(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】燃料電池用ガス拡散層
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20240206BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/96 B
H01M4/96 M
(21)【出願番号】P 2020028440
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】松廣 泰
(72)【発明者】
【氏名】水野 智行
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-195111(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061833(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/110691(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0276335(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86-4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性多孔質基材層、及びマイクロポーラス層がこの順に積層されており、
前記マイクロポーラス層は、
炭素粒子及び撥水性樹脂を含有しており、
前記導電性多孔質基材層に含浸している含浸部分、及び前記導電性多孔質基材層に含浸していない非含浸部分を有しており、
前記非含浸部分の厚さが、0.0μm超20.0μm以下であり、かつ
前記含浸部分の厚さが、前記マイクロポーラス層の全体の厚さに対して29%以下であ
り、
膜電極接合体を有している燃料電池単位セルに組み込んだ際に、前記マイクロポーラス層が前記膜電極接合体と接するように配置して用いられる、
燃料電池用ガス拡散層。
【請求項2】
前記炭素粒子の平均一次粒子径が、25nm~70nmである、請求項1に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項3】
前記含浸部分の厚さが、8.0μm以下である、請求項1又は2に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項4】
前記非含浸部分の表面の算術表面粗さが、6.0μm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項5】
前記非含浸部分の表面に対する水の静的接触角が、140°以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項6】
前記導電性多孔質基材層は、炭素繊維及びバインダを含有しており、
前記炭素繊維と前記バインダとの合計に対する前記炭素繊維の割合が、65質量%以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項7】
前記導電性多孔質基材層の少なくともマイクロポーラス層を有する面側の気孔率が、50%~75%である、請求項1~6のいずれか一項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項8】
前記導電性多孔質基材層の厚さが、100.0μm~300.0μmである、請求項1~7のいずれか一項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項9】
積層方向における弾性変形率が、0.05MPa
-1以上である、請求項1~8のいずれか一項に記載の燃料電池用ガス拡散層。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の燃料電池用ガス拡散層を有する燃料電池単位セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池用ガス拡散層に関する。
【背景技術】
【0002】
アノードガス、例えば水素と、カソードガス、例えば酸素とを化学反応させることによって発電を行う、燃料電池が知られている。
【0003】
この様な燃料電池の構成としては、例えばアノード側セパレーター、アノード側ガス拡散層、アノード側触媒層、電解質層、カソード側触媒層、カソード側ガス拡散層、及びカソード側セパレーターがこの順に積層されたものが知られている。ここで、アノード側触媒層、電解質層、及びカソード側触媒層を積層したものは、膜電極接合体とも呼ばれている。
【0004】
この様な構成を有する燃料電池では、電池反応においてアノードガスとしての水素とカソードガスとしての酸素とが反応して水が生成する。
【0005】
燃料電池の構成によっては、電池反応によって生成した水が燃料電池用ガス拡散層の細孔を閉塞して、最終的には燃料電池の発電が停止する、すなわちフラッディングが起こる場合があることが知られている。
【0006】
フラッディングを抑制する方法としては、撥水処理した導電性多孔質基材層の面上にカーボンブラック等の導電性微粒子を含有するマイクロポーラス層が配置されている積層体を、燃料電池用ガス拡散層として用いることが知られている。この場合において、マイクロポーラス層は、導電性多孔質基材層に含浸している含浸部分、及び導電性多孔質基材層に含浸していない非含浸部分を有している構成を取りうる。
【0007】
例えば、特許文献1は、マイクロポーラス層のうち非含浸部分の厚さが10~20μm程度かつ、マイクロポーラス層全体の厚さに対する含浸部分の厚さの割合が、30%以上70%以下である、燃料電池用ガス拡散層を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、特許文献1が開示するような、撥水処理した導電性多孔質基材層の面上にカーボンブラック等の導電性微粒子を含有するマイクロポーラス層が配置されているガス拡散層を用いた燃料電池において、更に発電効率を向上させることを検討した。
【0010】
この点に関して、本発明者らは、燃料電池において、反応ガスを燃料電池内に流通させるためのガス流路を有するセパレーターを用いた場合に、ガス拡散層から電極触媒層に加えられる平均面圧が不均一となることによってガス拡散層と電極触媒層との接触抵抗が大きくなり、それによって発電効率が低下する場合があるとの知見を得た。
【0011】
また、本発明者らは、燃料電池において、マイクロポーラス層を有するガス拡散層を用いると、ガス拡散層におけるガス拡散性が低下し、それによって発電効率が低下する場合があるとの知見を得た。
【0012】
したがって、本発明者らは、撥水処理した導電性多孔質基材層の面上にカーボンブラック等の導電性微粒子を含有するマイクロポーラス層を有するガス拡散層を用いた燃料電池において、ガス拡散層と電極触媒層との接触抵抗を低下させること、及びガス拡散層におけるガス拡散性を増加させることで、燃料電池の発電性能を向上させることを検討した。
【0013】
本開示は、電極触媒層との接触抵抗を低下させ、かつガス拡散性能を向上させることができる、燃料電池用ガス拡散層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
《態様1》
導電性多孔質基材層、及びマイクロポーラス層がこの順に積層されており、
前記マイクロポーラス層は、
炭素粒子及び撥水性樹脂を含有しており、
前記導電性多孔質基材層に含浸している含浸部分、及び前記導電性多孔質基材層に含浸していない非含浸部分を有しており、
前記非含浸部分の厚さが、0.0μm超20.0μm以下であり、かつ
前記含浸部分の厚さが、前記マイクロポーラス層の全体の厚さに対して29%以下である、
燃料電池用ガス拡散層。
《態様2》
前記炭素粒子の平均一次粒子径が、25nm~70nmである、態様1に記載の燃料電池用ガス拡散層。
《態様3》
前記含浸部分の厚さが、8.0μm以下である、態様1又は2に記載の燃料電池用ガス拡散層。
《態様4》
前記非含浸部分の表面の算術表面粗さが、6.0μm以下である、態様1~3のいずれか一つに記載の燃料電池用ガス拡散層。
《態様5》
前記非含浸部分の表面に対する水の静的接触角が、140°以上である、態様1~4のいずれか一つに記載の燃料電池用ガス拡散層。
《態様6》
前記導電性多孔質基材層は、炭素繊維及びバインダを含有しており、
前記炭素繊維と前記バインダとの合計に対する前記炭素繊維の割合が、65質量%以上である、態様1~5のいずれか一つに記載の燃料電池用ガス拡散層。
《態様7》
前記導電性多孔質基材層の少なくともマイクロポーラス層を有する面側の気孔率が、50%~75%である、態様1~6のいずれか一つに記載の燃料電池用ガス拡散層。
《態様8》
前記導電性多孔質基材層の厚さが、100.0μm~300.0μmである、態様1~7のいずれか一つに記載の燃料電池用ガス拡散層。
《態様9》
積層方向における弾性変形率が、0.05MPa-1以上である、態様1~8のいずれか一つに記載の燃料電池用ガス拡散層。
《態様10》
態様1~9のいずれか一つに記載の燃料電池用ガス拡散層を有する燃料電池単位セル。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、電極触媒層との接触抵抗を低下させ、かつガス拡散性能を向上させることができる、燃料電池用ガス拡散層を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本開示の一つの実施形態に従う燃料電池用ガス拡散層を、側面から見た模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0018】
《燃料電池用ガス拡散層》
本開示の燃料電池用ガス拡散層は、導電性多孔質基材層、及びマイクロポーラス層がこの順に積層されており、上記マイクロポーラス層は、炭素粒子及び撥水性樹脂を含有しており、上記導電性多孔質基材層に含浸している含浸部分、及び上記導電性多孔質基材層に含浸していない非含浸部分を有しており、上記非含浸部分の厚さが、0.0μm超20.0μm以下であり、かつ上記含浸部分の厚さが、上記マイクロポーラス層の全体の厚さに対して29%以下である。
【0019】
図1は、本開示の一つの実施形態に従う燃料電池用ガス拡散層を、側面から見た模式図である。
【0020】
図1に示すように、一つの実施形態に従う燃料電池用ガス拡散層100は、導電性多孔質基材層10、及びマイクロポーラス層20がこの順に積層されている。また、マイクロポーラス層20は、導電性多孔質基材層10に含浸している含浸部分20a、及び導電性多孔質基材層10に含浸していない非含浸部分20bを有している。マイクロポーラス層20のうち含浸部分20aは、導電性多孔質基材層10を構成している炭素繊維11間の空隙に染み込んでいる。
【0021】
ここで、
図1には示していないが、マイクロポーラス層20は、炭素粒子及び撥水性樹脂を含有しており、また、非含浸部分20bの厚さは、0.0μm超20.0μm以下であり、かつ含浸部分20aの厚さは、マイクロポーラス層20の全体の厚さに対して29%以下である。
【0022】
なお、
図1は本開示の燃料電池用ガス拡散層を限定するものではない。
【0023】
本開示の燃料電池用ガス拡散層の全体の厚さは、例えば、燃料電池用ガス拡散層の両面を平板で挟み込み、1.1MPaのプレス圧を印加させた状態でマイクロゲージにより任意の4点の厚さの平均値から取得することができる。
【0024】
また、マイクロポーラス層の全体の厚さ、並びにマイクロポーラス層の含浸部分及び非含浸部分の厚さは、燃料電池用ガス拡散層を樹脂埋め・断面出しを行った後、電子線マイクロアナライザ(EPMA)によって元素マップを取得し、マイクロポーラス層の含浸部分及び非含浸部分の厚さ、並びにマイクロポーラス層全体の厚さの比率を読み取り、燃料電池用ガス拡散層の全体の厚さを乗算することにより取得することができる。
【0025】
原理によって限定されるものではないが、本開示の燃料電池用ガス拡散層によって電極触媒層との接触抵抗を低減し、かつガス拡散性能を向上させることができる原理は、以下のとおりである。
【0026】
撥水処理した導電性多孔質基材層の面上にカーボンブラック等の導電性微粒子を含有するマイクロポーラス層が配置されているガス拡散層は、燃料電池単位セルに組み込んだ際には、マイクロポーラス層が膜電極接合体と接するように配置して用いられる。
【0027】
ここで、本開示の燃料電池用ガス拡散層は、導電性多孔質基材層、マイクロポーラス層のうち導電性多孔質基材層に含浸している含浸部分、及びマイクロポーラス層のうち導電性多孔質基材層に含浸していない非含浸部分がこの順に配置されている。
【0028】
そして、導電性多孔質基材層及びマイクロポーラス層のうち含浸部分は、導電性多孔質基材層を構成する材料を有しているため、高い導電性を有する。これに対して、マイクロポーラス層のうち非含浸部分は、導電性多孔質基材層を構成する材料を有していないため、導電性多孔質基材層及び含浸部分と比較して、低い導電性を有する。
【0029】
本開示の燃料電池用ガス拡散層では、マイクロポーラス層のうち非含浸部分の厚さを小さくすることで、すなわち0.0μm超20.0μm以下とすることで、ガス拡散層のマイクロポーラス層が配置されている側の導電性を向上させている。
【0030】
すなわち、本開示の燃料電池用ガス拡散層は、ガス拡散層から電極触媒層に加えられる平均面圧が不均一となることによる電極触媒層との接触抵抗の増加に対して、ガス拡散層のうち電極触媒層と接触する面側の導電性を向上させることで、電極触媒層との接触抵抗を低減している。
【0031】
また、マイクロポーラス層は、炭素粒子及び撥水性樹脂を含有しており、導電性多孔質基材層と比較して、空孔率が小さく、したがって面内方向及び厚さ方向のガス拡散性が低い。
【0032】
したがって、マイクロポーラス層のうち、導電性多孔質基材層に含浸している含浸部分の厚さが大きいと、ガス拡散層の面内方向におけるガス拡散性が低下すると考えられる。また、マイクロポーラス層全体の厚さが大きいと、ガス拡散層の厚さ方向におけるガス拡散性が低下すると考えられる。
【0033】
本開示の燃料電池用ガス拡散層では、マイクロポーラス層のうち非含浸部分の厚さが0.0μm超20.0μm以下であり、かつ含浸部分の厚さが、マイクロポーラス層の全体の厚さに対して29%以下であり、すなわちマイクロポーラス層のうち非含浸部分の厚さが薄く形成されていると共に、マイクロポーラス層の導電性多孔質基材層への含浸の量が少ない。
【0034】
したがって、本開示の燃料電池用ガス拡散層では、導電性多孔質基材層に含浸している含浸部分の厚さが小さく、ガス拡散層の面内方向におけるガス拡散性を向上させることができる。これに加えて、本開示の燃料電池用ガス拡散層では、マイクロポーラス層全体の厚さが小さく、ガス拡散層の厚さ方向におけるガス拡散性も向上させることができる。
【0035】
本開示の燃料電池用ガス拡散層は、積層方向における弾性変形率が、0.05MPa-1以上であることが好ましい。
【0036】
積層方向における弾性変形率をこの様な値にすることによって、本開示の燃料電池用ガス拡散層を有する燃料電池単位セルが、例えば外部からの衝撃等による応力を受けた際や、温度や乾燥・湿潤の変化等によって電解質膜が膨張収縮した際等に、変形しにくい。そのため、燃料電池用ガス拡散層の構造を保持しやすく、燃料電池単位セル内の構造を維持するための構成、例えば耐衝撃性等を担保するためのセル・スタック構成を簡易化することができ、燃料電池単位セルや、燃料電池単位セルが複数積層された構成を有する燃料電池モジュール等の製造コストを低減することができる。
【0037】
積層方向における弾性変形率は、0.05MPa-1以上、0.10MPa-1以上、又は0.50MPa-1以上、であってよく、1.00MPa-1以下、0.80MPa-1以下、又は0.50MPa-1以下であってよい。
【0038】
なお、燃料電池用ガス拡散層の弾性変形率は、燃料電池用ガス拡散層の両面にそれぞれ平板を乗せ、両面から0.6MPaの荷重を掛けたときの燃料電池用ガス拡散層の厚さと、1.0MPaの荷重を掛けたときの燃料電池用ガス拡散層の厚さの差から求めることができる。
【0039】
〈導電性多孔質基材層〉
本開示の燃料電池用ガス拡散層において、導電性多孔質基材層は、膜電極接合体に反応ガスを供給することができ、かつ導電性を有する任意の多孔質基材を用いることができる。
【0040】
この様な材料としては、燃料電池用ガス拡散層に一般的に用いられる材料、例えばカーボンペーパー若しくはカーボンクロス等のカーボン多孔質体、又は金属メッシュ若しくは発泡金属等の金属多孔質体等のガス透過性を有する導電性部材を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0041】
カーボンペーパー若しくはカーボンクロス等のカーボン多孔質体は、例えば炭素繊維及びバインダ等から形成されていることができる。
【0042】
ここで、導電性多孔質基材層が炭素繊維及びバインダを含有している場合、炭素繊維とバインダとの合計に対する炭素繊維の割合は、65質量%以上であることが好ましい。
【0043】
炭素繊維とバインダとの合計に対する炭素繊維の割合が65質量%以上であると、導電性多孔質層の弾性変形量(ばね性)を大きくすることができ、当該層に荷重がかかった場合においても当該層の構造が破壊されにくく、導電性多孔質層の電気抵抗率の増加及び厚さ方向のガス透過性の低下等が生じにくい。
【0044】
本開示の燃料電池用ガス拡散層において、導電性多孔質基材層の少なくともマイクロポーラス層を有する面側の気孔率は、50%~75%であることが好ましい。
【0045】
マイクロポーラス層は、例えば炭素粒子及び撥水性樹脂を含有するスラリーを導電性多孔質基材層上に塗布等によって配置し、乾燥することによって形成することができる。
【0046】
この際に、導電性多孔質基材層の少なくともマイクロポーラス層を有する面側の気孔率が75%以下であると、導電性多孔質基材層にスラリーが含浸しにくくなるため、マイクロポーラス層の含浸部分の割合を低下させることができる。
【0047】
これにより、燃料電池用ガス拡散層のうちマイクロポーラス層が含浸している部分の厚さを小さくすることができるため、面内方向のガス拡散性を向上させることができる。
【0048】
更には、マイクロポーラス層が燃料電池用ガス拡散層に含浸しにくいため、マイクロポーラス層の非含浸部分をより均一に一定の厚さで形成しやすく、導電性多孔質基材層を膜電極接合体の上に配置した際に、膜電極接合体が導電性多孔質基材層を形成している材料、例えば炭素繊維等が接触することによって傷つけられることを抑制でき、高いリーク耐性を実現することができる。
【0049】
他方、導電性多孔質基材層の少なくともマイクロポーラス層を有する面側の気孔率が50%以上であると、マイクロポーラス層が含浸している部分においても気孔率が一定以上に確保され、ガス拡散性を向上させることができる。
【0050】
導電性多孔質基材層の少なくともマイクロポーラス層を有する面側の気孔率は、50%以上、60%以上、又は70%以上であってよく、75%以下、70%以下、又は60%以下であってよい。
【0051】
本開示の燃料電池用ガス拡散層において、導電性多孔質基材層の厚さは、100.0μm~300.0μmであることが好ましい。
【0052】
導電性多孔質基材層の厚さが100.0μm以上である場合、導電性多孔質基材層全体の厚さを、マイクロポーラス層の含浸部分よりもより大きくすることができ、面内方向のガス拡散性を向上させることができる。また、導電性多孔質基材層の厚さが300.0μm以下である場合、燃料電池用ガス拡散層の厚さを低減することができ、即ち燃料電池単位セルの厚さを低減することができ、燃料電池単位セルの体積エネルギー密度を向上させることができる。
【0053】
導電性多孔質基材層の厚さは、100.0μm以上、150.0μm以上、又は200.0μm以上であってよく、300.0μm以下、250.0μm以下、又は200.0μm以下であってよい。
【0054】
〈マイクロポーラス層〉
本開示の燃料電池用ガス拡散層において、マイクロポーラス層は、炭素粒子及び撥水性樹脂を含有している。マイクロポーラス層は、マイクロポーラス層の機能を阻害しない限りにおいて、これら以外の成分を更に含んでいてよい。
【0055】
また、マイクロポーラス層は、導電性多孔質基材層に含浸している含浸部分、及び導電性多孔質基材層に含浸していない非含浸部分を有している。
【0056】
(炭素粒子)
炭素粒子としては、例えばカーボンブラック、グラフェン、又は黒鉛等の粒子等を挙げることができる。
【0057】
炭素粒子の平均一次粒子径は、25nm~70nmであってよい。炭素粒子の平均一次粒子径は、25nm以上、45nm以上、又は65nm以上であってよく、70nm以下、60nm以下、又は50nm以下であってよい。
【0058】
なお、炭素粒子の平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)及び走査型電子顕微鏡(SEM)等の電子顕微鏡を用いて、無作為に選択した100個以上の粒子の定方向径(Feret径)を測定した場合のそれらの測定値の算術平均値である。
【0059】
(撥水性樹脂)
撥水性樹脂としては、PTFE、PVDF、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素系の高分子材料や、ポリプロピレン、ポリエチレン等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0060】
(含浸部分)
マイクロポーラス層のうち導電性多孔質基材層に含浸している含浸部分は、厚さが、マイクロポーラス層の全体の厚さに対して29%以下である。
【0061】
マイクロポーラス層の全体の厚さに対する含浸部分の厚さの割合は、0%超、5%以上、15%以上、20%以上、又は25%以上であってよく、29%以下、28%以下、25%以下、又は20%以下であってよい。
【0062】
含浸部分の厚さは、8.0μm以下であってよい。
【0063】
含浸部分の厚さは、0.0μm超、1.5μm以上、3.0μm以上、又は4.5μm以上であってよく、8.0μm以下、7.0μm以下、6.0μm以下、又は5.0μm以下であってよい。
【0064】
(非含浸部分)
マイクロポーラス層のうち導電性多孔質基材層に含浸していない非含浸部分の厚さは、0.0μm超20.0μm以下である。
【0065】
非含浸部分の厚さは、0.0μm超、5.0μm以上、10.0μm以上、又は15.0μm以上であってよく、20.0μm以下、15.0μm以下、10.0μm以下、又は5.0μm以下であってよい。
【0066】
非含浸部分の表面の算術表面粗さは、6.0μm以下であることが好ましい。
【0067】
マイクロポーラス層のうち非含浸部分の表面は、本開示の燃料電池積層体を燃料電池単位セルに組み込んだ際に膜電極接合体と接触する面である。非含浸部分の表面が粗い場合、すなわち算術表面粗さが大きい場合、燃料電池単位セルの構成によっては非含浸部分の表面によって膜電極接合体が傷つけられ、膜電極接合体に穴が開いて反応ガスのリークが起こる等の虞がある。
【0068】
この点に関して、非含浸部分の表面の算術表面粗さは、6.0μm以下である場合、非含浸部分の表面が滑らかであり、本開示の燃料電池積層体を燃料電池単位セルに組み込んだ際に膜電極接合体が傷つきにくく、反応ガスのリークの発生を抑制することができる。
【0069】
非含浸部分の表面の算術表面粗さは、0.0μm超、1.0μm以上、2.0μm以上、又は3.0μm以上であってよく、6.0μm以下、5.0μm以下、4.0μm以下、又は3.0μm以下であってよい。
【0070】
なお、非含浸部分の表面の算術表面粗さRaは、JIS B 0601:2013に基づいて測定することができる。例えば、非含浸部分の表面の算術表面粗さRaは、マイクロポーラス層の非含浸部分の表面を、レーザー顕微鏡を用いて観察し、所定の面積内における算術表面粗さRaを測定することによって行うことができる。
【0071】
マイクロポーラス層のうち非含浸部分の表面に対する水の静的接触角は、140°以上であることが好ましい。
【0072】
マイクロポーラス層は撥水性樹脂を含有しているため、撥水性を有している。マイクロポーラス層のうち非含浸部分の表面に対する水の静的接触角が140°以上であると、燃料電池単位セルにおいて電池反応を行った際の生成水がマイクロポーラス層から排出されやすい。これにより、電池反応を行う際におけるマイクロポーラス層のガス透過性の低下を抑制することができる。また、電池反応を行った後にも生成水がマイクロポーラス層中に残りにくく、再度電池反応を開始する際においてもマイクロポーラス層に反応ガスを供給しやすい。
【0073】
マイクロポーラス層のうち非含浸部分の表面に対する水の静的接触角は140°以上、150°以上、160°以、又は170°以上であってよく、180°以下、170°以下、160°以下、又は150°以下であってよい。
【0074】
なお、マイクロポーラス層のうち非含浸部分の表面に対する水の静的接触角は、JIS R3257:1999に基づいて測定することができる。
【0075】
〈燃料電池用ガス拡散層の製造方法〉
本開示の燃料電池用ガス拡散層は、例えば導電性多孔質層を撥水処理した後に、マイクロポーラス層用のスラリーを導電性多孔質層上に塗布し、乾燥及び焼成することによって製造することができる。
【0076】
なお、マイクロポーラス層用スラリーの導電性多孔質層への含浸量は、以下に示すOlsson-Phihlの式に従う。そのため、導電性多孔質層の毛細管力、マイクロポーラス層用スラリーの粘度、及びマイクロポーラス層用スラリーの塗工圧を調節することによって、マイクロポーラス層用スラリーの導電性多孔質層への含浸量を調節することができる。
【0077】
本開示の燃料電池用ガス拡散層を製造するためのより具体的方法を、以下に示す。
【0078】
まず、導電性多孔質層の前駆体、例えばカーボンペーパー等に対して、撥水処理液としてのPTFE等の分散液を塗布し、含浸させる。その後、導電性多孔質層の前駆体を乾燥及び焼成して、導電性多孔質層を調製する。乾燥及び焼成は、再度行ってもよい。
【0079】
次いで、炭素粒子及び撥水性樹脂を含有しているマイクロポーラス層用スラリーを調製して、これを導電性多孔質層の表面に、例えばダイコータ等によって塗工する。
【0080】
最後に、マイクロポーラス層用スラリーが塗工された導電性多孔質層を乾燥及び焼成する。
【0081】
なお、本開示の燃料電池用ガス拡散層は、上記の製造方法以外の方法によっても製造することができる。
【0082】
《燃料電池単位セル》
本開示の燃料電池単位セルは、上記の燃料電池用ガス拡散層を有する。
【0083】
本開示の燃料電池単位セルは、アノードセパレーター、アノード側ガス拡散層、アノード触媒電極層、電解質層、カソード触媒電極層、カソード側ガス拡散層、及びカソードセパレーターがこの順に積層されている構造を有していることができる。
【0084】
また、アノード触媒電極層、電解質層、及びカソード触媒電極層の積層体は、膜電極接合体とも言い換えることができる。
【実施例】
【0085】
《実施例1~4及び比較例1~6》
以下のようにして、実施例1~4及び比較例1~6のガス拡散層を調製し、接触抵抗、面直方向及び面内方向のガス透過性、並びにリーク耐性を評価した。
【0086】
〈実施例1〉
以下のようにして、実施例1のガス拡散層を調製した。また、実施例1のガス拡散層の製造条件を、以下の表1にまとめた。
【0087】
(導電性多孔質基材層の調製)
ポリアクリロニトリルを原料とする炭素繊維からなるカーボンペーパーを、ガス拡散層用の基材として用意した。なお、このカーボンペーパーは、長方形であり、目付重量は約5.0mg/cm2であり、厚みは約200μmであり、かつ空隙率は約80%であった。
【0088】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)60%分散液をイオン交換水で希釈して、上記のカーボンペーパーに塗布し、含浸させた。
【0089】
(第1の乾燥及び焼成)
その後、PTFEを含浸させたカーボンペーパーに対して、熱風で3分間、乾燥及び焼成を行った。なお、乾燥温度は350℃であった。冷却後の基材重量測定から、基材重量に対し0.5mg/cm2のPTFEが付着していることがわかった。
【0090】
(第2の乾燥及び焼成)
第1の乾燥及び焼成に、PTFEを含浸させたカーボンペーパーに対して、更に熱風で3分間、乾燥及び焼成を行った。なお、乾燥温度は360℃であった。冷却後の基材重量測定から、基材重量に対し0.45mg/cm2のPTFEが付着していることがわかった。
【0091】
(マイクロポーラス層の形成)
撥水性樹脂として平均粒子径0.2μmのPTFEを、炭素粒子として平均一次粒子径35nmのアセチレンブラックをそれぞれ用い、これらをPTFEとアセチレンブラックとの質量比が40:60(乾燥重量比)になるようにして脱イオン水中に分散させて、固形分含量10%のマイクロポーラス層用スラリーを作製した。このスラリーの粘度は、E型粘度計で約400mPa・s(50s-1)であった。塗工装置としてダイコータを用い、塗出量を8.0cc/分とし、塗工ギャップを300μmとして、このスラリーを導電性多孔質基材層に塗布した。
【0092】
(第3の乾燥及び焼成)
その後、マイクロポーラス層用スラリーを塗布した導電性多孔質基材層に対して、熱風乾燥により360℃で3分間、乾燥及び焼成を行なった。焼成後、放冷して、実施例1のガス拡散層を得た。
【0093】
〈実施例2~4及び比較例1~6〉
第1の乾燥及び焼成における温度条件、並びにマイクロポーラス層用スラリーを導電性多孔質基材層に塗布する際の塗出量及び塗工ギャップを以下の表1に示すように変えたことを除いて、実施例1と同様にして実施例2~4及び比較例1~6のガス拡散層を得た。
【0094】
【0095】
《ガス拡散層の構成の評価》
〈ガス拡散層の厚さの評価〉
各例のガス拡散層の両面を平板で挟み込み、1.1MPaのプレス圧を印加させた状態でマイクロゲージにより4つの角における厚さの平均値から取得した。次いで、各例のガス拡散層を樹脂埋め・断面出しを行った後、電子線マイクロアナライザ(EPMA)によって元素マップを取得し、マイクロポーラス層の含浸部分及び非含浸部分の厚さ、並びにマイクロポーラス層全体の厚さの比率を読み取り、先に取得していた各例のガス拡散層の全体厚さを乗算することにより、マイクロポーラス層の含浸部分及び非含浸部分の厚さ、並びにマイクロポーラス層全体の厚さを取得した。
【0096】
〈表面平滑性の評価〉
マイクロポーラス層の非含浸部分の表面を、レーザー顕微鏡を用いて観察して、約3.0mm×約3.0mm角の面積の算術平均粗さを取得した。
【0097】
《ガス拡散層の性能の評価》
〈接触抵抗の評価〉
各例のガス拡散層と触媒電極層とを重ね合わせ、ガス拡散層と触媒電極層とを合わせた貫通抵抗R1、ガス拡散層の貫通抵抗R2、及び触媒電極層の貫通抵抗R3を、それぞれ4端子法を用いて取得し、R1-R2-R3によって接触抵抗を取得した。なお、接触抵抗の測定は、ガス拡散層と触媒電極層とを重ね合わせたものに、厚さ方向に0.2MPaの荷重を加えて拘束しつつ行われた。
【0098】
〈厚さ方向のガス拡散抵抗の評価〉
各例のガス拡散層と市販の膜電極接合体を用いて燃料電池単位セルを組立てた。この燃料電池単位セルを80%RHの湿度環境になるように調湿したのち、限界電流法にて厚さ方向のガス拡散抵抗を取得した。なお、ガス拡散抵抗は、ガスの透過性が高いほど小さくなり、ガスの透過性が低いほど大きくなる関係にある。
【0099】
〈面内方向のガス透過性の評価〉
各例のガス拡散層の面内方向を、これに添うように構成された治具を用いて1.8MPaの荷重を加えて拘束した。次いで、各例のガス拡散層の側面から1、2、及び3L/minのドライガスを流し、この際に要した入りのガスの気圧を計測し、ガス流量を気圧で乗算することによって、ガス拡散層の面内方向のガス透過性を取得した。
【0100】
〈リーク耐性の評価〉
各例のガス拡散層と市販の膜電極接合体とを、マイクロポーラス層が間になるようにして積層し、荷重4.0MPaを掛けて拘束した。次いで、ガス拡散層側の面と膜電極接合体側の面とをそれぞれ電極に接続し、電圧0.2Vをかけた際に流れる電流を計測した。電流が30mAよりも大きくなった場合、リークしたと判定した。これをガス拡散層側の面の3か所にて行い、1箇所もリークが無い場合にリーク耐性があると評価とし、1つでもリークした場合にはリーク耐性がないと評価した。
【0101】
《結果》
各例について、ガス拡散層の構成及び性能の評価結果を、以下の表2にまとめた。
【0102】
【0103】
表2に示すように、実施例1及び2のガス拡散層についてはそれぞれ非含浸部分の厚さが20.0μmであり、実施例3及び4のガス拡散層については非含浸部分の厚さが15.0μmであり、いずれも小さかった。これらの例では、接触抵抗は3.6Ω/cm2~3.9Ω/cm2であり、低い接触抵抗を有していた。
【0104】
また、実施例1~4のガス拡散層についてはそれぞれマイクロポーラス層全体の厚さが20.0μm~27.7μmであり、いずれも小さかった。これらの例では、厚さ方向のガス拡散抵抗は75.0~77.0であり、低いガス拡散抵抗を有していた。このことは、これらの例において厚さ方向のガス透過性が大きかったことを示している。
【0105】
また、実施例1~4のガス拡散層についてはそれぞれマイクロポーラス層全体の厚さに対する含浸部分の厚さの割合は、23.1%~28.2%であり、いずれも小さかった。これらの例では、いずれも面内方向のガス透過性が53.0m2/s~60.0m2/sであり、面内方向に関して高いガス透過性を有していた。
【0106】
また、実施例1~4のガス拡散層についてはそれぞれマイクロポーラス層の非含浸部分の表面の算術平均粗さは5.3~5.9μmであり、いずれも小さかった。これらの例では、いずれもリーク耐性を有していた。
【0107】
以上から、実施例1~4のガス拡散層は、電極触媒層との低い接触抵抗、厚さ方向及び面内方向に関する高いガス拡散性能、及びリーク耐性を同時に満たしていた。
【0108】
これに対して、比較例1及び2では、算術平均粗さがそれぞれ5.5μm及び5.4μmであり低かったため、リーク耐性を有していたが、マイクロポーラス層の全体の厚さ、非含浸部分の厚さ、含浸部分の厚さがいずれも大きく、高い接触抵抗並びに厚さ方向及び面内方向に関する高いガス透過性を有していた。
【0109】
また、比較例3では、マイクロポーラス層の非含浸部分の厚さが20μmであり、非含浸部分の厚さが小さかったため、電極触媒層との低い接触抵抗を有していた。しかしながら、比較例3では、マイクロポーラス層の全体の厚さ及び非含浸部分の厚さが大きく、厚さ方向及び面内方向に関する低いガス透過性を有していた。
【0110】
また、比較例4では、マイクロポーラス層の全体の厚さ、非含浸部分の厚さ、含浸部分の厚さがいずれも小さかったが、マイクロポーラス層全体の厚さに対する含浸部分の厚さの割合は29.8%であり大きかった。そのため、面内方向のガス透過性が低かった。
【0111】
また、比較例5及び6では、マイクロポーラス層全体の厚さに対する含浸部分の厚さの割合はそれぞれ27.7及び23.1でありいずれも小さかったため、面内方向のガス透過性が高かった。また、算術平均粗さがそれぞれ5.3μm及び5.2μmであり低かったため、リーク耐性を有していた。しかしながら、比較例5及び6では、マイクロポーラス層全体の厚さがそれぞれ41.5及び39.0であり大きかったため、厚さ方向に関する低いガス透過性を有していた。
【符号の説明】
【0112】
10 導電性多孔質基材層
11 炭素繊維
20 マイクロポーラス層
20a 含浸部分
20b 非含浸部分
100 燃料電池用ガス拡散層