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特許7430983アンギュラ玉軸受およびアンギュラ玉軸受用保持器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】アンギュラ玉軸受およびアンギュラ玉軸受用保持器
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/38 20060101AFI20240206BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
F16C33/38
F16C19/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019049356
(22)【出願日】2019-03-18
(65)【公開番号】P2020153378
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-09-22
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】古山 峰夫
【合議体】
【審判長】平城 俊雅
【審判官】小川 恭司
【審判官】内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-145644(JP,A)
【文献】特開2002-89573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/38
F16C 19/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外輪間に介在する複数のボールを有し、これらボールが円筒形状の保持器の円周方向複数箇所に設けられたポケットに保持されたアンギュラ玉軸受において、
前記保持器は、前記ボールの表面積にボール個数を乗じた全ボール表面積に対する、前記保持器における、前記ポケットを除く内周面の面積の割合である面積比を0.35以上0.5以下とし、軸受幅寸法に対する、前記ボールの直径寸法の割合であるボール直径比を0.48以上0.56以下とし、内輪内径に回転数を乗じたdn値が70万を超え125万以下の高速領域で使用されるアンギュラ玉軸受。
【請求項2】
請求項1に記載のアンギュラ玉軸受において、エアオイル潤滑で使用するアンギュラ玉軸受。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のアンギュラ玉軸受において、前記保持器は、外輪内周面に案内される外輪案内保持器であるアンギュラ玉軸受。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のアンギュラ玉軸受において、前記保持器は、前記ボールである転動体に案内される転動体案内保持器であるアンギュラ玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、工作機械主軸等に用いられるアンギュラ玉軸受およびアンギュラ玉軸受用保持器に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械主軸をはじめ、高速運転される支持軸受では、アンギュラ玉軸受が広く使用され、その保持器には、外輪案内保持器または転動体案内保持器が使用されることが多い(例えば、特許文献1~3)。
その潤滑には、常に新しい油を供給し、長期にわたり安定した潤滑状態を保つことのできるエアオイル潤滑またはオイルミスト潤滑がある。また、付帯設備および配管が不要で経済性に優れ、ミストの発生が極めて少ない、環境に優しいグリース潤滑がある。
【0003】
いずれの潤滑方法でも、軸受の内輪内径に回転数を乗じたdn値が70万を超える高速領域では、転動体に作用する遠心力の低減と、軌道面との接触面積を減らすことによる温度上昇の低減のため、標準のボールサイズに対し、小径ボールを用いた高速仕様のアンギュラ玉軸受が広く使用されている。前記小径ボールを用いることで、高速運転時の温度上昇を抑えられる。
【0004】
内輪回転する軸受がエアオイル潤滑で使用される場合、圧縮空気と共に供給された潤滑剤が軸受内部に行き渡り易くなるよう、エアオイルは内輪と保持器の間の空間に向け供給される。供給された潤滑油は、遠心力により、保持器内径面および外輪内径面に行き渡り、油膜となり、一時的に保持される。
高速運転で且つ停止時間が少ない連続稼働では、外輪内径面および保持器内径面に一時的に保持された潤滑剤が、ボール表面に付着し、内輪軌道面および保持器ポケット面(ボールとの接触面)に潤滑剤を運ぶことで、高速運転条件下において、長期にわたり、円滑に運転することが可能となる。
【0005】
このボール表面に付着する油の量は、使用条件により変化するが、高速域での連続運転の場合、ボール表面に付着する油の量は、極めて少なくなる。このため、内輪軌道面および保持器ポケット面に運ばれる油も少なくなる。また、昨今は作業環境のミスト低減や環境負荷低減の目的から、軸受内に供給する潤滑剤を減らす場合がある。軸受内部に供給された僅かな潤滑剤を有効に活用するため、外輪間座に設けられたノズル先端を隣接する軸受の内輪カウンタ部の傾斜面に沿って、保持器内径位置まで位置することで、供給する潤滑剤や圧縮空気を削減する技術がある。(例えば、特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-117542号公報
【文献】特開2016-145644号公報
【文献】特開2014-95469号公報
【文献】特許第4261083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エアオイル潤滑の場合、供給孔から噴射され噴霧状になった潤滑油が、直接ボール表面に付着する分と、軸受内部の保持器内径面や外輪内径面に一時的に付着した潤滑油が高速回転により移動し、ボール表面へ油を供給する分がある。
保持器内径面に潤滑剤の付着量を増やす方法としては、例えば保持器幅を広げる方法がある。しかし、保持器が軸受の幅より外に出ると、周辺の部品との干渉および軸受の取り扱いが悪くなるなど課題が生じる。また、ボール数を減らす、またはボール径を小さくすることで、保持器内径面の面積を増やし、潤滑油の付着量を増やす方法もあるが、軸受の負荷容量が小さくなり、主軸の剛性が低くなる、あるいは、許容アキシアル荷重が低下するなどの課題がある。
【0008】
この発明の目的は、軸受内の限られた空間の中で、軸受の負荷容量を確保しつつ、より多くの潤滑剤を保持器の内周面に保持することができるアンギュラ玉軸受およびアンギュラ玉軸受用保持器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のアンギュラ玉軸受は、内外輪間に介在する複数のボールを有し、これらボールが円筒形状の保持器の円周方向複数箇所に設けられたポケットに保持されたアンギュラ玉軸受において、
前記保持器は、前記ボールの表面積にボール個数を乗じた全ボール表面積に対する、前記保持器における、前記ポケットを除く内周面の面積の割合である面積比を0.35以上0.5以下とした。
前記ポケットを除く内周面の面積とは、前記保持器のポケットを除く部分の内周面を、前記円筒形状の保持器の内径を成す仮想の円筒面へ半径方向に投影した投影面積である。
【0010】
全ボール表面積に対し、保持器における、ポケットを除く内周面の面積の割合である面積比が大きいと、潤滑は安定する。しかし、軸受の限られた内部空間では、保持器の内周面の面積を大きくしようとすると、ボールを小径にするか、あるいはボール個数を減らすことになり、結果として軸受の負荷容量が小さくなり、低剛性となる。
一方、ボールを大径とする、あるいはボール個数を増やし、高負荷容量・高剛性とする場合、保持器の内周面の面積が小さくなり、潤滑油の保持量が減少することから、例えば、油膜が出来にくくなり、軌道面の潤滑不良が生じる場合がある。これを避けるため、供給油量を増やすと、主軸から排出されるミストの飛散が問題となる。
【0011】
この構成によると、全ボール表面積に対する、保持器における、ポケットを除く内周面の面積(前記投影面積)の割合である面積比を0.35以上0.5以下とすることで、軸受内の限られた空間の中で、軸受の負荷容量を確保しつつ、より多くの潤滑剤を保持器の内周面に保持することができる。保持器幅を軸受幅より広げることなく、保持器の内周面に付着する潤滑剤の量を増やすことができるため、保持器が周辺の部品と干渉するおそれがなくなり軸受が取扱い易くなる。またボール径を小径化あるいはボール個数を減らすことなく、保持器の内周面に付着する潤滑剤の量を増やすことができるため、軸受の負荷容量を確保し、主軸の剛性を高めることが可能となる。このように潤滑不良を防止することで、軸受寿命の延伸と、高負荷容量・高剛性とを両立することができる。
【0012】
このアンギュラ玉軸受はエアオイル潤滑で使用するものであってもよい。この場合、軸受空間に供給された潤滑油は、例えば、内輪回転による遠心力によって保持器の内周面および外輪内周面に行き渡り、一時的に保持される。保持器の内周面および外輪内周面の潤滑油は、ボール表面に付着し、内輪軌道面および保持器のポケットに運ばれることで、長期にわたり安定して油膜を形成し、円滑に運転することが可能となる。したがって、少ない潤滑剤でも、効果的に軸受寿命の延伸を図ることができる。
【0013】
前記保持器は、外輪内周面に案内される外輪案内保持器であってもよい。この場合、保持器における、外輪内周面に案内される案内面に、軸受内の潤滑剤の一部が通過することから、この案内面に過度の摩耗が生じることを防止し得る。したがって、軸受の高速化を図ることができる。
【0014】
前記保持器は、前記ボールである転動体に案内される転動体案内保持器であってもよい。この場合、外輪内周面と保持器との径方向の空間を広げ、同空間に、潤滑剤を効率良く保持することができる。
【0015】
軸受幅寸法に対する、前記ボールの直径寸法の割合であるボール直径比を0.48以上0.56以下としてもよい。軸受幅寸法に対するボール直径比が0.48以上0.56以下の範囲で、且つ、全ボール表面積に対する、保持器における、ポケットを除く内周面の面積の割合である面積比を0.35以上0.5以下とすると、高速性と高剛性を両立しながら、少ない潤滑剤でも油膜を形成し、軸受寿命の延伸に効果的である。
軸受幅寸法に対するボール直径比が0.45より小さい場合、軸受の負荷容量および許容アキシアル荷重が小さくなり、低剛性となる。また軸受幅寸法に対するボール直径比が0.55より大きい場合、軸受の内輪内径に回転数を乗じたdn値が120万を超えるような高速域では、運転時の軸受温度が高くなり、例えば工作機械の主軸軸受のように運転温度を低減させたい用途では使用に適さない。
【0016】
この発明のアンギュラ玉軸受用保持器は、内外輪間に介在する複数のボールを有し、これらボールが円筒形状の保持器の円周方向複数箇所に設けられたポケットに保持されたアンギュラ玉軸受に用いられるアンギュラ玉軸受用保持器において、
前記保持器は、前記ボールの表面積にボール個数を乗じた全ボール表面積に対する、前記保持器における、前記ポケットを除く内周面の面積の割合である面積比を0.35以上0.5以下とした。
【0017】
この構成によると、全ボール表面積に対する、保持器における、ポケットを除く内周面の面積の割合である面積比を0.35以上0.5以下とすることで、軸受内の限られた空間の中で、軸受の負荷容量を確保しつつ、より多くの潤滑剤を保持器の内周面に保持することができる。保持器幅を軸受幅より広げることなく、保持器の内周面に付着する潤滑剤の量を増やすことができるため、保持器が周辺の部品と干渉するおそれがなくなり軸受が取扱い易くなる。またボール径を小径化あるいはボール個数を減らすことなく、保持器の内周面に付着する潤滑剤の量を増やすことができるため、軸受の負荷容量を確保し、主軸の剛性を高めることが可能となる。このように潤滑剤の保持による潤滑不良を防止することで、軸受寿命の延伸と、高負荷容量・高剛性とを両立することができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明のアンギュラ玉軸受は、内外輪間に介在する複数のボールを有し、これらボールが円筒形状の保持器の円周方向複数箇所に設けられたポケットに保持されたアンギュラ玉軸受において、前記保持器は、前記ボールの表面積にボール個数を乗じた全ボール表面積に対する、前記保持器における、前記ポケットを除く内周面の面積の割合である面積比を0.35以上0.5以下としたため、軸受内の限られた空間の中で、軸受の負荷容量を確保しつつ、より多くの潤滑剤を保持器の内周面に保持することができる。
【0019】
この発明のアンギュラ玉軸受用保持器は、内外輪間に介在する複数のボールを有し、これらボールが円筒形状の保持器の円周方向複数箇所に設けられたポケットに保持されたアンギュラ玉軸受に用いられるアンギュラ玉軸受用保持器において、前記保持器は、前記ボールの表面積にボール個数を乗じた全ボール表面積に対する、前記保持器における、前記ポケットを除く内周面の面積の割合である面積比を0.35以上0.5以下としたため、軸受内の限られた空間の中で、軸受の負荷容量を確保しつつ、より多くの潤滑剤を保持器の内周面に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明の実施形態に係るアンギュラ玉軸受の断面図である。
図2】(A)は同アンギュラ玉軸受の保持器の断面図、(B)は同保持器の内周面の一部を拡大した見た図、(C)は同保持器を軸方向に垂直な平面で切断して見た部分拡大断面図である。
図3】同アンギュラ玉軸受と従来例のアンギュラ玉軸受の比較例を示す図である。
図4】従来技術に対する本発明のアンギュラ玉軸受の位置付けを示す図である。
図5】この発明の他の実施形態に係るアンギュラ玉軸受の断面図である。
図6】高速運転試験機を概略示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施形態]
この発明の実施形態に係るアンギュラ玉軸受を図1ないし図4と共に説明する。
図1に示すように、このアンギュラ玉軸受は、内輪1と、外輪2と、これら内外輪1,2間に介在する複数のボール3と、複数のボール3を保持する保持器4とを備える。このアンギュラ玉軸受は、軸受空間に例えば潤滑油を圧縮空気と共に供給するエアオイル潤滑で使用される。ボール3は、保持器4によって、周方向に所定の間隔で転動自在に保持されている。
【0022】
内輪外周面および外輪内周面には、ボール3との接触角αが所定の角度となるように、軌道面1a,2aがそれぞれ形成されている。外輪内周面には、軌道面2aの片側に、つまり接触角αの生じる方向と反対側部分に、内径が軸方向外側に向かうに従って次第に大径となるカウンターボア2bが設けられている。
【0023】
<保持器4等について>
図1および図2に示すように、保持器4は、外輪内周面に案内される外輪案内保持器である。保持器4は、例えば、ガラス繊維またはカーボン繊維等で補強されたナイロンあるいは高融点のポリアミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(略称:PEEK材)、フェノール樹脂等の樹脂材料から円筒形状に形成されている。保持器4は、図2(A)に示すように、この保持器4を軸心L(図1)を含む平面で切断して見た断面が矩形状であり、図2(A),(B)に示すように、軸方向中央部にボール3(図1)を保持するポケットPtが円周方向複数箇所に形成されている。
【0024】
図1に示すように、保持器4の内周面4aの径方向寸法は、ボール3のピッチ円直径PCDよりも小さく設定されている。保持器4の外周面は、前記ピッチ円直径PCDよりも大きく且つ外輪内周面よりも小さく設定されている。
特に、保持器4は、ボール3の表面積にボール個数を乗じた全ボール表面積に対する、保持器4におけるポケットPtを除く内周面4aの面積の割合である面積比を0.35以上0.5以下としている。
【0025】
図2(C)に示すように、前記ポケットPtを除く内周面4aの面積とは、保持器4のポケットPtを除く部分の内周面を、前記円筒形状の保持器4の内径を成す仮想の円筒面Kmへ半径方向に投影した投影面積である。なお、投影面積には、半径方向の外径側から内径側へ投影した投影面部分と、内径側から外径側へ投影した投影面部分とを含む。したがって、例えば、ポケットPtの内径側縁部に面取りMtが形成されている場合、前記面取りMtを円筒面Kmへ外径側から内径側へ半径方向に投影した部分の面積S1も、前記ポケットPtを除く内周面4aの面積に含まれる。また図2(B),(C)に示すように、例えば、ポケットPtの内径側縁部にボールを保持する突起部Tkが形成されている場合、前記突起部Tkを内径側から外径側へ半径方向に投影した部分の面積S2も前記ポケットPtを除く内周面4aの面積に含まれる。図2(B)に示すように、ポケットPtの内径側縁部における、突起部Tkが形成されていない部分は、内周面4aの面積に含まれない。
【0026】
さらに、軸受幅寸法Hに対するボール3の直径寸法Bdの割合であるボール直径比を0.48以上0.56以下としている。後述する転動体案内保持器においても、保持器の内周面の面積は、保持器4A(図5)のポケットを除く部分の内周面を、円筒形状の保持器4A(図5)の内径を成す仮想の円筒面Km(図5)へ半径方向に投影した投影面積であり、前記面積比を0.35以上0.5以下とし、さらにボール直径比を0.48以上0.56以下としている。
【0027】
<比較例>
図3は、本実施形態のアンギュラ玉軸受(軸受B,C,D)と従来例のアンギュラ玉軸受(軸受A,E)の比較例を示す図である。
従来例の軸受Aは、例えば、アンギュラ玉軸受の呼び番号「7014」サイズで、高速のための小径ボール仕様である。具体的に軸受Aのボールの直径寸法は約8.731mm(11/32インチ)、ボール個数は25個である。
従来例の軸受Eは、例えば、アンギュラ玉軸受の呼び番号「7014」サイズで、標準ボール仕様である。具体的に軸受Eのボールの直径寸法は約11.906mm(15/32インチ)、ボール個数は21個である。
【0028】
これに対して本実施形態のアンギュラ玉軸受のうち軸受B,C,Dは、例えば、アンギュラ玉軸受の呼び番号「7014」サイズで、前記面積比を0.35以上0.5以下とし、さらに、前記ボール直径比を0.48以上0.56以下としている。
軸受Cのボール3の直径寸法は約10.319mm(13/32インチ)、ボール個数は22個である。
軸受Bのボール3の直径寸法は約9.525mm(3/8インチ)、ボール個数は22個である。
軸受Dのボール3の直径寸法は約11.113mm(7/16インチ)、ボール個数は20個である。
【0029】
図4は、従来技術に対する本発明のアンギュラ玉軸受の位置付けを示す図である。
従来は、低速重切削の領域を軸受Eタイプ、高速軽切削の領域を軸受Aタイプで対応していた。最近の工作機械用の主軸では、高速域の運転を制限(dn値125万以下)し、従来以上に高剛性を狙った主軸の要求がある。これに対応するため、その領域(dn値70~125万以下)に特化した主軸軸受B,C,D(図3、特に軸受C)が該当する。
【0030】
これらの軸受につき、高速性、負荷容量、許容アキシアル荷重および高速運転時の評価試験を行ったところ、次の表1の結果を得た。なお、アンギュラ玉軸受の呼び番号「7014」だけでなく、他の呼び番号「7020」等についても同様の試験を行った。図6に示すように、高速性の試験条件は、4列のアンギュラ玉軸受Bgを背面組合せで構成した主軸Shを用いて、各軸受Bgの転動体にセラミックボールを使用し、VG32の潤滑油を使用したエアオイル潤滑で、軸に組込後の予圧荷重1400Nを与えた状態で、内輪回転で回転数18000rpm、運転開始から100hの経過とその後の内部状況から判断したものである。表1における評価基準は以下の通りである。
【0031】
<高速性>
◎:運転時の外輪温度上昇が、20℃以下の時、高速性に優れると評価する。
○:運転時の外輪温度上昇が20℃を超え、25℃以下の時、高速性に問題ないと評価する。
△:運転時の外輪温度上昇が、25℃を超える時、高速性に問題ありと評価する。
<負荷容量> *軸受の内部諸元からの計算値
◎:内部仕様から求めた値が、同軸受の使用を想定するマシニングセンタの重切削加工に、十分余裕をもって単列で受けることができる水準を、負荷容量に優れると評価する。
○:内部仕様から求めた値が、同軸受の使用を想定するマシニングセンタの重切削加工に、単列で受けることができる水準を、負荷容量に問題無いと評価する。
△:内部仕様から求めた値が、同軸受の使用を想定するマシニングセンタの重切削加工に、2列の並列で受ける必要はある水準とする。
<許容アキシアル荷重>*軸受の内部諸元からの計算値
◎:内部仕様から求めた値が、同軸受の使用を想定するマシニングセンタのアンクランプ荷重を、十分余裕をもって単列で受けることができる水準を、許容アキシアル荷重に優れると評価する。
○:内部仕様から求めた値が、同軸受の使用を想定するマシニングセンタのアンクランプ荷重を、単列で受けることができる水準を許容アキシアル荷重に問題無いと評価する。
△:内部仕様から求めた値が、同軸受の使用を想定するマシニングセンタのアンクランプ荷重を、2列並列で受ける必要はある水準を許容アキシアル荷重に問題ありと評価する。
<高速運転時の耐久性>
◎:運転開始100時間迄に、異常温度上昇および異常振動がなく、試験後の軸受内部に異常がない時、耐久性に優れると評価する。
○:運転開始100時間迄に、目立った温度上昇および振動上昇が認められるも、その後安定に戻り、継続運転し、試験後の軸受内部に異常がない時、耐久性に問題ないと評価する。
△:運転開始100時間迄に、目立った温度上昇または振動上昇が認められ、試験後の軸受内部に面荒れや摩耗が認められた時、耐久性に問題ありと評価する。
【0032】
【表1】
【0033】
<作用効果について>
以上説明したアンギュラ玉軸受およびアンギュラ玉軸受用保持器4によれば、全ボール表面積に対する、保持器4における、ポケットPtを除く内周面4aの面積の割合である面積比を0.35以上0.5以下とすることで、軸受内の限られた空間の中で、軸受の負荷容量を確保しつつ、より多くの潤滑剤を保持器4の内周面4aに保持することができる。保持器幅を軸受幅より広げることなく、保持器4の内周面4aに付着する潤滑剤の量を増やすことができるため、保持器4が周辺の部品と干渉するおそれがなくなり軸受が取扱い易くなる。またボール径を小径化あるいはボール個数を減らすことなく、保持器4の内周面4aに付着する潤滑剤の量を増やすことができるため、軸受の負荷容量を確保し、主軸の剛性を高めることが可能となる。このように潤滑剤の保持による潤滑不良の防止や、軸受寿命の延伸、高負荷容量・高剛性を両立することができる。
【0034】
このアンギュラ玉軸受は極少量の潤滑剤を供給するエアオイル潤滑が、内輪回転による遠心力によって保持器4の内周面4aおよび外輪内周面に行き渡り、一時的に保持される。保持器4の内周面4aおよび外輪内周面の潤滑剤は、ボール表面に付着し、内輪軌道面1aおよび保持器4のポケットPtに運ばれることで、長期にわたり、円滑に運転することが可能となる。
保持器4は、外輪内周面に案内される外輪案内保持器である。この保持器4における、外輪内周面に案内される案内面に、軸受内の潤滑剤の一部が通過することから、この案内面に過度の摩耗が生じることを防止し得る。したがって、軸受の高速化を図ることができる。
【0035】
<他の実施形態>
図5に示すように、このアンギュラ玉軸受では、保持器4Aとして、ボール3である転動体に案内される転動体案内保持器が採用されている。その他の構成は前述の実施形態と同様の構成となっている。図5の構成によれば、外輪内周面と保持器4Aとの径方向の空間を広げ、同空間に潤滑剤を効率良く保持することができる。
【0036】
図示しないが、外輪内周面における軸方向両端部または軸方向一端部には、内輪外周面に非接触のシールが設けられていてもよい。例えば外輪内周面にシール取付溝が形成され、このシール取付溝に、シールの外径側の基端部が装着されている。この場合、軸受内部のグリースをより保持することが可能となる。
アンギュラ玉軸受は、エアオイル潤滑またはオイルミスト潤滑に限定されるものではなく、グリース潤滑であってもよい。
【0037】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0038】
1…内輪、2外輪、3…ボール、4,4A…保持器、4a…保持器の内周面、Pt…ポケット
図1
図2
図3
図4
図5
図6