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特許7430730脳状態指示パラメータを確立する方法および脳状態指示パラメータを確立するためのシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】脳状態指示パラメータを確立する方法および脳状態指示パラメータを確立するためのシステム
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/161 20060101AFI20240205BHJP
   A61B 5/055 20060101ALI20240205BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
G01T1/161 D
A61B5/055 380
A61B10/00 H
G01T1/161 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021547641
(86)(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-20
(86)【国際出願番号】 DK2019050327
(87)【国際公開番号】W WO2020088730
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】PA201870707
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】521185273
【氏名又は名称】シナプティック アーペーエス
【氏名又は名称原語表記】SYNAPTIC APS
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】サイトナン、アイビン アントンセン
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0215889(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0160277(US,A1)
【文献】特表2010-520478(JP,A)
【文献】特開2010-012176(JP,A)
【文献】特開2011-000439(JP,A)
【文献】Eivind Antonsen Segtnan et al.,Prognostic Implications of Total Hemispheric Glucose Metabolism Ratio in Cerebrocerebellar Diaschisis,Journal of Nuclear Medicine,Society of Nuclear Medicine & Molecular Imaging,2017年05月01日,Vol. 58, No. 5,pp. 768-773,DOI: 10.2967/jnumed.116.180398
【文献】Xiao-Hong Zhu et al.,Quantitative imaging of brain energy metabolisms and neuroenergetics using in vivo X-nuclear 2H, 17O and 31P MRS at ultra-high field,Journal of Magnetic Resonance ,2018年06月01日,Vol. 292,pp. 155-170,DOI: 10.1016/j.jmr.2018.05.005
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/161 - 1/166
A61B 5/055
A61B 6/00 - 6/58
A61B 8/00 - 8/15
G06T 1/00 - 1/60
G06T 7/00 - 7/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳障害を示す脳状態指示パラメータ(BSI)を確立するための脳状態確立システム(BSS)であって、
被験者(SUB)の脳(BR)の少なくとも一部の脳エネルギー代謝指示子(BEM)を決定し、前記被験者(SUB)の頭蓋骨(SK)の少なくとも一部の頭蓋骨エネルギー代謝指示子(SEM)を決定するように構成された脳スキャンデバイス(BSD)と、
前記脳エネルギー代謝指示子(BEM)を前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子(SEM)に少なくとも関連させることによって前記脳状態指示パラメータ(BSI)を確立するように構成されたコンピュータデバイス(CD)と、を備える、脳状態確立システム(BSS)。
【請求項2】
前記関連させることは、前記脳エネルギー代謝指示子と前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子との間の比率、または前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子と前記脳エネルギー代謝指示子との間の比率を計算することを含む、請求項1に記載のシステム
【請求項3】
前記被験者の前記脳の前記脳エネルギー代謝指示子が決定される、請求項1または2に記載のシステム
【請求項4】
前記脳の前記一部は、50%以上の最も活動的な神経線維を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム
【請求項5】
前記コンピュータデバイスは、前記脳の右半球の少なくとも一部と前記脳の左半球の対応する部分との間の対称性の程度を確立するようにさらに構成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載のシステム
【請求項6】
前記対称性の程度は、前記脳の右半球の少なくとも一部と前記脳の左半球の対応する部分との間の比率を含む、請求項に記載のシステム
【請求項7】
前記脳エネルギー代謝指示子は、脳エネルギー代謝指示子分布から決定され、前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子は、頭蓋骨エネルギー代謝指示子分布から決定される、請求項1~6のいずれか一項に記載のシステム
【請求項8】
前記コンピュータデバイスは、前記脳エネルギー代謝指示子分布における区分、前記脳の1つまたは複数の部分における脳エネルギー代謝指示子を取得するべくうようにさらに構成されている、請求項に記載のシステム
【請求項9】
前記コンピュータデバイスは、前記被験者の前記脳の少なくとも一部の1つまたは複数のさらなる脳エネルギー代謝指示子を決定するようにさらに構成されている、請求項1~8のいずれか一項に記載のシステム
【請求項10】
前記被験者の前記頭蓋骨の少なくとも一部の1つまたは複数のさらなる頭蓋骨エネルギー代謝指示子を決定するようにさらに構成されている、請求項1~9のいずれか一項に記載のシステム
【請求項11】
前記脳エネルギー代謝指示子分布を、規則的な形状の複数の3次元区域へと分割することを含む区分を行うようにさらに構成されている、請求項7または8に記載のシステム
【請求項12】
前記エネルギー代謝指示子および前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子は、磁気共鳴機能画像法(fMRI)ベースの技法、コンピュータ断層撮影(CT)スキャンベースの技法、陽電子放出断層法(PET)ベースの技法、脳磁図(MEG)または脳波(EEG)ベースの技法、単一光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)ベースの技法、または超音波ベースの技法からなる群から選択される神経画像技法によって決定される、請求項1~11のいずれか一項に記載のシステム
【請求項13】
前記脳状態指示パラメータは前記脳障害の存在または不存在を示す指示を与える、請求項1~12のいずれか一項に記載のシステム
【請求項14】
前記脳状態指示パラメータは前記脳障害の種類を示す指示を与える、請求項1~13のいずれか一項に記載のシステム
【請求項15】
前記脳障害は、機能乖離、脳腫瘍、軽度認知障害(MCI)、およびアルツハイマー病(AD)からなる群から選択される、請求項1~14のいずれか一項に記載のシステム
【請求項16】
脳状態指示パラメータ指示は、大脳機能の表現と、前記脳エネルギー代謝指示子と前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子との間の前記関連と、を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載のシステム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳状態指示パラメータ、特に機能乖離に関する脳障害を示す脳状態指示パラメータを確立するための方法に関する。本発明は、そうした脳状態指示パラメータを確立するシステム、コンピュータプログラム、および病気を治療する方法にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
脳障害を診断するための入力としての画像技法の使用は、極めて一般的になっている。それにもかかわらず、そうした画像は、典型的には、影響を受けると思われる脳の特定のエリアに対して評価される。また、診断に到る評価は、典型的には医師によって行われることにより、診断を行うための基礎を形成する所見については本質的に主観的なものとなる場合がある。
【0003】
したがって、より正確な診断に達することは困難であり続ける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記の困難を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、脳障害を示す脳状態指示パラメータを確立する方法であって、
被験者の脳の少なくとも一部の脳エネルギー代謝指示子を決定する工程と、
前記被験者の頭蓋骨の少なくとも一部の頭蓋骨エネルギー代謝指示子を決定する工程と、
前記脳エネルギー代謝指示子を前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子に少なくとも関連させることによって前記脳状態指示パラメータを確立する脳状態指示パラメータ確立工程と、を備える方法に関する。
【0006】
本発明の1つの利点は、脳障害の存在のみ込みが、以前に知られていた方法よりも高精度に確立され得ることである。脳エネルギー代謝指示子を頭蓋骨エネルギー代謝指示子と関連させることによって、脳の状態の指示が脳状態指示パラメータとして取得される。脳状態指示パラメータは、したがって、被験者を診断するプロセスにおいて医師にとって非常に価値がある入力であり得る。
【0007】
特に、頭蓋骨エネルギー代謝指示子と脳エネルギー代謝指示子とを含むことによって、様々な被験者間の脳におけるエネルギー代謝に対する違いが、より正確な脳状態指示パラメータを取得するように、少なくとも部分的には考慮されることが可能である。
【0008】
驚くことに、本発明者は、前記脳エネルギー代謝指示子を前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子に少なくとも関連させることによって、脳障害における病因の様々な種類にわたっても、脳状態指示パラメータに対する先例のない精度を発見した。有利な実施形態では、前記脳エネルギー代謝指示子と前記頭蓋骨エネルギー代謝との間の前記関連は比率である。
【0009】
本発明の重要な利点は、被験者間のずれが、脳エネルギー代謝指示子と頭蓋骨エネルギー代謝指示子との間の関連を用いることによって埋め合わされることである。換言すると、言及された関連を使用することは、正常値からのずれが検出可能である意味において、値を比較可能にするのに役立つ。同一の被験者についての以前の測定は、理論的には比較可能であるが、実際には、そうしたものが非常に少数の被験者についてしか存在しないため、さらには機器におけるわずかな変更およびその変更の設定が異なる絶対値を導き得、したがって、比較可能性が取り除かれるため、信頼することが可能でない。本発明者は、同一の被験者の頭蓋骨の値を用いることによって適切な参照値が取得されたこと、すなわち、脳または脳の一部のエネルギー代謝値を頭蓋骨または頭蓋骨の一部のエネルギー代謝値と比較することによって、被験者間の違いが少なくとも部分的には考慮されることが可能であることを発見した。
【0010】
脳の画像が決定的な入力を医師に提供しない場合にも、本発明の脳状態指示パラメータは、脳障害の存在の指示を、場合によっては脳障害の指示特定種類も、依然として提供してよい。
【0011】
有利には、脳状態指示パラメータの形態における診断の関連性のパラメータを医師に提供することによって、より正確かつ迅速な診断が行われ、またより正確かつ迅速な治療が行われる。したがって、本発明の重要な利点は、生き延びるより高い可能性を含む成功する治療の向上した可能性、病気または条件の悪影響のより効果的な緩和、緩和された副作用などを行うことであり得る。
【0012】
この場合、用語「脳」は、特に断りがない限り、脳全体(すなわち、大脳および小脳を含む)を呼ぶ。
この場合、用語「脳エネルギー代謝指示子」は、脳エネルギー代謝の指示子を呼ぶ。「エネルギー代謝」および「グルコース代謝」は、本明細書において互換に用いられることに留意されたい。特に、脳エネルギー代謝指示子は、脳の少なくとも一部に関することに留意されたい。したがって、脳エネルギー代謝指示子は、いくつかの実施形態では脳の一部に基づいて、またいくつかの他の実施形態では脳全体に基づいて決定されてよい。この目的のための脳の一部の例は、大脳、もしくは大脳の左半球もしくは右半球などの大脳の一部、もしくは大脳の別の部分、小脳、もしくは小脳の左半球もしくは右半球などの小脳の一部、もしくは小脳の別の部分、脳全体の左半球もしくは右半球、または脳の別の部分を含む。脳エネルギー代謝指示子は、FDG-PETなどの直接指示子と、例えば、神経活動または血流を示す、エネルギー代謝に関連付けられたより多くの間接指示子と、の両方を含むことにも留意されたい。小脳は、2つの半球、すなわち、右半球と左半球とを備える。同様に、大脳は、2つの半球、すなわち、右半球と左半球とを備える。例えば、脳の左半球を参照するとき、特に断りがない限り、大脳および小脳の左半球が意図される。本発明によれば、前記脳状態指示パラメータを確立する脳状態指示パラメータ確立工程は、前記脳エネルギー代謝指示子を前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子に少なくとも関連させることを含む。いくつかの実施形態では、脳状態指示パラメータを取得するように、さらなるパラメータおよび/または計算が行われる。
【0013】
この場合、用語「頭蓋骨エネルギー代謝指示子」は、頭蓋骨エネルギー代謝の指示子を呼ぶ。「エネルギー代謝」および「グルコース代謝」は、本明細書において互換に用いられることに留意されたい。特に、頭蓋骨エネルギー代謝指示子は、頭蓋骨の少なくとも一部に関することに留意されたい。したがって、頭蓋骨エネルギー代謝指示子は、いくつかの実施形態では頭蓋骨の一部に基づいて、またいくつかの他の実施形態では頭蓋骨全体に基づいて決定されてよい。頭蓋骨エネルギー代謝指示子は、FDG-PETなどの直接指示子と、例えば、血流を示す、エネルギー代謝に関連付けられたより多くの間接指示子と、の両方を含むことにも留意されたい。
【0014】
本発明の場合、用語「脳障害指示パラメータ」は、脳の状態を指示するパラメータとして用いられ、当該被験者について脳障害の存在の可能性および/または脳障害の種類を指示してよい。いくつかの実施形態では、特により単純な実装では、脳障害指示パラメータは、典型的には2つの所定の端点の値の間の、値の数である。いくつかの実施形態では、特により洗練された実装では、脳障害指示パラメータは、1組の数または値を含んでよく、1組の数または値は、例えば、ある種類の脳障害の見込みを指示してよい。いくつかの実施形態では、脳障害指示パラメータは、ある種類の脳障害の見込みを含まない。脳障害指示パラメータは、診断を置き換えない意味において、診断の関連性の中間の所見として機能するが、そうした診断に達するように医師によって入力として用いられることが可能であることに留意されたい。したがって、医師は、脳障害指示パラメータの値をある臨床写真に帰するなど、さらなる工程を含んでよい。いくつかの実施形態では、これは診断の関連性のさらなるパラメータの入力を必要とする。
【0015】
この場合、用語「関連させること」は、様々な形態の関連付けまたは比較、すなわち、前記脳エネルギー代謝指示子と前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子との間の関連を呼び得る。有利な実施形態では、関連させることは、2つの間の比率を少なくとも見出すことを含む。
【0016】
この場合、用語「脳障害」は、脳に関連する異常性を広くカバーするように理解される。用語「脳障害」は、原因(例えば、脳の癌)と生じた状態(機能乖離)との両方をカバーしてよいことに留意されたい。したがって、本明細書において言及される様々な脳障害は、いくつかの場合では、いくらか重なり合う。脳障害の例は、アルツハイマー病、パーキンソン病、軽度認知障害(MCI)、グリオーマ、外傷性脳損傷、脳卒中、脳神経外科(すなわち、脳神経外科の効果)、起こり得る脳実質に対する薬の副作用を含む。
【0017】
この場合、用語「脳状態確立システム」は、被験者からの測定値を記録するように、また各被験者についての脳状態指示パラメータを確立するように構成されたシステムとして理解される。いくつかの実施形態では、システムは、推奨された治療が容易に適用されることが可能である意味において、少なくとも脳状態指示パラメータを用いて診断に達するようにさらに構成されてよい。
【0018】
本発明の有利な実施形態によれば、前記関連させることは、前記脳エネルギー代謝指示子と前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子との間の比率、または前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子と前記脳エネルギー代謝指示子との間の比率を計算することを含む。
【0019】
上記の実施形態の利点は、様々な被験者間の脳におけるエネルギー代謝に対する違いが、より正確な脳状態指示パラメータを取得するように、少なくとも部分的には考慮されることが可能であることである。特に、脳エネルギー代謝指示子と頭蓋骨エネルギー代謝指示子との間の比率(または頭蓋骨エネルギー代謝指示子と脳エネルギー代謝指示子との間の比率)を使用することによって、被験者間の違いについて脆弱性がとても小さい、脳障害に対するより正確な測定値が取得されてよい。これは、結果として、正しい診断および特定の被験者について適合され合わせられた治療に達するように、医師の決定を支持する。
【0020】
代替の実施形態によれば、関連させることは、以下の形態であってよい。
頭蓋骨-脳の比率=Sk Br
ここで、iは頭蓋骨のi番目の部分を示し、jは脳のj番目の部分を示し、aおよびbは指数を示し、ここでaおよびbは反対の符号を有する(すなわち、aが正かつbが負、またはaが負かつbが正)。
【0021】
この実施形態は、aおよびbが反対の符号の単一値であるとき、2つの値の比率を含むことに留意されたい。
代替の実施形態によれば、関連させることは、以下の形態であってよい。
【0022】
頭蓋骨-脳の比率=k(Sk+k(Br +k
ここで、iは頭蓋骨のi番目の部分を示し、jは脳のj番目の部分を示し、aおよびbは指数を示し、ここでaおよびbは反対の符号を有する(すなわち、aが正かつbが負、またはaが負かつbが正)。さらに、k,kおよびkは定数値である。
【0023】
=k=0のとき、関連は上記の関連に対し減少することに留意されたい。
本発明の有利な実施形態によれば、前記関連させることは、前記脳エネルギー代謝指示子と前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子との間の比率を計算することを含む。
【0024】
本発明の有利な実施形態によれば、前記脳の前記一部は、少なくとも小脳の左半球を含む。
脳エネルギー代謝指示子の決定の際に小脳の左半球を用いて、または脳エネルギー代謝指示子および/または1つまたは複数のさらなる脳エネルギー代謝指示子のうちの1つ以上の決定における1つまたは複数のさらなる脳エネルギー代謝指示子における決定時に。
【0025】
本発明の有利な実施形態によれば、前記脳の前記一部は、少なくとも小脳の右半球を含む。
本発明の有利な実施形態によれば、前記脳の前記一部は、少なくとも大脳の左半球を含む。
【0026】
本発明の有利な実施形態によれば、前記脳の前記一部は、少なくとも大脳の右半球を含む。
本発明の有利な実施形態によれば、前記被験者の前記脳の前記脳エネルギー代謝指示子が決定される。
【0027】
したがって、脳エネルギー代謝指示子の上記の実施形態では、脳全体が決定される。換言すると、前記被験者の脳の少なくとも一部の脳エネルギー代謝指示子を決定する工程は、前記被験者の脳全体の脳エネルギー代謝指示子を決定することからなる。
【0028】
本発明の有利な実施形態によれば、前記脳の前記一部は、50%以上の最も活動的な神経線維を備える。
本発明の有利な実施形態によれば、方法は、前記脳の前記右半球の少なくとも一部と前記脳の前記左半球の対応する部分との間の対称性の程度を確立することを含む。
【0029】
上記の実施形態の利点は、非常に高精度の脳状態指示パラメータが取得され得ることであってよい。
健康な脳は高い程度の対称性を通常示すこと、またそうした高い程度の対称性からずれることは脳障害の存在を示すことに留意されたい。
【0030】
本発明の有利な実施形態によれば、前記対称性の程度は、前記脳の前記右半球の少なくとも一部と前記脳の前記左半球の対応する部分との間の比率を含む。
本発明の有利な実施形態によれば、前記対称性の程度は、前記大脳の前記右半球と前記大脳の前記左半球との間の比率を含む。
【0031】
本発明の有利な実施形態によれば、前記対称性の程度は、前記小脳の前記右半球と前記小脳の前記左半球との間の比率を含む。
本発明の有利な実施形態によれば、前記対称性の程度は、前記大脳の前記右半球と前記大脳の前記左半球との間の比率、および前記小脳の前記右半球と前記小脳の前記左半球との間の比率を含む。
【0032】
本発明の有利な実施形態によれば、前記対称性の程度は、前記脳の前記右半球と前記脳の前記左半球との間の比率を含む。
本発明の有利な実施形態によれば、前記脳エネルギー代謝指示子は、脳エネルギー代謝指示子分布から決定される。
【0033】
本発明の有利な実施形態によれば、前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子は、頭蓋骨エネルギー代謝指示子分布から決定される。
一実施形態では、前記脳エネルギー代謝指示子が脳エネルギー代謝指示子分布から決定され、前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子が頭蓋骨エネルギー代謝指示子分布指示子から決定される。
【0034】
本発明の有利な実施形態によれば、前記脳エネルギー代謝指示子分布における区分(セグメント化)は、前記脳の1つまたは複数の部分における脳エネルギー代謝指示子を取得するように行われる。
【0035】
本発明の有利な実施形態によれば、方法は、前記頭蓋骨の1つ以上の半球を前記頭蓋骨の反対側の半球に関連させることによる、区分誤差についての補正比率を含む。
本発明の有利な実施形態によれば、前記区分誤差についての前記補正は、前記頭蓋骨の前記右半球と前記頭蓋骨の前記左半球との間の比率を含む。
【0036】
本発明の有利な実施形態によれば、方法は、前記被験者の前記脳の少なくとも一部の1つまたは複数のさらなる脳エネルギー代謝指示子を決定する工程をさらに備える。
一例として、前記脳エネルギー代謝指示子および前記1つまたは複数のさらなる脳エネルギー代謝指示子は、脳エネルギー代謝指示子分布の区分から(例えば、1つまたは複数の脳エネルギー代謝指示子画像の形態において)取得されてよい。
【0037】
本発明の有利な実施形態によれば、方法は、前記被験者の前記頭蓋骨の少なくとも一部の1つまたは複数のさらなる頭蓋骨エネルギー代謝指示子を決定する工程をさらに備える。
【0038】
一例として、前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子および前記1つまたは複数のさらなる頭蓋骨エネルギー代謝指示子は、頭蓋骨エネルギー代謝指示子分布の区分から(例えば、1つまたは複数の頭蓋骨エネルギー代謝指示子画像の形態において)取得されてよい。
【0039】
本発明の有利な実施形態では、方法は、前記脳エネルギー代謝指示子分布を、ほぼ規則的な形状の複数の3次元区域へと分割することをさらに含む。
本発明の一実施形態では、方法は、脳または脳の一部の区分、すなわち、前記脳エネルギー代謝指示子分布を複数のほぼ規則的に形状決定された3次元区域へと分割することを含む区分を備える。
【0040】
本発明の有利な実施形態では、前記区域の各々は、前記脳エネルギー代謝指示子分布の1つ以上のボクセルに対応する。
本発明の有利な実施形態では、シナプス・エントロピーネットワーク指示パラメータを確立することであって、前記シナプス・エントロピー指示子を正規母集団のシナプス・エントロピー指示子である対応する正規化されたシナプス・エントロピー指示子に少なくとも関連させることによって、シナプス・エントロピーネットワーク指示パラメータを確立することをさらに備える。
【0041】
この場合、用語「シナプス・エントロピー指示子」は、脳エントロピーの指示子を呼ぶ。シナプス・エントロピー指示子は、例えば、いくつかの実施形態では1つ以上のボクセルに基づいて、またいくつかの他の実施形態では脳全体における複数のボクセルに基づいて決定されてよい。
【0042】
シナプス・エントロピー指示子を正規化されたシナプス・エントロピー指示子と関連させることによって、シナプスネットワークの乱れの状態の指示がシナプス・エントロピーネットワーク指示パラメータとして取得されてよい。正規化されたシナプス・エントロピー指示子は、例えば、100以上の健康な被験者などの、30以上の健康な被験者から取得されてよい。
【0043】
上記の実施形態では、シナプス・エントロピー指示子は、当然ながら、対応する正規化されたシナプス・エントロピー指示子、すなわち、シナプス・エントロピー指示子と脳の同一部分に対応する正規化されたシナプス・エントロピー指示子に関連する。
【0044】
一例として、脳は、複数の平面、例えば、水平面(すなわち、「薄切り」)へと分割されてよく、ここで、各平面についてのシナプス・エントロピーネットワーク指示パラメータHは、以下のように計算される。
【0045】
【数1】
ここで、iおよびjは、各ピクセルの位置を表し、mは行の数であり、nは列の数であり、bは対数の底である(二進対数では2とする)。
【0046】
脳全体のシナプス・エントロピーネットワーク指示パラメータHは、次いで、以下のように計算される。
=ΣH
ある意味では、各平面と脳全体とについて計算された上記のようなシナプス・エントロピーネットワーク指示パラメータは、それぞれ、各平面および脳全体についてのエントロピーの測定値と見なされてよい。
【0047】
本発明の一実施形態では、各ボクセルは、脳エネルギー代謝指示子分布の単一値、(すなわち、適用された神経画像技法によって取得された画像の最小単位)に対応する。
本発明の一実施形態では、各ボクセルは、脳エネルギー代謝指示子分布の複数の値の合計に対応する。これは、複数のボクセルを減少させることによって、ボクセルの後続のデータ処理を減少させることが、特に有利であり得る。
【0048】
本発明の一実施形態では、脳エネルギー代謝指示子分布は、各寸法について5以上の区域に分割される。したがって、この実施形態では、脳エネルギー代謝指示子分布は125以上のボクセルを有する。
【0049】
本発明の一実施形態では、脳エネルギー代謝指示子分布は、各寸法について10以上の区域に分割される。したがって、この実施形態では、脳エネルギー代謝指示子分布は1000以上のボクセルを有する。
【0050】
本発明の有利な実施形態では、前記脳状態指示パラメータ確立工程は、前記脳エネルギー代謝指示子と前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子との間の前記関連を、前記シナプス・エントロピーネットワーク指示パラメータと統合することをさらに含む。
【0051】
本発明の有利な実施形態によれば、方法は、前記脳エネルギー代謝指示子と前記さらなる脳エネルギー代謝指示子のうちの1つとのいずれかを、前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子または前記さらなる頭蓋骨エネルギー代謝指示子のうちの1つとのいずれかに関連させる、さらなる工程であって、前記さらなる脳エネルギー代謝指示子のうちの1つと前記さらなる頭蓋骨エネルギー代謝指示子のうちの1つとの少なくとも一方が用いられる、工程を備える。
【0052】
例えば、大脳もしくは大脳の一部に関連した1つまたは複数の脳エネルギー代謝指示子、および/または小脳もしくは小脳の一部に関連した1つまたは複数の脳エネルギー代謝指示子が、用いられてよい。
【0053】
本発明の有利な実施形態では、前記エネルギー代謝指示子は、磁気共鳴機能画像法(fMRI)ベースの技法、コンピュータ断層撮影(CT)スキャンベースの技法、陽電子放出断層法(PET)ベースの技法、脳磁図(MEG)または脳波(EEG)ベースの技法、単一光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)ベースの技法、または超音波(US)ベースの技法などの、神経画像技能によって決定される。
【0054】
上記の技法は、例えば、エネルギー代謝指示子分布により、エネルギー代謝指示子の確立に使用するのに適する。エネルギー代謝指示子分布技法を用いる利点は、脳の下位区分への区分が比較的容易であり得ることである。
【0055】
本発明の一実施形態によれば、前記エネルギー代謝指示子は、磁気共鳴機能画像法(fMRI)ベースの技法、コンピュータ断層撮影(CT)スキャンベースの技法、陽電子放出断層法(PET)ベースの技法、単一光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)ベースの技法などの、神経画像技法によって決定される。
【0056】
本発明の有利な実施形態によれば、前記脳エネルギー代謝指示子は、陽電子放出断層法(PET)ベースの技法によって決定される。
上記の実施形態の利点は、例えば、フルデオキシグルコース(FDG)などのトレーサを用いた陽電子放出断層法(PET)ベースの技法を用いることによって、エネルギー代謝の比較的直接的な指示が取得され得ることである。
【0057】
本発明の有利な実施形態によれば、前記エネルギー代謝指示子は、磁気共鳴機能画像法(fMRI)ベースの技法などの磁気共鳴画像法(MRI)ベースの技法によって決定される。
【0058】
上記の実施形態の利点は、エネルギー代謝がfMRIベースの技法などのMRIベースの技法によって提供された支持から決定され得ることであり得る。
本発明の有利な実施形態によれば、放射性トレーサなどのトレーサが前記エネルギー代謝指示子の決定に用いられる。
【0059】
本発明の有利な実施形態によれば、前記エネルギー代謝指示子は、トレーサとしてフルデオキシグルコース(FDG)を用いた陽電子放出断層法(PET)ベースの技法によって決定される。
【0060】
本発明の有利な実施形態によれば、前記脳状態指示パラメータは前記脳障害の存在または不存在を示す指示を与える。
本発明の有利な実施形態によれば、前記脳状態指示パラメータは前記脳障害の存在の可能性を示す指示を与える。
【0061】
本発明の有利な実施形態によれば、前記脳状態指示パラメータは前記脳障害の種類を示す指示を与える。
本発明の有利な実施形態によれば、前記脳障害は、機能乖離、グリオーマなどの脳腫瘍、軽度認知障害(MCI)、およびアルツハイマー病(AD)から選択される。
【0062】
本発明の有利な実施形態によれば、前記脳障害は機能乖離を含む。
上記の実施形態の利点は、機能乖離がいくつかの他の脳障害(例えば、グリオーマおよびアルツハイマー病)と関連付けられ得ることであり得る。機能乖離は、一実施形態では、安静状態ネットワークの境界を横断するいわゆる「ネットワーク機能乖離」を含んでよい。
【0063】
機能乖離は、脳の神経学的および生物学的ネットワークに表現される現象である。機能乖離は、例えば、大脳において活性化し小脳に広められ得る、および/または小脳において活性化し大脳に広められ得る。今までのところ、脳の複数の様々な生理学的変化よりも、機能乖離が脳のネットワーク全体に存在する(すなわち、ネットワークの機能乖離)という定義によって表現されることが可能である。例えば、コネクトームの神経連絡において、また脳実質におけるグリアの生物学的細胞によっておよびその生物学的細胞からの両方により発展し得る。したがって、機能乖離は、シナプス間の順序、いわばエントロピーを変更する脳のシナプスにおける、および脳のシナプス間の両方において転移する、エネルギーの転移として定義されることが可能である。エネルギー転移は、シナプスネットワークを一体に機能させる。シナプスネットワークの一体性を強調するために、この一体のシナプスネットワークを、1つの単一のエンティティにおける脳全体を包含するシナプソーム(synapsome)とも呼ぶ場合がある。シナプソームは「シナプス(synapse)」、すなわち神経細胞間の接合を指し、また「オーム(ome)」は集合的に考えられているすべての構成を指す(すなわち、ネットワークの側面を強調する)。
【0064】
本発明は、機能乖離に対する非常に正確な脳状態指示パラメータを提供してよい。
本発明の有利な実施形態によれば、前記脳はグリオーマなどの脳腫瘍を含む。
本発明の有利な実施形態によれば、前記脳障害は軽度認知障害(MCI)を含む。
【0065】
本発明の有利な実施形態によれば、前記脳障害はアルツハイマー病(AD)を含む。
本発明の一実施形態によれば、前記脳状態指示パラメータ指示は大脳機能の表現を含む。大脳機能は、前記脳全体に対する前記大脳の前記エネルギー代謝指示子の比率を表してよい。
【0066】
本発明の一実施形態によれば、前記脳状態指示パラメータ指示は、大脳機能の表現と、前記脳エネルギー代謝指示子と前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子との間の前記関連と、を含む。
【0067】
本発明の一実施形態によれば、前記脳状態指示パラメータ指示は、前記脳の前記右半球の少なくとも一部と前記脳の前記左半球の対応する部分との間の前記対称性の程度の表現と、前記脳エネルギー代謝指示子と前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子との間の前記関連と、を含む。
【0068】
本発明の一実施形態によれば、前記脳状態指示パラメータ指示は、大脳機能の表現と、前記脳の前記右半球の少なくとも一部の間の前記対称性の程度の表現と、前記脳エネルギー代謝指示子と前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子との間の前記関連と、を含む。
【0069】
本発明の有利な実施形態によれば、脳状態指示パラメータ確立工程はコンピュータによって行われる。
本発明は、脳障害を示す脳状態指示パラメータを確立するための脳状態確立システムであって、
被験者の脳の少なくとも一部の脳エネルギー代謝指示子を決定する工程と、
前記被験者の頭蓋骨の少なくとも一部の頭蓋骨エネルギー代謝指示子を決定する工程と、
前記脳エネルギー代謝指示子を前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子に少なくとも関連させることによって前記脳状態指示パラメータを確立する脳状態指示パラメータ確立工程と、を行うように構成されたコンピュータデバイスと、備える、脳状態確立システムにさらに関する。
【0070】
本発明の一実施形態によれば、本発明または本発明の実施形態のうちのいずれか1つに係る脳状態確立システムは、本発明または本発明の実施形態のうちのいずれか1つに係る脳状態指示パラメータを確立する方法に従って動作するように構成される。
【0071】
脳スキャンデバイスは、磁気共鳴機能画像法(fMRI)スキャナ、コンピュータ断層撮影(CT)スキャナ、陽電子放出断層法(PET)スキャナ、脳磁図(MEG)もしくは脳波(EEG)スキャナ、単一光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)スキャナ、もしく超音波(US)スキャナ、またはエネルギー代謝もしくは脳および頭蓋骨におけるエネルギー代謝の指示子を測定できる任意の他のスキャナなどの、神経画像スキャナであってよい。
【0072】
本発明は、コンピュータプログラムであって、前記プログラムがコンピュータによって実行された時、コンピュータに先行する請求項のいずれか一項に記載の方法の工程を行わせる、命令を備える、コンピュータプログラムにさらに関する。
【0073】
本発明は、病気を治療する方法であって、薬品を投与するまたは外科手術を行う前に、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法を行うことを含む、方法にさらに関する。
本発明は、病気を治療する方法であって、身体運動を行う前に、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法を行うことを含む、方法にさらに関する。
【0074】
以下、添付図面を参照して本発明が記載される。
【図面の簡単な説明】
【0075】
図1A】本発明の一実施形態に係る脳状態指示パラメータを確立する方法を示す図。
図1B】本発明の一実施形態に係る脳状態指示パラメータを確立する方法を示す図。
図2】本発明の一実施形態に係る脳状態確立システムを示す図。
図3】本発明の一実施形態に係る区分工程を示す図。
図4A】本発明の一実施形態に係るエネルギー代謝指示子分布画像の長軸断面図。
図4B】本発明の一実施形態に係るエネルギー代謝指示子分布画像の長軸断面図。
図5A】本発明の一実施形態に係るエネルギー代謝指示子分布画像の長軸断面図。
図5B】本発明の一実施形態に係るエネルギー代謝指示子分布画像の長軸断面図。
図6A】本発明の一実施形態に係るエネルギー代謝指示子分布画像の冠状図。
図6B】本発明の一実施形態に係るエネルギー代謝指示子分布画像の矢状図。
【発明を実施するための形態】
【0076】
図1Aを参照すると、本発明の一実施形態に係る脳状態指示パラメータBSIを確立する方法が記載される。
脳状態指示パラメータBSIは、例えば、脳障害が存在する見込みとして、または1つ以上もしくは一群の脳障害が存在する見込みとして、または1つもしくは複数の特定の脳障害が存在する見込みとして、脳障害の指示を提供する。
【0077】
まず、被験者の脳BRの少なくとも一部の脳エネルギー代謝指示子BEMは、決定されたDBIである。これは、より多いまたはより少ないエネルギー代謝の直接指標を提供し得る、様々な異なる技法によって行われてよい。
【0078】
次いで、被験者の頭蓋骨SKの少なくとも一部の頭蓋骨エネルギー代謝指示子SEMは、決定されたDSIである。これは、典型的には、脳エネルギー代謝指示子BEMに関する同様の技法によって行われてよい。実施形態では、脳エネルギー代謝指示子BEMを決定するおよび脳状態指示パラメータBSIを確立する工程が、脳エネルギー代謝指示子および頭蓋骨エネルギー代謝指示子が同一の画像から取得され、続けて脳の少なくとも一部の脳エネルギー代謝指示子および頭蓋骨の少なくとも一部の頭蓋骨エネルギー代謝指示子へと区分される意味において、単一の工程として実行される。これは、図1Bおよび図3においてより詳細に示される。
【0079】
次いで、脳状態指示パラメータBSIが確立した。これは、前記脳エネルギー代謝指示子を前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子に少なくとも関連させることを含む。この関係は、例えば、脳エネルギー代謝指示子と頭蓋骨エネルギー代謝指示子との間の比率を比較または形成することを含んでよい。その比率を用いる時、これは、脳エネルギー代謝指示子と頭蓋骨エネルギー代謝指示子との間の比率、または頭蓋骨エネルギー代謝指示子と脳エネルギー代謝指示子との間の比率であってよい。
【0080】
いくつかの実施形態では、この比率は、単一の数の部分、または1組の数(例えば、それが数を計算する基礎を形成する方程式における因子および/または項である意味において)を形成する。
【0081】
図1Bを参照すると、本発明の一実施形態に係る脳状態指示パラメータBSIを確立する方法が記載される。
まず、測定工程MESでは、エネルギー代謝指示子の1つまたは複数の画像が記録される。1つまたは複数の画像は、次いで、区分工程SEGにおいて区分される。まず、画像の脳部分は、DBI脳エネルギー代謝指示子BEMを決定するための基礎を形成するように分離される。次いで、画像の頭蓋骨部分は、DSI頭蓋骨エネルギー代謝指示子SEMを決定するための基礎を形成するように分離される。
【0082】
区分工程SEGは、脳をより小さい区分(例えば、左右の半球、大脳および小脳、または大脳と小脳との両方の左右の半球)へと分割してよいことに留意されたい。より小さい区分が適用されてもよい。
【0083】
図1Bには、脳エネルギー代謝指示子決定工程DBIが、頭蓋骨エネルギー代謝指示子決定工程DSIの前に示される。しかしながら、他の実施形態では、脳エネルギー代謝指示子決定工程DBIおよび頭蓋骨エネルギー代謝指示子決定工程DSIは、例えば、逆の順序にて行われ、部分的に重なり合ってまたは同時に実行されてよい。
【0084】
次いで、図1Bによれば、さらなるパラメータDFPを決定する工程が実行される。この工程では、例えば、脳エネルギー代謝指示子決定工程DBIおよび/または頭蓋骨エネルギー代謝指示子決定工程DSIのための基礎を形成する、脳および/または頭蓋骨のエネルギー代謝の1つまたは複数の分布から、1つまたは複数のさらなるパラメータが決定されてよい。これらの1つまたは複数のさらなるパラメータは、脳または脳の一部の、大脳機能のなど、対照的な側面を示すパラメータを含んでよい。いくつかの実施形態では、この工程は省略されてよい。
【0085】
次いで、診断確立工程EDIが続く。この工程は、前記脳エネルギー代謝指示子BEMを前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子SEMに少なくとも関連させることを含む。
さらなるパラメータDFPを決定する工程を備える実施形態では、診断確立工程EDIは、そうした1つまたは複数のさらなるパラメータにも基づく計算をさらに含んでよい。
【0086】
その方法が診断確立工程EDIから得られる任意の脳障害の治療にも関するとき、その方法は治療工程TRTを備える。
この工程は、効果的な量の有効薬剤成分(すなわち、1つまたは複数の薬品)の投与および/または外科手術を行うことを含んでよい。
【0087】
いくつかの実施形態では、治療工程TRTは、身体運動を行うことを含んでよい。
図2を参照すると、脳障害を示す脳状態指示パラメータBSIを確立するための脳状態確立システムBSS。システム(BSS)は、脳スキャンデバイスBSDとコンピュータデバイスCDとを備える。
【0088】
脳スキャンデバイスBSDは、被験者SUBの脳BRの少なくとも一部の脳エネルギー代謝指示子BEMを決定するように、および前記被験者SUBの頭蓋骨(SK)の少なくとも一部の頭蓋骨エネルギー代謝指示子SEMを決定するように構成される。図2には、陽電子放出断層法(PET)スキャナとして脳スキャンデバイスBSDが示されるが、脳および頭蓋骨におけるエネルギー代謝またはエネルギー代謝の指示子を測定できる任意の他のスキャナであってよい。
【0089】
コンピュータデバイスCDは、前記脳エネルギー代謝指示子BEMを前記頭蓋骨エネルギー代謝指示子SEMに少なくとも関連させることによって脳状態指示パラメータBSIを確立するように構成される。図1Bに関して記載されるように、さらなるパラメータが決定されるとき、そうしたさらなるパラメータは、脳状態指示パラメータBSIのコンピュータデバイスCDによる確立のための基礎の一部を形成してよい。
【0090】
ここから、図3を参照すると、区分工程SEGが、本発明の一実施形態に従って示される。まず、エネルギー代謝指示子の1つまたは複数の画像が記録される(例えば、図2に示されるように)。理解されるように、左上に示される画像は、脳と頭蓋骨との両方をカバーする。次いで、画像は区分される(すなわち、少なくとも頭蓋骨部分と脳部分とへと分解される)。図3では、脳部分は、大脳の左半球LCE、大脳の右半球RCE、小脳の左半球LCB、および小脳の右半球RCBへとさらに区分される。
【0091】
いくつかのさらなる実施形態では、脳および/または頭蓋骨は、さらに区分される(例えば、複数の正方形領域などの幾分小さい部分へと)。コンピュータ化された区分を利用することによって、そうした領域は、幾分小さくてよい(例えば、画像における各方向について領域の数十または数百の分解能を与える)。そうした深層の区分は、進歩したコンピュータ化された処理が利用可能である(例えば、深層学習ベースの方法などの機械学習ベースの方法を用いる)とき、特に有利であることに留意されたい。
【0092】
ここから、図4A図4B図5A図5B、および図6A図6Bを参照すると、エネルギー代謝指示子分布画像が、本発明の一実施形態に従って示される。図4A図4B図5A図5B、および図6A図6Bに示される画像は、トレーサとしてフルデオキシグルコース(FDG)を用いた陽電子放出断層法(PET)ベースの技法によって記録される。エネルギー代謝指示子記録技法は、本発明の範囲内においても使用可能であることに留意されたい。図4A図4B図5A図5B、および図6A図6Bは、脳の癌と診断された同一の被験者の画像である。脳腫瘍の位置は、図4Aにおいて、大脳の左部分における場所に対応する、画像の中央上部にてより容易に見られる。
【0093】
図4Aおよび図4Bは、大脳と頭蓋骨とにそれぞれ区分されたエリアをそれぞれ示し、ここでエネルギー代謝指示子分布はある閾値を越えている。図4Aおよび図4Bは、図4Bが左半球についての区分しか示さない一方で図4Aが左右両方の半球の区分を示すこと除いて、同一である。また、図4Aから特に見られるように、対応する強調されたエリアは、頭蓋骨と大脳との両方について、左右の半球へと仕切られている。
【0094】
図5Aおよび図5Bは、図4Aおよび図4Bにいくらか類似した図を示すが、小脳を通る長軸断面におけるものであり、したがって、図5Bにおける小脳および頭蓋骨についての区分されたエリアを示すが、図5Aでは頭蓋骨についてのみである。
【0095】
図6Aは、大脳および頭蓋骨の冠状図を示し、左半球しか区分されていない。
図6Bは、頭蓋骨ならびに大脳および小脳の矢状図を示し、区分された領域を伴う。
これらの画像は、健康な被験者を表す別の画像と比較するときでも、知覚された正常または異常に基づく主観的な分析を行う複雑性を示す。対照的に、本発明は、信頼性があり再現性がある目的を提供する。
【0096】
実施例
47の被験者(37の患者および10の対照被験者)のFDG-PET画像が取得された。これらの画像から、合計エネルギー代謝値が計算された。これらの値は、表1~表2に与えられる。
【0097】
【表1】
表1.当該脳または頭蓋骨部分についての合計エネルギー代謝。Sk_Whは頭蓋骨全体を示し、Sk_Lは頭蓋骨の左半球を示し、Sk_Rは頭蓋骨の右半球を示し、Br_Whは脳全体を示し、Ce_Whは大脳全体を示す。NLは対照被験者を示す。ADはアルツハイマー病と診断された被験者を示す。MCIは軽度認知障害を示す。
【0098】
【表2】
表2.当該脳または頭蓋骨部分についての合計エネルギー代謝。Ce_Lは大脳の左半球を示し、Ce_Rは大脳の右半球を示し、Cb_Whは小脳全体を示し、Cb_Lは小脳の左半球を示し、Cb_Rは小脳の右半球を示す。NL.は対照被験者を示す。ADはアルツハイマー病と診断された被験者を示す。MCIは軽度認知障害を示す。
【0099】
これらの値は、頭蓋骨の左右の半球におけるエネルギー代謝の比較を用いて補正される場合がある。
さらなる値が、測定されたエネルギー代謝値またはそのエネルギー代謝値から取得された補正された値に基づいて計算される。以下の式は、正常な対照群において、結果が1に等しくなるように記載され、標準化されている。
【0100】
【数2】
ここで、Min(X,Y)はXおよびYの最小値であり、Max(X,Y)はXおよびYの最大値である。
【0101】
各方程式における定数(K)は以下のとおりである。
CeSI=KCbSI=-0.33
CeSII=1.08
CbSII=KSVI=1.11
CF=1.12
SVII=10
これらの上記の定数は、健康な対照被験者について単一値(すなわち、1の値)を与えるように設定される。
【0102】
上記の定められた値(CF,CeS I,CbS I,CeS II,CbS II,SV I,SV II)は、1未満または1を越える値が取得された場合に見られるように計算される。単純化された値TCF,TCeS I,TCbS I,TCeS II,TCbS II,TSV IおよびTSV IIは、次いで、対応する方程式が1を越える結果を与えたときに1(二進の真)、対応する方程式が1以下の結果を与えたときに0(二進の偽)として取得される。
【0103】
次いで、脳機能スコアが以下のように定められた。
BFS=4CF+4Max(CeSI,CbSI)+4Max(CeSII,SVI)+Max(CbSII,SVII)-3
得られた値は、表3に掲載される。
【0104】
【表3】
表3.被験者1~47についての脳機能スコア(BFS)が掲載される。
【0105】
理論的には、上記の機能は、-3と10との間の値を与えてよい。しかしながら、生体の脳では、表3におけるすべての数が0に等しくなることはほぼない。実施例では、臨床的に障害がある脳は約1の値であるべきであるが、一方、臨床的に健康な脳は最大値を得る。負の数は脳死、昏睡状態、厳しい脳症、または非常に厳しい障害がある脳状態のために残される。
【0106】
表3は、各患者についてのBFS値を示す。ある人は、病気グループ間の違いを容易に区別してよい。結果は、患者の状態がどのくらい良好かを理解することを容易とする、1つの数しか有しない脳の状態を示す。
【0107】
より進歩したアプローチは、以下の方程式を用いることによって取得される。
【0108】
【数3】
この例の目的では、上記の方程式は、表4に定められる定数を用いて、ψ-ψおよびψext’として実行される。
【0109】
【表4】
表4.ψの計算に用いるための係数および指数を含む定数。
【0110】
表4に掲載された上記の定数、すなわち、
【0111】
【数4】
は、n番目の方程式における定数である。1組の方程式はこの形態に記載されてよく、変更された定数が様々な病気を区別する。
【0112】
これを用いて、ψ-ψおよびψextが計算される。典型的には、100000を超える非常に大きい数または非常に0に近い数が取得される。本実施例の目的では、100000の閾値が「大きい数」を示すように用いられ、一方、10000未満の数が「小さい数」を示す。中間の数は、結果に対する不確実性を示し、一方、過度の数(非常に高い、非常に低い)は高度の確実性を示す。
【0113】
最後に、質問の以下のリストは、診断の指示を決定するように用いられた。
1)ψが大きい数であるか?そうであれば、脳状態指示パラメータはグリオーマを示す。
【0114】
2)質問1)がいいえである場合、ψが大きい数でありψextが小さい数であるか?そうであれば、脳状態指示パラメータはグリオーマを示す。
3)質問2)がいいえである場合、ψ,ψおよびψが大きい数であるか?そうであれば、脳状態指示パラメータは正常状態を示す。
【0115】
4)質問3)がいいえである場合、ψが小さい数でありψが大きい数であるか?そうであれば、脳状態指示パラメータはグリオーマを示す。
5)質問4)がいいえである場合、ψ,ψ,ψ,ψ,ψ,ψおよびψextが大きい数であるか?そうであれば、脳状態指示パラメータはグリオーマを示す。
【0116】
6)質問5)がいいえである場合、ψextが大きい数でありBFSが8以上か?そうであれば、脳状態指示パラメータはMCIを示す。
7)質問6)がいいえである場合、脳状態指示パラメータはアルツハイマー病を示す。
【0117】
上記の方法を評価して、以下の結果が取得された。
まず、健康から病気を区別するときに上記の方法がどのくらい正確であるかが評価され、結果が表5に示される。
【0118】
【表5】
表5.ここで、「テスト+」は脳状態指示パラメータからの脳状態についての正の結果を示し、「テスト-」は負の結果を示し、「病気+」は脳障害を有する被験者を示し、「病気-」は脳障害の中の被験者を示す。
【0119】
表5から理解されるように、脳状態指示パラメータによって、47のうち1しか病気を有すると誤って示されなかった。
MCIからアルツハイマー病(AD)を区別するとき、結果が表6に示される。
【0120】
【表6】
表6.“AD”はADを有する被験者を示す。“MCI”はMCIを有する被験者を示す。
【0121】
表6から、以下が結論付けられる。
感度=100%
特異性=71.4%
正の予測値(PPV)=88.2%
負の予測値(NPV)=100%
精度=90.9
グリオーマからADを区別するとき、結果が表7に示される。
【0122】
【表7】
表7
表7から、以下が結論付けられる。
感度=100%
特異性=92.8%
PPV=93.7%
NPV=100%
精度=96.5%
MCIかグリオーマを区別するとき、結果が表8に示される。
【0123】
【表8】
表8
表8から、以下が結論付けられる。
感度=100%
特異性=100%
PPV=100%
NPV=100%
精度=100%
精度に対する結果の総計は表9に示される。
【0124】
【表9】
表9.“NL”は、脳障害を伴わない対照被験者を示す。
【0125】
表9から理解されるように、取得された総合的な精度は91.48%であった。
したがって、本発明に係る本記載の脳状態指示パラメータは、脳障害の存在に対しておよび特有の脳障害に対しての両方について、脳障害の非常に正確な指示を得ることが結論付けられた。
【符号の説明】
【0126】
BR.脳
SK.頭蓋骨
LCE.大脳の左半球
RCE.大脳の右半球
LCB.小脳の左半球
RCB.小脳の右半球
BSI.脳状態指示パラメータ
BEM.脳エネルギー代謝指示子
SEM.頭蓋骨エネルギー代謝指示子
SEG.区分工程
DBI.脳エネルギー代謝指示子を決定する工程
DSI.頭蓋骨エネルギー代謝指示子を決定する工程
EBI.脳状態指示パラメータの確立
MES.測定工程
DFP.さらなるパラメータを決定する工程
EDI.診断を確立する工程
TRT.治療工程
BSD.脳スキャンデバイス
SUB.被験者
CD.コンピュータデバイス
BSS.脳状態確立システム
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B