(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】難燃性樹脂組成物、その製造方法及び水添石油樹脂
(51)【国際特許分類】
C08L 23/08 20060101AFI20240206BHJP
C08L 57/02 20060101ALI20240206BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240206BHJP
【FI】
C08L23/08
C08L57/02
C08K3/013
(21)【出願番号】P 2021513685
(86)(22)【出願日】2020-04-08
(86)【国際出願番号】 JP2020015884
(87)【国際公開番号】W WO2020209311
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2019074679
(32)【優先日】2019-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】河崎 広
(72)【発明者】
【氏名】内澤 将太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 一玄
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-249388(JP,A)
【文献】特開2012-188509(JP,A)
【文献】特開2000-302887(JP,A)
【文献】特開2002-047381(JP,A)
【文献】特開2002-317097(JP,A)
【文献】特開2020-055983(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062390(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
五員環を有する脂環式化合物及び芳香族炭化水素化合
物を含む不飽和炭化水素の重合体の水添物である水添石油樹脂と、
エチレン-酢酸ビニル共重合体及びエチレン-アクリル酸エチル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むポリオレフィンと、
無機充填材と、
を含有
し、
前記不飽和炭化水素における前記芳香族炭化水素化合物の含有量C1と前記脂環式化合物の含有量C2との比C1/C2(質量比)が、0.25以上1.38以下であり、
前記水添石油樹脂の含有量が、難燃性樹脂組成物全量を基準として、1質量%以上25質量%以下であり、
前記ポリオレフィンの含有量が、難燃性樹脂組成物全量を基準として、5質量%以上35質量%以下である、難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記脂環式化合物が、ジシクロペンタジエン骨格を有するDCPD系化合物を含む、請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記芳香族炭化水素化合物が、インデン骨格を有するインデン系化合物及びスチレン骨格を有するスチレン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
五員環を有する脂環式化合物及び芳香族炭化水素化合
物を含む不飽和炭化水素の重合体の水添物である水添石油樹脂と、
エチレン-酢酸ビニル共重合体及びエチレン-アクリル酸エチル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むポリオレフィンと、無機充填材と、を接触させる工程を備える、難燃性樹脂組成物の製造方法
であって、
前記不飽和炭化水素における前記芳香族炭化水素化合物の含有量C1と前記脂環式化合物の含有量C2との比C1/C2(質量比)が、0.25以上1.38以下であり、
前記水添石油樹脂の含有量が、難燃性樹脂組成物全量を基準として、1質量%以上25質量%以下であり、
前記ポリオレフィンの含有量が、難燃性樹脂組成物全量を基準として、5質量%以上35質量%以下である、難燃性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物、その製造方法及び水添石油樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、難燃性樹脂は、電線(通信ケーブル、機器内配線、電源コード、光ファイバーコード等)、電設(耐雷クランプカバー、地中埋設管等)、自動車(内層シート、電線保護管等)、建材・建築資材(養生シート、ダクトホース、電線保護管、スタジアム用椅子等)、家電(ハウジング等)など、難燃性を必要とする部材に広く用いられている。例えば、特許文献1には、ケーブルを構成する絶縁層やシース(外装)に用いられる難燃性樹脂組成物として、特定の樹脂を含むベース樹脂と、炭酸カルシウム粒子と、シリコーン系化合物と、脂肪酸含有化合物とを含む、難燃性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
難燃性樹脂組成物をケーブルジャケット(電線等の導体の周りを覆うための絶縁体、シース(外装)など)の材料として用いる場合、応力に対しての強度(引張強度)を維持しつつ、ひずみに対する良好な強度を有することが好ましい。このような特徴を有する難燃性樹脂組成物としては、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)が従来から広く用いられていたが、PVCは、燃焼時に有毒ガスが発生するという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、応力に対しての強度を維持しつつひずみに対する良好な強度を達成することができる難燃性樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、上記難燃性樹脂組成物の製造方法及び難燃性樹脂組成物用に用いられる水添石油樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、難燃性樹脂組成物を特定の組成とすることで、上記課題を解決するに至った。すなわち、本発明は、五員環を有する脂環式化合物及び芳香族炭化水素化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む不飽和炭化水素の重合体の水添物である水添石油樹脂と、ポリオレフィンと、無機充填材と、を含有する難燃性樹脂組成物を提供する。
【0007】
脂環式化合物は、ジシクロペンタジエン骨格を有するDCPD系化合物を含んでいてよい。
【0008】
芳香族炭化水素化合物は、インデン骨格を有するインデン系化合物及びスチレン骨格を有するスチレン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてよい。
【0009】
ポリオレフィンは、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてよい。
【0010】
本発明はまた、五員環を有する脂環式化合物及び芳香族炭化水素化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む不飽和炭化水素の重合体の水添物である水添石油樹脂と、ポリオレフィンと、無機充填材と、を接触させる工程を備える、難燃性樹脂組成物の製造方法を提供する。
【0011】
本発明はさらに、五員環を有する脂環式化合物及び芳香族炭化水素化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む不飽和炭化水素の重合体の水添物である、難燃性樹脂組成物用水添石油樹脂を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、応力に対しての強度を維持しつつひずみに対する良好な強度を達成することができる難燃性樹脂組成物が提供される。また、本発明によれば、上記難燃性樹脂組成物の製造方法及び難燃性樹脂組成物に用いられる水添石油樹脂が提供される。また、当該難燃性樹脂組成物は、PVCの代替となり得るものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本実施形態に係る難燃性樹脂組成物は、不飽和炭化水素の重合体の水添物である水添石油樹脂と、ポリオレフィンと、無機充填材と、を含有する。
【0015】
水添石油樹脂は、不飽和炭化水素の重合体(以下、「石油樹脂」ともいう)の水添物であり、不飽和炭化水素は、重合性基である炭素-炭素二重結合を有し、互いに重合可能な化合物である。
【0016】
不飽和炭化水素には、五員環を有する脂環式化合物及び芳香族炭化水素化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種が含まれる。
【0017】
不飽和炭化水素は、例えば、石油由来の原料油から熱分解等を経て採取される留分に含まれるものであってよく、石油由来のC5、C9留分に主に含まれるものであってよい。
【0018】
本実施形態において、上記脂環式化合物は、五員環を有し芳香環を有しない化合物である。上記脂環式化合物として、例えば、ジシクロペンタジエン骨格を有するDCPD系化合物、シクロペンタジエン骨格を有するCPD系化合物(C5系化合物)等が挙げられる。ここで、ジシクロペンタジエン骨格とは、ジシクロペンタジエンの有する炭素骨格を示す。シクロペンタジエン骨格とは、シクロペンタジエンの有する炭素骨格を示す。
【0019】
不飽和炭化水素は、上記脂環式化合物としてDCPD系化合物を含むことが好ましい。DCPD系化合物としては、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン等が挙げられる。
【0020】
CPD系化合物としては、例えば、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン等が挙げられる。
【0021】
上記脂環式化合物におけるDCPD系化合物の割合は、例えば50質量%以上であってよく、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0022】
不飽和炭化水素における上記脂環式化合物の含有量は、不飽和炭化水素の全量基準で、例えば30質量%以上であってよく、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。これにより、重合反応が進行しやすくなり、目的の重合体が得られやすくなる傾向がある。また、不飽和炭化水素における上記脂環式化合物の含有量は、不飽和炭化水素の全量基準で、例えば85質量%以下であってよく、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。これにより、樹脂分に対する相溶性の高い水添石油樹脂が得られやすくなる傾向がある。
【0023】
芳香族炭化水素化合物は、例えば石油由来のC9留分に主に含まれるC9系化合物であってよく、具体的には、インデン(C9H8)骨格を有するインデン系化合物、スチレン骨格を有するスチレン系化合物等が挙げられる。インデン系化合物としては、例えば、インデン、メチルインデン等が挙げられる。スチレン系化合物としては、例えば、スチレン、メチルスチレン等が挙げられる。
【0024】
不飽和炭化水素における上記芳香族炭化水素化合物の含有量は、不飽和炭化水素の全量基準で、例えば10質量%以上であってよく、20質量%以上であってよく、30質量%以上であってよい。芳香族炭化水素化合物の含有量は、不飽和炭化水素の全量基準で、例えば60質量%以下であってよく、50質量%以下であってよく、40質量%以下であってよい。
【0025】
不飽和炭化水素が、上記脂環式化合物及び芳香族炭化水素化合物を更に含む場合、当該芳香族炭化水素化合物の含有量C1と当該脂環式化合物の含有量C2との比C1/C2(質量比)は、好ましくは0.25以上であり、より好ましくは0.43以上である。これにより、樹脂分に対する相溶性の高い水添石油樹脂が得られやすくなる傾向がある。また、比C1/C2は、好ましくは1.38以下であり、より好ましくは1.27以下である。これにより、重合反応が進行しやすくなり、目的重合体が得られやすくなる傾向がある。
【0026】
上記脂環式化合物及び芳香族炭化水素化合物以外に、不飽和炭化水素としては、例えば、環状構造を有しない脂肪族化合物、五員環を有しない脂環式化合物、複素環を有する複素環式化合物等を含んでいてもよい。上記脂肪族化合物としては、例えば、ピペリレン、イソプレン等が挙げられる。上記複素環式化合物としては、クマロン等が挙げられる。これらの不飽和炭化水素の含有量は、不飽和炭化水素の全量基準で5質量%以下であってよく、1質量%以下であってよく、0質量%であってもよい。
【0027】
石油樹脂は、上記脂環式化合物及び上記芳香族炭化水素化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物由来の構造単位を有する重合体ということができる。石油樹脂における上記構造単位の含有量は、不飽和炭化水素における上記脂環式化合物及び/又は上記芳香族炭化水素化合物の含有量に相当する。
【0028】
石油樹脂は、不飽和炭化水素の重合により得ることができる。不飽和炭化水素の重合方法は特に限定されず、公知の重合方法から適宜選択することができる。
【0029】
好適な一態様において、石油樹脂は、不飽和炭化水素の熱重合により得られたものであってよい。熱重合の方法は特に限定されず、例えば、不飽和炭化水素を含む原料組成物を所定の反応温度に加熱することで実施してよい。
【0030】
熱重合の反応温度は特に限定されず、例えば250℃以上であってよく、好ましくは260℃以上、より好ましくは270℃以上である。また、熱重合の反応温度は、例えば300℃以下であってよく、好ましくは290℃以下、より好ましくは280℃以下である。
【0031】
熱重合の反応時間(反応系を上記反応温度に維持する時間)は特に限定されず、例えば30~180分であってよく、好ましくは60~120分である。
【0032】
熱重合に用いられる原料組成物は、不飽和炭化水素以外の成分を更に含有していてもよい。例えば、石油由来の留分(C5留分、C9留分等)には、重合性基を有さず、熱重合に関与しない非重合性炭化水素を更に含有する場合がある。熱重合に用いられる原料組成物は、このような非重合性炭化水素を更に含有していてもよい。非重合性炭化水素としては、例えば、飽和炭化水素(アルカン、シクロアルカン等)、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン等)等が挙げられる。
【0033】
原料化合物に、不飽和炭化水素以外の成分が含まれる場合は、例えば、不飽和炭化水素を熱重合させた後に軽質分除去(蒸留)を行うことで、これを除去することができる。
【0034】
水添石油樹脂は、石油樹脂の水添物である。水添石油樹脂は、石油樹脂の部分水添物であっても完全水添物であってもよいが、部分水添物であることが好ましい。すなわち、水添石油樹脂は、石油樹脂の有する不飽和結合等の還元部位の一部又は全部が水添されたものであってよい。
【0035】
水添石油樹脂の軟化点は、特に制限されないが、例えば80℃以上であってよく、90℃以上であってよく、100℃以上であってよい。水添石油樹脂の軟化点が上記範囲内であれば、難燃性樹脂の強度特性をより向上させることができる。また、水添石油樹脂の軟化点の上限も特に制限されず、例えば、150℃以下であってよく、130℃以下であってよく、120℃以下であってよい。水添石油樹脂の軟化点が上記数値範囲内であれば、加工性がよくなるという傾向がある。なお、本明細書において、水添石油樹脂の軟化点は、メトラートレド社のDP70を使用して、ASTM D6090に準拠した方法により測定される値を意味する。
【0036】
水添石油樹脂の重量平均分子量は、特に制限されず、例えば、4000以下であってよく、2000以下であってよく、1000以下であってよい。また、水添石油樹脂の重量平均分子量の下限も特に制限されず、例えば、300以上であってよく、350以上であってよい。なお、本明細書において、水添石油樹脂の重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定され、標準ポリスチレン換算した値を意味する。
【0037】
水添石油樹脂は、不飽和炭化水素の重合体(石油樹脂)を水添して得ることができる。石油樹脂を水添し、水添物を得る方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、水素化触媒の充填されたリアクターに石油樹脂を流通させ、水素の存在下で水素化触媒と石油樹脂とを接触させることで、水添を行うことができる。このような石油樹脂の水添は、溶媒中で行ってもよいし、溶媒を用いずに行ってもよい。
【0038】
水素化触媒は特に限定されず、例えば、ニッケル系触媒、パラジウム系触媒、プラチナ系触媒等であってよい。
【0039】
水添反応の条件は、石油樹脂の種類や所望される水添石油樹脂の物性に応じて適宜変更することができる。水添反応における水素圧は、例えば5MPa以上であってよく、10MPa以上であってよい。また、水添反応における水素圧は、例えば30MPa以下であってよく、20MPa以下であってよい。水添反応における反応温度は、例えば200℃以上であってよく、230℃以上であってよい。また、水添反応における反応温度は、例えば310℃以下であってよく、300℃以下であってよい。
【0040】
水添石油樹脂の含有量は、難燃性樹脂組成物全量を基準として、1質量%以上であってよく、2質量%以上であってよく、5質量%以上であってよい。また、水添石油樹脂の含有量は、難燃性樹脂組成物全量を基準として、25質量%以下であってよく、20質量%以下であってよく、15質量%以下であってよい。
【0041】
本実施形態に係る難燃性樹脂組成物は、樹脂としてポリオレフィンを含有する。ポリオレフィンとしては、特に制限されないが、例えば熱可塑性の樹脂であることが好ましい。このようなポリオレフィンとしては、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられ、中でも、EVA及びEEAからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0042】
ポリオレフィンとして、例えばEVAを用いる場合、EVAにおける酢酸ビニル含有量が、例えば30~50質量%のものを用いてもよい。
【0043】
ポリオレフィンの含有量は、難燃性樹脂組成物全量を基準として、5質量%以上であってよく、8質量%以上であってよく、10質量%以上であってよい。また、ポリオレフィンの含有量は、難燃性樹脂組成物全量を基準として、35質量%以下であってよく、30質量%以下であってよく、25質量%以下であってよい。
【0044】
本実施形態に係る難燃性樹脂組成物に用いられる無機充填材は、特に限定されず、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等を用いることができる。これらの無機充填材は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、無機充填材の形状も特に限定されず、粉末状、鱗片状、繊維状等のいずれであってもよい。
【0045】
本実施形態に係る難燃性樹脂組成物は、本発明の効果を著しく損なわない範囲において、上記各成分以外の他の添加剤を含有してもよい。他の添加剤としては、難燃性樹脂組成物に一般的に添加されるものであれば特に制限されず、例えば、酸化防止剤、滑剤、加工安定剤、着色剤、発泡剤、補強剤等であってよい。これらの他の添加剤の含有量は、難燃性樹脂組成物全量を基準として、例えば、5質量%以下であってよく、1質量%以下であってよい。
【0046】
本実施形態に係る難燃性樹脂組成物は、上述した水添石油樹脂と、ポリオレフィンと、無機充填材と、必要に応じて他の添加剤とを混合させる工程を経ることにより製造することができる。上記工程は、例えば、ポリオレフィン、無機充填材、及び必要に応じて他の充填材を含有する混合物に、上記水添石油樹脂を添加する工程であってもよい。すなわち、上記水添石油樹脂は、難燃性樹脂に添加する難燃性樹脂組成物用水添石油樹脂ということもできる。
【0047】
難燃性樹脂組成物の密度は、特に制限されず、例えば、1.0g/cm3以上、1.2g/cm3以上、又は1.4g/cm3以上であってよく、2.0g/cm3以下、1.8g/cm3以下、又は1.6g/cm3以下であってよい。なお、本明細書において、密度は、JIS K7112のA法(水中置換法)に準拠し、23℃において測定した値である。
【0048】
本実施形態に係る難燃性樹脂組成物は、優れた破断点ひずみを達成し得るだけでなく、成形品を加工する際の加工性にも優れる。加工性の評価指標としての難燃性樹脂組成物の荷重21.6kgにおけるメルトマスフローレート(MFR(21.6kg))は、例えば50g/10min以上であり、60g/10min以上であり、70g/10min以上である。また、MFR(21.6kg)の上限は、例えば200g/10min以下であり、180g/10min以下であり、160g/10min以下である。難燃性樹脂組成物の荷重2.16kgにおけるメルトマスフローレート(MFR(2.16kg))は、例えば0.01g/10min以上であり、0.05g/10min以上であり、0.1g/10min以上である。また、MFR(2.16kg)の上限は、例えば1g/10min以下であり、0.95g/10min以下であり、0.9g/10min以下である。なお、本明細書において、MFRは、JIS K7210-1のA法(質量測定法)に準拠し、温度190℃、荷重2.16kg又は21.6kgの条件で測定した値である。
【0049】
上記のようにして得られた難燃性樹脂組成物を、押出機等の汎用の混練装置において溶融、混練することにより、所望の形状の難燃性樹脂成形品を製造することができる。難燃性樹脂成形品は、用途に応じて、例えばシート状、テープ状、棒状等、様々な形態に加工されて用いることができる。例えば、電線等の導体の周りを覆うためのケーブルジャケットとして用いる場合には、難燃性樹脂組成物を、電線被覆成形、チューブ成形等で加工することで得ることができる。
【0050】
本実施形態に係る難燃性樹脂組成物から得られる難燃性樹脂成形品は、ひずみに対する良好な強度を有するため、特に、上述したようなケーブルジャケットとして好適に用いることができる。ひずみに対する強度は、破断点ひずみの値を測定することによって評価することができる。また、上記難燃性樹脂成形品は、難燃性樹脂として通常求められる難燃性を具備しつつ、ケーブルジャケットとして求められる降伏応力や破断点応力等の他の強度特性も具備することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0052】
[石油樹脂の製造]
(実施例1)
<不飽和炭化水素の重合体の合成>
表1に示す各成分を、表1に示す質量比で混合し、混合溶液を得た。次いで、得られた混合溶液を熱重合装置(東洋高圧社製)に投入した。次いで、混合溶液を昇温速度5℃/分の条件で276℃まで昇温させ、120分間維持した。その後、冷却水を流し、急冷させ、熱重合樹脂溶液を得た。得られた熱重合樹脂溶液に対して、軽質分除去(蒸留)を行い、未反応物及び低重合度の成分を除去することで、重合体を得た。
【0053】
<不飽和炭化水素の重合体の水添>
得られた不飽和炭化水素の重合体をケロシンに、30質量%濃度となるように調整して溶解させた。得られた溶液をニッケル系触媒が充填された水添リアクターに投入し、同時に水素を流通させ、圧力18MPa、温度280℃の条件で不飽和炭化水素の重合体の水素添加を1時間行い、不飽和炭化水素の重合体の水添物を含む溶液を得た。得られた不飽和炭化水素の重合体の水添物を含む溶液に対して軽質分除去(蒸留)を行い、溶液中のケロシンを除去し、水添石油樹脂(石油樹脂A)を得た。
【0054】
(実施例2)
混合溶液の成分を表1に示す組成に変更したこと、及び重合時の最大温度を268℃にしたこと以外は、実施例1と同様の方法により、水添石油樹脂(石油樹脂B)を得た。
【0055】
(実施例3)
混合溶液の成分を表1に示す組成に変更したこと、及び重合時の最大温度を268℃にしたこと以外は、実施例1と同様の方法により、水添石油樹脂(石油樹脂C)を得た。
【0056】
(比較例1)
表1に示す組成を有する溶液を準備し、当該溶液とルイス酸触媒を30℃に設定した重合装置に導入し、触媒重合樹脂溶液を得た。得られた触媒重合樹脂溶液に対して、軽質分除去(蒸留)を行い、未反応物及び低重合度の成分を除去することで、不飽和炭化水素の重合体(石油樹脂D)を得た。
【0057】
(比較例2)
表1に示す組成を有する溶液を準備し、当該溶液とルイス酸触媒を30℃に設定した重合装置に導入し、触媒重合樹脂溶液を得た。得られた触媒重合樹脂溶液に対して、軽質分除去(蒸留)を行い、未反応物及び低重合度の成分を除去することで、不飽和炭化水素の重合体(石油樹脂E)を得た。
【0058】
[石油樹脂の樹脂軟化点の測定]
上記で得られた石油樹脂A~Eのサンプルの軟化点を、メトラートレド社のDP70を使用して、ASTM D6090に準拠した方法により測定した。結果を表1に示す。
【0059】
【0060】
[難燃性樹脂組成物の作製]
上記で得られた石油樹脂A~E、エチレン-酢酸ビニル共重合体、無機充填材及び酸化防止剤を、下記表2に示す組成(単位:質量%)で混練し、難燃性樹脂組成物を得た。混練には、加圧式ニーダー(東洋精機社製)及びロール機(KNEADER MACHINERY社製)を使用し、混練の条件は、開始温度180℃、回転速度50rpm、混練時間15分とした。なお、表2中の成分の詳細は以下のとおりである。
【0061】
エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA):NUC社製、NUC-3195
無機充填材:水酸化マグネシウム、協和化学工業社製、キスマ5A
酸化防止剤:BASF社製、Irganox1010
【0062】
[破断点ひずみの評価]
実施例4~8及び比較例3~4で得られた難燃性樹脂組成物を、加熱温度180℃、加熱時間10分の条件で加熱成形し、難燃性樹脂成形体を作製した。得られた難燃性樹脂成形体を厚さ1mm×幅5mm×標線間距離20mmのダンベル状3号形に打ち抜き、試験片を得た。得られた試験片を用い、JIS K6251を参考にして引張速度200mm/分にて引張試験を行い、破断点ひずみ(破断するまでの樹脂の伸長率)を測定した。結果を表2に示す。表2において、破断点ひずみの値が大きいほど、破断までの伸び率が大きいといえる。
【0063】
【0064】
[難燃性樹脂組成物の他の特性評価]
実施例4~8で得られた難燃性樹脂組成物について、上記破断点ひずみ以外の以下の物性を評価した。各評価結果を表3に示す。
【0065】
<引張特性(降伏応力・破断点応力)>
実施例4~8で得られた難燃性樹脂組成物を、加熱温度180℃、加熱時間10分の条件で加熱成形し、難燃性樹脂成形体を作製した。得られた難燃性樹脂成形体を厚さ1mm×幅5mm×標線間距離20mmのダンベル状3号形に打ち抜き、得られた試験片をJIS K6251に記載された方法を参考に、引張速度200mm/分にて降伏応力・破断点応力を測定した。結果を表3に示す。表3において、降伏応力・破断点応力の値が大きいほど、引張特性が良好であるといえる。
【0066】
<加工性(メルトフローレート:MFR)>
実施例4~8で得られた難燃性樹脂組成物について、JIS K7210-1のA法(質量測定法)に準拠し、温度190℃、荷重2.16kg又は21.6kgの条件でMFRを測定した。測定結果を表3に示す。いずれの実施例においても、加工性に実用上問題がない程度のMFR値を示した。なお表3において、各荷重におけるMFRの値が大きいほど、加工性が良好であるといえる。
【0067】
<難燃性(限界酸素指数)>
実施例4~8で得られた難燃性樹脂組成物を、加熱温度180℃、加熱時間10分の条件で加熱成形し、難燃性樹脂成形体を作製した。得られた難燃性樹脂成形体を厚さ3mm×幅6.5mm×長さ128mmのIV型に打ち抜き、得られた試験片をJIS K7201-2に記載された方法を参考に、手順C、点火方法:B法(伝ぱ点火)にて測定した。結果を表3に示す。いずれの実施例においても、難燃性に実用上問題がない程度の限界酸素指数を示した。なお表3において、限界酸素指数の値が大きいほど、難燃性に優れているといえる。
【0068】
<密度>
実施例4~8で得られた難燃性樹脂組成物について、JIS K7112のA法(水中置換法)に準拠し、23℃における密度を測定した。結果を表3に示す。
【0069】