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特許7431146毛髪用止着具、毛髪用止着具を備えたヘアエクステンション、毛髪用止着具を備えたかつらベース、毛髪用止着具の装着方法及び毛髪用止着具の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】毛髪用止着具、毛髪用止着具を備えたヘアエクステンション、毛髪用止着具を備えたかつらベース、毛髪用止着具の装着方法及び毛髪用止着具の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A41G 3/00 20060101AFI20240206BHJP
【FI】
A41G3/00 K
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020195295
(22)【出願日】2020-11-25
(65)【公開番号】P2022083771
(43)【公開日】2022-06-06
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000126676
【氏名又は名称】株式会社アデランス
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 まゆみ
(72)【発明者】
【氏名】川北 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】川北 明則
【審査官】粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-063502(JP,A)
【文献】特開2005-200802(JP,A)
【文献】国際公開第2008/149697(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性を有するシート部材と、
前記シート部材に取り付けられた圧潰可能な管体と、
前記管体の内面に形成された滑り止め層と、を備え、
前記シート部材の外縁から離間した領域に、前記管体の全長以上の長さを有し、所定の距離だけ離間して並んだ、前記シート部材の両面を貫通した2本の第1の切り込みが形成されており、
外面、内面及び両端面で囲まれた前記管体の外殻部が2本の前記第1の切り込みに挿通され、前記シート部材の2本の前記第1の切り込みの間の切込間領域が前記管体の中に位置しており、
前記滑り止め層が前記管体の内面に装着されたPVCチューブから形成されていることを特徴とする毛髪用止着具。
【請求項2】
2本の前記第1の切り込みの対向する一方の端部から、それぞれ離間する方向に延びて前記シート部材の外縁まで達する、前記シート部材の両面を貫通した第2の切り込みが形成されており、
前記第1の切り込み及び前記第2の切り込みにより分離され、前記切込間領域で繋がった2つの領域であって、一方が前記管体の中を通過することにより、前記切込間領域が前記管体の中に位置する状態が形成される2つの端部領域を有することを特徴とする請求項1に記載の毛髪用止着具。
【請求項3】
前記管体が金属管から形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の毛髪用止着具。
【請求項4】
前記管体が板状部材を湾曲させて形成された略O形または略C形の断面形状を有することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の毛髪用止着具。
【請求項5】
前記管体が前記シート部材に沿うように配置された平坦部を有し、
前記シート部材の前記平坦部が配置された側の面に、前記平坦部も覆うように両面テープの一方の粘着面が貼り付けられていることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の毛髪用止着具。
【請求項6】
請求項5に記載の毛髪用止着具が、前記両面テープの他方の粘着面により取り付けられたことを特徴とするヘアエクステンション。
【請求項7】
請求項5に記載の毛髪用止着具が、前記両面テープの他方の粘着面により取り付けられたことを特徴とするかつらベース。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載の毛髪用止着具の前記管体の中に被装着者の自毛を挿入し、該自毛が挿入された状態で、前記管体を潰して塑性変形させて前記毛髪用止着具を該自毛に固定することを特徴とする毛髪用止着具の装着方法。
【請求項9】
圧潰可能な管体と、弾性を有するシート部材とを準備する第1の工程と、
前記シート部材の外縁から離間した領域において、前記管体の全長以上の長さを有し、所定の距離だけ離間して並んだ、前記シート部材の両面を貫通する2本の第1の切り込みを設けて、2本の前記第1の切り込みの間の切込間領域を形成し、
2本の前記第1の切り込みの対向する一方の端部から、それぞれ離間する方向に延びて前記シート部材の外縁まで達する、前記シート部材の両面を貫通する第2の切り込みを設けて、前記第1の切り込み及び前記第2の切り込みで分離され、前記切込間領域で繋がった2つの端部領域を形成し、
2つの前記端部領域のうちの少なくとも一方の領域に所定の間隔をあけて2つの貫通穴を開ける第2の工程と、
針金状の治具を1つの前記端部領域に設けられた2つの前記貫通穴に通すとともに、前記治具を前記管体の中に挿入する第3の工程と、
前記管体及び前記シート部材を前記治具に沿って相対的に動かしながら、前記貫通穴に前記治具が差し込まれた前記端部領域が前記管体の中を通過するようにして、前記切込間領域が前記管体の中に位置する状態を形成する第4の工程と、
を含むことを特徴とする毛髪用止着具の製造方法。
【請求項10】
前記管体の一部に平坦部を有し、
前記平坦部を前記シート部材に沿うように配置し、前記シート部材の前記平坦部が配置された側の面に、前記平坦部も覆うように両面テープの一方の粘着面を貼り付ける第5の工程と、
を含むことを特徴とする請求項9に記載の毛髪用止着具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擬毛を有する装身具を被装着者の自毛に固定するための毛髪用止着具に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘアエクステンションやかつらベースをはじめとする擬毛を有する装身具を被装着の自毛に固定するための毛髪用止着具として、金属製の圧潰可能な管体を用いたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の毛髪用止着具では、装身具に取り付けられた管体の中に被装着者の自毛を挿入して、管体を圧潰することにより、装身具を被装着の自毛に固定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-63502号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、管体は非常に小さな部品であって指で掴むのも容易ではないので、通常、所定の大きさのシート部材に取り付けられている。特許文献1に記載の毛髪用止着具では、紐を管体内に挿通し、管体の両側から出た紐をシート部材の表側から裏側に通して両端を結ぶことにより、管体をシート部材に取り付けている。
この場合、管体及びシート部材以外に、紐のような両者を繋げる固定専用部材が必要となる。更に、紐を用いて小さな管体をシート部材に取り付ける作業は、非常に煩雑で多くの作業時間を要するため、製造コストが上昇する。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、固定専用部材を要さず、シンプルな構造で容易にかつ低コストで製造可能な毛髪用止着具、この毛髪用止着具を備えたヘアエクステンション、この毛髪用止着具を備えたかつらベース、この毛髪用止着具の装着方法及びこの毛髪用止着具の製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る毛髪用止着具は、
弾性を有するシート部材と、
前記シート部材に取り付けられた圧潰可能な管体と、
前記管体の内面に形成された滑り止め層と、を備え、
前記シート部材の外縁から離間した領域に、前記管体の全長以上の長さを有し、所定の距離だけ離間して並んだ、前記シート部材の両面を貫通した2本の第1の切り込みが形成されており、
外面、内面及び両端面で囲まれた前記管体の外殻部が2本の前記第1の切り込みに挿通され、前記シート部材の2本の前記第1の切り込みの間の切込間領域が前記管体の中に位置しており、
前記滑り止め層が前記管体の内面に装着されたPVCチューブから形成されている。
【0007】
本発明の一態様に係るヘアエクステンションは、
上記の毛髪用止着具が両面テープにより取り付けられている。
【0008】
本発明の一態様に係るかつらベースは、
上記の毛髪用止着具が両面テープにより取り付けられている。
【0009】
本発明の一態様に係る毛髪用止着具の装着方法では、
上記の毛髪用止着具の前記管体の中に被装着者の自毛を挿入し、該自毛が挿入された状態で、前記管体を潰して塑性変形させて前記毛髪用止着具を該自毛に固定する。
【0010】
本発明の一態様に係る毛髪用止着具の製造方法は、
圧潰可能な管体と、弾性を有するシート部材とを準備する第1の工程と、
前記シート部材の外縁から離間した領域において、前記管体の全長以上の長さを有し、所定の距離だけ離間して並んだ、前記シート部材の両面を貫通する2本の第1の切り込みを設けて、2本の前記第1の切り込みの間の切込間領域を形成し、
2本の前記第1の切り込みの対向する一方の端部から、それぞれ離間する方向に延びて前記シート部材の外縁まで達する、前記シート部材の両面を貫通する第2の切り込みを設けて、前記第1の切り込み及び前記第2の切り込みで分離され、前記切込間領域で繋がった2つの端部領域を形成し、
2つの前記端部領域のうちの少なくとも一方の領域に所定の間隔をあけて2つの貫通穴を開ける第2の工程と、
針金状の治具を1つの前記端部領域に設けられた前記2つの貫通穴に通すとともに、前記治具を前記管体の中に挿入する第3の工程と、
前記管体及び前記シート部材を前記治具に沿って相対的に動かしながら、前記貫通穴に前記治具が差し込まれた前記端部領域が前記管体の中を通過するようにして、前記切込間領域が前記管体の中に位置する状態を形成する第4の工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明では、固定専用部材を要さず、シンプルな構造で容易にかつ低コストで製造可能な毛髪用止着具、この毛髪用止着具を備えたヘアエクステンション、この毛髪用止着具を備えたかつらベース、毛髪用止着具の装着方法及びこの毛髪用止着具の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】管体を示す斜視図であって、(a)は、一体的に形成された金属管を備えた場合を示し、(b)は、金属製の板状部材を湾曲させて形成された略O形または略C形の断面形状を有する場合を示す。
図2A】本発明の第1の実施形態に係る毛髪用止着具に用いるシート部材を示す斜視図である。
図2B】本発明の第1の実施形態に係る毛髪用止着具を示す斜視図である。
図3A】本発明の第2の実施形態に係る毛髪用止着具に用いるシート部材を示す斜視図である。
図3B】本発明の第2の実施形態に係る毛髪用止着具を示す斜視図である。
図4】2本の第1の切り込みの間の切込間領域、第1の切り込み及び第2の切り込みで互いに分離され、切込間領域で繋がった2つの端部領域を示すシート部材の平面図である。
図5図3Bの断面E-Eを示す断面図である。
図6】管体が平坦部を有し、更に両面テープが貼り付けられた本発明の第3の実施形態に係る毛髪用止着具を示す斜視図である。
図7図6の断面F-Fを示す断面図である。本発明の第3の実施形態に係る毛髪用止着具を示す断面図である。
図8】本発明に係る毛髪用止着具の製造方法の一例を模式的に示す図である。
図9】本発明に係る毛髪用止着具の自毛への装着方法の一例を模式的に示す図である。
図10】実施例に用いたシート部材の寸法、第1の切り込みの間の距離A、第1の切り込みの長さB、2つの貫通穴のシート部材の外縁からの距離C、Dを示すシート部材の平面図である。
図11】実施例に用いた管体の潰す前及び潰した後の外径、内径を示す毛髪用止着具の側面図である。
図12】実施例に用いた管体の長さを示す毛髪用止着具の平面図である。
図13】実施例1における試作したサンプルの試験の様子を示す写真である。
図14】実施例1の試験結果を示す表である。
図15】実施例2における試作したサンプルの試験の様子を示す写真である。
図16】実施例2の試験結果を示す表である。
図17】実施例3で用いた第2の切り込みの延存方向が異なる3つのサンプルを模式的に示すシート部材の平面図である。
図18】実施例3における試作したサンプルの試験の様子を示す写真である。
図19】実施例3の試験結果を示す表である。
図20】管体からなる本発明の第4の実施形態に係る毛髪用止着具の概要を示す模式図である。
図21】管体からなる本発明の第4の実施形態に係る毛髪用止着具を用いて装身具を被装着者の自毛に固定する方法を示す図(写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための実施形態を説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、特定的な記載がない限り、本発明を以下のものに限定しない。
各図面中、同一の機能を有する部材には、同一符号を付している場合がある。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態や実施例に分けて示す場合があるが、異なる実施形態や実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせは可能である。後述の実施形態や実施例では、前述と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態や実施例ごとには逐次言及しないものとする。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張して示している場合もある。
【0014】
(管体)
はじめに、図1を参照しながら、本発明に係る毛髪用止着具で用いる管体の一例の説明を行う。図1は、管体を示す斜視図であって、(a)は、一体的に形成された金属管を備えた場合を示し、(b)は、金属製の板状部材を湾曲させて形成された略O形または略C形の断面形状を有する場合を示す。
図1の(a)に示す管体10は、一体的に形成された金属管12と、金属管12の内面に設けられた滑り止め層14を有する。
【0015】
一体的に形成された金属管12としては、アルミニウム製のチューブ、銅製のチューブ、銅ニッケル合金製のチューブ等を所定の長さにカットして用いることができる。装着時に露見するのを防ぐため、金属管12の外面を茶色や灰色等の目立たない色に着色するとともに、反射防止材を施すことが好ましい。
ただし、管体10の材質として金属に限られるものではなく、圧潰可能なものであれば、樹脂をはじめとするその他の任意の材料を採用することができる。管体10の肉厚として0.2~0.3mm程度を例示することができ、管体10の内径DPとして2~5mm程度を例示することができ、管体10の全長LPとして2~5mm程度を例示することができる。図面では、円形の断面を有する場合を示すが、楕円形、角が丸まった多角形等の断面を有する場合もあり得る。
【0016】
管体10の内面に設けられた滑り止め層14として、金属管12の内面にPVC(ポリ塩化ビニル)チューブを装着することが考えられる。金属管12の内径と同じまたはやや大きめの外径を有するPVCチューブを、金属管12とほぼ同じ長さにカットして、金属管12の内面に装着することができる。チューブ材を用いることにより、容易に管体10の内面に滑り止め層14を設けることができる。基本的に、金属管12とPVCチューブ(滑り止め層)14の間の摩擦力で固定可能であるが、金属管12とPVCチューブ(滑り止め層)14の間に接着剤を用いることもできる。
【0017】
後述するように、管体10の中に自毛を挿入した状態で管体10を潰して固定するとき、管体10の内面に滑り止め層14を有する場合には、確実に管体10を自毛に固定することができる。特に、管体10が金属管から形成され、滑り止め層14が金属管12の内面に装着されたPVCチューブから形成されている場合には、管体10の製造が容易であるとともに、弾性を有するPVCチューブによって強い滑り止め効果を得ることができる。 特に、粘着剤を使用しないで滑り止め層14を形成できるので、自毛との固着や粘着剤除去時に自毛脱毛の懸念が解消される。
ただし、滑り止め層14としてPVC(ポリ塩化ビニル)を用いる場合に限られず、ウレタン、ゴム、エラストマ、その他の弾性を有する樹脂材料等を用いることもできる。また、金属管12の内面に滑り止め材料からなるチューブを挿入する場合だけでなく、コーティング等により、金属管12の内面に滑り止め層14を設けることもできる。
【0018】
図1の(b)に示す管体10は、金属製の板状部材を湾曲させて形成された金属管12を有する。つまり、金属管12は、略O形または略C形の断面形状を有している。ここでいう略O形または略C形は、板状部材の端部と端部が接した場合も含まれるし、板状部材の端部と端部が少し離間した状態の場合も含まれる。金属製の板状部材として、例えば、アルミニウム板や銅板を用いることができる。このような金属製の板状部材にPVC(ポリ塩化ビニル)シートを貼り合わせて湾曲させることにより、内面に滑り止め層14を備えた略O形または略C形の断面形状を有する管体10を形成することができる。また金属製の板状部材を湾曲させて金属管12を形成し、この金属管12の内面にPVC(ポリ塩化ビニル)チューブを装着することもできる。
【0019】
(第1の実施形態に係る毛髪用止着具)
次に、図2A図2B及び図5を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る毛髪用止着具の説明を行う。図2Aは、本発明の第1の実施形態に係る毛髪用止着具に用いるシート部材を示す斜視図である。図2Bは、本発明の第1の実施形態に係る毛髪用止着具を示す斜視図である。図5は、図2Bの断面E-Eを示す断面図である。
【0020】
シート部材20は、ウレタンをはじめとする任意の弾性を有する樹脂シートを採用することができる。シート部材20の厚みとして0.2~1mmを例示することができ、シート部材20の平面形状を矩形とした場合、1辺5~20mmを例示することができる。シート部材20の平面形状を円形とした場合、直径5~20mmを例示することができる。シート部材20の大きさは、容易に保持できる観点と、装着時に露見しにくくする観点から最適な大きさを定めるのが好ましい。
【0021】
図2Aに示すように、シート部材20の外縁20a~20dから離間した領域に、2本の第1の切り込み22A、22Bが形成されている。第1の切り込み22A、22Bは、シート部材20の一方の面から他方の面まで貫通するように形成されている。第1の切り込み22A、22Bの長さBは、管体10の全長LP以上となっている。つまり、B>=LPとなっている。なお、長さBについては、追って更に詳細に説明する。
第1の切り込み22A、22Bは、距離Aだけ互いに離間して並んで形成されている。この距離Aについては、追って詳細に説明する。第1の切り込み22A、22Bは、略平行に配置されているのが好ましいが、若干斜めに配置されている場合もあり得る。これにより、シート部材20は、2本の第1の切り込み22A、22Bの間に切込間領域Q1を有する。
【0022】
例えば、金属製の板状部材にPVC(ポリ塩化ビニル)シートを貼り合わせたものを第1の切り込み22Aに通し、板状部材をU字形に湾曲させて、再び第1の切り込み22Bを通して、略O形または略C形に湾曲させることにより、内面に滑り止め層14を有する管体10を形成することができる。
これにより、図2B図5に示すように、外面10a、内面10b及び両端面10cで囲まれた管体10の外殻部が2本の第1の切り込み22A、22Bに挿通され、シート部材20の2本の第1の切り込み22A、22Bの間の切込間領域Q1が管体10の中に位置する状態が形成される。この場合、2本の第1の切り込み22A、22Bの外側を囲むシート部材20により、管体10の位置が拘束される。
【0023】
以上のように、管体10が板状部材を湾曲させて形成された略O形または略C形の断面形状を有する場合には、シート部材20に2本の第1の切り込み22A、22Bだけが設けられている場合であっても、確実にシート部材20の2本の第1の切り込み22A、22Bの間の切込間領域Q1が管体10の中に位置する状態を形成できる。
【0024】
(第2の実施形態に係る毛髪用止着具)
次に、図3A図3B図4及び図5を参照しながら、本発明の第2の実施形態に係る毛髪用止着具の説明を行う。図3Aは、本発明の第2の実施形態に係る毛髪用止着具に用いるシート部材を示す斜視図である。図3Bは、本発明の第2の実施形態に係る毛髪用止着具を示す斜視図である。図4は、2本の第1の切り込みの間の切込間領域、第1の切り込み及び第2の切り込みで互いに分離され、切込間領域で繋がった2つの端部領域を示すシート部材の平面図である。図5は、図3Bの断面E-Eを示す断面図である。
【0025】
本実施形態に係るシート部材20も、上記の実施形態と同様に、シート部材20の外縁20a~20dから離間した領域に、管体10の全長LP以上の長さを有し、所定の距離だけ離間して並んだ2本の第1の切り込み22A、22Bが形成されている。これにより、シート部材20は、2本の第1の切り込み22A、22Bの間に切込間領域Q1を有する。
本実施形態では、更に、第1の切り込み22Aの一方の端部Sからシート部材20の外縁20aまで、第2の切り込み24Aが形成されている。同様に、第1の切り込み22Bの端部Sと対向する一方の端部S’からシート部材20の外縁20cまで、第2の切り込み24Bが形成されている。2本の第2の切り込み24A、24Bは、それぞれ離間する方向に延びている。第2の切り込み24A、24Bも、シート部材20の一方の面から他方の面まで貫通するように形成されている。
【0026】
これにより、図4に示すように、シート部材20には、第1の切り込み22A、22B及び第2の切り込み24A、24Bで互いに分離され、切込間領域Q1で繋がった2つの端部領域Q2、Q3が形成されている。図4では、切込間領域Q1が複数の点で示され、端部領域Q2が無地で示され、端部領域Q3が斜線で示されている。別の表現をすれば、第1の切り込み22A及び第2の切り込み24A、並びに第1の切り込み22B及び第2の切り込み24Bは、”Lの字形”または”くの字形”に繋がった切り込みと言うこともできる。
【0027】
2つの端部領域Q2、Q3のうち、1つの端部領域(例えば、Q2)が管体10の中を通過することにより、外面10a、内面10b及び両端面10cで囲まれた管体10の外殻部が第1の切り込み22A、22Bに挿通され、切込間領域Q1が管体10の中に位置する状態となる。このとき、端部領域Q2の一部である第1の切り込み22A、第2の切り込み24A及びシート部材20の外縁20a、20bで囲まれた領域X、及び第1の切り込み22B、第2の切り込み24B及びシート部材20の外縁20b、20cで囲まれた領域Y(図4で一点鎖線で囲まれた領域)が、スムーズに管体10の中を通過できる様にすることが重要である。
なお、本実施形態でも、切込間領域Q1を囲むシート部材20により、管体10の位置が拘束される。本実施形態では、図1の(a)に示すような一体的に形成された金属管を有する管体10を用いることもできるし、(b)に示すような略O形または略C形の断面形状を有する管体10を用いることもできる。
【0028】
上記の第1、第2の実施形態に係る毛髪用止着具2では、第1の切り込み22A、22B及び第2の切り込み24A、24Bにより、容易に管体10をシート部材20に取り付けることができる。また、管体10が所定の大きさのシート部材20に取り付けられているので、人の指で容易に保持することができる。このシート部材20を用いて、ヘアエクステンションやかつらベースに縫着したり、接着、貼着したりすることにより、毛髪用止着具2を備えたヘアエクステンションやかつらベースを容易に実現できる。後述するように、毛髪用止着具2を備えたヘアエクステンションやかつらベースを被装着者の頭に配置した後、被装着者の自毛を管体10内に挿入して、管体10を潰すことにより、ヘアエクステンションやかつらベースを被装着者の頭に固定することができる。
【0029】
(第3の実施形態に係る毛髪用止着具)
次に、図6及び図7を参照しながら、本発明の第3の実施形態に係る毛髪用止着具の説明を行う。図6は、管体が平坦部を有し、更に両面テープが貼り付けられた本発明の第3の実施形態に係る毛髪用止着具を示す斜視図である。図7は、図6の断面F-Fを示す断面図である。
【0030】
本実施形態では、管体10がシート部材20に沿うように配置された平坦部16を有する。管体10を塑性変形させることにより、略平面形状を有する平坦部16を形成することができる。そして、シート部材20の平坦部16が配置された側の面20Aに、平坦部16を覆うように両面テープ30の一方の粘着面が貼り付けられている。
両面テープ30は、本体部32と、本体部32の一方の面に設けられた一方の粘着層34A及び、本体部32の他方の面に設けられた他方の粘着層34Bと、粘着層34A、34Bを覆うカバーシート36で構成される。図7では、一方の粘着層34Aを覆うカバーシート36が取り外されて、一方の粘着層34Aの粘着面が、シート部材20の平坦部16側の面20A及び平坦部16の面に接触した状態を示す。
【0031】
本実施形態に係る毛髪用止着具2でも、2本の第1の切り込み22A、22Bの外側を囲むシート部材20により、管体10の位置が拘束されているが、これに加えて両面テープ30の粘着層34Aにより、確実にシート部材20に対する管体10の位置を固定することができる。
本実施形態に係る毛髪用止着具2において、他方の粘着層34Bを覆うカバーシート36を取り外して、他方の粘着層34Bの粘着面により、毛髪用止着具2を容易に確実にヘアエクステンションやかつらベースに取り付けることができる。
【0032】
以上のように、管体10がシート部材20に沿うように配置された平坦部16を有し、シート部材20の平坦部16が配置された側の面20Aに、平坦部16も覆うように両面テープ30の一方の粘着面が貼り付けられている場合には、この両面テープ30を用いて、毛髪用止着具2を容易にヘアエクステンションやかつらベースのような装身具に取り付けることができる。
【0033】
(毛髪用止着具の製造方法)
次に、図8を参照しながら、本発明に係る毛髪用止着具の製造方法の説明を行う。図8は、本発明に係る毛髪用止着具の製造方法の一例を模式的に示す図である。
(1) 第1の工程
まず、圧潰可能な管体10と、弾性を有するシート部材20とを準備する。
(2)第2の工程
次に、図8の(a)に示すように、シート部材20の外縁20a~20dから離間した領域において、管体10の全長以上の長さを有し、所定の距離だけ離間して並んだ、シート部材20の両面を貫通する2本の第1の切り込み22A、22Bを設けて、2本の第1の切り込み22A、22Bの間の切込間領域Q1を形成し、
2本の第1の切り込み22A,22Bの対向する一方の端部S,S’から、それぞれ離間する方向に延びてシート部材20の外縁20a、20cまで達する、シート部材20の両面を貫通する第2の切り込み24A、24Bを設けて、第1の切り込み22A、22B及び第2の切り込み24A、24Bで分離され、切込間領域Q1で繋がった2つの端部領域Q2、Q3を形成し、
2つの端部領域Q2、Q2のうちの少なくとも一方の領域Q2に所定の間隔をあけて2つの貫通穴26を開ける(図8では、Q2に開けた場合を示す)。
なお、第1の切り込み22A、22B、第2の切り込み24A、24B、及び2つの貫通穴26は、任意の順番で形成することができる。
【0034】
(3)第3の工程
次に、図8の(b)に示すように、針金状の治具Tを2つの貫通穴26に通すとともに、治具Tを管体10の中に通す。
(4)第4の工程
そして、管体またはシート部材20を治具Tに沿って相対的に動かしながら、貫通穴26に治具Tが差し込まれた端部領域Q2が管体10の中を通過するようにして、シート部材20の2本の第1の切り込み22A、22Bの間の切込間領域Q1が管体10の中に位置する状態を形成する。
例えば、治具Tの折り返し部で管体10の位置を保持した状態で、シート部材20を治具Tに沿って押し込んで、端部領域Q2が管体10の中を通過するようにすることができる。また、逆に、治具Tの折り返し部でシート部材20の位置を固定して、管体10を治具Tに沿って動かして、端部領域Q2が管体10の中を通過するようにすることもできる。
【0035】
このとき、端部領域Q2の一部である第1の切り込み22A、第2の切り込み24A及びシート部材20の外縁20a、20bで囲まれた領域X、及び第1の切り込み22B、第2の切り込み24B及びシート部材20の外縁20b、20cで囲まれた領域Y(図4の一点鎖線で囲まれた領域参照)が、スムーズに管体10の中を通過できるようにすることが重要である。そのため、後述するように、治具Tが挿入される2つの貫通穴26は、領域X及び領域Yの略中央の領域に設けることが重要である。
【0036】
(5)次に、管体10の一部にシート部材20に沿った平坦部16を設ける。ただし、予めシート部材20平坦部16が設けられた管体10を用いることもできる。
(6)第5の工程
そして、シート部材20の平坦部16が配置された側の面20Aに、平坦部16も覆うように両面テープ30の一方の粘着面を貼り付ける。
これにより、図6図7に示すような、第3の実施形態に係る毛髪用止着具を製造できる。これにより、従来に比べ、より容易にかつ低コストで毛髪用止着具2を製造することができる。
【0037】
(毛髪用止着具の自毛への装着方法)
次に、図9を参照しながら、本発明に係る毛髪用止着具の自毛への装着方法の説明を行う。図9は、本発明に係る毛髪用止着具の自毛への装着方法の一例を模式的に示す図である。
ここでは、シート部材20に取り付けられた両面テープ30により、毛髪用止着具2がかつらベースに取り付けらており、このかつらベースを被装着者の頭部に載置し、被装着者の自毛に固定する場合を示す。
はじめに、図9の(a)に示すように、毛髪用止着具2の管体10の中に、被装着者の自毛を挿入する。次に、図9の(b)に示すように、自毛が挿入された状態で、プライヤー等を用いて、管体10を潰して塑性変形させる。これにより、管体10の内面に設けられた滑り止め層14の効果もあり、確実に毛髪用止着具2を自毛に固定することができる。これにより、かつらベースを確実に被装着者の頭部に固定できる。
【0038】
(実施例)
次に、毛髪用止着具2を実際に試作して試験を行った実施例について説明する。
(実施例1)
はじめに、図10から図14を参照しながら、複数の毛髪用止着具2を試作して試験を行った実施例1の説明を行う。実施例1では、2本の第1の切り込み22A、22Bの間の最適な距離A、及び2本の第1の切り込み22A、22Bの最適な長さBを試験に基づき検討を行った。
図10は、実施例に用いたシート部材の寸法、第1の切り込みの間の距離A、及び第1の切り込みの長さを示すシート部材の平面図である。図11は、実施例に用いた管体の潰す前及び潰した後の外径、内径を示す毛髪用止着具の側面図である。図12は、実施例に用いた管体の長さを示す毛髪用止着具の平面図である。図13は、実施例1における試作したサンプルの試験の様子を示す写真である。図14は、実施例1の試験結果を示す表である。
【0039】
シート部材20として、図10に示すように、一辺16mmの正方形の平面形状を有する厚み0.2mmのウレタンシートを用いた。角部には、R2(半径2mm)の面取りが施されている、管体10をとして、図11の(a)に示すように、アルミニウム製の金属管12の内面にPVCチューブからなる滑り止め層14が設けられたものを用いた。平坦部を有する状態における管体10の外径が4.0mmであり、内径(具体的には滑り止め層14の内径)が2.9mmである。管体10の長さは、図12に示すように、2.5mmである。また、管体10を潰したときには、図11の(b)に示すように、4.0mmであった管体10の外径が4.9mmまで拡がり、2.9mmであった管体10の内径が3.8mmまで拡がる。
【0040】
このようなシート部材20に、距離Aだけ離間した長さBの2本の第1の切込み22A、2Bを形成し、更に、2本の第1の切り込み22A、22Bの対向する一方の端部S、S’から、それぞれ離間する方向に延びてシート部材20の外縁20a、20cまで達する第2の切り込み24A、24Bを形成した。このとき、第2の切込み24A、24Bは、第1の切り込み22A、22Bと略直交する方向に延びている。そして、2つの貫通穴26を設けた。その後、図8の(b)に示す場合と同様に、治具Tを用いて、端部領域Q2が管体10の中を通るようにして、切込間領域Q1が管体10の中に位置する状態を形成した。そして、管体10に、シート部材20に沿うように平坦部を形成し、平坦部も覆うように両面テープ30を貼り付けて毛髪用止着具2を製造した。
【0041】
2本の第1の切込み22A、22Bの間の距離Aは、管体10の潰す前の内径(2.9mm)及び潰した後の内径(3.8mm)に関連するため、0.5mm刻みで、A=2.5mm、3mm、3.5mm、4mmの4つの距離を設定した。2本の第1の切込み22A、2Bの長さBは、管体10の全長より長くする必要があるが、シート部材20の強度の観点からは短い方が有利である。これに基づき、長さBとして、0.5mm刻みで、3mm、3.5mm、4mmを設定した。以上のような寸法A及び寸法Bの組み合わせで、計12個(=4×3)のサンプルを試作した。
【0042】
これらのサンプルについて製作における「作業性」、「シート部材20のそり」、「破壊試験による破損個所」及び「引張強度」の4項目を確認した。図13の(a)は、試作された毛髪用止着具2のシート部材20に生じたそりの状態を示す。図13の(b)は、破壊試験による破損個所を示す。図13の(c)は、引張試験を行っている様子を示す。
【0043】
<試験結果>
以上のようにして行った実施例1の試験結果を、図14に示す。各サンプルを、第1の切込み22A、2Bの間の距離Aの順に横に並べ、第1の切込み22A、2Bの長さBの順に縦に並べて、各サンプルの試験結果をマトリックス状に示してある。判定として、「大変良い」、「良い」、「普通」、「悪い」の4つに区分けして判定した。
【0044】
「作業性」については、「悪い」の評価はなかった。
「シート部材20のそり」については、第1の切込み22A、22Bの間の距離Aが大きくなるとそりが生じやすい傾向が示された。また、シート部材20の長さBが長くなると、若干そりが生じやすい傾向も示された。
「破壊試験による破損個所」について、切込みの上部に生じるか、切込みの下部に生じるかについて、顕著な傾向は示されなかった。
「引張強度」については、第1の切込み22A、22Bの間の距離Aが短いと、引張強度に問題が生じることが判明した。また、シート部材20の長さBが長くなると、引張強度がやや低下する傾向が示された。
【0045】
以上のように、「作業性」、「シート部材20のそり」、「破壊試験による破損個所」、及び「引張強度」の4項目を考慮すると、第1の切込み22A、22Bの間の距離Aが3.5mmであり、第1の切込み22A、22Bの長さBが3.5mmであるサンプルが最も良い試験結果を示した。
なお、「シート部材20のそり」を考慮すると、第1の切込み22A、22Bの間の距離Aは、3.5mmより小さく、3mmより大きい値、例えば、中間の3.25mm程度が最も好ましい値と考えられる。
第1の切込み22A、22Bの長さBも、下限値で3.5mmと3mmの中間の3.25mm、上限値で3.5mmと4mmの中間の3.75mmぐらいまで好ましい範囲と考えられる。
【0046】
この結果を管体10の寸法と比較して検討する。管体10を潰した後、潰す前に比べて、管体10の内径が0.9mm(=3.8-2.9)増加している。一方、第1の切込み22A、22Bの間の距離Aを3.5mmとすると、潰す前の管体10の内径より0.6mm(=3.5-2.9)大きくなっており、距離Aを3.25mmとすると、潰す前の管体10の内径より0.35mm(=3.25-2.9)大きくなっている。つまり、距離Aは、管体10を潰した後の潰す前に対する内径の増大量の39%(0.35/0.9)から67%(0.6/0.9)程度大きい場合が好ましい。数値を丸めれば、距離Aは、管体10の潰す前の内径に対して、管体10を潰した後の潰す前に対する内径の増大量の40~70%程度大きい値が好ましいと言える。
これを数式で表せば、潰す前の管体10の内径をDP1とし、潰した後の内径をDP2とすると、距離Aは、
A=DP1+K*(DP2-DP1):K=40~70%
とするのが好ましいことが判明した。
【0047】
また、シート部材20の長さBを3.25mmとすると、管体10の全長に対して30%(=3.25/2.5-1)長く、長さBを3.5mmとすると、管体10の全長に対して40%(=3.5/2.5-1)長く、長さBを3.75mmとすると、管体10の全長に対して50%(=3.75/2.5-1)長いことになる。
よって、第1の切込み22A、22Bの長さBは、管体10の全長より30~50%程度長い値とするのが好ましいことが判明した。
【0048】
(実施例2)
次に、図10図15及び図16を参照しながら、複数の毛髪用止着具2を試作して試験を行った実施例2の説明を行う。実施例2では、シート部材20に設けた2つの貫通穴26のシート部材20の外縁20a~cからの最適な距離について検討を行った。
図10は、試作したシート部材の寸法及び2つの貫通穴のシート部材の外縁からの距離C、Dを示すシート部材の平面図である。図15は、実施例2における試作したサンプルの試験の様子を示す写真である。図16は、実施例2の試験結果を示す表である。
【0049】
実施例2では、上記の実施例1で最も良い試験結果が得られたサンプルである「第1の切込み22A、22Bの間の距離Aが3.5mmであり、第1の切込み22A、22Bの長さBが3.5mmであるサンプル」を用いた。第2の切込み24A、24Bは、第1の切込み22A、22Bに対して略垂直に延びている。このようなサンプルにおいて、貫通穴26の中心位置のシート部材20の外縁20bからの距離C、シート部材20の外縁20aからの距離Dを様々な値に設定して、複数のサンプルを試作した。
【0050】
具体的には、距離Cとして2mm及び5mmを設定し、それぞれの値について、距離Dとして2mm及び5mmを設定して、計4個のサンプルを試作した。更に、C及びDの値がともに3.5mmとなるサンプルを試作した。もう一方の貫通穴26の中心位置のシート部材20の外縁20b、20cからの距離についても同様である。つまり、貫通穴26は、図10において左右対称に配置されている。
これらの5つのサンプルについて、制作時の「作業性」及び「強度」について試験を行った。図15の(a)では強度試験前の状態を示し、図15の(b)では、管体10を引っ張った強度試験の後の状態を示す。
【0051】
<試験結果>
以上のように行った実施例2の試験結果を図16に示す。各サンプルを外縁20bからの距離Cの順に横に並べ、外縁20aからの距離Dの順に列に並べて、各サンプルの試験結果をマトリックス状に示してある。
第1の切り込み22A、第2の切り込み24A及びシート部材20の外縁20a、20bで囲まれた図10の領域X、及び第1の切り込み22B、第2の切り込み24B及びシート部材20の外縁20b、20cで囲まれた図10の領域Y(図4の一点鎖線で囲まれた領域参照)が管体10の中を通過するようにする「作業性」について、全体的に入れ易いと判定されたのは、距離C=5mm、D=2mmのサンプル、及び距離C、Dともに3.5mmのサンプルであった。また、引張試験後の「強度」について、変形が実用上許容されるのは、距離C、Dともに3.5mmのサンプルだけであった。
【0052】
第1の切込み22A及び第2の切込み24Aで分離された図10のXで示される領域は、縦寸法が6.5mmで横寸法が6.25mm(=(16-3.5)/2)の正方形に近い形状を有する。同様に、第1の切込み22B及び第2の切込み24Bで分離された図10のYで示される領域は、縦寸法が6.5mmで横寸法が6.25mm(=(16-3.5)/2)の正方形に近い形状を有する。距離C、Dともに3.5mmの貫通穴26は、これらの領域X、Yの略中央に設けられている。以上のような試験により、貫通穴26を領域X、Yの略中央に設けることにより、「作業性」及び「強度」において優れていることが判明した。
【0053】
(実施例3)
次に、図17から図19を参照しながら、複数の毛髪用止着具2を試作して試験を行った実施例3の説明を行う。実施例3では、第1の切り込み22A、22Bの一方の端部S、S’からシート部材20の外縁20a、20cまで延びた第2の切り込み24A、24Bの最適な延存方向について検討を行った。
図17は、実施例3で用いた第2の切り込みの延存方向が異なる3つのサンプルを模式的に示すシート部材の平面図である。図18は、実施例3における試作したサンプルの試験の様子を示す写真である。図19は、実施例3の試験結果を示す表である。
【0054】
実施例3でも、上記の実施例1で最も良い試験結果が得られたサンプルである「第1の切込み22A、22Bの間の距離Aが3.5mmであり、第1の切込み22A、22Bの長さBが3.5mmであるサンプル」を用いた。第2の切込み24A、24Bについては、図17の(a)に示すような第1の切込み22A、22Bに対して鋭角をなすように延びた場合、図17の(b)に示すような第1の切込み22A、22Bに対して略垂直に延びた場合(実施例1、2と同様の場合)、図17の(c)に示すような第1の切込み22A、22Bに対して鈍角をなすように延びた場合のサンプルを試作して、試験を行った。第1の切込み22A、22Bの一方の端部S、S’が、シート部材20の外縁20bから6.5mm離れた位置にあるのに対して、第2の切込み24A、24Bがシート部材20の外縁20a、20cに達した点の外縁20bからの距離は、図17の(a)から(c)において、それぞれ4.5mm、6.5mm、8.5mmとなっている。
これらの3つのサンプルについて、「作業性」、「破壊試験による破損個所」及び「引張強度」の3項目の試験を行った。
【0055】
<試験結果>
試験の結果、第2の切込み24A、24Bが、第1の切込み22A、22Bに対して鋭角をなす場合には、「作業性」は良好であるが、「引張強度」に問題が生じた。第1の切込み22A、22Bに対して鈍角をなす場合には、「引張強度」に関しては良好な結果が得られたが、「作業性」に問題が生じた。「作業性」及び「引張強度」ともに良好な結果が得られたのでは、第2の切込み24A、24Bが、第1の切込み22A、22Bに対して略垂直に延びた場合だけであった。
以上のように、良好な作業性及び十分な引張強度を得るには、第2の切込み24A、24Bが第1の切込み22A、22Bに対して略垂直に延びるのが好ましいことが判明した。
【0056】
以上のように、本発明の実施形態に係る毛髪用止着具2では、
弾性を有するシート部材20と、
シート部材20に取り付けられた圧潰可能な管体10と、
を備え、
シート部材20の外縁20a~20dから離間した領域に、管体10の全長以上の長さを有し、所定の距離だけ離間して並んだ、シート部材20の両面を貫通した2本の第1の切り込み22A、22Bが形成されており、
外面10a、内面10b及び両端面10cで囲まれた管体10の外殻部が2本の第1の切り込み22A、22Bに挿通され、シート部材20の2本の第1の切り込み22A、22Bの間の切込間領域Q1が管体10の中に位置している。
【0057】
これにより、固定専用部材を要さず、シンプルな構造で容易にかつ低コストで製造可能な毛髪用止着具を提供できる。
【0058】
更に、本発明の実施形態に係る毛髪用止着具2では、
2本の第1の切り込み22A、22Bの対向する一方の端部S、S’から、それぞれ離間する方向に延びてシート部材20の外縁20a、20cまで達する、シート部材20の両面を貫通した第2の切り込み24A、24Bが形成されており、
第1の切り込み22A、22B及び第2の切り込み24A、24Bにより分離され、切込間領域Q1で繋がった2つの領域であって、一方が管体10の中を通過することにより、切込間領域Q1が管体10の中に位置する状態が形成される2つの端部領域Q2、Q3を有するようになっている。
【0059】
一方の端部領域Q2(Q3)が管体10の中を通過するようにすることにより、切込間領域Q1が管体10の中に位置する状態を容易に形成することができる。よって、容易かつ効率的に毛髪用止着具を製造することができる。
【0060】
上記において、第1の切り込み22A、22Bは、管体10の全長以上の長さを有するが、特に、「製造における作業性」、「シート部材20のそり」、「引張強度」等を考慮すると、第1の切込み22A、22Bの間の距離Aは、下式で示されるような値となるのが好ましい。
潰す前の管体10の内径をDP1とし、潰した後の内径をDP2とすると、距離Aは、
A=DP1+ K*(DP2-DP1):K=50~70%
とするのが好ましい。
【0061】
第1の切込み22A、22Bの長さBについては、管体10の全長より30~50%程度長くするのが好ましい。同様に、「製造における作業性」、「引張強度」等を考慮すると、第2の切込み24A、24Bは、第1の切込み22A、22Bに対して略垂直に延びるように形成するのが好ましい。
【0062】
上記の製造方法に示すように、治具Tをシート部材20の貫通穴26及び管体10に通して、管体10及びシート部材20を治具Tに沿って相対的に動かしながら、貫通穴26に治具Tが差し込まれた端部領域Q2(Q3)が管体の中を通過するようにさせて、切込間領域Q1が管体10の中に位置する状態を形成する場合、貫通穴26は、第1の切込み22A、第2の切込み24A及びシート部材20の外縁20a、20bで囲まれた領域X、並びに第1の切込み22B、第2の切込み24B及びシート部材20の外縁20b、20cで囲まれた領域Yの略中央の領域に設けることが、「製造における作業性」及び「強度」において優れていると考えられる。
【0063】
管体10が平坦部16を有し、平坦部16も覆うように両面テープ30貼り付けられた毛髪用止着具2において、両面テープ30の他方の粘着面により、毛髪用止着具2をヘアエクステンションに取り付けた場合には、容易にかつ確実にヘアエクステンションを被装着者の自毛に固定することができる。(CL7)同様に、両面テープ30の他方の粘着面により、毛髪用止着具2をかつらベースに取り付けた場合には、容易にかつ確実にかつらベースを被装着者の自毛に固定することができる。
【0064】
(第4の実施形態に係る毛髪用止着具)
次に、図20及び図21を参照しながら、毛髪用止着具のバリエーションとして、シート部材を用いず、管体からなる本発明の第4の実施形態に係る毛髪用止着具50の説明を行う。
図20は、管体からなる本発明の第4の実施形態に係る毛髪用止着具の概要を示す模式図である。図21は、管体からなる本発明の第4の実施形態に係る毛髪用止着具を用いて装身具を被装着者の自毛に固定する方法を示す図(写真)である。
【0065】
本実施形態係る毛髪用止着具50は、アルミニウム材からなる金属管の内面にPVCチューブからなる滑り止め層が設けられている。この毛髪用止着具50を用いて、ヘアエクステンション(例えば、Uワイヤ)60を被装着者の自毛に固定する場合を説明する。具体的には、毛髪用止着具50をヘアエクステンション(Uワイヤ)60の先端部の擬毛Gに結着し、この擬毛Gを被装着者の自毛Jとともに束ねて筒状の毛髪用止着具50から引き出した後、毛髪用止着具50を潰して固定する。
【0066】
図21の(a)に示すように、まず、毛髪用止着具50をヘアエクステンション(Uワイヤ)60の先端部の擬毛Gに結着する。次に、図21の(b)に示すように、筒状の毛髪用止着具50を”かぎばり”に通す。そして、図21の(c)に示すように、ヘアエクステンション(Uワイヤ)60の先端部の直下の自毛Jをすくい取って、結着した擬毛Gと自毛Jとを束ねて、毛髪用止着具50から引き出す。次に、図21の(d)に示すように、毛髪用止着具50が浮かないよう、被装着者の頭皮側に毛髪用止着具50を密着させて、プライヤー等で毛髪用止着具50を潰す。これにより、図21の(e)に示すように、毛髪用止着具50が目立つことなく、ヘアエクステンション(Uワイヤ)60を被装着者の自毛に固定することができる。このとき、毛髪用止着具50にはPVCチューブからなる滑り止め層が設けられているので、確実に、ヘアエクステンション(Uワイヤ)60を被装着者の自毛に固定することができる。
【0067】
本発明の実施の形態、実施の態様を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施の形態、実施の態様における要素の組合せや順序の変化等は請求された本発明の範囲および思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【符号の説明】
【0068】
2 毛髪用止着具
10 管体
10a 外面
10b 内面
10c 端面
12 金属管
14 滑り止め層
16 平坦部
20 シート部材
20A 面
20a~d 外縁
22A、22B 第1の切り込み
24A、24B 第2の切り込み
26 貫通穴
30 両面テープ
32 本体部
34A、34B 粘着層
36 カバーシート
50 毛髪用止着具
60 ヘアエクステンション(Uワイヤ)
Q1 切込間領域
Q2、Q3 端部領域
S、S’ 端部
X、Y 領域
G 擬毛
J 自毛
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21