(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】がんの治療のための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20240206BHJP
A61K 35/35 20150101ALI20240206BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240206BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240206BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240206BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20240206BHJP
A61K 35/32 20150101ALN20240206BHJP
A61K 38/19 20060101ALN20240206BHJP
A61K 35/16 20150101ALN20240206BHJP
A61K 38/20 20060101ALN20240206BHJP
A61P 37/04 20060101ALN20240206BHJP
A61K 35/12 20150101ALN20240206BHJP
A61K 38/21 20060101ALN20240206BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K35/35
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P43/00 107
G01N33/15 Z
C12Q1/04
A61K35/32
A61K38/19
A61K35/16
A61K38/20
A61P37/04
A61K35/12
A61K38/21
(21)【出願番号】P 2020539476
(86)(22)【出願日】2019-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2019033448
(87)【国際公開番号】W WO2020045399
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2018160842
(32)【優先日】2018-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513232130
【氏名又は名称】株式会社Regene Pharm
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】松山 晃文
(72)【発明者】
【氏名】大倉 華雪
(72)【発明者】
【氏名】大倉 洋子
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105779386(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0272992(US,A1)
【文献】特表2017-531425(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110686(WO,A1)
【文献】Anticancer Research,2015年,35,pp.4749-4756
【文献】PLOS ONE,2013年,8(9),e74897, page 1-11
【文献】Cancer Letters,2019年,440-441,pp.202-210
【文献】Int J Biochem Cell Biol,2012年,Vol.44,p.1305-1314
【文献】Cell stem cell,2012年,Vol.11,p.825-835
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターフェロンベータ(IFNβ)で処理された、腫瘍壊死因子刺激因子10(TRAIL)を産生する脂肪組織由来幹細胞(ADSC)または脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)、および医薬上許容される担体および/または賦形剤を含む、がんの治療のための医薬組成物。
【請求項2】
がんの治療のための医薬組成物の製造方法であって、下記工程:
(a)
脂肪組織由来幹細胞(ADSC)または
脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)をIFNβで処理し、次いで、
(b)工程(a)にて処理された、TRAILを産生するADSCまたはADMPCを医薬上許容される担体および/または賦形剤と混合する
を含む方法。
【請求項3】
請求項1記載の医薬組成物の有効性を調べるための方法であって、がん細胞に請求項1記載の医薬組成物を
インビトロで添加し、がん細胞の生存率または死滅率を調べることを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんの治療のための医薬組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの主な治療には外科治療、薬物療法および放射線治療がある。薬物治療のなかでもがん細胞に特異的な分子を標的とする分子標的治療が注目されている。最近になって、がん細胞に特異的に発現するデスレセプター(death receptor)を標的としたがん治療の研究が進んでいる。デスレセプターを刺激することにより、がん細胞のアポトーシスを誘導することができる。デスレセプターのリガンドとして腫瘍壊死因子刺激因子10(TNFSF10)(TRAILともいう)が知られている(非特許文献1等参照)。このサイトカインを癌治療に用いるための研究が行われている。しかしながら、TRAILは血中での分解が早く、がん細胞を効果的に死滅させることができないという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Pan G et al. Science 1997, 276, 111-113
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
TRAILが血中で早く分解されるという問題を解決し、TRAILを用いてがん細胞を効果的に死滅させることが必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、生理活性ポリペプチド、リポ多糖(LPS)、二本鎖RNA(dsRNA)またはポリイノシン酸-ポリシチジル酸(poly(I:C))で処理された間葉系組織由来の接着性細胞がTRAILを産生することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち本発明は以下のものを提供する。
(1)生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)で処理された、腫瘍壊死因子刺激因子10(TRAIL)を産生する間葉系組織由来の接着性細胞および医薬上許容される担体および/または賦形剤を含む、がんの治療のための医薬組成物。
(2)生理活性ポリペプチドが、インターフェロンアルファ(IFNα)、インターフェロンベータ(IFNβ)、インターフェロンガンマ(IFNγ)、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、腫瘍壊死因子ベータ(TNFβ)、インターロイキン1α(IL-1α)、インターロイキン1ベータ(IL-1β)およびオンコスタチンMからなる群より選択される1種またはそれ以上のポリペプチドである、(1)記載の医薬組成物。
(3)生理活性ポリペプチドが、インターフェロンベータ(IFNβ)、インターフェロンガンマ(IFNγ)および腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)からなる群より選択される1種またはそれ以上のポリペプチドである、(1)記載の医薬組成物。
(4)間葉系組織由来の接着性細胞が、間葉系組織由来幹細胞(MSC)、脂肪組織由来幹細胞(ADSC)、脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)、Muse細胞、骨髄組織、胞衣組織、軟骨組織、骨膜組織、滑膜組織、骨格筋組織に由来する細胞、幹細胞および間質細胞、ならびに経血細胞からなる群より選択される1種またはそれ以上の細胞である、(1)~(3)のいずれか記載の医薬組成物。
(5)間葉系組織由来の接着性細胞が、ADSC、ADMPC、胞衣組織に由来する細胞、骨髄組織に由来する細胞、および滑膜組織に由来する細胞からなる群より選択される1種またはそれ以上の細胞である、(1)~(3)のいずれか記載の医薬組成物。
(6)がんの治療のための医薬組成物の製造方法であって、下記工程:
(a)間葉系組織由来の接着性細胞を生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)で処理し、次いで、
(b)工程(a)にて処理された、TRAILを産生する間葉系組織由来の接着性細胞を医薬上許容される担体および/または賦形剤と混合する
を含む方法。
(7)生理活性ポリペプチドが、インターフェロンアルファ(IFNα)、インターフェロンベータ(IFNβ)、インターフェロンガンマ(IFNγ)、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、腫瘍壊死因子ベータ(TNFβ)、インターロイキン1α(IL-1α)、インターロイキン1ベータ(IL-1β)およびオンコスタチンMからなる群より選択される1種またはそれ以上のポリペプチドである、(6)記載の方法。
(8)生理活性ポリペプチドが、インターフェロンベータ(IFNβ)、インターフェロンガンマ(IFNγ)および腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)からなる群より選択される1種またはそれ以上のポリペプチドである、(6)記載の方法。
(9)間葉系組織由来の接着性細胞が、間葉系組織由来幹細胞(MSC)、脂肪組織由来幹細胞(ADSC)、脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)、Muse細胞、骨髄組織、胞衣組織、軟骨組織、骨膜組織、滑膜組織、骨格筋組織に由来する細胞、幹細胞および間質細胞、ならびに経血細胞からなる群より選択される1種またはそれ以上の細胞である、(6)~(8)のいずれか記載の方法。
(10)間葉系組織由来の接着性細胞が、ADSC、ADMPC、胞衣組織に由来する細胞、骨髄組織に由来する細胞、および滑膜組織に由来する細胞からなる群より選択される1種またはそれ以上の細胞である、(6)~(8)のいずれか記載の方法。
(11)(1)~(5)のいずれか記載の医薬組成物の有効性を調べるための方法であって、がん細胞に(1)~(5)のいずれか記載の医薬組成物を添加し、がん細胞の生存率または死滅率を調べることを含む方法。
(12)(1)~(5)のいずれか記載の医薬組成物を用いるがんの治療の有効性を予測する方法であって、がん細胞がデスレセプターを有しているかどうかを調べること、および/またはデスレセプターの量を調べることを含む方法。
(13)生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)および医薬上許容される担体または賦形剤を含むがんの治療のための医薬組成物であって、がん関連線維芽細胞(CAF)に投与される医薬組成物。
(14)生理活性ポリペプチドが、インターフェロンアルファ(IFNα)、インターフェロンベータ(IFNβ)、インターフェロンガンマ(IFNγ)、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、腫瘍壊死因子ベータ(TNFβ)、インターロイキン1α(IL-1α)、インターロイキン1ベータ(IL-1β)およびオンコスタチンMからなる群より選択される1種またはそれ以上のポリペプチドである、(13)記載の医薬組成物。
(15)生理活性ポリペプチドが、インターフェロンベータ(IFNβ)、インターフェロンガンマ(IFNγ)および腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)からなる群より選択される1種またはそれ以上のポリペプチドである、(13)記載の医薬組成物。
(16)間葉系組織由来の接着性細胞を生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)で処理することを含む、TRAILを産生する間葉系組織由来の接着性細胞の製造方法。
(17)生理活性ポリペプチドが、インターフェロンアルファ(IFNα)、インターフェロンベータ(IFNβ)、インターフェロンガンマ(IFNγ)、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、腫瘍壊死因子ベータ(TNFβ)、インターロイキン1α(IL-1α)、インターロイキン1ベータ(IL-1β)およびオンコスタチンMからなる群より選択される1種またはそれ以上のポリペプチドである、(16)記載の方法。
(18)生理活性ポリペプチドが、IFNβ、IFNγおよびTNFαからなる群より選択される1種またはそれ以上のポリペプチドである、(16)記載の方法。
(19)間葉系組織由来の接着性細胞が、間葉系組織由来幹細胞(MSC)、脂肪組織由来幹細胞(ADSC)、脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)、Muse細胞、骨髄組織、胞衣組織、軟骨組織、骨膜組織、滑膜組織、骨格筋組織に由来する細胞、幹細胞および間質細胞、ならびに経血細胞からなる群より選択される1種またはそれ以上の細胞である、(16)~(18)のいずれか記載の方法。
(20)間葉系組織由来の接着性細胞が、ADSC、ADMPC、胞衣組織に由来する細胞、骨髄組織に由来する細胞、および滑膜組織に由来する細胞からなる群より選択される1種またはそれ以上の細胞である、(16)~(18)のいずれか記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
TRAILは、がん細胞上のデスレセプターに結合し、がん細胞のアポトーシスを誘発する。しかし、TRAILは血中での分解が早く、がん細胞を効果的に死滅させることができないという問題がある。そこで、本発明においては、生理活性ポリペプチドで処理された、TRAILを産生する間葉系組織由来の接着性細胞を用いる。かかる細胞を用いると、TRAILが患者体内で分解されても上記細胞から補充されるので、がん細胞を効果的に死滅させることができ、高い治療効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)、脂肪組織由来幹細胞(ADSC)、骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)、胎盤由来細胞(Placental derived Cells)および臍帯由来幹細胞(UC-MSC)をIFNβで処理した場合のTRAILの発現のnormalized intensityをプロットしたグラフである。
【
図2】
図2は、IFN-βで処理された脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)、脂肪組織由来幹細胞(ADSC)、胎盤由来細胞(Placental derived Cells)および骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)からのTRAIL産生量を示すグラフである。縦軸はTRAIL産生量(pg/ml)を示す。
【
図3】
図3は、患者由来腫瘍移植片(PDX)植え継ぎ後4週にて各マウスから摘出した腫瘍の写真である。Aは、PDX植え継ぎと同時にIFN-β活性化ADMPCを経血管的に投与したマウスから摘出した腫瘍である。Bは、PDX植え継ぎ1週間後にIFN-β活性化ADMPCを経血管的に投与したマウスから摘出した腫瘍である。Cは、PDX植え継ぎと同時にIFN-β活性化ADMPCを腹腔内投与したマウスから摘出した腫瘍である。Dは、PDX植え継ぎ1週間後にIFN-β活性化ADMPCを腹腔内投与したマウスから摘出した腫瘍である。Eは、PDX植え継ぎ1週間後にIFN-β活性化ADMPCを腫瘤に直接投与したマウスから摘出した腫瘍である。Fは、PDX植え継ぎのみのコントロール群マウスから摘出した腫瘍である。
【
図4】
図4は、患者由来腫瘍移植片(PDX)植え継ぎ後4週にて各マウスから摘出した腫瘍の容積を比較した図である。A-Fの符号の意味は
図3と同じである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、1の態様において、生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)で処理された、TRAILを産生する間葉系組織由来の接着性細胞および医薬上許容される担体および/または賦形剤を含む、がんの治療のための医薬組成物を提供する。
【0010】
生理活性ポリペプチドは、生体の特定の生理的調節機能に対して作用するポリペプチドである。ポリペプチドは、2つ以上のアミノ酸残基がペプチド結合を介して結合した物質をいう。
【0011】
本発明で用いられる生理活性ポリペプチドは、間葉系組織由来の接着性細胞に作用して、そのTRAILの産生を増加させるもの、あるいはTRAILの産生が認められない間葉系組織由来の接着性細胞にTRAILを産生させるものであれば、いずれのポリペプチドであってもよい。本発明で用いられる好ましい生理活性ポリペプチドとしては、サイトカイン、ケモカイン、成長因子、ホルモン等が例示されるが、これらに限定されない。本発明において好ましく用いられる生理活性ポリペプチドはサイトカインである。好ましいサイトカインとしてはインターフェロン、腫瘍壊死因子、インターロイキン、オンコスタチンMなどが例示される。より好ましいサイトカインとしてはインターフェロンアルファ(IFNα)、インターフェロンベータ(IFNβ)、インターフェロンガンマ(IFNγ)、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、腫瘍壊死因子ベータ(TNFβ)、インターロイキン1α(IL-1α)、インターロイキン1ベータ(IL-1β)およびオンコスタチンMなどが例示される。さらに好ましいサイトカインとしてはIFNβ、IFNγおよびTNFαなどが例示される。
【0012】
本発明で用いられる生理活性ポリペプチドは、その変異体も包含する。本発明において、変異体は、元の生理活性ポリペプチドと同様の生物学的活性を有するものである。変異体は、元のポリペプチドと比較して、ポリペプチドを構成するアミノ酸残基が置換、欠失、挿入または付加されているポリペプチドであってもよい。置換、欠失、挿入または付加されるアミノ酸残基の数は特に限定されない。例えば、置換、欠失、挿入または付加されるアミノ酸残基は1個~数個であってもよい。また例えば、変異体ポリペプチドは、元のポリペプチドに対してアミノ酸配列同一性が80%以上、好ましくは90%以上、例えば95%以上97%以上または99%以上のものであってもよい。さらに変異体は、ポリペプチドを構成するアミノ酸残基が修飾されているもの、あるいはβ-アラニンやD-アミノ酸のような非天然アミノ酸を含むものであってもよい。修飾はあらゆる種類の標識であってよい。メチル化、ハロゲン化、配糖体化などの化学修飾であってもよく、蛍光標識や放射性標識などの標識付加であってもよい。また、変異体は、一部のアミノ酸残基がペプチド結合以外によって結合されているものであってもよい。
【0013】
LPSは様々な種類のものが公知であり、いずれのLPSを本発明に用いてもよい。
【0014】
dsRNAは、二本の相補的な配列を持つRNA鎖が二重鎖を形成したものである。二本のRNA鎖の相補性は100%でなくてもよい。dsRNAはアデニン、グアニン、シトシン、ウラシル以外の塩基を含んでいてもよく、修飾塩基、人工塩基を含んでいてもよい。本発明に使用可能なdsRNAの配列、長さは特に限定されず、いずれのdsRNAを用いてもよい。
【0015】
poly(I:C)は、イノシン酸のポリマーとシチジル酸のポリマーから構成されるミスマッチ二本鎖RNAである。poly(I:C)中の一部のイノシン酸および/またはシチジル酸が他の塩基に置き換わっていてもよい。本発明に使用可能なpoly(I:C)の長さは特に限定されない。
【0016】
本発明の医薬組成物の有効成分は、生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)で処理された、TRAILを産生する間葉系組織由来の接着性細胞である。ここで、TRAILを産生する間葉系組織由来の接着性細胞とは、生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)での処理によりTRAILの産生を増加させた細胞、あるいは元々はTRAILの産生が認められなかった細胞であるが、生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)での処理によりTRAILを産生するようになった細胞である。細胞からのTRAILの産生量は、がん細胞を死滅させるに十分な量であればよい。TRAILの産生の増加は、処理前と比較して例えば10倍以上、好ましくは30倍以上、より好ましくは50倍以上、さらに好ましくは100倍以上である。
【0017】
間葉系組織由来の接着性細胞であればいずれの細胞であっても本発明に用いることができる。細胞が由来する動物はいずれの動物であってもよく、好ましくは哺乳動物であり、例えばヒトが挙げられる。間葉系組織からの接着性細胞の取得手段・方法は公知である。間葉系組織由来の接着性細胞は市販されているものであってもよく、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)(米国)、NITE(日本)などの機関から分譲されるものであってもよい。あるいは、間葉系組織由来の接着性細胞を間葉系組織から得てもよい。
【0018】
好ましい間葉系組織由来の接着性細胞としては、間葉系組織由来幹細胞(MSC)、脂肪組織由来幹細胞(ADSC)、脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)、Muse細胞、骨髄組織、胞衣組織(胎盤組織、臍帯組織、羊膜組織などを含む)、軟骨組織、骨膜組織、滑膜組織、骨格筋組織に由来する細胞、幹細胞および間質細胞、ならびに経血細胞などが例示されるが、これらに限定されない。さらに好ましい間葉系組織由来の接着性細胞としては、ADSC、ADMPC、胞衣組織に由来する細胞、骨髄組織または滑膜組織に由来する細胞などが例示されるが、これらに限定されない。
【0019】
細胞を間葉系組織から得る場合は、いずれの間葉系組織から単離してもよい。間葉系組織としては、脂肪組織、骨髄組織、胞衣組織、軟骨組織、骨膜組織、滑膜組織、骨格筋組織、経血などが例示されるが、これらに限定されない。好ましい間葉系組織としては脂肪組織、骨髄組織、滑膜組織、胞衣組織が挙げられる。特に脂肪組織は体内に含まれる量が多く、細胞を多く取り出せる点で好ましい。かかる点においてADSCおよびADMPCは有利である。
【0020】
体内から間葉系組織を取り出して、培養容器中に組織を入れて培養し、容器に付着する細胞を選択的に取得することにより、接着性細胞を得ることができる。間葉系組織は、切除や吸引といった公知の手段、方法を用いて取り出すことができる。取り出した間葉系組織をそのまま培養してもよく、必要に応じて、取り出した間葉系組織を刻んだり、解したりした後、赤血球を除去し、得られた細胞集団を培養してもよい。これらの処理方法および手段、ならびに細胞培養手段、方法は公知であり、適宜選択することができる。間葉系組織由来の接着性細胞は、例えば培養容器に付着した細胞をトリプシンなどの酵素で処理することによって得てもよい。
【0021】
生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)での間葉系組織由来の接着性細胞の処理は、細胞と生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)を公知の方法にて接触させることによって行うことができる。典型的には、適当濃度の生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)を含む培地にて、間葉系組織由来の接着性細胞を一定時間培養することにより、この処理を行うことができる。通常は、数ピコグラム/ml~数百ナノグラム/mlの生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)を添加した培地にて間葉系組織由来の接着性細胞を培養する。培養に使用する培地は公知のものでよい。培養時間、培養温度も適宜選択することができる。必要に応じて、間葉系組織由来の接着性細胞を培養して細胞数を増加させた後、生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)で処理してもよい。間葉系組織由来の接着性細胞の集団から所望の亜集団を得て、必要に応じて亜集団を培養して細胞数を増加させた後、生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)で処理してもよい。
【0022】
間葉系組織由来の接着性細胞を処理するために用いられる生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)は1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0023】
生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)で処理される間葉系組織由来の接着性細胞は1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0024】
間葉系組織由来の接着性細胞をLPS、dsRNAまたはpoly(I:C)で処理する際に、リポソームに封入されたLPS、dsRNAまたはpoly(I:C)を用いてもよい。
【0025】
がんの治療は、がんの症状を緩和、改善または消失させること包含する。また、がんの治療は、がん細胞の増殖を抑制すること、がん細胞数を減少させること、がん細胞を消失させることを包含する。
【0026】
本発明の医薬組成物はあらゆる種類のがんの治療に用いることができる。本発明の医薬組成物を用いて、例えば、胃がん、陰茎がん、各骨軟部腫瘍、肝臓がん、甲状腺がん、後腹膜腫瘍、骨転移、子宮がん、食道がん、腎がん、腎盂尿管がん、膵臓がん、精巣がん、前立腺がん、大腸がん、胆道がん、頭頸部がん、乳がん、肺がん、皮膚がん、副腎がん、膀胱がん、卵巣がん、悪性リンパ腫、白血病などを治療することができるが、これらのがんに限定されない。
【0027】
本発明の医薬組成物を、有効成分である生理活性ポリペプチドまたはLPSで処理された間葉系組織由来の接着性細胞が由来する動物種と同種の対象に投与してもよく、異種の対象に投与してもよい。例えば、ヒト由来の細胞を含む本発明の医薬組成物をヒト対象に投与してもよい。本発明の医薬組成物中の細胞は、投与される対象と同一人に由来するものであってもよく、投与される対象とは異なる人に由来するものであってもよい。
【0028】
本発明の医薬組成物は、生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)で処理された間葉系組織由来の接着性細胞を医薬上許容される担体および/または賦形剤と混合することにより製造することができる。医薬上許容される担体や賦形剤は様々なものが公知であり、適宜選択して使用できる。例えば、本発明の医薬組成物を注射剤として用いる場合は、精製水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水などの担体や賦形剤に細胞を懸濁してもよい。細胞と担体および/または賦形剤との混合方法、混合手段についても公知である。
【0029】
本発明の医薬組成物の剤形は特に限定されず、液剤、半固形剤であってもよい。本発明の医薬組成物の投与方法も限定されず、局所注射、静脈注射、輸液などにより行ってもよく、患部に塗布や噴霧する等であってもよく、カテーテルにより患部に投与してもよく、外科的手法により組織に直接移植してもよい。本発明の医薬組成物を細胞シート、細胞塊、重層化細胞シート、スポンジ担持細胞などの形態として移植してもよい。
【0030】
本発明の医薬組成物の投与経路および投与量は、治癒すべきがんの種類や部位、症状の重さ、対象の状態などを考慮して適宜決定することができる。
【0031】
本発明の医薬組成物は、生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)で処理された間葉系組織由来の接着性細胞以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては公知の抗がん剤、鎮痛剤、解熱剤、栄養剤などが例示されるが、これに限定されない。また、本発明の医薬組成物を、他の医薬組成物および/または他の療法と併用してもよい。
【0032】
本発明は、さらなる態様において、がんの治療のための医薬組成物の製造のための、生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)で処理された間葉系組織由来の接着性細胞の使用を提供する。
【0033】
本発明は、さらなる態様において、がんの治療に使用される、生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)で処理された間葉系組織由来の接着性細胞を提供する。
【0034】
本発明は、さらなる態様において、生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)で処理された間葉系組織由来の接着性細胞を対象に投与することを含む、がんの治療を必要とする対象におけるがんの治療方法を提供する。
【0035】
本発明は、さらにもう1つの態様において、
がんの治療のための医薬組成物の製造方法であって、下記工程:
(a)間葉系組織由来の接着性細胞を生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)で処理し、次いで、
(b)工程(a)にて処理された、TRAILを産生する間葉系組織由来の接着性細胞を医薬上許容される担体および/または賦形剤と混合する
を含む方法、を提供する。
【0036】
本発明は、さらなる態様において、本発明の医薬組成物の有効性を調べる方法を提供する。該方法は、がん細胞に請求項1~3のいずれか1項記載の医薬組成物を添加し、がん細胞の生存率または死滅率を調べることを含む。該方法は、がん患者から得られたがん細胞を用いてもよく、公知のがん細胞株を用いてもよい。培養がん細胞に本発明の医薬組成物を添加し、一定時間後に、例えばトリパンブルー染色等の公知の方法を用いてがん細胞の生存率または死滅率を調べることにより、該方法を実施してもよい。
【0037】
本発明は、さらなる態様において、本発明の医薬組成物の有効性を調べるためのキットを提供する。該キットは、生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)で処理された、TRAILを産生する間葉系組織由来の接着性細胞を含んでいてもよい。該キットはがん細胞の生存率または死滅率を調べるための手段を含んでいてもよい。
【0038】
本発明は、さらなる態様において、本発明の医薬組成物を用いるがんの治療の有効性を予測する方法を提供する。該方法は、がん細胞がデスレセプターを有しているかどうかを調べること、および/またはデスレセプターの量を調べることを含む。該方法において、デスレセプター4および/またはデスレセプター5の有無および/または量について調べることが好ましい。これらのレセプターの有無や量を調べる手段は公知であり、リアルタイムPCRや免疫染色などが例示される。がん細胞は、がん患者から取得されたものであってもよく、公知のがん細胞株であってもよい。がん患者からのがん細胞の取得方法は公知であり、生検、採血等が例示される。がん細胞におけるデスレセプター、特にデスレセプター4および/またはデスレセプター5の量が多いほど、本発明の医薬組成物を用いるがんの治療の有効性は高いと予測することができる。
【0039】
本発明は、さらなる態様において、本発明の医薬組成物を用いるがんの治療の有効性を予測するためのキットを提供する。該キットは、デスレセプター、特にデスレセプター4および/またはデスレセプター5の有無および/または量を調べるための手段を含む。例えば、該キットは、デスレセプター、特にデスレセプター4および/またはデスレセプター5遺伝子の発現を調べるためのRT-PCR用の試薬類および/または器具を含んでいてもよく、あるいはデスレセプター、特にデスレセプター4および/またはデスレセプター5に対する標識された抗体を含んでいてもよい。
【0040】
本発明は、さらなる態様において、生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)および医薬上許容される担体または賦形剤を含むがんの治療のための医薬組成物であって、がん関連線維芽細胞(CAF)に投与される医薬組成物を提供する。CAFは間葉系組織由来の接着性細胞の1種であり、がん微小環境の構成成分の1つである。CAFは、生理活性ポリペプチド等の上記因子が投与されるとTRAILの産生を増加させ、あるいはTRAILを産生するようになる。CAFはがん細胞に隣接しているか、あるいはその近傍に存在しているので、CAFがTRAILを産生すればがん細胞は効果的に死滅する。
【0041】
上記態様の医薬組成物をCAFに直接送達することが好ましい。該医薬組成物をがん患部に直接注射してもよい。また、CAFが有している細胞表面マーカーに特異的な抗体と生理活性ポリペプチドとの複合体を用いてもよく、あるいはLPS、二本鎖RNAまたはpoly(I:C)を含有するリポソームを該医薬組成物に用いてもよい。該複合体の例として、上記抗体と生理活性ポリペプチドとの融合タンパク質が挙げられる。
【0042】
本発明は、さらなる態様において、CAFに投与されるがんの治療のための医薬組成物の製造のための、生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)の使用を提供する。
【0043】
本発明は、さらなる態様において、がんの治療に使用され、使用に際してCAFに投与される、生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)を提供する。
【0044】
本発明は、さらなる態様において、生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)を対象のCAFに投与することを含む、がんの治療を必要とする対象におけるがんの治療方法を提供する。
【0045】
本発明は、さらなる態様において、TRAILを産生する間葉系組織由来の接着性細胞の製造方法を提供する。該方法は、間葉系組織由来の接着性細胞を生理活性ポリペプチド、LPS、dsRNAまたはpoly(I:C)で処理することを含む。該方法で得られた細胞は、がんの治療に使用することができる。
【0046】
本明細書中の用語は、特に断らない限り、医学、薬学、生物学、化学等の分野において通常に理解されている意味を有する。
【0047】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0048】
実施例1.生理活性ポリペプチドで処理された間葉系組織由来の接着性細胞のTRAIL発現増強効果
(1)実験方法
(i)試供細胞
試供細胞として、脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)、脂肪組織由来幹細胞(ADSC)、骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)、胎盤由来細胞(Placental derived Cells)および臍帯由来幹細胞(UC-MSC)を用いた。
(ii)ヒト対象からの脂肪組織の採取
インフォームドコンセントを受けた女性6人から脂肪吸引手術中に廃棄される余分な脂肪組織の分譲を受けた(米国CureLine社)。
(iii)脂肪組織由来幹細胞(ADSC)、骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)、胎盤由来細胞(Placental derived Cells)および臍帯由来幹細胞(UC-MSC)の入手
これらの細胞はLonza社より購入した。
【0049】
(iv) ADMPCの単離
脂肪組織を刻み、次に、0.008% リベレース(Roch Lifescience)含有ハンクス緩衝塩類溶液(HBSS)中、37℃のウォーターバスにて振盪しながら1時間消化した。消化産物をCell Strainer(BD Bioscience)で濾過し、800xgにて10分間遠心した。リンパ球分離液(d=1.077)(Nacalai tesque)を用い、比重法により赤血球を除去し、得られたADMPCを含む細胞集団を、10% ウシ胎児血清(Hyclone)を含むDMEM中に細胞を播種して細胞を付着させた後、洗浄し、EDTAで処理して、ADMPCを得た。
(v)脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)、脂肪組織由来幹細胞(ADSC)、骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)、胎盤由来細胞(Placental derived Cells)および臍帯由来幹細胞(UC-MSC)の培養
これらの細胞を、培地(60% DMEM-低グルコース、40% MCDB201、10μg/mL EGF、1nM デキサメサゾン、100μM アスコルビン酸、および5%FBS)にてヒトフィブロネクチンコートディッシュに播種し、3から8継代し、培養細胞を得た。
【0050】
(vi)IFN-β処理およびTRAIL発現強度の測定
IFN-βを、0ng/ml、2.5ng/ml、5ng/ml、10ng/ml、20ng/ml、40ng/mlとなるように、培地(60% DMEM-低グルコース、40% MCDB201、10μg/mL EGF、1nM デキサメサゾン、100μM アスコルビン酸、および5%FBS)に添加した。上で得られた培養細胞を、上記IFN-β含有培地にて72時間培養した。培地交換72時間後にRLT Buffer 600uLを添加して回収、RNA抽出した。
RLT Bufferサンプルは、RNeasy Mini Kit / QIAGENを用いて全RNAを抽出し、全RNAを100ng/uLになるように調製後、1アレイ当たり全RNA 150ngからラベルされたcRNAを合成した。合成したラベルされたcRNAは濃度、収量およびCy3取込率を算出し、合成サイズ(200-2000ntを増幅)を測定した。ラベルされたcRNA 600ngを60℃でフラグメンテーションを形成させ、65℃、17時間でハイブリダイゼーションを行い、アレイを洗浄してスキャンし、TRAILのプローブであるA_23_P121253)のnormalized intensityをプロットした結果を
図1に示す。
【0051】
(2)実験結果
図1からわかるように、脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)、脂肪組織由来幹細胞(ADSC)、骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)、胎盤由来細胞(Placental derived Cells)および臍帯由来幹細胞(UC-MSC)において、IFNβ処理によって濃度依存的にTRAIL発現が増加していた。IFNβ処理によるTRAIL発現増加は広く間葉系幹細胞および間葉系細胞に認められることが確認された。
【実施例2】
【0052】
実施例2.生理活性ポリペプチド処理による間葉系組織由来の接着性細胞のTRAIL産生
(1)実験方法
(i)試供細胞
試供細胞として、脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)、脂肪組織由来幹細胞(ADSC)、骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)および胎盤由来細胞(Placental derived Cells)を用いた。
(ii)ヒト対象からの脂肪組織の採取
インフォームドコンセントを受けた女性6人から脂肪吸引手術中に廃棄される余分な脂肪組織の分譲を受けた(米国CureLine社)。
(iii)脂肪組織由来幹細胞(ADSC)、骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)および胎盤由来細胞(Placental derived Cells)の入手
これらの細胞はLonza社より購入した。
【0053】
(iv) ADMPCの単離
脂肪組織を刻み、次に、0.008% リベレース(Roche Lifescience)含有ハンクス緩衝塩類溶液(HBSS)中、37℃のウォーターバスにて振盪しながら1時間消化した。消化産物をCell Strainer(BD Bioscience)で濾過し、800xgにて10分間遠心した。リンパ球分離液(d=1.077)(Nacalai tesque)を用い、比重法により赤血球を除去し、得られたADMPCを含む細胞集団を、10% ウシ胎児血清(Hyclone)を含むDMEM中に細胞を播種して細胞を付着させた後、洗浄し、EDTAで処理して、ADMPCを得た。
(v)脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)、脂肪組織由来幹細胞(ADSC)、骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)および胎盤由来細胞(Placental derived Cells)の培養
これらの細胞を、培地(60% DMEM-低グルコース、40% MCDB201、10μg/mL EGF、1nM デキサメサゾン、100μM アスコルビン酸、および5%FBS)にてヒトフィブロネクチンコートディッシュに播種し、3から8継代し、培養細胞を得た。
【0054】
(vi)IFN-β処理およびTRAIL産生量の測定
IFN-βを10ng/mlとなるように、培地(60% DMEM-低グルコース、40% MCDB201、10μg/mL EGF、1nM デキサメサゾン、100μM アスコルビン酸、および5%FBS)に添加した。上の(v)で得られた培養細胞を、上記IFN-β含有培地にて72時間培養した。無血清培地(60% DMEM-低グルコース、40% MCDB201、10μg/mL EGF、1nM デキサメサゾン、100μM アスコルビン酸、および2mg/mL BSA)にて24時間追加培養し、培地中に産生されたTRAILを測定した。コントロール系では、IFN-βを添加しない上記無血清培地で上記培養細胞を培養し、培地中のTRAILを測定した。TRAILの測定はR&D SYSTEMS社のELISAキット(TRAIL/TNFSF10 Quantikine ELISA Kit)を用いて行った。
【0055】
(2)実験結果
TRAIL産生量の測定結果を
図2に示す。IFN-β処理された脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)、脂肪組織由来幹細胞(ADSC)、骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)および胎盤由来細胞(Placental derived Cells)からTRAILが産生されることが確認された。臍帯由来幹細胞(UC-MSC)についても同様の結果を得た。一方、コントロール系では、これらの細胞からのTRAIL産生は確認されなかった。
【実施例3】
【0056】
実施例3.各種生理活性ポリペプチドによる間葉系組織由来の接着性細胞の処理効果
(1)実験方法
(i)試供細胞
試供細胞として、脂肪組織由来多系統前駆細胞(ADMPC)を用いた。生理活性ポリペプチドとしては各種のサイトカインおよびケモカインを用いた。
【0057】
(ii)生理活性ペプチド
生理活性ポリペプチドとしてサイトカイン(IL-1α、IL-1β、IL3~IL35、オンコスタチンM、LIF、CNTF、CT-1、TNFα、TNFβ、BAFF、FasL、RANKL、TRAIL、INF-α、IFN-β、IFN-γ)およびケモカイン(CCL1~CCL28、CXCL1~CXCL10)を用いた。
【0058】
(iii)生理活性ペプチドでの処理およびTRAIL発現強度の測定
試供細胞を、生理活性ペプチド添加培地(最終濃度100ng/mL)および生理活性ペプチド非添加培地(コントロール)にて培地交換を行い、更に3日間(72時間)継続培養を行った。培地交換72時間後にRLT Buffer 600uLを添加して回収、RNA抽出した。
RLT Bufferサンプルは、RNeasy Mini Kit / QIAGENを用いて全RNAを抽出し、全RNAを100ng/uLになるように調製後、1アレイ当たり全RNA 150ngからラベルされたcRNAを合成した。合成したラベルされたcRNAは濃度、収量およびCy3取込率を算出し、合成サイズ(200-2000ntを増幅)を測定した。ラベルされたcRNA 600ngを60℃でフラグメンテーションを形成させ、65℃、17時間でハイブリダイゼーションを行い、アレイを洗浄してスキャンし、TRAILのプローブであるA_23_P121253)のnormalized intensityをプロットした。
【0059】
(2)実験結果
結果を表1に示す。
【表1-1】
【表1-2】
【0060】
試験した大部分の生理活性ポリペプチドが細胞のTRAIL発現を増強することがわかった。IFNα、IFNβ、IFNγ、TNFα、TNFβ、IL-1α、IL-1βおよびオンコスタチンMのTRAIL発現増強効果が大きかった。なかでもIFNβ、IFNγ、TNFαのTRAIL発現増強効果が大きく、IFNβのTRAIL発現増強効果が最も大きかった。
【実施例4】
【0061】
実施例4.生理活性ポリペプチドで処理された間葉系組織由来の接着性細胞のインビボでの抗腫瘍効果
(1)実験方法
(i)IFN-β活性化ADMPCの調製
実施例2に記載した方法にて脂肪組織からADMPCを単離、培養し、IFN-βにて処理して、TRAILを産生するIFN-β活性化ADMPCを得た。
【0062】
(ii)インビボ実験
肺がん患者から同意を得て入手した肺がん細胞をヌードマウス腰背部に移植し、患者由来腫瘍移植マウス(PDXマウス)を作出した。肺がん細胞移植後24日目には肺がん細胞は腫瘤を形成した。形成した腫瘤を摘出し、3mm角にサイコロ状として、新たなヌードマウス腰背部に植え継ぎを行った。動物をA-Fの6群に分け、IFN-β活性化ADMPCを投与した。A群のマウスには、患者由来腫瘍移植片(PDX)植え継ぎと同時にIFN-β活性化ADMPCを経血管的に投与した。B群のマウスには、PDX植え継ぎ1週間後にIFN-β活性化ADMPCを経血管的に投与した。C群のマウスには、PDX植え継ぎと同時にIFN-β活性化ADMPCを腹腔内投与した。D群のマウスには、PDX植え継ぎ1週間後にIFN-β活性化ADMPCを腹腔内投与した。E群のマウスには、PDX植え継ぎ1週間後にIFN-β活性化ADMPCを腫瘤に直接投与した。F群のマウスは、PDX植え継ぎのみのコントロール群マウスであった。A群-E群における投与細胞数は、動物1匹あたり1x106個であった。PDX植え継ぎ後4週にて各マウスから腫瘤を摘出し、容量を測定し、写真を撮った。
【0063】
(2)実験結果
PDX植え継ぎ後4週にて各マウスから摘出した腫瘤の写真を
図3に示す。摘出した腫瘤の容量の平均値を
図4に示す。コントロール群(F群)と比較し、IFNβ活性化ADMPCを投与した群では、経血管的投与・腹腔内投与あるいは腫瘤直接投与のいずれでも腫瘤の縮小を認めた。これは、IFN-β活性化ADMPCが投与経路を選ばずに有効であることを示している。PDX植え継ぎ後1週間後に当該細胞を投与することで腫瘤の縮小を認めたことは、腫瘤治療を目的として当該細胞の投与が有用であることを示している。また、PDX植え継ぎと同時にIFN-β活性化ADMPCを投与しても縮小を認めたことは、周術期に当該細胞を投与することの有用性を示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、がんの治療薬の分野、がんの研究の分野等において利用可能である。