(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】複合体、パッキンおよび製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20240206BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20240206BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20240206BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20240206BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20240206BHJP
B29K 21/00 20060101ALN20240206BHJP
【FI】
C08J5/04 CEQ
B29C70/16
B29C70/42
C09K3/10 R
C09K3/10 N
C09K3/10 Z
F16J15/10 X
B29K21:00
(21)【出願番号】P 2019185805
(22)【出願日】2019-10-09
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】株式会社バルカー
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】圖師 浩文
(72)【発明者】
【氏名】上田 彰
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-290290(JP,A)
【文献】特開平09-184305(JP,A)
【文献】特開2017-032029(JP,A)
【文献】特開平10-100324(JP,A)
【文献】特開2018-150633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
C08J 5/04-5/10
C08J 5/24
B29C 70/16
B29C 70/42
C09K 3/10
F16J 15/10
B29K 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱接着性樹脂を含有する繊維を含む繊維シートと、架橋性ゴム組成物の架橋物とを含む複合体であって、
前記架橋性ゴム組成物は、架橋性ゴム成分と過酸化物架橋剤とを含
み、
前記架橋性ゴム成分は、硫黄を含まない過酸化物架橋タイプのゴムである、複合体。
【請求項2】
前記繊維シートは前記架橋物中に埋設されている、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記熱接着性樹脂を含有する繊維は、熱接着性ポリアミド系樹脂を含有する繊維である、請求項1又は2に記載の複合体。
【請求項4】
前記熱接着性ポリアミド系樹脂を含有する繊維の平均繊維径は、100μm以上400μm以下である、請求項3に記載の複合体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の複合体を含むパッキン。
【請求項6】
断面がV字型またはU字型である、請求項5に記載のパッキン。
【請求項7】
2以上の繊維シートが積層されている、請求項5または6に記載のパッキン。
【請求項8】
請求項1に記載の複合体の製造方法であって、
前記架橋性ゴム組成物と、前記
繊維シートとを金型内に設置し、架橋処理を行う架橋工程
を含む複合体の製造方法。
【請求項9】
接着剤および有機溶剤を用いない、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体およびそれを含むパッキンに関し、さらには、複合体の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
高圧環境下で使用される布入りダイアフラムおよび布入りVパッキンとして、ゴム/布複合製品が用いられている。このようなゴム/布複合製品は、接着剤を塗布した基布とゴムとを接着後、加硫することにより製造されることが多い。
【0003】
特許文献1には、ゴム含浸液を塗布した基布同士を糊剤で貼合わせた後、成形および架橋することにより得られるパッキンが提案されている。
【0004】
特許文献2には、ポリフェニレンエーテル系樹脂で構成された樹脂部材と加硫ゴム部材とが結合した複合体の製造方法において、樹脂部材の表面を、樹脂部材を溶解もしくは膨潤させる溶剤で処理した後、樹脂部材の処理面と未加硫ゴムとを接触させる方法が提案されている。
【0005】
特許文献3には、ポリエステル繊維等の難接着性繊維とゴムとの接着のための一浴処理用接着剤組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-32029号公報
【文献】特開2012-71616号公報
【文献】特開平8-302317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のパッキンの製造方法においては、基布へ接着剤を塗布する工程が必要となる。基布への接着剤の塗布は、通常、接着剤成分を有機溶剤に溶解させ希釈した状態で、スプレー塗布、刷毛塗り、接着剤を溶解させた溶液への浸漬等により行われることとなる。
特許文献2に記載の製造方法では、樹脂部材の表面を溶剤で処理する工程が必要となる。
特許文献1および特許文献2に記載の製造方法ではいずれも、有機溶剤を用いるため、防爆仕様の専用設備、例えばカレンダーや溶剤処理設備等が必要になる。溶剤の使用は、人体への悪影響があり、臭気等の環境負荷が大きい。
【0008】
特許文献3に記載の一浴処理用接着剤組成物は、良好な接着力を得るためには、浸漬後に220℃以上、好ましくは230℃以上の熱処理を必要とし、ポリエステル繊維の強度を低下させる恐れがある。また、省エネルギー面でも好ましいものではない。
【0009】
本発明の目的は、繊維シートと架橋性ゴム組成物の架橋物とを含む複合体であって、接着剤および有機溶剤を用いずに製造されたにもかかわらず優れた接着性、耐熱性および耐久性を有する複合体、ならびにその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、熱接着性樹脂を含有する繊維シートが、架橋性ゴム成分と過酸化物架橋剤とを含む架橋性ゴム組成物の架橋物について良好な接着性を発揮することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明は、以下の複合体、パッキンおよび製造方法を提供する。
[1] 熱接着性樹脂を含有する繊維を含む繊維シートと、架橋性ゴム組成物の架橋物とを含む複合体であって、
前記架橋性ゴム組成物は、架橋性ゴム成分と過酸化物架橋剤とを含む、複合体。
[2] 前記繊維シートは前記架橋物中に埋設されている、[1]に記載の複合体。
[3] 前記熱接着性樹脂を含有する繊維は、熱接着性ポリアミド系樹脂を含有する繊維である、[1]又は[2]に記載の複合体。
[4] 前記熱接着性ポリアミド系樹脂を含有する繊維の平均繊維径は、100μm以上400μm以下である、[1]または[2]に記載の複合体。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の複合体を含むパッキン。
[6] 断面がV字型またはU字型である、[5]に記載のパッキン。
[7] 2以上の繊維シートが積層されている、[5]または[6]に記載のパッキン。[8] [1]に記載の複合体の製造方法であって、
前記架橋性ゴム組成物と、前記繊維シートとを金型内に設置し、架橋処理を行う架橋工程
を含む複合体の製造方法。
[9] 接着剤および有機溶剤を用いない、[8]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、繊維シートと架橋性ゴム組成物の架橋物とを含む複合体であって、接着剤および有機溶剤を用いずに製造されたにもかかわらず優れた接着性、耐熱性及び耐久性を有する複合体、およびその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、接着塗布工程や溶剤塗布工程等の削減、接着剤処理や溶剤回収用の専用設備が不要なため、製造コストの削減、製造方法の簡略化による生産性向上、イニシャルコスト削減、省スペースでの生産が可能となる。さらに、本発明によれば、有機溶剤を使用しないことによる環境負荷が低減し、作業者の安全性が向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<複合体>
本発明の一実施態様に係る複合体は、熱接着性樹脂を含有する繊維を含む繊維シート(以下、簡略のため「繊維シート」ともいう)と、架橋性ゴム組成物の架橋物とを含む複合体(以下、簡略のため「複合体」ともいう)である。複合体は、好ましくは繊維シートが架橋性ゴム組成物の架橋物中に埋設されている。
【0014】
複合体中の架橋性ゴム組成物の架橋物の含有量は、複合体全質量を基準に例えば80質量%以上であってよく、90質量%以上、95質量%以上または99質量%以上であってよい。複合体中の架橋性ゴム組成物の架橋物の含有量は通常100質量%未満であり、例えば99.99質量%以下または99.9質量%以下である。
【0015】
複合体は、例えば架橋物中に2以上の繊維シートが積層されていてよい。2以上の繊維シートが積層されている場合、繊維シートは直接接触するように積層されていてよく、または繊維シートの間に架橋性ゴム組成物の架橋物の層を介して積層されていてもよい。2以上の繊維シートが積層されている場合、積層される繊維シートの数は、3以上であってよく、4以上であってよい。
【0016】
[繊維シート]
繊維シートは、熱接着性樹脂を含有する繊維(以下、略して熱接着性繊維ともいう)を含む。本明細書において、熱接着性樹脂は、有機過酸化物を含む架橋性ゴム組成物とともに用いた場合、架橋性ゴム組成物の架橋処理の際に、優れた接着性を発揮することができる樹脂をいう。繊維シートが、熱接着性樹脂を含有する繊維から構成されることにより、架橋性ゴム組成物を架橋処理する際に、繊維シートと架橋性ゴム組成物の架橋物との間においても架橋反応が起こり、繊維シートと架橋性ゴム組成物の架橋物とが接着されることとなる。
【0017】
熱接着性樹脂としては、例えば熱接着性ポリアミド系樹脂等が挙げられる。熱接着性樹脂は、好ましくは熱接着性ポリアミド系樹脂である。熱接着性ポリアミド系樹脂の具体例としては、例えばダイセルエボニック社製ダイアミドシリーズ(PA12_ダイアミド L1640ナチュラル、PA612 ダイアミド ZX2900ブラック等)が挙げられる。
【0018】
熱接着性繊維は、好ましくは熱接着性ポリアミド樹脂を含有する繊維(以下、略してポリアミド繊維ともいう)である。ポリアミド繊維は、しなやかでありながら、他の合成繊維にくらべても磨耗や摩擦に強く、繰り返しの折り曲げにも強く、耐薬品性に優れるとともに、海水や油にも強い。また、ポリアミド繊維は、加工性に優れるため繊維形状を所望の形状とし易く、複合繊維や極細繊維としたり、繊維化の際に添加剤を練り込むことにより繊維にさまざまな機能(例えば静電気防止機能等)を付与したりすることもできる。さらに、ポリアミド繊維は、合成繊維の中でも、柔軟で薄くて軽い生地にできるため、ポリアミド繊維を含む繊維シートは、速乾性に優れ、カビや虫害等の問題が生じにくい。
そのため、本発明のポリアミド繊維を含む複合体は、衝撃を吸収する用途や可動部のパッキン、耐薬品性が要求されるダイヤフラム等に好適である。
【0019】
ポリアミド繊維の太さは、例えば100デニール以上1000デニール以下であってよく、柔軟性および強度の観点から好ましくは200デニール以上600デニール以下である。
【0020】
ポリアミド繊維の平均繊維径(数平均繊維径)は、例えば50μm以上1000μm以下であってよく、好ましくは75μm以上600μm以下、より好ましくは100μm以上400μm以下、さらに好ましくは150μm以上350μm以下である。ポリアミド繊維の平均繊維径(数平均繊維径)が上記範囲内にあることにより、繊維シートと架橋性ゴム組成物の架橋物との剥離が生じにくくなり、複合体の加工性および表面平滑性が優れる傾向にある。
【0021】
ポリアミド繊維は、上述の熱接着性ポリアミド系樹脂を用いて公知の方法、例えば溶融紡糸法により製造することができる。
【0022】
ポリアミド繊維の横断面形状(繊維の長手方向に垂直な断面形状)は、例えば中実断面形状であってよく、その具体例は、丸型断面、偏平状、楕円状、多角形状、T字状、H字状、V字状、I字状等である。中でも好ましくは丸型断面である。
【0023】
繊維シートは、本発明の効果が損なわれない範囲の量で上述のポリアミド繊維以外の繊維を含むことができる。ポリアミド繊維以外の繊維が含有する樹脂としては、例えば熱接着性ポリアミド系樹脂以外のポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ(チオ)エーテル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスルフィド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマー、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、フッ素樹脂、ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、液晶性ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0024】
繊維シートは、ポリアミド繊維以外の繊維を含んでもよいが、接着性の観点から好ましくはポリアミド繊維のみを含む。繊維シートがポリアミド繊維とポリアミド繊維以外の繊維とを含む場合、ポリアミド繊維の含有量は、例えば繊維シートの全質量に対し50質量%以上100質量%未満であってよく、接着性の観点から好ましくは70質量%以上100質量%未満であり、より好ましくは90質量%以上100質量%未満の量である。
【0025】
繊維シートは、平織物、すだれ織物、綾織物等の織物、編物、不織布等を用いることができる。また、繊維シートは、厚織物(合糸、より糸を使用した厚めの織物)、朱子織物(少なくとも5本の縦糸と横糸を含む完全組織で、一完全中で同一の縦糸は1回だけ横糸と交錯し、横糸の飛び数は1以上である組織)等であってもよい。中でも入手容易性の観点から好ましくは平織物である。複合品が繊維シートを含むことにより、良好な伸縮性及び追従性が得られる。
【0026】
繊維シートが平織物である場合、縦と横のそれぞれ1cmの幅内に使用されている繊維の本数で示される織密度は、例えば3本/cm以上30本/cm以下であってよく、柔軟性および強度の観点から好ましくは5本/cm以上25本/cm以下、より好ましくは10本/cm以上20本/cm以下である。
【0027】
繊維シートが平織物である場合、繊維シートの厚みは、例えば0.1mm以上1.0mm以下であってよく、好ましくは0.2mm以上0.8mm以下であり、より好ましくは0.3mm以上0.7mm以下である。
【0028】
繊維シートの目付重量は、例えば100g/m2以上300g/m2以下であってよい。
【0029】
[架橋性ゴム組成物の架橋物]
架橋性ゴム組成物に含まれる架橋性ゴム成分は、例えばニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、シリコーンゴム(VMQ)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FKM)、テトラフロオロエチレンプロピレンゴム(FEPM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ウレタンゴム(TPU)等の硫黄を含まない過酸化物架橋タイプのゴムを用いることができる。中でも常態接着性、耐熱性および耐久性の観点から好ましくは水素化ニトリルゴム(HNBR)、テトラフロオロエチレンプロピレンゴム(FEPM)、シリコーンゴム(VMQ)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)である。架橋性ゴム組成物は、架橋性ゴム成分を1種のみ含んでもよいし、2種以上を含んでいてもよい。
【0030】
架橋性ゴム組成物は、過酸化物架橋剤の存在下、加熱により架橋することができる。過酸化物架橋剤としては、例えばパーオキサイド化合物等が挙げられる。パーオキサイド化合物としては、例えば1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロへキサン、2,5-ジメチルへキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルタミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α-ビス(t-ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)へキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-へキシン-3、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゼン、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等であってよい。
【0031】
架橋性ゴム組成物は、過酸化物架橋剤を、架橋性ゴム成分100質量部に対して例えば0.5質量部以上5質量部以下の範囲で含んでよい。
【0032】
架橋性ゴム組成物は、本発明により奏される作用効果が損なわれない範囲の量で、カーボンブラック、共架橋剤およびその他の成分、例えばシリカおよびカーボンブラック以外のフィラー(例えば体質顔料および着色顔料等)、老化防止剤、酸化防止剤、加工助剤(例えば熱可塑性樹脂、液状ゴム、オイル、可塑剤、軟化剤、内部離型剤、粘着付与剤等)、安定剤、粘着付与剤、多価アルコール、可塑剤、難燃剤、ワックス類、滑剤等をさらに含むことができる。
【0033】
架橋性ゴム組成物は、水以外の有機溶剤、例えばアセトン、トルエン、メチルイソブチルケトン(MIBK)等を含まないことが好ましい。架橋性ゴム組成物は、架橋性ゴム成分と過酸化物架橋剤とのみからなることができる。架橋性ゴム組成物は、繊維シートとの接着性の観点から硫黄を含まない。
【0034】
架橋性ゴム組成物は、例えば150℃以上300℃以下の温度で熱処理を行うことにより架橋物とすることができる。
【0035】
[複合体の用途]
複合体は、例えばダイアフラムおよびパッキン等に用いることができる。複合体は、常態強度、耐熱性および耐久性に優れるため高圧環境下で使用されるパッキン等に好適である。
【0036】
複合体がパッキンである場合、パッキンの断面形状は、例えば略V字状、略U字状、略円形等であることができる。パッキンは環状であってよい。環状パッキンは、例えば内径が30mm以上500mm以下、高さが2mm以上20mm以下、幅が5mm以上30mm以下であってよい。
【0037】
[複合体の製造方法]
本発明の別の一実施態様に係る複合体の製造方法は、架橋性ゴム組成物と、繊維シートとを金型内に設置し、架橋処理を行う架橋工程とを含む。架橋性ゴム組成物および繊維シートは、上で説明した架橋性ゴム組成物および繊維シートを用いることができる。複合体の製造方法は、接着剤および有機溶剤を用いずに複合体を製造することができる。
【0038】
架橋工程において、架橋処理は、架橋性ゴム組成物と繊維シートとを金型内に設置し、例えば常圧下、150℃以上300℃以下の温度で、1分以上40分以下の時間、加熱処理することにより行うことができる。金型内へは、架橋性ゴム組成物と繊維シートとをそれぞれ1枚ずつ設置してもよい。また、1対の予備成型物の間に繊維シートを挟んで設置することもできるし、それぞれ2枚以上設置することもできる。金型内へ架橋性ゴム組成物と繊維シートとをそれぞれ2枚以上設置する場合、例えば架橋性ゴム組成物、繊維シート、架橋性ゴム組成物、繊維シート、架橋性ゴム組成物の順に設置することができる。
【0039】
架橋性ゴム組成物と繊維シートとはそれぞれの表面が直接接触するように金型内に設置することができる。架橋工程において架橋性ゴム組成物と繊維シートとを互いに接着することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」及び「部」は、特記のない限り、質量%及び質量部である。
【0041】
[接着性]
JIS K 6256-1(2013)加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-接着性の求め方-第1部:布との剥離強さに準拠し剥離試験を行った。
試験速度:50±5mm/min.
試料数:n=3
剥離試験後の試料について破壊及び剥離状態について下記の判定基準に基づき評価した。
R :加硫ゴム層の破壊
RA:加硫ゴム層と接着剤との界面の剥離
AT:接着剤と布との剥離
T :布の破壊
RT:接着剤が無いときの加硫ゴム層と布との界面の剥離
また、接着性については、以下の判定基準に基づき評価した。結果の最も良好なものを5点とし、最も悪いものを1点とした。
5点:加硫ゴム層の破壊が80%以上
4点:加硫ゴム層の破壊が60%以上
3点:加硫ゴム層の破壊が40%以上
2点:加硫ゴム層の破壊が20%以上
1点:加硫ゴム層の破壊が20%未満
【0042】
[耐熱性]
試験片を作成し、120~150℃×70h環境下でJISK6257加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-熱老化特性の求め方による劣化試験を行った。劣化試験後の試料の評価は、JIS K 6256-1(2013)加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-接着性の求め方-第1部:布との剥離強さに準拠し剥離試験を行い、劣化の程度を評価した。
剥離試験後の試料について破壊及び剥離状態について上述の接着性における判定基準に基づき評価した。
【0043】
[耐久性]
試験片を作成し、室温環境下で、JISK6260加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-耐屈曲き裂性及び耐屈曲き裂成長性の求め方(デマチャ式)を実施し、き裂長さ及びき裂数の測定を行い、劣化の程度を評価した(屈曲回数:10,000回)。また、JIS K 6256-1(2013 加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-接着性の求め方-第1部:布との剥離強さに準拠し剥離試験を実施し、劣化の程度を評価した。
剥離試験後の試料について破壊及び剥離状態について上述の接着性における判定基準に基づき評価した。
【0044】
[繊維シート1]
熱接着性ポリアミド系樹脂(ダイセルエボニック製PA12_DAIAMID L1640、ポリアミド12樹脂)を溶融して太さ460デニールの繊維にし、縦密度45本/インチ、横密度41本/インチ、厚み0.35mmの平織りの繊維シートを作製した。
【0045】
[繊維シート2]
非熱接着性のポリアミド系樹脂としてポリアミド樹脂PA6(ポリアミド6樹脂)を溶融して太さ420デニールの繊維にし、縦密度36本/インチ、横密度28本/インチ、厚み0.5mmの平織りの布を作製した。
【0046】
[架橋性ゴム組成物1]
架橋性ゴム成分として水素化ニトリルゴム(HNBR)とα,α-ビス(t-ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼンとを含む架橋性ゴム組成物1(株式会社バルカー製、硬度70度配合、過酸化物架橋型)を得た。
【0047】
[架橋性ゴム組成物2]
架橋性ゴム成分としてテトラフロオロエチレンプロピレンゴム(FEPM)と1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロへキサンとを含む架橋性ゴム組成物2(株式会社バルカー製、硬度70度配合、過酸化物架橋型)を得た。
【0048】
[架橋性ゴム組成物3]
架橋性ゴム成分としてシリコーンゴム(VMQ)とベンゾイルパーオキサイドとを含む架橋性ゴム組成物3(株式会社バルカー製、硬度70度配合、過酸化物架橋型)を得た。
【0049】
[架橋性ゴム組成物4]
架橋性ゴム成分としてエチレンプロピレンゴム(EPDM)と1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロへキサンとを含む架橋性ゴム組成物4(株式会社バルカー製、硬度70度配合、過酸化物架橋型)を得た。
【0050】
[架橋性ゴム組成物5]
架橋性ゴム成分としてニトリルゴム(NBR)とジクミルパーオキサイドとを含む架橋性ゴム組成物5(株式会社バルカー製、硬度70度配合、硫黄架橋型)を得た。
【0051】
[実施例1~4、比較例1]
上述の繊維シート1と、表1に示す未加硫ゴムシートとを金型に投入し、ゴム種に応じた加硫条件で成型し、ゴム-布複合品を作製した。用いた未加硫ゴムシートの種類を評価結果とともに表1に示す。
【0052】
[比較例2]
接着剤[トリス(p-イソシアナトフェニル)チオホスフェート]とエチレンプロピレンゴム(EPDM)とを溶剤に溶解させたゴム糊を作成し、上述の繊維シート2をゴム糊に含浸させた。その後、ドラフト内で風乾し、接着剤処理布とした。この接着剤処理布と厚さ1mmに予備成型した未加硫ゴムシートの予備成形物4とを金型に投入し、ゴム種に応じた加硫条件で成型し、ゴム-布複合品を作製した。結果を表1に示す。
【0053】
【0054】
表1において、実施例1~4の複合体は、比較例1および2の複合体に比べ良好な常態接着性、耐熱性および耐久性を発揮することが示される。本願発明によれば、繊維シートと架橋性ゴム組成物の架橋物とを含む複合体であって、接着剤および有機溶剤を用いずに製造されたにもかかわらず優れた接着性、耐熱性、耐久性を有する複合体およびその製造方法が提供されることが理解される。