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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】シールリング及びシール構造
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/10 20060101AFI20240206BHJP
【FI】
F16J15/10 N
F16J15/10 L
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020058848
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021156394
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508321823
【氏名又は名称】株式会社イノアック住環境
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】進 一寛
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-042893(JP,U)
【文献】特開平02-093169(JP,A)
【文献】実用新案登録第2569621(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに嵌合する雌雄の嵌合部材のうちの一方の嵌合部材に装着されて他方の嵌合部材と密着し、それら両嵌合部材の周面間の隙間をシールするシールリングにおいて、
筒状をなし、その内側及び外側の周面の一方が、前記一方の嵌合部材の周面に密着する筒状装着面になった筒形ベースと、
前記筒形ベースから前記筒状装着面の反対側に突出し、先端部が、前記筒形ベース回りで閉じた環状をなして前記他方の嵌合部材の周面に密着する環状頂上部となっていて、前記筒形ベースの中心軸に対して傾斜する架空の平面に対して全体が平行になっている環状突部と、を備え、
前記環状突部は、交差する2つの前記架空の平面とそれぞれ平行になるように、2つ設けられ、
前記環状突部同士が交わる交差部を備えるシールリング。
【請求項2】
互いに嵌合する雌雄の嵌合部材のうちの一方の嵌合部材に装着されて他方の嵌合部材と密着し、それら両嵌合部材の周面間の隙間をシールするシールリングにおいて、
筒状をなし、その内側及び外側の周面の一方が、前記一方の嵌合部材の周面に密着する筒状装着面になった筒形ベースと、
前記筒形ベースから前記筒状装着面の反対側に突出し、先端部が、前記筒形ベース回りで閉じた環状をなして前記他方の嵌合部材の周面に密着する環状頂上部となった複数の環状突部と、を備え、
前記環状頂上部の少なくとも一部が前記筒形ベースの周方向に対して交差する方向に延び、
前記環状突部同士が交わる交差部を備え、
前記筒形ベースのうち前記筒状装着面の反対側の周面は、前記環状頂上部から前記筒形ベースの一端に向かって縮径する第1テーパー面と、前記環状頂上部から前記筒形ベースの他端に向かって縮径する第2テーパー面とを含んでなるシールリング。
【請求項3】
互いに嵌合する雌雄の嵌合部材のうちの一方の嵌合部材に装着されて他方の嵌合部材と密着し、それら両嵌合部材の周面間の隙間をシールするシールリングにおいて、
筒状をなし、その内側及び外側の周面の一方が、前記一方の嵌合部材の周面に密着する筒状装着面になった筒形ベースと、
前記筒形ベースから前記筒状装着面の反対側に突出し、先端部が、前記筒形ベース回りで閉じた環状をなして前記他方の嵌合部材の周面に密着する環状頂上部となった環状突部と、を備え、
前記環状頂上部は、前記筒形ベースの中心軸に対して傾斜する架空の平面に対して全体が平行になっていて、
前記筒形ベースのうち前記筒状装着面の反対側の周面は、前記環状頂上部から前記筒形ベースの一端に向かって縮径する第1テーパー面と、前記環状頂上部から前記筒形ベースの他端に向かって縮径する第2テーパー面とを含んでなるシールリング。
【請求項4】
互いに嵌合する雌雄の嵌合部材のうちの一方の嵌合部材に装着されて他方の嵌合部材と密着し、それら両嵌合部材の周面間の隙間をシールするシールリングにおいて、
筒状をなし、その内側及び外側の周面の一方が、前記一方の嵌合部材の周面に密着する筒状装着面になった筒形ベースと、
前記筒形ベースから前記筒状装着面の反対側に突出し、先端部が、前記筒形ベース回りで閉じた環状をなして前記他方の嵌合部材の周面に密着する環状頂上部となった環状突部と、を備え、
前記環状頂上部の少なくとも一部が前記筒形ベースの周方向に対して交差する方向に延びていて、
前記筒形ベースのうち前記筒状装着面の反対側の周面は、前記環状頂上部から前記筒形ベースの一端に向かって縮径する第1テーパー面と、前記環状頂上部から前記筒形ベースの他端に向かって縮径する第2テーパー面とを含んでなり、
前記筒形ベースの両端面は、前記筒状装着面と直交しているシールリング。
【請求項5】
互いに嵌合する雌雄の嵌合部材と、
前記雌雄の嵌合部材のうちの一方の嵌合部材の周面に形成された環状溝と、
前記環状溝に装着されて他方の嵌合部材と密着し、前記雌雄の嵌合部材の周面間の隙間をシールするシールリングと、を備えてなるシール構造において、
前記シールリングは、
筒状をなし、その内側及び外側の周面の一方が、前記一方の嵌合部材の周面に密着する筒状装着面になった筒形ベースと、
前記筒形ベースから前記筒状装着面の反対側に突出し、先端部が、前記筒形ベース回りで閉じた環状をなして前記他方の嵌合部材の周面に密着する環状頂上部となった環状突部と、を備え、
前記環状頂上部の少なくとも一部が前記筒形ベースの周方向に対して交差する方向に延びていて、
前記筒形ベースのうち前記筒状装着面の反対側の周面は、前記環状頂上部から前記筒形ベースの一端に向かって縮径する第1テーパー面と、前記環状頂上部から前記筒形ベースの他端に向かって縮径する第2テーパー面とを含んでなるシール構造。
【請求項6】
互いに嵌合する雌雄の嵌合部材のうちの一方の嵌合部材に装着されて他方の嵌合部材と密着し、それら両嵌合部材の周面間の隙間をシールするシールリングにおいて、
筒状をなし、その内側及び外側の周面の一方が、前記一方の嵌合部材の周面に密着する筒状装着面になった筒形ベースと、
前記筒形ベースから前記筒状装着面の反対側に突出し、先端部が、前記筒形ベース回りで閉じた環状をなして前記他方の嵌合部材の周面に密着する環状頂上部となった環状突部と、を備え、
前記環状頂上部の少なくとも一部が前記筒形ベースの周方向に対して交差する方向に延びていて、
前記筒形ベースにおける両端部から環状リップが突出しているシールリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、互いに嵌合する雌雄の嵌合部材の一方の嵌合部材に装着されて他方の嵌合部材と密着し、両嵌合部材の周面間の隙間をシールするシールリングと、そのようなシールリングを有するシール構造とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のシールリングとして広く普及しているOリングは、一方の嵌合部材の周面に形成されたOリング溝に収容されて、その周面から突出する円環状の突条を形成する。そして、両嵌合部材の周面間で押し潰されて、隙間をシールする(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-81177号公報(図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したOリング等の従来のシールリングでは、両嵌合部材の間にシールリングを押し込むときの嵌合操作に対して大きな嵌合抵抗がかかるという問題があり、その嵌合抵抗を小さくするための技術の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた発明の第1態様は、互いに嵌合する雌雄の嵌合部材のうちの一方の嵌合部材に装着されて他方の嵌合部材と密着し、それら両嵌合部材の周面間の隙間をシールするシールリングにおいて、筒状をなし、その内側及び外側の周面の一方が、前記一方の嵌合部材の周面に密着する筒状装着面になった筒形ベースと、前記筒形ベースから前記筒状装着面の反対側に突出し、先端部が、前記筒形ベース回りで閉じた環状をなして前記他方の嵌合部材の周面に密着する環状頂上部となった環状突部と、を備え、前記環状頂上部の少なくとも一部が前記筒形ベースの周方向に対して交差する方向に延びているシールリングである。
【0006】
発明の第2態様は、前記環状突部は、均一の幅をなして延びる突条構造をなしている第1態様に記載のシールリングである。
【0007】
発明の第3態様は、前記環状突部を複数備える第1態様又は第2態様に記載のシールリングである。
【0008】
発明の第4態様は、前記環状突部同士が交わる交差部を備える第3態様に記載のシールリングである。
【0009】
発明の第5態様は、前記環状突部は、前記筒形ベースの中心軸に対して傾斜する架空の平面に対して全体が平行になっている第1態様から第4態様の何れか1の態様に記載のシールリングである。
【0010】
発明の第6態様は、前記環状突部は、前記筒形ベースの周方向に蛇行している第1態様から第5態様の何れか1の態様に記載のシールリングである。
【0011】
発明の第7態様は、前記環状突部は、断面半円形又は断面三角形をなして延びている第1態様から第6態様の何れか1の態様に記載のシールリングである。
【0012】
発明の第8態様は、前記環状突部は、先端が前記筒形ベースの軸方向の一方側を向く襞状をなしている第1態様から第6態様の何れか1の態様に記載のシールリングである。
【0013】
発明の第9態様は、前記筒形ベースのうち前記筒状装着面の反対側の周面は、前記環状頂上部から前記筒形ベースの一端に向かって縮径する第1テーパー面と、前記環状頂上部から前記筒形ベースの他端に向かって縮径する第2テーパー面とを含んでなる第1態様に記載のシールリングである。
【0014】
発明の第10態様は、前記筒形ベースの両端面は、前記筒状装着面と直交している第1態様から第9態様の何れか1の態様に記載のシールリングである。
【0015】
発明の第11態様は、互いに嵌合する雌雄の嵌合部材と、前記雌雄の側嵌合部材のうちの一方の嵌合部材の周面に形成された環状溝と、前記環状溝に装着されて前記雌雄の側嵌合部材の周面間の隙間をシールする第1態様から第10態様の何れか1の態様に記載のシールリングと、を備えてなるシール構造である。
【発明の効果】
【0016】
発明の第1,11態様のシールリングは、筒形ベースの内外の一方の周面から環状突部が突出した構造になっている。そして、シールリングは、雌雄の一方の嵌合部材の周面に筒形ベースの筒状装着面が密着した状態に装着される。この状態で、一方の嵌合部材に他方の嵌合部材が嵌合されると、筒形ベースから突出する環状突部が他方の嵌合部材の周面に密着して、両嵌合部材の周面間の隙間がシールされる。ここで、環状突部の先端部である環状頂上部は、筒形ベース回りで閉じた環状をなすと共に、少なくとも一部が筒形ベースの周方向に対して交差する方向に延びている。これにより、両嵌合部材の嵌合過程で、環状突部の全体が一度に両嵌合部材の間に押し込まれることがなくなり、徐々に押し込まれて嵌合抵抗が分散され、嵌合抵抗を従来より小さくすることができる。
【0017】
環状突部は、均一の幅をなして延びる突条構造としてもよいし(発明の第2態様)、筒形ベースの筒状装着面の反対側の全体を断面山形状に突出させて環状突条としてもよい(発明の第9態様)。
【0018】
環状突部は、1つでもよいし複数でもよく(発明の第3態様)、複数の場合には、環状突部同士が交わるようにして交差する部分を有していてもよく(発明の第4態様)、複数の環状突部を筒形ベースの軸方向でコンパクトに纏めてもよい。なお、環状突部同士はクロスするように交わっていてもよいし、クロスせずに1つに交わっていてもよい。
【0019】
また、環状突部は、筒形ベースの周方向に蛇行する波形としてもよいし(発明の第6態様)、環状突部の全体を筒形ベースの中心軸に対して傾斜させた簡単な構造としてもよい(発明の第5態様)。また、上記した単純な構造にすれば、シールリングを製造するための金型費用を抑えることができる。
【0020】
環状突部の断面は、半円形又は三角形でもよいし(発明の第7態様)、それ以外の形状であってもよい。また、発明の第8態様のシールリングのように、環状突部を、先端が筒形ベースの軸方向の一方側を向いた襞状とすれば、一方側の反対側から環状突部が押されたときには容易に倒れるので、嵌合部材の嵌合過程で環状突部が容易に倒されるように配置して嵌合操作を容易に行うことができる。
【0021】
また、発明の第10態様のシールリングでは、筒形ベースの両端面が、筒状装着面と直交しているので、シールリングを装着する嵌合部材に周面に単純な段差部を設けるだけで、シールリングを嵌合部材に対して位置決めすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本開示の第1実施形態に係るシールリングの斜視図
図2】シール構造の側断面図
図3】第2実施形態に係るシールリングの斜視図
図4】シール構造の側断面図
図5】第3実施形態に係るシールリングの斜視図
図6】シールリングの側断面図
図7】第4実施形態に係るシールリングの斜視図
図8】シールリングの側断面図
図9】第5実施形態に係るシールリングの斜視図
図10】シールリングの側断面図
図11】(A)第6実施形態のシールリングの斜視図、(B)その側面図
図12】(A)第7実施形態のシールリングの斜視図、(B)その側面図
図13】(A)第8実施形態のシールリングの斜視図、(B)第9実施形態のシールリングの斜視図
図14】(A)第10実施形態のシールリングの斜視図、(B)第11実施形態のシールリングの斜視図
図15】(A)第12実施形態のシールリングの側断面図、(B)第13実施形態のシールリングの側断面図、(C)第14実施形態のシールリングの側断面図
図16】(A)第15実施形態のシールリングの側断面図、(B)その装着状態の側断面図
図17】本開示の変形例に係る環状突部の断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1実施形態]
以下、図1及び図2を参照して本開示の第1実施形態のシールリング10Aについて説明する。このシールリング10Aは、例えば、加硫ゴム、軟質樹脂等のエラストマーの成形品であって、筒形ベース11の外側の周面11Bに環状突部21を備える。
【0024】
筒形ベース11は、例えば、軸長よりも直径が大きな扁平の円筒状をなしている。また、筒形ベース11の両端面11Cは、筒形ベース11の中心軸と直交する平坦面をなし、筒形ベース11の内側の周面11A及び外側の周面11Bと両端面11Cとが直交する角部はR面取りされている。なお、第1実施形態では、筒形ベース11の周面11Aが、特許請求の範囲の「筒状装着面」に相当する。
【0025】
環状突部21は、均一の幅をなして延びる突条構造をなし、その断面形状は、図2(A)に示すように、例えば半円形になっている。そして、図1に示すように、環状突部21は、筒形ベース11回りで閉じた環状をなし、全体が、筒形ベース11の中心軸に対して傾斜する架空の平面S(図2(A)参照)に対して平行になっている。これにより、環状突部21は周方向の2箇所で筒形ベース11の両端面11Cに最も接近している。また、それら最も接近した位置でも、環状突部21は端面11Cより僅かに筒形ベース11の軸方向の中央側にずれている。なお、環状突部21の外面と筒形ベース11の外側の周面11Bとが交差する内角部は、R面取りされている。
【0026】
図2には、互いに嵌合する雌雄の嵌合部材91,95の周面間を上記シールリング10Aでシールするシール構造が示されている。雌側となる一方の嵌合部材95は、例えば円筒状になっていて、その内側に雄側となる他方の嵌合部材91が丁度嵌合される。また、嵌合部材91には、軸方向の途中部分を段付き状に陥没させて環状溝92が形成されている。また、嵌合部材91のうち環状溝92が形成された部分の小径部91Bの外径は、シールリング10Aの筒形ベース11の内径より僅かに大きくなっている。さらには、嵌合部材91のうち小径部91Bの両側の大径部91Aと小径部91Bとの半径の差分(つまり、環状溝92の深さ)は、シールリング10Aの筒形ベース11の肉厚より大きくなっている。
【0027】
なお、嵌合部材95の内側の周面95Aと端面95Cとの間の角部は、C面取りされてテーパー状の面取り面95Tが形成され、嵌合部材91の先端面91Cと嵌合部材91の周面との間の角部も、C面取りされてテーパー状の面取り面91Tが形成されている。
【0028】
図2(A)に示すように、シールリング10Aは、他方の嵌合部材91に装着されて筒形ベース11全体が環状溝92内に収まり、環状突部21の先端部である環状頂上部21Aが、嵌合部材91の大径部91Aの周面より外側に突出した状態にされる。また、この状態でシールリング10Aは、嵌合部材91(詳細には、小径部91B)によって僅かに拡径するように弾性変形されて、嵌合部材91における環状溝92の周面に密着している。そして、他方の嵌合部材91に一方の嵌合部材95が嵌合されると、図2(B)に示すように、環状突部21の環状頂上部21Aが一方の嵌合部材95の周面95Aに密着し、両嵌合部材91,95の周面間の隙間がシールされる。
【0029】
第1実施形態のシールリング10A及びシール構造の構成に関する説明は、以上である。次に、第1実施形態の作用効果について説明する。第1実施形態のシールリング10Aは、嵌合部材91,95の嵌合過程で以下のように変形する。即ち、嵌合部材91,95が嵌合される前は、図2(A)に示され、かつ上述したように、シールリング10Aの筒状ベース11が他方の嵌合部材91の環状溝92に収まり、環状突部21の環状頂上部21Aが、他方の嵌合部材91の外側の周面11Bから突出した状態になっている。そして、その環状頂上部21A全体は、嵌合部材91,95の嵌合方向に対して傾斜している。これにより、他方の嵌合部材91に一方の嵌合部材95を嵌合していくと、嵌合部材95の端面95Cにおける周方向の一点に環状頂上部21Aが当接する。そこから、嵌合部材91,95の嵌合を深める(両者の重なりを大きくする)と、環状頂上部21Aを含む環状突部21の周方向の一部が嵌合部材91,95の間に押し込まれる。そして、更に嵌合部材91,95の嵌合が深まると、嵌合部材95の端面95Cにおける周方向の二点に環状頂上部21Aが当接した状態になり、最後に、嵌合部材95の端面95Cにおける周方向の一点に環状頂上部21Aが当接した状態となってから、環状頂上部21Aを含む環状突部21全体が嵌合部材91,95の間に収まる。
【0030】
このように、第1実施形態の構成によれば、嵌合部材91,95が嵌合される過程で、環状突部21の全体が一度に両嵌合部材91,95の間に押し込まれることがなく、徐々に押し込まれるので嵌合抵抗が分散され、嵌合抵抗を従来より小さくすることができる。また、この効果はシールリング10Aが特殊な構造によって得られるので、嵌合部材91,95に対する特殊な加工を必要としない。さらに、シールリング10Aは、Oリングに比べて軸長が長い筒形ベース11が他方の嵌合部材91に嵌合することで他方の嵌合部材91に支持されるので、両嵌合部材91,95の嵌合過程で、一方の嵌合部材95に押されて捲れたり、他方の嵌合部材91に対してずれるような不具合が抑えられる。また、第1実施形態のシールリング10Aの環状突部21は、単純な楕円形状であるので、シールリング10Aを製造するための金型の製作費を抑えることもできる。
【0031】
なお、第1実施形態では、シールリング10Aの内側の周面11Aは、僅かに拡径変形した状態で嵌合部材91(詳細には、小径部91B)に嵌合されて嵌合部材91の周面に密着していたが、シールリング10Aが変形していない状態で嵌合部材91に嵌合されていて、嵌合部材91,95の間でシールリング10Aが挟まれることでシールリング10Aが嵌合部材91の周面に密着するようにしてもよい。
【0032】
[第2実施形態]
図3及び図4に示された第2実施形態のシールリング10Bは、上述した第1実施形態のシールリング10Aに対して、環状突部22が筒形ベース11の内側の周面11Aから突出し、筒形ベース11の外側の周面11Bが特許請求の範囲に「筒状装着面」になっている点が異なる。また、図4には、このシールリング10Bを雌雄の嵌合部材93,96の間に備えたシール構造が示されている。
【0033】
このシール構造では、雌側となる円筒状の一方の嵌合部材96における内側の周面96Aに環状溝97が形成され、そこにシールリング10Bが嵌合されている。また、環状突部22の環状頂上部22Aが嵌合部材96の内側の周面96Aより内側に突出している。そして、図4(B)に示した雄側となる他方の嵌合部材93が一方の嵌合部材96の内側に嵌合される際の嵌合過程で、第1実施形態と同様に、環状突部22が両嵌合部材93,96の間に徐々に押し込まれて嵌合抵抗が分散され、嵌合抵抗を従来より抑えられる。
【0034】
[第3実施形態]
第3実施形態のシールリング10Cは、図5及び図6に示されており、上述した第1実施形態のシールリング10Aに対して環状突部23の断面形状が異なる。具体的には、第3実施形態のシールリング10Cの環状突部23の断面形状は三角形になっていて、環状頂上部23Aが尖っている。
【0035】
[第4実施形態]
第4実施形態のシールリング10Dは、図7及び図8に示されており、上述した第1実施形態のシールリング10Aに対して環状突部24の断面形状が異なる。具体的には、図8に示すように、第4実施形態のシールリング10Dの環状突部24は、その先端が筒形ベース11の軸方向の一方側を向いた襞状をなし、筒形ベース11の軸方向の他方側から押されると一方側から押された場合により容易に筒形ベース11側に倒れるようになっている。これにより、第4実施形態のシールリング10Dを、図示しない嵌合部材に装着して相手側の嵌合部材に押されたときに環状突部24が容易に倒れるように配置することで、嵌合抵抗が分散され、嵌合抵抗を従来より抑えることができる。
【0036】
[第5実施形態]
第5実施形態のシールリング10Eは、図9及び図10に示されており、筒形ベース11の外側の周面11Bの全体に断面山形状の環状突部25が形成されている。具体的には、環状突部25の環状頂上部25Aは稜線25Sを有し、その稜線25Sは、筒形ベース11の中心軸に対して傾斜する架空の平面と平行になっている。そして、筒形ベース11の外側の周面11Bは、稜線25Sから筒形ベース11の一端に向かって縮径する第1テーパー面11Xと、稜線25Sから筒形ベース11の他端に向かって縮径する第2テーパー面11Yとからかり、筒形ベース11の外側の周面11Bの全体が断面山形状の環状突部25になっている。第5実施形態のシールリング10Eの構造によれば、環状突部25のうち環状頂上部25Aに向かう斜面が緩やかになり、嵌合部材の周面間に押し込まれ易くなり、嵌合抵抗が小さくなる。
【0037】
[第6実施形態]
第6実施形態のシールリング10Fは、図11に示されており、上述した第1実施形態のシールリング10Aに対し、環状突部26が筒形ベース11の周方向で対向している点が異なる。具体的には、環状突部26は、sinカーブ状に滑らかに湾曲し、筒形ベース11の全周で例えば2周期分の波を含んだ形状をなしている。なお、第6実施形態と以下の第7~第11実施形態と変形例との各説明図(図11図14図17)においては、環状突部26~37の符号の末尾に「A」を付した符号26A~37Aとして、環状突部26~37の各環状頂上部26A~37Aが図示されている。
【0038】
[第7実施形態]
第7実施形態のシールリング10Gは、図12に示されており、上述した第6実施形態のシールリング10Fに対し、環状突部27が三角波状に蛇行している点が異なる。具体的には、図12(A)における筒形ベース11を周方向で複数等分する位置に、三角波の上側のピークと下側のピークとが交互に配置されて、それら隣合う上側のピークと下側のピークとを最短距離で結ぶようにして環状突部27が延びている。
【0039】
[第8実施形態]
第8実施形態のシールリング10Hは、図13(A)に示されており、上述した第1実施形態のシールリング10Aの環状突部21と同一形状の1対の環状突部28を平行に配置して備えている。
【0040】
[第9実施形態]
第9実施形態のシールリング10Iは、図13(B)に示されており、上述した第8実施形態のシールリング10Hと同様に1対の環状突部29を備え、それら1対の環状突部29同士が非平行に配置されている。また、1対の環状突部29は、筒形ベース11の周方向の同じ第1位置で、筒形ベース11の一方の端面11Cに最接近し、そこから180度離れた筒形ベース11の周方向の同じ第2位置で、筒形ベース11の他方の端面11Cに最接近するように配置されている。
【0041】
[第10実施形態]
第10実施形態のシールリング10Jは、図14(A)に示されており、上述した第8実施形態のシールリング10Hと同様に1対の環状突部30を備え、それら1対の環状突部30が筒形ベース11の周方向の1箇所で交わっている。具体的には、1対の環状突部30は、筒形ベース11を軸方向で2等分する架空の分割面を挟んで対称に配置され、一方の環状突部30は、筒形ベース11の外側の周面11Bのうち分割面より筒形ベース11の一端側に略全体が収まった状態で筒形ベース11の軸方向に対して全体が傾斜し、他方の環状突部30は、筒形ベース11の外側の周面11Bのうち分割面より筒形ベース11の他端側に略全体が収まった状態で筒形ベース11の軸方向に対して全体が傾斜している。そして、分割面上の一点で1対の環状突部30が交わっている。
【0042】
[第11実施形態]
第11実施形態のシールリング10Kは、図14(B)に示されており、上述した第10実施形態のシールリング10Kと同様に1対の環状突部31を備え、それら1対の環状突部31が筒形ベース11の周方向の2箇所で交差している。具体的には、1対の環状突部31の一方は、上述した第1実施形態のシールリング10Aの環状突部21と同様に筒形ベース11の軸方向に対して全体が傾斜していて、他方の環状突部31は、一方の環状突部31を筒形ベース11の中心軸回りに180度回転させると一致する形状及び配置になっている。
【0043】
[第12実施形態]
第12実施形態のシールリング10Lは、図15(A)に示されており、上述した第1実施形態のシールリング10Aにおいて、筒状装着面である筒形ベース11の内側の周面11Aのうち環状突部21の裏側となる位置に当接突条41が形成されている。その当接突条41は、例えば断面半円状の突条形状をなし、その半円の半径は、環状突部21の断面形状の半円の半径より小さくなっている。そして、シールリング10Lが装着される嵌合部材の周面に対して、当接突条41が密着して押しつぶされ、筒形ベース11の内側の周面11Aも嵌合部材に密着する。
【0044】
[第13実施形態]
第13実施形態のシールリング10Mは、図15(B)に示されており、上述した第12実施形態のシールリング10Lと同様に、筒状装着面である筒形ベース11の内側の周面11Aのうち環状突部21と裏側となる位置に当接突条42を備える。その当接突条42の断面形状は、環状突部21の断面形状である半円を含む円の一部を構成する円弧面になっている。
【0045】
[第14実施形態]
第14実施形態のシールリング10Nは、図15(C)に示されており、筒状装着面である筒形ベース11の内側の周面11Aにおける両端寄り位置から1対の当接突条41が張り出した構造をなしている。
[第15実施形態]
第15実施形態のシールリング10Pは、図16に示されており、上述した第1実施形態のシールリング10Aの筒形ベース11における両端面11Cから環状リップ43が突出した構造をなしている。また、シールリング10Pは、例えば、図16(B)に示すように、嵌合部材91の環状溝92内に収容されて環状リップ43を環状溝92の溝側面に密着させた状態にして使用される。
【0046】
[他の実施形態]
(1)本開示に係る環状突部の断面形状は、上記した第1~第15実施形態で例示したものに限定されるものではなく、円形、楕円形、四角形、台形、多角形、弓形、又は、それらの一部を切り欠いた形であってもよい。具体的には、図17に一部例示したシールリング10Q~10Vの環状突部32~37のような断面形状であってもよい。
【0047】
(2)本開示における「環状頂上部」は、「環状突部の先端部」を意味する。その「環状突部の先端部」は、環状突部が筒形ベースの外側の周面に形成されている場合には、筒形ベースの内側の周面から最も離れた部分をいい、環状突部が筒形ベースの内側の周面に形成されている場合には、筒形ベースの外側の周面から最も離れた部分をいう。換言すれば、「環状突部の先端部である環状頂上部」は、シールリングのうちそのシールリングが装着される嵌合部材の周面から最も離れた位置に配置されて、嵌合相手である嵌合部材の周面に密着する部分をいう。また、「環状頂上部」は、「環状突部の先端部」であれば、そのような形状であってもよく、例えば、図17(A)に示した環状突部32の環状頂上部32Aのように、環状頂上部32Aの断面形状が丸くてもよいし、図17(B),図17(D),図17(F)に示した環状突部33,35,37の環状頂上部33A,35A,37Aのように、それら環状頂上部33A,35A,37Aの断面形状が平坦であってもよいし、図17(C),図17(E)に示した環状突部34,36の環状頂上部34A,36Aのように、それら環状頂上部34A,36Aの断面形状が凹凸を有していてもよい。
【0048】
(3)上述した第3~第15実施形態及び変形例のシールリング10C~10N,10P~10Vでは環状突部が筒形ベース11の外側の周面11Bに備えられていたが、第1実施形態のシールリング10Aと第2実施形態のシールリング10Bとの関係のように、第3~第15実施形態のシールリング10C~10N,10P~10Vにおいても、環状突部を筒形ベースの内側の周面に配置してもよい。
【0049】
(4)また、上述した第1~第15実施形態及び変形例のシールリング10C~10N,10P~10Vの構造の一部又は全部を任意に組み合わせてもよい。
【0050】
(5)上記した第6及び第7実施形態で例示した環状突部26,27は、sin波形状、又は、三角波形状になっていたが、矩形波形状や台形波形状であってもよい。
【0051】
(6)上述した第1~第15実施形態及び変形例のシールリング10C~10N,10P~10Vの筒形ベース11は、軸長より直径が大きくなっていたがその逆でもよく、直径と軸長とが同じであってもよい。
【0052】
(7)上述した第1~第15実施形態及び変形例のシールリング10C~10N,10P~10Vの筒形ベース11は円筒状であったが楕円筒状や角筒状であってもよい。
【0053】
(8)上述した第1~第15実施形態及び変形例のシールリング10A~10N,10P~10Vの筒形ベース11の両端面11Cは、平坦面になっていたが、平坦面でなくてもよく、例えば、テーパー面や円弧面であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
10A~10N,10P~10V シールリング
11 筒形ベース
11A 内側の周面
11B 外側の周面
11C 端面
11X 第1テーパー面
11Y 第2テーパー面
21~37 環状突部
21A~37A 環状頂上部
91,93,95,96 嵌合部材
92,97 環状溝
図1
図2
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