(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】抗菌性金色部材および時計
(51)【国際特許分類】
C23C 14/14 20060101AFI20240206BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20240206BHJP
C22C 5/02 20060101ALI20240206BHJP
C23C 14/16 20060101ALI20240206BHJP
G04B 37/22 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
C23C14/14 D
B32B7/023
C22C5/02
C23C14/16 C
G04B37/22 Q
(21)【出願番号】P 2020175825
(22)【出願日】2020-10-20
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 利磨
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-336470(JP,A)
【文献】特開2007-084867(JP,A)
【文献】特開平08-013132(JP,A)
【文献】特開2009-222603(JP,A)
【文献】国際公開第2008/041562(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0086756(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0087634(US,A1)
【文献】特開昭61-182943(JP,A)
【文献】特開平10-110268(JP,A)
【文献】特表2001-515495(JP,A)
【文献】特開平09-302459(JP,A)
【文献】特表2004-505651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/14
B32B 7/023
C22C 5/02
C23C 14/16
G04B 37/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に設けられた発色層とを有し、
前記発色層は、AuおよびAgを含む合金を含み、
Niを含まず、
前記合金は、さらにPtを含み、前記合金中、Agが
5.11at%以上
12.14at%
以下の量で含まれ
、Ptが4.86at%以上6.69at%以下の量で含まれ、残部はAuであるか、または、
前記合金は、さらにPdを含み、前記合金中、Agが5.12at%以上9.55at%以下の量で含まれ、Pdが4.11at%以上10.33at%以下の量で含まれ、残部はAuである、
抗菌性金色部材。
【請求項2】
前記基材と、前記発色層との間に、さらに密着層を有し、
前記密着層は、TiおよびNbから選ばれる少なくとも1種を含む、
請求項
1に記載の抗菌性金色部材。
【請求項3】
前記基材と、前記発色層との間に、さらに硬化層を有し、
前記硬化層は、TiおよびNbから選ばれる少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物、炭窒化物、酸窒化物、炭窒酸化物または炭酸化物を含む、
請求項
1に記載の抗菌性金色部材。
【請求項4】
前記硬化層と、前記発色層との間に、さらに混合層を有し、
前記混合層は、前記硬化層に含まれる化合物と、前記発色層に含まれる前記合金とを含む、
請求項
3に記載の抗菌性金色部材。
【請求項5】
前記発色層が、前記AuおよびAgを含む合金を含む第1構成層と、TiおよびNbから選ばれる少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物、炭窒化物、酸窒化物、炭窒酸化物または炭酸化物を含む第2構成層とが、交互に積層された多層構造であり、
前記多層構造は、基材側および最表面側が、前記第1構成層である、
請求項1~
4のいずれか1項に記載の抗菌性金色部材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の抗菌性金色部材を含む時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性金色部材および時計に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、表面に硬化層を有する装飾部品が記載されている。上記装飾部品は、上記硬化層は下地層および仕上げ層を有し、上記下地層はHf、Ti、Zrのうちから少なくとも1種類の金属からなる第1の窒化物層と、該第1の窒化物層上にHf、Ti、Zrのうちから少なくとも1種類の金属からなり上記第1の窒化物層とは異なる第2の窒化物層とを有する。また、上記仕上げ層は、Au-Ni合金、Au-Pd合金またはAu-Pt合金を主成分とするAu合金層である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、抗菌性についての言及がなく、実際に当該被膜の発色層の組み合わせでは、耐Niアレルギーと抗菌性とを両立する金色硬質被膜を実現することができない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、Niフリーで人肌に優しく、さらに耐食性、耐傷性に優れる抗菌性金色部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の抗菌性金色部材は、基材と、基材の上に設けられた発色層とを有し、上記発色層は、AuおよびAgを含む合金を含み、上記合金中、Agが5.00at%以上17.40at%未満の量で含まれる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の抗菌性金色部材は、Niフリーで抗菌性を有し、耐食性および耐傷性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態の抗菌性金色部材を説明するための断面模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態の抗菌性金色部材の変形例を説明するための断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
【0010】
実施形態の抗菌性金色部材は、基材と、基材の上に設けられた発色層とを有する。上記発色層は、AuおよびAgを含む合金を含み、上記合金中、Agが5.00at%以上17.40at%未満の量で含まれる。発色層を構成する合金にAgが上記特定の量で含まれているため、実施形態の抗菌性金色部材は抗菌性に優れるとともに、耐食性に優れる。このように、Agがある程度多い量で含まれていても、耐食性に優れるが、これは、AuとAgとが全率固溶することに起因すると考えられる。さらに、発色層を構成する合金にAgが含まれているため、実施形態の抗菌性金色部材は淡い金色を示す。すなわち、実施形態の抗菌性金色部材によれば、Niを用いずに(Niフリーであっても)、Niを用いたときと同様の淡い金色を実現できる。以下に、実施形態の抗菌性金色部材ついて、さらに具体的に述べる。
【0011】
ところで、一般的なメッキの金色は、スイス金色規格の1N-14~2N-18の範囲で、この範囲にある金色装飾部品は、鏡面光沢でL*(10.0~90.0)a*(6.0)b*(3.0)~L*(10.0~90.0)a*(1.0)b*(15.0)の範囲の金色調を示す。一方、実施形態の抗菌性金色部材は、上述のように、Niを用いたときと同様の淡い金色を実現できる。具体的には、L*(80.00~95.00)a*(-5.00~15.00)b*(10.00~45.00)の範囲であり、淡い金色を示す。また、実施形態の抗菌性金色部材は、より好ましくは、L*(80.00~95.00)、a*(0~6.00)b*(20.00~26.00)の範囲であり、より好ましい淡い金色を示す。
【0012】
<実施形態1>
図1は、実施形態の抗菌性金色部材を説明するための断面模式図である。実施形態1の抗菌性金色部材では、
図1に示すように、抗菌性金色部材100は、基材10、密着層11、硬化層12、発色層20がこの順で積層されている。
【0013】
基材10は、たとえば、金属またはセラミックスから形成される。上記金属(合金を含む)としては、具体的には、ステンレス鋼、チタン、チタン合金、銅、銅合金、タングステンカーバイドなどが挙げられる。これらの金属は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
上記セラミックスとしては、具体的には、ジルコ二アセラミックスなどが挙げられる。このジルコ二アセラミックスは、たとえば、その組成が酸化イットリウム(Y2O2)または他の安定化剤(たとえば酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO))を3~7重量%含む安定化ジルコニアである。
【0015】
金属からなる基材100は、上記金属から従来公知の機械加工により調製される。また、基材100には、必要に応じて各種手段により、鏡面、梨地、ヘアライン模様、ホーニング模様、型打ち模様、エッチング模様などの表面仕上げが施されていてもよい。また、セラミックスからなる基材100は、たとえば時計ケース用の基材の場合は、以下のようにして製造できる。まず、ジルコニアおよびバインダーを主成分とする素材を用いて射出成形により時計ケースの形状を有する成形体を作製する。次いで、この成形体を機械加工により粗加工し、さらに、この粗加工した成形体を脱脂および焼成して時計ケースの粗基材を作製する。次いで、この粗基材を研削および研磨など機械加工することにより、時計ケース用の基材を製造する。
【0016】
密着層11は、TiおよびNbから選ばれる少なくとも1種を含む。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。密着層11を設けると、基材と、密着層11上に設けられる層との密着性が高まり、厚い被膜の形成も可能となる。結果として抗菌性金色部材の耐傷性、耐摩耗性の向上に寄与できる。密着層11は、さらに酸素、窒素、炭素を微量に含んでいてもよい。密着層11が、硬化層12に含まれる元素と同じ元素を含む場合には、硬化層12との密着性が高まるため好ましい。
【0017】
硬化層12は、TiおよびNbから選ばれる少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物、炭窒化物、酸窒化物、炭窒酸化物または炭酸化物を含む。これらの化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちで、NbN、TiNが好適に用いられる。
【0018】
このような硬化層12は、通常、発色層20よりも高い硬度(たとえば1000HV以上)を有する。耐傷性能はおおよそ被膜の厚さ、被膜の密着度および被膜の硬度の積により決まる。硬質層12を厚くすることで、被膜全体の硬度が高まり、結果として抗菌性金色部材の耐傷性の向上に寄与できる。また、このような硬化層12は、淡い金色を示す。これにより、発色層20が部分的に摩耗することがあっても、その摩耗した部分では、発色層20と同様の金色色調を呈する硬化層12が露出するため、発色層20の摩耗が目立たない。よって、長期にわたり抗菌性金色部材の美観を維持できる。
【0019】
また、硬化層12は、傾斜構造を有していてもよい。すなわち、硬化層12において、非金属元素(炭素、窒素および酸素)の量は、基材10において発色層20を設ける面に垂直な方向に、基材10から離れるにしたがって増加していてもよい。具体的には段階的に増加することが好ましいが、これには限定されない。たとえば、増加、減少、増加などのように変化させてもよい。傾斜構造の場合は、膜応力を緩和でき、膜の剥がれを防止できる利点がある。
【0020】
また、硬化層12は、多層構造を有していてもよい。すなわち、硬化層12は、金属元素または非金属元素の種類や含有量が異なる化合物を含む層を2層以上積層した多層構造であってもよい。
【0021】
密着層11および硬化層12の合計の厚さは、0.6μm以上2μm以下であることが好ましい。密着層11の厚さは、基材10と、密着層11上に設けられる層との密着性が担保できる限り、特に限定されない。一方、密着層11および硬化層12の合計の厚さが0.6μm以上であると、耐傷性が向上できるため好ましい。また、密着層11および硬化層12の合計の厚さが2μmを超えると、膜応力が増加し、膜の剥がれを引き起こす場合がある。
【0022】
発色層20は、AuおよびAgを含む合金を含む。上記合金中、Agが5.00at%以上17.40at%未満の量で含まれ、好ましくは8.06at%以上10.32at%以下の量で含まれる。なお、残部はAuである。発色層20を構成する合金にAgが上記特定の量で含まれているため、実施形態の抗菌性金色部材は抗菌性に優れるとともに、耐食性に優れる。また、耐傷性にも優れる。さらに、実施形態の抗菌性金色部材は淡い金色を示す。
【0023】
また、発色層20は、傾斜構造を有していてもよい。すなわち、発色層20において、Agの量は、基材10において発色層20を設ける面に垂直な方向に、基材10から離れるにしたがって段階的に変化させてもよい。
【0024】
発色層20の厚さは、成膜性、美観および耐傷性の観点から、0.02μm以上0.04μm以下であることが好ましい。
【0025】
実施形態1の抗菌性金色部材の製造方法は、基材上に、発色層を設ける工程を含み、上記発色層は、AuおよびAgを含む合金を含み、上記合金中、Agが5.00at%以上17.40at%未満の量で含まれる。具体的には、実施形態1の抗菌性金色部材の製造方法は、基材上に、密着層を設ける工程、硬化層を設ける工程、および発色層を設ける工程を含み、これらの工程をこの順で行う。
【0026】
実施形態1の抗菌性金色部材の製造方法に用いる基材は、予め、その表面を有機溶剤などで洗浄および脱脂しておくことが好ましい。上記工程は、それぞれ乾式メッキ法で行うことが好ましい。乾式メッキ法としては、スパッタリング法、アーク法、イオンプレーティング法、イオンビーム等の物理的蒸着法(PVD)、化学的蒸着法(CVD)などが挙げられる。これらのうちで、スパッタリング法が特に好ましく用いられる。
【0027】
スパッタリング法は、真空に排気されたチャンバー内に不活性ガス(たとえばAr)を導入しながら、基材とターゲット間に直流または交流の高電圧を印加し、プラズマを発生させる。次いで、イオン化した不活性ガスをターゲットに衝突させて、はじき飛ばされたターゲット物質を基材に形成させる方法である。
【0028】
たとえば、硬化層など非金属元素を含む層を形成する場合は、反応性スパッタリング法により行う。反応性スパッタリング法では、不活性ガスとともに微量の反応ガスを導入し、ターゲット構成原子と反応ガスを構成する非金属元素との反応化合物被膜(硬化層)を基材上に形成させることができる。反応ガスとして、メタンガス、アセチレンガス等の炭素原子含有ガス、窒素ガス等の窒素原子含有ガス、酸素ガス等の酸素原子含有ガスが用いられる。
【0029】
<実施形態2>
実施形態2の抗菌性金色部材においても、
図1に示すように、基材10、密着層11、硬化層12、発色層13がこの順で積層されている。実施形態2の抗菌性金色部材は、実施形態1の抗菌性金色部材と比較して、基材10、密着層11、硬化層12は同じであり、発色層20が異なっている。
【0030】
実施形態2の抗菌性金色部材において、発色層20は、Au、AgおよびPtを含む合金を含む。AgおよびPtを組み合わせて用いているため、より好ましい淡い金色を示す。
【0031】
上記合金中、Agが5.00at%以上17.40at%未満の量で含まれ、好ましくは5.11at%以上12.14at%以下の量で含まれる。より好ましくは、上記合金中、Agが5.11at%以上12.14at%以下の量で含まれ、Ptが4.86at%以上6.69at%以下の量で含まれる。なお、残部はAuである。発色層20を構成する合金にAgおよびPtが上記特定の量で含まれているため、実施形態2の抗菌性金色部材は抗菌性に優れるとともに、耐食性および耐傷性に優れる。さらに、実施形態2の抗菌性金色部材は特に好ましい淡い金色を示す。すなわち、実施形態2の抗菌性金色部材によれば、Niを含んでいなくても、Niを用いたときに得られる特に好ましい淡い金色と同様の淡い金色を実現できる。
【0032】
また、実施形態2の抗菌性金色部材においても、発色層20は、傾斜構造を有していてもよい。実施形態2の抗菌性金色部材における傾斜構造についての詳細は、実施形態1の抗菌性金色部材で説明したものと同じである。さらに、実施形態2の抗菌性金色部材において、発色層20の厚さについても、実施形態1の抗菌性金色部材で説明したものと同じである。
【0033】
実施形態2の抗菌性金色部材の製造方法は、実施形態1の抗菌性金色部材の製造方法と同様である。
【0034】
<実施形態3>
実施形態3の抗菌性金色部材においても、
図1に示すように、基材10、密着層11、硬化層12、発色層20がこの順で積層されている。実施形態3の抗菌性金色部材は、実施形態1や実施形態2の抗菌性金色部材と比較して、基材10、密着層11、硬化層12は同じであり、発色層20が異なっている。
【0035】
実施形態3の抗菌性金色部材において、発色層20は、Au、AgおよびPdを含む合金を含む。AgおよびPdを組み合わせて用いているため、より好ましい淡い金色を示す。
【0036】
上記合金中、Agが5.00at%以上17.40at%未満の量で含まれ、好ましくは5.12at%以上9.55at%以下の量で含まれる。より好ましくは、上記合金中、Agが5.12at%以上9.55at%以下の量で含まれ、Pdが4.11at%以上10.33at%以下の量で含まれる。なお、残部はAuである。発色層20を構成する合金にAgおよびPdが上記特定の量で含まれているため、実施形態3の抗菌性金色部材は抗菌性に優れるとともに、耐食性および耐傷性に優れる。さらに、実施形態3の抗菌性金色部材は特に好ましい淡い金色を示す。すなわち、実施形態3の抗菌性金色部材によれば、Niを含んでいなくても、Niを用いたときに得られる特に好ましい淡い金色と同様の淡い金色を実現できる。また、特に好ましくは、上記合金中、Agが5.28at%以上9.55at%以下の量で含まれ、Pdが4.11at%以上6.32at%以下の量で含まれる。なお、残部はAuである。発色層20を構成する合金にAgおよびPdが上記特定の量で含まれていると、特に好ましい淡い金色を示す。
【0037】
また、実施形態3の抗菌性金色部材においても、発色層20は、傾斜構造を有していてもよい。実施形態3の抗菌性金色部材における傾斜構造についての詳細は、実施形態1の抗菌性金色部材で説明したものと同じである。さらに、実施形態3の抗菌性金色部材において、発色層20の厚さについても、実施形態1の抗菌性金色部材で説明したものと同じである。
【0038】
実施形態3の抗菌性金色部材の製造方法は、実施形態1の抗菌性金色部材の製造方法と同様である。
【0039】
<変形例>
実施形態2、3において、発色層20は、Au、AgおよびPtを含む合金またはAu、AgおよびPdを含む合金を含んでいる。ここで、PtまたはPdの代わりに、Rhを用いてもよい。Rhを用いる場合も、発色層20を構成する合金にAgが上記特定の量で含まれているため、抗菌性金色部材は抗菌性に優れるとともに、耐食性および耐傷性に優れる。また、発色層20を構成する合金にRhを含めると、より好ましい淡い金色を示す。
【0040】
図2は、実施形態の抗菌性金色部材の変形例を説明するための断面模式図である。
図2に示すように、実施形態1~3において、発色層20は、多層構造であってもよい。すなわち、発色層20は、第1構成層21と第2構成層22とが交互に積層された多層構造であってもよい。ここで、第1構成層21は、上記AuおよびAgを含む合金を含む。また、第2構成層22は、TiおよびNbから選ばれる少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物、炭窒化物、酸窒化物、炭窒酸化物または炭酸化物を含む。上記多層構造において、基材10側および最表面側は、第1構成層21である。多層構造の場合は、外傷で最表面の第1構成層21の一部が消失しても、最表面の第1構成層21と、露出した第2構成層22との色調差による違和感が生じにくくなる。このため、長期間使用しても美観を維持できるため好ましい。第1構成層21および第2構成層22の積層数は、合計で2層以上100層以下であることが好ましい。
【0041】
発色層20が多層構造である場合は、最表面の第1構成層21の厚さは、成膜性、美観および耐傷性の観点から、0.005μm以上0.04μm以下であることが好ましい。また、最表面以外の第1構成層21の厚さおよび第2構成層21の厚さは、成膜性、美観および耐傷性の観点から、それぞれ、0.005μm以上0.02μm以下であることが好ましい。
【0042】
また、実施形態1~3において、密着層11または硬化層12を省略してもよい。すなわち、実施形態1~3の抗菌性金色部材は、基材10/発色層20、基材10/密着層11/発色層20、基材10/硬化層12/発色層20の構成を有していてもよい。
【0043】
また、実施形態1~3において、硬化層12と発色層20との間に、さらに混合層を設けてもよい。混合層は、硬化層12に含まれる化合物と、発色層20に含まれる合金とを含む。混合層を設けると、硬化層12と発色層20との間の密着性を高められる。
【0044】
なお、これら変形例についても、実施形態1と同様に、スパッタリング法(具体的には反応性スパッタリング法)により適宜製造できる。
【0045】
<時計>
実施形態の時計は、上記抗菌金色部材を含む。抗菌金色部材は、時計の構成部品であれば特に限定されず、ケース、リューズ、裏蓋、バンド、中留などが挙げられる。また、実施形態の時計は、光発電時計、熱発電時計、電波受信型自己修正時計、機械式時計、一般の電子式時計のいずれであってもよく、腕時計、掛け時計、置時計のいずれであってもよい。このような時計は、上記抗菌金色部材を用いて公知の方法により製造される。いずれの時計も、上述した発色層を有するため、抗菌性、耐食性および耐傷性に優れる。
【0046】
なお、実施形態の抗菌金色部材は、時計以外に適用されてもよい。たとえば、ベルトの
バックル、指輪、ネックレス、ブレスレット、イヤリング、ペンダント、ブローチ、カフスボタン、ネクタイ止め、バッジ、メダル、眼鏡のフレーム、カメラのボディ、ドアノブなどに適用されてもよい。
【0047】
以上より、本発明は以下に関する。
〔1〕 基材と、上記基材上に設けられた発色層とを有し、上記発色層は、AuおよびAgを含む合金を含み、上記合金中、Agが5.00at%以上17.40at%未満の量で含まれる、抗菌性金色部材。
上記〔1〕の抗菌性金色部材は、抗菌性および耐食性に優れる。
〔2〕 上記合金は、さらに、Pt、PdおよびRhから選ばれる少なくとも1種を含む、〔1〕に記載の抗菌性金色部材。
上記〔2〕の抗菌性金色部材は、より好ましい淡い金色を示す。
〔3〕 上記合金は、さらにPtを含み、上記合金中、Agが5.11at%以上12.14at%以下の量で含まれ、Ptが4.86at%以上6.69at%以下の量で含まれる、〔1〕に記載の抗菌性金色部材。
〔4〕 上記合金は、さらにPdを含み、上記合金中、Agが5.12at%以上9.55at%以下の量で含まれ、Pdが4.11at%以上10.33at%以下の量で含まれる、〔1〕に記載の抗菌性金色部材。
上記〔3〕、〔4〕の抗菌性金色部材は、特に好ましい淡い金色を示す。
〔5〕 上記基材と、上記発色層との間に、さらに密着層を有し、上記密着層は、TiおよびNbから選ばれる少なくとも1種を含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の抗菌性金色部材。
密着層を設けると、抗菌性金色部材の密着性の向上に寄与できる。
〔6〕 上記基材と、上記発色層との間に、さらに硬化層を有し、上記硬化層は
、TiおよびNbから選ばれる少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物、炭窒化物、酸窒化物、炭窒酸化物または炭酸化物を含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の抗菌性金色部材。
硬化層を設けると、耐傷性の向上に寄与できる。長期にわたり抗菌性金色部材の美観を維持できる。
〔7〕 上記硬化層と、上記発色層との間に、さらに混合層を有し、上記混合層は、上記硬化層に含まれる上記窒化物、上記炭化物、上記炭窒化物、上記酸窒化物、上記炭窒酸化物または上記炭酸化物と、上記発色層に含まれる上記合金とを含む、〔6〕に記載の抗菌性金色部材。
混合層を設けると、硬化層と発色層との間の密着性を高められる。
〔8〕 上記発色層が、上記AuおよびAgを含む合金を含む第1構成層と、TiおよびNbから選ばれる少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物、炭窒化物、酸窒化物、炭窒酸化物または炭酸化物を含む第2構成層とが、交互に積層された多層構造であり、上記多層構造は、基材側および最表面側が、上記第1構成層である、〔1〕~〔7〕のいずれか1つに記載の抗菌性金色部材。
発色層が多層構造であると、長期間使用しても美観を維持できるため好ましい。
〔9〕 〔1〕~〔8〕のいずれか1つに記載の抗菌性金色部材を含む時計。
上記〔10〕の時計は、抗菌性、耐食性および耐傷性に優れる。
【0048】
[実施例]
以下実施例に基づいて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1-1]
実施例1-1では、
図1に示す膜構造(基材/Ti密着層/TiN硬化層/発色層(AuAg)を有する抗菌金色部材を作製した。
本実施例では、ターゲットは、Ti密着層、TiN硬化層を形成するためのTiターゲットと、発色層を形成するための任意組成Au合金ターゲットとを用いた。基材は、JIS H 4600 2種のTi板を用いた。
成膜の準備として、基材をチャンバー内にセットし、チャンバー内の圧力が4.0×10
-3Paになるまで真空引きした後、圧力が3.0×10
-1Paで一定になるようにArを30sccm導入し、Arプラズマを発生させた。成膜する際は、まず、同一圧力下のArプラズマ雰囲気中で、Tiターゲットを用いてTi密着層を成膜した。次に、N
2を6sccm追加導入し、Ar、N
2プラズマ雰囲気中で、TiN硬化層を成膜した。このとき、Ti密着層とTiN硬化層との総厚が0.6μm以上になるように成膜した。続いて、AuAg合金ターゲットを用いて、Arプラズマ雰囲気中で、発色層を成膜した。このとき、AuAg合金層が0.04μmの膜厚になるように成膜した。
【0050】
[実施例1-2~1-3]
実施例1-2~1-3では、組成が異なるAuAg合金ターゲットを用いた以外は、実施例1-1と同様にして、抗菌金色部材を作製した。
【0051】
[実施例2-1~2-14]
実施例2-1~2-14では、組成が異なるAuPtAg合金ターゲットを用いた以外は、実施例1-1と同様にして、抗菌金色部材を作製した。
【0052】
[比較例2-1~2-8]
比較例2-1~2-8では、組成が異なるAuPtAg合金ターゲットを用いた以外は、実施例1-1と同様にして、金色部材を作製した。
【0053】
[実施例3-1~3-12]
実施例3-1~3-12では、組成が異なるAuPdAg合金ターゲットを用いた以外は、実施例1-1と同様にして、抗菌金色部材を作製した。
【0054】
[比較例3-1~3-3]
比較例3-1~3-3では、組成が異なるAuPdAg合金ターゲットを用いた以外は、実施例1-1と同様にして、金色部材を作製した。
【0055】
実施例1-1~1-3で得られた抗菌金色部材について、発色層の組成、色調、耐傷性、耐食性、抗菌性の測定結果を、表1に示す。また、実施例2-1~2-14で得られた抗菌金色部材および比較例2-1~2-8で得られた金色部材について、発色層の組成、色調、耐傷性、耐食性、抗菌性の測定結果を、表2に示す。また、実施例3-1~3-12で得られた抗菌金色部材および比較例3-1~3-3で得られた金色部材について、発色層の組成、色調、耐傷性、耐食性、抗菌性の測定結果を、表3に示す。なお、発色層の組成は、測定の際にwt%で得られた値をat%に変換した。
【0056】
AuAg合金を使用した実施例の外観色調は、Lab色空間表示で、L*:91.94~92.07、a*:-0.63~-0.60、b*:38.30~38.71であり、淡い金色ではあったが、緑みの金色を呈した。一方で、AuPtAg合金を使用した実施例の外観色調は、L*:84.46~87.61、a*:1.95~4.31、b*:22.48~24.67であった。また、AuPdAg合金を使用した実施例の外観色調は、L*:82.48~86.61、a*:2.70~3.81、b*:12.52~21.98であった。双方ともに好ましい淡い金色を呈した。
【0057】
AuPtAg合金、AuPdAg合金を使用したサンプルについて、JIS Z 2801:2012に準ずる抗菌性試験を実施した。AuをベースとしたAgを含む合金において、Agが5.00at%以上を含む場合に抗菌性が発現することが示唆された。
また、CASS試験、人工汗試験の結果、Agが17.40at%未満の場合、耐食性が認められると考えられる。よって、Agの含有量が5.00at%以上、17.40at%未満の場合、抗菌性および耐食性の性質を両立させることができると考えられる。耐傷性試験については、合金組成によらず合格であった。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
<測定方法>
[元素量]
発色層中の各元素量は、EDX(エネルギー分散型X線分光法)により測定した。なお、入射電子の加速電圧を5kVとし、試料から放出された特性X線を半導体検出器で検出してエネルギー分光し、得られたスペクトルのエネルギー値から試料の定量分析を行った。また、各元素量の定量値を得るにあたり、試料による入射電子の散乱や、試料から放出されたX線の試料内での吸収や蛍光励起が、標準試料と未知試料とで異なることを考慮して補正を行った(ZAF補正法)。
【0062】
[膜厚]
発色層の膜厚ならびに密着層および硬化層の合計の膜厚は、蛍光X線膜厚計SFT9400(SII製)で測定した。
【0063】
[色調]
抗菌金色部材の色調は、KONICA MINOLTA製のSpectra Magic NX(光源D65)を用いてL*a*b*色度図によるL*a*b*を測定して評価した。
ここで、L*は国際照明委員会(CIE)のCIE 1976(L*a*b*)色空間における明度指数であり、a*、b*はクロマテイクネス指数を表わす。
【0064】
[耐傷性]
耐傷性は、日常生活で想定される比較的強い摩擦に対する、装飾品の傷付きにくさを表す特性である。砂消しゴムの未使用面を、実施例で得られた抗菌金色部材または比較例で得られた金色部材の表面に、所定の荷重で押し当て、当該未使用面を所定のストロークで所定の回数擦り付け、その後、当該表面に形成された傷の程度を目視で観察し、基準となる限度サンプルと比較することで耐傷性を評価した。限度サンプルよりも傷が目立たない場合は〇とし、傷が目立つ場合は×とした。
【0065】
[耐食性]
抗菌金色部材の耐食性は、CASS試験および人工汗試験により評価した。CASS試験はJIS-H 8502に準拠して、酢酸酸性の塩化ナトリウム溶液に塩化第二銅を添加した溶液を噴霧した雰囲気に48時間設置し、発色層の剥離および変色を観察し耐食性の評価とした。剥離および変色が見られなかった場合を〇とし、孔食、剥離、変色等の異常が見られた場合を×とした。
【0066】
人工汗試験はISO12870に準拠して、塩化ナトリウムと乳酸を混ぜた液(人工汗)を55℃で48時間曝気させた雰囲気に設置し、発色層の変色を観察し耐食性の評価とした。変色が見られなかった場合を〇とし、変色が見られた場合を×とした。
【0067】
[抗菌性]
抗菌性試験は「JIS Z 801:2012 抗菌加工-抗菌性試験方法・抗菌効果」に準じて行った。
【0068】
1)試験片の準備
抗菌加工試験片(試料、すなわち、実施例で作製した抗菌金色部材および比較例で作製した金色部材)はエタノール洗浄にて清浄化を行ない、十分風乾させた後、試験に用いた。被覆フィルムおよび無加工試験片はポリエチレンフィルムを裁断しEOG滅菌して用いた。
【0069】
2)試験菌液の調製
試験菌(黄色ぶどう球菌(NBRC12732)および大腸菌(NBRC3972))は、保存菌を普通寒天培地に接種して培養し、翌日継代してから約18~20時間後に1/500の普通ブイヨン液に懸濁して調製した。
【0070】
3)試験菌の接種および培養
試験片に試験菌液0.2mLを接種し、フィルム(20×40mmの長方形)で覆った後、35℃、相対湿度90%以上で24時間培養した。
【0071】
4)試験菌の洗い出しと生菌数の測定
試験菌液を接種した直後の無加工試験片について、SCDLP培地(抗菌剤不活化培地)10mLを注いで菌を洗い出し、寒天平板培養法で生菌数を調べた。また、24時間培養後の無加工試験片および抗菌加工試験片についても同様に生菌数を測定した。生菌数の測定は寒天平板培養法(寒天平板混釈法)で行った。洗い出し液およびその10倍希釈系列希釈液をシャーレに分注し、標準寒天培地を加えて混合した。寒天が固まった後、シャーレを倒置し、35℃で40~48時間培養した。培養後、生菌数(コロニー)を計測し、菌数の算出を行なった。
【0072】
5)試験成立条件の判定
1.無加工試験片の接種直後の生菌数の対数値について、次式が成立する。
(Lmax-Lmin)/Lmean≦0.2
Lmax:生菌数対数値の最大値
Lmin:生菌数対数値の最小値
Lmean:3個の試験片の生菌数対数値の平均値
2.無加工試験片の接種直後の生菌数平均は6.2×103~2.5×104個/cm2の範囲内である。
3.無加工試験片にフィルムを用いた場合は、24時間後の生菌数の3個の値がいずれも6.2×102個/cm2以上である。
上記判定を行ったところ、試験成立条件を満たしていた。
【0073】
6)抗菌活性値の計算および判定
抗菌活性値:R=(Ut-U0)-(At-U0)=Ut-At
U0:無加工試験片の接種直後の生菌数の対数値の平均値
Ut:無加工試験片の24時間後の生菌数の対数値の平均値
At:抗菌加工試験片の24時間後の生菌数の対数値の平均値
「抗菌効果を有する」とは、製品上の24時間後の試験菌の生菌数が無加工製品上の生菌数の1%以下(抗菌活性値2.0以上)となることと定義されている。判定基準は、抗菌活性値2.0以上の場合を○とし、抗菌活性値2.0未満の場合を×とする。
【符号の説明】
【0074】
100 抗菌金色部材
10 基材
11 密着層
12 硬化層
20 発色層
21 第1構成層
22 第2構成層