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特許7431041情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/34 20230101AFI20240206BHJP
   G06Q 50/06 20240101ALI20240206BHJP
【FI】
C02F3/34 101C
G06Q50/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020002192
(22)【出願日】2020-01-09
(65)【公開番号】P2021109139
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】390014074
【氏名又は名称】前澤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 亮
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-088889(JP,A)
【文献】特開2015-054260(JP,A)
【文献】特開2015-016410(JP,A)
【文献】特開2019-150795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/28- 3/34
G06Q 10/00-10/30
30/00-30/08
50/00-50/20
50/26-99/00
G16Z 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水に含まれるアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を前記排水から除去する排水処理に用いられる情報処理装置であって、
前記排水の情報として同一のタイミングで採取された前記アンモニア性窒素の濃度、前記亜硝酸性窒素の濃度、第1の情報、及び第2の情報からなる情報群を、複数有する関係性検証データを取得する取得手段と、
前記アンモニア性窒素の濃度及び前記亜硝酸性窒素の濃度の差分値、並びに、前記第1の情報及び前記第2の情報の関係を示す関係式を、前記関係性検証データを用いることによって導出する導出手段と、
前記関係式を構成する前記第1の情報として用いられる第3の情報及び前記関係式を構成する前記第2の情報として用いられる第4の情報を取得し、前記第3の情報及び前記第4の情報に関連する前記アンモニア性窒素の濃度及び前記亜硝酸性窒素の濃度の差分値を前記関係式を用いて算出する算出手段と、
前記算出された差分値に応じて前記亜硝酸性窒素の濃度を制御する制御手段と、を備え
前記第1の情報及び前記第3の情報は前記排水のpHの値であり、前記第2の情報及び前記第4の情報は前記排水の電気伝導度であることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記排水処理は空気が前記排水に供給されることによって実行され、前記亜硝酸性窒素の濃度は前記排水に供給される空気の量が調節されることによって制御されることを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記算出された差分値が所定の範囲の値であるとき、前記制御手段は前記排水に供給される空気の量を維持することを特徴とする請求項1又は2記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記算出された差分値が所定の範囲の上限値よりも大きいとき、前記制御手段は前記排水に供給される空気を増量し、前記算出された差分値が所定の範囲の下限値よりも小さいとき、前記制御手段は前記排水に供給される空気を減量することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記差分値は前記アンモニア性窒素の濃度から前記亜硝酸性窒素の濃度を差し引いた値であり、前記所定の範囲は±100mg-N/Lであることを特徴とする請求項3又は4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記関係式は前記関係性検証データを用いて重回帰分析を実行することによって導出されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記関係式は前記アンモニア性窒素の濃度及び前記亜硝酸性窒素の濃度の差分値を目的変数としていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
排水に含まれるアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を前記排水から除去する排水処理に用いられる情報処理方法であって、
前記排水の情報として同一のタイミングで採取された前記アンモニア性窒素の濃度、前記亜硝酸性窒素の濃度、第1の情報、及び第2の情報からなる情報群を、複数有する関係性検証データを取得する取得ステップと、
前記アンモニア性窒素の濃度及び前記亜硝酸性窒素の濃度の差分値、並びに、前記第1の情報及び前記第2の情報の関係を示す関係式を、前記関係性検証データを用いることによって導出する導出ステップと、
前記関係性検証データを取得した後に、前記関係式を構成する前記第1の情報として用いられる第3の情報及び前記関係式を構成する前記第2の情報として用いられる第4の情報を取得し、前記第3の情報及び前記第4の情報に関連する前記アンモニア性窒素の濃度及び前記亜硝酸性窒素の濃度の差分値を前記関係式を用いて算出する算出ステップと、
前記算出された差分値に応じて前記亜硝酸性窒素の濃度を制御する制御ステップと、を有し、
前記第1の情報及び前記第3の情報は前記排水のpHの値であり、前記第2の情報及び前記第4の情報は前記排水の電気伝導度であることを特徴とする情報処理方法。
【請求項9】
排水に含まれるアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を前記排水から除去する排水処理に用いられる情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記情報処理方法は、
前記排水の情報として同一のタイミングで採取された前記アンモニア性窒素の濃度、前記亜硝酸性窒素の濃度、第1の情報、及び第2の情報からなる情報群を、複数有する関係性検証データを取得する取得ステップと、
前記アンモニア性窒素の濃度及び前記亜硝酸性窒素の濃度の差分値、並びに、前記第1の情報及び前記第2の情報の関係を示す関係式を、前記関係性検証データを用いることによって導出する導出ステップと、
前記関係性検証データを取得した後に、前記関係式を構成する前記第1の情報として用いられる第3の情報及び前記関係式を構成する前記第2の情報として用いられる第4の情報を取得し、前記第3の情報及び前記第4の情報に関連する前記アンモニア性窒素の濃度及び前記亜硝酸性窒素の濃度の差分値を前記関係式を用いて算出する算出ステップと、
前記算出された差分値に応じて前記亜硝酸性窒素の濃度を制御する制御ステップと、を有し、
前記第1の情報及び前記第3の情報は前記排水のpHの値であり、前記第2の情報及び前記第4の情報は前記排水の電気伝導度であることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排水処理に用いられる情報処理装置、情報処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、排水に含まれている窒素成分、具体的に、アンモニアを構成するアンモニア性窒素をその排水(以下、「原水」という。)から除去するために用いられる排水処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1の排水処理装置は第1の処理槽及び第2の処理槽を備える。第1の処理槽は散気装置及びアンモニア酸化細菌を有し、第2の処理槽はアナモックス細菌を有する。第1の処理槽において、散気装置は空気を原水に供給し、アンモニア酸化細菌は原水に含まれるアンモニアと、原水に供給された空気とに基づいてアンモニアを酸化し、亜硝酸を生成する。したがって、第1の処理槽を充水する排水はアンモニア性窒素及び亜硝酸を構成する亜硝酸性窒素を有する。
【0003】
排水に含まれるアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素の比率が1.5:1~1:1.5のとき、その比率を構成する排水(以下、当該比率を「適正比率」といい、当該排水を「適正中間排水」という。)は第2の処理槽に送水される。第2の処理槽において、アナモックス細菌はアナモックス反応(式1)に従って適正中間排水に含まれるアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を窒素ガスに変換し、適正中間排水からアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を除去する。
【0004】
【数1】
【0005】
ところで、排水に含まれるアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素の比率が適正比率であるか否かは、例えば、アンモニア性窒素の濃度及び亜硝酸性窒素の濃度を測定することによって判別される。排水処理装置の管理者がアンモニア性窒素の濃度及び亜硝酸性窒素の濃度を測定し、アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素の比率が適正比率であるとき、その排水は適正中間排水として第2の処理槽に送水される。
【0006】
一方、排水処理装置の管理者はアンモニア性窒素の濃度及び亜硝酸性窒素の濃度を測定し、アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素の比率が適正比率よりも大きいとき、散気装置から供給される空気を増量し、アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素の比率が適正比率よりも小さいとき、散気装置から供給される空気を減量する。これらにより、アンモニア性窒素の濃度及び亜硝酸性窒素の濃度は変化し、アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素の比率が適正比率に調節される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特願2019-138985号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、アンモニア性窒素の濃度及び亜硝酸性窒素の濃度を測定する測定器は正確な濃度を測定するために校正されなければならず、測定器を校正する負担は大きい。また、各測定器は一定期間使用されると、頻繁に校正されていても正確な濃度を測定することができなくなるため、定期的に交換しなければならない。一般的に、各測定器は高価であるため、定期的な交換が必要になれば、排水処理装置を維持管理する経済的負担は増加する。すなわち、各測定器のメンテナンスに関する負担は大きいという問題がある。
【0009】
これに対応して、排水処理装置の管理者が自己の直感や経験に基づいて散気装置から供給される空気の量を調節し、アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素の比率を調節する場合がある。この場合、特定の排水処理装置の管理者のみがアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素の比率を調節することができ、アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素の比率を自動的に調節することができないという問題がある。
【0010】
本発明の目的は、排水に含まれるアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素の比率を自動的に制御することができる情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の情報処理装置は、排水に含まれるアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を前記排水から除去する排水処理に用いられる情報処理装置であって、前記排水の情報として同一のタイミングで採取された前記アンモニア性窒素の濃度、前記亜硝酸性窒素の濃度、第1の情報、及び第2の情報からなる情報群を、複数有する関係性検証データを取得する取得手段と、前記アンモニア性窒素の濃度及び前記亜硝酸性窒素の濃度の差分値、並びに、前記第1の情報及び前記第2の情報の関係を示す関係式を、前記関係性検証データを用いることによって導出する導出手段と、前記関係式を構成する前記第1の情報として用いられる第3の情報及び前記関係式を構成する前記第2の情報として用いられる第4の情報を取得し、前記第3の情報及び前記第4の情報に関連する前記アンモニア性窒素の濃度及び前記亜硝酸性窒素の濃度の差分値を前記関係式を用いて算出する算出手段と、前記算出された差分値に応じて前記亜硝酸性窒素の濃度を制御する制御手段と、を備え、前記第1の情報及び前記第3の情報は前記排水のpHの値であり、前記第2の情報及び前記第4の情報は前記排水の電気伝導度であることを特徴とする。
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の情報処理方法は、排水に含まれるアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を前記排水から除去する排水処理に用いられる情報処理方法であって、前記排水の情報として同一のタイミングで採取された前記アンモニア性窒素の濃度、前記亜硝酸性窒素の濃度、第1の情報、及び第2の情報からなる情報群を、複数有する関係性検証データを取得する取得ステップと、前記アンモニア性窒素の濃度及び前記亜硝酸性窒素の濃度の差分値、並びに、前記第1の情報及び前記第2の情報の関係を示す関係式を、前記関係性検証データを用いることによって導出する導出ステップと、前記関係性検証データを取得した後に、前記関係式を構成する前記第1の情報として用いられる第3の情報及び前記関係式を構成する前記第2の情報として用いられる第4の情報を取得し、前記第3の情報及び前記第4の情報に関連する前記アンモニア性窒素の濃度及び前記亜硝酸性窒素の濃度の差分値を前記関係式を用いて算出する算出ステップと、前記算出された差分値に応じて前記亜硝酸性窒素の濃度を制御する制御ステップと、を有し、前記第1の情報及び前記第3の情報は前記排水のpHの値であり、前記第2の情報及び前記第4の情報は前記排水の電気伝導度であることを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明のプログラムは、排水に含まれるアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を前記排水から除去する排水処理に用いられる情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、前記情報処理方法は、前記排水の情報として同一のタイミングで採取された前記アンモニア性窒素の濃度、前記亜硝酸性窒素の濃度、第1の情報、及び第2の情報からなる情報群を、複数有する関係性検証データを取得する取得ステップと、前記アンモニア性窒素の濃度及び前記亜硝酸性窒素の濃度の差分値、並びに、前記第1の情報及び前記第2の情報の関係を示す関係式を、前記関係性検証データを用いることによって導出する導出ステップと、前記関係性検証データを取得した後に、前記関係式を構成する前記第1の情報として用いられる第3の情報及び前記関係式を構成する前記第2の情報として用いられる第4の情報を取得し、前記第3の情報及び前記第4の情報に関連する前記アンモニア性窒素の濃度及び前記亜硝酸性窒素の濃度の差分値を前記関係式を用いて算出する算出ステップと、前記算出された差分値に応じて前記亜硝酸性窒素の濃度を制御する制御ステップと、を有し、前記第1の情報及び前記第3の情報は前記排水のpHの値であり、前記第2の情報及び前記第4の情報は前記排水の電気伝導度であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、排水に含まれるアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素の比率を自動的に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態において排水を処理する際に用いられる排水処理装置の構成を概略的に示すブロック図である。
図2図1の排水処理装置を用いて処理される排水から得られる複数の情報の関係性を調査するために用いられる情報処理装置の構成を概略的に示すブロック図である。
図3図2の情報処理装置によって実行される回帰式導出処理の手順を示すフローチャートである。
図4図2の情報処理装置によって実行される制御処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態において排水を処理する際に用いられる排水処理装置10の構成を概略的に示すブロック図である。
【0018】
図1の排水処理装置10は、排水に含まれるアンモニア性窒素を除去する窒素除去処理を実行するために用いられ、処理槽10a及び処理槽10bを備える。処理槽10aは、散気装置11、ポンプP1、及びカラム12,13を有するとともに、酸素存在下でアンモニア性窒素を亜硝酸性窒素に変換する不図示のアンモニア酸化細菌を有し、ポンプP1はカラム12に接続され、カラム13はカラム12に接続されている。処理槽10bはポンプP2及び窒素除去領域14を有し、窒素除去領域14には不図示のアナモックス細菌が存在している。
【0019】
原水が処理槽10aに充水されると、散気装置11が駆動する。散気装置11は空気を原水に供給し、アンモニア酸化細菌は原水に含まれるアンモニアを酸化して亜硝酸を生成する。これにより、原水はアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を含む排水(以下、「中間排水」という。)に変化する。
【0020】
次いで、ポンプP1が駆動すると、中間排水が処理槽10aを循環し、中間排水はポンプP1からカラム12に供給される。カラム12は、例えば、円筒管であり、カラム12の一端は処理槽10aの底部に固定されることによって閉塞され、カラム12の他端は処理槽10aを充水する中間排水の水面から突出して開口している。したがって、カラム12は処理槽10aの底部に固定される固定部12aと、中間排水の水面から突出している開口部12bとを有する。
【0021】
また、カラム12は、中間排水を固定部12aの周辺にポンプP1からカラム12の内部に供給するための供給部12cと、開口部12bの周辺に供給部12cからカラム12の内部に供給された中間排水を排出する排出部12dとを備える。中間排水は供給部12cからカラム12の内部に供給され、固定部12aから開口部12bの方向に流れる上向流12eをカラム12の内部に形成し、排出部12dからカラム12の外部に排出される。カラム12の外部に排出された中間排水はカラム13の内部に供給される。
【0022】
カラム13は、例えば、円筒管であり、カラム13の一端は処理槽10aの底部に固定されることによって閉塞され、カラム13の他端は処理槽10aを充水する中間排水の水面から突出して開口している。したがって、カラム13は処理槽10aの底部に固定される固定部13aと、中間排水の水面から突出している開口部13bとを有する。
【0023】
また、カラム13は、固定部13aの周辺にカラム12の外部に排出された中間排水をカラム13の内部に供給するための供給部13cと、開口部13bの周辺に供給部13cからカラム13の内部に供給された中間排水を排出する排出部13dとを備える。中間排水は供給部13cからカラム13の内部に供給され、固定部13aから開口部13bの方向に流れる上向流13eをカラム13の内部に形成し、排出部13dからカラム13の外部に排出される。
【0024】
ところで、処理槽10aには、アナモックス細菌等の各種細菌を包含する活性汚泥(以下、「菌含有汚泥」という。)が存在している。中間排水に含まれるアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素は、菌含有汚泥を構成する活性汚泥を通過して汚泥の中心に位置するアナモックス細菌に到達する。アナモックス細菌は活性汚泥を通過したアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素に基づいて窒素ガスを産生して中間排水からアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を除去する。
【0025】
菌含有汚泥はカラム12の内部を通過する上向流12eの線速度に応じて分級される。具体的に、菌含有汚泥は、上向流12eがカラム12の内部に形成されているとき、カラム12の内部に滞留する滞留汚泥と、排出部12dから排出される排出汚泥とに分級され、排出汚泥はカラム12の内部を通過する中間排水と共に排出部12dからカラム12の外部に排出されてカラム13に供給される。
【0026】
排出汚泥はカラム13の内部を通過する上向流13eの線速度に応じて分級される。具体的に、排出汚泥は、上向流13eがカラム13の内部に形成されているとき、カラム13の内部に残留する残留汚泥と、排出部13dから排出されるカラム外部汚泥とに分級され、カラム外部汚泥はカラム13の内部を通過する中間排水と共に排出部13dからカラム13の外部に排出されてカラム13の外部に排出される。つまり、カラム12の内部に上向流12eが形成され且つカラム13の内部に上向流13eが形成されているとき、カラム12の内部に存在する菌含有汚泥は滞留汚泥であり、カラム13の内部に存在する菌含有汚泥は残留汚泥である。
【0027】
菌含有汚泥は上向流12e,13eによって分級されるため、例えば、軽量の菌含有汚泥ほどカラム12,13の外部に排出されやすく、重量の菌含有汚泥ほどカラム12,13の内部に存在しやすい。したがって、カラム12において、滞留汚泥の比重は排出汚泥の比重よりも大きく、カラム13において、残留汚泥の比重はカラム外部汚泥の比重よりも大きい。菌含有汚泥の比重は、通常、アナモックス細菌を包含する活性汚泥の量によって決まるため、大抵の場合、滞留汚泥を構成する活性汚泥の量は排出汚泥を構成する活性汚泥の量よりも多く、残留汚泥を構成する活性汚泥の量はカラム外部汚泥を構成する活性汚泥の量よりも多い。
【0028】
一般的に、アナモックス細菌は高濃度の亜硝酸、例えば、20mg-N/L以上の亜硝酸に暴露されることによって不活性化する。しかしながら、高濃度の亜硝酸がアナモックス細菌を包含する菌含有汚泥に暴露されても、菌含有汚泥のアナモックス細菌は活性汚泥に保護されているため、不活性化し難い。また、アナモックス細菌を包含する活性汚泥の量が多いほど、菌含有汚泥のアナモックス細菌は不活性化し難い。
すなわち、内部に滞留汚泥が存在するカラム12及び内部に残留汚泥が存在するカラム13を処理槽10aに配置することにより、アナモックス細菌が活性汚泥により亜硝酸から適切に保護されるため不活性化することがなく、窒素除去処理を効率的に実行することができる。
【0029】
本実施の形態において、上向流12e,13eの線速度はポンプP1によって制御されているが、上向流12e,13eのそれぞれの線速度を独立して制御するポンプ等の制御手段が設けられてもよい。また、本実施の形態において、上向流12e,13eは異なる線速度であることを前提とし、例えば、上向流12eの線速度は100m/day以上1000m/day以下の範囲内で制御し、上向流13eの線速度は50m/day以上500m/day以下の範囲内で制御するのがよい。
【0030】
原水が処理槽10aに充水されるとともに、散気装置11及びポンプP1が駆動されてから一定時間が経過したとき、中間排水は適正中間排水として処理槽10bに送水される。本実施の形態において、適正中間排水が所定の基準を充足していることを前提とし、所定の基準はアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素等の無機窒素化合物濃度に基づいて決定される。すなわち、中間排水のアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素との比率が適正比率になるようにアンモニア性窒素が低減されたとき、中間排水は所定の基準を充足し、適正中間排水として処理槽10aから処理槽10bに送水される。適正比率は処理槽10bにおいて実行される処理に応じて適宜設定することが可能であり、一般的に、アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素の比率が1.5:1~1:1.5の範囲で設定される。安定した窒素除去処理を考慮すると、より好ましい適正比率は1.5:1~1:1の範囲である。
【0031】
処理槽10bが適正中間排水によって充水されると、処理槽10bのポンプP2が駆動し、適正中間排水は処理槽10bを循環する。適正中間排水は、アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を有し、処理槽10bを循環するとき、窒素除去領域14を通過する。窒素除去領域14は、例えば、アナモックス細菌が付着した担体を有する。アナモックス細菌を付着させる担体には、例えば、樹脂成形体、活性炭、又は不織布等が用いられる。窒素除去領域14において、アナモックス細菌は適正中間排水に含まれるアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素に基づくアナモックス反応(式1)に従って窒素ガスを産生する。窒素ガスは適正中間排水から放出され、その結果、適正中間排水からアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素は除去される。
【0032】
ところで、従来より、中間排水に関する複数の情報、例えば、pH、電気伝導度、酸化還元電位、温度、及び溶存酸素量は市販されている汎用センサーによって自動的に測定され、これらの測定結果はリアルタイムで確認することができ、その信頼性も高い。一方、中間排水に関する他の情報、例えば、アンモニア性窒素濃度、亜硝酸性窒素濃度、又は硝酸性窒素濃度等の無機窒素化合物濃度を測定するためには高額且つメンテナンスが煩雑なセンサーを使用しなければならない。そのため、これらの無機窒素化合物濃度はリアルタイムで確認することができず、排水処理装置の管理者が手動で一日毎又は一週毎等、定期的に測定することによって漸く確認することができる。そうすると、適正中間排水のアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素との比率を適正比率に制御することは簡単ではない。
【0033】
以下では、排水処理装置の管理者が手動で測定した無機窒素化合物濃度と、汎用センサーによって自動的に測定されたpH及び電気伝導度等の中間排水に関する各情報との関係性を求め、将来の短い期間、例えば、1か月先又は1週間先までの無機窒素化合物濃度を予測し、中間排水のアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素との比率を簡単に制御するメカニズムについて説明する。
【0034】
図2は、図1の排水処理装置10を用いて処理される排水から得られる複数の情報の関係性を調査するために用いられる情報処理装置20の構成を概略的に示すブロック図である。
【0035】
図2の情報処理装置20は、CPU21(取得手段、導出手段、算出手段、制御手段)、RAM22、ROM23、HDD24、及びデータ入力部25を備え、これらは内部バス26を介して互いに接続されている。CPU21は、ROM23又はHDD24に格納されたプログラムをCPU21のワークメモリであるRAM22に展開して実行する。また、中間排水に関する複数の情報、例えば、アンモニア性窒素濃度、亜硝酸性窒素濃度、pH、電気伝導度、酸化還元電位、温度、及び溶存酸素量の測定値はデータ入力部25から入力されてROM23又はHDD24に格納される。CPU21は、HDD24に格納された中間排水に関する各情報の測定値を用いて重回帰分析を実行し、各情報のいずれかを他の情報を用いて予測する回帰式(関係式)を導出する。
【0036】
図3は、図2の情報処理装置20によって実行される回帰式導出処理の手順を示すフローチャートである。本実施の形態において、CPU21が中間排水に関する各情報の測定値を用いて予め重回帰分析を実行する。ところで、単に中間排水のアンモニア性窒素の濃度から亜硝酸性窒素の濃度を差し引いた濃度差分値ΔNを予測の対象である目的変数とし且つ中間排水のpH及び電気伝導度を目的変数と因果関係のある説明変数とする関数は、説明変数に用いられる電気伝導度が中間排水に含まれる全てのイオンの影響を強く受けて激しく変動するため、線形関係(一次関数)として導出されない。一方、適正比率を構成する中間排水のアンモニア性窒素の濃度と亜硝酸性窒素の濃度に基づく濃度差分値ΔNと、その中間排水のpH及び電気伝導度とから得られる関数は一次関数を用いて近似することが実験的に確認された。したがって、図3の回帰式導出処理は、適正比率を構成する中間排水について濃度差分値ΔNを目的変数とし且つpH及び電気伝導度を説明変数とする回帰式を得るために実行されることを前提とする。
【0037】
図3において、まず、同一のタイミングで採取された中間排水のアンモニア性窒素の濃度、亜硝酸性窒素の濃度、pH(第1の情報)、及び電気伝導度(第2の情報)によって構成されるセットデータ(情報群)を複数有する関係性検証データD(例えば、表1参照。)がHDD24に格納されている。CPU21は、関係性検証データDを参照し(S31、取得ステップ)、セットデータ毎にアンモニア性窒素の濃度から亜硝酸性窒素の濃度を差し引いて濃度差分値ΔNを算出し(S32)、算出された濃度差分値ΔN、pH、及び電気伝導度によって構成されるセットデータを複数有する新たな関係性検証データD(例えば、表2参照。)を取得する(S33)。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
続いて、CPU21は、新たな関係性検証データDを用いて重回帰分析を実行し(S34)、濃度差分値ΔNを目的変数とし且つpH及び電気伝導度を説明変数とする回帰式(式2)を導出して(S35、導出ステップ)本処理を終了する。
【0041】
濃度差分値ΔN=係数β+係数β×電気伝導度+係数β×pH ・・・(式2)
【0042】
本実施の形態において、例えば、重回帰分析が実行された日前の190日間に採取された複数のセットデータからなる関係性検証データD(以下、当該関係性検証データDを「関係性検証データD190」という。)、又は重回帰分析が実行された日前の90日間に採取された複数のセットデータからなる関係性検証データD(以下、当該関係性検証データDを「関係性検証データD90」という。)を用いて上記式2の回帰式が導出された。
【0043】
CPU21が関係性検証データD190,D90を用いて上記式2の回帰式を導出したとき、導出された上記式2の各回帰式の決定係数は、それぞれ0.84、0.94であった。また、関係性検証データD190,D90を構成する各セットデータのうちアンモニア性窒素の濃度及び亜硝酸性窒素の濃度のそれぞれの値を用いて算出した濃度差分値Δ(以下、「実測差分値Δ」という。)と、関係性検証データD190,D90を構成する各セットデータのうちpH及び電気伝導度を用いて上記式2の各回帰式から算出された濃度差分値Δ(以下、「算出差分値Δ」という。)と、の誤差の絶対値は、それぞれ30mg-N/L以下、20mg-N/L以下であった。
【0044】
すなわち、濃度差分値ΔNを目的変数とし且つpH及び電気伝導度を説明変数とする上記式2の回帰式は決定係数が高く、また、実測差分値Δ及び算出差分値Δの誤差の絶対値も小さい。したがって、上記式2の回帰式から算出された算出差分値Δは実測差分値Δを示す値として用いてもよいことがわかった。
【0045】
さらに、関係性検証データD90を用いて導出された回帰式の決定係数は、その他の関係性検証データD190を用いて導出された回帰式の決定係数よりも高く、また、関係性検証データD90に基づく実測差分値Δ及び算出差分値Δの誤差の絶対値は、その他の関係性検証データD190に基づく実測差分値Δ及び算出差分値Δの誤差の絶対値よりも小さい。したがって、例えば、算出差分値Δが特定の日時の中間排水のpH及び電気伝導度、並びに、上記式2の回帰式を用いて算出されるとき、上記式2の回帰式はその特定の日時から遠くない時期、例えば、その特定の日時から3月以内の中間排水に関する関係性検証データDに基づいて導出されているのがよいことがわかった。
【0046】
図4は、図2におけるCPU21によって実行される制御処理の手順を示すフローチャートである。
【0047】
図4の制御処理は中間排水のアンモニア性窒素濃度と亜硝酸性窒素濃度との比率を適正比率に制御するために実行される。以下において、中間排水のアンモニア性窒素濃度と亜硝酸性窒素濃度との比率を1:1に制御するときに実行される制御処理の手順を説明するとともに、関係性検証データD90を用いて導出された上記式2の回帰式がHDD24に格納されていることを前提とする。
【0048】
図4において、CPU21は、まず、上記式2の回帰式に基づいて濃度差分値ΔNを算出すべき日(以下、「ΔN算出日」という。)についての指示を受け付けるとともに(S41)、データ入力部25から入力されたΔN算出日に採取されたpH(第3の情報)及び電気伝導度(第4の情報)の値をHDD24に格納する(S42)。
【0049】
次いで、CPU21はHDD24に格納されている回帰式、並びに、ΔN算出日に採取されたpH及び電気伝導度の値を用いて濃度差分値ΔNを算出する(S43、算出ステップ)。続いて、CPU21は算出された濃度差分値ΔNが所定の範囲内の値であるか否かを判別する(S44)。濃度差分値ΔNは、例えば、-100mg-N/L以上100mg-N/L以下であればよいが、ここでは、濃度差分値ΔNが関係性検証データD90を用いて導出された回帰式に基づいて算出されているので、CPU21は算出された濃度差分値ΔNが-20mg-N/L以上20mg-N/L以下であるかを判別する。
【0050】
S44の判別の結果、CPU21は、算出された濃度差分値ΔNが所定の範囲内の値であるとき、中間排水のアンモニア性窒素濃度と亜硝酸性窒素濃度との比率が1:1であるとして散気装置11から供給される空気量を維持して(S45)本処理を終了し、算出された濃度差分値ΔNが所定の範囲内の値でないとき、算出された濃度差分値ΔNが所定の範囲の下限値未満であるか否かを判別する(S46)。
【0051】
S46の判別の結果、CPU21は、算出された濃度差分値ΔNが所定の範囲の下限値未満であるとき、散気装置11から供給される空気を減量して(S47)S44に戻り、算出された濃度差分値ΔNが所定の範囲の下限値未満でないとき、算出された濃度差分値ΔNが所定の範囲の上限値を超えていると判別し(S48)、散気装置11から供給される空気を増量して(S49)S44に戻る。
【0052】
図4の制御処理によれば、関係性検証データD90を用いて導出された上記式2の回帰式が予めHDD24に格納され、上記式2の回帰式、並びに、ΔN算出日に採取されたpH及び電気伝導度の値を用いて濃度差分値ΔNが算出され(S43)、濃度差分値ΔNが所定の範囲内の値であるか否かが判別される(S44)。その結果、濃度差分値ΔNが所定の範囲内の値であるとき(S44でYES)、濃度差分値ΔNは概ね0mg-N/Lであり、中間排水のアンモニア性窒素濃度と亜硝酸性窒素濃度との比率が1:1であると評価され、散気装置11から供給される空気量は維持される(S45)。
【0053】
一方、濃度差分値ΔNが所定の範囲内の値でないとき(S44でNO)、濃度差分値ΔNが所定の範囲の下限値未満であるか否かが判別される(S46)。濃度差分値ΔNが所定の範囲の下限値未満であるとき、亜硝酸性窒素の濃度はアンモニア性窒素の濃度よりも高いと評価され、散気装置11から供給される空気は減量される(S47)。他方、濃度差分値ΔNが所定の範囲の下限値未満でないとき、濃度差分値ΔNが所定の範囲の上限値を超えていると判別され(S48)、亜硝酸性窒素の濃度はアンモニア性窒素の濃度よりも低いと評価され、散気装置11から供給される空気は増量される(S49)。
【0054】
したがって、濃度差分値ΔNに応じて散気装置11から供給される空気量が調節され、亜硝酸性窒素の濃度が制御される(S44~S49、制御ステップ)。これにより、中間排水のアンモニア性窒素濃度と亜硝酸性窒素濃度との比率が1:1に制御されるので、排水に含まれるアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素の比率を自動的に制御することができる。
【0055】
また、濃度差分値ΔNは回帰式、並びに、ΔN算出日に採取されたpH及び電気伝導度の値を用いて算出される(S43)。pH及び電気伝導度の値は簡単に測定されるので、予め回帰式がHDD24に格納されていれば、測定されたpH及び電気伝導度に関連する濃度差分値ΔNは簡単且つ迅速に把握される。したがって、アンモニア性窒素の濃度及び亜硝酸性窒素の濃度を測定する測定器を使用しなくても簡単に濃度差分値ΔNは把握される。これにより、各測定器を校正する頻度を下げることができ、もって、各測定器のメンテナンスに関する負担を軽減することができる。
【0056】
本発明は、上述の実施の形態の1以上の機能を実現するプログラムをネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、該システム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行する処理でも実現可能であり、また、1以上の機能を実現する回路によっても実現可能である。
【0057】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらの実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0058】
10 排水処理装置
10a,10b 処理槽
11 散気装置
20 情報処理装置
21 CPU21
図1
図2
図3
図4