(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】真空チューブ用鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240206BHJP
C22C 38/40 20060101ALI20240206BHJP
C21D 8/10 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/40
C21D8/10 B
(21)【出願番号】P 2022536961
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(86)【国際出願番号】 KR2020017828
(87)【国際公開番号】W WO2021125660
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】10-2019-0169644
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、 ホン-ソク
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 ジェ-フン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ハク-ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ソ、 ソク-ジョン
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-127447(JP,A)
【文献】特開2007-107072(JP,A)
【文献】特開2007-291511(JP,A)
【文献】特開平06-158230(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108340932(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
B61B 13/10
C21D 7/00- 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.1~0.2%、Si:0.05~0.5%、Mn:1.0~1.6%、Ni:0.5~1.0%、
及びCr:1.5~4.0%
を含み、残り
はFe及び不可避不純物
からなり、
微細組織としてフェライト及びパーライト複合組織を備え、
前記鋼材の気体放出率は1.0×10
-10mbar・l・s
-1・cm
-2以下である、真空チューブ用鋼材。
【請求項2】
前記鋼材に含まれる不純物中のTi、Nb及びVの合計含有量は0.01%(0%含む)未満である、請求項1に記載の真空チューブ用鋼材。
【請求項3】
前記フェライトの分率は60~90面積%であり、
前記パーライトの分率は10~40面積%である、請求項1に記載の真空チューブ用鋼材。
【請求項4】
前記鋼材に含まれるマルテンサイトまたはベイナイトの分率は1面積%未満(0%含む)である、請求項1に記載の真空チューブ用鋼材。
【請求項5】
前記鋼材は、400~600MPaの降伏強度(YS)、0.8以下の降伏比(YR)及び19~30%の伸び率(El)を有する、請求項1に記載の真空チューブ用鋼材。
【請求項6】
前記鋼材は-20℃でのシャルピー衝撃エネルギーが30~50Jである、請求項1に記載の真空チューブ用鋼材。
【請求項7】
前記鋼材の厚さは5~30mmである、請求項1に記載の真空チューブ用鋼材。
【請求項8】
重量%で、C:0.1~0.2%、Si:0.05~0.5%、Mn:1.0~1.6%、Ni:0.5~1.0%、
及びCr:1.5~4.0%
を含み、残り
はFe及び不可避不純物
からなるスラブを再加熱した後、900~1000℃の仕上げ圧延温度で熱間圧延して鋼材を提供する段階と、
前記熱間圧延された鋼材を5~50℃/sの第1冷却速度で550~650℃の温度範囲まで第1冷却する段階と、
前記第1冷却する段階の終了後、第1冷却停止温度で前記鋼材をコイルで巻き取る段階と、及び
前記コイルを0.005~0.05℃/sの第2冷却速度で常温まで第2冷却する段階と、を含む、真空チューブ用鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記スラブに含まれる不純物中のTi、Nb及びVの合計含有量は0.01%(0%含む)未満である、請求項8に記載の真空チューブ用鋼材の製造方法。
【請求項10】
前記熱間圧延された鋼材の厚さは5~30mmである、請求項8に記載の真空チューブ用鋼材の製造方法。
【請求項11】
前記第1冷却の冷却方式は水冷であり、
前記第2冷却の冷却方式は放冷である、請求項8に記載の真空チューブ用鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高速真空チューブ列車に提供される真空チューブ用に特に適した物性を有する鋼材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、次世代交通システムとして、一面ハイパーループ(hyperloop)と呼ばれる超高速真空チューブ列車に対する研究が国内外で活発に行われている。超高速真空チューブ列車は、基本的に真空チューブ内で列車を移動させる形態の輸送手段である。すなわち、チューブ内部を真空状態に維持して空気抵抗を最小化するため、超高速で列車を運行できるという概念の輸送手段である。
【0003】
超高速真空チューブ列車に用いられる真空チューブにおいて、チューブの構造だけでなく、チューブの素材もチューブ内部の真空状態の維持に大きな影響を及ぼす要素であるが、現在、チューブ素材に対する研究及び開発は、不十分であるのが実情である。
【0004】
特許文献1も超高速真空チューブ列車に用いられる真空チューブを製作するためのセグメントチューブを開示しているが、チューブの素材については特に言及していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2019/0170276号明細書(2019.06.06.公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一側面によると、超高速真空チューブ列車に提供される真空チューブ用に特に適した物性を有する鋼材及びその製造方法を提供することができる。
【0007】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。通常の技術者であれば、本明細書の全体内容から本発明のさらなる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面による真空チューブ用鋼材は、重量%で、C:0.1~0.2%、Si:0.05~0.5%、Mn:1.0~1.6%、Ni:0.5~1.0%、Cr:1.5~4.0%、残りのFe及び不可避不純物を含み、微細組織としてフェライト及びパーライト複合組織を備え、鋼材の気体放出率は1.0×10-10mbar・l・s-1・cm-2以下であることができる。
【0009】
上記鋼材に含まれる不純物中のTi、Nb及びVの合計含有量は、0.01%(0%含む)未満であることができる。
【0010】
上記フェライトの分率は60~90面積%であり、上記パーライトの分率は10~40面積%であることができる。
【0011】
上記鋼材に含まれるマルテンサイトまたはベイナイトの分率は、1面積%未満(0%含む)であることができる。
【0012】
上記鋼材は、400~600MPaの降伏強度(YS)、0.8以下の降伏比(YR)、及び19~30%の伸び率(El)を有することができる。
【0013】
上記鋼材は、-20℃でのシャルピー衝撃エネルギーが30~50Jであることができる。
【0014】
上記鋼材の厚さは15~30mmであることができる。
【0015】
本発明の一側面による真空チューブ用鋼材の製造方法は、重量%で、C:0.1~0.2%、Si:0.05~0.5%、Mn:1.0~1.6%、Ni:0.5~1.0%、Cr:1.5~4.0%、残りのFe及び不可避不純物を含むスラブを再加熱した後、900~1000℃の仕上げ圧延温度で熱間圧延して鋼材を提供する段階;上記熱間圧延された鋼材を5~50℃/sの第1冷却速度で550~650℃まで第1冷却する段階;上記第1冷却する段階の終了後、第1冷却停止温度で上記鋼材をコイルで巻き取る段階;及び上記コイルを0.005~0.05℃/sの第2冷却速度で常温まで第2冷却する段階;を含むことができる。
【0016】
上記スラブに含まれる不純物中のTi、Nb及びVの合計含有量は、0.01%(0%含む)未満であることができる。
【0017】
上記熱間圧延された鋼材の厚さは15~30mmであることができる。
【0018】
上記第1冷却の冷却方式は水冷であり、上記第2冷却の冷却方式は放冷であることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一側面によると、低い気体放出率及び降伏比を有するため、超高速真空チューブ列車の真空チューブ用に特に適した物性を有する鋼材及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、真空チューブ用鋼材及びその製造方法に関するものであり、以下では、本発明の好ましい実施例を説明する。本発明の実施例は、様々な形態に変形することができ、本発明の範囲が以下で説明される実施例に限定されるものと解釈されてはいけない。本実施例は、当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明をさらに詳細に説明するために提供されるものである。
【0021】
以下、本発明の一側面による真空チューブ用鋼材について、より詳細に説明する。
【0022】
本発明の一側面による真空チューブ用鋼材は、重量%で、C:0.1~0.2%、Si:0.05~0.5%、Mn:1.0~1.6%、Ni:0.5~1.0%、Cr:1.5~4.0%、残りのFe及び不可避不純物を含み、微細組織としてフェライト及びパーライト複合組織を備え、鋼材の気体放出率は1.0×10-10mbar・l・s-1・cm-2以下であることができる。
【0023】
以下、本発明の合金組成について、より詳細に説明する。以下、特に断りのない限り、合金組成の含有量に関連する%及びppmは、重量を基準とする。
【0024】
本発明の一側面による真空チューブ用鋼材は、重量%で、C:0.1~0.2%、Si:0.05~0.5%、Mn:1.0~1.6%、Ni:0.5~1.0%、Cr:1.5~4.0%、残りのFe及び不可避不純物を含み、不純物中のTi、Nb及びVの合計含有量を0.01%(0%含む)未満に積極的に抑制することができる。
【0025】
炭素(C):0.1~0.2%
炭素(C)は代表的な硬化能向上元素であって、鋼材の強度確保に効果的に寄与する元素である。したがって、本発明は、真空チューブ構造体の強度確保の側面から0.1%以上の炭素(C)を含むことができる。好ましい炭素(C)含有量は0.1%超過であることができ、より好ましい炭素(C)含有量は0.12%以上であることができる。一方、炭素(C)含有量が過剰である場合、鋼材の靭性が低下し、溶接性が劣化するだけでなく、降伏比の上昇をもたらすため、本発明は、炭素(C)含有量の上限を2.0%に制限することができる。好ましい炭素(C)含有量は0.2%未満であることができ、より好ましい炭素(C)含有量は0.18%以下であることができる。
【0026】
シリコン(Si):0.05~0.5%
シリコン(Si)は鋼の脱酸に寄与する元素である。したがって、本発明は、鋼の清浄度確保のために0.05%以上のシリコン(Si)を含むことができる。好ましいシリコン(Si)含有量は0.06%以上であることができ、より好ましいシリコン(Si)含有量は0.08%であることができる。一方、シリコン(Si)が過剰に添加される場合、表面スケールの脱落を妨げて製品表面品質を低下させる可能性があるだけでなく、炭化物の析出を妨げて目標とする微細組織の形成を妨げる可能性がある。したがって、本発明は、シリコン(Si)含有量の上限を0.5%に制限することができる。好ましいシリコン(Si)含有量は0.4%以下であることができ、より好ましいシリコン(Si)含有量は0.3%以下であることができる。
【0027】
マンガン(Mn):1.0~1.6%
マンガン(Mn)は鋼の硬化能向上に寄与する元素であるため、本発明は、鋼材の強度確保のために1.0%以上のマンガン(Mn)を含むことができる。好ましいマンガン(Mn)含有量は1.1%以上であることができ、より好ましいマンガン(Mn)含有量は1.2%以上であることができる。一方、マンガン(Mn)が過剰に添加される場合、鋼材の靭性が低下し、クラック抵抗性が劣化するだけでなく、鋳造偏析による材質偏差が懸念されるため、本発明はマンガン(Mn)含有量の上限を1.6%に制限することができる。好ましいマンガン(Mn)含有量は1.5%以下であることができ、より好ましいマンガン(Mn)含有量は1.4%以下であることができる。
【0028】
ニッケル(Ni):0.5~1.0%
ニッケル(Ni)は鋼材の強度増大に寄与する元素であるだけでなく、鋼材の衝撃靭性の増大に効果的に寄与する元素である。したがって、本発明は、このような効果のために0.5%以上のニッケル(Ni)を含むことができる。好ましいニッケル(Ni)含有量は0.5%超過であることができ、より好ましいニッケル(Ni)含有量は0.6%以上であることができる。但し、ニッケル(Ni)の含有量が一定レベルを超える場合、上述した効果は飽和する一方、経済性の側面で好ましくないため、本発明はニッケル(Ni)含有量の上限を1.0%に制限することができる。好ましいニッケル(Ni)含有量は1.0%未満であることができ、より好ましいニッケル(Ni)含有量は0.9%以下であることができる。
【0029】
クロム(Cr):1.5~4.0%
クロム(Cr)は、本発明が目的とする気体放出率の低減に効果的に寄与する元素である。クロム(Cr)は鉄(-0.44V)よりもさらに低い還元電位(-0.73V)を有するため、鋼材表面に非常に薄くて緻密なクロム酸化膜を形成することができる。緻密な酸化膜は、素材から放出されるガスに対してバリア(barrier)として作用するため、素材の気体放出率を効果的に下げることができる。したがって、本発明は、このような効果のために1.5%以上のクロム(Cr)を含むことができる。好ましいクロム(Cr)含有量は1.5%超過であることができ、より好ましいクロム(Cr)含有量は1.7%以上であることができる。クロム(Cr)含有量が増加するほど気体放出率の低減効果は向上するが、クロム(Cr)が高価の成分であることを考慮すると、一定レベル以上に添加されることは、経済的な側面で好ましくない。また、クロム(Cr)が過剰に添加される場合、硬化能を過度に高めて表層での低温組織形成を誘発することがあるため、素材の物性偏差の側面から好ましくない。したがって、本発明は、クロム(Cr)含有量の上限を4.0%に制限することができる。好ましいクロム(Cr)含有量は3.6%以下であることができ、より好ましいクロム(Cr)含有量は3.3%以下であることができる。
【0030】
本発明の一側面による真空チューブ用鋼材は、上記の成分以外に残部Fe及びその他の不可避不純物を含むことができる。但し、通常の製造過程では原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるため、これを全面的に排除することはできない。これらの不純物は、本技術分野で通常の知識を有する者であれば、誰でも分かることであるため、そのすべての内容を本明細書では特に言及しない。なお、上記組成以外に有効成分の添加が排除されるものではない。
【0031】
また、本発明の鋼材は、不純物として含まれるチタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)の合計含有量を0.01%未満(0%含む)に積極的に制限することができる。これらのチタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)は代表的な析出強化元素であって、少量の添加だけでも微細炭窒化物を形成して鋼材の強度向上に効果的に寄与する元素である。本発明の鋼材が最終的に適用される対象は、大型構造物である超高速列車用真空チューブであるため、降伏比の上昇は加工性及び施工性の側面から好ましくない。したがって、本発明は、目的とする降伏比の確保のために、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)の意図的な添加を積極的に制限し、これらの成分が不可避に流入されてもその合計含有量を0.01%未満(0%含む)に制限することができる。
【0032】
本発明の一側面による真空チューブ用鋼材は、微細組織としてフェライト及びパーライト複合組織を備えることができ、硬質組織の形成を積極的に抑制することができる。フェライトの分率は60~90面積%であり、パーライトの分率は10~40面積%であることができ、硬質組織であるマルテンサイトまたはベイナイトの合計分率は、1面積%未満(0%含む)であることができる。
【0033】
マルテンサイトやベイナイトなどの低温組織は高い強度を有し、降伏比が低くて構造用材料として優れた特性を示す。但し、本発明の真空チューブ用鋼材は、その厚さが5~30mmのレベルであるため、冷却条件の制御を介しても鋼材表面にのみ硬質組織が導入される可能性が高い。すなわち、鋼材中心部には、硬質組織が形成されていないのに対し、鋼材表面部にのみ硬質組織の形成が集中して、鋼材厚さ方向に材質偏差が発生する可能性が高い。したがって、本発明は、このような材質偏差を減少するために、マルテンサイト及びベイナイト合計分率を積極的に制御することができる。
【0034】
本発明の一側面による真空チューブ用鋼材の気体放出率は、1.0×10-10mbar・l・s-1・cm-2以下であることができる。ここで、ガス放出率は素材を用いて真空チャンバーを構成したとき、素材から真空に放出される時間当たりの面積当たりの気体量を意味する。すなわち、素材を用いてチャンバーを構成し、ポンプを用いて排気した後にチャンバーからポンプを隔離すると、一定時間が硬化するにつれてチャンバー内の圧力が上昇する現象が発生する。このようなチャンバー内の圧力上昇値を測定して、下記の[関係式1]に代入することで、気体放出率を算出することができる。
[関係式1]
q=(V/A)・(△P/t)
【0035】
上記関係式1において、qは気体放出率(mbar・l・s-1・cm-2)、Vはチャンバー体積(liter)、Aはチャンバー表面積(cm2)、Pはチャンバー内の圧力(mbar)、tは時間(s)を意味する。
【0036】
また、本発明の一側面による真空チューブ用鋼材は、400~600MPaの降伏強度(YS)、0.8以下の降伏比(YR)及び19~30%の伸び率(El)を有することができ、-20℃でのシャルピー衝撃エネルギーが30~50Jの範囲を満たすことができる。
【0037】
本発明の一側面による鋼材は、低い気体放出率を備えるとともに、抵降伏比の特性を備えるため、大型真空構造物である超高速列車用真空チューブとして特に適した物性を提供することができる。特に、本発明の一側面による鋼材を用いて製作された真空チューブは、低い気体放出率を有することで真空チューブの内部の真空状態を効果的に維持することができるだけでなく、低い降伏比を有することで優れた耐震特性を備えることができる。
【0038】
本発明の一側面による真空チューブ用鋼材は、5~30mmの厚さを有することができ、適用される真空チューブの製作に適用される鋼材の厚さは、真空チューブの直径に応じて選択的に決定されることができる。非制限的な例として、真空チューブの直径が約1~3mの場合、5~15mmの厚さを有する鋼材が適用されることができ、真空チューブの直径が約3~5mの場合、15~30mmの厚さを有する鋼材が適用されることができる。
【0039】
以下、本発明の一側面による真空チューブ用鋼材の製造方法について、より詳細に説明する。
【0040】
本発明の一側面による真空チューブ用鋼材の製造方法は、重量%で、C:0.1~0.2%、Si:0.05~0.5%、Mn:1.0~1.6%、Ni:0.5~1.0%、Cr:1.5~4.0%、残りのFe及び不可避不純物を含むスラブを再加熱した後、900~1000℃の仕上げ圧延温度で熱間圧延して鋼材を提供する段階;上記熱間圧延された鋼材を5~50℃/sの第1冷却速度で550~650℃まで第1冷却する段階;上記第1冷却する段階の終了後に第1冷却停止温度で上記鋼材をコイルで巻き取る段階;及び上記コイルを0.005~0.05℃/sの第2冷却速度で常温まで第2冷却する段階;を含むことができる。
【0041】
スラブ再加熱
所定の成分で備えられるスラブを用意した後、再加熱することができる。本発明のスラブ合金組成は、上述の鋼材の合金組成と対応するため、本発明のスラブ合金組成に対する説明は、上述の鋼材合金組成に対する説明に代わる。本発明のスラブ加熱条件は、通常のスラブ加熱条件が適用されることができるが、非制限的な例として、スラブ再加熱は1200~1350℃の温度範囲で実施されることができる。
【0042】
熱間圧延
再加熱されたスラブを熱間圧延して熱延鋼材を提供することができる。仕上げ熱間圧延は、900~1000℃の温度範囲で行われることができる。組織微細化による抵降伏比の特性が低下を防止するために、仕上げ熱間圧延は、900℃以上の温度範囲で行われることができる。また、過度のスケール防止のために、1000℃以下の温度範囲で仕上げ熱間圧延が行われることが好ましい。
【0043】
第1冷却及び巻き取り
熱間圧延が終了した後、熱間圧延された鋼材を5~50℃/sの第1冷却速度で550~650℃まで冷却してから、熱延コイルで巻き取ることができる。
【0044】
第1冷却速度が過度に低い場合、巻き取り後に変態が起こり、複熱によるスケール形成が問題となる可能性がある。したがって、本発明は、5℃/s以上の冷却速度で第1冷却を行うことができる。一方、第1冷却速度が過度に速い場合、製品形状が劣化するか、低温組織が発生するおそれがあるため、本発明は第1冷却速度の上限を50℃/sに制限することができる。
【0045】
本発明の合金組成として備えられる鋼材は、約600℃内外で最も速い変態速度を示すため、最終鋼材の全ての微細組織をフェライト及びパーライト複合組織に導入するために、550~650℃の温度範囲で冷却を終了した後、当該温度区間で巻き取ることが好ましい。
【0046】
第2冷却
巻取コイルを0.005~0.05℃/sの第2冷却速度で常温まで冷却することができる。本発明の鋼材は、約600℃区間でフェライト及びパーライト変態が完了するが、一部未変態組織の低温組織化を防止するために徐冷条件によって第2冷却を行うことが好ましい。また、速い冷却速度を適用して巻取コイルを冷却する場合、製品反りや湾曲などの形状不良が発生することがあるため、本発明は第2冷却速度の上限を0.05℃/sに制限することができる。一方、本発明は、第2冷却速度の下限を特に制限しないが、0℃/sの冷却速度を除くという意味で、第2冷却速度の下限を0.005℃/sに制限することができる。第2冷却の冷却条件は、放冷であることができる。
【0047】
上述した製造工程によって製造された鋼材は、フェライト及びパーライトの複合組織を備えるだけでなく、マルテンサイトまたはベイナイトなどの硬質組織の形成を積極的に抑制することができる。好ましくはフェライトの分率は60~90%であり、パーライトの分率は10~40面積%であり、硬質組織の分率は1面積%未満(0%含む)であることができる。
【0048】
なお、上述した製造工程によって製造された鋼材は、1.0×10-10mbar・l・s-1・cm-2以下の気体放出率、400~600MPaの降伏強度(YS)、0.8以下の降伏比(YR)、19~30%の伸び率(El)及び30~50Jの-20℃でのシャルピー衝撃エネルギーを有することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、後述する実施例は、本発明を例示してより具体化するためのものであり、本発明の権利範囲を制限するためのものではない点に留意する必要がある。
【0050】
(実施例)
表1の合金組成として備えられるスラブを1250℃の温度範囲で加熱した後、950℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延を行い、25mm厚さの熱間鋼材を製造した。この後、25℃/sの冷却速度で600℃まで冷却して冷却終了し、当該冷却終了温度で熱延鋼材を巻き取った。この後、0.03℃/sの冷却速度を適用して常温まで冷却し、各試験片に対する微細組織、降伏比及び気体放出率を測定した後、表1に併せて記載した。
【0051】
微細組織は、Nitalエッチング法で各試験片をエッチングした後、500倍率の光学顕微鏡を用いて測定した。表1の微細組織のうち、Fはフェライト、Pはパーライトを意味する。引張試験は、圧延方向に沿ってJIS5号規格の試験片を採取して実施し、0.2%off-set降伏強度を引張強度で割って降伏比を算出した。気体放出率は、長さ500mm、直径150mm、厚さ20mmの真空チャンバーを構成した後、上述の[関係式1]を用いて測定した。
【0052】
【0053】
本発明が制限する条件を満たす試験片1及び2の場合、1.0×10-10mbar・l・s-1・cm-2以下の気体放出率及び0.8以下の降伏比を同時に満たすことが確認できる。一方、本発明が制限する条件を満たさない試験片3及び4の場合、本発明が目的とする降伏比及び気体放出率を同時に満たさないことを確認することができる。
【0054】
したがって、本発明の一側面による鋼材は、低い気体放出率及び抵降伏比の特性を同時に備えるため、大型真空構造物である超高速列車用真空チューブとして特に適した物性を有することが確認できる。
【0055】
以上、実施例によって本発明を詳細に説明したが、これと異なる形態の実施例も可能である。したがって、以下に記載される特許請求の範囲の技術的思想及び範囲は実施例に限定されない。