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特許7431027発泡性乳飲料、発泡性乳飲料の製造方法、及び、発泡性乳飲料の品質向上方法
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  • 特許-発泡性乳飲料、発泡性乳飲料の製造方法、及び、発泡性乳飲料の品質向上方法 図1
  • 特許-発泡性乳飲料、発泡性乳飲料の製造方法、及び、発泡性乳飲料の品質向上方法 図2
  • 特許-発泡性乳飲料、発泡性乳飲料の製造方法、及び、発泡性乳飲料の品質向上方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】発泡性乳飲料、発泡性乳飲料の製造方法、及び、発泡性乳飲料の品質向上方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/38 20210101AFI20240206BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240206BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20240206BHJP
   C12G 3/04 20190101ALI20240206BHJP
   A23C 9/152 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
A23L2/38 P
A23L2/52
A23L2/00 U
A23L2/00 A
C12G3/04
A23C9/152
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019225604
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2021093924
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯牟礼 隆
(72)【発明者】
【氏名】神部 真衣
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-36773(JP,A)
【文献】「サッポロ 愛のスコールホワイトサワー」新発売(西日本限定)~あの『愛のスコール』がお酒になって、ホワイトデーに新登場!~,サッポロビール株式会社 ニュースリリース,2016年12月21日,p.1,retrieved on 2023.12.22, retrieved from the internet,<https://www.sapporobeer.jp/news_release/items/0000021501/pdf/Skal.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00-2/84
C12G 3/00-3/08
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳タンパク質を含有し、
グリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.00010~0.00500w/v%である発泡性乳飲料。
【請求項2】
NIBEM値が80秒以上である請求項1に記載の発泡性乳飲料。
【請求項3】
アルコール度数が1~15v/v%である請求項1又は請求項2に記載の発泡性乳飲料。
【請求項4】
前記乳タンパク質の含有量が0.05w/v%以上である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発泡性乳飲料。
【請求項5】
前記グリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.00100w/v%以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発泡性乳飲料。
【請求項6】
乳タンパク質を含有させ、グリセリン脂肪酸エステルの含有量を0.00010~0.00500w/v%とする工程を含む発泡性乳飲料の製造方法。
【請求項7】
発泡性乳飲料の泡の経時安定性を優れたものとするとともに、なめらかさを増強する品質向上方法であって、
前記発泡性乳飲料に乳タンパク質を含有させ、グリセリン脂肪酸エステルの含有量を0.00010~0.00500w/v%とする工程を含む発泡性乳飲料の品質向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性乳飲料、発泡性乳飲料の製造方法、及び、発泡性乳飲料の品質向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ガスを含有する発泡性飲料は、製造工程の中でもカーボネーション後の処理、特に、容器への充填時において、噴きこぼれなどの問題が発生する場合がある。
そのため、このような問題を解消すべく特許文献1に記載されているような消泡剤が存在する。
【0003】
具体的には、特許文献1では、(a)グリセリン脂肪酸エステル、(b)ポリグリセリン脂肪酸エステル及び(c)ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含有する、水及び/又は多価アルコール中油型乳化組成物であることを特徴とする飲料用消泡剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-116515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発泡性飲料の中でも、乳タンパク質を含有する発泡性乳飲料は、乳タンパク質が泡立ちを必要以上に高めてしまうため、前記した製造工程での噴きこぼれなどの問題を考慮すると、特許文献1に記載されているような消泡剤の使用が必須となる。
ただ、発泡性乳飲料に消泡剤を大量に使用した場合は、当然、グラス等の容器に注いだ状態における発泡性乳飲料の泡立ちを犠牲にすることとなる。
【0006】
しかしながら、本発明者らは、乳特有のクリーミーな印象を消費者に与える発泡性乳飲料にとって、「泡」は、このクリーミーなイメージを強化する重要なファクターであると考え、容器に注いだ後に形成された泡が所定時間維持されていれば、つまり、泡の経時安定性が優れていれば、発泡性乳飲料の商品価値の向上につながるのではないかと考えた。
【0007】
また、本発明者らは、発泡性乳飲料のクリーミーなイメージを強化するような香味、具体的には、マイルドでなめらかな香味はできる限り増強すべき(よりなめらかな香味とすべき)であると考えた。
【0008】
そこで、本発明は、泡の経時安定性が優れ、なめらかさが増強された発泡性乳飲料、発泡性乳飲料の製造方法、及び、発泡性乳飲料の品質向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)乳タンパク質を含有し、グリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.00010~0.00500w/v%である発泡性乳飲料。
(2)NIBEM値が80秒以上である前記1に記載の発泡性乳飲料。
(3)アルコール度数が1~15v/v%である前記1又は前記2に記載の発泡性乳飲料。
(4)前記乳タンパク質の含有量が0.05w/v%以上である前記1から前記3のいずれか1つに記載の発泡性乳飲料。
(5)前記グリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.00100w/v%以下である前記1から前記4のいずれか1つに記載の発泡性乳飲料。
(6)乳タンパク質を含有させ、グリセリン脂肪酸エステルの含有量を0.00010~0.00500w/v%とする工程を含む発泡性乳飲料の製造方法。
(7)発泡性乳飲料の泡の経時安定性を優れたものとするとともに、なめらかさを増強する品質向上方法であって、前記発泡性乳飲料に乳タンパク質を含有させ、グリセリン脂肪酸エステルの含有量を0.00010~0.00500w/v%とする工程を含む発泡性乳飲料の品質向上方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る発泡性乳飲料は、泡の経時安定性が優れ、なめらかさが増強している。
本発明に係る発泡性乳飲料の製造方法は、泡の経時安定性が優れ、なめらかさが増強された発泡性乳飲料を製造することができる。
本発明に係る発泡性乳飲料の品質向上方法は、発泡性乳飲料の泡の経時安定性を優れたものとし、なめらかさを増強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】サンプル1-1~1-7について、グラスに注いでから所定時間経過後の状態を示す撮像写真である。
図2】サンプル2-1~2-4について、グラスに注いでから所定時間経過後の状態を示す撮像写真である。
図3】サンプル3-1~3-2について、グラスに注いでから所定時間経過後の状態を示す撮像写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る発泡性乳飲料、発泡性乳飲料の製造方法、及び、発泡性乳飲料の品質向上方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0013】
[発泡性乳飲料]
本実施形態に係る発泡性乳飲料は、乳タンパク質を含有する発泡性の飲料であって、グリセリン脂肪酸エステルの含有量が所定範囲内となる飲料である。
ここで、発泡性乳飲料とは、前記のとおり乳タンパク質を含有する発泡性の飲料であり、特定の種類の飲料に限定されないものの、アルコールを含有する場合、例えば、チューハイテイスト飲料が挙げられる。そして、このチューハイテイスト飲料とは、チューハイのような味わいを呈する飲料、つまり、チューハイの香味が感じられるように香味設計された飲料である。なお、チューハイの香味には、サワーやカクテルといった香味も含まれる。
以下、本実施形態に係る発泡性乳飲料を構成する各要素について説明する。
【0014】
(乳タンパク質)
乳タンパク質とは、乳原料に含まれるタンパク質の総称であり、詳細には、カゼイン、ホエイタンパク質などが挙げられる。
そして、発泡性乳飲料に含有される乳タンパク質は、脱脂粉乳、全粉乳、ホエイパウダー、スキムミルクといった粉状のもの、生乳、牛乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳、加工乳、練乳といった液状のもの、さらには、クリーム、チーズ、バター、アイスクリーム類、ヨーグルトといった前述の物質に乳酸菌を添加し発酵させたもの等の様々な状態(1種又は2種以上)のものを用いることができ、乳タンパク質の由来については特に限定されない。
【0015】
乳タンパク質の含有量は、0.03w/v%以上が好ましく、0.05w/v%以上、0.08w/v%以上、0.10w/v%以上、0.13w/v%以上、0.15w/v%以上がより好ましい。乳タンパク質の含有量が所定値以上であることによって、所望の効果(泡の経時安定性に関する効果、舌への刺激の低減効果、なめらかさの増強効果)の発揮をより確実なものとすることができる。
乳タンパク質の含有量は、1.00w/v%以下が好ましく、0.50w/v%以下、0.40w/v%以下、0.35w/v%以下、0.26w/v%以下がより好ましい。乳タンパク質の含有量が所定値以下であることによって、発泡性乳飲料としての総合評価も優れたものとなる。
【0016】
発泡性乳飲料における乳タンパク質の含有量は、セミミクロケルダール法(乳製品試験法・注解(金原出版)の「一般試験法 タンパク質」を参照)によって測定することができる。
【0017】
(グリセリン脂肪酸エステル)
グリセリン脂肪酸エステルとは、グリセリンに脂肪酸が結合したグリセリドの総称である。
本発明者らは、数ある消泡剤の中でも、グリセリン脂肪酸エステルを含有する消泡剤に焦点をあて、このグリセリン脂肪酸エステルの含有量を精緻に特定することによって、発泡性乳飲料の泡の経時安定性を優れた状態としつつも、乳タンパク質を含有する発泡性乳飲料のクリーミーな香味を、よりなめらかにする(なめらかさを増強させる)ことを見出した。
加えて、本発明者らは、このグリセリン脂肪酸エステルの含有量を精緻に特定することによって、発泡性乳飲料のクリーミーなイメージに反するような飲用感である「舌へのピリピリとした炭酸飲料に特有の刺激」(舌への刺激)を低減できることも見出した。
【0018】
グリセリン脂肪酸エステルの含有量は、0.00010w/v%以上が好ましく、0.00015w/v%以上、0.00020w/v%以上、0.00025w/v%以上、0.00030w/v%以上、0.00033w/v%以上がより好ましい。グリセリン脂肪酸エステルの含有量が所定値以上であることによって、泡の経時安定性を優れたものとしつつ、舌への刺激を低減させ、なめらかさを増強させることができる。
グリセリン脂肪酸エステルの含有量は、0.00500w/v%以下が好ましく、0.00400w/v%以下、0.00300w/v%以下、0.00200w/v%以下、0.00150w/v%以下、0.00130w/v%以下、0.00100w/v%以下、0.00090w/v%以下、0.00060w/v%以下、0.00050w/v%以下がより好ましい。グリセリン脂肪酸エステルの含有量が所定値以下であることによって、泡の経時安定性を確実に優れたものとすることができる。加えて、グリセリン脂肪酸エステルの含有量が所定値以下であることによって、容器壁面への泡付着性も優れたものとすることができる。
【0019】
発泡性乳飲料におけるグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS/MS)で既知の方法によって測定することができる。
【0020】
(グリセリン脂肪酸エステルの含有量/乳タンパク質の含有量)
本実施形態に係る発泡性乳飲料は、グリセリン脂肪酸エステルの含有量と乳タンパク質の含有量とが、其々、前記した範囲内となっていればよいが、両者の比率は以下のような範囲とするのが好適である。
グリセリン脂肪酸エステルの含有量(w/v%)/乳タンパク質の含有量(w/v%)は、0.00060以上が好ましく、0.00080以上、0.00100以上、0.00120以上、0.00130以上がより好ましい。この比率が所定値以上であることによって、所望の効果(泡の経時安定性に関する効果、舌への刺激の低減効果、なめらかさの増強効果)の発揮をさらに確実なものとすることができる。
グリセリン脂肪酸エステルの含有量(w/v%)/乳タンパク質の含有量(w/v%)は、0.00650以下が好ましく、0.00500以下、0.00400以下、0.00350以下がより好ましい。この比率が所定値以下であることによって、発泡性乳飲料としての総合評価もより優れたものとなる。
【0021】
(NIBEM値:泡の経時安定性)
NIBEM値とは、発泡性乳飲料を所定の容器に注いだ際に形成される泡の時間経過に対する安定性(泡の経時安定性)を示す指標であって、詳細には、飲料を容器に注いだ際に形成された泡の高さが所定量減少するまでの時間(秒)である。
このNIBEM値が大きいほど、泡の経時安定性に優れることとなる。そして、泡の経時安定性が優れているほど、消費者に与える発泡性乳飲料のクリーミーなイメージを強化することができる。
【0022】
NIBEM値は、80秒以上であるのが好ましく、95秒以上であるのがより好ましく、100秒以上、150秒以上、200秒以上、250秒以上、300秒以上がさらに好ましい。NIBEM値が所定値以上であることによって、泡の経時安定性に関する効果を確実なものとすることができる。
NIBEM値の上限は特に限定されず、例えば、500秒以下、400秒以下、350秒である。
【0023】
なお、発泡性乳飲料のNIBEM値は、「改訂 BCOJビール分析法 2013年増補改訂(編集:ビール酒造組合 国際技術委員会(分析委員会)、発行所:公益財団法人日本醸造協会)」の「8.29 泡-NIBEM-Tを用いた泡持ち測定法-」に記載の方法にしたがって測定することができる。
【0024】
(cling値:容器壁面への泡付着性)
cling値とは、発泡性乳飲料を所定の容器に注いだ後の容器壁面にどれだけ泡が付着しているか(容器壁面への泡付着性)を示す指標であって、詳細には、飲料を容器に注ぎ所定時間経過した後の容器壁面における泡付着率(%)である。
このcling値が大きいほど、容器壁面への泡付着性に優れることとなる。なお、本発明において、容器壁面への泡付着性については課題として掲げていないものの、この泡付着性が優れているほど、消費者に与える発泡性乳飲料のクリーミーなイメージをより強化することができる。
【0025】
cling値は、5%以上が好ましく、10%以上、30%以上、40%以上、50%以上がより好ましい。cling値が所定値以上であることによって、容器壁面への泡付着性に関する効果を確実なものとすることができる。
cling値の上限は特に限定されず、例えば、95%以下、90%以下、80%以下、75%以下である。
【0026】
なお、発泡性乳飲料のcling値は、飲料を容器に注ぎ所定時間経過した後の容器壁面について、市販の測定装置を用いて測定し、測定面積に対する泡で覆われている部分の面積の割合を算出すればよい。
【0027】
(アルコール)
本実施形態に係る発泡性乳飲料は、アルコールを含有していてもよい。
アルコールは飲用することができるアルコールであればよく、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、種類、製法、原料などに限定されることがないが、蒸留酒又は醸造酒であることが好ましい。蒸留酒としては、例えば、焼酎、ブランデー、ウォッカ、ウイスキー等の各種スピリッツ、原料用アルコール等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。醸造酒としては、例えば、ビール、発泡酒、果実酒、甘味果実酒などを1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、本明細書においてアルコールとは、特に明記しない限り、エタノールのことをいう。
【0028】
(アルコール度数)
本実施形態に係る発泡性乳飲料のアルコール度数は、特に限定されないものの、例えば、1v/v%以上、2v/v%以上、3v/v%以上、4v/v%以上であり、15v/v%以下、13v/v%以下、10v/v%以下、8v/v%以下、6v/v%以下、5v/v%以下である。
本実施形態に係る発泡性乳飲料のアルコール度数は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)3清酒3-4アルコール分(振動式密度計・ガスクロマトグラフ分析法)に基づいて測定することができる。
【0029】
(発泡性)
本実施形態に係る発泡性乳飲料は、発泡性のもの、つまり、炭酸飲料である。
そして、20℃におけるガス圧(全圧)は、0.5kg/cm以上が好ましく、1.0kg/cm以上、1.5kg/cm以上、2.0kg/cm以上、3.0kg/cm以上がより好ましい。ガス圧が所定値以上であることによって、泡の経時安定性に関する効果をより確実なものとすることができる。
ただ、発泡性乳飲料のガス圧が少しでもあれば(容器に注いだ際に泡が形成される状態であれば)、グリセリン脂肪酸エステル(及び、乳タンパク質)に基づく泡の経時安定性に関する効果は発揮されるものと考える。
【0030】
本実施形態に係る発泡性乳飲料の20℃におけるガス圧(全圧)は、例えば、「改訂 BCOJビール分析法 2013年増補改訂(編集:ビール酒造組合 国際技術委員会(分析委員会)、発行所:公益財団法人日本醸造協会)」の「8.21 ガス圧」に記載の方法により測定することができる。
【0031】
(その他)
本実施形態に係る発泡性乳飲料は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で飲料として通常配合される甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、塩類、食物繊維など(以下、適宜「添加剤」という)を含有していてもよい。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトースなどを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。酸味料としては、例えば、クエン酸、乳酸、アジピン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、リン酸などを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などを用いることができる。
【0032】
本実施形態に係る発泡性乳飲料は、チューハイテイスト飲料とする場合、フルーツフレーバー(フルーツ様の香りを付与するフレーバー)、果汁(果実を搾った汁)、果実エキスを含有させることもできる。そして、果汁としては、例えば、濃縮果汁、還元果汁、ストレート果汁といった各種果汁、果実ピューレ(火を通した果実あるいは生の果実をすりつぶしたり裏ごししたりした半液体状のもの)、これらの希釈液、濃縮液、混合液などを用いることができる。また、果実エキスとは、果実(又は果汁)から水やアルコールなどを用いて当該果実の有効成分を抽出した抽出物である。
果汁の由来となる果実(および、果実フレーバーや果実エキスの果実種)は、柑橘類果実である、レモン、ライム、ミカン、オレンジ、グレープフルーツ、ユズ、シークワーサー等や、バラ科果実である、梅、リンゴ、イチゴ、桃等、これら以外にも、ぶどう、プラム、ざくろ、ブルーベリー、カシス、クランベリー、マキベリー、いちご、アップル、ピーチ、マンゴー、パイナップル、キウイ、梨等といった従来公知の果実も挙げることができる。
なお、所望の効果(泡の経時安定性に関する効果、舌への刺激の低減効果、なめらかさの増強効果)は、フレーバー・果汁・果実エキスの香味タイプや香味の強弱から大きな影響は受けないとともに、当該効果が消失してしまうといったことはないと考えることから、フレーバーなどによる香味タイプは前記のとおり多様であってもよく、含有量についても特に限定されない。
【0033】
(容器詰め発泡性乳飲料)
本実施形態に係る発泡性乳飲料は、各種容器に入れて提供することができる。各種容器に発泡性乳飲料を詰めることにより、長期間の保管による品質の劣化を好適に防止することができる。
なお、容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ容器などを適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分および光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【0034】
以上説明したように、本実施形態に係る発泡性乳飲料は、泡の経時安定性が優れ、なめらかさが増強している。
また、本実施形態に係る発泡性乳飲料は、舌への刺激が低減し、容器壁面への泡付着性にも優れ、飲料としての総合評価も好ましい状態となっている。
【0035】
[発泡性乳飲料の製造方法]
次に、本実施形態に係る発泡性乳飲料の製造方法を説明する。
本実施形態に係る発泡性乳飲料の製造方法は、混合工程と、後処理工程と、を含む。
【0036】
混合工程では、混合タンクに、水、乳タンパク質、グリセリン脂肪酸エステル、飲用アルコール、添加剤などを適宜投入して混合後液を製造する。
この混合工程において、乳タンパク質やグリセリン脂肪酸エステルの含有量などが前記した数値範囲内となるように各原料を混合し、調整すればよい。
【0037】
そして、後処理工程では、例えば、ろ過、殺菌、炭酸ガスの付加、容器への充填などの処理を必要に応じて選択的に行う。
なお、後処理工程のろ過処理は、一般的なフィルター又はストレーナーによって行うことができる。また、後処理工程の殺菌処理は、処理速度等の観点から、プレート殺菌によって行うのが好ましいが、同様の処理を行うことができるのであればこれに限定されることなく適用可能である。また、後処理工程の充填処理は、飲料品の製造において通常行われる程度にクリーン度を保ったクリーンルームにおいて充填するのが好ましい。そして、後処理工程での各処理の順序は特に限定されない。
【0038】
なお、混合工程及び後処理工程において行われる各処理は、RTD飲料などを製造するために一般的に用いられている設備によって行うことができる。
【0039】
以上説明したように、本実施形態に係る発泡性乳飲料の製造方法によると、泡の経時安定性が優れ、なめらかさが増強された発泡性乳飲料を製造することができる。
また、本実施形態に係る発泡性乳飲料の製造方法によると、舌への刺激が低減し、容器壁面への泡付着性にも優れ、飲料としての総合評価も好ましい発泡性乳飲料を製造することができる。
【0040】
[発泡性乳飲料の品質向上方法]
次に、本実施形態に係る発泡性乳飲料の品質向上方法を説明する。
本実施形態に係る発泡性乳飲料の品質向上方法は、発泡性乳飲料の泡の経時安定性を優れたものとするとともに、なめらかさを増強する品質向上方法であって、発泡性乳飲料に乳タンパク質を含有させ、グリセリン脂肪酸エステルの含有量を所定範囲内とする方法である。
なお、各成分の含有量等については、前記した「発泡性乳飲料」において説明したものと同じである。
【0041】
以上説明したように、本実施形態に係る発泡性乳飲料の品質向上方法は、発泡性乳飲料の泡の経時安定性を優れたものとし、なめらかさを増強することができる。
また、本実施形態に係る発泡性乳飲料の品質向上方法は、発泡性乳飲料の舌への刺激を低減させ、容器壁面への泡付着性も向上させ、飲料としての総合評価も好ましい状態とすることができる。
【実施例
【0042】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
【0043】
[サンプルの準備]
表に示す量となるように、ウォッカ、消泡剤(グリセリン脂肪酸エステルを含む)、乳タンパク質(脱脂粉乳)、果糖ぶどう糖液糖、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、炭酸水、純水を適宜配合してサンプルを準備した。
なお、表の各サンプルについて、表に記載していない成分の含有量は、サンプル間で略統一していた。
そして、表の各サンプルの20℃におけるガス圧(全圧)は0.15kg/cmとし、アルコール度数は4v/v%とした。
【0044】
[測定方法]
(NIBEM値)
NIBEM値は、「改訂 BCOJビール分析法 2013年増補改訂(編集:ビール酒造組合 国際技術委員会(分析委員会)、発行所:公益財団法人日本醸造協会)」の「8.29 泡-NIBEM-Tを用いた泡持ち測定法-」に記載の方法にしたがって測定した。具体的には、約20℃のサンプルを缶から泡注出機を使用して標準グラス(内径60mm、内高120mmの円筒グラス)に抽出した。そして、市販の測定装置(NIBEM-TPH、Haffmans社製)を使用して、形成された泡の高さが測定開始位置から3cm降下するのに要した時間をNIBEM値(秒)とした。
【0045】
(cling値)
cling値は、上述のようにしてNIBEM値を測定した後(詳細には、標準グラスにサンプルを抽出してから約5分後)の泡の付着しているグラス表面を、市販の測定装置(Nibem Cling Meter、Haffmans社製)を使用して、光学的にスキャンし、スキャンした総面積に対する、泡で覆われている部分の面積の割合(=泡で覆われている部分の面積(cm)/測定した総面積(cm)×100:%)を算出した。
【0046】
[試験内容]
前記の方法により製造した各サンプルについて、訓練された識別能力のあるパネル4名が下記評価基準に則って「舌への刺激の強さ」、「なめらかさ」、「総合評価」について、1~5点の9段階評価(0.5点刻み)で独立点数付けし、その平均値を算出した。
なお、全ての評価は、サンプルを飲んで評価した。
【0047】
(舌への刺激の強さ:評価基準)
舌への刺激の強さの評価は、サンプル1-1の3点を基準とし、「舌への刺激の強さがサンプル1-1と比較して非常に強い」場合を5点、「舌への刺激の強さがサンプル1-1と同程度である」場合を3点、「舌への刺激の強さがサンプル1-1と比較して非常に弱い」場合を1点、と評価した。そして、舌への刺激の強さについては、点数が低いほど、好ましいと判断できる。
なお、「舌への刺激」とは、舌へのピリピリとした炭酸飲料に特有の刺激であり、「舌への刺激の強さ」の点数が低いほど、刺激が低減(抑制)されている。
【0048】
(なめらかさ:評価基準)
なめらかさの評価は、サンプル1-1の3点を基準とし、「サンプル1-1と比較して全くなめらかではない」場合を5点、「サンプル1-1と同程度のなめらかさである」場合を3点、「サンプル1-1と比較して非常になめらかである」場合を1点、と評価した。そして、なめらかさについては、点数が低いほど、好ましいと判断できる。
なお、「なめらか」とは、香味がマイルドでなめらかな状態を示しており、「なめらかさ」の点数が低いほど、よりなめらかな状態になっている(なめらかさが増強している)。
【0049】
(総合評価:評価基準)
総合評価は、サンプル1-1の3点を基準とし、「サンプル1-1と比較して、発泡性乳飲料として非常に好適な香味である」場合を5点、「サンプル1-1と同程度の好ましい香味である」場合を3点、「サンプル1-1と比較して、発泡性乳飲料として非常に不適な香味である」場合を1点、と評価した。
【0050】
表に、サンプルの各成分の含有量等を示すとともに、各評価の結果を示す。そして、表に示す各成分の数値は、最終製品における含有量および指標である。
なお、表中のグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、各サンプルに使用した消泡剤の含有量、及び、この消泡剤に含まれるグリセリン脂肪酸エステルの含有率から算出した値である。また、表中の乳タンパク質の含有量は、各サンプルに使用した脱脂粉乳の含有量、及び、この脱脂粉乳に含まれるタンパク質の含有率から算出した値である。
そして、表中のNDは、測定不能であったという結果を示している。
【0051】
また、図1、2、3では、各サンプルをグラスに注ぎ、所定時間が経過した状態を撮像した結果(撮像写真)を示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
(結果の検討)
表1の結果から、発泡性乳飲料におけるグリセリン脂肪酸エステルの含有量が所定範囲内となると、NIBEM値が大きくなることで、泡の経時安定性が優れたものとなり(優れたものは、NIBEM値が80秒以上、より優れたものは、NIBEM値が100秒以上、特に優れたものは、NIBEM値が250秒以上)、さらには、舌への刺激の強さが低減し、なめらかさが増強することが確認できた。
また、表1の結果から、発泡性乳飲料におけるグリセリン脂肪酸エステルの含有量が所定範囲内となると、cling値も大きくなることで、容器壁面への泡付着性が優れたものとなり(優れたものは、cling値が50%以上)、さらには、総合評価の点数も上昇することが確認できた。
そして、全ての評価結果を考慮すると、表1のサンプルの中でも、サンプル1-2~1-7(特に、サンプル1-3~1-5)が非常に好ましい結果となった。
【0056】
表2の結果から、発泡性乳飲料が乳タンパク質を含有すると、泡の経時安定性に関する効果、舌への刺激の低減効果、なめらかさの増強効果が十分に発揮されることが確認できた。
また、表2の結果から、発泡性乳飲料が乳タンパク質を含有すると、容器壁面への泡付着性に関する効果、総合評価の点数上昇という効果も十分に発揮されることが確認できた。
そして、全ての評価結果を考慮すると、表2のサンプルの中でも、サンプル2-2~2-4(特に、サンプル2-3~2-4)が非常に好ましい結果となった。
【0057】
表3の結果から、乳タンパク質の含有量に対するグリセリン脂肪酸エステルの含有量の比率が同じである場合、NIBEM値、舌への刺激の強さの点数、なめらかさの点数が同程度の値となることが確認できた。
この結果から、例えば、乳タンパク質の含有量が多い発泡性乳飲料の場合、乳タンパク質の含有量に比例するようにグリセリン脂肪酸エステルの含有量を多くすれば、所望の効果(泡の経時安定性に関する効果、舌への刺激の低減効果、なめらかさの増強効果)が発揮されることが推認できる。
図1
図2
図3