IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本板硝子株式会社の特許一覧

特許7431078光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタ
<>
  • 特許-光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタ 図1
  • 特許-光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタ 図2
  • 特許-光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタ 図3
  • 特許-光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタ 図4
  • 特許-光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタ 図5
  • 特許-光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタ 図6
  • 特許-光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタ 図7
  • 特許-光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタ 図8
  • 特許-光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタ 図9
  • 特許-光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタ 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20240206BHJP
【FI】
G02B5/22
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020053414
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152612
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】久保 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】今井 寿雄
【審査官】内村 駿介
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-148855(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030247(WO,A1)
【文献】特開2019-028162(JP,A)
【文献】国際公開第2019/138976(WO,A1)
【文献】特開2011-099038(JP,A)
【文献】特開2002-006101(JP,A)
【文献】特開2020-105409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光吸収性組成物であって、
ハロゲンによって置換されていないアリール基を有するホスホン酸と、ハロゲンによって置換されていないアルキル基を有するホスホン酸と、銅成分とを含む光吸収性化合物と、
紫外線吸収性化合物と、を含有しており、
前記紫外線吸収性化合物の透過スペクトルは、波長300nm~400nmにおいて少なくとも1つの極小値を有し、
前記紫外線吸収性化合物の含有量に対する前記ホスホン酸の含有量の比は、10~300であり、
ハロゲンを有するホスホン酸を含有していない、
光吸収性組成物。
【請求項2】
当該光吸収性組成物を硬化させて得られる光吸収膜の、0度の入射角度における透過スペクトルは、下記(i)、(ii)、(iii)、(iv)、及び(v)の条件を満たす、請求項1に記載の光吸収性組成物。
(i)波長300~350nmにおける透過率の最大値が1%以下である。
(ii)波長450~600nmにおける透過率の平均値が75%以上である。
(iii)波長750~1200nmにおける透過率の最大値が10%以下である。
(iv)波長350~500nmにおいて、透過率が50%となる第一カットオフ波長が380nm以上450nm以下である。
(v)波長550~700nmにおいて、透過率が50%となる第二カットオフ波長が560nm以上640nm以下である。
【請求項3】
前記光吸収膜の前記透過スペクトルは、下記(vi)の条件をさらに満たす、請求項2に記載の光吸収性組成物。
(vi)波長550~650nmにおいて透過率が60%となる波長が570nm以上610nm以下である。
【請求項4】
前記光吸収膜の前記透過スペクトルは、下記(vii)の条件をさらに満たす、請求項2又は3に記載の光吸収性組成物。
(vii)波長650nmにおける透過率T650が30%以下であり、波長700nmにおける透過率T700が7%以下であり、前記透過率T700に対する前記透過率T650の比が3以上8以下である。
【請求項5】
前記光吸収膜の前記透過スペクトルは、下記(viii)の条件をさらに満たす、請求項2~4のいずれか1項に記載の光吸収性組成物。
(viii)波長550~700nmにおいて、下記の式(1)によって決定されるλSLOPEの値が-0.9%/nm以上-0.65%/nm以下である。ただし、式(1)においてλ30%は、透過率が30%となる波長であり、λ70%は、透過率が70%となる波長である。
λSLOPE=-40%/(λ30%-λ70%) 式(1)
【請求項6】
前記光吸収膜の前記透過スペクトルは、下記(ix)の条件をさらに満たす、請求項2~5のいずれか1項に記載の光吸収性組成物。
(ix)第二カットオフ波長と第一カットオフ波長との差の絶対値が180nm以上240nm以下である。
【請求項7】
前記光吸収膜の前記透過スペクトルは、下記(x)の条件をさらに満たす、請求項2~6のいずれか1項に記載の光吸収性組成物。
(x)下記の式(2)、式(3)、及び式(4)によって決定されるΔλM 20%の値が10nm以上50nm以下である。ただし、式(3)及び式(4)において、λM 350-700は、波長350~700nmにおける透過率の最大値TM 350-700を示す波長であり、λM-20% 350-700は、λM 350-700より短く、かつ、TM 350-700-20%の透過率を示す波長であり、λM+20% 350-700は、λM 350-700より長く、かつ、TM 350-700-20%の透過率を示す波長である。
ΔλM 20%=|ΔλM- 20%-ΔλM+ 20%| 式(2)
ΔλM- 20%=|λM 350-700-λM-20% 350-700| 式(3)
ΔλM+ 20%=|λM 350-700-λM+20% 350-700| 式(4)
【請求項8】
ハロゲンによって置換されていないアリール基を有するホスホン酸と、ハロゲンによって置換されていないアルキル基を有するホスホン酸と、銅成分とを含む光吸収性化合物と、
紫外線吸収性化合物と、を含有しており、
前記紫外線吸収性化合物の透過スペクトルは、波長300nm~400nmにおいて少なくとも1つの極小値を有し、
前記紫外線吸収性化合物の含有量に対する前記ホスホン酸の含有量の比は、10~300であり、
ハロゲンを有するホスホン酸を含有していない、
光吸収膜。
【請求項9】
当該光吸収膜の0度の入射角度における透過スペクトルは、下記(I)、(II)、(III)、(IV)、及び(V)の条件を満たす、請求項8に記載の光吸収膜。
(I)波長300~350nmにおける透過率の最大値が1%以下である。
(II)波長450~600nmにおける透過率の平均値が75%以上である。
(III)波長750~1200nmにおける透過率の最大値が10%以下である。
(IV)波長350~500nmにおいて、透過率が50%となる第一カットオフ波長が380nm以上450nm以下である。
(V)波長550~700nmにおいて、透過率が50%となる第二カットオフ波長が560nm以上640nm以下である。
【請求項10】
当該光吸収膜の前記透過スペクトルは、下記(VI)の条件をさらに満たす、請求項9に記載の光吸収膜。
(VI)波長550~650nmにおいて透過率が60%となる波長が570nm以上610nm以下である。
【請求項11】
当該光吸収膜の前記透過スペクトルは、下記(VII)の条件をさらに満たす、請求項9又は10に記載の光吸収膜。
(VII)波長650nmにおける透過率T650が30%以下であり、波長700nmにおける透過率T700が7%以下であり、前記透過率T700に対する前記透過率T650の比が3以上8以下である。
【請求項12】
当該光吸収膜の前記透過スペクトルは、下記(VIII)の条件をさらに満たす、請求項9~11のいずれか1項に記載の光吸収膜。
(VIII)波長550~700nmにおいて、下記の式(5)によって決定されるλSLOPEの値が-0.9%/nm以上-0.65%/nm以下である。ただし、式(5)においてλ30%は、透過率が30%となる波長であり、λ70%は、透過率が70%となる波長である。
λSLOPE=-40%/(λ30%-λ70%) 式(5)
【請求項13】
当該光吸収膜の前記透過スペクトルは、下記(IX)の条件をさらに満たす、請求項9~12のいずれか1項に記載の光吸収膜。
(IX)第二カットオフ波長と第一カットオフ波長との差の絶対値が180nm以上240nm以下である。
【請求項14】
当該光吸収膜の前記透過スペクトルは、下記(X)の条件をさらに満たす、請求項9~13のいずれか1項に記載の光吸収膜。
(X)下記の式(6)、式(7)、及び式(8)によって決定されるΔλM 20%の値が10nm以上50nm以下である。ただし、式(7)及び式(8)において、λM 350-700は、波長350~700nmにおける透過率の最大値TM 350-700を示す波長であり、λM-20% 350-700は、λM 350-700より短く、かつ、TM 350-700-20%の透過率を示す波長であり、λM+20% 350-700は、λM 350-700より長く、かつ、TM 350-700-20%の透過率を示す波長である。
ΔλM 20%=|ΔλM- 20%-ΔλM+ 20%| 式(6)
ΔλM- 20%=|λM 350-700-λM-20% 350-700| 式(7)
ΔλM+ 20%=|λM 350-700-λM+20% 350-700| 式(8)
【請求項15】
請求項8~14のいずれか1項に記載の光吸収膜を備えた、光学フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
CCD(Charge Coupled Device)又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の固体撮像素子を用いた撮像装置において、良好な色再現性を有する画像を得るために様々な光学フィルタが固体撮像素子の前面に配置されている。一般的に、固体撮像素子は紫外線領域から赤外線領域に至る広い波長範囲で分光感度を有する。一方、人間の視感度は可視光の領域のみに存在する。このため、撮像装置における固体撮像素子の分光感度を人間の視感度に近づけるために、固体撮像素子の前面に赤外線又は紫外線の一部の光を遮蔽する光学フィルタを配置する技術が知られている。
【0003】
従来、そのような光学フィルタとしては、誘電体多層膜による光反射を利用して赤外線又は紫外線を遮蔽するものが一般的であった。一方、近年、光吸収剤を含有する膜を備えた光学フィルタが注目されている。光吸収剤を含有する膜を備えた光学フィルタの透過率特性は入射角の影響を受けにくいので、撮像装置において光学フィルタに斜めに光が入射する場合でも色味の変化が少ない良好な画像を得ることができる。また、光反射膜を用いない光吸収型の光学フィルタは、光反射膜による多重反射を原因とするゴーストやフレアの発生を抑制することができるので、逆光状態や夜景の撮影において良好な画像を得やすい。加えて、光吸収剤を含有する膜を備えた光学フィルタは、撮像装置の小型化及び薄型化の点でも有利である。
【0004】
そのような光吸収剤として、ホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤が知られている。例えば、特許文献1には、フェニル基又はハロゲン化フェニル基を有するホスホン酸(フェニル系ホスホン酸)と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含有する光吸収層を備えた、光学フィルタが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、赤外線及び紫外線を吸収可能なUV‐IR吸収層を備えた光学フィルタが記載されている。UV‐IR吸収層は、ホスホン酸と銅イオンとによって形成されたUV‐IR吸収剤を含んでいる。光学フィルタが所定の光学特性を満たすように、UV‐IR吸収性組成物は、例えば、フェニル系ホスホン酸と、アルキル基又はハロゲン化アルキル基を有するホスホン酸(アルキル系ホスホン酸)とを含有している。
【0006】
また、特許文献3には、所定の有機色素を含有している有機色素含有層と、ホスホン酸銅含有層とを備えた赤外線カットフィルタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2018/088561号
【文献】特許第6232161号公報
【文献】国際公開第2017/006571号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
撮像素子の分光感度を人間の視感度に適合させるためには、紫外線領域及び近赤外線領域において十分な光吸収特性を有する部材を使用することが重要である。例えば、特許文献1~3に記載されているように、特定の種類のホスホン酸と、銅成分等の金属成分とを含む光吸収性化合物を樹脂に含有させて得られた組成物を板状に成形して作製される光吸収フィルタを使用することが考えられる。一方、環境配慮の観点から、電子部品又はその周辺に配置される部品におけるハロゲンの含有量を制限する規定が策定されている。このため、光吸収フィルタにおいてもハロゲンの含有量が少ないことが有利である。特許文献1~3に記載の技術は、このような観点から再検討の余地を有する。
【0009】
このような事情に鑑み、本発明は、環境に配慮しつつ人間の視感度に対応した透過スペクトルに近しい光吸収特性を有するために有利な光吸収性組成物、光吸収膜、及び光学フィルタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
光吸収性組成物であって、
ハロゲンによって置換されていないアリール基を有するホスホン酸と、ハロゲンによって置換されていないアルキル基を有するホスホン酸と、銅成分とを含む光吸収性化合物と、
紫外線吸収性化合物と、を含有しており、
前記紫外線吸収性化合物の透過スペクトルは、波長300nm~400nmにおいて少なくとも1つの極小値を有する、
光吸収性組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、
ハロゲンによって置換されていないアリール基を有するホスホン酸と、ハロゲンによって置換されていないアルキル基を有するホスホン酸と、銅成分とを含む光吸収性化合物と、
紫外線吸収性化合物と、を含有しており、
前記紫外線吸収性化合物の透過スペクトルは、波長300nm~400nmにおいて少なくとも1つの極小値を有する、
光吸収膜を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記の光吸収膜を備えた、光学フィルタを提供する。
【発明の効果】
【0013】
上記の光吸収性組成物は、環境に配慮しつつ人間の視感度に対応した透過スペクトルに近しい光吸収特性を有するために有利である。加えて、上記の光吸収膜及び上記の光学フィルタは、環境に配慮されており、人間の視感度に対応した透過スペクトルに近しい光吸収特性を有しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明に係る光吸収膜の一例を示す断面図である。
図2図2は、本発明に係る光学フィルタの一例を示す断面図である。
図3図3は、紫外線吸収性化合物の透過スペクトルである。
図4図4は、実施例1に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図5図5は、実施例2に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図6図6は、実施例3に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図7図7は、比較例1に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図8図8は、比較例2に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図9図9は、比較例3に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図10図10は、透過スペクトルにおけるパラメータを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明は、本発明の例示に関するものであり、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0016】
本発明に係る光吸収性組成物は、光吸収性化合物と、紫外線吸収性化合物とを含有している。光吸収性化合物は、ハロゲンによって置換されていないアリール基を有するホスホン酸と、ハロゲンによって置換されていないアルキル基を有するホスホン酸と、銅成分とを含む。紫外線吸収性化合物の透過スペクトルは、波長300nm~400nmにおいて少なくとも1つの極小値を有する。ハロゲンによって置換されていないアリール基、ハロゲンによって置換されていないアルキル基の一例として、アリール基又はアルキル基に含まれる水素原子がハロゲン原子と置換されないアリール基又はアルキル基が挙げられる。また、光吸収性化合物は、ハロゲンによって置換されていないアリール基を有するホスホン酸と銅成分とを含む光吸収性化合物と、ハロゲンによって置換されていないアルキル基を有するホスホン酸と銅成分とを含む光吸収性化合物とを含んでいてもよい。
【0017】
光吸収性化合物におけるホスホン酸がハロゲンを有しないことにより、環境に配慮した光吸収性組成物を提供できる。また、この光吸収性組成物を用いて作製された光学フィルタと、このような光学フィルタを備えたカメラモジュール及び撮像装置等の製品が環境に配慮した製品として取り扱われうる。例えば、国際電気標準会議(IEC)、米国電子回路工業協会(IPC)、及び日本電子回路工業会(JPCA)は、環境配慮の観点から、電子部品におけるハロゲンの含有量を質量基準で下記の通りと定める規定を策定している。光吸収性組成物及びこの光吸収性組成物を用いて作製された製品は、このような規定に適合しうる。
Cl(塩素)の含有量≦900parts per million(ppm)
Br(臭素)の含有量≦900ppm
Cl(塩素)の含有量とBr(臭素)の含有量との和≦1500ppm
【0018】
可視光領域より短波長側に位置する波長領域の光である、紫外線領域の光の遮蔽性を良好にするために、ハロゲンによって置換されたアリール基又はハロゲンによって置換されたアルキル基を有するホスホン酸を含む化合物の使用が有利であると考えられていた。一方、本発明に係る光吸収性組成物において、光吸収性化合物におけるホスホン酸がハロゲンを有しないことにより低下した紫外線領域の光の遮蔽性を、上記の紫外線吸収剤を使用することによって補完できることが新たに見出された。
【0019】
本発明に係る光吸収性組成物を硬化させて得られる光吸収膜の0度の入射角度における透過スペクトルは、例えば、下記(i)、(ii)、(iii)、(iv)、及び(v)の条件を満たす。
(i)波長300~350nmにおける透過率の最大値TM 300-350が1%以下である。
(ii)波長450~600nmにおける透過率の平均値TA 450-600が75%以上である。
(iii)波長750~1200nmにおける透過率の最大値TM 750-1200が10%以下である。
(iv)波長350~500nmにおいて、透過率が50%となる第一カットオフ波長λUVが380nm以上450nm以下である。
(v)波長550~700nmにおいて、透過率が50%となる第二カットオフ波長λIRが560nm以上640nm以下である。
【0020】
(i)の条件が満たされることにより、光吸収膜は、紫外線領域において良好な遮蔽性を発揮し、光吸収膜の透過スペクトルは、波長300~350nmにおいて実質的に感度を有さない点で、人間の比視感度曲線(視感度スペクトル)と同様の性質を有する。最大値TM 300-350は、望ましくは0.5%以下であり、より望ましくは0.2%以下である。人間の比視感度曲線とは、国際照明委員会(CIE)によって規定された明所視標準比視感度を表す曲線である。
【0021】
(ii)の条件が満たされることにより、光吸収膜は、可視光領域において良好な透過性を有し、例えば、撮像素子に到達する光量が大きくなりやすい。平均値TA 450-600は、望ましくは78%以上である。
【0022】
(iii)の条件が満たされることにより、光吸収膜は、近赤外線領域において良好な遮蔽性を発揮し、光吸収膜の透過スペクトルは、波長750~1200nmにおいて実質的に感度を有さない点で、人間の比視感度曲線(視感度スペクトル)と同様の性質を有する。最大値TM 750-1200は、望ましくは8%以下であり、より望ましくは6%以下である。
【0023】
第一カットオフ波長λUVは、光吸収膜において光が透過する波長範囲の下限に相当すると理解される。(iv)の条件が満たされることにより、光吸収膜は、人間の目が認識できない光のうち紫外線に属する光を遮蔽することができる。
【0024】
第二カットオフ波長λIRは、光吸収膜において光が透過する波長範囲の上限に相当すると理解される。(v)の条件が満たされることにより、光吸収膜は、人間の目が認識できない光のうち赤外線に属する光を遮蔽することができるとともに、波長λIRは、波長555nmのときの比視感度値V(555)=1とした人間の視感度曲線において比視感度値V(λ)=0.5に対応する波長に近くなり、光吸収膜の透過スペクトルが比視感度曲線と同様の性質を有し好適である。
【0025】
0度の入射角度における光吸収膜の透過スペクトルは、例えば、下記(vi)の条件をさらに満たす。
(vi)波長550~650nmにおいて透過率が60%となる波長λ60%が570nm以上610nm以下である。
【0026】
(vi)の条件は、(v)の条件を補足する条件と理解される。(vi)の条件が満たされることにより、波長λ60%は、人間の視感度曲線において比視感度値V(λ)=0.6に対応する波長に近くなり、光吸収膜の透過スペクトルが比視感度曲線と同様の性質を有し好適である。波長λ60%は、望ましくは580nm以上600nm以下である。
【0027】
0度の入射角度における光吸収膜の透過スペクトルは、例えば、下記(vii)の条件をさらに満たす。
(vii)波長650nmにおける透過率T650が30%以下であり、波長700nmにおける透過率T700が7%以下であり、透過率T700に対する透過率T650の比(T650/T700)が3以上8以下である。
【0028】
(vii)の条件は、光吸収膜において光が透過する波長範囲の上限よりわずかに長い波長を有する範囲における透過スペクトルに関し、光吸収膜を透過する波長範囲の上限周辺に相当する波長の光量を、二波長における透過率と、それらの比として表す。(vii)の条件が満たされることにより、光吸収膜を透過する波長範囲の上限周辺の光量が所望の範囲に調整される。比T650/T700を過剰に小さくするためにはこの波長の近傍の光を遮蔽する別の構成がさらに必要となる可能性がある。比T650/T700は、望ましくは4以上6以下である。
【0029】
0度の入射角度における光吸収膜の透過スペクトルは、例えば、下記(viii)の条件をさらに満たす。
(viii)波長550~700nmにおいて、下記の式(1)によって決定されるλSLOPEの値が-0.9%/nm以上-0.65%/nm以下である。ただし、式(1)においてλ30%は、透過率が30%となる波長であり、λ70%は、透過率が70%となる波長である。
λSLOPE=-40%/(λ30%-λ70%) 式(1)
【0030】
λSLOPEの値は、光吸収膜において光が透過する波長範囲の上限に対応する波長の近傍における透過スペクトルの平均的な変化率を示す。(viii)の条件が満たされることにより、光吸収膜は、撮像素子とともに用いられるカラーフィルタの赤色のセグメントとの協働によって、光吸収膜において光が透過する波長範囲の上限に対応する波長の近傍の光の光量を調整しやすい。言い換えれば(viii)の条件が満たされることにより、光吸収膜は、カラーフィルタの分光特性に適合しやすい。λSLOPEの値は、望ましくは-0.8%/nm以上-0.7%/nm以下である。
【0031】
0度の入射角度における光吸収膜の透過スペクトルは、例えば、下記(ix)の条件をさらに満たす。
(ix)第二カットオフ波長λIRと第一カットオフ波長λUVとの差の絶対値ΔλIR-UVが180nm以上240nm以下である。
【0032】
絶対値ΔλIR-UVは、光吸収膜において光が透過する帯域幅を示し、光吸収膜の透過スペクトルの透過帯域における半値全幅ともいえる。(ix)の条件において、ΔλIR-UVが小さすぎると光吸収膜又はそれを備えた光学フィルタなどの製品を透過する光量が小さくなり、ΔλIR-UVを過剰に大きくすることは、赤外線などの光の遮蔽性が低下し不適切となる可能性がある。絶対値ΔλIR-UVは、望ましくは190nm以上220nm以下である。
【0033】
0度の入射角度における光吸収膜の透過スペクトルは、例えば、下記(x)の条件をさらに満たす。
(x)下記の式(2)、式(3)、及び式(4)によって決定されるΔλM 20%の値が10nm以上50nm以下である。ただし、式(3)及び式(4)において、λM 350-700は、波長350~700nmにおける透過率の最大値TM 350-700を示す波長であり、λM-20% 350-700は、λM 350-700より短く、かつ、TM 350-700-20%の透過率を示す波長であり、λM+20% 350-700は、λM 350-700より長く、かつ、TM 350-700-20%の透過率を示す波長である。
ΔλM 20%=|ΔλM- 20%-ΔλM+ 20%| 式(2)
ΔλM- 20%=|λM 350-700-λM-20% 350-700| 式(3)
ΔλM+ 20%=|λM 350-700-λM+20% 350-700| 式(4)
【0034】
ΔλM 20%の値は、光吸収膜において光が透過する帯域の対称性を示す。ΔλM 20%の値が小さいほどこの帯域の対称性が高くなり、光吸収膜の透過スペクトルが、最大の透過率に対応する波長λM 350-700を中心に対称性が高くなることは、人間の比視感度曲線も波長555nmを中心に対称性が高いという観点から、光吸収膜の透過スペクトルが比視感度曲線と同様の性質を有し好適である。一方、ΔλM 20%の値を過剰に小さくしようとすると補助的な光吸収剤を添加する必要性が生じる。これにより、可視光領域の透過率を高い水準に保つことが困難になることも想定される。(x)の条件が満たされることにより、光吸収膜は、より確実に、人間の視感度に対応した透過スペクトルに近しい分光特性を有しやすい。加えて、補助的な光吸収剤の添加が不要になりやすい。ΔλM 20%の値は、望ましくは20nm以上40nm以下であり、より望ましくは25nm以上37nm以下である。
【0035】
光吸収性組成物に含まれる、ハロゲンによって置換されていないアリール基を有するホスホン酸及びハロゲンによって置換されていないアルキル基を有するホスホン酸は、それぞれ、下記の式(a)及び(b)によって表される。式(a)及び式(b)において、R1はハロゲンによって置換されていないアリール基であり、R2はハロゲンによって置換されていないアルキル基である。
【0036】
【化1】
【0037】
【化2】
【0038】
ハロゲンによって置換されていないアリール基は、例えば水素原子がハロゲン原子によって置換されていないアリール基であり、特定のアリール基に限定されないが、例えばフェニル基、ベンジル基、又はトルイル基である。
【0039】
ハロゲンによって置換されていないアルキル基は、例えば水素原子がハロゲン原子によって置換されていないアルキル基であり、特定のアルキル基に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、ノルマル(n-)プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、secブチル基、tertブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、secペンチル基、又はtertペンチル基である。
【0040】
光吸収性組成物におけるハロゲンによって置換されていないアルキル基を有するホスホン酸の含有量に対するハロゲンによって置換されていないアリール基を有するホスホン酸の含有量の比RHHは、特定の値に限定されない。比RHHは、例えば、質量基準で1.0~5.0である。これにより、光吸収性組成物及び光吸収性組成物を用いて作製される製品において、樹脂に対する光吸収性化合物の分散性が高くなりやすい。その結果、樹脂の含有量に対する光吸収性化合物の含有量の比を高めやすい。このため、光吸収性組成物を用いて形成される光吸収膜の厚みを低減できる。このことは、撮像装置等の装置の低背位化に有利である。加えて、比RHHが1.0以上であることにより、T650/T700が大きくなりすぎることを防止できる。比RHHが5.0以下であることにより、光吸収性組成物を用いて作製される製品において波長1200nm近傍の光の吸収性が低下しにくい。通常、光吸収性化合物のみが赤外線領域の光の遮蔽を担う場合、その吸収帯域が限られているので、波長1200nm近傍の光の吸収性が十分でないことがある。このため、より大きい波長の範囲の光に対する遮蔽性を確保しようとすると、誘電体多層膜又は単層膜等の光反射膜を併用しなければならないことが多い。しかし、比RHHが5.0以下であることにより、このような問題を解消しうる。比RHHは、望ましくは、質量基準で1.5~3.5である。
【0041】
光吸収性組成物において、銅成分の少なくとも一部は、ホスホン酸と反応して、ホスホン酸及び銅成分を含む錯体等の化合物を形成する。ホスホン酸及び銅成分を含む化合物は赤外線域に属する一部の光を効果的に吸収しやすく、さらに可視光域に属する光に対して高い透過率を示す。また、光吸収性組成物は、ハロゲンによって置換されていないアルキル基を有するホスホン酸と銅成分とを含む化合物と、ハロゲンによって置換されていないアリール基を有するホスホン酸と銅成分を含む化合物を含んでいてもよい。
【0042】
光吸収性組成物の調製における銅成分の供給の態様は特定の態様に限定されない。光吸収性組成物の調製において、銅成分は、例えば、銅塩として供給される。銅塩は、塩化銅、蟻酸銅、ステアリン酸銅、安息香酸銅、ピロリン酸銅、ナフテン酸銅、及びクエン酸銅の無水物又は水和物であってもよい。例えば、酢酸銅一水和物は、Cu(CH3COO)2・H2Oと表され、1モルの酢酸銅一水和物によって1モルの銅イオンが供給される。
【0043】
光吸収性組成物において銅成分の含有量に対するホスホン酸の含有量の比RHCは、特定の値に限定されない。比RHCの値は、例えば、物質量基準で0.7~1.2である。これにより、光吸収性組成物において光吸収性化合物の凝集を防止できる。比RHCの値は、望ましくは0.8~1.1であり、より望ましくは1未満である。
【0044】
紫外線吸収性化合物は、紫外線吸収性化合物の透過スペクトルが波長300nm~400nmにおいて少なくとも1つの極小値を有する限り、特定の化合物に限定されない。紫外線吸収性化合物は、例えば、330nm以上430nm以下の吸収極大波長λM UV-Cを有する。これにより、光吸収性組成物を用いて提供される製品によれば、上記の光吸収性化合物と組み合わせて使用した場合に、波長400nmから450nmにおける透過率を低下させることができるので好ましい。紫外線吸収性化合物の透過スペクトル及び吸収スペクトル等の光学特性は、紫外線吸収性化合物を所定の溶媒に分散させた分散液を試料として用いた測定によって決定できる。特に説明する場合を除き、紫外線吸収性化合物の透過スペクトル及び吸収スペクトルは、このような測定によって決定されたものを意味する。例えば、紫外線吸収性化合物の分散液は、その分散液の透過率の最小値が10.0%になるように調製される。分散液の調製に用いられる溶媒は、例えば、トルエン等の無色な液体である。
【0045】
紫外線吸収性化合物の透過スペクトルは、望ましくは波長300nm~350nmにおいて少なくとも1つの極小値を有する。
【0046】
紫外線吸収性化合物の透過スペクトルにおいて、波長450nm以下の波長範囲で50%の透過率を示す波長である第三カットオフ波長λ50%-UVは、特定の値に限定されない。第三カットオフ波長λ50%-UVは、例えば、330nm以上430nm以下であり、望ましくは350nm以上400nm以下である。
【0047】
紫外線吸収性化合物の透過スペクトルにおいて、下記式(5)によって決定されるλUV SLOPEの値は、例えば2.0~3.0[%/nm]であり、望ましくは2.3~2.8[%/nm]である。式(5)において、λUV 70%は、紫外線吸収性化合物の透過スペクトルにおいて70%の透過率を示す波長であり、λUV 30%は、紫外線吸収性化合物の透過スペクトルにおいて30%の透過率を示す波長である。
λUV SLOPE=40%/(λUV 70%-λUV 30%) 式(5)
【0048】
波長500nm~700nmの範囲の紫外線吸収性化合物の透過スペクトルにおける透過率の最小値Tm 500-700は、特定の値に限定されない。最小値Tm 500-700は、例えば、80%以上である。これにより、可視光域に属する光の透過率がより確実に高くなりやすい。最小値Tm 500-700は、望ましくは85%以上であり、より望ましくは90%以上である。
【0049】
紫外線吸収性化合物は、特定の化合物に限定されない。一方、紫外線吸収性化合物は、望ましくは、光吸収性化合物等の他の成分との相性が良く、他の成分によってその性能が大きく低下しない化合物である。加えて、紫外線吸収性化合物は、望ましくは、著しく劣る耐湿性又は耐光性を有しない化合物である。
【0050】
紫外線吸収性化合物は、例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾエート系化合物、シアノアクリレート系化合物、又はトリアジン系化合物等の化合物である。
【0051】
ベンゾトリアゾール系化合物として、例えば、以下の化合物が挙げられる。
2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール
2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール
2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール
2-(2’-ヒドロキシ-5-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール
2-(2’-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール
2-[2’-ヒドロキシ-3’-(3’’,4’’,5’’,6’’-テトラヒドロフタリミドメチル)-5’-メチルフェニル]ベンゾトリアゾール
2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール
2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α-ジメトキシベンゾイル)フェニル]ベンゾトリアゾール
2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2N-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]
2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリロイルオキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール
2-(2’-ヒドロキシ-3’-ドデシル-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
【0052】
トリアジン系化合物として、例えば、以下の化合物が挙げられる。
2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン
2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシナフチル)-1,3,5-トリアジン
2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-(4-メトキシスチリル)-1,3,5-トリアジン
2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(5-メチルフラン-2-イル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン
2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(フラン-2-イル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン
2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン
2,4-ビス(トリクロロメチル)-6-〔2-(3,4-ジメトキシフェニル)エテニル〕-1,3,5-トリアジン
2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール
【0053】
光吸収性組成物における紫外線吸収性化合物の含有量は特定の値に限定されない。光吸収性組成物における紫外線吸収性化合物の含有量に対するホスホン酸の含有量の比RPUは、例えば、質量基準で10~300である。これにより、紫外線吸収性化合物が光吸収性組成物の特性に不利な影響を及ぼしにくく、光吸収性組成物を用いて提供される製品がより確実に人間の視感度に対応した透過スペクトルに近しい分光特性を有しやすい。比RPUは、望ましくは質量基準で45~100である。
【0054】
光吸収性組成物における紫外線吸収性化合物の含有量に対するハロゲンによって置換されていないアリール基を有するホスホン酸の含有量の比RURは、特定の値に限定されない。比RURは、質量基準で、例えば7~180であり、望ましくは25~60である。光吸収性組成物における紫外線吸収性化合物の含有量に対するハロゲンによって置換されていないアルキル基を有するホスホン酸の含有量の比RULは、特定の値に限定されない。比RULは、例えば、質量基準で3~120であり、望ましくは15~40である。これらにより、光吸収性組成物を用いて提供される製品の透過スペクトルが上記の(i)~(x)((iv)及び(ix)を除く)の条件を満足しやすくなり、好ましい。
【0055】
光吸収性組成物は、例えば、マトリクスをさらに含有している。光吸収性化合物及び紫外線吸収性化合物は、典型的には、マトリクス中に分散している。このマトリクスは、光吸収性化合物及び紫外線吸収性化合物を分散させることができる限り、特定の材料に限定されない。光吸収性組成物に含まれるマトリクスは、典型的には、波長400nm~600nmにおいて高い透過性を有する材料である。例えば、0.1mmの厚みの層をその材料のみで形成したときに、波長400nm~600nmにおけるその層の透過率は、例えば70%以上であり、望ましくは75%以上であり、より望ましくは80%以上であり、さらに望ましくは85%以上である。
【0056】
光吸収性組成物に含まれるマトリクスの材料は、例えば樹脂である。光吸収性組成物に含まれる樹脂の種類は、特定の種類に限定されない。その樹脂は、例えば、環状ポリオレフィン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、変性アクリル樹脂、シリコーン樹脂、又はPVB等のポリビニル系樹脂である。樹脂は、熱又は光等のエネルギー照射によって硬化しうる硬化性樹脂であってもよい。なお、光吸収性組成物に含まれるマトリクスは、金属成分を含むアルコキシドをゾルゲル法に従って加水分解及び縮重合させることによって形成される有機無機ハイブリッド材料又は無機材料であってもよい。
【0057】
光吸収性組成物は、必要に応じて、リン酸エステルを含んでいてもよい。リン酸エステルの働きにより、光吸収性組成物及び光吸収性組成物を用いて得られた製品において、光吸収性化合物が適切に分散しやすい。リン酸エステルは、光吸収性化合物の分散剤として機能していてもよく、その一部が金属成分と反応して化合物を形成していてもよい。例えば、リン酸エステルは、銅成分及びホスホン酸を含む光吸収性化合物に配位し、又は、その化合物と反応していてもよい。光吸収性化合物には、これらの化合物又はこれらの銅塩の成分が含まれていてもよい。
【0058】
リン酸エステルは、特定のリン酸エステルに限定されない。リン酸エステルは、例えば、ポリオキシアルキル基を有する。このようなリン酸エステルとしては、プライサーフA208N:ポリオキシエチレンアルキル(C12、C13)エーテルリン酸エステル、プライサーフA208F:ポリオキシエチレンアルキル(C8)エーテルリン酸エステル、プライサーフA208B:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、プライサーフA219B:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、プライサーフAL:ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、プライサーフA212C:ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル、又はプライサーフA215C:ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステルが挙げられる。これらはいずれも第一工業製薬社製の製品である。加えて、リン酸エステルとして、NIKKOL DDP-2:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、NIKKOL DDP-4:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、又はNIKKOL DDP-6:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルが挙げられる。これらは、いずれも日光ケミカルズ社製の製品である。
【0059】
光吸収性組成物におけるリン酸エステルの含有量は、特定の値に限定されない。光吸収性組成物におけるリン酸エステルの含有量に対するホスホン酸の含有量の比RPEは、例えば、質量基準で1.0以上である。これにより、光吸収性組成物を用いて提供される製品は、水蒸気と接触してもリン酸エステルの加水分解が抑制され、良好な耐候性を有しやすい。比RPEは、望ましくは、1.5以上である。比RPEは、1.0~3.0であってもよい。比RPEが3.0以下であることにより、ホスホン酸含有化合物の凝集を防止でき、光吸収性組成物を用いて提供される製品において可視光域に属する光の透過率がより確実に高くなりやすい。良好な耐候性及び良好な光学特性の観点から、比RPEは、望ましくは1.5~2.0である。
【0060】
光吸収性組成物は、例えば、必要に応じて、金属アルコキシド、金属アルコキシドの加水分解縮合物、シリコンアルコキシド、及びシリコンアルコキシドの加水分解縮合物からなる群より選ばれる少なくとも1つをさらに含んでいてもよい。これにより、光吸収性組成物又は光吸収性組成物を用いて提供される製品において、ホスホン酸含有化合物が均一に分散しやすい。光吸収性組成物において、この群から選ばれる少なくとも2つが混合された状態で含まれていてもよい。例えば、リン酸エステル、金属アルコキシド、又はシリコンアルコキシドは、光吸収性組成物の調製において、銅成分及びホスホン酸等の成分とともに混合される。この場合、金属アルコキシド、及びシリコンアルコキシドの一部は、光吸収性組成物の調製において、銅成分又はホスホン酸等の成分やこれらを含む化合物との相互作用により、光吸収性化合物を含む微粒子に含有されていてもよい。
【0061】
金属アルコキシド又は金属アルコキシドの加水分解縮合物を形成する金属アルコキシドは、例えば、Li、Na、Mg、Ca、Sr、Ba、Ge、Sn、Pb、Al、Ga、In、Tl、Zn、Cd、Cu、Ag、Au、Ni、Pd、Pt、Co、Rh、Ir、Fe、Mn、Cr、Mo、W、V、Nb、Ta、Ti、及びZrからなる群より選択される少なくとも1つの金属のアルコキシドである。
【0062】
光吸収性組成物を用いて、例えば、図1に示す光吸収膜10を提供できる。光吸収膜10は、例えば、光吸収性組成物の塗膜を硬化させることによって得られる。このため、光吸収膜10は、上記の光吸収性化合物と、上記の紫外線吸収性化合物とを含有している。光学フィルタ1aは、光吸収膜10を備えており、例えば、光吸収膜10単体で構成されている。吸収膜10は、例えば、所定の基材上に光吸収性組成物を塗布して塗膜を形成し、この塗膜を硬化させて作製できる。作製された光吸収膜10は基材上から剥離される。基材の材料は、ガラスであってもよく、樹脂であってもよく、金属であってもよい。基材の表面には、フッ素含有化合物を用いたコーティング等の表面処理が施されていてもよい。
【0063】
光吸収性組成物を用いて、図2に示す光学フィルタ1bを提供することもできる。光学フィルタ1bは、光吸収膜10と、透明基材20とを備えている。光吸収膜10は、透明基材20上に形成されている。光学フィルタ1bは、例えば、透明基材20の上に光吸収性組成物を塗布して塗膜を形成し、この塗膜を硬化させることによって作製できる。
【0064】
透明基材20は特定の基材に限定されない。透明基材20は、ガラスを含んでいてもよく、樹脂を含んでいてもよく、プラスチックを含んでいてもよい。ガラスは、銅含有ガラス等の光吸収性ガラスであってもよい。透明基材20は、光吸収性化合物を含有している光吸収性のフィルム及びシートであってもよい。透明基材10は、互いに平行な平面を主面として有する板状の基材であってもよく、レンズ等の曲面を有する基材であってもよく、その表面又は内部に平坦でない微細構造を有する基材であってもよい。そのような基材の例は、回折格子である。
【0065】
透明基材20の種類は、特定の種類に限定されない。透明基材20は、赤外線領域に吸収能を有していてもよい。透明基材20は、例えば波長350nm~900nmにおいて90%以上の平均分光透過率を有していてもよい。透明基材20の材料がガラスである場合、透明基材20は、例えば、ソーダ石灰ガラス及びホウケイ酸ガラスなどのケイ酸塩ガラスでできた透明なガラス又はCu及びCo等の着色性の成分を含有するリン酸塩ガラス及び弗リン酸塩ガラスでありうる。着色性の成分を含有するリン酸塩ガラス及び弗リン酸塩ガラスは、例えば赤外線吸収性ガラスであり、それ自体が光吸収性を有する。光吸収膜10を、赤外線吸収性ガラスの透明基材20とともに用いる場合には、双方の光吸収性及び透過スペクトルを調整して、所望の光学特性を有する光学フィルタを作製でき、光学フィルタの設計の自由度が高い。
【0066】
透明基材20の材料が樹脂である場合、その樹脂は、例えば、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、アクリル樹脂、変性アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、又はシリコーン樹脂である。
【0067】
光吸収膜10の厚みは特定の値に限定されない。撮像装置等の光吸収膜を備える機器の低背位化の要請に応えるためには、光吸収膜10の厚みが小さいことが有利である。このため、光吸収膜10の厚みは、例えば200μm以下であり、望ましくは180μm以下であり、より望ましくは150μm以下である。例えば、光吸収膜が所望の光吸収性を発揮しつつ、光吸収性膜の厚みを薄くするために、光吸収性組成物に含有される光吸収性化合物及び紫外線吸収性化合物の濃度を高めることが考えられる。この場合、各化合物の分散性を所望の状態に保てない可能性がある。このため、光吸収膜10の厚みは、例えば、80μm以上であり、望ましくは100μm以上であり、より望ましくは120μm以上である。
【0068】
透明基材20の波長450~700nmの範囲の透過率の最小値が80%未満である場合、透明基材20は光を遮蔽する機能を有し、光吸収膜10と協働して光の遮蔽に貢献すると理解される。この場合、光学フィルタ1bの厚みは、例えば200μm以下であり、望ましくは180μm以下であり、より望ましくは150μm以下である。加えて、光学フィルタ1bの厚みは、例えば80μm以上であり、望ましくは100μm以上であり、より望ましくは120μm以上である。波長450~700nmの範囲の透過率の最小値が80%未満である透明基材20の例は、赤外線吸収性ガラスを含む基板である。
【0069】
光学フィルタ1aは、撮像素子及び光学部品に対して接して形成されていてもよい。一方、上記の光吸収性組成物を撮像素子又は光学部品に塗布して、光吸収性組成物を硬化させることによって、光吸収膜10が構成されていてもよい。これにより、光吸収膜付撮像素子又は光吸収膜付光学部品を作製できる。光学部品は、例えば、レンズ又はカバーガラスなどである。例えば、光吸収膜付撮像素子又は光吸収膜付光学部品を備えた撮像装置を提供できる。
【0070】
光学フィルタ1a及び1bのそれぞれは、赤外線反射膜及び反射防止膜等の他の機能膜をさらに備えるように変更されてもよい。このような機能膜は、光吸収膜10又は透明基材20の上に形成されうる。例えば、光学フィルタが反射防止膜を備えることにより、所定の波長の範囲(例えば可視光域)の透過率を高めることができる。反射防止膜は、MgF2及びSiO2等の低屈折率材料の層として構成されていてもよく、このような低屈折率材料の層とTiO2等の高屈折率材料の層との積層体として構成されていてもよく、誘電体多層膜として構成されていてもよい。このような反射防止膜は、真空蒸着及びスパッタ法等の物理的な反応を伴う方法、又は、CVD法及びゾルゲル法等の化学的な反応を伴う方法によって形成されうる。
【0071】
光学フィルタは、例えば、二枚の板状のガラスの間に光吸収膜10が配置された状態で構成されていてもよい。これにより、光学フィルタの剛性及び機械的強度が向上する。加えて、光学フィルタの主面が硬質となり、キズ防止等の観点から有利である。特に、光吸収膜10におけるバインダー又はマトリクスとして比較的柔軟性の高い樹脂を用いた場合に、このような利点が重要である。
【実施例
【0072】
実施例により、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。まず、各実施例及び各比較例に係る光学フィルタの評価方法について説明する。
【0073】
(透過スペクトル測定)
日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V-670を用いて、各実施例及び各比較例に係る光学フィルタの0°の入射角における透過スペクトルを測定した。実施例1~3に係る光学フィルタの透過スペクトルをそれぞれ図4図6に示す。また、比較例1~3に係る光学フィルタの透過スペクトルをそれぞれ図7図9に示す。また、図4図9に示す各透過スペクトルから看取した透過率及び波長に関する特徴的なパラメータを表3に示す。図10は、透過率に関するパラメータの関係を説明する図である。
【0074】
(厚み測定)
キーエンス社製のレーザー変位計LK-H008を用いて、光学フィルタの主面間の距離を測定し、各実施例及び各比較例に係る光学フィルタの厚みを決定した。結果を表3に示す。
【0075】
<実施例1>
酢酸銅一水和物4.500gとテトラヒドロフラン(THF)240gとを混合して、3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208N(第一工業製薬社製)を1.444g加えて30分間撹拌し、1-A液を得た。フェニルホスホン酸3.576gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、1-B液を得た。次に、1-B液にメチルトリエトキシシラン(MTES)(信越化学工業社製、製品名:KBE-13)8.664gと、テトラエトキシシラン(TEOS)(キシダ化学社製 特級)2.840gとを加えて、さらに1分間撹拌し、1-C液を得た。1-A液を撹拌しながら1-A液に1-C液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン140gを加えた後、室温で1分間撹拌し、1-D液を得た。この1-D液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB-2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N-1110SF)によって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の実施例1に係る1-E液を取り出した。このようにしてフェニルホスホン酸と銅成分を含む化合物が分散された1-E液を得た。
【0076】
酢酸銅一水和物1.800gと、THF100gとを混合して3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208Nを1.029g加えて30分間撹拌し、1-F液を得た。また、n‐ブチルホスホン酸1.154gにTHF20gを加えて30分間撹拌し、1-G液を得た。1-F液を撹拌しながら1-F液に1-G液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエンを40g加えた後、室温で1分間撹拌し、1-H液を得た。この1-H液をフラスコに入れてオイルバスで加温しながら、ロータリーエバポレータによって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の実施例1に係る1-I液を取り出した。このようにしてブチルホスホン酸と銅成分を含む化合物が分散された1-I液を得た。
【0077】
0.66gの紫外線吸収剤U1と、トルエン99.34gとを混合して紫外線吸収剤が分散した1-J液を得た。この1-J液を光路長0.1mmの日本分光社製石英セル(型番J/20/C/CD)に入れて試料を作製した。日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V-670を用いてこの試料の透過スペクトルを計測した。この透過スペクトルを図3に示す。
【0078】
1-E液と、1-I液と、9.1gの1-J液とを混合し、さらにシリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR-300)を8.80g、アルミニウムアルコキシド化合物(信越化学工業社製、製品名:CAT-AC)0.09gを加えて30分間撹拌し、実施例1に係る光吸収性組成物である1-K液を得た。各ホスホン酸と銅成分とを含む化合物が分散した液、紫外線吸収剤が分散した液、及び光吸収性組成物の調製における各材料の添加量を表1に示す。また、特定の材料について材料同士の含有量の関係を表2に示す。
【0079】
<実施例2>
酢酸銅一水和物4.500gとTHF240gとを混合して、3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208N(第一工業製薬社製)を1.444g加えて30分間撹拌し、2-A液を得た。フェニルホスホン酸3.576gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、2-B液を得た。次に、2-B液にMTES(信越化学工業社製、製品名:KBE-13)8.664gと、TEOS(キシダ化学社製 特級)2.840gとを加えて、さらに1分間撹拌し、2-C液を得た。2-A液を撹拌しながら2-A液に2-C液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン140gを加えた後、室温で1分間撹拌し、2-D液を得た。この2-D液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB-2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N-1110SF)によって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の実施例2に係る2-E液を取り出した。このようにしてフェニルホスホン酸と銅成分を含む化合物が分散している2-E液を得た。
【0080】
酢酸銅一水和物3.600gと、THF200gとを混合して3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208Nを2.058g加えて30分間撹拌し、2-F液を得た。また、n‐ブチルホスホン酸2.309gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、2-G液を得た。2-F液を撹拌しながら2-F液に2-G液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエンを80g加えた後、室温で1分間撹拌し、2-H液を得た。この2-H液をフラスコに入れてオイルバスで加温しながら、ロータリーエバポレータによって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の実施例2に係る2-I液を取り出した。このようにしてブチルホスホン酸と銅成分を含む化合物が分散した2-I液を得た。
【0081】
0.66gの紫外線吸収剤U1とトルエン99.34gとを混合して紫外線吸収剤が分散した2-J液を得た。この2-J液を光路長0.1mmの日本分光社製石英セル(型番J/20/C/CD)に入れて作製した試料は、図3に示す透過率スペクトルを示す。
【0082】
2-E液と、2-I液と、9.1gの2-J液とを混合し、さらにシリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR-300)を8.80g、アルミニウムアルコキシド化合物(信越化学工業社製、製品名:CAT-AC)0.09gを加えて30分間撹拌して、実施例2に係る光吸収性組成物である2-K液を得た。各ホスホン酸と銅成分とを含む化合物が分散した液、紫外線吸収剤が分散した液、及び光吸収性組成物の調製における各材料の添加量を表1に示す。また、特定の材料について材料同士の含有量の関係を表2に示す。
【0083】
<実施例3>
酢酸銅一水和物4.500gとTHF240gとを混合して、3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208N(第一工業製薬社製)を1.444g加えて30分間撹拌し、3-A液を得た。フェニルホスホン酸3.576gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、3-B液を得た。次に、3-B液にMTES(信越化学工業社製、製品名:KBE-13)8.664gと、TEOS(キシダ化学社製 特級)2.840gとを加えて、さらに1分間撹拌し、3-C液を得た。3-A液を撹拌しながら3-A液に3-C液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン140gを加えた後、室温で1分間撹拌し、3-D液を得た。この3-D液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB-2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N-1110SF)によって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の実施例3に係る3-E液を取り出した。このようにしてフェニルホスホン酸と銅成分とを含む化合物の分散液である3-E液を得た。
【0084】
酢酸銅一水和物3.600gと、THF200gとを混合して3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208Nを2.058g加えて30分間撹拌し、3-F液を得た。また、n‐ブチルホスホン酸2.309gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、3-G液を得た。3-F液を撹拌しながら3-F液に3-G液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエンを80g加えた後、室温で1分間撹拌し、3-H液を得た。この3-H液をフラスコに入れてオイルバスで加温しながら、ロータリーエバポレータによって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の実施例3に係る3-I液を取り出した。このようにしてブチルホスホン酸と銅成分とを含む化合物の分散液である3-I液を得た。
【0085】
0.66gの紫外線吸収剤U1とトルエン99.34gとを混合して紫外線吸収剤が分散した3-J液を得た。この3-J液を光路長0.1mmの日本分光社製石英セル(型番J/20/C/CD)に入れて作製した試料は、図3に示す透過率スペクトルを示す。
【0086】
3-E液と、3-I液と、18.2gの3-J液とを混合し、さらにシリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR-300)8.80g、アルミニウムアルコキシド化合物(信越化学工業社製、製品名:CAT-AC)0.09gを加えて30分間撹拌して、実施例3に係る光吸収性組成物である3-K液を得た。各ホスホン酸と銅成分とを含む化合物が分散した液、紫外線吸収剤が分散した液、及び光吸収性組成物の調製における各材料の添加量を表1に示す。また、特定の材料について材料同士の含有量の関係を表2に示す。
【0087】
<比較例1>
酢酸銅一水和物4.500gとTHF240gとを混合して、3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208N(第一工業製薬社製)を1.444g加えて30分間撹拌し、4-A液を得た。フェニルホスホン酸3.576gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、4-B液を得た。次に、4-B液にMTES(信越化学工業社製、製品名:KBE-13)8.664gと、TEOS(キシダ化学社製 特級)2.840gとを加えて、さらに1分間撹拌し、4-C液を得た。4-A液を撹拌しながら4-A液に4-C液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン140gを加えた後、室温で1分間撹拌し、4-D液を得た。この4-D液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB-2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N-1110SF)によって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の比較例1に係る4-E液を取り出した。このようにしてフェニルホスホン酸と銅成分とを含む化合物が分散された4-E液を得た。
【0088】
酢酸銅一水和物1.800gと、THF100gとを混合して3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208Nを1.029g加えて30分間撹拌し、4-F液を得た。また、n‐ブチルホスホン酸1.154gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、4-G液を得た。4-F液を撹拌しながら4-F液に4-G液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエンを80g加えた後、室温で1分間撹拌し、4-H液を得た。この4-H液をフラスコに入れてオイルバスで加温しながら、ロータリーエバポレータによって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の比較例1に係る4-I液を取り出した。このようにしてブチルホスホン酸と銅成分とを含む化合物が分散された4-I液を得た。
【0089】
4-E液と、4-I液とを混合し、さらにシリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR-300)8.80g、アルミニウムアルコキシド化合物(信越化学工業社製、製品名:CAT-AC)0.09gを加えて30分間撹拌して、比較例1に係る光吸収性組成物である4-K液を得た。ホスホン酸と銅成分とを含む化合物が分散した液及び光吸収性組成物の調製における各材料の添加量を表1に示す。また、特定の材料について材料同士の含有量の関係を表2に示す。
【0090】
<比較例3>
酢酸銅一水和物4.500gとTHF240gとを混合して、3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208N(第一工業製薬社製)を1.646g加えて30分間撹拌し、5-A液を得た。フェニルホスホン酸0.706gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、5-B1液を得た。4‐ブロモフェニルホスホン酸4.230gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、5-B2液を得た。次に、5-B1液と5-B2液とを混ぜて1分間撹拌し、MTES(信越化学工業社製、製品名:KBE-13)8.664gと、TEOS(キシダ化学社製 特級)2.840gとをこの混合液に加えて、さらに1分間撹拌し、5-B液を得た。5-A液を撹拌しながら5-A液に5-B液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン140gを加えた後、室温で1分間撹拌し、5-C液を得た。この5-C液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB-2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N-1110SF)によって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の比較例3に係る5-D液を取り出した。このようにしてフェニルホスホン酸と4-ブロモフェニルホスホン酸と銅成分とを含む化合物が分散された5-D液を得た。
【0091】
酢酸銅一水和物1.800gと、THF100gとを混合して3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208Nを1.029g加えて30分間撹拌し、5-F液を得た。また、n‐ブチルホスホン酸1.154gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、5-G液を得た。5-F液を撹拌しながら5-F液に5-G液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエンを80g加えた後、室温で1分間撹拌し、5-H液を得た。この5-H液をフラスコに入れてオイルバスで加温しながら、ロータリーエバポレータによって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は、105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後の比較例3に係る5-I液を取り出した。このようにしてブチルホスホン酸と銅成分を含む化合物が分散された5-I液を得た。
【0092】
5-D液と、5-I液とを混合し、さらにシリコーン樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR-300)8.80g、アルミニウムアルコキシド化合物(信越化学工業社製、製品名:CAT-AC)0.09gを加えて30分間撹拌して比較例3に係る光吸収性組成物である5-K液を得た。ホスホン酸と銅成分とを含む化合物が分散した液及び光吸収性組成物の調製における各材料の添加量を表1に示す。また、特定の材料について材料同士の含有量の関係を表2に示す。
【0093】
<光学フィルタの作製>
表面防汚コーティング剤(ダイキン工業社製、製品名:オプツールDSX、有効成分の濃度:20質量%)0.1gと、ハイドロフルオロエーテル含有液(3M社製、製品名:ノベック7100)19.9gとを混合し、5分間撹拌して、フッ素処理剤(有効成分の濃度:0.1質量%)を調製した。このフッ素処理剤を、76mm×76mm×0.21mmの寸法を有するホウケイ酸ガラス(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)の主面上に塗布した。次に、フッ素処理剤が塗布されたガラス基板を、室温で24時間放置して塗膜を乾燥させた後に、その表面を、ノベック7100を含んだ無塵布で軽くガラス表面を拭きあげて余分なフッ素処理剤を取り除いた。このようにして、表面がフッ素含有化合物でコーティングされたフッ素処理基板を作製した。実施例及び比較例に係る光学フィルタの数量に適合した枚数のフッ素処理基板を作製した。フッ素処理基板の一方の主面の中心部の40mm×40mmの範囲にディスペンサを用いて、実施例1~3又は比較例1若しくは3に係る光吸収性組成物を塗布して塗膜を形成した。塗膜を室温で十分に乾燥させた後、加熱用オーブンに入れて45℃で2時間、85℃で6時間の熱処理行い、溶媒を揮発させて硬化させた。その後フッ素処理基板から塗膜を引き剥がし、薄いフィルム状の実施例1~3並びに比較例1及び3に係る光学フィルタを作製した。さらに、比較例1に係る光吸収性組成物の塗膜の条件を、比較例2に係る光学フィルタの厚みが比較例1に係る光学フィルタの厚みとは異なるように調整して、比較例2に係る光学フィルタを作製した。
【0094】
表3に示す通り、各実施例に係る光学フィルタは、ホスホン酸として、ハロゲンによって置換されていないアリール基を有するホスホン酸及びハロゲンによって置換されていないアルキル基を有するホスホン酸のみを含有しているものの、上記の(i)~(x)の条件を満たしていた。一方、比較例1に係る光学フィルタは、(i)の条件を満たしていなかった。このことを踏まえて、比較例1に係る光吸収性組成物を用いて、比較例1に係る光学フィルタの厚みよりも大きな厚みを有する比較例2に係る光学フィルタを作製した。表3に示す通り、比較例2に係る光学フィルタは、(i)の条件を満たすものの、(ii)の条件を満たすことができなかった。比較例2に係る光学フィルタの厚みは、231μmであった。このことは、撮像装置等の光吸収膜を備える機器の低背位化の観点から有利であるとは言い難かった。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【符号の説明】
【0098】
1a、1b 光学フィルタ
10 光吸収膜
20 透明誘電体基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10