を混合して発酵を開始させてもよい。発酵原料を含む第1の液汁と発酵原料とアルコール類を含む第2の液汁とをそれぞれ別個に調製し、第1の液汁に酵母を接種した後、当該第1の液汁とアルコール類を含む第2の液汁とを混合して得られた混合物(酵母を接種した発酵原料液)を発酵させる。
【0038】
前記第1の液汁と前記第2の液汁は、互いに混合しやすいように、比重が実質的に同一なるように調製されることが好ましい。例えば、前記第1の液汁と前記第2の液汁の比重値の差が、0.017以下となるように調製されることが好ましく、0.010以下となるように調製されることがより好ましい。また、前記第1の液汁と前記第2の液汁の比重値は、両方とも1.030~1.047の範囲内であることも好ましい。
【0039】
なお、本明細書において、液汁や発酵原料液の比重値は、固有振動周期測定方式の密度比重計(例えば、京都電子工業株式会社製「DA-510」)により、液の温度20℃で測定された値である。
【0040】
第1の液汁と第2の液汁は、それぞれ2以上に分けて調製してもよい。第1の液汁を2以上に分けて調製した場合、各液汁にそれぞれ酵母を接種する。第1の液汁と第2の液汁を2以上に分けて調製した場合には、第1の液汁と第2の液汁は、交互に発酵タンクに投入することが好ましい。2以上に分けて調製した第1の液汁と第2の液汁を交互に投入することにより、両者が混合し易くなり、より迅速に均一な発酵原料液となる。
【0041】
酵母を接種する前の発酵原料液や発酵中の発酵液にアルコール類を添加すると、発酵が早く停止してしまい、発酵が不充分となる場合がある。発酵工程において、発酵液にガスをバブリングすることにより、発酵原料液や発酵中の発酵液にアルコール類を添加した場合でも、充分に発酵させることができる。
【0042】
バブリングに用いるガスとしては、ガスであれば特に限定されるものではないが、炭酸ガスや窒素ガスが好ましい。炭酸ガスや窒素ガスを用いてバブリングすることにより、発酵液中の溶存酸素量も低下させられるため、最終的に製造される発酵飲料中の溶存酸素量も低くすることができる。つまり、ガスバブリングにより、アルコール類を添加しても充分な発酵を行うことができる上に、保存安定性が高く、香味劣化が抑制された発酵飲料を製造することができる。
【0043】
バブリングの条件は、バブリングを行う容器の容量や大きさ、内部に含む発酵液の量等を考慮して適宜決定することができるが、流量が所定の時間で均一となる条件で行うことが好ましい。また、過度にバブリングして発酵液が起泡しないような条件で行うことも好ましい。具体的には、例えば、発酵液3000L当たり2~55L/分の割合、好ましくは2~20L/分の割合で行うことができる。
【0044】
ガスバブリングにより、発酵液中の溶存酸素が低下するため、ガスバブリングは、発酵液中の酵母の増殖が終了した後に開始することが好ましい。酵母の増殖の程度は、発酵液の浮遊酵母数を指標にして知ることができる。酵母が活発に増殖している時期には発酵液の浮遊酵母数は増大し、酵母の増殖が終了すると、酵母は沈降し、発酵液の浮遊酵母数も低下する。このため、発酵液の浮遊酵母数を経時的に測定し、浮遊酵母数のピークを確認した後に、発酵液へのガスのバブリングを開始することが好ましい。
【0045】
発酵飲料の製造方法により製造する発酵飲料が発酵ビールテイストアルコール飲料の場合、酵母を接種する前の発酵原料液又は前記発酵工程中の発酵液に、アルコール類を添加する以外は、一般的な発酵ビールテイストアルコール飲料と同様にして製造できる。一般的な発酵ビールテイストアルコール飲料は、仕込(発酵原料液調製)、発酵、貯酒、濾過の工程で製造することができる。
【0046】
まず、仕込工程(発酵原料液調製工程)として、穀物原料及び糖質原料からなる群より選択される1種以上から発酵原料液を調製する。具体的には、まず、穀物原料と糖質原料の少なくともいずれかと原料水とを含む混合物を調製して加温し、穀物原料等の澱粉質を糖化させる。糖液の原料としては、穀物原料のみを用いてもよく、糖質原料のみを用いてもよく、両者を混合して用いてもよい。穀物原料としては、例えば、大麦や小麦、これらの麦芽等の麦類、米、トウモロコシ、大豆等の豆類、イモ類等が挙げられる。穀物原料は、穀物シロップ、穀物エキス等として用いることもできるが、粉砕処理して得られる穀物粉砕物として用いることが好ましい。穀物類の粉砕処理は、常法により行うことができる。穀物粉砕物としては、麦芽粉砕物、コーンスターチ、コーングリッツ等のように、粉砕処理の前後において通常なされる処理を施したものであってもよい。用いられる穀物粉砕物は、麦芽粉砕物であることが好ましい。麦芽粉砕物を用いることにより、ビールらしさがよりはっきりとした発酵ビールテイストアルコール飲料を製造することができる。麦芽粉砕物は、大麦、例えば二条大麦を、常法により発芽させ、これを乾燥後、所定の粒度に粉砕したものであればよい。また、本発明において用いられる穀物原料としては、1種類の穀物原料であってもよく、複数種類の穀物原料を混合したものであってもよい。例えば、主原料として麦芽粉砕物を、副原料として米やトウモロコシの粉砕物を用いてもよい。糖質原料としては、例えば、液糖等の糖類が挙げられる。
【0047】
当該混合物には、穀物原料等と水以外の副原料を加えてもよい。当該副原料としては、例えば、ホップ、食物繊維、酵母エキス、果汁、苦味料、着色料、香草、香料等が挙げられる。また、必要に応じて、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ等の糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤を添加することができる。
【0048】
糖化処理は、穀物原料等由来の酵素や、別途添加した酵素を利用して行う。糖化処理時の温度や時間は、用いた穀物原料等の種類、発酵原料全体に占める穀物原料の割合、添加した酵素の種類や混合物の量、目的とする発酵ビールテイストアルコール飲料の品質等を考慮して、適宜調整される。例えば、糖化処理は、穀物原料等を含む混合物を35~70℃で20~90分間保持する等、常法により行うことができる。
【0049】
糖化処理後に得られた糖液を煮沸することにより、煮汁(糖液の煮沸物)を調製することができる。糖液は、煮沸処理前に濾過し、得られた濾液を煮沸処理することが好ましい。また、この糖液の濾液の代わりに、麦芽エキスに温水を加えたものを用い、これを煮沸してもよい。煮沸方法及びその条件は、適宜決定することができる。
【0050】
煮沸処理前又は煮沸処理中に、香草等を適宜添加することにより、所望の香味を有する発酵ビールテイストアルコール飲料を製造することができる。特にホップは、煮沸処理前又は煮沸処理中に添加することが好ましい。ホップの存在下で煮沸処理することにより、ホップの風味・香気成分を効率よく煮出することができる。ホップの添加量、添加態様(例えば数回に分けて添加するなど)及び煮沸条件は、適宜決定することができる。
【0051】
仕込工程後、発酵工程前に、調製された煮汁から、沈殿により生じたタンパク質等の粕を除去することが好ましい。粕の除去は、いずれの固液分離処理で行ってもよいが、一般的には、ワールプールと呼ばれる槽を用いて沈殿物を除去する。この際の煮汁の温度は、15℃以上であればよく、一般的には50~100℃程度で行われる。粕を除去した後の煮汁(濾液)は、プレートクーラー等により適切な発酵温度まで冷却する。この粕を除去した後の煮汁が、発酵原料液となる。
【0052】
次いで、発酵工程として、冷却した発酵原料液に酵母を接種して、発酵を行う。冷却した発酵原料液は、そのまま発酵工程に供してもよく、所望のエキス濃度に調整した後に発酵工程に供してもよい。発酵に用いる酵母は特に限定されるものではなく、通常、酒類の製造に用いられる酵母の中から適宜選択して用いることができる。上面発酵酵母であってもよく、下面発酵酵母であってもよいが、大型醸造設備への適用が容易であることから、下面発酵酵母であることが好ましい。
【0053】
発酵原料液にアルコール類を添加して混合した後に酵母を接種してもよく、酵母を接種した発酵原料液にアルコール類を添加して混合してもよい。また、発酵原料液に酵母を接
種して発酵を開始後に、アルコール類を添加してもよい。更に、前述のように、発酵原料液の一部にアルコール類を混合し、残りの発酵原料液に酵母を接種し、両者を混合して発酵を開始させてもよい。
【0054】
さらに、貯酒工程として、得られた発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させた後、濾過工程として、熟成後の発酵液を濾過することにより、酵母及び当該温度域で不溶なタンパク質等を除去して、目的の発酵ビールテイストアルコール飲料を得ることができる。当該濾過処理は、酵母を濾過除去可能な手法であればよく、例えば、珪藻土濾過、平均孔径が0.4~0.6μm程度のフィルターによるフィルター濾過等が挙げられる。
【0055】
発酵飲料の製造方法においては、アルコール類を発酵完了前または発酵完了後に添加することにより、発酵原料の使用量が少ない場合であっても、アルコール濃度の高い発酵飲料を製造することができる。つまり、本発明に係る発酵飲料の製造方法を用いることにより、発酵原料の使用量を、最終製品中の糖質濃度が0.5g/100ml未満となるように抑えた場合であっても、アルコール濃度が充分に高い発酵ビールテイストアルコール飲料を製造することができる。
【実施例】
【0056】
[製造例1]
200Lスケールの仕込設備を用いて、発酵ビールテイストアルコール飲料の製造を行った。まず、仕込槽に、20kgの麦芽の粉砕物、160Lの原料用水、及び「ショ糖9kg」グルコアミラーゼ・プルラナーゼを添加し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を、麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを適量添加した後、煮沸した。次いで、当該麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却した。当該冷麦汁をエキス9.0質量%に調整した後、前記冷麦汁を発酵槽に導入し、ビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、7日間貯酒タンク中で熟成させて低糖質発酵ビールテイストアルコール飲料のサンプルA-0(アルコール含有量:約4容量%、麦芽使用比率:70%、糖質:1.0g/100ml未満、原麦汁エキス:9.0%、苦味価10.0BU)を得た。
【0057】
[製造例2]
200Lスケールの仕込設備を用いて、発酵ビールテイストアルコール飲料の製造を行った。まず、仕込槽に、20kgの麦芽の粉砕物、160Lの原料用水、及び「ショ糖9kg」グルコアミラーゼ・プルラナーゼを添加し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を、麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを適量添加した後、煮沸した。次いで、当該麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却した。当該冷麦汁をエキス6.0%に調整した後、前記冷麦汁を発酵槽に導入し、ビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、7日間貯酒タンク中で熟成させて低糖質発酵ビールテイストアルコール飲料のサンプルB-0(アルコール含有量:約4容量%、麦芽使用比率:70%、糖質:1.0g/100ml未満、原麦汁エキス:6.0%、苦味価10.0BU)を得た。
【0058】
[製造例3および4]
サンプルA-0にイソα酸溶液を添加することによって、苦味価を調整したサンプルA-1(原麦汁エキス9.0%、苦味価 15BU)およびサンプルA-2(原麦汁エキス9.0%、苦味価 20BU)を製造した。
【0059】
[製造例5および6]
サンプルB-0にイソα酸溶液を添加することによって、苦味価を調整したサンプルB-1(原麦汁エキス6.0%、苦味価 15BU)およびサンプルB-2(原麦汁エキス6.0%、苦味価 20BU)を製造した。
【0060】
[製造例7~9]
まず、サンプルA-0とB-0を1:2の体積比で混合して、サンプルC-0(原麦汁エキス7.0%、苦味価 10BU)を得た。
次に、サンプルC-0にイソα酸溶液を添加することによって、苦味価を調整したサンプルC-1(原麦汁エキス7.0%、苦味価 15BU)およびサンプルC-2(原麦汁エキス7.0%、苦味価 20BU)を製造した。
【0061】
[製造例10~12]
まず、サンプルA-0とB-0を2:1の体積比で混合して、サンプルD-0(原麦汁エキス8.0%、苦味価10BU)を得た。
次に、サンプルD-0にイソα酸溶液を添加することによって、苦味価を調整したサンプルD-1(原麦汁エキス8.0%、苦味価15BU)およびサンプルD-2(原麦汁エキス8.0%、苦味価20BU)を製造した。
【0062】
[製造例13]
200Lスケールの仕込設備を用いて、発酵ビールテイストアルコール飲料の製造を行った。まず、仕込槽に、8.5kgの麦芽の粉砕物、160Lの原料用水、グルコアミラーゼ・プルラナーゼを添加し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を、麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップ適量及び「ショ糖20.5kg」を添加した後、煮沸した。次いで、当該麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却した。当該冷麦汁をエキス9.0質量%に調整した後、前記冷麦汁を発酵槽に導入し、ビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、7日間貯酒タンク中で熟成させて低糖質発酵ビールテイストアルコール飲料のサンプルE-2(アルコール含有量:約5容量%、麦芽使用比率:30%、糖質:0.5g/100ml未満、原麦汁エキス:9.5%、苦味価20.0BU)を得た。
【0063】
[製造例14]
200Lスケールの仕込設備を用いて、発酵ビールテイストアルコール飲料の製造を行った。まず、仕込槽に、14.0kgの麦芽の粉砕物、160Lの原料用水、グルコアミラーゼ・プルラナーゼを添加し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を、麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップ適量及び「ショ糖14.0kg」を添加した後、煮沸した。次いで、当該麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却した。当該冷麦汁をエキス9.0質量%に調整した後、前記冷麦汁を発酵槽に導入し、ビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、7日間貯酒タンク中で熟成させて低糖質発酵ビールテイストアルコール飲料のサンプルF-2(アルコール含有量:約5容量%、麦芽使用比率:50%、糖質:0.5g/100ml未満、原麦汁エキス:9.5%、苦味価20.0BU)を得た。
【0064】
[製造例15]
200Lスケールの仕込設備を用いて、発酵ビールテイストアルコール飲料の製造を行った。まず、仕込槽に、20.0kgの麦芽の粉砕物、160Lの原料用水、グルコアミラーゼ・プルラナーゼを添加し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を、麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップ適量を添加した後、煮沸した。次いで、当該麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却した。当該冷麦汁をエキス5.1質量%に調整した後、前記冷麦汁を発酵槽に導入し、ビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、7日間貯酒タンク中で熟成させて低糖質発酵ビールテイストアルコール飲料のサンプルG-2(アルコール含有量:約3容量%、麦芽使用比率:100%、糖質:0.5g/100ml未満、原麦汁エキス:5.1%、苦味価20.0BU)を得た。
【0065】
[対照例]
アサヒビール社製の商品名「アサヒスーパードライ」(原麦汁エキス11.2%、苦味価20BU)を対照サンプルとした。
【0066】
<官能検査>
パネリスト6名で官能検査を実施し、以下の評価基準で各サンプルを評価した(パネリスト6名の点数の平均値を官能評点とした)。
【0067】
【0068】
ここでは、(ア)ビールとしての飲み応えについて4以上のとき、(イ)苦味の粗さおよび(ウ)後味のえぐ味については3以下のとき、基準内であると規定する。
【0069】
(1)塩無添加
塩無添加のサンプルについて官能検査した結果を表2~4に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
[苦味価20に調製したサンプル]
原麦汁エキス濃度を7.0%以上に調整したサンプル(C-2、D-2およびA-2)が、飲み応えは4以上を示すものの、すべてのサンプルで総じて苦味の粗さが目立つ結果となった(表2)。
[苦味価15に調製したサンプル]
この場合も、上記と同様の傾向が観察され、やや苦味の粗さは抑えられたが、それでも粗い結果となった(表3)。
[苦味価10に調製したサンプル]
原麦汁エキス濃度を9.0%に高めたサンプルA-0のみ、飲み応えは4以上、苦味の粗さは3以下であり、またえぐ味も3以下と、良好な結果となった(表4)。
【0074】
(2)食塩添加(100mlあたり0.04g)
次に、食塩(99%NaCl)を0.04g/100ml添加した各サンプルについて官能検査した結果を表5~7に示す。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
[苦味価20に調製したサンプル]
原麦汁エキス6.0%のサンプルB-2aは飲み応えが4以上、苦味の粗さは3以下、後味のえぐ味も3以下と、全ての項目において基準を満たした。しかしながら、これらのサンプルは総じて苦味がまだ粗かった。原麦汁エキス濃度を9.0%に高めたサンプルA-2aが基準を満たすことから、サンプルB-2aはバラツキだと推測される。飲み応えは、原麦汁エキスを濃くしていくと、相応に飲み応えがでるが、苦味価20では、まだ苦味が粗い傾向となった(表5)。
[苦味価15に調製したサンプル]
すべての原麦汁エキス濃度において、ビールとしての飲み応え4以上、苦味の粗さ3以下、後味のえぐ味3以下となった。評価点を表3と比較しても、苦味の粗さが低下しており、これが食塩を添加した効果と考えられる(表6)。
[苦味価10に調製したサンプル]
原麦汁エキス8.0%のサンプルD-0aおよび9.0%のサンプルA-0aが飲み応え4以上を満たした。原麦汁エキス濃度が一定以上の濃醇な領域でのみ、食塩添加が飲み応えに寄与するとも考えられる(表7)。
【0079】
(3)食塩添加(100mlあたり0.09g)
次に、食塩(99%NaCl)を0.09g/100ml添加した各サンプルについて官能検査した結果を表8~10に示す。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
[苦味価20に調製したサンプル]
全てのサンプルにおいて、飲み応えが4以上、苦味の粗さおよび後味のえぐ味が3以下と、全ての項目において基準を満たした(表8)。
[苦味価15に調製したサンプル]
全てのサンプルにおいて、ビールとしての飲み応え4以上、苦味の粗さ3以下であった。原麦汁エキス濃度が高いほど、後味のえぐ味が高く、9.0%のサンプルA-1bのみ基準から若干外れたものの、総合的には良好であった(表9)。
[苦味価10に調製したサンプル]
原麦汁濃度が低いほど、ビールとしての飲み応えが低く、6.0%のサンプルB-0bのみ基準から若干外れたものの、総合的には良好であった。全てのサンプルにおいて、苦味の粗さの基準を満たした。また、原麦汁エキス濃度が高いほど、後味のえぐ味が高く、9.0%のサンプルA-1bのみ基準から若干外れたものの、総合的には良好であった(表10)。
【0084】
(4)食塩添加(100mlあたり0.19g)
次に、食塩(99%NaCl)を0.19g/100ml添加した各サンプルについて官能検査した結果を表11~13に示す。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
[苦味価20に調製したサンプル]
食塩添加による各サンプルの苦味の粗さ低減効果はあるが、その一方で、後味のえぐ味が目立ち、よりよい味感からほど遠いことがわかる(表11)。
[苦味価15に調製したサンプル]
この場合も、食塩添加による各サンプルの苦味の粗さ低減効果はあるものの、やはりえぐ味が目立つ結果となった(表12)。
[苦味価10に調製したサンプル]
この場合も、食塩添加による各サンプルの苦味の粗さ低減効果はあるものの、やはりえぐ味が目立つ結果となった(表13)。
【0089】
(5)MgCl2添加(100mlあたり0.05g)
参照のため、食塩の代わりに、MgCl2を0.05g/100ml添加した各サンプルについて官能検査した結果を表14に示す。
【0090】
【0091】
MgCl2を0.05g/100ml添加した結果、原麦汁エキス6.0%、7.0%では、えぐ味は、3以下とやや低く、味感は悪いものではなかったが、原麦汁エキスが濃くなると、えぐ味も強調される結果となった(表14)。
【0092】
(6)CaCl2添加(100mlあたり0.05g)
参照のため、食塩の代わりにCaCl2を0.05g/100ml添加した各サンプルについて官能検査した結果を表15に示す。
【0093】
【0094】
CaCl20.05g/100mlの添加効果は、表14のMgCl2添加の効果と同様の傾向を示した。原麦汁エキスが6.0%、7.0%、8.0%ではえぐ味は許容範囲内であったが、原麦汁エキスが濃い9.0%のサンプルでは、えぐ味が強調される結果となった(表15)。
【0095】
(7)高原麦汁エキス濃度(9.5%)
種々の濃度で複数種の塩を添加したより高い原麦汁エキス濃度(9.5%)の各サンプルについて官能検査した結果を表16~25に示す。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
原麦汁エキスが9.5%では、食塩、KH2PO4、CaHPO4、Ca(H2PO4)2、CaCl2、CaCO3の添加によって苦味の粗さが軽減されるが、MgSO4およびMgCl2の添加によりえぐ味が強調される結果となった(表16~25)。また、麦芽使用比率30%のサンプル(製造例13)と麦芽使用比率50%のサンプル(製造例14)を比較すると、麦芽使用比率50%のサンプルのほうが、各種塩添加により苦みの粗さは低減される傾向にあった。また、麦芽比率30%のサンプルのほうが、特にMg塩においてえぐ味が強調される結果となった。
【0107】
(8)低原麦汁エキス濃度(5.1%)
種々の濃度で食塩を添加したより低い原麦汁エキス濃度(5.1%)の各サンプルについて官能検査した結果を表26~28に示す。
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
原麦汁エキスが5.1%では、食塩の添加により、飲み応えが向上するが、添加しすぎるとえぐみが強調される傾向にある(表26~28)。
【0112】
(9)まとめ
(ア)飲み応え
原麦汁エキスが6%以上の場合、食塩添加(0.04~0.19g/100ml)しても、飲み応えに悪影響を与えることがないことを確認した。
MgCl2、CaCl2添加も同様の結果であった。
原麦汁エキスが5.1%の場合、元々の飲み応えが低いため、食塩添加(0.02~0.09g/100ml)により、飲み応えが改善された。ただし、食塩0.09g/100mlの添加では、えぐ味が強調され、好ましい香味ではなくなった。
(イ)苦味の粗さ
塩無添加の場合、非常に苦味の粗さが目立ったが、食塩添加(0.04~0.19g/100ml)により苦味の粗さが大きく改善された。
KH2PO4、CaHPO4、Ca(H2PO4)2、CaCl2、CaCO3添加も同様の結果であった。
(ウ)後味のえぐ味
食塩添加(0.04~0.19g/100ml)により後味のえぐ味が増強され、0.19g/100mlまで添加すると基準を超える結果となった。
MgCl2、MgSO4添加も同様の結果であった。
(エ)結論
食塩(99%NaCl)、MgCl2などの塩添加により、苦味の粗さが改善されるが、添加量が多すぎるとえぐ味を増強する。
よって、塩添加量の有効な範囲は、食塩相当量として、0.02~0.19g/100ml、好ましくは0.02~0.09g/100mlと判断される。
である。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明により、近年の消費者の健康志向から需要が高まっている低糖質の発酵ビールテイストアルコール飲料の呈味のバランスを改善することができる。