(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】グラファイトシート用ポリイミドフィルムおよびこれから製造されたグラファイトシート
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20240205BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240205BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20240205BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240205BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20240205BHJP
C08K 3/32 20060101ALI20240205BHJP
C01B 32/205 20170101ALI20240205BHJP
C04B 35/524 20060101ALI20240205BHJP
C04B 35/622 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
C08G73/10
C08J5/18 CFG
C08L79/08
C08K3/013
C08K3/26
C08K3/32
C01B32/205
C04B35/524
C04B35/622
(21)【出願番号】P 2022525122
(86)(22)【出願日】2020-09-15
(86)【国際出願番号】 KR2020012409
(87)【国際公開番号】W WO2021085851
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-05-06
(31)【優先権主張番号】10-2019-0134830
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514225065
【氏名又は名称】ピーアイ アドヴァンスド マテリアルズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PI Advanced Materials CO., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン・ウォン ホ
(72)【発明者】
【氏名】チョ・ヒュン ソプ
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/093821(WO,A1)
【文献】特開2016-017169(JP,A)
【文献】国際公開第2019/187621(WO,A1)
【文献】特開2019-089688(JP,A)
【文献】特開2003-192788(JP,A)
【文献】特表2021-500464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00-73/26
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C01B 32/00-32/991
C04B 35/524、35/622
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】
(式(1)において、Ar
1は二無水物単量体に由来し、Ar
2はジアミン単量体に由来し、nはポリイミドの繰り返し単位を表す)で表されるポリイミドを含むグラファイトシート用のポリイミドフィルムであって、
前記ジアミン単量体は、ジアミン単量体の総モル数を基準として、30モル%~70モル%の4,4’-メチレンジアニリンと、30モル%~70モル%の4,4’-オキシジアニリンとを含み、4,4’-メチレンジアニリンと4,4’-オキシジアニリンとの合計モル数は85モル%以上である、グラファイトシート用ポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸無水物、3,4,3’,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物のうちの1種以上を含む、請求項1に記載のグラファイトシート用ポリイミドフィルム。
【請求項3】
ポリアミック酸
と有機溶媒とを含む前駆体組成物の総重量を基準として、
ポリアミック酸が10重量%~30重量%含まれる、請求項1または2に記載のグラファイトシート用ポリイミドフィルム。
【請求項4】
前記前駆体組成物は、23℃、1s
-1の剪断速度で100,000cP~300,000cPの粘度を有するものである、請求項3に記載のグラファイトシート用ポリイミドフィルム。
【請求項5】
前記前駆体組成物は、昇華性無機フィラーをさらに含み、前記昇華性無機フィラーは、炭酸カルシウムおよび第2リン酸カルシウムのうちの1種以上を含む、請求項3又は4に記載のグラファイトシート用ポリイミドフィルム。
【請求項6】
前記昇華性無機フィラーは、ポリアミック酸100重量部あたり、0.2重量部~0.5重量部含まれる、請求項5に記載のグラファイトシート用ポリイミドフィルム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムから製造された、グラファイトシート。
【請求項8】
前記グラファイトシートは、厚さが10μm~250μmである、請求項7に記載のグラファイトシート。
【請求項9】
前記グラファイトシートは、熱拡散係数測定装置を用いて、常温でVoltage260V、Duration50ml/sの条件下で測定した熱拡散係数が795mm
2/s以上である、請求項
7または8に記載のグラファイトシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイトシート用ポリイミドフィルムおよびこれから製造されたグラファイトシートに関し、より詳しくは、熱伝導度に優れ、製造費用を節減できるグラファイトシート用ポリイミドフィルムおよびこれから製造されたグラファイトシートに関する。
【背景技術】
【0002】
最近の電子機器は軽量化、小型化、薄型化および高集積化されており、これによって電子機器には多くの熱が発生している。このような熱は製品の寿命を短縮させたり、故障、誤作動などを誘発することがある。したがって、電子機器に対する熱管理が重要な問題として台頭している。
グラファイトシートは、銅やアルミニウムなどの金属シートより高い熱伝導率を有して電子機器の放熱部材として注目されている。このようなグラファイトシートは多様な方法で製造されるが、例えば、高分子フィルムを炭化および黒鉛化させて製造される。特に、ポリイミドフィルムは、これらの優れた機械的熱的寸法安定性、化学的安定性などによってグラファイトシート製造用高分子フィルムとして脚光を浴びている。
ポリイミドフィルムから製造されるグラファイトシートの物性は、ポリイミドフィルムの物性に影響されることが知られている。したがって、多様なグラファイトシート用ポリイミドフィルムの開発が行われているが、より高い熱伝導度を有するグラファイトシートを製造できるポリイミドフィルムが依然として必要なのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、熱伝導度に優れたグラファイトシート用ポリイミドフィルムを提供することである。
本発明の他の目的は、製造費用の節減が可能なグラファイトシート用ポリイミドフィルムを提供することである。
本発明のさらに他の目的は、前記グラファイトシート用ポリイミドフィルムから製造されたグラファイトシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
1.本発明の一側面によれば、二無水物単量体とジアミン単量体との反応によって形成されたポリアミック酸と有機溶媒とを含む前駆体組成物をイミド化して製造されるポリイミドフィルムであって、前記ジアミン単量体は、ジアミン単量体の総モル数を基準として、約30モル%~約70モル%の4,4’-メチレンジアニリンと、約30モル%~約70モル%の4,4’-オキシジアニリンとを含み、4,4’-メチレンジアニリンと4,4’-オキシジアニリンとの合計モル数は約85モル%以上である、グラファイトシート用ポリイミドフィルムが提供される。
2.前記第1実施形態において、前記二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸無水物、3,4,3’,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、および3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物のうちの1種以上を含むことができる。
3.前記第1または第2実施形態において、前記ポリアミック酸は、前記前駆体組成物の総重量を基準として、10~30重量%含まれる。
4.前記第1~第3実施形態のいずれか1つにおいて、前記前駆体組成物は、23℃、1s-1の剪断速度で約100,000cP~約300,000cPの粘度を有することができる。
5.前記第1~第4実施形態のいずれか1つにおいて、前記前駆体組成物は、昇華性無機フィラーをさらに含み、前記昇華性無機フィラーは、炭酸カルシウムおよび第2リン酸カルシウムのうちの1種以上を含むことができる。
6.前記第5実施形態において、前記昇華性無機フィラーは、ポリアミック酸100重量部あたり、約0.2重量部~約0.5重量部含まれる。
7.他の側面によれば、前記第1~第6実施形態のいずれか1つに記載のポリイミドフィルムから製造されたグラファイトシートが提供される。
8.前記第7実施形態において、前記グラファイトシートは、厚さが約10μm~約250μmであってもよい。
9.前記第7または第8実施形態において、前記グラファイトシートは、密度が約1.8g/cm3~約3.0g/cm3であってもよい。
11.前記第8~第10実施形態のいずれか1つにおいて、前記グラファイトシートは、熱拡散係数が約795mm2/s以上であってもよい。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、熱伝導度に優れ、製造費用を節減できるグラファイトシート用ポリイミドフィルムおよびこれから製造されたグラファイトシートを提供する効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明を説明するにあたり、かかる公知の技術に関する具体的な説明が本発明の要旨を不必要にあいまいにしうると判断された場合、その詳細な説明は省略する。
本明細書上で言及した「含む」、「有する」、「なる」などが使われる場合、「のみ」が使われない以上、他の部分が追加できる。構成要素を単数で表現した場合に、特に明示的な記載事項がない限り、複数を含む場合を含む。
また、構成要素を解釈するにあたり、別の明示的記載がなくても誤差範囲を含むと解釈する。
本明細書において、数値範囲を示す「a~b」における「~」は、≧aであり、≦bであると定義する。
【0007】
グラファイトシート用ポリイミドフィルム
本発明のグラファイトシート用ポリイミドフィルムは、二無水物単量体とジアミン単量体との反応によって形成されたポリアミック酸と有機溶媒とを含む前駆体組成物をイミド化して製造できる。
従来、グラファイトシート用ポリイミドフィルムを製造するためのジアミン単量体として高い反応性、有機溶媒に対する優れた溶解性、安価な価格などの利点があり、4,4’-オキシジアニリンが使用されてきた。本発明者は、ポリイミドフィルムの製造時、ジアミン単量体として、ジアミン単量体の総モル数を基準として、約30モル%~約70モル%(例えば、約30モル%、約35モル%、約40モル%、約45モル%、約50モル%、約55モル%、約60モル%、約65モル%、または約70モル%)の4,4’-メチレンジアニリンと、約30モル%~約70モル%(例えば、約30モル%、約35モル%、約40モル%、約45モル%、約50モル%、約55モル%、約60モル%、約65モル%、または約70モル%)の4,4’-オキシジアニリンとを用い、ジアミン単量体の総モル数を基準として、4,4’-メチレンジアニリンおよび4,4’-オキシジアニリンの合計モル数が約85モル%以上(例えば、約85モル%、約90モル%、約95モル%、または約100モル%)の場合、本来4,4’-オキシジアニリンが提供していた利点に悪影響を及ぼすことなく、グラファイトシートの熱伝導度をより上昇させることができることを見出して、本発明を完成するに至った。また、4,4’-メチレンジアニリンは、現在、4,4’-オキシジアニリンに比べてより安価な価格で供給されていて、ジアミン単量体として4,4’-メチレンジアニリンと4,4’-オキシジアニリンをともに適用する場合、4,4’-オキシジアニリンを単独使用する場合に比べて製造費用を節減することができる。
【0008】
一実施形態によれば、ジアミン単量体は、ジアミン単量体の総モル数を基準として、約50モル%~約70モル%の4,4’-メチレンジアニリンと、約30モル%~約50モル%の4,4’-オキシジアニリンとを含むことができる。他の実施形態によれば、ジアミン単量体は、ジアミン単量体の総モル数を基準として、約60モル%~約70モル%の4,4’-メチレンジアニリンと、約30モル%~約40モル%の4,4’-オキシジアニリンとを含むことができる。さらに他の実施形態によれば、ジアミン単量体は、ジアミン単量体の総モル数を基準として、約65モル%~約70モル%の4,4’-メチレンジアニリンと、約35モル%~約40モル%の4,4’-オキシジアニリンとを含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0009】
一実施形態によれば、ジアミン単量体は、ジアミン単量体の総モル数を基準として、4,4’-メチレンジアニリンおよび4,4’-オキシジアニリンを約90モル%~約100モル%の合計モル数で含むことができる。他の実施形態によれば、ジアミン単量体は、ジアミン単量体の総モル数を基準として、4,4’-メチレンジアニリンおよび4,4’-オキシジアニリンを約95モル%~約100モル%の合計モル数で含むことができる。さらに他の実施形態によれば、ジアミン単量体は、ジアミン単量体の総モル数を基準として、4,4’-メチレンジアニリンおよび4,4’-オキシジアニリンを約100モル%の合計モル数で含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0010】
一実施形態によれば、本発明の目的を損なわない範囲内で、ジアミン単量体として、4’-メチレンジアニリンおよび4,4’-オキシジアニリン以外のジアミン単量体をさらに含むことができる。このようなジアミン単量体の例としては、p-フェニレンジアミンなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。4’-メチレンジアニリンおよび4,4’-オキシジアニリン以外のジアミン単量体を追加的に含む場合、追加的に含まれるジアミン単量体の総含有量は、ジアミン単量体の総モル数を基準として、0モル%超過~約15モル%(例えば、約0.1モル%、約1モル%、約2モル%、約3モル%、約4モル%、約5モル%、約6モル%、約7モル%、約8モル%、約9モル%、約10モル%、約11モル%、約12モル%、約13モル%、約14モル%、または約15モル%)、例として0モル%超過~10モル%、他の例として0モル%超過~5モル%であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0011】
二無水物単量体としては、当該技術分野にて通常用いられる二無水物単量体が制限なく使用可能である。このような二無水物単量体の例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸無水物、3,4,3’,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。一実施形態によれば、二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物であってもよく、この場合、優れた反応性、安価な価格などの利点があり得るが、これに限定されるものではない。
【0012】
有機溶媒は、ポリアミック酸が溶解できる溶媒であれば特に限定されず、例えば、非プロトン性極性有機溶媒(aprotic polar organic solvent)であってもよい。非プロトン性極性有機溶媒の非制限的な例として、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)などのアミド系溶媒、p-クロロフェノール、o-クロロフェノールなどのフェノール系溶媒、N-メチルピロリドン(NMP)、ガンマ-ブチロラクトン(GBL)、ジグリム(Diglyme)などが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わされて使用可能である。場合によっては、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、水などの補助的溶媒を用いて、ポリアミック酸の溶解度を調節することもできる。一実施形態において、有機溶媒は、アミド系溶媒であってもよく、例えば、N,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミドであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0013】
一実施形態によれば、ポリアミック酸は、前駆体組成物の総重量を基準として、約5重量%~約35重量%(例えば、約5重量%、約10重量%、約15重量%、約20重量%、約25重量%、約30重量%、または約35重量%)含まれる。前記範囲で、前駆体組成物は、フィルムを形成するのに適当な分子量と溶液粘度を有することができ、保存安定性に優れることができる。前駆体組成物の総重量を基準として、ポリアミック酸は、例として約10重量%~約30重量%、他の例として約15重量%~20重量%含まれるが、これに限定されるものではない。
【0014】
一実施形態によれば、前駆体組成物は、23℃、1s-1の剪断速度で約100,000cP~約300,000cP(例えば、約100,000cP、約150,000cP、約200,000cP、約250,000cP、または約300,000cP)の粘度を有することができる。前記範囲で、ポリアミック酸が所定の重量平均分子量を有するようにしながらも、ポリイミドフィルム製膜時の工程性に優れることができる。ここで、「粘度」は、HAAKE Marsレオメータ(HAAKE Mars Rheometer)を用いて測定できる。前駆体組成物は、23℃、1s-1の剪断速度で、例として約150,000cP~約250,000cP、他の例として約200,000cP~約250,000cPの粘度を有することができるが、これに限定されるものではない。
【0015】
一実施形態によれば、ポリアミック酸は、重量平均分子量(Mw)が約100,000g/mol以上、例えば、約100,000g/mol~約500,000g/molであってもよいし、前記範囲でより優れた熱伝導度を有するグラファイトシートの製造に有利であり得るが、これに限定されるものではない。ここで、「重量平均分子量」は、ゲル透過クロマトグラフィー(gel permeation chromatography:GPC)を用いて測定できる。
【0016】
一実施形態によれば、前駆体組成物は、昇華性無機フィラーをさらに含むことができる。ここで、「昇華性無機フィラー」とは、グラファイトシートの製造時、炭化および/または黒鉛化工程中に熱によって昇華される無機フィラーを意味することができる。ポリイミドフィルムが昇華性無機充填剤を含む場合、グラファイトシートの製造時、昇華性無機充填剤の昇華により発生する気体によってグラファイトシートに発泡性空隙が形成され、これによってグラファイトシートの柔軟性を向上させて、終局的にグラファイトシートの取扱性および成形性を向上させることができる。
一実施形態によれば、昇華性無機フィラーは、約1.5μm~約4.5μm(例えば、約1.5μm、約2μm、約2.5μm、約3μm、約3.5μm、約4μm、または約4.5μm)の平均粒径(D50)を有することができる。前記範囲で、昇華性無機フィラーの分散性に優れ、昇華性無機フィラーがポリイミドフィルムの表面に露出せず表面欠陥を低減し、炭化および/または黒鉛化時に適切な発泡現象を誘導して良質のグラファイトシートを得る効果があり得る。
一実施形態によれば、昇華性無機フィラーは、ポリアミック酸100重量部あたり、約0.2重量部~約0.5重量部(例えば、約0.2重量部、約0.3重量部、約0.4重量部、または約0.5重量部)使用できる。前記範囲で、昇華性無機フィラーの分散性に優れ、昇華性無機フィラーがポリイミドフィルムの表面に露出せず表面欠陥を低減し、炭化および/または黒鉛化時に適切な発泡現象を誘導して良質のグラファイトシートを得る効果があり得る。
一実施形態によれば、昇華性無機フィラーは、第2リン酸カルシウムおよび炭酸カルシウムのうちの1種以上を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0017】
一実施形態によれば、グラファイトシート用ポリイミドフィルムの厚さは、約20μm~約500μm(例えば、約20μm、約30μm、約40μm、約50μm、約60μm、約70μm、約80μm、約90μm、約100μm、約150μm、約200μm、または約500μm)であってもよい。ポリイミドフィルムの厚さは、例として約32μm~約100μm、他の例として約38μm~約62.5μmであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0018】
上述したグラファイトシート用ポリイミドフィルムは、当該技術分野にて通常用いられる多様な方法を使用して製造できる。
一実施形態によれば、グラファイトシート用ポリイミドフィルムは、(a)有機溶媒、ジアミン単量体、およびジアンハイドライド単量体を混合してポリアミック酸を含む前駆体組成物を製造するステップと、
(b)前記前駆体組成物を支持体上にキャスティングし、乾燥してゲルフィルムを製造するステップと、
(c)前記ゲルフィルムを熱処理してポリイミドフィルムを形成するステップと、を含んで製造できる。ただし、単量体の種類および所望のポリイミドフィルムの物性によって、前記(a)ステップですべての単量体が一度に添加されるか、または各単量体が順次に添加されてもよいし、この場合、単量体間の部分的重合が起こり得る。選択的に、(a)ステップの後および(b)ステップの前に、昇華性無機フィラーを添加するステップをさらに含むことができる。昇華性無機フィラーの添加方法は特に限定されず、公知のいかなる方法を利用してもよい。
【0019】
前駆体組成物をイミド化してポリイミドフィルムを製造する方法は、例えば、熱イミド化法、化学イミド化法、または熱イミド化法と化学イミド化法とを併用した複合イミド化法を使用することができる。
熱イミド化法は、脱水剤などを適用せず、加熱だけでイミド化反応を進行させる方法であって、ポリアミック酸を支持体上に製膜した後、約40℃~約400℃、例えば、約40℃~約300℃の温度範囲で徐々に昇温させ、約1時間~約8時間熱処理して、ポリアミック酸がイミド化されたポリイミドフィルムを得る方法である。
化学イミド化法は、前駆体組成物に脱水剤および/またはイミド化剤を適用してイミド化を促進する方法である。
複合イミド化法は、前駆体組成物に脱水剤および/またはイミド化剤を投入して支持体上に製膜した後、約80℃~約200℃、例えば、約100℃~約180℃で加熱して脱水剤および/またはイミド化剤を活性化し、部分的に硬化および乾燥した後に、約200℃~約400℃で約5秒~約400秒間加熱することにより、ポリイミドフィルムを得る方法である。
【0020】
一実施形態によれば、本発明のイミド化法は、化学イミド化法または複合イミド化法であってもよい。したがって、例えば、(a)ステップの後および(b)ステップの前に、前駆体組成物に脱水剤および/またはイミド化剤を追加的に投入することができる。
脱水剤とは、ポリアミック酸に対する脱水作用により閉環反応を促進するものであり、例えば、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N’-ジアルキルカルボジイミド、低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪酸無水物、アリールホスホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物などが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して使用可能である。なかでも、入手の容易性、および費用の観点から、酢酸無水物、プロピオン酸無水物、乳酸無水物などの脂肪族酸無水物を単独でまたは2種以上混合して使用可能である。
イミド化剤とは、ポリアミック酸に対する閉環反応を促進する効果を有する成分を意味し、例えば、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、複素環式3級アミンなどが用いられる。なかでも、触媒としての反応性の観点から、複素環式3級アミンが使用できる。その例としては、キノリン、イソキノリン、β-ピコリン、ピリジンなどがあり、これらは単独でまたは2種以上混合して使用可能である。
脱水剤および/またはイミド化剤の添加量は特に限定されるものではないが、脱水剤は、ポリアミック酸中のアミック酸基1モルに対して、約0.5モル~約5モル、例えば、約1モル~4モルの比率で添加されてもよく、イミド化剤は、ポリアミック酸中のアミック酸基1モルに対して、約0.05モル~約3モル、例えば、約0.2モル~約2モルの比率で添加されてもよいし、前記範囲でイミド化が十分であり、フィルム状にキャスティングすることが容易であり得る。
【0021】
一実施形態によれば、ゲルフィルムを形成するための(b)ステップでは、支持体(例えば、ガラス板、アルミニウム箔、エンドレス(endless)ステンレスベルト、ステンレスドラムなど)にキャスティングされた前駆体組成物を約40℃~約300℃、例として約80℃~約200℃、他の例として約100℃~約180℃の温度範囲で乾燥してゲルフィルムを得ることができる。これにより、脱水剤およびイミド化剤が活性化され、部分的に硬化および/または乾燥が起こることにより、ゲルフィルムが形成される。ゲルフィルムは、ポリアミック酸からポリイミドへの硬化の中間ステップにあり、自己支持性を有することができる。
場合によっては、最終的に得られるポリイミドフィルムの厚さおよび大きさを調節し、配向性を向上させるためにゲルフィルムを延伸させるステップを含むことができ、延伸は、機械搬送方向(MD)および機械搬送方向に対する横方向(TD)の少なくとも1つの方向に行われる。
【0022】
前記ゲルフィルムの揮発分含有量は、これに限定されるものではないが、約5重量%~約500重量%、例として約5重量%~約200重量%、他の例として約5重量%~約150重量%であってもよいし、前記範囲で、以後、ポリイミドフィルムを得るために熱処理する過程中、フィルム破断、色汚れ、特性変動などの欠点が発生することを回避する効果があり得る。ここで、ゲルフィルムの揮発分含有量は、下記式1を用いて算出することができ、式1中、Aは、ゲルフィルムの重量、Bは、ゲルフィルムを450℃で20分間加熱した後の重量を意味する。
<式1>
(A-B)*100/B
【0023】
一実施形態によれば、前記(c)ステップでは、ゲルフィルムを約50℃~約700℃、例として約150℃~約600℃、他の例として約200℃~約600℃の範囲の可変的な温度で熱処理して、ゲルフィルムに残存する溶媒などを除去し、残っている大部分のアミック酸基をイミド化してポリイミドフィルムを得ることができる。
場合によっては、前記のように得られたポリイミドフィルムを約400℃~約650℃の温度に約5秒~約400秒間加熱仕上げしてポリイミドフィルムをさらに硬化させてもよいし、得られたポリイミドフィルムに残留しうる内部応力を緩和させるために、所定の張力下でこれを行ってもよい。
【0024】
グラファイトシート
他の側面によれば、上述したグラファイトシート用ポリイミドフィルムから製造されるグラファイトシートが提供される。上述したポリイミドフィルムから製造されたグラファイトシートは、優れた熱伝導度を有することができる。
一実施形態によれば、グラファイトシートは、約10μm~約250μm(例えば、約10μm、約15μm、約20μm、約25μm、約30μm、約35μm、約40μm、約45μm、約50μm、約75μm、約100μm、または約250μm)の厚さを有することができる。グラファイトシートの厚さは、例として約13μm~約75μm、他の例として約19μm~約62.5μmであってもよいが、これに限定されるものではない。
一実施形態によれば、グラファイトシートは、密度が約1.8g/cm3~約3.0g/cm3(例えば、約1.8g/cm3、約1.9g/cm3、約2g/cm3、約2.1g/cm3、約2.2g/cm3、約2.3g/cm3、約2.4g/cm3、約2.5g/cm3、約2.6g/cm3、約2.7g/cm3、約2.8g/cm3、約2.9g/cm3、または約3g/cm3)であってもよい。前記範囲で熱拡散係数が高くなり、その結果、熱伝導度が上昇できる。グラファイトシートの密度は、例として約2.0g/cm3~約2.8g/cm3、他の例として約2.2g/cm3~約2.5g/cm3であってもよいが、これに限定されるものではない。
一実施形態によれば、グラファイトシートは、熱拡散係数が約795mm2/s以上(例えば、約795mm2/s、約800mm2/s、約810mm2/s、約820mm2/s、約830mm2/s、約840mm2/s、約850mm2/s、約860mm2/s、約870mm2/s、約880mm2/s、約890mm2/s、または約900mm2/sであってもよい。グラファイトシートの熱拡散係数は、例として約795mm2/s~約900mm2/s、他の例として約800mm2/s~約850mm2/sであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0025】
上述したグラファイトシートは、グラファイトシートの製造分野で通常用いられる多様な方法で製造できる。例えば、グラファイトシートは、ポリイミドフィルムを炭化および黒鉛化して製造できる。
炭化は、例えば、約1,000℃~約1,500℃の温度で約1時間~約5時間行われるが、これに限定されるものではない。炭化工程によりポリイミドフィルムの高分子鎖が熱分解されて、非晶質炭素体、非結晶質炭素体、および/または無定形炭素体を含む予備グラファイトシートが形成される。
黒鉛化は、例えば、約2,500℃~約3,000℃の温度で約1時間~約10時間行われるが、これに限定されるものではない。黒鉛化工程により非晶質炭素体、非結晶質炭素体、および/または無定形炭素体の炭素が再配列されてグラファイトシートが形成される。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施例を通じて本発明の構成および作用をより詳細に説明する。ただし、これは本発明の好ましい例として提示されたものであり、いかなる意味でもこれによって本発明が制限されると解釈されない。
【0027】
実施例1
二無水物単量体としてピロメリット酸二無水物104.02g、ジアミン単量体として4,4’-メチレンジアニリン(MDA)47.99gと4,4’-オキシジアニリン(ODA)48.23g、ジメチルホルムアミド800gを混合した後、重合して、最終粘度が24.4万cPのポリアミック酸溶液を製造した。
製造したポリアミック酸溶液1,000gに、昇華性無機充填剤として平均粒径(D50)が2.2μmの第2リン酸カルシウム0.5g、およびポリアミック酸中のアミック酸基1モルに対して、イミド化触媒のβ-ピコリン0.5モル比、脱水剤の酢酸無水物3モル比、ジメチルホルムアミド2.5モル比で混合して、前駆体組成物を製造した。
製造した前駆体組成物を高速回転撹拌機を用いてガラス板上にキャスティングし、160℃で3分間乾燥させてゲルフィルムを製造した。前記ゲルフィルムをガラス板と分離した後、280℃で4分間熱処理し、420℃で3分間熱処理して、約50μmの厚さを有するポリイミドフィルムを製造した。
ポリイミドフィルムを、電気炉を用いて、窒素気体下で0.8℃/分の速度で1,300℃まで昇温した後、前記温度で1時間維持させて炭化させた。以後、アルゴン気体下で3.5℃/分の速度で2,800℃まで昇温した後、前記温度で1時間維持させて黒鉛化させて、グラファイトシートを製造した。
【0028】
実施例2~8および比較例1および2
ジアミン単量体の総モル数を基準として、4,4’-メチレンジアニリンおよび4,4’-オキシジアニリンのモル%、ポリアミック酸溶液の最終粘度、およびグラファイトシートの厚さを下記表1に記載の通りに変更したことを除けば、実施例1と同様の方法を用いてグラファイトシートを製造した。
【0029】
物性評価方法
(1)粘度(単位:cP):粘度測定装置(HAAKE Mars Rheometer、HAAKE)を用いて、23℃、1s-1の剪断速度の条件下でポリアミック酸溶液の粘度を測定した。
(2)厚さ(単位:μm):厚さ測定装置(Micrometer、Mitutoyo)を用いてグラファイトシートの厚さを測定した。
(3)熱拡散係数(単位:mm2/s):熱拡散係数測定装置(LFA467、NETZSCH)を用いて、常温でVoltage260V、Duration50ml/sの条件下でグラファイトシートの熱拡散係数を測定した。
(4)密度(単位:g/cm3):見掛け密度測定法に基づき、重量測定装置(GH-252、A&D)と厚さ測定装置(Micrometer、Mitutoyo)を用いてグラファイトシートの密度を測定した。
【0030】
【0031】
前記表1から分かるように、4,4’-メチレンジアニリンと4,4’-オキシジアニリンの含有量が本発明の範囲を満足するポリイミドフィルムから製造した実施例1~8のグラファイトシートは、熱拡散係数が高く、その結果、熱伝導度にも優れることが予測される。
これに対し、4,4’-メチレンジアニリンを非含有であったり(比較例1)、4,4’-メチレンジアニリンの含有量が本願範囲に及ばず、4,4’-オキシジアニリンの含有量が本願の範囲を超える場合(比較例2)には、グラファイトシートの熱拡散係数が実施例に比べて非常に低かった。
また、4,4’-メチレンジアニリンの含有量が本願の範囲を超え、4,4’-オキシジアニリンの含有量が本願の範囲に及ばない場合(比較例3)、ポリイミドのフィルム化が行われず、グラファイトシート製造用に使用することができなかった。
本発明の単純な変形乃至変更はこの分野における通常の知識を有する者によって容易に実施可能であり、このような変形や変更はすべて本発明の領域に含まれる。