(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】集束イオンビーム装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/18 20060101AFI20240206BHJP
H01J 37/317 20060101ALI20240206BHJP
H01J 37/20 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
H01J37/18
H01J37/317 D
H01J37/20 A
(21)【出願番号】P 2020138718
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】500171707
【氏名又は名称】株式会社ブイ・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水村 通伸
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-343021(JP,A)
【文献】特開2000-006072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/18
H01J 37/317
H01J 37/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板の被処理面の任意領域に対向するヘッド部を備え、前記ヘッド部における、前記被処理面と対向する対向面に、前記ヘッド部の中心を囲むように排気溝が形成され、前記ヘッド部における、前記排気溝の内側の領域に、前記被処理面に対する処理を可能にする処理用空間を形成する開口部が設けられ、前記被処理面に前記対向面を対向させた状態で、前記排気溝からの吸気作用により、前記処理用空間を高真空にする差動排気装置と、
前記ヘッド部における前記対向面と反対側に配置され、前記開口部に連結して前記処理用空間に連通可能な鏡筒を備え、前記鏡筒内に集束イオンビーム光学系を内蔵してイオンビームが前記開口部内を通るように出射する集束イオンビームカラムと、
を備える集束イオンビーム装置であって、
前記被処理基板の面方向の外側に位置して、当該被処理基板を周回するように取り囲む吸い込み面を、露呈させる多孔質材料でなる真空パッドと、
前記被処理基板と前記真空パッドとを載せる基板支持台と、
前記真空パッドを真空吸引する真空ポンプと、
を備え、
前記ヘッド部の一部が前記被処理基板の周縁部よりも面方向の外側へ移動したときに、前記吸い込み面が前記ヘッド部との間の空間の空気を吸引して前記処理用空間の圧力を維持する、
ことを特徴とする集束イオンビーム装置。
【請求項2】
前記真空パッドは、前記被処理基板を取り囲む領域のみに形成され、前記真空パッドにおける上面および前記被処理基板の外周面と対向する面が、前記吸い込み面を構成する、請求項1に記載の集束イオンビーム装置。
【請求項3】
前記ヘッド部の一部が前記被処理基板の面方向の外側へ移動したときに、前記上面が前記ヘッド部の対向面と対向する、請求項2に記載の集束イオンビーム装置。
【請求項4】
前記真空パッドは、前記被処理基板よりも輪郭が大きい矩形板状に形成されて、前記基板支持台の上面に配置され、
前記真空パッドの上に、前記被処理基板と、前記被処理基板の面方向の外側を所定の幅寸法の間隙を隔てて取り囲むサポートパッドと、が配置される、請求項1に記載の集束イオンビーム装置。
【請求項5】
前記サポートパッドは、多孔質材料でなる、請求項4に記載の集束イオンビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動排気装置を備える集束イオンビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビーム照射装置の先端部に局所真空装置を備えた走査型電子顕微鏡が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この走査型電子顕微鏡では、局所真空装置により、サンプルの表面に局所的に真空空間を形成することができるため、真空チャンバを必要としない。この走査型電子顕微鏡では、支持部材の上に載せられたサンプルと、ビーム照射装置が退避する退避部材と、の間の溝の底部に、この溝が延びる方向に沿って所定の間隔を隔てて、排気口が設けられている。上記の走査型電子顕微鏡では、退避部材の上に配置した局所真空装置を、支持部材の上に支持されたサンプルの上方に移動させる際に、局所真空装置の直下に形成された真空領域の真空状態を維持することを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の走査型電子顕微鏡では、局所真空装置を退避部材の上面の高さレベルと、サンプルの上面の高さレベルと、を精度よく一致させる必要がある。その理由は、上記待機部材の上面の高さレベルと上記サンプルの上面の高さレベルとが異なると、高さレベルの低い方と、局所真空装置の下面と、のギャップが大きくなり、所定の真空状態を維持できない場合が発生するためである。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、大きな真空チャンバを必要とせず、被処理基板の周縁近傍におけるイオンビームを用いた処理を可能にして、被処理基板における処理領域を大きくできる集束イオンビーム装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の態様は、被処理基板の被処理面の任意領域に対向するヘッド部を備え、前記ヘッド部における、前記被処理面と対向する対向面に、前記ヘッド部の中心を囲むように排気溝が形成され、前記ヘッド部における、前記排気溝の内側の領域に、前記被処理面に対する処理を可能にする処理用空間を形成する開口部が設けられ、前記被処理面に前記対向面を対向させた状態で、前記排気溝からの吸気作用により、前記処理用空間を高真空にする差動排気装置と、前記ヘッド部における前記対向面と反対側に配置され、前記開口部に連結して前記処理用空間に連通可能な鏡筒を備え、前記鏡筒内に集束イオンビーム光学系を内蔵してイオンビームが前記開口部内を通るように出射する集束イオンビームカラムと、を備える集束イオンビーム装置であって、前記被処理基板の面方向の外側に位置して、当該被処理基板を周回するように取り囲む吸い込み面を、露呈させる多孔質材料でなる真空パッドと、前記被処理基板と前記真空パッドとを載せる基板支持台と、
前記真空パッドを真空吸引する真空ポンプと、を備え、前記ヘッド部の一部が前記被処理基板の周縁部よりも面方向の外側へ移動したときに、前記吸い込み面が前記ヘッド部との間の空間の空気を吸引して前記処理用空間の圧力を維持することを特徴とする。
【0007】
上記態様としては、前記真空パッドは、前記被処理基板を取り囲む領域のみに形成され、前記真空パッドにおける上面および前記被処理基板の外周面と対向する面が、前記吸い込み面を構成することが好ましい。
【0008】
上記態様としては、前記ヘッド部の一部が前記被処理基板の面方向の外側へ移動したときに、前記上面が前記ヘッド部の対向面と対向することが好ましい。
【0009】
上記態様としては、前記真空パッドは、前記被処理基板よりも輪郭が大きい矩形板状に形成されて、前記基板支持台の上面に配置され、前記真空パッドの上に、前記被処理基板と、前記被処理基板の面方向の外側を所定の幅寸法の間隙を隔てて取り囲むサポートパッドと、が配置されることが好ましい。
【0010】
上記態様としては、前記サポートパッドは、多孔質材料でなることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被処理基板の周縁近傍での処理も可能にして、被処理基板における処理領域を大きくできる集束イオンビーム装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置の要部断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置における差動排気装置を下方から見た下面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置において真空パッドの上面を被処理基板の上面よりも低い高さレベルに設定した例を示し、差動排気装置が被処理基板の周縁部の上方に配置された状態を示す断面説明図である。
【
図5】
図5は、本発明の第2の実施の形態に係る集束イオンビーム装置を示す概略構成図であり、光学アライメント顕微鏡が被処理基板の周縁部近傍のアライメントマークの上方に配置された状態を示す。
【
図6】
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る集束イオンビーム装置を示す概略構成図であり、差動排気装置が被処理基板の中央部近傍の上方に位置する状態を示す。
【
図7】
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る集束イオンビーム装置を示す概略構成図であり、差動排気装置が被処理基板の周縁部の上方に位置する状態を示す。
【
図8】
図8は、
図6の破線で囲んだ領域Aの拡大説明図である。
【
図9】
図9は、
図7の破線で囲んだ領域Bの拡大説明図である。
【
図10】
図10は、本発明の他の実施の形態に係る集束イオンビーム装置を示す概略構成図である。
【
図11】
図11は、第2の実施の形態において真空パッドが無い場合(比較例)を示す拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る集束イオンビーム装置の詳細を図面に基づいて説明する。なお、図面は模式的なものであり、各部材の寸法や寸法の比率や数、形状などは現実のものと異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率や形状が異なる部分が含まれている。
【0014】
[第1の実施の形態]
(集束イオンビーム装置の概略構成)
本実施の形態に係る集束イオンビーム装置は、被処理基板としてのフォトマスク、TFT基板などの修正に用いることができる。なお、本発明の集束イオンビーム装置は、被処理基板への直接描画を行う描画装置や、被処理基板の表面状態の観察を可能にする走査電子顕微鏡などにも適用可能である。
【0015】
図1は、第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1の概略構成を示している。集束イオンビーム装置1は、差動排気装置2と、集束イオンビームカラム(以下、FIBカラムともいう)3と、基板支持台4と、基板支持台4をX-Y方向に移動させるX-Yステージ5と、を備える。
【0016】
FIBカラム3には、真空ポンプ6が接続されており、FIBカラム3内が所定の低い圧力に保たれるようになっている。X-Yステージ5には、ステージ制御電源7が接続されている。
【0017】
(基板支持台の構成)
基板支持台4は、基板支持部4Aと、周縁サポート部4Bと、を備える。基板支持部4Aは、被処理基板8を載せた状態で支持するようになっている。周縁サポート部4Bは、基板支持部4Aの周縁部に沿って基板支持部4Aを取り囲むように形成されている。
【0018】
周縁サポート部4Bの上には、連続多孔質材料でなる真空パッド40が配置されている。真空パッド40は、基板支持部4Aの上に配置された被処理基板8に対して所定の溝部(間隙)4Cを挟んで被処理基板8を取り囲むように額縁形状に設定されている。この真空パッド40は、図示しない真空ポンプで下面側に排気するよう設定されている。溝部4Cには、真空パッド40の端部(内周縁の側壁)41が吸い込み面として露呈している。換言すると、真空パッド40の端部41が溝部4Cの内壁を形成している。真空パッド40は、例えば、セラミック焼結多孔質体、耐熱メタルファイバフィルタなどで形成することができる。
【0019】
本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1では、基板支持部4Aに載せた被処理基板8の被処理面8Aと真空パッド40の上面40Aとが、同じ高さレベルある必要はない。
図4に示すように、真空パッド40の上面40Aの高さレベルが被処理面8Aの高さレベルよりも低くてもよいし、
図5に示すように、真空パッド40の上面40Aの高さレベルが被処理面8Aの高さレベルより高くてもよい。
【0020】
ただし、真空パッド40の上面40Aの高さレベルは、ヘッド部9の対向面(下面)9Aと被処理面8Aとの適切なギャップG1を保った状態で、ヘッド部9の一部が被処理基板8の周縁から平面方向の外側へはみ出るまで移動したときに、真空パッド40がヘッド部9に接触しない高さに設定する。
【0021】
(差動排気装置の構成)
図1から
図3を用いて差動排気装置2の構成を説明する。なお、
図3は、差動排気装置2の下面図である。差動排気装置2は、ヘッド部9と、図示しない真空ポンプと、を備える。
【0022】
ヘッド部9は、被処理基板8の被処理面8Aの面積に比較してごく小さな面積の円盤形状の金属プレートによって構成されている。ヘッド部9は、基板支持台4がX-Yステージ5によって、X-Y方向に移動されることにより、被処理面8Aの任意領域に対向し得るようになっている。
【0023】
図3に示すように、ヘッド部9の対向面9Aには、4つの環状溝10A,10B,10C,10Dが同心状に形成されている。ヘッド部9における、これら複数の環状溝10A,10B,10C,10Dのうち最も内側の環状溝10Aの内側領域に、被処理基板8の被処理面8Aに対する処理(イオンビーム照射による成膜処理など)を可能にする処理用空間Spを形成する開口部11が設けられている。
【0024】
開口部11には、後述するFIBカラム3が連通するように連結される。なお、この説明では、ヘッド部9の中心を取り囲むように形成された溝を「環状溝」と称するが、円形のループ状の溝、方形のループ状の溝、またはループの一部が欠損した例えばC文字形状の溝、間欠的にループ状に並ぶ複数の溝なども含むものと定義する。
【0025】
これら複数の環状溝10A,10B,10C,10Dのうち少なくとも1つ以上(本実施の形態では3つ)の環状溝10B,10C,10Dは、連結パイプ12(
図2参照)を介して図示しない真空ポンプに接続されている。最も内側の環状溝10Aは、連結パイプ13(
図2参照)を介してデポガス(堆積用ガス、CVD用ガス)を供給する図示しないデポガス供給源に接続されている。
【0026】
ヘッド部9は、被処理面8Aに対向面9Aを対向させた状態で、環状溝10B,10C,10Dからの空気吸引作用により、処理用空間Spを低い圧力にする機能を備える。また、ヘッド部9は、このように低い圧力に調整された処理用空間Spへ、最も内側の環状溝10Aから堆積用ガスを確実に供給して、開口部11に対向する被処理面8Aの領域へCVD成膜を行うことを可能にしている。
【0027】
対向面9Aと被処理面8Aとが平行を保った状態において、ヘッド部9の対向面9Aと被処理面8Aとの間を所定のギャップG1に設定することにより、処理用空間Spの高真空な状態が破れずに内部の真空状態が維持可能となる。
【0028】
(集束イオンビームカラム:FIBカラム)
図2に示すように、FIBカラム3は、ヘッド部9における対向面9Aと反対側の面側(上面側)に配置され、ヘッド部9の開口部11に先端部が埋没するように嵌め込まれた状態で連結されている。
【0029】
FIBカラム3は、処理用空間Spに連通する鏡筒16と、鏡筒16内に内蔵された集束イオンビーム光学系17と、を備える。FIBカラム3の先端部からは、開口部11内を通るようにイオンビームIbを被処理基板8の被処理面8Aに向けて出射するようになっている。
【0030】
(動作・作用)
以下、本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1における動作および作用について説明する。集束イオンビーム装置1では、差動排気装置2を備えた集束イオンビームカラム3を、被処理基板8に対して相対的に移動させることにより、任意の位置へイオンビームIbの照射を行うことができる。
【0031】
本実施の形態においては、ヘッド部9の対向面9Aと被処理基板8の被処理面8AとのギャップG1を、例えば30μm程度に設定することにより、処理用空間Spの高真空な状態が破れずに内部の真空状態が維持可能となる。
【0032】
差動排気装置2のヘッド部9は、基板支持台4がX-Yステージ5によって、X-Y方向に移動されることにより、被処理面8Aの任意領域に対向することができる。
【0033】
本実施の形態では、差動排気装置2が被処理基板8の領域からはみ出しても、真空パッド40が配置されているため、高真空な状態を保つことができる。特に、
図4に示すように、真空パッド40の上面40Aが被処理基板8の被処理面8Aの周縁よりも低い場合は、真空パッド40の上面40Aと差動排気装置2の対向面9AとのギャップG2がギャップG1よりも大きくなる。この場合、ヘッド部9の対向面9Aにおける被処理基板8の周縁から外側へはみ出した領域の下方の空間は、真空パッド40で真空引きされているため高真空な状態を維持できる。
【0034】
この状態においても、
図3に示すように、ヘッド部9の対向面9Aの一部が被処理基板8の周縁よりも外側へはみ出した場合でも、処理用空間Spにおいて適切な圧力を保った状態で、イオンビームIbを用いた適切な処理を行うことができる。
【0035】
また、
図4に示した構造では、溝部4Cの内側表面には、真空パッド40の端部41が吸い込み面として露呈しており、この端部41からも吸気が行われる。このため、溝部4Cの内側空間および溝部4Cの上方に存在する空気が端部41で吸い込まれることにより、溝部4Cの上方における圧力の上昇を防止できる。
【0036】
(第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置の効果)
上述の動作・作用で説明したように、本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1によれば、大きな真空チャンバを必要とせず、被処理基板8の周縁部の近傍においても、イオンビームIbを用いた処理を確実に行うことが可能となる。このため、本実施の形態によれば、被処理基板8を処理できる領域を大きくすることができるという効果がある。
【0037】
また、本実施の形態によれば、上述したように、真空パッド40によって差動排気装置2が被処理基板8からはみ出した領域の真空を保っているので、真空パッド40の上面40Aの高さレベルの管理を厳格にしなくてもよいという利点がある。
【0038】
[第2の実施の形態]
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Aの概略構成を示している。この集束イオンビーム装置1Aは、差動排気装置2と、FIBカラム3と、基板支持台4と、基板支持台4の上に配置された真空パッド42と、基板支持台4を載せる固定ステージ18と、固定ステージ18の上に架設されたX-Yガントリステージ19と、を備える。
【0039】
X-Yガントリステージ19には、X-Y方向へ移動可能な移動ブロック20が設けられている。移動ブロック20には、FIBカラム3と、FIBカラム3に接続された真空ポンプ6と、被処理基板8に形成されたアライメントマークを検出するための光学アライメント顕微鏡21と、が固定されている。X-Yガントリステージ19側には、ガントリステージ制御電源22が接続されている。
【0040】
真空パッド42は、基板支持台4の上面の略全体に亘って配置されている。真空パッド42の大きさは、被処理基板8よりも縦横の長さが長く設定されている。真空パッド42の上には、中央に被処理基板8を載せた状態で、被処理基板8の周りを取り囲む、サポートパッド43が配置されている。サポートパッド43は、空気が通過できない材料で形成されている。
【0041】
真空パッド42は、連続多孔質材料でなり、真空ポンプ23に接続されている。このため、真空ポンプ23で吸引されることにより、真空パッド42の上面側から空気を吸い込むよう設定されている。被処理基板8とサポートパッド43の内周面との間は、間隙としての溝部4Cが形成されている。この溝部4Cの底面は、真空パッド42が露呈している吸い込み面を構成している。
【0042】
真空パッド42は、例えば、セラミック焼結多孔質体、耐熱メタルファイバフィルタなどで形成することができる。
図9に示すように、本実施の形態では、サポートパッド43は、被処理基板8と同様のガラス材料でなり、被処理基板8と同等の厚さ寸法を有するガラス板で構成している。
【0043】
なお、本実施の形態では、サポートパッド43としてガラス板を用いたが、これに限定されるものではなく、金属板、セラミックス板などを適用してもよい。
【0044】
本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Aにおける他の構成は、上記した第1の実施の形態に係る集束イオンビーム装置1の構成と略同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0045】
本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Aでは、被処理基板8とサポートパッド43が配置される全領域の下層に真空パッド42が配置されており、真空パッド42が被処理基板8とサポートパッド43を吸引している。
【0046】
図6に示すように、被処理基板8の中央部の上方に差動排気装置2のヘッド部9が位置する場合に、被処理基板8はヘッド部9から吸引されて上方へ向けて反ろうとする力を受ける。しかし、被処理基板8は、同時に真空パッド42から下方へ吸引されているため、上方へ向けて反ろうとする力が相殺される。
【0047】
図8は、
図6における破線で囲んだ領域Aを示す拡大説明図である。
図11は、真空パッド42を有さない構成(比較例)を示す拡大説明図であり、被処理基板8の下層に真空パッド42が配置されていない場合に、ヘッド部9側からの吸引力により、被処理基板8が浮き上がって反った状態を示している。
【0048】
因みに、被処理基板8の大型化や薄型化が、差動排気装置2を用いて局所的な真空空間を形成してイオンビームIbで処理を行う場合の障害となっていた。本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Aによれば、大型化もしくは薄型化した被処理基板8でも、平坦度を保ったまま、確実に基板支持部4に支持できる。したがって、本実施の形態では、X-Yガントリステージ19を用いて移動させる構造においても、精度の高い処理を施すことが可能となる。
【0049】
本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Aでは、間隙としての溝部4Cの底面に真空パッド42の上面が露呈しており、この部分からも真空引きが行われる。このため、
図7および
図9に示すように、溝部4Cの内側空間および溝部4Cの上方の空間からも空気を吸引することができ、溝部4Cの上方における圧力の悪化を防止できる。
【0050】
なお、被処理基板8を周回するように形成された溝部4Cの底面には、被処理基板8を周回するように真空パッド42の上面が連続して露呈して存在しているため、いずれの位置の溝部4Cにおいても圧力が均一に保たれている。
【0051】
本実施の形態によれば、間隙としての溝部4Cの幅寸法は、真空ポンプ23の出力を調整することにより、任意に設定できるという利点がある。
【0052】
本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Aによれば、大きな真空チャンバを必要とせず、被処理基板8の周縁部の近傍においても、イオンビームIbを用いた処理を確実に行うことが可能となる。このため、この集束イオンビーム装置1Aでは、被処理基板8の広い範囲を有効に処理できるという効果がある。
【0053】
また、本実施の形態に係る集束イオンビーム装置1Aでは、差動排気装置2を使用して局所真空空間を実現したことにより、処理している領域以外は大気圧のため、光学アライメント顕微鏡21を容易に設置できる。
【0054】
アライメントを行う場合には、例えば、
図5に示すような位置に光学アライメント顕微鏡21を配置させて、被処理基板8の周縁部に形成された図示しないアライメントマークの検出を行う。アライメントマークの検出により、光学アライメント顕微鏡21の位置と、FIBカラム3による処理位置と、の相対関係で座標を確定させることができる。
【0055】
このため、本実施の形態の集束イオンビーム装置1Aによれば、X-Yガントリステージ19によるアライメントのためのストロークが不要となり、アライメントのための移動時間を短くできる。
【0056】
特に、本実施の形態では、X-Yガントリステージ19に移動ブロック20をX-Y方向に移動可能に設けたことにより、被処理基板8の位置を固定した状態で、移動ブロック20に設けたFIBカラム3と光学アライメント顕微鏡30を移動させることができる。このように被処理基板8の位置は固定できるため、装置のフットプリントを小さくできる。
【0057】
また、本実施の形態によれば、ヘッド部9の処理用空間Spの高真空を確実に維持できるため、この処理用空間での処理作業の質を高めることができる。
【0058】
さらに、本実施の形態によれば、装置のコンパクト化が図れるため、設備コストならびに管理コストを削減できる。
【0059】
[その他の実施の形態]
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この実施の形態の開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0060】
上記の第1の実施の形態において、真空パッド40を周縁サポート部4Bの上面に載せて真空パッド40の上面全体が露出するようにしたが、
図10に示すように、溝部4Cの内側のみで露呈する真空壁部44を溝部4Cに沿って被処理基板8を取り囲むように配置してもよい。
【0061】
真空壁部44における溝部4Cで露呈する面は、本発明の吸い込み面を構成する。なお、この実施の形態では、周縁サポート部4Bの上面が、被処理基板8の被処理面8Aと同程度の高さであることが好ましい。
【0062】
上記の各実施の形態において、差動排気装置に形成する環状溝の数は、4本に限定されるものではなく、少なくとも排気と吹き出しを行う2本以上を備えればよい。また、ガス供給用の溝および排気用の溝として、円形のループ状の環状溝10A,10B,10C,10Dを形成したが、これに限定されるものではなく、例えば四角形状のループ状の溝などを形成してもよい。
【0063】
上記の第2の実施の形態では、サポートパッド43を空気が通過できない材料で形成したが、多孔質材料でなる構成としてもよい。この場合は、サポートパッド43が、上記の第1の実施の形態における真空パッド40と同様の機能を持ち、サポートパッド43の上面の高さレベルの自由度を高める効果と、被処理基板8に反りが発生することを防止する効果と、を奏する。
【符号の説明】
【0064】
Ib イオンビーム
Sp 処理用空間
1 集束イオンビーム装置
2 差動排気装置
3 集束イオンビームカラム(FIBカラム)
4 基板支持台
4A 基板支持部
4B 周縁サポート部
4C 溝部(間隙)
5 X-Yステージ
6 真空ポンプ
7 ステージ制御電源
8 被処理基板
8A 被処理面
8B 下面
9 ヘッド部
9A 対向面
10A,10B,10C,10D 環状溝
11 開口部
12,13 連結パイプ
16 鏡筒
17 集束イオンビーム光学系
18 固定ステージ
19 X-Yガントリステージ
20 移動ブロック
21 光学アライメント顕微鏡
22 ガントリステージ制御電源
23 真空ポンプ
40 真空パッド
40A 上面(吸い込み面)
41 端部(被処理基板の外周面と対向する面:吸い込み面)
42 真空パッド
43 サポートパッド
44 真空壁部