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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】放熱部材
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/04 20060101AFI20240206BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20240206BHJP
   B32B 18/00 20060101ALI20240206BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
C23C28/04
C23C26/00 C
B32B18/00
B32B5/18
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020565215
(86)(22)【出願日】2020-01-09
(86)【国際出願番号】 JP2020000540
(87)【国際公開番号】W WO2020145365
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/000585
(32)【優先日】2019-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019182462
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤▲崎▼ 恵実
(72)【発明者】
【氏名】冨田 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】尾下 裕亮
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-024077(JP,A)
【文献】国際公開第2016/013648(WO,A1)
【文献】特開2010-050239(JP,A)
【文献】特開昭49-062510(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135517(WO,A1)
【文献】特開平03-153092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 26/00-30/00
B32B 1/00-43/00
H01L 23/34-23/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源で生じた熱を放熱する放熱部材であり、
気孔率が5体積%以下の基材と、
基材の表面に設けられているとともに、気孔率が61体積%以上68体積%以下であり、基材より熱伝導率が低い無機多孔質層と、を備えており、
無機多孔質層はセラミック繊維を含んでおり、
無機多孔質層の構成成分のうちの15質量%以上がアルミナである放熱部材。
【請求項2】
無機多孔質層の母材の熱膨張係数が、5×10-6/K未満の材料を含んでいる請求項1に記載の放熱部材。
【請求項3】
基材の熱伝導率が10W/mK以上400W/mK以下である請求項1または2に記載の放熱部材。
【請求項4】
基材の熱膨張係数が11×10-6/K以下である請求項1から3のいずれか一項に記載の放熱部材。
【請求項5】
無機多孔質層の熱膨張係数が1×10-6/K以上6×10-6/K以下である請求項1から4のいずれか一項に記載の放熱部材。
【請求項6】
無機多孔質層の熱膨張係数をα1とし、基材の熱膨張係数をα2としたときに、下記式(1)を満足する請求項1から5のいずれか一項に記載の放熱部材。
0.5<α1/α2<1.2 (1)
【請求項7】
無機多孔質層に、板状セラミックス粒子が含まれている請求項1から6のいずれか一項に記載の放熱部材。
【請求項8】
無機多孔質層に、0.1μm以上10μm以下の粒状粒子が含まれている請求項1から7のいずれか一項に記載の放熱部材。
【請求項9】
無機多孔質層の基材が設けられている面とは反対側の面に、被覆層が設けられている請求項1から8のいずれか一項に記載の放熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、放熱部材に関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
特開2016-28880号公報(以下、特許文献1と称する)に、放熱層(基材)の表面に断熱層を設けた放熱部材が開示されている。具体的には、特許文献1の放熱部材は、不織布にシリカエアロゾルを含浸させた断熱層を、粘着層(樹脂)を用いて、グラファイト層(基材)の表面に接合している。このような構造の放熱部材は、熱源で生じた熱を放熱するとともに、熱源で生じた熱が放熱部材の周囲の空間に伝達することを抑制することができる。すなわち、特許文献1の放熱部材は、熱源の周囲の環境温度を上昇させることなく、熱源で生じた熱を放熱することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の放熱部材は、スマートフォン等の電子機器で用いられる。電子機器内に配置されている熱源(電子部品)は、最大で100℃程度まで上昇する。特許文献1の放熱部材は、100℃程度まで温度上昇する熱源の熱を放熱する機能は十分に有しているが、より高い温度まで温度上昇する熱源に対して使用することは困難である。たとえば、特許文献1の放熱部材を500℃以上まで温度上昇する熱源に対して使用すると、放熱部材自体が劣化し(グラファイト層自体の劣化、グラファイト層と断熱層の剥離等)、十分な機能を果たすことができなくなる。すなわち、特許文献1の放熱部材は、用途が限定され、汎用性が低い。本明細書は、汎用性の高い放熱部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書で開示する放熱部材は、熱源で生じた熱を放熱する。この放熱部材は、気孔率が5体積%以下の基材と、基材の表面に設けられているとともに、気孔率が25体積%以上85体積%以下であり、基材より熱伝導率が低い無機多孔質層を備えていてよい。また、無機多孔質層はセラミック繊維を含んでおり、無機多孔質層の構成成分のうちの15質量%以上がアルミナであってよい。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】放熱部材の形態を斜視図で示す。
図2】放熱部材の使用例の断面図を示す。
図3】放熱部材の変形例を斜視図で示す。
図4】放熱部材の変形例を斜視図で示す。
図5】放熱部材の変形例を斜視図で示す。
図6】放熱部材の変形例を斜視図で示す。
図7】放熱部材の変形例を斜視図で示す。
図8】実験例で用いた試料の原料配合量を示す。
図9】実験例の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本明細書で開示する放熱部材は、例えば、熱源で生じた熱を熱源から離れた位置に放熱ために用いることができる。放熱部材は、基材と、基材の表面に設けられており、基材より熱伝導率が低い無機多孔質層を備えている。基材は、熱源で生じた熱を放熱する放熱板自体、あるいは、熱源で生じた熱を熱源から離れた位置に設けられている放熱板に伝達する熱伝達材として機能する。無機多孔質層は、熱源と熱源の周囲の空間を熱的に断つ断熱材として機能する。なお、本明細書で開示する放熱部材は、基材の表面に無機多孔質層を備えているので、1000℃以上の高温に上昇する熱源の放熱部材として好適に利用することができる。
【0007】
基材は、放熱材としての機能を発揮し得る熱伝導率を有していればよく、使用目的に依るが、例えば、熱伝導率が10W/mK以上400W/mK以下であってよい。なお、基材の熱伝導率は、50W/mK以上であってよく、100W/mK以上であってよく、150W/mK以上であってよく、200W/mK以上であってよい。また、基材の熱伝導率は、350W/mK以下であってよく、300W/mK以下であってよく、250W/mK以下であってよく、200W/mK以下であってよく、150W/mK以下であってもよい。
【0008】
基材は、高熱伝導率を確保するため、緻密な構造、具体的には気孔率が5体積%以下であってよい。基材の気孔率は、小さい程好ましく、5体積%以下であってよく、3体積%以下であってよく、1体積%以下であってよく、実質的に0体積%(検出限界以下)であってもよい。
【0009】
また、基材は、比較的熱膨張係数が低い材料で形成されていてよい。熱源の温度変化に伴う放熱部材(基材)の寸法変化(膨張・収縮)が抑制され、放熱部材の耐久性が向上する。すなわち、基材の熱膨張係数を低くすることにより、寸法変化に伴う基材及び/又は無機多孔質層の劣化、基材と無機多孔質層の剥離等を抑制することができる。具体的には、基材の熱膨張係数は、11×10-6/K以下であってよい。なお、基材の熱膨張係数は、放熱部材が適用される熱源の温度、無機多孔質層の熱膨張係数によって適宜選択することができ、例えば、基材の熱膨張係数は、10×10-6/K以下であってよく、8×10-6/K以下であってよく、6×10-6/K以下であってよく、5.5×10-6/K以下であってよく、5×10-6/K以下であってよく、4.5×10-6/K以下であってよく、4×10-6/K以下であってもよい。なお、基材の熱膨張係数は、無機多孔質層の熱膨張係数に依るが、例えば、1×10-6/K以上であってよい。
【0010】
基材の材料は、特に限定されないが、金属、合金、セラミックス等であってよい。金属の一例として、モリブデン、タングステン、鉄等が挙げられる。合金の一例として、コバール、インバー、炭素鋼、クロム鋼、ニッケル鋼、ステンレス鋼等が挙げられる。セラミックスの一例として、AlN、SiC、SiO2、BN、Si34、MgO、BeO、Al23等が挙げられる。なお、基材の材料としてセラミックスを用いる場合、基材の材料は、AlN、SiC又はSi34であることが好ましい。これらの材料で作成された基材は、上記した特性(熱伝導率が10W/mK以上400W/mK以下、気孔率5体積%以下)を満足し得る。また、上記した材料は、何れも、熱膨張係数が11×10-6/K以下である。なお、熱膨張係数が11×10-6/K以下であれば、基材は、上記材料の複数を利用した複合材であってもよい。
【0011】
無機多孔質層は、基材の片面(表面)のみに設けられていてもよいし、基材の両面(表面及び裏面)に設けられていてもよい。また、無機多孔質層は、間隔をあけて対向する2個の基材の双方の表面を被覆していてもよい。換言すると、1個の無機多孔質層の両面に、基材(第1基材,第2基材)が接合されていてもよい。この場合、第1基材側に配置されている第1機器から生じる熱が第2基材側に配置されている第2機器に加わることを防止することができるとともに、第1基材によって、第1機器が生じた熱を放熱することができる。同様に、第2機器の熱が第1機器に加わることを防止することができるとともに、第2基材によって第2機器が生じた熱を放熱することができる。すなわち、1個の無機多孔質層の両面に基材を接合することにより、複数の機器(熱源)に対する放熱部材としての機能に加え、機器間を断熱する仕切り板としても機能する。
【0012】
放熱部材の形状(基材の形状)は、特に限定されないが、線状(ワイヤー状)、板状(シート状)であってよい。基材が線状の場合、無機多孔質層は、基材の外周面を被覆していてよい。基材が板状の場合、無機多孔質層は、基材の露出面全体を被覆していてもよいし、厚み方向端部の面(表面、及び/又は、裏面)を被覆していてもよいし、幅方向端部の面(側面)を被覆していてもよいし、長さ方向端部の面を被覆していてもよい。また、基材が板状の場合、無機多孔質層は、第1の板状基材(第1基材)の表面と第2の板状基材(第2基材)の裏面の双方を被覆していてよい。
【0013】
無機多孔質層は、基材表面の全面を被覆していてもよいし、基材表面の一部を被覆していてもよい。例えば、無機多孔質層は、基材の端部(一端または両端)を除く部分を被覆していてよい。また、無機多孔質層が板状の基材の表裏面(厚み方向端部の面)を被覆している場合、無機多孔質層は、表裏面の一部(例えば、長手方向の一端または両端)を除く部分を被覆していてよい。あるいは、無機多孔質層は、裏面については全体を被覆し、表面については例えば長手方向の両端を除く部分を被覆している等、表裏面で被覆する範囲が異なっていてもよい。
【0014】
無機多孔質層は、熱源(熱源に露出する基材)と熱源の周囲空間を断熱する断熱層としての機能を発揮し得る熱伝導率であってよい。無機多孔質層の熱伝導率は、基材より低くてよく、例えば、0.05W/mK以上3W/mK以下であってよい。なお、無機多孔質層の熱伝導率は、0.1W/mK以上であってよく、0.2W/mK以上であってよく、0.3W/mK以上であってよく、0.5W/mK以上であってよく、1W/mK以上であってよく、2W/mK以上であってもよい。また、無機多孔質層の熱伝導率は、2W/mK以下であってよく、1W/mK以下であってよく、0.5W/mK以下であってよく、0.3W/mK以下であってよく、0.2W/mK以下であってよく、0.1W/mK以下であってもよい。
【0015】
上記したように、放熱部材は、熱源で生じた熱を基材によって放熱し、熱源(または基材)と熱源の周囲の空間を無機多孔質層によって断熱する。そのため、基材と無機多孔質層は、熱伝導率の差が大きいことが好ましい。具体的には、基材の熱伝導率は、無機多孔質層の熱伝導率の100倍以上であってよい。なお、基材の熱伝導率は、無機多孔質層の熱伝導率の300倍以上であってよく、無機多孔質層の熱伝導率の500倍以上であってよく、無機多孔質層の熱伝導率の600倍以上であってよく、無機多孔質層の熱伝導率の1000倍以上であってもよい。
【0016】
無機多孔質層は、厚み方向(基材表面と接する面から外部環境に露出する面に至る範囲)において、均一の材料で構成されていてよい。すなわち、無機多孔質層は単層であってよい。また、無機多孔質層は、厚み方向において、組成の異なる複数の層で構成されていてもよい。すなわち、無機多孔質層は、複数の層が積層した多層構造であってよい。あるいは、無機多孔質層は、厚み方向において、組成が除々に変化する傾斜構造であってもよい。無機多孔質層が単層の場合、放熱部材の製造(基材表面に無機多孔質層を成形する工程)を容易に行うことができる。無機多孔質層が多層又は傾斜構造の場合、厚み方向において、無機多孔質層の特性を変化させることができる。無機多孔質層の構造(単層、多層、傾斜構造)については、放熱部材が適用される使用環境に応じて適宜選択することができる。
【0017】
無機多孔質層は、セラミックス繊維を含んでいてよい。すなわち、無機多孔質層は、母材(マトリックス)とセラミックス繊維で構成されていてよい。セラミックス繊維は、無機多孔質層の強度(機械的強度)が低下することを抑制する。また、無機多孔質層がセラミックス繊維を含むことにより、無機多孔質層自体が、基材と無機多孔質層の熱膨張係数差の影響を吸収することができる。具体的には、無機多孔質層が基材の寸法変化(熱膨張,熱収縮)に追従して変形することができるので、無機多孔質層が基材から剥離することを防止することができる。
【0018】
無機多孔質層は、15質量%以上のアルミナ成分を含んでいてよい。すなわち、無機多孔質層の構成成分のうちの15質量%以上がアルミナであってよい。15質量%以上のアルミナ成分を含むことにより、無機多孔質層の融点を高く維持することができ、熱源が高温であっても放熱部材(無機多孔質層)の形状が維持され、放熱部材の耐久性を向上させることができる。また、アルミナは、熱膨張係数が比較的小さく(7.2×10-6/K)、無機多孔質層が15質量%以上のアルミナ成分を含むことにより、熱源の温度変化に伴う放熱部材(無機多孔質層)の寸法変化が抑制され、放熱部材の耐久性が向上する。アルミナ成分は、無機多孔質層の構成成分の15質量%以上あってよく、20質量%以上あってよく、30質量%以上あってよく、40質量%以上あってよく、50質量%以上あってもよい。なお、アルミナ成分は、マトリックスを構成していてもよいし、セラミックス繊維(アルミナ繊維)を構成していてもよい。
【0019】
無機多孔質層は、マトリックスとして、熱膨張係数が5×10-6/K未満の材料を含んでいてよい。このような材料として、ムライト(Al613Si2)、二酸化珪素(SiO2)、炭化珪素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)、低熱膨張ガラス、アルミニウムチタネート(TiO2・Al23)、リン酸ジルコニウム、スポジュメン(LiAlSi26)、ユークリプタイト(LiAlSiO4)等が挙げられる。無機多孔質層は、マトリックスとして、上記材料のうちの少なくとも一種を含んでいてよい。なお、無機多孔質層のマトリックスに含まれる材料の熱膨張係数は、3×10-6/K未満であってよく、2×10-6/K未満であってもよい。なお、上記した材料の中で、コージェライトは、無機多孔質層のマトリックスとして好適である。コージェライトは、耐熱性が高く、また、熱膨張係数が小さい(0.1×10-6/K未満)。そのため、マトリックスがコージェライトを含むことにより、熱源の温度変化に伴う放熱部材(無機多孔質層)の寸法変化が抑制され、放熱部材の耐久性が向上する。
【0020】
熱膨張係数が5×10-6/K未満の材料(コージェライト等)は、無機多孔質層全体(セラミックス繊維+マトリックス)の30質量%以上であってよく、40質量%以上であってよく、50質量%以上であってよく、60質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってもよい。また、熱膨張係数が5×10-6/K未満の材料は、無機多孔質層のマトリックスの60質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、100質量%であってもよい。すなわち、無機多孔質層は、熱膨張係数が5×10-6/K未満の材料を含むマトリックスに、セラミックス繊維が含まれたものであってよい。
【0021】
無機多孔質層の気孔率は、25体積%以上85体積%以下であってよい。気孔率が25体積%以上であれば、無機多孔質層が断熱層としての機能を十分に発揮し得る。気孔率が85体積%以下であれば、無機多孔質層の強度が十分に確保され、放熱部材(無機多孔質層)の耐久性を向上させることができる。なお、無機多孔質層の気孔率は、30体積%以上であってよく、40体積%以上であってよく、50体積%以上であってよく、60体積%以上であってよく、62体積%以上であってよく、64体積%以上であってよく、68体積%以上であってよく、70体積%以上であってもよい。また、無機多孔質層の気孔率は、80体積%以下であってよく、70体積%以下であってよく、68体積%以下であってよく、66体積%以下であってよく、64体積%以下であってよく、62体積%以下であってよく、60体積%以下であってもよい。なお、無機多孔質層が多層構造又は傾斜構造の場合、無機多孔質層の気孔率は、全体として25体積%以上85体積%以下であればよく、厚み方向で気孔率が異なっていてもよい。この場合、部分的に、気孔率が25体積%未満の部分、あるいは、気孔率が85体積%超の部分が存在していてよい。
【0022】
無機多孔質層の熱膨張係数は、基材の熱膨張係数に応じて調整してよく、特に限定されないが、1×10-6/K以上6×10-6/K以下であってよい。無機多孔質層の熱膨張係数が1×10-6/K以上であれば、基材と無機多孔質層の熱膨張係数差の影響を緩和することができる。また、無機多孔質層の熱膨張係数が6×10-6/K以下であれば、熱源の温度変化に伴う無機多孔質層の寸法変化が抑制され、放熱部材の耐久性が向上する。無機多孔質層の熱膨張係数は、2×10-6/K以上であってよく、3×10-6/K以上であってよく、3.5×10-6/K以上であってよく、4×10-6/K以上であってよく、4.5×10-6/K以上であってよく、5×10-6/K以上であってよく、5.5×10-6/K以上であってもよい。また、無機多孔質層の熱膨張係数は、4.5.5×10-6/K以下であってよく、5×10-6/K以下であってよく、4.5×10-6/K以下であってよく、4×10-6/K以下であってもよい。
【0023】
上記したように、基材と無機多孔質層の熱膨張係数差を低減することにより、熱源の温度変化に伴って放熱部材が寸法変化(熱膨張・熱収縮)しても、基材と無機多孔質層の剥離等を抑制することができる。そのため、無機多孔質層の熱膨張係数をα1とし、基材の熱膨張係数をα2としたときに、下記式1を満足するように両者の熱膨張係数を調整してよい。なお、「α1/α2」の値は、0.55以上であってよく、0.6以上であってよく、0.7以上であってよく、0.8以上であってよく、0.9以上であってよく、1以上であってよく、1.1以上であってもよい。また、「α1/α2」の値は、1.1以下であってよく、1.0以下であってよく、0.9以下であってよく、0.8以下であってよく、0.7以下であってよく、0.65以下であってもよい。
式1:0.5<α1/α2<1.2
【0024】
無機多孔質層の厚みは、使用目的(要求性能)に依るが、1mm以上であってよい。無機多孔質層の厚みが1mm以上であれば、断熱性を十分に発揮し得る。なお、セラミックス繊維が用いられていない無機多孔質層の場合、製造過程(例えば焼成工程)において収縮するため、厚みを1mm以上に維持することが困難である。本明細書で開示する無機多孔質層は、セラミックス繊維を含んでいるので、製造過程における収縮が抑制され、1mm以上の厚みを維持することができる。なお、無機多孔質層の厚みが厚すぎると、コスト(製造コスト、材料コスト)に見合う特性の向上が得られにくくなる。そのため、特に限定されないが、無機多孔質層の厚みは、30mm以下であってよく、20mm以下であってよく、15mm以下であってよく、100mm以下であってよく、5mm以下であってよい。
【0025】
無機多孔質層に、0.1μm以上10μm以下の粒状粒子が含まれていてよい。無機多孔質層を成形(焼成)する際、セラミックス繊維同士が粒状粒子を介して結合され、高強度の無機多孔質層が得られる。
【0026】
セラミックス粒子は、後述する板状セラミックス粒子,セラミックス繊維等の無機多孔質層の骨格をなす骨材同士を接合する接合材として用いられてよい。セラミックス粒子は、0.1μm以上10μm以下の粒状粒子であってよい。なお、セラミックス粒子は、製造過程(例えば焼成工程)において、焼結等により粒径が大きくなってもよい。すなわち、無機多孔質層を製造する原料として、セラミックス粒子は、0.1μm以上10μm以下(焼成前の平均粒径)の粒状粒子であってよい。なお、セラミックス粒子は、0.5μm以上であってよく、5μm以下であってもよい。セラミックス粒子の材料として、熱膨張係数が小さい(5×10-6/K未満)ものを利用してよい。低熱膨張係数の材料として、ムライト、二酸化珪素、炭化珪素、窒化アルミニウム、低熱膨張ガラス、アルミニウムチタネート、リン酸ジルコニウム、スポジュメン、ユークリプタイト等が挙げられる。また、セラミックス粒子の材料として、例えば金属酸化物を利用してよい。金属酸化物の一例として、アルミナ(Al23)、スピネル(MgAl24)、チタニア(TiO2)、ジルコニア(ZrO2)、マグネシア(MgO)、ムライト、コージェライト(MgO・Al23・SiO2)等が挙げられる。
【0027】
本明細書で開示する放熱部材では、無機多孔質層に板状セラミックス粒子が含まれていてよい。板状セラミックス粒子を用いることにより、セラミックス繊維の一部を板状セラミックス粒子に置換することができる。典型的に、板状セラミックス粒子の長さ(長手方向サイズ)は、セラミックス繊維の長さより短い。そのため、板状セラミックス粒子を用いることにより、無機多孔質層内の伝熱経路が分断され、無機多孔質層内の熱伝達が起こりにくくなる。その結果、無機多孔質層の断熱性能がさらに向上する。なお、「板状セラミックス粒子」とは、アスペクト比5以上で、長手方向サイズが5μm以上100μm以下のセラミックス粒子を意味する。
【0028】
板状セラミックスは、無機多孔質層内において、骨材、補強材として機能し得る。すなわち、板状セラミックスは、セラミックス繊維と同様に、無機多孔質層の強度を向上させ、さらに、製造工程において無機多孔質層が収縮することを抑制する。なお、板状セラミックス粒子を用いることにより、無機多孔質層内の伝熱経路を分断することができる。そのため、骨材としてセラミックス繊維のみを用いる形態と比較して、熱源で生じた熱が無機多孔質層内を伝熱しにくく、熱源と放熱部材の周囲の環境をより断熱することができる。
【0029】
板状セラミックス粒子は、矩形板状、あるいは、針状であってよく、長手方向サイズが5μm以上100μm以下であってよい。長手方向サイズが5μm以上であれば、セラミックス粒子の過剰な焼結を抑制することができる。長手方向サイズが100μm以下であれば、上述したように無機多孔質層内の伝熱経路を分断する効果が得られ、高温環境で用いる放熱部材に好適に適用し得る。また、板状セラミックス粒子は、アスペクト比が5以上100以下であってよい。アスペクト比が5以上であればセラミックス粒子の焼結を良好に抑制することができ、100以下であれば板状セラミックス粒子自体の強度低下が抑制される。なお、板状セラミックス粒子の材料として、上記したセラミックス粒子の材料として用いられる金属酸化物に加え、タルク(Mg3Si410(OH)2)、マイカ、カオリン等の鉱物・粘土、ガラス等を用いることもできる。
【0030】
上記したように、本明細書で開示する放熱部材は、無機多孔質層がセラミックス繊維を含んでいる。セラミックス繊維は、無機多孔質層内において、骨材、補強材として機能し得る。すなわち、セラミックス繊維は、無機多孔質層の強度を向上させ、さらに、製造工程において無機多孔質層が収縮することを抑制する。セラミックス繊維の長さは、50μm以上200μm以下であってよい。また、セラミックス繊維の直径(平均径)は、1~20μmであってよい。無機多孔質層内におけるセラミックス繊維の体積率(無機多孔質層を構成する材料に占めるセラミックス繊維の体積率)は、5体積%以上25体積%以下であってよい。5体積%以上のセラミックス繊維を含むことにより、無機多孔質層の製造過程(焼成工程)において無機多孔質内のセラミックス粒子の収縮を十分に抑制することができる。また、セラミックス繊維の体積率を25体積%以下とすることにより、無機多孔質層内の伝熱経路を分断することができ、高温環境で用いる放熱部材に好適に適用し得る。なお、セラミックス繊維の材料として、上述した板状セラミックス粒子の材料と同様の材料を用いることができる。
【0031】
また、無機多孔質層内における骨材、補強材(セラミックス繊維,板状セラミックス粒子等。以下、単に骨材と称する)の含有率は、15質量%以上50質量%以下であってよい。無機多孔質層内の骨材の含有率が15質量%以上であれば、焼成工程における無機多孔質層の収縮を十分に抑制することができる。また、無機多孔質層内の骨材の含有率が50質量%以下であれば、セラミックス粒子によって骨材同士が良好に接合される。無機多孔質層内における骨材の含有率は、20質量%以上であってよく、30質量%以上であってよく、40質量%以上であってもよい。また、無機多孔質層内における骨材の含有率は、40質量%以下であってよく、30質量%以下であってもよい。
【0032】
上記したように、セラミックス繊維及び板状セラミックス粒子は、ともに無機多孔質層内において骨材、補強材として機能し得る。しかしながら、放熱部材の作製後(焼成後)に無機多孔質層が収縮することを確実に抑制するため、骨材としてセラミックス繊維と板状セラミックス粒子の双方を用いる場合であっても、無機多孔質層内のセラミックス繊維の含有量は、少なくとも5質量%以上であってよい。なお、セラミックス繊維の含有量は、5質量%以上50質量%以下の間で調整してよい。
【0033】
骨材としてセラミックス繊維と板状セラミックス粒子の双方を用いる場合、骨材全体に占める板状セラミックス粒子の割合(重量比)は、90%以下であってよい。すなわち、質量比で、骨材の少なくとも10%以上がセラミックス繊維であってよい。骨材全体に占める板状セラミックス粒子の割合は、60%以下であってよく、50%以下であってよく、40%以下であってよく、34%以下であってもよい。また、骨材全体に占める板状セラミックス粒子の割合は、33%以上であってよく、40%以上であってよく、50%以上であってよく、60%以上であってもよい。具体的には、無機多孔質層内の板状セラミックス粒子の含有量は、10質量%以上であってよく、20質量%以上であってよく、30質量%以上であってよい。また、板状セラミックス粒子の含有量は、30質量%以下であってよく、20質量%以下であってよく、10質量%以下であってもよい。
【0034】
上記したように、無機多孔質層は、セラミックス粒子(粒状粒子)、板状セラミックス粒子、セラミックス繊維のうちの1以上の材料により構成されていてよい。なお、セラミックス粒子、板状セラミックス粒子及びセラミックス繊維は、構成成分として、アルミナ、コージェライト、チタニア等を含んでいてよい。換言すると、アルミナ、コージェライト、チタニア等によって、セラミックス粒子、板状セラミックス粒子、セラミックス繊維が形成されていてよい。無機多孔質層は、構成材料(構成物質)全体で、15質量%以上のアルミナ成分を含んでいればよい。無機多孔質層は、マトリックスとセラミックス繊維の構成成分は各々任意であるが、少なくともセラミックス繊維を含んでいる。
【0035】
なお、特に高温環境で用いられる放熱部材においては、無機多孔質層に含まれるSiO2が25質量%以下であってよい。無機多孔質層内に非晶質層が形成されることが抑制され、無機多孔質層の耐熱性(耐久性)が向上する。
【0036】
無機多孔質層を形成する際、セラミックス粒子、板状セラミックス粒子、セラミックス繊維の他に、バインダ、造孔材、溶媒を混合した原料を用いてよい。バインダとして、無機バインダを使用してよい。無機バインダの一例として、アルミナゾル、シリカゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル等が挙げられる。これらの無機バインダは、焼成後の無機多孔質層の強度を向上させることができる。造孔材として、高分子系造孔材、カーボン系粉等を使用してよい。具体的には、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ポリエチレン粒子、ポリスチレン粒子、カーボンブラック粉末、黒鉛粉末等が挙げられる。造孔材は、目的に応じて種々の形状であってよく、例えば、球状、板状、繊維状等であってよい。造孔材の添加量、サイズ、形状等を選択することにより、無機多孔質層の気孔率、気孔サイズを調整することができる。溶媒は、他の原料に影響を及ぼすことなく原料の粘度を調整可能なものであればよく、例えば、水、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等を使用することができる。
【0037】
なお、上記した無機バインダも無機多孔質層の構成材料である。そのため、無機多孔質層を形成する際にアルミナゾル、チタニアゾル等を用いる場合、無機多孔質層は、無機バインダを含む構成材料全体で、15質量%以上のアルミナ成分を含んでいればよい。
【0038】
本明細書で開示する放熱部材では、基材表面に上記原料を塗布し、乾燥、焼成を経て基材表面に無機多孔質層を形成してよい。原料の塗布方法として、ディップコート、スピンコート、スプレーコート、スリットダイコート、溶射、エアロゾルデポジション(AD)法、印刷、刷毛塗り、コテ塗り、モールドキャスト成形等を用いることができる。なお、目的とする無機多孔質層の厚みが厚い場合、あるいは、無機多孔質層が多層構造の場合、原料の塗布、原料の乾燥を複数回繰り返し、目的とする厚み、あるいは、多層構造に調整してもよい。上記塗布方法は、後述する被覆層を形成する塗布方法として適用することもできる。
【0039】
また、本明細書で開示する放熱部材では、無機多孔質層の基材が設けられている面とは反対側の面に、被覆層が設けられていてもよい。すなわち、無機多孔質層が、基材と被覆層によって挟まれていてよい。なお、被覆層は、無機多孔質層の基材(基材が設けられている面と反対側の面)の全面に設けられていてもよいし、無機多孔質層の表面の一部に設けられていてもよい。被覆層を設けることにより、無機多孔質層を保護(補強)することができる。
【0040】
被覆層の材料は、多孔質または緻密質なセラミックスであってよい。被覆層で用いられる多孔質セラミックスの一例として、ジルコニア(ZrO2),部分安定化ジルコニア,安定化ジルコニア等が挙げられる。また、イットリア安定化ジルコニア(ZrO2-Y23:YSZ)、YSZにGd23、Yb23、Er23等を添加した金属酸化物、ZrO2-HfO2-Y23、ZrO2-Y23-La23、ZrO2-HfO2-Y23-La23、HfO2-Y23、CeO2-Y23、Gd2Zr27、Sm2Zr27、LaMnAl1119、YTa39、Y0.7La0.3Ta39、Y1.08Ta2.76Zr0.249、Y2Ti27、LaTa39、Yb2Si27、Y2Si27、Ti35等が挙げられる。被覆層で用いられる緻密質なセラミックスの一例として、アルミナ、シリカ、ジルコニアなどが挙げられる。また、上述した無機多孔質層の構成材料からセラミックス繊維を除去することにより、低気孔率(緻密質)となるため、被覆層として用いてもよい。あるいは、被覆層は、造孔材を用いることなく、無機多孔質層と同じ材料で作成されたものであってもよい。被覆層として多孔質または緻密質セラミックスを用いることにより、無機多孔質層が補強され、無機多孔質層が基材の表面から剥がれることを抑制することができる。なお、被覆層として緻密質なセラミックスを用いると、例えば高温ガスが無機多孔質層を透過することを抑制したり、無機多孔質層内で高温ガスが滞留することを抑制することができる。その結果、高温ガスの熱が基材に伝熱することを抑制する効果が期待できる。また、被覆層として緻密質なセラミックスを用いることにより、基材と外部環境を電気的に絶縁する効果が向上する。
【0041】
被覆層の材料は、多孔質または緻密質なガラスであってよい。被覆層として多孔質または緻密質ガラスを用いることによっても、無機多孔質層が補強され、無機多孔質層が基材の表面から剥がれることを抑制することができる。また、被覆層の材料は、金属であってもよい。無機多孔質層の表面に金属層を設けることにより、外部からの輻射熱を反射することができ、基材に熱が加わることをさらに抑制することができる。
【0042】
(放熱部材の形態)
図1及び図2を参照し、放熱部材10の形態について説明する。図1に示すように、放熱部材10は、窒化アルミニウム製の基材2と、基材2の両面(厚み方向端面の双方の面)に設けられた多孔質保護層4を備えている。多孔質保護層4は、無機多孔質層の一例である。多孔質保護層4は、基材2の一方の面(裏面)の全面に接合されており、他方の面(表面)では基材2の長手方向の端部(両端部)2a,2bを除く中間部分に接合されている。なお、図示は省略しているが、基材2の側面(4面)にも多孔質保護層4が設けられている。放熱部材10は、一方の端部2a(発熱部側)の熱を他方の端部2b(放熱部側)に伝達する熱伝導部材である。
【0043】
放熱部材10は、基材2の表面の一部(端部2a,2bに相当する部分)をマスキングした状態で、基材2を原料スラリーに浸漬し、乾燥、焼成を行って製造した。原料スラリーは、アルミナ成分の主原料としてアルミナ繊維(平均繊維長140μm)20質量%,板状アルミナ粒子(長手方向サイズ10μm)30質量%の合計50質量%と、コージェライト粒子(平均粒子径1.5μm)50質量%と、アルミナゾル10質量%(アルミナゾルに含まれるアルミナ量1.1質量%)と、アクリル樹脂(平均粒子径8μm)40質量%と、エタノールを混合し、作成した。なお、アルミナゾル、アクリル樹脂及びエタノールは、アルミナ繊維及びコージェライト粒子に対して外掛けで加えた。また、原料スラリーは、粘度が2000mPa・sとなるように調整した。
【0044】
基材2を上記原料スラリーに浸漬して基材2の表裏面に原料を塗布した後、基材2を乾燥機に投入し、200℃(大気雰囲気)で1時間乾燥させた。これにより、基材2の表裏面におよそ300μmの多孔質保護層が形成された。その後、基材2を上記原料スラリーに浸漬して乾燥する工程を3回繰り返し、基材2の表裏面に1.2mmの多孔質保護層を形成した。その後、基材2を電気炉内に配置し、800℃(大気雰囲気)で3時間焼成し、放熱部材10を作成した。得られた放熱部材10は、多孔質保護層4の気孔率が67体積%であり、熱膨張係数が4.5×10-6/Kであった。なお、図示は省略するが、放熱部材10では、コージェライト粒子が、基材2の表面(表裏面)と骨材(アルミナ繊維及)の間に介在し、基材2の表面と骨材を接合していることが確認された。また、多孔質縫合層4内にコージェライトが含まれていることは、X線回折の結果からも確認された。
【0045】
図2は、放熱部材10を発熱部20及び放熱部(放熱板)22に接合した状態を示している。放熱部材10の一方の端部2aが発熱部20に接合し、他方の端部2bが放熱部22に接合している。発熱部20で受熱した熱は、基材2を移動し、放熱部22で放熱される。熱伝導部材10は、表面(中間部分)及び裏面に多孔質保護層4が接合されているので、発熱部(熱源)20と放熱部22の間において基材2からの放熱が抑制される。そのため、熱伝導部材10の表面近傍の空間30、及び、放熱部材10の裏面近傍の空間32に設けられている機器等に熱が加わることを抑制することができる。
【0046】
(放熱部材の変形例)
以下、放熱部材の変形例(放熱部材10a~10e)について説明する。放熱部材10a~10eは、放熱部材10と比較して、基材の形状、多孔質保護層の形成位置及び被覆層の有無が異なる。放熱部材10a~10eは、マスキングを施す位置、多孔質保護層の形成条件、及び、多孔質保護層を形成した後の焼成条件等を目的に合わせて調整したが、実質的に放熱部材10と同じ工程を経て製造した。以下の説明においては、放熱部材10と共通する特徴については説明を省略することがある。
【0047】
図3に示す放熱部材10aは、基材2の表面(厚み方向端面のうちの一方の面)にのみ多孔質保護層4が設けられている。放熱部材10aでは、基材2の裏面の一方の端部2aを発熱部に接合し、他方の端部2bを放熱部(放熱板)に接合する。放熱部材10aでは、多孔質保護層4によって、発熱部の熱が放熱部材10aの表面側(多孔質保護層4が設けられている側)に放熱されることを抑制しながら、一方の端部2aの熱を他方の端部2bに伝達することができる。なお、放熱部材10aにおいて、放熱部材10と同様に、基材2の長手方向の端部(両端部)2a,2bを除く中間部分に多孔質保護層4を設けてもよい(図1も参照)。その場合、発熱部及び/又は放熱部を、基材2の表面に接合してもよい。
【0048】
図4に示す放熱部材10bは、放熱部材10aの変形例である。放熱部材10bでは、多孔質保護層4の表面(基材2が設けられている面とは反対側の面)に、被覆層6が設けられている。被覆層6は、基材2の表面に多孔質保護層4を形成した後、スプレーを用いて多孔質保護層4の表面に原料スラリーを塗布し、乾燥、焼成を経て成形した。被覆層6を成形するために用いた原料スラリーは、アルミナ繊維(平均繊維長140μm)20質量%,板状アルミナ粒子(長手方向サイズ10μm)30質量%の合計50質量%と、コージェライト粒子(平均粒子径1.5μm)50質量%と、アルミナゾル10質量%(アルミナゾルに含まれるアルミナ量1.1質量%)と、エタノールを混合し、作成した。すなわち、被覆層6を成形するために用いた原料スラリーは、多孔質保護層4を形成するために用いた原料スラリーから造孔材(アクリル樹脂)を除去したものである。被覆層6は、多孔質保護層4と比較して緻密な構造を有しているので、多孔質保護層4の補強材として機能する。なお、被覆層6の材料は、目的に応じて、例えば上述した材料に適宜変更することができる。なお、放熱部材10bにおいても、基材2の長手方向の端部(両端部)2a,2bを除く中間部分に多孔質保護層4を設けてもよい。その場合、発熱部及び/又は放熱部を、基材2の表面に接合してもよい。
【0049】
図5に示す放熱部材10cは、放熱部材10bの変形例である。放熱部材10cでは、被覆層6が、放熱部材10cの長手方向において、多孔質保護層4の表面に間欠的に(部分的に)設けられている。例えば、被覆層6と多孔質保護層4の熱膨張係数差が大きい場合、被覆層6を多孔質保護層4の表面に間欠的に設けることにより、被覆層6が多孔質保護層4から剥離することを抑制することができる。なお、放熱部材10cにおいても、基材2の長手方向の端部(両端部)2a,2bを除く中間部分に多孔質保護層4を設けてもよい。その場合、発熱部及び/又は放熱部を、基材2の表面に接合してもよい。また、放熱部材10b,10cの特徴(多孔質保護層の表面に被覆層を設ける)は、放熱部材10,10aに適用することもできる。
【0050】
図6に示す放熱部材10dは、多孔質保護層4の両面(表裏面)に、基材(第1基材2X,第2基材2Y)が接合している。換言すると、間隔をあけて対向する2個の基材(第1基材2X,第2基材2Y)に、1個の多孔質保護層4が接続されている。第1基材2Xには第1基材2X側に配置されている熱源である第1機器(図示省略)が接合され、第1基材2Yには第2基材2Y側に配置されている熱源である第2機器(図示省略)が接合される。第1基材2X及び第2基材2Yは、各機器から生じる熱を放熱することができる。また、多孔質保護層4は、一方の機器(例えば第1機器)の熱が他方の機器(第2機器)に加わることを抑制することができる。すなわち、放熱部材410は、2個の機器に対する放熱板として機能するとともに、2個の機器の間を断熱する仕切板としても機能する。
【0051】
図7に示す放熱部材10eは、基材2が線状(ライン状)の金属で形成されている。放熱部材10eは、線状の基材2の長手方向の端部(両端部)2a,2bが露出している。すなわち、放熱部材10eは、基材2の端部2a,2bを除く中間部分に多孔質保護層4が接合されている。放熱部材10eは、放熱部材10~10dと同様に、一方の端部2aを発熱部に接合し、他方の端部2bを放熱部に接合することにより、発熱部(熱源)の熱を放熱部で放熱することができる。なお、放熱部材10eは、長手方向の中間部分に多孔質保護層4が設けられているので、中間部分の周囲に存在する部品に熱が加わることを抑制することができる。
【0052】
(実験例)
上記したように、多孔質保護層は、アルミナ主成分(アルミナ繊維及び板状アルミナ粒子)、コージェライト粒子、アルミナゾル、アクリル樹脂及びエタノールを混合した原料スラリーを作成し、基材(窒化アルミニウム、金属)を原料スラリーに浸漬させた後、乾燥及び焼成を行い作成した。本実験例では、アルミナ成分量が多孔質保護層の特性に与える影響を確認するため、アルミナ成分及びコージェライト粒子の割合を変化させ、焼成後の多孔質保護層の状態を確認した。
【0053】
具体的には、アルミナ繊維、板状アルミナ粒子、チタニア粒子及びコージェライト粒子の配合量を図8に示すように変化させ、アルミナ繊維、板状アルミナ粒子、チタニア粒子及びコージェライト粒子の合計が100質量%になるように配合し、さらに、外掛けでアルミナゾル10質量%(アルミナゾルに含まれるアルミナ量1.1質量%)、アクリル樹脂40質量%を加え、エタノールでスラリー粘度を調整して原料スラリーを作成した。なお、試料6、9~13は板状アルミナ粒子を用いておらず、試料1及び7~12はチタニア粒子を用いていない。その後、窒化アルミニウム板(基材)に原料スラリーを塗布し、大気雰囲気200℃で1時間乾燥させた後、大気雰囲気800℃で3時間焼成した。なお、窒化アルミニウム板上に約1.2mmの多孔質保護層が形成されるように、各試料における原料スラリーの塗布回数(窒化アルミニウム板の浸漬回数)を調整した。なお、試料10は、基材として、窒化アルミニウム板に代えて炭化ケイ素板を用いた。また、試料11は、基材として、窒化アルミニウム板に代えて窒化ケイ素板を用いた。
【0054】
焼成後の試料について、外観の評価を行った。外観評価は、目視にて、クラック、剥離等の発生の有無を観察した。図9に、クラック,剥離等が発生しなかった試料に「〇」を付し、クラック,剥離等が発生した試料に「×」を付している。
【0055】
また、作成した試料1~13について、多孔質保護層におけるアルミナ成分の割合(質量%)の測定を行った。また、多孔質保護層及び基材について、気孔率(体積%)、熱伝導率及び熱膨張係数の測定を行った。なお、気孔率、熱伝導率及び熱膨張係数の測定は、多孔質保護層と基材を別個に測定した。アルミナ成分は、ICP発光分析装置((株)日立ハイテクサイエンス製、PS3520UV-DD)を用いてアルミニウム量を測定し、酸化物換算(Al23)した結果を示している。
【0056】
気孔率は、水銀ポロシメーターを用いてJIS R1655(ファインセラミックスの水銀圧入法による成形体気孔径分布試験方法)に準拠して測定した全細孔容積(単位:cm3/g)と、ガス置換式密度測定計(マイクロメリティックス社製、アキュピック1330)により測定した見掛け密度(単位:g/cm3)を用いて、下記式(2)より算出した。
式2:気孔率[%]=全細孔容積/{(1/見掛け密度)+全細孔容積} ×100
【0057】
熱伝導率は、熱拡散率、比熱容量及び嵩密度を乗算し、算出した。熱拡散率は、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置を用い、比熱容量はDSC(示差走査熱量計)を用いて、JIS R1611(ファインセラミックスのレーザーフラッシュ法による熱拡散率・比熱容量・熱伝導率試験方法)に準拠して室温で測定した。また、嵩密度(単位:cm3/g)は下記式(3)から算出した。なお、熱拡散率は上記した原料スラリーをφ10mm×厚み1mmのバルク体に成形し、また、比熱容量は上記した原料スラリーをφ5mm×厚み1mmのバルク体に成形した後、それぞれのバルク体を800℃で焼成して熱拡散率および比熱容量測定用試料を作製し、測定した。
式3:嵩密度=見掛け密度×(1-気孔率[%]/100)
【0058】
熱膨張係数は、上記した原料スラリーを3mm×4mm×20mmのバルク体に成形した後、バルク体を800℃で焼成して測定用試料を作製した。その後、測定用試料を、熱膨張計を用いてJIS R1618(ファインセラミックスの熱機械分析による熱膨張の測定方法)に準拠して測定した。測定結果を図9に示す。
【0059】
図9に示すように、アルミナ成分が15質量%以上の試料(試料1~11)は、焼成後の多孔質保護層にクラック及び剥離が確認されなかった。一方、アルミナ成分が15質量%未満(6質量%,12質量%)の試料12及び13は、焼成後の多孔質保護層にクラック及び剥離が確認された。この結果は、試料12及び13は、アルミナ成分の割合が15質量%未満であるため、セラミックス(粒子、繊維)間の結合力が低下し、多孔質保護層にクラックが発生したと推察される。また、試料12は、試料1~11と比較して、基材に対する多孔質保護層の熱膨張係数比が小さい(α1/α2=0.5)。一方、試料13は、試料1~11と比較して、基材に対する多孔質保護層の熱膨張係数比が大きい(α1/α2=1.3)。この結果は、基材に対する多孔質保護層の熱膨張係数比(α1/α2)が所定の範囲(0.5<α1/α2<1.2)を外れると、基材に無機多孔質層間の熱膨張差に基づいて多孔質保護層が基材から剥離し易くなったためと推察される。以上より、多孔質保護層の構成成分のうちの15質量%以上をアルミナ成分にすることにより、焼成後の多孔質保護層にクラック及び剥離等の劣化が生じにくくなることが確認された。なお、試料5,12の結果より、多孔質保護層に含まれるセラミック繊維(アルミナ繊維)の割合が少なくても(5質量%)、基材及び多孔質保護層の気孔率を適値に調整し、多孔質保護層がセラミック繊維(アルミナ繊維)を含むとともに多孔質保護層のアルミナ成分が15質量%以上であれば、クラック及び剥離の発生を抑制できることが確認された。
【0060】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9