(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】成型食品及びその製造方法、水分変動防止用コーティング剤並びにコーティング食品
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20240206BHJP
A21D 15/00 20060101ALI20240206BHJP
A23G 3/36 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
A23L5/00 A
A21D15/00
A23G3/36
(21)【出願番号】P 2018041758
(22)【出願日】2018-03-08
【審査請求日】2020-12-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000000228
【氏名又は名称】江崎グリコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 峰峰
【合議体】
【審判長】磯貝 香苗
【審判官】中村 和正
【審判官】天野 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/038215(WO,A1)
【文献】特表2004-508062(JP,A)
【文献】特開2010-131010(JP,A)
【文献】特開2007-130018(JP,A)
【文献】特開平10-243777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品原料素材と結着剤を含む成形食品であって、前記食品原料素材が穀類、豆類及び芋類の粉体、ライスフレーク、コーンフレーク、シリアル類、ナッツ類、フルーツ及び/又は野菜の加工品、蛋白質、非水溶性食物繊維、ビタミン、ミネラルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、前記結着剤が難消化性デキストリン、難消化性グルカン、ハイアミロースコーンスターチ、リン酸架橋耐性澱粉、ポリデキストロース、グアーガム酵素分解物からなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性食物繊維であり、成型食品全体の固形分を100質量%とした場合における結着剤の含有量は、20質量%~40質量%である、成型食品
(ただし、低粘性の水溶性食物繊維7~50重量%と、ヒドロキシプロピル基の平均置換度が0.02~0.2である澱粉類50~93重量%からなる食物繊維強化用組成物が、食品中に6~45重量%含有されて成ることを特徴とする食物繊維強化食品を除く)。
【請求項2】
水溶性食物繊維が隣接する食品原料素材の界面に存在し、水溶性食物繊維により食品原料素材が結着している、請求項1に記載の成型食品。
【請求項3】
結着剤が少なくとも1種の粉末状の水溶性食物繊維と少なくとも1種のシロップ状の水溶性食物繊維を含む、請求項1又は2に記載の成型食品。
【請求項4】
食品原料素材と結着剤を混合する工程、得られた混合物を成型する工程を含み、前記食品原料素材が穀類、豆類及び芋類の粉体、ライスフレーク、コーンフレーク、シリアル類、ナッツ類、フルーツ及び/又は野菜の加工品、蛋白質、非水溶性食物繊維、ビタミン、ミネラルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、前記結着剤が難消化性デキストリン、難消化性グルカン、ハイアミロースコーンスターチ、リン酸架橋耐性澱粉、ポリデキストロース、グアーガム酵素分解物からなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶性食物繊維であり、成型食品全体の固形分を100質量%とした場合における水溶性食物繊維の含有量は、20質量%~40質量%である、成型食品の製造方法
(ただし、低粘性の水溶性食物繊維7~50重量%と、ヒドロキシプロピル基の平均置換度が0.02~0.2である澱粉類50~93重量%からなる食物繊維強化用組成物が、食品中に6~45重量%含有されて成ることを特徴とする食物繊維強化食品の製造方法を除く)。
【請求項5】
食品原料素材と少なくとも1種の粉末状の水溶性食物繊維と少なくとも1種のシロップ状の水溶性食物繊維を混合する工程、得られた混合物を成型する工程を含み、前記食品原料素材が穀類、豆類及び芋類の粉体、ライスフレーク、コーンフレーク、シリアル類、ナッツ類、フルーツ及び/又は野菜の加工品、蛋白質、非水溶性食物繊維、ビタミン、ミネラルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、前記水溶性食物繊維が難消化性デキストリン、難消化性グルカン、ハイアミロースコーンスターチ、リン酸架橋耐性澱粉、ポリデキストロース、グアーガム酵素分解物からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、成型食品全体の固形分を100質量%とした場合における水溶性食物繊維の含有量は、20質量%~40質量%である、請求項4に記載の成型食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型食品及びその製造方法、水分変動防止用コーティング剤並びにコーティング食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品原料素材として、グラノーラ、パフ類、ナッツ類、フルーツ素材等や、蛋白質、食物繊維、ビタミン、ミネラルのような栄養強化素材を主原料とし、糖質を主成分とするシロップを結着剤として使用して一定の形状に成型した成型食品が提案されている(特許文献1)。結着剤としてシロップを使用すると、結着力が弱い、保型性が悪い、吸湿し易い、甘さが強い等の問題がある。
【0003】
成型時に強い力で圧着させると結着力が増すが、成型食品の密度が高く、硬い食感となり、また食品原料素材そのものが持つ食感や外観による素材感も失われてしまう。
【0004】
特許文献2は、難消化性デキストリンやポリデキストロース等の水溶性食物繊維と、アルギン酸塩や寒天等の増粘多糖類を一定の比率で含有する水溶性食物繊維含有組成物を提案しており、食パン製造時の製パン適性、外観、食感、風味の改善効果等を示している。
【0005】
特許文献3は、植物発酵物と水溶性食物繊維を含む粒子を含む錠剤を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-289369号公報
【文献】特開2006-254901号公報
【文献】特開2016-195557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、吸湿による結着力の低下及び手指や歯への付着がなく、吸湿した結着剤から原料への水分移行による食感変化、栄養強化素材の栄養成分の変化(低下・消失)等の問題のない成型食品を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、食品の風味や食感の低下がなく、長期保存が可能なコーティング剤及びコーティング食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の成型食品及びその製造方法、水分変動防止用コーティング剤並びにコーティング食品を提供するものである。
項1. 食品原料素材と結着剤を含み、前記結着剤が水溶性食物繊維である、成型食品。
項2. 水溶性食物繊維が難消化性デキストリン、イヌリン、ハイアミロースコーンスターチ、リン酸架橋耐性澱粉、ポリデキストロース、イソマルトデキストリン、グアーガム酵素分解物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1に記載の成型食品。
項3. 食品原料素材が、穀類、豆類及び芋類の粉体、ライスフレーク、コーンフレーク、シリアル類、ナッツ類、フルーツ及び/又は野菜の加工品、蛋白質、非水溶性食物繊維、ビタミン、ミネラルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、項1又は2に記載の成型食品。
項4. 水溶性食物繊維が隣接する食品原料素材の界面に存在し、水溶性食物繊維により食品原料素材が結着している、項1~3のいずれか1項に記載の成型食品。
項5. 食品原料素材とシロップ状の水溶性食物繊維を混合する工程、得られた混合物を成型する工程を含む、成型食品の製造方法。
項6. 水溶性食物繊維を含む水分変動防止用コーティング剤。
項7. 水溶性食物繊維層を有するコーティング食品。
【発明の効果】
【0010】
国内外共に健康志向が高まり、機能性を有する食品素材への注目度が増しており、そのような食品素材のひとつに食物繊維が挙げられる。食物繊維は、様々な生理機能を有しており、その機能性を訴求した食品が多数上市されている。但し、機能性が期待出来る必要量を食品から摂取することは難しく、例えばビスケット等のベーカリー食品では、食品1食分あたりで必要な食物繊維を添加すると、食感や風味等の品質低下に限らず、物性変化も大きく、生産性の低下を招いていた。そのため、食物繊維の機能性を訴求した上市食品のほとんどが、1食分あたりの質量や容量の多い飲料(飲料用途の粉末食品含む)に限られていた。
【0011】
食物繊維を結着剤として用いた本発明の成型食品によれば、携帯に適し、保存性に優れ、簡便に即食出来る、食事代替食品による食物繊維摂取が可能になる。
【0012】
また、水溶性食物繊維を含むコーティング剤は、水分変動防止コーティング剤として優れており、ビスケット、せんべい、おかき、クッキー、クラッカーなどの吸湿性を有する食品を水溶性食物繊維層でコーティングすることで、これら食品を空気中に長時間放置した場合であっても乾燥状態を長く保つことができる。また、パン、ケーキなどにコーティングした場合には、これらの食品の乾燥を防止することができる。さらに、冷凍食品の表面にコーティングした場合には、電子レンジで加熱した場合にも表面、内部の乾燥を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、食品原料素材としては、水溶性食物繊維を含む結着剤によって結着され得るものであれば特に制限は無いが、例えば、穀類(コメ、トウモロコシ、小麦、オオ麦、モチ麦、ライ麦、カラス麦、オーツ麦、ハト麦、キビ、アワ、ヒエ、ソバ、キヌアなど)、豆類(大豆、小豆、緑豆、ささげ、インゲン豆、ソラマメ、エンドウ、ひよこ豆など)、芋類(ジャガイモ、サツマイモ、里芋、キャッサバ、タロイモ、長芋、山芋など)、シリアル類(フレーク状やパフ状に加工したライスフレーク、コーンフレーク、膨化米等)、ナッツ類(ビーナッツ、アーモンド、カシューナッツ、マカダミアナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、ココナッツ等のナッツ類、ドライフルーツ(リンゴ、イチゴ、マンゴー、パイナップル、バナナ、キウイ、モモ、アプリコット、いちじく、プルーン、プラム、レーズン、ブルーベリー、ラズベリー、メロン、梅、オレンジ、クランベリー、チェリーなど)、乾燥野菜(にんじん、インゲン、レンコン、カボチャ)、ひまわりの種、カボチャの種、蛋白質(卵、大豆など)、水不溶性食物繊維(セルロース、ヘミセルロース、キチン、キトサンなど)、ビタミン(A,B1,B2,B6,B12,C,D,E,K,葉酸,ナイアシン,パントテン酸など)、ミネラル(マグネシウム、カルシウム、カリウム、鉄、亜鉛、リンなど)などの栄養強化素材、菓子類(チョコレート、グミ、キャンディー、マシュマロ、グラノーラ、ビスケット、スナック、あられ、など)、加熱乾燥、凍結乾燥、マイクロ波乾燥等により製造された魚、貝、海藻等の魚介類加工品、スクランブルエッグ等の卵加工品、肉そぼろ、ビーフジャーキー等の畜肉加工品、調味料類(粉末カツオ出汁、粉末昆布出汁、粉末いりこ出汁、粉末あご出汁、粉末コンソメ調味料)、などが挙げられる。
【0014】
これらの他に、香味付与や着色のために、香料、酸味料、調味料、甘味料、着色料等を適宜添加してもよい。
【0015】
本発明の成型食品において、結着剤として用いる水溶性食物繊維としては、粉末状とシロップ状の水溶性食物繊維が挙げられる。
【0016】
粉末状の水溶性食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン(パインファイバーC、松谷化学工業製)、イヌリン(フジFF、フジ日本製糖製)、ハイアミロースコーンスターチ(アミロジェルHB-450、三和澱粉工業製)、リン酸架橋耐性澱粉(ファイバージムRW、松谷化学工業製)、ポリデキストロース(スターライトIII、TATE&LYLE製)、イソマルトデキストリン(ファイバリクサ、林原製)、グアーガム酵素分解物(サンファイバーRC、太陽化学製)等が挙げられる。
【0017】
シロップ状の水溶性食物繊維としては、例えば、ポリデキストロース(スターライトエリート、TATE&LYLE製)、還元難消化性デキストリン(ファイバーソル2HL、松谷化学工業製)、難消化性グルカン(フィットファイバー#80、日本食品化工製)等が挙げられる。
【0018】
成型食品における食品原料素材と水溶性食物繊維の質量比率としては、特に制限はなく、成型食品の食感や風味、食品原料素材の形状や性状、1食分あたりの食物繊維必要量等に応じて、適宜選択することができるが、成型食品全体の固形分を100質量%とした場合における水溶性食物繊維の含有量は、10質量%~60質量%、好ましくは15質量%~50質量%、より好ましくは20質量%~40質量%である。水溶性食物繊維の含有量が、10質量%未満であると、食品原料素材同士の結着が弱く、保型性に影響が出ることがある。60質量%を超えると、食品原料素材同士の結着が強くなりすぎることがあり、食感や口溶け感に影響が出ることがある。
【0019】
粉末状の水溶性食物繊維とシロップ状の水溶性食物繊維は、単独で使用してもよく、組み合わせて使用してもよい。粉末状の水溶性食物繊維とシロップ状の水溶性食物繊維の組み合わせには特に制限は無く、1種又は2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。但し、粉末状の水溶性食物繊維だけを1種又は2種以上使用する場合は、シロップ状になるよう水に溶解させてから使用するのが好ましい。水溶性食物繊維と水を含むシロップの固形分は、特に限定されないが、好ましくは質量で40%から90%程度、特に好ましくは60%から80%程度である。粉末状の水溶性食物繊維は、このような濃度のシロップ状又は溶液状になるよう水に溶解させてから使用する。シロップ状の水溶性食物繊維は、適切な濃度(固形分)になるように調製して使用することができる。本発明の好ましい実施形態では、シロップ状の水溶性食物繊維を1種又は2種以上使用する、もしくは粉末状の水溶性食物繊維とシロップ状の水溶性食物繊維をそれぞれ1種又は2種以上組み合わせて使用する。粉末状の水溶性食物繊維はシロップ状の水溶性食物繊維と併用した場合には、シロップに溶解して結着剤として作用する。
【0020】
粉末状の水溶性食物繊維及びシロップ状の水溶性食物繊維をそれぞれ1種又は2種以上組み合わせて使用する場合、質量比率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、成型食品の食感や風味、食品原料素材の形状や性状、製造時の生産性等に応じて適宜選択することができるが、水溶性食物繊維全体における粉末状の水溶性食物繊維の含有量として、0質量%~50質量%、好ましくは10質量%~45質量%、より好ましくは20質量%~40質量%である。
【0021】
本発明の成型食品において、水溶性食物繊維は結晶化することで食品原料素材同士を結着させることができる。したがって、水溶性食物繊維の水溶液又はシロップにおいて水の含量が多すぎる場合には、加熱、送風、減圧などにより過剰の水分を蒸発させることにより水溶性食物繊維の一部が結晶化して結着力を高めることができる。
【0022】
本発明の成型食品の形状は特に限定はなく、例えばバー形状、ブロック形状、シート形状、不定形状等が挙げられる。
【0023】
本発明の好ましい1つの実施形態において、本発明で成型される好ましい食品としては、スナックバーが挙げられ、例えば朝食およびミール代用バー、栄養バー、グラノーラバー、プロテインバー、シリアルバーが挙げられる。
【0024】
≪成型食品の製造方法≫
本発明の成型食品を製造するには、(1)混合工程と(2)成型工程を少なくとも含み、他の工程を含んでいてもよい。例えば、前記混合工程と前記成型工程の間の加熱工程を含んでいてもよく、混合工程を加熱しながら行ってもよい。また、混合工程で得られた混合物を成型工程で型に入れた後に加熱してもよい。
【0025】
(1)混合工程
粉末状及びシロップ状の水溶性食物繊維を組み合わせて使用する場合、混合工程では、食品原料素材に粉末状の水溶性食物繊維を適量加えて均一になるまで混合した後、シロップ状の水溶性食物繊維を適量加えて均一になるまで混合する。
【0026】
粉末状の水溶性食物繊維を使用せずにシロップ状の水溶性食物繊維を単独で用いる場合、混合工程では、食品原料素材にシロップ状の水溶性食物繊維を適量加えて均一になるまで混合する。
【0027】
この時、シロップ状の水溶性食物繊維の粘度が高く、食品原料素材と粉末状の水溶性食物繊維の混合物と均一に混ざりにくい場合は50℃以上に保温してもよい。
【0028】
(2)成型工程
成型工程では、前記混合工程で得られた混合物を型に充填し、成型食品を得る。型形状としては、特に制限はなく、目的とする成型食品の形状に応じて適宜選択すればよい。
【0029】
(3)その他の工程
加熱工程では、例えば、混合工程で得られた前記混合物を、例えば直火式や真空式等のキャンディクッカーで攪拌しながら加熱することができる。加熱時の温度は、50~120℃が好ましい。
【0030】
前記混合工程をキャンディクッカーで行いながら、加熱攪拌し、混合工程と加熱工程を同時に行うことが好ましい。加熱工程では、煮沸や焼成は必要としない。
【0031】
また、成型工程と加熱工程の順序は問わず、混合工程で得られた未加熱の混合物を型に充填した後、加熱工程を経ても、成型食品は得られる。
【0032】
従来の糖蜜主体の結着剤を用いる場合、食品原料素材と結着剤の混合物を成型工程後に、オーブン焼成や熱風乾燥する必要があった(130~200℃程度、15~20分程度)。そのため、栄養強化素材の減衰、香料や調味料の変質、フルーツや野菜素材の色調や食感の悪化等が避けられなかった。本発明では、食品原料素材と水溶性食物繊維の混合物の成型のためにこのような高温は必要なく、栄養強化素材の減衰、香料や調味料の変質、フルーツや野菜素材の色調や食感の悪化等を抑制することができる。
【0033】
本発明において、水溶性食物繊維を含むシロップ、分散液、水溶液などは食品のコーティング剤として使用することができる。
【0034】
コーティング剤の水溶性食物繊維の濃度は、コーティング可能であれば特に限定されないが、好ましくは質量で40%から90%程度、より好ましくは60%から80%程度である。コーティング剤は、食品と混合、噴霧、注入又は添加など、食品にコーティングする任意の公知の方法でコーティングすることができる。水溶性食物繊維のコーティング液は、室温であってもよいが、50~100℃程度に加熱することでコーティング液の粘度を低下させることができる。
【0035】
コーティング剤を食品に適用後、風乾、熱風乾燥、冷風乾燥、焼成などを行うことで、食品の表面に水溶性食物繊維のコーティング層を形成することができる。このコーティング層を形成することで、食品の吸湿、乾燥などの水分移動を抑制することができる。
【0036】
食品の水溶性食物繊維コーティング層の厚さは、10~1000μm程度である。
【0037】
コーティングした複数の食品が接していると水溶性食物繊維コーティング層は結着力を有するので結着する可能性があるが、水溶性食物繊維コーティング層を含む食品は、コーティング層が乾燥することで結着しなくなる。
【0038】
水溶性食物繊維層を有するコーティング食品は、高温多湿の吸湿しやすい条件下でも吸湿が抑制できるので、せんべい、おかき、ビスケット、クッキー、クラッカー、のり、ポップコーン、ポテトチップス、スナック菓子などの食品が適している。また、水溶性食物繊維を含むコーティング層は、水分の移動を抑制できるので、食品の水分が蒸発して乾燥するのを防止することができる。食品の乾燥を抑制するのに好ましい食品としては、パン類、ケーキ類、ドライフルーツ、珍味類(サラミなど)、ガトーショコラ等の水分を多く含む焼き菓子が挙げられ、具体的には食パン、バターロール、ロールパン、バンズ、調理パン、コッペパン、デニッシュ、クロワッサン、カステラ、どら焼き、今川焼き、たい焼き、ワッフル、スポンジケーキ、マドレーヌ、エンゼルケーキ、ロールケーキ、蒸しケーキ、カップケーキ、パウンドケーキ、フルーツケーキ、マフィン、マドレーヌ、ガトーショコラ、フィナンシェ、ミルフィユ、アップルパイ、タルト、蒸しパン、ドーナツ、フランスパン、ベーグル、スコーン、ピロシキ、乾パン、あんパン、クリームパン、スフレ、バウムクーヘン、ホットケーキ、パンケーキ、クレープ、カステラなどが挙げられる。また、パン類、ケーキ類は冷凍食品を包含する。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
比較製造例1:チョコレート生地
下記表1に示す成分及び配合割合でチョコレート生地を調製した。
【0041】
【0042】
比較製造例2:ヌガー生地
下記表2に示す成分及び配合割合でヌガー生地(水分4.5質量%)を調製した。
【0043】
【0044】
比較製造例3:キャラメル生地
下記表3に示す成分及び配合割合でキャラメル生地(水分6質量%)を調製した。
【0045】
【0046】
比較製造例4:糖蜜生地A
下記表4に示す成分及び配合割合で糖蜜生地A(水分17質量%)を調製した。
【0047】
【0048】
比較製造例5:糖蜜生地B
下記表5に示す成分及び配合割合で糖蜜生地(水分15質量%)を調製した。
【0049】
【0050】
比較例1~5
下記表6に示す食品原料素材70質量%に対して、比較製造例1~5で得られた各生地30質量%を加えて、常法に従って結着させ、成型食品を得た。
【0051】
実施例1
下記表6に示す食品原料素材70質量%に対して、水溶性食物繊維素材30質量%を加えて結着させ、以下の混合工程及び成型~加熱工程により、成型食品を得た。水溶性食物繊維素材は、成型食品に対して、粉末状の水溶性食物繊維素材として難消化性デキストリン(パインファイバーC、松谷化学工業製)10質量%、シロップ状の水溶性食物繊維素材としてポリデキストロース(スターライトエリート、TATE&LYLE製、固形分80質量%)20質量%とした。
【0052】
<混合工程>
食品原料素材と粉末状の水溶性食物繊維素材を均一に混合した後、シロップ状の水溶性食物繊維素材を加え、更に均一に混合した。
【0053】
<成型~加熱工程>
混合物を型に充填し、電子レンジ(600W・50秒)で加熱した。室温まで冷却後、型から取り出し、成型食品を得た。
【0054】
【0055】
表6~表8に示す吸湿性、耐熱性、結着性・保型性、食感、風味、外観の評価は、以下のように行った。
【0056】
<吸湿性>
成型食品を30℃/70%設定の恒温恒湿度槽(エスペック社製SH-221)で24時間放置した時の表面の状態(変化無し~べたつき・液状化)を評価した。
◎: 極めて吸湿耐性に優れる
○: 吸湿耐性に優れる
△: やや吸湿し易い
×: 吸湿し易い
【0057】
<耐熱性>
成型食品を40℃設定のホットプレート(アズワン社製ウルトラホットプレートHI-400A)上で30分放置した時の状態(変化無し~溶解・変形)を評価した。
◎: 耐熱性に極めて優れる
○: 耐熱性に優れる
△: 耐熱性がやや悪い
×: 耐熱性が悪い
【0058】
<結着性・保型性>
成型食品を1mの高さから落下させた時の状態(変化無し~崩壊・変形)を評価した。
◎: 結着性・保型性に極めて優れる
○: 結着性・保型性に優れる
△: 結着性・保型性がやや悪い
×: 結着性・保型性が悪い
【0059】
<食感>
専門パネラー10名によって、結着剤による、食品原料素材の食感への影響を評価した。
◎: 食品原料素材の食感が非常に良好(食感をそのまま感じる)
○: 食品原料素材の食感が良好(食感をほぼそのまま感じる)
△: 食品原料素材の食感がやや損なわれる(食感をあまり感じない)
×: 食品原料素材の食感が損なわれる(食感を感じない)
【0060】
<風味>
専門パネラー10名によって、結着剤による、食品原料素材の風味への影響を評価した。
◎: 食品原料素材の風味が非常に良好(風味をそのまま感じる)
○: 食品原料素材の風味が良好(風味をほぼそのまま感じる)
△: 食品原料素材の風味がやや損なわれる(風味をあまり感じない)
×: 食品原料素材の風味が損なわれる(風味を感じない)
【0061】
<外観>
専門パネラー10名によって、結着剤による 食品原料素材の外観(特に色調)への影響を評価した。
◎: 食品原料素材の外観が非常に良好(色調が確認出来る)
○: 食品原料素材の外観が良好(色調がほぼ確認出来る)
△: 食品原料素材の外観がやや損なわれる(色調があまり確認出来ない)
×: 食品原料素材の外観が損なわれる(色調が確認出来ない)
【0062】
評価:吸湿性
比較例1(チョコレート生地)及び実施例1を除いて、吸湿が見られた。単糖及び二糖類やオリゴ糖を含む比較例では吸湿が避けられず、特に比較例5(糖蜜生地B)では激しい吸湿が見られた。
【0063】
評価:耐熱性
比較例1(チョコレート生地)及び比較例4(糖蜜生地A)のように、油脂やゲル化剤を用いた結着剤では一定温度を超えると溶解が始まり、耐熱性が維持できなかった。比較例2(ヌガー生地)、比較例3(キャラメル生地)及び比較例5(糖蜜生地B)のように、糖質主体の結着剤でも高い耐熱性は維持できなかった。
【0064】
評価:結着性・保型性
比較例1(チョコレート生地)、比較例3(キャラメル生地)、比較例4(糖蜜生地A)及び実施例1は、食品原料素材が著しく剥離したり、組織が崩壊することはなく、形状を維持していた。比較例2(ヌガー生地)及び比較例5(糖蜜生地B)は、食品原料素材の剥離や組織の崩壊は見られないが、形状の変形が見られた。
【0065】
評価:食感
比較例3(キャラメル生地)及び比較例4(糖蜜生地A)は、結着剤が特有のチューイング性を示すため、食品原料素材のサクサク、カリカリ感を大きく損なっていた。比較例1(チョコレート生地)、比較例2(ヌガー生地)及び比較例5(糖蜜生地B)においても、結着剤の特性によって、食品原料素材のサクサク、カリカリ感を損なっていた。
【0066】
評価:風味
比較例1(チョコレート生地)、比較例2(ヌガー生地)、比較例3(キャラメル生地)、比較例4(糖蜜生地A)及び比較例5(糖蜜生地B)は、結着剤の風味、特に甘味が強く、食品原料素材の風味を大きく損なっていた。
【0067】
評価:外観
比較例1(チョコレート生地)、比較例2(ヌガー生地)及び比較例3(キャラメル生地)は、結着剤に覆われた食品原料素材は、特に色調を大きく損なっていた。比較例4(糖蜜生地A)及び比較例5(糖蜜生地B)は、やや透過性があり、食品原料素材の色調は比較的維持されていた。
【0068】
比較例6~9
表7又は表8に記載の食品原料素材70重量%に対して、表1~5の中で甘味以外の風味を含まない、ヌガー生地及び糖蜜生地B 30重量%を加えて、常法に従って結着させ、成型食品を得た。
【0069】
実施例2及び3
表7又は表8に記載の食品原料素材70重量%に対して、水溶性食物繊維30重量%を加えて結着させ、成型食品を得た。水溶性食物繊維素材は、成型食品に対して、粉末状の水溶性食物繊維素材として難消化性デキストリン(パインファイバーC、松谷化学工業製)10重量%、シロップ状の水溶性食物繊維素材としてポリデキストロース(スターライトエリート、TATE&LYLE製、固形分80質量%)20重量%とした。
【0070】
<混合工程>
食品原料素材と粉末状の水溶性食物繊維素材を均一に混合した後、シロップ状の水溶性食物繊維素材を加え、更に均一に混合した。
【0071】
<成型~加熱工程>
混合物を型に充填し、電子レンジ(600W・50秒)で加熱した。室温まで冷却後、型から取り出し、成型食品を得た。
【0072】
【0073】
【0074】
評価:吸湿性
比較例6~9は成型食品表面のべたつき等の激しい吸湿が見られた。
【0075】
評価:耐熱性
比較例6及び8は耐熱性をやや維持したが、比較例7及び9は耐熱性を維持できなかった。
【0076】
評価:結着性・保型性
比較例6及び8は結着性・保型性をやや維持したが、比較例7及び9は十分な結着性・保型性を維持できなかった。
【0077】
評価:食感
比較例6~9は食品原料素材の食感が優れず、歯に付着する傾向があった。
【0078】
評価:風味
比較例6~9は結着剤の風味、特に甘味が調味料類とは相性が悪く、成型食品として喫食するのは困難であった。
【0079】
評価:外観
比較例6及び8は食品原料素材の色調を大きく損なっていたが、比較例7及び9はやや透過性があり、食品原料素材の色調は比較的維持されていた。
【0080】
実施例6~9及び比較例10~13:
水溶性食物繊維素材による各種焼成菓子の吸湿抑制効果の検証
対象食品(各種焼成菓子)に対して、粉末状の食物繊維素材として難消化性デキストリン(パインファイバーC、松谷化学工業製)及びシロップ状の水溶性食物繊維素材としてポリデキストロース(スターライトエリート、TATE&LYLE製、固形分80質量%)を1:2の重量比で混合した混合液をコーティング剤として、対象食品の表面を均一に覆うように適量塗布した。
【0081】
コーティング前の対象食品(各種焼成菓子)を比較例10~13とした。
<加熱工程>
実施例6~9及び比較例10~13の対象食品を電子レンジ(600W・20秒)で加熱し、室温まで冷却し、吸湿性、風味・外観を評価した。結果を表9に示す。
【0082】
【0083】
表9の吸湿性と風味・外観の評価基準を以下に示す。
<吸湿性>
専門パネラー10名によって、40℃/90%設定の恒温恒湿度槽(エスペック社製SH-221)で2時間放置した時の吸湿の程度を、恒温恒湿槽に入れる前後の食感差異で評価した。
◎: 食感差異無し(吸湿していない)
○: やや食感差異有り(やや吸湿している)
△: 食感差異有り(吸湿している)
×: かなり食感差異有り(かなり吸湿している)
【0084】
<風味・外観>
専門パネラー10名によって、コーティング剤塗布による、対象食品の風味及び外観への影響を評価した。
◎: 風味及び外観への影響無し
○: やや風味及び外観への影響有り
△: 風味及び外観への影響有り
×: かなり風味及び外観への影響有り
【0085】
水溶性食物繊維素材をコーティング剤として塗布した場合、対象食品の風味に関して、一切影響は見られなかった。外観に関して、対象食品の光沢がわずかに増す傾向が見られたが、対象食品の品質や価値を損なうものではなかった。
【0086】
吸湿性に関して、いずれの対象食品も食感の劣化(変化)程度が軽減されており、吸湿抑制効果が確認された。
【0087】
実施例10~12及び比較例14~16:水溶性食物繊維素材による各種食品の乾燥抑制
対象食品に対して、粉末状の食物繊維素材として難消化性デキストリン(パインファイバーC、松谷化学工業製)及びシロップ状の水溶性食物繊維素材としてポリデキストロース(スターライトエリート、TATE&LYLE製)を1:2の重量比で混合した混合液をコーティング剤として、対象食品の表面を均一に覆うように適量塗布した(実施例10~12)。コーティングしていない対象食品を比較例14~16とした。
【0088】
<加熱工程>
実施例10~11及び比較例14~15を電子レンジ(600W・20秒)で加熱し、室温まで冷却した。実施例12及び比較例16は加熱に適さないため、塗布後、室温で放置し、コーティング剤を乾燥させた。
【0089】
実施例10~12及び比較例14~16の対象食品について、表面の食感、中心部の食感、風味・外観を評価した。結果を表10に示す。
【0090】
【0091】
<評価>
<表面の食感>
専門パネラー10名によって、22℃/20%/24時間放置した時の対象食品表面の乾燥の程度を、試験前後の食感差異で評価した。
◎: 食感差異無し(乾燥していない)
○: やや食感差異有り(やや乾燥している)
△: 食感差異有り(乾燥している)
×: かなり食感差異有り(かなり乾燥している)
【0092】
<中心部の食感>
専門パネラー10名によって、22℃/20%/24時間放置した時の対象食品中心部の乾燥の程度を、試験前後の食感差異で評価した。
◎: 食感差異無し(乾燥していない)
○: やや食感差異有り(やや乾燥している)
△: 食感差異有り(乾燥している)
×: かなり食感差異有り(かなり乾燥している)
【0093】
<風味・外観>
専門パネラー10名によって、コーティング剤塗布による、対象食品の風味及び外観への影響を評価した。
◎: 風味及び外観への影響無し
○: やや風味及び外観への影響有り
△: 風味及び外観への影響有り
×: かなり風味及び外観への影響有り
【0094】
水溶性食物繊維素材をコーティング剤として塗布した場合、いずれの対象食品においても、風味に関して一切影響は見られなかった。外観に関して、対象食品表面の光沢がわずかに増す傾向が見られたが、対象食品の品質や価値を損なうものではなかった。
【0095】
実施例10及び11は、比較例14及び15と比較して、コーティング剤塗布により、特に対象食品表面の乾燥を防止することが確認された。
【0096】
実施例12は、比較例16と比較して、コーティング剤塗布により、対象食品表面及び中心部共に乾燥の傾向は見られなかった。
【0097】
実施例10及び11のように生地組織に隙間が多い食品より、実施例12のように生地密度の高い食品ほど、コーティング剤塗布による乾燥防止効果が高いことがわかる。