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特許7430693異常情報推定システム、動作解析システム、モータ制御装置、異常情報推定方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】異常情報推定システム、動作解析システム、モータ制御装置、異常情報推定方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240205BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20240205BHJP
【FI】
G05B23/02 302Y
G06Q10/04
G05B23/02 302N
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021178099
(22)【出願日】2021-10-29
(65)【公開番号】P2023067108
(43)【公開日】2023-05-16
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 純香
(72)【発明者】
【氏名】大久保 整
(72)【発明者】
【氏名】北澤 隆
(72)【発明者】
【氏名】横矢 剛
【審査官】藤崎 詔夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-055552(JP,A)
【文献】特開2019-070930(JP,A)
【文献】特開2007-170815(JP,A)
【文献】特開2001-025819(JP,A)
【文献】国際公開第2020/234961(WO,A1)
【文献】特開2008-197007(JP,A)
【文献】特開2017-194368(JP,A)
【文献】特開2020-197914(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0042570(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
G06Q 10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機構を制御する産業装置の動作に関する動作データと、前記機構が動作した結果として生じる異常の物理現象である異常現象が細かく分割された個々の現象である複数種類の単位現象の各々を特定するためのプログラムと、に基づいて、前記複数種類の単位現象のうち、前記動作によって発生した前記単位現象の前記種類の組み合わせを特定する単位現象特定部と、
前記単位現象の前記種類の組み合わせと、前記機構に発生した異常に関する異常情報の分類と、の関係を示す分類データを記憶するデータ記憶部と、
前記分類データに基づいて、前記単位現象特定部により特定された前記種類の組み合わせに関連付けられた前記異常情報の分類を特定することによって、前記異常情報を推定する異常情報推定部と、
を有する異常情報推定システム。
【請求項2】
前記異常情報推定システムは、前記産業装置が前記機構を制御するために動作した期間のうちの一部の期間の前記動作に関する前記動作データを取得する動作データ取得部を更に含み、
前記単位現象特定部は、前記一部の期間における前記動作データに基づいて、前記種類の組み合わせを特定する、
請求項1に記載の異常情報推定システム。
【請求項3】
前記異常情報推定部は、前記分類データに基づいて、前記動作で発生した異常現象を推定する異常現象推定部を有する、
請求項1又は2に記載の異常情報推定システム。
【請求項4】
前記異常情報推定部は、前記異常現象に基づいて、前記異常現象の要因である異常要因を推定する異常要因推定部を更に有する、
請求項3に記載の異常情報推定システム。
【請求項5】
前記単位現象特定部は、前記機構の種類に依存しない前記プログラムに基づいて、前記種類の組み合わせを特定し、
前記異常情報推定部は、前記機構の種類に依存する前記分類データに基づいて、前記異常情報を推定する、
請求項1~4の何れかに記載の異常情報推定システム。
【請求項6】
前記異常情報推定システムは、
ユーザによる、前記機構の種類の指定を受け付ける指定受付部と、
前記ユーザにより指定された前記機構の種類に基づいて、前記分類データを決定する決定部と、
を更に有し、
前記異常情報推定部は、前記決定部により決定された前記分類データに基づいて、前記異常情報を推定する、
請求項5に記載の異常情報推定システム。
【請求項7】
前記異常情報推定システムは、
前記異常情報の推定結果を出力する推定結果出力部と、
前記異常情報の推定結果に関連付けて、前記種類の組み合わせの特定結果を出力する単位現象出力部と、
を更に有する請求項1~6の何れかに記載の異常情報推定システム。
【請求項8】
前記単位現象特定部は、解析的手法の前記プログラムに基づいて前記動作データを解析することによって、少なくとも1以上の前記単位現象を特定する、
請求項1~7の何れかに記載の異常情報推定システム。
【請求項9】
前記単位現象特定部は、前記単位現象を推定可能な前記プログラムである機械学習モデルに基づいて、少なくとも1以上の前記単位現象を特定する、
請求項1~8の何れかに記載の異常情報推定システム。
【請求項10】
前記異常情報推定システムは、前記動作データの中から複数の異常発生部分を抽出する異常発生部分抽出部を更に有し、
前記単位現象特定部は、前記複数の異常発生部分と、前記機械学習モデルと、に基づいて、少なくとも1以上の前記単位現象を特定する、
請求項9に記載の異常情報推定システム。
【請求項11】
前記単位現象特定部は、前記単位現象が発生したタイミングを特定するタイミング特定部を有し、
前記異常情報推定部は、前記タイミングに基づいて、前記異常情報を推定する、
請求項1~10の何れかに記載の異常情報推定システム。
【請求項12】
前記単位現象特定部は、前記単位現象の順序を特定する順序特定部を有し、
前記異常情報推定部は、前記順序に基づいて、前記異常情報を推定する、
請求項1~11の何れかに記載の異常情報推定システム。
【請求項13】
前記単位現象特定部は、前記単位現象の時間間隔を計算する時間間隔計算部を有し、
前記異常情報推定部は、前記時間間隔に基づいて、前記異常情報を推定する、
請求項1~12の何れかに記載の異常情報推定システム。
【請求項14】
前記単位現象特定部は、前記動作データのうち、前記単位現象に対応する部分に関する特徴量を抽出する特徴量抽出部を有し、
前記異常情報推定部は、前記特徴量に基づいて、前記異常情報を推定する、
請求項1~13の何れかに記載の異常情報推定システム。
【請求項15】
前記単位現象特定部は、互いに異なる複数の前記動作データに基づいて、前記種類の組み合わせを特定する、
請求項1~14の何れかに記載の異常情報推定システム。
【請求項16】
前記異常情報推定システムは、前記動作データに基づいて、前記異常の発生を検知する異常検知部を更に有し、
前記単位現象特定部は、前記異常検知部により前記異常の発生が検知された場合に、前記種類の組み合わせを特定する、
請求項1~15の何れかに記載の異常情報推定システム。
【請求項17】
前記単位現象特定部は、前記産業装置の設定に関する設定情報に基づいて、前記種類の組み合わせを特定する、
請求項1~16の何れかに記載の異常情報推定システム。
【請求項18】
機構を制御する産業装置の動作に関する動作データと、前記機構が動作した結果として生じる異常の物理現象である異常現象が細かく分割された個々の現象である複数種類の単位現象の各々を特定するためのプログラムであって、前記機構の種類に依存しない複数の前記プログラムと、に基づいて、前記複数種類の単位現象のうち、前記動作によって発生した前記単位現象の前記種類の組み合わせを特定する単位現象特定部と、
前記単位現象の前記種類の組み合わせと、前記機構に発生した異常に関する異常情報の分類と、の関係を示す分類データであって、前記機構の種類に依存する前記分類データを記憶するデータ記憶部と、
前記分類データに基づいて、前記単位現象特定部により特定された前記種類の組み合わせに関連付けられた前記異常情報の分類を特定することによって、前記異常情報を推定する異常情報推定部と、
を有する動作解析システム。
【請求項19】
モータを制御するモータ制御部と、
前記モータの動作に関する動作データと、前記モータにより駆動する機構が動作した結果として生じる異常の物理現象である異常現象が細かく分割された個々の現象である複数種類の単位現象の各々を特定するためのプログラムと、に基づいて、前記複数種類の単位現象のうち、前記動作によって発生した前記単位現象の前記種類の組み合わせを特定する単位現象特定部と、
前記単位現象の前記種類の組み合わせと、前記機構に発生した異常に関する異常情報の分類と、の関係を示す分類データを記憶するデータ記憶部と、
前記分類データに基づいて、前記単位現象特定部により特定された前記種類の組み合わせに関連付けられた前記異常情報の分類を特定することによって、前記異常情報を推定する異常情報推定部と、
前記異常情報の推定結果を記憶する推定結果記憶部と、
を含むモータ制御装置。
【請求項20】
機構を制御する産業装置の動作に関する動作データと、前記機構が動作した結果として生じる異常の物理現象である異常現象が細かく分割された個々の現象である複数種類の単位現象の各々を特定するためのプログラムと、に基づいて、前記複数種類の単位現象のうち、前記動作によって発生した前記単位現象の前記種類の組み合わせを特定し、
前記単位現象の前記種類の組み合わせと、前記機構に発生した異常に関する異常情報の分類と、の関係を示す分類データに基づいて、特定された前記種類の組み合わせに関連付けられた前記異常情報の分類を特定することによって、前記異常情報を推定する、
異常情報推定方法。
【請求項21】
機構を制御する産業装置の動作に関する動作データと、前記機構が動作した結果として生じる異常の物理現象である異常現象が細かく分割された個々の現象である複数種類の単位現象の各々を特定するためのプログラムと、に基づいて、前記複数種類の単位現象のうち、前記動作によって発生した前記単位現象の前記種類の組み合わせを特定する単位現象特定部、
前記単位現象の前記種類の組み合わせと、前記機構に発生した異常に関する異常情報の分類と、の関係を示す分類データに基づいて、前記単位現象特定部により特定された前記種類の組み合わせに関連付けられた前記異常情報の分類を特定することによって、前記異常情報を推定する異常情報推定部、
としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異常情報推定システム、動作解析システム、モータ制御装置、異常情報推定方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、産業装置に関する物理量の時系列データを時間軸方向にスライドさせた複数の部分的な時系列データを利用して、産業装置の動作状態を推定する学習モデルを生成する装置が記載されている。特許文献2には、産業装置のセンサから算出された複数の特徴量から、継時的な傾向が互いに独立する有効な特徴量を抽出し、当該抽出された特徴量に基づいて、産業装置の異常を診断するシステムが記載されている。特許文献3には、診断対象となる産業装置を第1の運転モード及び第2の運転モードで動作させ、第1の運転モード及び第2の運転モードの異常の有無の組み合わせに基づいて、産業装置の異常の原因を検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-128013号公報
【文献】特開2020-153836号公報
【文献】特許第6823576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的の1つは、例えば、産業装置が制御する機構に発生した異常に関する異常情報の推定精度を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る異常情報推定システムは、機構を制御する産業装置の動作に関する動作データに基づいて、前記動作による複数の単位現象を特定する単位現象特定部と、前記複数の単位現象に基づいて、前記機構に発生した異常に関する異常情報を推定する異常情報推定部と、を有する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、例えば、産業装置が制御する機構に発生した異常に関する異常情報の推定精度が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】異常情報推定システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
図2】異常情報推定システムの概要を示す図である。
図3】異常情報推定システムの機能の一例を示す機能ブロック図である。
図4】分類データの一例を示す図である。
図5】動作データの一例を示す図である。
図6】エンジニアリングツールの画面において、異常情報の推定結果が出力される様子の一例を示す図である。
図7】異常情報推定システムで実行される処理の一例を示すフロー図である。
図8】変形例2に係る動作解析システムの機能ブロックの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[1.異常情報推定システムのハードウェア構成]
本開示に係る異常情報推定システムの実施形態の一例を説明する。図1は、異常情報推定システムのハードウェア構成の一例を示す図である。例えば、異常情報推定システム1は、産業装置10、機構20、センサ30、及びユーザ装置40を含む。異常情報推定システム1は、少なくとも1つの装置を含めばよく、図1の例に限られない。例えば、異常情報推定システム1は、産業装置10だけを含んでもよい。
【0009】
産業装置10は、機構20を制御する装置である。本実施形態では、産業装置10の一例としてモータ制御装置を説明するが、産業装置10は、何らかの機構を制御可能な装置であればよく、モータ制御装置に限られない。例えば、産業装置10は、数値制御装置、モータ制御装置を管理する上位コントローラ、PLC(Programmable Logic Controller)、ロボットコントローラ、又はセルコントローラであってもよい。CPU11は、少なくとも1つのプロセッサを含む。記憶部12は、揮発性メモリと、不揮発性メモリと、の少なくとも一方を含む。通信部13は、有線通信用の通信インタフェースと、無線通信用の通信インタフェースと、の少なくとも一方を含む。
【0010】
機構20は、産業装置10により制御される機械である。機構20は、メカと呼ばれることもある。本実施形態では、機構20の一例としてボールねじを説明するが、機構20は、任意の種類であってよく、ボールねじに限られない。例えば、機構20は、伝動ベルト又はギアであってもよい。産業装置10は、少なくとも1つの機構を制御すればよく、複数の機構20を制御してもよい。機構20は、少なくとも1つのモータを含む。例えば、機構20は、電力線を介して産業装置10に接続される。本実施形態では、機構20は、モータが連結されたボールねじ、リニアガイド、及びテーブルを含む。テーブルには、対象物が配置される。対象物は、加工又は検査といった作業の対象となる物である。対象物は、ワークと呼ばれることもある。対象物は、テーブル上に固定され、テーブルとともに移動する。
【0011】
センサ30は、産業装置10の動作に関する情報を検出する。本実施形態では、センサ30の一例としてトルクセンサを説明するが、センサ30は、任意の種類であってよく、トルクセンサに限られない。例えば、センサ30は、モータエンコーダ、振動センサ、モーションセンサ、超音波センサ、赤外線センサ、温度センサ、又はビジョンセンサであってもよい。センサ30は、機構20の一部として、機構20に組み込まれてもよい。産業装置10には、通信線又は信号線を介して少なくとも1つのセンサ30が接続されるようにすればよく、複数のセンサ30が接続されてもよい。センサ30は、ハブ等の装置を介して産業装置10に接続されてもよい。
【0012】
ユーザ装置40は、ユーザが操作する装置である。例えば、ユーザ装置40は、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、スマートフォン、又はサーバコンピュータである。CPU41、記憶部42、及び通信部43は、それぞれCPU11、記憶部12、及び通信部13と同様であってよい。操作部44は、マウス又はキーボード等の入力デバイスである。表示部45は、液晶ディスプレイ又は有機ELディスプレイである。例えば、ユーザ装置40は、通信線を介して産業装置10に接続される。ユーザは、ユーザ装置40を操作して、産業装置10の設定作業又は保守作業等の各種作業を行う。
【0013】
なお、各装置に記憶されるプログラムは、ネットワークを介して供給されてもよい。また、各装置のハードウェア構成は、種々のハードウェアを適用可能であり、上記の例に限られない。例えば、コンピュータ読み取り可能な情報記憶媒体を読み取る読取部(例えば、メモリカードスロット)、又は、外部機器と接続するための入出力部(例えば、USB端子)が含まれてもよい。この場合、情報記憶媒体に記憶されたプログラムが読取部又は入出力部を介して供給されてもよい。また、ASIC又はFPGAといった回路が、各装置に含まれてもよい。CPU11,41は、circuitryと呼ばれる構成の一例であるが、ASIC又はFPGAといった回路が、circuitryに相当してもよい。
【0014】
[2.異常情報推定システムの概要]
図2は、異常情報推定システム1の概要を示す図である。産業装置10は、記憶部12に記憶されたプログラムを実行し、所定の位置にテーブルが移動するように、機構20を制御する。機構20に何らかの異常が発生した場合、従来は、経験を積んだ技術者が、センサ30を利用して取得された産業装置10の動作データを解析していた。本実施形態の異常情報推定システム1は、技術者の経験や勘に頼ることなく、産業装置10の動作データに基づいて異常現象及び異常要因を推定することによって、トラブルシュートを可能にする。
【0015】
異常現象とは、異常要因がある状態で機構20を動作させた場合に、機構20が動作した結果として生じる異常な現象のことである。異常現象は、異常の物理現象ということもできる。異常現象は、発生するインシデントそのものということもできる。例えば、異常現象は、対象物若しくはテーブルのスリップ現象(直線的な滑り現象)、モータ軸のスリップ現象(回転的な滑り現象)、又は所定の振動現象である。
【0016】
異常要因とは、異常現象が発生した要因である。例えば、異常要因は、ヒューマンエラー又は経年劣化等により、ねじの緩み又は部品の破損等の現象が機構20に生じている状態で、異常を引き起こす原因となるものである。例えば、異常要因は、ねじが緩んでいること、加速又は減速が想定よりも大きいこと、摩擦が想定よりも弱いこと、ねじ穴に遊びがあること、テーブル等の部品のバランスが悪いこと、又はテーブル等の部品の剛性が弱いことである。
【0017】
この点、産業装置10の動作データに表れる特徴は、機構20自体に関する機構条件、機構20を制御するための指令に関する指令条件、及び機構20を制御するための設定に関する設定条件といった種々の条件に応じて異なる。このため、産業装置10の動作データから直接的に異常現象及び異常要因を推定するのは難しいと考えられる。一方、異常現象に含まれる単位現象であれば、機構条件、指令条件、及び設定条件といった条件に依存せずに特定可能と考えられる。
【0018】
単位現象とは、異常現象が細かく分割された個々の現象である。単位現象は、機構条件、指令条件、及び設定条件といった条件に依存しないように、物理的な単一の現象として定義される。異常現象は、複数の単位現象に分割可能である。異常現象に含まれる単位現象の数は、任意の数であってよく、1~5個程度であってもよいし、それ以上であってもよい。例えば、先述した異常現象「対象物若しくはテーブルのスリップ現象」であれば、テーブル上の可動範囲を滑る単位現象「滑り現象」と、テーブル上の可動範囲を滑った後の単位現象「衝突現象」と、に分けられる。異常現象「モータ軸のスリップ現象」であれば、少なくとも1個の単位現象「滑り現象」に分けられる、その後に単位現象「衝突現象」は発生しない。
【0019】
単位現象「滑り現象」は、トルクの観点であれば、正常時に比べてトルクが減少する現象、又は、所望のトルクを出せない現象ということもできる。単位現象「滑り現象」は、慣性の観点であれば、機構20の動作中に慣性が一時的に小さくなる現象ということもできる。単位現象「衝突現象」は、スパイク波形の発生ということもできる。異常現象「スリップ現象」以外の他の異常現象も同様に、機構条件、指令条件、及び設定条件といった条件に依存しないように、個々の異常現象を細かく分割した単位現象が定義されるようにすればよい。
【0020】
図2のように、機構20で何らかの異常が発生した場合、異常時の動作データが取得される。図2では、正常時の動作データ及びその平均も示しているが、これらは必要に応じて利用されるようにすればよい。産業装置10は、少なくとも異常時の動作データに基づいて、後述の解析的手法又は機械学習手法を利用して複数の単位現象を特定する。先述したように、単位現象は、機構条件、指令条件、及び設定条件といった条件に依存しないように定義されているので、動作データから直接的に特定可能である。
【0021】
産業装置10は、異常時の動作データから特定された複数の単位現象に基づいて、異常現象を推定する。単位現象は、異常現象を分割したものなので、複数の単位現象を特定すれば、動作データから直接的に推定することが難しい異常現象も推定可能である。産業装置10は、必要に応じて異常要因も推定し、異常現象及び異常要因の推定結果をユーザ装置40に出力する。ユーザ装置40は、産業装置10から取得した異常現象及び異常要因の推定結果を表示部45に表示させる。これにより、熟練した技術者の経験や勘に頼ることなく、機構20に異常が発生した場合のトラブルシュートが可能になる。以降、異常情報推定システム1の詳細を説明する。
【0022】
[3.異常情報推定システムの機能]
図3は、異常情報推定システム1の機能の一例を示す機能ブロック図である。
【0023】
[3-1.産業装置の機能]
データ記憶部100は、記憶部12を主として実現される。他の各機能は、CPU11を主として実現される。
【0024】
[データ記憶部]
データ記憶部100は、産業装置10が実行する処理に必要なデータを記憶する。例えば、データ記憶部100は、機構20を制御するためのデータとして、産業装置10の動作を示す動作プログラムと、動作プログラムにより参照されるパラメータと、を記憶する。動作プログラム自体は、ラダー言語等を利用して作成される公知のプログラムであってよい。パラメータも公知のものでってよく、例えば、機構20のモータの回転方向、回転速度、又はトルク等がパラメータに含まれている。産業装置10は、動作プログラムを実行し、必要に応じてパラメータを参照することによって、機構20に含まれるモータに対する電圧を制御する。
【0025】
例えば、データ記憶部100は、単位現象を特定するためのデータとして、解析プログラム及び機械学習モデルを記憶する。解析プログラムは、後述の解析的手法の処理で利用されるプログラムである。例えば、高速フーリエ変換等のデータ変換をする処理もこのプログラムにより実行される。データ記憶部100は、解析プログラムが参照する閾値等の設定も記憶する。機械学習モデルは、後述の機械学習手法の処理で利用されるモデルである。機械学習自体は、公知の手法を利用可能であり、例えば、CNN(Convolutional Neural Network)、R-CNN、又はSSD(Single Shot Multibox Detector)を利用可能である。機械学習モデルは、AI(Artificial Intelligence)と呼ばれることもある。機械学習モデルは、教師有り機械学習、半教師有り機械学習、又は教師無し機械学習の何れのモデルであってもよい。データ記憶部100は、機械学習モデルが畳み込み等の処理を実行するためのプログラム部分と、学習によって調整されるパラメータ部分と、と記憶する。
【0026】
例えば、データ記憶部100は、異常現象及び異常要因を推定するためのデータとして、異常現象及び異常要因の分類が定義された分類データを記憶する。分類データは、複数の単位現象と、異常現象及び異常要因と、の関係を示すデータの一例である。分類データの内容は、ユーザ装置40にインストールされるエンジニアリングツールを提供する会社が定義してもよいし、ユーザが自分で定義してもよい。
【0027】
図4は、分類データの一例を示す図である。図4では、分類データをテーブル形式で示しているが、分類データは、任意のデータ形式であってよい。例えば、分類データには、単位現象の組み合わせごとに、異常現象及び異常要因が定義されている。図4の例では、単位現象1~4といった4種類の単位現象が示されている場合を説明するが、分類データには、2種類以上の単位現象の組み合わせが示されていればよい。図4の丸印は、後述の単位現象特定部105により単位現象が特定されたことを示す。バツ印は、単位現象特定部105により単位現象が特定されなかったことを示す。
【0028】
例えば、単位現象1~4の全てが特定された場合には、異常現象1及び異常要因1が推定される。単位現象1~3が特定され、かつ、単位現象4が特定されなかった場合には、異常現象2及び異常要因2が推定される。単位現象1及び単位現象2が特定され、かつ、単位現象3及び単位現象4が特定されなかった場合には、異常現象3及び異常要因3が推定される。他の単位現象の発生有無の組み合わせも同様に、この組み合わせごとに、異常現象及び異常要因が分類データに定義されている。
【0029】
なお、図4の例では、単位現象の組み合わせと、異常現象及び異常要因と、が1対1で対応する場合が示されているが、これらは、1対多の関係であってもよいし、多対1の関係であってもよい。即ち、単位現象の組み合わせ1つに対し、異常現象及び異常要因の少なくとも一方が複数個定義されていてもよい。逆に、単位現象の複数の組み合わせに対し、異常現象及び異常要因が1つ定義されていてもよい。異常現象及び異常要因の関係も、1対1ではなく、1対多又は多対1の関係であってもよい。これらの関係は、任意の関係を定義可能である。
【0030】
また、図4の例では、特定された単位現象の種類が分類データに定義される場合が示されているが、単位現象の種類以外の情報が分類データに定義されてもよい。例えば、後述する単位現象のタイミング、順序、時間間隔、又は特徴量と、異常現象及び異常要因と、の関係が分類データに定義されてもよい。更に、単位現象に関するこれらの複数の情報の組み合わせと、異常現象及び異常要因と、の関係が分類データに定義されてもよい。即ち、図4の単位現象1~4の各々の発生有無だけではなく、発生したタイミング等も含めた組み合わせと、異常現象及び異常要因と、の関係が分類データに定義されてもよい。他にも例えば、単位現象が発生したと確率や単位現象の発生度合いといった情報が分類データに定義されてもよい。
【0031】
[機構制御部]
機構制御部101は、機構20を制御する。機構制御部101は、機構20に含まれるモータを少なくとも制御する。機構制御部101は、モータを制御するモータ制御部の一例である。モータの制御方法自体は、種々の方法を利用可能である。例えば、機構制御部101は、データ記憶部100に記憶された動作プログラムを実行し、データ記憶部100に記憶されたパラメータを参照することによって、機構20に含まれるモータに対する電圧を制御する。機構制御部101は、センサ30の検出結果に基づいて、機構20を制御してもよい。
【0032】
[動作データ取得部]
動作データ取得部102は、動作データを取得する。動作データは、産業装置10の動作に関するデータである。本実施形態では、産業装置10の動作に関する数値が動作データに時系列的に示される場合を説明するが、動作データは、ある一時点の動作を示す瞬時値であってもよい。動作データは、波形データ又はトレースデータと呼ばれることもある。例えば、動作データ取得部102は、センサ30の検出信号に基づいて、動作データを取得する。動作データ取得部102は、センサ30により検出されたトルク等の物理量を時系列的に計測し、物理量の時系列的な変化を示す動作データを取得する。動作データ取得部102は、センサ30の検出信号ではなく、動作プログラムの処理結果に基づいて、動作データを取得してもよい。即ち、動作データは、産業装置10の内部的な処理の結果を示すデータであってもよい。
【0033】
図5は、動作データの一例を示す図である。図5の例では、正常時のトルク指令を示す動作データ(実線)、異常時のトルク指令を示す動作データ(破線)、及び位置指令速度を示す動作データ(点線)が示されている。図5の横軸は時間軸であり、縦軸はトルク等の数値を示す軸である。図5のように、位置指令速度が増加する期間である加速期間と、位置指令速度が減少する減速期間と、の各々で異常が発生した場合には、トルク指令の差が大きくなる。なお、動作データ取得部102は、任意の種類の動作データを取得可能である。動作データ取得部102が取得する動作データは、図5の例に限られない。例えば、動作データ取得部102は、推定外乱トルク、位置偏差、フィードバック速度、又は振動センサの検出値といった種々の動作データを取得可能である。
【0034】
[異常検知部]
異常検知部103は、動作データに基づいて、異常の発生を検知する。本実施形態では、異常検知部103は、何らかの異常が発生したか否かを検知し、具体的な異常の内容に関する異常現象及び異常要因は、後述の異常情報推定部106により推定される。異常検知部103は、1つの動作データだけに基づいて、異常の発生を検知してもよいし、互いに異なる複数の動作データ(例えば、トルク指令を示す動作データと、振動センサの検出値を示す動作データと、の2つの動作データ)に基づいて、異常の発生を検知してもよい。異常検知部103は、少なくとも1つの動作データに基づいて、異常の発生を検知すればよい。
【0035】
例えば、異常検知部103は、正常時の動作データと、動作データ取得部102により取得された直近の動作データと、に基づいて、異常の発生を検知する。正常時の動作データは、データ記憶部100に予め記憶されているものとする。例えば、異常検知部103は、正常時の動作データと、直近の動作データと、のずれ具合が閾値未満の場合に、異常が発生していないと判定する。異常検知部103は、正常時の動作データと、直近の動作データと、のずれ具合が閾値以上の場合に、異常が発生したと判定する。このずれ具合は、任意の指標を利用可能であり、例えば、マハラノビス距離が利用されてもよい。
【0036】
なお、異常検知部103が異常の発生を検知する方法自体は、種々の方法を利用可能である。例えば、異常検知部103は、正常時の動作データを利用する方法以外にも、直近の動作データと、それよりも前の複数の時点の各々の動作データの平均値と、のずれ具合が閾値以上の場合に、異常が発生したと判定してもよい。例えば、異常検知部103は、直近の動作データが示す数値が予め定められた閾値以上の時点が所定数以上の場合に、異常が発生したと判定してもよい。異常検知部103は、直近の動作データが示す数値の時系列的な変化の変化量が閾値以上の場合に、異常が発生したと判定してもよい。
【0037】
[異常発生部分抽出部]
異常発生部分抽出部104は、動作データの中から複数の異常発生部分を抽出する。この異常発生部分は、後述の機械学習手法で利用される場合を説明するが、解析的手法で利用されてもよい。異常発生部分抽出部104は、1つの動作データの中から、複数の異常発生部分を抽出してもよいし、互いに異なる複数の動作データ(例えば、トルク指令を示す動作データと、振動センサの検出値を示す動作データと、の2つの動作データ)の中から、複数の異常発生部分を抽出してもよい。この場合、1つの動作データから抽出される異常発生部分は、1つだけであってもよいし複数であってもよい。異常発生部分抽出部104は、少なくとも1つの動作データに基づいて、複数の異常発生部分を抽出すればよい。
【0038】
異常発生部分は、動作データのうち、異常が発生した部分である。即ち、異常発生部分は、動作データに示された全期間のうちの異常が発生した期間の部分である。図5の動作データの例であれば、加速期間及び減速期間で異常が発生した場合(例えば、加速期間及び減速期間における先述のずれ具合が閾値以上の場合)、異常発生部分抽出部104は、動作データの中から、加速期間の部分と、減速期間の部分と、を抽出する。例えば、異常発生部分抽出部104は、異常が発生した時点をピンポイントで特定可能な場合、この時点の所定時間前から、この時点の所定時間後までの期間の部分を、異常発生部分として抽出してもよい。
【0039】
[単位現象特定部]
単位現象特定部105は、機構20を制御する産業装置10の動作に関する動作データに基づいて、当該動作による複数の単位現象を特定する。単位現象特定部105は、1つの動作データに基づいて、複数の単位現象を特定してもよいし、互いに異なる複数の動作データ(例えば、トルク指令を示す動作データと、振動センサの検出値を示す動作データと、の2つの動作データ)に基づいて、複数の単位現象を特定してもよい。この場合、1つの動作データから特定される単位現象は、1つだけであってもよいし複数であってもよい。単位現象特定部105は、少なくとも1つの動作データに基づいて、複数の単位現象を特定すればよい。
【0040】
単位現象を特定するとは、単位現象に関する情報を特定することである。例えば、単位現象の種類を特定することは、単位現象を特定することに相当する。単位現象を特定することは、単位現象の種類を特定することに限られず、後述するように単位現象のタイミング、時間間隔、又は特徴量を特定することを意味してもよい。他にも例えば、単位現象の発生回数又は発生頻度を特定すること、又は、単位現象に関する複数の情報を総合的に特定することが、単位現象を特定することに相当してもよい。単位現象特定部105は、動作データ取得部102により取得された動作データと、予め定められた単位現象の特定方法と、に基づいて、複数の単位現象を特定する。
【0041】
単位現象の特定方法は、単位現象を特定するためのアルゴリズムである。単位現象の特定方法を示すデータは、データ記憶部100に予め記憶されている。単位現象の特定方法は、動作データの特徴と、単位現象と、の関係に関する情報ということもできる。単位現象特定部105は、動作データの特徴に対応する単位現象を特定する。例えば、単位現象を特定するためのプログラム、このプログラムに入力される動作データの種類、このプログラムが利用する閾値、又はこれらの組み合わせは、単位現象の特定方法に相当する。
【0042】
本実施形態では、単位現象特定部105は、異常検知部103により異常の発生が検知された場合に、複数の単位現象を特定する。即ち、異常検知部103により異常の発生が検知されない場合には、単位現象特定部105は、単位現象を特定する処理を実行しない。なお、異常の発生が検知されない場合にも、単位現象特定部105は、単位現象を特定する処理を実行し続けてもよい。この場合、異常検知部103は、産業装置10に含まれなくてもよい。
【0043】
本実施形態では、単位現象特定部105は、機構20の種類に依存しない特定方法に基づいて、複数の単位現象を特定する。機構20の種類とは、機構20のタイプ又は分類ということもできる。機構20の種類に依存しない特定方法とは、機構20の種類に関係なく同じ特定方法である。例えば、ボールねじ、伝動ベルト、又はギアといった3種類の機構20が存在したとすると、単位現象の特定方法は、これらの3種類で共通である。産業装置10がこれら3種類のうちの何れを制御する場合でも、単位現象の特定方法は同じである。機構20の種類自体は、種々の種類であってよく、これら3種類に限られない。
【0044】
なお、単位現象の特定方法は、機構20の種類に依存してもよい。即ち、単位現象の特定方法は、機構20の種類に応じて異なってもよい。例えば、機構20がボールねじである場合、機構20が伝動ベルトである場合、及び機構20がギアである場合の各々で単位現象の特定方法が異なってもよい。この場合、機構20の種類ごとに、単位現象の特定方法を示すデータがデータ記憶部100に予め記憶されているものとする。単位現象特定部105は、機構20の種類に応じた特定方法に基づいて、単位現象を特定すればよい。
【0045】
本実施形態では、単位現象の特定方法の一例として、解析的手法及び機械学習手法の2つを説明する。単位現象の特定方法は、解析的手法又は機械学習手法の何れか一方だけであってもよいし、他の名前で呼ばれる手法であってもよい。
【0046】
まず、解析的手法の一例を説明する。例えば、単位現象特定部105は、解析的手法に基づいて動作データを解析することによって、少なくとも1以上の単位現象を特定する。解析的手法は、予め定められた解析方法によって動作データを解析することによって、単位現象を特定する手法である。解析的手法では、動作データの特徴が所定の特徴であるか否かを判定することによって、単位現象が特定される。例えば、解析的手法では、動作データに含まれる数値の大きさ、時系列的な変化、分布、又はこれらの組み合わせが解析される。解析的手法で利用されるプログラム及び閾値は、データ記憶部100に予め記憶されているものとする。
【0047】
例えば、単位現象特定部105は、k近傍法を利用した解析的手法に基づいて動作データを解析することによって、単位現象を特定してもよい。k近傍法は、動作データのうちの一部分に対し、この部分のうちの一時点の数値以外の数値を正常とみなし、この時点の異常度を計算する方法である。動作データの中で異常度の計算対象となる部分を枠と呼ぶとすると、時間軸方向に少しずつ枠を移動させることによって、動作データの中の複数の部分の各々に対して異常度が計算される。
【0048】
k近傍法によれば、突発的な変化がある時点の異常度が高くなる。単位現象特定部105は、k近傍法により計算した異常度に基づいて、所定の単位現象が発生したことを特定する。例えば、単位現象特定部105は、異常度が閾値以上である場合に、この閾値に関連付けられた単位現象を特定してもよいし、異常度の分布が所定の分布である場合に、この分布に関連付けられた単位現象を特定してもよい。どの動作データでどのような異常度だった場合にどの単位現象が特定されるかを定義したデータは、データ記憶部100に予め記憶されているものとする。
【0049】
例えば、単位現象特定部105は、相互相関係数を利用した解析的手法に基づいて動作データを解析することによって、単位現象を特定してもよい。相互相関係数は、複数の動作データの相関関係を示す数値である。ある単位現象が発生した時に、ある動作データと他の動作データとが連動して変化する傾向がある場合に、相互相関係数が利用される。相互相関係数の対象となる動作データは、任意の組み合わせであってよく、例えば、推定外乱トルクを示す動作データと、トルク指令を示す動作データと、であってもよい。どの動作データの組み合わせでどのような相関関係があった場合にどの単位現象が特定されるかを定義したデータは、データ記憶部100に予め記憶されているものとする。
【0050】
例えば、単位現象特定部105は、複数の動作データのうちの一部分を抽出する。この部分は、単位現象が発生した時に特徴的な変化が表れやすい部分である。この部分は、予め定められた部分であればよく、例えば、加速期間又は減速期間の全部又は一部であってもよい。単位現象特定部105は、この部分の相互相関係数を計算し、相互相関係数が閾値以上の場合に、所定の単位現象を特定する。即ち、単位現象特定部105は、複数の動作データから抽出した部分の数値の大きさ又は時系列的な数値の変化に相関関係がある場合に、所定の単位現象を特定する。相互相関係数自体は、種々の方法を利用して計算可能である。解析的手法は、k近傍法及び相互相関係数を利用した方法に限られず、他の方法であってもよい。例えば、異常発生部分の数値を閾値と単純に比較する方法、マハラノビス距離が閾値以上になる時点の数や時間間隔を利用した方法、又は高速フーリエ変換により計算された周波数に関する特徴量を利用した方法が、解析的手法として利用されてもよい。
【0051】
次に、機械学習手法の一例を説明する。例えば、単位現象を推定可能な機械学習モデルに基づいて、少なくとも1以上の単位現象を特定してもよい。本実施形態では、訓練用の動作データと、単位現象と、の関係を示す訓練データが機械学習モデルに学習済みであるものとする。機械学習モデルは、ある特定の単位現象の発生有無のみを出力してもよいし、マルチラベル(多クラス)の機械学習モデルのように、複数の単位現象の各々の発生有無を出力してもよい。他にも例えば、機械学習モデルは、単位現象が発生した確率(蓋然性)を示すスコアを出力してもよい。
【0052】
機械学習モデルには、動作データの全てが入力されてもよいが、本実施形態では、動作データのうちの一部だけが入力されるものとする。例えば、機械学習モデルの内部で異常発生部分抽出部104の処理も実行されてもよい。他にも例えば、波形を示す動作データが画像に変換されたうえで機械学習モデルに入力されてもよい。例えば、単位現象特定部105は、動作データのうちの複数の異常発生部分と、機械学習モデルと、に基づいて、少なくとも1以上の単位現象を特定する。単位現象特定部105は、個々の異常発生部分を機械学習モデルに入力し、異常発生部分ごとに、機械学習モデルからの出力を取得する。必要に応じて、機械学習モデルに入力される前に、異常発生部分が正規化されてもよい。
【0053】
機械学習モデルは、入力された異常発生部分に対し、畳み込み等の処理を実行し、単位現象の推定結果を示す情報を出力する。単位現象特定部105は、複数の異常発生部分の各々に対応する機械学習モデルの出力を総合的に考慮し、単位現象を特定する。例えば、単位現象特定部105は、機械学習モデルから取得された複数の出力に基づいて1つの評価値を計算し、この評価値が閾値以上の場合に単位現象を特定してもよい。他にも例えば、単位現象特定部105は、機械学習モデルから出力された出力が所定の結果である異常発生部分の数が閾値以上の場合に単位現象を特定してもよい。
【0054】
例えば、単位現象特定部105は、互いに異なる複数の動作データに基づいて、複数の単位現象を特定してもよい。先述した相互相関係数を利用した方法は、複数の動作データが利用される場合の一例である。例えば、単位現象特定部105は、複数の動作データの各々に対し、k近傍法を利用して単位現象を特定してもよい。例えば、単位現象特定部105は、複数の動作データの各々を機械学習モデルに入力し、機械学習モデルからの出力に基づいて、単位現象を特定してもよい。単位現象特定部105は、複数の動作データの各々を、別々の機械学習モデルに入力し、複数の機械学習モデルの各々からの出力に基づいて、単位現象を特定してもよい。
【0055】
例えば、単位現象特定部105は、単位現象が発生したタイミングを特定するタイミング特定部105Aを含んでもよい。このタイミングは、動作データが示す時間軸におけるタイミングである。例えば、タイミングは、繰り返し実行される一連の動作に対する異常が発生した相対的な時点又は期間である。タイミングは、時、期間、又は区間ということもできる。図5の動作データの例であれば、加速期間、減速期間、定速期間、又は停止後の期間といったタイミングが存在する。
【0056】
単位現象特定部105は、動作データが示す時間軸の中で、単位現象が特定される根拠となった部分のタイミングを特定する。解析的手法であれば、タイミング特定部105Aは、動作データに含まれる数値又はその変化量が閾値以上になったタイミングを特定する。機械学習手法であれば、タイミング特定部105Aは、ヒートマップ等を利用して、機械学習モデルが単位現象を特定する根拠となった部分をタイミングとして特定する。タイミング特定部105Aは、全ての単位現象のタイミングを特定してもよいし、一部の単位現象のタイミングのみを特定してもよい。
【0057】
例えば、単位現象特定部105は、単位現象の順序を特定する順序特定部105Bを含んでもよい。この順序は、動作データが示す時間軸の中で、複数の単位現象の各々が発生したタイミングの順序である。即ち、この順序は、時間的な前後関係である。順序特定部105Bは、タイミング特定部105Aにより特定された個々の単位現象のタイミングを比較することによって、複数の単位現象の各々の順序を特定する。順序特定部105Bは、全ての単位現象の順序を特定してもよいし、一部の単位現象の順序のみを特定してもよい。
【0058】
例えば、単位現象特定部105は、単位現象の時間間隔を計算する時間間隔計算部105Cを含んでもよい。この時間間隔は、動作データが示す時間軸の中で、ある単位現象が発生してから次の単位現象が発生するまでの時間的な長さである。時間間隔計算部105Cは、タイミング特定部105Aにより特定された個々の単位現象のタイミングの時間間隔を計算する。時間間隔計算部105Cは、全ての単位現象の時間間隔を計算してもよいし、一部の単位現象の時間間隔のみを計算してもよい。
【0059】
例えば、単位現象特定部105は、動作データのうち、単位現象に対応する部分に関する特徴量を抽出する特徴量抽出部105Dを含んでもよい。特徴量は、動作データが示す数値又はその変化の特徴を定量化した情報である。動作データが波形データであれば、波形の形状的な特徴は、特徴量に相当する。例えば、数値の大きさ、波形の幅、波形の形状、又はこれらの組み合わせは、特徴量に相当する。他にも例えば、数値の変化量、ある期間における平均値、又は正常データとのずれ具合といった情報が特徴量に相当してもよい。特徴量の計算式は、予めデータ記憶部100に記憶されているものとする。特徴量抽出部105Dは、動作データと、この計算式と、に基づいて特徴量を計算する。特徴量の計算対象になるのは、単位現象に対応する部分である。この部分は、単位現象が発生したタイミングを少なくとも含む部分である。この部分は、単位現象が発生したピンポイントのタイミングのみであってもよいし、このタイミングの所定時間前から所定時間後までの期間であってもよい。
【0060】
[異常情報推定部]
異常情報推定部106は、複数の単位現象に基づいて、機構20に発生した異常に関する異常情報を推定する。異常情報は、異常現象及び異常要因を包含した概念である。異常情報は、異常に関する何らかの情報であればよい。異常情報は、異常現象又は異常要因の何れか一方だけを意味してもよいし、何らかの異常の発生有無だけを示してもよい。異常情報は、異常現象が発生したタイミング等の他の情報を含んでもよい。以降の説明では、異常現象又は異常要因の何れか一方だけを推定してもよい場合には、異常情報と記載する。
【0061】
複数の単位現象と、異常情報と、の関係を示すデータは、データ記憶部100に記憶されているものとする。この関係は、単位現象の種類の組み合わせと、異常情報と、の関係に限られず、単位現象の数と、異常情報と、の関係であってもよい。異常情報推定部106は、複数の単位現象に関連付けられた異常情報を推定する。このデータは、図4の分類データのようなテーブル形式のデータに限られない。例えば、このデータは、機械学習モデルのプログラム及びパラメータであってもよく、異常情報推定部106は、機械学習モデルを利用して異常情報を推定してもよい。この機械学習モデルは、異常情報を推定するためのモデルであり、単位現象を特定するためのモデルとは異なる。この場合、機械学習モデルには、複数の単位現象と、異常情報と、の関係が学習されているものとする。
【0062】
本実施形態では、異常情報推定部106は、複数の単位現象に基づいて、産業装置10の動作で発生した異常現象を推定する異常現象推定部106Aを有する。例えば、異常現象推定部106Aは、分類データを参照し、複数の単位現象に関連付けられた異常現象を特定することによって、異常現象を推定する。異常現象の推定方法は、他の方法であってもよく、分類データを参照する方法に限られない。例えば、単位現象に関する情報と、異常現象と、の関係が学習された機械学習モデルが利用されてもよい。この場合、異常現象推定部106Aは、単位現象に関する情報を機械学習モデルに入力して機械学習モデルに異常現象を推定させる。異常現象推定部106Aは、機械学習モデルから出力された異常現象を取得することによって、異常現象を推定する。他にも例えば、異常現象推定部106Aは、分類データのようなテーブルではなく、決定木のようなルールによって、複数の単位現象から異常現象を推定してもよい。
【0063】
本実施形態では、異常情報推定部106は、異常現象に基づいて、異常現象の要因である異常要因を推定する異常要因推定部106Bを更に有する。例えば、異常要因推定部106Bは、分類データを参照し、複数の単位現象に関連付けられた異常要因を特定することによって、異常要因を推定する。異常要因の推定方法は、他の方法であってもよく、分類データを参照する方法に限られない。例えば、単位現象及び異常現象の少なくとも一方に関する情報と、異常要因と、の関係が学習された機械学習モデルが利用されてもよい。この場合、異常要因推定部106Bは、単位現象及び異常現象の少なくとも一方に関する情報を機械学習モデルに入力して機械学習モデルに異常要因を推定させる。異常要因推定部106Bは、機械学習モデルから出力された異常要因を取得することによって、異常要因を推定する。他にも例えば、分類データのようなテーブルではなく、決定木のようなルールによって、単位現象及び異常現象の少なくとも一方から異常要因を推定してもよい。この場合、異常現象が推定されずに単位現象から異常要因が直接的に推定されてもよい。ただし、この場合も機械学習モデルの内部で異常現象を表す内部的な特徴量は計算される可能性がある。
【0064】
本実施形態では、異常情報推定部106は、機構20の種類に依存する推定方法に基づいて、異常情報を推定する。機構20の種類に依存する推定方法とは、機構20の種類に応じた推定方法である。例えば、ボールねじ、伝動ベルト、又はギアといった3種類の機構20が存在したとすると、異常情報の推定方法は、これらの3種類で異なることがある。例えば、機構20がボールねじである場合、機構20が伝動ベルトである場合、及び機構20がギアである場合の各々で異常情報の推定方法が異なってもよい。この場合、機構20の種類ごとに、異常情報の推定方法を示すデータがデータ記憶部100に予め記憶されているものとする。異常情報推定部106は、機構20の種類に応じた推定方法に基づいて、異常情報を推定すればよい。
【0065】
なお、異常情報の特定方法は、機構20の種類に依存しなくてもよい。即ち、異常情報の推定方法は、機構20の種類に関係なく同じであってもよい。例えば、機構20がボールねじである場合、機構20が伝動ベルトである場合、及び機構20がギアである場合の各々で異常情報の推定方法が同じであってもよい。この場合、機構20の種類に関係なく共通の推定方法を示すデータがデータ記憶部100に予め記憶されているものとする。
【0066】
例えば、異常情報推定部106は、後述の推定方法決定部402により決定された推定方法に基づいて、異常情報を推定してもよい。異常情報推定部106は、複数の推定方法のうち、ユーザにより指定された機構20の種類に応じた推定方法に基づいて、異常情報を推定する。ユーザにより指定された機構20の種類を示す情報、又は、この種類に応じた推定方法を示す情報は、データ記憶部100に記憶されているものとする。なお、データ記憶部100には、全ての推定方法が記憶されていてもよい。この場合、異常情報推定部106は、ユーザにより指定された機構20の種類に応じた推定方法だけを利用してもよい。
【0067】
例えば、異常情報推定部106は、タイミング特定部105Aにより特定されたタイミングに基づいて、異常情報を推定してもよい。この場合、単位現象が発生したタイミングと、異常情報と、の関係を示すデータは、データ記憶部100に記憶されているものとする。このデータは、先述したように、分類データのようなテーブルに限られず、機械学習モデル又はルールであってもよい。異常情報推定部106は、このデータに基づいて、単位現象が発生したタイミングに応じた異常情報を推定する。
【0068】
例えば、異常情報推定部106は、順序特定部105Bにより特定された順序に基づいて、異常情報を推定してもよい。この場合、単位現象の順序と、異常情報と、の関係を示すデータは、データ記憶部100に記憶されているものとする。このデータは、先述したように、分類データのようなテーブルに限られず、機械学習モデル又はルールであってもよい。異常情報推定部106は、このデータに基づいて、単位現象が発生した順序に応じた異常情報を推定する。
【0069】
例えば、異常情報推定部106は、時間間隔計算部105Cにより計算された時間間隔に基づいて、異常情報を推定してもよい。この場合、単位現象が発生した時間間隔と、異常情報と、の関係を示すデータは、データ記憶部100に記憶されているものとする。このデータは、先述したように、分類データのようなテーブルに限られず、機械学習モデル又はルールであってもよい。異常情報推定部106は、このデータに基づいて、単位現象が発生した時間間隔に応じた異常情報を推定する。
【0070】
例えば、異常情報推定部106は、特徴量抽出部105Dにより抽出された特徴量に基づいて、異常情報を推定してもよい。この場合、単位現象の特徴量と、異常情報と、の関係を示すデータは、データ記憶部100に記憶されているものとする。このデータは、先述したように、分類データのようなテーブルに限られず、機械学習モデル又はルールであってもよい。異常情報推定部106は、このデータに基づいて、単位現象の特徴量に応じた異常情報を推定する。
【0071】
[3-2.ユーザ装置の機能]
データ記憶部400は、記憶部42を主として実現される。他の各機能は、CPU41を主として実現される。
【0072】
[データ記憶部]
データ記憶部400は、産業装置10の設定に必要なデータを記憶する。例えば、データ記憶部400は、エンジニアリングツールを記憶する。エンジニアリングツールは、ユーザによる産業装置10の設定を支援するためのプログラムである。エンジニアリングツールでは、産業装置10に実行させる動作プログラムの作成、産業装置10に記録するパラメータの設定、又は異常情報に関する画面の表示が可能である。他にも例えば、データ記憶部400は、単位現象の特定方法を示すデータと、異常情報の推定方法を示すデータと、を記憶してもよい。
【0073】
[指定受付部]
指定受付部401は、ユーザによる、機構20の種類の指定を受け付ける。例えば、ユーザ装置40がエンジニアリングツールを起動すると、機構20の種類のリストを示す画面が表示部45に表示される。このリストには、ボールねじ、伝動ベルト、及びギアといった複数の種類が表示される。リストを表示させるために必要なデータは、データ記憶部400に予め記憶されているものとする。ユーザは、任意の種類を指定可能である。指定受付部401は、操作部44の検出信号に基づいて、リストの中から何れかの種類の指定を受け付ける。
【0074】
[推定方法決定部]
推定方法決定部402は、ユーザにより指定された機構20の種類に基づいて、異常情報の推定方法を決定する。機構20の種類と、異常情報の推定方法と、の関係はデータ記憶部400に予め記憶されているものとする。推定方法決定部402は、ユーザに提示されたリストに含まれる複数の推定方法のうち、ユーザにより指定された種類に関連付けられた推定方法を、産業装置10で利用する推定方法として決定する。例えば、ボールねじ用の推定方法を示すデータ、伝動ベルト用の推定方法を示すデータ、及びギア用の推定方法を示すデータがデータ記憶部400に記憶されている。推定方法決定部402は、ユーザにより指定された機構20に関連付けられた推定方法のデータを取得する。
【0075】
[推定結果出力部]
推定結果出力部403は、異常情報の推定結果を出力する。本実施形態では、推定結果出力部403が、エンジニアリングツールの画面を利用して、異常情報の推定結果を出力する場合を説明するが、推定結果出力部403は、他の画面を利用して異常情報の推定結果を出力してもよいし、電子メール等の通知媒体を利用して異常情報の推定結果を出力してもよい。他にも例えば、推定結果出力部403は、画像を利用した視覚的な出力に限られず、音声を利用した聴覚的な出力によって異常情報の推定結果を出力してもよいし、コンピュータ又は情報記憶媒体に対するデータ出力によって異常情報の推定結果を出力してもよい。
【0076】
図6は、エンジニアリングツールの画面において、異常情報の推定結果が出力される様子の一例を示す図である。例えば、画面には、異常現象推定部106Aにより推定された異常現象を示すメッセージと、異常要因推定部106Bにより推定された異常要因を示すメッセージと、が表示される。画面には、異常現象が推定される確率が表示されてもよい。異常要因を示すメッセージには、異常要因に応じたマニュアルへのリンクが含まれてもよい。他にも例えば、異常発生時の動作データが表示されてもよいし、異常現象又は異常要因に応じたマニュアルが表示されてもよい。マニュアルは、データ記憶部400に予め記憶されているものとする。
【0077】
[単位現象出力部]
単位現象出力部404は、異常情報の推定結果に関連付けて、複数の単位現象の特定結果を出力する。異常情報の推定結果と、単位現象の特定結果と、を関連付けて出力するとは、これらの対応関係が分かるように出力することである。例えば、単位現象出力部404は、異常情報の推定結果と同じ画面に、複数の単位現象の特定結果を出力する。例えば、単位現象出力部404は、異常情報の推定結果が選択された場合に、複数の単位現象の特定結果を出力する。図6の例では、エンジニアリングツールの画面に、異常現象及び異常要因とともに、これらの推定の根拠になった単位現象が表示される。
【0078】
[4.異常情報推定システムで実行される処理]
図7は、異常情報推定システム1で実行される処理の一例を示すフロー図である。図7の処理は、CPU11,41がそれぞれ記憶部12,42に記憶されたプログラムに基づいて動作することによって実行される。なお、ユーザ装置40は、通信線を介して産業装置10と接続されているものとする。
【0079】
図7のように、ユーザ装置40は、エンジニアリングツールを起動し、エンジニアリングツール内に定義された機構20の種類を示すリストを表示部45に表示させる(S1)。ユーザ装置40は、リストの中からユーザによる機構20の種類の指定を受け付ける(S2)。ユーザ装置40は、ユーザにより指定された機構20の種類に基づいて、異常情報の推定方法を決定する(S3)。ユーザ装置40は、異常情報を推定するための分類データを産業装置10に書き込む(S4)。S4では、分類データ以外に異常情報を推定に必要なデータも書き込まれる。
【0080】
産業装置10は、記憶部12に記憶された動作プログラム及びパラメータに基づいて、機構20を制御する(S5)。産業装置10は、センサ30の検出信号等に基づいて、動作データを取得する(S6)。産業装置10は、S6で取得した動作データに基づいて、異常が検知されたか否かを判定する(S7)。異常が検知されたと判定されない場合(S7;N)、S5の処理に戻り、機構20の制御が継続される。
【0081】
異常が検知されたと判定された場合(S7;Y)、産業装置10は、S6で取得した動作データに基づいて、複数の単位現象を特定する(S8)。産業装置10は、S4で書き込まれた推定方法に基づいて、異常情報を推定する(S9)。産業装置10は、S9で推定した異常情報の推定結果を記憶部12に記録する(S10)。産業装置10は、任意のタイミングで、S10で記録された異常情報の推定結果をユーザ装置40に送信する(S11)。ユーザ装置40は、異常情報の推定結果を受信すると表示部45に表示させ(S12)、本処理は終了する。
【0082】
本実施形態の異常情報推定システム1によれば、動作データは、産業装置10の制御方法や指令値といった条件によって種々の内容を取り得るので、動作データから異常情報を直接的に推定するのは難しい。この点、異常現象に含まれる複数の単位現象であれば、産業装置10の条件によらずに動作データから特定可能である。そこで、まずは動作データから複数の単位現象を特定し、複数の単位現象に基づいて異常情報を推定することによって、異常情報の推定精度が高まる。
【0083】
また、異常情報推定システム1は、複数の単位現象に基づいて異常現象を推定することによって、異常現象の推定精度が高まる。
【0084】
また、異常情報推定システム1は、複数の単位現象に基づいて推定された異常現象に基づいて異常要因を推定することによって、異常要因の推定精度が高まる。
【0085】
また、異常情報推定システム1は、単位現象の特定方法として、産業装置10が制御する機構20に依存しない特定方法を利用することによって、どの機構20でも単位現象を推定できるので、異常情報推定システム1の汎用性が高まる。異常情報の推定方法として、機構20に依存した推定方法を利用することによって、機構20特有の推定方法で異常情報を推定できるので、異常情報の推定精度が高まる。
【0086】
また、異常情報推定システム1は、ユーザにより指定された機構20によって決定された推定方法に基づいて、異常情報を推定することによって、機構20に応じた推定方法で異常情報を推定し、異常情報の推定精度が高まる。また、全種類の機構20の推定方法で異常情報を推定し、実際に制御されている機構20に応じた異常情報だけを利用することも考えられるが、この場合には、実際には制御されていない機構20の異常情報も推定しなければならないので、異常情報推定システム1の処理負荷が増大する。この点、不要な異常情報の推定をしないので、異常情報推定システム1の処理負荷を軽減できる。
【0087】
また、異常情報推定システム1は、異常情報の推定結果を出力するだけでなく、異常情報に関連付けて複数の単位現象を出力することによって、異常情報の推定における根拠になった情報を出力できるので、ユーザへの説得力が高まる。
【0088】
また、異常情報推定システム1は、動作データから直接的に異常情報を推定することは難しいが、個々の単位現象であれば、解析的手法を利用して特定可能なので、動作データから特定可能な複数の単位現象を特定したうえで、異常情報を推定することによって、異常情報の推定精度が高まる。
【0089】
また、異常情報推定システム1は、動作データから直接的に異常情報を推定することは難しいが、個々の単位現象であれば、機械学習モデルを利用して特定可能なので、単位現象を特定したうえで、異常情報を推定することによって、異常情報の推定精度が高まる。機械学習モデルを利用することによって、ユーザによる閾値の設定作業をする必要が無くなるので、ユーザの手間を軽減できる。
【0090】
また、異常情報推定システム1は、動作データから直接的に異常情報を推定することは難しいが、動作データの中の個々の異常発生部分に着目すれば、機械学習モデルを利用して単位現象を特定可能なので、異常発生部分に着目して単位現象を特定したうえで、異常情報を推定することによって、異常情報の推定精度が高まる。
【0091】
また、異常情報推定システム1は、単位現象が発生したタイミングに基づいて異常情報を推定することによって、単位現象のタイミングとの間に因果関係がある異常情報を推定できるので、異常情報の推定精度が高まる。
【0092】
また、異常情報推定システム1は、単位現象の順序に基づいて異常情報を推定することによって、単位現象の順序との間に因果関係がある異常情報を推定できるので、異常情報の推定精度が高まる。
【0093】
また、異常情報推定システム1は、単位現象の時間間隔に基づいて異常情報を推定することによって、単位現象の時間間隔との間に因果関係がある異常情報を推定できるので、異常情報の推定精度が高まる。
【0094】
また、異常情報推定システム1は、単位現象に対応する部分の物理量に関する特徴に基づいて異常情報を推定することによって、単位現象の特徴量との間に因果関係がある異常情報を推定できるので、異常情報の推定精度が高まる。
【0095】
また、異常情報推定システム1は、互いに異なる複数の動作データに基づいて複数の単位現象を特定することによって、複数の動作データを総合的に考慮して単位現象を特定できるので、単位現象の特定精度及び異常情報の推定精度が高まる。
【0096】
また、異常情報推定システム1は、異常が検知された場合に複数の単位現象を特定することによって、必要な場面にのみ異常情報を推定する処理を実行し、産業装置10の処理負荷を軽減できる。
【0097】
[5.変形例]
なお、本開示は、以上に説明した実施形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更可能である。
【0098】
[変形例1]
例えば、単位現象特定部105は、産業装置10の設定に関する設定情報に基づいて、複数の単位現象を特定してもよい。設定情報は、産業装置10が機構20を制御する場合に利用される設定に関する情報である。例えば、設定情報は、産業装置10が機構20を制御する場合に利用される動作プログラム、パラメータ、ファームウェア、又はこれらの組み合わせである。設定情報は、エンジニアリングツールを利用して産業装置10に記録されてもよいし、産業装置10に予め記録されていてもよい。設定情報は、ユーザによる指定が可能であってもよい。
【0099】
設定情報と、複数の単位現象と、の関係に関するデータは、データ記憶部100に予め記憶されているものとする。このデータは、解析的手法又は機械学習手法の何れのデータであってもよい。例えば、単位現象特定部105は、解析的手法における引数の1つとして設定情報を利用する。単位現象特定部105は、設定情報に基づいて、解析的手法で利用される閾値を決定してもよい。例えば、単位現象特定部105は、機械学習手法における機械学習モデルに入力される情報の1つとして、設定情報を入力してもよい。機械学習モデルには、訓練データに含まれる情報の1つとして設定情報が含まれる。
【0100】
なお、異常情報推定部106は、産業装置10の設定情報に基づいて、異常情報を推定してもよい。この場合、設定情報と、異常情報と、の関係に関するデータは、データ記憶部100に予め記憶されているものとする。このデータは、分類データであってもよいし、機械学習モデル又はルールであってもよい。例えば、分類データの中に設定情報と異常情報との関係が定義される場合、異常情報推定部106は、単位現象及び設定情報に関連付けられた異常情報を推定する。例えば、異常情報推定部106は、機械学習モデルに入力される情報の1つとして、設定情報を入力してもよい。機械学習モデルには、訓練データに含まれる情報の1つとして設定情報が含まれる。他にも例えば、異常情報推定部106は、ルールにおける条件の1つとして、設定情報を利用してもよい。
【0101】
変形例1によれば、設定情報を利用して単位現象を特定することによって、設定情報との間に因果関係がある単位現象を特定できるので、単位現象の特定精度が高まる。
【0102】
[変形例2]
例えば、実施形態で説明した異常情報推定システム1は、機構20の種類に依存しない特定方法に基づいて、単位現象を特定し、かつ、機構20の種類に依存する特定方法に基づいて、異常要因を推定する場合を説明した。異常情報推定システム1のこれらの特徴を、異常発生時の処理ではなく、異常以外の動作解析に利用してもよい。変形例2では、異常情報推定システム1の一部の機能を有する動作解析システム2について説明する。動作解析システム2は、異常情報推定システム1の他の機能を有さなくてもよいという点では、異常情報推定システム1の上位概念に相当する。動作解析システム2のハードウェア構成は、異常情報推定システム1と同様であり、図1に示す通りである。
【0103】
図8は、変形例2に係る動作解析システム2の機能ブロックの一例を示す図である。第1解析部107及び第2解析部108は、CPU11を主として実現される。第1解析部107は、単位現象特定部105の上位概念に相当する。第2解析部108は、異常情報推定部106の上位概念に相当する。なお、図8では、ユーザ装置40の機能を省略しているが、ユーザ装置40は、実施形態と同様の機能を有してもよい。ユーザ装置40は、第1解析部107及び第2解析部108の少なくとも一方の解析結果を出力してもよい。
【0104】
第1解析部107は、産業装置10の動作に関する動作データに基づいて、産業装置10が制御する機構20の種類に依存しない複数の第1解析方法に基づいて、産業装置10の動作を解析する。この動作の解析は、異常に関するものに限られない。例えば、産業装置10の動作精度の解析、機構20の位置決め精度の解析、対象物の品質の解析、対象物の生産効率の解析、又はこれらの組み合わせであってもよい。機構20の種類に依存しない解析方法とは、機構20の種類に関係なく同じ解析方法である。例えば、ボールねじ、伝動ベルト、又はギアといった3種類の機構20が存在したとすると、第1解析方法は、これらの3種類で共通である。例えば、産業装置10がこれら3種類のうちの何れを制御する場合でも、第1解析方法は同じである。
【0105】
第1解析方法は、実施形態で説明した解析的手法又は機械学習手法と同様の手法が利用されてよい。例えば、第1解析方法は、機構20の種類に依存せずに、k近傍法又は相互相関係数当を利用して、産業装置10の動作精度の解析をする手法であってもよい。第1解析方法は、機構20の種類に依存せずに、動作データの全部又は一部と、解析結果と、の関係が学習された機械学習モデルを利用した手法であってもよい。この点は、第2解析方法も同様である。ただし、第1解析方法により解析される内容は、機構20の種類に依存しないものである。例えば、第1解析方法では、モータの位置決め精度といった機構20の種類に関係なく共通する内容であってもよい。一方、第2解析方法により解析される内容は、機構20の種類に依存するものである。例えば、第2解析方法では、ボールねじのテーブルの振動の有無、伝動ベルトの速度の精度、又はギアの回転位置の精度といったように機構20の種類に特有のものであればよい。
【0106】
第2解析部108は、複数の第1解析方法の各々の解析結果と、機構20の種類に依存する第2解析方法と、に基づいて、産業装置10の動作を解析する。機構20の種類に依存する解析方法とは、機構20の種類に応じた解析方法である。例えば、ボールねじ、伝動ベルト、又はギアといった3種類の機構20が存在したとすると、第2解析方法は、これらの3種類で異なることがある。例えば、機構20がボールねじである場合、機構20が伝動ベルトである場合、及び機構20がギアである場合の各々で第2解析方法が異なってもよい。この場合、機構20の種類ごとに、第2解析方法を示すデータがデータ記憶部100に予め記憶されているものとする。第2解析部108は、機構20の種類に応じた第2解析方法に基づいて、産業装置10の動作を解析すればよい。
【0107】
変形例2によれば、産業装置10が制御する機構20の種類に依存しない複数の第1解析方法に基づく解析結果と、機構20の種類に依存する第2解析方法と、に基づいて、動作を解析して出力できるので、動作解析システム2の汎用性が高まり、かつ、動作解析の精度が高まる。
【0108】
[その他変形例]
例えば、ユーザが機構20の種類を指定せずに、産業装置10は、全種類の推定方法に基づいて、異常現象及び異常要因を推定してもよい。この場合、産業装置10は、ユーザ装置40に接続された場合に、ユーザが指定した種類に応じた推定結果だけをユーザ装置40に送信してもよい。ユーザ装置40には、ユーザが指定した種類に応じた推定結果だけが表示される。ユーザが指定しなかった種類に応じた推定結果は、産業装置10から削除されてもよい。他にも例えば、産業装置10は、異常現象だけを推定し、異常要因を推定しなくてもよい。逆に、産業装置10は、異常要因だけを推定し、異常現象を推定しなくてもよい。
【0109】
例えば、実施形態で説明した機構制御部101は、モータ制御部の一例なので、単位現象特定部105は、モータの動作に関する動作データに基づいて、動作により発生した異常現象に含まれる複数の単位現象を特定することになる。また、異常情報推定部106は、複数の単位現象に基づいて、モータにより駆動する機構20に発生した異常に関する異常情報を推定することになる。データ記憶部100は、異常情報の推定結果を記憶する。データ記憶部100は、推定結果記憶部の一例である。例えば、産業装置10は、モータ制御装置以外の装置であってよく、産業装置10がロボットコントローラの場合には、ロボットが機構20に相当してもよい。産業装置10及び機構20の組み合わせは、任意の組み合わせであってよい。
【0110】
例えば、各機能は、異常情報推定システム1における任意の装置で実現されるようにすればよい。産業装置10で実現されるものとして説明した機能の一部又は全部は、ユーザ装置40又は他の装置で実現されてもよい。実施形態では、産業装置10が異常情報を推定する場合を説明したが、異常情報を推定する機能は、ユーザ装置40で実現されてもよいし、産業装置10を制御するコントローラで実現されてもよい。
【0111】
例えば、ユーザ装置40で実現されるものとして説明した機能の一部又は全部は、産業装置10又は他の装置によって実現されてもよい。例えば、産業装置10がユーザの操作を受け付ける操作部を含む場合には、指定受付部401及び推定方法決定部402は、産業装置10により実現されてもよい。他にも例えば、産業装置10が自身の状態を表示するための表示部を含む場合には、推定結果出力部403及び単位現象出力部404は、産業装置10により実現されてもよい。他にも例えば、産業装置10又はユーザ装置40で実現されるものとして説明した機能は、複数の装置で分担されてもよい。
【符号の説明】
【0112】
1 異常情報推定システム、2 動作解析システム、10 産業装置、11,41 CPU、12,42 記憶部、13,43 通信部、20 機構、30 センサ、40 ユーザ装置、44 操作部、45 表示部、100 データ記憶部、101 機構制御部、102 動作データ取得部、103 異常検知部、104 異常発生部分抽出部、105 単位現象特定部、105A タイミング特定部、105B 順序特定部、105C 時間間隔計算部、105D 特徴量抽出部、106 異常情報推定部、106A 異常現象推定部、106B 異常要因推定部、107 第1解析部、108 第2解析部、400 データ記憶部、401 指定受付部、402 推定方法決定部、403 推定結果出力部、404 単位現象出力部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8