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特許7430984歯車ワークピースの創成研削方法および歯車ワークピースの創成研削のための制御装置を持つ研削機械
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】歯車ワークピースの創成研削方法および歯車ワークピースの創成研削のための制御装置を持つ研削機械
(51)【国際特許分類】
   B23F 5/04 20060101AFI20240206BHJP
   B24B 53/00 20060101ALI20240206BHJP
   B23F 21/02 20060101ALI20240206BHJP
   B23F 23/12 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
B23F5/04
B24B53/00 J
B23F21/02
B23F23/12
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019066092
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2019181688
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】10 2018 109 067.6
(32)【優先日】2018-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504269327
【氏名又は名称】クリンゲルンベルク・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Klingelnberg GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】オラフ・フォーゲル
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-538235(JP,A)
【文献】特開2005-335061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 1/00-23/12
B24B 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドレッシング可能なウォーム砥石車(2)を使用して、歯車ワーク-ピース(W1)を創成研削する方法であって、創成研削中に、ウォーム砥石車(2)は工具回転軸(B)の周りに回転駆動し、歯車ワーク-ピース(W1)はワークピース回転軸(C)の周りに回転駆動し、ウォーム砥石車(2)と歯車ワーク-ピース(W1)の間で相対移動が行われ、
回転駆動可能なドレッシングユニット(4)によって実行されるウォーム砥石車(2)のドレッシング手順後に、
ウォーム砥石車(2)と歯車ワークピース(W1)の間で、工具回転軸(B)に対して平行に相対的なシフト移動を行うステップと、
ウォーム砥石車(2)と歯車ワークピース(W1)の間で、ワークピース回転軸(C)に対して平行または斜め方向に、軸平行な相対移動を行うステップと、を実行し、
シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率は、可変であり、ドレッシング手順後の歯車ワークピースの創成研削中には、ドレッシング手順前の歯車ワークピースの創成研削中とは異なる比率が用いられるように規定され
シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率の変更は、工具特有の係合密度(EgD)に基づき行われる、
創成研削方法。
【請求項2】
ウォーム砥石車(2)の直径(d0)は、ドレッシング手順ごとに小さくなり、シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率が変化する、請求項1に記載の創成研削方法。
【請求項3】
ウォーム砥石車(2)の直径(d0)は、ドレッシング手順ごとに小さくなり、シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率がドレッシング手順後ごとに増大する、請求項1に記載の創成研削方法。
【請求項4】
ドレッシング可能なウォーム砥石車(2)を使用して、歯車ワーク-ピース(W1)を創成研削する方法であって、創成研削中に、ウォーム砥石車(2)は工具回転軸(B)の周りに回転駆動し、歯車ワーク-ピース(W1)はワークピース回転軸(C)の周りに回転駆動し、ウォーム砥石車(2)と歯車ワーク-ピース(W1)の間で相対移動が行われ、
回転駆動可能なドレッシングユニット(4)によって実行されるウォーム砥石車(2)のドレッシング手順後に、
ウォーム砥石車(2)と歯車ワークピース(W1)の間で、工具回転軸(B)に対して平行に相対的なシフト移動を行うステップと、
ウォーム砥石車(2)と歯車ワークピース(W1)の間で、ワークピース回転軸(C)に対して平行または斜め方向に、軸平行な相対移動を行うステップと、を実行し、
シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率は、可変であり、ドレッシング手順後の歯車ワークピースの創成研削中には、ドレッシング手順前の歯車ワークピースの創成研削中とは異なる比率が用いられるように規定され、
準備方法段階において、ウォーム砥石車(2)の歯側部上の接触線(kBL)の形状が決定され、接触線(kBL)は、創成研削中に歯車ワークピース(W1)とウォーム砥石車(2)の接触から生じ、隣接する少なくとも2本の接触線(kBL)の互いの間隔は、係合密度(EgD)を長さの単位あたりの接触回数として計算するように決定される
成研削方法。
【請求項5】
係合密度(EgD)に基づいて、歯車ワークピース(W1)の創成研削のための研削戦略が決定され、研削戦略は、シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率の変更を含む、請求項4に記載の創成研削方法。
【請求項6】
係合密度(EgD)に基づいて、シフト移動量と軸平行な相対移動量(2)との比率が決定される、請求項4に記載の創成研削方法。
【請求項7】
シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率の変更は、係合密度(EgD)が歯車ワークピース(W1)の創成研削中に一定またはおよそ一定であるように行われ、一方でウォーム砥石車(2)の直径(d0)は、ドレッシング手順の実行によって小さくなる、請求項4から6のいずれかに記載の創成研削方法。
【請求項8】
係合密度(EgD)は、ウォーム砥石車(2)のらせん線路に沿って、またはウォーム砥石車(2)の歯の長手方向に沿って定義される、請求項4から6のいずれかに記載の創成研削方法。
【請求項9】
係合密度(EgD)は、工具1回転あたりのらせん移動量の逆数として定義される、請求項4から7のいずれかに記載の創成研削方法。
【請求項10】
研削機械(100)であって、ウォーム砥石車(2)を収容して回転駆動するためのスピンドル(1)と、歯車ワークピース(W1)を収容して回転駆動するためのスピンドル(3)と、ドレッシング装置(4)を収容して回転駆動するためのドレッシング装置(112)と、創成研削のために、およびドレッシングのためウォーム砥石車(2)とドレッシングユニット(4)間の相対移動を行うために、ウォーム砥石車(2)と歯車ワークピース(W1)の間で相対移動を行うように設計された複数の数値制御される軸と、を有し、
研削機械(100)は、制御装置(110)を備え、制御装置(110)は、ドレッシング後にウォーム砥石車(2)と歯車ワークピース(W1)の間で、軸平行な相対移動と相対シフト移動が行えるように研削機械(100)に接続可能であり、
シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率は、可変であり、ドレッシング手順後の歯車ワークピースの創成研削中には、ドレッシング手順前の歯車ワークピースの創成研削中とは異なる比率が用いられるように規定可能であ
研削機械(100)および/または制御装置(110)は、準備方法段階において、ウォーム砥石車(2)上の接触線(kBL)の形状が決定可能となるように設計され、接触線(kBL)は、創成研削中に歯車ワークピース(W1)とウォーム砥石車(2)の接触から生じ、隣接する少なくとも2本の接触線(kBL)の互いの間隔は、係合密度(EgD)を長さの単位あたりの接触点の数として計算可能となるように決定できる、
研削機械(100)。
【請求項11】
研削機械(100)であって、ウォーム砥石車(2)を収容して回転駆動するためのスピンドル(1)と、歯車ワークピース(W1)を収容して回転駆動するためのスピンドル(3)と、ドレッシング装置(4)を収容して回転駆動するためのドレッシング装置(112)と、創成研削のために、およびドレッシングのためウォーム砥石車(2)とドレッシングユニット(4)間の相対移動を行うために、ウォーム砥石車(2)と歯車ワークピース(W1)の間で相対移動を行うように設計された複数の数値制御される軸と、を有し、
研削機械(100)は、制御装置(110)を備え、制御装置(110)は、ドレッシング後にウォーム砥石車(2)と歯車ワークピース(W1)の間で、軸平行な相対移動と相対シフト移動が行えるように研削機械(100)に接続可能であり、
シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率は、可変であり、ドレッシング手順後の歯車ワークピースの創成研削中には、ドレッシング手順前の歯車ワークピースの創成研削中とは異なる比率が用いられるように規定可能であり、
研削機械(100)および/または制御装置(110)は、創成研削のための、および歯車ワークピース(W1)のドレッシングのための研削戦略を、係合密度(EgD)に基づいて定義するように設計され、研削戦略は比率を定義することを含む
研削機械(100)。
【請求項12】
研削機械(100)であって、ウォーム砥石車(2)を収容して回転駆動するためのスピンドル(1)と、歯車ワークピース(W1)を収容して回転駆動するためのスピンドル(3)と、ドレッシング装置(4)を収容して回転駆動するためのドレッシング装置(112)と、創成研削のために、およびドレッシングのためウォーム砥石車(2)とドレッシングユニット(4)間の相対移動を行うために、ウォーム砥石車(2)と歯車ワークピース(W1)の間で相対移動を行うように設計された複数の数値制御される軸と、を有し、
研削機械(100)は、制御装置(110)を備え、制御装置(110)は、ドレッシング後にウォーム砥石車(2)と歯車ワークピース(W1)の間で、軸平行な相対移動と相対シフト移動が行えるように研削機械(100)に接続可能であり、
シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率は、可変であり、ドレッシング手順後の歯車ワークピースの創成研削中には、ドレッシング手順前の歯車ワークピースの創成研削中とは異なる比率が用いられるように規定可能であり、
研削機械(100)および/または制御装置(110)は、シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率を、係合密度(EgD)に基づいて定義するように設計される
研削機械(100)。
【請求項13】
研削機械(100)であって、ウォーム砥石車(2)を収容して回転駆動するためのスピンドル(1)と、歯車ワークピース(W1)を収容して回転駆動するためのスピンドル(3)と、ドレッシング装置(4)を収容して回転駆動するためのドレッシング装置(112)と、創成研削のために、およびドレッシングのためウォーム砥石車(2)とドレッシングユニット(4)間の相対移動を行うために、ウォーム砥石車(2)と歯車ワークピース(W1)の間で相対移動を行うように設計された複数の数値制御される軸と、を有し、
研削機械(100)は、制御装置(110)を備え、制御装置(110)は、ドレッシング後にウォーム砥石車(2)と歯車ワークピース(W1)の間で、軸平行な相対移動と相対シフト移動が行えるように研削機械(100)に接続可能であり、
シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率は、可変であり、ドレッシング手順後の歯車ワークピースの創成研削中には、ドレッシング手順前の歯車ワークピースの創成研削中とは異なる比率が用いられるように規定可能であり、
係合密度(EgD)は、ウォーム砥石車(2)のらせん線路に沿って、またはウォーム砥石車(2)の歯の長手方向に沿って定義可能である
研削機械(100)。
【請求項14】
研削機械(100)であって、ウォーム砥石車(2)を収容して回転駆動するためのスピンドル(1)と、歯車ワークピース(W1)を収容して回転駆動するためのスピンドル(3)と、ドレッシング装置(4)を収容して回転駆動するためのドレッシング装置(112)と、創成研削のために、およびドレッシングのためウォーム砥石車(2)とドレッシングユニット(4)間の相対移動を行うために、ウォーム砥石車(2)と歯車ワークピース(W1)の間で相対移動を行うように設計された複数の数値制御される軸と、を有し、
研削機械(100)は、制御装置(110)を備え、制御装置(110)は、ドレッシング後にウォーム砥石車(2)と歯車ワークピース(W1)の間で、軸平行な相対移動と相対シフト移動が行えるように研削機械(100)に接続可能であり、
シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率は、可変であり、ドレッシング手順後の歯車ワークピースの創成研削中には、ドレッシング手順前の歯車ワークピースの創成研削中とは異なる比率が用いられるように規定可能であり、
係合密度(EgD)は、工具1回転あたりのらせん移動量の逆数として定義可能である
研削機械(100)。
【請求項15】
研削機械(100)であって、ウォーム砥石車(2)を収容して回転駆動するためのスピンドル(1)と、歯車ワークピース(W1)を収容して回転駆動するためのスピンドル(3)と、ドレッシング装置(4)を収容して回転駆動するためのドレッシング装置(112)と、創成研削のために、およびドレッシングのためウォーム砥石車(2)とドレッシングユニット(4)間の相対移動を行うために、ウォーム砥石車(2)と歯車ワークピース(W1)の間で相対移動を行うように設計された複数の数値制御される軸と、を有し、
研削機械(100)は、制御装置(110)を備え、制御装置(110)は、ドレッシング後にウォーム砥石車(2)と歯車ワークピース(W1)の間で、軸平行な相対移動と相対シフト移動が行えるように研削機械(100)に接続可能であり、
シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率は、可変であり、ドレッシング手順後の歯車ワークピースの創成研削中には、ドレッシング手順前の歯車ワークピースの創成研削中とは異なる比率が用いられるように規定可能であり、
係合密度(EgD)は、ウォーム砥石車(2)のらせん線路に沿って、またはウォーム砥石車(2)の歯の長手方向に沿って定義可能である
研削機械(100)。
【請求項16】
研削機械(100)であって、ウォーム砥石車(2)を収容して回転駆動するためのスピンドル(1)と、歯車ワークピース(W1)を収容して回転駆動するためのスピンドル(3)と、ドレッシング装置(4)を収容して回転駆動するためのドレッシング装置(112)と、創成研削のために、およびドレッシングのためウォーム砥石車(2)とドレッシングユニット(4)間の相対移動を行うために、ウォーム砥石車(2)と歯車ワークピース(W1)の間で相対移動を行うように設計された複数の数値制御される軸と、を有し、
研削機械(100)は、制御装置(110)を備え、制御装置(110)は、ドレッシング後にウォーム砥石車(2)と歯車ワークピース(W1)の間で、軸平行な相対移動と相対シフト移動が行えるように研削機械(100)に接続可能であり、
シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率は、可変であり、ドレッシング手順後の歯車ワークピースの創成研削中には、ドレッシング手順前の歯車ワークピースの創成研削中とは異なる比率が用いられるように規定可能であり、
係合密度(EgD)は、工具1回転あたりのらせん移動量の逆数として定義可能である
研削機械(100)。
【請求項17】
研削機械(100)は、コンピュータまたはコンピュータに接続するためのインターフェースを備え、コンピュータは、シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率を規定するように設計される、請求項10に記載の研削機械(100)。
【請求項18】
研削機械(100)であって、ウォーム砥石車(2)を収容して回転駆動するためのスピンドル(1)と、歯車ワークピース(W1)を収容して回転駆動するためのスピンドル(3)と、ドレッシング装置(4)を収容して回転駆動するためのドレッシング装置(112)と、創成研削のために、およびドレッシングのためウォーム砥石車(2)とドレッシングユニット(4)間の相対移動を行うために、ウォーム砥石車(2)と歯車ワークピース(W1)の間で相対移動を行うように設計された複数の数値制御される軸と、を有し、
研削機械(100)は、制御装置(110)を備え、制御装置(110)は、ドレッシング後にウォーム砥石車(2)と歯車ワークピース(W1)の間で、軸平行な相対移動と相対シフト移動が行えるように研削機械(100)に接続可能であり、
シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率は、可変であり、ドレッシング手順後の歯車ワークピースの創成研削中には、ドレッシング手順前の歯車ワークピースの創成研削中とは異なる比率が用いられるように規定可能であり、
研削機械(100)は、コンピュータまたはコンピュータに接続するためのインターフェースを備え、コンピュータは、準備方法段階において、ウォーム砥石車(2)の歯側部上の接触線(kBL)の形状を決定可能なように設計され、接触線(kBL)は、創成研削中に歯車ワークピース(W1)とウォーム砥石車(2)の接触から生じ、隣接する少なくとも2本の接触線(kBL)の互いの間隔は、係合密度(EgD)を長さの単位あたりの接触点の数として計算可能となるように決定できる
研削機械(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題事項は、歯車ワークピースを創成研削するための方法である。特に、複数回ドレッシング(目直し)可能なウォーム砥石車(ねじ状砥石)を使用して歯車ワークピースの創成研削を行うための装置と方法に関する。さらに,歯車ワークピースの創成研削のための制御装置を有する研削機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例示的な研削機械100の要素が図1に示されている。この図では不可欠な要素のみが示される。具体的には、研削工具2を含む工具スピンドル1と、ワークピースW1を有するワークピーススピンドル3である。さらに、この図ではいくつかの軸が示され、それらの軸はワークピースW1の創成研削のために利用できる。これらは3つの直線軸X,Y,Zである。さらに、研削工具の回転駆動を可能にするための回転軸Bがある。研削工具2を含む工具軸1は、ウォーム砥石車2のピッチをワークピースW1の傾斜角に対応させるように、旋回軸Aの周りを旋回できる。図1に基づいて、研削工具2を使用したワークピースW1の創成研削を実行可能とするために、線形、回転、および旋回の一連の協調的な運動全体が要求されることがわかる。
【0003】
前述のような研削機械100の費用効果に影響する要因の1つは、研削工具2(ここではウォーム砥石車の形態である。)の耐用年数である。工具2が早く摩耗するほど、工具2を使用して加工可能なワークピースW1の数は少なくなる。したがって、可能な限り高い費用効率でウォーム砥石車2を使用するための様々な戦略が存在する。
【0004】
とりわけ、様々なシフト方法が用いられる。連続シフト(斜めシフトと称されることもある。)は、研削機械100が、ウォーム砥石車2をワークピースW1に対して動かすために、Z軸に平行な連続シフト移動を行う手順である。この形態のシフトによって、ウォーム砥石車2の新しい領域、および/または充分に鋭利な砥粒を有する領域が使用されることが保証される。シフトによって、歯車ワークピースW1の幾何学的精度が保証されるだけでなく、歯側部における熱損傷も大幅に防ぐことができる。
【0005】
非連続シフト方法もあり、それは例えば、ウォーム砥石車2が粗削りのための領域と仕上げのための領域という異なる領域に分割されることに基づくシフト方法である。
【0006】
ワークピースW1の加工後に、その都度シフトが行われるシフト方法もある。例えば、次のワークピースを加工するために、ウォーム砥石車2の別の領域を使用可能にするシフト方法がある。
【0007】
さらに、ワークピースW1を全歯幅b2にわたって研削するために必要な研削ストロークが行われる。研削ストロークは、W1が平歯状の平歯車の場合、図1に示されるように、機械100のX軸に平行なウォーム砥石車2の線形移動を含む。
【0008】
連続シフトのためのシフト方法は、先行技術によれば、典型的に、ストローク移動量に対するシフト移動量の比率によって決定される。すなわち、ウォーム2の連続オフセットの絶対値は、ストローク移動量に対するシフト移動量の一定の比率によって決定される。この定義は、特にストロークによって生じうる。これらのシフト戦略において、シフト移動量はウォーム軸(ここではB軸と称する。)に沿った、すなわち、ウォーム幅b0に沿った長さであり、ストローク移動量は、ワークピース軸(ここではC軸と称する。)に沿った長さである。
【0009】
さらに、ウォーム砥石車2の歯が、歯車ワークピースW1の歯溝に最終深度まで達するために、送り込み運動が行われる。送り込み運動は、図1の例において機械100のY軸に平行に生じる。
【0010】
ウォーム砥石車を使用する創成研削をさらに最適化する必要がある。
【発明の概要】
【0011】
したがって、本発明の目的は、再現性よく高い研削加工の精度を有し、それでもなお高い効率性を有する、歯車の創成研削加工のための研削機械に用いる制御装置またはソフトウェアを開発することである。さらに,効率性の改善に寄与する適切な方法が提供される。
【0012】
特に、この目的は、一連のワークピースの研削加工に関して均一に高い精度を可能にする、平歯車の創成研削のための研削機械を提供することに関する。
【0013】
対応する本発明の方法は、請求項1の特徴によって識別される。対応する本発明の研削機械は、請求項11の特徴によって識別される。
【0014】
歯車ワーク-ピースの創成研削方法は、ドレッシング可能なウォーム砥石車を使用する。ウォーム砥石車は工具回転軸を中心に回転駆動し、一方で歯車ワーク-ピースはワークピース回転軸を中心に回転駆動する。さらにウォーム砥石車は、創成研削中、歯車ワークピースに対して創成研削運動を行う。ウォーム砥石車は、随時または必要時にドレッシング手順を受ける。ウォーム砥石車をドレッシングするために用いられるドレッシング手順後に、歯車ワークピースの創成研削のために、
工具回転軸に平行な、歯車ワークピースに対するウォーム砥石車のシフト移動と、
好ましくは工具回転軸に垂直または斜めである、ワークピース回転軸に平行または斜めで軸平行な相対移動と、が実行される。
シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率は、可変であり、ドレッシング手順後の歯車ワークピースの創成研削中には、ドレッシング手順前の歯車ワークピースの創成研削中とは異なる比率が用いられるように規定される。
【0015】
比率の変更は、下記の歯車ワークピースの創成研削中に効果があるように、ドレッシング前、ドレッシング中、またはドレッシング後に実行できる。
【0016】
実施形態の少なくとも一部において、創成研削は、それぞれの場合について一定の比率で実行される。
【0017】
実施形態の少なくとも一部において、「変数」(「可変」)という用語は、言及された比率が一定でないことを明確にするために用いられる。
【0018】
実施形態の少なくとも一部において、「変数」(「可変」)という用語は、言及された比率が、好ましくはウォーム砥石車のドレッシング後にその都度、段階的に適応されることを明確にするために用いられる。
【0019】
実施形態の少なくとも一部は、シフト移動の特殊な形態を含む。シフト移動の特殊な形態は、ドレッシング手順の実行後、複数の歯車ワークピースの創成研削中に行われる。
【0020】
実施形態の少なくとも一部において、ドレッシング可能なウォーム砥石車が使用され、ウォーム砥石車は複数回ドレッシングされることが可能である。ウォーム砥石車の直径は、ドレッシングによって小さくなり、シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率は、ウォーム砥石車の直径が小さくなるにつれて変更される。すなわち、これらの実施形態において、ストローク移動量に対するシフト移動量の固定の比率は用いられず、この比率は意図的に段階的に適応される。用語「ストローク移動」は、技術文献において一般的になってきたため、本明細書で用いられる場合がある。これは、ウォーム砥石車と歯車ワークピースとの間の相対移動を意味し、ワークピース回転軸に対して軸平行または斜め方向に伸びる。この軸平行な相対移動は、例えば、単一の直線軸(ストローク軸と呼ばれる場合もある。)の作動によって、または1つの機械における複数の運動の重ね合わせによって生成されることが可能である。
【0021】
実施形態の少なくとも一部において、シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率の変更は、工具特有の変数である係合密度に基づいて、ワークピース回転軸に対して平行または斜め方向に行われる。この比率の変更は、創成研削中に連続的に行われるのではなく、(段階的にという意味で)非連続的に、例えば、各ドレッシング手順後または何回かのドレッシング手順後に行われる。
【0022】
実施形態の少なくとも一部において、シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率の変更は、工具特有の変数として設計された係合密度に基づいて、ワークピース回転軸に平行または斜め方向に行われる。シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率の変更は、実際の歯車ワークピースの創成研削中に、係合密度が一定またはおよそ一定に保たれるように行われる。
【0023】
実施形態の少なくとも一部において、使用される研削機械は、ウォーム砥石車を収容し回転駆動するための少なくとも1つの1つのスピンドルと、歯車ワークピースを収容し回転駆動するためのスピンドルと、複数の数値制御された軸とを備える。数値制御された軸は、創成研削の目的のため、歯車ワークピースに対するウォーム砥石車の相対移動を行うように設計される。さらに、研削機械は、ドレッシング装置と制御装置を備え、制御装置は、ドレッシング手順後に、下記の手順が実行されるように研削機械に接続可能である。その手順は、ウォーム砥石車と歯車ワークピースの間の相対的で軸平行な相対移動を含み、当該相対移動は、ワークピース回転軸に対して平行または斜め方向に伸張する。当該手順は、ウォーム砥石車と歯車ワークピースの間の相対シフト移動を含む。シフト移動量と軸平行な相対移動量の間で比率が予め定義でき、比率は可変である。
【0024】
実施形態の少なくとも一部において、制御装置は、各ドレッシング手順後、または2つかそれ以上のドレッシング手順後に、本発明の方法のステップを実行可能であるように、設計されるかまたはプログラム可能である。
【0025】
本発明は、とりわけ平歯状の平歯車および斜歯(はすば)状の平歯車に適用されてもよい。本発明は、例えばべべロイド(すなわち、円錐歯車の歯を持つ歯車)に適用されてもよい。
【0026】
実施形態の少なくとも一部は、好ましくは、複数回ドレッシングされたウォーム砥石車の最小の直径においてもなお信頼性があると証明された条件または技術的可能性に向けられる。すなわち、例えば、実際にそれ自体が証明されている工具特有の性能変数から始めることができる。この性能変数は、複数回のドレッシングにより最小許容直径に達したときのウォーム砥石車の研削能力に関する尺度である。ウォーム砥石車は最小許容直径に達してもなお良好で信頼できる研削性能を備えることが実験値からわかっているので、既知の研削性能に基づき、変更されたシフト方法に対する補外が実行可能である。
【0027】
実施形態の少なくとも一部において、本発明は、ウォーム砥石車の研削能力の基準を用いる。これは、相対シフト移動量とストローク移動量(すなわち、ワークピース回転軸に平行または斜め方向で軸平行な相対移動量)との比率を、この基準に基づいて適応させるためである。
【0028】
実施形態の少なくとも一部において、シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率は、ワークピース回転軸に平行または斜め方向に規定され、かつ、可変である。
【0029】
この可変性を技術的に妥当な方法で有用とするため、プロセス変数が定義される。プロセス変数は、ここでは例として、係合密度と呼ばれる。対応する実施形態において、係合密度に従ってシフト方法が適応される。
【0030】
実施形態の少なくとも一部において、上限値の基準として、最小許容直径を有するウォーム砥石車の使用中にそれ自体が証明されている係合密度から始めることができる。ウォーム砥石車の使用中の技術的手段によって、上限値よりも大きい有効な係合密度は、ウォーム砥石車の他のいかなる領域でも生じないことが保証される。
【0031】
実施形態の少なくとも一部において、研削機械は、コンピュータまたは(外部の)コンピュータに接続するためのインターフェースを備える。当該コンピュータは、シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率を規定するように設計される。
【0032】
実施形態の少なくとも一部において、研削機械は、コンピュータまたは(外部の)コンピュータに接続するためのインターフェースを備える。当該コンピュータは、準備方法段階において、ウォーム砥石車の歯側部上の接触線の形状を決定できるように設計される。当該接触線は、創成研削中に歯車ワークピースとウォーム砥石車の接触から生じる。隣接する少なくとも2本の接触線の互いの間隔が決定可能であり、これにより係合密度(EgD)が長さの単位あたりの接触点の数として計算可能となる。
【0033】
実施形態の少なくとも一部において、外部コンピュータは、例えば、内部または外部のネットワークを経由して研削機械のインターフェースに接続可能である。さらに、外部コンピュータは、例えば、シフト移動量と軸平行な相対移動量との比率を規定するように、および/または、比率の変更のための対応する規定をソフトウェアまたはソフトウェアモジュールによって転送するように使用可能である。
【0034】
さらなる好ましい実施形態は、それぞれの従属請求項から推察できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
本発明のさらなる詳細と利点は、例示的な実施形態と図の参照に基づいて以下で説明される。
図1】研削工具を使用してワークピースの研削加工を行うために設計された研削機械の概略的な斜視図
図2A】基本的な用語がこの視点に基づいて定義される、例示的な平歯状の平歯車の概略的な側面図
図2B】ウォーム砥石車がストローク運動なしで平歯車の研削に使用された場合に生じる接触線が示されている、図2Aの平歯車の歯溝の概略的な拡大投影図
図2C】ウォーム砥石車がストローク運動ありで平歯車の研削に使用された場合に生じる複数の接触線が示されている、図2Aの平歯車の歯溝の概略的な拡大投影図
図3A】基本的な用語がさらにこの視点に基づいて定義される、例示的なウォーム砥石車の概略的な側面図
図3B】ウォーム砥石車が平歯車の研削に使用された場合に生じる複数の接触線が示されている、図3Aのウォーム砥石車の歯溝の概略的な拡大投影図
図3C】1本の接触線のみが概略的形状で示された、図3Aのウォーム砥石車の歯溝の非常に概略的な拡大展開状態図
図3D】複数の接触線が概略的形状で示された、図3Aのウォーム砥石車の単一のウォーム歯側部に関する非常に概略的な拡大展開状態図
【発明を実施するための形態】
【0036】
用語は、関連する文献や特許でも使用され、本説明に当たって使用される。しかしながら、これらの用語の使用は単に理解を助けるためである。発明の概念および特許請求の範囲の保護範囲は、特定の用語の選択による解釈に制限されない。本発明は、他の用語で表されるシステムおよび/または技術分野に容易に移転されうる。用語は、他の技術分野でも同様に用いられる。
【0037】
図2Aは、例示的な平歯状の平歯車W1の概略側面図を示す。基本的な用語は、この図面に基づいて定義される。平歯車W1は歯幅b2を有し、軸Cを中心に回転するように配置される。歯の基部ZGは、図2Aの中央に灰色で示される。歯の基部ZGの左に位置する長方形の領域は、ここでは左歯側部LFを表す。歯の基部ZGの右に位置する長方形の領域は、ここでは右歯側部RFを表す。
【0038】
図2Bは、平歯車2Aの一つの歯溝11を拡大した概略投影図を示す。この概略図では、各歯側部は個別に投影されている。歯の基部ZGは、ここでも灰色で示されており、模式的に補われたものである。この特殊な形式の投影において、歯溝11の左右の歯高h2は、歯の基部ZGでの溝幅よりも充分に大きい。さらに歯側部LF,RF、および歯の基部ZGは、この投影で長方形の領域として示される。歯の頭はそれぞれ歯側部LF, RFの右と左に隣接して配置される(図2Bに図示せず)。
【0039】
平歯車の歯溝11を研削により機械加工する場合、例えば研削砥石をストローク運動なしに(すなわち、ワークピース回転軸Cに対して軸方向に平行な相対運動せずに)使うような場合、結果的に接触線BLは一連の直線(linear line train)として生じる。接触線BLは、この場合、研削砥石が工具(回転)軸Bを中心に回転するときに動く接触点から生じる。しかしながら、一連の直線は、ワークピース軸Cに対して平行な相対ストローク運動がないとき、すなわち研削砥石がワークピースW1に対して動かないとき、に限り生じる。
【0040】
ウォーム砥石車2が使われると、図2Bに示すように、単一の接触線BLのみが生じるが、このとき、ウォーム砥石車2が連続的に係合している間に、接触線BLを複数回通過する。
【0041】
図2Bに示される例は特殊な事例である。なぜなら、全歯幅b2に沿った歯側部LF, RFの創成研削加工のために、ワークピース軸Cに平行な軸方向送りが必要なためである。この軸方向送りは、ここでは相対ストローク運動と呼ばれ、より一般的には、ワークピース回転軸Cに対して軸方向に平行な相対運動とも呼ばれる。
【0042】
図2Cは、図2Aと同じ平歯車W1の歯溝11を拡大した概略投影図で、複数の接触線BLが示されている。これらの接触線BLは、平歯車W1を研削するためにウォーム砥石車2が使用される際に生じる。ウォーム砥石車2は、ワークピース軸Cに平行な相対運動を行い、その結果、全歯幅b2を研削することにより機械加工できる。図の視認性のため、ここでは5本の接触線BLのみが示されている。実際は、接触線BLは全歯幅b2に沿って生じる。
【0043】
ワークピース軸Cに平行な相対運動が特定されるので、接触点は歯側部LF, RFの表面に沿った平面を動き、一方、接触線BLは、選択された軸方向送りが大きくなるほど、ますます斜め方向に伸びる。図2Cの例において、ワークピース1回転あたりの軸方向送りΔxは、図2Cに示されるように、隣接する2本の接触線BLの間隔に基づいて読み取ることができる。
【0044】
図2Aから図2Cの例は、平歯車W1に関連する。研削工具として使用されるウォーム砥石車2の状況に注目すると、対応する接触線kBLが定義可能である。しかしながら、これらの対応する接触線kBLは、著しく異なった形状となり得る。接触線kBLの定義において、ねじ歯車としてのウォーム砥石車2は、大きな傾斜角(90°近く)または小さなリード角(0°近く)を各々持つ斜歯歯車の歯に数学的に対応するということが、ここでは仮定されている。例示的なウォーム砥石車2は、図3Aに側面図で示される。ウォーム砥石車2は、幅b0、直径d0を持つ。工具(回転)軸は、参照符号Bで与えられている。
【0045】
図3Bは、ウォーム砥石車2の歯溝の拡大投影図を示す。この投影は、原則として図2Bおよび図2Cの投影と均等であるが、歯高に対する歯幅の比率が、図2B図2Cに比べて著しく大きい。図3Bの描写は、正確な縮尺率ではない。2つの歯側部LFとRF、さらに、歯の基部ZGが、この径方向投影においても認識される。歯側部LFとRF、さらに歯の頭(歯側部LFとRFに左右で隣接する部分)は、砥粒で覆われているが、ここでは図示されていない。歯側部LFとRFの長さは、ウォーム幅b0と呼ばれ、歯側部LFとRFの高さは、歯高h0と呼ばれる。
【0046】
図3Bの例において、隣接する2本の接触線kBLの間隔に基づいて、工具1回転あたりの(すなわち、ウォーム砥石車2の1回転あたりの)現在の軸方向送り量Δzが読み取れる。軸方向送り量Δzは、工具1回転あたりのシフト移動量に対応する。
【0047】
大きな傾斜角または小さなピッチのため、図3Bの投影は、実際に研削のために使用される歯側部の強く歪められたイメージを示しているにすぎない。したがって、図3Cには、歯側部の展開状態(unwinding)が概略的で非常に簡略化された図で示されている。
【0048】
歯側部の展開状態は、例えば、ウォーム砥石車2の中央シリンダーを観察することによって得られる。この中央シリンダーは、歯側部LF,RFの歯側部領域と、らせん状(変更されたウォーム砥石車2では、一般に単に近似的にらせん状)に交差する。このらせん線路の長さは、各場合において、ウォーム幅b0を、中央シリンダー(シリンダーの直径)での歯側部LF,RFそれぞれのリード角の正弦で割った商に由来する。シリンダーの直径が大きくなるにつれ、らせん線路の長さは長くなる。すなわち、らせん線路の長さは、ヘッドシリンダーにおいて最大となる。歯の頭におけるらせん線路の長さと、歯の基部におけるらせん線路の長さとの差は、らせん長に対して短い。なぜなら、歯高h0がウォーム幅b0に対して比較的小さいからである。
【0049】
基準直径は、関連した基準らせん線路を持ち、基準らせん長l0*は次のように定義される。
【0050】
【数1】
【0051】
γ0*は、ウォーム砥石車2の基準直径におけるリード角である。図3の引き伸ばし図は、この縮尺率を変える変換から生じる。原則として、図3Bの例は、1/sin(γ0*)倍に引き延ばされている。図3Cに示されている接触線kBLは、実際には、現実に対応するために、さらに大いに引き延ばされる必要がある。さらに、図3Cには1本の接触線kBLのみが示されているが、歯側部LF,RF全体が、そのような接触線kBLで覆われるべきである。
【0052】
単一のウォーム歯側部(歯側部RF)の展開状態が、図3Dに概略図で示されている。簡単のため同一として選択されている複数の接触線kBLが、ここでは互いにずれて示されている。隣接する2本の接触線kBLの間隔に基づいて、図3Dにおいて、工具1回転あたりの、らせん移動量が読みとれる。このらせん移動量は、工具1回転あたりのシフト移動量Δsを、リード角γ0*の正弦で割った商に対応する。図3Dに示される接触線kBLは、辺長h0(歯高)と辺長l0*(基準らせん長)を持つ長方形上の回転線として示されている。この展開状態における接触線kBLの間隔は、工具(回転)軸B周りの工具1回転あたりのらせん移動量に対応する。このらせん移動量は、上記の[数1]に従って、工具1回転あたりのシフト移動量Δsから求められる。
【0053】
ここで、ドレッシング手順のあと、シフト移動と軸平行移動との比率を適応させることにより、砥粒の有効活用が達成可能になる。したがって、実施態様の少なくとも一部において、この比率は、1回または複数回のドレッシング手順の後に適応される。言い換えれば、大きな直径d1を有するウォーム砥石車2を使用する創成研削中に、シフト運動量に対するワークピース回転軸Cに軸平行または斜め方向の相対的な移動の比率は、ドレッシングにより有効直径d0が小さくなったウォーム砥石車2を使用する研削中とは異なる比率が用いられる。
【0054】
以後、「係合密度EgD」(“engagement density EgD”)という概念を導入する。この係合密度EgDは、らせん線路または歯の長手方向に沿って観測され、工具1回転あたりのらせん移動量に対する逆数として定義される。図3Bに関して、次の式が適用される。
【0055】
【数2】
【0056】
図3Dに関して、次の式が適用される。
【0057】
【数3】
【0058】
すなわち、係合密度EgDは、らせん移動量あたりの係合回数を定義する。係合密度EgDは、ウォーム砥石車の最大直径d0maxにおいて、最小直径d0minにおける係合密度よりも著しく小さくなる(軸平行移動に対するシフト移動量の比率が一定の場合)。
【0059】
係合密度EgDの定義により、定量的な記述が初めて可能となる。定量的な記述に基づいて研削戦略が適応でき、ウォーム砥石車2の有効活用が可能となる。このことにより、ウォーム砥石車2を使用して、より多くのワークピースW1が研削可能となり、新しい研削戦略(より正確にはハンドリング戦略)を用いる場合、研削された歯側部の表面の品質悪化は生じない。
【0060】
新しいハンドリング戦略を定義するための係合密度EgDの適用は、以後、数値例に基づいて説明される。
【0061】
例として、ワークピース1回転あたりの軸方向送り0.3mmを有する一定のストローク(すなわち、ワークピース回転軸Cに平行または斜め方向の、一定の軸平行な相対移動)が、ここでは(前述の先行技術におけるように)例として想定される。さらに、ウォーム砥石車2は、最大直径d0max=250mmと最小直径d0min=220mmを有すると仮定される。さらに、ウォーム砥石車2は歯車数5を有し、ワークピースW1は歯数29の平歯車である。
【0062】
軸方向送り量は、以下のように工具の回転に対して変換できる。工具の回転に対して変換された軸方向送り量は、工具1回転あたりのストローク移動量に対応する。すなわち、次のようになる。
【0063】
【数4】
【0064】
工具1回転あたりのシフト移動量は、ウォーム砥石車2の歯の1係合あたりのシフト移動量に対応し、次のようになる。
【0065】
【数5】
【0066】
軸方向でのシフト移動量あたりの係合回数は、ここから計算でき、ウォーム幅1ミリメートルあたり769の係合が生じる。
【0067】
これらの変数は全て、ウォーム砥石車2の有効直径d0と独立である。対照的に、砥粒で覆われた(歯側部の)表面をウォーム幅b0に沿って見ると、リード角が役割を果たす。最大直径d0max=350mmにおいて、リード角はわずか2.05°である。逆に、最小直径d0min=220mmにおいて、リード角は3.26°である。
【0068】
工具1回転あたりのらせん移動量は、歯側部の表面に沿った移動量に対応する。直径d0maxを有するウォーム砥石車2において、工具1回転あたりのらせん移動量は、[数2]から次のように決まる。
【0069】
【数6】
【0070】
直径d0minを有するウォーム砥石車2において、工具1回転あたりのらせん移動量は、[数2]から次のように決まる。
【0071】
【数7】
【0072】
したがって、工具1回転あたりのらせん移動量は、大きな直径を有するウォーム砥石車2における場合と比べ、小さな直径を有するウォーム砥石車2において著しく小さくなる。したがって、ドレッシングによって変化する直径によって、らせん移動量は変化する。
【0073】
直径d0maxを有するウォーム砥石車2に関して、らせん移動量あたりの係合回数(この変数は、ここでは定義によって係合密度EgDと呼ばれる)は、(歯側部の表面に沿って)EgD=27.5係合/mmとなる。直径d0minを有するウォーム砥石車2に関して、らせん移動量あたりの係合回数は、(歯側部の表面に沿って)EgD=43.7係合/mmとなる。
【0074】
軸平行移動に対するシフト移動量の比率が一定なら、係合密度EgDは、最小直径d1minにおける場合と比べ、最大直径d1maxにおいて著しく小さくなる。
【0075】
下記のアプローチに基づいて、実施態様の少なくとも一部において、研削戦略またはハンドリング戦略の新たな定義が行われる。ウォーム砥石車2が、係合密度EgD=43.7係合/mmから、最小直径d0minに達してもなお信頼性をもって動作し、良好な研削結果を生じるように開発された場合、研削戦略またはハンドリング戦略の適切な適応は、下記のように実施可能である。
【0076】
工具1回転あたりの新しいらせん移動量は、[数2]に基づき次のように逆に定義される。
【0077】
【数8】
【0078】
すなわち、工具1回転あたりのらせん移動量は、1.3μmから0.82μmに減少される。その結果、工具1回転あたりのらせん移動量0.82μmは、(らせん移動量あたりの係合密度EgDに代わって)シフト移動量あたりの係合密度(ウォーム幅に沿った)1222係合/mmに対応する。ストローク移動量あたりのシフト移動量0.016mm/mmは、そこから算出されうる(一般に、この比率は、ワークピース回転軸Cに平行または斜め方向の軸平行移動に対する、シフト移動量の比率とも呼ばれる)。このことは、観測されたストロークに対して要求されるシフト移動量を36%削減することに対応する。この観測は、特定の軸方向送りと独立であり、従って仕上げと荒削り両方のストロークに適用される。
【0079】
例示的な新しい研削戦略またはハンドリング戦略は、例えば、下記のように表せる。最小直径d0minに達するとき、例えば、ストローク移動量あたりのシフト移動量を0.025mm/mmと規定できる。直径が最大直径d0maxに対応するウォーム砥石車2を用いて研削するとき、例えば、ストローク移動量あたりのシフト移動量を0.06mm/mmと規定できる。新しい(まだドレッシングされていない、またはわずかだけドレッシングされた)ウォーム砥石車2を使用する研削は、ストローク移動量に対するシフト移動量の比率が0.016mm/mmで始まる。線形関係を想定すると、ストローク移動量に対するシフト移動量の比率は、各ドレッシング後に、0.016から0.025まで段階的に線形に変化させることが可能である。
【0080】
このアプローチは、非常に良い結果をもたらす。なぜなら、ウォーム砥石車の直径d0に対する係合密度EgDの依存性は、およそ線形に拡大することを、より正確な研究が示しているからである。
【0081】
さらに、ストローク移動量あたりのシフト移動量が一定な従来の連続シフト方法を適用したときに、約270のドレッシング手順を用いてドレッシング1回あたりに28個のワークピースW1が加工可能だと想定すると、この従来方法を用いて1つのウォーム砥石車2を使用して、およそ28*270=7560個のワークピースW1を研削することが可能となる。
【0082】
新しいシフト方法またはハンドリング方法では、様々な比率となるが、28個のワークピースに
代え、最初のドレッシング前の最大直径d0maxにおいて、およそ43.5個のワークピースが製造可能である。線形関係を想定するなら、ウォーム砥石車2の全直径範囲にわたって製造可能なワークピースW1の数は、次のように想定できる。
【0083】
【数9】
【0084】
9652個のワークピースは、従来の連続シフト方法を用いて研削可能な7560と比べ、およそ28%の増加である。すなわち、各ドレッシング後の、ストローク移動量に対するシフト移動量の比率の線形適応によって、研削方法は大いに最適化される。
【0085】
軸平行な相対移動に対するシフト移動量の比率の適応は、さらにウォーム砥石車2の有効直径d0の関数として実行することが可能である。この目的のため、直径d0は、ドレッシング後その都度決められる。これは、ドレッシングの後に続く研削処置のための、軸平行移動に対するシフト移動量の比率を、式を用いて計算的に特定するためである。
【0086】
歯の高さh0に代えて、歯側部の表面に対する計算された近似のために、スケール変換後の変数h0/cos(αn0)を用いることも可能である。ただし、αn0は直角係合角(normal engagement angle)である。前述の実施態様において、係合密度EgDは、簡単のためらせん線路の方向(歯の長手方向)で観測されたので(図3Dを参照)、この代用は、ここでは必須ではない。
【0087】
接触線kBL間の間隔を、より正確に観測することが可能である。例えば、(図3Dに示されたように)らせん線路に沿うのではなく、接触線kBLに対して垂直に間隔Δzを測定または計算することで、より正確な観測が可能となる。接触線kBLの垂直な間隔に従って対応する係合密度を決定するために、前述した直角係合角αn0を用いる変換を行う必要がある。さらに、しかしながら、接触線BLの実際の傾斜も決定され、考慮されるべきである。
【0088】
このような方法で、より正確な式が得られる。これは、ドレッシング後に軸平行移動に対するシフト移動量の比率を適応させるために全実施形態において使用可能である。
【0089】
軸平行な相対移動に対するシフト移動量の比率に関して、線形適応を行う代わりに、全実施形態において、ドレッシング後に、この適応を非線形に行うことも可能である。
【0090】
軸平行な相対移動に対するシフト移動量の比率に関して、線形な適応を行う代わりに、この適応はさらに、全実施形態において、ドレッシングの後、以前に記録された値をデータベースから読み出すことによって(例えば、テーブルルックアップによって)行うことが可能である。これらの実施形態において、次に軸平行な相対移動に対するシフト移動量の比率に関して段階的な(局所的)適応が適用される。
【0091】
本発明の研削機械100は、例えば、研削工具2を収容し工具回転軸B(略して工具軸とも呼ばれる)の周りに研削工具2を回転駆動するための工具スピンドル1をさらに備えてもよい。さらに、研削機械100は、例えば、ワークピースW1を収容するためのワークピーススピンドル3を備えてもよい。さらに、機械100は、ドレッシングユニット3を有するドレッシング装置112を備え、機械100は、研削工具2を再固定(再チャック)することなく、ドレッシングユニット4によりドレッシング手順を行うことを可能にするように設計される。ドレッシングユニット4を使用する研削工具2のドレッシングは、図1にスナップショットで示されている。
【0092】
さらに、研削機械100は、制御装置110を備える。図1において、この制御装置110は、単に楕円によって示され、恒久的に、または必要なときに、研削機械100および/またはドレッシング装置112と通信接続を有する。通信接続は、参照符号111で示される。
【0093】
実施形態の一部において、制御装置110は、ウォーム砥石車2のドレッシング後にその都度、ストローク移動量に対するシフト移動量の比率に関して、線形または非線形な適応を仮定する。
【0094】
研削機械100の軸に関する配置と設計は、単に例として解されるべきである。他に多数の適した座標軸もまた存在する。ここで記述された相対移動は、単一軸(例えば、ストローク軸X)の移動によって行われる必要はない。それぞれの移動は、2つまたはそれより多い軸の移動の重ね合わせによって形成されることも可能である。
【0095】
前述の比率に関する適応は、好ましくは、ウォーム砥石車2の各ドレッシング後に行われる。さらに前述の比率に関する適応は、例えば、2回のドレッシング毎に、または別の間隔でのみ行われることも可能である。
【0096】
「ドレッシング後」の適応はまた、以前にドレッシングされた、創成研削のためのウォーム砥石車2をさらに使用する直前に行われる適応も含む。
【0097】
前述の比率に関する適応は、小さなステップで行われることが可能である。例えば、2000個のワークピースW1が、特定のウォーム砥石車2を使用して研削でき、係合密度EgDが0.01と0.03の間であるとすれば、0.03と0.01の差は、2000に分割することができる。その結果、各々が0.00001mm/mmの、2000の細かなステップが得られる。この場合、制御装置110は、各ドレッシング手順の後に、段階的に比率の小さな変更を行う。
【符号の説明】
【0098】
1 工具スピンドル
2 研削工具
3 第1ワークピーススピンドル
4 ドレッシングユニット
11 歯溝
100 研削機械
110 制御装置
111 通信接続
112 ドレッシング装置
A 旋回軸
αn0 直角係合角
C ワークピース軸
B 工具(回転)軸
BL 接触線
kBL 対応する接触線
b0 ウォーム幅
b2 歯幅
d0 直径
d0max 最大直径
d0min 最小直径
Δs 展開状態/らせん線路に沿った長さ
Δx ワークピース1回転あたりの軸方向送り量
Δz 工具(ウォーム)1回転あたりのウォーム砥石車に関する軸方向送り量
EgD 係合密度
h0 歯の高さ
γ0* 基準直径におけるリード角
LF 左歯側部
l0* 基準らせん(線路)長
RF 右歯側部
W1 (歯車)ワークピース
X 垂直軸
Y 水平直線軸
Z 水平直線軸
ZG 歯の基部
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D