(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】3CLproを標的とするフィリリンとその誘導体、及び新型コロナウイルスに対する用途
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7048 20060101AFI20240205BHJP
A61K 31/34 20060101ALI20240205BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240205BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
A61K31/7048
A61K31/34
A61P31/14
A61P43/00 111
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2022542975
(86)(22)【出願日】2021-02-09
(86)【国際出願番号】 CN2021076179
(87)【国際公開番号】W WO2021179878
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-07-13
(31)【優先権主張番号】202010155743.1
(32)【優先日】2020-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】510013987
【氏名又は名称】大▲連▼富生天然▲薬▼物▲開▼▲発▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100171941
【氏名又は名称】辻 忠行
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼子峰
(72)【発明者】
【氏名】富力
(72)【発明者】
【氏名】▲蒋▼革
(72)【発明者】
【氏名】▲鐘▼南山
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼威
(72)【発明者】
【氏名】▲馬▼▲欽▼海
(72)【発明者】
【氏名】▲恵▼敏
(72)【発明者】
【氏名】李楚芳
(72)【発明者】
【氏名】王▲碩▼
(72)【発明者】
【氏名】潘蔚倚
(72)【発明者】
【氏名】▲魯▼岐
(72)【発明者】
【氏名】宋▲愛▼▲愛▼
(72)【発明者】
【氏名】侯集瑞
(72)【発明者】
【氏名】李▲潤▼峰
(72)【発明者】
【氏名】▲魯▼明明
(72)【発明者】
【氏名】王英平
(72)【発明者】
【氏名】柳洋
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼国友
(72)【発明者】
【氏名】付文斐
(72)【発明者】
【氏名】▲馮▼雪
(72)【発明者】
【氏名】周▲慶▼▲豊▼
(72)【発明者】
【氏名】衣小▲鳳▼
(72)【発明者】
【氏名】林▲栄▼▲金▼
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼羽
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105362283(CN,A)
【文献】特表2017-523191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 43/00
A61P 31/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
COVID-19ウイルスの3CLproタンパク質を阻害するための試薬調整におけるフィリリン及び/ 又はその誘導体であるKD-2-GLU又はKD-2-SO3 Hの使用。
【請求項2】
抗COVID-19ウイルス又はCOVID-19ウイルスによる疾患を治療するための薬剤調製におけるフィリリン/ フィリゲニン組成物の使用で、フィリリン/ フィリゲニン組成物がCOVID-19ウイルスの3CLproタンパク質を阻害することを特徴とする使用。
【請求項3】
フィリリン/ フィリゲニン組成物におけるフィリリンとフィリゲニンの重量比は2~ 98 :2~ 98である請求項2に記載の使用。
【請求項4】
フィリリン/ フィリゲニン組成物が唯一の薬物有効成分とする請求項2に記載の使用。
【請求項5】
前述薬剤は錠剤、カプセル剤、丸剤、粉末剤、顆粒剤、シロップ剤、溶液剤、乳剤、注射剤、スプレー剤、エアゾール剤、ゲル剤、クリーム剤、パップ剤、テープ剤又は湿布剤の形で存在する、請求項2に記載の使用。
【請求項6】
COVID-19病毒の3CLproタンパク質の阻害のためのフィリリン/ フィリゲニン組成物。
【請求項7】
フィリリン/ フィリゲニン組成物におけるフィリリンとフィリゲニンの重量比は2~ 98 :
2~ 98である請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
フィリリン/ フィリゲニン組成物を含む
、COVID-19ウイルスの3CLproタンパク質の阻害のための薬剤。
【請求項9】
フィリリン/ フィリゲニン組成物におけるフィリリンとフィリゲニンの重量比は2~ 98 :2~ 98である請求項8に記載の薬剤。
【請求項10】
フィリリン / フィリゲニン組成物が唯一の薬物有効成分とする請求項8に記載の薬剤。
【請求項11】
前述薬剤は錠剤、カプセル剤、丸剤、粉末剤、顆粒剤、シロップ剤、溶液剤、乳剤、注射剤、スプレー剤、エアゾール剤、ゲル剤、クリーム剤、パップ剤、テープ剤又は湿布剤の形で存在する請求項8に記載の薬
剤。
【請求項12】
抗COVID-19ウイルス又はCOVID-19ウイルスによる疾患を治療するための薬剤調製におけるフィリリン/ フィリゲニン組成物の使用で、フィリリン/ フィリゲニン組成物がCOVID-19感染による炎症性因子であるmRNA発現を抑制することを特徴とする使用。
【請求項13】
前記炎症性因子は、IL-1β 、IFN-α 、MCP-1及びIFN-γのいずれかである請求項12に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3CLproを標的とするフィリリンとその誘導体、及び新型コロナウイルスに対する用途に関する。
【背景技術】
【0002】
COVID-19、すなわち2019コロナウイルス感染症(別名:新型コロナウイルス肺炎)は、その感染源がコロナウイルスに属し、2003年に発生したSARSとより高い相同性を示しているCOVID-19ウイルス(別名:新型コロナウイルス)である。現在、COVID-19に対する特効薬はまだない。実は、以前発生したSARSに対しても、これまで特効薬はない。
【0003】
本発明者は、漢方エキスの研究に専念しており、偶然かつ驚くべきことに、フィリリンと少量のフィリゲニンが薬用組成物を構成し、抗ウイルスにおいて薬効が強化し、特に相乗的に強化する効果を有することを発見した。例えば、中国特許出願CN105362283Aは、一種のフィリリン/フィリゲニン組成物、及びウイルス性疾患の緩和又は/及び治療におけるその用途を開示している。そのうち、ウイルス性疾患は、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、コクサッキーウイルスCoxA16、呼吸器合胞体ウイルスRSV、単純ヘルペスウイルスHSV-I、単純ヘルペスウイルスHSV-II、単純ヘルペスウイルスCVB3、アデノウイルスADV又はエンテロウイルスEV71による疾患である。
【0004】
しかし、抗ウイルス効果のある薬物は多々あり、作用機序も多様化しているため、既存の抗ウイルス薬のどれが新たに発生したCOVID-19ウイルスに対して阻害効果を有するか予測できない。特に、コロナウイルスは前述フィリリン/フィリゲニン組成物の対象ウイルスと大きく異なり、COVID-19ウイルス及びその治療メカニズムに関する現在の研究にはまだ定説はないので、当業者はフィリリン/フィリゲニン組成物がコロナウイルス(特にCOVID-19ウイルス)に対して阻害効果を有することはさらに予測することはできない。
【0005】
また、COVID-19ウイルスの加水分解酵素(3-chymotrypsin-like cysteine protease、3CL proタンパク質と略称する)に対するフィリリン、フィリゲニン又はその誘導体の作用も報告されていない。
【0006】
しかしながら、本発明者は、フィリリン/フィリゲニン組成物がCOVID-19ウイルスに対して良好な阻害効果を有することを偶然発見し、その高い安全性と併せ、他の適応症に対する臨床承認が完了に近づいている。従って、それはCOVID-19の治療薬になる見込みがあり、迅速な臨床導入も可能である。さらに、本発明者は、フィリリン、フィリゲニン又はその誘導体がCOVID-19ウイルスの3CL proタンパクに対して標的阻害効果を有し、このタンパク質の阻害剤として使用される可能性があることを発見した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決すべき技術的課題は、COVID-19ウイルスの3CLproタンパク質を標的として阻害する新たな試薬を提供し、抗コロナウイルス(特にCOVID-19ウイルス)又はコロナウイルスによる疾患(特にCOVID-19)を治療するための薬剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
具体的には、第一に、本発明は、COVID-19ウイルスの3CLproタンパク質を阻害するための試薬の調製におけるフィリリン及び/又はその誘導体の用途を提供する。COVID-19ウイルスの3CLproタンパク質を阻害する試薬にフィリリン及び/又はその誘導体を含む。
【0009】
本発明の第一の用途は、フィリリン又はその誘導体を単独に使用してもよく、フィリリン/フィリゲニン組成物などフィリリン及びその誘導体を併用しもよい。本発明の第一の用途において、阻害はin vivoでも、in vitroでもあり得る。
本発明の第一の用途において、前述誘導体はKD-2-GLU又はKD-2-SO3Hであることが好ま
しい。
【0010】
それに対して、第二に、本発明は、COVID-19ウイルスの3CLproタンパク質をフィリリン及び/又はその誘導体と接触させるステップを含むCOVID-19ウイルスの3CLproタンパク質を阻害する方法も提供する。前述方法はin vivoでもin vtroでもあり得る。
本発明の第二の用途において、前述誘導体はKD-2-GLU又はKD-2-SO3Hであることが好ましい。
【0011】
第三に、本発明は、フィリリン/フィリゲニン組成物が抗コロナウイルス薬の調製における用途を提供し、また、フィリリン/フィリゲニン組成物がコロナウイルスによる疾患を治療するための薬剤調製における用途も提供する。抗コロナウイルスは、in vitroでコロナウイルスの増殖を阻害するなど、in vitroであってもよいが、好ましくはin vivoでの抗ウイルスであり、後者はコロナウイルスによる疾患の治療である。
【0012】
本明細書において、逆に示されない限り、「フィリリン/フィリゲニン」、「フィリリン及びフィリゲニン」及び「フィリリン及びフィリゲニン組成物」を交換して使用することができ、フィリリンとフィリゲニンからなる組成物であり、すなわち、フィリリン/フィリゲニンを全体として計量することである。好ましくは、本発明において、フィリリンとフィリゲニンの重量比は2~98 : 2~98、むしろ80~98 : 2~20、さらにできれば90~98 : 2~10、例えば90 : 10又は98 : 2である。
【0013】
むしろ、本発明の第三の用途において、コロナウイルスはCOVID-19ウイルスであり、又はコロナウイルスによる疾患はCOVID-19であるとする。フィリリン/フィリゲニン組成物がCOVID-19ウイルスの3CLproタンパク質を阻害し、つまり、本発明の第三の用途において、フィリリン /フィリゲニン組成物はCOVID-19ウイルスの3CLproタンパク質を阻害することによりCOVID-19ウイルスを対抗するか、又はCOVID-19ウイルスによる疾患を治療することが期待できる。
【0014】
フィリリン/フィリゲニン組成物はその他抗コロナウイルス(例えば、COVID-19ウイルス)薬又はコロナウイルスによる疾患(例えば、COVID-19)の治療薬と併用してもよく、単独に使用してもよい。本発明者の研究では、フィリリン/フィリゲニン組成物の抗COVID-19ウイルのスメカニズムにCOVID-19ウイルスの3CLproタンパク質を阻害することを含む。
【0015】
好ましくは、本発明の第三の用途は唯一の薬物有効成分としてのフィリリン/フィリゲニン組成物の用途であり、すなわち、前述薬剤中の唯一の有効成分はフィリリン/フィリゲニン組成物である。つまり、本発明の第三要素は抗コロナウイルス(例えば、COVID-19ウイルス)のための薬剤調製における唯一の薬物有効成分としてのフィリリン/フィリゲニン組成物の用途、又はコロナウイルスによる疾患(例えば、COVID-19)を治療するための薬剤調製における唯一の薬物有効成分としてのフィリリン/フィリゲニン組成物の用途を提供することである。
【0016】
薬剤は薬学的に許容される担体を含んで製剤化することができる。これは当業者にはすでによく知られている。本発明の第三の用途において、前述薬剤は錠剤、カプセル剤、丸剤、粉末剤、顆粒剤、シロップ剤、溶液剤、乳剤、注射剤、スプレー剤、エアゾール剤、ゲル剤、クリーム剤、パップ剤、テープ剤又は湿布剤の形で存在することが望ましい。
【0017】
それに対応して、本発明は、フィリリン/フィリゲニン組成物の第2の薬用効果及びそれに基づく治療法も提供する。第四に、本発明は、抗コロナウイルス(例えば、COVID-19ウイルス)のためのフィリリン/フィリゲニン組成物の用途を提供する。本発明はまた、コロナウイルスによる疾患(例えば、COVID-19)を治療するためのフィリリン/フィリゲニン組成物の用途も提供する。又は、本発明は、COVID-19ウイルスの3CLproタンパク質を阻害するためのフィリリン/フィリゲニン組成物の用途も提供する。
【0018】
さらに、本発明は抗コロナウイルス(例えば、COVID-19ウイルス)のためのフィリリン/フィリゲニン組成物の含有する薬剤を提供する。本発明は、コロナウイルスによる疾患(例えば、COVID-19)を治療するためのフィリリン/フィリゲニン組成物の含有する薬剤も提供する。又、本発明は、COVID-19ウイルスの3CLproタンパク質を阻害するためのフィリリン/フィリゲニン組成物の含有する薬剤も提供する。
【0019】
むしろ、フィリリン/フィリゲニン組成物の含有する薬剤において、フィリリン/フィリゲニン組成物は前述薬剤中の唯一の薬物有効成分である。
またフィリリン/フィリゲニン組成物の含有する薬物において、前述薬剤は錠剤、カプセル剤、丸剤、粉末剤、顆粒剤、シロップ剤、溶液剤、乳剤、注射剤、スプレー剤、エアゾール剤、ゲル剤、クリーム剤、パップ剤、テープ剤又は湿布剤の形で存在することが望ましい。
【0020】
第五に、本発明は必要とする患者に有効量のフィリリン/フィリゲニン組成物を投与することを含む抗コロナウイルス(例えば、COVID-19ウイルス)のための方法を提供する。それに対応して、本発明はまた、必要とする患者に有効量のフィリリン/フィリゲニン組成物を投与することを含むコロナウイルスによる疾患(例えば、COVID-19)を治療するための薬剤の投与方法も提供する。フィリリン/フィリゲニン組成物がCOVID-19ウイルスの3CLproタンパク質を阻害することによって、抗COVID-19ウイルス又はCOVID-19ウイルスによる疾患を治療することが期待される。
【0021】
さらに、本発明は、必要とする患者に有効量のフィリリン/フィリゲニン組成物を投与することを含む抗コロナウイルス(例えば、COVID-19ウイルス)のための方法を提供する。それに対応して、本発明はまた、必要とする患者に有効量のフィリリン/フィリゲニン組成物を投与することを含むコロナウイルスによる疾患(例えば、COVID-19)を治療するための薬剤の投与方法も提供する。
【0022】
本明細書において、投与量(有効量)と投与経路は、一般に、患者の状況(年齢、体重、性別、罹病期間、体調や感染症の重症度など)に応じて医師によって決定される。患者の状況が変化するため、投与量も変化し、適切用量を選択することは臨床医の能力範囲内にある。投与経路は薬剤組成物の剤形に応じて決定され、適用の経路には経口、非経腸注射、粘膜内、筋肉内、静脈内、皮下、眼内、皮内又は経皮投与などの経路があり、経口投与が好ましい。
【0023】
前述方法において、フィリリン/フィリゲニン組成物は前述薬物中の唯一の薬物有効成分であることが期待できる。
また、前述方法において、前述薬剤は錠剤、カプセル剤、丸剤、粉末剤、顆粒剤、シロップ剤、溶液剤、乳剤、注射剤、スプレー剤、エアゾール剤、ゲル剤、クリーム剤、パップ剤、テープ剤又は湿布剤の形で存在することが望ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の有益性は、COVID-19ウイルスの3CLproタンパク質を阻害する試薬及び方法を提供することにある。フィリリン/フィリゲニン組成物は低濃度であってもCOVID-19ウイルスなどのコロナウイルスを効果的に阻害することができ、そのうち、フィリリンとフィリゲニンの2成分の組合せが相乗効果を発揮し、COVID-19などのコロナウイルスに対する治療薬として有望であり、迅速に臨床導入する可能性もある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、フィリリン及びその誘導体の構造を示している。
【
図2】
図2は、KD-1がCOVID-19の3CLpro標的タンパク質と結合するシミュレーション画像。
【
図3】
図3は、KD-2-GLUがCOVID-19の標的タンパク質と結合するシミュレーション画像。
【
図4】
図4は、KD-2-SO
3HがCOVID-19の3CLpro標的タンパク質と結合するシミュレーション画像。
【
図5】
図5は、3CL proタンパク質のクローニング、発現及び精製の結果を示す。
【
図6】
図6は、3CLproタンパク質とKD-1の紫外吸収スペクトル。
【
図7】
図7は、3CLproタンパク質とKD2-GLUの紫外吸収スペクトル。
【
図8】
図8は、3CLproタンパク質とKD2-SO
3Hの紫外吸収スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、理解を容易にするために、本発明を具体的な実施形態及び添付図を通じて詳細に説明する。特に、これらの記述は単に例示的なものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではないことに留意されたい。本明細書の説明によれば、本発明の多くの変化・変更は当業者にとって自明なことである。また、本発明をより明確に説明する目的で、本発明は公開された文献を引用し、それら全内容を全て本明細書に組み込んで参照とし、本明細書に繰り返し記載さている。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例とともにさらに説明する。特に明記されていない限り、実施例で用いられた方法はいずれも本分野の技術文献及び医薬品規制当局の規範文書に記載されており、機器、原料及び試薬はいずれも公開市場から購入されている。
【0028】
(実施例1)
フィリリン/フィリゲニン組成物によるin vitro抗COVID-19ウイルス試験
【0029】
1 被験薬:フィリリンとフィリゲニンの重量比は90 : 10であるフィリリン/フィリゲニン組成物(大連富生天然薬物開発有限会社)。
2 細胞:VeroE6細胞(広州呼吸器健康研究所呼吸器疾患国立主要研究所)。
3 ウイルス:力価がTCID50 =10-6/100μLであるCOVID-19ウイルスSARS-CoV-2株(広州税関技術センターBSL-3ラボ(呼吸器疾患国立主要研究所高病原性微生物研究室))。
4 実験プロセス(実験操作は全てBSL-3実験室で行われた):
(1)滅菌96ウェル培養プレートを用い、100 μLのVeroE6細胞を2×105 cells/mLの濃度で各ウェルに添加し、37°C、5% CO2で24時間培養する。
(2)100 TCID50ウイルス溶液を100 μL/ウェルで培養プレート実験群とウイルス対照群に添加し、37°C、5% CO2インキュベーターで2時間吸着を行う。
(3)2時間後、96ウェル培養プレート中の細胞培養液を廃棄し、フィリリン/フィリゲニン組成物を表1に示す一連の濃度に希釈し、各濃度の上記薬液を100 μl/ウェルで添加し、これをそれぞれ3培養プレートずつ準備する。
(4)細胞対照、ブランク対照(溶媒対照)及びウイルス対照(陰性対照)も同時に設定する。
(5)37℃、5% CO2インキュベーターで3~4日間培養する。
(6)細胞変性効果(CPE)を光学顕微鏡で観察し、細胞変性の程度を以下の6級基準に基づいて記録する:「±」は10%未満の細胞変性、「+」は約25%の細胞変性、「++」は約50%の細胞変性、「+++」は約75%の細胞変性、「++++」は75%以上の細胞変性が認められたことである。リード‐ミュンヒの(Reed-Muench)法又はグラフパッド プリズム(GraphPad Prism 5.0)を用いて、50%細胞増殖阻害濃度(IC50)を算出する。
5 実験結果:
実験の結果は表1-1に示されたように、フィリリン/フィリゲニン組成物は低濃度でCOVID-19ウイルスを効果的に阻害することができ、50%阻害濃度IC50は63.90 μg/mL(これに対し、同時に検討したフィリリン純物質の50%阻害濃度IC50は179.1μg/mLであり、フィリゲニン純物質の阻害効果はさらに劣っている)と算出され、組成物中のフィリリンとフィリゲニンの2成分の組合せは相乗効果を発揮しているため、COVID-19の治療薬として期待される。
【0030】
【0031】
(実施例2)
フィリリン/フィリゲニン組成物によるin vitro抗HCoV-229E試験
【0032】
コロナウイルのHCoV-229Eは病原性がより低く、通常、風邪に似た呼吸器症状のみを引き起こす。本実施例は基本的に実施例1に示されたプロセスを参照して実行されたが、力価はTCID50 = 10-5.5/100 μLであるHCoV-229E(広州税関技術センターBSL-3ラボ(呼吸器疾患国立主要研究所高病原性微生物研究室))コロナウイルスを使用したことに違いがあり、ウイルスの使用力価は100TCID50である。フィリリン/フィリゲニン組成物を表2-1に示す一連の濃度に希釈した。実験操作は全てBSL-3ラボで行われた。
実験の結果は表2-1に示されたように、フィリリン/フィリゲニン組成物は低濃度でHCoV-229Eウイルスを効果的に阻害することができ、50%阻害濃度IC50は64.53 μg/mL(これに対し、同時に検討したフィリリン純物質及びフィリゲニン純物質の阻害効果はより劣っている)と算出され、組成物中のフィリリンとフィリゲニンの2成分の組合せは相乗効果を発揮しているため、HCoV-229Eの治療薬として期待される。
【0033】
【0034】
(実施例3)
COVID-19ウイルスを阻害するフィリリン及びその誘導体の分子機構に関する研究
【0035】
一、実験背景
COVID-19ウイルスの表面にあるスパイクタンパク質(Sタンパク質)及び3-キモトリプシン様システインタンパク質
(3-chymotrypsin-like cysteine protease、略称は3CLproタンパク質)はCOVID-19ウイルスのライフサイクルプロセスと非常に重要な関連がある。COVID-19のライフサイクルとは、COVID-19の表面のSタンパク質を利用してアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)と結合し、細胞自体のエンドサイトーシス過程を経て、細胞に侵入して遺伝物質RNAを放出し、3CLproタンパク質と共に遺伝物質RNAの複製に成功し、ウイルスを産生するのである。
バーチャルスクリーニングは、主にコンピューターで創薬スクリーニングのプロセスをシミュレートする分子ドッキング技術を活用する。このスクリーニングを実施するために、創薬標的分子の構造を知る必要があり、分子シミュレーションにより化合物ライブラリーにある低分子の標的結合力を計算して、候補化合物の生理活性を予測する。
本実験は、グライド(Glide分子)ドッキング技術を用い、3CLpro標的タンパク質に対するフィリリン(KD-1)及びその誘導体の最適な結合効果をバーチャルスクリーングし、その結果に基づいて、KD-1及びその誘導体の標的タンパク質に対する結合をin vitroで検討し、分子間相互作用及び結合モードとKD-1及びその誘導体との構造活性相関を解明する。標的タンパク質に対するKD-1及びその誘導体の活性測定により、KD-1及びその誘導体がCOVID-19に対する潜在的な阻害剤としての分子機構であることが明らかになった。
二、実験方法
1 KD-1及びその誘導体と標的タンパク質の分子ドッキング
(1)システムの準備:SARS-CoV-2メインプロテナーゼ(3CLproタンパク質)の2.16A結晶構造をタンパク質の立体構造データベース(PDB ID:6LU7)から取得した。酵素の構造は、シュレーディンガー(Schrodinger)のタンパク質 準備ウィザード(Preparation Wizard)を用いて結晶水を除去し、欠損した水素/側鎖原子を追加し、またpH 7.0の酸性及び塩基性アミノ酸残基に適切な電荷とプロトン化状態を配分する前処理をしてから、OPLS-2005力場を用いて酵素構造のエネルギーを最小化し、最後にサイトマップを用いてタンパク質の活性部位を予測した。それと同時に、シュレーディンガー のLigPrepモジュールを用いて、フィリリン及びその誘導体の構造・配座を最適化した。
(2)分子ドッキング:分子ドッキングに基づくバーチャルスクリーニングはマストロ(Maestro) 11.5のグライドワークフローを利用して行われた。フィリリン及びその誘導体(
図1)のドッキング計算は、グライドの「超高精度」モード(XP)を用いて実施された。
(3)ドッキングスコア:低分子と標的タンパク質の相互作用を評価するために、水素結合、疎水性、ファンデルワールス力などの相互作用を総合的に考慮する「Glide-score」のスコア関数値を用い、その絶対値が大きいほど、低分子と標的タンパク質のドッキング複合体が安定し、適合・結合効果が良いことを示している。
(4)目標分析:新型コロナウイルス感染症の臨床予防、診断及び治療へ理論基盤と重要な参考資料を提供する目的で、KD-1及びその誘導体と新型コロナウイルスの主要標的タンパク質とのドッキング結果を通じて、KD-1及びその誘導体は新型コロナウイルスの主要タンパク質と相互作用する主要アミノ酸を分析した。
2 タンパク質の発現と精製
(1)クローニング:SARS-CoV-2 3CLproタンパク質のコーディングをする完全長遺伝子(UniprotKB-P0DTD1、残基3264-3569)は、大腸菌発現系に最適化及び合成(武漢ジーンクリエイトバイオエンジニアリング株式会社)が行われた。
(2)発現:発現プラスミドを大腸菌BL21(DE3)細胞に形質変換して、37℃で、100 μg/mlのアンピシリンを含むLB培地で培養した。細胞の増殖はOD600 nm値が0.6-0.8になる時、0.5mM IPTGを細胞培養物に加え、30℃、180 rpmでの発現を誘導した。10時間後、3,000gで遠心分離し、細胞を回収した。
(3)精製:細胞沈殿物を溶解バッファー(20 mM Tris-HCl pH 8.0、150 mM NaCl、2 mM BME)に再懸濁し、超音波破砕により溶解した後、13,000gで、30分間遠心分離した。上清をNi-NTAアフィニティーカラムにロードし、20 mMイミダゾールを含む再懸濁バッファーで洗浄後、300 mMイミダゾールを含む溶解バッファー(50 mM Tris-HCl pH 7.0、150 mM NaCl)でHisタグ3CLproタンパク質を溶出した。この3CLproタンパク質は、イオン交換クロマトグラフィーによりさらに精製された。3CLプロタンパク質は、最終的にモノマーとダイマーの混合物として得られ、溶液中で保存された。
3 分光実験
本実験は、JASCO-V560シリーズの紫外可視分光光度計を用いて、タンパク質の構造変化を探索した。タンパク質の紫外吸収スペクトルには2つの吸収ピークがあり、210 nmの強い吸収ピークはペプチド結合におけるC=Oのn-π*遷移に起因するタンパク質のフレームワーク立体配座を反映した。280 nmに弱い吸収ピークが現れたのは、光に対する芳香族アミノ酸(Trp、Tyr及びPhe)の吸収によるπ-π*遷移の結果である。
本実験はバッファーを参照として、200-700 nmの波長範囲で、タンパク質溶液及びフィリリンとタンパク質の混合溶液の紫外可視吸収スペクトルをスキャンした。Gel Buffer(50 mM Tris-HCl pH 7.0、150 mM NaCl)を石英キューベットに2 ml加え、10
-5Mの濃度で3CLproタンパク質を10 μL加え、その吸光度値を測定すると共に、10
-4Mの濃度でフィリリン 及びその誘導体をそれぞれ10 μL加えて、吸光度の変化を測定した。
三、実験結果
COVID-19のライフサイクルはCOVID-19の表面にあるSタンパク質を利用してアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)と結合し、細胞自体のエンドサイトーシス過程を経て、細胞に侵入して遺伝物質RNAを放出し、3CLproタンパク質の関与の下、遺伝物質RNAの複製に成功し、ウイルスを産生する。本実験は、3CLproタンパク質の遺伝物質RNAの複製に関与することを阻害できる化合物を探し、抗COVID-19薬を開発する。本実験は、3CLproタンパク質の結晶構造により最適標的部位を選択し、化合物KD-1及びその誘導体(KD-2-GLUとKD-2-SO
3H)のバーチャルスクリーニングを行い、KD-1、KD-2-GLU及びKD-2-SO
3H化合物の3CLproタンパク質に対する部位結合のスコアが得られ、この化合物が3CLproタンパク質を標的とすることを実証した。
計算分析によって、3CLproタンパク質の3次元構造に潜在的な活性部位が5つ見つかり、そのうち、部位1が薬物分子の結合しやすい部位である。KD-1を3CLproタンパク質の5つの潜在的な活性部位にドッキングさせ、5つともドッキングに成功した。ドッキングスコアは表3-1に示されている。そのうち、他3CLproタンパク質の活性部位に比べて、3CLproタンパク質の活性部位1におけるKD-1のGlideスコアは明らかに高いため、3CLproタンパク質の活性部位1を分子ドッキングの理論値と選定した。KD-2-GLUとKD-2-SO
3Hは上記と同様に計算・分析された。
【0036】
【0037】
KD-1、KD-2-GLU及びKD-2-SO3Hと3CLproタンパク質の最適活性部位を選定し、「Glide Score」により3CLproタンパク質部位に対する低分子の結合力を評価し、絶対値が高いほど両者の結合が安定し、適合性が高いことを示している。 KD-1、KD-2-GLU及びKD-2-SO3H化合物とCOVID-19標的タンパク質活性部位とのドッキングスコアは表3-2に示されている。表3-2は、RNA複製に関与するCOVID-19のコアタンパク質3CLproに対するKD-1、KD-2-GLU及びKD-2-SO3H化合物の活性部位結合スコアの理論値が有意であることを示し、そのうち、KD-1とKD-2-GLUの結合スコアはとても高いので、これら化合物は共にコアタンパク質3CLproを、異なる度合いで標的とすることを示唆している。
【0038】
【0039】
KD-1と3CLpro標的タンパク質の分子ドッキングの3次元シミュレーション図と平面図によって、KD-1化合物がタンパク質の分子ポッケトに入ったことが認められた。(
図2.上部)。KD-1は3CLproタンパク質活性部位のアミノ酸His41の残基とπ-π共役を形成し、Gly143、Asn142、Glu166のペプチド結合と3つの水素結合を形成し、Met165と疎水性相互作用を形成して、3CLproタンパク質に結合した(
図2.下部)。His、Gly、Asn、Glu及びMetなどの異なるアミノ酸残基は空間的にKD-1の構造に適合することができると示し、それで複合体の立体配座を決定し、KDー1化合物が3CLproタンパク質を標的とすることを推定し、3CLproタンパク質がCOVID-19のRNA複製に関与してウイルスを生成することを阻止する。
【0040】
KD-2-GLUと3CLpro標的タンパク質の分子ドッキングの3次元シミュレーション図と平面図によって、KD-2-GLU化合物がタンパク質の分子ポッケトに入ったことが認められた。(
図3.上部)。KD-2-GLUは3CLproタンパク質の活性部位Gly143、Thr43、Thr25のペプチド結合と3つの水素結合を形成し、Tyr54と疎水性相互作用を形成して、3CLproタンパク質に結合した(
図3.下部)。Gly、Thr及びTyrなどの異なるアミノ酸残基は空間的にKD-2-GLUの構造に適合することができると示し、それで複合体の立体配座を決定した。KD-2-GLU化合物は3CLproタンパク質を標的とすることを推定し、3CLproタンパク質がCOVID-19のRNA複製に関与してウイルスを生成することを阻止する。
【0041】
KD-2-SO
3Hと3CLpro標的タンパク質の分子ドッキングの3次元シミュレーション図と平面図によって、KD-2-SO
3H化合物がタンパク質の分子ポッケトに入ったことが認められた(
図4.上部)。KD-2-SO
3HはGly143、Asn142と水素結合相互作用を形成し、Tyr54、Val42、Cys44、Cys145と疎水性相互作用を形成した(
図4.下部)。Gly、AsnとValなどの異なるアミノ酸残基は、空間的にKD-2-SO
3Hの構造に適合することができることを示し、それで複合体の立体配座を決定した。
【0042】
KD-1及びその誘導体と3CLproタンパク質活性部位との相互作用は表3-3に示されている。その結果、フィリリン及び2つの誘導体と3CLproタンパク質活性部位との相互作用は完全に疎水性ではなく、水素結合及びπ-π共役相互作用も発生し、水素結合及び共役相互作用を通じて、複合体の安定化に寄与する可能性があることを示している。KD-1、KD-2-GLU及びKD-2-SO3H化合物は共通のGLY143水素結合を介して3CLproタンパク質と相互作用し,分子中の水素原子間距離はそれぞれ2.22A、2.22A及び2.06Aであることが判明した。しかし、3CLproタンパク質とKD-1、KD-2-GLU及びKD-2-SO3H化合物との結合には疎水性相互作用と静電相互作用は重要な役割を果たし、化合物によって3CLproタンパク質に結合する残基が異なり、それら結合結果の相違もこれで説明することができた。
【0043】
【0044】
破砕したタンパク質はニッケルカラムで精製され、分子量は34 kDa である(
図5.左)。イオン交換クロマトグラフィー後、SDS PAGEを行い、タンパク質濃度65 mg/mlの3CLproタンパク質試料を検出した(
図5.右)。
【0045】
分子ドッキングのバーチャルスクリーニングの結果に基づいて、紫外可視吸光度測定法によって、KD-1、KD-2-GLU及びKD-2-SO
3H化合物と3CLproタンパク質との結合試験をin vitroで行い、この化合物は3CLproタンパク質を標的とすることをさらに実証した。
図6は、紫外可視分光法により測定したKD-1と3CLproタンパク質及びその混合物の吸光度を示している。その結果は、3CLproタンパク質は278 nmに吸収ピークを有し、KD-1を加えることで吸光度は上昇し、ピークはシフトしたことを示している。 KD-1は3CLproタンパク質と相互作用し、酵素の活性を阻害した可能性がある。KD-1と3CLproは新たな複合体を形成した可能性があり、KD-1と3CLproタンパク質は水素結合又は疎水結合を生じた可能性がある。
【0046】
図7は、紫外可視分光法により測定したKD2-GLUと3CLpro及びその混合物の吸光度を示している。その結果、3CLproタンパク質は278 nmに吸収ピークを有し、KD-2-GLUを加えることで吸光度は上昇し、ピークはシフトしたことを示している。KD-2-GLUは3CLproタンパク質と相互作用し、酵素の活性を阻害した可能性がある。KD-2-GLUと3CLproは新たな複合体を形成し、両者は水素結合又は疎水結合を生じた可能性がある。
【0047】
図8は、紫外可視分光法により測定したKD-2-SO
3Hと3CLproタンパク質及びその混合物の吸光度を示している。その結果、KD-2-SO
3Hを加えることで吸光度は上昇し、3CLproタンパク質のピークはシフトしたことを示している。KD-2-SO
3Hは3CLproタンパク質と相互作用し、酵素の活性を阻害した可能性がある。KD-2-SO
3Hと3CLproタンパク質は水素結合又は疎水結合を生じ、両者の間に新たな複合体を形成した可能性がある。
【0048】
四、実験の結論
分子ドッキングの結果によって、RNA複製に関与するCOVID-19ウイルスのコアタンパク質3CLproタンパク質に対するKD-1、KD-2-GLU及びKD-2-SO3H化合物の結合スコア論理値は有効であり、そのうち、KD-1とKD-2-GLUの結合スコアはとても高いことが示された。分析によって、KD-1、KD-2-GLU及びKD-2-SO3H化合物と3CLproタンパク質活性部位のペプチド結合は水素結合又は疎水性結合を生じ、アミノ酸残基とπ-π共役を形成し、その理論的データは3CLproタンパク質の構造を変化させたことが実証できた。in vitroでスペクトル法を用いた実験の結果は、KD-1、KD-2-GLU及びKD-2-SO3H化合物はいずれも278 nmにある3CLproタンパク質の特徴的なピークをシフトし増大させた現象が有り、そのうち、KD-1化合物は最も顕著であることを示している。それゆえに、KD-1、KD-2-GLU及びKD-2-SO3H化合物はいずれも3CLproタンパク質を標的とする作用があり、COVID-19ウイルスの3CLproタンパク質がウイルスの複製に関与することを阻害する化合物として、COVID-19ウイルスを標的とする阻害剤となる可能性がある。
【0049】
(実施例4)
抗新型コロナウイルスのin vivo薬効薬理試験
【0050】
一、実験材料
マウス:hACE2マウス、6-7週齢、20-40g、計120匹の雄。実験動物サプライヤー:江蘇省メディシエンスバイオ医薬品株式会社、実験動物生産許可証:SCXK(蘇)2018-0008、実験動物基準適合証明書番号:No.320727201100243581、飼料サプライヤー:江蘇省メディシエンスバイオ医薬品株式会社。
薬剤:フィリリンとフィリゲニンの重量比は90 : 10であるフィリリン/フィリゲニン組成物(大連富生天然薬物開発有限会社)。
二、実験方法
(1)COVID-19マウスの疾患進行に対する薬剤の予防効果
hACE2遺伝子組換えC57BL/6のマウスは正常群、SARS-CoV-2感染群、投与量80 mg/kgと40 mg/kg群、実薬対照群(レムデシビル50 mg/kg)、各群8匹ずつに分けられた。PBSを点鼻投与した正常群を除いて、他の各群のマウスは点鼻で105PFUのSARS-CoV-2ウイルスに感染した。感染後2時間後、投与群のマウスに1日1回、5日連続でフィリリンを胃内投与した。感染後、体重の変化を毎日記録し、5日間の死亡率を算出した。
(2)COVID-19マウスの感染による過剰な炎症に対する薬効薬理試験
ACE2遺伝子組換えC57BL/6のマウスは正常群、SARS-CoV-2感染群、投与量80 mg/kgと40 mg/kg群、実薬対照群(レムデシビル50 mg/kg)に分けられた。PBSを点鼻投与した正常群を除いて、他の各群のマウスは点鼻で105PFUのSARS-CoV-2ウイルスに感染した。感染後2時間後、投与群のマウスに1日1回、5日連続でフィリリンを胃内投与した。感染後5日目、動物を解剖し、肺を摘出し、肺組織をホモジナイズしてウイルス力価を測定し、またTrizol法によって肺組織のホモジネート上清からトータルRNAを抽出し、RT-qPCRによって関連炎症性因子のmRNAの発現を検出した。
【0051】
三、実験結果
(1)新型コロナウイルスに対する薬剤の死亡予防試験の結果
死亡予防の結果は表4-1に示され、新型コロナウイルス感染マウスに対する2用量(80 mg/kgと40 mg/kg)の投与群の予防効果はそれぞれ87.5%と42.86%あり、ウイルス感染群では71.43%のマウスが死亡し、80 mg/kg投与群の予防率はレムデシビルと同程度である。
【0052】
【0053】
(2)薬剤による新型コロナウイルス感染マウスの肺組織ウイルス力価の測定結果
表4-2に示されたように、2用量(80 mg/kgと40 mg/kg)の投与群は感染マウスの肺ウイルス力価が有意に低下し、80 mg/kg投与群では肺ウイルス力価に対する抑制はレムデシビル群と比べて、統計学的に有意差はない。
【0054】
【0055】
(3)薬剤による新型コロナウイルス感染マウスの過剰な炎症の測定結果
感染マウスの炎症性指標の測定結果は表4-3に示されたように、マウスが新型コロナウイル感染後5日目、ウイルス感染群のIL-1β、IFN-γ、MCP-1及びIFN-αの発現は顕著に上昇し、薬剤介入後、2用量群(80 mg/kgと40 mg/kg)はIL-1β、IFN-γ、MCP-1及びIFN-α炎症性因子に対していずれも抑制効果がある。なお、80 mg/kg投与群は、炎症性メディエーターの過剰発現に対する抑制力はレムデシビル群より優れている。
【0056】
【0057】
四、結論
上記実験結果は、本発明の薬剤は新型コロナウイルス感染マウスの死亡に対して有効な予防効果があり、新型コロナウイルス感染マウスに対する死亡予防率は87.5%に達し、レムデシビル群と同程度の有効性があり、新型コロナウイルス感染マウスの肺組織ウイルス力価を有効に抑制することができ、なお新型コロナウイルス感染による過剰な炎症性因子IL-1β、IFN-α、MCP-1及びIFN-γのmRNA発現も抑制し、これによって新型コロナウイルス感染症を治療する役割を果たす。