(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】流量算出装置および流量算出方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240205BHJP
G01F 1/00 20220101ALI20240205BHJP
G01F 1/46 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01F1/00 F
G01F1/46
(21)【出願番号】P 2023134287
(22)【出願日】2023-08-21
【審査請求日】2023-10-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000130259
【氏名又は名称】株式会社コベルコ科研
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【氏名又は名称】松浦 昌子
(74)【代理人】
【識別番号】100208708
【氏名又は名称】河村 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100215371
【氏名又は名称】古茂田 道夫
(74)【代理人】
【識別番号】100187997
【氏名又は名称】田中 厳輝
(72)【発明者】
【氏名】堀 泰規
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 公一
(72)【発明者】
【氏名】西内 万聡
【審査官】瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112798049(CN,A)
【文献】中国実用新案第211554252(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第113281661(CN,A)
【文献】特開2008-267962(JP,A)
【文献】実開昭61-091123(JP,U)
【文献】特開2017-015659(JP,A)
【文献】特開2009-087600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G01R 31/36-31/396
G01F 1/00
G01F 1/34- 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向の両端に第1開口部および第2開口部を有し、電池から噴出する噴出物の
噴出方向に流路を形成する
ように配置される筒状部材と、
上記流路に配設されている差圧測定部を含む流量算出手段と
を備える流量算出装置。
【請求項2】
電池が噴出物を噴出する噴出部を有し、上記第1開口部が上記噴出部に直接接続されている請求項
1に記載の流量算出装置。
【請求項3】
長手方向の両端に第1開口部および第2開口部を有し、電池から噴出する噴出物の流路を形成する筒状部材と、
上記流路に配設されている差圧測定部を含む流量算出手段と、
電池を収容するケーシングと
を備え、
上記ケーシングが、電池を隙間なく収容する流量算出装置。
【請求項4】
長手方向の両端に第1開口部および第2開口部を有し、電池から噴出する噴出物の流路を形成する筒状部材と、
上記流路に配設されている差圧測定部を含む流量算出手段と、
電池を収容するケーシングと
を備え、
上記ケーシングの内面と電池の外面とが密着する流量算出装置。
【請求項5】
上記ケーシングが、上記第1開口部と接続される接続部を有する請求項
3または請求項
4に記載の流量算出装置。
【請求項6】
上記流路が上記噴出物の単一の流路を構成し、上記噴出物の全量が上記流路に導入される請求項1
から請求項4のいずれか1項に記載の流量算出装置。
【請求項7】
上記噴出物を捕集する捕集部材が上記第2開口部に接続されている請求項1
から請求項
4のいずれか1項に記載の流量算出装置。
【請求項8】
長手方向の両端に第1開口部および第2開口部を有する筒状部材に差圧測定部を配設する工程と、
電池から噴出する噴出物の噴出方向に上記筒状部材が流路を形成するように上記差圧測定部が配設された上記筒状部材の第1開口部を電池に向けて配置する工程と、
上記電池を発熱させ、または
上記電池を加熱して温度を上昇
させる工程と、
温度が上昇した
上記電池から噴出する噴出物の差圧を上記差圧測定部で測定する工程と、
測定した差圧から上記噴出物の流量を算出する工程と
を備える流量算出方法。
【請求項9】
長手方向の両端に第1開口部および第2開口部を有する筒状部材に差圧測定部を配設する工程と、
電池との間に隙間が形成されないように上記電池をケーシングに収容する工程と、
上記差圧測定部が配設された上記筒状部材の第1開口部を上記電池に向けて上記ケーシングに配置する工程と、
上記電池を発熱させ、または上記電池を加熱して温度を上昇させる工程と、
温度が上昇した上記電池から噴出する噴出物の差圧を上記差圧測定部で測定する工程と、
測定した差圧から上記噴出物の流量を算出する工程と
を備える流量算出方法。
【請求項10】
上記噴出物を捕集する捕集部材を上記第2開口部に接続する工程をさらに備える
請求項8または請求項9に記載の流量算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、流量算出装置および流量算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用端末、自動車、再生可能エネルギーなど、多分野で電池の利用が増大している。電池は、使用環境、使用状況によって発熱し、この発熱による熱の制御が不能になって内容物を噴出することがある(熱暴走ともいわれる)。このような熱暴走が起きた際でも安全性が確保されるよう、電池の熱暴走によるシミュレーションが行われている。このシミュレーションにおける重要なパラメータの一つに、噴出された内容物(噴出物)の流量がある。この噴出物の流量を求める方法として、非特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Gongquan Wang、 Depeng Kong、 Ping Ping、 Jennifer Wen、 Xiaoqin He、 Hengle Zhao、 Xu He、 Rongqi Peng、 Yue Zhang、 Xinyi Dai、「Revealing particle venting of lithium-ion batteries during thermal runaway: A multi-scale model toward multiphase process」eTransportation 16 (2023) 100237、p.1-20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1では、蓄電池の安全弁に整流部を設け、この整流部に近接するように配設したピトー管で噴出物の差圧を測定し、この噴出物の流量を算出している。上記整流部を通過した噴出物は急激に拡散するため、非特許文献1の測定方法では上記差圧の高精度な測定ができず、上記噴出物の正確な流量を求めることが困難になるおそれがある。
【0005】
上述のような事情を鑑み、本開示は、電池から噴出する噴出物の流量を精度よく求めることができる流量算出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本開示の一態様に係る流量算出装置は、長手方向の両端に第1開口部および第2開口部を有し、電池から噴出する噴出物の流路を形成する筒状部材と、上記流路に配設されている差圧測定部を含む流量算出手段とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様に係る流量算出装置は、電池から噴出する噴出物の流量を精度よく求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る流量算出装置と電池とを示す模式的正面図である。
【
図2】
図2は、
図1の流量算出装置とは異なる流量算出装置を示す模式的正面図である。
【
図3】
図3は、
図2の流量算出装置におけるケーシングの模式的分解平面図である。
【
図6】
図6は、
図3および
図4におけるケーシングの第1側部の模式的正面図である。
【
図7】
図7は、
図3および
図4におけるケーシングの第2側部の模式的背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0010】
(1)本開示の一態様に係る流量算出装置は、長手方向の両端に第1開口部および第2開口部を有し、電池から噴出する噴出物の流路を形成する筒状部材と、上記流路に配設されている差圧測定部を含む流量算出手段とを備える。
【0011】
当該流量算出装置は、電池から噴出する噴出物の流路を形成する筒状部材と、上記流路に配設されている差圧測定部とを備えているため、上記噴出物を拡散させることなく、その差圧を測定することができる。このため、当該流量算出装置は、上記噴出物の差圧を精度よく測定することができ、ひいては噴出している上記噴出物の流量を精度よく算出することができる。
【0012】
(2)上記(1)において、上記流路が上記噴出物の単一の流路を構成し、上記噴出物の全量が上記流路に導入されていてもよい。このようにすることで、上記差圧をより精度よく測定することができる。
【0013】
(3)上記(1)または上記(2)において、電池が噴出物を噴出する噴出部を有し、上記第1開口部が上記噴出部に直接接続されていてもよい。このようにすることで、上記差圧をさらに精度よく測定することができる。
【0014】
(4)上記(1)または上記(2)において、電池を収容するケーシングをさらに備え、上記ケーシングが、上記第1開口部と接続される接続部を有していてもよい。このようにすることで、上記差圧の測定の精度および容易性を向上することができる。
【0015】
(5)上記(1)から上記(4)のいずれかにおいて、上記噴出物を捕集する捕集部材が上記第2開口部に接続されていてもよい。このようにすることで、上記噴出物を容易に捕集することができる。
【0016】
(6)上記(1)から上記(5)のいずれかにおいて、上記差圧測定部がピトー管またはオリフィスを含んでいてもよい。このようにすることで、上記差圧の測定の容易性をより向上することができる。
【0017】
(7)上記(6)において、上記ピトー管がウエスタン型であってもよい。ウエスタン型のピトー管を用いることで、上記差圧の測定の精度をより向上することができる。
【0018】
(8)本開示の別の一態様に係る流量算出装置は、長手方向の両端に第1開口部および第2開口部を有し、電池から噴出する噴出物の流路を形成する筒状部材と、上記流路に配設されている差圧測定部を含む流量算出手段と、電池を収容し、上記第1開口部と接続される接続部を有するケーシングと、上記第2開口部に接続され、上記噴出物を捕集する捕集部材とを備える。
【0019】
当該流量算出装置は、電池から噴出する噴出物の流路を形成する筒状部材と、上記流路に配設されている差圧測定部とを備えているため、上記噴出物を拡散させることなく、その差圧を測定することができる。このため、当該流量算出装置は、上記噴出物の差圧を精度よく測定することができ、ひいては噴出している上記噴出物の流量を精度よく算出することができる。また、当該流量算出装置は、電池を収容するケーシングを備えるため、上記差圧の測定の精度および容易性を向上することができる。さらに、当該流量算出装置は、上記噴出物を捕集する捕集部材を備えるため、上記噴出物を容易に捕集することができる。
【0020】
(9)本開示の一態様に係る流量算出方法は、長手方向の両端に第1開口部および第2開口部を有する筒状部材に差圧測定部を配設する工程と、上記差圧測定部が配設された上記筒状部材の第1開口部を電池に向けて配置する工程と、上記電池を発熱させ、または電池を加熱して温度を上昇する工程と、温度が上昇した電池から噴出する噴出物の差圧を、上記差圧測定部で測定する工程と、測定した差圧から上記噴出物の流量を算出する工程とを備える。
【0021】
当該流量算出方法は、筒状部材が形成している流路内を通過する噴出物の差圧を差圧測定部で測定しているため、上記噴出物を拡散させることなく高精度に測定することができる。このため、上記噴出物の流量を精度よく求めることができる。
【0022】
(10)上記(9)において、上記噴出物を捕集する捕集部材を上記第2開口部に接続する工程をさらに備えてもよい。このようにすることで、上記噴出物を容易に捕集することができる。
【0023】
なお、「流量」とは、体積流量[L/s]を意味する。
【0024】
[発明を実施するための形態の詳細]
以下、図面を参照しつつ、本開示の実施の形態を詳説する。
【0025】
<流量算出装置>
図1に当該流量算出装置100を示す。
【0026】
〔第一実施形態〕
当該流量算出装置100は、長手方向の両端に第1開口部111および第2開口部112を有し、電池Bから噴出する噴出物の流路113を形成する筒状部材110と、流路113に配設されている差圧測定部を含む流量算出手段とを備えている。本実施形態の流量算出装置100は、上記噴出物の温度を測定する温度計Tと、上記噴出物を捕集する捕集部材130とを備えている。本実施形態では、流路113を通過する上記噴出物の差圧を測定する差圧測定部として、ピトー管120を用いている。
【0027】
電池Bとしては、熱暴走によって内容物を噴出(解放)させるものであれば特に限定されるものでなく、例えばリチウムイオン電池などの蓄電池が挙げられる。また、電池Bは、略直方体状あるいは円筒状などの筐体を有するものであってもよいし、シート状部材をラミネートして袋状に形成されたものであってもよい。上記内容物(噴出物)は、主に気体(蒸気)であり、液体、固体(粒子状物)が含まれる。上記気体としては、例えば酸化炭素、可燃性ガスなどが含まれる。本実施形態の電池Bは、略直方体状の筐体を有し、一面(天面)に設けられている一対の電極B1,B2間に噴出物を噴出させるための噴出部(安全弁)が形成されている。
【0028】
筒状部材110は、上記噴出物の流路113を形成する。すなわち、上記安全弁から噴出した上記噴出物は筒状部材110の内部空間を通過する。長手方向で両端が開口している筒状部材110は、一方の開口である第1開口部111が電池Bの安全弁に向けて配置され、他方の開口である第2開口部112に捕集部材130が接続されている。
【0029】
流路113は、上記噴出物の単一の流路として構成され、上記噴出物の全量が導入されることが好ましい。すなわち、上記噴出物が通過するための他の流路、上記噴出物が筒状部材110外に漏出する孔などが設けられず、上記噴出物の全量が筒状部材110内を通過するように形成されていることが好ましい。また、第1開口部111は、上記安全弁に直接接続されていることが好ましい。具体的には、第1開口部111は、上記安全弁が形成されている電池Bの上記天面に密着し、かつ平面視で第1開口部111内に上記安全弁が収まるように配置されることが好ましい。このようにすることで、流路113における上記噴出物の全量が通過する確実性を向上することができ、ピトー管120による上記噴出物の差圧(動圧)の測定精度を向上することができる。
【0030】
筒状部材110の材質としては、噴出する上記噴出物の熱、圧力などに耐えられるものであれば特に限定されるものではなく、金属、樹脂などを用いることができる。また、筒状部材110の内径としては、上記安全弁を収めることができれば特に限定されるものではない。筒状部材110の全長としては、特に限定されるものではなく、電池Bの容量、ピトー管120の配置などに応じて適宜選択することができる。筒状部材110としては、JIS G3452:2019などで規格されている鋼管を用いてもよく、例えば、電池Bが50Ah以下の蓄電池であれば10A以上25A以下の鋼管を用いて、電池Bが50Ah超の蓄電池であれば25A超の鋼管を用いてもよい。
【0031】
ピトー管120は、流路113内で先端の開口を上記安全弁に向けて配置されている。ピトー管120としては、特に限定されるものではないが、上記噴出物による上記先端の開口の詰まりを抑制できるウエスタン型であることが好ましい。
【0032】
ピトー管120が配設される位置(安全からの距離)としては、特に限定されるものでなく、電池Bの容量、流路113の径(筒状部材110の内径)などに応じて適宜選択されてもよく、例えば、上記安全弁から上記先端の開口までの距離が、流路113の径の5倍以上10倍以下となるようにしてもよく、7倍以上9倍以下となるようにしてもよい。
【0033】
ピトー管120で測定した流路113における上記噴出物の通過による差圧から流速を求めることができる。この流速は、後述する流量算出手段で算出してもよい。具体的には、下記式(1)用いて流速S
1を算出する。
【数1】
ここで、C
1はピトー管係数であり、Pdはピトー管120で測定した差圧であり、ρは上記噴出物の密度(流体密度)[kg/m
3]である。
【0034】
上記流体密度ρは、過去の試験などで得た数値を用いてもよいが、本実施形態の流量算出装置100は上記噴出物を捕集する捕集部材130を備えるため、捕集した上記噴出物を分析して得た平均分子量Mから求めた流体密度ρを用いるとよい。
【0035】
流量算出手段(不図示)は、上記式(1)で求めた流速S1を用いて上記噴出物の流量を算出する。具体的には、上記流量算出手段は、下記式(2)を用いて、上記噴出物の流量Q[L/s]を算出する。上記流量算出手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、パーソナルコンピータである。
Q = A × S1 ・・・・(2)
ここで、Aは流路113の断面積[m2]である。
【0036】
流路113には、ピトー管120に換えてオリフィスが配設されてもよい。具体的には、流量計を準備し、筒状部材110内にオリフィスを配設して、その上流と下流とに上記流量計に通じる連通路を設ける。流量算出手段は、2つの上記流量計が測定した上記オリフィスの上流側と下流側との差圧を下記式(3)に用いることで上記噴出物の流量Q[L/s]を算出することができる。
【数2】
ここで、C
1は上記オリフィスの流量係数であり、A
0は上記オリフィスの孔の断面積[m
2]であり、ΔPは上記オリフィスの上流側と下流側との差圧[Pa]である。
【0037】
温度計Tは、流路113を通過する上記噴出物の温度を測定する。温度計Tは、ピトー管120または上記オリフィスの下流に配設されてもよいが、上流に配設されることが好ましく、上流と下流とに配設されてもよい。温度計Tは、ピトー管120または上記オリフィスに近接して配設されることが好ましい。温度計Tとしては、特に限定されるものでなく、例えば、熱電対を用いることができる。測定した温度は、流量と共に、電池の熱暴走による各種シミュレーションに用いることができる。
【0038】
第2開口部112に接続されている捕集部材130は、流路113を通過した上記噴出物を捕集する。捕集部材130としては、特に限定されるのではなく、箱状部材、袋状部材などであってもよいが、噴出している上記噴出物の圧力損失を低減するため、予め内部空間が形成されていない袋状部材が好ましい。このような袋状部材としては、例えばガス採取袋(ガスバッグ)が挙げられる。
【0039】
捕集された上記噴出物の分析を行うことで上記噴出物の流速および流量をより精度よく算出することができる。具体的には、捕集された上記噴出物を分析して平均分子量を求め、下記式(4)を用いて上記噴出物の実際の密度ρ[kg/m3]を算出し、この流体密度ρを上記式(1)または上記式(3)に用いることで上記流速および上記流量をより精度よく算出することができる。
ρ = (P ×M) / (R × TM) ・・・・(4)
上記式(4)で、Pは大気圧[Pa]であり、Mは上記噴出物の平均分子量であり、Rは気体定数[J/K・kmol]であり、TMは温度計Tで測定した上記噴出物の温度[℃]である。
【0040】
当該流量算出装置100は、ピトー管120またはオリフィスと捕集部材130とを備えるため、ピトー管120またはオリフィスによる上記噴出物の差圧の測定と上記噴出物の捕集とを同時に行うことができる。つまり、上記噴出物の実際の密度(流体密度)を得ることができるため、上記噴出物の流速および流量を精度よく算出することできる。
【0041】
〔第二実施形態〕
図2に、上述の流量算出装置100とは異なる他の実施形態に係る流量算出装置200を示す。上述の流量算出装置100と同一の構成については、同一の符号を用いて説明を省略する。
【0042】
当該流量算出装置200は、筒状部材110と、ピトー管120と、電池Bを収容するケーシング210とを備える。当該流量算出装置200は、ピトー管120に換えてオリフィスを備えてもよい。また、当該流量算出装置200は、筒状部材110に配設される温度計と、筒状部材110の第2開口部112に接続される捕集部材とを備えていてもよい。
【0043】
ケーシング210は、第1開口部111と接続される接続部211を有することが好ましい。このようにすることで、筒状部材110を容易に配置することができ、さらに電池Bの安全弁が噴出する噴出物を筒状部材110に容易に誘導することができる。
【0044】
ケーシング210の材質としては、電池Bの熱暴走に耐えられるものであれば特に限定されるものでなく、例えば金属、樹脂を用いることができる。上記樹脂としては、例えばベークライトが挙げられる。
【0045】
ケーシング210は、電池Bを隙間なく収容するように形成されていることが好ましい。すなわち、ケーシング210の内面と電池Bの外面とが密着するように形成されていることが好ましい。このようにすることで、噴出した上記噴出物がケーシング210内に進入することを抑制でき、ピトー管120または上記オリフィスによる測定の精度が低下することを抑制できる。
【0046】
安全弁を有する電池Bのように、噴出物が噴出する箇所が特定あるいは予測できる電池では、筒状部材110は、電池に直接配置されてもよく、ケーシング210に配置されてもよい。噴出物が噴出する箇所が予測できない電池では、ケーシングに収容し、このケーシングに筒状部材を配置することが好ましい。
【0047】
噴出物の噴出する箇所が予測できない電池であれば、ケーシングと電池との間には隙間が形成されることが好ましい。すなわち、電池の外形(電池の容積)に対してケーシングの電池を収容する空間の容積が大きいことが好ましい。このようにすることで、袋状の電池から噴出した噴出物をケーシングの接続部へ容易に誘導することができる。
【0048】
ケーシング210は、例えば
図3および
図4で示すように、直方体状の電池Bの天面を覆う蓋部212と、電池Bの背面(一方の幅広面)、両側面および底面を覆う第1側部213と、電池Bの正面(他方の幅広面)を覆う第2側部214とを有する。
【0049】
蓋部212には接続部211が形成されている。具体的には、内径が筒状部材110の外径と略同一の穴部分212aが形成され、この穴部分212aに筒状部材110が嵌合する。穴部分212aの底面には、蓋部212の下面(電池B側の面)に向かって貫通している安全弁用孔212bが形成されている。この安全弁用孔212bは、上記安全弁から噴出する上記噴出物を流路113に誘導する。平面視における安全弁用孔212bの中心は、上記安全弁の中心および流路113の中心と一致していることが好ましい。
【0050】
蓋部212の下面には、
図5で示すように、電池Bの電極B1,B2との当接を回避するための一対の蓋凹部分212c,212dが形成されている。蓋凹部分212c,212dには、電池Bに給電するための配線(不図示)および電池Bの電圧を測定するための配線(不図示)を挿通するための蓋挿通孔212e,212fが形成されている。蓋部212の下面は、安全弁用孔212bおよび蓋凹部分212c,212d以外の部分で、電池Bの天面、第1側部213の上面(上端)および第2側部214の上面に当接するように形成されていることが好ましい。
【0051】
蓋部212には、上記噴出物がケーシング210内に漏出することを抑制するシーリング材(不図示)を配置するための溝部分が形成されている。具体的には、安全弁用孔212bを取り囲むように形成されている第1溝部分212gと、一対の蓋凹部分212c,212dを取り囲むように形成されている第2溝部分212hとが形成されている。
【0052】
第1側部213は、
図6で示すように、電池Bが載置される底部分213aと、底部分213aに立設し、電池Bの背面を覆う背部分213bおよび両側面を覆う一対の側部分213c,213dとを含む。背部分213bの内面には電池Bを加熱する電熱ヒータ(不図示)を配置するための凹部分213eが形成されている。凹部分213eの近傍には、上記電熱ヒータに給電する配線(不図示)を挿通するための一対のヒータ用挿通孔213f,213gが形成されている。
【0053】
第2側部214は、略板状部材であり、
図7で示すように、第1側部213との接合面にシーリング材(不図示)を配置するための溝部分214aが形成されている。
【0054】
蓋部212、第1側部213および第2側部214は、それぞれが互いにボルト(不図示)などの公知の手段によって固定されるように形成されている。
【0055】
<流量算出方法>
当該流量算出方法は、長手方向の両端に第1開口部111および第2開口部112を有する筒状部材110に差圧測定部を配設する工程と、上記差圧測定部が配設された筒状部材110の第1開口部111を電池Bに向けて配置する工程と、電池Bを発熱させ、または電池Bを加熱して温度を上昇する工程と、温度が上昇した電池Bから噴出する噴出物の差圧を上記差圧測定部で測定する工程と、測定した差圧から上記噴出物の流量を算出する工程とを備える。当該流量算出方法は、上記温度を上昇する工程の前に、上記噴出物を捕集する捕集部材130を第2開口部112に接続する工程を備えることが好ましい。また、当該流量算出方法は、電池Bをケーシング210に収容する工程を備えていてもよい。
【0056】
〔収容する工程〕
収容する工程では、電池Bをケーシング210に収容する。具体的には、まず、蓋部212の第1溝部分212g、第2溝部分212hおよび第2側部214の溝部分214aにシーリング材を配置する。第1側部213の凹部213eに電熱ヒータを配置し、給電用の配線をヒータ用挿通孔213fに挿通する。次に、第1側部213内に電池Bを配置して第2側部214を第1側部213に固定する。続いて、蓋部212の蓋挿通孔212e,212fに電池Bに給電する配線と、電圧測定用の配線とを挿通して電極B1,B2に接続し、蓋部212を第1側部213および第2側部214に固定する。各配線を挿通した上記各挿通孔は、エポキシ樹脂などの充填剤を充填して封止することが好ましい。
【0057】
〔配設する工程〕
配設する工程では、長手方向の両端に第1開口部111および第2開口部112を有する筒状部材110に差圧測定部(ピトー管120)を配設する。配設されるピトー管120はウエスタン型であることが好ましい。ピトー管120は、先端の開口を第1開口部111に向けて配設される。筒状部材110には、温度計Tも配設されることが好ましい。
【0058】
〔配置する工程〕
配置する工程では、ピトー管120(またはオリフィス)が配設された筒状部材110の第1開口部111を電池Bに向けて配置する。すなわち、上記安全弁から噴出する噴出物の流路となるように筒状部材110を配置する。ケーシング210の接続部211(穴部分212a)に第1開口部111を嵌合することで筒状部材110が配置されることが好ましい。電池Bがケーシング210に収容されていない場合は、第1開口部111が上記安全弁に直接接続されるように筒状部材110を配置することが好ましい。
【0059】
〔接続する工程〕
接続する工程では、上記噴出物を捕集する捕集部材130を第2開口部112に接続する。具体的には、捕集部材130の開口部を第2開口部112に接続する。捕集部材130の開口部と第2開口部112との間に隙間が形成される場合には、この隙間をテープなどで封止することが好ましい。
【0060】
〔加熱する工程〕
加熱する工程では、電池Bを発熱させ、または電池Bを加熱して温度を上昇する。電池Bの温度を上昇させる方法としては、特に限定されるものでないが、例えば、電池Bに加熱面が当接するように配置されている電熱ヒータに給電して電池Bを加熱してもよいし、過剰な電気を供給して(過剰充電状態にして)発熱させてもよいし、釘などの鋭利な導電材を電池Bに刺して内部で短絡させてもよい。
【0061】
〔算出する工程〕
算出する工程では、加熱された電池Bの安全弁から噴出する噴出物の流量を、ピトー管120(またはオリフィス)で測定した差圧から算出する。具体的には、上記差圧から上記式(1)および上記式(2)(または上記式(3))を用いて上記噴出物の流量を算出する。算出する工程では、同時に、捕集部材130で上記噴出物を捕集することが好ましく、上記式(1)(または上記式(3))で用いられる流体密度ρは、捕集部材130で捕集した上記噴出物を分析して上記式(4)で算出した平均分子量の値を用いることが好ましい。
【0062】
<利点>
当該流量算出装置100,200および当該流量算出方法は、電池Bから噴出する噴出物の流路113を形成する筒状部材111と、流路113に配設されている差圧測定部(ピトー管120またはオリフィス)とを備えているため、上記噴出物を拡散させることなく、その差圧を測定することができる。このため、上記噴出物の流量を精度よく算出することができる。算出した流量は、電池の熱暴走による各種シミュレーション、例えば複数の電池を接続した電池パックの安全性のシミュレーションなどに好適に用いられる。
【0063】
また、筒状部材110の第2開口部112に捕集部材130を接続することで、上記差圧測定部による上記噴出物の測定と上記噴出物の捕集とを同時に行うことができ、上記流量をより精度よく算出することができる。
【0064】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本開示の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載および技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換または追加が可能であり、それらは全て本開示の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0065】
筒状部材に配設されるピトー管は、L型であってもよい。
【0066】
図1および
図2では、略直線状の筒状部材を図示したが、筒状部材は湾曲していてもよく、直線部分と湾曲部分とが組み合わされたものであってもよい。
【0067】
図3、
図4および
図5では、ケーシングの接続部を平面視で略円形に示している。すなわち、筒状部材の横断面が略円形をなしているものとして図示をしている。筒状部材は、流路を形成できるものであれば、その横断面が、円形であることに限定されるものではなく、楕円形、矩形、多角形などであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本開示の流量算出装置および流量算出方法は、電池から噴出する噴出物の流量を精度よく求めることができ、算出した流量は、電池の熱暴走による各種シミュレーション、例えば、複数の電池を接続した電池パックの安全性のシミュレーションなどに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0069】
100,200 流量算出装置
110 筒状部材
111 第1開口部
112 第2開口部
113 流路
120 ピトー管
130 捕集部材
210 ケーシング
211 接続部
212 蓋部
212a 穴部分
212b 安全弁用孔
212c,212d 蓋凹部分
212e,212f 蓋挿通孔
212g 第1溝部分
212h 第2溝部分
213 第1側部
213a 底部分
213b 背部分
213c,213d 側部分
213e 凹部分
213f,213g ヒータ用挿通孔
214 第2側部
214a 溝部分
B 電池
B1,B2 電極
T 温度計
【要約】
【課題】本開示は、電池から噴出する噴出物の流量を精度よく求めることができる流量算出装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示の一態様に係る流量算出装置は、長手方向の両端に第1開口部および第2開口部を有し、電池から噴出する噴出物の流路を形成する筒状部材と、上記流路に配設されている差圧測定部を含む流量算出手段とを備える。
【選択図】
図1