(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】表面処理粒子の分散液および該分散液を含む硬化性の組成物
(51)【国際特許分類】
C01G 23/047 20060101AFI20240206BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240206BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20240206BHJP
C01B 13/14 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
C01G23/047
C08L101/00
C08K9/06
C01B13/14 A
(21)【出願番号】P 2019067946
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒金 宏忠
(72)【発明者】
【氏名】久保 拓也
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 光章
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-036308(JP,A)
【文献】特開2015-108068(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031931(WO,A1)
【文献】特開2017-178736(JP,A)
【文献】特開2010-091342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00-23/08
C08L 101/00
C08K 9/06
C01B 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率が1.65以上の金属酸化物粒子の表面に第一有機珪素化合物が結合した表面処理粒子と、前記金属酸化物粒子には結合していない第二有機珪素化合物と、有機溶媒と、を含み、
前記有機溶媒のSP値(溶解パラメータ)が10[(cal/cm
3
)
1/2
]未満であり、
前記第一有機珪素化合物と前記第二有機珪素化合物は、式(1)で表される長鎖有機珪素化合物であり、
前記表面処理粒子100質量部に対して、前記第二有機珪素化合物が17.4~99質量部含まれていることを特徴とする表面処理粒子の分散液。
(R-(CH
2)
m)
nSiX
(4-n) (1)
(Rは(メタ)アクリル基、ビニル基、エポキシ基、グリシドキシ基、フェニル基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、メチル基、ハロゲン置換メチル基から選ばれる少なくとも1つ。mは5~15の整数。nは1~3の整数。Xはアルコキシ基、水酸基、水素、ハロゲンから選ばれる少なくとも1つ。)
【請求項2】
前記表面処理粒子100質量部に対して、10~50質量部の前記第一有機珪素化合物が前記金属酸化物粒子の表面に結合していることを特徴とする請求項1に記載の表面処理粒子の分散液。
【請求項3】
分散液と、硬化性樹脂またはそのモノマーと、を混合した組成物であって、
前記分散液は、屈折率が1.65以上の金属酸化物粒子の表面に第一有機珪素化合物が結合した表面処理粒子と、前記金属酸化物粒子には結合していない第二有機珪素化合物と、有機溶媒とを含み、
前記第一有機珪素化合物と前記第二有機珪素化合物は、式(1)で表される長鎖有機珪素化合物であり、
前記表面処理粒子100質量部に対して、前記第二有機珪素化合物が17.4~99質量部含まれており、
前記硬化性樹脂またはそのモノマー100質量部に対して、前記分散液に含まれる表面処理粒子と第二有機珪素化合物との和が11~900質量部であることを特徴とする硬化性の組成物。
(
R-(CH
2
)
m
)
n
SiX
(4-n)
(1)
(Rは(メタ)アクリル基、ビニル基、エポキシ基、グリシドキシ基、フェニル基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、メチル基、ハロゲン置換メチル基から選ばれる少なくとも1つ。mは5~15の整数。nは1~3の整数。Xはアルコキシ基、水酸基、水素、ハロゲンから選ばれる少なくとも1つ。)
【請求項4】
前記有機溶媒のSP値(溶解パラメータ)が10[(cal/cm
3
)
1/2
]未満であることを特徴とする請求項3に記載の硬化性の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い屈折率と透明性に優れた樹脂硬化物を実現する表面処理粒子の分散液と硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光学部品に用いられるレンズ、プリズム、膜等は、樹脂の硬化物で形成されている。樹脂の硬化物は透明ではあるが、屈折率が低い(1.4~1.6程度)。硬化物の屈折率を向上させるため、高屈折率の金属酸化物粒子(TiO2やZrO2等)を樹脂の組成物に配合することが知られている。このとき、粒子が凝集した状態で組成物を硬化させると、硬化物中でも粒子は凝集したままであり、硬化物の透明性が低下する。また、硬化物中で粒子が凝集していると、良好な屈折率も得られない。そのため、硬化性樹脂と混合しても粒子が凝集しないように、粒子の表面に3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の有機珪素化合物を結合させることが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、透明性に優れ、吸湿し難い樹脂である、環状オレフィン系樹脂を光学部品に用いることが知られている(例えば、特許文献2を参照)。環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィンのモノマーを重合させることにより得られ、ポリマーの主鎖に脂環構造を有している。この環状オレフィンのモノマーは、疎水性が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-178736号公報
【文献】国際公開第2007/026527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、光学部品には、高い屈折率と高い透明性が要求されている。そこで、高い屈折率の金属酸化物粒子を、環状オレフィンのモノマーのような疎水性が高い硬化性樹脂に配合しても、優れた分散性が得られることが必要である。しかし、特許文献1の粒子を含むゾルを疎水性が高い硬化性樹脂と混合すると、粒子が凝集してしまい、樹脂硬化物の透明性が不十分となり、また、良好な屈折率が得られない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、優れた透明性と高い屈折率を兼ね備えた樹脂の硬化物を得ることができる粒子の分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による分散液は、屈折率が1.65以上の金属酸化物粒子の表面に第一有機珪素化合物が結合した表面処理粒子と、金属酸化物粒子の表面に結合していない第二有機珪素化合物と、有機溶媒とを含んでいる。分散液には、表面処理粒子100質量部に対して、第二有機珪素化合物が2~99質量部含まれている。第一有機珪素化合物と第二有機珪素化合物は、「(R-(CH2)m)nSiX(4-n)」で表され、mが5~15(整数)の長鎖の有機珪素化合物である。nは1~3の整数である。Rは(メタ)アクリル基、ビニル基、エポキシ基、グリシドキシ基、フェニル基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、メチル基、ハロゲン置換メチル基の少なくとも1つ、Xはアルコキシ基、水酸基、水素、ハロゲンから選ばれる少なくとも1つである。
【0008】
このような分散液では、粒子(表面処理粒子)の表面に長鎖の有機珪素化合物が結合しているため疎水性が高く、どのような有機溶媒に対しても良好な分散性が得られる。
【0009】
さらに、分散液に含まれる第一有機珪素化合物と、第二有機珪素化合物の質量比(第一有機珪素化合物/第二有機珪素化合物)は、0.1~9.0が好ましい。
【0010】
また、上述の分散液と硬化性樹脂を含んだ組成物によれば、透明性と屈折率に優れた樹脂の硬化物が得られる。このとき、硬化性樹脂100質量部に対して、分散液に含まれる表面処理粒子と第二有機珪素化合物との和は11~900質量部である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の分散液は、金属酸化物粒子の表面に第一有機珪素化合物が結合した表面処理粒子と、金属酸化物粒子に結合していない第二有機珪素化合物と、有機溶媒を含んでいる。第一有機珪素化合物と第二有機珪素化合物は、「(R-(CH2)m)nSiX(4-n)」という「式1」で表される。「R」は(メタ)アクリル基、ビニル基、エポキシ基、グリシドキシ基、フェニル基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、メチル基、ハロゲン置換メチル基の少なくとも1つである。mは5~15の整数、nは1~3の整数である。「X」はアルコキシ基、水酸基、水素、ハロゲンの少なくとも1つである。mが5~15であるため、長鎖の有機珪素化合物である。そのため、mが5未満の短鎖の有機珪素化合物が金属酸化物粒子に結合したものに比べて、粒子間の立体障害が大きくなり、凝集しにくい。さらに、第二有機珪素化合物と第一有機珪素化合物との相互作用(すなわち、第二有機珪素化合物と表面処理粒子の相互作用)もあり、表面処理粒子は分散液中で凝集しにくくなる。このように、「粒子に結合した第一有機珪素化合物」と「粒子に結合していない第二有機珪素化合物」の働きによって、表面処理粒子が良好に分散する。そのためには、表面処理粒子100質量部に対して、第二有機珪素化合物が2~99質量部含まれる必要がある。これにより、透明性に優れた分散液が得られ、このような分散液を用いた樹脂硬化物も透明性に優れている。
【0012】
ここで、金属酸化物粒子の屈折率は1.65以上なので、高い屈折率の樹脂硬化物が得られる。金属酸化物粒子の屈折率は1.65~2.90が好ましく、1.70~2.50がさらに好ましい。
【0013】
また、第一有機珪素化合物と第二有機珪素化合物の質量比(第一有機珪素化合物/第二有機珪素化合物)は、0.1~9.0が好ましい。これにより、表面処理粒子と第二有機珪素化合物の相互作用が効果的に働く。この質量比は0.2~7.5がより好ましく、0.2~6.0がさらに好ましい。
【0014】
さらに、このような分散液によれば、SP値[(cal/cm3)1/2]が10未満の疎水性の高い有機溶媒を用いた場合でも、粒子の凝集を抑えることができる。これは、第一有機珪素化合物と第二有機珪素化合物の働きに加えて、「式1」で表される有機珪素化合物が、疎水性の高い有機溶媒との相溶性に優れているためである。なお、SP値は、Fedorsの計算方法(R.F.Fedors,Polym.Eng.Sci.,14(2),147-154(1974))によって求めることができる。
【0015】
表面処理粒子は、分散液に1~50質量%含まれることが好ましい。このような分散液を硬化性樹脂と混合して得られる組成物は取り扱いが容易である。表面処理粒子は、分散液に10~45質量%含まれることがより好ましく、20~40質量%含まれることがさらに好ましい。
【0016】
上述した分散液と硬化性樹脂を混合して、硬化性組成物を得る際、硬化性樹脂100質量部に対して分散液に含まれる固形分(表面処理粒子と第二有機珪素化合物の和)が11~900質量部になるように混合する。このような硬化性組成物は、分散液の場合と同様に、表面処理粒子の凝集が抑えられ、粒子が良好に分散している。そのため、透明性に優れ、高い屈折率の樹脂硬化物が得られる。表面処理粒子は、硬化性樹脂100質量部に対して、33~300質量部であることがさらに好ましい。
【0017】
また、上述した分散液を用いれば、疎水性の高い(SP値が10未満)硬化性樹脂であっても、粒子の凝集が抑えられる。これは、第一有機珪素化合物と第二有機珪素化合物の作用に加えて、これらの有機珪素化合物が、疎水性の高い硬化性樹脂との相溶性に優れているためである。
【0018】
なお、前述の「式1」における「R」は、分散液と混合する硬化性樹脂に応じて適宜選択できる。「R」が硬化性樹脂と反応しやすい官能基である場合、樹脂の硬化物の硬度が向上する。「R」が硬化性樹脂との反応しにくい官能基である場合、樹脂の硬化物の可撓性が向上する。
【0019】
以下、分散液の各成分について詳細に説明する。
【0020】
<表面処理粒子>
表面処理粒子は、屈折率1.65以上の金属酸化物粒子の表面に前述の「式1」で表される有機珪素化合物が結合した粒子である。この有機珪素化合物が、金属酸化物粒子100質量部に対して、3~100質量部結合していることが好ましい。この範囲にあると、表面処理粒子間の立体障害により、金属酸化物粒子の凝集が抑えられる。さらに、第一有機珪素化合物(すなわち、金属酸化物粒子に結合した有機珪素化合物)は5~50質量部が好ましく、10~30質量部が特に好ましい。
【0021】
また、「式1」における「X」を加水分解して、金属酸化物粒子の表面の水酸基と脱水縮合させることにより、有機珪素化合物と金属酸化物粒子は結合する。「式1」における「m」が5未満の有機珪素化合物では、有機溶媒や硬化性樹脂の疎水性が高い(例えば、SP値10未満)場合に、金属酸化物粒子が凝集してしまう。一方、「m」が15より大きい有機珪素化合物では、溶媒への溶解性が低下するため、表面処理粒子の分散性が低下してしまう。「m」は、5~12がより好ましく、5~9がさらに好ましい。
【0022】
「式1」で表される有機珪素化合物としては、メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン、グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、オクテニルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン(化学名)等が挙げられる。具体的には、信越化学工業社製のKBM-5803、KBM-4803、KBM-1083や、ダウ・東レ社製のDOWSIL Z-6341 Silane、DOWSIL Z-6210 Silane(製品名)等が使用できる。
【0023】
表面処理粒子及び金属酸化物粒子の平均粒子径は1~50nmが好ましい。この範囲にあると、透明性に優れた分散液となり、このような分散液を用いた樹脂硬化物の透明性も優れる。
【0024】
また、屈折率を1.65以上とするために、金属酸化物粒子が、TiとZrの少なくとも一方の酸化物を50質量%以上含むことが好ましい。特に、TiO2を含む粒子は、屈折率と透明性が高い。すなわち、金属酸化物粒子は、TiO2を50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましい。ただし、TiO2には一般的に光触媒活性があり、樹脂を分解することが知られている。そのため、TiO2の光触媒活性を抑えるために、Si、Sn、Fe、ZrおよびCeの少なくとも一つの元素の酸化物を含むことが好ましい。この酸化物は、TiO2との混合物でも、Tiとの複合酸化物でもよい。この酸化物は、TiO2の含有量が50質量%未満にならない範囲で含んでいてもよく、金属酸化物粒子の光触媒活性と屈折率を考慮して適宜含有量を調整すればよい。また、粒子表面のTiO2の露出を減らして、光触媒活性を抑えることができる。そのために、金属酸化物粒子をコアシェル構造にしてもよい。すなわち、TiO2を50質量%以上含む核粒子の表面を、Zr、Al、TiおよびSnの少なくとも一つの元素と、Siを含む酸化物で被覆する。被覆層は、核粒子100質量部に対して、1~95質量部であることが好ましい。金属酸化物粒子の平均粒子径は1~50nmが好ましい。
【0025】
金属酸化物粒子は、表面に「SiX4(Xは、炭素数1~4のアルコキシ基、水酸基、ハロゲン、水素の少なくとも1つ)」で表される珪素化合物を備えることが好ましい。これにより、表面の水酸基が増えるため、金属酸化物粒子は第一有機珪素化合物と結合しやすくなる。金属酸化物粒子100質量部に対して、珪素化合物をSiO2換算で5~100質量部用いて表面処理することが好ましい。珪素化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、珪酸液、それらのオリゴマー等が挙げられる。
【0026】
<第二有機珪素化合物>
第二有機珪素化合物は、前述の「式1」で表される有機珪素化合物であり、第一有機珪素化合物と同じものでも、違うものでも構わない。また、第二有機珪素化合物は、分散液中に0.02~49.5質量%含まれることが好ましい。さらに、0.2~44.6質量%含まれることがより好ましく、0.4~39.6質量%がさらに好ましい。
【0027】
<有機溶媒>
有機溶媒は、分散液の固形分濃度が1~80質量%となるように加えられることが好ましい。このような分散液は、表面処理粒子の分散性が良好であり、透明性に優れる。分散液の固形分濃度は10~60質量%がより好ましい。
【0028】
有機溶媒としては、SP値が10未満の有機溶媒が適している。ジエチルエーテル(SP値9.0)、アセトン(SP値9.1)、メチルエチルケトン(SP値9.3)、メチルイソブチルケトン(SP値8.3)、トルエン(SP値9.1)、ヘキサン(SP値7.3)等が例示できる。一般に、このようなSP値の有機溶媒を用いた分散液では、極性が低いため粒子表面の電位(反発力)を保てず凝集を起こしやすい。しかしながら、本発明に係る分散液では、表面処理粒子の分散性が良好であり、透明性に優れている。
【0029】
[分散液の製造方法]
以下、分散液の製造方法について詳細に説明する。
【0030】
はじめに、屈折率が1.65以上の金属酸化物粒子が分散された分散液を用意する(第一工程)。金属酸化物粒子の濃度は10質量%以上が好ましい。
【0031】
次に、この分散液に前述の「式1」で表される有機珪素化合物と触媒を混合する。このとき、金属酸化物粒子100質量部に対して、有機珪素化合物をSiO2換算で5~100質量部混合する。この混合液を40℃以上、分散媒の沸点未満で1~48時間撹拌する(第二工程)。これにより、金属酸化物粒子の表面に第一有機珪素化合物が結合した表面処理粒子と、金属酸化物粒子に結合せずに存在する第二有機珪素化合物とを含む分散液が得られる。このとき、表面処理粒子100質量部に対して、第二有機珪素化合物が2~99重量部存在するように調整する。また、触媒としては、金属酸化物粒子と第一の有機珪素化合物との結合を促進させる作用がある酸触媒や塩基触媒を用いる。
【0032】
次に、このようにして得られた分散液の分散媒を有機溶媒に置換し、表面処理粒子の分散液を得る(第三工程)。
【0033】
また、第二工程後に、前述の「式1」で表される有機珪素化合物を加えることにより、金属酸化物粒子に結合しない有機珪素化合物(すなわち、第二有機珪素化合物)を増やすことができる。このとき加える有機珪素化合物は、第二工程で加えた有機珪素化合物と同じものでも異なるものでもよい。これにより、第一有機珪素化合物と第二有機珪素化合物の質量比(第一有機珪素化合物/第二有機珪素化合物)を第二工程終了時より小さくすることができる。
【0034】
[硬化性の組成物]
次に、表面処理粒子の分散液と硬化性樹脂とを混合して得られる硬化性の組成物について説明する。硬化性樹脂100質量部に対して、分散液に含まれる固形分(表面処理粒子と第二有機珪素化合物の和)が11~900質量部になるように、分散液と硬化性樹脂を混合する。これにより、透明性に優れ、屈折率が高い樹脂硬化物が得られる。
【0035】
硬化性樹脂として、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、または電子線硬化性樹脂が例示できる。これらの硬化性樹脂は、モノマーであることが好ましい。モノマーは、オリゴマーやポリマーよりも分子サイズが小さいため、表面処理粒子の分散性が高くなる。モノマーを用いることにより、透明性に優れ、高い屈折率の硬化物が得られる。
【0036】
硬化性樹脂のSP値は、有機溶媒のSP値と同程度であることが好ましい。目安として有機溶媒のSP値は硬化性樹脂のSP値の±10%の範囲にあればよい。
【0037】
組成物には、必要に応じて、硬化触媒、光重合開始剤、レベリング剤等も含まれる。
【0038】
[樹脂の硬化物]
以下、硬化性の組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物について説明する。硬化前に組成物を加熱または減圧下で、有機溶媒の一部または全てを蒸発させて除去する。有機溶媒が除去されても、第一有機珪素化合物と第二有機珪素化合物は硬化性樹脂中において機能するため、表面処理粒子の凝集が抑えられる。その後、組成物に含まれる硬化性樹脂に適した方法で組成物を硬化させる。樹脂の硬化物は、高い屈折率と優れた透明性を持ち、光学部品に適している。
【0039】
樹脂の硬化物としては、膜あるいは、レンズやプリズム等の成型体が用途に応じて選択される。例えば、膜は、基材に樹脂の組成物を塗布して硬化させることにより得られる。基材は特に限定されず、ガラス、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、アクリル樹脂等を用いることができる。塗布方法も特に限定されず、バーコーター法、ディップ法、スプレー法、スピナー法、ロールコート法、グラビアコート法、スリットコート法、加圧塗布法等を用いることができる。膜の平均膜厚は、用途に応じて適宜選択できる。塗布による成膜の場合、平均膜厚は1~30μmが好ましい。
【0040】
成型体は、組成物を所望の形状に成型して硬化することにより得られる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0042】
[実施例1]
はじめに、屈折率が1.65以上の金属酸化物粒子の分散液を用意する。金属酸化物粒子の固形分濃度は10質量%以上が好ましい。金属酸化物粒子の分散液は、公知の方法で調製することができる。例えば、特開2017-178736号等を参考にしてもよい。本実施例では、TiO2を含む粒子を核とし、SiとZrの複合酸化物の被覆層を設けたコアシェル粒子の水分散液(固形分濃度9.13質量%)を調製した。このコアシェル粒子の水分散液902.5gに陽イオン交換樹脂を徐々に添加し、脱アルカリを行った後イオン交換樹脂を分離した。この溶液に珪素化合物であるテトラエトキシシラン(多摩化学社製:SiO2成分28.8質量%)74.2gを溶解させたメタノール溶液902.5gをゆっくり添加し、50℃で1時間、加熱、撹拌した。これにより、コアシェル粒子の表面に珪素化合物が結合する。珪素化合物を表面に備えることにより、コアシェル粒子の表面の水酸基が増えるため、有機珪素化合物と結合しやすくなる。
【0043】
その後、分散液を室温まで冷却し、限外濾過膜を用いて分散媒をメタノールに置換し、濃縮して、平均粒子径21nmの金属酸化物粒子のメタノール分散液(固形分濃度20.5質量%)465.4gを得た。この金属酸化物粒子の組成は、酸化物換算で、TiO2が56.3質量%、SiO2が32.2質量%、ZrO2が4.1質量%、SnO2が7.4質量%であった。また、金属酸化物粒子の屈折率は1.80であった。
【0044】
次に、この金属酸化物粒子の分散液に触媒と有機珪素化合物を加える。本実施例では、金属酸化物粒子のメタノール分散液100gに15質量%のアンモニア水1.33gと、有機珪素化合物として8-メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン(信越化学工業社製のKBM-5803)7.89gをゆっくり添加した後、50℃で18時間加熱撹拌した。これにより、金属酸化物粒子は有機珪素化合物で表面処理される。この表面処理粒子のメタノール分散液を室温まで冷却した後、ロータリーエバポレーターを用いてトルエンに溶媒置換した。これにより、固形分濃度26.3質量%の表面処理粒子の分散液が得られる。この分散液には、表面処理粒子と第二有機珪素化合物が含まれる。そして、ロータリーエバポレーターから表面処理粒子の分散液(103.2g)を取り出した。
【0045】
表面処理粒子の分散液の調製条件、物性を表1に示す。なお、後述の実施例や比較例についても、各物性を以下のように測定し、評価した。
【0046】
(平均粒子径)
電子顕微鏡写真を撮影し、任意の100個の粒子について粒子径を測定した。その平均値を平均粒子径とした。
【0047】
(屈折率)
金属酸化物粒子の分散液をエバポレーターに採り、分散媒を蒸発させた後、120℃で乾燥し、粉末を得た。次に、屈折率が既知の標準屈折液を2、3滴ガラス板上に滴下し、これに粉末を混合して混合液を得て、この混合液の透明性を目視にて確認した。この混合液を得る操作において、複数の標準屈折液を用いて、混合液が透明になったときの標準屈折液の屈折率を金属酸化物粒子の屈折率とした。
【0048】
(第一有機珪素化合物の質量)
表面処理粒子の分散液を、限外濾過膜を用いてろ過液から固形分が検出されなくなるまでメタノールで洗浄し、第二有機珪素化合物を除去した。これにより、金属酸化物粒子と第一有機化合物からなる表面処理粒子のみの分散液を得た。次に、この分散液の固形分濃度を測定し、金属酸化物の固形分濃度の差分から、第一有機珪素化合物の質量を算出した。
【0049】
(第二有機珪素化合物の質量)
添加した有機珪素化合物の重量と、算出された第一有機珪素化合物の量の差分を第二珪素化合物の量とした。
【0050】
(分散液の透明性の評価)
表面処理粒子の分散液を蛍光灯下にて目視で観察し、以下の基準で評価した。
◎:透明感がある
〇:◎よりわずかに透明感が劣る
△:◎より有意に透明感が劣る
×:完全に白濁し、透明感が無い
【0051】
【0052】
<硬化性の組成物の調製>
次に、表面処理粒子の分散液(固形分濃度26.3質量%)20gと、硬化性樹脂モノマーとしてSP値が8.6の2-ノルボルネン(東京化成工業社製)1.75gを混合して硬化性の組成物(固形分濃度32.2質量%)を得た。硬化性樹脂100質量部に対する表面処理粒子と第二有機珪素化合物の量と、組成物の透明性の評価結果を表2に示す。なお、組成物の透明性の評価は以下の方法で行った。
【0053】
(組成物の透明性)
組成物を蛍光灯下にて目視で観察し、以下の基準で評価した。
◎:透明感がある
〇:◎よりわずかに透明感が劣る
△:◎より有意に透明感が劣る
×:完全に白濁し、透明感が無い
【0054】
(組成物の乾燥薄膜の透明性の評価)
組成物をガラス基板上に滴下した後、90℃で加熱して有機溶媒を乾燥させ、組成物を薄膜化した。得られた乾燥薄膜を蛍光灯下にて目視で観察し、以下の基準で評価した。
◎:ほぼ透明
〇:わずかに曇りがある
△:透明感はあるが白濁している
×:完全に白濁し、透明感が無い
【0055】
【0056】
[実施例2]
有機珪素化合物としてヘキシルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBE-3063)6.15gを用いた。これ以外は実施例1と同様にして、表面処理粒子の分散液と、硬化性の組成物を調製した。
【0057】
[実施例3]
有機珪素化合物としてデシルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM-3103C)6.50gを用いた。これ以外は実施例1と同様にして、表面処理粒子の分散液と、硬化性の組成物を調製した。
【0058】
[実施例4]
有機珪素化合物として8-メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM-5803)4.10gを用いた。これ以外は実施例1と同様にして、表面処理粒子の分散液と、硬化性の組成物を調製した。
【0059】
[実施例5]
有機珪素化合物として8-メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン(信越化学工業社製のKBM-5803)20.50gを用いた。これ以外は実施例1と同様にして、表面処理粒子の分散液と、硬化性の組成物を調製した。
【0060】
[実施例6]
まず、実施例1と同様に、表面処理粒子のメタノール分散液を調製し、室温まで冷却した。この分散液を、限外濾過膜を用いてろ過液から固形分が検出されなくなるまでメタノールで洗浄した。これにより、金属酸化物粒子に第一有機珪素化合物が結合した表面処理粒子のみの分散液が得られた。この分散液に第二有機珪素化合物としてデシルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM-3103C)4.21gをゆっくり添加した。これにより、分散液に含まれる第二有機珪素化合物の質量は実施例1と同じになる。その後、ロータリーエバポレーターを用いてトルエンに溶媒置換して、表面処理粒子と第二有機珪素化合物を含む分散液(固形分濃度26.3質量%)100.2gを取り出した。これ以降は実施例1と同様にして、硬化性の組成物を調製した。
【0061】
[実施例7]
硬化性樹脂モノマーとしてSP値が10.4の、2-ベンゾイル-5-ノルボルネン(シグマアルドリッチジャパン合同会社製)を用いた。これ以外は実施例1と同様にして、表面処理粒子の分散液と、硬化性の組成物を調製した。
【0062】
[比較例1]
有機珪素化合物として3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製のKBM-503)6.15gを用いた。これ以外は実施例1と同様にして、表面処理粒子の分散液と、硬化性の組成物を調製した。
【0063】
[比較例2]
実施例1と同様に、表面処理粒子のメタノール分散液を調製し、室温まで冷却した。この分散液を、限外濾過膜を用いてメタノールで洗浄し、金属酸化物粒子に結合していない第二有機珪素化合物の量を0.30gまで低減した。この分散液をロータリーエバポレーターを用いてトルエンに溶媒置換して、表面処理粒子と第二有機珪素化合物を含む分散液(固形分濃度23.5質量%)98.5gを取り出した。これ以降は実施例1と同様にして、硬化性の組成物を調製した。
【0064】
[比較例3]
実施例1と同様にして、金属酸化物粒子のメタノール分散液100gを調製した。この分散液に、15質量%のアンモニア水1.33gと、有機珪素化合物として3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM-503)6.15gをゆっくり添加した後、50℃で18時間加熱撹拌した。この分散液(固形分濃度23.5質量%)を室温まで冷却した後、限外濾過膜を用いてろ過液から固形分が検出されなくなるまでメタノールで洗浄した。これにより、金属酸化物粒子に第一有機珪素化合物が結合した表面処理粒子のみの分散液を得た。この分散液に第二有機珪素化合物としてデシルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM-3103C)4.40gをゆっくり添加した後、ロータリーエバポレーターを用いてトルエンに溶媒置換して、表面処理粒子と第二有機珪素化合物を含む分散液(固形分濃度26.5質量%)100.1gを取り出した。これ以降は実施例1と同様に、硬化性の組成物を調製した。
【0065】
[比較例4]
実施例6と同様にして、金属酸化物粒子に第一有機珪素化合物が結合した表面処理粒子のみの分散液を得た。この分散液に第二有機珪素化合物として3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM-503)4.21gをゆっくり添加した後、ロータリーエバポレーターを用いてトルエンに溶媒置換して、表面処理粒子と第二有機珪素化合物を含む分散液(固形分濃度質量26.3%)100.1gを取り出した。これ以降は実施例1と同様に、硬化性の組成物を調製した。