(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】自動車両の、特に自動車の内燃機関の運転方法
(51)【国際特許分類】
F02B 19/12 20060101AFI20240205BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20240205BHJP
F02D 41/34 20060101ALI20240205BHJP
F02D 41/06 20060101ALI20240205BHJP
F02P 5/15 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
F02B19/12 A
F02B19/12 D
F02D43/00 301J
F02D43/00 301B
F02D41/34
F02D41/06
F02P5/15 E
(21)【出願番号】P 2022543181
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(86)【国際出願番号】 EP2020085245
(87)【国際公開番号】W WO2021148190
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-07-19
(31)【優先権主張番号】102020000353.2
(32)【優先日】2020-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】メルセデス・ベンツ グループ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Mercedes-Benz Group AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 120,70372 Stuttgart,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100090583
【氏名又は名称】田中 清
(74)【代理人】
【識別番号】100098110
【氏名又は名称】村山 みどり
(72)【発明者】
【氏名】ディートマー・バーチュ
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-032536(JP,A)
【文献】国際公開第2016/170583(WO,A1)
【文献】特表2004-531667(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102018000706(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102018209096(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 19/12
F02D 43/00
F02D 41/34
F02D 41/06
F02P 5/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車両の内燃機関(10)の運転方法であって、前記内燃機関(10)は、少なくとも1つの燃焼室(20)と、前記燃焼室(20)に割り当てられた副室点火プラグ(26)とを備え、かつ、複数の開口部(28)を介して前記燃焼室(20)に流体的に接続される副室とを有するものにおいて、
火花点火エンジンの形態の前記内燃機関(10)は、触媒コンバータ加熱運転で運転されるものであり、前記内燃機関(10)の各作動サイクル内で前記燃焼室(20)内の燃料空気混合気を点火させるための点火火花が前記副室において生成される点火時期、および前記各作動サイクル内で前記燃焼室(20)への最後の直接燃料噴射が行われる噴射時期は、通常運転と比較して遅くされ、前記触媒コンバータ加熱運転において、前記各作動サイクル内で、前記噴射時期と前記点火時期との間に80度超のクランク角が存在すること
が、前記内燃機関(10)によって実行されることを特徴とする前記方法。
【請求項2】
前記触媒コンバータの加熱運転において、前記各作動サイクル内で、前記噴射時期と前記点火時期との間に90度超のクランク角が存在することを特徴とする請求項
1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1または4の前文に記載の自動車両の、特に自動車の内燃機関の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このような自動車両の、特に自動車の内燃機関の運転方法は、例えば特許文献1から既に知られている。この方法において、内燃機関は、少なくとも1つの燃焼室および副室点火プラグを有し、副室点火プラグは燃焼室に割り当てられており、複数の開口部を介して燃焼室と流体的に接続された副室を備える。さらに、特許文献2は、燃料を噴射するためのインジェクタを開示している。特許文献3は、触媒コンバータを備えた多気筒内燃機関の制御システムを開示している。さらに、特許文献4は、シリンダヘッドによって閉じられるシリンダによって形成される燃焼室を備えるシステムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】DE 10 2018 000 706 A1
【文献】DE 10 2018 209 096 A1
【文献】DE 199 52 829 A1
【文献】DE 10 2017 125 946 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、特に有利な運転が実現できるような方法で上記のような方法をさらに発展させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、請求項1の特徴を有する方法、及び請求項4の特徴を有する方法により達成される。本発明の便宜的な改良を伴う有利な実施形態は、残りの請求項に記載されている。
【0006】
内燃機関の特に有利な運転が実現され得るような方法により、請求項1の前文に記載された種類の方法を更に発展させるため、ガソリンエンジンの形態である内燃機関が触媒コンバータ加熱運転で運転されることが本発明に従って提供され、内燃機関の各作動サイクル内で燃焼室内の燃料空気混合気を点火させるための点火火花が副室において生成される点火時期は、通常運転に対して遅くされる。しかしながら、各作動サイクル内で燃焼室への最後の直接燃料噴射が行われる噴射時期は、触媒コンバータ運転および通常運転において同じである。このように、通常運転から触媒コンバータ加熱運転に切り替えるため、または触媒加熱運転または触媒加熱とも呼ばれる触媒コンバータ加熱運転を設定するために、点火時期が通常運転に比べ遅くされる一方で、触媒コンバータ加熱運転に切り替えるために、または触媒コンバータ加熱運転を設定するために、噴射時期の移動はない。
【0007】
内燃機関の特に有利な運転が実現され得るような方法により、請求項4の前文に記載された種類の方法を更に発展させるため、火花点火エンジンの形態である内燃機関は触媒コンバータ加熱運転で運転されることが本発明に従って提供され、内燃機関の各作動サイクル内で燃焼室内の燃料空気混合気を点火させるための点火火花が副室において生成される点火時期、および各作動サイクル内で燃焼室への最後の直接燃料噴射が行われる噴射時期は、通常運転と比較して遅くされ、触媒コンバータ加熱運転において、各作動サイクル内で、噴射時期と点火時期との間に80度超のクランク角が存在するものであり、触媒コンバータ加熱運転において、クランク角に関係する、点火時期と噴射時期の間の間隔が、各作動サイクル内で通常運転に比べて小さいか又は大きいことが好適に提供される。
【0008】
本発明は、特に以下の知見に基づいている。火花点火直噴燃焼プロセスにおける副室点火プラグの使用は、コールドスタート後の触媒コンバータ加熱運転の機能が、排気ガス制限値を達成するために、または特に低排出運転を実現するために、この点火技術によって保証されることを確実にするべきである。標準的な点火プラグの場合、いわゆる点火噴射が、必要な非常に遅い点火を安定させるために、点火から一定間隔で点火時期の前に直接燃料を噴射するために用いられる。本発明に従って、特別な注入戦略がいま、標準的な点火プラグとは対照的に、副室点火プラグ内の点火噴射を火花領域に直接放出させることができないという課題を解決する。上述の直接燃料噴射は、燃料、特に液体燃料が、インジェクタによって燃焼室に直接噴射されることを特に意味する。
【0009】
触媒コンバータ加熱運転において可燃性混合気を副室点火プラグの副室に確実に持ち込むために、例えば、点火前の最後の、そしてしばしば第2の噴射は、噴射された燃料が副室点火プラグの開口部を通過するのに十分な時間を有するように、良好な時間内に行われることを注意すべきであり、開口部は副室内および火花領域内への例えば流出孔として形成され、非常に良好な点火可能な混合気をそこに確保する。本発明に従って、例えば、クランク角位置に対して一定の点火時期または噴射開始がこの目的のために選択されるように、または最後の噴射と点火時期との間に十分に大きな時間差があることを確実にするために、注意が払われる。特に、以下の利点が本発明によって実現され得る。
【0010】
- よりよく調製された燃料空気混合気が点火時期に副室の火花領域に存在すること、これが点火条件を改善し、燃焼が安定する。
- 触媒コンバータの損傷につながり得る燃焼失火がない。
- 触媒コンバータをその動作範囲(温度窓)まで急速に加熱するように遅い燃焼位置を通して熱力学を劣化させるために、極めて遅い点火時期まで安定した燃焼が依然として起こり得るので、排気ガス中に高温を発生させることができる。
【0011】
一方、本発明の根底にあるさらなる知見は、直接燃料噴射用のピエゾインジェクタの導入により、各作動サイクル内で多数の噴射を放出、すなわち行う可能性が生み出され、利用されていることである。例えば、過剰な粒子放出を避けるために、低いエンジン速度で最大8回の噴射が行われる。特に触媒コンバータ加熱運転については、通常、点火時期に結び付けられ、点火時期から常に同じ間隔を有する点火噴射で運転することが可能である。この間隔は、たとえばクランク角10度である。点火噴射により、順番に安定した点火につながる点火時期に、標準的な点火プラグとして形成された点火プラグの火花領域内に十分に豊富な燃料雲を生成するために、最小量とも呼ばれる極少量の燃料が点火プラグの方向に放出される。非常に遅い重心位置を有する触媒コンバータ加熱運転において、エンジン走行の平滑性は以前も今も幾分好ましくないところ、本発明による方法では、触媒コンバータ加熱運転中も内燃機関の有利な走行平滑性を確保できる。副室点火プラグの使用により、燃料は火花領域に直接入ることができないため、標準的な点火プラグのように点火結合噴射を実装することはもはやできないが、回り道、より具体的には火花領域への開口部または火花ギャップを介してのみ実装することができる。単気筒ユニットでの測定は、点火時期の直前に点火噴射を放出することがもはや必要でない、または得策ではないことを示している。同様に、最後の噴射を点火時期に結び付けたり、点火時期が移動されたときそれを移動させたりすることはもはや良いことではない。実験は、副室内の流れ構造が非常に良好かつ非常に長期間維持されることを示しており、その結果、内燃機関の特に有利な円滑な運転を実現するために、一定時間での触媒コンバータ加熱運転における最後の噴射のための有利な噴射時期を明確にすることができる。
【0012】
本発明のさらなる利点、特徴および詳細は、好ましい例示的な実施形態の以下の説明および図面から明らかになるであろう。説明において上述した特徴および特徴の組み合わせ、ならびに図の説明において以下に述べる、および/または単一の図において単独で示されている特徴および組み合わせは、それぞれの場合に示された組み合わせにおいてだけでなく、他の組み合わせにおいても、またはそれら自体においても、本発明の範囲を逸脱することなく使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】単一図において自動車の内燃機関の概略断面を示す図であり、この内燃機関は本発明による方法に従って運転される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この単一図は、自動車両の、特に自動車のレシプロエンジンの形態の、内燃機関10の詳細な概略断面図を示すものである。これは、完全に製造された状態の自動車両が内燃機関10を備え、内燃機関10によって駆動され得ることを意味する。内燃機関10は、図示しないハウジング要素を有し、例えばクランクケースとして、特にシリンダクランクケースとして形成されており、それにより少なくとも1つのシリンダ12が形成され又は区切られている。ここで、内燃機関10は、少なくとも1つのピストン14を備え、これはシリンダ12内で並進的に移動可能なように、そしてその結果、下死点と上死点との間で移動可能なように配置される。内燃機関10は、第2のハウジング要素16をさらに備え、それは例えば第1のハウジング要素とは別に形成され、第1のハウジング要素に接続される。ハウジング要素16は、例えばシリンダヘッドであり、これにより燃焼室ルーフ18が形成される。シリンダ12、ピストン14及び燃焼室ルーフ18はそれぞれ、レシプロエンジンとして形成された内燃機関10の燃焼室20を形成し又は部分的に区切っている。燃焼室20にはインジェクタ22が割り当てられており、これにより燃料、特に液体燃料を燃焼室20に直接噴射することができ、その結果、例えばコーンまたは先太りのストリームの形で様々な燃料ジェット24が形成される。燃焼室20内の燃料の直接噴射は、直噴または直接燃料噴射とも呼ばれる。内燃機関10は、火花点火エンジンとして形成され、さらに副室点火プラグ26を備え、それは燃焼室20に割り当てられ、さらに図では確認できない副室を有する。副室点火プラグ26の副室は、種々の開口部28を介して、例えばボアの形態で燃焼室20に流体的に接続され、そして別のやり方では好ましくは燃焼室20から分離される。副室内には電極装置が配置されており、それによって、特に副室内に配置された火花領域において少なくとも1つの点火火花を発生させることができ、この火花領域は火花ギャップとも呼ばれる。
【0015】
少なくとも内燃機関10の燃焼運転中に、前述の燃料および空気は、内燃機関10の各作動サイクル内で燃焼室20に導入され、それによって、チャージまたは混合気とも呼ばれる燃料空気混合気が燃焼室20内に形成される。少なくとも燃料空気混合気の一部は、開口部28を介して燃焼室20から副室に流入することができる。そして点火火花が、副室において、例えば、特に点火時期に生成される場合、副室で受け取られた燃料空気混合気の一部および燃焼室20内の残りの燃料空気混合気は、それによって点火され、続いて燃焼される。
【0016】
なお、燃焼室20に割り当てられ、例えば吸気弁として形成された、内燃機関10のガス交換弁30を、図において見ることができる。例えば、前述の空気は、特に、矢印32によって図示されるタンブル流を形成し、例えば燃焼室20へのタンブルチャージ運動をもたらすように、吸気弁を介して燃焼室20に流入することができる。
【0017】
内燃機関10の特に有利な運転を実現するために、内燃機関10は、以下で説明する方法に従って運転される。この方法では、火花点火エンジンの形態の内燃機関10は、触媒コンバータ加熱運転で運転されるものであり、それは内燃機関10からの排気ガスが流れることができる少なくとも1つの触媒コンバータを加熱するために、目標の方法で提供されまたは実施される。触媒コンバータの加熱運転において、内燃機関10の各作動サイクル内で燃焼室20内の燃料空気混合気を点火させるための点火火花が副室において生成される点火時期は、例えば触媒コンバータの加熱運転に続く内燃機関10の通常運転に対して遅くされ、各作動サイクル内でインジェクタ22によって燃焼室20への最後の直接燃料噴射が行われる噴射時期は、触媒コンバータ加熱運転および通常運転において同じである。あるいは、触媒コンバータ加熱運転における点火時期および噴射時期は、通常運転に比べて遅くされることが考えられ、触媒コンバータ加熱運転において、各作動サイクル内で、噴射時期と点火時期との間のクランク角は80度より大きい。
【0018】
触媒コンバータ加熱運転とも呼ばれる触媒コンバータ加熱運転では、特に内燃機関10のコールドスタート後に、燃焼の熱力学が意図的に悪化させられるが、これは排気ガス温度を上昇させ、それによって触媒コンバータの着火温度とも呼ばれる触媒コンバータの作動温度までの加熱時間を短縮するためである。通常、点火時期はこの目的のために遅くされ、燃焼は熱力学的に好ましくない後時点において起こる。混合気のこのような遅い点火は、通常、望ましくない増加したサイクル変動または走行不規則性をもたらし、極端な場合には燃焼失火につながる可能性がある。これらの遅い点火時期でも点火条件を改善するために、標準的な点火プラグ、特に前面電極を使用する場合、複数回の噴射が加えられ、この最後の噴射は通常点火時期に合わせられ、10度クランク角から20度クランク角までにほぼ等しいこの点火時期から一定間隔で点火プラグの火花領域に少量の燃料を噴射し、これはリッチな混合気雲として良好で安定した点火を保証する。
【0019】
しかしながら、1つまたは上記の副室点火プラグを使用する場合、この混合気雲は火花領域に直接到達することはできないが、副室点火プラグ26の場合、混合気雲は、例えば流出孔として形成された開口部28を通ってそらされ、入口において副室へ曲げられ、そして副室内においてそこに位置する火花領域へ曲げられる。これは、噴射弁とも称されるインジェクタ22から副室内の火花ギャップまでの自由行程長、速度、および噴射圧力に応じて、より長い時間を必要とする。したがって、20度クランク角から100度クランク角まで、または30度クランク角から60度クランク角までのより大きな間隔を有する点火結合式最終噴射が、副室点火プラグ26を伴う触媒コンバータ加熱運転のために提供されることが好ましい。同様に、この最後の噴射を点火結合方式で適用するのではなく、点火が異なる時点で行われてもよいが、一定の時点で中止することが有利であり得る。これは、副室内の流動条件に関連する。副室点火プラグによる触媒コンバータ加熱運転のための最後の噴射のためのこのような一定の噴射時期は、ピストン14の点火上死点前100度クランク角から点火上死点前10度クランク角まで、または点火上死点前70度クランク角から点火上死点前30度クランク角までとするのが有利である。
【符号の説明】
【0020】
10 内燃機関
12 シリンダ
14 ピストン
16 ハウジング要素
18 燃焼室ルーフ
20 燃焼室
22 インジェクタ
24 ジェット
26 副室点火プラグ
28 開口部
30 ガス交換弁
32 矢印