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特許7431186マネージャ、システム、制御方法、制御プログラム、及び車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】マネージャ、システム、制御方法、制御プログラム、及び車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/18 20120101AFI20240206BHJP
   B60W 10/11 20120101ALI20240206BHJP
   B60W 10/184 20120101ALI20240206BHJP
   B60W 40/107 20120101ALI20240206BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20240206BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20240206BHJP
   F16H 63/40 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
B60W30/18
B60W10/11
B60W10/184
B60W40/107
B60T7/12 F
F16H61/02
F16H63/40
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021039545
(22)【出願日】2021-03-11
(65)【公開番号】P2022139254
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 一城
(72)【発明者】
【氏名】末竹 祐介
(72)【発明者】
【氏名】口ノ町 敦史
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-032894(JP,A)
【文献】特開2005-186831(JP,A)
【文献】特許第3858952(JP,B2)
【文献】特開2017-159813(JP,A)
【文献】特開2005-164010(JP,A)
【文献】特開平08-318765(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 ~ 40/13
B60T 7/12 ~ 8/1769
F16H 61/00 ~ 61/02
F16H 63/40 ~ 63/50
F16H 59/14 ~ 59/34
F16H 59/68 ~ 59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたマネージャであって、
複数のADASアプリケーションから複数の行動計画を受け付ける第1の受付部と、
前記複数の行動計画を調停する調停部と、
前記調停部による調停結果に基づいて、運動要求を算出する算出部と、
前記運動要求を少なくとも1つのアクチュエータシステムに分配する分配部と
前記アクチュエータシステムから発生可能な駆動力下限を受け付ける第2の受付部と、を備え、
前記第1の受付部は、前記分配部が前記運動要求を分配する前記アクチュエータシステムに関する情報を、前記行動計画と共に前記ADASアプリケーションから受け付け、
前記分配部は、前記調停部において調停結果として採択された前記行動計画と共に前記第1の受付部が受け付けた前記情報に基づく前記アクチュエータシステムに、前記運動要求を分配し、
前記第1の受付部が前記複数のADASアプリケーションから受け付けた前記複数の行動計画の中に前記駆動力下限に基づくガード値を超える行動計画がある場合、前記調停部は、前記ガード値を超える行動計画を前記ガード値に代えて前記ガード値を超えない行動計画との調停を行う、
マネージャ。
【請求項2】
前記行動計画は、前後加速度であり、
前記駆動力下限は、現在の変速比におけるパワートレインアクチュエータが実現可能な駆動力の下限値であり、
前記少なくとも1つのアクチュエータシステムは、前記パワートレインアクチュエータを含むパワートレインシステムと、ブレーキアクチュエータを含むブレーキシステムとを含む、
請求項1に記載のマネージャ。
【請求項3】
車両に搭載され、1つ以上の電子制御ユニットに実装された複数のADASアプリケーションとマネージャとを備える、システムであって、
前記1つ以上の電子制御ユニットは、前記複数のADASアプリケーションが要求する複数の行動計画を前記マネージャに出力する出力部を備え、
前記マネージャは、
前記複数のADASアプリケーションから前記複数の行動計画を受け付ける第1の受付部と、
前記複数の行動計画を調停する調停部と、
前記調停部による調停結果に基づいて、運動要求を算出する算出部と、
前記運動要求を少なくとも1つのアクチュエータシステムに分配する分配部と
前記アクチュエータシステムから発生可能な駆動力下限を受け付ける第2の受付部と、を備え、
前記第1の受付部は、前記分配部が前記運動要求を分配する前記アクチュエータシステムに関する情報を、前記行動計画と共に前記ADASアプリケーションから受け付け、
前記分配部は、前記調停部において調停結果として採択された前記行動計画と共に前記第1の受付部が受け付けた前記情報に基づく前記アクチュエータシステムに、前記運動要求を分配し、
前記第1の受付部が前記複数のADASアプリケーションから受け付けた前記複数の行動計画の中に前記駆動力下限に基づくガード値を超える行動計画がある場合、前記調停部は、前記ガード値を超える行動計画を前記ガード値に代えて前記ガード値を超えない行動計画との調停を行う、
システム。
【請求項4】
車両に搭載されたマネージャのコンピューターが実行する制御方法であって、
複数のADASアプリケーションから、行動計画と、前記行動計画を実現するために使用するアクチュエータシステムに関する情報とを、それぞれ受け付けるステップと、
前記受け付けた複数の前記行動計画を調停するステップと、
前記調停の結果に基づいて、運動要求を算出するステップと、
前記情報に基づいて、前記運動要求を少なくとも1つの前記アクチュエータシステムに分配するステップと
前記アクチュエータシステムから発生可能な駆動力下限を受け付けるステップと、を含み、
前記分配するステップでは、前記調停の結果として採択された前記行動計画と共に前記ADASアプリケーションから受け付けた前記情報に基づく前記アクチュエータシステムに、前記運動要求を分配し、
前記調停するステップでは、前記複数のADASアプリケーションから受け付けた前記複数の行動計画の中に前記駆動力下限に基づくガード値を超える行動計画がある場合、前記ガード値を超える行動計画を前記ガード値に代えて前記ガード値を超えない行動計画との調停を行う、
制御方法。
【請求項5】
車両に搭載されたマネージャのコンピューターに実行させる制御プログラムであって、
複数のADASアプリケーションから、行動計画と、前記行動計画を実現するために使用するアクチュエータシステムに関する情報とを、それぞれ受け付けるステップと、
前記受け付けた複数の前記行動計画を調停するステップと、
前記調停の結果に基づいて、運動要求を算出するステップと、
前記情報に基づいて、前記運動要求を少なくとも1つの前記アクチュエータシステムに分配するステップと
前記アクチュエータシステムから発生可能な駆動力下限を受け付けるステップと、を含み、
前記分配するステップでは、前記調停の結果として採択された前記行動計画と共に前記ADASアプリケーションから受け付けた前記情報に基づく前記アクチュエータシステムに、前記運動要求を分配し、
前記調停するステップでは、前記複数のADASアプリケーションから受け付けた前記複数の行動計画の中に前記駆動力下限に基づくガード値を超える行動計画がある場合、前記ガード値を超える行動計画を前記ガード値に代えて前記ガード値を超えない行動計画との調停を行う、
制御プログラム。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のマネージャを搭載した、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載されるマネージャなどに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動運転や自動駐車などの自動運転機能を実現する先進運転支援アプリケーション(ADAS(Advanced Driver Assistance System)アプリケーション)が、車両に複数実装されている。特許文献1には、これらの複数のADASアプリケーションから出力される要求をそれぞれ受け付けて、この受け付けた複数の要求を調停し、その調停結果に基づいてアクチュエータシステム(パワートレインアクチュエータやブレーキアクチュエータなどを含むシステム)を駆動するための要求を出力する、マネージャ(制御装置)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-032894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マネージャは、複数のADASアプリケーションから受け付けた複数の要求の大小関係に基づき、所定の選択基準(例えば、Min選択)に従って調停結果として採択する要求を決定する。しかしながら、マネージャは、各ADASアプリケーションの要求を実現するために駆動が適切なアクチュエータシステムを把握していない。このため、任意のADASアプリケーションが現在の車両状況では実現できない行動計画を要求してきたような場合、複数の要求の大小関係に基づいてこの任意のADASアプリケーションの行動計画が調停結果として採択されてしまうおそれがあった。
【0005】
本開示は、上記課題を鑑みてなされたものであり、各ADASアプリケーションの要求を実現するために駆動が適切なアクチュエータシステムを把握することができるマネージャなどを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示技術の一態様は、車両に搭載されたマネージャであって、複数のADASアプリケーションから複数の行動計画を受け付ける第1の受付部と、複数の行動計画を調停する調停部と、調停部による調停結果に基づいて運動要求を算出する算出部と、運動要求を少なくとも1つのアクチュエータシステムに分配する分配部と、を備え、第1の受付部は、分配部が運動要求を分配するアクチュエータシステムに関する情報を、行動計画と共にADASアプリケーションから受け付ける、マネージャである。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、分配部が運動要求を分配するアクチュエータシステムに関する情報を行動計画と共にADASアプリケーションから受け付けるので、マネージャは、各ADASアプリケーションの要求を実現するために駆動が適切なアクチュエータシステムを把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態に係るシステムの構成例を示す概略図
図2】マネージャの調停部が実行する調停制御の処理手順のフローチャート
図3】複数のADASアプリケーションの要求加速度の調停例を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示のマネージャは、アプリケーションから行動計画及びその行動計画を実現するために使用を許可するアクチュエータに関する情報を受け付ける。そして、マネージャは、この行動計画及び情報とパワートレインアクチュエータの駆動力下限とに基づいて、現在の車両状況において実現できない行動計画を要求するアプリケーションの要求を、調停を実施する前に制限する。これにより、マネージャは、各アプリケーションの要求を実現するために駆動が適切なアクチュエータシステムを把握することができ、かつ、複数のアプリケーションから要求される行動計画を適切に調停することができる。
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
<実施形態>
[構成]
図1は、本開示の一実施形態に係る車両に搭載されるシステム1の構成例を示す概略図である。図1に例示したシステム1は、マネージャ10と、運転支援システム20と、複数のアクチュエータシステム30及び40と、を備えている。システム1が備える各構成は、車載ネットワーク100を介して通信可能に接続されている。車載ネットワーク100は、CAN(Controller Area Network)やイーサネット(登録商標)などを例示できる。
【0011】
運転支援システム20は、実装されるアプリケーションを実行することにより、少なくとも車両の駆動制御及び制動制御を含む車両の運転を支援するための様々な機能を実現するための構成である。運転支援システム20が実装するアプリケーションとしては、自動運転の機能を実現する自動運転アプリケーション、自動駐車の機能を実現する自動駐車アプリケーション、及び先進運転支援の機能を実現するADASアプリケーションなどを例示できる。ADASアプリケーションには、衝突回避支援(PCSなど)の機能を実現するアプリケーション、前走車との車間距離を一定に保ちながら走行する前車追従走行(ACCなど)の機能を実現するアプリケーション、走行する車線の維持を行う車線維持支援(LKA、LTAなど)の機能を実現するアプリケーション、衝突の被害を軽減させるために自動的に制動をかける衝突被害軽減ブレーキ(AEBなど)の機能を実現するアプリケーション、車両の走行車線の逸脱を警告する車線逸脱警報(LDW、LDAなど)の機能を実現するアプリケーションなどがある。
【0012】
この運転支援システム20の各アプリケーションは、図示しない各種センサなどから取得(入力)する車両の情報(認識センサ情報など)に基づいて、アプリケーションの要求として、アプリケーション単独での機能性(商品性)を担保した行動計画の要求を、マネージャ10にそれぞれ出力する。この行動計画には、車両に発生させる前後加速度/減速度に関する要求などが含まれる。また、運転支援システム20の各アプリケーションは、行動計画と共に、自身のアプリケーションを一意に特定することができる識別情報(アプリID)を、マネージャ10にそれぞれ出力することができる。このアプリIDは、アプリケーションごとに予めユニークに定められている。さらに、運転支援システム20の各アプリケーションは、自身の行動計画を実現するために使用を許可するアクチュエータに関する情報を、マネージャ10にそれぞれ出力する。この情報は、後述するマネージャ10の分配部14に対して、運動要求を分配するアクチュエータを指示する分配指示でもある。この分配指示については、後述する。
【0013】
この運転支援システム20は、CPUなどのプロセッサ、メモリ、及び入出力インターフェイス(出力部)を有する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)などのコンピューターによって実現される。なお、運転支援システム20を構成するECUの数や、ECUが実装するアプリケーションの数は、特に限定されない。また、運転支援システム20として、アプリケーションごとにそれぞれのECUが設けられてもよい。例えば、自動運転アプリケーションが実装された自動運転ECU、自動駐車アプリケーションが実装された自動駐車ECU、及び先進運転支援アプリケーションが実装されたADAS-ECUによって、運転支援システム20が構成されてもよい。また、ACC機能を実現するADASアプリケーションが実装されたECU、LKA機能を実現するADASアプリケーションが実装されたECU、及びAEB機能を実現するADASアプリケーションが実装されたECUのように、複数のADASアプリケーションが複数のECUに実装されてもよい。
【0014】
複数のアクチュエータシステム30及び40は、運転支援システム20が出力する行動計画の要求を実現するための実現システムの1つである。一例として、アクチュエータシステム30は、車両に制駆動力を発生させることが可能なパワートレインアクチュエータ(エンジンやトランスミッションなど)を含み、パワートレインアクチュエータの動作を制御することによって、行動計画の要求を実現させる。また、一例として、アクチュエータシステム40は、車両に制動力を発生させることが可能なブレーキアクチュエータ(油圧ブレーキ、電動パーキングブレーキなど)を含み、ブレーキアクチュエータの動作を制御することによって、行動計画の要求を実現させる。なお、車両に搭載されるアクチュエータシステムの数は、特に限定されない。
【0015】
マネージャ10は、運転支援システム20から受け付ける行動計画の要求に基づいて、車両の運動に関する制御内容を決定し、この決定した制御内容に基づいてアクチュエータシステム30及び/又は40に対して必要な要求を出力する。また、マネージャ10は、運転支援システム20から行動計画の要求と共に取得した分配指示に基づいて、複数のアクチュエータシステム30及び/又は40に運動要求の分配を行う。
【0016】
このマネージャ10は、いわゆる車両の運動に関わるADAS-MGRやVehicle-MGRなどとして、あるいはADAS-MGRやVehicle-MGRの一部として機能し、車両の動きを制御する。マネージャ10は、受付部11と、調停部12と、算出部13と、分配部14と、を含む。
【0017】
受付部11(第1の受付部)は、運転支援システム20の複数のアプリケーションが出力する行動計画の要求及び分配指示を受け付ける。本実施形態における行動計画としては、車両の前後方向(縦方向)運動に関する加速度を例示することができる。また、受付部11(第2の受付部)は、パワートレインアクチュエータを含むアクチュエータシステム30から、駆動力下限(アベイラビリティ下限)を受け付ける。駆動力下限とは、パワートレインアクチュエータが現在の変速比(ギア段)においてアクセルペダルを踏み込まないアクセル全閉状態で実現可能な駆動力の下限値(最小駆動力)である。受付部11が受け付けた行動計画の要求及び駆動力下限は、調停部12に出力される。
【0018】
調停部12は、受付部11が運転支援システム20の各アプリケーションから受け付けた複数の行動計画の要求を調停する。この調停の処理としては、所定の選択基準(例えば、Min選択)に基づいて複数の行動計画の中から1つの行動計画を選択することが例示できる。また、他の調停処理として、複数の行動計画に基づいて新たな行動計画を設定することもできる。このとき、調停部12は、各アプリケーションから受け付けた分配指示とアクチュエータシステム30から取得する駆動力下限とに基づいて、複数の行動計画の要求を調停する。この調停については、後述する。
【0019】
算出部13は、調停部12における行動計画の要求の調停結果に基づいて、運動要求を算出する。この運動要求は、アクチュエータシステム30/又は40を制御するための物理量であり、行動計画の要求の物理量とは異なる。例えば、行動計画の要求(第1の要求)が加速度である場合には、運動要求(第2の要求)として駆動力や駆動トルクを算出することができる。これにより、加速度の要求が駆動力や駆動トルクの要求に変換される。
【0020】
分配部14は、算出部13によって算出された運動要求を少なくとも1つのアクチュエータシステム30及び/又は40に分配する。この際、分配部14は、調停部12において調停結果として採択された行動計画と共に受付部11が受け付けた分配指示によって指示されたアクチュエータシステムに、運動要求を分配する。例えば、エンジンのみを使用するといった分配指示であれば、分配部14は、パワートレインアクチュエータを含むアクチュエータシステム30のみに運動要求を全て分配する。また例えば、エンジンとブレーキとを併用するといった分配指示であれば、分配部14は、パワートレインアクチュエータを含むアクチュエータシステム30と、ブレーキアクチュエータを含むアクチュエータシステム40とに、運動要求を適切に分配する。
【0021】
なお、以上説明した、車両に搭載されたマネージャ10、運転支援システム20、及びアクチュエータシステム30及び40の構成は一例であって、適宜、追加、置換、変更、省略などが可能である。また、各機器の機能は適宜1つの機器に統合したり複数の機器に分散したりして実装することが可能である。
【0022】
[制御]
図2をさらに参照して、本実施形態に係るマネージャ10が実行する制御を説明する。図2は、マネージャ10の調停部12が実行する調停制御の処理手順を説明するフローチャートである。
【0023】
図2に示す調停制御は、マネージャ10の受付部11が、運転支援システム20のアプリケーションから行動計画の要求を受け付けると開始される。本実施形態では、行動計画の要求として、各アプリケーションから要求加速度を受け付ける例を説明する。
【0024】
(ステップS201)
調停部12は、受付部11を介して、複数のアプリケーションから要求加速度と分配指示とを取得する。調停部12が、複数のアプリケーションの要求加速度と分配指示とを取得すると、ステップS202に処理が進む。
【0025】
(ステップS202)
調停部12は、アプリケーションの分配指示が、要求加速度の実現にパワートレインアクチュエータの駆動力下限(アベイラビリティ下限)の影響を受けてしまうアクチュエータであるエンジンの使用のみを許可する「エンジンのみ」であるか否かを判断する。「エンジンのみ」とは異なる分配指示である「エンジンのみ以外」の分配指示としては、要求加速度の実現にパワートレインアクチュエータの駆動力下限の影響を受けない(あるいは受けにくい)アクチュエータであるブレーキの使用のみを許可する「ブレーキのみ」や、エンジンとブレーキとの両方の使用を許可する「エンジン/ブレーキ併用」などを例示できる。もちろん、ブレーキ以外にもパワートレインアクチュエータの駆動力下限の影響を受けない(あるいは受けにくい)他のアクチュエータを用いて分配指示を行っても構わない。
【0026】
調停部12が、アプリケーションの分配指示が「エンジンのみ」であると判断した場合は(ステップS202、はい)、ステップS203に処理が進む。一方、調停部12が、アプリケーションの分配指示が「エンジンのみ」以外であると判断した場合は(ステップS202、いいえ)、まだ処理を行っていない他のアプリケーションについて処理が行される。
【0027】
(ステップS203)
調停部12は、分配指示が「エンジンのみ」であるアプリケーションについて、そのアプリケーションの要求加速度がガード値を超えるか否かを判断する。このガード値は、車両が実現可能な制駆動力を超える行動計画をアプリケーションが要求してしまったことに対する調停の影響を抑制するために設定された値である。本実施形態では、ガード値として、パワートレインアクチュエータの駆動力下限(アベイラビリティ下限)から算出される(変換される)加速度を用いる。
【0028】
調停部12が、アプリケーションの要求加速度がガード値を超えると判断した場合は(ステップS203、はい)、ステップS204に処理が進む。一方、調停部12が、アプリケーションの要求加速度がガード値を超えないと判断した場合は(ステップS203、いいえ)、ステップS202に処理が進んで、まだ処理を行っていない他のアプリケーションについて処理が行われる。
【0029】
(ステップS204)
調停部12は、ガード値を超えるアプリケーションの要求加速度を、ガード値に制限する。すなわち、分配指示が「エンジンのみ」であるアプリケーションの要求加速度がガード値を超える場合には、そのアプリケーションからの要求加速度が、ガード値の加速度(制限加速度)に差し替えられる。調停部12が、アプリケーションの要求加速度をガード値に制限すると、ステップS205に処理が進む。
【0030】
上述したステップS202~S204の処理は、調停部12が行動計画の要求として要求加速度を取得した全てのアプリケーションについて実施される。
【0031】
(ステップS205)
調停部12は、各アプリケーションから要求された複数の要求加速度を調停する。この調停対象となる複数の要求加速度には、分配指示が「エンジンのみ以外」のアプリケーションが要求するオリジナルの要求加速度と、分配指示が「エンジンのみ」のアプリケーションが要求する要求加速度をガード値で制限した制限加速度と、が含まれる。調停部12が、複数の要求加速度の調停を実施すると、本調停制御が終了する。
【0032】
[具体例]
図3に、複数のADASアプリケーションから取得した複数の要求加速度の調停(Min選択)に関する例を具体的に説明する。図3では、ADASアプリケーションAが「エンジンのみ」の分配指示によって要求加速度(実線)を、ADASアプリケーションBが「エンジン/ブレーキ併用」の分配指示によって要求加速度(一点鎖線)を、それぞれ出力する例を示している。
【0033】
時間t<t1の期間では、分配指示が「エンジンのみ」であるADASアプリケーションAの要求加速度がガード値を超えない(ガード値よりも小さくならない)。このため、ADASアプリケーションAの要求加速度(オリジナル)とADASアプリケーションBの要求加速度との間で、調停が行われる。そして、調停の結果として、最小値であるADASアプリケーションAの要求加速度が採択される(黒色の実線)。
【0034】
t1≦時間t<t2の期間では、分配指示が「エンジンのみ」であるADASアプリケーションAの要求加速度がガード値を超える(ガード値よりも小さくなる)ため、ADASアプリケーションAの要求加速度(実線)がガード値(点線)に制限される。よって、ADASアプリケーションAの要求加速度として制限されたガード値とADASアプリケーションBの要求加速度との間で、調停が行われる。図3の例では、この期間はまだガード値がADASアプリケーションBの要求加速度よりも小さいため、ガード値(制限加速度)が調停結果として採択される(黒色の点線)。
【0035】
時間t≧t2の期間では、分配指示が「エンジンのみ」であるADASアプリケーションAの要求加速度がガード値を超える(ガード値よりも小さくなる)ため、ADASアプリケーションAの要求加速度(実線)がガード値(点線)に制限される。よって、ADASアプリケーションAの要求加速度として制限されたガード値とADASアプリケーションBの要求加速度との間で、調停が行われる。しかし、図3の例では、この期間はADASアプリケーションBの要求加速度がガード値よりも小さいため、ADASアプリケーションBの要求加速度が調停結果として採択される(黒色の一点鎖線)。すなわち、ADASアプリケーションAよりもADASアプリケーションBの要求の方が実現されるべき期間では、要求加速度の大小関係によらずADASアプリケーションBの要求加速度が調停によって採択される。
【0036】
上述したガード値を用いた制限によって、例えばパワートレインアクチュエータの駆動力下限(アベイラビリティ下限)から算出される車両が実現可能な最小の加速度が「-1m/s」である状況において、ADASアプリケーションAが「-3m/s」の要求加速度を、ADASアプリケーションBが「-2m/s」の要求加速度を、それぞれ要求してきた場合には、調停処理の前にADASアプリケーションAの要求がガード値「-1m/s」に制限される。これにより、要求加速度の大小関係だけで「エンジンのみ」を使用するADASアプリケーションAが調停によって採択されてしまい、実際の車両では「-1m/s」しが出力できなかったという事態が生じてしまうことを回避することができる。
【0037】
<作用・効果>
以上のように、本開示の一実施形態に係るシステムでは、マネージャは、運転支援システムの各アプリケーションから、行動計画(要求加速度)と共にその行動計画を実現するために使用を許可するアクチュエータに関する情報(分配指示)を受け付ける。これにより、マネージャは、各アプリケーションの要求を実現するために駆動が適切なアクチュエータシステムを把握することができる。
【0038】
また、本実施形態に係るマネージャは、運転支援システムの各アプリケーションが出力する要求加速度及び分配指示と、パワートレインアクチュエータの駆動力下限(アベイラビリティ下限)とに基づいて、現在の車両状況において実現できない行動計画を要求するアプリケーションの要求を、調停を実施する前に制限する。これにより、マネージャは、各アプリケーションの行動計画(要求加速度)を現実的な内容に差し替えてから調停を行うことができるため、複数のアプリケーションからの行動計画の要求を適切に調停することができる。
【0039】
以上、本開示技術の一実施形態を説明したが、本開示は、車両に搭載されるマネージャだけでなく、電子制御ユニット、電子制御ユニットとマネージャとを含むシステム、プロセッサとメモリを備えたマネージャが実行する制御方法、制御プログラム、制御プログラムを記憶したコンピューター読み取り可能な非一時的な記憶媒体、あるいはマネージャを備えた車両など、として捉えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本開示は、車両などに搭載されるマネージャなどに有用である。
【符号の説明】
【0041】
1 システム
10 マネージャ
11 受付部
12 調停部
13 算出部
14 分配部
20 運転支援システム
30、40 アクチュエータシステム
100 車載ネットワーク
図1
図2
図3