(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】アルカリ二次電池の制御方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/44 20060101AFI20240206BHJP
H01M 4/52 20100101ALI20240206BHJP
H01M 10/30 20060101ALI20240206BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
H01M10/44 P
H01M4/52
H01M10/30 Z
H02J7/00 A
(21)【出願番号】P 2021069738
(22)【出願日】2021-04-16
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】室田 洋輔
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-139520(JP,A)
【文献】特開2004-319365(JP,A)
【文献】特開2000-150000(JP,A)
【文献】特開2006-345598(JP,A)
【文献】特開2020-136198(JP,A)
【文献】特開2000-106219(JP,A)
【文献】特開平08-149709(JP,A)
【文献】特表2018-518017(JP,A)
【文献】特開2004-171864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/44
H01M 4/52
H01M 10/30
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化ニッケルを主成分とする活物質を含む正極、及びアルカリ水溶液からなる電解液を有するアルカリ二次電池を充放電するアルカリ二次電池の制御方法であって、
SOCが40%以上、100%以下の範囲の状態に
おいて前記電解液の液量が予め設定した閾値より少なくなった場合に実行される充電において、
一定の分極状態が残存するとともに、正極の活物質の粒子表面の電位状態にムラを形成させ局所的に酸素を発生させるように行われる放電レートが15C以上で間欠的に放電を行う間欠放電を行うことを特徴とするアルカリ二次電池の制御方法。
【請求項2】
前
記充電の後、当
該充電の充電レートより大きな電流で急速に放電する急速放電を行うことを特徴とする
請求項1に記載のアルカリ二次電池の制御方法。
【請求項3】
前記間欠放電は、SOC3%を充電する間に定期的な間隔で、2回以下の割合で放電を行うことを特徴とする
請求項1又は2に記載のアルカリ二次電池の制御方法。
【請求項4】
前記間欠放電は、SOC3%を充電する間に定期的な間隔で、1回以上の割合で放電を行うことを特徴とする
請求項3に記載のアルカリ二次電池の制御方法。
【請求項5】
前記間欠放電は、放電レートが25C
以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のアルカリ二次電池の制御方法。
【請求項6】
前記アルカリ二次電池の制御方法は、駆動用に車両に搭載されたアルカリ二次電池に対して行われる制御方法であり、
予め設定された出力時の電圧降下量と電解液の液量と関係に基づき、出力した際の電圧降下量が閾値V1以上であるときに、前記電解液の液量が予め設定した閾値より少なくなったと判断して、前
記充電が実行されることを特徴とする
請求項1に記載のアルカリ二次電池の制御方法。
【請求項7】
前記車両が、ハイブリッド自動車であることを特徴とする
請求項6に記載のアルカリ二次電池の制御方法。
【請求項8】
前記アルカリ二次電池が、ニッケル水素蓄電池であることを特徴とする
請求項1~7のいずれか一項に記載のアルカリ二次電池の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ二次電池の制御方法に係り、詳細には、電解液が減少したときに電池寿命を延命するアルカリ二次電池の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータジェネレータを搭載したハイブリッド自動車等は、二次電池に蓄えられた電力により、モータジェネレータを電動機として車両を駆動している。また、二次電池に蓄えられた電力が不足すると車載された内燃機関を駆動してモータジェネレータを発電機として発電し二次電池に電力を蓄える。また、このような電気自動車の特有な機能として、回生制動がある。回生制動は、車両制動時、電動機を発電機として機能させることにより、車両の運動エネルギーを電気エネルギーに変換し、制動を行うものである。また、得られた電気エネルギーは二次電池に充電され、加速等を行う時に再利用される。このような二次電池においてニッケル水素蓄電池のようなアルカリ二次電池は、大電流の充放電が可能であることから車両用として広く普及している。
【0003】
このような車両に搭載されたニッケル水素蓄電池は、充電の際の電圧上昇に伴い充電の副反応でガスが発生し二次電池の内圧が上昇する。主に正極で酸素ガスが発生し、内圧が上昇することがある。発生したガスにより内圧が一定の水準以上に高まると、排気弁から気体が排出する開弁が生じることがある。ガス排出弁が作動すると、酸素、水素などの気体とともに電解液が噴出して電池系外へ放出される。これによって、セパレータ中の電解液の枯渇(セパレータドライアウト)が起こり、内部抵抗が上昇し、容量低下が起こる。従って、電池寿命を改善するためには、電解液を十分に確保する必要がある。
【0004】
そこで、特許文献1に開示された発明では、充電に放置期間を挟むことにより充電に伴う副反応(ガス発生)や過電圧の電気化学劣化を抑制し、電解液の減少を抑制する発明が開示されている。
【0005】
また、特許文献2に開示された発明では、副反応で発生するガスの量から電池内圧を推定することで、開弁を抑制する制御方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-45674号公報
【文献】特開2011-239573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1や特許文献2に記載されたような発明は、電気化学劣化を抑制したり、開弁を回避したりして、セパレータ中の電解液の枯渇(セパレータドライアウト)が起きないようにする予防的な発明である。
【0008】
しかしながら、実際に開弁を生じてしまったり、電槽のピンホールや割れ、溶着部の不良、樹脂製の電池ケースからの水分透過で経時的に電解液が減少してしまったりすることがある。
【0009】
本発明のアルカリ二次電池の制御方法は、実際に開弁を生じてしまったり、樹脂製の電池ケースからの水分透過などの理由で経時的に電解液が減少したりしても、事後的に電池寿命を延命することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の課題を解決するため、水酸化ニッケルを主成分とする活物質を含む正極、及びアルカリ水溶液からなる電解液を有するアルカリ二次電池を充放電するアルカリ二次電池の制御方法であって、SOCが設定された高SOC状態における高SOC充電において、間欠的に放電を行う間欠放電を行うことを特徴とする。
【0011】
前記高SOC充電は、SOCが40%以上の範囲で行うことが好ましく、前記高SOC充電は、SOCが100%以下の範囲で行うことが好ましい。
前記間欠放電は、一定の分極状態が残存するとともに、正極の活物質の粒子表面の電位状態にムラを形成させ局所的に酸素を発生させるように行われることを特徴とする。
【0012】
前記高SOC充電の後、当該高SOC充電の充電レートより大きな電流で急速に放電する急速放電を行うことも好ましい。前記急速放電は、放電レートが1C以上であることが好ましい。
【0013】
前記間欠放電は、SOC3%を充電する間に定期的な間隔で、2回以下の割合で放電を行うことが好ましく、前記間欠放電は、SOC3%を充電する間に定期的な間隔で、1回以上の割合で放電を行うことも好ましい。前記間欠放電は、放電レートが15~25Cであることも好ましい。
【0014】
前記高SOC充電は、前記電解液の液量が予め設定した閾値より少なくなった場合に実行されることが好ましい。
前記アルカリ二次電池の制御方法は、駆動用に車両に搭載されたアルカリ二次電池に対して行われる制御方法であり、予め設定された出力時の電圧降下量と電解液の液量と関係に基づき、出力した際の電圧降下量が閾値V1以上であるときに、前記電解液の液量が予め設定した閾値より少なくなったと判断して、前記高SOC充電が実行されることを特徴とする。前記車両が、ハイブリッド自動車において好適に実施できる。また、前記アルカリ二次電池が、ニッケル水素蓄電池において好適に実施できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアルカリ二次電池の制御方法によれば、実際に開弁を生じてしまったり、樹脂製の電池ケースからの水分透過で経時的に電解液が減少してしまったりしても、事後的に電池寿命を延命することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態のハイブリッド自動車のニッケル水素蓄電池の制御装置のブロック図。
【
図2】(a)は、ニッケル水素蓄電池の正極の活物質の粒子表面の充電時の反応における酸素を示す模式図。(b)は、放電時の正常な正極の主反応と、酸素が発生し、局所的な液枯れを起こした場合の副反応を示す反応式。
【
図3】予備充電PCと、間欠放電IDを含む高SOC充電HCと、急速放電QDのSOCを示すタイムチャート。
【
図4】高SOC充電における、SOC3%あたりの間欠放電の回数と、酸素発生量[g]との関係を示すグラフ。
【
図5】本実施形態のニッケル水素蓄電池の電池モジュールの一部の断面図。
【
図6】本実施形態のニッケル水素蓄電池の制御方法の手順を示すフローチャート。
【
図7】本実施形態の間欠放電IDを含む高SOC充電HCと、急速放電QDの手順を含む充放電制御の手順を示すサブルーチンのフローチャート。
【
図8】、0.1秒の短時間出力をしたときの「出力時の電圧降下量[ΔV]」と、「電解液量[g]」との関係を、実験により取得したマップ。
【
図9】「総放電電気量[Ah]」と、電解液の液量[g]との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のアルカリ二次電池の制御方法を、ニッケル水素蓄電池の制御方法の一実施形態を用いて
図1~9を参照しながら説明する。
<ハイブリッド自動車の車両の構成>
図1は、本実施形態のニッケル水素蓄電池の制御方法を実施するハイブリッド自動車の制御装置のブロック図である。
【0018】
本実施形態のニッケル水素蓄電池の電池モジュール90が搭載されるハイブリッド自動車は、走行用のモータとジェネレータ(発電機)の機能を併せ持つモータジェネレータ17を備える。モータジェネレータ17は、電池モジュール90から電力の供給を受けてモータとして車両を駆動して走行させる。また、車両の制動時には、回生制動を行ってモータジェネレータ17により力学エネルギーを電気エネルギーに変換する。回生した電気エネルギーを電池モジュール90蓄える。また、ガソリンエンジンからなる内燃機関18は、モータジェネレータ17を回転駆動して発電する。インバータ20は、モータジェネレータ17からの電流の入出力を行う。また、インバータ20は、電池モジュール90に対する充放電を行う。さらに、エアコンディショナや照明などの負荷に電力を供給する。このインバータ20は、インバータのみならずコンバータとしても機能し、かつ入出力の電気の最適化を行う。
【0019】
<本実施形態の課題>
このようなハイブリッド自動車は、省エネルギー、環境保護、経済性、動力性、耐久性などにより世界で広く普及している。ハイブリッド自動車が使用される地域は様々である。例えば、高温多湿な熱帯雨林で使用される場合がある。また、乾燥し気温の日隔差が大きい砂漠で使用される場合がある。さらに低温で気圧が低い悪路の山岳地で使用される場合がある。このような過酷な環境では、車載のニッケル水素蓄電池にとっても過酷な環境となる。そのため、内部でガスが発生して実際に開弁を生じてしまったりすることがある。また、激しい振動や温度差などから電槽のピンホールや割れ、溶着部の不良を生じやすい。さらに、高温で乾燥した環境や、気圧の激しい変化などの環境では樹脂製の電池ケースからの水分透過で電解液が減少しやすくなる。
【0020】
さらに、急加速による急速放電、低SOCからの急速充電や、低温環境下での急速充電、過放電などはニッケル水素蓄電池の劣化を進行させ、電解液の減少を招く場合がある。特に、電池内圧が高まり開弁したような場合は、気体の放出とともに、電解液の噴出により電解液が失われる。
【0021】
そこで、本実施形態のニッケル水素蓄電池の制御方法では、このような電解液の減少に対応できる充放電方法とした。
<本実施形態の原理>
<酸素の発生>
正極の電位が所定の電位まで高くなると、水の電気分解の電位に達し、副反応として水の電気分解が生じる。水の電気分解では、正極では、以下の(1)式のような反応によりO2が発生する。
【0022】
4OH
-→O
2+2H
2O+4e
-……(1)
<正極の活物質の粒子の表面>
図2(a)は、ニッケル水素蓄電池の正極の活物質の粒子表面の充電時の反応における酸素を示す模式図である。正極の活物質の粒子は、充放電によりNi(OH)
2とβ-NiOOHとの間で変化する。
図2(a)に示すように、正極の活物質であるNi(OH)
2/β-NiOOHの表面が充電により高い電位になると、上述した(1)式に示すような副反応を生じて、O
2の気泡Bのように正極の活物質の粒子表面に発生する。充電時の正極でO
2が発生すると、正極の活物質の粒子界面にそのまま酸素の気泡Bが付着する。正極の活物質の粒子界面に付着したO
2の気泡は、正極の活物質の界面のH
2OやOH
-を物理的に排除することとなり、その部分は、局所的な「液枯れ」となる。ここにはH
2OもOH
-も、物理的に存在しない。
【0023】
このO
2の気泡Bは、時間が経過すると、気泡Aのように正極の活物質の粒子表面から離脱する。
<放電時の正極における反応>
図2(b)は、放電時の正常な正極の主反応と、酸素が発生し、局所的な液枯れを起こした場合の異常な副反応を示す反応式である。
【0024】
ニッケル水素蓄電池の放電時の正常な主反応は、以下の(2)式のように、H2Oの存在を前提に、β-NiOOHから、Ni(OH)2とOH-が生成される。この場合、電解液のH2Oは消費されて減少することになる。OH-は、電解液のアルカリイオンとして働く。
【0025】
β-NiOOH+H2O+e-→Ni(OH)2+OH-……(2)
通常は、電解液に十分なH2Oが存在するので、何ら問題はない正常な反応である。
一方、正極が高い電位となりH2Oの電気分解が生じているような場合は、上述(1)式のような反応によりO2が生成される。充電時の正極でO2が発生すると、最初に正極の活物質の粒子界面に酸素の気泡Bが付着する。そうすると、上述のような局所的な「液枯れ」の状態となり、H2Oが供給されない。そうすると、上記(1)式のような反応が生じない。
【0026】
この「液枯れ」の場合、ニッケル水素蓄電池の放電時の異常な副反応が生じ、以下の(3)式のような反応となる。
16β-NiOOH+4e-→8Ni2O3H+H2O+O2+4OH-……(3)
つまり、H2Oを使わずに反応し、逆にH2Oを生成する。その他の生成物として、Ni2O3Hと、O2と、OH-とを生成する。このうち、O2は、時間が経過すると以下に示す(4)式のようにセパレータを介し、負極にてスムーズに吸収され(リコンビネーション反応)、密閉系を保っている。
【0027】
4MH+O2→4M+2H2O……(4)
ここで、Ni2O3Hについては、電気化学的に不活性な生成物であり、Ni2O3Hが発生すると、電池抵抗の上昇や電池容量の低下を引き起こすことが問題とされている。そのため、Ni2O3Hの発生は好ましくないとして通常では抑制される。
【0028】
しかしながら、H2Oの枯渇と、Ni2O3Hの発生とのメリット・デメリットを比較すると、H2Oの枯渇は、直ちに電池の主反応を損ない、電池抵抗が上昇し、出力低下を招く。一方、Ni2O3Hの発生は、電池抵抗の上昇や電池容量の低下はあるものの、その低下量はH2Oの枯渇と比較すれば少なく、そのハイブリッド自動車の運用に対する深刻度は小さいといえる。
【0029】
すなわち、本実施形態のニッケル水素蓄電池の制御方法は、ハイブリッド自動車の運用にとって深刻度が大きいH2Oの枯渇を回避するために、緊急避難的により深刻度の小さいNi2O3Hの発生をあえて許容する発明である。
【0030】
<本実施形態の手順の概要>
図3は、予備充電PCと、間欠放電IDを含む高SOC充電HCと、急速放電QDのSOCを示すタイムチャートである。
【0031】
図3における開始SOCは、例えば40%以上である。この40%以上のSOCの状態を、本願では「高SOC状態」という。また、この高SOC状態から開始する充電を、本願では、「高SOC充電H」という。高SOC充電HCの充電レートは、例えば2C以上である。
【0032】
高SOC充電HCは、SOC100%を超えている場合は基本的に行わない。ただし、緊急度が高いと判断した場合は、過充電の状態としてもよい。高SOC充電HCは、目標SOC、例えばSOC100%まで行われる。
【0033】
間欠放電IDは、高SOC充電HCの途中で、基本的に一定間隔t2で行われる放電である。間欠放電IDは、一定の分極状態が残存するとともに、Ni(OH)2粒子表面の充電状態にムラを形成させ局所的に酸素を発生させるように行われる。このため、十分な分極状態を残存させるために、t2の間隔には下限を設ける。一方、間隔が長すぎると、正極の電位が平均化した電位のムラが生じにくくなる。そのためニッケル水素蓄電池の構成や、いろいろな条件により最適化される。本実施形態の間欠放電IDは、SOC3%を充電する間に定期的な間隔で、1回以上2回以下の割合で間欠放電IDを行う。
【0034】
間欠放電IDの放電レートは、1C以上で設定することができ、より好ましくは15C以上である。15C以上であれば、好適に電位ムラを生じさせることができる。また、このレートは、電位ムラを生じさせる観点からは、ハイレートほど好ましく、具体的には、車両システムの上限(具体的には25C程度)まで上げることができる。
【0035】
また、高SOC充電HCによりニッケル水素蓄電池のSOCが目標SOC、例えば100%になったら高SOC充電HCを終了する。そして、直ちに急速放電QDを行う。急速放電QDは、高SOC充電HCの後、H2Oの生成のため高SOC充電HDの充電レートより大きな電流で急速に放電する。本実施形態では、急速放電QDは、放電レートが1C以上である。
【0036】
(本実施形態の作用)
<高SOC充電によるO
2の発生>
高SOC充電HCは、正極の活物質の粒子表面に、
図2(a)の気泡Bのように、O
2の気泡を形成することが目的である。そのため高SOC充電HCは、正極の活物質の粒子表面の充電状態にムラを形成させる。正極の活物質の粒子表面の充電状態にムラを形成させるためには、高SOC充電HCの途中で電流を急激に反転させて正極の充電による分極を解消する。つまり、例えば25Cのハイレートの間欠放電IDを行う。電流を急激に反転させることで、正極の活物質の粒子表面の充電状態にムラを生じる。間欠放電IDの回数が所定の回数より多いと充電ムラは生じるが分極が解消されてしまう。分極が解消されてしまうと、正極の電位が低下する。正極の電位が低下するとH
2Oの電気分解の電位を下回り酸素の発生量が減少する。
【0037】
一方、間欠放電の回数が所定の回数より少ないと、粒子表面としては平均的には高い充電状態になり電位は上昇する。しかしながら正極の活物質の粒子の表面が均一に充電され、局所的な電位のムラはなくなるため、局所的に酸素が発生することもなくなる。
【0038】
図4は、高SOC充電HCにおける、SOC3%あたりの間欠放電IDの回数と、酸素発生量[g]との関係を示すグラフである。高SOC充電HCにおける、SOC3%あたりの間欠放電IDの回数と、酸素発生量[g]との関係をみると、間欠放電IDの回数が概ね「1回/SOC3%」の酸素発生量[g]は、ピークO
Pとなった。また、間欠放電IDの回数が概ね「2回/SOC3%」の酸素発生量[g]は、高濃度O
Hとなった。さらに、間欠放電IDの回数が「0回/SOC3%」の酸素発生量[g]は、濃度O
0となった。酸素発生量の見地のみからは、間欠放電IDが「0~2回/SOC3%」において酸素が十分発生しているものと判断できる。
【0039】
一方、本実施形態では、正極の活物質の粒子の表面において、局所的な電位のムラにより局所的にO2を発生させ、その状態でNi2O3Hを発生させることが目的である。高SOC充電HCの継続時間が長すぎると正極の電位が平均化されてしまう。そうすると、その効果を確実にするためには、間欠放電IDが「1回/SOC3%」より多いのが望ましいといえる。
【0040】
以上のような点から、間欠放電IDの回数は、「1~2回/SOC3%」であることが望ましい。
本実施形態では、高いSOC状態、たとえば40%以上から2C以上のハイレートで高SOC充電HCを行う。本実施形態の間欠放電IDは、この高SOC充電HCの間に、SOC3%を充電する間に定期的な間隔で、1回以上2回以下の割合で、25Cのハイレートで間欠放電IDを行う。このように設定することで基本的に高SOC充電HCにより、正極の分極が生じる。これとともに、時間t2の間隔で行われる間欠放電IDにより、正極の活物質の粒子の表面に局所的な電位のムラが生じ、局所的に
図2(a)のO
2の気泡BのようなO
2の気泡が正極の活物質の粒子の表面に発生する。
【0041】
<間欠放電IDによるH
2Oの発生>
ここで、
図2(a)及び
図2(b)を参照して、間欠放電IDについて説明する。
本実施形態のような高SOC充電HCを行わない場合、つまり、40%未満の低いSOCである低SOC状態での充電では、O
2の発生はほとんどない。さらに、充電レートが2C未満では、同様にO
2の発生は比較的少なくなる。
【0042】
一方、本実施形態の高SOC充電HCでは、高SOC充電では、
図3に示す開始SOCが40%以上に設定されており、その後もSOCの高い高SOC状態での充電となる。さらに、本実施形態の場合は、高SOC充電HCは、2C以上のハイレートで充電する。このため正極電位が高いだけでなく分極も強く生じる。この高電位のためO
2が多く発生する。
【0043】
図2(a)に示すように、このような状態から一気に25Cのハイレートで間欠放電IDを行うと、正極の活物質の粒子の表面で発生したO
2は、気泡Bのように正極の活物質の粒子の表面にとどまったままである。
【0044】
そうすると、間欠放電IDのときには、正極活物質の粒子表面にO2の気泡が付着している場合は、その部分の電解液が局所的に枯渇し、H2O、OH-が存在しない。
そうすると、β-NiOOHは、H2Oなしで反応し、以下の(4)式のように、異常な副反応となり、Ni2O3Hが不可逆的に生成されてしまう。
【0045】
16β-NiOOH+4e-→8Ni2O3H+2H2O+O2+4OH-…(4)
一方、この副反応では、まず第1にH2Oを消費することがない。そのため、電解液が減少し、セパレータ中の電解液の枯渇(セパレータドライアウト)を引き起こしそうな状態でも、この反応は、問題なくできる。
【0046】
次に、この副反応では、逆にH2Oを生成する。したがってセパレータ中の電解液の枯渇を引き起こしそうな状態において、電解液にH2Oを補充することができる。その結果、セパレータ中の電解液の枯渇を有効に回避することができる。
【0047】
なお、確かにNi2O3Hの発生は好ましいものではない。しかしながらセパレータ中の電解液の枯渇が直ちに電池容量の急激な低下を招きハイブリッド自動車の運用に深刻な影響を与える。この影響と利益衡量をすれば、Ni2O3Hの発生による電池抵抗の増加や電池容量の低下は、一時的なものであればハイブリッド自動車の運用に深刻な影響を与えることがない。よって、緊急避難的なニッケル水素蓄電池の制御方法として、実用上極めて効果的な作用を奏する。
【0048】
<急速放電QDによるH
2Oの発生>
図3に示すように、本実施形態では、間欠放電IDを挟みながら高SOC充電HCにより時間t3で電池のSOCが目標SOC(例えば100%)に達したら、時間t3から急速放電QDを行う。
【0049】
図2(a)に示すように、高SOC充電HC直後では、正極の活物質の粒子の表面には、O
2の気泡Bが付着している。このO
2の気泡Bは、正極の活物質の粒子の表面においてH
2O、OH
-との反応を妨げる。しかしながらこのO
2の気泡Bは、時間の経過とともに、気泡Aのように正極の活物質の粒子の表面から離脱する。そうすると、その結果、
図2(b)のAに示すようなH
2Oを消費する主反応を生じ、Bに示す式のようなNi
2O
3Hを生成する副反応は生じない。
【0050】
そこで、気泡Aのように正極の活物質の粒子の表面から離脱する前に、気泡Bの状態で急速放電QDを行うことで、Ni2O3Hを生成する副反応を生じさせる。これにより、電解液のH2Oを消費せず、かつH2Oを生成して電解液のH2Oを補充することができる。その結果、セパレータ中の電解液の枯渇(セパレータドライアウト)を有効に回避することができる。
【0051】
(本実施形態の構成)
以下、本実施形態の制御方法を実施する構成を詳細に説明する。
<ニッケル水素蓄電池>
図5は、本実施形態のニッケル水素蓄電池の電池モジュール90の一部の断面図を示す。
図5に示すように、ニッケル水素蓄電池は、密閉型電池であり、電気自動車やハイブリッド自動車等の車両の電源として用いられる電池である。車両に搭載されるニッケル水素蓄電池としては、所要の電力容量を得るべく、複数の単電池110を電気的に直列接続して構成された電池モジュール90からなる角形密閉式の二次電池が知られている。
【0052】
電池モジュール90は、複数の単電池110を収容可能な一体電槽100と、この一体電槽100を封止する蓋体200とによって構成される直方体状の角形ケース300を有している。なお、この角形ケース300は、樹脂製のものを用いることができる。
【0053】
角形ケース300を構成する一体電槽100は、アルカリ性の電解液に対して耐性を有する合成樹脂材料、例えばポリプロピレンやポリエチレン等により構成されている。そしてこの一体電槽100の内部には、複数の単電池110を区画する隔壁120が形成されており、この隔壁120によって区画された部分が、単電池110毎の電槽130となる。一体電槽100は、例えば、6つの電槽130を有しており、
図1には、その一部の4つが示されている。
【0054】
こうして区画された電槽130内には、極板群140と、その両側に接合された正極の集電板150及び負極の集電板160とが電解液とともに収容されている。
極板群140は、矩形状の正極板141及び負極板142がセパレータ143を介して積層して構成されている。このとき、正極板141、負極板142及びセパレータ143が積層された方向(紙面に鉛直な方向)が、積層方向である。極板群140の正極板141及び負極板142は、板面の方向(紙面に沿う方向)であって互いに反対側の側部に突出されることで正極板141のリード部141a及び負極板142のリード部142aが構成されている。これらリード部141a,142aの側端縁にそれぞれ集電板150,160が接合されている。
【0055】
また、隔壁120の上部には各電槽130の接続に用いられる貫通孔170が形成されている。貫通孔170は、集電板150の上部に突設されている接続突部151、及び集電板160の上部に突設されている接続突部161の2つの接続突部151,161同士が該貫通孔170を介して溶接接続される。このことで、各々隣接する電槽130の極板群140を電気的に直列接続させる。貫通孔170のうち、両端の電槽130の各々外側に位置する貫通孔170は、一体電槽100の端側壁上方で正極の接続端子152又は負極の接続端子153(図示略)が装着される。正極の接続端子152は、集電板150の接続突部151と溶接接続される。負極の接続端子153は、集電板160の接続突部161と溶接接続される。こうして直列接続された極板群140、すなわち複数の単電池110の総出力が正極の接続端子152及び負極の接続端子153から取り出される。
【0056】
一方、角形ケース300を構成する蓋体200には、角形ケース300の内部圧力を開弁圧以下にする排気弁210と、極板群140の温度を検出するためのセンサを装着するセンサ装着穴220が設けられている。センサ装着穴220は、極板群140の近傍まで電槽130内を延びる穴によって、極板群140の温度を測定可能にしている。
【0057】
排気弁210は、一体電槽100内の内部圧力を許容されうる閾値以下に維持するためのものであり、内部圧力の値が許容される閾値を超えた開弁圧以上になった場合には、開弁されることで一体電槽100内部に発生したガスを排出する。一体電槽100の内部圧力は、隔壁120に形成された図示しない連通孔で全ての電槽130で均一化されている。これにより、一体電槽100は、全ての電槽130で均一化された内部圧力が開弁圧未満になるまでガスを排出して、その内部圧力が許容されうる開弁圧未満に維持されるようになる。
【0058】
<極板群140の構成>
<正極板141>
正極板141は、水酸化ニッケル及びコバルトを活物質として構成されている。詳しくは、水酸化ニッケルに、水酸化コバルトや金属コバルト粉末などの導電剤、そして必要に応じてカルボキシメチルセルロースなどの増粘剤やポリテトラフルオロエチレンなどの結着剤を適量加えてまずはペースト状に加工する。その後、こうしてペースト状になった加工物を、発泡ニッケル三次元多孔体等の芯材に塗布あるいは充填したのちに、これを乾燥、圧延、切断することによって板状の正極板141を形成する。なお、発泡ニッケル三次元多孔体としては、発泡ウレタンのウレタン骨格表面にニッケルメッキを施した後、発泡ウレタンを焼失させたものが用いられる。
【0059】
<負極板142>
負極板142は、例えば、ランタン、セリウム、及びネオジム等の希土類元素の混合物であるミッシュメタル、ニッケル、アルミニウム、コバルトおよびマンガンを構成要素とする水素吸蔵合金を活物質として構成されている。これも詳しくは、この水素吸蔵合金にカーボンブラックなどの導電剤、そして必要に応じてカルボキシメチルセルロースなどの増粘剤や、スチレン-ブタジエン共重合体などの結着剤を添加してまずはペースト状に加工する。その後、こうしてペースト状に加工された水素吸蔵合金を、パンチングメタル(活物質支持体)などの芯材に塗布あるいは充填した後、これを乾燥、圧延、切断することによって同じく板状の負極板142を形成する。
【0060】
<セパレータ143>
セパレータ143としては、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の不織布、もしくは必要に応じてこれにスルフォン化などの親水処理を施したものを用いることができる。
【0061】
<ニッケル水素蓄電池の組み立て>
こうした正極板141及び負極板142、及びセパレータ143は、正極板141と負極板142とを互いに反対側に突出する態様でセパレータ143を介して交互に積層することで直方体状の極板群140を構成する。そして、一方に突出して積層された各正極板141のリード部141aの外縁と集電板150とがスポット溶接等により接合されるとともに、他方に突出して積層された各負極板142のリード部142aの外縁と集電板160とがスポット溶接等により接合される。
【0062】
集電板150及び160の溶接された極板群140は、角形ケース300内の各電槽130に収容される。隣接する極板群140の正極の集電板150と負極の集電板160とがそれらの上部に突設された接続突部151及び161同士のスポット溶接等により接続される。そのため、互いに隣接する極板群140が電気的に直列接続される。
【0063】
各電槽130内には、水酸化カリウムを主成分とするアルカリ水溶液(電解液)が所定量注入された状態で、蓋体200で一体電槽100の開口が封止される。このことで、複数の単電池110(ニッケル水素蓄電池)からなる例えば定格容量「6.5Ah」の電池モジュール90が構成されている。このような電池モジュール90がさらに組み合わされて、樹脂ケースに収納され、制御装置や各種センサなどが装着されて車載用の電池パック24(
図1参照)として車両の駆動用電池として搭載される。
【0064】
<ニッケル水素蓄電池の制御装置10>
図1に示すニッケル水素蓄電池の制御装置10のブロック図を参照して、制御装置10について説明する。なお、ここでは、ニッケル水素蓄電池は、電池モジュール90を収容した電池パック24の状態で制御する場合について説明する。
【0065】
<ハイブリッド自動車の車両の構成>
本実施形態のニッケル水素蓄電池の電池モジュール90が搭載されるハイブリッド自動車は、モータとジェネレータ(発電機)の機能を併せ持つモータジェネレータ17を備える。モータジェネレータ17は、電池モジュール90から電力の供給を受けてモータとして車両を駆動して走行させる。また、車両の制動時には、回生制動を行ってモータジェネレータ17により力学エネルギーを電気エネルギーに変換する。回生した電気エネルギーを電池モジュール90蓄える。また、ガソリンエンジンからなる内燃機関18は、モータジェネレータ17を回転駆動して発電する。インバータ20は、モータジェネレータ17からの電流の入出力を行う。また、インバータ20は、電池モジュール90に対する充放電を行う。さらに、エアコンディショナや照明などの負荷に電力を供給する。このインバータ20は、インバータのみならずコンバータとしても機能し、かつ入出力の電気の最適化を行う。
【0066】
<制御装置10>
制御装置10は、車両に搭載して(オンボード)で、リアルタイム又は蓄積データに基づいて車両の電池モジュール90を制御することができる。
【0067】
制御装置10は、発電機としてのモータジェネレータ17からの電流を、電池モジュール90を充電させる充電装置としてのインバータ20を制御して充電する。また、制御装置10は、負荷となる駆動用モータとしてのモータジェネレータ17に、電池モジュール90からの電流を電力供給装置としてのインバータ20を制御して放電する。
【0068】
制御装置10は、電池モジュール90の電流を測定する電流検出器21と、電池モジュール90の端子間電圧を測定する電圧検出器22と、電池モジュール90の温度を測定する温度検出器23とを備えている。
【0069】
温度検出器23は、
図5に示すセンサ装着穴220に配置された温度センサを備えている。温度センサは、電池モジュール90のうちの対応する単電池110の極板群140の近傍の温度を測定するとともに、測定した温度値を制御装置10に電気信号で出力する。
【0070】
<制御部11>
制御装置10の制御部11は、制御装置10全体の制御を行うCPU、RAM、ROM、インタフェイスを備えたコンピュータとして構成されている。周知のECU(Electronic Control Unit)により実施することができる。
【0071】
<記憶部12>
記憶部12は、本実施形態の制御方法を実施するための制御装置10のプログラムや、必要なデータが記憶される記憶媒体を備える。プログラムは、本実施形態のニッケル水素蓄電池の充放電制御のステップを実行するプログラム、SOCを算出するプログラムなどを備える。
【0072】
<情報取得部13>
情報取得部13は、逐次電流検出器21から充電電流値を取得し、電圧検出器22から電圧値を取得し、温度検出器23から電池温度を取得して記憶する。
【0073】
<SOC算出部14>
SOC算出部14は、電圧検出器22で測定した電圧などから電池モジュール90のSOCを推定する。また、さらに、ここから正極SOCや負極SOCなどを、マップなどを参照して推定する。
【0074】
<充放電制御部15>
充放電制御部16は、電池モジュール90の電圧を監視して、SOCが閾値より低下している場合は、モータジェネレータ17により発電してインバータ20を介し電池モジュール90を充電する。一方、車両の制動時にモータジェネレータ17からの回生電流を、インバータ20を介し電池モジュール90を充電する。この場合、過大な電流や、電池モジュール90のSOCが高すぎる場合は、充電を制限する。このときの閾値などは、記憶部12に記憶されている。
【0075】
一方、車両の駆動時では、制御部11からの指令で、電池モジュール90から必要な電流を、インバータ20を介しモータジェネレータ17に供給する。
<ニッケル水素蓄電池の制御方法>
図6は、本実施形態のニッケル水素蓄電池の制御方法の手順を示すフローチャートである。以下、
図6に沿って本実施形態のニッケル水素蓄電池の制御方法の手順を説明する。
【0076】
<開始>
ハイブリッド自動車の電源がONされると、制御装置10がONされる。制御装置10がONされると、情報取得部13が電池モジュール90から電流検出器21、電圧検出器22、温度検出器23により、電池電流、電池電圧、電池温度を常時監視する。
【0077】
<出力時の電圧測定(S1)>
制御部11は、収集した電池モジュール90の電流、電圧から、車両の電源のON時、走行中のアクセル操作時、車両アイドリング時等に、電池モジュール90が電力を出力した際の電圧の降下量[ΔV]を測定する。
【0078】
<電圧降下量≧閾値V1?(S2)>
ここで、
図8は、0.1秒の短時間出力をしたときの「出力時の電圧降下量[ΔV]」と、「電解液量[g]」との関係を、実験により取得したマップである。このマップは、記憶部12に記憶してある。したがって、制御部11は、この「出力時の電圧降下量[ΔV]」と、「電解液量[g]」との関係から、電池モジュール90が電力を出力した際の電圧の降下量[ΔV]に基づいて、電解液量[g]を推定することができる。すなわち、0.1秒の短時間出力をしたときの「出力時の電圧降下量[ΔV]」が、閾値V1を上回った場合、電解液量が不足しているものと判断する。
【0079】
また、
図9は、「総放電電気量[Ah]」と、電解液の液量[g]との関係を示すグラフである。総放電電気量[Ah]が大きくなり、推定した電解液の液量[g]が、閾値より少なくなった場合には、電解液にH
2Oを補充する本実施形態の高SOC充電HCと急速放電を含むニッケル水素蓄電池の制御方法を実施する。その結果その後総放電電気量[Ah]が大きくなった場合に電解液の液量[g]を回復させる。
【0080】
<充放電制御実行なし(S3)>
制御部11は、電圧降下量が閾値V1未満である場合は(S2:NO)、電解液は十分にあると判断する。そして特に電池モジュール90に対して、電解液の補充は必要ないと判断して、本実施形態の高SOC充電HCと急速放電を含むニッケル水素蓄電池の制御方法を実行しないで(S3)、S5に進む。
【0081】
<充放電制御(S4)>
一方、制御部11は、電圧降下量が閾値V1以上である場合は(S2:YES)、電解液が不足していると判断する。そして特に電池モジュール90に対して、電解液の補充が必要と判断して、本実施形態の高SOC充電HCと急速放電を含むニッケル水素蓄電池の制御方法を実行する(S4)。
【0082】
充放電制御(S4)の制御の詳細については、後述する。
<運用終了>
充放電制御実行なし(S3)、若しくは充放電制御(S4)の手順が終了し、車両の電源がOFFになるなどして運用が終了すれば(S5:YES)、ニッケル水素蓄電池の制御方法を終了する(終了)。そうでなければ(S5:NO)、再びS1に戻り制御を継続する。
【0083】
<充放電制御(S4)のサブルーチン>
図7は、本実施形態の間欠放電IDを含む高SOC充電HCと、急速放電QDの手順を含む
図6の充放電制御(S4)の手順を示すサブルーチンのフローチャートである。以下、
図7を参照しながら充放電制御(S4)の手順を詳細に説明する。
【0084】
<開始>
制御部11は、電圧降下量が閾値V1以上である場合は(S2:YES)、電解液が不足していると判断して、本実施形態の間欠放電IDを含む高SOC充電HCと、急速放電QDの手順を含む充放電制御を開始する。
【0085】
<高SOC状態?(S41)>
充放電制御が開始されると、まず高SOC状態か否かを判断する(S41)。ここでは高SOC充電HCの前提条件である高SOC状態かを判断する。本実施形態では、「高SOC状態」とは、SOCが40%以上の状態をいう。したがって、
図3に示す開始SOCは、OC40%に設定されている。現在の状態が、高SOC状態ではない、すなわちSOCが40%未満であれば(S41:NO)、予備充電PCを行う(S42)。
【0086】
<予備充電(S42)>
予備充電PCは、高SOC充電HCと間欠放電IDを含まない以外は同じ条件で充電し、充電レートは高SOC充電HCと同じ、例えば2C以上で行う。充電は、高SOC状態である、すなわちSOCが40%以上でなければ継続される(S41:NO→S42)。
【0087】
<高SOC充電HC(S43)>
電池がすでに高SOC状態であるか、あるいは高SOC状態になったら(S41:YES)、高SOC充電HC(S43)が開始される。この時点を時間t0として、制御部11により経過時間がカウントされる。高SOC充電は、例えば2C以上のハイレートで行われる。
【0088】
<所定間隔経過?(S44)>
高SOC充電HCが開始された時間t0からあらかじめ設定された時間t2が経過しなければ、高SOC充電HCが継続される(S44:NO→S43)。時間t0から時間t2が経過したら高SOC充電HC(S43)は終了し、上限SOCか否かが判断される(S45)。
【0089】
<上限SOC未満(S45:NO)>
高SOC充電HC(S43)が終了すると、制御部11は、SOC算出部14で電池モジュール90のSOCを算出し、上限SOCを超したか否かを判断する(S47)。この上限SOCは、
図3に示す目標SOCと同じで、本実施形態ではSOC100%に設定されている。SOCが上限SOCを超えていなかったら(S45:NO)、高SOC充電HCを終了して、間欠放電ID(S46)を開始する。
【0090】
<間欠放電ID(S46)>
間欠放電IDは、本実施形態では、放電レート25Cのハイレートで行われる。
<所定時間経過?(S47)>
間欠放電IDが開始されたら、制御部11は経過時間をカウントし、たとえば経過時間(ここでは1秒)が経過しなければ(S47:NO)間欠放電は継続され、1秒経過したら(S47:YES)間欠放電IDを終了する。間欠放電IDを終了したら、再び高SOC充電(S41)を行う。
【0091】
<上限SOC以上(S45:YES)>
高SOC充電HC(S43)が終了し、SOCが上限SOCを超えていたら(S45:YES)、高SOC充電HCを終了して、急速放電QD(S48)を開始する。
【0092】
<急速放電QD(S48)>
急速放電QD(S48)は、放電レートが高いほど望ましく、本実施形態では1C以上で放電する。
【0093】
<放電終了?(S49)>
急速放電QDは、H2Oが生成する副反応が完了すればよい。そこで、本実施形態では、副反応が時間t3から1秒以内に完了するとして、1秒経過していない時点では放電を終了しないと判断する(S49:NO)。また、時間t3から1秒経過した後は放電を終了するとして(S49:YES)、充放電制御(S4)の手順を終了する(終了)。
【0094】
(実施形態の効果)
本実施形態のニッケル水素蓄電池の制御方法では、上記のような構成を備えるため、以下のような効果を奏する。
【0095】
(1)本実施形態のニッケル水素蓄電池の制御方法は、実際に開弁を生じてしまったり、樹脂製の電池ケースからの水分透過で経時的に電解液が減少してしまったりしても、事後的に電池寿命を延命することができる。
【0096】
(2)特に、電解液が不足して、車両の運行が困難になりそうな場合でも、制御装置10が自律的に判断して、本実施形態の充放電制御を行うことでH2Oを生成して電解液を補充することで、車両の運行の継続を可能とする。
【0097】
(3)本実施形態の高SOC充電HCは、高SOC状態で、ハイレートの充電を行うため、酸素の生成を促進し、効率的にH2Oを生成することができる。
(4)SOCは100%を超さない範囲で制御されるので、過充電による電池の劣化を回避することができる。
【0098】
(5)間欠放電IDは、十分な間隔で正極が一定の充電による分極が発生した時点で、ハイレートの放電で電流の向きを急激に転換することで、正極の活物質の粒子の表面の電位にムラを生じさせる。そのため局所的に電位を高くして、O2の気泡を発生させて正極の活物質の粒子の表面に付着させることができる。
【0099】
(6)間欠放電IDは、間隔が長すぎると、正極の活物質の粒子の表面が均一に充電される。そのため、局所的な電位のムラはなくなり局所的に酸素が発生することもなくなるため、間隔が長くなりすぎないように設定されている。
【0100】
(7)また、間欠放電IDは、正極の活物質の粒子の表面に付着したO2の気泡による局所的な「液枯れ」の状態で、放電の副反応を生じさせてH2Oを発生させ、電解液を補充することができる。
【0101】
(8)本実施形態のニッケル水素蓄電池の制御装置はハイブリッド自動車に搭載され、制御装置10が、常時電解液の不足を監視している。そして、電解液が不足したことを検出すると、自律的に本実施形態の充放電制御を行い、H2Oを生成して電解液を補充することができる。
【0102】
(9)電解液の不足は、予め設定された出力時の電圧降下量と電解液の液量と関係に基づき検出できるため、簡易な方法で正確な判定が可能となっている。
(10)本実施形態では、アルカリ二次電池として、ニッケル水素蓄電池使用しており、本発明の効果を好適に発揮している。
【0103】
(変形例)
上記実施形態は、以下のようにしても実施することができる。
○
図3に示すタイムチャートは、発明の原理を示す例示であり、間欠放電IDの回数、時間、SOCは、このタイムチャートに限定されない。
【0104】
○本実施形態では、間欠放電IDは、一定の時間t2の等間隔で行われる例を示したが、必ずしも等間隔とする必要はなく、例えば分極の状態に応じて時間t2を変化させるなど最適化することができる。
【0105】
○本実施形態では、間欠放電ID自体の継続の時間t1も一定な時間とする必要もなく、例えばSOCにより変化させるなど最適化することができる。
○本実施形態では、電解液の不足は、出力時の電圧降下量と電解液の液量と関係に基づき推定したが、この方法に限定されるものではなく、内部抵抗の変化など様々な方法で推定することができる。
【0106】
○本実施形態では、低SOC状態の予備充電PCの間は、間欠放電IDを行っていないが、予備充電PCにおいても間欠放電IDを行うことができる。
○本実施形態では、高SOC充電の直後に急速放電QDを行っているが、これを省略して実施することもできる。
【0107】
○本実施形態S49では、急速放電QDの終了は、経過時間で判断しているが、これに限定されず、電流[Ah]などで判断してもよい。
○本実施形態では、ハイブリッド自動車を例に説明したが、例えば燃料電池により発電し、その電力をアルカリ二次電池に蓄えるような燃料電池自動車などでも実施することができる。
【0108】
○さらに、アルカリ二次電池にメモリ効果が発現したEVにおいて、SOCが低下した場合に、電力ステーションで電力をチャージする場合の制御に適用することもできる。
○さらに、太陽光発電システムや風力発電システム等の発電設備を備えた住宅の蓄電池の制御に適用することもできる。
【0109】
〇本実施形態のニッケル水素蓄電池は、車載用の電池モジュール90を備えた組電池を例示したが、その目的は、車載用に限定するものではない。また、形状も限定されず円柱状のものなど限定されない。
【0110】
〇また、制御対象となるニッケル水素蓄電池は電池モジュール90に限定されず、単電池でもよい。
○本実施形態では、アルカリ二次電池の例としてニッケル水素蓄電池により説明したが、ニッカド蓄電池など、正極にNiOOHを用いアルカリ電解液から構成されるアルカリ電池などで実施することができる。
【0111】
○本実施形態では、γ-NiOOHについての説明は省略し、放電時の反応式はβ-NiOOHを例に説明したが、β-NiOOHに限定するものではなくγ-NiOOHについても同様な反応を生じる。
【0112】
〇本実施形態に例示されたSOC値[%]や、充放電レート[C]や、電流値[A]や、電圧値[V]、時間[s]等は、例示であり、対象となる電池の特性に合わせて当業者により最適化される。閾値も同様に最適化される。
【0113】
〇
図6、
図7に示すフローチャートは一例であり、当業者であればそれらの手順の順序を変えたり、手順を追加したり、省略して実施することができる。
○また、当業者であれば、特許請求の範囲を逸脱しない限り、構成を付加し、削除し、変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0114】
10…ニッケル水素蓄電池の制御装置
11…制御部
12…記憶部(プログラム)
13…情報取得部(マップ・電池使用履歴)
14…SOC算出部
15…充電制御部
16…負荷(エアコンディショナ等)
17…モータジェネレータ
18…内燃機関
20…インバータ
21…電流検出器
22…電圧検出器
23…温度検出器
24…電池パック
90…電池モジュール(ニッケル水素蓄電池)
100…一体電槽
110…単電池
120…隔壁
130…電槽
140…極板群
141…正極板
141a…リード部
142…負極板
142a…リード部
143…セパレータ
150…集電板
151…接続突部
152…接続端子
153…接続端子
160…集電板
161…接続突部
170…貫通孔
200…蓋体
210…排気弁
220…センサ装着穴
300…角形ケース
A、B…O2の気泡
HC…高SOC充電
ID…間欠放電
QD…急速放電
t0~t4…時間