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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】逆転防止装置およびモータ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/06 20060101AFI20240206BHJP
   B60J 1/17 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
F16D41/06 B
B60J1/17 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020184767
(22)【出願日】2020-11-05
(65)【公開番号】P2022074606
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 友康
【審査官】中野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-048159(JP,A)
【文献】特開2010-048352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/06
B60J 1/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転体と、
前記第1回転体に対して同軸上に設けられる第2回転体と、
前記第1回転体および前記第2回転体を収容するハウジングと、
前記第1回転体と前記第2回転体との間に設けられるクラッチ機構と、
を備えた逆転防止装置であって、
前記クラッチ機構は、
前記第1回転体に設けられ、前記第1回転体の軸方向に突出され、かつ前記第1回転体の回転方向に等間隔で並べられた複数の第1凸部と、
前記第2回転体に設けられ、前記第2回転体の径方向に突出され、かつ隣り合う前記第1凸部の間に入り込む第2凸部と、
前記第2回転体の径方向において前記第2凸部と前記ハウジングとの間に設けられ、かつ隣り合う前記第1凸部の間に設けられるコロ部材と、
前記コロ部材を保持するとともに、前記コロ部材を前記ハウジングに向けて押圧するホルダ部材と、
を有し、
前記コロ部材は、前記第1回転体から前記第2回転体に回転力が伝達されたときに、前記第2凸部および前記ハウジングに挟持されず、前記第2回転体から前記第1回転体に回転力が伝達されたときに、前記第2凸部および前記ハウジングに挟持され
前記コロ部材は、前記第1回転体および前記第2回転体の軸線と平行な軸線を備えた円柱形状に形成され、
前記ホルダ部材は、前記第1回転体および前記第2回転体の回転方向における前記コロ部材の両側を覆い、かつ前記第1回転体および前記第2回転体の径方向における前記コロ部材の前記第2凸部側および前記ハウジング側を露出させるコロ支持部を有し、
前記コロ支持部の内側で、かつ前記第2凸部側には、前記コロ部材を前記ハウジングに向けて押圧する一対の平坦面が設けられ、
前記コロ支持部は、
前記コロ部材を当該コロ部材の軸方向一側から支持する支持板部と、
前記第1回転体および前記第2回転体の回転方向における前記支持板部の両側に設けられ、前記第1凸部が突き当てられる突当面および前記平坦面を有する回転力伝達部と、
を備え、
前記支持板部の中央よりも前記回転力伝達部寄りの部分に、前記第1回転体および前記第2回転体の径方向外側に切り欠かれた第1切欠部が設けられ、
前記第1回転体および前記第2回転体の回転方向における前記回転力伝達部の中央寄りの部分に、前記第1回転体および前記第2回転体の径方向外側に切り欠かれた第2切欠部が設けられ、
前記第1切欠部の深さ寸法の方が、前記第2切欠部の深さ寸法よりも大きいことを特徴とする、
逆転防止装置。
【請求項2】
請求項に記載の逆転防止装置において、
一対の前記平坦面は、前記第1回転体および前記第2回転体の回転方向における前記コロ部材の両側に対向配置され、一対の前記平坦面のなす角度が60°以下であることを特徴とする、
逆転防止装置。
【請求項3】
請求項または請求項に記載の逆転防止装置において、
前記コロ部材の軸心から前記第1回転体および前記第2回転体の軸心に向けて延びる直線上において前記コロ部材の前記軸心と外周面とを結ぶ線分を第1仮想線分とし、
前記コロ部材の前記外周面と一対の前記平坦面の一方との接触部分と、前記コロ部材の前記外周面と一対の前記平坦面の他方との接触部分と、を結ぶ線分を第2仮想線分としたときに、
前記第1仮想線分と前記第2仮想線分とが、前記第1仮想線分の中点よりも前記コロ部材の軸心寄りにおいて交差していることを特徴とする、
逆転防止装置。
【請求項4】
アーマチュア軸により回転されるウォームと、
前記ウォームにより回転されるウォームホイールと、
を備えたモータ装置であって、
前記ウォームホイールに対して同軸上に設けられる出力部材と、
前記ウォームホイールおよび前記出力部材を収容するハウジングと、
前記ウォームホイールと前記出力部材との間に設けられるクラッチ機構と、
を有し、
前記クラッチ機構は、
前記ウォームホイールに設けられ、前記ウォームホイールの軸方向に突出され、かつ前記ウォームホイールの回転方向に等間隔で並べられた複数の第1凸部と、
前記出力部材に設けられ、前記出力部材の径方向に突出され、かつ隣り合う前記第1凸部の間に入り込む第2凸部と、
前記出力部材の径方向において前記第2凸部と前記ハウジングとの間に設けられ、かつ隣り合う前記第1凸部の間に設けられるコロ部材と、
前記コロ部材を保持するとともに、前記コロ部材を前記ハウジングに向けて押圧するホルダ部材と、
を有し、
前記コロ部材は、前記ウォームホイールから前記出力部材に回転力が伝達されたときに、前記第2凸部および前記ハウジングに挟持されず、前記出力部材から前記ウォームホイールに回転力が伝達されたときに、前記第2凸部および前記ハウジングに挟持され
前記コロ部材は、前記ウォームホイールおよび前記出力部材の軸線と平行な軸線を有する円柱形状に形成され、
前記ホルダ部材は、前記ウォームホイールおよび前記出力部材の回転方向における前記コロ部材の両側を覆い、かつ前記ウォームホイールおよび前記出力部材の径方向における前記コロ部材の前記第2凸部側および前記ハウジング側を露出させるコロ支持部を有し、
前記コロ支持部の内側で、かつ前記第2凸部側には、前記コロ部材を前記ハウジングに向けて押圧する一対の平坦面が設けられ、
前記コロ支持部は、
前記コロ部材を当該コロ部材の軸方向一側から支持する支持板部と、
前記ウォームホイールおよび前記出力部材の回転方向における前記支持板部の両側に設けられ、前記第1凸部が突き当てられる突当面および前記平坦面を有する回転力伝達部と、
を備え、
前記支持板部の中央よりも前記回転力伝達部寄りの部分に、前記ウォームホイールおよび前記出力部材の径方向外側に切り欠かれた第1切欠部が設けられ、
前記ウォームホイールおよび前記出力部材の回転方向における前記回転力伝達部の中央寄りの部分に、前記ウォームホイールおよび前記出力部材の径方向外側に切り欠かれた第2切欠部が設けられ、
前記第1切欠部の深さ寸法の方が、前記第2切欠部の深さ寸法よりも大きいことを特徴とする、
モータ装置。
【請求項5】
請求項に記載のモータ装置において、
一対の前記平坦面は、前記ウォームホイールおよび前記出力部材の回転方向における前記コロ部材の両側に対向配置され、一対の前記平坦面のなす角度が60°以下であることを特徴とする、
モータ装置。
【請求項6】
請求項または請求項に記載のモータ装置において、
前記コロ部材の軸心から前記ウォームホイールおよび前記出力部材の軸心に向けて延びる直線上において前記コロ部材の前記軸心と外周面とを結ぶ線分を第1仮想線分とし、
前記コロ部材の前記外周面と一対の前記平坦面の一方との接触部分と、前記コロ部材の前記外周面と一対の前記平坦面の他方との接触部分と、を結ぶ線分を第2仮想線分としたときに、
前記第1仮想線分と前記第2仮想線分とが、前記第1仮想線分の中点よりも前記コロ部材の軸心寄りにおいて交差していることを特徴とする、
モータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の回転体と、これらの回転体の間のクラッチ機構と、を備えた逆転防止装置およびモータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両に搭載されるパワーウィンドウ装置の駆動源には、小型でありながら大きな出力が得られる減速機構付きのモータ装置が採用されている。当該モータ装置は、車室内にある操作スイッチ等の操作により駆動され、これによりウィンドウガラスが昇降される。
【0003】
パワーウィンドウ装置の駆動源に用いられるモータ装置が、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載されたモータ(モータ装置)は、モータ本体の回転軸(一方の回転体)と、減速部のウォーム軸(他方の回転体)と、を備えており、これらの回転軸とウォーム軸との間には、クラッチ(クラッチ機構)が設けられている。
【0004】
クラッチは、回転軸と一体回転する駆動側回転体と、ウォーム軸に一体に設けられた一対の制御面と、ギヤハウジングに固定されるカラーと、制御面とカラーとの間に配置された転動体と、転動体をその直径方向に挟むように設けられたローラサポートと、を備えている。ローラサポートには、転動体と対向するテーパ面および内側凸部が設けられている。具体的には、テーパ面は、ローラサポートから転動体に回転力が伝達されたときに、転動体をカラーから離すように作用する。これに対し、内側凸部は、転動体の径方向内側への移動を規制している。
【0005】
そして、回転軸が回転されると、駆動回転体を介してローラサポートに回転力が伝達され、転動体がカラーから離れて制御面(ウォーム軸)に回転力が伝達される。つまり、ウォーム軸は回転軸の回転に伴って回転される。これに対し、ウォーム軸が回転されると、制御面が転動体をカラーに向けて押し付けて、これにより転動体が制御面とカラーとの間に挟持され、ひいてはウォーム軸がそれ以上回転しないようにロックされる。つまり、回転軸はウォーム軸の回転により回転しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-166639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の特許文献1に記載されたモータ装置では、制御面が上下方向を向き得る状態で当該モータ装置を取り付け対象物に取り付けた場合に、上方を向いた制御面に対しては、一方の転動体が当該制御面上に載置された状態となる。また、下方を向いた制御面に対しては、他方の転動体が当該制御面から離れてカラーに接触した状態となる。
【0008】
したがって、この状態でウォーム軸が回転すると、他方の転動体(下方)が先にロック状態となり、一方の転動体(上方)が遅れてロック状態となる。つまり、一対の転動体にバランスよく負荷を配分することができず、他方の転動体および当該転動体をロックする周辺部材が早期に偏摩耗する虞があった。
【0009】
本発明の目的は、クラッチ機構を構成する部品の偏摩耗を抑制して、長期に亘り初期性能を維持することが可能な逆転防止装置およびモータ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の逆転防止装置では、第1回転体と、前記第1回転体に対して同軸上に設けられる第2回転体と、前記第1回転体および前記第2回転体を収容するハウジングと、前記第1回転体と前記第2回転体との間に設けられるクラッチ機構と、を備えた逆転防止装置であって、前記クラッチ機構は、前記第1回転体に設けられ、前記第1回転体の軸方向に突出され、かつ前記第1回転体の回転方向に等間隔で並べられた複数の第1凸部と、前記第2回転体に設けられ、前記第2回転体の径方向に突出され、かつ隣り合う前記第1凸部の間に入り込む第2凸部と、前記第2回転体の径方向において前記第2凸部と前記ハウジングとの間に設けられ、かつ隣り合う前記第1凸部の間に設けられるコロ部材と、前記コロ部材を保持するとともに、前記コロ部材を前記ハウジングに向けて押圧するホルダ部材と、を有し、前記コロ部材は、前記第1回転体から前記第2回転体に回転力が伝達されたときに、前記第2凸部および前記ハウジングに挟持されず、前記第2回転体から前記第1回転体に回転力が伝達されたときに、前記第2凸部および前記ハウジングに挟持され、前記コロ部材は、前記第1回転体および前記第2回転体の軸線と平行な軸線を備えた円柱形状に形成され、前記ホルダ部材は、前記第1回転体および前記第2回転体の回転方向における前記コロ部材の両側を覆い、かつ前記第1回転体および前記第2回転体の径方向における前記コロ部材の前記第2凸部側および前記ハウジング側を露出させるコロ支持部を有し、前記コロ支持部の内側で、かつ前記第2凸部側には、前記コロ部材を前記ハウジングに向けて押圧する一対の平坦面が設けられ、前記コロ支持部は、前記コロ部材を当該コロ部材の軸方向一側から支持する支持板部と、前記第1回転体および前記第2回転体の回転方向における前記支持板部の両側に設けられ、前記第1凸部が突き当てられる突当面および前記平坦面を有する回転力伝達部と、を備え、前記支持板部の中央よりも前記回転力伝達部寄りの部分に、前記第1回転体および前記第2回転体の径方向外側に切り欠かれた第1切欠部が設けられ、前記第1回転体および前記第2回転体の回転方向における前記回転力伝達部の中央寄りの部分に、前記第1回転体および前記第2回転体の径方向外側に切り欠かれた第2切欠部が設けられ、前記第1切欠部の深さ寸法の方が、前記第2切欠部の深さ寸法よりも大きいことを特徴とする。
【0011】
本発明のモータ装置では、アーマチュア軸により回転されるウォームと、前記ウォームにより回転されるウォームホイールと、を備えたモータ装置であって、前記ウォームホイールに対して同軸上に設けられる出力部材と、前記ウォームホイールおよび前記出力部材を収容するハウジングと、前記ウォームホイールと前記出力部材との間に設けられるクラッチ機構と、を有し、前記クラッチ機構は、前記ウォームホイールに設けられ、前記ウォームホイールの軸方向に突出され、かつ前記ウォームホイールの回転方向に等間隔で並べられた複数の第1凸部と、前記出力部材に設けられ、前記出力部材の径方向に突出され、かつ隣り合う前記第1凸部の間に入り込む第2凸部と、前記出力部材の径方向において前記第2凸部と前記ハウジングとの間に設けられ、かつ隣り合う前記第1凸部の間に設けられるコロ部材と、前記コロ部材を保持するとともに、前記コロ部材を前記ハウジングに向けて押圧するホルダ部材と、を有し、前記コロ部材は、前記ウォームホイールから前記出力部材に回転力が伝達されたときに、前記第2凸部および前記ハウジングに挟持されず、前記出力部材から前記ウォームホイールに回転力が伝達されたときに、前記第2凸部および前記ハウジングに挟持され、前記コロ部材は、前記ウォームホイールおよび前記出力部材の軸線と平行な軸線を有する円柱形状に形成され、前記ホルダ部材は、前記ウォームホイールおよび前記出力部材の回転方向における前記コロ部材の両側を覆い、かつ前記ウォームホイールおよび前記出力部材の径方向における前記コロ部材の前記第2凸部側および前記ハウジング側を露出させるコロ支持部を有し、前記コロ支持部の内側で、かつ前記第2凸部側には、前記コロ部材を前記ハウジングに向けて押圧する一対の平坦面が設けられ、前記コロ支持部は、前記コロ部材を当該コロ部材の軸方向一側から支持する支持板部と、前記ウォームホイールおよび前記出力部材の回転方向における前記支持板部の両側に設けられ、前記第1凸部が突き当てられる突当面および前記平坦面を有する回転力伝達部と、を備え、前記支持板部の中央よりも前記回転力伝達部寄りの部分に、前記ウォームホイールおよび前記出力部材の径方向外側に切り欠かれた第1切欠部が設けられ、前記ウォームホイールおよび前記出力部材の回転方向における前記回転力伝達部の中央寄りの部分に、前記ウォームホイールおよび前記出力部材の径方向外側に切り欠かれた第2切欠部が設けられ、前記第1切欠部の深さ寸法の方が、前記第2切欠部の深さ寸法よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ホルダ部材が、コロ部材を保持するとともに、コロ部材をハウジングに向けて押圧する。したがって、逆転防止装置およびモータ装置の取り付け対象物に対する取り付け姿勢に依らず、コロ部材をハウジングに接触させておくことができる。よって、コロ部材を複数有する場合に、それぞれのコロ部材をそれぞれ一緒に(略同時に)ロック状態にすることができる。これにより、クラッチ機構を構成する部品の偏摩耗を抑制して、長期に亘り初期性能を維持することが可能となる。また、コロ部材をハウジングに接触させておくことができるので、クラッチ機構を素早くロック状態にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】減速機構付モータの平面図である。
図2図1のA-A線に沿う断面図である。
図3図2のB-B線に沿う断面図である。
図4図3の破線円C部の拡大図である。
図5】クラッチ機構を分解して示す斜視図である。
図6】ホルダ部材を単体で示す斜視図である。
図7】ホルダ部材のコロ支持部を拡大して示す平面図である。
図8】(a)から(e)は、コロ支持部の最適形状の検討結果を示す解析図である。
図9】(a),(b)は、減速機構付モータの駆動時におけるクラッチ機構の動作(リリース状態)を説明する説明図である。
図10】(a),(b)は、減速機構付モータの停止時におけるクラッチ機構の動作(ロック状態)を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0015】
図1は減速機構付モータの平面図を、図2図1のA-A線に沿う断面図を、図3図2のB-B線に沿う断面図を、図4図3の破線円C部の拡大図を、図5はクラッチ機構を分解して示す斜視図を、図6はホルダ部材を単体で示す斜視図を、図7はホルダ部材のコロ支持部を拡大して示す平面図を、図8(a)から(e)はコロ支持部の最適形状の検討結果を示す解析図を、図9(a),(b)は減速機構付モータの駆動時におけるクラッチ機構の動作(リリース状態)を説明する説明図を、図10(a),(b)は減速機構付モータの停止時におけるクラッチ機構の動作(ロック状態)を説明する説明図をそれぞれ示している。
【0016】
図1に示される減速機構付モータ(モータ装置)10は、自動車等の車両に搭載されるパワーウィンドウ装置の駆動源に用いられ、ウィンドウガラスを昇降させるウィンドウレギュレータを駆動する。減速機構付モータ10は、車両のドア内の狭小スペースに設置されるため、図2に示されるように扁平形状となっている。また、減速機構付モータ10は、モータ部20とギヤ部40とを備え、これらのモータ部20およびギヤ部40は、互いに複数の締結ねじ11(図1では2つのみ示す)により一体化されている。
【0017】
図1に示されるように、モータ部20は、モータケース21を備えている。モータケース21は、磁性材料よりなる鋼板を深絞り加工等することで有底筒状に形成されている。モータケース21の内部には、アーマチュア軸26の軸方向と交差する方向の断面形状が略円弧形状となった複数のマグネット22(図1では2つのみ示す)が設けられている。
【0018】
また、これらのマグネット22の内側には、コイル23が巻装されたアーマチュア24が、所定の隙間を介して回転自在に設けられている。そして、モータケース21の開口側(図1の右側)には、ブラシホルダ25が設けられ、当該ブラシホルダ25は、モータケース21の開口側を閉塞している。
【0019】
アーマチュア24の回転中心には、アーマチュア軸26が固定されている。アーマチュア軸26の軸方向におけるアーマチュア24の近傍には、コンミテータ27が設けられている。コンミテータ27には、アーマチュア24に巻装されたコイル23の端部が電気的に接続されている。
【0020】
コンミテータ27の外周部分には、ブラシホルダ25に移動自在に保持された一対のブラシ28(図1では1つのみ示す)が摺接される。これらのブラシ28は、コンミテータ27の周囲に90°間隔で配置され、ばね部材29によってそれぞれコンミテータ27に向けて所定圧で押圧されている。これにより、車載コントローラ(図示せず)から各ブラシ28に駆動電流が供給され、ひいてはアーマチュア24に回転力(電磁力)が発生する。よって、アーマチュア軸26が所定の回転方向および回転数で回転される。
【0021】
モータケース21の底部側(図1の左側)は段付形状に形成され、当該段付き形状の部分には、モータケース21の本体部よりも小径となった有底段部21aが設けられている。有底段部21aには、第1ラジアル軸受30が装着され、第1ラジアル軸受30は、アーマチュア軸26の軸方向一側(図1の左側)を回転自在に支持している。また、ブラシホルダ25には、第2ラジアル軸受31が装着され、第2ラジアル軸受31は、アーマチュア軸26の軸方向中央部を回転自在に支持している。
【0022】
ギヤ部40は、ギヤケース(ハウジング)41と、当該ギヤケース41に取り付けられたコネクタ部材42と、を備えている。ギヤケース41は、プラスチック等の樹脂材料を射出成形することで所定形状に形成され、モータケース21の開口側に複数の締結ねじ11により固定されている。なお、コネクタ部材42は、その先端側がギヤケース41の側方に差し込まれて、当該状態のもとで固定ねじ(図示せず)によりギヤケース41に固定されている。
【0023】
ギヤケース41の内部には、アーマチュア軸26の軸方向他側(図1の右側)が延在され、当該アーマチュア軸26の軸方向他側でかつ外周部分には、ウォーム44が固定されている。つまり、ウォーム44はアーマチュア軸26により回転される。また、アーマチュア軸26の軸方向他側は、第3ラジアル軸受45により回転自在に支持され、ウォーム44は、ギヤユニット100(図2および図5参照)を構成する樹脂製のウォームホイール110の外周部分に設けられた歯部111に噛み合わされている。つまり、ウォームホイール110はウォーム44により回転される。
【0024】
このように、アーマチュア軸26の軸方向一側に第1ラジアル軸受30を設け、アーマチュア軸26の軸方向中央部に第2ラジアル軸受31を設け、アーマチュア軸26の軸方向他側に第3ラジアル軸受45を設けている。これにより、アーマチュア軸26は、歪むことなくスムーズに高速で回転可能となっている。そして、本実施の形態では、高速で回転する軸がアーマチュア軸26の1本のみであるため、その分、減速機構付モータ10の駆動時に発生する作動音を低減可能としている。
【0025】
なお、ウォーム44およびウォームホイール110は、ウォーム減速機SD(減速機構)を構成している。そして、ウォーム減速機SDは、アーマチュア軸26の回転を減速し、減速されて高トルク化された回転力を、ウィンドウレギュレータ(駆動対象物)に出力する。つまり、ウォーム44が高速で回転し、ウォームホイール110が低速で回転される。なお、本実施の形態では、減速比が84:1となっている。すなわち、ウォーム44が84回転すると、漸くウォームホイール110が高トルク化された状態で1回転するようになっている。
【0026】
また、図1に示されるように、アーマチュア軸26の軸方向におけるコンミテータ27と第2ラジアル軸受31との間には、環状のセンサマグネット46が一体に設けられている。センサマグネット46は、その周方向にN極,S極が交互に並ぶように着磁されている。これに対し、コネクタ部材42にはセンサ基板42aが装着され、当該センサ基板42aのセンサマグネット46との対向部分には、回転センサ42bが実装されている。
【0027】
ここで、回転センサ42bは、センサマグネット46の磁束線の向きやその変化を捉える磁気センサとなっている。これにより回転センサ42bは、アーマチュア軸26の回転状態、つまりアーマチュア軸26の回転方向や回転速度を検出可能となっている。より具体的には、回転センサ42bは、センサ素子としての磁気抵抗素子(MR素子)を複数備え、さらには巨大磁気抵抗効果現象(Giant Magneto Resistance Effect)を応用したGMRセンサとなっている。
【0028】
そして、車載コントローラは、回転センサ42bからの検出信号を検出して、アーマチュア軸26の回転状態を算出する。例えば、アーマチュア軸26の回転速度が低下した場合には、車載コントローラは、ウィンドウガラスに障害物が接触していると判断し、直ちに減速機構付モータ10の駆動を停止または反転させる制御を実行する(挟み込み防止機能)。
【0029】
図2に示されるように、ギヤケース41の内部には、ウォーム44およびギヤユニット100が回転自在に収容されている。ギヤケース41は底部41aを備え、当該底部41a側とは反対側には、開口部41bが設けられている。そして、開口部41bからギヤケース41の内部に、比較的大きな部品であるギヤユニット100が組み込まれる。
【0030】
ギヤケース41の底部41aには、ウォームホイール110を回転自在に支持する筒状支持部41cが設けられている。筒状支持部41cには、丸鋼棒からなるセンターポール41dが固定され、当該センターポール41dには、出力部材120が回転自在に支持されている。なお、ウォームホイール110および出力部材120は何れも樹脂製であり、これによりギヤユニット100の軽量化を図っている。また、ギヤユニット100の軸方向において、筒状支持部41cのウォームホイール110との接触部分の長さの方が、センターポール41dの出力部材120との接触部分の長さよりも短くなっている。
【0031】
図2ないし図5に示されるように、ギヤユニット100を形成するウォームホイール(第1回転体)110は、ポリアセタール等の樹脂材料(POM材)により略円盤状に形成されている。ウォームホイール110は、ホイール本体112を備え、当該ホイール本体112の外周部分に、ウォーム44が噛み合わされる歯部111が形成されている。ここで、ウォームホイール110の軸方向における歯部111の厚みの方が、ウォームホイール110の軸方向におけるホイール本体112の厚みよりも厚くなっている。よって、ウォーム44と歯部111との噛み合い強度が十分に確保される。
【0032】
ホイール本体112の中心には、ギヤケース41の筒状支持部41cが挿通される挿通孔112aが形成されている。また、ホイール本体112の軸方向一側(出力部材120側)には、合計3つの第1凸部113が一体に設けられている。これらの第1凸部113は、ウォームホイール110の軸方向一側(図2の上側)に突出して設けられている。また、図3に示されるように、それぞれの第1凸部113は、平面視で略ハット(hat)形状に形成され、ウォームホイール110の回転方向に等間隔(120°間隔)で並べられている。
【0033】
これらの第1凸部113は、クラッチ機構CLを構成しており、当該第1凸部113のホイール本体112からの突出高さは、出力部材120の第2凸部122の部分にまで到達する高さ寸法となっている。また、ウォームホイール110の回転方向における第1凸部113の両側には、段差部114がそれぞれ設けられている。これらの段差部114は、ウォームホイール110の径方向外側に配置された第1対向面114aと、ウォームホイール110の径方向内側に配置された第2対向面114bと、を備えている。なお、図3においては、見易くするために、1つの第1凸部113のみに、114,114a,114bの符号を付している。
【0034】
ここで、ウォームホイール110の周方向において、隣り合う第1凸部113の第1対向面114a同士の離間距離の方が、隣り合う第1凸部113の第2対向面114b同士の離間距離よりも短くなっている。そして、隣り合う第1凸部113の第1対向面114aの間には、コロ部材150を支持するホルダ部材160のコロ支持部162が、所定の隙間を介して入り込んでいる。また、隣り合う第1凸部113の第2対向面114bの間には、出力部材120の本体部121に設けられた第2凸部122が、所定の隙間を介して入り込んでいる。
【0035】
図2ないし図5に示されるように、ギヤユニット100を形成する出力部材(第2回転体)120は、ポリアセタール等の樹脂材料(POM材)により段付きの略円柱形状に形成されている。出力部材120は本体部121を備え、当該本体部121の外周部分には、略台形形状に形成された合計3つの第2凸部122が、径方向外側に突出するようにして一体に設けられている。これらの第2凸部122は、図3に示されるように、出力部材120の回転方向に等間隔(120°間隔)で並べられている。
【0036】
これらの第2凸部122は、クラッチ機構CLを構成しており、本体部121からの突出高さは、隣り合う第1凸部113の第2対向面114bの間に入り込める高さ寸法となっている。また、それぞれの第2凸部122には、コロ部材150と対向する平面部122aが設けられている。これらの平面部122aは、出力部材120の中心から出力部材120の径方向外側に延ばした線分(図示せず)と直交する方向に真っ直ぐに広がっている。
【0037】
さらに、それぞれの平面部122aの表面には、一般鋼材よりなる板材(SPC材)をプレス加工等して所定形状に形成された補強板122bがそれぞれ装着されている。これらの補強板122bは、第2凸部122の一部を形成しており、かつクラッチ機構CLを構成している。また、補強板122bにおいても、出力部材120の中心から出力部材120の径方向外側に延ばした線分と直交する方向に真っ直ぐに広がっている。
【0038】
そして、それぞれの補強板122bには、コロ部材150の外周部が線接触するようになっている。これにより、それぞれの平面部122aが、コロ部材150により変形したり摩耗したりすることが抑えられる。また、出力部材120の全体を金属製とした場合に比して、樹脂製の出力部材120を採用できるため軽量化を図ることができる。さらに、出力部材120の軽量化を図りつつも、樹脂製の第2凸部122の変形や摩耗が抑えられるので、クラッチ機構CLを長期に亘り精度良く作動させることができる。
【0039】
また、出力部材120の回転方向における第2凸部122の両側には、平坦部122cがそれぞれ設けられている。これらの平坦部122cは、第2凸部122が隣り合う第1凸部113の第2対向面114bの間に入り込んだ状態で、第2対向面114bに対して所定の隙間を介して対向している(図3参照)。そして、一対の平坦部122cは、出力部材120の軸方向および径方向にそれぞれ広がっており、出力部材120がウォームホイール110に対して回転したときに、第2対向面114bが面接触される。
【0040】
さらに、本体部121の軸方向一側(図2の上側)には、本体部121よりも若干小径となったセレーション部123が一体に設けられている。このセレーション部123の外周部分には、ギヤ歯のような無数の凹凸部123aが形成されている。そして、セレーション部123の凹凸部123aには、ウィンドウレギュレータを形成するドラム(図示せず)が一体回転可能に装着される。
【0041】
このように、出力部材120は、ウォームホイール110に対して同軸上に設けられ、かつドラムを回転駆動するようになっている。これにより、出力部材120の回転に伴って、ウィンドウレギュレータが駆動され、ひいてはウィンドウガラスが昇降される。なお、図3においては、見易くするために、1つの第2凸部122のみに、122a,122b,122cの符号を付している。
【0042】
図2に示されるように、ギヤケース41には、金属製のギヤカバー(ハウジング)140が装着されている。具体的には、ギヤケース41の開口部41bは、ギヤカバー140によって閉塞されている。ギヤカバー140は、一般鋼材よりなる板材(SPC材)をプレス加工等して略円盤状に形成されている。そして、ギヤカバー140は、その径方向内側に配置された第1円板部141を備えている。
【0043】
ここで、ウォームホイール110,出力部材120,ギヤケース41およびギヤカバー140,クラッチ機構CLが、本発明における逆転防止装置を構成している。
【0044】
第1円板部141の内周部分には、出力部材120が非接触の状態で挿通される挿通孔141aが形成されている。また、第1円板部141の外周部分には、筒部142の先端部分(図2の上側)が連結されている。そして、当該筒部142の径方向内側(内周部分)には、コロ部材150の外周部が線接触するようになっている。つまり、クラッチ機構CLの作動時において、筒部142の内周部分には、コロ部材150の外周部が押し付けられるようになっている。
【0045】
さらに、筒部142の基端部分(図2の下側)には、第1円板部141と同じ方向に広がった第2円板部143の内周部分が連結されている。当該第2円板部143は、ウォームホイール110の軸方向から、当該ウォームホイール110の径方向外側の部分、つまり歯部111が設けられる部分を覆っている。
【0046】
さらに、ギヤカバー140の最も径方向外側の部分には、断面が略U字形状に形成された環状のかしめ部144が設けられている。具体的には、かしめ部144は、第2円板部143の外周部分から、ウォームホイール110の軸方向に立設されている。そして、かしめ部144は、ギヤケース41の開口部41bに部分的に嵌まるようにして固定されている。
【0047】
また、かしめ部144の先端部分(図2の上側)は、ギヤケース41の開口部41bの近傍に設けられた固定部41eを覆うようにして折り曲げられている。すなわち、かしめ部144の先端部分をかしめ工具等でかしめることにより、ギヤカバー140はギヤケース41に強固に固定されている。
【0048】
このように、ギヤカバー140は、複数の屈曲部を備えた所謂波打ち形状(図2および図5参照)に形成されており、これらの屈曲部によりギヤカバー140の剛性が高められている。言い換えれば、ギヤカバー140に設けられた複数の屈曲部は、補強リブとしての機能を備えている。よって、クラッチ機構CLの作動時には、筒部142の内周部分にコロ部材150の外周部が押し付けられるが、筒部142は容易に変形することがない。これによっても、クラッチ機構CLを長期に亘り精度良く作動させることができる。
【0049】
図2ないし図8に示されるように、合計3つのコロ部材150は、ホルダ部材160によりそれぞれ支持(保持)されている。ホルダ部材160は、ポリアセタール等の樹脂材料(POM材)により略扁平の筒状に形成され、ホルダ本体161と、合計3つのコロ支持部162と、を備えている。ここで、ホルダ部材160においても、クラッチ機構CLを構成している。
【0050】
ホルダ部材160は、コロ支持部162に支持されたコロ部材150を、それぞれギヤカバー140の筒部142に向けて弱い力f(図4参照)で押圧する機能を有している。つまり、ホルダ部材160は、合計3つのコロ部材150を、減速機構付モータ10の設置姿勢(縦置きや横置き等)に関わらず、それぞれ筒部142に常に当接させる機能を有している。
【0051】
なお、ホルダ部材160による押圧力(弱い力f)の大きさは、クラッチ機構CLがロック状態となったときの第2凸部122による押圧力(強い力F,図10(a),(b)参照)よりも十分に小さく設定されている(f<F)。すなわち、ホルダ部材160の押圧力(弱い力f)は、クラッチ機構CLをロックさせるほどの大きな力ではなく、減速機構付モータ10のスムーズな回転駆動に支障を来すことはない。
【0052】
ホルダ本体161は、比較的薄肉の筒状に形成され、当該ホルダ本体161は、図2および図3に示されるように、減速機構付モータ10を組み立てた状態において、ウォームホイール110の第1凸部113とギヤカバー140の筒部142との間に配置される。そして、ホルダ本体161は、減速機構付モータ10の停止状態および作動状態に関わらず、第1凸部113および筒部142の双方に非接触の状態となっている。これにより、ウォームホイール110がホルダ部材160に対して回転するとき、およびホルダ部材160がギヤカバー140に対して回転するときにおいて、互いに回転抵抗が増大することが効果的に抑えられる。
【0053】
また、図4図6および図7に示されるように、合計3つのコロ支持部162は、ホルダ本体161の周方向に等間隔(120°間隔)で配置されている。そして、コロ支持部162は、ホルダ本体161の周方向に長く、かつホルダ本体の径方向に短く形成され、コロ支持部162の長手方向中央部に、コロ部材150が保持される。
【0054】
具体的には、図4に示されるように、コロ支持部162は、ウォームホイール110および出力部材120の回転方向(図4の左右方向)におけるコロ部材150の両側を覆い、かつウォームホイール110および出力部材120の径方向(図4の上下方向)におけるコロ部材150の第2凸部122側およびギヤカバー140側を露出させている。つまり、コロ支持部162は、コロ部材150を保持しつつも、第2凸部122の補強板122bおよびギヤカバー140の筒部142の双方に対して、コロ部材150を接触可能としている。
【0055】
コロ支持部162は、ホルダ本体161の径方向内側に所定の高さで突出されている。コロ支持部162の長手方向中央部(図7の左右方向中央部)には、コロ部材150を収容するコロ部材収容部163が設けられている。コロ部材収容部163は、1つの支持板部164および一対の回転力伝達部165により囲まれて形成されている。
【0056】
コロ支持部162を形成する支持板部164は、コロ部材150をその軸方向一側(図7の奥側)から支持する部分であり、ホルダ部材160の軸方向における支持板部164の肉厚寸法は、ホルダ部材160の径方向におけるホルダ本体161の肉厚寸法の略半分(略1/2)の肉厚寸法となっている(図6参照)。
【0057】
また、コロ支持部162を形成する一対の回転力伝達部165は、ウォームホイール110および出力部材120の回転方向における支持板部164の両側(図7の左右側)に設けられ、かつ支持板部164を挟んで鏡像対称となるように配置されている。そして、ホルダ部材160の軸方向における回転力伝達部165の肉厚寸法は、ホルダ部材160の軸方向における支持板部164の肉厚寸法よりも大きくなっており、具体的には、ホルダ本体161の軸方向寸法に一致している。
【0058】
これにより、コロ支持部162の内側、つまりコロ部材収容部163の内部に、コロ部材150を支持(保持)することが可能となっている。なお、コロ部材収容部163の内部には、十分な量のシリコーングリース等からなる潤滑剤(図示せず)が設けられている。これにより、コロ部材150は、コロ支持部162の内側、つまりコロ部材収容部163の内部でスムーズに転動自在となっている。
【0059】
ここで、コロ部材150は、例えば、高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ材)により略円柱形状に形成され、かつ減速機構付モータ10を組み立てた状態で、ウォームホイール110および出力部材120の軸線と平行な軸線を備えている。また、図3に示されるように、コロ部材150は、出力部材120の径方向において、第2凸部122と筒部142との間に、補強板122bを介して設けられ、かつ隣り合う第1凸部113の間に設けられている。なお、コロ部材150においても、クラッチ機構CLを構成している。
【0060】
さらに、図6および図7に示されるように、コロ支持部162の内側には、一対の平坦面166が設けられている。これらの平坦面166は、一対の回転力伝達部165のコロ部材150側にそれぞれ設けられ、ウォームホイール110および出力部材120の回転方向におけるコロ部材150の両側に対向配置されている。また、一対の平坦面166は、コロ支持部162の内側において、第2凸部122側(図4および図7の下側)に配置されている。
【0061】
図4に示されるように、減速機構付モータ10を組み立てた状態で、一対の平坦面166には、コロ部材150の外周部における第2凸部122側(図4の下側)が、それぞれ線接触されている。具体的には、黒点Pの部分で線接触されている。そして、一対の平坦面166は、コロ部材150をギヤカバー140の筒部142に向けて弱い力fで押圧している。なお、図4で示した以外の他のコロ支持部162(他の2箇所)においても、図4と同じ構成となっている。
【0062】
また、コロ支持部162の内側には、一対の円弧面167が設けられている。これらの円弧面167においても、一対の回転力伝達部165のコロ部材150側にそれぞれ設けられ、ウォームホイール110および出力部材120の回転方向におけるコロ部材150の両側に対向配置されている。さらに、一対の円弧面167は、コロ支持部162の内側において、筒部142側(図4および図7の上側)に配置されている。
【0063】
ただし、一対の円弧面167とコロ部材150の外周部との間には所定のクリアランス(隙間)が形成されている。そして、一対の円弧面167とコロ部材150とは、減速機構付モータ10の停止状態および作動状態に関わらず、互いに非接触の状態が保持される。これによっても、コロ部材150は、コロ支持部162の内側、つまりコロ部材収容部163の内部でスムーズに転動自在となっている。
【0064】
また、一対の回転力伝達部165のコロ部材150側とは反対側には、ウォームホイール110がホルダ部材160に対して回転したときに、第1凸部113の第1対向面114aが突き当てられる突当面168がそれぞれ設けられている。これらの突当面168は、ホルダ部材160の軸方向および径方向にそれぞれ広がっており、ウォームホイール110がホルダ部材160に対して回転したときに、第1対向面114aが面接触される。
【0065】
ここで、本実施の形態では、一対の平坦面166とコロ部材150との線接触の部分(接触部分)、つまり図4に示される黒点Pの部分を、以下のように規定している。
【0066】
すなわち、コロ部材150の軸心C1からウォームホイール110および出力部材120の軸心C2(図3参照)に向けて延びる直線L上においてコロ部材150の軸心C1と外周面SFとを結ぶ線分を第1仮想線分L1とし、コロ部材150の外周面SFと一対の平坦面166の一方との接触部分(一方の黒点Pの部分)と、コロ部材150の外周面SFと一対の平坦面166の他方との接触部分(他方の黒点Pの部分)と、を結ぶ線分を第2仮想線分L2したときに、第1仮想線分L1と第2仮想線分L2とが、第1仮想線分L1の中点よりもコロ部材150の軸心C1寄り(r/2以内)において交差している。
【0067】
これにより、ウォームホイール110および出力部材120の径方向におけるコロ部材150の第2凸部122(補強板122b)側を、コロ部材収容部163(図7参照)から比較的大きく露出させることが可能となる。したがって、出力部材120がホルダ部材160に対して回転し、かつクラッチ機構CLがロック状態となる前に、コロ支持部162に対して第2凸部122の補強板122bを接触させずに済む。したがって、クラッチ機構CLを素早くかつ確実にロック状態にすることが可能となる。
【0068】
さらに、本実施の形態では、一対の平坦面166のなす角度β°を、60°以下となるように設定している。具体的には、本実施の形態では、一対の平坦面166のなす角度β°は、約36°となっている。そして、本実施の形態では、一対の平坦面166のなす角度β°を、以下のように規定している。
【0069】
まず、一方の黒点Pとコロ部材150の軸心C1とを結ぶ線分L3と、平坦面166とのなす角度は、90°(直角)となる。そして、第1仮想線分L1と線分L3とのなす角度をα°とすると、
β°=2×(90°-α°)…式(1)
が得られる。
【0070】
また、第1仮想線分L1と第2仮想線分L2とが、第1仮想線分L1の中点よりもコロ部材150の軸心C1寄り、つまりr/2以内において交差するように黒点Pを配置するため、これにより、cos(α°)=(r/2)/rの式が得られる。そして、当該式を整理すると、
α°=arccos(1/2)…式(2)
となる。
【0071】
上記式(1)および上記式(2)から、また、arccos(1/2)はπ/3(=60°)なので、β°=2×(90°-arccos(1/2))=2×(90°-60°)=60°となる。これに基づいて、本実施の形態では、一対の平坦面166のなす角度β°を60°以下となるように設定している。
【0072】
このように、一対の平坦面166のなす角度β°を60°以下に設定することで、コロ部材150の軸心C1寄りの部分で、かつウォームホイール110および出力部材120の径方向における平坦面166の略中央部分に、黒点P(接触部分)が配置される。これにより、ホルダ部材160によるコロ部材150の筒部142への押圧力(弱い力f)が、部品精度のばらつき等に応じて大きくなり過ぎてしまうこと等が抑制される。すなわち、減速機構付モータ10の特性(トルク性能等)が、製品毎にばらつくことが効果的に抑えられる。
【0073】
ここで、仮に図4に示される状態において、一対の平坦面166のなす角度β°を60°以上に大きくしてみると、平坦面166の先端部(図4の下方)寄りに黒点Pが移動することになる。したがって、平坦面166の先端部寄りの剛性が低い部分に、コロ部材150からの応力が集中してしまい、ひいては平坦面166の摩耗や変形を早めてしまう虞が生じる。つまり、クラッチ機構CLの機能が早期に低下する虞が生じる。
【0074】
また、一対の平坦面166は、コロ部材150の出力部材120寄りの部分(図4の下方)を筒部142に向けて押圧するようになる。したがって、ホルダ部材160の成形精度がばらつくと、これに伴ってコロ部材150の筒部142への押圧力(弱い力f)のばらつきも大きくなる虞が生じる。つまり、減速機構付モータ10の特性(トルク性能等)が、製品毎にばらつくことが生じ得る。
【0075】
なお、図3においては、見易くするために、1つのコロ支持部162のみに、162,165,168の符号を付している。
【0076】
さらに、図7に示されるように、コロ支持部162には、長尺の一対の第1切欠部169と、当該第1切欠部169よりも短い短尺の一対の第2切欠部170と、が設けられている。
【0077】
一対の第1切欠部169は、支持板部164の中央よりも回転力伝達部165寄りの部分において、ホルダ部材160の径方向内側から、ウォームホイール110および出力部材120の径方向外側(図7の上側)に向けて、深さ寸法D1となるように切り欠かれている。具体的には、第1切欠部169は、ホルダ部材160の径方向内側から、平坦面166に沿うようにして延在されている。
【0078】
これに対し、一対の第2切欠部170は、ウォームホイール110および出力部材120の回転方向(図7の左右方向)における回転力伝達部165の中央寄りの部分において、ホルダ部材160の径方向内側から、ウォームホイール110および出力部材120の径方向外側に向けて、深さ寸法D2となるように切り欠かれている。
【0079】
ここで、第1切欠部169の深さ寸法D1は、第2切欠部170の深さ寸法D2よりも大きくなっている(D1>D2)。より具体的には、第1切欠部169の深さ寸法D1は、第2切欠部170の深さ寸法D2の略2.5倍の大きさとなっている(D1≒2.5×D2)。
【0080】
また、第2切欠部170の開口部分(図7の下側)から、ホルダ部材160の外周壁160aまでの距離をD3としたときに、第2切欠部170の深さ寸法D2は、距離D3の略1/4となっている(D2≒D3/4)。
【0081】
さらに、ウォームホイール110および出力部材120の回転方向における第2切欠部170の両側には、第1壁部171および第2壁部172が設けられている。第1壁部171は、突当面168寄りに配置され、第2壁部172は、平坦面166寄りに配置されている。
【0082】
ここで、ウォームホイール110および出力部材120の回転方向において、第1壁部171の幅寸法をW1,第2切欠部170の幅寸法をW2,第2壁部172の幅寸法をW3,第1切欠部169の幅寸法をW4としたときに、本実施の形態においては、これらの大きさの関係が、W1>W3,W2≧W3≧W4としている。ただし、上述の幅寸法の大きさの関係は、W1>W3,W2=W3=W4とするのがより望ましい。
【0083】
このように、本実施の形態では、深さ寸法D1,D2および距離D3や幅寸法W1ないしW4の大きさを、それぞれ規定している。これは、図8(a)ないし図8(e)に示される解析結果が根拠となっている。図8は、種々の形状のコロ支持部162を試作し、どの形状がコロ部材150から付加される応力(図中矢印)に対して損傷し難いのかを、有限要素法(FEM解析)を用いて解析した結果である。なお、図中右側の網掛け部分のうち、濃色の網掛け部分の方が淡色の網掛け部分よりも応力集中が大きいことを示している。
【0084】
図8(a)は、上述の実施の形態に比して、切欠部備えない試作品Aの解析結果である。これによると、コロ部材150からの負荷により、支持板部164の回転力伝達部165寄りの部分、および回転力伝達部165の略全域において弱めの応力集中が見られた。直ぐにはコロ支持部162の損傷とはならないが、信頼性は高くない。よって、評価は「△」となった。
【0085】
図8(b)は、上述の実施の形態に比して、第1切欠部169(図7参照)を省略し、その代わりに第2切欠部170の深さ寸法を大きくした試作品Bの解析結果である。これによると、コロ部材150からの負荷により、支持板部164の回転力伝達部165寄りの部分、および第2壁部172が強めに応力集中することが判った。早期にコロ支持部162が損傷すると考えられ、信頼性は低い。よって、評価は「×」となった。
【0086】
図8(c)は、上述の実施の形態とは逆に、第1切欠部169の深さ寸法を小さくし、かつ第2切欠部170の深さ寸法を大きくした試作品Cの解析結果である。これによると、コロ部材150からの負荷により、第1切欠部169の底部寄りの部分、および第2壁部172が強めに応力集中することが判った。上述の試作品Bと同様に、早期にコロ支持部162が損傷すると考えられ、信頼性は低い。よって、評価は「×」となった。
【0087】
図8(d)は、比較のための上述の実施の形態に相当する試作品Dの解析結果である。これによると、コロ部材150からの負荷により、第2壁部172が弱めに応力集中するのみで、コロ支持部162の耐久性は十分であると考えられ、信頼性は高い。よって、評価は「〇」となった。
【0088】
図8(e)は、上述の実施の形態に比して、第1切欠部169および第2切欠部の深さ寸法を同じ大きさとし、第1壁部171の幅寸法のみを大きくした試作品Eの解析結果である。これによると、コロ部材150からの負荷により、試作品D(本実施の形態)と同様に、第2壁部172が弱めに応力集中するのみであった。当該試作品Eの場合、変形部分を突当面168から遠ざけることができるため、突当面168が歪むのをより確実に防止できることが判った。よって、ホルダ部材160を成形する材料が若干増えるデメリットはあるが、コロ支持部162の耐久性をより高めることができ、信頼性はさらに高い。よって、評価は「◎」となった。
【0089】
次に、クラッチ機構CLの動作ついて、図3に示されるニュートラルの状態を基準に、ウォームホイール110側(入力側)が正逆方向に回転された場合と、出力部材120側(出力側)が正逆方向に回転された場合と、に分けて説明する。
【0090】
なお、クラッチ機構CLは、ウォームホイール110と出力部材120との間に設けられ、ウォームホイール110から出力部材120への回転力(正逆方向)の伝達を許容し、出力部材120からウォームホイール110への回転力(正逆方向)の伝達を規制する。つまり、クラッチ機構CLは、所謂2ウェイクラッチであり、ウォームホイール110から出力部材120に回転力が伝達されるとリリース状態となり、出力部材120からウォームホイール110に回転力が伝達されるとロック状態となる。
【0091】
[入力側正転駆動]
まず、図9(a)の実線矢印R1のように、減速機構付モータ10(図1参照)が正転駆動されてウォームホイール110が正転されると、第1凸部113の第2対向面114bが、第2凸部122の平坦部122cに接触する。また、第1凸部113の第1対向面114aが、コロ支持部162の突当面168に接触する。なお、第2対向面114bと平坦部122cとの接触部分を黒点P1で示し、第1対向面114aと突当面168との接触部分を黒点P2で示している。このように、ウォームホイール110の正転に伴って、第1凸部113は、黒点P1および黒点P2の部分において、それぞれ第2凸部122およびコロ支持部162の双方に略同時に接触される。
【0092】
すると、出力部材120の中心から径方向に延び、かつ第2凸部122の幅方向中央部を通る線分L4上に、コロ部材150の中心が配置されているので、ウォームホイール110および出力部材120の回転方向おける第2凸部122とコロ部材150の位置関係は、クラッチ機構CLがニュートラルの状態(図3の状態)のときと何ら変わらない。したがって、線分L4と補強板122bの延在方向に延びる線分L5とが90°で交差して、補強板122bと筒部142との間の距離S1は、コロ部材150の直径寸法2×r(図4参照)よりも若干大きい状態が保持される(S1>2×r)。
【0093】
すなわち、ウォームホイール110から出力部材120に回転力が伝達されたときには、コロ部材150は、第2凸部122(補強板122b)とギヤカバー140の筒部142とに挟持されず(非挟持状態)、クラッチ機構CLはリリース状態に保持される。
【0094】
これにより、出力部材120およびホルダ部材160は、図9(a)の実線矢印R2およびR3のように、ウォームホイール110の正転に伴って正転される(時計回り方向に連れ回される)。よって、減速機構付モータ10の正転駆動に伴い、例えば、ウィンドウガラスが上昇される。
【0095】
ここで、合計3つのコロ部材150は、ホルダ部材160によりそれぞれ弱い力f(図4参照)で筒部142に向けて押し付けられている。つまり、それぞれのコロ部材150は、減速機構付モータ10の設置姿勢(取り付け姿勢)に関わらず、筒部142に対して常に接触状態となっている。したがって、コロ部材150が配置された3箇所の全てのコロ支持部162の部分において、略同時に上述と同様の動作をする。
【0096】
[入力側逆転駆動]
これに対し、図9(b)の破線矢印R4のように、減速機構付モータ10が逆転駆動されてウォームホイール110が逆転されると、第1凸部113の第2対向面114bが、第2凸部122の平坦部122cに接触する。また、第1凸部113の第1対向面114aが、コロ支持部162の突当面168に接触する。なお、第2対向面114bと平坦部122cとの接触部分を黒点P3で示し、第1対向面114aと突当面168との接触部分を黒点P4で示している。このように、ウォームホイール110の逆転に伴って、第1凸部113は、黒点P3および黒点P4の部分において、それぞれ第2凸部122およびコロ支持部162の双方に略同時に接触される。
【0097】
すると、上述の正転のときと同様に、線分L4上にコロ部材150の中心が配置されているので、ウォームホイール110および出力部材120の回転方向における第2凸部122とコロ部材150の位置関係は、クラッチ機構CLがニュートラルの状態のときと何ら変わらない。したがって、線分L4と補強板122bの延在方向に延びる線分L5とが90°で交差して、補強板122bと筒部142との間の距離S1は、コロ部材150の直径寸法2×rよりも若干大きい状態が保持される(S1>2×r)。
【0098】
すなわち、上述の正転のときと同様に、コロ部材150は、第2凸部122(補強板122b)とギヤカバー140の筒部142とに挟持されず(非挟持状態)、クラッチ機構CLはリリース状態に保持される。
【0099】
これにより、出力部材120およびホルダ部材160は、図9(b)の破線矢印R5およびR6のように、ウォームホイール110の逆転に伴って逆転される(反時計回り方向に連れ回される)。よって、減速機構付モータ10の逆転駆動に伴い、例えば、ウィンドウガラスが下降される。
【0100】
この場合においても、合計3つのコロ部材150は、ホルダ部材160によりそれぞれ弱い力fで筒部142に向けて押し付けられている。つまり、それぞれのコロ部材150は、減速機構付モータ10の設置姿勢に関わらず、筒部142に対して常に接触状態となっている。よって、コロ部材150が配置された3箇所の全てコロ支持部162の部分において、略同時に上述と同様の動作をする。
【0101】
[出力側正転駆動]
次に、図10(a)の実線矢印R7のように、出力部材120が外力により正転方向に駆動されると、当該出力部材120は、ウォームホイール110およびホルダ部材160に対して回転される。すると、出力部材120の中心からコロ部材150の中心を通る線分L5に対して、補強板122bの延在方向に延びる線分L6が90°ではなくなる。具体的には、本実施の形態では、出力部材120の回転方向側(図10(a)の線分L5,L6を引いた部分の図中下側)の線分L5と線分L6との角度は、約100°となっている。
【0102】
これにより、コロ支持部162に対して第2凸部122の補強板122bが大きく傾斜されて、補強板122bと筒部142との間の距離S2が、コロ部材150の直径寸法2×r(図4参照)と同等か、これよりも若干小さい状態となる(S2≦2×r)。よって、コロ部材150は、図9(a),(b)に示される距離S1よりも短い距離S2の部分に嵌まるようにして入り込む(S2<S1)。つまり、コロ部材150が、第2凸部122の補強板122bと筒部142とに挟持されて、コロ部材150は、第2凸部122(補強板122b)により、筒部142に向けて強い力Fで押圧される。
【0103】
したがって、クラッチ機構CLはロック状態となり、出力部材120がそれ以上正転されることが阻止されて、外力によりウィンドウガラスが移動されることが防止される。つまり、出力部材120からウォームホイール110に回転力が伝達されたときに、コロ部材150は、第2凸部122(補強板122b)とギヤカバー140の筒部142とに挟持されて(挟持状態)、クラッチ機構CLはロック状態となる。
【0104】
なお、合計3つのコロ部材150は、ホルダ部材160によりそれぞれ弱い力f(図4参照)で筒部142に向けて押し付けられている。つまり、それぞれのコロ部材150は、減速機構付モータ10の設置姿勢(取り付け姿勢)に関わらず、筒部142に対して常に接触状態となっている。したがって、このようなロック状態の場合であっても、コロ部材150が配置された3箇所の全てのコロ支持部162の部分において、略同時にかつ素早く上述と同様の動作をする。
【0105】
[出力側逆転駆動]
これに対し、図10(b)の破線矢印R8のように、出力部材120が外力により逆転方向に駆動されると、当該出力部材120は、上述の正転のときと同様に、ウォームホイール110およびホルダ部材160に対して回転される。すると、線分L5に対して線分L6が90°ではなくなる。具体的には、出力部材120の回転方向側(図10(b)の線分L5,L6を引いた部分の図中下側)の線分L5と線分L6との角度は、上述の正転のときと同様に、約100°となっている。
【0106】
これにより、上述の正転のときと同様に、コロ支持部162に対して第2凸部122の補強板122bが大きく傾斜されて、補強板122bと筒部142との間の距離S2が、コロ部材150の直径寸法2×rと同等か、これよりも若干小さい状態となる(S2≦2×r)。よって、コロ部材150は、図9(a),(b)に示される距離S1よりも短い距離S2の部分に嵌まるようにして入り込む(S2<S1)。つまり、コロ部材150が、第2凸部122の補強板122bと筒部142とに挟持されて、コロ部材150は、第2凸部122(補強板122b)により、筒部142に向けて強い力Fで押圧される。
【0107】
したがって、クラッチ機構CLはロック状態となり、出力部材120がそれ以上逆転されることが阻止されて、外力によりウィンドウガラスが移動されることが防止される。つまり、出力部材120からウォームホイール110に回転力が伝達されたときに、コロ部材150は、第2凸部122(補強板122b)とギヤカバー140の筒部142とに挟持されて(挟持状態)、クラッチ機構CLはロック状態となる。
【0108】
この場合においても、合計3つのコロ部材150は、ホルダ部材160によりそれぞれ弱い力fで筒部142に向けて押し付けられている。つまり、それぞれのコロ部材150は、減速機構付モータ10の設置姿勢に関わらず、筒部142に対して常に接触状態となっている。したがって、コロ部材150が配置された3箇所の全てのコロ支持部162の部分において、略同時にかつ素早く上述と同様の動作をする。
【0109】
以上詳述したように、本実施の形態によれば、ホルダ部材160が、コロ部材150を保持するとともに、コロ部材150をギヤカバー140の筒部142に向けて押圧する。
【0110】
したがって、取り付け対象物への取り付け姿勢(設置姿勢)に依らず、コロ部材150を筒部142に接触させておくことができる。よって、合計3つのコロ部材150をそれぞれ一緒に(略同時に)ロック状態にすることができる。これにより、クラッチ機構CLを構成する部品の偏摩耗を抑制して、長期に亘り初期性能を維持することが可能となる。
【0111】
また、コロ部材150を筒部142に接触させておくことができるので、クラッチ機構CLを素早くロック状態にすることが可能となる。
【0112】
さらに、本実施の形態によれば、コロ支持部162の内側で、かつ第2凸部122側には、コロ部材150を筒部142に向けて押圧する一対の平坦面166が設けられている。
【0113】
これにより、コロ部材150と一対の平坦面166とを互いに線接触させることができ、コロ支持部162の内側で、コロ部材150をスムーズに転動させることができる。よって、モータ部20への負荷を軽減することが可能となる。
【0114】
また、本実施の形態によれば、一対の平坦面166は、ウォームホイール110および出力部材120の回転方向におけるコロ部材150の両側に対向配置され、一対の平坦面166のなす角度が60°以下(約36°)となっている。
【0115】
これにより、ホルダ部材160によるコロ部材150の筒部142への押圧力(弱い力f)が、部品精度のばらつき等に応じて大きくなり過ぎてしまうこと等を抑制できる。よって、減速機構付モータ10の特性(トルク性能等)が製品毎にばらつくことを、効果的に抑制することができる。
【0116】
さらに、本実施の形態によれば、コロ部材150の軸心C1からウォームホイール110および出力部材120の軸心C2に向けて延びる直線L上においてコロ部材150の軸心C1と外周面SFとを結ぶ線分を第1仮想線分L1とし、コロ部材150の外周面SFと一対の平坦面166の一方との接触部分(一方の黒点Pの部分)と、コロ部材150の外周面SFと一対の平坦面166の他方との接触部分(他方の黒点Pの部分)と、を結ぶ線分を第2仮想線分L2したときに、第1仮想線分L1と第2仮想線分L2とが、第1仮想線分L1の中点よりもコロ部材150の軸心C1寄り(r/2以内)において交差している。
【0117】
これにより、コロ部材150の第2凸部122(補強板122b)側を、コロ支持部162から比較的大きく露出させることができ、ひいてはコロ支持部162に対して第2凸部122の補強板122bを大きく傾斜させることができる。よって、クラッチ機構CLを素早くかつ確実にロック状態にすることが可能となる(応答性向上)。
【0118】
また、本実施の形態によれば、コロ支持部162に、第1切欠部169および第2切欠部170が設けられ、第1切欠部169の深さ寸法D1の方が、第2切欠部170の深さ寸法D2よりも大きくなっている。
【0119】
これにより、コロ支持部162を、コロ部材150から付加される応力に対して損傷し難くすることができ、ひいてはクラッチ機構CLの長寿命化を図ることができ、信頼性を向上させることが可能となる。
【0120】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記実施の形態では、車両に搭載されるパワーウィンドウ装置の駆動源である減速機構付モータ10に、本発明を適用したものを示したが、これに限らず、サンルーフ装置等の他の駆動源にも適用することができる。
【0121】
また、上記実施の形態では、モータ部20にブラシ付の電動モータを採用したものを示したが、本発明はこれに限らず、例えば、モータ部20にブラシレスの電動モータ等を採用することもできる。
【0122】
さらに、上記実施の形態では、クラッチ機構CLを備えた減速機構付モータ10を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、駆動側に第1回転体が設けられ、従動側に第2回転体が設けられ、これらの回転体の間にクラッチ機構CLが設けられた逆転防止装置に適用することもできる。すなわち、本発明はモータ装置への適用に限るものではない。
【0123】
その他、上記実施の形態における各構成要素の材質,形状,寸法,数,設置箇所等は、本発明を達成できるものであれば任意であり、上記実施の形態に限定されない。
【符号の説明】
【0124】
10:減速機構付モータ(モータ装置),20:モータ部,21:モータケース,21a:有底段部,22:マグネット,23:コイル,24:アーマチュア,25:ブラシホルダ,26:アーマチュア軸,27:コンミテータ,28:ブラシ,29:ばね部材,30:第1ラジアル軸受,31:第2ラジアル軸受,40:ギヤ部,41:ギヤケース(ハウジング,逆転防止装置),41a:底部,41b:開口部,41c:筒状支持部,41d:センターポール,41e:固定部,42:コネクタ部材,42a:センサ基板,42b:回転センサ,44:ウォーム,45:第3ラジアル軸受,46:センサマグネット,100:ギヤユニット,110:ウォームホイール(第1回転体,逆転防止装置),111:歯部,112:ホイール本体,112a:挿通孔,113:第1凸部,114:段差部,114a:第1対向面,114b:第2対向面,120:出力部材(第2回転体,逆転防止装置),121:本体部,122:第2凸部,122a:平面部,122b:補強板,122c:平坦部,123:セレーション部,123a:凹凸部,140:ギヤカバー(ハウジング,逆転防止装置),141:第1円板部,141a:挿通孔,142:筒部,143:第2円板部,144:かしめ部,150:コロ部材,160:ホルダ部材,160a:外周壁,161:ホルダ本体,162:コロ支持部,163:コロ部材収容部,164:支持板部,165:回転力伝達部,166:平坦面,167:円弧面,168:突当面,169:第1切欠部,170:第2切欠部,171:第1壁部,172:第2壁部,CL:クラッチ機構(逆転防止装置),L1:第1仮想線分,L2:第2仮想線分,SD:ウォーム減速機,SF:外周面
図1
図2
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図10