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特許7431039ポリアミド酸組成物およびその製造方法、ポリイミドフィルム、積層体およびその製造方法、ならびにフレキシブルデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】ポリアミド酸組成物およびその製造方法、ポリイミドフィルム、積層体およびその製造方法、ならびにフレキシブルデバイス
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20240206BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20240206BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
C08L79/08 A
C08G73/10
B32B27/34
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019563020
(86)(22)【出願日】2018-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2018046433
(87)【国際公開番号】W WO2019131294
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2017249653
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(72)【発明者】
【氏名】滝 隆之介
(72)【発明者】
【氏名】堀井 越生
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-068401(JP,A)
【文献】国際公開第2014/123045(WO,A1)
【文献】特開2006-307082(JP,A)
【文献】特開平11-152331(JP,A)
【文献】特開2017-197645(JP,A)
【文献】特表2016-536429(JP,A)
【文献】特開平08-097823(JP,A)
【文献】特開平04-277525(JP,A)
【文献】特公昭47-016979(JP,B1)
【文献】特表平11-504369(JP,A)
【文献】特開2012-140560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の末端が一般式(1)で表される末端構造であるポリアミド酸、少なくとも一方の末端が一般式(2)で表される末端構造であるポリアミド酸、少なくとも一方の末端が一般式(3)で表される末端構造であるポリアミド酸、および少なくとも一方の末端が一般式(4)で表される末端構造であるポリアミド酸を含む、ポリアミド酸組成物:
【化1】
【化2】
Xはテトラカルボン酸二無水物残基である4価の有機基であり、Yはジアミン残基である2価の有機基であり、Zは酸無水物残基である2価の有機基であり、Rは2価の有機基であり、Rは炭素数1~5のアルキル基である。
【請求項2】
前記テトラカルボン酸二無水物残基Xの総モル数xと、前記ジアミン残基Yの総モル数yとの比x/yが、0.980~0.999であり、
前記酸無水物残基Zの総モル数zと、前記ジアミン残基Yの総モル数yとの比z/yが、0.002~0.080である、請求項1に記載のポリアミド酸組成物。
【請求項3】
一般式(RO)Si-で表されるアルコキシシリル基の総モル数αと、前記テトラカルボン酸二無水物残基Xの総モル数xとの比α/xが0.0001~0.0100である、請求項1または2に記載のポリアミド酸組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアミド酸組成物を製造する方法であって、
ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを溶媒中で重合反応させてポリアミド酸を得る工程;
水の存在下で前記ポリアミド酸の溶液を加熱してポリアミド酸を解重合する工程;および
ジカルボン酸無水物を、前記ジアミンまたは前記ポリアミド酸のアミン末端と反応させる工程、
を有し、
さらに、アルコキシシラン化合物とポリアミド酸とを反応させて、ポリアミド酸の末端をアルコキシシラン変性する工程を有する、
ポリアミド酸組成物の製造方法。
【請求項5】
前記テトラカルボン酸二無水物の総モル数xと、前記ジアミンの総モル数yとの比x/yが、0.980~0.999であり、
前記ジカルボン酸無水物の総モル数zと、前記ジアミンの総モル数yとの比z/yが、0.002~0.080である、請求項4に記載のポリアミド酸組成物の製造方法。
【請求項6】
前記ポリアミド酸を解重合する工程において、ポリアミド酸に対して500~12000ppmの水の存在下で温度を70~100℃に保持する、請求項4または5に記載のポリアミド酸組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアミド酸組成物の脱水環化物であるポリイミドを含む、ポリイミドフィルム。
【請求項8】
請求項に記載のポリイミドフィルムが基板上に密着積層されている積層体。
【請求項9】
基板上にポリイミドフィルムが密着積層されている積層体の製造方法であって、
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリアミド酸組成物の溶液を基板上に塗布し、加熱によりポリアミド酸を脱水環化してイミド化する、積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項に記載のポリイミドフィルム上に電子素子が設けられているフレキシブルデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド酸組成物およびその製造方法に関する。さらに、本発明は当該ポリアミド酸組成物から得られるポリイミドフィルム、および基板上にポリイミドフィルムが密着積層された積層体、ならびにポリイミドフィルム上に電子素子を備えるデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ、電子ペーパー等の電子デバイスの基板としてガラス基板が用いられているが、薄型化、軽量化、フレキシブル化等の観点から、ガラスからポリマーフィルムへの置き換えが検討されている。電子デバイス用のポリマーフィルム材料としては、耐熱性や寸法安定性に優れることから、ポリイミドが適している。
【0003】
ポリイミドフィルム基板を用いた電子デバイスを効率的に製造する方法として、ガラス等の剛性基板上にポリイミドフィルムが密着積層された積層体を作製し、ポリイミドフィルム上に素子を形成した後、素子が形成されたポリイミドフィルムを剛性基板から剥離する方法が提案されている。剛性基板上にポリイミドフィルムが密着積層された積層体は、剛性基板上に、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の溶液を塗布し、加熱によりポリアミド酸を脱水環化(イミド化)することにより形成される。
【0004】
ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの付加反応により得られる。ポリアミド酸溶液は、経時的に重合または解重合して粘度が変化しやすく、貯蔵安定性が十分ではない場合がある。ポリアミド酸溶液の貯蔵安定性を高める試みとして、特許文献1には、ポリアミド酸の末端を非反応性の官能基で封止する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2012/093586号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フレキシブルデバイス等の基板として用いられるポリイミドフィルムは、十分な機械強度を有することが求められる。末端を非反応性の官能基で封止したポリアミド酸は、加熱によるイミド化の際にも解重合しないため分子量が低下しないが、分子量が増加することもない。そのため、ポリイミドフィルムの機械強度を高めるためには、ポリアミド酸の分子量を大きくする必要がある。しかし、ポリアミド酸の分子量を高めると溶液の粘度が高くなり、ハンドリング性が低下する。
【0007】
上記に鑑み、本発明は、溶液の粘度が低く貯蔵安定性に優れ、かつポリイミドフィルムを形成した際には十分な機械強度を有するポリアミド酸の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
所定の末端構造を有するポリアミド酸は、上記の課題を解決し得る。本発明の一実施形態のポリアミド酸組成物は、一般式(1)で表される末端構造を有するポリアミド酸、一般式(2)で表される末端構造を有するポリアミド酸、および一般式(3)で表される末端構造を有するポリアミド酸を含む。Xはテトラカルボン酸二無水物残基である4価の有機基であり、Yはジアミン残基である2価の有機基であり、Zは酸無水物残基である2価の有機基である。
【0009】
【化1】
【0010】
上記のポリアミド酸組成物は、例えば、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを溶媒中で重合反応させてポリアミド酸を得る工程;水の存在下でポリアミド酸の溶液を加熱してポリアミド酸を解重合する工程;およびジカルボン酸無水物を、ジアミンまたはポリアミド酸のアミン末端と反応させる工程を経ることにより得られる。
【0011】
水の存在下でのポリアミド酸の解重合により、上記一般式(3)で表される末端構造を有するポリアミド酸が生成する。解重合に代えて、または解重合に加えて、ポリアミド酸の原料としてテトラカルボン酸二無水物の片開環体を用いることにより、上記一般式(3)で表される末端構造を有するポリアミド酸を生成させることもできる。
【0012】
ジカルボン酸無水物を、ジアミンまたはポリアミド酸のアミン末端と反応させることにより、上記一般式(1)で表される末端構造を有するポリアミド酸が生成する。
【0013】
ポリアミド酸組成物の調製において、テトラカルボン酸二無水物の総モル数xと、ジアミンの総モル数yとの比x/yは、0.980~0.999が好ましい。ジカルボン酸無水物の総モル数zと、ジアミンの総モル数yとの比z/yは、0.002~0.080が好ましい。原料の比率を当該範囲とすることにより、テトラカルボン酸二無水物残基Xの総モル数xと、ジアミン残基Yの総モル数yとの比x/yが、0.980~0.999であり、酸無水物残基Zの総モル数zと、ジアミン残基Yの総モル数yとの比z/yが、0.002~0.080であるポリアミド酸組成物が得られる。
【0014】
ポリアミド酸組成物は、さらに、一般式(4)で表される末端構造を有するポリアミド酸を含んでいてもよい。Rは2価の有機基であり、Rは炭素数1~5のアルキル基である。
【0015】
【化2】
【0016】
アルコキシシラン化合物とポリアミド酸とを反応させて、ポリアミド酸の末端をアルコキシシラン変性することにより、上記一般式(4)で表される末端構造を有するポリアミド酸が生成する。アルコキシシラン化合物の総モル数αと、テトラカルボン酸二無水物の総モル数xとの比α/xは、0.0001~0.0100が好ましい。
【0017】
上記のポリアミド酸組成物の脱水環化反応によりポリイミドが得られる。例えば、ポリアミド酸溶液を、基板上に塗布し、加熱によりポリアミド酸を脱水環化してイミド化することにより、基板上にポリイミドフィルムが密着積層している積層体が得られる。基板からポリイミドフィルムを剥離することにより、ポリイミドフィルムが得られる。
【0018】
ポリイミドフィルム上に電子素子を設けることにより、フレキシブルデバイスを作製できる。積層体からポリイミドフィルムを剥離する前に、ポリイミドフィルム上に電子素子を設け、その後に、積層体からポリイミドフィルムを剥離してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のホリアミド酸組成物の溶液は、低粘度であり、貯蔵安定性に優れるため、取り扱いが容易である。当該ポリアミド酸溶液を用いて作製したポリイミドフィルムは、優れた機械強度を有し、フレキシブルデバイス用基板等として好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[ポリアミド酸組成物]
ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重付加反応物である。テトラカルボン酸二無水物は下記の一般式(A)で表される化合物であり、ジアミンは下記の一般式(B)で表される化合物である。ポリアミド酸は、下記一般式(P)の繰り返し単位を有する。
【0021】
【化3】
【化4】
【0022】
一般式(A)および(P)において、Xはテトラカルボン酸二無水物の残基である。テトラカルボン酸二無水物の残基とは、一般式(A)の化合物における2つの酸無水物基(-CO-O-CO-)以外の部分であり、4価の有機基である。テトラカルボン酸二無水物は、Xに結合する4つのカルボニル基のうちの2つずつが対をなし、Xおよび酸素原子とともに五員環を形成している。一般式(B)および(P)において、Yはジアミンの残基である。ジアミンの残基とは、一般式(B)の化合物における2つのアミノ基(-NH)以外の部分であり、2価の有機基である。
【0023】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応により得られる一般的なポリアミド酸は、下記一般式(Q)で表される末端構造(アミン末端)、および下記一般式(R)で表される末端構造(酸無水物末端)を有する。
【0024】
【化5】
【0025】
本発明の実施形態のポリアミド酸組成物は、末端構造に特徴を有しており、一般式(1)で表される末端構造(酸無水物を用いてエンドキャップしたポリアミド酸)、一般式(2)で表される末端構造(アミン末端のポリアミド酸)、および一般式(3)で表される末端構造(末端の酸二無水物基が加水開環したポリアミド酸)を含む。
【0026】
【化6】
【0027】
一般式(1)~(3)におけるXはテトラカルボン酸二無水物の残基であり、Yはジアミンの残基である。一般式(1)におけるZは酸無水物の残基であり、2価の有機基である。
【0028】
一般式(2)の末端構造は、一般的なポリアミド酸に含まれるアミン末端(上記一般式(Q)と同一)であるが、一般式(1)の酸無水物エンドキャップ構造、および一般式(3)の加水開環末端構造は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応のみから得られるポリアミド酸には含まれない構造である。すなわち、本発明の実施形態のポリアミド酸組成物は、一般的なポリアミド酸に含まれるアミン末端を有するポリアミド酸に加えて、一般式(1)で表される末端構造を有するポリアミド酸、および一般式(3)で表される末端構造を有するポリアミド酸を含むことを1つの特徴とする。
【0029】
ポリアミド酸分子の両末端の構造は同一でも異なっていてもよい。原料の仕込み比や反応条件にも依存するが、一般には、ポリアミド酸組成物は、同一の末端構造を有するポリアミド酸と異なる末端構造を有するポリアミド酸の混合物である。すなわち、ポリアミド酸組成物は、両方の末端が一般式(1)で表される構造を有するポリアミド酸;両方の末端が一般式(2)で表される構造を有するポリアミド酸;両方の末端が一般式(3)で表される構造を有するポリアミド酸;一方の末端が(1)で表される構造を有し、他方の末端が(2)で表される構造を有するポリアミド酸;一方の末端が(1)で表される構造を有し、他方の末端が(3)で表される構造を有するポリアミド酸;および一方の末端が(2)で表される構造を有し、他方の末端が(3)で表される構造を有するポリアミド酸、を含む。
【0030】
一般式(1)の末端構造は、例えば、ポリアミド酸のアミン末端またはジアミンのアミノ基と酸無水物との反応により形成される。一般式(3)の末端構造は、例えば、水の存在下でのポリアミド酸の解重合反応(第一の態様;クッキング反応)、またはポリアミド酸のアミン末端もしくはジアミンとテトラカルボン酸二無水物の片開環体との反応(第二の態様)により形成される。
【0031】
以下、ポリアミド酸の製造方法を参照しながら、ポリアミド酸の構造についてより詳細に説明する。上述のように、ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの付加反応により得られる。
【0032】
<テトラカルボン酸二無水物>
テトラカルボン酸二無水物としては、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAと略記することがある)、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、9,9’-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6-ピリジンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-スルホニルジフタル酸二無水物、パラテルフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、メタテルフェニル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物等の芳香環式テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。テトラカルボン酸二無水物の芳香環は、アルキル基、ハロゲン、ハロゲン置換アルキル基等の置換基を有していてもよい。
【0033】
テトラカルボン酸二無水物は、脂環式テトラカルボン酸二無水物でもよい。脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、5-(ジオキソテトラヒドロフリル-3-メチル-3-シクロへキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-テトラリン-1,2-ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,4-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物等を例示できる。
【0034】
テトラカルボン酸二無水物は、2種以上を併用してもよい。低線膨張係数のポリイミドフィルムを得るためには、テトラカルボン酸二無水物の残基Xが剛直な構造を有することが好ましい。そのため、ポリアミド酸の原料として芳香環式テトラカルボン酸二無水物を用いることが好ましく、テトラカルボン酸二無水物の95モル%以上が芳香環式であることが好ましい。芳香環式テトラカルボン酸二無水物の中でも、剛直性が高く、ポリイミドフィルムの熱膨張係数を低くできることから、BPDAまたはピロメリット酸二無水物が好ましく、BPDAが特に好ましい。テトラカルボン酸二無水物の95モル%以上がBPDAであることが好ましい。
【0035】
<ジアミン>
ジアミンとしては、パラフェニレンジアミン(以下PDAと略記することがある)、4,4’-ジアミノベンジジン、4,4”-ジアミノパラテルフェニル、4,4’‐ジアミノジフェニルエーテル、3,4’‐ジアミノジフェニルエーテル、4,4’‐ジアミノジフェニルスルホン、1,5‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ペンタン、1,3‐ビス(4‐アミノフェノキシ)‐2,2‐ジメチルプロパン、2,2‐ビス(4‐アミノフェノキシフェニル)プロパン、ビス[4‐(4‐アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4‐(3‐アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、9,9’-(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9’-(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレン等の芳香環式ジアミン;および1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキサンアミン)等の脂環式ジアミンを例示できる。
【0036】
ジアミンは、2種以上を併用してもよい。低線膨張係数のポリイミドフィルムを得るためには、ジアミンの残基Yが剛直な構造を有することが好ましい。そのため、ポリアミド酸の原料として芳香環式ジアミンを用いることが好ましく、ジアミンの95モル%以上が芳香環式であることが好ましい。芳香環式ジアミンの中でも、剛直性が高く、ポリイミドフィルムの熱膨張係数を低くできることから、PDAまたは4,4”-ジアミノパラテルフェニルが好ましく、PDAが特に好ましい。ジアミンの95モル%以上がPDAであることが好ましい。
【0037】
<重合反応:テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応>
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを、有機溶媒中で反応させることにより、ポリアミド酸が得られる。
【0038】
有機溶媒は、重合反応を妨げないものであれば特に制限されず、2種以上の有機溶媒の混合溶媒を用いてもよい。ポリアミド酸の重合に用いる溶媒は、極性溶媒が好ましく、中でも、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶媒が好ましい。溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンを用いた場合に、ポリアミド酸溶液の貯蔵安定性が高く、ポリイミドフィルムの線膨張係数が低くなる傾向がある。ポリアミド酸の重合に用いる有機溶媒は、主成分がアミド系溶媒であることが好ましい。有機溶媒が混合溶媒である場合、溶媒全体の50~100重量%がアミド系溶媒であることが好ましく、70~100重量%がアミド系溶媒であることがより好ましい。
【0039】
ポリアミド酸の重合においては、テトラカルボン酸二無水物に対して過剰量のジアミンを反応させることが好ましい。等モル量のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応により得られるポリアミド酸は、上記一般式(Q)で表されるアミン末端構造と、上記一般式(R)で表される酸無水物末端構造を等モル量含む。ジアミンの総モル数yが、テトラカルボン酸二無水物の総モル数xよりも大きい場合、得られるポリアミド酸は、アミン末端構造の比率が高くなる。
【0040】
アミン末端構造の比率を高める観点から、テトラカルボン酸二無水物の総モル数xと、ジアミンの総モル数yとの比x/yは、0.999以下が好ましい。x/yが小さいほど(テトラカルボン酸二無水物に対するジアミンの量が過剰であるほど)、酸無水物末端構造のポリアミド酸の比率が小さくなる。一方、x/yが過度に小さい場合は、ポリアミド酸の分子量が小さく、ポリアミド酸から得られるポリイミドフィルムの機械強度が不足する場合がある。そのため、x/yは0.980以上が好ましい。
【0041】
ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸の濃度(ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の合計仕込み濃度)は、5~30重量%が好ましく、8~25重量%がより好ましく、10~20重量%がさらに好ましい。仕込み濃度を上記範囲とすることにより、重合反応が進行しやすく、かつ未溶解の原料の異常重合に起因するゲル化が抑制される。
【0042】
重合反応速度を高めるとともに、解重合反応を抑制する観点から、反応温度(溶液の温度)は0℃~80℃が好ましく、20℃~60℃がより好ましい。反応装置は、反応温度を制御するための温度調整装置を備えていることが好ましい。
【0043】
<クッキング:水の存在下での加熱による解重合>
第一の態様では、水の存在下でポリアミド酸の解重合反応(アミド結合の加水分解)を行う。アミド結合(Y-NH-CO-X)の加水分解により、アミン(Y-NH)とカルボン酸(X-COOH)が生成する。これにより、上記の一般式(3)で表される末端加水開環構造を有するポリアミド酸が生成する。
【0044】
加水分解反応を促進する観点から、溶液中の水の量は、ポリアミド酸に対して500ppm以上が好ましい。反応後の溶液の貯蔵安定性を高める観点から、水の量はポリアミド酸に対して12000ppm以下が好ましく、5000ppm以下がより好ましい。水として、溶媒中に含まれる水分を利用してもよい。溶媒中の水分量が上記範囲であれば、あえて系中に水分を添加しなくてもよい。
【0045】
解重合反応は、ポリアミド酸の重合よりも高温で実施することが好ましく、溶液温度は例えば70~100℃であり、好ましくは80~95℃である。加熱温度が低い場合は、解重合反応の進行が遅くなる。加熱温度が過度に高い場合は、加水分解と同時に、ポリアミド酸のイミド化が進み、溶媒への溶解性を低下させる要因となり得る。
【0046】
このように、水分の存在下で溶液を加熱する処理は、「クッキング」と称される操作であり、ポリアミド酸の解重合、およびテトラカルボン酸二無水物の失活を促進し、ポリアミド酸溶液を、送液や塗布等の操作に適した粘度(分子量)に調整できる。クッキングは、ポリアミド酸の重量平均分子量が、40000~150000の範囲となるまで実施することが好ましい。溶液を冷却することによりクッキング反応を終了する。この際、溶液温度を30℃以下とすることが好ましい。
【0047】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応によるポリアミド酸の重合と、クッキングによる解重合とを並行して実施してもよい。例えば、有機溶媒とジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物とを混合後、粘度が十分に上昇する前に反応温度を70~100℃程度とすることにより、重合反応とクッキングとを一括して行うことも可能である。ただし、重合反応とクッキングとを同時に実施すると、未反応のテトラカルボン酸二無水物が失活しやすいため、重合反応後に溶液の温度を上昇させてクッキングを実施することが好ましい。
【0048】
<酸無水物の添加:酸無水物エンドキャップ構造の導入>
系中に酸無水物を添加することにより、酸無水物と、ジアミンのアミノ基またはポリアミド酸のアミン末端とが反応し、上記一般式(1)で表される酸無水物エンドキャップ構造を有するポリアミド酸が生成する。酸無水物を添加するタイミングは特に制限されず、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物との重合反応の際に添加してもよく、クッキング反応を行う際に添加してもよく、クッキング反応の終了後に添加してもよい。
【0049】
酸二無水物は、下記一般式(C)で表される化合物である。Zは酸無水物の残基である。酸無水物の残基とは、一般式(C)の化合物における酸無水物基(-CO-O-CO-)以外の部分であり、2価の有機基である。
【0050】
【化7】
【0051】
酸無水物としては、ジカルボン酸無水物が挙げられる。ジカルボン酸無水物の具体例としては、無水フタル酸、1,2-ナフタレンジカルボン酸無水物、2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物、1,8-ナフタレンジカルボン酸無水物、2,3-ビフェニルジカルボン酸無水物、3,4-ビフェニルジカルボン酸無水物等の芳香環式酸無水物が挙げられる。芳香環式酸無水物の芳香環には、置換基が導入されていてもよい。置換基は、アミノ基、カルボキシル基、およびジカルボン酸無水物基に対して不活性であるものが好ましく、具体例として、アルキル基、ハロゲン、ハロゲン置換アルキル基、エチニル基等が挙げられる。酸無水物は、1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸無水物、ナジック酸無水物、メチル-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物、シトラコン酸無水物、無水マレイン酸等の非芳香族酸無水物でもよい。上記例示の酸無水物の中で、芳香環式酸無水物が好ましく、中でも無水フタル酸が好ましい。酸無水物は、2種以上を併用してもよい。
【0052】
<原料の仕込み比>
上記のように、第一の態様では、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物との重合反応;クッキング(例えば、ポリアミド酸に対して500~12000ppmの水の存在下で70~100℃で保持する処理);および酸無水物によるエンドキャップ(酸無水物とジアミンまたはポリアミド酸中のアミン末端との反応)を実施することにより、一般式(1)で表される末端構造、一般式(2)で表される末端構造、および一般式(3)で表される末端構造を有するポリアミド酸組成物が得られる。より具体的には、クッキングにより一般式(3)で表される末端構造を有するポリアミド酸が生成し、酸無水物を用いたエンドキャップにより一般式(1)で表される末端構造を有するポリアミド酸が生成する。
【0053】
前述のように、テトラカルボン酸二無水物の総モル数xと、ジアミンの総モル数yとの比x/yは1未満であり、0.980~0.999が好ましく、0.990~0.998がより好ましい。x/yが0.999以下であることにより、上記の一般式(R)で表される酸無水物末端の残存量を低減できる。x/yが0.980以上であることにより、ポリアミド酸の分子量を高め、ポリアミド酸のイミド化により得られるポリイミドフィルムに高い機械強度を付与できる。ポリイミドフィルムの機械強度を高める観点から、x/yは0.993以上または0.995以上であってもよい。
【0054】
酸無水物の総モル数zと、ジアミンの総モル数yとの比z/yは、0.002~0.080が好ましく、0.002~0.040がより好ましく、0.004~0.020がさらに好ましい。z/yが過度に小さい場合はエンドキャップ構造の導入が不十分であり、ポリイミドの末端にアミノ基が残存しやすいため、遊離性イオンが、電気抵抗率、誘電率等の電気特性に悪影響を及ぼす可能性がある。z/yが過度に大きい場合は、ポリアミド酸組成物におけるアミン末端(上記一般式(2)の末端構造)の量が、加水開環末端(上記一般式(3)の末端構造)の量に比べて小さく、イミド化の際に分子量が上昇し難いため、ポリイミドフィルムの機械強度が不足する可能性がある。
【0055】
後に詳述するように、加熱イミド化の際には、一般式(3)で表される加水開環末端が脱水閉環して酸無水物が生成し、この酸無水物末端と一般式(2)で表されるアミン末端とが反応することにより、分子量が増大するため、ポリイミドフィルムの機械強度が向上する。イミド化の際の高分子量化を促進するためには、ポリアミド酸組成物における一般式(2)の末端構造のモル数と一般式(3)の末端構造のモル数との比が1に近いことが好ましい。この比率を1に近づけるためには、ポリアミド酸の形成に用いられる原料のアミノ基の総モル数2yと、酸二無水物基の総モル数2x+zとの比が1に近いことが好ましい。イミド化の際の高分子量化を促進するとともに、ポリイミドにおけるアミン末端の量を低減させる観点から、アミノ基の総モル数に対する酸無水物基のモル数の比(2x+z)/2yは、0.990~1.020が好ましく、0.995~1.015がより好ましく、0.997~1.010がさらに好ましい。
【0056】
<テトラカルボン酸二無水物の片開環体による加水開環末端の導入>
上記の第一の態様では、クッキングによりポリアミド酸を解重合して一般式(3)で表される加水開環末端を有するポリアミド酸を生成する例を示した。第二の態様では、テトラカルボン酸二無水物の片開環体により、一般式(3)で表される末端構造を導入する。
【0057】
テトラカルボン酸二無水物の片開環体は、下記一般式(D)で表される化合物であり、テトラカルボン酸二無水物の2つの酸無水物基の一方のみが開環してジカルボン酸となっている。一般式(D)におけるXは、テトラカルボン酸二無水物の残基である。
【0058】
【化8】
【0059】
テトラカルボン酸二無水物の片開環体は、テトラカルボン酸二無水物の加水分解により得られる。例えば、少量の水を含む溶媒中でテトラカルボン酸二無水物を加熱することにより、片開環体が得られる。具体的には、テトラカルボン酸二無水物と、テトラカルボン酸二無水物に対して500~6000ppmの水が存在する溶液を、温度70~100℃程度で保持することにより、加水分解が行われる。
【0060】
第一の態様と同様、第二の態様においても、有機溶媒中で、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重合、および酸無水物エンドキャップ構造の導入が行われる。これに加えて、第二の態様では、ポリアミド酸のアミン末端またはジアミンのアミノ基と、テトラカルボン酸二無水物の片開環体の酸無水物基との反応を行う。この反応により、一般式(3)で表される末端加水開環構造を有するポリアミド酸が生成する。
【0061】
テトラカルボン酸二無水物の片開環体を添加するタイミングは特に制限されない。例えば、重合反応の際に、ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物に加えて、テトラカルボン酸二無水物の片開環体を投入してもよい。この場合、有機溶媒にジアミンを溶解させた後に、テトラカルボン酸二無水物および酸無水物に加えて、予め調製したテトラカルボン酸二無水物の片開環体を添加することが好ましい。また、テトラカルボン酸二無水物の片開環体の溶液に、ジアミンおよび酸無水物を添加してもよい。
【0062】
第二の態様においても、第一の態様と同様に、クッキングによるポリアミド酸の解重合を行ってもよい。この場合、テトラカルボン酸二無水物の片開環体とアミノ基との反応、およびポリアミド酸のアミド基の加水分解により、一般式(3)で表される末端加水開環構造を有するポリアミド酸が生成する。
【0063】
第二の態様における各成分の仕込み量の比x/yおよびz/yの好ましい範囲は、上記の第一の態様と同様である。ただし、第二の態様では、テトラカルボン酸二無水物の総モル数xと、テトラカルボン酸二無水物の片開環体の総モル数xの合計をxとする。
【0064】
<ポリアミド酸組成物における残基の存在比>
ポリアミド酸組成物は、末端構が制御されているため、貯蔵安定性および取り扱い性に優れ、かつ、イミド化の際に高分子量化するため、ポリイミドフィルムが優れた機械強度を有する。
【0065】
第一の態様および第二の態様により得られるポリアミド酸におけるテトラカルボン酸無水物残基Xの量は、テトラカルボン酸二無水物の総モル数x(第二の態様においては、テトラカルボン酸無水物とテトラカルボン酸二無水物の片開環体の合計)に等しい。ジアミン残基Yの量はジアミンの総モル数yに等しく、酸無水物残基Zの量は酸無水物の総モル数zに等しい。
【0066】
したがって、ポリアミド酸組成物は、テトラカルボン酸二無水物残基Xの総モル数xと、ジアミン残基Yの総モル数yとの比x/yが1未満であり、x/yは、0.980~0.999が好ましく、0.990~0.998がより好ましい。x/yが当該範囲であることにより、ポリアミド酸のイミド化により得られるポリイミドフィルムに高い機械強度を付与できる。酸無水物残基Zの総モル数zと、ジアミン残基Yの総モル数yとの比z/yは、0.002~0.080が好ましく、0.002~0.040がより好ましく、0.004~0.020がさらに好ましい。z/yが当該範囲であることにより、機械強度に優れ、かつアミン末端量が少なく遊離性イオンによる影響の少ないポリイミドフィルムが得られる。(2x+z)/2yは、0.990~1.020が好ましく、0.995~1.015がより好ましく、0.997~1.010がさらに好ましい。
【0067】
<アルコキシシラン末端ポリアミド酸>
本発明の実施形態のポリアミド酸組成物は、一般式(1)~(3)の末端構造に加えて、他の末端構造を含んでいてもよい。一実施形態において、ポリアミド酸組成物は、一般式(1)~(3)の末端構造に加えて、一般式(4)で表される末端構造(アルコキシシラン末端)を有する。
【0068】
【化9】
【0069】
一般式(4)におけるRは2価の有機基であり、好ましくはフェニレン基または炭素数1~5のアルキレン基である。Rはアルキル基であり、Xはテトラカルボン酸二無水物の残基であり、Yはジアミンの残基である。
【0070】
一般式(4)で表される末端構造を有するポリアミド酸組成物は、アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物とポリアミド酸とを溶液中で反応させることにより得られる。一般式(1)~(3)で表される末端構造を有するポリアミド酸組成物に、アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物を添加して、末端を変性してもよい。
【0071】
テトラカルボン酸二無水物に対して過剰量のジアミンを反応させて得られたポリアミド酸に、アミノ基を有するアルコキシシラン化合物を添加すると、ポリアミド酸溶液の粘度が低下する傾向がある。これは、ポリアミド酸の解重合により生成した酸無水物基とアルコキシシラン化合物のアミノ基とが反応し、変性反応が進行するとともに、ポリアミド酸の分子量が低下することに起因すると推定される。アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物による変性の反応温度は、酸二無水物基と水との反応を抑制しつつ変性反応が進行しやすくなることから、0~80℃が好ましく、20~60℃がより好ましい。
【0072】
アミノ基を含むアルコキシシラン化合物は、下記の一般式(E)で表される。一般式(E)におけるRおよびRは、一般式(4)と同一である。
【0073】
【化10】
【0074】
は2価の有機基であればよいが、ポリアミド酸の酸無水物基との反応性が高いことから、フェニレン基または炭素数1~5のアルキレン基が好ましく、中でも、炭素数1~5のアルキレン基が好ましい。Rは炭素数1~5のアルキル基であればよいが、好ましくはメチル基またはエチル基であり、ポリアミド酸とガラスとの密着性向上の観点からはメチル基が好ましい。
【0075】
アミノ基を有するアルコキシシラン化合物の具体例としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、2-アミノフェニルトリメトキシシラン、3-アミノフェニルトリメトキシシランがあげられる。
【0076】
アミノ基を有するアルコキシシラン化合物の総モル数αと、テトラカルボン酸二無水物の総モル数xの比α/xは、0.0001~0.0050が好ましく、0.0005~0.0050がより好ましく、0.0010~0.0030がさらに好ましい。α/xが0.0001以上であれば、ガラス等の無機基板とポリイミドフィルムとの密着性が向上し、自然剥離が抑制される効果がある。α/xが0.0100以下であれば、ポリアミド酸の分子量を維持できるため、ポリアミド酸溶液の貯蔵安定性に優れるとともに、ポリイミドフィルムの機械強度を確保できる。
【0077】
ポリアミド酸組成物の重量平均分子量は、10000~200000が好ましく、20000~150000がより好ましく、30000~100000がさらに好ましい。重量平均分子量が200000以下であれば、ポリアミド酸溶液の粘度が低く、送液や塗布等の操作への適用性に優れる。重量平均分子量が10000以上であれば、機械強度に優れるポリイミドフィルムが得られる。ポリアミド酸組成物の重量平均分子量は、40000以上、50000以上または60000以上であってもよい。ポリアミド酸組成物の重量平均分子量は、90000以下、80000以下または70000以下であってもよい。
【0078】
[ポリアミド酸溶液]
上記の反応後の溶液(ポリアミド酸組成物が有機溶媒に溶解した溶液)は、そのまま、ポリイミドフィルムを作製するためのポリアミド酸溶液として用いることができる。粘度調整等を目的として、有機溶媒を添加または除去してもよい。溶媒としては、重合反応の溶媒として先に例示したN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドおよびN-メチル-2-ピロリドンの他に、ジメチルスルホキシド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、ヘキサメチルホスホリド、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフランが挙げられる。キシレン、トルエン、ベンゼン、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,2-ビス-(2-メトキシエトキシ)エタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等を、補助溶剤として併用してもよい。
【0079】
<添加剤>
ポリアミド酸溶液は、各種の添加剤含んでいてもよい。例えば、ポリアミド酸溶液は、溶液の消泡やポリイミドフィルム表面の平滑性向上等を目的として、表面調整剤を含有してもよい。表面調整剤としては、ポリアミド酸およびポリイミドとの適度な相溶性を示し、消泡性を有するものを選択すればよい。高温加熱時に有害物が発生し難いことから、アクリル系化合物、シリコン系化合物等が好ましく、リコート性に優れることから、アクリル系化合物が特に好ましい。
【0080】
アクリル系化合物から構成される表面調整剤の具体例としては、DISPARLON LF-1980、LF-1983、LF-1985(楠本化成株式会社製)、BYK-3440、BYK-3441、BYK-350、BYK-361N、(ビックケミー・ジャパン株式会社製)等があげられる。
【0081】
表面調整剤の添加量はポリアミド酸100重量部に対して、0.0001~0.1重量部が好ましく、0.001~0.1重量部がより好ましい。添加量が0.0001重量部以上であれば、ポリイミドフィルムの表面の平滑性改善に十分な効果を発揮し得る。添加量が0.1重量部以下であれば、ポリイミドフィルムに濁りが発生し難い。表面調整剤は、そのままポリアミド酸溶液に添加してもよく、溶媒で希釈してから添加してもよい。表面調整剤を添加するタイミングは特に制限されず、ポリアミド酸の重合または末端変性の際に添加してもよい。アルコキシキシシラン変性を行う場合は、アルコキシシラン変性後に表面調整剤を添加してもよい。
【0082】
ポリアミド酸溶液は、無機微粒子等を含んでいてもよい。無機微粒子としては、微粒子状の二酸化ケイ素(シリカ)粉末、酸化アルミニウム粉末等の無機酸化物粉末、微粒子状の炭酸カルシウム粉末、リン酸カルシウム粉末等の無機塩粉末が挙げられる。微粒子が凝集した粗大な粒が存在すると、ポリイミドフィルムにおける欠陥の原因となり得るため、無機微粒子は、溶液中に均一に分散していることが好ましい。
【0083】
化学イミド化によりポリアミド酸のイミド化を行う場合、ポリアミド酸溶液はイミド化触媒を含んでいてもよい。イミド化触媒としては第三級アミンが好ましく、中でも複素環式の第三級アミンが好ましい。複素環式の第三級アミンの好ましい具体例としては、ピリジン、2,5-ジエチルピリジン、ピコリン、キノリン、イソキノリン等が挙られる。触媒効果およびコストの観点から、イミド化触媒の使用量は、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸のアミド基に対して0.01~2.00当量程度であり、0.02~1.20当量であることが好ましい。溶液の貯蔵安定性を高める観点から、ポリアミド酸溶液の使用(基板上への塗布)の直前に、ポリアミド酸溶液にイミド化触媒を添加してもよい。
【0084】
<ポリアミド酸溶液の水分>
ポリアミド酸溶液中の水分は、例えば、2000ppm~5000ppmである。水分が5000ppm以下であれば、ポリアミド酸溶液が貯蔵安定性に優れる傾向がある。ポリアミド酸溶液中の水分が少ないほど貯蔵安定性が向上する傾向がある。溶液中の水分は、原料由来と環境由来に大別される。原料由来の水分として、イミド化(ポリアミド酸の脱水環化反応)により生成する水が挙げられる。例えば、BPDAとPDAからなる固形分濃度15%のポリアミド酸溶液が30%イミド化すると、溶液中の水分量は約4000ppm増加する。溶液中の水分量をそれ以下に減らすためには、コストアップを伴う。そのため、ポリアミド酸溶液は、上記範囲内で水分を含んでいてもよい。水分を減らす方法として、原料の保管を厳密に行って水分の混入を避け、反応雰囲気を乾燥空気、乾燥窒素等で置換することが効果的である。さらに減圧下で処理してもよい。
【0085】
[ポリイミドフィルム]
ポリアミド酸溶液を基板上に塗布し、イミド化することにより、基板上にポリイミドフィルムが密着積層した積層体が得られる。基板としては無機基板が好ましい。無機基板としては、ガラス基板および各種金属基板が挙げられる。ポリイミドフィルムがフレキシブルデバイスの基板である場合は、従来のデバイス作製設備をそのまま利用できることから、ガラス基板が好ましい。ガラス基板としては、ソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス等が挙げられる。特に、薄膜トランジスタの製造工程で一般的に使用されている無アルカリガラスが好ましい。無機基板の厚みは、基板のハンドリング性および熱容量等の観点から、0.4~5.0mm程度が好ましい。
【0086】
溶液の塗布方法としては、グラビアコート法、スピンコート法、シルクスクリーン法、ディップコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ダイコート法等の公知の塗布方法を適用できる。
【0087】
イミド化は、脱水閉環剤(イミド化触媒)を用いた化学イミド化、および脱水閉環剤等を作用させずに加熱だけでイミド化反応を進行させる熱イミド化のいずれでもよい。脱水閉環剤等の不純物の残存が少ないことから、熱イミド化が好ましい。熱イミド化における加熱温度および加熱時間は適宜決めることができ、例えば、以下のようにすればよい。
【0088】
まず、溶媒を揮発させるために、温度100~200℃で3~120分加熱する。加熱は、空気下、減圧下、または窒素等の不活性ガス中で行うことができる。加熱装置としては、熱風オーブン、赤外オーブン、真空オーブン、ホットプレート等を用いればよい。溶媒を揮発させた後、さらにイミド化を進めるため、温度200~500℃で3~300分加熱する。加熱温度は、低温から徐々に高温にすることが好ましく、最高温度は300~500℃の範囲が好ましい。最高温度が300℃以上であれば、熱イミド化が進行しやすく、得られたポリイミドフィルムの機械強度が向上する傾向がある。最高温度が500℃以下であれば、ポリイミドの熱劣化を抑制できる。
【0089】
ポリイミドフィルムの厚みは、5~50μmが好ましい。ポリイミドフィルムの厚みが5μm以上であれば、基板フィルムとして必要な機械強度が確保できる。ポリイミドフィルムの厚みが50μm以下であれば、無機基板からのポリイミドフィルムの自然剥離が抑制される傾向がある。
【0090】
上記の一般式(1)~(3)の末端構造を有するポリアミド酸組成物は、熱イミド化後により高分子量化する傾向があるため、ポリアミド酸の重量平均分子量が小さい場合でも、高い機械強度を有するポリイミドフィルムが得られる。ポリアミド酸組成物は一般式(2)のアミン末端を有しているが、一般式(3)の加水開環末端は、ポリアミド酸溶液の貯蔵環境では、アミン末端とはほとんど反応しない。そのため、ポリアミド酸溶液は貯蔵安定性に優れている。
【0091】
一般式(3)の加水開環末端は、熱イミド時の加熱により脱水閉環して酸無水物基となり、一般式(2)のアミン末端と反応してアミド結合を形成し、脱水環化によりイミド結合が生成する。すなわち、熱イミド化の際に、一般式(3)の末端構造を有するポリアミド酸と、一般式(2)の末端構造を有するポリアミド酸とが反応することにより、高分子量化する。そのため、ポリアミド酸の分子量が低い場合でも、熱イミド化時の高分子量化により、優れた機械強度を有するポリイミドフィルムが得られる。
【0092】
イミド化時に、一般式(2)の末端と一般式(3)の末端とが反応するため、得られるポリイミドは、ポリアミド酸に比べて一般式(1)の酸無水物エンドキャップ末端の比率が高く、アミン末端や酸(無水物)末端の比率が低い。すなわち、ポリイミドは、末端が封止されており、反応活性を有する官能基(アミノ基、カルボキシ基、および酸無水物基)の量が少ないため、化学的な安定性が高く、遊離性イオン等による電気特性への影響が少ない。
【0093】
ガラス等の基板とポリイミドフィルムとの積層体から、ポリイミドフィルムを剥離することにより、ポリイミドフィルムが得られる。剥離時の張力に起因して、ポリイミドフィルムやその上に形成された素子等が変形することを抑制する観点から、ガラス基板とポリイミドフィルムとの積層体からポリイミドフィルムを剥離する際のピール強度は、1N/cm以下が好ましく、0.5N/cm以下がより好ましく、0.3N/cm以下がさらに好ましい。一方、ガラス基板からのポリイミドフィルムの自然剥離を抑制する観点から、ピール強度は0.01N/cm以上が好ましく、0.3N/cm以上がより好ましく、0.5N/cm以上がさらに好ましい。
【0094】
ポリイミドフィルムの破断強度は350MPa以上が好ましく、400MPa以上がより好ましく、450MPa以上がさらに好ましい。破断強度が上記範囲であれば、フィルムの厚みが小さい場合でも、搬送や無機基板からの剥離等のプロセスにおけるポリイミドフィルムの破断を防止できる。同様の観点から、ポリイミドフィルムの破断点伸びは、15%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、25%以上がさらに好ましい。破断点伸びは30%以上であってもよい。ポリイミドフィルムの破断強度および破断伸びの上限は特に限定されない。破断強度は600MPa以下であってもよい。破断伸びは80%以下または60%以下であってもよい。
【0095】
ポリイミドフィルムの熱線膨張係数は10ppm/℃以下が好ましい。熱線膨張係数が10ppm/℃以下であれば、高温での素子の形成が行われるフレキシブルデバイスの基板としても好適に使用できる。ポリイミドフィルムの熱線膨張係数は9ppm/℃以下、または8ppm/℃以下であってもよい。ポリイミドフィルムの熱線膨張係数は1ppm/℃以上であってもよい。
【0096】
[ポリイミドフィルム上への電子素子の形成]
ポリイミドフィルムをフレキシブルデバイス等の基板として用いる場合、ポリイミドフィルム上に電子素子を形成する。ガラス等の無機基板からポリイミドフィルムを剥離する前に、ポリイミドフィルム上に電子素子を形成してもよい。すなわち、ガラス等の無機基板上にポリイミドフィルムが密着積層された積層体のポリイミドフィルム上に、電子素子を形成し、その後、電子素子が形成されたポリイミドフィルムを無機基板から剥離することにより、フレキシブルデバイスが得られる。このプロセスは、既存の無機基板を使用した生産装置をそのまま使用できるという利点があり、フラットパネルディスプレイ、電子ペーパー等の電子デバイスの製造に有用であり、大量生産にも適している。
【0097】
無機基板からポリイミドフィルムを剥離する方法は特に限定されない。例えば、手で引き剥がしてもよいし、駆動ロール、ロボット等の機械装置を用いて引き剥がしてもよい。無機基板とポリイミドフィルムとの間に剥離層を設けてもよく、剥離の前に、無機基板とポリイミドフィルムとの密着力を低下させる処理を行ってもよい。密着力を低下させる方法の具体例としては、多数の溝を有する無機基板上に酸化シリコン膜を形成し、エッチング液を浸潤させることによって剥離する方法;および無機基板上に非晶質シリコン層を設けレーザー光によって分離させる方法が挙げられる。
【実施例
【0098】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0099】
[評価方法]
<水分>
容量滴定カールフィッシャー水分計(メトロームジャパン製「890タイトランド」)を用いて、JIS K0068の容量滴定法に準じて溶液中の水分を測定した。ただし、滴定溶剤中に樹脂が析出する場合は、アクアミクロンGEX(三菱化学製)とN-メチルピロリドンとの1:4の混合溶液を滴定溶剤として用いた。
【0100】
<粘度>
粘度計(東機産業製「RE-215/U」)を用い、JIS K7117-2:1999に準じて粘度を測定した。付属の恒温槽を23.0℃に設定し、測定温度は常に一定にした。
【0101】
<重量平均分子量>
重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定した。CO-8020、SD-8022、DP-8020、AS-8020およびRI-8020(いずれも東ソー製)を備えるGPCシステムを用い、カラムにはShoudex:GPC KD-806M(8mmΦ×30cm)を2本、ガードカラムとして、GPC KD-G(4.6mmΦ×1cm)を1本用いた。検出器はRIを使用した。溶離液にはDMFに30mMのLiBrと30mMのリン酸を溶解させた溶液を使用した。溶液濃度0.4重量%、注入量30μL、注入圧約1.3~1.7MPa、流速0.6mL/min、カラム温度40℃の条件で測定を実施し、ポリエチレンオキサイドを標準試料として作成した検量線に基づいて、重量平均分子量を算出した。
【0102】
<ピール強度>
ガラス板上に密着積層したポリイミドフィルムに、ASTM D1876-01規格に従い、カッターナイフにて幅10mmの切れ目を入れ、引張試験機(東洋精機製「ストログラフVES1D」)を用いて、23℃55%RHの環境下、引張速度50mm/min、剥離角度90°で、ガラス板からポリイミドフィルムを50mm引き剥がし、剥離強度の平均値をピール強度とした。
【0103】
<破断強度および破断点伸び>
ポリイミドフィルムを、幅15mm、長さ150mmに切断して試験片を作製し、試験片の中央に、50mm離れて平行な2本の標線をつけた。引張試験機(島津製作所製「UBFA-1 AGS-J」を用い、JIS K7127:1999にしたがって、引張速度10mm/minで引張試験を実施し、試験片が破断した際の応力(破断強度)および伸び(破断点伸び)を求めた。
【0104】
<線膨張係数>
ポリイミドフィルムを、幅3mm、長さ10mmに切断して試験片を作製し、熱機械分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー製「TMA/SS120CU」)を用い、試料の長辺に29.4mNの荷重を加え、張荷重法による熱機械分析を実施した。まず、100℃/minで20℃から500℃まで昇温し(1回目の昇温)、20℃まで冷却した後、10℃/minで500℃まで昇温した(2回目の昇温)。2回目の昇温時の100~300℃の範囲における単位温度あたりの試料の歪の変化量を線膨張係数とした。
【0105】
[実施例1]
<ポリアミド酸の重合およびクッキング>
ポリテトラフルオロエチレン製シール栓付き攪拌器、攪拌翼および窒素導入管を備えた容積2Lのガラス製セパラブルフラスコに、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を850.0g入れ、パラフェニレンジアミン(PDA)40.1g、および4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)を0.6g加え、50℃の油浴で加熱しながら窒素雰囲気下で30分間攪拌した。原料が均一に溶解したことを確認した後、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)109.4gを加えた。この反応溶液の固形分(ジアミン(PDAおよびODA)とテトラカルボン酸二無水物(PDA)の合計)濃度は15重量%であり、テトラカルボン酸二無水物の総モル数(x)とジアミンの総モル数(y)との比x/yは、0.995であった。
【0106】
BPDAを添加後、窒素雰囲気下で攪拌しながら、溶液の温度を10分間で50℃から約90℃まで昇温し、原料を完全に溶解させた。さらに90℃で加熱しながら攪拌を3時間続けてクッキング反応を行い、溶液の粘度を低下させた。クッキング反応後の溶液は、23℃における粘度が20,000mPa・sであった。
【0107】
<アルコキシシラン化合物による変性>
上記の反応液を水浴で速やかに冷却し、溶液の温度を約50℃に調整した後、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(γ-APS)の1%NMP溶液を7.50g加え、3時間攪拌した。その後、NMPを添加して希釈し、23℃における粘度が3,500mPa・sのアルコキシシラン変性ポリアミド酸の溶液を得た。アルコキシシラン化合物の総モル数(α)とテトラカルボン酸二無水物の総モル数(x)との比α/xは、0.001であった。
【0108】
得られた溶液に、アクリル系表面調整剤(ビックケミー・ジャパン株式会社「BYK-361N」)を、アルコキシシラン変性ポリアミド酸の固形分100重量部に対して0.02重量部添加し、均一に分散して、表面調整剤を含有するアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液を得た。
【0109】
<無水フタル酸によるエンドキャップ>
上記のアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液に無水フタル酸を0.55g加え、溶液を油浴で50℃に加熱しながら窒素雰囲気下で60分間攪拌した。原料が均一に溶解したことを確認後、冷却し、23℃における粘度が3,950mPa・sのポリアミド酸溶液を得た。酸無水物(無水フタル酸)の総モル数(z)とジアミンの総モル数(y)との比z/yは0.010であった。
【0110】
[実施例2および実施例3]
無水フタル酸によるエンドキャップにおいて、無水フタル酸の投入量を、表1に示すように変更した。それ以外は実施例1と同様にして、ポリアミド酸溶液を得た。
【0111】
[実施例4]
セパラブルフラスコの容積を500mLに変更し、NMPの投入量を255gに変更し、PDA、ODAおよびBPDAの投入量を表1に示すように変更した。それ以外は実施例1と同様にして、ポリアミド酸の重合およびクッキング反応を実施した。その後、溶液温度を約50℃に調整し、γ-APSの1%NMP溶液を2.20g加えて、アルコキシシラン変性を行い、アルコキシシラン変性ポリアミド酸の固形分100重量部に対して0.02重量部のアクリル系表面調整剤を添加した。このアルコキシシラン変性ポリアミド酸溶液に、無水フタル酸を0.34g加え、50℃の窒素雰囲気下で60分間攪拌して、ポリアミド酸溶液を得た。
【0112】
[比較例1]
セパラブルフラスコに、実施例4と同一量のNMP、PDA、ODAおよびBPDAを投入した。BPDAを投入後、原料が完全に溶解するまで50℃の窒素雰囲気下で60分間攪拌した。その後、昇温することなく、クッキング反応を実施せずに重合反応を終了した。その後は、実施例4と同様に、アルコキシシラン変性および無水フタル酸によるエンドキャップを行い、ポリアミド酸溶液を得た。
【0113】
[比較例2,3]
ポリアミド酸の重合におけるBPDAの投入量、および無水フタル酸によるエンドキャップにおける無水フタル酸の投入量を、表1に示すように変更した。それ以外は比較例1と同様にして、ポリアミド酸溶液を得た。
【0114】
[ポリイミドフィルムの作製]
得られたポリアミド酸溶液を、厚さ0.7mm、1辺が150mmの正方形のFPD用無アルカリガラス板(コーニング社製「イーグルXG」)上に、バーコーターで乾燥後厚みが約15μmになるように塗布し、熱風オーブン内で120℃にて30分乾燥した。その後、窒素雰囲気下で20℃から120℃まで7℃/分で昇温し、120℃から450℃まで7℃/分で昇温し、450℃で10分間加熱し、ポリイミドフィルムと無アルカリガラス板の積層体を得た。
【0115】
実施例および比較例のポリアミド酸の合成における原料の仕込み量、およびクッキング反応の実施の有無を表1に示す。ポリアミド酸の合成における原料の仕込み比、ポリアミド酸溶液の特性、およびポリイミドフィルムの評価結果を表2に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
実施例1~4では、ポリイミドフィルムが、無アルカリガラス板に対して適度の剥離強度を有しており、加熱中に自然に剥離することはなく、かつ、ガラス板からポリイミドフィルムを引き剥がすことが可能であった。
【0119】
実施例1~4のポリイミドフィルムは、いずれも破断強度が400MPa以上、破断点伸びが20%以上であり、比較例1~3のポリイミドフィルムに比べて、高い機械強度を示した。また、実施例1~4のポリアミド酸は、比較例1,2のポリアミド酸よりも低分子量であるにも関わらず、ポリイミドフィルムが高い機械強度を示した。
【0120】
実施例4と比較例1は、原料の仕込み量が同一であり、両者の相違は、ポリアミド酸の重合後のクッキングの有無のみである。これらの結果から、実施例1~4では、ポリアミド酸の重合後のクッキングにより、ポリアミド酸が解重合して分子量が低下するとともに、一般式(3)で表される加水開環末端を有するポリアミド酸が生成しており、イミド化の際に高分子量化したと考えられる。実施例1~3のポリイミドフィルムは、実施例4に比べてさらに高い機械強度を有しており、中でも実施例1が最も高い機械強度を示した。
【0121】
以上の結果から、一般式(1)~(3)の末端構造を有するポリアミド酸組成物は、低分子量であるために溶液のハンドリング性に優れるとともに、イミド化後のポリイミドフィルムが高い機械強度を示し、ポリアミド酸の調製時の原料の仕込み比を調整することにより、より機械強度に優れるポリイミドフィルムが得られることが分かる。