(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】ロータリーダンパ及びペダル装置
(51)【国際特許分類】
F16F 9/14 20060101AFI20240206BHJP
B60K 26/02 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
F16F9/14 A
B60K26/02
(21)【出願番号】P 2021043762
(22)【出願日】2021-03-17
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】519184930
【氏名又は名称】株式会社ソミックマネージメントホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【氏名又は名称】樺澤 襄
(72)【発明者】
【氏名】志村 良太
(72)【発明者】
【氏名】瀧中 宣明
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-220511(JP,A)
【文献】特開2004-052865(JP,A)
【文献】特開2008-039085(JP,A)
【文献】特開2003-327007(JP,A)
【文献】特開2001-310647(JP,A)
【文献】特開2010-188848(JP,A)
【文献】実開平06-063230(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00- 9/58
B60K 26/02
E05F 3/14
A47K 13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、このハウジングに回動可能に配置されたローターと、を備え、前記ローターの回動時に抵抗力を発生させるロータリーダンパであって、
前記ハウジングと前記ローターとの少なくともいずれかに形成され、予め設定された所定以上の荷重により破損してダンパ機能を無効化する弱部を有
し、
前記ローターは、
被接続部のシャフト部材が挿入接続される接続部と、
この接続部の外方に位置する周辺部と、を有し、
前記弱部は、前記接続部及び前記周辺部よりも薄肉状に形成され前記接続部と前記周辺部とを一体的に連結する連結弱部を備える
ことを特徴とするロータリーダンパ。
【請求項2】
ハウジングと、このハウジングに回動可能に配置されたローターと、を備え、前記ローターの回動時に抵抗力を発生させるロータリーダンパであって、
前記ハウジングと前記ローターとの少なくともいずれかに形成され、予め設定された所定以上の荷重により破損してダンパ機能を無効化する弱部を有し、
前記ローターは、被接続部のシャフト部材が挿入されてこのシャフト部材を回り止めする接続穴を有し、
前記弱部は、前記接続穴の外壁をなす外壁弱部を備える
ことを特徴とするロータリーダンパ。
【請求項3】
ハウジングと、このハウジングに回動可能に配置されたローターと、を備え、前記ローターの回動時に抵抗力を発生させるロータリーダンパであって、
前記ハウジングと前記ローターとの少なくともいずれかに形成され、予め設定された所定以上の荷重により破損してダンパ機能を無効化する弱部を有し、
前記ハウジングは、被取付部との間に亘り取付部材が挿入される取付穴を有し、
前記弱部は、前記取付穴の縁部と前記ハウジングの外殻とに亘り形成されている外殻弱部を備える
ことを特徴とするロータリーダンパ。
【請求項4】
ローターは、被接続部のシャフト部材が挿入されてこのシャフト部材を回り止めする接続穴を有し、
弱部は、前記接続穴の外壁をな
す外壁弱部を備える
ことを特徴とする請求項
1記載のロータリーダンパ。
【請求項5】
ハウジングは、被取付部との間に亘り取付部材が挿入される取付穴を有し、
弱部は、前記取付穴の縁部と前記ハウジングの外殻とに亘り形成されている
外殻弱部を備える
ことを特徴とする請求項1
、2または4記載のロータリーダンパ。
【請求項6】
ペダルアームと、
このペダルアームを回動可能に支持する支持ブラケットと、
請求項1ないし
5いずれか一記載のロータリーダンパと、を備え、
前記ペダルアームと前記支持ブラケットとのいずれか一方が、前記ロータリーダンパのハウジングが取り付けられる被取付部であり、前記ペダルアームと前記支持ブラケットとの他方が、前記ロータリーダンパのローターと接続される被接続部である
ことを特徴とするペダル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングにローターが回動可能に配置されるロータリーダンパ及びこれを備えたペダル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の自走式車両に用いられるブレーキペダルやアクセルペダルにおいて、戻り速度を低減したり踏力に抵抗力を与えたりするダンパが用いられている。このようなダンパにおいて、何らかの原因によって抵抗力が増大したときに、初期回動位置に戻らない不具合をなくすために、初期回動位置に復帰するためのばね等の復帰手段を複数設けたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-327007号公報(第4-6頁、
図1-2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の構成では、復帰手段が複数必要であるため大型化するという問題がある。このような問題は、自走式車両に用いられるペダル装置用のダンパに限らず、産業用機械器具等の他の機器に用いられるペダル装置のダンパでも同様に生じ得る。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、抵抗力が異常増大したときの初期回動位置への復帰が可能であり、かつ、小型に形成できるロータリーダンパ及びこれを備えたペダル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載のロータリーダンパは、ハウジングと、このハウジングに回動可能に配置されたローターと、を備え、前記ローターの回動時に抵抗力を発生させるロータリーダンパであって、前記ハウジングと前記ローターとの少なくともいずれかに形成され、予め設定された所定以上の荷重により破損してダンパ機能を無効化する弱部を有し、前記ローターは、被接続部のシャフト部材が挿入接続される接続部と、この接続部の外方に位置する周辺部と、を有し、前記弱部は、前記接続部及び前記周辺部よりも薄肉状に形成され前記接続部と前記周辺部とを一体的に連結する連結弱部を備えるものである。
【0007】
請求項2記載のロータリーダンパは、ハウジングと、このハウジングに回動可能に配置されたローターと、を備え、前記ローターの回動時に抵抗力を発生させるロータリーダンパであって、前記ハウジングと前記ローターとの少なくともいずれかに形成され、予め設定された所定以上の荷重により破損してダンパ機能を無効化する弱部を有し、前記ローターは、被接続部のシャフト部材が挿入されてこのシャフト部材を回り止めする接続穴を有し、前記弱部は、前記接続穴の外壁をなす外壁弱部を備えるものである。
【0008】
請求項3記載のロータリーダンパは、ハウジングと、このハウジングに回動可能に配置されたローターと、を備え、前記ローターの回動時に抵抗力を発生させるロータリーダンパであって、前記ハウジングと前記ローターとの少なくともいずれかに形成され、予め設定された所定以上の荷重により破損してダンパ機能を無効化する弱部を有し、前記ハウジングは、被取付部との間に亘り取付部材が挿入される取付穴を有し、前記弱部は、前記取付穴の縁部と前記ハウジングの外殻とに亘り形成されている外殻弱部を備えるものである。
【0009】
請求項4記載のロータリーダンパは、請求項1記載のロータリーダンパにおいて、ローターは、被接続部のシャフト部材が挿入されてこのシャフト部材を回り止めする接続穴を有し、弱部は、前記接続穴の外壁をなす外壁弱部を備えるものである。
【0010】
請求項5記載のロータリーダンパは、請求項1、2または4記載のロータリーダンパにおいて、ハウジングは、被取付部との間に亘り取付部材が挿入される取付穴を有し、弱部は、前記取付穴の縁部と前記ハウジングの外殻とに亘り形成されている外殻弱部を備えるものである。
【0011】
請求項6記載のペダル装置は、ペダルアームと、このペダルアームを回動可能に支持する支持ブラケットと、請求項1ないし5いずれか一記載のロータリーダンパと、を備え、前記ペダルアームと前記支持ブラケットとのいずれか一方が、前記ロータリーダンパのハウジングが取り付けられる被取付部であり、前記ペダルアームと前記支持ブラケットとの他方が、前記ロータリーダンパのローターと接続される被接続部であるものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載のロータリーダンパによれば、予め設定された所定以上の荷重により弱部の連結弱部が破損して接続部と周辺部とを切り離し接続部を空転させ、ダンパ機能を無効化することで、抵抗力が異常増大したときの初期回動位置への復帰が可能であり、かつ、初期回動位置へと復帰させるための復帰手段が簡素で済むため、小型に形成できる。
【0013】
請求項2記載のロータリーダンパによれば、予め設定された所定以上の荷重により弱部の外壁弱部が破損して接続穴を大きくしてシャフト部材を接続穴に対して空転させ、ダンパ機能を無効化することで、抵抗力が異常増大したときの初期回動位置への復帰が可能であり、かつ、初期回動位置へと復帰させるための復帰手段が簡素で済むため、小型に形成できる。
【0014】
請求項3記載のロータリーダンパによれば、予め設定された所定以上の荷重により弱部の外殻弱部が破損して取付穴の縁部とハウジングの外殻とを連通させて取付部材を取付穴から外れさせ、ダンパ機能を無効化することで、抵抗力が異常増大したときの初期回動位置への復帰が可能であり、かつ、初期回動位置へと復帰させるための復帰手段が簡素で済むため、小型に形成できる。
【0015】
請求項4記載のロータリーダンパによれば、請求項1記載のロータリーダンパの効果に加えて、弱部の外壁弱部の破損により接続穴を大きくしてシャフト部材を接続穴に対して空転させ、ダンパ機能を効果的に無効化できる。
【0016】
請求項5記載のロータリーダンパによれば、請求項1、2または4記載のロータリーダンパの効果に加えて、弱部の外殻弱部の破損により取付穴の縁部とハウジングの外殻とを連通させて取付部材を取付穴から外れさせ、ダンパ機能を効果的に無効化できる。
【0017】
請求項6記載のペダル装置によれば、ペダルアームを支持ブラケットに対して回動させる際の抵抗力をロータリーダンパによって容易に設定しつつ、ロータリーダンパの抵抗力が異常増大したときでも、ペダルアームを簡素な復帰手段によって容易に初期回動位置へと復帰させることが可能な小型のペダル装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施の形態のロータリーダンパを示し、(a)はその横断面図、(b)はその縦断面図である。
【
図2】同上ロータリーダンパを示し、(a)は正常時の一部を拡大して示す平面図、(b)は抵抗力が異常増大したときの一部を拡大して示す平面図である。
【
図4】同上ロータリーダンパの一方向への回動時の一部を拡大して示す横断面図である。
【
図5】同上ロータリーダンパの他方向への回動時の一部を拡大して示す横断面図である。
【
図6】同上ロータリーダンパを備えるペダル装置の一例を示す斜視図である。
【
図7】本発明の第2の実施の形態のロータリーダンパを示し、(a)は正常時の一部を拡大して示す平面図、(b)は抵抗力が異常増大したときの一部を拡大して示す平面図である。
【
図8】同上ロータリーダンパのローターを示し、(a)はその平面図、(b)はその縦断面図である。
【
図9】本発明の第3の実施の形態のロータリーダンパを示し、(a)は正常時の一部を拡大して示す平面図、(b)は抵抗力が異常増大したときの一部を拡大して示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の第1の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
図1(a)、
図1(b)、及び、
図3において、10はロータリーダンパである。ロータリーダンパ10は、回動可能部分に直接または間接に取り付けられ、回動可能部分が回動する際の運動エネルギを減衰させる減衰装置である。
【0021】
ロータリーダンパ10は、概略として、ハウジング12と、回動自在のローター13と、を備える。さらに、本実施の形態において、ロータリーダンパ10は、バルブ14と、付勢手段15と、をさらに備える。そして、本実施の形態のロータリーダンパ10は、ハウジング12内部に封止された流体(粘性流体)であるシリコーンオイル16によりローター13の回動時の抵抗力(トルク)を発生させるものであって、図示される例では、シリコーンオイル16の圧力を利用して回動時の抵抗力(トルク)を発生させる油圧式ダンパ(圧力式ダンパ)である。
【0022】
ハウジング12は、ローター13を回動自在に保持しつつロータリーダンパ10の筐体を構成する部品である。ハウジング12は、例えば、アルミニウム材、鉄材、亜鉛材等の金属部材、あるいはポリアミド樹脂等の樹脂材により形成されている。
【0023】
ハウジング12は、一のハウジング部材であるハウジング本体部17と、このハウジング本体部17に取り付けられる他のハウジング部材である蓋体18と、を有する。ハウジング12の内部に、ローター13、バルブ14、及び、付勢手段15が収容される。
【0024】
図1(a)及び
図1(b)に示すように、ハウジング本体部17は、略有底円筒状に形成されている。本実施の形態のハウジング本体部17は、径寸法よりも軸方向寸法が小さい扁平な略有底円筒状に形成されている。ハウジング本体部17は、底面部20と、底面部20の外縁から立ち上がる側壁部21と、底面部20と側壁部21とに亘り形成された隔壁部22と、を有する。
【0025】
底面部20は、ローター13が軸方向に重ねられる部分である。底面部20は、円形の平面状に形成されている。底面部20の中央部には、円形状の穴部24が形成されている。また、底面部20には、穴部24の周縁部から、円筒状またはボス状の軸支持部25が立ち上がって形成されている。軸支持部25は、ローター13を軸方向の一方側から回動可能に支持する。軸支持部25は、底面部20と同軸状に配置されている。
【0026】
側壁部21は、円筒状に形成されている。側壁部21は、軸支持部25よりも底面部20からの突出寸法が大きい。側壁部21の先端部には、蓋体18を受ける受け部27が形成されている。受け部27は、側壁部21の全周に亘り形成されている。受け部27は、側壁部21に対し、内周側と外周側とに拡大されて形成されている。受け部27には、全周に亘り溝部27aが形成されている。溝部27aには、ハウジング本体部17と蓋体18との隙間を閉塞してシリコーンオイル16の漏出を防止するシール部材28が取り付けられる。また、側壁部21には、ロータリーダンパ10を被取付部に取り付けるための取付部29が形成されている。取付部29は、側壁部21の外周面から外方にフランジ状に突出して形成されている。取付部29には、ボルトあるいは螺子等の取付部材が挿入される取付穴30が形成されている。
【0027】
隔壁部22は、固定ベーンとも呼ばれ、側壁部21の内周面から中心側に向かって突出し、底面部20に連なっている。隔壁部22は、側壁部21の内周面と連なる基端部に対して、先端部側へと徐々に幅狭となるように形成されている。隔壁部22の先端部は、軸支持部25の外周面に対して離れて対向している。隔壁部22の先端部は、軸支持部25と同軸の円弧面となっている。本実施の形態において、隔壁部22は、複数設定されている。図示される例では、隔壁部22は、三つ設定されている。隔壁部22は、周方向に互いに異なる位置に配置されている。本実施の形態において、隔壁部22は、周方向に互いに等角度の位置にそれぞれ離間されて配置されている。隔壁部22,22間に、シリコーンオイル16が充填される室である油室33がそれぞれ形成される。つまり、本実施の形態において、油室33は、三つ設定されている。
【0028】
蓋体18は、略有蓋円筒状に形成されている。本実施の形態の蓋体18は、径寸法よりも軸方向寸法が小さい扁平な略有蓋円筒状に形成されている。蓋体18は、主面部35と、主面部35の外縁に形成された係止部36と、を有する。
【0029】
主面部35は、ローター13が軸方向に重ねられる部分である。主面部35は、円形の平面状に形成されている。主面部35の中央部には、円形状の穴部38が形成されている。また、主面部35には、穴部38の周縁部から、円筒状またはボス状の軸支持部39が立ち上がって形成されている。軸支持部39は、ローター13を軸方向の他方側から回動可能に支持する。軸支持部39は、主面部35と同軸状に配置されている。軸支持部39は、ハウジング本体部17の軸支持部25とともに、ローター13を軸方向に挟み込む部分である。本実施の形態において、軸支持部39,25は、略同径に形成されている。
【0030】
係止部36は、蓋体18をハウジング本体部17に係止する部分である。本実施の形態において、係止部36は、ハウジング本体部17の受け部27に対して係止される部分である。係止部36は、主面部35の外縁から立ち上がって形成されているとともに、先端部が蓋体18の中心側に向かってカシメされて、受け部27の裏側に引っ掛けられるようになっている。
【0031】
ローター13は、被接続部材と接続されて、ハウジング12に対して相対的に回動する部分である。ローター13は、円筒状のローター本体部42と、区画部43と、を有する。
【0032】
ローター本体部42は、ハウジング12の隔壁部22の先端部に対して外周面が当接し、隔壁部22とともに油室33を形成する。このローター本体部42の外周面は、ローター13の回動時に隔壁部22の先端部と摺接する部分である。すなわち、隔壁部22が、ローター13のローター本体部42の外周部を軸方向に見て相異なる三点以上の位置、本実施の形態では相異なる三点の位置で支持する軸受け部となっている。つまり、隔壁部22によって、ローター13のローター本体部42が外周側から支持されている。ローター本体部42の外周面と隔壁部22の先端部との接触により、これらローター本体部42と隔壁部22との間が略液密にシールされている。
【0033】
ローター本体部42は、被接続部材が挿入接続される接続穴45を中央部に備える。接続穴45は、多角形状、すなわち中心部からの距離が異なる複数の領域を有する形状に形成されており、被接続部材を回り止めする。本実施の形態において、接続穴45は、例えば六角形状に形成されている。接続穴45は、穴部24,38を介して、ハウジング12の外部に露出している。
【0034】
ローター本体部42には、ローター13とハウジング12との隙間を閉塞してシリコーンオイル16の漏出を防止する(一及び他の)シール部材47,48が取り付けられている。
【0035】
シール部材47は、ローター本体部42の軸方向の一方側に取り付けられ、ローター13とハウジング12のハウジング本体部17との隙間を閉塞する。また、シール部材48は、ローター本体部42の軸方向の他方側に取り付けられ、ローター13とハウジング12の蓋体18との隙間を閉塞する。
【0036】
本実施の形態において、シール部材47,48は、(一及び他の)シール装着溝部49,50に装着される。
【0037】
シール装着溝部49は、ローター本体部42の軸方向の一方側にてローター本体部42の接続穴45の外方に円環状に形成されている。また、シール装着溝部50は、ローター本体部42の軸方向の他方側にてローター本体部42の接続穴45の外方に円環状に形成されている。
【0038】
したがって、本実施の形態において、シール部材47,48は、ローター13の軸受け部として作用する隔壁部22及びローター本体部42(ローター13)に対して並列、すなわち同心状に位置する。
【0039】
また、本実施の形態において、ローター本体部42は、接続穴45が形成される接続部51と、この接続部51の外方に位置する周辺部52と、を備える。接続部51は、ローター本体部42の中央部に位置するものである。接続部51は、外周側が円筒状に形成されている。周辺部52は、接続部51を囲んで形成されている。周辺部52は、区画部43と一体的に形成されている。接続部51と周辺部52との間には、ハウジング12を受ける溝部としてのハウジング受け部53が形成されている。ハウジング受け部53は、ローター本体部42を軸方向に貫通する溝状となっており、シール装着溝部49,50に連なって溝状に形成されている。すなわち、ハウジング受け部53を介して、接続部51と周辺部52とが互いに径方向に離れている。ハウジング受け部53には、軸支持部25,39の先端部が嵌合される。
【0040】
ハウジング受け部53には、接続部51と周辺部52とを連結する弱部54が形成されている。弱部54は、予め設定された所定以上の荷重(トルク)によって破損してダンパ機能を無効化または喪失させる部分である。弱部54は、接続部51及び周辺部52よりも薄肉状に形成されている。つまり、ローター13(ロータリーダンパ10)の軸方向における弱部54の厚みは、接続部51の厚み及び周辺部52の厚みよりもそれぞれ小さく設定されている。弱部54とハウジング受け部53とにより、ローター本体部42の軸方向において接続部51の周辺の軸方向の断面積が小さくなっている。本実施の形態において、弱部54は、複数形成されている。図示される例では、弱部54は、ハウジング受け部53において周方向に複数、互いに離れて配置されている。好ましくは、弱部54は、周方向に等配されている。本実施の形態において、弱部54は、接続穴45の形状の頂点部(角部)を避け、接続穴45の辺部の外方に沿って位置する。弱部54の周方向の長さと比較して、弱部54間のハウジング受け部53の長さが大きく設定されている。
【0041】
区画部43は、可動ベーンとも呼ばれ、油室33を一方の室33aと他方の室33bとの二室に区画する部分である。区画部43は、ローター本体部42の外周面から径方向に放射状に突出する羽根状となっている。本実施の形態において、区画部43は、ハウジング12の隔壁部22と同数の三つ以上設定されている。好ましくは、区画部43は、三つ設定されている。すなわち、本実施の形態のロータリーダンパ10は、トリプルベーン構造を有する。区画部43は、周方向に互いに異なる位置に配置されている。本実施の形態において、区画部43は、周方向に互いに等角度の位置にそれぞれ離間されて配置されている。
【0042】
図示される例では、区画部43の先端部は、ハウジング12の内面、本実施の形態ではハウジング本体部17の側壁部21の内周面に対して径方向に離れて位置する。区画部43の先端部には、バルブ14を移動可能に受ける受け溝部55が形成されている。受け溝部55とハウジング12の内面との間が、区画部43により区画された油室33内の一方の室33aと他方の室33bとを連通してバルブ14により開閉される連通部56となっている。受け溝部55は、径方向に対して交差する方向に延びる面状に形成されている。本実施の形態において、受け溝部55は、周方向に対して傾斜する平面状に形成されている。受け溝部55は、シリコーンオイル16の圧縮により抵抗力(トルク)を生じさせる方向に応じて、周方向に対する傾斜が設定されている。図示される例では、受け溝部55は、
図1(a)における反時計回り方向に向かってハウジング12の内面に徐々に接近するように傾斜されている。
【0043】
また、受け溝部55に隣接して、バルブ14の位置を規制する規制部58が形成されている。規制部58は、受け溝部55において、ハウジング12の内面から最も遠い位置にて区画部43の先端部から径方向に延びて形成されている。
図1(a)に示される例では、規制部58は、受け溝部55の時計回り側の縁部に位置している。
【0044】
バルブ14は、ローター13の回動方向に応じて隔壁部22,22間の油室33でのシリコーンオイル16の方向を切り換える弁体である。本実施の形態において、バルブ14は、軸方向と平行な稜線が湾曲された三角柱状に形成されている。バルブ14は、一側面が受け溝部55に密着され、その一側面に対向する稜線側がハウジング12の内面に対向するように配置されている。つまり、バルブ14は、受け溝部55に対して一側面を密着させた状態で受け溝部55に沿って移動可能に配置されている。バルブ14には、シリコーンオイル16を通過させるオリフィスとして作用する溝が稜線部分に形成されていてもよい。
【0045】
付勢手段15は、バルブ14を連通部56の閉方向に付勢して、シリコーンオイル16の流動がない状態でバルブ14をハウジング12の内面に押圧する。付勢手段15は、例えば板ばね等の弾性部材が用いられる。付勢手段15は、ローター13に取り付けられている。本実施の形態において、付勢手段15は、基端部が区画部43に形成された付勢手段取付部61に保持され、先端部がバルブ14に圧接されている。図示される例では、付勢手段15は、規制部58を基準としてバルブ14とは反対側から、バルブ14を
図1(a)における反時計回り側から時計回り方向へと付勢している。
【0046】
そして、第1の実施の形態のロータリーダンパ10の作用について説明する。
【0047】
ロータリーダンパ10は、ローター13のシール装着溝部49,50にシール部材47,48を予め取り付けるとともに、付勢手段取付部61に付勢手段15の基端部を取り付け、このローター13をハウジング本体部17に組み付けるとともに、ローター13とハウジング本体部17との間にてローター13の受け溝部55にバルブ14を組み付ける。そして、油室33にシリコーンオイル16を充填し、蓋体18を被せてハウジング本体部17にカシメをすることで、ロータリーダンパ10が完成される。
【0048】
ロータリーダンパ10は、非回動状態では、付勢手段15によりバルブ14がハウジング12の内面に押し付けられ、連通部56を閉塞した状態となっており、油室33内にシリコーンオイル16が保持される。
【0049】
接続穴45に接続された回動部材が回動すると、その回動に伴いローター13がハウジング12に対して相対的に回動する。
【0050】
例えば、ローター13がハウジング12に対して一方向、例えば
図4に示す時計回り方向に回動する場合には、シリコーンオイル16の圧力を受けるとともに付勢手段15によりハウジング12の内面に押し付けられたバルブ14が連通部56を閉塞することで、区画部43により区画された油室33内を一方の室33aから他方の室33bに連通部56からシリコーンオイル16が殆ど通過せず、一方の室33aのシリコーンオイル16が圧縮され、この圧縮に伴い、一方の室33aのシリコーンオイル16がハウジング12とローター13との間の僅かな隙間あるいはバルブ14に形成されたオリフィスから他方の室33bへと通過するため、一方の室33aのシリコーンオイル16の圧力が高くなり、区画部43に作用するシリコーンオイル16の抵抗が大きくなるので、大きな抵抗力(トルク)が発生する。したがって、ローター13の回動速度が減速される。
【0051】
一方、ローター13がハウジング12に対して他方向、例えば
図5に示す反時計回り方向に回動する場合には、シリコーンオイル16の圧力を受けるバルブ14により付勢手段15が付勢に抗して押し下げられ、バルブ14が受け溝部55に沿って規制部58側へと移動することで、バルブ14がハウジング12の内面から離れることで連通部56が開き、区画部43により区画された油室33内を他方の室33bから一方の室33aに連通部56からシリコーンオイル16が通過することで、シリコーンオイル16が殆ど圧縮されないため、他方の室33bと一方の室33aとでシリコーンオイル16の圧力差が大きくならず、区画部43に作用するシリコーンオイル16の抵抗が大きくならないので、抵抗力(トルク)が殆ど発生しない。
【0052】
このように、本実施の形態のロータリーダンパ10は、一方向への回動時に他方向への回動時よりも大きい抵抗力(トルク)が発生する、すなわち一方向の回動にヒステリシス特性をもった抵抗力(トルク)を与える、いわゆるワンウェイのダンパとして作用する。
【0053】
例えば、本実施の形態において、ロータリーダンパ10は、
図6に示すペダル装置65に用いられる。ペダル装置65は、アームであるペダルアーム67と、その先端部に位置する作用部であるペダルプレート68と、ペダルアーム67を回動可能に支持する支持体である支持ブラケット69と、を有する。そして、ペダルプレート68の踏み込みにより回動したペダルアーム67の変位に応じて、ブレーキあるいはアクセル等の機構が動作される。また、ペダルアーム67は、リターンスプリング等のペダル付勢手段70により復帰方向に付勢される。
【0054】
図示される例では、ロータリーダンパ10のハウジング12が取付部材72によりペダルアーム67に取り付けられる。取付部材72は、ハウジング12の取付穴30に挿入され、ハウジング12とペダルアーム67とを互いに固定する。すなわち、本実施の形態においては、ペダルアーム67が、ハウジング12が取り付けられる被取付部である。また、ロータリーダンパ10のローター13に対して、接続穴45(
図1)にシャフト部材74が挿入されて支持ブラケット69が接続される。すなわち、本実施の形態において、支持ブラケット69が、ローター13と接続される被接続部である。シャフト部材74がペダルアーム67の回動軸となる。
【0055】
このようにペダル装置65に組み込まれたロータリーダンパ10は、ペダルプレート68を踏み込む際には基本的に抵抗力(トルク)を発生させず、ペダル付勢手段70の付勢によりペダルアーム67が復帰する際には大きな抵抗力(トルク)を発生させることで、ペダルアーム67の位置を規制するストッパとの衝突により生じる衝撃を低減する減速機構として作用する。
【0056】
なお、これに限らず、ロータリーダンパ10は、例えば自動車におけるシートのリクライニング機構、テールゲート、アームレスト、オットマン、タンブルシート等に用いられてもよい。
【0057】
そして、何らかの原因でロータリーダンパ10の抵抗力(トルク)が増大した場合には、予め設定された所定以上の荷重を入力すると、
図2(a)に示す状態から、
図2(b)に示すように弱部54がせん断により破損することで、ローター13のローター本体部42の接続部51が周辺部52に対して切り離され、シャフト部材74と接続された接続部51が空転する。そのため、ペダル付勢手段70の付勢により復帰方向に付勢されて、初期回動位置に復帰可能となる。
【0058】
このように、第1の実施の形態によれば、ロータリーダンパ10は、予め設定された所定以上の荷重により弱部54が破損してダンパ機能を無効化することで、抵抗力が異常増大したときの初期回動位置への復帰が可能なフェールセーフ機能を容易に実現でき、かつ、初期回動位置へと復帰させるための復帰手段が例えば一つのペダル付勢手段70等の簡素なもので済むため、小型に形成できる。
【0059】
本実施の形態のロータリーダンパ10は、ローター13の一方向への回動時にその反対の他方向への回動時よりも大きい抵抗力を発生させるものであるため、ローター13の一方向への回動時の抵抗力が異常増大したときの他方向への復帰が容易に可能になる。
【0060】
また、シリコーンオイル16により抵抗力を発生させる油圧式のロータリーダンパ10において、抵抗力が異常増大したときのフェールセーフ機能を持たせることができる。
【0061】
ペダルアーム67等の被接続部と接続される接続部51と接続部51の外方に位置する周辺部52とを弱部54により連結することで、弱部54の破損により接続部51と周辺部52とを切り離して接続部51を空転させ、ダンパ機能を効果的に無効化できる。また、弱部54の形状(厚み)や数を設定することで、弱部54が破損する荷重を容易に調整できる。しかも、弱部54は、ローター13の成形時に同時に形成できるため、弱部54を形成するための工程が別途不要であり、安価に製造できる。
【0062】
そして、ペダルアーム67を支持ブラケット69に対して回動させる際の抵抗力をロータリーダンパ10によって容易に設定しつつ、ロータリーダンパ10の抵抗力が異常増大したときでも、ペダルアーム67を簡素な復帰手段(ペダル付勢手段70)によって容易に初期回動位置へと復帰させることが可能な小型のペダル装置65を提供できる。また、仮にロータリーダンパ10の弱部54が抵抗力の異常増大により破損したとしても、ロータリーダンパ10のみを交換するだけでペダル装置65としてそのまま継続して使用できる。
【0063】
次に、第2の実施の形態について
図7及び
図8を参照して説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成及び作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0064】
図8(a)及び
図8(b)に示すように、本実施の形態において、ローター13は、ローター本体部42の接続部51と周辺部52とが連なって形成され、これらの間にハウジング受け部76,77が溝状に形成されている。
【0065】
また、接続部51には、接続穴45の周囲に弱部79が形成されている。弱部79は、接続部51を軸方向に貫通する肉抜き穴部80により径方向に薄肉状に形成されている。つまり、接続穴45の外壁が弱部79によって形成されている。本実施の形態において、弱部79は、接続穴45の辺部の外壁を構成している。
【0066】
そして、何らかの原因でロータリーダンパ10の抵抗力(トルク)が増大した場合には、予め設定された所定以上の荷重を入力すると、
図7(a)に示す状態から
図7(b)に示すように弱部79が破損することで、接続穴45が拡大されて回り止め機能を喪失し、シャフト部材74が接続部51(ローター本体部42)に対して空転する。
【0067】
このように、予め設定された所定以上の荷重により弱部79が破損してダンパ機能を無効化する等、上記の第1の実施の形態と同様の構成を有することにより、ロータリーダンパ10が、抵抗力が異常増大したときの初期回動位置への復帰が可能であり、かつ、ロータリーダンパ10を小型に形成できる等、上記の第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0068】
シャフト部材74を回り止めする接続穴45の外壁を弱部79により形成することで、弱部79の破損により接続穴45を大きくしてシャフト部材74を接続穴45に対して空転させ、ダンパ機能を効果的に無効化できる。また、弱部79の厚み(肉抜き穴部80の大きさ)や弱部79の数を設定することで、弱部79が破損する荷重を容易に調整できる。しかも、弱部79は、ローター13の成形時に同時に形成できるため、弱部54を形成するための工程が別途不要であり、安価に製造できる。
【0069】
次に、第3の実施の形態について
図9を参照して説明する。なお、各実施の形態と同様の構成及び作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0070】
図9(a)に示すように、本実施の形態において、ハウジング12には、ハウジング本体部17の取付部29の取付穴30と取付部29の外殻とに亘り、弱部82が形成されている。
【0071】
図示される例では、ハウジング12の取付部29の外殻を切り欠いて凹部83が形成されており、取付部29において凹部83と取付穴30との間の薄肉部分が弱部82となっている。本実施形態において、凹部83は、半円形状に切り欠き形成されている。また、図示される例では、凹部83は、取付穴30の両側に形成されているが、初期回動位置に復帰させる際の回転方向に応じていずれか一側のみに形成されていてもよい。
【0072】
そして、何らかの原因でロータリーダンパ10の抵抗力(トルク)が増大した場合には、予め設定された所定以上の荷重を入力すると、
図9(a)に示す状態から
図9(b)に示すように弱部82が破損することで、取付穴30に挿入された取付部材72が取付穴30から外れてハウジング12がペダルアーム67から離脱し、ロータリーダンパ10全体がシャフト部材74と一体的にペダルアーム67に対して空転する。
【0073】
このように、予め設定された所定以上の荷重により弱部82が破損してダンパ機能を無効化する等、上記の各実施の形態と同様の構成を有することにより、ロータリーダンパ10が、抵抗力が異常増大したときの初期回動位置への復帰が可能であり、かつ、ロータリーダンパ10を小型に形成できる等、上記の各実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0074】
取付部材72が挿入される取付穴30の縁部とハウジング12の外殻とに亘り弱部82を形成することで、弱部82の破損により取付穴30の縁部とハウジング12(取付部29)の外殻とを連通させて取付部材72を取付穴30から外れさせ、ダンパ機能を効果的に無効化できる。また、弱部82の厚み(凹部83の形状や大きさ)を設定することで、弱部54が破損する荷重を容易に調整できる。しかも、弱部82は、ハウジング12(ハウジング本体部17)の成形時に同時に形成できるため、弱部82を形成するための工程が別途不要であり、安価に製造できる。
【0075】
なお、各実施の形態において、各実施の形態を任意に組み合わせてもよい。
【0076】
また、ペダルアーム67をロータリーダンパ10のハウジング12が取り付けられる被取付部、支持ブラケット69をロータリーダンパ10のローター13と接続される被接続部としたが、支持ブラケット69をロータリーダンパ10のハウジング12が取り付けられる被取付部、ペダルアーム67をロータリーダンパ10のローター13と接続される被接続部としてもよい。
【0077】
さらに、ペダル装置は、自走式車両に用いられるものに限らず、産業用機械器具の各種操作ペダルに用いられるものでもよい。
【0078】
また、弱部は、ハウジング12に対するローター13の回動時に生じる抵抗力による反力が生じる部分に形成されていれば、上記の各実施の形態の箇所に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、例えば自走用車両のブレーキペダルや工作機械等の産業用機械器具の各種操作ペダルの復帰時のストッパとの衝突により生じる衝撃を低減するダンパとして好適に用いられる。
【符号の説明】
【0080】
10 ロータリーダンパ
12 ハウジング
13 ローター
30 取付穴
45 接続穴
51 接続部
52 周辺部
54,79,82 弱部
65 ペダル装置
67 被取付部としてのペダルアーム
69 被接続部としての支持ブラケット
72 取付部材
74 シャフト部材