(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】車両の制御装置、方法、プログラム、及び車両
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20240206BHJP
B60T 7/22 20060101ALI20240206BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
B60T7/12 B
B60T7/22
B60T8/17 D
B60T7/12 F
(21)【出願番号】P 2020175239
(22)【出願日】2020-10-19
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 一城
(72)【発明者】
【氏名】安井 拓哉
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/158508(WO,A1)
【文献】特開2007-118880(JP,A)
【文献】特開2020-032892(JP,A)
【文献】特開2019-156225(JP,A)
【文献】特開2019-206302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12
B60T 7/22
B60T 8/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制御装置であって、
運転支援機能を実現する複数のアプリケーションから第1制動要求を受け付ける受付部と、
ドライバー操作による第2制動要求を取得する取得部と、
前記第1制動要求及び前記第2制動要求を調停する調停部と、
前記調停部の調停結果に基づいてアクチュエータに対する要求を出力する出力部と、を備え、
前記調停部は、前記出力部が前記第1制動要求に基づいて前記アクチュエータに要求を出力中に前記取得部が前記第2制動要求を取得した場合、前記取得時における前記第1制動要求を前記ドライバー操作に応じて一部減じた制動要求を前記第2制動要求に加算した要求を前記出力部が前記アクチュエータに出力するように調停する、
車両の制御装置。
【請求項2】
前記第1制動要求は、自動ブレーキの制御量に応じた自動ブレーキ要求制動力であり、
前記第2制動要求は、ブレーキペダルの操作量に応じたドライバー要求制動力であり、
前記調停部は、前記出力部が前記自動ブレーキ要求制動力に基づいて前記アクチュエータに要求を出力中に前記取得部が前記ドライバー要求制動力を取得した場合、前記取得時における前記自動ブレーキ要求制動力を前記ブレーキペダルの操作量に応じて一部減じた制動力を前記ドライバー要求制動力に加算する調停を行う、
請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
複数のADASアプリケーションの機能を実装した複数の装置から行動計画要求を受け付け、前記受け付けた複数の前記行動計画要求を調停し、前記調停した後の行動計画要求に基づいて、前記複数のADASアプリケーションによる統合された制動に関する第1運動要求を算出する車両に搭載されるMGRから、前記第1運動要求を入力するアクチュエータシステムであって、
ドライバー操作による制動に関する第2運動要求を取得する取得部と、
前記第1運動要求と前記第2運動要求とを調停する調停部と、
前記調停部で調停された運動要求を実現するための要求をアクチュエータに出力する出力部と、を備え、
前記調停部は、前記出力部が前記第1運動要求に基づいて前記アクチュエータに要求を出力中に前記取得部が前記第2運動要求を取得した場合、前記取得時における前記第1運動要求を前記ドライバー操作に応じて一部減じた運動要求を前記第2運動要求に加算した要求を前記出力部が前記アクチュエータに出力するように調停する、
アクチュエータシステム。
【請求項4】
車両に搭載される制御装置のコンピューターが実行する制御方法であって、
運転支援機能を実現する複数のアプリケーションから第1制動要求を受け付けるステップと、
ドライバー操作による第2制動要求を取得するステップと、
前記第1制動要求及び前記第2制動要求を調停するステップと、
前記調停するステップの調停結果に基づいてアクチュエータに対する要求を出力するステップと、を含み、
前記調停するステップは、前記出力するステップが前記第1制動要求に基づいて前記アクチュエータに要求を出力中に前記取得するステップが前記第2制動要求を取得した場合、前記取得時における前記第1制動要求を前記ドライバー操作に応じて一部減じた制動要求を前記第2制動要求に加算した要求を前記出力するステップが前記アクチュエータに出力するように調停する、
制御方法。
【請求項5】
車両に搭載される制御装置のコンピューターに実行させる制御プログラムであって、
運転支援機能を実現する複数のアプリケーションから第1制動要求を受け付けるステップと、
ドライバー操作による第2制動要求を取得するステップと、
前記第1制動要求及び前記第2制動要求を調停するステップと、
前記調停するステップの調停結果に基づいてアクチュエータに対する要求を出力するステップと、を含み、
前記調停するステップは、前記出力するステップが前記第1制動要求に基づいて前記アクチュエータに要求を出力中に前記取得するステップが前記第2制動要求を取得した場合、前記取得時における前記第1制動要求を前記ドライバー操作に応じて一部減じた制動要求を前記第2制動要求に加算した要求を前記出力するステップが前記アクチュエータに出力するように調停する、
制御プログラム。
【請求項6】
請求項1
又は2に記載の制御装置を搭載した、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載される制御装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種の運転支援機能を実現するアプリケーションが車両に実装されている。特許文献1には、車両を減速させるために制動アクチュエータを自動で動作させる運転支援を行う制御装置が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載された制御装置では、自動運転中にドライバーがブレーキ操作をした際は、ドライバーが要求した減速度が意図通りに車両挙動に反映されるよう、自動運転アプリケーションが要求する減速度の演算方法を変更することを行っている。これにより、ドライバーは、期待するような減速感を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
運転支援機能を実現するアプリケーションを有する電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)を搭載した車両では、ドライバーの要求をアプリケーションの要求にどのように反映させて制御を実現させるかをECUに依存している。このため、運転支援機能を実現するアプリケーションを有するECUが車両に数多く搭載されているような場合、これら複数のECU間で要求実現の方法に微差が生じていると、ドライバーに違和感を与える虞がある。
【0006】
本開示は、上記課題を鑑みてなされたものであり、運転支援機能を実現するアプリケーションを有するECUが車両に数多く搭載されているような場合でも、ドライバーに与える違和感を軽減できる制御装置などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示技術の一態様は、車両の制御装置であって、運転支援機能を実現する複数のアプリケーションから第1制動要求を受け付ける受付部と、ドライバー操作による第2制動要求を取得する取得部と、第1制動要求及び第2制動要求を調停する調停部と、調停部の調停結果に基づいてアクチュエータに要求を出力する出力部と、を備え、調停部は、出力部がアクチュエータに要求を出力中に取得部が第2制動要求を取得した場合、第2制動要求に基づいて出力部がアクチュエータに出力する要求が増大又は維持されるように調停する、車両の制御装置である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の制御装置によれば、運転支援機能を実現するアプリケーションを有するECUが車両に数多く搭載されているような場合でも、アプリケーションからの複数の要求とドライバーからの要求との調停処理を統一できるので、ドライバーに与える違和感を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態に係る制御装置とその周辺部の構成図
【
図2】本開示の一実施形態に係る制動制御処理を説明するフローチャート
【
図3】本開示の一実施形態に係る制動制御処理を説明するグラフ
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の制御装置は、自動ブレーキ機能を使用する複数のアプリケーションから発生する制動要求と、ドライバーによるブレーキペダルの操作で発生する制動要求とを、まとめて調停する。これにより、運転支援機能を実現するアプリケーションを有するECUが車両に数多く搭載されているような場合でも、アプリケーションからの複数の要求とドライバーからの要求との調停処理を統一できるので、ドライバーに与える違和感を軽減することができる。
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
<実施形態>
[構成]
図1は、本開示の一実施形態に係る車両用の制御装置10とその周辺部の構成を示す図である。
図1に示した制御装置10は、運転支援装置20と、ブレーキペダルセンサ30と、ブレーキ装置40とに、車載ネットワーク50を介して通信可能に接続されている。車載ネットワーク50は、CAN(Controller Area Network)やイーサネット(登録商標)などを例示できる。
【0012】
運転支援装置20は、所定のアプリケーションを実行することにより、少なくとも車両の駆動制御及び制動制御を含む車両の運転を支援する様々な機能を実現するための構成である。運転支援装置20が実装するアプリケーションの一例として、本実施形態では自動運転機能を実現する自動運転アプリケーション21、自動駐車の機能を実現する自動駐車アプリケーション22、及び先進運転支援アプリケーション23を示している。先進運転支援アプリケーション23には、前車追従を行うアダプティブクルーズコントロール(ACC)機能を実現するアプリケーションや、車線維持を行うレーンキープアシスト(LKA)機能を実現するアプリケーションや、衝突の被害を軽減させる衝突被害軽減ブレーキ(AEB)機能を実現するアプリケーションなどの複数のADASアプリケーションが含まれる。この運転支援装置20は、図示しない各種センサなどから取得する車両の情報に基づいて、アプリケーション単独での機能性(商品性)を担保した行動計画(前後加速度/減速度など)の要求を出力する。
【0013】
この運転支援装置20は、CPUなどのプロセッサ、メモリ、及び入出力インターフェイスを有するECUなどのコンピューターによって実現される。なお、運転支援装置20が実装するアプリケーションの数は、
図1に示した3つに限定されず、2つ以下又は4つ以上であってもよい。また、運転支援装置20として、アプリケーションごとにそれぞれのECUが設けられてもよい。例えば、自動運転アプリケーション21が実装された自動運転ECU、自動駐車アプリケーション22が実装された自動駐車ECU、及び先進運転支援アプリケーション23が実装されたADAS-ECUによって、運転支援装置20が構成されてもよい。また、ACC機能を実現するADASアプリケーションが実装されたECU、LKA機能を実現するADASアプリケーションが実装されたECU、及びAEB機能を実現するADASアプリケーションが実装されたECUのように、複数のADASアプリケーションが複数の装置に実装されてもよい。
【0014】
ブレーキペダルセンサ30は、車両のドライバーによって操作されたブレーキペダルの踏み込み量(以下「ブレーキペダル操作量」という)を検出するための構成である。このブレーキペダルセンサ30は、車両のブレーキ機構などに取り付けられている。
【0015】
ブレーキ装置40は、運転支援装置20が出力する行動計画要求を実現するためのシステム(実現システム)の1つであって、車輪と共に回転する部材に対する摩擦力によって制動力を発生させるアクチュエータである。このブレーキ装置40は、制御装置10によって算出された制動に関する運動要求から導出される油圧制御量に基づいて、車両の動きを制御する。
【0016】
制御装置10は、運転支援装置20から受け付ける行動計画要求及びブレーキペダルセンサ30から取得するブレーキペダル操作量に基づいて、車両の運動のうち少なくとも制動に関する制御内容を決定し、決定した制御内容に基づいてブレーキ装置40に対して必要な制動に関する指示を行って制御する。この制御装置10は、いわゆる車両の運動に関わるマネージャ(ADAS-MGRやVehicle-MGRなど)として、あるいはマネージャの一部として機能し、車両の動きを制御する。制御装置10は、受付部11と、取得部12と、調停部13と、出力部14と、を含む。
【0017】
受付部11は、運転支援装置20の各アプリケーション(自動運転アプリケーション21、自動駐車アプリケーション22、及び先進運転支援アプリケーション23)が各々出力する行動計画要求をそれぞれ受け付ける。本実施形態における行動計画要求は、自動ブレーキを提供するアプリケーションから出力される自動ブレーキ制御量に応じた制動力を車両に要求する運動要求を算出するための第1制動要求でもある。行動計画としては、車両の前後方向(縦方向)の減速度などを例示できる。
【0018】
取得部12は、ブレーキペダルセンサ30が検出したブレーキペダル操作量を逐次取得する。本実施形態におけるドライバーが行うブレーキ操作(ドライバー操作)は、ブレーキペダル操作量に応じた制動力を車両に要求する運動要求(第2制動要求)である。この取得部12は、ブレーキペダルセンサ30から取得したブレーキペダル操作量に基づいて、ドライバーによるブレーキ操作の有無、ブレーキ操作の方向性(ペダル踏み増し、ペダル保持、ペダル踏み戻し)、及びブレーキ操作の変化率などを判断することができる。
【0019】
調停部13は、受付部11が運転支援装置20から受け付けた複数の第1制動要求(第1運動要求)を調停する。また、調停部13は、取得部12においてドライバーのブレーキ操作があると判断された場合には、複数の第1制動要求と、ブレーキペダル操作量に応じた第2制動要求(第2運動要求)とを調停する。調停の処理としては、所定の選択基準に基づいて複数の制動要求の中から1つの制動要求を選択したり、複数の制動要求に基づいて新たな制動要求を設定したり、することが例示できる。なお、調停部13は、ブレーキ装置40から取得するブレーキの動作状態やアベイラビリティを表す情報に基づいて、制動要求を調停してもよい。
【0020】
出力部14は、調停部13における制動要求の調停結果に基づいて、制動アクチュエータであるブレーキ装置40に向けた運動要求として、ブレーキ装置40の油圧制御量を導出するための制動力を算出して出力(分配)する。以降の記載においては、複数の第1制動要求(自動ブレーキ制御量)の調停結果に基づいて算出された制動力を「自動ブレーキ要求制動力」と称し、第2制動要求(ブレーキペダル操作量)に基づいて算出された制動力を「ドライバー要求制動力」と称する。なお、制動力は制動トルクであってもよい。
【0021】
なお、以上説明した、車両に搭載された機器の構成及び制御装置10の構成は一例であって、適宜、追加、置換、変更、省略などが可能である。また、各機器の機能は適宜1つの機器に統合したり複数の機器に分散したりして実装することが可能である。例えば、調停部13における複数の第1制動要求(行動計画要求)を調停する機能部分を制御装置10に構成し、この複数の第1制動要求を調停した結果と第2制動要求とを調停する調停部13の機能部分を独立した別の装置(例えばアクチュエータECU)で構成してもよい。この構成の場合、ブレーキペダル操作量を取得する取得部12及び出力部14のうちブレーキ装置40に運動要求を出力する機能部分は、別の装置に構成され得る。
【0022】
[制御]
図2をさらに参照して、本実施形態に係る制御装置10が実行する制動制御処理を説明する。
図2は、制御装置10の各構成が実行する制動制御処理を説明するフローチャートである。
【0023】
図2に示す制動制御処理は、自動ブレーキを作動させるための第1制動要求が運転支援装置20から出力され、この第1制動要求に基づいて制御装置10によって自動ブレーキ要求制動力が算出されると開始される。そして、この制動制御処理は、運転支援装置20からの自動ブレーキを作動させるための第1制動要求がなくなるまで、つまり自動ブレーキ要求制動力が算出されなくなるまで繰り返して実行される。
【0024】
(ステップS201)
取得部12は、ブレーキペダルセンサ30の検出結果に基づいて、ドライバーによるブレーキペダルを踏み込むブレーキ操作があるか否かを判断する。取得部12が、ドライバーのブレーキ操作があると判断した場合は(ステップS201、はい)、ステップS202に処理が進み、ドライバーのブレーキ操作がないと判断した場合は(ステップS201、いいえ)、ステップS210に処理が進む。
【0025】
(ステップS202)
調停部13は、取得部12においてドライバーのブレーキ操作があると判断された時点で第1制動要求に基づいてすでに算出している自動ブレーキ要求制動力(現在の自動ブレーキ要求制動力)を、図示しない記憶部などに「加算用要求制動力」として記憶する。加算用要求制動力が記憶されると、ステップS203に処理が進む。
【0026】
(ステップS203)
調停部13は、取得部12で取得されたドライバーのブレーキ操作に基づいて、ブレーキペダル操作量が増加する踏み増し操作がされているか否かを判断する。調停部13が、ブレーキペダルの踏み増し操作がされていると判断した場合は(ステップS203、はい)、ステップS205に処理が進み、ブレーキペダルの踏み増し操作がされていないと判断した場合は(ステップS203、いいえ)、ステップS204に処理が進む。
【0027】
(ステップS204)
調停部13は、取得部12で取得されたドライバーのブレーキ操作に基づいて、ブレーキペダル操作量が減少する踏み戻し操作(抜き操作)がされているか否かを判断する。調停部13が、ブレーキペダルの踏み戻し操作がされていると判断した場合は(ステップS204、はい)、ステップS206に処理が進み、ブレーキペダルの踏み戻し操作がされていないと判断した場合は(ステップS204、いいえ)、ステップS207に処理が進む。
【0028】
(ステップS205)
調停部13は、上記ステップS202で記憶した加算用要求制動力を、ブレーキペダルの踏み込み量が増加する割合である操作量増加率に基づいて減少させる演算を行って、減算後の加算用要求制動力を導出する。操作量増加率に基づいて加算用要求制動力をどの程度減少させるかについては、車両の重量やブレーキ装置40の制動性能などに基づいて、ブレーキの効きを強めようと踏み方を深くするドライバーに対して与える違和感を無くす又は軽減できるように適切に設定される。加算用要求制動力の減算がされると、ステップS208に処理が進む。
【0029】
(ステップS206)
調停部13は、上記ステップS202で記憶した加算用要求制動力を、ブレーキペダルの踏み込み量が減少する割合である操作量減少率に基づいて減少させる演算を行って、減算後の加算用要求制動力を導出する。操作量減少率に基づいて加算用要求制動力をどの程度減少させるかについては、車両の重量やブレーキ装置40の制動性能などに基づいて、ブレーキの効きを弱めようと踏み方を浅くするドライバーに対して与える違和感を無くす又は軽減できるように適切に設定される。加算用要求制動力の減算がされると、ステップS208に処理が進む。
【0030】
(ステップS207)
調停部13は、ブレーキペダルの操作量が踏み増しも踏み戻しもされず保持されて一定であると判断して、上記ステップS202で記憶した加算用要求制動力を一定の比率で減少させる演算を行って、減算後の加算用要求制動力を導出する。加算用要求制動力を減少させる一定の比率については、車両の重量やブレーキ装置40の制動性能などに基づいて、ブレーキの効きを保持しようと踏み方を一定にするドライバーに対して与える違和感を無くす又は軽減できるように適切に設定される。加算用要求制動力の減算がされると、ステップS208に処理が進む。
【0031】
(ステップS208)
調停部13は、第2制動要求に応じて算出されたドライバー要求制動力と、上記ステップS205乃至S207のいずれかによって減算された後の加算用要求制動力とに基づいて、ブレーキ装置40の油圧制御量を導出する。具体的には、調停部13は、ドライバー要求制動力に減算後の加算用要求制動力を加算して新たな制動力を求め、この求めた新たな制動力に基づいてブレーキ装置40の油圧制御量を導出する。油圧制御量が導出されると、ステップS209に処理が進む。
【0032】
(ステップS209)
取得部12は、ブレーキペダルセンサ30の検出結果に基づいて、ドライバーによるブレーキペダルを踏み込むブレーキ操作が終了したか否かを判断する。取得部12が、ドライバーのブレーキ操作が終了したと判断した場合は(ステップS209、はい)、ステップS201に処理が進み、ドライバーのブレーキ操作がまだ終了していないと判断した場合は(ステップS209、いいえ)、ステップS203に処理が進む。
【0033】
(ステップS210)
調停部13は、第1制動要求に応じて算出された自動ブレーキ要求制動力に基づいて、ブレーキ装置40の油圧制御量を導出する。油圧制御量が導出されると、ステップS201に処理が進む。
【0034】
以上の制動制御処理による一例を、
図3を参照して説明する。
図3は、時間Tを横軸にとり、制動力を縦軸にとったグラフである。
図3において、一点鎖線は第1制動要求に基づいて算出される自動ブレーキ要求制動力を示し、細い実線は第2制動要求に基づいて算出されるドライバー要求制動力を示し、二点鎖線はブレーキペダルの操作に基づいて減少させた加算用要求制動力を示し、太い実線はブレーキ装置40に出力される運動要求となる制動力を示す。また、比較のため、従来の制御装置によってブレーキ装置40に出力される制動力を破線で示す。
【0035】
ドライバーによるブレーキペダルを踏み込むブレーキ操作が発生していない期間(t0≦T<t1)は、自動ブレーキ要求制動力がそのままブレーキ装置40に発生させる制動力となる(一点鎖線と太い実線が同じ)。
【0036】
時間T=t1において、ドライバーによるブレーキペダルを踏み込むブレーキ操作が開始されると、その時に算出されている自動ブレーキ要求制動力が加算用要求制動力として記憶される。
【0037】
その後、ドライバーによるブレーキペダルの踏み増し操作がされている期間(t1≦T<t2)は、加算用要求制動力(記憶値)を操作量増加率に基づいて減少させた加算用要求制動力(二点鎖線)をドライバー要求制動力(細い実線)に加算させた制動力が、ブレーキ装置40に発生させる制動力(太い実線)となる。
【0038】
その後、ドライバーによるブレーキペダルの踏み込み量が一定に保たれている期間(t2≦T≦t3)は、現状の加算用要求制動力をさらに一定の比率で減少させた加算用要求制動力(二点鎖線)をドライバー要求制動力(細い実線)に加算させた制動力が、ブレーキ装置40に発生させる制動力(太い実線)となる。
【0039】
その後、ドライバーによるブレーキペダルの踏み戻し操作がされている期間(t3<T<t4)は、現状の加算用要求制動力をさらに操作量減少率に基づいて減少させた加算用要求制動力(二点鎖線)をドライバー要求制動力(細い実線)に加算させた制動力が、ブレーキ装置40に発生させる制動力(太い実線)となる。
【0040】
それ以降も、ドライバーによるブレーキ操作が終了するまでの期間(t4≦T<t5)において、ドライバーによるブレーキペダルの操作(ペダル踏み増し、ペダル保持、ペダル踏み戻し)に基づいて減算処理された加算用要求制動力(二点鎖線)をドライバー要求制動力(細い実線)に加算した制動力が、ブレーキ装置40に発生させる制動力(太い実線)として導出される。
【0041】
このように、本実施形態の制動制御処理では、アプリケーションによって自動ブレーキ制御が作動している最中にドライバーによるブレーキ操作が行われた場合には、自動ブレーキ要求制動力にドライバー要求制動力を単純に加算するのではなく、ドライバーによるブレーキ操作に応じた自動ブレーキ要求制動力の一部をドライバー要求制動力に加算してブレーキ装置40に発生させる制動力を増大させる。この制御によって、ドライバーによるブレーキ操作が開始された直後には、自動ブレーキ要求制動力にドライバー要求制動力を加えた制動力を発生させつつも、車両が減速して停車寸前でドライバーがブレーキ操作を終えようとしているときには、自動ブレーキ制御による自動ブレーキ要求制動力(加算用要求制動力)をゼロ又はゼロ近傍まで低下させることができる。従って、ドライバーが停車寸前でソフトストップのためのブレーキ抜き操作をしたときに自動ブレーキ制御に基づく制動力が残ってしまうことを抑制できるので、車両の挙動についてドライバーに違和感を与えることを軽減できる。
【0042】
<作用・効果>
以上のように、本開示の一実施形態によれば、自動ブレーキ機能を使用する複数のアプリケーションから発生する制動要求と、ドライバーによるブレーキペダルの操作で発生する制動要求とを、制御装置10においてまとめて調停する。このように処理することで、運転支援機能を実現するアプリケーションを有するECUが車両に数多く搭載されているような場合でも、アプリケーションからの複数の要求とドライバーからの要求との調停処理を統一できるので、ドライバーに与える違和感を軽減することができる。
【0043】
また、本実施形態に係る制御装置10によれば、自動ブレーキが作動中にドライバーによるブレーキ操作が行われて自動ブレーキ制御が解除(オーバーライド)されるような場面においては、その時点における自動ブレーキ制御量をドライバーが要求する制動力の一部と捉え、ドライバーによるブレーキペダル操作量から推定される制動力にその一部と捉えた制動力を加算し、ブレーキ装置40の制動力を増大させる。そして、このブレーキペダル操作量から推定される制動力に自動ブレーキ制御量に基づく制動力の一部を加算することよって増大した制動力に基づいて、ブレーキ装置40の油圧制御量を演算する。この制御によって、ドライバーによるブレーキペダル操作に基づくドライバー要求制動力を優先しつつ、自動ブレーキ制御量に基づく自動ブレーキ要求制動力をドライバー要求制動力に加算しながら徐々に減衰させることができる。従って、ドライバーの感覚に合致した車両挙動を実現でき、ドライバーに違和感を与えることを軽減できる。
【0044】
ここで、自動ブレーキの制御量をドライバーが要求する制動力の一部と捉えるか否かを、自動ブレーキの制御量を要求しているアプリケーションの特性に応じて選択できる構成にしてもよい。自動ブレーキの制御量をドライバーが要求する制動力の一部と捉えない場合には、ブレーキ装置40の制動力が現状で維持されることとなる。このような構成にすることで、例えば、目標の停車位置に向けて演算したブレーキ制御量に対してドライバーによるブレーキ操作を外乱として捉える機能(プリクラッシュセーフティ、自動駐車など)を実現するアプリケーションが搭載された車両においても、本制御装置10を適用することができる。
【0045】
また、本実施形態に係る制御装置10によれば、制動制御に関する演算をブレーキ装置40の制御を行う制御装置10において実施し、かつ、ドライバーによるブレーキペダルの操作を検出した後はブレーキペダル操作量のみを参照してブレーキ装置40の油圧制御量を演算する。これにより、簡素な構成でドライバーの感覚に合致した車両挙動を実現するためのブレーキ制御が可能となる。
【0046】
以上、本開示技術の一実施形態を説明したが、本開示は、車両の制動制御機能の制御装置だけでなく、制御装置及び他の装置を含む制御システム、プロセッサとメモリを備えた制御装置が実行する制御方法、制御プログラム、制御プログラムを記憶したコンピューター読み取り可能な非一時的な記憶媒体、あるいは制御装置を備えた車両などとして捉えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本開示は、車両などに搭載される制御装置に有用である。
【符号の説明】
【0048】
10 制御装置
11 受付部
12 取得部
13 調停部
14 出力部
20 運転支援装置
21 自動運転アプリケーション
22 自動駐車アプリケーション
23 先進運転支援アプリケーション
30 ブレーキペダルセンサ
40 ブレーキ装置
50 車載ネットワーク