(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】浴室の洗い場床部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
E03C 1/20 20060101AFI20240206BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20240206BHJP
B29C 44/12 20060101ALI20240206BHJP
B29C 44/44 20060101ALI20240206BHJP
E04H 1/12 20060101ALI20240206BHJP
B29K 101/12 20060101ALN20240206BHJP
B29K 105/04 20060101ALN20240206BHJP
【FI】
E03C1/20 A
B29C44/00 G
B29C44/12
B29C44/44
E04H1/12 301
B29K101:12
B29K105:04
(21)【出願番号】P 2019238449
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094547
【氏名又は名称】岩根 正敏
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 謙太
(72)【発明者】
【氏名】大垣 佳久
(72)【発明者】
【氏名】小田切 裕典
【審査官】七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-196673(JP,A)
【文献】特開2007-278006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03C 1/12- 1/33
B29C 44/00-44/60
E04H 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の熱可塑性樹脂発泡粒子成形体と、前記発泡粒子成形体
に埋設された長尺のフレーム部材とからなる浴室の洗い場床部材
を、前記フレーム部材のインサート成形により製造する浴室の洗い場床部材の製造方法において、
上記フレーム部材の厚みが8mmを超えており、
上記発泡粒子成形体の一方の板面に上記埋設されたフレーム部材の長手方向に沿って複数の有底凹部が形成され、前記有底凹部により前記フレーム部材の一部が露出している
とともに、
上記有底凹部が形成された板面と同一板面であって上記フレーム部材が埋設された部位に隣接した領域に、有底孔が複数形成されていることを特徴とする、
浴室の洗い場床部材
の製造方法。
【請求項2】
上記発泡粒子成形体に埋設されたフレーム部材の厚みが、発泡粒子成形体の厚みの20~60%を占める厚みであることを特徴とする、請求項1に記載の浴室の洗い場床部材
の製造方法。
【請求項3】
上記フレーム部材は、上記発泡粒子成形体の長手方向に沿って埋設されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の浴室の洗い場床部材
の製造方法。
【請求項4】
上記フレーム部材は、上記発泡粒子成形体に複数埋設されているとともに、複数の該フレーム部材のうち少なくとも一つが、発泡粒子成形体の長手方向に沿って埋設されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の浴室の洗い場床部材
の製造方法。
【請求項5】
上記発泡粒子成形体が、平面視略矩形の板状体であることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の浴室の洗い場床部材
の製造方法。
【請求項6】
上記有底凹部が、上記フレーム部材に沿って10~80mmの間隔で形成されているとともに、前記有底凹部により、前記フレーム部材の平面視での面積の50~80%が露出していることを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の浴室の洗い場床部材
の製造方法。
【請求項7】
上記有底孔が、上記フレーム部材が埋設された部位に隣接した領域に10~80mmの間隔で形成されていることを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の浴室の洗い場床部材
の製造方法。
【請求項8】
上記有底孔が、上記発泡粒子成形体の厚みの50~80%の深さに形成されていることを特徴とする、請求項
1~7のいずれかに記載の浴室の洗い場床部材
の製造方法。
【請求項9】
上記有底凹部と上記有底孔とが、千鳥状に配置されていることを特徴とする、請求項
1~8のいずれかに記載の浴室の洗い場床部材
の製造方法。
【請求項10】
上記有底凹部と上記有底孔の開口部が、それぞれ平面視で略円形であることを特徴とする、請求項
1~9のいずれかに記載の浴室の洗い場床部材
の製造方法。
【請求項11】
上記熱可塑性樹脂発泡粒子成形体が、長さ300~1800mm、幅300~1800mm、厚み15~100mmの平板状であることを特徴とする、請求項
1~10のいずれかに記載の浴室の洗い場床部材
の製造方法。
【請求項12】
上記熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の見掛け密度が、20~200kg/m
3
であることを特徴とする、請求項1~11のいずれかに記載の浴室の洗い場床部材
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂発泡粒子成形体と、該熱可塑性樹脂発泡粒子成形体にインサート成形により埋設されたフレーム部材とからなる浴室の洗い場床部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
浴室の洗い場床の床部材として、断熱性等に優れることから、発泡プラスチックが用いられることがある(特許文献1)。
上記浴室の洗い場床部材には、高い剛性が求められる。発泡プラスチックの剛性を向上させる方法としては、例えば、熱可塑性樹脂発泡粒子成形体(以下、単に発泡粒子成形体と呼ぶことがある)の内部に金属等からなるフレーム部材を埋め込み、一体化させる技術がある(特許文献2)。この場合、発泡粒子成形体に埋め込まれたフレーム部材は、補強材や取付材として機能する。
【0003】
このような発泡粒子成形体とフレーム部材とを一体化させてなる複合成形体は、金型内の所定の位置にフレーム部材を配設し、次いで熱可塑性樹脂発泡粒子を充填し、加熱、融着させる、所謂インサート成形によって製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-117257号公報
【文献】特開2002-225949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、上記浴室の洗い場床部材には、表面平滑性に優れる板状の形状であることが求められる場合がある。さらに、より剛性に優れるものが求められるようになっている。浴室の洗い場床部材の剛性を高める方法として、厚みの厚いフレーム部材をインサートすることが挙げられる。
【0006】
しかしながら、板状の発泡粒子成形体に、厚みの厚いフレーム部材をインサートした場合、フレーム部材がインサートされた部分が膨らんでしまい、非インサート部分とで表面に凹凸が発生することで、表面の平滑性が損なわれてしまう場合があった。浴室の洗い場床部材の表面に表面凹凸が発生すると、該床部材にクッション材や表皮材等を積層する際に不具合を生じるおそれがあった。
【0007】
本発明は、上述した背景技術が有する課題に鑑み成されたものであって、その目的は、厚みのあるフレーム部材をインサートした板状の発泡粒子成形体であっても、表面の凹凸が少なく、表面平滑性に優れる浴室の洗い場床部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するため、本発明は、次の〔1〕~〔12〕に記載した浴室の洗い場床部材の製造方法とした。
〔1〕板状の熱可塑性樹脂発泡粒子成形体と、前記発泡粒子成形体に埋設された長尺のフレーム部材とからなる浴室の洗い場床部材を、前記フレーム部材のインサート成形により製造する浴室の洗い場床部材の製造方法において、
上記フレーム部材の厚みが8mmを超えており、
上記発泡粒子成形体の一方の板面に上記埋設されたフレーム部材の長手方向に沿って複数の有底凹部が形成され、前記有底凹部により前記フレーム部材の一部が露出しているとともに、
上記有底凹部が形成された板面と同一板面であって上記フレーム部材が埋設された部位に隣接した領域に、有底孔が複数形成されていることを特徴とする、
浴室の洗い場床部材の製造方法。
〔2〕上記発泡粒子成形体に埋設されたフレーム部材の厚みが、発泡粒子成形体の厚みの20~60%を占める厚みであることを特徴とする、上記〔1〕に記載の浴室の洗い場床部材の製造方法。
〔3〕上記フレーム部材は、上記発泡粒子成形体の長手方向に沿って埋設されていることを特徴とする、上記〔1〕又は〔2〕に記載の浴室の洗い場床部材の製造方法。
〔4〕上記フレーム部材は、上記発泡粒子成形体に複数埋設されているとともに、複数の該フレーム部材のうち少なくとも一つが、発泡粒子成形体の長手方向に沿って埋設されていることを特徴とする、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の浴室の洗い場床部材の製造方法。
〔5〕上記発泡粒子成形体が、平面視略矩形の板状体であることを特徴とする、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の浴室の洗い場床部材の製造方法。
〔6〕上記有底凹部が、上記フレーム部材に沿って20~80mmの間隔で形成されているとともに、前記有底凹部により、前記フレーム部材の平面視での面積の50~80%が露出していることを特徴とする、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の浴室の洗い場床部材の製造方法。
〔7〕上記有底孔が、上記フレーム部材が埋設された部位に隣接した領域に20~80mmの間隔で形成されていることを特徴とする、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の浴室の洗い場床部材の製造方法。
〔8〕上記有底孔が、上記発泡粒子成形体の厚みの50~80%の深さに形成されていることを特徴とする、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の浴室の洗い場床部材の製造方法。
〔9〕上記有底凹部と上記有底孔とが、千鳥状に配置されていることを特徴とする、上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の浴室の洗い場床部材の製造方法。
〔10〕上記有底凹部と上記有底孔の開口部が、それぞれ平面視で略円形であることを特徴とする、上記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の浴室の洗い場床部材の製造方法。
〔11〕上記熱可塑性樹脂発泡粒子成形体が、長さ300~1800mm、幅300~1800mm、厚み15~100mmの平板状であることを特徴とする、上記〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の浴室の洗い場床部材の製造方法。
〔12〕上記熱可塑性樹脂発泡粒子成形体の見掛け密度が、20~200kg/m3であることを特徴とする、上記〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の浴室の洗い場床部材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
上記した本発明にかかる浴室の洗い場床部材によれば、厚みのあるフレーム部材がインサート成形により埋設された平板状の発泡粒子成形体であっても、表面の凹凸が少なく、表面平滑性に優れる板面を有する浴室の洗い場床部材となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の浴室の洗い場床部材の製造に使用される代表的な成形装置の概念的な縦断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態の浴室の洗い場床部材の平面図(意匠面側)である。
【
図3】
図2に示した浴室の洗い場床部材の背面図(背面側)である。
【
図6】実施例1の浴室の洗い場床部材を示した図であり、(a)は背面図、(b)は(a)図のA-A腺に沿う部分の断面図、(c)は(a)図のB-B腺に沿う部分の断面図である。
【
図7】実施例2の浴室の洗い場床部材を示した図であり、(a)は背面図、(b)は(a)図のA-A腺に沿う部分の断面図、(c)は(a)図のB-B腺に沿う部分の断面図である。
【
図8】実施例3の浴室の洗い場床部材を示した図であり、(a)は背面図、(b)は(a)図のA-A腺に沿う部分の断面図、(c)は(a)図のB-B腺に沿う部分の断面図である。
【
図9】実施例4の浴室の洗い場床部材を示した図であり、(a)は背面図、(b)は(a)図のA-A腺に沿う部分の断面図、(c)は(a)図のB-B腺に沿う部分の断面図である。
【
図10】実施例5の浴室の洗い場床部材を示した図であり、(a)は背面図、(b)は(a)図のA-A腺に沿う部分の断面図、(c)は(a)図のB-B腺に沿う部分の断面図である。
【
図11】比較例1の浴室の洗い場床部材を示した図であり、(a)は背面図、(b)は(a)図のA-A腺に沿う部分の断面図、(c)は(a)図のB-B腺に沿う部分の断面図である。
【
図12】比較例2の浴室の洗い場床部材を示した図であり、(a)は背面図、(b)は(a)図のA-A腺に沿う部分の断面図、(c)は(a)図のB-B腺に沿う部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る浴室の洗い場床部材について、詳細に説明する。
【0012】
本発明に係る浴室の洗い場床部材(以下、単に床部材と呼ぶことがある)は、板状の熱可塑性樹脂発泡粒子成形体と、前記発泡粒子成形体にインサート成形により埋設された長尺のフレーム部材とからなる浴室の洗い場床部材であって、厚みのあるフレーム部材がインサート成形により埋設された平板状の発泡粒子成形体であっても、表面の凹凸が少なく、表面平滑性に優れる板面を有する浴室の洗い場床部材となる。
【0013】
本発明の床部材が、表面平滑性に優れるものとなる理由は、明らかではないが、次のように考えられる。
発泡粒子成形体にフレーム部材をインサートして成形する際、加熱工程において発泡粒子とフレーム部材が同時に加熱され、その後、冷却工程において発泡粒子は冷却される。この時、フレーム部材は発泡粒子成形体内部に埋没されているために冷却され難く、高温の状態となっている。そのため、インサート部材周辺の発泡粒子はフレーム部材の熱により三次発泡してしまい、その結果、表面に膨れが生じて表面平滑性が損なわれると考えられる。
本発明の床部材によれば、発泡粒子成形体の一方の板面(本明細書において背面と呼ぶことがある)に前記埋設されたフレーム部材の長手方向に沿って複数の有底凹部が形成されているとともに、前記有底凹部により前記フレーム部材の一部が露出しているため、冷却工程においてフレーム部材が効率よく冷却され、インサート部材周辺の発泡粒子の三次発泡を抑制することができ、前記有底凹部が形成された板面の反対側の面(本明細書において意匠面と呼ぶことがある)の表面平滑性に優れるものとなると考えられる。
【0014】
上記発泡粒子成形体を構成する熱可塑性樹脂は、適宜選択可能であるが、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が挙げられる。また、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂との複合樹脂、上記の樹脂の2種以上の混合物等を挙げることができる。これらの中でも、軽量性や強度の観点からは、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂との複合樹脂が好ましい。中でもポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂が好ましく、ポリプロピレン系樹脂がより好ましい。また、ポリエチレンやポリプロピレン等の結晶性樹脂を含む熱可塑性樹脂からなる発泡粒子成形体は、成形後の収縮率が大きいため、本発明による効果がより得られ易くなる。
【0015】
発泡粒子成形体は、上記熱可塑性樹脂の発泡粒子を型内成形することにより製造することができる。発泡粒子は、この種の発泡粒子を製造する公知の方法により製造することができる。例えば、オートクレーブ等の加圧可能な密閉容器内の所要量の分散媒体(通常は水)に、必要に応じて界面活性剤や無機粉体等の分散剤を添加して上記熱可塑性樹脂粒子を分散させ、発泡剤を圧入して加熱下において撹拌して発泡剤を樹脂粒子に含浸させ、所定時間経過後、高温高圧条件下の容器内から分散媒体とともに発泡剤を含浸した樹脂粒子を低圧域(通常大気圧下)に放出して、発泡させ発泡粒子を得る方法などにより製造される。このように予め発泡させた発泡粒子は、金型に充填した後加熱スチームを導入することにより型内成形を行って、発泡粒子が二次発泡するとともに発泡粒子表面が溶融して一体化し、発泡粒子成形体を得ることができる。
【0016】
本発明で用いるフレーム部材は、8mmを超える厚みを有するものである。フレーム部材が厚み8mmを超える厚みの厚いフレーム部材であることにより、床部材は剛性に優れるものとなる。フレーム部材の厚みは、剛性、軽量性等の観点から、9~30mmであることが好ましく、10~25mmであることがより好ましい。
従来、厚み8mmを超えるような厚みの厚いフレーム部材は、熱容量が大きく冷却され難いため、このようなフレーム部材をインサート成形により埋設した発泡粒子成形体は表面に凹凸が生じ易いものであった。本発明によれば、厚みの厚いフレーム部材をインサートした場合であっても効率的にフレーム部材が冷却されるため、表面平滑性に優れる床部材を得ることができる。
なお、上記フレーム部材の厚みは、埋設する板状の発泡粒子成形体の厚み方向の厚み(高さ)である。
【0017】
フレーム部材の材質としては、通常、床部材のフレーム部材として用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、鉄、アルミニウム、銅等からなる金属製フレーム部材や、エンジニアリングプラスチック、ガラス繊維強化樹脂等からなる樹脂製フレーム部材等を挙げることができる。これらの中でも、強度等の観点から、金属製のものが好ましい。また、フレーム部材は、棒状、管状、板状等、任意の形状の長尺部材を加工して用いることができる。これらの中でも、より強度を向上させる観点から、板状のものが好ましい。
【0018】
フレーム部材として板状のものを用いる場合、強度を向上させる観点から、その寸法は、長さ250~1750mm、幅8~60mm、厚み8mmを超える上面視矩形状であることが好ましく、長さ450~1450mm、幅15~40mm、厚み9~30mmであることがより好ましい。
【0019】
本発明の床部材は、上記発泡粒子とともに上記フレーム部材を一体成形し、フレーム部材が埋め込まれた発泡粒子成形体から形成される。
以下に、本発明の床部材の成形工程を、
図1を用いて説明する。
【0020】
図1は、本発明の床部材の製造に使用される代表的な成形装置である。成形装置1は、床部材を成形する一対の金型2と、スチームチャンバー3から構成され、金型2には、発泡粒子を充填するための充填器4が取り付けられており、また、加熱スチームの透過や空気の排出のためのコアベント5が設けられている。金型2は、熱伝導の良い金属製のものが用いられ、例えば、鉄、アルミニウム等からなるものが挙げられる。
【0021】
床部材の製造プロセスは、上記金型2内へのフレーム部材20の配置、発泡粒子Pの充填、加熱、冷却、離型の工程からなる。
まず、フレーム部材20の配置として、金型2の一方にフレーム部材20を配置して型締めをする。次に、充填器4から、金型2内に発泡粒子Pを充填する。
この状態でスチームチャンバー3内に加熱スチームHを供給して、金型2のコアベント5を通して、金型2内に加熱スチームHを導入し、発泡粒子Pを二次発泡させ、発泡粒子間の空隙を埋めて互いに融着させる。この加熱工程により、金型2内で発泡粒子成形体が形成されるとともに、発泡粒子成形体の内部にフレーム部材20が埋め込まれた状態で融着一体化する。
次に、金型2を、冷却水Wを供給する等の方法により冷却した後、離型して金型2から取出し、成形した床部材を得ることができる。
【0022】
本発明の床部材(発泡粒子成形体)の形状は、
図2~
図5に示すように、平面視略矩形の板状であることが好ましい。この場合の床部材(発泡粒子成形体)10の寸法は、長さ300~2000mm、幅300~1800mm、厚み15~100mmの平板状であることが好ましく、長さ500~1800mm、幅500~1500mm、厚み20~70mmの平板状であることがより好ましい。図示した実施形態においては、長さ500mm、幅300mm、厚み30mmの平板状に床部材(発泡粒子成形体)10は形成されている。
【0023】
フレーム部材20は、床部材(発泡粒子成形体)10の長手方向に沿って埋設されていることが好ましく、更には、床部材に複数のフレーム部材が埋設されているとともに、該複数のフレーム部材のうち少なくとも一つが発泡粒子成形体の長手方向に沿って埋設されていることがより好ましい。この場合、フレーム部材20は、床部材(発泡粒子成形体)10の長手方向の長さを100%としたときに、少なくとも50~99%にわたる範囲で埋設されていることが好ましく、70~95%にわたる範囲で埋設されていることがより好ましい。図示した実施形態においては、長さ450mmの2本のフレーム部材20が床部材(発泡粒子成形体:長さ500mm)10の長手方向に沿って並列して埋設され、床部材(発泡粒子成形体)10の長手方向の長さの90%にわたる範囲にフレーム部材20が埋設されている。
【0024】
また、埋設されたフレーム部材20は、床部材(発泡粒子成形体)10の厚みを100%としたときに、20~60%を占める厚みであることが好ましく、30~50%を占める厚みであることがより好ましい。このような厚みの厚いフレーム部材20をインサートした場合には、表面の凹凸が生じ易い傾向があり、本願の効果が顕著に現れる。図示した実施形態においては、厚み12mmのフレーム部材20を床部材(発泡粒子成形体:厚み30mm)10に埋設しており、発泡粒子成形体10の厚みの40%を占める厚みのフレーム部材20が埋設されている。
【0025】
フレーム部材20は発泡粒子成形体10の厚み方向中央部に埋設されることが好ましい。この場合には、発泡粒子成形体により確実にフレーム部材を埋設することができ、強度の観点からより優れるものとなる。また、表面の凹凸をより少なく抑えることができる。
【0026】
本発明に係る床部材(発泡粒子成形体)10は、発泡粒子成形体の一方の板面(背面)に上記埋設されたフレーム部材20に沿って複数の有底凹部30が形成され、該有底凹部30により前記フレーム部材20の一部が露出している。この有底凹部30は、上記した製造工程における金型2に形成された凸部6によって成形されたものであり、該有底凹部30によりフレーム部材20が露出していることにより、冷却工程における冷却が強化され、発泡粒子の三次発泡が抑制されるため、厚みの厚いフレーム部材20がインサートされているにもかかわらず、表面凹凸が軽減された成形体となる。
【0027】
上記有底凹部30は、フレーム部材20に沿って10~80mmの間隔で形成されているとともに、前記有底凹部30により前記フレーム部材20の平面視での総面積を100%としたときに、平面視で50~80%のフレーム部材20の部分が露出しているものとすることが好ましい。上記範囲で有底凹部30を形成することにより、床部材(発泡粒子成形体)10の強度を維持しつつ、フレーム部材20の冷却が効率的になされ、より表面の凹凸が抑制され易いものとなる。かかる観点から、有底凹部30は、フレーム部材20に沿って20~70mmの間隔で形成されているとともに、前記有底凹部30により前記フレーム部材20の平面視での総面積を100%としたときに、平面視で55~70%のフレーム部材20の部分が露出しているものとすることがより好ましい。なお、上記有底凹部30の間隔は、有底凹部30の端部と、その有底凹部30と最も近い距離に位置する有底凹部30の前記有底凹部側の端部との間の距離d
1(
図3参照)である。
【0028】
また、形成する有底凹部30は、発泡粒子の充填性、機械強度、成形性等の観点から、開口部が平面視で略円形であることが好ましい。図示した実施形態においては、直径40mmの円形開口部を有する7個の有底凹部30が、埋設されたフレーム部材20に沿って20mmの間隔で形成され、平面視で67%のフレーム部材20の部分が露出している。
【0029】
上記有底凹部30は、意匠面の表面平滑性に優れる床部材(発泡粒子成形体)10を得る観点から、有底である。また、その深さは前記フレーム部材の厚みとの関係、強度、発泡粒子の充填性、成形性等の観点から、5~90mmであることが好ましく、10~60mmであることがより好ましい。
【0030】
本発明に係る床部材(発泡粒子成形体)10は、上記有底凹部30が形成された板面と同一板面(背面)であって上記フレーム部材20が埋設された部位に隣接した領域に、有底孔40が複数形成されていることが好ましい。この有底孔40は、上記した製造工程における金型2に形成された凸部6によって成形されたものである。該有底孔40がフレーム部材に隣接した非インサート部分に形成されることにより、その部分の発泡粒子成形体の収縮が抑制され、意匠面の表面凹凸がより軽減されるとともに、意匠性により優れる成形体となる。
なお、上記フレーム部材が埋設された部位に隣接した領域とは、フレーム部材の埋設部の側方側40mmまでの領域をいう。上記フレーム部材が埋設された部位に隣接した領域は、フレーム部材の端部の側方側40mmまでの領域に少なくとも有底孔の一部が形成されていればよい。
【0031】
本発明の床部材(発泡粒子成形体)10が、上記有底孔40を有することにより、さらに表面平滑性に優れるものとなる理由は、明らかではないが、次のように考えられる。
発泡粒子成形体にフレーム部材をインサートして成形する場合、フレーム部材上部の成形体の厚み(成形体の意匠面からフレーム部材までの部分の厚み)は、前記フレーム部材埋設部に隣接した領域に位置する非インサート部分の厚み(成形体の全厚み)より薄くなる。発泡粒子成形体の収縮率は、基材となる樹脂によって決まるため、成形体の厚みによらず一定の値であるが、発泡粒子成形体の収縮量は成形体の厚みの厚い方が大きくなる。したがって、非インサート部分は収縮量が大きく、成形体にヒケが発生し易くなる。特に、厚みの厚いフレーム部材をインサートした場合には、非インサート部分とインサート部分との収縮量の差が大きくなるため、表面平滑性がより損なわれやすいと考えられる。
本発明の床部材が、上記有底孔を有している場合には、非インサート部分の厚みが薄くなるとともに、非インサート部分の厚みとフレーム部材上部の成形体の厚みとの差が小さなものとなるため、発泡粒子成形体の収縮が抑制され、意匠面の表面凹凸がより軽減されると考えられる。
【0032】
上記有底孔40は、開口面積が500~3000mm2であるとともに、フレーム部材20が埋設された部位に隣接した領域に10~80mmの間隔で形成されていることが好ましい。上記範囲で有底孔40を形成することにより、床部材(発泡粒子成形体)10の強度を維持しつつ、非インサート部分の収縮が抑制され、より表面平滑性に優れる板面を有する床部材となる。かかる観点から、有底孔40は、開口面積が800~2000mm2であるとともに、フレーム部材が埋設された部位に隣接した領域に20~70mmの間隔で形成されていることがより好ましい。
なお、上記有底孔の間隔は、有底孔の端部と、その有底孔と最も近い距離に位置する有底孔の前記有底孔側の端部との間の距離である。
【0033】
また、有底孔40は、床部材(発泡粒子成形体)10の厚みを100%としたときに、50~80%の深さに形成されていることが好ましい。上記範囲で有底孔40を形成することにより、床部材(発泡粒子成形体)10の強度を維持しつつ、良好に非インサート部分の収縮量が抑制されるとともに、非インサート部分の厚みとフレーム部材上部の成形体の厚みとの差を小さくすることができるため、上記有底凹部30の効果と相まって、より表面平滑性に優れる板面を有する床部材となる。さらに、発泡粒子成形体の厚みが厚い場合であっても収縮による表面凹凸を良好に抑制することができる。かかる観点から、有底孔40は、床部材(発泡粒子成形体)10の厚みを100%としたときに、55~70%の深さに形成されていることがより好ましい。
同様の観点から、発泡粒子成形体10にフレーム部材20をインサートして成形する場合、フレーム部材上部の成形体の厚みD
i(成形体の意匠面からフレーム部材までの部分の厚み)と、前記フレーム部材埋設部に隣接した領域に形成した有底孔上部の成形体の厚みD
n(
図4参照)との比(D
n/D
i)は、0.5~1.5であることが好ましく、0.8~1.2であることがより好ましい。
【0034】
また、形成する有底孔40は、発泡粒子の充填性、成形性等の観点から、開口部が平面視で略円形であることが好ましい。図示した実施形態においては、直径40mm、深さ19mmの円形開口部を有する8個の有底孔40が、フレーム部材20の埋設部の両側方側20mmの領域にフレーム部材20と平行に20mmの間隔で形成され、床部材(発泡粒子成形体)10の厚みの63%の深さに形成されている。
【0035】
上記有底孔40は、意匠面の表面平滑性に優れる床部材(発泡粒子成形体)10を得る観点から、有底である。また、その深さは前記フレーム部材上部の成形体の厚みとの関係、強度、発泡粒子の充填性、成形性等の観点から、5~90mmであることが好ましく、10~60mmであることがより好ましい。
【0036】
床部材(発泡粒子成形体)10の一方の板面(背面)に形成された上記有底凹部30と上記有底孔40とは、千鳥状に配置されていることが床部材の強度を維持する観点、また意匠面の平滑性を向上させる観点から好ましい。千鳥状の好ましい範囲としては、任意の有底凹部30と該有底凹部30の最も近くに配置された有底孔40において、両者のそれぞれの中点を結んだ直線と、いずれか一方の中点を通り埋設されたフレーム部材20の長手方向に垂直な直線とのなす角θ(
図3参照)が、10~45°、より好ましくは15~40°である。図示した実施形態においては、有底凹部30と有底孔40とは、上記した角θが30°の千鳥状に配置されている。
【0037】
本発明の床部材は、他部材との取付、高剛性化、軽量化等を目的として上記有底凹部及び有底孔以外の肉抜き、リブ等を施しても良いが、表面平滑性に優れる意匠面を有する床部材を得る観点から、成形体を厚み方向に貫通するものは設けないことが好ましい。
【0038】
発泡粒子成形体の見掛け密度は、強度や軽量性に優れた床部材とする観点から、20~200kg/m3であることが好ましく、50~170kg/m3であることがより好ましく、70~150kg/m3であることが更に好ましい。また、ポリオレフィン系樹脂からなる発泡粒子成形体の場合には、80~140kg/m3であることが好ましく、90~130kg/m3であることがより好ましい。また、異なる見掛け密度を有する発泡粒子成形体を複数組み合わせて、一つの発泡粒子成形体とすることもできる。この場合には、発泡粒子成形体全体の平均の見掛け密度が、上記範囲内にあればよい。なお、上記発泡粒子成形体の見掛け密度は、発泡粒子成形体を水没させて測定する水没法により求めることができる。
一般に、見掛け密度が低い発泡粒子成形体であるほど、成形体の収縮は大きくなる傾向がある。本発明によれば、見掛け密度の低い発泡粒子成形体であっても、ヒケを抑制することができるため、軽量性、機械強度、表面平滑性に優れる床部材となる。
【0039】
以上、説明した本発明に係る床部材(発泡粒子成形体)10によれば、発泡粒子成形体の一方の板面に埋設されたフレーム部材20に沿って複数の有底凹部30が形成され、該有底凹部30により前記フレーム部材20の一部が露出しているため、冷却工程におけるフレーム部材20の冷却が強化され、発泡粒子の三次発泡が抑制されるため、厚みの厚いフレーム部材20がインサートされているにもかかわらず、表面凹凸が軽減された成形体となる。
また、上記有底凹部30が形成された板面と同一板面であって上記フレーム部材20が埋設された部位に隣接した領域にも、有底孔40が複数形成されているものとした場合には、フレーム部材20の非インサート部分の発泡粒子成形体の収縮が抑制され、上記有底凹部30の効果と相まって、より表面凹凸が軽減された意匠性に優れる成形体となる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明に係る床部材の実施例を比較例と共に記載するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
図1に示す成形装置1で、フレーム部材(鉄製中空フレーム部材 長さ450mm、幅25mm、厚み12mm、肉厚1.2mm)20を一対の金型2内に配置して型締めを行い、発泡粒子(ポリプロピレン系樹脂発泡粒子 見掛け密度90kg/m
3、発泡粒子径約1.5mm)Pを充填器4から金型2内に充填した。続いて、スチームチャンバー3内に加熱スチームHを供給して、金型2のコアベント5を通して金型2内に加熱スチームHを導入し、発泡粒子Pを二次発泡させ、発泡粒子間の空隙を埋めて互いに融着させるスチーム加熱による型内成形を行った。
加熱方法は、両面の型のドレン弁を開放した状態で加熱スチームHを5秒間供給して予備加熱(排気工程)を行った後、成形蒸気圧(通常、0.3MPa(G))より0.08MPa(G)低い圧力で加熱スチームHを供給する一方加熱を行い、さらにその成形蒸気圧より0.04MPa(G)低い圧力で加熱スチームHを逆方向から供給する一方加熱を行った後、その成形蒸気圧で加熱スチームHを両面から供給する本加熱を3秒間行った。
加熱終了後、放圧し、冷却水Wを供給して60秒間水冷した後、5秒間空冷し、フレーム部材20が埋設されたポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体からなる床部材を得た。なお、金型2に種々の凸部6を設け、発泡粒子成形体の一方の板面に種々の有底凹部30、有底孔40が形成された床部材10を得た。
次いで、金型から取り出した種々の有底凹部、有底孔が一方の板面に形成された床部材を、60℃の雰囲気下で12時間乾燥して養生した。
【0042】
得られた各床部材は、その寸法が、長さ500mm、幅300mm、厚さ30mm、発泡粒子成形体の見掛け密度105kg/m
3、フレーム部材の成形体厚みに占める割合67%のものであり、各床部材の一方の板面に、
図6~
図12に図示し、表1に記載した種々の有底凹部30、有底孔40が形成された7種(実施例1~5、比較例1、2)のものであった。
表1中、有底孔の「距離」の欄に示した値は、有底孔の端部と、その有底孔から最も近い位置にあるフレーム部材の端部との距離を意味する。
【0043】
【0044】
各床部材(実施例1~5、比較例1、2)について、
図6~
図12に示したA-A断面、B-B断面の各ポイントa~eにおける寸法誤差を求め、その寸法誤差の値を表2に記載した。
なお、上記寸法誤差は、次の手順により求めた。
寸法誤差は、床部材を3次元測定し、CAD図との位置ずれ量を測定し寸法誤差とした。3次元測定はGOM社製のATOS CORE500を用いて測定した。測定値(単位;mm)は、CAD図の寸法よりも厚い場合をプラス(表面凸)、CAD図寸法よりも薄い場合をマイナス(表面凹)とした。
【0045】
寸法誤差の値をプラス値及びマイナス値ごとに、以下の基準により評価し、その評価を各寸法誤差の値に併記した。
プラス値
◎:~0.15mm
○:0.16mm~0.20mm
△:0.21mm~0.30mm
×:0.31mm~
マイナス値
◎:~-0.09mm
○:-0.10mm~0.15mm
△:-0.16mm~0.20mm
×:-0.21mm~
なお、マイナスの値は成形体にヒケが発生したことを意味している。ヒケが発生した部分は、気泡が潰れやすくなる傾向があり、圧縮強度が低下するおそれが大きいため、評価基準を厳しく設定した。
【0046】
また、各床部材(実施例1~5、比較例1、2)について、外観を以下の基準で評価し、その評価を表2に記載した。
○:成形体の外観観察において、表面の凹凸が認識できない
×:成形体の外観観察において、表面の凹凸が認識できる
【0047】
【0048】
表1より、有底凹部30を形成した実施例1~5は、有底凹部を形成しない比較例1、2に比べて表面平滑性に優れ、外観も良好であることがわかる。
また、有底凹部30に加えて、有底孔40を形成した実施例1~4は、より表面平滑性に優れたものとなることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明にかかる浴室の洗い場床部材は、厚みのあるフレーム部材がインサート成形により埋設された平板状の発泡粒子成形体であっても、表面の凹凸が少なく、表面平滑性に優れる板面を有する床部材となる。したがって、本発明の浴室の洗い場床部材は、浴室構造において、床面材として好適に用いることができ、板面(意匠面)にクッション材や表皮材を良好に積層することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 成形装置
2 金型
3 スチームチャンバー
4 充填器
5 コアベント
6 凸部
10 浴室の洗い場床部材(発泡粒子成形体)
20 フレーム部材
30 有底凹部
40 有底孔
P 発泡粒子
H 加熱スチーム
W 冷却水