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特許7430722吸収性縫合糸繊維を製造するための新たな押出プロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】吸収性縫合糸繊維を製造するための新たな押出プロセス
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/84 20060101AFI20240205BHJP
   A61L 17/12 20060101ALI20240205BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
D01F6/84 303Z
A61L17/12
D01F6/62 305A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021524390
(86)(22)【出願日】2019-11-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 IB2019059508
(87)【国際公開番号】W WO2020095208
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】16/183,861
(32)【優先日】2018-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512080321
【氏名又は名称】エシコン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Ethicon, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】チェン・カオユアン・ギャビン
(72)【発明者】
【氏名】フリート・ジュニア・ジョセフ・リチャード
(72)【発明者】
【氏名】エジディオ・ドミニク
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-178350(JP,A)
【文献】特開昭50-112515(JP,A)
【文献】特表2006-528711(JP,A)
【文献】特表2021-529597(JP,A)
【文献】特開2003-339849(JP,A)
【文献】米国特許第06005019(US,A)
【文献】特開平05-239719(JP,A)
【文献】特表2004-532364(JP,A)
【文献】特開2004-250853(JP,A)
【文献】特表2007-524741(JP,A)
【文献】米国特許第06007565(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00 - 33/18
D01F 6/62
D01F 6/84
D01F 6/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも供給ゾーン、移行ゾーン、及び計量ゾーンを含む押出ゾーンと、ポンプ及びブロックを含むポンプ及びブロック部と、紡糸口金と、を有する押出機を用いて、融点を有する吸収性コポリマーからマルチフィラメント繊維製造するためのプロセスであって、
a.前記供給ゾーン、前記移行ゾーン、及び前記計量ゾーンのうちの少なくとも2つを、前記吸収性コポリマーの前記融点よりも50℃低い~2℃低い動作温度に設定し、維持する工程と、
b.前記ポンプ及びブロック部を、前記吸収性コポリマーの前記融点よりも15℃低い~25℃以下高いポンプ温度に設定し、維持する工程と、
c.前記紡糸口金を、前記吸収性コポリマーの前記融点よりも10℃低い~30℃以下高いスピン温度に設定し、維持する工程と、を含
前記ポンプは、前記押出ゾーンから押し出された前記吸収性コポリマーを前記ブロック内にポンプ移送するように構成され、
前記紡糸口金は、複数の毛細管オリフィスを有し、前記ブロック内で高圧下の前記吸収性コポリマーが前記紡糸口金を通して押し出されるように構成されている、プロセス。
【請求項2】
前記供給ゾーン、前記移行ゾーン、及び前記計量ゾーンうちの少なくとも2つが、前記吸収性コポリマーの前記融点よりも少なくとも5℃低い温度に維持される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記吸収性コポリマーが、90/10モル%のグリコリド/ラクチドの全体組成を有する吸収性コポリエステルである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記吸収性コポリマーが、中央ブロックに50/50モル%のグリコリド/ラクチドを有し、90/10モル%のグリコリド/ラクチドの全体組成を有するブロックコポリエステルである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記ブロックコポリエステルが、1.4~1.6dL/gの範囲の固有粘度(IV)を有する、請求項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記マルチフィラメント繊維が、少なくとも5.6g/dの個々のスプール平均テナシティを有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記マルチフィラメント繊維が、少なくとも6.0g/dのロット平均テナシティ有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記マルチフィラメント繊維から作製されるサイズ2-0の編組マルチフィラメント縫合糸が、37℃及びpH7.27の生理学的条件を模倣する緩衝液中で保存した後、42日目に少なくとも10%の破壊強度保持率を有する、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
少なくとも供給ゾーン、移行ゾーン、及び計量ゾーンを含む押出ゾーンと、ポンプ及びブロックを含むポンプ及びブロック部と、紡糸口金と、を有する押出機を用いて、1.2~1.4の固有粘度(IV)及び融点を有する吸収性コポリマーからマルチフィラメント繊維製造するためのプロセスであって、
a.前記供給ゾーン、前記移行ゾーン、及び前記計量ゾーンのうちの少なくとも2つを、前記吸収性コポリマーの前記融点よりも50℃低い~2℃低い動作温度に設定し、維持する工程と、
b.前記ポンプ及びブロック部を、前記吸収性コポリマーの前記融点よりも15℃低い~3℃低いポンプ温度に設定し、維持する工程と、
c.前記紡糸口金を、前記吸収性コポリマーの前記融点よりも8℃低い~10℃以下高いダイ温度に設定し、維持する工程と、を含
前記ポンプは、前記押出ゾーンから押し出された前記吸収性コポリマーを前記ブロック内にポンプ移送するように構成され、
前記紡糸口金は、複数の毛細管オリフィスを有し、前記ブロック内で高圧下の前記吸収性コポリマーが前記紡糸口金を通して押し出されるように構成されている、プロセス。
【請求項10】
前記供給ゾーン、前記移行ゾーン、及び前記計量ゾーンが、前記吸収性コポリマーの前記融点よりも少なくとも5℃低い温度に維持される、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記吸収性コポリマーが、90/10モル%のグリコリド/ラクチドの全体組成を有する吸収性コポリエステルである、請求項9に記載のプロセス。
【請求項12】
前記吸収性コポリマーが、中央ブロックに50/50モル%のグリコリド/ラクチドを有し、90/10モル%のグリコリド/ラクチドの全体組成を有するブロックコポリエステルである、請求項9に記載のプロセス。
【請求項13】
前記マルチフィラメント繊維が、少なくとも5.6g/dの個々のスプール平均テナシティを有する、請求項9に記載のプロセス。
【請求項14】
マルチフィラメント繊維が、少なくとも6.0g/dのロット平均テナシティを有する、請求項9に記載のプロセス。
【請求項15】
前記マルチフィラメント繊維から作製されるサイズ2-0の編組マルチフィラメント縫合糸が、37℃及びpH7.27の生理学的条件を模倣する緩衝液中で保存した後、42日目に少なくとも10%の破壊強度保持率を有する、請求項9に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半結晶性のグリコリドリッチなセグメント化ポリ(グリコリド-コ-ラクチド)ブロックコポリマーから吸収性マルチフィラメント繊維を製造して、高い初期破壊強度と移植後の強化された破壊強度保持率とを有する吸収性編組縫合糸を作製するための新たな押出プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
合成吸収性ポリエステルから縫合糸を製造するための製造プロセスは、当該技術分野において周知である。吸収性縫合糸は一般に、マルチフィラメント編組及びモノフィラメントという2種の基本形で提供される。グリコリド(Gly)ホモポリマー及びグリコリド/ラクチド(Gly/Lac)コポリマーから作製された吸収性マルチフィラメント縫合糸は、Coated VICRL(商標)などのように市販され、軟組織閉鎖に広く使用されている。
【0003】
創傷治癒プロセス中の十分な支持を確保するために、創傷又は患者のタイプに応じて、創傷が本質的に治癒されるまで、通常は約3~6週間、吸収性縫合糸を用いて十分に高い初期引張強度及び十分に長い破壊強度保持率(BSR)を有することが重要である。
【0004】
BSR又はそのプロファイルは、吸収性ポリマーの組成及び/又は化学構造を変えることによって変更され得ることが、当業者には既知である。使用される繊維の総量が編組構造によって制約され、USP(米国薬局方)が所与の縫合糸サイズの縫合糸直径を制限しているため、編組縫合糸の初期破壊強度は主に繊維テナシティに依存することも知られている。テナシティは、繊維又はマルチフィラメント糸の強度の慣例的な尺度である。これは、通常、グラム(gと略する)単位の最大破壊力をデニールで割ったものとして定義される。デニール(dと略する)は、繊維の線形質量密度の測定単位であり、繊維又はマルチフィラメント糸9000メートル当たりのグラム単位質量である。したがって、繊維又は糸のテナシティ単位は、通常、[g/d]で表される。
【0005】
繊維テナシティ、ひいては縫合糸破壊強度の向上を助けるために、米国特許第7,738,045号は、約200℃の融点を有する、90/10モル%のグリコリド/ラクチドランダムコポリマーの固有押出温度プロファイルを教示している。先行技術の教示により、3つの押出機ゾーン(すなわち、供給ゾーン、移行ゾーン、及び計量ゾーン)のうちの少なくとも1つの温度は、比較的低い、好ましくはポリマーの融点より5℃以下高い温度に保たれるべきであり、その後のポンプ及びブロックゾーンの温度は、徐々に上昇されるが、ポリマーの融点より40℃以下高い温度にすべきであり、紡糸口金の温度は、ポリマーの融点より約40~60℃高い温度に急速に上昇させるべきである。先行技術による最適化された温度プロファイル下では、7.2g/dを超える、最大7.9g/dの高さの繊維テナシティが、90/10モル%のGly/Lacランダムコポリマーから達成された。
【0006】
グリコリドリッチ(約90/10モル%)Lac/Glyランダムコポリマーから作製された、既知の市販の吸収性マルチフィラメント縫合糸の1つの欠点は、BSRが移植後約5週間で本質的にゼロまで低下することである。より長いBSRを有する縫合糸は、糖尿病患者、老齢患者、及び場合によっては化学療法下の患者など、治癒能力が低下した患者の創傷を閉鎖する際に有益であろう。
【0007】
長期吸収性マルチフィラメント縫合糸も既知であり、95/5Lac/Glyコポリマーなどのラクチドリッチなポリマーから作製されており、吸収されるのに約18~30ヶ月を要する。この縫合材料は、最適な時間枠内で体内に吸収されない。したがって、高い初期引張強度と、ゆっくりとした創傷治癒の用途のために約6週間にわたる長い破断強度保持率(BSR)とを呈し、更に比較的短い時間、好ましくは18週間以内に吸収される、吸収性マルチフィラメント縫合糸が必要とされている。
【0008】
出願人らは、Bセグメントが、約50/50のグリコリド/ラクチドモル比のグリコリド及びラクチドの非晶質プレポリマーであり、重合グリコリドの総量が、当該吸収性コポリマーの約88~約92モル%である、A-B-A型の半結晶性のグリコリドリッチなセグメント化ポリ(グリコリド-コ-ラクチド)コポリマーから作製されたマルチフィラメント縫合糸は、移植後42日目に極めて高いBSRを呈することを発見した。
【0009】
上記のセグメント化A-B-AブロックGly/Lacコポリマーを、R&D押出機で押し出した場合、最適化された条件下では、約8.0g/dの高さの平均テナシティが容易に達成された。しかしながら、製造工場で押出を行ったとき、米国特許第7,738,045号に教示されている選択温度プロファイルの教示を用いて、又は当該技術分野において一般的に既知の他の押出条件を用いて、提案される指定下限値(Lower Specified Limit、LSL)である5.6g/dを一貫して満たす、又は6.0g/dの目標平均テナシティを満たす、個々のスプール平均テナシティを有する繊維を製造するのに、いくつかの困難に遭遇した。
【0010】
わずか数時間持続し得る実験用に稼働する押出機が1台のみのR&D/実験室設定では、押し出された溶融フィラメントは、通常、周囲空気によって急冷される。紡糸口金表面から第1の巻取りゴデットまでの合計距離は、約17フィートであり得、これは、押し出されたフィラメントがまとまって巻き上げられる前に固化するのに十分な長さであると考えられる。製造工場の押出室には、1日24時間、週7日(24-7)、同時に稼働する10台以上の押出機が存在し得る。製造押出機は、通常、押し出された溶融フィラメントを妨害し得る望ましくない空気運動を最小限に抑えるために、それぞれの押出機の下の安全エンクロージャで個別に隔離され、煙突及び冷却スタック内の溶融フィラメントを取り囲む周囲空気は、比較的高濃度の蒸発したグリコリド及びラクチドモノマーを含有する可能性があり、これが溶融フィラメントの冷却効率を遅くし、かつ/又はポリマーのより深刻な熱劣化を引き起こす場合がある。加えて、紡糸口金から第1の巻取りゴデットまでの合計スタック距離は、床面積の制限により、製造現場ではR&D押出機のものより約5フィート短い、約12フィートのみに制限される。冷却スタック距離の差は、冷却及び/又は回転張力プロファイルにおけるいくらかの更なる差につながる可能性があり、次いで、配向繊維における最良のテナシティを達成するために最適化された条件下でのR&D押出機機構で作製されたものとは幾分異なる押出繊維形態をもたらし得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明のプロセスは、製造工場におけるセグメント化グリコリド/ラクチドブロックコポリマーから吸収性マルチフィラメント縫合糸繊維を製造する際に遭遇する上記の問題に対処する。以下に更に詳細に記載されるように、本発明は、移植後最大42日の長期間にわたって十分に高い繊維テナシティ及び極めて高い破壊強度保持率(BSR)プロファイルをもたらした、セグメント化グリコリド/ラクチドブロックコポリマーから吸収性マルチフィラメント縫合糸繊維を製造するための押出プロセス工程の固有な組み合わせを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
製造工場において、吸収性グリコリド/ラクチドコポリマーを、高いテナシティを有するマルチフィラメント縫合糸繊維に押し出すための新たなプロセスが開示される。ブロックコポリマーは、好ましくは、中央セグメントにおいて約50/50モル%のGly/Lacからなり、コポリマーの全体組成は、約90/10モル%のGly/Lacである。新たな押出プロセスは、ポリマーの融点より約2~50℃低い範囲の押出ゾーンのうちの少なくとも2つ、好ましくは3つ以上の温度を維持する工程を含む。
【0013】
出願人らは、Bセグメントが、約20/80~約70/30のグリコリド/ラクチドモル比のグリコリド及びラクチドの非晶質プレポリマーである、A-B-A型のグリコリドリッチなセグメント化ポリ(グリコリド-コ-ラクチド)コポリマーから本発明のプロセスを用いて作製されたマルチフィラメント縫合糸は、移植後42日目に極めて高いBSRを呈することを発見した。
【0014】
本発明の一態様は、5.6g/d以上のスプール平均テナシティを有する吸収性マルチフィラメント繊維が、セグメント化Gly/Lacブロックコポリマーを使用して製造環境において容易に製造され得ることであって、ポリマーの固有粘度(IV)は約1.2~1.3dL/gの低さであり得る。
【0015】
本発明の別の態様は、移植後42日目に10%以上のBSRを有する、1.2~1.6dL/gの比較的広い範囲のセグメント化Gly/Lacブロックコポリマーから作製され、更に比較的短い時間(約18週間以内)に吸収される、吸収性マルチフィラメント縫合糸である。
【0016】
本発明のこれら及びその他の態様並びに利点は、以下の説明及び添付の図面からより明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の概略押出機構である。
図2】全体組成中約90モル%のグリコリドを有するGly/Lacコポリマーの中央ブロックにおける融点(T)とラクチドのモル%との関係である。
図3】1.31dL/gのIVを有するラクチド50%の(PG910C50と示される)ブロックコポリマーの中央ブロックを有する90/10 Gly/Lacの実験Iの実施例の繊維テナシティ押出条件との関係である。
図4】1.29dL/gのIVを有するPG910C50コポリマーの実験IIの実施例の繊維テナシティと押出条件との関係である。
図5】1.52dL/gのIVを有するPG910C50コポリマーの実験IIIの実施例の繊維テナシティと押出条件との関係である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明をより良く理解するために、添付図面と併せて考慮される本発明の好ましい実施形態の以下の詳細な説明を参照する。図1は、本発明のマルチフィラメント繊維を製造するために利用される押出機装置10の概略図を示す。より具体的には、押出機装置10は、ホッパー13などのポリマー供給手段と、ホッパー13の実質的に垂直下に位置する押出機バレル12と、を含む、連続的に配置された相互接続構成要素を有する。ホッパー13は、乾燥ポリマーペレット14を保持し、それを押出機バレル12に供給する。供給ホッパーには、通常、ポリマーによる空気からの水分吸収を回避又は最小化するために、窒素などの不活性ガスが充填される。ホッパーはまた、ホッパー内でポリマーが予熱/軟化されるのを防ぐために、ホッパー供給部の外殻を通して冷却水を流し込むことによって低温に保たれ得る。
【0019】
押出機バレル12は、本発明のプロセスに関連して以下に更に詳細に説明されるように、コポリマーペレット14を効率的に加熱し、供給し、強制的に流動性溶融流14’にするための特定の選択温度プロファイルで維持される、順次配置された3つの加熱ゾーン16、18、20を含む。定量ポンプ22は、押出機12の端部に又はその付近に位置付けられる。加熱ブロック24は、定量ポンプ22に接続される。定量ポンプ22は、ポリマー溶融流14’がブロック24内にポンプ移送される速度を制御する。押出機バレル及び定量ポンプは、互いに垂直若しくは水平に隣接して、又はポリマー流を押し出し、定量化するのに好適な任意の様式で位置付けられてもよい。
【0020】
紡糸口金26は、ブロック24の実質的に垂直下に位置し、複数の毛細管オリフィス(図示せず)を有する。ポリマー溶融物14’は、ブロック24において高圧下で紡糸口金26を通してポンプ移送されて、以下に記載されるように、複数の溶融フィラメント28を形成する。ブロック24は、紡糸口金26を通して押し出されるポリマー溶融物14’の一貫性を達成し、維持するための一連の微細スクリーンフィルタ及びブレーカプレート(図示せず)を含んでもよい。
【0021】
引き続き図1を参照すると、約6~20インチの加熱スリーブ30が、押し出された溶融フィラメント28が周囲冷却ゾーン32に入る前にその冷却を遅らせるために、紡糸口金26に取り付けられ、紡糸口金26の実質的に垂直下に延在している。加熱スリーブ30は、通常、鋼又はアルミニウム管などの固体金属で作製され、バンド又はカートリッジヒータによって望ましい温度に加熱される。加熱スリーブはまた、通常、加熱スリーブ30の出口からいくらかの発煙があることから、「煙突」とも称され得る。発煙は、重合後に乾燥ポリマー中に残された残留グリコリド及び/若しくはラクチドモノマーの蒸発によって形成され、かつ/又は押出中の熱劣化に起因して形成される。次いで、煙突を出る溶融フィラメントは、煙突30の約0.5インチ下から仕上げアプリケータ34の約1~2フィート上まで延在する金属管内に閉じ込められている、周囲冷却ゾーン32内の周囲空気によって自然に冷却される。製造環境では、通常、操作室における望ましくない空気移動を最小限に抑えるため、煙突30及びインターフロア管32の上部を取り囲む開放可能な安全エンクロージャ(図示せず)が存在し、そうでなければ、溶融フィラメントの望ましくない障害を引き起こし得る。エンクロージャは、蒸発したモノマー(煙)を逃がし、いくらの周囲冷却空気がインターフロア管32の頂部から入ることを可能にするために、いくつかの開放可能なスロット又は穿孔を有する任意のシート金属で作製されてもよい。
【0022】
スピン仕上げアプリケータ34は、インターフロア管32の約1~2フィート下に位置付けられ、潤滑スピン仕上げ(図示せず)を、固化されたものと推定されるフィラメント28’に適用し、その後、冷却されたフィラメント28’が束36にまとまる。束ねられたフィラメント36は、巻取りゴデットロール38、40を通過し、巻き上げ機(図示せず)によって巻き上げられる。製造押出機の紡糸口金26から巻取りゴデットロール40までの距離は約12フィートである。この束ねられたフィラメントには、その後、従来の延伸装置(図示せず)を用いて延伸及び配向することを含むが、必ずしもこれに限定されない更なる加工を受ける。次いで、配向マルチフィラメント糸は、再び巻き上げ機で巻き上げられる。次いで、配向繊維のスプールが、試験後に編組されて、編組縫合糸が作製される。
【0023】
図1に概略的に示される押出機装置10の全ての上述の構成要素は、概して、典型的には当業者に既知であり、任意の既知の市販の供給源から容易に入手可能である、従来の構成要素であることに留意されたい。より具体的には、好適な押出機バレル12及び好適な加熱ブロック24は、Davis-Standard(Pawcatuck,Connecticut)から得ることができる。加えて、好適な定量ポンプ22は、Zenith Pump Division(Sanford,North Carolina)から入手可能であり得る。好適な紡糸口金26及び加熱スリーブ30は、AUTRANS Corp.(Farmington Hills,MI 48331)から得ることができる。同様に、好適なスピン仕上げアプリケータ36は、Slack&Parr,Inc.(Charlotte,North Carolina)から得ることができる。
【0024】
加えて、図示されていないが、上述の押出機装置10は、適切な加熱及び温度制御装置を含む必要がある。当業者には明らかであるように、加熱装置は、様々な上述の加熱構成要素のそれぞれを所望の温度に加熱するために必要とされる(以下で詳細に説明する)。温度制御装置は、構成要素の温度を検出し、本発明による所定の所望の範囲内に維持するために必要である。このような加熱及び温度制御装置も周知であり、Honeywell Inc.(Fort Washington,Pennsylvania)を含むがこれらに限定されない、市販の供給元から容易に入手可能である。
【0025】
本発明のプロセスは、以下に説明するように、押出機バレル12の加熱ゾーン16、18、20から紡糸口金26まで、加熱スリーブ30の温度までの温度プロファイルが作製されるような、上述の押出機装置10の動作を含む。前述の温度プロファイルの説明及び例証を容易にするために、押出機装置10の加熱される構成要素のそれぞれの温度は、以下、その参照番号及びその後の文字「T」からなる温度ラベルを使用することによって参照される。例えば、押出機バレル12の第1の加熱ゾーン16の温度は、以下、温度ラベル16Tを使用して参照され、紡糸口金26の温度は、以下、温度ラベル26Tを使用して参照される。温度ラベルは、参照用として図1に記載されている。
【0026】
更に、押出機装置10の加熱される構成要素の好適な温度は、使用されるポリマーペレット14の融点温度に依存することに留意されたい。したがって、押出機装置10の加熱される構成要素の好適な温度は、ポリマーペレット14の融点に関連して論じられる。
【0027】
更に図1を参照すると、繊維の従来の溶融押出プロセスでは、供給部16から紡糸口金26までの押出ゾーンの典型的な温度は、比較的平坦なプロファイル又は増加するプロファイルのいずれかで、ポリマーの融点付近か、又は通常は少なくとも融点より数度上に設定される。原則として、紡糸口金の前又は紡糸口金でのプロセス温度は、融点より約50℃高い(Chris Rauwendaal,<<Polymer Extrusion>>,Second,Reprinted Ed.,Hanser Publishers,1990,215ページ参照)。
【0028】
米国特許第7378045号では、グリコリド/ラクチドのランダムコポリマーをマルチフィラメント繊維に押し出す場合、ポンプ22及びブロック24の温度を0~40℃の範囲内に保ち、かつ紡糸口金26をポリマーの融点より少なくとも40℃高く保ちながら、より高いテナシティを有する繊維を得るために、3つの押出機ゾーンのうちの1つ以上をポリマーの融点の前後又は更には数度低く保つことが好ましいことが見出された。
【0029】
先行技術の教示の好ましい温度プロファイルは、90/10モル%のランダムGly/Lacコポリマーなどのいくつかの吸収性ポリマーに好適であり得るが、本発明者らは、製造環境において、中央ブロックBが約50/50モル%のグリコリド/ラクチドからなり、全体組成が約90/10モル%のGly/LacであるA-B-A型ブロックコポリマーから、望ましい平均テナシティ目標を満たし得る、かつ/又は、テナシティの最低限の製品仕様を一貫して超える縫合糸繊維を製造することは困難であるか、又は時には不可能であることを見出した。簡潔にするために、以下、このブロックポリマーをPG910C50と称する場合がある。
【0030】
本発明を通して、本発明者らは、驚くべきことに、製造環境における個々の繊維スプール平均テナシティについて、提案される平均目標6.0g/dを一貫して満たし得る、かつ/又は指定下限値(LSL)5.6g/dを超え得る、PG910C50からの吸収性マルチフィラメント繊維の製造を可能にし得る、新しい固有な押出温度プロファイルを発見した。本発明によれば、押出機バレル12の第1の加熱ゾーン16の供給温度16Tは、好ましくは、ポリマーの融点よりも約20~50℃低い範囲に保たれる。移行ゾーン18、定量ポンプ22、及びブロック24の温度は、可能な限り低く保たれる必要がある。好ましくは、18T、22T、及び24Tの3つの温度のうちの2つは、ポリマーの融点よりも3~20℃低い範囲に保たれる。押出機の移行ゾーン18又は計量ゾーン20の温度は、好ましくは、ポリマーの融点から約-5~約+5℃の範囲に保たれる。紡糸口金26の温度はまた、ポリマーの融点から比較的低い、好ましくは-10~+10の範囲に保たれるべきである。
【0031】
ポリマー又はフィラメントと直接接触していない加熱されたスリーブ30の温度は重要ではないが、好ましくはポリマーの融点より約50℃高く設定され、それによって押出溶融フィラメント28は、減衰しやすいように高温環境に維持されてから、周囲冷却空気に曝されることになる。上述したように、加熱される煙突30の長さは、好ましくは約5~20インチである。フィラメント28は、加熱されたスリーブ30を通過し、そこから出現した後、適切なエンクロージャ内で、及び/又はインターフロア管を通って、取り囲む周囲空気によって冷却され、上述した更なる処理工程を受ける。
【0032】
上記の温度プロファイルを作り出す上述のプロセスを利用した結果が、20~100デニールのマルチフィラメント糸に延伸され得るPG910C50ブロックコポリマーからの吸収性繊維の製造である。PG910C50ブロックコポリマーを用いて本発明のプロセス条件下で作製されたマルチフィラメント糸は、所与の一組の好ましい押出条件下に設定された製造ロット又はサンプルに対して、少なくとも5.6g/dの個々の繊維スプール平均テナシティ及び約6.0g/d以上の平均テナシティを有する。当該マルチフィラメント糸から作製された編組縫合糸は、移植後42日目に10%以上の破壊強度保持率(BSR)を有し、更に比較的短い時間(約18週間以内)に吸収される。
【0033】
本発明のプロセスは、約1.20~1.40dL/gの比較的低い固有粘度の吸収性PG910C50ブロックコポリマーからマルチフィラメント糸を製造するのに特に好適である。固有粘度が増加するにつれて、ポリマー溶融物の粘度も通常増加する。これは、紡糸口金及び/又は他の押出ゾーンにおいて、わずかに高い温度を必要とする場合がある。しかしながら、押出ゾーンのうちの2つ以上、好ましくは、供給ゾーン及び移行ゾーンの温度を融点よりも5~30℃低い範囲に保ち、紡糸口金温度を、1.4~1.6dL/gの範囲の比較的高いIVを有するPG910C50ポリマーの融点より30℃を超えないように保つことが依然として好ましい。
【0034】
ポリマーの固有粘度(IV)は、25℃のヘキサフルオロイソプロパノール中、0.10g/dLの濃度で測定され得る。ポリマーの融点は、10℃/分の加熱速度で第1の熱走査を使用する示差走査熱量測定(DSC)によって決定され得る。
【0035】
ポリマーの融点は、グリコリド/ラクチドコポリマー中の組成物又はモル%グリコリドに強く依存することは、文献において周知である。例えば、D.K.Gilding and A.M.Reed,biodegradable polymers for use in surgery-polyglycolic/poly(lactic acid)homo-and copolymers:1.Polymer 1979 20(12),137-143によると、90/10モル%のGly/Lacランダムコポリマーの融点は約200℃であり、これは米国特許第7,378,045号に報告されているものと一致する。
【0036】
しかしながら、90/10モル%のGly/Lac A-B-Aブロックコポリマーの所与の全体組成について、本発明者らは、融点が中央ブロックBのラクチドのモル%によって大きく影響され得ることを見出しており、これは図2に示されている。
【0037】
図2に示される溶融データは、乾燥Nをパージガスとして用いて、TA Instruments Differential Scanning Calorimeter,Model 2910 MDSCによって得られた。典型的には、約5~10mgのポリマー樹脂をアルミニウムパンに入れ、蓋(カバー)によって固定し、器具のオートサンプラーホルダ領域内に位置付けた。ポリマー標本を最初に-40℃に急冷し、続いて10℃/分の一定の速度で最大260℃まで加熱した。押出前の乾燥したポリマー樹脂の「現状のまま」特性を示す第1の熱走査データのピーク溶融温度を、図2及びに本明細書おいて言及されるあらゆる部分で使用されるポリマーの融点として採用した。
【0038】
図2の回帰公式化に基づいて、90/10 Gly/Lacブロックコポリマーの融点(T)は、中央ブロックB中の任意の所与のモル%ラクチド(X)について以下の式(1)で計算され得る。
=198.55+0.4514 X-0.0024 X (1)
【0039】
例えば、中央ブロックにおけるラクチドXのモル%が50%であるPG910C50の融点は、215.1℃になるように計算される。この計算値は、様々な重合条件下で合成された多数のPG910C50ポリマーサンプルに対して試験された平均融点214.8℃に極近接している(様々な重合条件下で製造された68個のPG910C50サンプルの中で融点の標準偏差は0.98℃であった)。この観測結果は、90/10 Gly/Lacブロックコポリマーの融点を、上記のように約200℃である90/10 Gly/Lacランダムコポリマーの融点と比較して、約15℃上昇させ得ることを示唆した。
【0040】
PG901C50ブロックコポリマーの融点は、モノマー対触媒、又はモノマー対反応開始剤の比などの重合プロセス変数によってほとんど影響を受けないか又は大きな影響がないことが見出された。例えば、モノマー対反応開始剤の比が550:1から900:1に変化し、その結果、ポリマーIVが約1.29から約1.53dL/gに変化したとき、DSCによって測定された融点は、式(1)を使用して計算された約215℃の平均からほとんどずれていなかった。おおよその観測結果に基づいて、215℃の公称平均融点は、以下、PG910C50ブロックコポリマーを押し出すための好ましい温度仕様を確立するための基準点として使用される。
【0041】
本発明による、好ましい押出温度仕様を表1及び2に要約する。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
融点はポリマーのIVにあまり影響されなかったが、ポリマーIVが増加すると溶融粘度が大幅に増加することに留意されたい。ポリマーIVが1.4dL/g以上になる場合、押出ゾーンのうちの1つ以上において、温度を10~15℃上昇させることが好ましい。
【0045】
製造工場におけるPG910C50ブロックコポリマーのスケールアップ重合の実行中、約1.3±0.1dL/gの比較的低い範囲のポリマーIVを示すポリマーロットが約半分以上存在することが見出された。表1及び2で提案される好ましい押出仕様は、2つの異なるレベルのポリマーIV(一方は約1.3dL/g、他方は約1.5dL/g)を使用した実際の押出工程に基づくものであり、これについては、押出実験I、II、及びIIIの実施例を通して詳細に後述する。
【0046】
マルチフィラメント押出品は、好ましくは、約1730fpmの固定速度で巻き上げられる。マルチフィラメント押出品を後続の工程において、Killion延伸スタンドなどの従来の延伸機器上で、4~6(より好ましくは約5.0X)の範囲の総延伸比で延伸した。延伸繊維の1フィラメント当たりのデニール(dpf)は、好ましくは1.5~2.5dpf(より好ましくは約2.0dpf)の範囲である。配向ロール(すなわち、未延伸フィラメントを供給するロール)の温度は、好ましくは70~90℃の範囲であり、延伸ロールの温度(多くの場合はアニーリングロールとも称される)は、好ましくは90~130℃の範囲である。糸束内のフィラメントの数は、最小4本から最大50本まで様々であり得る。配向糸の総デニールは、8から100まで様々であり得る。吸収性編組縫合糸の作製用のマルチフィラメント糸を製造するための、個々の繊維スプールの平均テナシティの指定下限値(LSL)は、5.6g/dである。繊維スプールの平均特性は、同じ繊維スプールから取った15本の糸の標本を試験することによって得られる。最小テナシティ要件を満たすことができない繊維の除去による廃棄を最小限に抑えるために、所与のロット内又は所与の一組の条件で製造される全サンプルの平均テナシティを6.0g/d以上に保つことが好ましい。
【0047】
デニールは、メートルカウンタ及び化学てんびんを有する任意の従来のデニールホイールを使用することによって測定され得る。マルチフィラメント糸の引張特性は、ゲージ長50cm及びひずみ速度72cm/分で、Textechno Statimat ME又はME+引張試験機で試験され得る。
【0048】
本発明の好ましい加工条件下で押し出されたPG910C50ブロックコポリマーの繊維から作製された編組縫合糸は、驚くべきことに高いインビトロ破壊強度保持率(%BSR)を有することが見出された。インビトロで%BSRは、依然として21日目に約80%、42日目に15%以上の高さであった。
【0049】
インビトロでのBSRの測定は、生理学的に関連するインビトロ条件で実施し、7.27pH緩衝液を37℃の温度に維持した。BSR評価に用いたデータの単位はポンド及びパーセントであった。特定の時点において、Instronの材料試験機を用いて、サンプルの引張強度を試験した。試験パラメータは、ゲージ長が1.0インチ及びクロスヘッド速度が1.0インチ/分であった。
【0050】
当業者が本明細書に記載される本発明の固有のプロセスの教示をより良く理解する又は実践するために、PG910C50ブロックコポリマーからのマルチフィラメント糸を製造して、望ましい繊維テナシティ及び高レベルのインビトロBSRを有する編組吸収性縫合糸の作製するための押出プロセスの設定点又は仕様を決定する方法の例証として、以下の実施例が提供されている。本発明は、実施例において具体化された90/10モル%のGly/Lacブロックコポリマーの特定の組成に限定されないことに留意されたい。本発明の新しい押出温度プロファイルは、押出工程中にポリマーの融点を超える高温で溶融され、維持されたときに、熱分解及び/又はエステル交換を容易に受け得る他の種類の吸収性ポリマーの押出にも使用され得る。
【0051】
押出実験Iの実施例
IV=1.31dL/g及び約215℃の融点を有するPG910C50ブロックコポリマー(すなわち、約50モル%のGly/Lacの中央ブロックを有する90/10モル%のGly/Lacブロックコポリマー)を、垂直押出機上で1インチ押し出した。押出機構を図1に示す。詳細な押出手順は、前述のとおりである。温度設定を表3及び4に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
次いで、押し出したマルチフィラメント糸を、製造工場において従来のKillon配向スタンドで延伸した。押し出したフィラメントを、配向ロール温度84±5℃、アニーリングロール温度115±10℃、総延伸比約5.0で、配向繊維へと延伸した。
【0055】
表3及び表4に示す押出温度に対応するそれぞれのサンプルセットについて、個々のスプール平均テナシティを図3に示す。計量ゾーンから紡糸口金ゾーンまでの温度を、ポリマーの融点よりも約15~20℃高い230~235℃に保った条件Aの第1のセットでは、繊維テナシティは非常に低かった。半分を超えるサンプルの個々のスプールの平均テナシティが、提案される指定下限値(LSL)5.6g/dを満たすことができず、このセットの平均テナシティは、好ましい目標平均6.0gpdを大幅に下回った。
【0056】
ポンプ、ブロック及びダイ温度をポリマーの融点よりもわずかに高い程度(約4~9℃のみ)まで低下させた条件Bでは、繊維テナシティは、あまり改善されているとは思われなかった。5つのサンプルのうちの2つは、テナシティLSLを満たすことができず、平均テナシティは、提案される最小目標6.0g/dよりも依然として大幅に下回った。
【0057】
ポンプ及びブロックをポリマーの融点(T)とほぼ同じ215℃まで低下させ、ダイはTよりも約5℃だけ高い条件Cでは、ほとんど(5個中4個)のサンプルが、LSL5.6g/dを上回るテナシティを示したが、1つのテナシティはLSLを依然として下回った。平均テナシティは、最小目標平均6.0gpdをちょうど満たした。従来の繊維押出プロセスでは、融点で又は融点に極近接した温度でポリマーを押し出すことは稀であり、有用な繊維を連続的に製造することは非常に困難又は不可能であり得る。
【0058】
しかしながら、非常に驚くべきことに、ポンプ中及びブロックゾーンの温度をポリマーの融点よりも5℃低くし、ダイ温度もポリマーのMPから約-1℃に低下させた条件Dでは、ポリマーを連続的に押し出し、1.31dL/gという比較的低いIVを有するPG910C50ブロックコポリマーで良質のマルチフィラメント押出品を製造することが依然として可能であった。マルチフィラメント押出品を異常に低い押出温度で製造したとき、又は押出品を延伸スタンド上で通常どおり5回延伸させたときのいずれも、問題は発生しなかった。配向繊維スプールの全てが、指定テナシティ下限値5.6g/dに合格した。セットの平均テナシティは約6.5に達し、最小目標平均6.0g/dをはるかに超えた。
【0059】
上記の驚くべき発見に続いて、本発明者らは、条件Eにおいてポンプ、ブロック、及び紡糸口金ゾーンの温度を更に5℃低下させた。この条件は、ポンプ及びブロックゾーンにおいて融点よりも約10℃低く、紡糸口金ゾーンの融点よりも約5℃低い温度に対応する。再び驚くべきことに、融点よりも5~10低い温度でポリマーを押し出すプロセスは、依然として非常に安定していた。問題なく通常どおり5回延伸した後、条件Eの配向サンプルのテナシティは全て、LSL5.6gpdに合格し、平均テナシティは約6.5gpdに留まった。条件Fでは、押出温度プロファイルをEと同じに保ったが、煙突温度を通常の設定値である285~273℃から15℃低下させた。平均テナシティは、6.6gpdに微増したが、平均延伸率は約21%から20%に低下した。これは、依然として15~30%の好ましい仕様範囲内にある。
【0060】
押出実験は、セットA~Fの最初の5つの条件それぞれで2~3時間連続して実行し、3~5個の配向繊維スプールを作製した。長期間にわたるプロセス安定性を実証し、検証するために、条件Dの押出温度を煙突ゾーンでわずかに変化(5℃低く)させてセットGで繰り返した。8時間にわたって連続的に押出を行い、11個の配向繊維スプールを作製した。ポンプ圧力は、2600~2730psiの範囲で安定したままであり、最大7500psiの動作限界をはるかに下回った。セットGの11個のサンプルの平均テナシティは、セットDのものと同じく、再び約6.5gpdであった。11個のサンプルのうち10個は、テナシティLSL5.6g/dに合格したか又はそれを超えた。1つのサンプルのみが、加工又は試験において発生する何らかの未知の変動又は雑音に起因して失敗したが、製造プロセスにおいて珍しいことではない。
【0061】
押出実験IIの実施例
押出実験IIは、実験Iと同じ押出機器で実施したが、1.29dL/gのIV及び約215℃の融点を有する異なるPG910C50ポリマーロットを用いた。実験は、実験IのセットGと同じである、セットAの条件で開始した。次に、表5及び表6に示すように、異なる押出条件の他の4つのセットのプロセス安定性と、得られる繊維特性とを評価した。配向条件は、実験Iと同じであった。サンプルの個々のスプール平均テナシティを、押出条件のセットごとに図4に示す。
【0062】
【表5】
【0063】
【表6】
【0064】
この実験は、平均テナシティが6.6gpdに達し、全ての個々のスプール平均テナシティが最小要件5.6gpdに合格したことから、セットAの温度プロファイルが、比較的低いIVポリマーにとって最も好ましいことを示した。B、D、及びEの条件もまた、平均テナシティが好ましい最小平均目標6.0gpd以上であり、個々のスプール平均テナシティデータの大部分(セットBの2つ及びセットEの1つを除く)は、指定下限値5.6gpdに合格したことから、条件B、D、及びEも許容可能であった。セットCの3つの全サンプルはまた、指定下限値5.6gpdを超えるスプール平均テナシティを有したが、平均テナシティは好ましい最小目標6.0gpdよりわずかに低かった。これはおそらく、前の2つのゾーン(供給ゾーン及び移行ゾーン)の温度が融点よりも30~40℃更に低かったことを考えると、融点よりも15℃低い計量ゾーン温度が少し低すぎたことが原因である。3つの押出機ゾーンのうちの1つ、好ましくは計量ゾーンを融点、又は融点よりわずかに高く設定して、ポリマーの十分な溶融及び流動性を引き起こすことが好ましい。計量ゾーンの後、比較的低いIVを有するPG910C50ブロックコポリマーのエステル交換及び熱分解を最小限に抑えるために、ポンプ温度及びブロック温度をポリマーの融点よりも5~16℃低い温度に保つことが好ましい。
【0065】
押出実験IIIの実施例
押出実験IIIは、実験I及びIIと同じ製造機器で実施したが、比較的高い1.52dL/gのIVを有するPG910C50ブロックコポリマーを使用した。融点はポリマーのIVによる顕著な影響は受けないが、溶融粘度はポリマーIVと共に大幅に増加しているように思われる。これは、押出温度が適切に調整されていない場合に、紡糸口金から溶融流を押し出すのに必要とされるポンプ圧力が大幅に増加することによって証明されている。この考察により、本発明者らは、ポンプ温度及びブロック温度を215℃のポリマーの融点よりも約20℃高く、紡糸口金温度を215℃のポリマーの融点よりも約30℃高く設定した状態で、高IVポリマーの押出(表7及び表8におけるセットA及びB)を開始した。ポンプ圧力は、約2200~2500psiの範囲に保たれ、押出プロセスは、24時間以上にわたる試験行程中に安定していた。
【0066】
【表7】
【0067】
【表8】
【0068】
図5に示されるように、A及びBの両条件下で作製された繊維サンプルの大部分(1つを除く)は、5.6gpdのLSLを満たす個々のスプール平均テナシティを有し、平均テナシティは、目標最小値6.0gpdに近接しているが、かろうじて満たすものであった。条件Cで、ポンプ、ブロック、及び紡糸口金ゾーンの温度が5℃低下したとき、全サンプルの個々のスプール平均テナシティは、5.6gpdのLSLに合格し、平均テナシティは、提案される最小目標平均6.0gpdを大幅に上回る、約6.6gpdまで著しく増加した。
【0069】
実験IIIの結果は、PG910C50の比較的高いIVブロックコポリマーであっても、押出ゾーンのうちの2つ以上の温度をポリマーの融点より少なくとも5℃低く保つことが依然として好ましい。計量ゾーン、ポンプゾーン、及びブロックゾーンは、ポリマーの融点よりも20℃以下高い、より好ましくは15℃以下高い温度にすべきである。紡糸口金温度は、好ましくはポリマーの融点よりも30℃以下高い温度であり、これは、米国特許第7,378,045号に推奨されるように、融点より少なくとも40℃高い、先行技術の教示とは対照的である。
【0070】
編組縫合糸の実施例
本発明の好ましいプロセス条件下で製造された実験I、II、及びIIIの実施例の繊維を使用して、動物体又は人体に移植した後のインビボでの縫合糸強度保持プロファイルを予測するために設計され、検証される、インビトロ性能試験用のサイズ2-0の編組縫合糸を作製した。
【0071】
記載されるようにアニールした2-0編組を、37℃及び中性pH7.27の生理学的条件を模倣する緩衝液中に入れた。0日目から始めて、サンプルを7日ごとに生理食塩液から取り出し、Instron引張特性検査を行った。加水分解時間の関数として、直線引張強度をモニタリングした。Instronのゲージ速度は1インチのゲージ長で1インチ/分であった。100ポンドのロードセルを使用した。時間ゼロでは、鋼面をInstron機で使用し、他の全ての加水分解時間ではゴム面を使用してずれを防いだ。緩衝槽からサンプルを除去した後、サンプルを室温で冷却(平衡化)し、次いで、全て濡れた状態で試験した。
【0072】
インビトロ試験を含む縫合糸特性を表9に示す。拡張された支持を必要とする創傷閉鎖の適用例について、サイズ2-0の縫合糸の材料仕様としては、12.5~13.5ミルの範囲の直径、9.2ボンドの最小初期引張強度、及び移植後42日目における2.3ポンドの最小破壊強度保持率(BSR)、並びに/又は移植後42日目における初期値の10%の最小破壊強度保持率が挙げられる。
【0073】
【表9】
【0074】
表9に示される結果から、好ましい発明条件下にて低IV及び高IVの両方のPG910C50ブロックコポリマーで作製された縫合糸サンプルが、平均直径約13ミルを有するUSPサイズ2-0縫合糸に対して提案される最終商品仕様を大幅に超える初期引張強度と、移植後42日目の破壊強度保持率(BSR)と、をもたらすことがわかった。
【0075】
以上、本発明をその詳細な実施形態について図示及び説明してきたが、当業者であれば、特許請求される発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく本発明の形態及び詳細に様々な変更を行い得る点が理解されるであろう。
【0076】
〔実施の態様〕
(1) 少なくとも供給ゾーン、移行ゾーン、及び計量ゾーンと、ポンプ及びブロック部と、紡糸口金と、を有する押出機を用いて、融点を有する吸収性コポリマーから、マルチフィラメント糸をマルチフィラメント繊維に製造するためのプロセスであって、
a.前記供給ゾーン、前記移行ゾーン、及び前記計量ゾーンからなる群から選択される前記3つの押出ゾーンのうちの少なくとも2つを、前記コポリマーの前記融点よりも約50℃低い~約2℃低い動作温度に設定し、維持する工程と、
b.前記ポンプ及びブロック部を、前記コポリマーの前記融点よりも約15℃低い~25℃以下高いポンプ温度に設定し、維持する工程と、
c.前記紡糸口金を、前記コポリマーの前記融点よりも約10℃低い~30℃以下高いスピン温度に設定し、維持する工程と、を含む、プロセス。
(2) 3つの押出ゾーンの少なくとも2つが、前記コポリマーの融点よりも少なくとも5℃低い温度に維持される、実施態様1に記載のプロセス。
(3) 前記コポリマーが、約90/10モル%のグリコリド/ラクチドの全体組成を有する吸収性コポリエステルである、実施態様1に記載のプロセス。
(4) 前記コポリマーが、前記中央ブロックに約50/50モル%のグリコリド/ラクチドを有し、約90/10モル%のグリコリド/ラクチドの全体組成を有するブロックコポリエステルである、実施態様1に記載のプロセス。
(5) 前記ブロックコポリエステルコポリマーが、1.4~1.6dL/gの範囲の固有粘度(IV)を有する、実施態様3に記載のプロセス。
【0077】
(6) 前記最終配向繊維が、少なくとも5.6g/dの個々のスプール平均テナシティ(spool average tenacity)を有する、実施態様1に記載のプロセス。
(7) 前記最終配向繊維が、少なくとも6.0g/dのロット平均テナシティ有する、実施態様1に記載のプロセス。
(8) 前記最終配向繊維から作製される編組マルチフィラメント縫合糸が、移植後42日目に少なくとも10%の破壊強度保持率を有する、実施態様7に記載のプロセス。
(9) 少なくとも供給ゾーン、移行ゾーン、及び計量ゾーンと、ポンプ及びブロック部と、紡糸口金と、を有する押出機を用いて、1.2~1.4の固有粘度(IV)及び融点を有する吸収性コポリマーから、マルチフィラメント糸をマルチフィラメント繊維に製造するためのプロセスであって、
a.供給ゾーン、移行ゾーン、及び計量ゾーンからなる群から選択される前記3つの押出機ゾーンのうちの少なくとも2つを、前記コポリマーの融点よりも約50℃低い~約2℃低い動作温度に設定し、維持する工程と、
b.前記ポンプ及びブロック部を、前記コポリマーの融点よりも約15℃低い~約3℃低いポンプ温度に設定し、維持する工程と、
c.前記紡糸口金を、前記コポリマーの融点よりも約8℃低い~約10℃以下高いダイ温度に設定し、維持する工程と、を含む、プロセス。
(10) 少なくとも3つの押出ゾーンが、前記ポリマーの融点よりも少なくとも5℃低い温度に維持される、実施態様9に記載のプロセス。
【0078】
(11) 前記コポリマーが、約90/10モル%のグリコリド/ラクチドの全体組成を有する吸収性コポリエステルである、実施態様9に記載のプロセス。
(12) 前記コポリマーが、前記プレポリマー又は中央ブロックに約50/50モル%のグリコリド/ラクチドを有し、約90/10モル%のグリコリド/ラクチドの全体組成を有するブロックコポリエステルである、実施態様9に記載のプロセス。
(13) 最終配向繊維が、少なくとも5.6g/dの個々のスプール平均テナシティを有する、実施態様9に記載のプロセス。
(14) 実施態様9に記載のプロセスで製造される前記最終配向繊維が、少なくとも6.0g/dのロット平均テナシティを有する、実施態様9に記載のプロセス。
(15) 前記最終配向繊維から作製される編組マルチフィラメント縫合糸が、移植後42日目に少なくとも10%の破壊強度保持率を有する、実施態様9に記載のプロセス。
図1
図2
図3
図4
図5