(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】核酸デコンタミネーション方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20240206BHJP
C08B 37/06 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
C12N15/10 100Z
C08B37/06 ZNA
(21)【出願番号】P 2021507742
(86)(22)【出願日】2019-08-16
(86)【国際出願番号】 US2019046925
(87)【国際公開番号】W WO2020037270
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2022-08-15
(32)【優先日】2018-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504019928
【氏名又は名称】セファイド
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】クチャビン, アレックス, アイ.
(72)【発明者】
【氏名】ルンド, ケビン, ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ナナシー, オリバー, ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ゴール, アレクサンダー, エー.
(72)【発明者】
【氏名】ブラバント, ウィリアム
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-513385(JP,A)
【文献】国際公開第2004/005352(WO,A1)
【文献】特開2015-119656(JP,A)
【文献】特表2013-502934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-14/90
C12Q 1/00-3/00
C08B 37/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面上の核酸コンタミネーションを低減する方法であって、
核酸でコンタミネーションされた表面を、修飾ペクチンを含む組成物と接触させる工程を含み、
前記修飾ペクチンは
アミド化ペクチンであり、
前記修飾ペクチンは式
【化1】
又は互変異性体又はそれらの塩で表される1つ以上のモノマー単位を含む、アミド化ペクチンであり、
ここで、nは、0、1、2、又は3であり、
R
1は、H又はC
1-C
3アルキルであり、
Xは、各出現において、独立してC
2-C
4アルキレン又はC
4-C
6ヘテロアルキレンであり、
Yは、C
2-C
3アルキレン又はC
4-C
6ヘテロアルキレンであり、及び
R
2及びR
3は、独立して、H又はC
1-C
3アルキルである、
方法。
【請求項2】
前記アミド化ペクチンの分子量が約0.5kDa~約500kDaの間である、請求項1の方法。
【請求項3】
前記アミド化ペクチンの分子量が約100kDa~約300kDaである、請求項1の方法。
【請求項4】
前記アミド化ペクチンを含む組成物が前記アミド化ペクチンの溶液である、請求項1の方法。
【請求項5】
前記アミド化ペクチンが約0.01%~約5%の濃度で溶液中に存在する、請求項4の方法。
【請求項6】
前記アミド化ペクチンが約0.1%~約0.5%の濃度で溶液中に存在する、請求項4の方法。
【請求項7】
前記アミド化ペクチンが約1ug/mL~約1000ug/mLの濃度で溶液中に存在する、請求項4の方法。
【請求項8】
前記アミド化ペクチンがアミド化シトラスペクチン又はアミド化リンゴペクチンである、請求項1の方法。
【請求項9】
前記組成物がスワブ、ワイプ、クロス、フィルター、又はスポンジ上に存在する、請求項1の方法。
【請求項10】
前記表面が器具の表面又は実験台の表面である、請求項1の方法。
【請求項11】
溶液中の核酸コンタミネーションを低減する方法であって、
核酸でコンタミネーションされた溶液を、固体支持体に共有結合した修飾ペクチンを含む固体支持体と接触させる工程を含み、
前記修飾ペクチンは
アミド化ペクチンであり、
前記修飾ペクチンは式
【化2】
又は互変異性体又はそれらの塩で表される1つ以上のモノマー単位を含む、アミド化ペクチンであり、
ここで、nは、0、1、2、又は3であり、
R
1は、H又はC
1-C
3アルキルであり、
Xは、各出現において、独立して、C
2-C
4アルキレン又はC
4-C
6ヘテロアルキレンであり、
Yは、C
2-C
3アルキレン又はC
4-C
6ヘテロアルキレンであり、及び
R
2及びR
3は、独立して、H又はC
1-C
3アルキルである、
方法。
【請求項12】
前記固体支持体が磁性ビーズ、ガラスビーズ、ポリスチレンビーズ、ポリスチレンフィルター、又はガラスフィルターである、請求項11の方法。
【請求項13】
前記固体支持体がスワブ、ワイプ、クロス、フィルター、又はスポンジである、請求項11の方法。
【請求項14】
空気中のエアロゾル化核酸コンタミネーションを低減する方法であって、
エアロゾル化核酸でコンタミネーションされた空気を、修飾ペクチンを含む組成物と接触させる工程を含み、
前記修飾ペクチンが
アミド化ペクチンであり、
前記修飾ペクチンは式
【化3】
又は互変異性体又はそれらの塩で表される1つ以上のモノマー単位を含む、アミド化ペクチンであり、
ここで、nは、0、1、2、又は3であり、
R
1は、H又はC
1-C
3アルキルであり、
Xは、各出現において、独立して、C
2-C
4アルキレン又はC
4-C
6ヘテロアルキレンであり、
Yは、C
2-C
3アルキレン又はC
4-C
6ヘテロアルキレンであり、及び
R
2及びR
3は、独立して、H又はC
1-C
3アルキルである、
方法。
【請求項15】
エアロゾル化核酸でコンタミネーションされた空気を接触させる工程が、アミド化ペクチンを含む溶液に空気を通す工程を含む、請求項14の方法。
【請求項16】
エアロゾル化核酸でコンタミネーションされた空気を接触させる工程が、アミド化ペクチンを含むフィルターに空気を通す工程を含む、請求項14の方法。
【請求項17】
前記アミド化ペクチンが前記フィルターに共有結合している、請求項16の方法。
【請求項18】
エアロゾル化核酸でコンタミネーションされた空気を接触させる工程が、表面に共有結合したアミド化ペクチンを含む表面の上に空気を通す工程を含む、請求項14の方法。
【請求項19】
前記核酸が核酸増幅反応の産物である、請求項1~18のいずれか1項の方法。
【請求項20】
前記増幅反応がポリメラーゼ連鎖反応である、請求項19の方法。
【請求項21】
前記修飾ペクチンが、式
【化4】
又は互変異性体又はそれらの塩で表される1つ以上のモノマー単位を含むアミド化ペクチンである、請求項1~20のいずれか1項の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2018年8月17日に出願された米国仮出願第62/765,014号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表に関するステイトメント
本願に関連する配列リストは、紙のコピーの代わりにテキスト形式で提供され、参照により本明細書に組み込まれる。配列リストを含むテキストファイルの名前は、70134_Seq_Final_2019-08-14.txtである。このテキストファイルは2.23KBであり、2019年8月14日に作成され、本明細書の提出とともにEFS-Webを介して提出されている。
【0003】
発明の分野
本発明は、表面、空気中、溶液中の核酸コンタミネーションを低減するための方法及び洗浄組成物に関するものである。
【0004】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの核酸増幅技術は、様々な分子生物学的用途や臨床診断において広く利用されている。しかし残念ながら、高感度なこの技術はコンタミネーションしやすい。実験室での核酸クロスコンタミネーションは、高感度の増幅法を用いたアッセイにとって深刻な問題である。ターゲット配列の反復増幅により、増幅産物(又はアンプリコンと呼ばれる)が実験環境内に蓄積されることは、クロスコンタミネーションの最大の原因の一つである。アンプリコンのキャリーオーバーを防止すること、及び/又は生成されたアンプリコンを破壊するか増幅できないようにすることで滅菌することは、分子生物学や診断への応用において重要である。
【0005】
これまでに報告されているデコンタミネーション方法は、典型的には、次亜塩素酸ナトリウムやプソラレンの溶液など、取り扱いが困難で腐食性の試薬を使用している。また、多くの場合、デコンタミネーション試薬の残留物をクリーニングするという追加の工程が必要となる。高感度な環境での使用に適したアンプリコンのデコンタミネーション液及び方法は、必ずしも信頼できる結果をもたらすとは限らない(Fischer M. et al, Efficacy Assessment of Nucleic Acid Decontamination Reagents Used in Molecular Diagnostics Laboratories, PLOS One, July 13, 2016)。EliminaseやDNA AwayTM、場合によってはブリーチなどの一般的に入手可能な組成物の多くや、場合によってはブリーチは、増幅可能な核酸を一貫して効果的に分解せず、コンタミネーションされた核酸を表面から部分的にしか除去しないことが示唆されている。さらに、ブリーチや類似の試薬は、他の生体分子を無傷に保つことが望ましい場合に、溶液から核酸を選択的に除去するには不適切である。そのため、使いやすく安定した試薬を使用し、様々な基材や表面に適合する、改良された安価な核酸デコンタミネーション方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
一態様では、本明細書は表面上の核酸コンタミネーションを低減する方法であって、核酸でコンタミネーションされた表面を、修飾ペクチンを含む組成物と接触させる工程を含み、修飾ペクチンが複数のアミノ基を含む、方法を提供する。
【0007】
いくつかの実施形態では、修飾ペクチンはアミド化ペクチンである。いくつかの実施形態では、修飾ペクチンは、式
【化1】
その異性体、塩、互変異性体で表される1つ以上のモノマー単位を含み、
ここで、nは、0、1、2、又は3であり、
R
1は、H又はC
1-C
3アルキルであり、
Xは、各出現において、独立してC
2-C
4アルキレン又はC
4-C
6ヘテロアルキレンであり、
Yは、C
2-C
3アルキレン又はC
4-C
6ヘテロアルキレンであり、及び
R
2及びR
3は、独立して、H又はC
1-C
3アルキルである。
【0008】
いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンの分子量は約0.5kDa~約500kDaの間、又は約100kDa~約300kDaの間である。いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンは、約0.001%~約5%、約0.01%~約1%、又は約0.1%~約0.5%の濃度で溶液中に存在する。いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンは約0.1μg/mL~約1,000μg/mL、約1μg/mL~約500μg/mL、又は約1μg/mL~約100μg/mLの濃度で溶液中に存在する。
【0009】
いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンはアミド化シトラスペクチン又はアミド化リンゴペクチンである。
【0010】
いくつかの実施形態では、組成物はスワブ、ワイプ、クロス、フィルター、パッド、又はスポンジ上に存在する。いくつかの実施形態では、表面は器具の表面又は実験台の表面である。
【0011】
別の態様では、本明細書は溶液中の核酸コンタミネーションを低減する方法であって、核酸でコンタミネーションされた溶液を、固体支持体に共有結合した修飾ペクチンを含む固体支持体と接触させる工程を含み、修飾ペクチンは複数のアミノ基を含む、方法を提供する。
【0012】
いくつかの実施形態では、修飾ペクチンはアミド化ペクチンである。いくつかの実施形態では、修飾ペクチン、例えば、アミド化ペクチンは、式
【化2】
その互変異性体、異性体、又は塩で表される1つ以上のモノマー単位を含み、
ここで、nは、0、1、2、又は3であり、
R
1は、H又はC
1-C
3アルキルであり、
Xは、各出現において、独立してC
2-C
4アルキレン又はC
4-C
6ヘテロアルキレンであり、
Yは、C
2-C
3アルキレン又はC
4-C
6ヘテロアルキレンであり、及び
R
2及びR
3は、独立して、H又はC
1-C
3アルキルである。
【0013】
いくつかの実施形態では、固体支持体は、磁気ビーズ、ガラスビーズ、ポリスチレンビーズ、ポリスチレンフィルター、又はガラスフィルターである。いくつかの実施形態では、固体支持体は、スワブ、ワイプ、クロス、フィルター、又はスポンジである。
【0014】
別の態様では、本明細書は空気中のエアロゾル化核酸コンタミネーションを低減する方法であって、エアロゾル化核酸でコンタミネーションされた空気を、修飾ペクチンを含む組成物と接触させる工程を含み、修飾ペクチンが複数のアミノ基を含む、方法を提供する。
【0015】
いくつかの実施形態では、修飾ペクチンはアミド化ペクチンである。いくつかの実施形態では、修飾ペクチン、例えば、アミド化ペクチンは、式
【化3】
その互変異性体、異性体、又は塩で表される1つ以上のモノマー単位を含み、
ここで、nは、0、1、2、又は3であり、
R
1は、H又はC
1-C
3アルキルであり、
Xは、各出現において、独立してC
2-C
4アルキレン又はC
4-C
6ヘテロアルキレンであり、
Yは、C
2-C
3アルキレン又はC
4-C
6ヘテロアルキレンであり、及び
R
2及びR
3は、独立して、H又はC
1-C
3アルキルである。
【0016】
いくつかの実施形態では、接触させる工程は、修飾ペクチンを含む水性組成物(例えば、水中のアミド化ペクチンの溶液又は懸濁液)に、コンタミネーションされた空気を通す工程を含む。いくつかの実施形態では、接触させる工程は、アミド化ペクチンを含むフィルターに、コンタミネーションされた空気を通す工程を含む。いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンは、フィルターに共有結合している。
【0017】
いくつかの実施形態では、核酸は核酸増幅反応の産物である。いくつかの実施形態では、増幅反応はポリメラーゼ連鎖反応である。
【0018】
いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンは、式
【化4】
その異性体、塩、又は互変異性体で表される1つ以上のモノマー単位を含むペクチンである。
【0019】
いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンは、式
【化5】
その異性体、塩、又は互変異性体で表される1つ以上のモノマー単位を含むペクチンである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明の上述の態様及び付随する多くの利点は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明を参照することにより、よりよく理解されるであろう。
【0021】
【
図1】
図1は、様々な量の例示的なポリアミン修飾多糖(スペルミン-ペクチン)で処理した後のアンプリコンDNAの増幅プロットである。
【
図2】
図2は、コンタミネーションDNAと例示的なポリアミン修飾多糖(スペルミン-ペクチン)の結合に続く、標的DNAの増幅を示す。
【
図3】
図3は、1,000万コピーのdsDNA(126bp)を1μgの例示的なスペルミン修飾多糖で処理した場合、増幅が完全に阻害されたことを示している(B)。より多くのコピー(1.9×10
10)をスペルミン-ペクチン-DNAの混合物に加えた後、増幅は回復し(C)、未処理のDNAの増幅と同等になった(A)。これは、スペルミン-ペクチンコンジュゲートが、マイナーなDNAコンタミを結合させ、その後ターゲットの増幅を可能にするために使用できることを示している。
【
図4】
図4は、乾燥アンプリコンで処理された表面の上3cmで24時間にわたって回収した2組の空気サンプルの8回のPCRの平均値を比較したものである。グラフ(A)は未処理の表面上のアンプリコン、グラフ(B)は例示的なスペルミン修飾多糖の0.1%溶液を噴霧したアンプリコンの乾燥表面である。
【発明の詳細な説明】
【0022】
一態様では、本発明は、複数のアミノ基を含む修飾ペクチン(例えば、アミド化ペクチン)を含むデコンタミネーション剤を、デコンタミネーションされる表面に接触させることによって、表面上の核酸コンタミネーションを低減する方法を提供する。好ましくは、アミド化ペクチンはポリアミンに由来する基を含む。いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンはポリアミンでアミド化されたペクチンである。メカニズムや理論に拘束されないが、本明細書に開示のアミド化ペクチン化合物は、核酸のフロキュレーションを促進すると考えられる。これは、核酸の個々の分子が、修飾(例えば、アミド化)ペクチンに結合したときに、凝集又は沈殿して小さな粒子になるプロセスであり、その結果、核酸が増幅に適さなくなる。デコンタミネーション剤は、溶液や懸濁液の形で使用することができ、また、ワイプやスポンジなどの固体支持体に結合させることもできる。
【0023】
本明細書で使用される「デコンタミネーション」又は「核酸コンタミネーションの低減」は、核酸を、改変されていない核酸と比較して、増幅反応において鋳型として作用する能力がなくなるか、低下するように改変することを意味する。デコンタミネーションは典型的には、核酸が他の増幅反応を妨害する能力がなくなるか、低下することを意味する。いくつかの実施形態では、デコンタミネーションは、デコンタミネーションされる表面に核酸コンタミネーション物質が実質的に存在しないようにすることも意味する。本明細書で使用される「核酸コンタミネーション物質が実質的に存在しない」は、コンタミネーション核酸が増幅不可能であること、及び/又は、増幅ベースの核酸検出方法で検出できない濃度で存在することを意味するために使用される。
【0024】
本明細書で使用される「剤」及び「試薬」は、特に明記しない限り、デコンタミネーション組成物に言及する際に言い換え可能なものとして使用できる。
【0025】
いくつかの実施形態において、「コンタミネーションの低減」又は「デコンタミネーション」は、核酸が別の核酸、蛋白質、又は他の生物学的物質に結合する能力を低減させるか、又はそれを防止することを指す。また、核酸コンタミネーションの低減又は核酸のデコンタミネーションは、核酸が酵素の基質として機能することを防止するか、又はその能力を低下させることを指す。本明細書で使用される核酸コンタミネーションの低減又は核酸デコンタミネーションは、コンタミネーションの低減又はデコンタミネーションが起こる特定のメカニズムを指すものではない。
【0026】
修飾ペクチン
いくつかの実施形態では、本明細書に開示のデコンタミネーション剤は、修飾多糖を含む。いくつかの実施形態では、多糖はペクチンである。ペクチンは、植物の細胞壁に典型的に見られる天然に存在する複合多糖である。ペクチンは、ラムノース残基が介在するα1-4結合ポリガラクツロン酸骨格を含み、中性糖側鎖や、アセチル基、メチル基、及びフェルラ酸基などの非糖成分で修飾されている。ペクチン中のガラクツロン酸残基は部分的にエステル化され、メチルエステルとして存在している。エステル化の度合いは、エステル化されたカルボキシル基の割合として定義される。エステル化度、例えば、50%超のペクチンは、高メチルエステル(「HM」)ペクチン又は高エステルペクチンとして分類され、エステル化度が50%より低いペクチンは、低メチルエステル(「LM」)ペクチン又は低エステルペクチンと呼ばれる。果物及び野菜に見られるペクチンのほとんどは、HMペクチンである。
【0027】
本明細書で使用される「アミド化ペクチン」は、例えば、化学的、物理的、生物学的(酵素を含む)手段、又はそれらのいくつかの組み合わせによって、構造的に修飾された任意の天然由来のペクチンを指す。ここで、いくつかのエステル基や酸基がアミド基に変換されている。アミド化ペクチンは、非修飾ペクチンを適切なアミンの溶液と接触させて、それにより非修飾ペクチンのエステル基をアミドに変換することによって調製できる。
【化6】
【0028】
あるいは、非修飾ペクチン又は部分的に加水分解されたペクチンを含む加水分解ペクチンを、適切なカップリング剤の存在下でアミンと反応させて、アミド化ペクチンを形成できる。適切なカップリング剤の非限定的な例としては、EDC及びEDCIなどのカルボジイミドカップリング剤、BOP、PyBOP、PyBrOP、TBTU、HBTU、HATU、COMU、及びTFFHなどのホスホニウム及びイモニウムタイプの試薬を含む。
【化7】
【0029】
修飾(例えば、アミド化)ペクチンは、本明細書に記載された方法のいずれかによって得ることができる。修飾ペクチンの合成のための特に有用な出発材料には、果実ペクチン、例えば、リンゴ及びシトラスペクチンを含む。いくつかの実施形態では、前駆体(非修飾)ペクチンは、約5kDaと約1,100kDaの間、約10kDaと約500kDaの間、約10kDaと約300kDaの間、約20kDaと約200kDaの間、又は約20kDaと約100kDaの間の相対分子量を有する。いくつかの実施形態では、多糖剤は、約120kDaと約300kDaの間、約150kDaと約300kDaの間、又は約120kDaと約175kDaの間の相対分子量を有する。いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンの相対分子量は、プルランシリーズ標準などの分子量標準を参照としてサイズ排除クロマトグラフィーによって決定できる。
【0030】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示のデコンタミネーション試薬は、少なくとも1つのアミノ基で置換された1つ以上のモノマー単位を含むアミド化ペクチンを含む。いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンは、式I
【化8】
の構造を有する1つ以上のモノマー単位を含み、
ここで、nは、0、1、2、又は3、
R
1は、H又はC
1-C
3アルキル、
Xは、各出現において、独立して、C
2-C
4アルキレン又はC
4-C
6ヘテロアルキレン、
Yは、C
2-C
3アルキレン又はC
4-C
6ヘテロアルキレン、及び
R
2及びR
3は、独立して、H又はC
1-C
3アルキルである。
【0031】
いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンは、式II
【化9】
その異性体、互変異性体、及びそれらの組み合わせで表される1つ以上のモノマー単位を含む。1つ以上のモノマー単位を含み、
ここで、nは、0、1、2又は3であり、
mは、各出現において、独立して、2、3又は4であり、
pは2、3又は4であり、
R
4は、H又はC
1-C
3アルキルであり、及び
R
5及びR
6は、独立して、H又はC
1-C
3アルキルである。
【0032】
いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンは、第一級アミノ基を含む1つ以上のモノマー単位を含む。いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンは、ポリアミンでアミド化されている。本明細書で使用される場合、ポリアミンは、2つ以上のアミノ基を含む化合物である。本明細書に開示の固体支持体のペクチンの修飾に使用できるポリアミンは、合成ポリアミン及び天然に存在するポリアミン、例えば、スペルミジン、スペルミン、プトレスシンの両方を含む。いくつかの実施形態では、ポリアミンは、スペルミジン、スペルミジン、カダベリン、エチレンジアミン、及びプトレスシンから選択される。いくつかの実施形態では、ポリアミンはスペルミン又はスペルミジンである。
【0033】
いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンは、式III又は式IV
【化10】
の構造を有する1つ以上の単位を含み、それらの異性体及び互変異性体を含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンは、式
【化11】
その異性体、塩、又は互変異性体で表される1つ以上のモノマー単位を含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、修飾多糖は、非修飾ペクチンのペリオデート酸化に続く、還元的アミノ化(例えば、ポリアミンを用いた還元的アミノ化)によって得られたペクチンである。炭水化物のペリオデート酸化及び還元的アミノ化の方法は、当技術分野で知られている。
【0036】
本明細書で使用される用語「アルキル」、「アルケニル」、及び「アルキニル」には、直鎖、分岐鎖、及び環状の一価のヒドロカルビルラジカル、及びそれらの組み合わせが含まれ、それらが非置換の場合にはC及びHのみを含む。例としては、メチル、エチル、イソブチル、シクロヘキシル、シクロペンチルエチル、2-プロペニル、3-ブチニルなどを含む。そのような各基の炭素原子の合計数は、本明細書に記載されることがあり、例えば、基が最大10個の炭素原子を含むことができる場合には、1-10C、C1-C10、C1-C10、C1-10、又はC1-10として表現されることがある。本明細書で使用される用語「ヘテロアルキル」、「ヘテロアルケニル」、及び「ヘテロアルキニル」は、1つ以上の鎖状炭素原子がヘテロ原子で置換されている対応する炭化水素を意味する。例示的なヘテロ原子は、N、O、S、及びPを含む。ヘテロ原子が炭素原子を置換することが許容される場合、例えば、ヘテロアルキル基において、その基を記述する数字は、例えば、C3-C10と書かれるが、その基を記述する環又は鎖中の炭素原子の数に、記述されている環又は鎖中の炭素原子の置換として含まれるそのようなヘテロ原子の数を加えた数の合計を表す。
【0037】
単一の基は、1種類以上の多重結合、又は1つ以上の多重結合を含んでもよい。そのような基は、それらが少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む場合、用語「アルケニル」の定義内に含まれ、それらが少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を含む場合、用語「アルキニル」の定義内に含まれる。
【0038】
アルキル、アルケニル、及びアルキニル基は、そのような置換が化学的に意味をなす範囲で任意に置換できる。代表的な置換基としては、限定されないが、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、=O、=NCN、=NOR、=NR、OR、NR2、SR、SO2R、SO2NR2、NRSO2R、NRCONR2、NRC(O)OR、NRC(O)R、CN、C(O)OR、C(O)NR2、OC(O)R、C(O)R、及びNO2を含み、ここで、各Rは、独立して、H、C1-C8アルキル、C2-C8ヘテロアルキル、C1-C8アシル、C2-C8ヘテロアシル、C2-C8アルケニル、C2-C8ヘテロアルケニル、C2-C8アルキニル、C2-C8ヘテロアルキニル、C6-C10アリール、又はC5-C10ヘテロアリールであり、且つ各Rは、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、=O、=NCN、=NOR'、=NR'、OR'、NR'2、SR'、SO2R'、SO2NR'2、NR'SO2R'、NR'CONR'2、NR'C(O)OR'、NR'C(O)R'、CN、C(O)OR'、C(O)NR'2、OC(O)R'、C(O)R'、及びNO2で任意に置換され、ここで、各R'は、独立して、H、C1-C8アルキル、C2-C8ヘテロアルキル、C1-C8アシル、C2-C8ヘテロアシル、C6-C10アリール又はC5-C10ヘテロアリールである。また、アルキル、アルケニル、及びアルキニルはC1-C8アシル、C2-C8ヘテロアシル、C6-C10アリール又はC5-C10ヘテロアリールによって置換されていてもよく、これらはそれぞれ、特定の基に適した置換基によって置換されていてもよい。
【0039】
本明細書で使用される「アルキル」は、シクロアルキル基及びシクロアルキルアルキル基を含み、本明細書で使用される「シクロアルキル」という用語は、環炭素原子を介して連結された炭素環式非芳香族基を記述するために使用され、「シクロアルキルアルキル」という用語は、アルキルリンカーを介して分子に連結された炭素環式非芳香族基を記述するために使用される。同様に、「ヘテロシクリル」は、少なくとも1つのヘテロ原子を環メンバーとして含み、C又はNであってもよい環原子を介して分子に連結している非芳香族環基を表すために使用され、さらに、「ヘテロシクリルアルキル」は、アルキレンリンカーを介して別の分子に連結するそのような基を表すために使用できる。また、本明細書で使用されるこれらの用語は環が芳香族でない限り、二重結合を含む環又は2つの環を含む。
【0040】
「芳香族」又は「アリール」置換基又は部位は、芳香族性のよく知られた特性を有する単環式又は縮合二環式の部位を指し、アリールの例は、フェニル及びナフチルを含む。同様に、「ヘテロ芳香族」及び「ヘテロアリール」は、1個以上のヘテロ原子を環メンバーとして含む、そのような単環式又は縮合二環式環系を指す。好適なヘテロ原子としては、N、O、及びSが挙げられ、これらのヘテロ原子を含むことにより、5員環及び6員環の芳香族性が得られる。代表的なヘテロ芳香族系としては、ピリジル、ピリミジル、ピラジニル、チエニル、フラニル、ピロニル、ピラゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、及びイミダゾリルなどの単環C5-C6芳香族基、及びこれらの単環基のいずれかをフェニル環又はヘテロ芳香族単環基のいずれかと融合させて形成される縮合二環式基であり、インドリル、ベンズイミダゾリル、インダゾリル、ベンゾトリアゾリル、イソキノリル、キノリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾフラニル、ピラゾロピリジル、キナゾリニル、キノキサリニル、シノリニル等のC8-C10の二環式基を形成するものを含む。環系全体の電子分布に関して芳香族性の特徴を有する任意の単環式又は縮合二環式系は、この定義に含まれる。また、少なくとも分子の残部に直接結合している環が芳香族性の特徴を有する二環式基も含まれる。典型的には、環系は5~14個の環員原子を含む。典型的には、単環式ヘテロアリールは5~6個の環員を含み、二環式ヘテロアリールは8~10個の環員を含む。
【0041】
アリール及びヘテロアリール部位は、C1-C8アルキル、C2-C8アルケニル、C2-C8アルキニル、C5-C12アリール、C1-C8アシル、及びこれらのヘテロ型を含む様々な置換基で置換されていてもよく、これらの各々はそれ自体がさらに置換されていてもよい。アリール及びヘテロアリール部位の他の置換基としては、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、OR、NR2、SR、SO2R、SO2NR2、NRSO2R、NRCONR2、NRC(O)OR、NRC(O)R、CN、C(O)OR、C(O)NR2、OC(O)R、C(O)R、及びNO2を含み、ここで、各Rは、独立して、H、C1-C8アルキル、C2-C8ヘテロアルキル、C2-C8アルケニル、C2-C8ヘテロアルケニル、C2-C8アルキニル、C2-C8ヘテロアルキニル、C6-C10アリール、C5-C10ヘテロアリール、C7-C12アリールアルキル、又はC6-C12ヘテロアリールアルキルであり、各Rは、アルキル基について上述したように任意に置換されていてもよい。アリール基又はヘテロアリール基上の置換基は、そのような置換基の種類ごとに、又は置換基の各成分ごとに適したものとして本明細書に記載された基でさらに置換されていてもよい。従って、例えば、アリールアルキル置換基は、アリール部分上に、アリール基のための典型的なものとして本明細書に記載された置換基で置換することができ、アルキル部分上に、アルキル基のための典型的な又は好適なものとして本明細書に記載された置換基でさらに置換できる。
【0042】
本明細書で使用される「任意に置換された」は、記載される特定の基が、非水素置換基で置換された1つ以上の水素置換基を有し得ることを示す。いくつかの任意に置換された基又は部位では、全ての水素置換基が非水素置換基(例えば、トリフルオロメチル等のポリフルオリネイテッドアルキル)で置換される。特に指定がない場合、存在し得るそのような置換基の総数は、記載されている基の置換されていない形態に存在するH原子の数に等しい。任意の置換基がカルボニル酸素やオキソ(=O)のような二重結合を介して結合している場合、グループは2つの利用可能な価数を取るので、含まれてもよい置換基の合計数は、利用可能な価数の数に応じて減少してもよい。
【0043】
いくつかの実施形態では、デコンタミネーション試薬は、式
【化12】
その互変異性体、その異性体、又は塩で表される1つ以上のモノマー単位を有するアミド化ペクチンの溶液を含み、
ここで、nは、0、1、2、又は3であり、
mは2、3、又は4であり、
pは2、3、又は4であり、及び
R
1、R
2、及びR
3は、独立して、H又はC
1-C
3アルキルである。
【0044】
いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンは、1つ以上の第一級アミノ基を含む。いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンは、ポリアミンでアミド化されている。いくつかの実施形態では、ポリアミンは、スペルミン、スペルミジン、カダベリン、エチレンジアミン、及びプトレスシンから選択される。いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンは、式
【化13】
それらの互変異性体、異性体、塩、又はそれらの組み合わせで表される1つ以上の単位を含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンは、式
【化14】
その異性体、塩、又はその互変異性体で表される1つ以上のモノマー単位を含む。
【0046】
いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンは、上記の式で表される複数のモノマー単位を含む。本明細書で使用される用語「複数」は、2つ以上を意味する。例えば、複数のモノマー単位は、少なくとも2つのモノマー単位、少なくとも3つのモノマー単位、又は少なくともモノマー単位などを意味する。本発明の実施形態が2種類以上の単量体ユニットを含む場合、それらはまた、第一の単量体ユニット、第二の単量体ユニット、第三の単量体ユニットなどと呼ばれてもよい。
【0047】
デコンタミネーション方法
一態様において、本明細書は表面上の核酸コンタミネーションを低減する方法であって、複数のアミノ基を含む溶解又は懸濁した修飾ペクチン(例えば、アミド化ペクチン)と、デコンタミネーションされる表面を接触させる工程を含む、方法を開示する。いくつかの実施形態では、修飾ペクチンはアミド化ペクチンであり、ここで、アミド化ペクチンは、式I~Vの構造を有する1つ以上のモノマー単位を含む。他の実施形態では、デコンタミネーション液中のアミド化ペクチンの濃度は、約0.01%~約5%の間、約0.01%~約1%の間、約0.01%~約0.1%の間、約0.1%~約5%の間、約0.1%~約1%の間、約0.5%~約5%の間、又は約0.5%~約2%の間である。いくつかの実施形態では、デコンタミネーション液中のアミド化ペクチンの濃度は、約0.1μg/ml~約10,000μg/mlの間、約0.1μg/ml~約5,000μg/mlの間、約0.1μg/ml~約1,000μg/mlの間、約0.1μg/ml~約100μg/mlの間、約0.1μg/ml~約5μg/mlの間である。当業者は除去すべき核酸コンタミネーション物質の量に応じて、デコンタミネーションペクチンの適切な量及び/又は濃度を選択できる。
【0048】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示のデコンタミネーション組成物(例えば、アミド化ペクチンの溶液又は懸濁液)は、室温での保存時に安定である。
【0049】
いくつかの実施形態では、デコンタミネーション組成物はソープ、デタージェント、ディスインフェクト剤、及び/又は他の適切な化学物質などの添加剤をさらに含んでもよい。適切なディスインフェクト剤の例としては、例えば、第四級アンモニウム化合物、コロイド銀、酢酸、過酸化水素、又はそれらの組み合わせを含む。
【0050】
いくつかの実施形態では、デコンタミネーション液はスワブ、ワイプ、クロス、フィルター、又はスポンジ上に存在する。特定の実施形態では、デコンタミネーションされる表面は、器具の表面又は実験台の表面である。他の実施形態では、溶液は実験室のピペットをデコンタミネーションするために使用される。いくつかの実施形態では、本明細書に開示のデコンタミネーションの方法は、デコンタミネーションされる表面を、水又はアミド化ペクチンを含まない別の溶液でリンス又はワイプすることをさらに含む。
【0051】
いくつかの実施形態では、方法は、核酸コンタミネーション物質からデコンタミネーションされる表面又は溶液を、ペクチンとヒドロゲルを形成することができ、それによって核酸又は本明細書に開示のデコンタミネーション溶液のアミド化ペクチンと核酸の複合体を沈殿、捕捉、複合化、又はその他の方法で不溶性にする金属イオンを含む溶液と接触させる工程をさらに含む。適切な金属イオンは、Ca2+及びMg2+イオンを含む。ペクチン又はアミド化ペクチンを架橋できる任意の金属は、本明細書で開示されるデコンタミネーション組成物に含めるのに適している。
【0052】
別の態様では、本明細書は溶液中の核酸コンタミネーションを低減する方法であって、デコンタミネーションされる溶液を、固体支持体に共有結合したアミド化ペクチンを含む組成物と接触させる工程を含み、ここで、アミド化ペクチンは、上記の式I~Vの構造を有する複数のモノマー残基を含む、方法を提供する。本明細書で使用される用語「固体支持体」は、常磁性粒子、ゲル、制御性ポアガラス、磁気ビーズ、マイクロスフェア、ナノスフェア、キャピラリー、フィルター膜、カラム、クロス、ワイプ、ペーパー、平坦な支持体、マルチウェルプレート、多孔性膜、多孔性モノリス、ウェハ、コーム、又はそれらの任意の組み合わせを含む任意の基材を指す。固体支持体は、ガラス、シリカ、酸化チタン、酸化鉄、エチレン性骨格ポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、セラミック、セルロース、ニトロセルロース、ジビニルベンゼンなどの任意の適切な材料で構成できるが、これらに限定されない。
【0053】
アミド化ペクチンなどの修飾ペクチンの固体支持体への共有結合は、ペクチンを、アミン反応性基(例えば、エポキシド、アルデヒド、ケトン、又は活性化エステル)を含む固体支持体と反応させることによって、任意の適切な方法で行うことができる。
【0054】
いくつかの実施形態では、本明細書の開示のアミド化ペクチンは、アミド結合(例えば、固体支持体のカルボキシ基とアミド化ペクチンのアミノ基との間に形成されるアミド結合)を介して固体支持体に共有結合される。アミド結合の形成は、任意の適切な方法で実施できる。例えば、1つ以上の第一級アミノ基を含むアミド化ペクチンを、適切なカップリング剤の存在下で、1つ以上のカルボン酸基を含む基質と反応させることができる。適切なカップリング剤の非限定的な例としては、DCC及びEDCIなどのカルボジイミドカップリング剤、BOP、PyBOP、PyBrOP、TBTU、HBTU、HATU、COMU、及びTFFHなどのホスホニウム及びイモニウムタイプの試薬を含む。いくつかの好ましい実施形態では、固体基材のカルボン酸基を活性化エステルに変換し、その後、アミド化ペクチンのアミノ基と反応させることができる。
【0055】
いくつかの実施形態では、固体支持体は、固体支持体に共有結合した式I~Vのいずれか1つの化合物を含む。
【0056】
いくつかの実施形態において、アミド化ペクチンは、アミド化ペクチンでクロス、スポンジ、パッド、又はワイプを浸透又はコーティングすることによって、クロス、スポンジ、パッド、又はワイプに組み込まれる。例としては、Kimberly-Clark Corporationによって製造されたKimWipesTMなどの実験目的で典型的に使用されるコットンスワブ、織繊維パッド、又はワイプが含まれるが、これらに限定されない。
【0057】
別の態様では、本明細書は空気中のエアロゾル化核酸コンタミネーションを低減する方法であって、エアロゾル化核酸でコンタミネーションされた空気を、修飾ペクチン(例えば、式I~Vのいずれか1つのモノマー単位又はそれらの組み合わせを含むアミド化ペクチン)を含む組成物と接触させる工程を含む、方法を提供する。いくつかの実施形態では、エアロゾル化核酸でコンタミネーションされた空気を接触させる工程は、アミド化ペクチンの溶液又は懸濁液に空気を通す工程を含む。いくつかの実施形態では、エアロゾル化核酸でコンタミネーションされた空気を接触させる工程は、アミド化ペクチンを含むフィルターに空気を通す工程を含む。いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンはフィルターに共有結合している。いくつかの実施形態では、エアロゾル化核酸でコンタミネーションされた空気を接触させる工程は、表面に共有結合しているアミド化ペクチンを含む表面の上に空気を通す工程を含む。いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンはスペルミンでアミド化されたペクチンであり、例えば、NHS/EDCカップリングによって、又はペクチンをペリオデートで逐次酸化し、アミン(例えば、スペルミン)及び水素化ホウ素ナトリウムで還元的アミノ化することによってアミド化されたペクチンである。
【0058】
核酸のコンタミネーション物質は、エアロゾルの形で、あるいはダスト粒子の上に存在することもある。従って、本発明のアミド化ペクチンを含むエアフィルターは、そのようなコンタミネーション物質の除去に有用である。いくつかの実施形態では、そのようなフィルターは、例えば、本発明のアミド化ペクチンを含む溶液にフィルター材料を浸し、その後、フィルターを乾燥させることによって調製できる。他の実施形態では、フィルター材料はアミド化ペクチンで共有結合的にコーティングできる。
【0059】
いくつかの実施形態では、溶液から核酸コンタミネーション物質を除去するために有益である。そのような実施形態では、コンタミネーション物質を含む溶液を、本発明のアミド化ペクチンを含む組成物(例えば、固体支持体に共有結合したアミド化ペクチンを含む固体支持体)で処理できる。いくつかの実施形態では、そのような処理は、デコンタミネーションされる溶液をフィルター、モノリス、膜などに通すことを含む。他の実施形態では、デコンタミネーションされる溶液を、固体支持体(例えば、磁気ビーズ)と接触させる。
【0060】
いくつかの実施形態では、核酸コンタミネーション物質はアンプリコンである。いくつかの実施形態では、アミド化ペクチンを含む組成物は、アンプリコンコンタミネーションを除去するため、及び/又は分子診断実験室の表面、器具、及び機器の上記コンタミネーションを防止するために使用される。このような表面、器具、及び機器のデコンタミネーションは、任意の適切な方法で、例えば、上述のいずれかの方法を用いて実施できる。いくつかの実施形態では、本明細書に開示のデコンタミネーション液は、増幅反応の完了及び増幅の産物の検出後に増幅反応に添加され、それにより、増幅の産物、例えば、アンプリコンを実質的に増幅不能にする。いくつかの実施形態では、デコンタミネーション液は、自動化されたカートリッジで増幅後の増幅反応に加えられる。本明細書に開示のデコンタミネーション剤は、分子診断検査の特定の成分と反応して有毒な副産物を放出するブリーチ又は他の酸化剤とは異なり、デコンタミネーション剤はそのような成分と反応しないため、特定の利点を有する。
【0061】
本明細書に開示の組成物のデコンタミネーション性能は、任意の適切な方法、例えば、ワイプテストを用いて試験できる。いくつかの実施形態では、文献に開示されているデコンタミネーション試薬の有効性評価の任意の方法を使用できる(例えば、Fischer M. et al, Efficacy Assessment of Nucleic Acid Decontamination Reagents Used in Molecular Diagnostics Laboratories, PLOS One, July 13, 2016を参照)。
【0062】
本発明の好ましい実施形態は、本発明を実施するための本発明者らに知られている最良の態様を含めて本明細書に記載されている。それらの好ましい実施形態についての変形、変更、修正、及び等価物の置換は、上述の説明を読めば、当業者には明らかになるであろう。本発明者らは、当業者がそのような変形、変更、修正、及び等価物の置換を適宜採用することを予期しており、本発明者らは、本明細書に具体的に記載されていない方法で本発明が実施されることを意図している。当業者であれば、本質的に同様の結果を得るために、変更、改変、修正が可能な様々な非重要パラメータを容易に認識するであろう。従って、本発明は、適用法で認められているように、添付の特許請求の範囲に記載されている主題の全ての修正及び同等物を含む。さらに、本明細書に別段の記載がない限り、あるいは文脈上明らかに矛盾しない限り、上述の要素をあらゆる可能なバリエーションで組み合わせたものが本発明に包含される。
【0063】
例示的な実施形態を図示及び説明してきたが、本発明の意図及び範囲から逸脱することなく、そこに様々な変更を加えることができることが理解されるであろう。 本発明の各要素は、複数の実施形態を含むものとして本明細書に記載されているが、別段の指示がない限り、本発明の所定の要素の実施形態のそれぞれは、本発明の他の要素の実施形態のそれぞれと一緒に使用することが可能であり、そのような使用のそれぞれは、本発明の別個の実施形態を形成することを意図していることを理解すべきである。
【0064】
本明細書で参照された特許、特許出願、及び科学文献は、あたかも個々の出版物、特許、又は特許出願が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されているかのように、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書で引用した参考文献と本明細書の具体的な教示との間に矛盾がある場合は、後者を優先して解決するものとする。同様に、技術的に理解されている単語やフレーズの定義と、本明細書で具体的に教えられている単語やフレーズの定義との間に矛盾がある場合は、後者を優先して解決するものとする。
【0065】
上記の開示から理解できるように、本発明は多様な応用が可能である。本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、これらは例示に過ぎず、本発明の定義及び範囲をいかなる形でも限定することを意図していない。
【実施例】
【0066】
実施例1. アミド化ペクチンの調製
スペルミン-ペクチンコンジュゲート化合物1の合成
リンゴペクチン(10.0g)を1LのMilli-Q濾過水に加え、1時間撹拌した。5M NaOH(10mL)を加え、さらに20分間攪拌した後、1N HCl(30mL)を加えた(pH=4.2)。この溶液にN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミドヒドロクロリド(EDC、10.08g、52.59mmol)とN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS、3.026g、52.59mmol)を加え、RTで1時間撹拌した。スペルミン(80mL、368mmol)を加え、溶液をRTで22時間撹拌した。その後、溶液を急速撹拌しているMeOH(2L)に注ぎ、20分間撹拌した。ミディアムフリットガラス漏斗で溶液をろ過して固形物を回収し、その後、MeOHで2回洗浄した。固形物を真空下、50℃で40時間乾燥させた。電動コーヒーグラインダーを用いて固体を微粉末にし、500mLの酸洗浄液(55%イソプロピルアルコール、34.5%水、及び10.5%濃塩酸)に懸濁し、4.5時間撹拌した。溶液をろ過し、固形物を酸洗液で2回追加洗浄した後、50℃で一晩真空乾燥した。固形物を750mLのDI水に懸濁し、50mLの遠心チューブを用いて4200rpmで10分間遠心分離した。上清を集めて混合した。ペレットを集め、350 mLのDI水に懸濁し、50 mLの遠心チューブを用いて4200 rpmで17時間遠心分離した。上清を最初の上清と混合した。混合した上清をすべて2ミクロンのフィルターでろ過した。ろ過した溶液を凍結乾燥すると、7.78gのスペルミン-ペクチンコンジュゲートが得られた。分析結果。計算C16H32N4O5(ガラクツロン酸モノマー+スペルミン):C, 53.3; H, 8.95; N, 15.5。ファウンドN, 7.21。
【0067】
ペクチンの酸化的開裂と還元的アミノ化によるスペルミンコンジュゲート化合物2の合成
この実施例では、酸化と続く還元的アミノ化による様々なポリアミンでの多糖ポリマーの修飾のための一般的な手順が提供される。
【0068】
(A)酸化。リンゴペクチン(2.5g)を250mLの脱イオン水に少しずつ加え、すべてが溶解するまで磁気的に攪拌した。これに過ヨウ素酸カリウム2.43gを撹拌しながら少しずつ加え、18時間撹拌を続けた。反応混合物を、8 kd MWCOの透析チューブを用いて水に対して3日かけて透析した。その後、得られた脱塩ポリマーを凍結乾燥して、酸化ペクチンをクランチなオフホワイトの固体として得た。アルデヒドの濃度は、ヒドロキシルアミン滴定によって容易に測定できる(Zhao, H.; Heindel, N. D. J. Pharm. Res. 8(3), 400-402に記載))。アルデヒド量は4.9mmol/g(ポリマーユニットあたり~1eqのアルデヒド)と決定された。
【0069】
(B)還元的アミノ化。工程Aからの酸化ペクチン(1.0g)を100mLの脱イオン水に懸濁し、スペルミン(1.32g、1.25eq)を加え、室温で18時間撹拌させた。反応物に1gのボロンハイドライドナトリウムペレットを加え、18時間撹拌した。反応混合物を、8 kd MWCOの透析チューブを用いて水に対して3日かけて透析し、その後、凍結乾燥して、200 mgの化合物2をオフホワイトのふわふわした固体として得た。
【0070】
スペルミン-ペクチンコンジュゲート溶液の調製
1.0gの凍結乾燥したスペルミン-ペクチンコンジュゲート化合物1及び化合物2を100mLのMilli-Qろ過水に溶解し、遠心分離機を用いて不溶性粒子を除去することにより、スペルミン-ペクチンコンジュゲート化合物1及び化合物2の溶液(1%、w/w)を調製した。
【0071】
1%溶液から0.1%、0.01%、0.001%、0.0001%の水中の希釈液を調製した。
【0072】
実施例2. 機能性ビーズの調製
A. スペルミン-ペクチンコンジュゲートの合成
リンゴペクチン(2.45g)を、急速撹拌したMilli-Q濾過水250mLにゆっくりと加えた。ペクチンが十分に湿るまで溶液を撹拌した(1.5時間)。溶液のpHが12になるまで2.5M NaOH(~5mL)を加えた。溶液を30分間撹拌した後、pH9になるまで1N HCl(~7mL)を加えた。N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N'-エチルカルボジイミドヒドロクロリド(2.45g, 12.8mmol)とN-ヒドロキシスクシンイミド(1.45g, 12.6mmol)を溶液に加え、混合物をRTで1.25時間撹拌した。スペルミン(25.0g、124mmol)を加え、溶液をRTで一晩撹拌した。その後、溶液を急速撹拌しているMeOH(1.5L)に注ぎ、45分間撹拌した。ミディアムフリットガラス漏斗で溶液をろ過して固形物を回収し、MeOHで3回洗浄した。固形物を真空下で50℃で一晩乾燥させた。固形物を乳鉢と乳棒を使って微粉末にし、その粉末を50mLの酸洗浄液(55%イソプロピルアルコール、34.5%水、10.5%濃塩酸)に入れ、1時間撹拌した。固形物を濾し取り、さらに酸洗浄液(5x)と中性洗浄液(59%イソプロピルアルコール及び41%水)で5回洗浄した。その後、固形物をMeOH(5x)で洗浄し、高真空下で乾燥させて、スペルミン-ペクチンコンジュゲート2.20gを得た。分析結果。計算C16H32N4O5(ガラクツロン酸モノマー+スペルミン):C, 53.3; H, 8.95; N, 15.5。ファウンドC, 39.0; H, 6.58; N, 4.07。
【0073】
B. ビーズの修飾
以下のビーズを上述のペクチンで修飾した。
シリカマイクロスフェア、カルボキシル、1.0μm (Polysciences, Warrington, PA, 24754-1)
カルボキシル-ポリスチレン粒子、5.11μm(Spherotec, Germany, CP-50-10)
NHS活性化セファロース4ファストフロー(Sepharose beads, GE healthcare, Chicago, IL,17-0906-01)
【0074】
セファロースビーズについては、NHS-活性化ビーズフォームを使用したため、EDC/NHS活性化は行わなかった。加水分解NHS-セファロースビーズを非修飾ビーズコントロールとして使用した。本実施例では、上述の修飾ペクチンのようなアミン含有ペクチンポリマーを用いたカルボキシル修飾ビーズの官能化の手順が提供される。
【0075】
カルボキシル基で修飾されたポリスチレンビーズ(~5ミクロン、5%wt懸濁液2mL)(Spherotec、CP-50-10)をDI水(4mL)で希釈し、15分間超音波処理した。ビーズ懸濁液に、40mgのEDC.HClと40mgのNHSを加えた。活性化のために懸濁液を24時間撹拌した後、4000rpmで5分間の短時間遠心分離を行い、上清をデカントした。ビーズを5mlのDI水に再懸濁し、これにアミンポリマーの1%溶液(5mL)を加えた。アミンペクチンポリマーをDI水中で18時間撹拌した後、9000rpmで30分間遠心分離し、溶解した物質を除去することでアミンペクチンポリマー溶液を調製した。懸濁液を18時間撹拌した後、9000rpmで30分間遠心分離し、45mLの水で希釈し、同様の方法でリンスした。このプロセスを、0.1M NaOH(1x)、0.1M HCl(1x)、及びDI水(2x)で繰り返した。ビーズを5mlのDI H2Oに再懸濁し、30分間超音波処理を行い、Speedvacを介して150ulのアリコート中のビーズの量を測定することで濃度を測定した。
【0076】
実施例3. 核酸のデコンタミネーション
実験A
7つの別々のサンプルバイアルを用意した。それぞれは100μLの水中に2.5ngのサケdsDNA(126bp)アンプリコンテンプレート配列を含む。最初のバイアルにはスペルミン-ペクチンコンジュゲートを加えなかった。残りの各バイアル(0.5、2、3、4、5、6μg)に10uLの水中のスペルミン-ペクチンコンジュゲートを加えた。RTで1時間放置した後、各バイアルから5μLを取り出し、PCR反応液(15μL)に加えた。リアルタイムqPCRは、PCRmax Eco 48を用いて、以下に示す条件で行った。サーマルサイクルは、95℃で60秒、続いて95℃で10秒、60℃で60秒の40サイクルをプログラムした。PCR反応溶液:25mM KCl、50mM MgCl2、4.2mM HEPES、0.1% Tween、0.2mM dNTP's、1.5mU/uLホットスタートTaq酵素、400nMプローブ、及び400nMプライマー。
フォワードプライマー:5'-AGCCTGGATGACAATGACTCT-3' 配列番号1
リバースプライマー:5'-CTTATGCAT GTCCTTCTTG-3' 配列番号2
プローブ:FAM(5')及びBHQ(3')で修飾された5'-CGACGGCAACG(T-Dabcyl)CAGGAGGAACTACGA-3' 配列番号3
PCRによるアンプリコン産物のモデルとするためにサケゲノム配列から得られた二本鎖DNA(126bp)をIntegrated DNA Technologies社から購入した。
アンプリコンテンプレート配列(126-mer):5'AGCCTGGATGACAATGACTCTCAGCATCTGCCCCCCTACGGGAACTACTTCCAGAACCTGGGGGGCGACGGCAACGTCAGGAGGAACTACGAACTGTTGGCCTGCTTCAAGAAGGACATGCATAAG-3' 配列番号4
【0077】
図1は2.5ngのテンプレートdsDNA(126bp)をスペルミンコンジュゲートペクチンで処理したときのPCR曲線を示している。各曲線は2.5ngのdsDNAに0.5~6.0ngのスペルミン-ペクチンを加えたときの実験結果を表す。左側の最初の曲線は12.2のCtを有し、スペルミン-ペクチンなしのコントロールを示す。別々の反応にペクチンを追加するとCtが長くなり、6ugのスペルミン-ペクチンではCtが観測されなかった。これは、テンプレートの全てがスペルミン-ペクチンコンジュゲートによって結合され、テンプレートがPCR反応で増幅されない濃度である。
【0078】
実験B
2つのバイアルを用意した。それぞれは60μLの水中に6μgのスペルミン-ペクチンコンジュゲートを含む。一方のバイアルには、20μLの水中の4μgのhgDNAを加え、RTで1時間静置した。次に、100μL中の2.5ngのサケdsDNA(126bp)モデルアンプリコンを両方のバイアルに加えた。各バイアルから5μLのアリコートを取り出し、後述のPCRに使用した。
【0079】
2.5ngのサケdsDNA(126bp)を6ugのスペルミン-ペクチンコンジュゲートで処理したとき、PCRの増幅は起こらなかった(
図2)。しかし、6μgのスペルミン-ペクチンを、まずDNAコンタミネーションを表す4μgのhgDNAで処理し、次に2.5ngのサケdsDNAを加えると、2.5ngのサケDNAのみのコントロールと同じPCRシグナルが得られた(
図2)。この例は、スペルミン-ペクチンコンジュゲートがコンタミネーションDNAを先に拘束することができ、スペルミン-ペクチン-コンタミネーションDNA複合体の存在下でも、目的のターゲットDNAの増幅が起こることを示している。
【0080】
実験C
サケdsDNA(126bp)のモデルアンプリコンを、水1mLあたり1,000万コピーの濃度になるように希釈した。このDNA溶液1mLを3つのバイアルにそれぞれ加えた。1つのバイアルをスペルミン-ペクチンなしのコントロールサンプルとして使用した。他の2つのバイアルには、10μLの水中の1μgのスペルミン-ペクチンコンジュゲートを加えた。また、これらのバイアルのうち1つだけに、さらに100μLの水中の2.5ngのサケdsDNA(126bp)モデルアンプリコンを加えた。1時間放置した後、各バイアルから5μLを後述のPCR反応に使用した。
【0081】
図3は、1,000万コピーのdsDNA(126bp)を1ugのスペルミン-ペクチンコンジュゲートで処理したとき、増幅が完全に阻害されたことを示している(B)。より多くのコピー(1.9×10
10)をスペルミン-ペクチン-DNA混合物に加えた後、増幅は回復し(C)、未処理のDNA増幅(A)と同等になった。これは、スペルミン-ペクチンコンジュゲートが、マイナーなDNAコンタミを結合させ、その後ターゲットの増幅を可能にするために使用できることを示している。
【0082】
実施例4. アンプリコンからの表面のデコンタミネーション
アンプリコン溶液の調製
プローブを使用せずに上述の方法でサケDNAターゲットを用いたPCRを行った。PCRを40サイクル行った後、PCRチューブの内容物を1000倍に希釈し、DNAの約400Bコピー/mLのを含む「アンプリコン溶液」を得た。増幅能力とコピー数/mLは、標準的な10KコピーのサケDNAターゲットとPCRで並列比較して確認した。このアンプリコン溶液を用いて、以下の実験を行った。
【0083】
表面上の乾燥アンプリコンの調製
31x23cmのポリプロピレンプレートをP150(非常に細かい)サンドペーパーで粗面化した。その表面を水でクリーニングし、湿潤性を試験して乾燥させた。いくつかの実験では、表面について7.5cm×1.8cmの格子状に広く区切られたセグメントに印をつけ、様々な処理とコントロールを行った。10mLのアンプリコン溶液を乾燥した表面に滴下し、コットンスワブを用いて表面全体に均一に広げた。プレートを水平面に置き、4時間乾燥させた。乾燥したアンプリコンを含む表面を、以下のデコンタミネーション実験及びコントロール実験に供した。
【0084】
様々な濃度の化合物1の溶液による表面アンプリコンの処理
アンプリコンを含む表面の13.5cm2のセグメント8セットに、化合物1の1%溶液を2mL塗布した。コットンスワブを使用して溶液を4つのセグメントすべてに均等に広げ、水平面で一晩乾燥させた。各セグメントから0.5mLの水中に集めた湿ったスワブを3回のPCR分析にかけた。
【0085】
0.1%, 0.01%, 0.001%, 0.0001%の化合物1溶液と0%のコントロール(水)で同様の実験を行った。さらに8セグメントを未処理のコントロールとして残した。スワブと10K DNAターゲットを添加した同じサンプルの平均Ct値を表1に示す。
【表1】
【0086】
エアロゾル状の増幅可能なアンプリコンの不活性化
乾燥した分析物を含む31×23cmの粗面化ポリプロピレンの表面の上で、表面の上3cmに設置した直径7cmのポリプロピレン漏斗を用いて、エアロゾルを回収した。漏斗は、30mLの水を含むポリプロピレンインピンジャーにフレキシブルチューブで接続した。インピンジャーの出口は、5L/minの速度に設定した吸引ポンプに接続した。24時間かけて空気中の粒子を回収し、その溶液のサンプルをPCR分析に供した。未処理表面のアンプリコンは、Ct 35でPCRシグナルを生成した。0.1%の化合物1溶液を噴霧して処理し、一晩乾燥させた表面では、アンプリコンが検出されなかった(
図4)。同様に、0.01%の化合物1の溶液ではアンプリコンが完全に抑制され、0.001%の化合物1では部分的に抑制された(表2)。いずれの場合も、PCRサンプルに10Kコピーの標的DNAを加えても、コントロールと同じCtを示し、エアロゾル状態でPCR阻害物質が発生しないことが実証された。
【0087】
エアロゾル状態でPCR阻害物質が生成されないことを実証するために、1%の化合物1をクリーンな粗面化ポリプロピレンの表面に塗布し、一晩乾燥させた。エアロゾルを30mLの水で24時間かけて捕捉し、10KターゲットDNAを添加したPCRでサンプルをテストした。その結果、純水中の10KターゲットDNAのコントロールサンプルと比較して、PCRのCtに差は見られなかった(Table 2)。
【表2】
【0088】
実施例5. アンプリコンからの空気のデコンタミネーションをするためのスクラバー
乾燥したアンプリコンを含む31×23cmの粗面化ポリプロピレンの表面の上で、表面の上3cmに設置した直径7cmのポリプロピレン漏斗を用いてエアロゾルを回収した。漏斗を30mLの水を含むポリプロピレンインピンジャーAにフレキシブルチューブで接続した。また、30mLの水を含む別のインピンジャーBをインピンジャーAと直列に接続した。インピンジャーBの出口は、5L/minの速度に設定した吸引ポンプに接続した。24時間かけてインピンジャーAと続くインピンジャーBで空気中の粒子を回収し、AとBの溶液のサンプルをPCR分析に供した。表面アンプリコンからのエアロゾルは、AではCt35、BではCt42のPCRシグナルを生成した。この実験は、水が効果的な洗浄物質ではないことを示す。アンプリコンはインピンジャーAからエスケープし、インピンジャーBでアンプリコンが検出された。
【0089】
同様の実験を、2つのインピンジャーAとBを直列に接続して行ったが、このときAには0.1%の化合物1を30mL入れた。PCR分析では、どちらのインピンジャーでも活性アンプリコンは検出されず(ND)、BからのサンプルでもPCRの阻害は見られなかった。
【表3】
【配列表】