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特許7431148ポンプの運転制御方法、吐出流量導出方法及び吐出流量制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】ポンプの運転制御方法、吐出流量導出方法及び吐出流量制御方法
(51)【国際特許分類】
   F04D 13/00 20060101AFI20240206BHJP
   F04D 11/00 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
F04D13/00 D
F04D11/00 101
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020201967
(22)【出願日】2020-12-04
(65)【公開番号】P2022089522
(43)【公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】橋本 靖志
(72)【発明者】
【氏名】辛 ▲キン▼
(72)【発明者】
【氏名】作田 実
(72)【発明者】
【氏名】井上 雅史
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-193934(JP,A)
【文献】実開平01-130094(JP,U)
【文献】特開2003-315146(JP,A)
【文献】特開昭60-252191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 13/00
F04D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、前記回転軸の接続された羽根車と、当該回転軸及び当該羽根車を内部に収容するポンプケーシングと、当該ポンプケーシングに対して固定され前記回転軸を軸支する軸受装置と、前記ポンプケーシングの下流側に接続される吐出管と、当該吐出管に設けられる吐出弁と、を備えるポンプの運転制御方法であって、
前記回転軸から前記軸受装置にかかる前記回転軸の軸心に直交する方向の荷重を検知する検知工程と、
前記検知工程により検知される荷重が小さくなるように前記吐出弁の開度を調節する開度調節工程と、を有することを特徴とする運転制御方法。
【請求項2】
前記検知工程において、前記回転軸の軸心に直交する二方向の荷重を測定し、
前記開度調節工程において、前記測定された二方向の荷重を直交座標に表したときのリサージュ図形の面積に基づいて前記吐出弁の開度を調節することを特徴とする請求項1に記載の運転制御方法。
【請求項3】
前記開度調節工程においては、少なくとも前記回転軸の軸心に直交する方向又は前記回転軸の軸心に平行な方向の荷重の測定値、荷重係数、荷重方向、前記荷重の周波数分析結果、又は、前記回転軸の軸心に直交する二方向の荷重を測定し、当該測定された二方向の荷重を直交座標に表したときのリサージュ図形の位置の変化のいずれかに基づいて前記吐出弁の開閉の方向が判断されることを特徴とする請求項1又は2に記載の運転制御方法。
【請求項4】
前記ポンプは、吸込水槽に流入する水を前記ポンプケーシングから揚水して前記吐出管を介して下流側に送水する送水ポンプであって、
少なくとも前記吸込水槽に流入する水の水量又は前記吸込水槽の水位を監視する監視工程と、
前記監視工程において監視された少なくとも水量又は水位が所定の閾値を超えたら、前記吐出弁の開度を全開にする弁全開工程と、を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の運転制御方法。
【請求項5】
前記開度調節工程において前記吐出弁の開度が調節されたあとに、
前記検知工程により検知される前記回転軸から前記軸受装置にかかる荷重の経時的な変化に基づいて、前記ポンプの劣化又は異常を診断する診断工程を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の運転制御方法。
【請求項6】
回転軸と、前記回転軸の接続された羽根車と、当該回転軸及び当該羽根車を内部に収容するポンプケーシングと、当該ポンプケーシングに対して固定され前記回転軸を軸支する軸受装置と、前記ポンプケーシングの下流側に接続される吐出管と、当該吐出管に設けられる吐出弁と、を備えるポンプの吐出流量導出方法であって、
前記回転軸から前記軸受装置にかかる前記回転軸の軸心に直交する方向の荷重を検知する検知工程と、
予め取得しておいた前記回転軸から前記軸受装置にかかる荷重と吐出流量との関係に基づいて、前記検知工程により検知される荷重から前記吐出流量を導出する流量導出工程と、を有することを特徴とする吐出流量導出方法。
【請求項7】
回転軸と、前記回転軸の接続された羽根車と、当該回転軸及び当該羽根車を内部に収容するポンプケーシングと、当該ポンプケーシングに対して固定され前記回転軸を軸支する軸受装置と、前記ポンプケーシングの下流側に接続される吐出管と、当該吐出管に設けられる吐出弁と、を備えるポンプの吐出流量制御方法であって、
前記回転軸から前記軸受装置にかかる前記回転軸の軸心に直交する方向の荷重を検知する検知工程と、
予め取得しておいた前記回転軸から前記軸受装置にかかる荷重と吐出流量との関係に基づいて、前記検知工程により検知される荷重が、所望の吐出流量と対応する荷重となるように前記吐出弁の開度を調節する開度調節工程と、を有することを特徴とする吐出流量制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸と、前記回転軸の接続された羽根車と、当該回転軸及び当該羽根車を内部に収容するポンプケーシングと、当該ポンプケーシングに対して固定され前記回転軸を軸支する軸受装置と、前記ポンプケーシングの下流側に接続される吐出管と、当該吐出管に設けられる吐出弁と、を備えるポンプの運転制御方法、吐出流量導出方法及び吐出流量制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、上水道システムにおける送水ポンプ、下水道システムにおける送水ポンプ、排水機場システムにおける送水ポンプ等のポンプを最高効率点において運転させるために、予め工場等における特性試験によって得られる性能曲線と、流量計によって測定された吐出流量とに基づいて吐出弁の開度の調節が行われていた。このような流量計として、電磁式流量計や超音波流量計等が用いられる。なお、このような流量計は一般的に広く用いられているものであるため先行技術文献を挙げない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、電磁式流量計は、電極付着やライニング付着による誤作動の虞があり、吸い込んだスラリによるノイズを検出したようなときには測定される吐出流量の精度が悪くなってしまうという問題があった。さらに、安定的な吐出流量の測定のためには、流量計が設置される吐出管に、ある程度の長さの直管部が必要となるため、当該直管部の設置スペースが必要となり、土木建設コストが嵩んでしまう。
【0004】
超音波流量計は、例えば伝搬時間差方式であれば、吐出管において上流、下流に距離をあけた位置のそれぞれに超音波センサを設置し、上流側から発信した超音波を下流側で受信したときの伝搬時間と、下流側から発信した超音波を上流側で受信したときの伝搬時間を計測し、その時間差から流速を計算し、流量を算出する構成であるため、流量分布の影響を受けやすく、これを回避するためには、吐出管にある程度の長さの直管部や整流器が必要となるため、当該直管部や整流器の設置スペースが必要となり、土木建設コストが嵩んでしまう。
【0005】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、流量計を用いることなく吐出弁の開度を適切に調節することができるポンプの運転制御方法、吐出流量を導出する吐出流量導出方法及び所望の吐出流量を得る吐出流量制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するための本発明に係る運転制御方法の特徴構成は、回転軸と、前記回転軸の接続された羽根車と、当該回転軸及び当該羽根車を内部に収容するポンプケーシングと、当該ポンプケーシングに対して固定され前記回転軸を軸支する軸受装置と、前記ポンプケーシングの下流側に接続される吐出管と、当該吐出管に設けられる吐出弁と、を備えるポンプの運転制御方法であって、前記回転軸から前記軸受装置にかかる前記回転軸の軸心に直交する方向の荷重を検知する検知工程と、前記検知工程により検知される荷重が小さくなるように前記吐出弁の開度を調節する開度調節工程と、を有する点にある。
【0007】
発明者らは、鋭意研究の結果、どのような比速度のポンプであれ、最高効率点における運転時に回転軸から軸受装置にかかる回転軸の軸心に直交する方向の荷重であるラジアル荷重が最も小さくなるという知見を得た。当該知見に基づくと、検知工程において回転軸から軸受装置にかかるラジアル荷重を検知し、開度調節工程において当該ラジアル荷重が小さくなるように吐出弁の開度を調節することにより、ポンプを最高効率点において運転させることができるようになった。したがって、流量計を用いる必要がない。なお、ラジアル荷重は、吸込水槽の水位の変化による吸込圧力の変化の影響をあまり受けず、吐出流量の変化と強く関連付けされる。ただし、吸込圧力の状態を把握して補正してもよい。
【0008】
当該運転制御方法は、上水道システムにおける送水ポンプ、下水道システムにおける送水ポンプ、排水機場システムにおける送水ポンプ等の、常に最高効率点における運転が求められるポンプにおいて好適に実行される。
【0009】
検知工程は、例えば軸受装置の外周に配置された荷重センサによって、前記ラジアル荷重を検知することによって行われる。荷重センサとしては、軸受装置の外周を囲むように設けられるロードセルが好ましく例示できる。この場合は、例えば、ロードセルによって回転軸の軸心に直交するある一方向の荷重を測定し、開度調節工程においては、当該測定値の振幅が小さくなるように、吐出弁の開度を調節すればよい。
【0010】
なお、荷重センサは、ロードセルに限らず、水中で使用可能な、圧電素子等の、歪量を電気信号に変換する手段であればよい。このような歪量を電気信号に変換する手段によっても誤差要因の少ない荷重の測定が可能であり、予め取得しておいた特性データに照らしあわせることによって、回転軸から軸受装置にかかる回転軸の軸心に直交する方向の荷重に由来する振動のみを分別して精度よく検知することができる。いずれにせよ、荷重センサを、ポンプケーシングの内部に設けることによって、ポンプケーシングの外部に当該荷重センサの設置スペースが不要である。
【0011】
本発明においては、前記検知工程において、前記回転軸の軸心に直交する二方向の荷重を測定し、前記開度調節工程において、前記測定された二方向の荷重を直交座標に表したときのリサージュ図形の面積に基づいて前記吐出弁の開度を調節すると好適である。
【0012】
回転軸の軸心に直交する二方向の荷重が大きいときは、リサージュ図形の面積は大きく、回転軸の軸心に直交する二方向の荷重が小さいときは、リサージュ図形の面積は小さいため、開度調節工程においては、当該リサージュ図形の面積が小さくなるように吐出弁の開度を調節すれば、容易にポンプを最高効率点において運転させることができる。
【0013】
本発明においては、前記開度調節工程においては、少なくとも前記回転軸の軸心に直交する方向又は前記回転軸の軸心に平行な方向の荷重の測定値、荷重係数、荷重方向、前記荷重の周波数分析結果、又は、前記回転軸の軸心に直交する二方向の荷重を測定し、当該測定された二方向の荷重を直交座標に表したときのリサージュ図形の位置の変化のいずれかに基づいて前記吐出弁の開閉の方向が判断されると好適である。
【0014】
上述のように、どのような比速度のポンプであれ、最高効率点における運転時に回転軸から軸受装置にかかる回転軸の軸心に直交する方向の荷重が最も小さくなるのであるが、発明者らの鋭意研究の結果、さらに、当該最高効率点ではない運転のときにおいては、最高効率点のときの吐出流量よりも、吐出流量が少ないときと多いときとで、回転軸の軸心に直交する方向又は回転軸の軸心に平行な方向の荷重の測定値や、荷重係数や、荷重の周波数分析結果や、リサージュ図形の位置に所定の変化がみられるという知見が得られた。
【0015】
予め工場等における特性試験により、ポンプについて各種センサによって、回転軸の軸心に直交する方向又は回転軸の軸心に平行な方向の荷重の測定値、荷重係数、荷重方向、前記荷重の周波数分析結果、又は、前記回転軸の軸心に直交する二方向の荷重を測定し、当該測定された二方向の荷重を直交座標に表したときのリサージュ図形の位置の変化の特徴、及び圧力、吐出流量、軸動力及びこれらから算出されたポンプ効率からなるポンプ性能を取得しておき、これらを連関させた特性データを取得しておくことによって、検知工程において実際に得られた回転軸の軸心に直交する方向又は回転軸の軸心に平行な方向の荷重の測定値、荷重係数、荷重方向、前記荷重の周波数分析結果、又は、リサージュ図形の位置の変化から、開度調節工程において吐出弁の開度をどのように調節すべきか、すなわち吐出弁をどの程度開くか、閉じるか容易に判断が可能となる。なお、荷重係数とは、回転軸の軸心に直交する方向の荷重の測定値を、羽根車形状である羽根車出口幅、羽根車外径、及び、前記測定値が得られたときの全揚程の三つの積で除したものや、回転軸の軸心に平行な方向の荷重の測定値を、ポンプに備えられた吸込ベルマウスののど部面積及び前記測定値が得られたときの全揚程の二つの積で除したものである。また、荷重方向とは、回転軸の周囲の方向をいう。
【0016】
本発明においては、前記ポンプは、吸込水槽に流入する水を前記ポンプケーシングから揚水して前記吐出管を介して下流側に送水する送水ポンプであって、少なくとも前記吸込水槽に流入する水の水量又は前記吸込水槽の水位を監視する監視工程と、前記監視工程において監視された少なくとも水量又は水位が所定の閾値を超えたら、前記吐出弁の開度を全開にする弁全開工程と、を有すると好適である。
【0017】
上述の構成によると、監視工程によって吸込水槽に流入する水の水量や吸込水槽の水位が所定の閾値を超えたときには、弁全開工程により、吐出弁の開度を全開にして最大吐出流量によって送水を行うことができる。
【0018】
本発明においては、前記開度調節工程において前記吐出弁の開度が調節されたあとに、前記検知工程により検知される前記回転軸から前記軸受装置にかかる荷重の経時的な変化に基づいて、前記ポンプの劣化又は異常を診断する診断工程を有すると好適である。
【0019】
吐出弁の開度の調節により、ポンプを最高効率点において運転させている場合であっても、ポンプは経時的に劣化や異常が発生する虞がある。上述の構成によると、開度調節工程において吐出弁の開度を調節し、ポンプに最高効率点における運転をさせている場合に、診断工程によって、検知工程により検知される回転軸から軸受装置にかかる荷重の経時的な変化、例えば、ロードセルによる荷重の計測値の振幅が大きくなる傾向や、リサージュ図形の面積が大きくなる傾向がみられた時には、ポンプの劣化又は異常を診断することができる。なお、ポンプの劣化とは軸受装置の摩耗が例示でき、ポンプの異常とは異物の噛みこみが例示できる。
【0020】
診断工程は、例えばポンプの運転ごとや、定期的な管理運転ごとに行われればよく、吐出圧力と吸込水槽の水位とから算出される全揚程に対する軸受装置にかかる荷重の変化を経時的に観測することによって行われることが好ましい。ポンプを吸込水槽から引き上げることなく、劣化や異常の診断をすることができるようになった。なお、診断工程において劣化や異常の発生が診断されるとその旨が通報されることが好ましい。
【0021】
上述の目的を達成するための本発明に係る吐出流量導出方法の特徴構成は、回転軸と、前記回転軸の接続された羽根車と、当該回転軸及び当該羽根車を内部に収容するポンプケーシングと、当該ポンプケーシングに対して固定され前記回転軸を軸支する軸受装置と、前記ポンプケーシングの下流側に接続される吐出管と、当該吐出管に設けられる吐出弁と、を備えるポンプの吐出流量導出方法であって、前記回転軸から前記軸受装置にかかる前記回転軸の軸心に直交する方向の荷重を検知する検知工程と、予め取得しておいた前記回転軸から前記軸受装置にかかる荷重と吐出流量との関係に基づいて、前記検知工程により検知される荷重から前記吐出流量を導出する流量導出工程と、を有する点にある。
【0022】
上述のように、発明者らは、鋭意研究の結果、どのような比速度のポンプであれ、最高効率点における運転時に回転軸から軸受装置にかかる回転軸の軸心に直交する方向の荷重であるラジアル荷重が最も小さくなるという知見を得た。上述の構成によると、検知工程において回転軸から軸受装置にかかるラジアル荷重を検知し、流量導出工程において、予め取得しておいた回転軸から軸受装置にかかるラジアル荷重と吐出流量との関係に基づいて、検知工程により検知される荷重から、吐出管の管内流速分布の影響を受けることなく、低流速から高流速にわたるまで吐出流量を導出することができる。また、ラジアル荷重は、吸込水槽の水位の変化による吸込圧力の変化の影響をあまり受けず、流量の変化と強く関連付けされる。
【0023】
上述の目的を達成するための本発明に係る吐出流量制御方法の特徴構成は、回転軸と、前記回転軸の接続された羽根車と、当該回転軸及び当該羽根車を内部に収容するポンプケーシングと、当該ポンプケーシングに対して固定され前記回転軸を軸支する軸受装置と、前記ポンプケーシングの下流側に接続される吐出管と、当該吐出管に設けられる吐出弁と、を備えるポンプの吐出流量制御方法であって、前記回転軸から前記軸受装置にかかる前記回転軸の軸心に直交する方向の荷重を検知する検知工程と、予め取得しておいた前記回転軸から前記軸受装置にかかる荷重と吐出流量との関係に基づいて、前記検知工程により検知される荷重が、所望の吐出流量と対応する荷重となるように前記吐出弁の開度を調節する開度調節工程と、を有する点にある。
【0024】
上述のように、発明者らは、鋭意研究の結果、どのような比速度のポンプであれ、最高効率点における運転時に回転軸から軸受装置にかかる回転軸の軸心に直交する方向の荷重であるラジアル荷重が最も小さくなるという知見を得た。上述の構成によると、検知工程において回転軸から軸受装置にかかるラジアル荷重を検知し、開度調節工程において、予め取得しておいた回転軸から軸受装置にかかるラジアル荷重と吐出流量との関係に基づいて、検知工程により検知される荷重が、所望の吐出流量と対応する荷重となるように吐出弁の開度を調節することで、吐出管の管内流速分布の影響を受けることなく、低流速から高流速にわたるまで吐出流量の制御をすることができる。また、ラジアル荷重は、吸込水槽の水位の変化による吸込圧力の変化の影響をあまり受けず、吐出流量の変化と強く関連付けされる。
【0025】
当該吐出流量制御方法は、吐出流量の調節が求められるポンプにおいて好適に実行される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】ポンプの概略図である。
図2】吐出流量、ポンプ効率、ラジアル荷重及びアキシャル荷重の測定値、ラジアル荷重の周波数分析結果、及びリサージュ図形を示す説明図である。
図3】本発明に係る運転制御方法のフローチャートである。
図4】開度調節工程のフローチャートである。
図5】監視工程のフローチャートである。
図6】診断工程のフローチャートである。
図7】本発明に係る吐出流量導出方法のフローチャートである。
図8】本発明に係る吐出流量制御方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明に係るポンプの運転制御方法、吐出流量導出方法及び吐出流量制御方法を図面に基づいて説明する。
【0028】
図1には、ポンプ10が示されている。当該ポンプ10は、原動機11の出力軸に連結された回転軸12と、回転軸12が接続された羽根車13と、回転軸12及び羽根車13を内部に収容するポンプケーシング14と、ポンプケーシング14に対して固定され回転軸12を軸支する軸受装置15と、軸受装置15の外周に設けられた荷重センサとしてのロードセル16と、ポンプケーシング14の上流側に接続され、吸込水槽1に開口する吸込ベルマウス17と、ポンプケーシング14の下流側に接続された揚水管18と吐出管19と、吐出管19に設けられた吐出弁20とが備えられ、制御装置2によって制御されるように構成されている。なお、揚水管18は、直管部と曲管部とが不図示のフランジなどによって連結されて構成されている。
【0029】
制御装置2はCPU、ROM、RAM等から構成され、当該制御装置2が所定のプログラムを実行することにより、原動機11の駆動が制御され、回転軸12の回転により羽根車13が回転し、吸込ベルマウス17から揚水された吸込水槽1の水が揚水管18及び吐出管19を介して下流側へと送水される。本実施形態においては、吐出弁20は、制御装置2によって開閉制御される電動弁から構成されている。
【0030】
ロードセル16は、ばね式や圧電素子式、磁歪式ロードセル、静電容量型ロードセル、ジャイロ式ロードセル、ひずみゲージ式ロードセル等の公知のロードセルが用いられ、回転軸12から軸受装置15にかかる荷重を回転軸12の軸心に直交する方向(以下、ラジアル方向と記す。)であって互いに直交する二方向及び回転軸12の軸心に平行な一方向(以下、アキシャル方向と記す。)において検知することができるように構成されている。当該検知された荷重の測定値は、制御装置2に入力される。
【0031】
以上のように構成されたポンプ10に対して、制御装置2によって本発明に係る運転制御方法、吐出流量導出方法及び吐出流量制御方法が実行される。
【0032】
なお、図1においては、ポンプ10は、斜流の羽根車13が備えられた立軸ポンプとして描かれているが、本発明に係る運転制御方法、吐出流量導出方法及び吐出流量制御方法が実行される対象となるポンプは、この限りではない。本発明に係る運転制御方法、吐出流量導出方法及び吐出流量制御方法は、例えば、軸流の羽根車が備えられた横軸ポンプであってもよいし、渦巻きポンプであっても実行可能である。
【0033】
当該運転制御方法、吐出流量導出方法及び吐出流量制御方法の説明に先立って、発明者らが得た知見について説明する。
【0034】
図2には、吐出流量、ポンプ効率を含む性能曲線と、ラジアル方向の荷重(以下、ラジアル荷重と記す。)及びアキシャル方向の荷重(以下、アキシャル荷重と記す。)の測定値、ラジアル荷重の周波数分析結果、及びリサージュ図形の変化の特徴が示されている。当該性能曲線や特徴は予め工場等における特性試験により得られる。
【0035】
発明者らは、鋭意研究の結果、最高効率点における運転時に回転軸12から軸受装置15にかかるラジアル荷重が最も小さくなるという知見を得た。当該知見に基づくと、ポンプ10の運転時に回転軸12から軸受装置15にかかる荷重をロードセル16によって計測し、計測値が最も小さくなるように吐出弁20の開度を調節することでポンプ10を最高効率点において容易に運転させることができるのである。
【0036】
ところで、ポンプ10が最高効率点ではない運転のときにおいては、最高効率点のときの吐出流量よりも、吐出流量が少ないときと多いときとで、ロードセル16により検知されるラジアル荷重又はアキシャル荷重の測定値、荷重係数、荷重方向、ラジアル荷重又はアキシャル荷重の周波数分析結果、回転軸12の軸心に直交する二方向のラジアル荷重を測定し、当該測定された二方向のラジアル荷重を直交座標に表したときのリサージュ図形の位置の変化がみられる。
【0037】
例えば、図2に示されているように、ロードセル16により検知されるアキシャル荷重の測定値は、吐出流量が0である締切運転のときに最大を示し、吐出流量が多くなるほど低下する傾向がある。予め、このような吐出流量と、アキシャル荷重とを連関させた特性データを取得しておき、これを吐出弁20の開度をどのように調節すべきか、すなわち吐出弁20をどの程度開くか、閉じるかの判断に使用するのである。
【0038】
したがって、アキシャル荷重の測定値が、最高効率点におけるものより大きければ、最高効率点における吐出流量よりも吐出流量が少ない状態であるため、吐出弁20の開度を開く方向に操作し、アキシャル荷重の測定値が、最高効率点におけるものより小さければ、最高効率点における吐出流量よりも吐出流量が少ない状態であるため、吐出弁20の開度を閉じる方向に操作すればよい。
【0039】
また、図2に示されているように、荷重として、ロードセル16により検知されるラジアル荷重の周波数分析結果は、締切運転のときに周波数スペクトルのピークが存在せず、吐出流量が多くなるほど周波数スペクトルのピークの数が増加する傾向がある。予め、このような吐出流量と、ラジアル荷重の周波数分析結果とを連関させた特性データを取得しておき、これを吐出弁20の開度をどのように調節すべきか、すなわち吐出弁20をどの程度開くか、閉じるかの判断に使用するのである。なお、アキシャル荷重の周波数分析も同様の結果が得られるため、同様に使用することができる。
【0040】
したがって、周波数スペクトルのピークの数が、最高効率点におけるものより少なければ、最高効率点における吐出流量よりも吐出流量が少ない状態であるため、吐出弁20の開度を開く方向に操作し、周波数スペクトルのピークの数が、最高効率点におけるものより多ければ、最高効率点における吐出流量よりも吐出流量が少ない状態であるため、吐出弁20の開度を閉じる方向に操作すればよい。
【0041】
また、リサージュ図形の位置は、特に、ポンプ10が立軸ポンプであるようなときには揚水管18の曲管部の位置に応じて、ポンプ10が渦巻きポンプであるようなときにはポンプケーシングの舌部の位置に応じて、図2に示されているように、最高効率点であるときの吐出流量よりも吐出流量が少なくなるほど、最高効率点のときのリサージュ図形の中心に対して一方へ移動し、最高効率点であるときの吐出流量よりも吐出流量が多くなるほど、最高効率点のときのリサージュ図形の中心に対して他方へ移動する傾向がある。予め、このような吐出流量と、リサージュ図形の位置とを連関させた特性データを取得しておき、これを吐出弁20の開度をどのように調節すべきか、すなわち吐出弁20をどの程度開くか、閉じるかの判断に使用するのである。
【0042】
したがって、リサージュ図形が、最高効率点におけるリサージュ図形の中心よりも一方、本実施形態においては右上にあれば、最高効率点における吐出流量よりも吐出流量が少ない状態であるため、吐出弁20の開度を開く方向に操作し、リサージュ図形が、最高効率点におけるリサージュ図形の中心よりも他方、本実施形態においては左下にあれば、最高効率点における吐出流量よりも吐出流量が少ない状態であるため、吐出弁20の開度を閉じる方向に操作すればよい。
【0043】
なお、図示は省略するが、ラジアル方向の荷重係数には、最高効率点において最小となるような傾向がみられ、アキシャル方向の荷重係数には、締切運転から吐出流量が多くなるほど、大きくなる傾向がみられる。ラジアル方向の荷重係数とは、ラジアル荷重の測定値を、羽根車形状である羽根車出口幅、羽根車外径、及び、前記測定値が得られたときの全揚程の三つの積で除したものであり、アキシャル方向の荷重係数とは、アキシャル荷重の測定値を、吸込ベルマウス17ののど部面積及び前記測定値が得られたときの全揚程の二つの積で除したものである。
【0044】
このように、予め工場等における特性試験により得られた特性データを吐出弁20の開度をどのように調節すべきか、すなわち吐出弁20をどの程度開くか、閉じるかの判断に使用するのである。
【0045】
以上の構成に基づいて、図3に基づいて運転制御方法について説明する。当該運転制御方法は、回転軸12から軸受装置15にかかるラジアル荷重を検知する検知工程S11と、検知工程S11により検知されるラジアル荷重が小さくなるように吐出弁20の開度を調節する開度調節工程S12と、吸込水槽1に流入する水の水量又は吸込水槽1の水位を監視する監視工程S13と、開度調節工程S12において吐出弁20の開度が調節されたあとに、検知工程S11により検知される回転軸12から軸受装置15にかかる荷重の経時的な変化に基づいて、ポンプ10の劣化又は異常を診断する診断工程S14と、を有する。ただし、監視工程S13や診断工程S14は、逆の順であってもよい。
【0046】
制御装置2は、検知工程S11において回転軸12から軸受装置15にかかるラジアル荷重を検知し、開度調節工程S12において当該荷重が小さくなるように吐出弁20の開度を調節する。これにより、ポンプ10を最高効率点において運転させることができる。なお、開度調節工程S12においては、例えば、ロードセル16によって計測された回転軸12の軸心に直交する二方向のラジアル荷重を測定し、当該測定された二方向のラジアル荷重を直交座標に表したときのリサージュ図形の面積が小さくなるように、吐出弁20の開度が調節される。
【0047】
図4に示すように、開度調節工程S12においては、S12-1からS12-4のように、少なくともラジアル荷重又はアキシャル荷重の測定値、荷重係数、荷重方向、前記荷重の周波数分析結果、又は、回転軸12の軸心に直交する二方向のラジアル荷重を測定し、当該測定された二方向のラジアル荷重を直交座標に表したときのリサージュ図形の位置の変化のいずれかに基づいて前記吐出弁の開閉の方向が判断される。
【0048】
つまり、上述のように、開度調節工程S12において当該荷重が小さくなるように、吐出弁20の開度をどのように調節、すなわち、吐出弁20の開度を小さくするべきか、大きくするべきかの判断は、上記の図2のような知見に基づいて行われる。
【0049】
図5に示すように、監視工程S13においては、S13-1からS13-2のように、監視された少なくとも水量又は水位が所定の閾値を超えたら、開度調節工程S12によらず、吐出弁20の開度の調節を全開にする。これによって、吸込水槽1に流入する水の水量や吸込水槽1の水位が所定の閾値を超えるようなときは、吐出弁20の開度を全開にして最大吐出流量によって送水を行うことができる。
【0050】
図6に示すように、診断工程S14においては、開度調節工程S12において吐出弁20の開度が調節されたあとに、検知工程S11により検知される回転軸12から軸受装置15にかかるラジアル荷重の経時的な変化に基づいて、S14-1からS14-2のように、ポンプ10の劣化又は異常を診断する。診断工程S14において劣化や異常の発生が診断されると、制御装置2はその旨を通報する。
【0051】
吐出弁の開度の調節により、ポンプを最高効率点において運転させている場合であっても、ポンプは経時的に劣化や異常が発生する虞がある。なお、経時的な変化とは、例えば、ロードセル16による計測値の振幅の変化、例えば吐出弁20の開度を変更していないにもかかわらず当該振幅が大きくなる場合や、リサージュ図形の面積の変化、例えば吐出弁20の開度を変更していないにもかかわらず当該面積が大きくなる場合が例示できる。
【0052】
これにより、ポンプ10の劣化又は異常を診断することができる。診断工程S14は、例えばポンプの運転ごとや、例えば数カ月ないし1年に一度の定期的な管理運転ごとに行われればよく、吐出圧力と吸込水槽1の水位とから算出される全揚程に対する軸受装置15にかかる荷重の変化を経時的に観測することによって行われる。ポンプ10を吸込水槽1から引き上げることなく、劣化や異常の診断をすることができるようになった。なお、診断工程S14に伴って、流量計によって実際に計測した吐出流量に基づいて上述の特性データの較正を行ってもよい。
【0053】
当該運転制御方法は、上水道システムにおける送水ポンプ、下水道システムにおける送水ポンプ、排水機場システムにおける送水ポンプ等の、常に最高効率点における運転が求められるポンプにおいて好適に実行される。
【0054】
図2に即して説明したような知見は、ポンプ10の運転制御方法に限らず、吐出流量導出方法や、吐出流量制御方法にも適用することができる。
【0055】
すなわち、図7に示すように、当該吐出流量導出方法は、回転軸12から軸受装置15にかかるラジアル荷重を検知する検知工程S21と、予め取得しておいた回転軸12から軸受装置15にかかるラジアル荷重と吐出流量との関係に基づいて、検知工程S21により検知されるラジアル荷重から吐出流量を導出する流量導出工程S22と、を有する。
【0056】
検知工程S21において回転軸12から軸受装置15にかかるラジアル荷重を検知し、流量導出工程S22において、予め取得しておいた回転軸12から軸受装置15にかかるラジアル荷重と吐出流量との関係に基づいて、検知工程S21により検知されるラジアル荷重から、吐出管19の管内流速分布の影響を受けることなく、低流速から高流速にわたるまで吐出流量を導出することができる。なお、当該流量導出方法においても、上述した運転制御方法における監視工程S13や診断工程S14を実行してもよい。
【0057】
また、図8に示すように、当該吐出流量制御方法は、回転軸12から軸受装置15にかかるラジアル荷重を検知する検知工程S31と、予め取得しておいた回転軸12から軸受装置15にかかるラジアル荷重と吐出流量との関係に基づいて、検知工程S31により検知されるラジアル荷重が、所望の吐出流量と対応する荷重となるように吐出弁20の開度を調節する開度調節工程S32と、を有する。
【0058】
検知工程S31において回転軸12から軸受装置15にかかるラジアル荷重を検知し、開度調節工程S32において、予め取得しておいた回転軸12から軸受装置15にかかるラジアル荷重と吐出流量との関係に基づいて、検知工程により検知されるラジアル荷重が、所望の吐出流量と対応する荷重となるように吐出弁20の開度を調節することで、吐出管19の管内流速分布の影響を受けることなく、低流速から高流速にわたるまで吐出流量の制御をすることができる。なお、当該流量制御方法においても、上述した運転制御方法における監視工程S13や診断工程S14を実行してもよい。当該吐出流量制御方法は、吐出流量の調節が求められるポンプにおいて好適に実行される。
【0059】
以下に、別実施形態について説明する。上述した実施形態においては、運転制御方法の開度調節工程S12においては、ロードセル16によって計測された回転軸12の軸心に直交する二方向のラジアル荷重を測定し、当該測定された二方向のラジアル荷重を直交座標に表したときのリサージュ図形の面積が小さくなるように、吐出弁20の開度が調節されたが、この限りではない。例えば、ロードセル16によって、回転軸12の軸心に直交するある一方向のラジアル荷重を測定し、当該荷重の計測値の振幅が小さくなるように、吐出弁20の開度が調節されてもよい。
【0060】
上述の実施形態においては、荷重センサがロードセル16である場合について説明したが、この限りではない。荷重センサは、水中で使用可能な、圧電素子等の、歪量を電気信号に変換する手段であればよい。このような歪量を電気信号に変換する手段によっても誤差要因の少ない荷重の測定が可能であり、予め取得しておいた特性データに照らしあわせることによって、回転軸から軸受装置にかかる荷重に由来する振動のみを分別して精度よく検知することができる。いずれにせよ、荷重センサを、ポンプケーシング14の内部に設けることによって、ポンプケーシング14の外部に当該荷重センサの設置スペースが不要である。
【0061】
上述の実施形態においては、ポンプ10の運転制御方法及び吐出流量制御方法が、制御装置2によって実行される構成について説明したがこの限りではない。例えば、ロードセル16等により検知されたラジアル荷重に基づいて、開度調節工程において作業員が手動によって吐出弁20の開度を調節してもよい。
【0062】
上述した実施形態は、いずれも本発明の一例であり、当該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲において適宜変更設計可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 :吸込水槽
2 :制御装置
10 :ポンプ
11 :原動機
12 :回転軸
13 :羽根車
14 :ポンプケーシング
15 :軸受装置
16 :ロードセル
17 :吸込ベルマウス
18 :揚水管
19 :吐出管
20 :吐出弁
S11 :検知工程
S12 :開度調節工程
S13 :監視工程
S14 :診断工程
S21 :検知工程
S22 :流量導出工程
S31 :検知工程
S32 :開度調節工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8