(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】電池セル
(51)【国際特許分類】
H01M 50/325 20210101AFI20240206BHJP
H01M 50/317 20210101ALI20240206BHJP
【FI】
H01M50/325
H01M50/317 101
(21)【出願番号】P 2021159446
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 雄佑
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-123423(JP,A)
【文献】特開2015-185225(JP,A)
【文献】国際公開第2003/044397(WO,A1)
【文献】特開2012-059803(JP,A)
【文献】特開2012-195219(JP,A)
【文献】特開2017-091721(JP,A)
【文献】特開2011-198570(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2022-0068644(KR,A)
【文献】中国実用新案第215816163(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極体および電解液と、
前記電極体および前記電解液を収納し
、第1面にガス排出穴が設けられたケースと、
前記ガス排出穴に脱着可能に取り付けられた封止部材とを備え、
前記封止部材は、前記ケースに嵌合する第1部分と、前記ガス排出穴を封止する第2部分とを含み、前記ケースの内圧が所定の圧力に達したとき、または前記ケース内の温度が所定の温度に達したときに、前記第2部分による前記ガス排出穴の封止が解除さ
れ、
前記第1部分は前記第1面に沿う方向に突出する突出部を含み、前記突出部が前記ケースに係止することで、前記第1部分は前記ケースに嵌合している、電池セル。
【請求項2】
前記第1部分の嵌合が外れることにより前記第2部分による前記ガス排出穴の封止が解除される、請求項1に記載の電池セル。
【請求項3】
電極体および電解液と、
前記電極体および前記電解液を収納し、ガス排出穴が設けられたケースと、
前記ガス排出穴に脱着可能に取り付けられた封止部材とを備え、
前記封止部材は、前記ケースに嵌合する第1部分と、前記ガス排出穴を封止する第2部分とを含み、前記ケースの内圧が所定の圧力に達したとき、または前記ケース内の温度が所定の温度に達したときに、前記第2部分による前記ガス排出穴の封止が解除され、
前記封止部材は、前記ケースの外表面上に延びるフランジ部分を含み、
前記封止部材の前記第2部分は、前記ケースの前記外表面および前記フランジ部分の間に設けられた軟質部分を含み、
前記軟質部分は、前記フランジ部分よりも変形しやすい素材により形成される、電池セル。
【請求項4】
前記第1部分および前記フランジ部分は、一体成形された樹脂部材により形成される、請求項3に記載の電池セル。
【請求項5】
前記所定の圧力は、0.5MPa以上2.0MPa以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電池セル。
【請求項6】
前記ケースは角型の形状を有する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電池セル。
【請求項7】
前記電池セルは、リチウムイオン二次電池である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電池セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
電池セルにおいて、電極体を収容するケースの内圧が所定の圧力よりも大きくなったときに開弁して内圧を開放する圧力開放弁が従来から知られている。このような圧力開放弁は、たとえば特開2016-126989号公報(特許文献1)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の電池セルは、ケースと、ケースとは別体の圧力開放弁とを成形や溶接により接合している。電池セル製造工程で熱入力があった場合、接合面の状態が変わり、作動圧へ悪影響を及ぼす可能性がある。圧力開放弁の作動圧をより精密に安定させたいという要請があることを鑑みると、従来の電池セルは、必ずしも十分な構成を備えたものとはいえない。
【0005】
本技術の目的は、ガス排出弁の作動圧を精密に制御することが可能な電池セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本技術に係る電池セルは、電極体および電解液と、電極体および電解液を収納し、ガス排出穴が設けられたケースと、ガス排出穴に脱着可能に取り付けられた封止部材とを備える。封止部材は、ケースに嵌合する第1部分と、ガス排出穴を封止する第2部分とを含む。ケースの内圧が所定の圧力に達したとき、またはケース内の温度が所定の温度に達したときに、第2部分によるガス排出穴の封止が解除される。
【発明の効果】
【0007】
本技術によれば、ガス排出弁の作動圧を精密に制御することが可能な電池セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】電池セルの封口板周辺の構造を示す図である。
【
図3】電池セルの封口板に取り付けられる封止部材の一例を示す斜視図である。
【
図4】
図3に示す封止部材が封口板に嵌合した状態を示す断面図である。
【
図5】
図3に示す封止部材が封口板から外れるときの状態を示す断面図である。
【
図6】封止部材の変形例を示す断面図(その1)である。
【
図7】封止部材の変形例を示す断面図(その2)である。
【
図8】封止部材の変形例を示す断面図(その3)である。
【
図9】封止部材の変形例を示す断面図(その4)である。
【
図10】
図9に示す封止部材の嵌合部分が封口板から外れるときの状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本技術の実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0010】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本技術の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本技術にとって必ずしも必須のものではない。また、本技術は、本実施の形態において言及する作用効果を必ずしもすべて奏するものに限定されない。
【0011】
なお、本明細書において、「備える(comprise)」および「含む(include)」、「有する(have)」の記載は、オープンエンド形式である。すなわち、ある構成を含む場合に、当該構成以外の他の構成を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0012】
また、本明細書において幾何学的な文言および位置・方向関係を表す文言、たとえば「平行」、「直交」、「斜め45°」、「同軸」、「沿って」などの文言が用いられる場合、それらの文言は、製造誤差ないし若干の変動を許容する。本明細書において「上側」、「下側」などの相対的な位置関係を表す文言が用いられる場合、それらの文言は、1つの状態における相対的な位置関係を示すものとして用いられるものであり、各機構の設置方向(たとえば機構全体を上下反転させる等)により、相対的な位置関係は反転ないし任意の角度に回動し得る。
【0013】
本明細書において、「電池」は、リチウムイオン電池に限定されず、ニッケル水素電池など他の電池を含み得る。本明細書において、「電極」は正極および負極を総称し得る。また、「電極板」は正極板および負極板を総称し得る。
【0014】
図1は、電池セル1を示す断面図である。
図2は、電池セル1における封口板120周辺の構造を示す図である。
【0015】
図1に示すように、電池セル1は、ケース100と、電池要素200と、電極端子300と、封止部材400とを含む。
【0016】
ケース100は、本体110と、封口板120とを含む。ケース100は、略直方体形状を有する。すなわち、電池セル1は、角型のリチウムイオン電池である。ケース100の本体110は、電池要素200を収納する。封口板120は、本体110に設けられた開口を封止する。封口板120は、本体110に溶接により接合され、本体110と一体化される。
【0017】
図2に示すように、封口板120には、ケース100内のガスを排出するための排出穴120Aが形成されている。
【0018】
ケース100の本体110および封口板120は、たとえばアルミニウムなどの金属により形成される。
【0019】
電池要素200は、電極体210と、電解液220とを含む。電池要素200は、ケース100内に収納される。
【0020】
電極端子300は、正極端子310と、負極端子320とを含む。正極端子310は、電極体210の正極側に電気的に接続され、負極端子320は、電極体210の負極側に電気的に接続される。
【0021】
封止部材400は、ケース100の封口板120に脱着可能に取り付けられる。封止部材400は、封口板120に設けられた排出穴120Aを封止する。
【0022】
図3は、封止部材400の一例を示す斜視図である。
図4は、封止部材400が封口板120に嵌合した状態を示す断面図であり、
図5は、封止部材400が封口板120から外れるときの状態を示す断面図である。
【0023】
図4に示すように、封止部材400は、ケース100の封口板120に嵌合する第1部分410と、封口板120の排出穴120Aを封止する第2部分420とを含む。
【0024】
第1部分410は、排出穴120Aを塞ぐ蓋部分410Aと、封口板120に嵌合する嵌合部分410Bと、蓋部分410Aおよび嵌合部分410Bを接続する接続部分410Cと、蓋部分410Aの外周に位置し、封口板120の外表面上に延びるフランジ部分410Dとを含む。
【0025】
図4に示す例では、蓋部分410A、嵌合部分410B、接続部分410C、およびフランジ部分410Dは一体成形された樹脂部材により形成されている。ただし、これらは互いに別部材から形成することも可能である。
【0026】
第2部分420は、封口板120の外表面およびフランジ部分410Dの間に設けられた軟質部分である。この軟質部分は、フランジ部分410Dを含む第1部分410よりも変形しやすい素材により形成される。
【0027】
図5に示すように、ケース100の内圧が上昇したときは、蓋部分410Aに上向き(矢印A)の力が作用する。これにより、嵌合部分410Bは矢印Bの方向に変形する。
【0028】
ケース100の内圧が所定の圧力に達したとき、嵌合部分410Bの嵌合が外れ、これにより、第2部分420による排出穴120Aの封止が解除される。ここでいう「所定の圧力」は、一例として、0.5MPa以上2.0MPa以下程度の圧力である。「所定の圧力」を上記の範囲に設定することにより、電池セル1の通常状態において封止部材400が誤って封口板120から外れることが抑制される。
【0029】
嵌合部分410Bの形状、材質等を調整することにより、嵌合強度を精密に制御することが可能である。したがって、ガス排出弁としての封止部材400の作動圧を精密に制御することが可能である。
【0030】
封止部材400が封止する排出穴120Aの大きさは適宜変更されるが、一例として、排出穴120Aを略円形に形成する場合の排出穴120Aの径は、Φ10mm以上Φ25mm以下程度である。
【0031】
第1部分410を構成する素材は、電解液に対する耐性、長期使用に対する耐久性などを考慮して決定される。嵌合部分410Bが変形しやすく、嵌合が外れる前に材料破断が起こらないようにする観点からは、引張方向に強く、曲げ方向の弾性率が大きい素材が好ましい。通常使用時に変形や溶損が発生しないように、電極端子300周辺のガスケット以上の耐熱性を持たせる観点からは、耐熱温度が90℃以上程度であることが好ましい。電解液に浸かっても腐食させない観点からは、ポリオレフィン樹脂(炭化水素の二重結合をもつ重合体)など、耐薬品性を有する素材が好ましい。また、環境規制対応の観点からは、RoHS指令に抵触しない素材が好ましい。
【0032】
以上の観点から、第1部分410を構成する素材として、引張強度が26MPa以上41MPa以下程度、曲げ弾性率が1300MPa以上程度、耐熱温度が110℃以上140℃以下程度の素材を用いることが好ましい。
【0033】
具体的には、第1部分410を構成する素材として、たとえば、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PBT(ポリブチレンテレフタラート)などの樹脂、またはEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)などを用いることができる。
【0034】
第2部分420を構成する素材は、劣化による水漏れを抑制する観点からは、荷重による圧縮率が高く、時間経過による荷重逃げ(クリープ)が少ない素材であることが好ましい。また、ケース100の内圧上昇時の水漏れを抑制する観点からは、低圧縮率で水密性を保証できる素材が好ましい。通常使用時に変形や溶損が発生しないように、電極端子300周辺のガスケット以上の耐熱性を持たせる観点からは、耐熱温度が90℃以上程度であることが好ましい。電解液に浸かっても腐食させない観点からは、圧縮弾性変化が少ない素材が好ましい。
【0035】
以上の観点から、第2部分420を構成する素材として、荷重8N/cm2時の圧縮率が50%以上程度、クリープが1000時間で5%以下程度、圧縮率が50%程度で水密性を確保することができ、圧縮弾性変化が5%以下程度の素材を用いることが好ましい。
【0036】
具体的には、第2部分420を構成する素材として、たとえば、EPDMを主剤とした発泡体であるエプトシーラーNo.685[Nitto]を用いることができる。
【0037】
次に、
図6~
図10を用いて、封止部材400の変形例について説明する。
図6は、第1の変形例を示す。
【0038】
図6に示す例では、封口板120に当接する嵌合部分410Bの当接面を斜めに形成している。この当接面の傾斜角度を変更することにより、封口板120から嵌合部分410Bが受ける垂直抗力Fの方向を変更し、ケース100の内圧上昇に伴い封止部材400が外れる作動圧力を調整することができる。また、当接面の傾斜確度によらず、嵌合部分410Bの係りしろDを調整することによっても、封止部材400が外れる作動圧力を調整することができる。
【0039】
図7の例では、嵌合部分410Bが封止部材400の幅方向内側に突出するように形成されている。
図8の例では、嵌合部分410Bおよび接続部分410Cが封止部材400の幅方向(図中左右方向)の中央に形成されている。
【0040】
図9の例では、蓋部分410Aの端部にヒンジ430が設けられ、第1部分410はヒンジ430を介して封口板120に回動可能に支持される。
【0041】
図10は、
図9に示す封止部材400の嵌合部分410Bが封口板120から外れるときの状態を示す断面図である。ケース100の内圧上昇に伴い嵌合部分410Bが封口板120から外れると、
図10に示すように、第1部分410がヒンジ430を中心として矢印C方向に回動し、封口板120の排出穴120Aが開かれる。
【0042】
上述の例では、封止部材400と封口板120とを嵌合により接合し、この嵌合が外れることにより排出穴120Aの封止が解除される構造について説明したが、本技術の範囲はこれに限定されない。また、第1部分410の一部(たとえば蓋部分410Aまたは接続部分410C)がケース100の内圧を受けて破断することにより排出穴120Aの封止が解除される構造であってもよい。
【0043】
また、上述の例では、ケース100の内圧が所定の圧力に達したときに排出穴120Aの封止が解除される構造について説明したが、ケース100内の温度が所定の温度に達したときに、たとえば蓋部分410Aが溶融することによって排出穴120Aの封止が解除される構造であってもよい。
【0044】
以上、本技術の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本技術の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0045】
1 電池セル、100 ケース、110 本体、120 封口板、120A 排出穴、200 電池要素、210 電極体、220 電解液、300 電極端子、310 正極端子、320 負極端子、400 封止部材、410 第1部分、410A 蓋部分、410B 嵌合部分、410C 接続部分、410D フランジ部分、420 第2部分、430 ヒンジ。