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  • 特許-プリント配線板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】プリント配線板
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/42 20060101AFI20240206BHJP
   C23C 18/38 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
H05K3/42 620Z
C23C18/38
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021519501
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2020019432
(87)【国際公開番号】W WO2020230888
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2019092388
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500400216
【氏名又は名称】住友電工プリントサーキット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】本村 隼一
(72)【発明者】
【氏名】新田 耕司
(72)【発明者】
【氏名】酒井 将一郎
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 万里
(72)【発明者】
【氏名】坪倉 光隆
(72)【発明者】
【氏名】土子 哲
(72)【発明者】
【氏名】岩本 昌
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-209330(JP,A)
【文献】特開2009-71132(JP,A)
【文献】国際公開第2008/050584(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00―18/54
C25D 5/00―7/12
H05K 1/00―3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性を有する基材層と、
上記基材層の表面に直接的又は間接的に積層され、銅箔を含む第1導電層と、
上記基材層の裏面に直接的又は間接的に積層され、銅箔を含む第2導電層と、
上記第1導電層及び上記基材層を厚さ方向に貫通する接続穴の内周及び底に積層され、上記第1導電層及び上記第2導電層間を電気的に接続するビアホール用積層体と
を備え、
上記ビアホール用積層体が、上記接続穴の内周及び底に積層される無電解銅めっき層と、上記無電解銅めっき層表面に積層される電解銅めっき層とを有し、
上記銅箔が(100)面方位に配向する銅の結晶粒を含有し、上記銅箔の銅の平均結晶粒径が10μm以上であり、
上記無電解銅めっき層がパラジウム及びスズを含み、
上記無電解銅めっき層が銅、パラジウム及びスズを含み、
上記無電解銅めっき層において、パラジウム及びスズの上に銅が積層され、
上記銅箔表面の単位面積当たりの上記パラジウムの積層量が0.18μg/cm以上0.40μg/cm以下であるプリント配線板。
【請求項2】
上記銅箔表面の単位面積当たりの上記パラジウムの積層量が0.18μg/cm 以上0.35μg/cm 以下であり、
上記銅箔表面の単位面積当たりの上記スズの積層量が0.0μg/cm以上0.50μg/cm以下である請求項1に記載のプリント配線板。
【請求項3】
上記銅箔表面の面積に対する上記銅箔表面に存在する(100)面方位に配向する銅の結晶粒の面積の割合が50%以上である請求項1又は請求項2に記載のプリント配線板。
【請求項4】
上記銅箔表面の面積に対する上記銅箔表面に存在する(100)面方位に配向する銅の結晶粒の面積の割合が60%以上である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプリント配線板。
【請求項5】
上記無電解銅めっき層8の平均厚さが0.01μm以上1.0μm以下である請求項1から請求項のいずれか1項に記載のプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プリント配線板に関する。
本出願は、2019年5月15日出願の日本出願第2019-092388号に基づく優先権を主張し、上記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化が進み、電子機器に用いられるプリント配線板の高密度配線化が求められている。このような求めに応じて、複数のパターニングされた導電層を有する多層プリント配線板が多く利用されている。多層プリント配線板では、異なる導電層のパターン間を接続するために、例えば表面側及び裏面側に導電層として金属箔が積層された基材層を貫通するビアホールが備えられる。このビアホールは、上記基材層を貫通する穴の内周面に無電解銅めっき層及び電解銅めっき層が形成されている。(特開2004-214410号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-214410号公報参照
【発明の概要】
【0004】
本開示のプリント配線板は、絶縁性を有する基材層と、上記基材層の表面に直接的又は間接的に積層され、銅箔を含む第1導電層と、上記基材層の裏面に直接的又は間接的に積層され、銅箔を含む第2導電層と、上記第1導電層及び上記基材層を厚さ方向に貫通する接続穴の内周及び底に積層され、上記第1導電層及び上記第2導電層間を電気的に接続するビアホール用積層体とを備え、上記ビアホール用積層体が、上記接続穴の内周及び底に積層される無電解銅めっき層と、上記無電解銅めっき層表面に積層される電解銅めっき層とを有し、上記銅箔が(100)面方位に配向する銅の結晶粒を含有し、上記銅箔の銅の平均結晶粒径が10μm以上であり、上記無電解銅めっき層がパラジウム及びスズを含み、上記銅箔表面の単位面積当たりの上記パラジウムの積層量が0.18μg/cm以上0.40μg/cm以下である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、一実施形態に係るプリント配線板を示す模式的断面図である。
図2図2は、図1のプリント配線板の接続穴を示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
上記ビアホールの配線層としては一般に銅箔が広く採用されており、この銅箔については屈曲性等の機械的特性のさらなる向上が求められている。例えば銅箔においては、機械的特性を向上させるために銅の結晶の配向性や結晶粒径等の検討が行われている。しかしながら、特定の範囲の結晶の配向性や結晶粒径を有する銅箔の表面に無電解銅めっきを行った後に電気銅めっきを行った場合、電解銅めっき層の銅の結晶が部分的に異常成長する場合がある。このように銅の結晶が部分的に異常成長すると、電解銅めっき層表面に凹凸が生じることにより、自動光学検査装置(AOI:Automated Optical Inspection system)による外観検査で不良であると誤検出されてしまう場合がある。また、電解銅めっき層表面に生じた凸部に多くの銅が析出されてしまっていることから、ビアホールの底部に銅が十分析出されない結果、ビアホールの底部が導電層から剥離してしまうおそれがある。
【0007】
本開示は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、自動光学検査装置による外観検査での誤検出及びビアホールの底部の剥離を抑制できるプリント配線板を提供することを目的とする。
【0008】
[本開示の効果]
本開示によれば、外観検査での誤検出及びビアホールの底部の剥離を抑制できるプリント配線板を提供することができる。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0010】
本開示のプリント配線板は、絶縁性を有する基材層と、上記基材層の表面に直接的又は間接的に積層され、銅箔を含む第1導電層と、上記基材層の裏面に直接的又は間接的に積層され、銅箔を含む第2導電層と、上記第1導電層及び上記基材層を厚さ方向に貫通する接続穴の内周及び底に積層され、上記第1導電層及び上記第2導電層間を電気的に接続するビアホール用積層体とを備え、上記ビアホール用積層体が、上記接続穴の内周及び底に積層される無電解銅めっき層と、上記無電解銅めっき層表面に積層される電解銅めっき層とを有し、上記銅箔が(100)面方位に配向する銅の結晶粒を含有し、上記銅箔の銅の平均結晶粒径が10μm以上であり、上記無電解銅めっき層がパラジウム及びスズを含み、上記銅箔表面の単位面積当たりの上記パラジウムの積層量が0.18μg/cm以上0.40μg/cm以下である。
【0011】
プリント配線板の基材層の表面に積層される銅箔が(100)面方位に配向する銅の結晶粒を含有し、上記銅の平均結晶粒径が10μm以上である。この場合、上記銅箔の銅の結晶粒の配向が無電解銅めっきにより析出される銅の結晶粒及び電解銅めっきにより析出される銅の結晶粒に引き継がれやすくなる。結果として、上記銅箔の銅の結晶粒と同じ配向性を有する無電解銅めっき層及び電解銅めっき層が形成されてしまう。そして、電解銅めっき層の銅の結晶が部分的に異常成長して電解銅めっき層表面に凹凸が生じてしまうおそれがある。当該プリント配線板は、無電解銅めっき層が触媒であるパラジウムを含むことで、上記銅箔の銅の結晶粒の配向が無電解銅めっきにより析出される銅の結晶粒に引き継がれることが抑制される。その結果、電解銅めっき層の銅の結晶の異常成長による電解銅めっき層表面の凹凸の形成が抑制される。従って、当該プリント配線板は、自動光学検査装置による外観検査での誤検出及びビアホールの底部の剥離を抑制できる。また、当該プリント配線板において、上記銅箔表面の単位面積当たりの上記パラジウムの積層量が0.18μg/cm以上0.40μg/cm以下であることで、無電解銅めっきによる触媒核の生成量が増加し、銅箔の銅の結晶粒と異なる配向性のめっきの成長が促進される。その結果、上記銅箔の銅の結晶粒と同じ配向性を有する無電解銅めっき層の形成に対する抑制効果を高めることができる。従って、自動光学検査装置による外観検査での誤検出及びビアホールの底部の剥離に対する抑制効果を向上できる。また、上記無電解銅めっき層が触媒としてパラジウムに加えてスズを含むことで、触媒の形態がスズ-パラジウムコロイド溶液になる。そのため、銅箔上のパラジウムの積層量を増加することが容易となるので、上記銅箔の銅の結晶粒と同じ配向性を有する無電解銅めっき層の形成に対する抑制効果をより高めることができる。従って、自動光学検査装置による外観検査での誤検出及びビアホールの底部の剥離に対する抑制効果を向上できる。
【0012】
ここで、「結晶粒径」とは、例えばサンプルとなる銅箔の表面をEBSD(電子後方散乱回折:Electron Backscatter Diffraction)法で結晶方位解析して、結晶粒界を検出し、この結晶粒界に囲まれた領域を結晶粒と定義し、当該領域の面積と同じ面積の円の径を各結晶粒の結晶粒径とする。そして、「平均結晶粒径」とは、所定の測定視野内に存在する各結晶粒の結晶粒径の平均値をいう。また、銅箔の銅の結晶粒の面方位は、EBSD法を用いてランダムに抽出した銅箔表面の場所を複数回測定することにより算出する。「平均厚さ」とは、任意の10点で計測した厚さの平均値をいう。
【0013】
上記銅箔表面の単位面積当たりの上記スズの積層量が0.05μg/cm以上1.20μg/cm以下であることが好ましい。上記スズの積層量が上記範囲であることで、銅箔上のパラジウムの積層量を良好な範囲に調整でき、上記銅箔の銅の結晶粒と同じ配向性を有する無電解銅めっき層の形成に対する抑制効果をより向上することができる。
【0014】
当該プリント配線板において、上記銅箔表面の面積に対する上記銅箔表面に存在する(100)面方位に配向する銅の結晶粒の面積の割合が50%以上であることが好ましい。上記銅箔表面の面積に対する上記銅箔表面に存在する(100)面方位に配向する銅の結晶粒の面積の割合が50%以上であることで、電解銅めっき層の銅の結晶の部分的な異常成長に対する抑制効果が向上する。
【0015】
ここで、「(100)面方位に配向する銅の結晶粒の面積の割合」とは、銅箔表面全体の面積に対する(100)面方位に配向する銅の結晶粒の領域の面積の割合をいう。
【0016】
上記銅箔表面の単位面積当たりの上記パラジウムの積層量が0.18μg/cm以上0.35μg/cm以下であることが好ましい。上記パラジウムの積層量が上記範囲であることで、無電解銅めっきによる触媒核の生成量が適度な範囲となる。結果として、上記銅箔の銅の結晶粒と同じ配向性を有する無電解銅めっき層及び電解銅めっき層がより形成されにくくなると考えられる。
【0017】
上記銅箔表面の面積に対する上記銅箔表面に存在する(100)面方位に配向する銅の結晶粒の面積の割合が60%以上であることが好ましい。上記銅箔表面に存在する(100)面方位に配向する銅の結晶粒の面積の割合が上記範囲であることで、電解銅めっき層の銅の結晶の部分的な異常成長に対する抑制効果が向上する。
【0018】
上記無電解銅めっき層の平均厚さが0.01μm以上1.0μm以下であることが好ましい。上記無電解銅めっき層の平均厚さが上記範囲であることで、電解銅めっき層を均一に形成できるとともに、上記銅箔の銅の結晶粒の配向が無電解銅めっきにより析出される銅の結晶粒に引き継がれることを抑制できる。
【0019】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示に係るプリント配線板の各実施形態について図面を参照しつつ詳説する。
【0020】
<プリント配線板>
図1に、本開示の一実施形態に係るプリント配線板を示す。当該プリント配線板20は、絶縁性を有する基材層1と、基材層1の表面に直接的又は間接的に積層され、銅箔を含む第1導電層2と、基材層1の裏面に直接的又は間接的に積層され、銅箔を含む第2導電層3と、第1導電層2及び基材層1を厚さ方向に貫通する接続穴5の内周及び底に積層され、第1導電層2及び第2導電層3間を電気的に接続するビアホール用積層体10とを備える。異なる導電層のパターン間を接続するためのビアホール4は、接続穴5に、ビアホール用積層体10が積層されることにより形成される。
【0021】
以下、当該プリント配線板の各構成要素について詳述する。
【0022】
[基材層]
基材層1の材質としては、例えばポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル等を挙げることができる。中でも、例えば耐熱性等の機械的強度の点で、ポリアミド、ポリイミド及びポリアミドイミドが好適に用いられる。当該プリント配線板は、必ずしも可撓性を有しなくてもよい。
【0023】
基材層1の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、基材層1の平均厚さの上限としては、100μmが好ましく、50μmがより好ましい。基材層1の平均厚さが上記下限に満たない場合、基材層1の強度が不十分となるおそれがある。逆に、基材層1の平均厚さが上記上限を超える場合、可撓性が不十分となるおそれがある。
【0024】
[導電層]
第1導電層2及び第2導電層3は、基材層1に積層される銅箔をパターニングして形成される。上記銅箔が(100)面方位に配向する銅の結晶粒を含有し、銅箔の銅の平均結晶粒径が10μm以上である。上記銅箔の銅の結晶粒の面方位及び平均結晶粒径が上記範囲であることで、屈曲性等の機械的特性に優れる。
【0025】
通常、第1導電層2及び第2導電層3を形成する導体のパターニングは、ビアホール4の形成後に行われる。第1導電層2及び第2導電層3は、配線密度を向上するために、ビアホール4が接続されるランドと、このランドよりも幅が小さく、線状に延びる配線パターンとを有する構成としてもよい。
【0026】
上記銅箔は、(100)面方位に配向する銅の結晶粒を含有する。上記銅箔の銅の平均結晶粒径の下限としては、10μmであり、12μmが好ましい。上記銅箔の銅の平均結晶粒径の上限としては、特に限定されないが、例えば100μm、好ましくは80μm、さらに好ましくは55μmとすることができる。なお、銅箔の銅の平均結晶粒径が10μm未満である場合は、そもそも電解銅めっき層表面の外観不良が発生し難いため当該プリント配線板の効果を十分に発揮できない。
【0027】
当該プリント配線板において、上記銅箔表面の面積に対する上記銅箔表面に存在する(100)面方位に配向する銅の結晶粒の面積の割合の下限としては、40%が好ましく、60%がより好ましく、80%がさらに好ましい。上記銅箔表面の面積に対する上記銅箔表面に存在する(100)面方位に配向する銅の結晶粒の面積の割合が上記範囲であることで、電解銅めっき層の銅の結晶の部分的な異常成長に対する抑制効果が向上する。なお、上記面積の割合が40%未満である場合は、そもそも電解銅めっき層表面の外観不良が発生し難いため当該プリント配線板の効果を十分に発揮できない。
【0028】
上記銅箔表面の面積に対する上記銅箔表面に存在する(100)面方位に配向する銅の結晶粒の面積の割合を所定の範囲に収めるためには、特に制限されるものではないが、例えば元素含有率の制御、圧延条件の制御、熱処理等を行うことにより達成できる。
【0029】
第1導電層2及び第2導電層3の平均厚さの下限としては、十分な導電性を確保する観点から、2μmが好ましく、5μmがより好ましい。一方、第1導電層2及び第2導電層3の平均厚さの上限としては、回路形成性の観点から、100μmが好ましく、50μmがより好ましい。
【0030】
[ビアホール用積層体]
ビアホール用積層体10は、接続穴5の内周及び底に積層される無電解銅めっき層8と、上記無電解銅めっき層8の表面に積層される電解銅めっき層7とを有する。ビアホール用積層体10は、第1導電層2及び基材層1を厚さ方向に貫通する接続穴5の内周及び底に積層される。ビアホール用積層体10は、第1導電層2及び第2導電層3間を電気的に接続する。より詳細には、ビアホール用積層体10は、接続穴5の内周、第1導電層2の基材層1と反対側の面、及び第2導電層3の接続穴5の内側に露出する面(つまり、底部)に積層される無電解銅めっき層8と、この無電解銅めっき層8にさらに積層される電解銅めっき層7とを有する構成とすることができる。
【0031】
図2は、接続穴5の形状を示すために、ビアホール4の形成並びに第1導電層2及び第2導電層3のパターニングを行う前の状態を示す。接続穴5は、基材層1及び第1導電層2を厚さ方向に貫通し、接続穴5を形成する円筒面によって画定される。そして、接続穴5に、ビアホール用積層体10が積層されることにより、第1導電層2及び第2導電層のパターン間を接続するためのビアホール4が形成される。
【0032】
(無電解銅めっき層)
無電解銅めっき層8は、導電性を有する薄層であり、電解銅めっき層7を電解銅めっきによって形成する際の被着体として利用される。この無電解銅めっき層8は、無電解銅めっきにより積層された銅によって形成することができる。銅めっきは、柔軟性、厚付け可能性、電気銅めっきとの密着性が良好で、導電性が高いことから、プリント配線板に好適である。この無電解銅めっきは、触媒の還元作用により触媒活性を有する金属を析出させる処理であり、市販の各種無電解銅めっき液を塗布することによって行うことができる。このように無電解銅めっきを用いることで、無電解銅めっき層8の積層を簡便に行うことができ、さらなる電解銅めっき層7の積層を確実なものとすることができる。
【0033】
上記無電解銅めっき層8の平均厚さの下限としては、0.05μmが好ましく、0.10μmがより好ましい。一方、無電解銅めっき層8の平均厚さの上限としては、1.0μmが好ましく、0.5μmがより好ましい。無電解銅めっき層8の平均厚さが上記下限に満たない場合、無電解銅めっき層8の連続性が確保できず、電解銅めっき層8を均一に形成できなくなるおそれがある。また、上記平均厚さが上記下限に満たない場合、上記銅箔の銅の結晶粒の配向が無電解銅めっきにより析出される銅の結晶粒に引き継がれやすくなるおそれがある。一方、無電解銅めっき層8の平均厚さが上記上限を超える場合、不必要にコストが高くなるおそれがある。上記無電解銅めっき層の平均厚さが上記範囲であることで、電解銅めっき層を均一に形成できるとともに、上記銅箔の銅の結晶粒の配向が無電解銅めっきにより析出される銅の結晶粒に引き継がれることを抑制できる。
【0034】
無電解銅めっき層8は触媒としてパラジウム及びスズを含む。パラジウム及びスズは触媒として後述する無電解銅めっき層積層工程の前に付与し、その上に無電解銅めっき層が積層される。そのため、パラジウム及びスズは、無電解銅めっき層において導電層との界面付近に高い含有量で存在することになる。当該プリント配線板20は、無電解銅めっき層8がパラジウムを含むことで、上記銅箔の銅の結晶粒の配向が無電解銅めっきにより析出される銅の結晶粒に引き継がれることが抑制される。その結果、電解銅めっき層7の銅の結晶の異常成長による電解銅めっき層7表面の凹凸の形成が抑制される。従って、当該プリント配線板20は、自動光学検査装置による外観検査での誤検出及びビアホール4の底部の第2導電層3からの剥離を抑制できる。また、上記無電解銅めっき層がパラジウムに加えてスズを含むことで、触媒の形態がスズ-パラジウムコロイド溶液になる。そのため、銅箔上のパラジウムの積層量を増加することが容易となるので、上記銅箔の銅の結晶粒と同じ配向性を有する無電解銅めっき層の形成に対する抑制効果をより高めることができる。従って、自動光学検査装置による外観検査での誤検出及びビアホールの底部の剥離に対する抑制効果を向上できる。
【0035】
銅箔表面の単位面積当たりのパラジウムの積層量の下限としては、0.18μg/cmであり、0.20μg/cmがより好ましい。上記パラジウムの積層量の上限としては、0.40μg/cmであり、0.35μg/cmが好ましい。パラジウムの積層量が上記範囲であることで、無電解銅めっきによる触媒核の生成量が適度な範囲となる。結果として、上記銅箔の銅の結晶粒と同じ配向性を有する無電解銅めっき層8及び電解銅めっき層7がより形成されにくくなると考えられる。上記パラジウムの積層量が上記上限を超えると、第2導電層3に含まれる銅箔とビアホール4の底部の無電解銅めっき層8及び電解銅めっき層7との接続強度が弱まりビアホール4の底部が剥離するおそれがある。
【0036】
銅箔表面の単位面積当たりのスズの積層量の下限としては、0.05μg/cmが好ましく、0.08μg/cmがより好ましく、0.15μg/cmがさらに好ましい。上記スズの積層量の上限としては、1.20μg/cmが好ましく、0.50g/cmがより好ましい。上記スズの積層量が上記上限を超えると、触媒として機能できるパラジウムの量が少なくなるので、無電解銅めっきが進行しなくなるおそれがある。上記スズの積層量が上記範囲であることで、銅箔上のパラジウムの積層量を良好な範囲に調整でき、上記銅箔の銅の結晶粒と同じ配向性を有する無電解銅めっき層の形成に対する抑制効果をより向上することができる。
【0037】
(電解銅めっき層)
電解銅めっき層7は、無電解銅めっき層8の表面に電解銅めっきによって積層される。このように無電解銅めっき層8を形成してからその内周及び底に電解銅めっき層7を設けることにより、導電性に優れるビアホール4を容易かつ確実に形成できる。上述のように、銅は安価で導電性が高いため、電解銅めっき層を形成する金属としては、銅が好適に用いられる。
【0038】
電解銅めっき層7の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、5μmがより好ましい。一方、電解銅めっき層7の平均厚さの上限としては、50μmが好ましく、30μmがより好ましい。電解銅めっき層7の平均厚さが上記下限に満たない場合、当該プリント配線板20の曲げ等によりビアホール4が破断し、第1導電層2と第2導電層3との間の電気的接続が絶たれるおそれがある。また、上記平均厚さが上記下限に満たない場合、上記銅箔の銅の結晶粒の配向が電解銅めっきにより析出される銅の結晶粒に引き継がれやすくなるおそれがある。一方、電解銅めっき層7の平均厚さが上記上限を超える場合、当該プリント配線板20が過度に厚くなるおそれや、製造コストが不必要に上昇するおそれがある。
【0039】
[プリント配線板の製造方法]
当該プリント配線板の製造方法は、例えば基材層の表面に銅箔を含む第1導電層を積層し、上記基材層の裏面に銅箔を含む第2導電層を積層する導電層積層工程と、上記第1導電層及び上記基材層を厚さ方向に貫通する接続穴を形成する接続穴形成工程と、上記接続穴の内周及び底に無電解銅めっきを行う前に前処理を行う無電解銅めっき前処理工程と、上記無電解銅めっき前処理が行われた接続穴の内周及び底に無電解銅めっき層を積層する無電解銅めっき層積層工程と、上記無電解銅めっき層の表面に電解銅めっき層を積層する電解銅めっき層積層工程とを備える。
【0040】
(導電層積層工程)
導電層積層工程では基材層の表面に上述の銅箔を積層することにより、第1導電層を形成する。また、基材層の裏面に上述の銅箔を積層することにより、第2導電層を形成する。導電層積層工程では公知の方法によって、基材層の表面に導電パターンが形成される。
【0041】
第1導電層及び第2導電層を構成する銅箔を基材層に積層する方法としては、特に限定されず、例えば銅箔を接着剤で貼り合わせる接着法、銅箔上に基材層の材料である樹脂組成物を塗布するキャスト法、スパッタリングや蒸着法で基材層上に形成した厚さ数nmの薄い導電層(シード層)の上にめっきにより銅箔を形成するスパッタ/めっき法、銅箔を熱プレスで基材層に貼り付けるラミネート法等を用いることができる。
【0042】
(接続穴形成工程)
第1導電層及び第2導電層を電気的に接続させるための穴を形成する方法としては、特に限定されず、例えばマイクロドリルやレーザーで第1導電層及び基材層に穴を開けて第2導電層の銅箔を露出させる方法を用いることができる。
【0043】
(無電解銅めっき前処理工程)
無電解銅めっき前処理工程では、上記接続穴の内周及び底に無電解銅めっきを行う前に前処理を行う工程である。本工程では、例えばクリーナー工程、酸処理工程、プレディップ工程、触媒処理工程、還元工程等が行われる。
【0044】
プレディップ工程では、触媒液に浸漬する前に触媒液から触媒を抜いた液等に浸漬する工程である。上記プレディップ工程により、導電パターンの表面に付着する水を置換して基材層の表面に触媒が着き易い状態にすることで、次工程の触媒処理工程で触媒の分散状態にバラツキが生じることを抑制できる。
【0045】
触媒処理工程では、パラジウム及びスズのコロイドを含む溶液に基材層及び導電層を備える積層体を浸漬する。上記触媒処理工程の後は水洗工程が行われる。上述したように、パラジウム及びスズを用いた触媒処理工程は、上記導電層積層工程後かつ無電解銅めっき層積層工程前に行われる。そのため、パラジウム及びスズは、無電解銅めっき層において導電層との界面付近に高い含有量で存在することになる。
【0046】
還元工程では、触媒を還元する。具体的には、還元工程ではパラジウムイオン(Pd2+)が還元されパラジウム(Pd)となって表面に形成されることで触媒核となり、導電パターンの表面にパラジウム触媒が担持される。上記還元工程の後は水洗工程が行われる。
【0047】
(無電解銅めっき層積層工程)
無電解銅めっき層積層工程では、接続穴の内周及び底に無電解銅めっきを施すことにより無電解銅めっき層を形成する。無電解銅めっき工程では、加熱によりめっき反応が活性化した無電解銅めっき液に基材層及び導電層を備える積層体を浸漬して、導電パターンの表面に銅を積層する。無電解銅めっき液はアルカリ浴が好ましい。
【0048】
無電解銅めっき液の加熱温度の下限としては、20℃が好ましい。一方、無電解銅めっき液の加熱温度の上限としては、40℃が好ましい。無電解銅めっき液の加熱温度が上記下限に満たない場合、めっき反応が不十分となるおそれがある。一方、無電解銅めっき液の加熱温度が上記上限を超える場合、形成される無電解銅めっき層の厚さを調節することが容易でなくなるおそれがある。
【0049】
無電解銅めっき液への浸漬時間の下限としては、1分が好ましく、2分がより好ましい。一方、無電解銅めっき液への浸漬時間の上限としては、30分が好ましく、20分がより好ましい。無電解銅めっき液への浸漬時間が上記下限に満たない場合、十分な厚さの無電解銅めっき層を形成できないおそれがある。一方、無電解銅めっき液への浸漬時間が上記上限を超える場合、局部電池作用による導電パターンの浸食を十分に防止することができないおそれがある。
【0050】
(電解銅めっき層積層工程)
電解銅めっき層積層工程では、無電解銅めっき層の表面に、電解銅めっきにより電解銅めっき層を積層する。この電解銅めっき工程において、ビアホール用積層体の厚さを所望の厚さまで増大させる。
【0051】
電解銅めっき層を形成する電解銅めっき層積層工程では、無電解銅めっき層を被着体として電解銅めっきにより金属を積層することで無電解銅めっき層の内周及び底に接する電解銅めっき層を形成し、十分な厚さを有するビアホールを形成することができる。
【0052】
当該プリント配線板によれば、銅の結晶粒が(100)面方位に配向し、平均結晶粒径が10μm以上である銅箔を導電層に用いた場合において、ビアホール用積層体の電解銅めっき層表面の凹凸の形成が抑制される。従って、当該プリント配線板は、自動光学検査装置による外観検査での誤検出及びビアホールの底部の剥離を抑制できる。従って、当該プリント配線板は、小型の携帯用電子機器等に用いられるフレキシブルプリント配線板として特に好適に利用することができる。
【0053】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0054】
当該プリント配線板において、第1導電層及び第2導電層は相対的なものであって、1つのビアホールにおける第1導電層となる導電層が、他のビアホールにおける第2導電層とされてもよい。
【0055】
当該プリント配線板は、さらなる基材層及び導電層が積層された多層配線板であってもよい。また、当該プリント配線板は、例えばカバーレイ、ソルダレジスト、シールドフィルム等の他の層を備えていてもよい。また、当該プリント配線板が多層配線板である場合におけるビアホールは、多層を貫通するビアホールであってもよい。
【実施例
【0056】
以下、実施例に基づき本開示を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本開示が限定的に解釈されるものではない。
【0057】
[No.1~No.8]
基材として新日鉄住金化学社製のエスパネックス(銅12μm/ポリイミド12μm/銅12μm)を用いた。この基材の表面及び裏面に、主に(100)面方位に配向し、平均結晶粒径が50μmである銅箔を積層して基材の表面及び裏面に導電層を形成した(導電層積層工程)。得られたサンプルを、UVレーザーにて表層の銅、ポリイミドを除去してビアホールを作製した(接続穴形成工程)。次に、上記導電層の表面の略全面に無電解銅めっき前処理を行った(無電解銅めっき前処理工程)。この無電解銅めっき前処理工程では触媒処理として、パラジウム及びスズのコロイド溶液(キャタリスト)にサンプルを浸漬した。No.1~No.8の無電解銅めっき前処理工程の条件は下記の通りとした。
【0058】
(無電解銅めっき前処理工程の条件)
(1)No.1
クリーナー→ソフトエッチング(30秒)→酸洗→プレディップ→キャタリスト(通常パラジウム濃度0.13g/L、スズ濃度6g/L)→無電解銅めっきを実施した。
(2)No.2
クリーナー→ソフトエッチング(60秒)→酸洗→プレディップ→キャタリスト(液中パラジウム濃度1.5倍0.2g/L、スズ濃度9g/L)→無電解銅めっきを実施した。
(3)No.3
クリーナー→ソフトエッチング(60秒)→酸洗→プレディップ→キャタリスト(通常パラジウム濃度:0.13g/L、スズ濃度6g/L)→無電解銅めっきを実施した。
(4)No.4
クリーナー→ソフトエッチング(60秒)→酸洗→プレディップ→キャタリスト(液中パラジウム濃度3倍:0.4g/L、スズ濃度18g/L)→無電解銅めっきを実施した。
(5)No.5
クリーナー→ソフトエッチング(60秒)→酸洗→プレディップ→キャタリスト(通常パラジウム濃度:0.13g/L、スズ濃度6g/L)→無電解銅めっきを実施した。
(6)No.6
クリーナー→ソフトエッチング(60秒)→酸洗→プレディップ→キャタリスト(液中パラジウム濃度1.5倍:0.2g/L、スズ濃度9g/L)→無電解銅めっきを実施した。
(7)No.7
クリーナー→ソフトエッチング(60秒)→酸洗→プレディップ→キャタリスト(通常パラジウム濃度:0.13g/L、スズ濃度6g/L)→無電解銅めっきを実施した。
(8)No.8
クリーナー→ソフトエッチング(60秒)→酸洗→プレディップ→キャタリスト(液中パラジウム濃度1.5倍:0.2g/L、スズ濃度9g/L)→無電解銅めっきを実施した。
【0059】
無電解銅めっきは23℃、15分の条件下で施し、平均厚さ0.10μmの無電解銅めっき層を積層した(無電解銅めっき層積層工程)。続いて、電流密度を導電層の露出面積に対して2A/dmに調整し、25℃、28分の条件下で電解銅めっきを行った。そして、平均厚さ12μmの電解銅めっき層を積層した(電解銅めっき層積層工程)。
【0060】
[評価]
(パラジウム及びスズの積層量の測定)
銅箔上のパラジウム及びスズの積層量は、No.1~No.8のプリント配線板を20mm×20mmに切り出し、硝酸と塩酸の混合溶液に溶解させた後に、この溶解液を誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS:Inductively coupled plasma-mass spectrometry)により測定した。
【0061】
(自動光学検査装置による外観検査での誤検出度)
No.1~No.8のプリント配線板をそれぞれ100個用意し、これら複数のプリント配線板について自動光学検査装置を用いて外観検査を行った。次に、自動光学検査装置で外観不良が検出されたNo.1~No.8のそれぞれのプリント配線板について、正確な外観不良の有無を光学顕微鏡により目視にて検査した。No.1~No.8のプリント配線板のそれぞれの自動光学検査装置による外観検査での誤検出の割合を算出し、下記の3段階で評価し、A及びB評価のものを合格と判定した。
A:誤検出率0%以上6%未満
B:誤検出率6%以上16%未満
C:誤検出率16%以上
【0062】
(ビアホールの底部の剥離の出現率)
ビアホールの底部の剥離については、光学顕微鏡により目視にて検査した。No.1~No.8のプリント配線板のそれぞれのビアホールの底部の剥離の出現率については、各試験No.のプリント配線板100個中においてビアホールの底部の剥離が観察されたプリント配線板の割合を算出し、下記の2段階で評価した。評価結果から、A評価のものを合格と判定した。
A:剥離率0%以上3%未満
B:剥離率3%以上
【0063】
表1に、評価結果を示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示すように、銅箔の銅の平均結晶粒径が10μm以上であり、銅箔表面の単位面積当たりの上記パラジウムの積層量が0.18μg/cm以上0.40μg/cm以下である試験No.1~試験No.2、試験No.6及び試験No.8は、自動光学検査装置による外観検査での誤検出及びビアホールの底部の剥離に対する抑制効果が良好であった。特に、これらの中でも銅箔表面の面積に対する銅箔表面に存在する(100)面方位に配向する銅の結晶粒の面積の割合が50%以上である試験No.1~試験No.2及び試験No.6は、自動光学検査装置による外観検査での誤検出及びビアホールの底部の剥離に対する抑制効果が優れていた。
【0066】
一方、銅箔表面の単位面積当たりの上記パラジウムの積層量が0.18μg/cm未満である試験No.3、試験No.5及び試験No.7は、自動光学検査装置による外観検査での誤検出に対する抑制効果が劣っていた。また、銅箔表面の単位面積当たりの上記パラジウムの積層量が0.40μg/cm超である試験No.4は、ビアホールの底部の剥離に対する抑制効果が劣っていた。
【符号の説明】
【0067】
1 基材層
2 第1導電層
3 第2導電層
4 ビアホール
5 接続穴
7 電解銅めっき層
8 無電解銅めっき層
10 ビアホール用積層体
20 プリント配線板
図1
図2