(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】施工方法
(51)【国際特許分類】
C04B 41/65 20060101AFI20240206BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
C04B41/65
E04G23/02 A
(21)【出願番号】P 2020102532
(22)【出願日】2020-06-12
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000231198
【氏名又は名称】日本国土開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100136261
【氏名又は名称】大竹 俊成
(72)【発明者】
【氏名】山内 匡
(72)【発明者】
【氏名】千賀 年浩
(72)【発明者】
【氏名】横山 大輝
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-330876(JP,A)
【文献】特開平05-262546(JP,A)
【文献】特開2012-176854(JP,A)
【文献】特開2016-034886(JP,A)
【文献】国際公開第2005/087664(WO,A1)
【文献】特開平09-286652(JP,A)
【文献】特開平09-086997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/65
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋が配設された領域にコンクリートを打設する工程と、
前記打設後、硬化前の前記コンクリートの表面に、化学式がM
2+
1-xM
3+
x(OH)
2(A
n-)
x/n・mH
2Oで表される層状複水酸化物(M
2+はカルシウムイオン以外の2価の金属、M
3+は3価の金属、A
n-は炭酸イオン、炭酸水素イオン、塩化物イオンでないn価の陰イオンを表し、nは自然数である)の粉末を散布し、前記コンクリートの表面をコテ仕上げする工程と、
を含む施工方法。
【請求項2】
前記粉末を前記鉄筋のかぶり部に散布する請求項
1に記載の施工方法。
【請求項3】
前記層状複水酸化物の結晶子サイズが20nm以下である請求項1または請求項2に記載の施工方法。
【請求項4】
前記A
n-
で表される陰イオンが硝酸イオンである請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリートは、引張強度の高い鉄筋と、圧縮強度の高いコンクリートを併用した構造物である。また、鉄筋は酸化して錆が発生し易いが、コンクリートに含まれる高アルカリのセメントによって鉄筋の表面には不動態膜が形成される。したがって、鉄筋コンクリート内部の鉄筋は腐食せず、要求性能を満たし続けることが可能となる。
【0003】
しかしながら、コンクリートの表面にひび割れ等が生じると、そのひび割れ部分から酸素や水分等が進入し、更に錆が生じるという悪循環が生じる。このため、鉄筋コンクリートの劣化を防止するために、樹脂性の塗布材をコンクリート表面に塗布している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンクリートのかぶり厚さは鉄筋を塩害から守る役割を果たしている。ここで、かぶり厚さとは、鉄筋からコンクリート表面までの最短距離のことを意味する。塩害からの影響を低減するためには、かぶり厚さの確保が重要となるが、かぶり厚さの確保には限度があるため、塩分から鉄筋を守るためには、かぶり部に位置するコンクリートの品質も重要な要素になると考えられる。
【0006】
そこで、本発明は、塩分による鉄筋の腐食を抑制することが可能な施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る施工方法は、鉄筋が配設された領域にコンクリートを打設する工程と、前記打設後、硬化前の前記コンクリートの表面に、化学式がM2+
1-xM3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2Oで表される層状複水酸化物(M2+はカルシウムイオン以外の2価の金属、M3+は3価の金属、An-は炭酸イオン、炭酸水素イオン、塩化物イオンでないn価の陰イオンを表し、nは自然数である)の粉末を散布し、前記コンクリートの表面をコテ仕上げする工程と、を含む施工方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、塩分による鉄筋の腐食を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(a)は、第1の実施形態に係る新設コンクリートの断面図であり、
図1(b)は、補修前の新設コンクリートの表面の状態を示す図である。
図1(c)は、セメントモルタル又はポリマーセメントモルタルを補修材として用いた例を示す図であり、
図1(d)は、塩分吸着補修材を用いて補修した例を示す図である。
【
図2】
図2(a)~
図2(d)は、実施例を説明するための図である。
【
図3】実施例の塩分浸漬乾湿繰り返し試験の結果を示すグラフである。
【
図4】第2の実施形態のRCセグメントを示す斜視図である。
【
図5】第2の実施形態のRCセグメントの製造手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
《第1の実施形態》
以下、第1の実施形態に係るコンクリート品質向上材料について説明する。
図1(a)には、第1の実施形態に係る新設コンクリート100の断面図が模式的に示されている。
図1(a)の新設コンクリート100は、鉄筋10と、コンクリート12とを有しており、鉄筋10からコンクリート表面12aまでの最短距離(かぶり厚さ:Ha)は、設計かぶり厚さHbよりも小さくなっている。
【0014】
このように、かぶり厚さが小さい場合、補修材を用いて、かぶり厚さが設計かぶり厚さHbとなるように補修する必要がある。ここで、塩害環境下に存在するコンクリート12の表面12aには、補修までの間に、
図1(b)に示すように、塩分(Cl
-)が付着していることがある。
【0015】
図1(c)には、セメントモルタル又はポリマーセメントモルタルを補修材14として用いた例が模式的に示されている。
図1(c)の場合、コンクリート12の表面12aに付着していた塩分が内部に残置され、塩害劣化の要因になる可能性がある。
【0016】
そこで、本実施形態では、ポリマーセメントモルタルと、層状複水酸化物と、を含む塩分吸着機能を有する補修材(以下、塩分吸着補修材)16を用いて、
図1(d)に示すようにコンクリート12の表面12aを補修することとしている。以下、本実施形態の塩分吸着補修材16について、詳細に説明する。
【0017】
(塩分吸着補修材16について)
塩分吸着補修材16は、ポリマーセメントモルタルと、層状複水酸化物とを含んでいる。
【0018】
ポリマーセメントモルタルは、セメント及び細骨材にポリマーディスパージョンまたは再乳化形粉末樹脂を混合したモルタルである。ポリマーセメントモルタルは、セメントモルタルに比べると接着性、防水性、乾燥収縮性、耐薬品性、耐磨耗性、耐衝撃性などが高いほか、中性化の抑制にも効果がある。ポリマーディスパージョンとしては、スチレンブタジエンゴム(SBR)系ラテックス、アクリル酸エステル(PAE)系エマルション、エチレン酢酸ビニル(EVA)系エマルション等を用いることができる。また、再乳化形粉末樹脂としては、アクリル系、酢酸ビニル系の樹脂等を用いることができる。
【0019】
層状複水酸化物は、一般式がM2+
1-xM3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2O(ここで、M2+は2価の金属、M3+は3価の金属、An-はn価の陰イオン、nは自然数、0<x<1、m>0)で表される不定比化合物であり、ハイドロタルサイト様化合物と呼ばれることもある。2価の金属イオン(M2+)としては、例えば、Mg2+、Fe2+、Zn2+、Li2+、Ni2+、Co2+、Cu2+等が挙げられる。ただし、2価の金属イオン(M2+)には、Ca2+は含まれないものとする。すなわち、層状複水酸化物は、ハイドロカルマイトではないものとする。また、3価の金属イオン(M3+)としては、例えば、Al3+、Fe3+、Cr3+、Mn3+等が挙げられる。なお、前記一般式に含まれる2価の金属イオン(M2+)や3価の金属イオン(M3+)は1種類である必要はなく、複数種類を含んでいても良い。
【0020】
また、層状複水酸化物の層間にある陰イオンAn-は、層状複水酸化物とより親和性の高い他の陰イオンと交換される。当該陰イオン交換は、電荷密度が高いイオンの方が取り込まれやすく、大きさが同じであれば価数が高いイオンが、価数が同じであればイオン径の小さなイオンが取り込まれやすい。したがって、ポリマーセメントモルタルに層状複水酸化物を一定量混合することにより、コンクリート自体やコンクリート表面のひび割れから侵入した塩分等を吸着固定することができる。層間陰イオンAn-としては、例えば、ClO4
-、HCO3
-、PO4
3-、SO4
2-、SiO4
4-、OH-、NO2
-、NO3
-等が挙げられる。層状複水酸化物による塩分の吸着性能を高くするためには、硝酸イオン(NO3
-)が好ましい。一方、炭酸イオン(CO3
2-)や炭酸水素イオン(HCO3
-)は、他の陰イオンと交換されてセメント中に放出されると、当該セメントと反応して炭酸カルシウムを生じ、コンクリートが中性化するおそれがある。また、塩化物イオン(Cl-)は、他の陰イオンと交換されて放出されると、鉄が腐食するおそれがある。したがって、層状複水酸化物の層間陰イオンAn-には炭酸イオン、炭酸水素イオン又は塩化物イオンを含まない方が好ましい。
【0021】
本第1の実施形態に係る層状複水酸化物は、2価の金属イオン(M2+)、3価の金属イオン(M3+)、陰イオン(An-)として、どのようなものを用いたものでもよい。例えば、2価の金属イオン(M2+)がMg2+であり3価の金属イオン(M3+)がAl3+であるMg2+
1-xAl3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2O(Mg-Al型)や、2価の金属イオン(M2+)がMg2+であり3価の金属イオン(M3+)がFe3+であるMg2+
1-xFe3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2O(Mg-Fe型)や、2価の金属イオン(M2+)がFe2+であり3価の金属イオン(M3+)がFe3+であるFe2+
1-xFe3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2O(Fe-Fe型)とすることができる。なお、Mg-Fe型は、ヒ素の吸着の効果が高い点、比重が高く沈降分離が容易である点、原料コストを抑えられる点において、Mg-Al型よりも優れている。
【0022】
また、本第1の実施形態に係る層状複水酸化物は、結晶子サイズが20nm以下である方が良く、更に好ましくは10nm以下である方が良い。例えば、層状複水酸化物の結晶子サイズを20nm以下にすれば、比表面積を20m2/g以上のものとすることができ、吸着性能を向上することができる。
【0023】
層状複水酸化物の合成は、2価の金属イオンと3価の金属イオンを含有する酸性溶液とアルカリ性溶液とを混合して行う。ここで合成される層状複水酸化物は、結晶子サイズを小さくするほど、その比表面積を大きくすることができる。したがって、合成後の熟成時間は短い方が良く、酸性溶液とアルカリ性溶液の混合後、少なくとも120分以内、好ましくは60分以内、更に好ましくは混合と同時に中和する方が良い。
【0024】
次に、一例として、構造式がMg2+
1-xAl3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2Oで表される層状複水酸化物の合成方法を説明する。
【0025】
まず、アルミニウムイオンとマグネシウムイオンを含む酸性溶液を調製する。
【0026】
アルミニウムイオンのアルミニウム源としては、水中でアルミニウムイオンを生成するものであれば良く、特定の物質に限定されるものではない。例えば、アルミナ、アルミン酸ソーダ、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、ボーキサイト、ボーキサイトからのアルミナ製造残渣、アルミスラッジ等を用いることができる。また、これらアルミニウム源は、いずれかを単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0027】
また、マグネシウムイオンのマグネシウム源としては、水中でマグネシウムイオンを生成する物であれば良く、特定の物質に限定されるものではない。例えば、ブルーサイト、水酸化マグネシウム、マグネサイト、マグネサイトの焼成物等を用いることができる。これらマグネシウム源は、いずれかを単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0028】
なお、前記アルミニウム源としてのアルミニウム化合物、マグネシウム源としてのマグネシウム化合物は、前記酸性溶液にアルミニウムイオン、マグネシウムイオンが存在していれば完全に溶解している必要はない。
【0029】
また、Mg2+
1-xAl3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2Oで表わされる高結晶質の層状複水酸化物は、アルミニウムイオンとマグネシウムイオンのモル比が1:3(x=0.25)となっていることが知られている。したがって、酸性溶液中のアルミニウムイオンとマグネシウムイオンのモル比は、1:5~1:2の範囲とするのが好ましい。この範囲とすることによって、アルミニウム源とマグネシウム源を無駄にすることなく、物質収支的に有利に層状複水酸化物を製造することができる。
【0030】
酸性溶液に含まれる酸としては、水溶液を酸性にするものであれば特に限定されないが、例えば、硝酸や塩酸を用いることができる。
【0031】
また、アルカリ性溶液を調製する。ここで、アルカリ性溶液に含まれるアルカリとしては、水溶液をアルカリ性にするものであれば特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等を用いることができる。また、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、アンモニア水、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウムなどを用いることもできる。これらはいずれかを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。アルカリ性溶液は、pHを8~14に調製したものを用いることができ、pHを8~11に調製したものを用いるのが好ましい。
【0032】
ただし、高結晶質の層状複水酸化物は炭酸イオンと優先的にイオン交換するため、炭酸イオンを含むと目的とする陰イオンと効率良くイオン交換できない。また、炭酸イオン(CO3
2-)は、他の陰イオンと交換されてセメント中に放出されると、当該セメントと反応して炭酸カルシウムを生じ、コンクリートが中性化するおそれがある。また、塩化物イオン(Cl-)は、他の陰イオンと交換されて放出されると、鉄筋コンクリート中の鉄が腐食するおそれがある。したがって、前記酸性溶液およびアルカリ性溶液には、炭酸イオン、炭酸水素イオン及び塩化物イオンを含まないものにする方が好ましい。
【0033】
次に、アルミニウムイオンとマグネシウムイオンを含んだ酸性溶液と、アルカリを含むアルカリ性溶液とを所定の割合で混合する。これにより、層状複水酸化物が生成する。混合は、酸性溶液をアルカリ性溶液へ一気に加えて混合するか、酸性溶液をアルカリ性溶液へ滴下して行うことができるが、これら以外の方法であっても良い。
【0034】
なお、酸性溶液とアルカリ性溶液の混合が完了した後の熟成時間を短くするほど、結晶の成長を抑制することができ、結晶子サイズの小さい層状複水酸化物や比表面積の大きい層状複水酸化物を製造することができる。
【0035】
熟成を止める方法としては、酸性溶液とアルカリ性溶液の混合が完了した後、当該混合液のpHを層状複水酸化物の結晶成長が止まる値まで下げる方法が挙げられる。例えば、一般式Mg2+
1-xAl3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2Oで表される層状複水酸化物の場合、pHが9以下となるようにすれば良い。具体的には、酸性溶液とアルカリ性溶液との混合が完了した後120分以内、好ましくは60分以内、更に好ましくは混合と同時に、水で希釈することで、熟成を止めることができる。また、確実に熟成を行わせないためには、酸性溶液とアルカリ性溶液の混合が完了した後、速やかに層状複水酸化物を洗浄するのも良い。
【0036】
なお、上記説明では、酸性溶液側にアルミニウムイオンとマグネシウムイオンを含有させる場合について説明したが、これに限られるものではなく、酸性溶液側にアルミニウムイオンを含有させアルカリ性溶液側にマグネシウムイオンを含有させたり、酸性溶液側にマグネシウムイオンを含有させアルカリ性溶液側にアルミニウムイオンを含有させたり、あるいは、アルカリ性溶液側にアルミニウムイオンとマグネシウムイオンの両方を含有させたりすることも可能である。
【0037】
また、別の例として、構造式がMg2+
1-xFe3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2Oで表される層状複水酸化物の合成方法を説明する。
【0038】
まず、鉄イオンとマグネシウムイオンを含む酸性溶液を調製する。
【0039】
鉄イオンの鉄源としては、水中で鉄イオンを生成するものであれば良く、特定の物質に限定されるものではない。例えば、塩化鉄等を用いることができる。また、これら鉄源は、いずれかを単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0040】
また、マグネシウムイオンのマグネシウム源としては、水中でマグネシウムイオンを生成する物であれば良く、特定の物質に限定されるものではない。例えば、ブルーサイト、水酸化マグネシウム、マグネサイト、マグネサイトの焼成物等を用いることができる。これらマグネシウム源は、いずれかを単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0041】
なお、前記鉄源としての鉄化合物、マグネシウム源としてのマグネシウム化合物は、前記酸性溶液に鉄イオン、マグネシウムイオンが存在していれば完全に溶解している必要はない。
【0042】
また、Mg2+
1-xFe3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2Oで表わされる高結晶質の層状複水酸化物は、鉄イオンとマグネシウムイオンのモル比が1:3(x=0.25)となっていることが知られている。したがって、酸性溶液中の鉄イオンとマグネシウムイオンのモル比は、1:5~1:2の範囲とするのが好ましい。この範囲とすることによって、鉄源とマグネシウム源を無駄にすることなく、物質収支的に有利に層状複水酸化物を製造することができる。
【0043】
酸性溶液に含まれる酸としては、水溶液を酸性にするものであれば特に限定されないが、例えば、硝酸や塩酸を用いることができる。
【0044】
また、アルカリ性溶液を調製する。ここで、アルカリ性溶液に含まれるアルカリとしては、水溶液をアルカリ性にするものであれば特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等を用いることができる。また、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、アンモニア水、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウムなどを用いることもできる。これらはいずれかを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。アルカリ性溶液は、pHを8~14に調製したものを用いることができ、pHを8~11に調製したものを用いるのが好ましい。なお、この場合においても、上述したように、酸性溶液およびアルカリ性溶液には、炭酸イオン、炭酸水素イオン及び塩化物イオンを含まないものにする方が好ましい。
【0045】
次に、鉄イオンとマグネシウムイオンを含んだ前記酸性溶液と、アルカリを含むアルカリ性溶液とを所定の割合で混合する。これにより、層状複水酸化物が生成する。混合は、酸性溶液をアルカリ性溶液へ一気に加えて混合するか、酸性溶液をアルカリ性溶液へ滴下して行うことができるが、これら以外の方法であっても良い。
【0046】
なお、酸性溶液とアルカリ性溶液の混合が完了した後の熟成時間を短くするほど、結晶の成長を抑制することができ、結晶子サイズの小さい層状複水酸化物や比表面積の大きい層状複水酸化物を製造することができる。
【0047】
熟成を止める方法としては、酸性溶液とアルカリ性溶液の混合が完了した後、当該混合液のpHを層状複水酸化物の結晶成長が止まる値まで下げる方法が挙げられる。例えば、一般式Mg2+
1-xFe3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2Oで表される層状複水酸化物の場合、pHが9以下となるようにすれば良い。具体的には、酸性溶液とアルカリ性溶液との混合が完了した後120分以内、好ましくは60分以内、更に好ましくは混合と同時に、水で希釈することで、熟成を止めることができる。また、確実に熟成を行わせないためには、酸性溶液とアルカリ性溶液の混合が完了した後、速やかに層状複水酸化物を洗浄するのも良い。なお、合成過程で生成されるNaCl等の塩化物は含有させておいても構わない。
【0048】
なお、上記説明では、酸性溶液側に鉄イオンとマグネシウムイオンを含有させる場合について説明したが、これに限られるものではなく、酸性溶液側に鉄イオンを含有させアルカリ性溶液側にマグネシウムイオンを含有させたり、酸性溶液側にマグネシウムイオンを含有させアルカリ性溶液側に鉄イオンを含有させたり、あるいは、アルカリ性溶液側に鉄イオンとマグネシウムイオンの両方を含有させたりすることも可能である。
【0049】
ポリマーセメントモルタルへの層状複水酸化物の混合方法は、層状複水酸化物をポリマーセメントモルタルに均一に混合できるものであればどのようなものでも良く、ポリマーセメントモルタルを製造する工程で従来から知られている一般的な方法を用いることができる。例えば、反応釜において、拡散・溶解・分散等を合理的に行えるミキサーを用いれば混合することができる。
【0050】
塩分吸着補修材16に含まれるポリマーセメントモルタルとしては、水セメント比W/C(水とセメントの重量の比率)が20~60%のものを用いることができる。この場合、層状複水酸化物の添加量は、(セメントの重量)×(10~30%)とする。すなわち、塩分吸着補修材1m3あたりの質量(重量)に対して、層状複水酸化物が2~8%程度含まれるようにする。このようにすることで、補修材として必要な粘度を確保しつつ、層状複水酸化物による塩分吸着機能を確保することができる。
【0051】
なお、
図1(d)の塩分吸着補修材16は、ポリマーセメントモルタルと、層状複水酸化物と、を含むこととしたが、これに限らず、塩分吸着補修材16は、セメントモルタルと、層状複水酸化物と、を含むこととしてもよい。セメントモルタルは、セメントと砂と水を混合したものである。セメントモルタルとしては、水セメント比W/C(水とセメントの重量の比率)が30~60%のものを用いることができる。この場合、層状複水酸化物の添加量は、(セメントの重量)×(10~30%)とする。すなわち、塩分吸着補修材1m
3あたりの質量(重量)に対して、層状複水酸化物が2~8%程度含まれるようにする。このようにすることで、補修材として必要な粘度を確保しつつ、層状複水酸化物による塩分吸着機能を確保することができる。
【0052】
[実施例]
以下、本発明者が実施した、塩分吸着補修材の塩分浸漬乾湿繰り返し試験について、説明する。
【0053】
本発明者は、まず、
図2(a)、
図2(b)に示すような試料を2つ用意した。
図2(a)は、試料の斜視図であり、
図2(b)は試料の側面図である。
図2(a)、
図2(b)に示す試料は、高さ85mm、幅100mm、奥行き150mmの直方体状のコンクリートに、直径13mmの鉄筋を埋め込んだものである。なお、鉄筋の一端は、コンクリートから10mm突出した状態となっている。この突出した部分は、後述する自然電位計測の際に電位差計を接続する部分となる。
【0054】
また、本発明者は、
図2(c)に示すように、一方の試料の鉄筋のかぶり部をセメントモルタルで補修し、試験用試料1とした。このときのかぶり厚は15mmとした。ここで、試験用試料1に塗布したセメントモルタルは、普通ポルトランドセメントであり、層状複水酸化物を含まないものである。普通ポルトランドセメントの水セメント比W/Cは、40%であった。
【0055】
更に、本発明者、
図2(d)に示すように、他方の試料の鉄筋のかぶり部を層状複水酸化物を含むセメントモルタルで補修し、試験用試料2とした。このときのかぶり厚は15mmとした。ここで、セメントモルタルは、普通ポルトランドセメントであり、水セメント比W/Cは、40%であった。また、層状複水酸化物の添加量は、(セメントの重量)×10%であった。すなわち、補修材1m
3あたりの質量(重量)に対して層状複水酸化物を3.2%添加した。
【0056】
本発明者は、このような試験用試料1、2を用いて、塩分浸漬乾湿繰り返し試験を実施した。塩分浸漬乾湿繰り返し試験は以下の要領で実施した。
(1)温度40℃、湿度60%の恒温恒湿室において、3%塩化ナトリウム水溶液を使用し、試験用試料1、2に対して乾湿繰り返し試験を行った。
(2)乾湿繰り返し試験においては、3日間浸漬し、4日間乾燥する処理を1サイクルとした。
(3)各サイクル間において、試験用試料1、2の自然電位を計測し、腐食状況を確認した。なお、本実施例では、自然電位計測において、飽和硫酸銅電極に対する自然電位(mV vs CSE)を計測し、その値が限界値(=-350(mV vs CSE))未満となった場合に、腐食が発生したと判断することとした。
【0057】
図3には、上記塩分浸漬乾湿繰り返し試験の結果が示されている。
図3のグラフは、横軸がサイクル数、縦軸が自然電位となっている。
図3を参照すると、試験用試料1では、14サイクル目で腐食が発生したことがわかる。また、試験用試料2では、26サイクル目に腐食が発生したことがわかる。これらの結果より、補修材として、セメントモルタル単体の補修材を用いる場合よりもセメントモルタルと層状複水酸化物を含む補修材を用いた方が、腐食が発生するタイミングを12サイクル遅らせることができることがわかった。このように腐食を遅らせることができたのは、層状複水酸化物が外部から侵入する塩分を吸着して、塩分の内部への拡散速度を低減することができているからと考えられる。
【0058】
以上説明したように、本第1の実施形態によると、塩分吸着補修材16は、セメントと、層状複水酸化物と、を含んでいる。これにより、補修前に新設コンクリート100の表面に残置していた塩分を層状複水酸化物が吸着して固定化し、塩分の拡散速度を低減するため、鉄筋の腐食を抑制することができる。また、補修後に新設コンクリートの外部から侵入してくる塩分についても、層状複水酸化物が吸着して拡散速度を低減するため、この点からも鉄筋の腐食を抑制することができる。
【0059】
また、本第1の実施形態では、塩分吸着補修材16がポリマーセメントモルタルを含む場合に、塩分吸着補修材16の1m3当たりの質量に対して、層状複水酸化物を2~8%含むようにしている。また、塩分吸着補修材16がセメントモルタルを含む場合に、塩分吸着補修材16の1m3当たりの質量に対して、層状複水酸化物を2~8%含むようにしている。これにより、補修材としての粘度を確保しつつ、塩分の吸着性能を確保することができる。
【0060】
また、本第1の実施形態では、層状複水酸化物の結晶子サイズを20nmと以下としているので、比表面積を20m2/g以上のものとすることができ、吸着性能を向上することができる。
【0061】
《第2の実施形態》
次に、第2の実施形態について説明する。本第2の実施形態では、二次製品コンクリート(例えば、RC(Reinforced-Concrete)セグメント)の表面仕上げ材として、セメントペーストと層状複水酸化物とを含むコンクリート品質向上材料を用いることとしている。
【0062】
図4には、本第2の実施形態に係るRCセグメントの斜視図が示されている。
図4に示すRCセグメントは、地下道路、地下鉄、地下共同溝、上下水道、地下河川など、シールド工法によって造られる地下空間(トンネル)を支えるための構造体である。RCセグメントの
図4の紙面奥側の面は、地山と接触する地山面30となっている。
【0063】
次に、RCセグメントの製造手順について、
図5のフローチャートに沿って説明する。
【0064】
作業者は、まず、
図5のステップS10において、RCセグメントの設計を行う。このとき、RCセグメントは、地下空間(トンネル)の仕様に応じた強度とサイズで設計する。より具体的には、鉄筋の配置や口径、曲率などを綿密に計算し、型枠を設計する。
【0065】
次いで、ステップS12では、作業者は、型枠の組み立てを行う。次いで、ステップS14では、作業者は、離型剤を塗布した型枠内に鉄筋を設置する。次いで、ステップS16では、作業者は、型枠内に接手金物を取り付ける。なお、鉄筋や接手金物を設置した後は、コンクリート打設前の検査を行う。
【0066】
次いで、ステップS18では、作業者は、型枠内へのコンクリート打設を行う。このとき、型枠の細部まで隙間なく生コンクリートを行き渡らせるため、型枠全体を振動させたり、棒状のバイブレータで生コンクリートを振動させたりする。
【0067】
ステップS18におけるコンクリート打設の後、コンクリートの硬化が始まる前に、ステップS20において、作業者は、RCセグメントの表面仕上げを行う。この場合、作業者はRCセグメントの地山面30(すなわち、鉄筋のかぶり部分)の上にセメントペーストと層状複水酸化物とを含む表面仕上げ材を適量載せ、コテ仕上げを行う(薄塗りする)。なお、ここで用いる表面仕上げ材は、セメントペースト(W/C=30~60%)に、層状複水酸化物を(セメントの重量)×10~40%だけ添加したものである。この場合、表面仕上げ材1m3あたりの質量(重量)に対して層状複水酸化物を5~25%添加しているといえる。
【0068】
その後、湿潤養生を行いつつ、コンクリートの硬化を待ち、コンクリートが硬化した段階で、ステップS22に移行する。ステップS22では、作業者は、脱型作業を行う。その後は、各種検査を実行し、出荷等することで、
図5の全処理が終了する。
【0069】
本第2の実施形態においては、地山面30(すなわち鉄筋のかぶり部分)にセメントペーストと層状複水酸化物とを含む表面仕上げ材を薄塗りするので、第1の実施形態と同様、層状複水酸化物が、RCセグメントの外部から侵入してくる塩分を吸着して拡散速度を低減することができる。これにより、鉄筋の腐食を抑制することができる。
【0070】
また、本第2の実施形態においては、表面仕上げ材がセメントペーストを含む場合に、表面仕上げ材の1m3当たりの質量に対して、層状複水酸化物を5~25%含むようにしている。これにより、表面仕上げ材としての粘度を確保しつつ、塩分の吸着性能を確保することができる。
【0071】
なお、上記第2の実施形態では、表面仕上げ材が、セメントペーストと層状複水酸化物とを含む場合について説明したが、これに限られるものではない。表面仕上げ材は、セメントモルタル又はポリマーセメントモルタルと、層状複水酸化物と、を含むものであってもよい。
【0072】
なお、上記第2の実施形態では、二次製品コンクリート(例えば、RCセグメント)に対して表面仕上げ材を薄塗りする場合について説明したが、これに限らず、表面仕上げ材を厚塗りすることとしてもよい。この場合、二次製品コンクリートのかぶり厚さを予め小さくしておき、そのかぶり部分に表面仕上げ材を厚塗りして、設計かぶり厚さを確保する。この場合、表面仕上げ材としては、上記第2の実施形態と同様、セメントと層状複水酸化物を含むコンクリート品質向上材料を用いることができる。このように表面仕上げ材を厚塗りすることで、上記第2の実施形態と同様、鉄筋の腐食を抑制できる。また、鉄筋の腐食を抑制できることから、設計かぶり厚さを小さくすることができるようになるため、セメントの使用量や鉄筋の量の削減が期待される。
【0073】
なお、上記第2の実施形態では、二次製品コンクリート(例えば、RCセグメント)に対して表面仕上げ材を薄塗りするのに代えて、コテ仕上げする面(
図4の地山面30、すなわち鉄筋のかぶり部分)に層状複水酸化物の粉末を散布して、コテ仕上げを行うようにしてもよい。この場合、例えば、地山面30の表面におけるコンクリートと層状複水酸化物の割合が、上記第2実施形態で示した割合に近づくように、層状複水酸化物を散布するのが好ましい。
【0074】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0075】
10 鉄筋
12 コンクリート
16 塩分吸着補修材