(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】流体システム
(51)【国際特許分類】
F04D 15/00 20060101AFI20240206BHJP
E02B 9/00 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
F04D15/00 H
E02B9/00 Z
(21)【出願番号】P 2020172082
(22)【出願日】2020-10-12
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】作田 実
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-218719(JP,A)
【文献】特開2004-239163(JP,A)
【文献】特開2003-13838(JP,A)
【文献】特開2002-235671(JP,A)
【文献】特開平5-39773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 15/00
F03B 7/00
F03B 11/02
F03B 11/00
E02B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流水によって発電可能な水車機能と、流水を圧送可能なポンプ機能とを有する流体機械が備えられた流体システムであって、
前記流体機械を前記流水中において垂直方向に移動可能に支持する支持機構と、
前記流体機械に設けられ、当該流体機械を前記流水中において上方に移動させ得る浮力を生じさせることができるフロート部と、
前記支持機構に設けられ、前記流体機械及び前記フロート部に対して、前記浮力に応じた下向きの付勢力を作用させることができる付勢手段と、が備えられ、
前記流体機械は、前記流水の水位に応じて、前記水車機能と前記ポンプ機能とが切り替えられるように構成されるとともに、
前記水車機能を発揮するときは水車運転没水深さに位置させ、前記ポンプ機能を発揮するときは前記水車運転没水深さより深いポンプ運転没水深さに位置させることができるように構成されていることを特徴とする流体システム。
【請求項2】
当該フロート部は、当該流体機械よりも上方において前記流水中に常に位置する常没領域と、当該常没領域から上方において、水面上に位置し得る変没領域とを有し、
前記流体機械及び前記常没領域に生じる浮力と、前記流体機械及び前記フロート部に作用する重力とが釣り合うことで、前記流体機械は前記水車運転没水深さに位置し、
前記変没領域が没水することにより増加する浮力と、前記付勢手段によって作用する付勢力とが釣り合うことで、前記流体機械は前記ポンプ運転没水深さに位置するように構成されている請求項1に記載の流体システム。
【請求項3】
前記流体機械の前記垂直方向における位置を検知可能な検知機構が設けられている請求項1又は2に記載の流体システム。
【請求項4】
前記流体機械の前記水車機能と前記ポンプ機能とを切り替える切替機構が備えられ、
当該切替機構は、前記検知機構が検知した前記流体機械の前記垂直方向における位置に基づいて、前記水車機能から前記ポンプ機能への切り替え、及び、前記ポンプ機能から前記水車機能への切り替えを行うように構成されている請求項3に記載の流体システム。
【請求項5】
前記水車機能から前記ポンプ機能への切り替えの契機となるポンプ切替位置と、
前記ポンプ機能から前記水車機能への切り替えの契機となる水車切替位置とが、同じ高さに設けられている、又は、
前記水車切替位置は前記ポンプ切替位置よりも低い位置に設けられている請求項4に記載の流体システム。
【請求項6】
前記付勢手段は、前記流体機械が前記垂直方向の上方に移動することにより圧縮される圧縮バネ、又は引っ張られる引張バネの少なくともいずれかを備えている請求項1から5のいずれか一項に記載の流体システム。
【請求項7】
前記水車機能用の羽根車と、前記ポンプ機能用の羽根車とが同じである請求項1から6のいずれか一項に記載の流体システム。
【請求項8】
前記水車機能用の羽根車と、前記ポンプ機能用の羽根車とが別である請求項1から6のいずれか一項に記載の流体システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流水によって発電可能な水車機能と、流水を圧送可能なポンプ機能とを有する流体機械が備えられた流体システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、河川等の水流を利用して発電する水車機構が存在する(特許文献1参照)。
【0003】
これとは別に、従来から、河川等における大雨等の増水時に下流側への流下を促進するためのポンプ機構が存在する(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003‐13838号公報
【文献】特開2002‐235671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような水車機構やポンプ機構を河川等に配置する際の省スペース化のために、共通のケーシング内に、流水によって発電可能な水車機能と流水を圧送可能なポンプ機能とを有する流体機械の開発が望まれている。
【0006】
ところで、このような流体機械は、水車機能を発揮するときと、ポンプ機能を発揮するときとで、最適な没水深さは異なる。なお、没水深さとは、水面から流体機械の水車機能やポンプ機能のための羽根車の回転軸心までの深さをいう。
【0007】
すなわち、水車機能を発揮する際には、河川等の河底には砂や石等が存在するため、流体機械は、当該砂や石等を巻き込むことを回避することができるように、水面に近い位置に配置されることが好ましい。
【0008】
一方、ポンプ機能を発揮する際には、河川等における大雨等の増水に伴って水面には枝葉等の夾雑物が大量に流れているため、流体機械は、当該夾雑物を巻き込むことを回避することができるように、水車機能を発揮するときの没水深さよりも深い位置に配置されることが好ましい。
【0009】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、水車機能を発揮するときと、ポンプ機能を発揮するときとで、それぞれ異なった最適な没水深さに流体機械を配置することができる流体システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するための、本発明の流体システムの特徴構成は、流水によって発電可能な水車機能と、流水を圧送可能なポンプ機能とを有する流体機械が備えられた流体システムであって、前記流体機械を前記流水中において垂直方向に移動可能に支持する支持機構と、前記流体機械に設けられ、当該流体機械を前記流水中において上方に移動させ得る浮力を生じさせることができるフロート部と、前記支持機構に設けられ、前記流体機械及び前記フロート部に対して、前記浮力に応じた下向きの付勢力を作用させることができる付勢手段と、が備えられ、前記流体機械は、前記流水の水位に応じて、前記水車機能と前記ポンプ機能とが切り替えられるように構成されるとともに、前記水車機能を発揮するときは水車運転没水深さに位置させ、前記ポンプ機能を発揮するときは前記水車運転没水深さより深いポンプ運転没水深さに位置させることができるように構成されている点にある。
【0011】
流体機械は、流水の水位に応じて、例えば、水位が低いうちは水車機能を発揮させ、水位が高くなるとポンプ機能を発揮させるというような運用が可能である。従来の流体機械のように、水車機構とポンプ機構を別々に設置する必要がないため、省スペース化が図れる。
【0012】
その際、流体機械及びフロート部の浮力と、支持機構に備えられた付勢手段の付勢力とによって、電動機等の別の機構を用いることなく、容易に流体機械に水車機能を発揮させるときとポンプ機能を発揮させるときとで、没水深さをそれぞれ異なる適切なものとすることができる。上記のように砂や石、夾雑物等を巻き込む虞が低減された効率の良い運転が可能である。
【0013】
フロート部は、流体機械に一体的に設けられていてもよいし、別体に構成されたものが流体機械に対して取り付けられてもよい。
【0014】
なお、水車運転没水深さやポンプ運転没水深さの当該没水深さとは、水面から流体機械の水車機能やポンプ機能のための羽根車の回転軸心までの深さをいう。流体機械は、水車機能やポンプ機能を発揮するときは、常に全体が流水中に没水するように構成されている。
【0015】
本発明においては、当該フロート部は、当該流体機械よりも上方において前記流水中に常に位置する常没領域と、当該常没領域から上方において、水面上に位置し得る変没領域とを有し、前記流体機械及び前記常没領域に生じる浮力と、前記流体機械及び前記フロート部に作用する重力とが釣り合うことで、前記流体機械は前記水車運転没水深さに位置し、前記変没領域が没水することにより増加する浮力と、前記付勢手段によって作用する付勢力とが釣り合うことで、前記流体機械は前記ポンプ運転没水深さに位置するように構成されていると好適である。
【0016】
流体機械及び常没領域に生じる浮力と、流体機械及びフロート部に作用する重力との釣り合いによって、流体機械は全体が没水しながらも水面から所定の没水深さに位置することとなる。このときの没水深さが水車運転没水深さである。
【0017】
変没領域が没水しない限り、フロート部の浮力は一定であるため、流水の水位が変化しても、流体機械は水面から所定の水車運転没水深さに位置することとなる。しかし、流水の水位が高くなるにつれ、ある段階において付勢手段によって下向きの付勢力が作用しはじめ、これによりフロート部は常没領域に加えて、変没領域も没水し、フロート部が生じさせる浮力が増加する。
【0018】
この変化する浮力と付勢手段による付勢力との釣り合いによって、流体機械は、水車運転没水深さよりも深い、ポンプ運転没水深さに位置することとなる。
【0019】
本発明においては、前記流体機械の前記垂直方向における位置を検知可能な検知機構が設けられていると好適である。
【0020】
検知機構によって、流体機械の垂直方向における位置を直接的又は間接的に検知することができる。なお、検知機構として、リミットスイッチやセンサが例示できる。このようなセンサとしては、流体機械が垂直方向の所定位置にあることを直接的に検知可能な近接センサや、流体の水位を検知する水位センサが例示できる。センサが水位センサである場合は、流体の水位に基づいて、間接的に流体機械の垂直方向における位置を検知することができる。
【0021】
本発明においては、前記流体機械の前記水車機能と前記ポンプ機能とを切り替える切替機構が備えられ、当該切替機構は、前記検知機構が検知した前記流体機械の前記垂直方向における位置に基づいて、前記水車機能から前記ポンプ機能への切り替え、及び、前記ポンプ機能から前記水車機能への切り替えを行うように構成されていると好適である。
【0022】
切替機構は、検知機構によって検知された流体機械の垂直方向における位置に基づいて、流体機械の没水深さが適切な位置にある状態で水車機能とポンプ機能とを切り替えることができる。
【0023】
本発明においては、前記水車機能から前記ポンプ機能への切り替えの契機となるポンプ切替位置と、前記ポンプ機能から前記水車機能への切り替えの契機となる水車切替位置とが、同じ高さに設けられている、又は、前記水車切替位置は前記ポンプ切替位置よりも低い位置に設けられていると好適である。
【0024】
ポンプ切替位置と水車切替位置とが同じ高さに設けられている場合には、検知機構、例えばリミットセンサや近接センサを一か所にのみ設ければよいため、構造を簡素化することができる。
【0025】
水車切替位置がポンプ切替位置よりも低い位置に設けられている場合は、流体の水位が十分に下がるまでポンプ機能を維持することができ、また、水車切替位置とポンプ切替位置とが異なる高さであることから、流水の水面が波打ったとしても検知機構にチャタリングが発生するようなことがない。
【0026】
本発明においては、前記付勢手段は、前記流体機械が前記垂直方向の上方に移動することにより圧縮される圧縮バネ、又は引っ張られる引張バネの少なくともいずれかを備えていると好適である。
【0027】
付勢手段を圧縮バネや引張バネを備えて構成することにより、流体機械の垂直方向の上方への移動に対して、容易に下向きの付勢力を生じさせることができる。
【0028】
本発明においては、前記水車機能用の羽根車と、前記ポンプ機能用の羽根車とが同じであると好適である。
【0029】
水車機能用の羽根車と、ポンプ機能用の羽根車とが同じであることから、それぞれが別であるときよりも部品点数が削減され、流体機械をコンパクトにすることができる。
【0030】
本発明においては、前記水車機能用の羽根車と、前記ポンプ機能用の羽根車とが別であると好適である。
【0031】
水車機能用の羽根車と、ポンプ機能用の羽根車とが別であることから、それぞれ最適な形状や寸法に設計、製造することができるためそれぞれの性能を高めることができ、それぞれ取付け及び交換をすることができるためメンテナンス性がよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図2】水位が水車運転最低水位であるときの流体システムの様子を説明する説明図である。
【
図3】水位が水車ポンプ切替水位であるときの流体システムの様子を説明する説明図である。
【
図4】水位がポンプ運転水位であるときの流体システムの様子を説明する説明図である。
【
図5】水位がポンプ運転最高水位であるときの流体システムの様子を説明する説明図である。
【
図6】水位に応じた、流体機械の没水深さ、浮力及び付勢力の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に本発明に係る流体機械の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1及び
図2には、本発明に係る流体システム10が示されている。流体システム10は、支持機構20と、当該支持機構20によって流水中に配置される流体機械30とを備えている。
図1において、流水は左から右へと流れる。
【0034】
支持機構20は、河川等の流路の底面に立設された支柱21を備えている。支柱21には、垂直方向に沿って上端部と下端部には到達しない長さの溝部22が設けられている。
【0035】
溝部22の内部には、付勢手段の一例である圧縮バネ23が備えられている。当該圧縮バネ23は、その上端部が溝部22の上端部に取り付けられており、下端部が溝部22の内部において垂れるように配置されている。
【0036】
支柱21には、圧縮バネ23が自由長Lであるときの下端部に相当する位置に、検知機構の一例である近接センサ24が配置されている。近接センサ24は、流体機械30が垂直方向に移動する際に、溝部22に沿って後述する連結部37が上下いずれの方向から近接すると、これを検知することができるように構成されている。
【0037】
本実施形態においては、支柱21には一つの近接センサ24のみが配置されていることから、連結部37が近接センサ24の下方から近接するときの位置、すなわち水車機能からポンプ機能への切り替えの契機となるポンプ切替位置と、連結部37が近接センサ24の上方から近接するときの位置、すなわちポンプ機能から水車機能への切り替えの契機となる水車切替位置とは、同じ高さに設けられていることとなる。
【0038】
図3に示すように、流体機械30の連結部37が近接センサ24によって検知されるとき、すなわちポンプ切替位置及び水車切替位置にあるときの水位が水車ポンプ切替水位である。水位が水車ポンプ切替水位であるとき、流体機械30は水車運転没水深さAに位置することから、水車ポンプ切替水位と近接センサ24とは、水車運転没水深さAと同じだけ高さが異なっていることとなる。
【0039】
流体システム10は、さらに、図示しない切替機構を備えている。当該切替機構は、制御盤等の態様によって構成されている。近接センサ24が検知した信号、すなわち連結部37が近接したことを示す信号は、当該切替機構へと送信され、当該切替機構は、近接センサ24からの信号に基づいて、後述する電動機33の運転、停止を制御するように構成されている。これにより、流体機械30は、水車機能からポンプ機能への切り替え、及び、ポンプ機能から水車機能への切り替えが行われる。
【0040】
流体機械30は、ケーシング31の内部に配置されたポンプ用インペラ32、電動機33、水車用ランナ34及び発電機35等を備えている。
【0041】
ポンプ用インペラ32の回転軸と水車用ランナ34の回転軸とは別体から構成されているものの、それぞれの回転軸心は一致するように構成されている。なお、ケーシング31の内部には、ケーシング31の内部における流水の案内をする案内羽根(図示せず)が設けられている。
【0042】
流体機械30は、流水によって水車用ランナ34を回転させて発電機35により発電を行う水車機能と、電動機33によってポンプ用インペラ32を回転させて流水の圧送を行うポンプ機能とを切り替え可能に構成されている。
【0043】
なお、流体機械30は、水車機能を発揮しているときはポンプ用インペラ32の回転が不可能となり、ポンプ機能を発揮しているときは水車用ランナ34の回転が不可能となるように構成されている。
【0044】
これにより、流体機械30が水車機能を発揮する際には、ポンプ用インペラ32を水車用ランナ34に対する案内羽根として機能させることができ、流体機械30がポンプ機能を発揮する際には、水車用ランナ34をポンプ用インペラ32に対する案内羽根として機能させることができる。
【0045】
さらに、流体機械30は、当該流体機械30を支柱21に対して、溝部22に沿って垂直方向に移動可能な態様で連結する連結部37を備えている。
【0046】
流体機械30のケーシング31の外部にはフロート部36が取り付けられている。フロート部36は、中空であって、かつ、ケーシング31から上方に延びた形状をしており、常没領域36aと、当該常没領域36aの上方に位置する変没領域36bとを有している。
【0047】
フロート部36のうち常没領域36aは、流体機械30が、水車機能やポンプ機能を発揮するときに、常に流水中に位置する。一方、フロート部36のうち変没領域36bは、流体機械30が水車機能を発揮するときには水面上に位置するが、流体機械30がポンプ機能を発揮するときには没水する。
【0048】
図2や
図3に示すように、流体機械30(連結部37を含む。以下、記載を省略する。)及びフロート部36の常没領域36aに生じる浮力Fb(=Fs=ρVg:ρは流体の密度、Vは流体機械30及び常没領域36aの体積、gは重力加速度)と、流体機械30及びフロート部36に作用する重力Fm(=Mpg+Mfg:Mpはポンプの質量、Mfはフロート部36の質量、gは重力加速度)との釣り合いによって、流体機械30は全体が没水しながらも水面から所定の没水深さ、具体的には水車運転没水深さAに位置することとなる。没水深さとは、水面から流体機械30の水車用ランナ34や、ポンプ用インペラ32の回転軸心までの深さをいう。
【0049】
フロート部36の変没領域36bも没水しない限り、フロート部36の浮力Fbは一定、すなわち常没領域36aのみが浮力を生じさせるため、流水の水位が水車運転水位であるうちは、具体的には、
図2及び
図6に示す水車運転最低水位から、
図3及び
図6に示す水車ポンプ切替水位に至るまでの間で変化しても、流体機械30は常に水車運転没水深さAに位置することとなる。
【0050】
なお、本実施形態においては、流体機械30が最も低い位置にあるとき、すなわち、連結部37が溝部22の下端部に接触しているときに、水車運転最低水位となるように設定しているがこれに限らない。水車運転最低水位は、連結部37が溝部22の下端部から少し上方に位置したときの水位であってもよい。
【0051】
しかし、流水の水位が高くなるにつれ、ある段階において、具体的には
図3に示すように連結部37が圧縮バネ23の下端部に接触すると、
図4に示すように当該圧縮バネ23が縮み、これにより下向きの付勢力Fn(=-kx:kは弾性係数、xは圧縮バネ23の自由長Lから縮んだ長さ)が作用しはじめ、これによりフロート部36は常没領域36aに加えて、変没領域36bも没水し、流体機械30及びフロート部36が生じさせる浮力Fb(=Fs+Fv)が増加する。
【0052】
このように変化する浮力、すなわち変没領域36bが生じさせる浮力Fv(=ρVg:ρは流体の密度、Vは変没領域36bのうち没水した部分の体積、gは重力加速度)と圧縮バネ23による付勢力Fnとの釣り合いによって、流体機械30は水車運転没水深さAよりも深い、ポンプ運転没水深さA+αに位置することとなる。
【0053】
なお、ポンプ運転没水深さA+αは、流水の水位がポンプ運転水位にあるときは、具体的には、
図4及び
図6に示す水車ポンプ切替水位から、
図5及び
図6に示すポンプ運転最高水位に至るまでの間に大きくなる。
【0054】
変没領域36bがすべて没水したあとは、これ以上浮力Fvは増加しないため、このときの圧縮バネ23の付勢力Fnmax(=-kxmax)との釣り合い位置において、流体機械30は、浮力Fbと付勢力Fnとの釣り合いからなるポンプ運転没水深さA+αmaxとなり、流体の水位がこれ以上増加しても流体機械30は垂直方向に移動しない。
【0055】
ただし、この場合は流体の水位の増加に伴って流体機械30は没水深さが深くなることことから、運転を継続しても不具合は無く、したがって、計画水位の最高水位は、ポンプ運転最高水位よりも高い位置に設定することも可能である。または、計画水位の最高水位を、ポンプ運転最高水位よりも低い位置に設定してもよい。
【0056】
以上のように、流体機械30及びフロート部36の浮力Fbと、支持機構20に備えられた圧縮バネ23の付勢力とを利用することによって、電動機等の別の機構を用いることなく、流体機械30に水車機能を発揮させるときと、ポンプ機能を発揮させるときとでその没水深さを容易に異ならせることができる。
【0057】
流体機械30は、流水の水位に応じて、例えば、水位が低いうちは水車機能を発揮させ、水位が高くなるとポンプ機能を発揮させるというような運用が可能である。従来の流体機械のように、水車機構とポンプ機構を別々に設置する必要がないため、省スペース化が図れる。
【0058】
その際、流体システム10は、フロート部36の変化する浮力Fvと圧縮バネ23の付勢力Fnを利用することによって、流体機械30が水車機能を発揮するときの水車運転没水深さAと、ポンプ機能を発揮するときのポンプ運転没水深さA+αをそれぞれ異なった最適なものとすることができるため、流体機械30は上記のように砂や石、夾雑物等を巻き込む虞が低減された効率の良い運転が可能となる。
【0059】
本実施形態においては、支柱21には一つの近接センサ24のみが配置されている場合について説明したが、この限りではない。支柱21において高さの異なる位置に二つの近接センサ24を配置し、連結部37が近接センサ24の下方から近接するときの水車機能からポンプ機能への切り替えの契機となるポンプ切替位置と、連結部37が近接センサ24の上方から近接するときのポンプ機能から水車機能への切り替えの契機となる水車切替位置とを異ならせてもよい。その際、ポンプ切替位置よりも水車切替位置のほうが低いことが好ましい。
【0060】
上述した実施形態においては、支柱21において近接センサ24が設けられる位置が、圧縮バネ23が圧縮されていないときの下端部の付近である場合について説明した。このように、近接センサ24が設けられる位置が、圧縮バネ23が圧縮されていないときの下端部の付近である場合には、流体機械30は水車機能からポンプ機能へと切り替えられた瞬間においては、変没領域36bの没水が生じておらず、圧縮バネ23が圧縮されていないことからα=0のため、水車運転没水深さAとポンプ運転没水深さA+αとは同じである。
【0061】
これに対して、支柱21において近接センサ24が設けられる位置を、圧縮バネ23が自由長Lであるときの下端部よりも上方とし、圧縮バネ23がいくらか圧縮された後、すなわちポンプ運転没水深さA+αが水車運転没水深さAよりもいくらか深くなった位置において、連結部37の近接を検知して、水車機能からポンプ機能への切り替えるようにしてもよい。
【0062】
上述した実施形態においては、切替機構は、近接センサ24が連結部37の近接を検知すると、直ちに流体機械30を水車機能からポンプ機能へ切り替えたり、ポンプ機能から水車機能へ切り替えたりする場合を例に説明したがこの限りではない。切替機構は、内部にタイマを備える等して、近接センサ24が連結部37の近接を検知すると、タイマが所定時間だけ経過するのを待って、流体機械30を水車機能からポンプ機能へ切り替えたり、ポンプ機能から水車機能へ切り替えたりするように構成されていてもよい。その際、水車機能からポンプ機能への切り替えまでの待ち時間と、ポンプ機能から水車機能への切り替えまでの待ち時間とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0063】
上述した実施形態においては、検知機構が近接センサ24である場合について説明したが、これに限らない。検知機構は、流体機械30の垂直方向における位置を検知可能なリミットスイッチであってもよい。また、検知機構は、流体の水位を検知する水位センサであってもよい。上述のように、水位が水車ポンプ切替水位であるとき、流体機械30は水車運転没水深さAに位置することから、水車ポンプ切替水位と近接センサ24とは、水車運転没水深さAと同じだけ高さが異なっていることとなる。ポンプ切替位置及び水車切替位置を検知することにより、流水の水位を間接的に検知することができる。換言すると、水位センサによって水位を検知することにより、ポンプ切替位置及び水車切替位置を間接的に検知することができるからである。
【0064】
上述した実施形態のよると、フロート部36は、流体機械30とは別体に構成されたものが、流体機械30のケーシング31に対して取り付けられる構成であったが、これに限らない。フロート部36は流体機械30の製造の際に一体に設けられる構成であってもよい。
【0065】
上述した実施形態においては、電動機33と発電機35とが別の機械である構成について説明したが、この限りではない。電動機33と発電機35とが一台の電動発電機から構成されていてもよい。
【0066】
上述した実施形態においては、ポンプ用インペラ32と水車用ランナ34とがそれぞれ別の羽根車である場合について説明したが、この限りではない、ポンプ用インペラ32と水車用ランナ34とは、同じ羽根車であってもよい。
【0067】
なお、本発明に係る流体機械は、大河川、用水路、移動式排水機場、洪水多発湿地、ポンプゲート等に設置することができる。
【0068】
上述した実施形態は、いずれも本発明の一例であり、該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能である。
【符号の説明】
【0069】
10 :流体システム
20 :支持機構
21 :支柱
22 :溝部
23 :圧縮バネ
24 :近接センサ
30 :流体機械
31 :ケーシング
32 :ポンプ用インペラ
33 :電動機
34 :水車用ランナ
35 :発電機
36 :フロート
37 :連結部材