(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】製氷方法および製氷装置
(51)【国際特許分類】
F25C 1/18 20060101AFI20240206BHJP
【FI】
F25C1/18 A
(21)【出願番号】P 2019207604
(22)【出願日】2019-11-18
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(72)【発明者】
【氏名】上村 靖司
【審査官】関口 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-089251(JP,A)
【文献】特開平06-101943(JP,A)
【文献】特開平01-281382(JP,A)
【文献】特開平11-211296(JP,A)
【文献】特開2015-137833(JP,A)
【文献】特開2000-039241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25C 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液を大気に触れながら静置状態で温める工程と、
前記静置状態で温め
たときの平衡状態となる溶存ガス濃度を維持した前記原料液を密閉状態で予冷する工程と、
前記予冷され
て前記溶存ガス濃度を維持した前記原料液を
容器に充填する工程を有して
前記原料液を製氷装置で凍らせる製氷方法であって、
前記製氷装置は、
上部に開口部を有する
前記容器と、前記開口部を覆う冷却槽と、前記冷却槽の上面又は内部に設けられた冷却装置と、前記容器の内部と連通する緩衝容器とを備え、
前記容器の上縁に載置された前記冷却槽の下板に接するまで充填された前記容器内の前記原料液を単結晶氷に氷結する
ことを特徴とする製氷方法。
【請求項2】
前記静置状態で温める工程は、10℃以上40℃以下で行われることを特徴とする請求項1に記載の製氷方法。
【請求項3】
前記予冷する工程は、2℃以上10℃未満で行われることを特徴とする請求項1または2に記載の製氷方法。
【請求項4】
前記冷却槽の内部を真空とすることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の製氷方法。
【請求項5】
前記冷却槽の内部に水蒸気を含まない気体を封入することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の製氷方法。
【請求項6】
上部に開口部を有し原料液が充填された容器と、
前記開口部を覆い、前記容器の上縁に載置された冷却槽と、
前記冷却槽の上面又は内部に設けられた冷却装置と、
前記容器の内部と連通する緩衝容器とを備え、
前記冷却槽は前記容器に充填された前記原料液に当接する下板を有し、
前記容器に充填された前記原料液は大気に触れながら静置状態で温めた時の平衡状態となる溶存ガス濃度を維持する液であることを特徴とする製氷装置。
【請求項7】
前記冷却槽の内部が真空であることを特徴とする請求項6に記載の製氷装置。
【請求項8】
前記冷却槽の内部に水蒸気を含まない気体が封入されていることを特徴とする請求項6に記載の製氷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製氷方法および製氷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
氷中に不透明な部分ができる主な要因は、原料水中の溶存ガスやミネラル分等の不純物が製氷過程において氷中に封じ込められ白濁することと、目視で確認しうる結晶粒界が存在するためである。従来、この白濁を抑制し透明な氷を製造する方法として、製氷容器を振動させたり、空気を送り込んだりしながら製氷する方法や、製氷する前に溶存ガスを脱気した原料液を用いて製氷する方法がとられてきた。
【0003】
このほか透明な氷を製造する技術としては、密閉型の製氷容器を用いて容器空間を減圧して製氷する技術(例えば、特許文献1参照)や、製氷容器に電位を印加して気泡を収集する技術(例えば、特許文献2参照)等も知られている。
【0004】
原料液を脱気する方法としては、製氷前に原料液を脱気容器にて減圧し脱気した後に使用する方法(例えば、特許文献3参照)や、中空糸膜を用いる方法(例えば、特許文献4参照)等が知られている。
【0005】
これらの方法による原料液の脱気と製氷容器空間を減圧して製氷する技術を組み合わせた製氷方法(例えば、特許文献5参照)も知られている。
【0006】
しかしながら、従来技術で製造される透明な氷は、ほとんどが数mm以下の結晶で構成された多結晶であって、数十mmを超える単結晶粒で構成された氷とはならない。尚、ここでは結晶粒の大きさは等価円直径で示し、等価円直径が30mmを超える結晶粒で構成され粒界が目視で判別できない氷を単結晶氷と呼ぶ。
【0007】
単結晶氷は透明度が高く美しいことから特に飲料用としての商品価値が高い。また、結晶方位が揃った単結晶氷は硬度が高く、気泡が無く結晶粒が大きいと氷解し難いという特性をも有している。このような特性があることから、本出願人は単結晶氷を製造可能な製氷装置を発明し開示した(特許文献6参照)。本出願人はさらに技術を改良し当該技術の詳細を非特許文献1および非特許文献2により開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-243826号公報
【文献】特開2014-66460号公報
【文献】特開2011-202912号公報
【文献】特開2016-217650号公報
【文献】特開平5-332652号公報
【文献】特許第5135576号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】日本雪氷学会誌「雪氷」70巻5号477(2008)
【文献】日本雪氷学会雪氷研究大会(2011・長岡)講演要旨集
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献6に開示される製氷装置を用いれば単結晶氷を製造できるものの、より商品価値を高めるためには、より大きなサイズに製氷することが望まれている。例えば水割り、カクテル、オンザロックなどの飲料用では、その飲料用容器と同等の大きさであることが望まれている。
【0011】
しかしながら、従来技術のように製氷容器を振動させたり、空気を送り込んだりするとコストが高くなりかつ形状にも自由度がなく、氷をカットして使用するカクテル氷等には使えないという問題がある。また、製氷容器を減圧下においたり、脱気装置を用いたりする製氷装置は大型化しコストが上昇する問題がある。更には、従来技術である原料液の減圧脱気やフィルターを使った脱気装置を用いると原料液中の含有成分が変化し、例えば、ミネラル豊富な天然水を原料として使う場合、天然水中のミネラル分も除去されることがあるため、透明な氷を作る観点では有用であっても、味覚の観点からは原料液中の成分を変化させないことも望まれている。
【0012】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、原料液の含有成分を変えることなく、硬度および透明度が高く、飲料用容器と同様の大きさを有するという3つの特性を兼ね備える単結晶氷の製氷方法および製氷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果,以下の構成を具備することで前記の課題を解決することを見いだし,本発明の完成に至った。
【0014】
すなわち、本発明の一の観点に係る製氷方法は、原料液を大気に触れながら静置状態で温める工程と、静置状態で温めたときの平衡状態となる溶存ガス濃度を維持した原料液を密閉状態で予冷する工程と、予冷され溶存ガス濃度を維持した原料液を容器に充填する工程を有して、該原料液を製氷装置で凍らせる製氷方法であって、製氷装置は、上部に開口部を有する容器と、開口部を覆う冷却槽と冷却槽の上面又は内部に設けられた放射冷却装置と、容器の内部と連通する緩衝容器とを備え、容器の上縁に載置された冷却槽の下板に接するまで充填された容器内の前記原料液を単結晶氷に氷結することを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の他の一観点に係る製氷装置は、上部に開口部を有し原料液が充填された容器と、開口部を覆い、容器の上縁に載置された冷却槽と、冷却槽の上面又は内部に設けられた冷却装置と、容器の内部と連通する緩衝容器とを備え、冷却層は容器に充填された原料液に当接する下板を有し、容器に充填された原料液は大気に触れながら静置状態で温めたときの平衡状態となる溶存ガス濃度を維持する液であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
以上、本発明によれば、硬くて透明度が高く、飲料用容器と同様の大きさを有する商品価値の高い単結晶氷を製造できる。また、原料液の含有成分を変えることがないため、微量のミネラル含有量が味覚に影響するような天然水をもそのままの成分で利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例を示す製氷装置の断面図である。
【
図2】本発明の実施例である
図1のA-A矢視図である。
【
図3】本発明の実施例を示す冷却槽及び冷却装置の断面図である。
【
図4】本発明の実施例と理論算出による初気泡析出位置の関係図である。
【
図5】本発明により製造した単結晶氷と従来法による多結晶氷の外観写真と偏向観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例に記載された具体的な例示にのみ限定されるわけではない。
【0019】
図1は、本発明の一の実施形態に係る製氷装置10を示す縦断面図である。
図2は、
図1中のA-A矢視断面図である。
図3は、冷却槽18及び冷却装置21’の縦断面図である。これらの図で示すように、本実施形態に係る製氷装置10は、上部に開口部13を有し原料液11が充填された容器12と、開口部13を覆い、容器12の上縁に載置された冷却槽18と、冷却槽18の上面又は内部に設けられた冷却装置21、21’と、容器12の内部と連通する緩衝容器とを備え、冷却層は容器に充填された原料液に当接する下板を有し、原料液は大気に触れながら静置状態で温めたときの平衡状態となる溶存ガス濃度を維持する液である。
【0020】
(製氷装置:容器)
図1において、氷結させる原料液11を収容する容器12は有底筒状をしており、上部に開口部13を有している。容器12の水平断面形状は矩形としているが、矩形以外の多角形とすることもできるし、単純な円形とすることもできる。容器12の底部近くの側面には孔15が設けられ、該孔15には流路16の一端16aが液密に接続されている。そして、上記流路16の他端16bには緩衝容器17が液密に接続されている。緩衝容器17には、製氷中に原料液11の溶存ガス量を保つために逆止弁を設けてもよい。容器12はステンレス鋼等の金属材料を用いても、ポリエチレン、ポリプロピレンや透明なアクリル樹脂等の非金属材料を用いても製作することが可能であるが、熱伝導率が低い方が好ましく、非金属材料を用いるのが好適である。また、容器12と緩衝容器17及び流路16の材料も同様である。
【0021】
(製氷装置:冷却槽)
容器12の上部の開口部13には箱状の冷却槽18が配設される。
図2に示す冷却槽18は容器12の形状に対応して平面視矩形としているが、円形など他の形状であっても構わない。ここで肝心なことは容器12の上部開口部13全体を冷却槽18で覆うことである。そのため、
図1および
図2で示す製氷装置は、冷却槽18の平面視寸法を容器12の上部開口部13より大きな寸法としている。また、冷却槽18の一部であり冷却装置21に接触する上板19と、冷却槽18の一部であり容器12の上部開口部13に接触する下板20と以外を構成する材料は、容器12と同様の材料を用いることがよい。このことにより周囲から冷却槽18内へ熱が流入するのを極力抑制できる。
【0022】
冷却槽18を構成する上板19および下板20の厚さは、熱移動の効率を高めるという観点からすると極力薄い方が好ましく、冷却槽18の内部を真空にする場合、例えば厚さを1~3mmとすれば、効率的な熱移動と機械的強度を両立できる。また、冷却槽18の内部には水蒸気を含まない気体を封入してもよい。水蒸気は赤外線を吸収し放射伝熱を阻害するため、冷却槽18内の水蒸気濃度を極力抑えることで真空にせずとも大気圧程度の圧力で水蒸気を含まない気体を封入することで冷却槽18内での伝熱は対流伝熱よりも放射伝熱が卓越し、製造コストを抑えながら商品価値の高い単結晶氷を得ることができるといった優れた効果を発揮できる。水蒸気を含まない気体としてはどのようなものでも良く、コストの観点からは乾燥窒素が望ましい。
【0023】
冷却槽18の内部は、真空とすることで冷却効率を高めることができ、低エネルギーで商品価値の高い単結晶氷を製造でき、コストを抑えることができる。なおここで「真空」とは、大気圧よりも低い圧力状態を意味し、赤外線を吸収する気体・水蒸気が限りなく少ない分子流領域の圧力が好ましく、例えば、102Pa以下であればよい。
【0024】
(製氷装置:冷却装置)
冷却槽18の上板19の上には低温熱源としての冷却装置21が載置される。冷却装置21は、冷却槽の上板19に当接され、原料液11に当接する下板20から冷却槽18を介して放射される原料液11の熱を吸収することで、原料液11を冷却・冷凍する。冷却装置21としては、原料液11の凝固点よりも低い温度に到達可能な装置であればどのようなものでも使用できる。また、
図3のように冷却装置21’を冷却槽18内に設置してもよい。この場合、上板19を省くことができるとともに、下板20との距離を短くでき放射による冷却能力を高めることができる。
【0025】
(製氷方法)
ここで、次に、上述した製氷装置10を用いて原料液11から単結晶氷を製造する方法について説明する。ここでは簡便上、原料液11を水111として説明する。具体的に本製氷方法は、原料液を大気に触れながら静置状態で温める工程と、温められた原料液を密閉状態で予冷する工程と、予冷された原料液を製氷装置で凍らせる製氷方法であって、製氷装置は、上部に開口部を有する容器と、開口部を覆う冷却槽と冷却槽の上面又は内部に設けられた放射冷却装置と、容器の内部と連通する緩衝容器とを備え、容器の上縁に載置された冷却槽の下板に接するまで充填された容器内の前記原料液を単結晶氷に氷結することを特徴とするものである。以下具体的に説明する。
【0026】
(製氷手順:脱気)
始めに水111を大気に触れる状態で自然環境下と同じような条件において、静置状態で温める。自然環境下と同じような条件とは、温度はおおよそ10℃以上40℃以下を示し、好ましくは20℃以上30℃以下であり、より好ましくは20℃以上25℃以下のことをいう。合わせて、水と水に触れている大気との温度で、水の蒸発が急激に進行するような大きな差が生じない状態のことをいう。このような操作をする理由は、例えば水111に天然水を用いた場合、天然水は含有するミネラル等の成分含有割合によってヒトの味覚による感じ方が異なることが知られていて、おいしい天然水をおいしいままの状態で氷にするためにはミネラル等の成分含有割合を維持する必要があるからである。すなわち原料液の蒸発を抑制し含有成分を変えることがないため、微量のミネラル含有量が味覚に影響するような天然水をもそのままで氷結できる。
【0027】
液体中の溶存ガス濃度は液体が高温になるほど減少する。従ってより高温環境下に置いた方が水111の溶存ガス濃度を低下させることができるが、この場合、空気の飽和水蒸気量が指数的に増加するため水111の蒸発量も急激に増え、微量成分であるミネラル等の含有割合に変化を与えてしてしまう。そのため自然環境下と同じような条件を保ちながら、できる限り水111中の溶存ガス濃度を低下させるよう温め脱気することが、おいしく感じる単結晶氷を製造するために重要である。
【0028】
(製氷手順:予冷)
水111を大気に触れる状態で自然環境下と同じような条件で温め水111中の溶存ガス濃度を低下させたら、水111を冷やす工程に移る。この段階では、大気中ガスが水111に再溶解しないよう密閉状態で冷却する。ここでの冷却は製氷装置で水111を凍らせる前の予冷であり、この段階では水111が凍らない程度に冷やす。具体的には2℃程度の雰囲気温度下で冷やすことが望ましいが、10℃未満であれば製氷段階に移った直後に気泡が発生するような不具合は生じない。すなわち、この範囲とすることで、氷結時の無駄なエネルギー消費を避け、硬くて透明度が高く、飲料用容器と同様の大きさを有する商品価値の高い単結晶氷を製造できるといった利点がある。
【0029】
(製氷手順:製氷)
製氷装置10の設置される雰囲気温度は、2℃程度にコントロールされることが好ましい。雰囲気温度がこれより多少高くても製氷できなくなることはないが、容器12内の温度と雰囲気温度との温度差が大きくなると、無駄な熱移動が生じてしまい製氷に要する時間が長くなるとともに、余分な電力を消費してしまうというデメリットが生じるからである。一方、氷点下になると多結晶になりやすいため、2℃よりも高い雰囲気温度を維持する必要がある。
【0030】
製氷装置10の運転開始に先立って、容器12内に予冷された水111を充填する。水111は容器12の上部開口部13まで完全に充填することができるよう、容器12の上端部には空気抜きとしての細孔(図示せず)を設けてもよい。このようにして冷却装置21の下板20に水111を完全に接触させ、水111と下板20との間に一切の気泡を入れないことが望ましい。
【0031】
冷却槽の上板19の温度が冷却装置21により、予冷された水111に当接し、水111とほぼ同じ温度となる冷却槽の下板20の温度との間に、例えば-10℃程度よりも低く大きな温度差が生じると、熱移動が起こる。この時、冷却槽18内には乾燥窒素が封入されているときは対流による熱移動が生じるが、冷却槽の上板19もしくは冷却装置21’下面と下板20との間の熱移動は、高温の下板20側から低温の上板19もしくは冷却装置21’下面側への放射による熱移動が卓越する。
【0032】
本実施形態の製氷装置10による製氷は、容器12の上部開口部13からの熱放射により冷却されるものであることから、水111の氷結は容器12の上部開口部13から始まる。あたかも、厳冬期に水を入れた洗面器等を晴れた夜間に屋外に放置しておくと、朝になり洗面器に入れた水の表面が氷結する現象に似ている。
【0033】
なお、製氷装置10に緩衝容器17を設置する目的は、容器12内の水111が氷結する際の体積変化を吸収するためであるが、大気中ガスが水111に再溶解することを抑えるため、緩衝容器17の上部緩衝部31はできる限り小さい面積とし、逆止弁を備えることが望ましい。これにより確実に後述する理論的な気泡析出位置まで透明な氷を製造することができる。
【0034】
(初気泡析出位置)
容器12内の水111の液体体積は、水111が氷結し固体となった分だけ減少する。氷結前後において水111の液体中に溶解しているガスの量が同じであるならば、液体体積の減少に伴い、水111の液体中溶存ガス濃度が上昇する。さらに氷結が進み、水111中の液体中溶存ガス濃度が、氷結温度0℃における飽和溶存ガス濃度よりも高くなると、氷を白濁させる一因である気泡が析出する。
【0035】
ここで理論的な気泡析出位置の算出を試みる。溶存ガスを酸素だけとし、製氷過程において水111中の溶存酸素量に変化がないとして考えた場合、深さd[mm]の容器12内に入っている水111の初期溶存酸素濃度をa[mg/L]とすると、気泡が析出するまで製氷可能な氷の厚さx[mm]は、x=d(1-a/a0)で算出することができる。ここでa0は0℃における飽和溶存酸素量である。
【0036】
この理論計算に基づけば、20℃の水に酸素が飽和状態で溶存している場合でも、200mm深さの容器で約75mm厚の透明な氷を製造でき、容器深さを500mmにすると約190mmの透明な氷を製造することができることになる。
【0037】
本製造方法では、原料液11の成分を維持したまま初期溶存ガス濃度を低下させるため、自然環境下と同じような条件で温め脱気をする。透明な氷を製造する上で、従来技術ではこの程度の脱気では不十分であったが、本実施形態の製氷装置10によれば容器12の深さを十分に確保することで、原料液11中の溶存ガスを必要以上に低下させなくとも、また、原料液11中ミネラル分等を除去しなくとも、所望する厚みを有する透明な氷を製造することができる。
【実施例】
【0038】
ここで、上記実施形態の製氷装置及び製氷方法の効果について実際に確認を行った。以下具体的に説明する。
【0039】
(比較例1)
原料液に水道水を用い、原料水を室温2℃の環境下で1日間静置したのち、製氷装置10で製氷した。製氷装置10には、深さd=240mmで一辺が185mmの直方体の容器12を用いた。ここで製氷装置10の容器12に設置した温度計と溶存酸素計(WA-2017DJ)(図示せず)により、水温および溶存酸素濃度が、2.8℃および11.8mg/Lであることを確認した。この初期溶存酸素濃度から算出される初気泡析出位置は45mmである。冷却装置21の設定温度を-17℃とし製氷を行った結果、42mmで気泡が析出した。
【0040】
(実施例1)
原料液に水道水を用い、室温約10℃の環境下で静置脱気したのち、室温2℃の環境下に設置してある製氷装置10に注入した。この時の水温および溶存酸素濃度は、11.7℃および10.1mg/Lであることを確認した。緩衝容器17の上部緩衝部31で原料水が大気に触れないようにしたまま、おおよそ2℃になるまで放置したのち、冷却装置21の設定温度を-17℃とし製氷を行った。結果、算出される初気泡析出位置が73mmのところ、実際には67mmで気泡が析出した。尚、原料水、温度計、溶存酸素計等の条件は比較例1と同じである。
【0041】
(実施例2)
原料水温を室温約20℃の環境下で静置脱気し、室温2℃の環境下に設置してある製氷装置10に注入した。この時の水温および溶存酸素濃度は、19.2℃および8.8mg/Lであり、実施例1と同様に製氷した結果、算出初気泡析出位置が94mmのところ84mmで気泡が析出した。
【0042】
(実施例3)
室温2℃の環境下に設置してある製氷装置10に脱気した原料水を注入し、水温および溶存酸素濃度が、22.4℃および8.0mg/Lであることを確認した。実施例1と同様に製氷した結果、算出初気泡析出位置が107mmのところ106mmで気泡が析出した。
【0043】
表1は比較例1および実施例1~3における原料液の初期温度T0、初期酸素濃度aおよび初気泡析出位置の理論算出値xと実際に製氷した時の値xrである。
【0044】
【0045】
図3は、比較例1及び実施例1~3の理論算出値xと実測値x
rの関係をプロットした図である。理論算出値は溶存ガスを酸素だけと仮定しているため完全には一致していないが高い相関があることを確認できる。
【0046】
図5は、本実施例により水を氷結させた氷の偏向観察写真であり、30mm以上の単結晶氷が製造できていることが確認できる。
【0047】
以上、本実施例により、本製氷装置及び製氷方法の効果を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
カクテルグラスやロックグラスは飲み口の口径が65~120mm程度のものが多いことから、本発明で製氷できる50mm以上の透明な氷は商品価値が向上する。また、結晶粒界がほとんど無い単結晶氷は氷解しにくく、長時間にわたって飲料の冷たさを維持するとともに、アルコール飲料等にはその濃度を薄めることなく、清涼飲料等には原料液の美味しさを維持でき、さらに一段と商品価値が向上する。これは、例えば冷やした日本酒を飲むとき、従来は冷たさを維持するため間接的に氷等で冷やしていたが、日本酒に直接氷を入れて飲むような、新しい飲料スタイルへの展開が可能となることを示す。さらには結晶粒界が少ないために、炭酸飲料の炭酸の抜けが遅くなることも観察されており、ハイボール等のカクテルにも適用が可能である。
【0049】
このように本発明の製氷方法によれば、硬くて透明度が高く、原料液の含有成分を変えることなく、飲料用容器と同様の大きさを有する商品価値の高い単結晶氷を製造することができる。
【符号の説明】
【0050】
10 製氷装置
11 原料水
111 水
12 容器(水槽)
13 開口部(上部開口部)
16 流路
17 緩衝容器
19 上板
20 下板
21,21’ 冷却装置
31 上部緩衝部(逆止弁)