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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】積層塗膜の形成方法および中塗り用塗料
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20240206BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20240206BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240206BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20240206BHJP
   E04F 13/02 20060101ALI20240206BHJP
   E04F 13/08 20060101ALI20240206BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240206BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240206BHJP
【FI】
B05D1/36 Z
B05D7/00 L
B05D7/24 303A
B05D3/00 D
E04F13/02 A
E04F13/02 K
E04F13/08 Y
C09D201/00
C09D7/61
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019203601
(22)【出願日】2019-11-09
(65)【公開番号】P2021074678
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】390018717
【氏名又は名称】旭化成建材株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592084071
【氏名又は名称】大橋化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129104
【弁理士】
【氏名又は名称】舩曵 崇章
(72)【発明者】
【氏名】朝野 泰伸
(72)【発明者】
【氏名】中間 康博
(72)【発明者】
【氏名】安田 裕俊
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-218915(JP,A)
【文献】特開2005-188183(JP,A)
【文献】特開2006-070688(JP,A)
【文献】特開2001-293435(JP,A)
【文献】特開昭63-107778(JP,A)
【文献】米国特許第04761312(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
E04F 13/00-13/30
B32B 1/00-43/00
C09D 1/00-10/00
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外壁などの被塗装面の表面に下塗り用塗料を塗布して成膜する下塗り塗膜成膜工程と、
この下塗り塗膜成膜工程によって成膜された下塗り塗膜の表面に、中塗り用塗料を塗布して成膜する中塗り塗膜成膜工程と、
この中塗り塗膜成膜工程によって成膜された中塗り塗膜の表面に、上塗り用塗料を塗布して成膜する上塗り塗膜成膜工程と、を備えており、
前記下塗り用塗料、前記中塗り用塗料および前記上塗り用塗料は、それぞれ骨材を含み、
前記中塗り用塗料は、前記下塗り用塗料および前記上塗り用塗料のうち、より多くの骨材を含む塗料と、同量以上の骨材を含み、
前記骨材は、
炭酸カルシウム、寒水石または珪砂であり、
前記下塗り用塗料は、
前記下塗り用塗料100重量%中に、
エマルション樹脂の固形分である樹脂成分を8~17重量%と、
骨材を45~65重量%と、を含んでおり、
前記中塗り用塗料は、
前記中塗り用塗料100重量%中に、
エマルション樹脂の固形分である樹脂成分を6~13重量%と、
骨材を55~75重量%と、を含んでおり、前記中塗り用塗料に含まれる前記骨材のうち700μm以上の粒子径のものが2.5~7.5重量%を占めており、
前記上塗り用塗料は、
前記上塗り用塗料100重量%中に、
エマルション樹脂の固形分である樹脂成分を8~17重量%と、
骨材を45~65重量%と、を含んでいる、
積層塗膜の形成方法であって、
前記下塗り用塗料は、
前記下塗り用塗料100重量%中に、
平均粒子径18~26μmの骨材を、4.5~9.0重量%と、
平均粒子径90~130μmの骨材を、20~45重量%と、
平均粒子径250~290μmの骨材を、4.5~9.0重量%と、
平均粒子径350~450μmの骨材を、4.5~9.0重量%と、を含んでおり、
前記上塗り用塗料と前記下塗り用塗料は同じ組成であり、
前記中塗り用塗料は、
前記中塗り用塗料100重量%中に、
樹脂成分を6~13重量%と、
平均粒子径18~26μmの骨材を、3~7重量%と、
平均粒子径90~130μmの骨材を、3~7重量%と、
平均粒子径250~290μmの骨材を、30~60重量%と、
平均粒子径600~800μmの骨材を、7~13重量%と、を含んでいる、
積層塗膜の形成方法。
【請求項2】
前記下塗り用塗料、前記中塗り用塗料および前記上塗り用塗料に含まれる骨材は、炭酸カルシウムである、
請求項1に記載の積層塗膜の形成方法。
【請求項3】
被塗装面が、
隣り合う複数枚のパネルと、
前記隣り合う複数枚のパネルの隙間に充填されたシーリング材からなる目地部と、を有している、
請求項1または請求項2に記載の積層塗膜の形成方法。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載の積層塗膜の形成方法に用いる中塗り用塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層塗膜の形成方法、中塗り用塗料および外壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ALC(軽量気泡コンクリート)やPC(プレキャスト・コンクリート)等の壁パネルは、建物の壁材、床材、屋根材等の建築材料として広く用いられている。このような壁パネルは、パネル同士の継ぎ目(隣り合う複数枚のパネルの隙間)に生じる目地に、通常は、シーリング材を充填した後、全面に仕上げ塗装が施される。仕上げ塗装が複数回行われて積層塗膜が形成されることもある。
【0003】
しかし、仕上げ塗装後においても、シーリング材を充填した目地部分の凹凸が目地模様として残ってしまい、意匠性が損なわれる場合があった。近年では、壁パネルを用いた外壁において、大壁風の平面意匠が望まれていることもあり、目地模様を目立ちにくくして欲しいといった要請は非常に強い。
【0004】
そのため、シーリング材を充填した目地部分の凹凸を少なくするような壁パネルの目地埋め工法などが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には「壁パネル同士を突き合わせた目地に沿って設けられた凹部にシーリング材を充填するシーリング材充填ステップと、前記凹部に充填された前記シーリング材を所定の期間養生させる養生ステップと、養生ステップの後で、前記凹部に目地埋め材を充填する目地埋め材充填ステップと、前記目地埋め材が充填された充填面に仕上げ材を塗布する塗装ステップと、を含む壁パネルの目地埋め工法」が記載されており、これによって「仕上げ材で覆った目地を目立ち難くすることができる」とある。
【0006】
一方、漆喰調の落ち着きのある比較的平坦な仕上がり感を得るための漆喰調の塗料が知られている。
【0007】
例えば、特許文献2には「消石灰或いは炭酸カルシウムのいずれか或いは両成分を総量として40~80重量%含有し、合成樹脂エマルションを樹脂成分が10重量%以下である漆喰調塗材」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014‐145189号公報(請求項1、発明の効果)
【文献】特開2013‐240749号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に記載された目地埋め工法などによって、仕上げ材で覆った目地部分(目地模様)を目立ち難くすることができる。しかしながら、目地模様がほぼわからないようにするためには、非常に大きな骨材(例えば平均粒子径が1.4mm程度の炭酸カルシウム)を多量に配合した仕上げ材を塗布する必要があった。そのため、仕上がり感がゴツゴツしたものとなってしまいがちであった。
【0010】
一方、漆喰調の落ち着きのある比較的平坦な仕上がり感を得たい場合には、仕上げ材として、いわゆる漆喰調の塗料を用いることが考えられる。しかしながら、漆喰調の仕上がり感は得られるものの目地模様が表面に現れてしまうことがあった。このような現象は、漆喰調の塗料を複数回(2~3回)塗布して積層塗膜とした場合には若干緩和されるものの、目地模様を隠すことは難しかった。
【0011】
本発明は、上述の事柄に留意してなされたものであって、目地模様などの下地模様が表面に現れにくい積層塗膜の形成方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、外壁などの被塗装面の表面に下塗り用塗料を塗布して成膜する下塗り塗膜成膜工程と、この下塗り塗膜成膜工程によって成膜された下塗り塗膜の表面に、中塗り用塗料を塗布して成膜する中塗り塗膜成膜工程と、この中塗り塗膜成膜工程によって成膜された中塗り塗膜の表面に、上塗り用塗料を塗布して成膜する上塗り塗膜成膜工程と、を備えており、前記下塗り用塗料、前記中塗り用塗料および前記上塗り用塗料は、それぞれ骨材を含み、前記中塗り用塗料は、前記下塗り用塗料および前記上塗り用塗料のうち、より多くの骨材を含む塗料と、同量以上の骨材を含んでいる、あるいは、前記中塗り用塗料の骨材は、前記下塗り用塗料および前記上塗り用塗料のうち、より大きな粒子径の骨材を含む塗料に含まれる最も大きな粒子径の骨材と、同径以上の粒子径の骨材を含有している、積層塗膜の形成方法とした。
【0013】
この積層塗膜の形成方法によって、目地模様などの下地模様が表面に現れにくい(下地隠蔽力が高い)積層塗膜を形成することができる。
すなわち、前記中塗り用塗料が、前記下塗り用塗料および前記上塗り用塗料のうち、より多くの骨材を含む塗料と、同量以上の骨材を含んでいる、あるいは、前記中塗り用塗料の骨材は、前記下塗り用塗料および前記上塗り用塗料のうち、より大きな粒子径の骨材を含む塗料に含まれる最も大きな粒子径の骨材と、同径以上の粒子径の骨材を含有していることによって、中塗り用塗料によって成膜される層が厚みを増すとともに隠蔽力が高まり、目地模様などの下地模様が表面に現れにくくなる。
ここで、前記中塗り用塗料は、前記下塗り用塗料および前記上塗り用塗料よりも多くの骨材を含んでいる、あるいは、前記中塗り用塗料の骨材は、前記下塗り用塗料の骨材および前記上塗り用塗料の骨材よりも大きな粒子径の骨材を含有している、積層塗膜の形成方法とすることができる。
【0014】
また、上記課題を解決するために、外壁などの被塗装面の表面に下塗り用塗料を塗布して成膜する下塗り塗膜成膜工程と、この下塗り塗膜成膜工程によって成膜された下塗り塗膜の表面に、中塗り用塗料を塗布して成膜する中塗り塗膜成膜工程と、この中塗り塗膜成膜工程によって成膜された中塗り塗膜の表面に、上塗り用塗料を塗布して成膜する上塗り塗膜成膜工程と、を備えており、前記下塗り用塗料、前記中塗り用塗料および前記上塗り用塗料は、それぞれ骨材を含み、前記中塗り用塗料は、前記下塗り用塗料および前記上塗り用塗料よりも多くの骨材を含むとともに、前記中塗り用塗料の骨材は、前記下塗り用塗料の骨材および前記上塗り用塗料の骨材よりも大きな粒子径の骨材を含有している、積層塗膜の形成方法とすることもできる。
【0015】
この積層塗膜の形成方法によって、より一層、目地模様などの下地模様が表面に現れにくい(下地隠蔽力が高い)積層塗膜を形成することができる。
すなわち、中塗り用塗料が、下塗り用塗料および上塗り用塗料よりも多くの骨材を含むとともに、中塗り用塗料の骨材が、下塗り用塗料の骨材および上塗り用塗料の骨材よりも大きな粒子径の骨材を含有していることで、中塗り用塗料によって成膜される層が厚みを増すとともに隠蔽力が高まり、一層、目地模様などの下地模様が表面に現れにくくなるのである。
また、このような中塗り用塗料を被塗装面に直接塗布した場合、多くの骨材が配合されているため、耐候性や密着性が十分確保できないことも考えられる。しかしながら、中塗り用塗料で下地隠蔽力を強化しつつ、下塗り用塗料で密着性や耐候性を確保し、上塗り用塗料で耐候性や意匠性を確保することで、積層塗膜として要求特性を実現しているのである。
このようなこともあり、中塗り用塗料、下塗り用塗料および上塗り用塗料に用いられる樹脂は、同種の樹脂であることが好ましい。
これら積層塗膜の形成方法において、下塗り用塗料、中塗り用塗料および上塗り用塗料は、骨材に加えて顔料を含むことが好ましい。顔料としては、例えば、着色顔料を用いることができる。
【0016】
ここで、下塗り用塗料、中塗り用塗料および上塗り用塗料に含まれる骨材は、炭酸カルシウムである、積層塗膜の形成方法とすることができる。
【0017】
炭酸カルシウムは、漆喰調の塗膜を形成するのに好適である。
【0018】
上塗り用塗料は、樹脂成分を8~17重量%と、骨材を45~65重量%と、を含んでいる、積層塗膜の形成方法とすることが好ましい。
【0019】
この上塗り用塗料も、漆喰調の塗膜を形成するのに好適である。
【0020】
中塗り用塗料は、樹脂成分を6~13重量%と、骨材を55~75重量%と、を含んでおり、骨材のうち700μm以上の粒子径のものが2.5~7.5重量%を占める、積層塗膜の形成方法とすることも好ましい。
より具体的には、中塗り用塗料は、樹脂成分を6~13重量%と、平均粒子径18~26μmの骨材を、3~7重量%と、平均粒子径90~130μmの骨材を、3~7重量%と、平均粒子径250~290μmの骨材を、30~60重量%と、平均粒子径600~800μmの骨材を、7~13重量%と、を含んでいる、積層塗膜の形成方法とすることが好ましい。
【0021】
この中塗り用塗料は、十分な成膜厚みと隠蔽力を確保することができ、より一層、目地模様などの下地模様が表面に現れにくくなる。
【0022】
下塗り用塗料と上塗り用塗料が同じ組成である、積層塗膜の形成方法とすることも好ましい。
【0023】
上塗り用塗料は、漆喰調で意匠性に優れるほか、中塗り用塗料と比較して骨材の含有量が少ない場合など、耐候性に優れる。また、下地との密着性も高い。そのため、上塗り用塗料を下塗り用塗料として用いることができ、これによって、トータルの塗料コストが低減される。
【0024】
被塗装面が、隣り合う複数枚のパネルと、前記隣り合う複数枚のパネルの隙間に充填されたシーリング材からなる目地部と、を有している、積層塗膜の形成方法とすることも好ましい。
【0025】
下塗り用塗料、中塗り用塗料および上塗り用塗料を用いて形成される積層塗膜は、密着性や耐候性などを確保しつつ、目地模様などの下地模様が表面に現れにくいため、上記被塗装面に対して好適に用いられる。
【0026】
上記積層塗膜の形成方法に用いる中塗り用塗料としては、樹脂成分を6~13重量%と、骨材を55~75重量%と、を含み、骨材のうち700μm以上の粒子径のものが2.5~7.5重量%を占めるものが好適に用いられる。
より具体的には、樹脂成分を6~13重量%と、平均粒子径18~26μmの骨材を、3~7重量%と、平均粒子径90~130μmの骨材を、3~7重量%と、平均粒子径250~290μmの骨材を、30~60重量%と、平均粒子径600~800μmの骨材を、7~13重量%と、を含んでいるものが好適に用いられる。
【0027】
また、上記課題は、外壁の被塗装面の表面に下塗り用塗料を塗布して成膜した下塗り塗膜と、この下塗り塗膜の表面に、中塗り用塗料を塗布して成膜した中塗り塗膜と、この中塗り塗膜の表面に、上塗り用塗料を塗布して成膜した上塗り塗膜と、を備えており、前記下塗り用塗料、前記中塗り用塗料および前記上塗り用塗料は、それぞれ骨材を含み、前記中塗り用塗料は、前記下塗り用塗料および前記上塗り用塗料のうち、より多くの骨材を含む塗料と、同量以上の骨材を含んでいる、あるいは、前記中塗り用塗料の骨材は、前記下塗り用塗料および前記上塗り用塗料のうち、より大きな粒子径の骨材を含む塗料に含まれる最も大きな粒子径の骨材と、同径以上の粒子径の骨材を含有している、外壁構造によっても解決される。
すなわち、前記中塗り塗膜は、前記下塗り塗膜および前記上塗り塗膜のうち、より多くの骨材を含む塗膜と、同量以上の骨材を含んでいる、あるいは、前記中塗り塗膜の骨材は、前記下塗り塗膜および前記上塗り塗膜のうち、より大きな粒子径の骨材を含む塗膜に含まれる最も大きな粒子径の骨材と、同径以上の粒子径の骨材を含有している、こととなる。
ここで、前記中塗り塗膜は、前記下塗り塗膜および前記上塗り塗膜よりも多くの骨材を含んでいる、あるいは、前記中塗り塗膜の骨材は、前記下塗り塗膜の骨材および前記上塗り塗膜の骨材よりも大きな粒子径の骨材を含有している、外壁構造とすることができる。
また、前記中塗り塗膜は、前記下塗り塗膜および前記上塗り塗膜よりも多くの骨材を含むとともに、前記中塗り塗膜の骨材は、前記下塗り塗膜の骨材および前記上塗り塗膜の骨材よりも大きな粒子径の骨材を含有している、外壁構造とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、目地模様などの下地模様が表面に現れにくい積層塗膜の形成方法などを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を例示説明する。積層塗膜の形成方法は、下塗り塗膜成膜工程と、中塗り塗膜成膜工程と、上塗り塗膜成膜工程と、を備えている。以降、工程毎に詳説するが、本発明は以下の実施形態などに限定されるものではない。
なお、本明細書において「平均粒子径」は、重量累積粒度分布の50%径であり、粒度分布の測定には、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装株式会社製 HRAマイクロトラック)を用いた。
【0030】
[下塗り塗膜成膜工程]
下塗り塗膜成膜工程は、外壁などの被塗装面の表面に下塗り用塗料を塗布して成膜する工程である。
【0031】
下塗り用塗料が塗布される被塗装面は、特に限定されないが、ALCなどの壁パネルを張って、パネル同士の継ぎ目に生じる目地部分にシーリング材などを充填した構成を有するものが好適である。本発明の積層塗膜によって、壁パネル間に生じる目地模様を目立ち難くすることができる。
【0032】
1.顔料
下塗り用塗料は顔料を含むことが好ましい。顔料としては、例えば、酸化チタン、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄(酸化第二鉄:ベンガラ)、フタロシアニンブルー、オーカー、群青、カーボンブラックなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。白色漆喰調の下塗り用塗料とする場合には、白色顔料としての酸化チタンを用いる場合が多い。
【0033】
2.骨材
また、下塗り用塗料は骨材を含む。骨材としては、例えば、寒水石、珪砂、炭酸カルシウムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なかでも、骨材として炭酸カルシウムを用いることが好ましい。
下塗り用塗料は、骨材を45~65重量%含むことが好ましく、骨材を50~60重量%含むことがより好ましく、骨材を52~56重量%含むことが最も好ましい。
【0034】
下塗り用塗料に含まれる骨材について、例えば、平均粒子径18~26μmの骨材、平均粒子径90~130μmの骨材、平均粒子径250~290μmの骨材、平均粒子径350~450μmの骨材を単独又は適宜組み合わせて用いることができる。
より具体的には、平均粒子径18~26μmの骨材を、4.5~9.0重量%、平均粒子径90~130μmの骨材を、20~45重量%、平均粒子径250~290μmの骨材を、4.5~9.0重量%、平均粒子径350~450μmの骨材を、4.5~9.0重量%用いることができる。
【0035】
なお、後述するように、下塗り用塗料に含まれる骨材よりも大きな粒子径の骨材が、中塗り用塗料の骨材の一部に含まれていることが好ましい。
【0036】
3.樹脂成分
下塗り用塗料の樹脂成分は、特に限定されない。例えば、アクリル樹脂、エチレン‐アクリル樹脂、酢酸ビニル‐アクリル樹脂、スチレン‐アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、ウレタン‐アクリル樹脂、シリコン‐アクリル樹脂等公知の合成樹脂を用いることができる。なかでも、耐候性の面から、アクリルシリコーン系樹脂を用いることが好ましい。例えば、アクリルシリコーン樹脂やセラミック変性アクリルシリコーン樹脂は好適である。
【0037】
下塗り用塗料の樹脂成分は、水の中に樹脂を微粒子にして重合した合成樹脂エマルションの形態で用いることが好ましい。アクリルシリコーン樹脂エマルションとして、例えば、旭化成株式会社製「ポリデュレックスG‐624」が挙げられる。
下塗り用塗料は、樹脂成分(固形分)を8~17重量%含むことが好ましく、樹脂成分を10~15重量%含むことがより好ましい。
【0038】
下塗り用塗料と後述する上塗り用塗料は同じ組成とすることができる。すなわち、後述する上塗り用塗料を下塗り用塗料として用いることができる。
【0039】
4.塗布方法など
被塗装面の表面に下塗り用塗料を塗布する方法は特に限定されない。例えば、吹き付け塗装やローラー塗装で塗布することができる。下塗り用塗料を塗布した後、塗料が乾燥しないうちに、コテなどを用いて表面を平滑に押えることが好ましい。下塗り用塗料を塗布などした後、乾燥させて成膜する。成膜後は、中一日程度の養生期間を設けることが好ましい。
以下、次工程の中塗り塗膜成膜工程について説明する。
【0040】
[中塗り塗膜成膜工程]
中塗り塗膜成膜工程は、前記下塗り塗膜成膜工程によって成膜された下塗り塗膜の表面に、中塗り用塗料を塗布して成膜する工程である。中塗り塗膜成膜工程では、骨材を比較的多く含んでおり、しかも、粒子径の大きな骨材を含有する中塗り用塗料を塗布することが好ましい。これによって、目地模様などの下地模様が表面に現れにくくなる。
【0041】
1.顔料
中塗り用塗料は顔料を含むことが好ましい。顔料としては、下塗り用塗料と同様、特に限定されない。白色の中塗り用塗料とする場合には、白色顔料としての酸化チタンを用いる場合が多い。
【0042】
2.骨材
また、中塗り用塗料は骨材を含む。骨材としては、下塗り用塗料と同様、特に限定されないが、炭酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0043】
中塗り用塗料は、前述した下塗り用塗料や後述する上塗り用塗料よりも多くの骨材を含むことが好ましい。この条件のもと、中塗り用塗料は、骨材を55~75重量%含むことが好ましく、骨材を60~70重量%含むことがより好ましく、骨材を62~68重量%含むことが最も好ましい。
【0044】
さらに、中塗り用塗料は、前述した下塗り用塗料や後述する上塗り用塗料よりも大きな粒子径の骨材を含有していることが好ましい。中塗り用塗料は、骨材のうち700μm以上の大きな粒子径のものが、中塗り用塗料中の2.5~7.5重量%を占めることが好ましい。
より詳細には、中塗り用塗料は、平均粒子径18~26μmの骨材を、3~7重量%と、平均粒子径90~130μmの骨材を、3~7重量%と、平均粒子径250~290μmの骨材を、30~60重量%と、平均粒子径600~800μmの骨材を、7~13重量%と、を含むことが好ましい。
【0045】
なお、中塗り用塗料について、ベース塗料と現場配合骨材に分けて、上記骨材のうち一部又は全部を作業直前に配合するようにしてもよい。例えば、平均粒子径600~800μmの骨材と平均粒子径250~290μmの骨材の一部または全部を作業直前に配合するようにしてもよい。
【0046】
3.樹脂成分
中塗り用塗料の樹脂成分も特に限定されないが、前記下塗り用塗料と同様、耐候性の面から、アクリルシリコーン系樹脂を用いることが好ましい。アクリルシリコーン樹脂やセラミック変性アクリルシリコーン樹脂は好適である。
【0047】
4.塗布方法など
中塗り用塗料の樹脂成分も、前記下塗り用塗料と同様、合成樹脂エマルションの形態で用いることが好ましい。
中塗り用塗料は、樹脂成分を6~13重量%含んでいることが好ましく、樹脂成分を7~12重量%含んでいることがより好ましく、樹脂成分を8~11重量%含んでいることが最も好ましい。
【0048】
前記下塗り塗膜成膜工程で成膜された下塗り塗膜の表面に中塗り用塗料を塗布する方法は特に限定されない。例えば、吹き付け塗装やローラー塗装で塗布することができる。中塗り用塗料を塗布した後、塗料が乾燥しないうちに、コテなどを用いて表面を平滑に押えることができる。中塗り用塗料を塗布などした後、乾燥させて成膜する。成膜後は、中二日程度の養生期間を設けることが好ましい。
以下、次工程の上塗り塗膜成膜工程について説明する。
【0049】
[上塗り塗膜成膜工程]
上塗り塗膜成膜工程は、前記中塗り塗膜成膜工程によって成膜された中塗り塗膜の表面に、上塗り用塗料を塗布して成膜する工程である。
【0050】
1.顔料
上塗り用塗料は顔料を含むことが好ましい。顔料としては、下塗り用塗料や中塗り用塗料と同様、特に限定されない。白色漆喰調の上塗り用塗料とする場合には、白色顔料としての酸化チタンを用いる場合が多い。
【0051】
2.骨材
また、上塗り用塗料は骨材を含む。骨材としては、下塗り用塗料や中塗り用塗料と同様、特に限定されないが、漆喰調の塗膜を形成するためには炭酸カルシウムを用いることが好ましい。
上塗り用塗料は、骨材を45~65重量%含むことが好ましく、骨材を50~60重量%含むことがより好ましく、骨材を52~56重量%含むことが最も好ましい。
【0052】
3.樹脂成分
上塗り用塗料の樹脂成分も特に限定されないが、前記下塗り用塗料や前記中塗り用塗料と同様、耐候性の面から、アクリルシリコーン系樹脂を用いることが好ましい。アクリルシリコーン樹脂やセラミック変性アクリルシリコーン樹脂は好適である。
【0053】
上塗り用塗料の樹脂成分も、前記下塗り用塗料や前記中塗り用塗料と同様、合成樹脂エマルションの形態で用いることが好ましい。
上塗り用塗料は、樹脂成分を8~17重量%含むことが好ましく、樹脂成分を10~15重量%含むことがより好ましい。
【0054】
前述した様に、上塗り用塗料と前記下塗り用塗料は同じ組成とすることができる。すなわち、上塗り用塗料を前記下塗り用塗料として用いることができる。
【0055】
4.塗布方法など
前記中塗り塗膜成膜工程で成膜された中塗り塗膜の表面に上塗り用塗料を塗布する方法は特に限定されない。例えば、吹き付け塗装やローラー塗装で塗布することができる。上塗り用塗料を塗布などした後、塗料が乾燥しないうちに、コテなどを用いて表面を平滑に押えることが好ましい。上塗り用塗料を塗布した後、乾燥させて成膜する。
【0056】
前記下塗り塗膜成膜工程と、前記中塗り塗膜成膜工程と、前記上塗り塗膜成膜工程と、を経て、外壁などの被塗装面の表面に積層塗膜が形成される。
【実施例
【0057】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中、量比などは重量に基づく値である。
【0058】
1. 上塗り用塗料、下塗り用塗料および中塗り用塗料の作成
下記表1の配合表に基づき、上塗り用塗料、下塗り用塗料および中塗り用塗料を作成した。エマルション樹脂としては、全ての塗料につて、アクリルシリコーン樹脂エマルション(旭化成株式会社製「ポリデュレックスG‐624」)、骨材としては炭酸カルシウムを用いた。
【0059】
骨材について、具体的には、上塗り用塗料および下塗り用塗料について、平均粒子径22μmの炭酸カルシウム(東洋ファインケミカル株式会社製 ホワイトンH)、平均粒子径110μmの炭酸カルシウム(三共精粉株式会社 炭酸カルシウム粗目)、平均粒子径270μmの炭酸カルシウム(三共精粉株式会社 粒状炭カルK1)、平均粒子径400μmの炭酸カルシウム(三共精粉株式会社 粒状炭カルK2)を用いた。
一方、中塗り用塗料については、平均粒子径22μmの炭酸カルシウム(東洋ファインケミカル株式会社製 ホワイトンH)、平均粒子径110μmの炭酸カルシウム(三共精粉株式会社 炭酸カルシウム粗目)、平均粒子径270μmの炭酸カルシウム(三共精粉株式会社 粒状炭カルK1)、平均粒子径700μmの炭酸カルシウム(三共精粉株式会社 粒状炭カルK3)を用いた。平均粒子径700μmの炭酸カルシウムについて10重量%配合しており、このとき、700μm以上の粒子径の炭酸カルシウムが概ね5重量%となる。
【0060】
なお、本実施例では、表1に示すように、下塗り用塗料と上塗り用塗料を同じ組成とした。
【0061】
また、本実施例では、中塗り用塗料について、ベース塗料と現場配合骨材に分けて、平均粒子径700μmの骨材の全てと、平均粒子径270μmの骨材の概ね9割程度を現場配合骨材とし、作業直前にベース塗料に配合した(平均粒子径270μmの骨材の一部(残部)については、予め、ベース塗料に配合しておいた)。
【0062】
【表1】
【0063】
2. 被塗装面の準備
建物の外壁にALCパネルを張り、目地部分にシーリング材を充填して養生した後、さらに目地埋め材を充填してヘラで平面状に均した。その後、数日間養生して被塗装面とした。
【0064】
3. 積層塗膜の形成
この被塗装面に、前記下塗り用塗料(上塗り用塗料と同一組成)を、スタッコガン(口径8mm)を用いて吹き付け塗装した。塗布量は、概ね1.5Kg/mとした。塗装後、塗料が乾燥しないうちに、ステンレス製のコテを用いて表面を平滑に押えた。その後、乾燥させて成膜し、中一日程度の養生期間を設けて下塗り塗膜を得た。
【0065】
次に、前記下塗り塗膜の表面に前記中塗り用塗料を、タイルガン(口径6.5mm)を用いて吹き付け塗装した。塗布量は、概ね1.5Kg/mとした。塗装後、塗料が乾燥しないうちに、ステンレス製のコテを用いて表面を平滑に押えた。その後、乾燥させて成膜し、中二日程度の養生期間を設けて中塗り塗膜を得た。
【0066】
最後に、前記中塗り塗膜の表面に前記上塗り用塗料を、スタッコガン(口径8mm)を用いて吹き付け塗装した。塗布量は、概ね1.5Kg/mとした。塗装後、塗料が乾燥しないうちに、コテを用いて表面を平滑に押えた。その後、乾燥させて成膜し、下塗り塗膜、中塗り塗膜および上塗り塗膜からなる積層塗膜を得た。
【0067】
上記実施例の積層塗膜について、意匠性、下地隠蔽性、および耐候性を評価した。意匠性、下地隠蔽性は、塗装後の塗装物から3~5m離れて、5~10人で目視確認して評価した。
【0068】
具体的には、評価者の8割以上が良好と判断した場合を○、5割以上8割未満が良好と判断した場合を△、2割以上5割未満が良好と判断した場合を△~×、2割未満が良好と判断した場合を×と評価した。
【0069】
また、耐候性については、JIS K5600-7-7に基づくキセノンウエザーメーター2500時間照射後の色差(ΔE)評価で、ΔE≦3のものを○、3<ΔE≦5を△、5<ΔEを×と評価した。
【0070】
【表2】
【0071】
実施例1は、意匠性、下地隠蔽性、および耐候性の全てにおいて、非常に良好な結果が得られた。
【0072】
比較例1は、実施例1において、中塗り用塗料を塗布していない(下塗り用塗料と上塗り用塗料のみを塗布した)例であり、下地隠蔽性が劣る結果となった。
【0073】
比較例2は、実施例1において、中塗り塗膜を上塗り用塗料で形成した例であり、下地隠蔽性が劣る結果となった。
【0074】
比較例3は、実施例1において、上塗り用塗料を塗布していない例であり、意匠性、耐候性に劣る結果となった。
【0075】
以上、特定の実施形態及び実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態などに限定されるものではなく、当該技術分野における熟練者等により、本出願の願書に添付された特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変更及び修正が可能である。