(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】静電容量検出装置、及び、静電容量検出方法
(51)【国際特許分類】
G01R 27/26 20060101AFI20240206BHJP
【FI】
G01R27/26 C
(21)【出願番号】P 2022543286
(86)(22)【出願日】2021-05-24
(86)【国際出願番号】 JP2021019641
(87)【国際公開番号】W WO2022038853
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2022-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2020139645
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】藤由 達巳
(72)【発明者】
【氏名】松田 厚志
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-350477(JP,A)
【文献】特開2003-075482(JP,A)
【文献】特開2011-247610(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0141989(US,A1)
【文献】特表2011-525323(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116706(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/00-27/32
G01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数の検出電極と、
前記検出電極に近接して配置されるシールド電極と、
前記シールド電極に交流信号を供給する交流信号源と、
前記検出電極から出力される検出信号と前記交流信号源から出力される交流信号とに基づいて、前記検出電極に近接する対象物と前記検出電極との間の静電容量を検出する検出回路と、
前記交流信号源と前記シールド電極との間に設けられ、
前記検出回路に入力される前記検出信号と前記交流信号との位相が揃うように、前記交流信号の位相を進める位相調整回路と
含む、静電容量検出装置。
【請求項2】
前記位相調整回路は、
前記交流信号の位相を遅らせる位相シフト回路と、
前記交流信号の位相を反転させる反転増幅回路と
を有する、請求項
1に記載の静電容量検出装置。
【請求項3】
前記検出回路は、前記検出信号と前記交流信号とを乗算する乗算器を有する、請求項1
又は2に記載の静電容量検出装置。
【請求項4】
前記検出回路は、前記乗算器の出力のうち遮断周波数以下の帯域成分を通過させるローパスフィルタをさらに有する、請求項
3に記載の静電容量検出装置。
【請求項5】
前記検出回路は、前記検出電極に接続される反転入力端子と前記交流信号が印加される非反転入力端子との電圧差を増幅して出力する演算増幅器を有する、請求項1
又は2に記載の静電容量検出装置。
【請求項6】
前記検出電極は複数あり、
複数の前記検出電極のうちの1又は複数の前記検出電極を時分割で選択する選択部をさらに備え、
前記検出回路は、前記選択部により選択された検出電極から出力される検出信号と前記交流信号源から出力される交流信号とに基づいて、前記検出電極に近接する対象物と前記検出電極との間の静電容量を検出し、
前記位相調整回路は、前記選択部により選択された1又は複数の前記検出電極に応じて、前記交流信号の位相進み量を調節する、請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の静電容量検出装置。
【請求項7】
1又は複数の検出電極と、
前記検出電極に近接して配置されるシールド電極と
を含む静電容量検出装置における静電容量検出方法であって、
交流信号源から前記シールド電極に交流信号を供給するステップと、
前記検出電極から出力される検出信号と前記交流信号源から出力される交流信号とに基づいて、前記検出電極に近接する対象物と前記検出電極との間の静電容量を検出するステップと、
前記静電容量を検出するステップにおける前記検出信号と前記交流信号との位相が揃うように、前記交流信号の位相を進めるステップと
含む、静電容量検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量検出装置、及び、静電容量検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被測定容量の持つ静電容量に比例した信号を出力することができるインピーダンス検出回路であって、交流信号を発生する交流信号発生器と、反転入力端子、非反転入力端子及び出力端子を有し、前記出力端子と前記反転入力端子との間が帰還抵抗によって接続され、前記交流信号が前記非反転入力端子に印加される演算増幅器と、前記反転入力端子に一端が接続され、前記被測定容量を他端に接続することができる信号線と、前記信号線の一部露出しており且つ前記非反転入力端子に接続されたシールド線と、前記交流信号を受け取って、該交流信号の位相及び振幅を補償するための補償回路であって、該補償回路の出力を前記演算増幅器の前記反転入力端子に接続する補償回路と、を具備するインピーダンス検出回路がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のインピーダンス検出回路では、位相の補償に関しては、信号線の寄生容量と帰還抵抗により発生する反転入力端子の入力の位相遅れの影響が演算増幅器の出力の位相に生じないように補正している。しかしながら、演算増幅器の反転入力端子の入力の位相自体は変わらないため、演算増幅器の反転入力端子の入力と非反転入力端子の入力とに位相差が生じている。このため、反転入力端子に補償回路の出力を入力しても、検出対象とする静電容量の反転入力端子への入力の非反転入力端子の入力に対する位相の遅れはなくならない。それは検出対象とする静電容量から反転入力端子までの配線に抵抗値が存在し、検出すべき入力は電流して取り出す必要があるが非反転入力端子の電圧と検出対象の静電容量の電極との間に電位差が生じるためである。このような補償方法では、特に検出対象と反転入力端子の間の配線の抵抗が大きい場合や配線に存在する寄生容量が大きい場合、抵抗値の影響による検出すべき入力電流の位相遅れを実質的に補正しないため、演算増幅器の出力の感度(検出感度)が低下する。
【0005】
そこで、信号の位相の遅延による検出感度の低下を抑制した静電容量検出装置、及び、静電容量検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の静電容量検出装置は、1又は複数の検出電極と、前記検出電極に近接して配置されるシールド電極と、前記シールド電極に交流信号を供給する交流信号源と、前記検出電極から出力される検出信号と前記交流信号源から出力される交流信号とに基づいて、前記検出電極に近接する対象物と前記検出電極との間の静電容量を検出する検出回路と、前記交流信号源と前記シールド電極との間に設けられ、前記交流信号源により出力される交流信号の位相を進める位相調整回路と含む。
【発明の効果】
【0007】
信号の位相の遅延による検出感度の低下を抑制した静電容量検出装置、及び、静電容量検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の静電容量検出装置100を示す図である。
【
図3】位相シフト回路140Aの入力信号に対する出力信号の位相とゲインの周波数特性のシミュレーション結果を示す図である。
【
図4】交流信号源120から検出電極111の間で得られる信号の位相の関係を示す図である。
【
図5】静電容量検出装置100のセンサ部110における抵抗と静電容量を示す図である。
【
図6】静電容量検出装置100における各部の信号波形を示す図である。
【
図8】実施形態の変形例の静電容量検出装置100Mを示す図である。
【
図9】静電容量検出装置100Mの各部の信号波形を示す図である。
【
図10】静電容量検出装置100Mの位相調整回路140における位相調整量を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の静電容量検出装置、及び、静電容量検出方法を適用した実施形態について説明する。
【0010】
<実施形態>
図1は、実施形態の静電容量検出装置100を示す図である。静電容量検出装置100は、センサ部110、交流信号源120、検出回路130、及び位相調整回路140を含む。静電容量検出方法は、静電容量検出装置100において静電容量を検出するために後述する位相の調整を行う方法である。
【0011】
以下では、センサ部110についてはXYZ座標系を定義して説明する。また、センサ部110については、説明の便宜上、-Z方向側を下側又は下、+Z方向側を上側又は上と称すが、普遍的な上下関係を表すものではない。また、センサ部110については、XY面視することを平面視と称す。
【0012】
センサ部110は、一例として12個の検出電極111及び1個のアクティブシールド電極112を含む。12個の検出電極111は、マトリクス状に3行×4列で配置されている。検出電極111は、特に手等の人体との間の静電容量を自己容量式で検出する電極であり、一例としてITO(Indium Tin Oxide)膜のような数10Ω/□~100Ω/□程度のシート抵抗値を持つ導電材料で作製される。これは従来技術において感度の低下の影響を及ぼすレベルである。手等の人体は、静電容量検出装置100の検出対象になる対象物の一例である。
【0013】
ここで、ITO膜などは導電材料としては、アクティブシールド電極112に印加される交流信号に対して後述する位相調整回路140による位相の調整が行われなければ、検出回路130の検出感度の低下を招くほどの位相の遅延が検出電極111を伝搬する交流信号に生じるほど大きな時定数をもたらす。検出電極111は、一例として透明基板の表面に形成されている。なお、検出電極111の材料は、ITOに限らず、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン等でもよい。また、検出電極111は透明ではなくてもよい。
【0014】
アクティブシールド電極112は、平面視で12個の検出電極111と重なる位置に配設されており、12個の検出電極111の下側(裏側)に設けられている。また、アクティブシールド電極112には、位相調整回路140を介して交流信号源120が接続されている。アクティブシールド電極112は、12個の検出電極111をノイズから遮蔽するためと寄生容量を抑制するために設けられており、交流信号源120から出力され、位相調整回路140によって位相が進められた交流信号が印加される。
【0015】
アクティブシールド電極112は、一例としてITO膜のような導電材料で構成される。アクティブシールド電極112についてITO膜を用いることによる位相遅延の影響は、検出電極111と同様であり、アクティブシールド電極112に印加される交流信号に対して後述する位相調整回路140による位相の調整が行われなければ、検出回路130の検出感度の低下を招くほどの位相の遅延がアクティブシールド電極112を伝搬する交流信号に生じるほど大きな時定数をもたらす抵抗値を有することをいう。
【0016】
アクティブシールド電極112は、12個の検出電極111に近接して配置される。アクティブシールド電極112が12個の検出電極111に近接しているとは、アクティブシールド電極112が主に下方からのノイズに対して12個の検出電極111を遮蔽可能なほどに、また周辺や下方との結合による寄生容量を抑制するほどに、アクティブシールド電極112が12個の検出電極111の近くに位置することをいう。なお、アクティブシールド電極112の材料は、ITOに限らず、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタン等でもよい。また、アクティブシールド電極112は透明ではなくてもよい。
【0017】
交流信号源120は、アクティブシールド電極112に交流信号を供給する。具体的には、交流信号源120は、位相調整回路140の入力端子に接続される出力端子を有し、位相調整回路140に交流信号を出力する。交流信号源120から出力される交流信号は、位相調整回路140によって位相が進められた状態でアクティブシールド電極112に供給される。交流信号の周波数は、一例として30kHzから300kHzである。
【0018】
検出回路130は、検出電極111から出力される検出信号と交流信号源120から出力される交流信号とに基づいて、検出電極111に近接する対象物と検出電極111との間の静電容量を検出する。具体的には、検出回路130は、12個の入力端子130A、1個の入力端子130B、及び12個の出力端子130Cを有する。12個の入力端子130Aは、12個の検出電極111にそれぞれ接続されている。入力端子130Bは交流信号源120の出力端子に接続されている。12個の出力端子130Cは、静電容量検出装置100を含む電子機器、又は、静電容量検出装置100の外部に配置される電子機器等に接続されている。電子機器は、静電容量検出装置100を入力装置とする電子機器であれば、どのようなものであってもよい。例えばスマートフォやタブレットまたはコピー機などがあげられる。
【0019】
ここで、検出回路130については
図2を用いて説明する。
図2は、検出回路130の構成を示す図であるが物理的に構成する詳細回路は割愛して示している。検出回路130は、乗算器131及びLPF(Low Pass Filter)132を有する。検出回路130は、乗算器131及びLPF132を12個ずつ有するが、
図2には乗算器131及びLPF132を1つずつ示す。
【0020】
乗算器131の2個の入力端子には、入力端子130A及び130Bが接続される。乗算器131の出力端子はLPF132の入力端子に接続される。検出電極111から入力端子130Aに入力される入力信号は、アクティブシールド電極112から伝搬する交流信号と、検出電極111と手等の対象物との間の容量によって得られる信号とが重畳された信号である。入力端子130Bに入力される入力信号は、交流信号源120から出力される交流信号である。
【0021】
入力端子130Aに入力される入力信号は、交流信号源120から出力された交流信号の位相が位相調整回路140で進められ、アクティブシールド電極112及び検出電極111を伝搬する際に位相が遅延されるとともに、手等の対象物との間の容量によって得られる信号とが重畳された信号である。位相調整回路140は、入力端子130Aに入力される入力信号と、入力端子130Bに入力される入力信号との位相が一致するように、交流信号源120から出力された交流信号の位相を進めてアクティブシールド電極112に出力する。このため、入力端子130Aに入力される入力信号と、入力端子130Bに入力される入力信号との位相は一致しており、乗算器131の2個の入力端子には、位相が一致した信号が入力される。
【0022】
乗算器131の2個の入力端子に入力される信号が一致された状態で乗算されると、周波数が2倍で直流(DC)成分に重畳された信号が得られ、乗算器131の出力端子からLPF132に入力される。LPF132は、乗算器131の出力のうち所定の遮断周波数以下の帯域成分を通過させて、出力端子130Cから出力する。LPF132の出力は、検出電極111と手等の対象物との間の容量によって得られる信号に対応した直流成分である。
【0023】
位相調整回路140は、交流信号源120とアクティブシールド電極112との間に設けられ、交流信号源120により出力される交流信号の位相を進める。特に、位相調整回路140は、検出回路130に入力される検出信号と交流信号との位相が揃うように、交流信号の位相を進める。具体的には、位相調整回路140は、位相シフト回路140A及び反転増幅回路140Bを有する。位相シフト回路140Aは、オペアンプ141A、可変コンデンサ142A、可変抵抗器143A、及び抵抗器144A、145Aを有する。オペアンプ141Aの反転入力端子及び非反転入力端子は、抵抗器144A及び可変抵抗器143Aを介して交流信号源120の出力端子に接続されている。オペアンプ141Aの反転入力端子と出力端子との間には帰還抵抗として抵抗器145Aが接続されている。抵抗器144A、145Aの抵抗値はともにRaである。オペアンプ141Aの非反転入力端子と可変抵抗器143Aとの間には、可変コンデンサ142Aの一端が接続されている。可変コンデンサ142Aの他端はグランドに接続されている。オペアンプ141Aの出力端子は、反転増幅回路140Bの入力端子に接続されている。
【0024】
位相シフト回路140Aは、可変コンデンサ142Aの静電容量Csと、可変抵抗器143Aの抵抗値Rsとを変化させることにより、オペアンプ141Aの非反転入力端子の入力電圧を可変的に制御することができる。すなわち、位相シフト回路140Aは、オペアンプ141Aの非反転入力端子の入力電圧を制御することにより、反転入力端子に入力する交流信号に対するオペアンプ141Aの出力端子から出力される交流信号の位相を遅延させることができる。
【0025】
反転増幅回路140Bは、オペアンプ141B、及び抵抗器142B、143Bを有する。オペアンプ141Bの非反転入力端子はグランドに接続されており、反転入力端子は抵抗器142Bを介して位相シフト回路140Aのオペアンプ141Aの出力端子に接続されている。オペアンプ141Bの出力端子はアクティブシールド電極112に接続されている。オペアンプ141Bの反転入力端子と出力端子との間には帰還抵抗として抵抗器143Bが接続されている。抵抗器142B及び143Bの抵抗値は、ともにRbである。反転増幅回路140Bは、オペアンプ141Bの反転入力端子に入力される交流信号の位相を反転させて(180度シフトさせて)出力する。
【0026】
ここで、アクティブシールド電極112及び検出電極111と、アクティブシールド電極112及び検出電極111に接続される配線等との時定数によって交流信号に生じる位相の遅延量をα度とする。位相調整回路140は、位相シフト回路140Aにおいて、交流信号源120から入力される交流信号に(π-α)度の遅延を与えてから、反転増幅回路140Bで位相を反転させて出力する。このため、位相調整回路140が出力する交流信号の位相は、位相調整回路140に入力する交流信号の位相に対してα度進んでいる。実験又はシミュレーション等によってα度を測定し、位相シフト回路140Aの可変コンデンサ142Aの静電容量Csと、可変抵抗器143Aの抵抗値Rsとで決まる時定数RsCsでα度の遅延を実現できるように、静電容量Cs及び抵抗値Rsの値を決定すればよい。
【0027】
図3は、位相シフト回路140Aの入力信号に対する出力信号の位相とゲインの周波数特性のシミュレーション結果を示す図である。
図3において、横軸は周波数fであり、位相シフトが-90度になる周波数がfd=1/(2πRsCs)(Hz)である。横軸の周波数fdは、位相シフト回路140Aの可変コンデンサ142Aの静電容量Csと、可変抵抗器143Aの抵抗値Rsとで決まる時定数RsCsによって定まる周波数である。
図3の縦軸は、位相シフト回路140Aの出力信号の位相とゲインを示す。位相を破線で示し、ゲインを実線で示す。
【0028】
図3に示すように、位相は0度(位相シフト0°)から-180度(位相シフト-180°)まで連続的に変化している。また、周波数fが変化してもゲインは0dBである。以上より、位相シフト回路140Aは、入力信号に対する出力信号の位相を0度から-180度までシフト可能であり、入力信号と出力信号の信号レベルに変化は生じないことが分かる。
【0029】
このような位相シフト回路140Aの出力信号の位相を反転増幅回路140Bで反転させれば、反転増幅回路140Bの出力信号の位相は、位相シフト回路140Aの入力信号の位相に対して-180度から-360度シフトされることになる。すなわち、位相調整回路140は、位相シフト回路140Aの入力信号の位相を0度から180度進めることができる。
【0030】
図4は、交流信号源120から検出電極111の間で得られる信号の位相の関係を示す図である。
図4(A)には位相調整回路140による位相の調整量が0度の場合の検出電極111の出力信号の位相を示す。
図4(B)には交流信号源120の交流信号の位相を示す。
図4(C)には位相シフト回路140Aの出力信号の位相を示す。
図4(D)には反転増幅回路140Bの出力信号の位相を示す。
【0031】
図4(B)には交流信号源120の交流信号の位相を基準とすると、
図4(A)に示す位相調整回路140による位相の調整量が0度の場合の検出電極111の出力信号の位相は、α度遅れている。また、
図4(C)には位相シフト回路140Aの出力信号の位相は、
図4(B)に示す交流信号源120の交流信号の位相に対して(π-α)度遅延されている。
図4(D)に示す反転増幅回路140Bの出力信号の位相は、
図4(B)に示す交流信号源120の交流信号の位相に対してα度進んでいる。
図4(D)に示すように、交流信号源120の交流信号に対して位相をα度進めた交流信号をアクティブシールド電極112に入力すれば、検出回路130の乗算器131の2個の入力端子に入力する交流信号の位相を一致させることができる。
【0032】
図5は、静電容量検出装置100のセンサ部110における抵抗と静電容量を模式的に示す図である。
図5(A)には、センサ部110のうちの1個の検出電極111と、アクティブシールド電極112の一部とに対応する部分を示す。検出電極111を抵抗R111として示し、アクティブシールド電極112を抵抗R112として示す。また、検出電極111とアクティブシールド電極112との間のギャップに生じる静電容量をコンデンサCG、手Hと検出電極111との間の静電容量をコンデンサCH、検出電極111の寄生容量をコンデンサCPとして示す。
【0033】
アクティブシールド電極112に入力する交流信号は、コンデンサCGを経て検出電極111に流れる。センサ部110には、抵抗値として抵抗R111及びR112が存在するとともに、コンデンサCG、CH、CPが存在するため、抵抗R111及びR112の抵抗値と、コンデンサCG、CH、CPの静電容量とによる時定数が存在する。このような時定数により、アクティブシールド電極112に入力する交流信号に対して、検出電極111から出力される交流信号の位相の遅れが生じる。
【0034】
図5(B)において、位相調整回路140の出力信号は、(1)の交流信号源120の交流信号に対して、(2)に示すように位相がα度進んでいる。交流信号源120の交流信号に対して位相をα度進めた交流信号をアクティブシールド電極112に入力すれば、(3)に示すように検出電極111の出力信号は、アクティブシールド電極112に入力する交流信号に対してα度位相が送遅れるため、(1)の交流信号源120の交流信号と同位相になる。このため、乗算器131の2個の入力端子に位相が一致した2つの交流信号を入力することができる。
【0035】
図6は、静電容量検出装置100における各部の信号波形を示す図である。
図6には、(1)交流信号源120の交流信号、(2)検出電極111の出力信号、(3)乗算器131の出力信号、(4)LPF132の出力信号を示す。(2)検出電極111の出力信号、及び、(4)LPF132の出力信号については、位相調整回路140による位相調整を行った場合の信号波形を実線で示し、位相調整回路140による位相調整を行っていない場合の信号波形を破線で示す。
【0036】
位相調整回路140による位相調整を行っている場合は、(1)の交流信号源120の交流信号と、(2)の実線で示す検出電極111の出力信号との位相が一致するため、(3)に実線で示すように交流信号の周波数の2倍の周波数の乗算器131の出力信号が得られ、LPF132の出力信号は、(4)に実線で示す直流信号として得られる。
【0037】
一方、位相調整回路140による位相調整を行っていない場合は、(1)の交流信号源120の交流信号と、(2)の破線で示す検出電極111の出力信号との位相が一致しないため、(3)に破線で示すように乗算器131の出力信号の直流レベルは低くなり、LPF132の出力信号は、(4)に破線で示すように実線の直流信号に比べて信号レベルが低下した直流信号になる。
【0038】
以上のように、アクティブシールド電極112に入力する交流信号の位相をセンサ部110で生じる位相の遅れの分だけ位相調整回路140で予め進めておくことにより、検出電極111の出力信号の位相を交流信号源120から出力される交流信号の位相と一致させることができる。このため、検出回路130の出力信号の信号レベルは、検出電極111の出力信号と交流信号源120から出力される交流信号とを乗算してLPF132に通して得られる信号として最大の信号レベルになる。このことは指などの検出対象の在否によるコンデンサCHの変化分を最大化する事を意味する。
【0039】
したがって、信号の位相の遅延による検出感度の低下を抑制した静電容量検出装置100、及び、静電容量検出方法を提供することができる。また、検出感度の低下を抑制することにより、検出におけるダイナミックレンジを向上させた静電容量検出装置100、及び、静電容量検出方法を提供することができる。例えばITOのように抵抗値を持つ導電膜を検出電極111又はアクティブシールド電極112に用いても、交流信号源120から出力される交流信号の位相を位相調整回路140で進めてからアクティブシールド電極112に入力でき、検出回路130における検出感度の低下を抑制できる。
【0040】
また、検出電極111の出力信号と交流信号源120の交流信号とが一致するように交流信号の位相を位相調整回路140で進めることは、検出電極111の出力信号と交流信号との位相が揃うように交流信号の位相を進めることである。位相調整回路140で交流信号の位相を調整すれば、検出電極111の出力信号と交流信号源120の交流信号とが完全に一致していなくても、位相調整回路140で交流信号の位相を調整しない場合に比べて、検出回路130における検出感度を向上させることができる。このため、位相調整回路140で交流信号の位相を適切に進めれば、検出電極111の出力信号と交流信号源120の交流信号とが完全に一致していなくても、検出回路130における検出感度の低下を抑制できる。
【0041】
また、厳密に言えば、交流信号の位相を進めることはできないが、位相調整回路140が交流信号の位相を遅延させる位相シフト回路140Aと、交流信号の位相を反転させる反転増幅回路140Bとを有するため、実質的に交流信号の位相を進めることができ、センサ部110で生じる位相の遅延を相殺させることができる。
【0042】
また、検出回路130が乗算器131及びLPF132を有するため、シンプルな構成の検出回路130で検出電極111と手H等の対象物との間の静電容量を検出することができる。
【0043】
なお、以上では、センサ部110が12個の検出電極111を有する形態について説明したが、センサ部110は、1個以上の(1又は複数の)検出電極111を有していればよく、検出電極111の数は幾つであってもよい。
【0044】
また、以上では、検出回路130が乗算器131及びLPF132を有する形態について説明したが、検出回路130は、乗算器131の代わりに差動増幅器を有する構成であってもよい。
図7は、差動増幅器135を示す図である。差動増幅器135は、オペアンプ133と抵抗器R1~R4、入力端子135A、135B、及び出力端子135Cを有する。このような差動増幅器135の入力端子135A、135B、及び出力端子135Cを乗算器131の2個の入力端子及び出力端子の代わりに接続すればよい。すなわち、差動増幅器135は、検出電極111に接続される反転入力端子135Bと交流信号が印加される非反転入力端子135Aとの電圧差を増幅して出力する。差動増幅器135は、2個の入力端子に入力される信号VIN+、VIN-の差を増幅して出力端子から出力する。差動増幅器135の出力をLPF132に入力すれば、乗算器131及びLPF132を有する検出回路130と同様の出力信号が得られる。このため、差動増幅器を有する検出回路における検出感度の低下を抑制できる。また、検出回路130は130Aから乗算器131の間に演算増幅器による積分回路を配置する事も可能である。
【0045】
また、
図8に示すように、マルチプレクサ(MUX)150を含む構成であってもよい。この場合において、検出電極111は複数あるものとする。
図8は、実施形態の変形例の静電容量検出装置100Mを示す図である。静電容量検出装置100Mは、センサ部110の出力側にマルチプレクサ150を設けるとともに、検出回路130の代わりに検出回路130Mを含む構成を有する。マルチプレクサ150は、選択部に対応し、複数の検出電極111のうちの1又は複数の検出電極111を時分割で選択する。また、検出回路130Mは、マルチプレクサ150(選択部)により選択された検出電極111から出力される検出信号と交流信号源120から出力される交流信号とに基づいて、検出電極111に近接する対象物と検出電極111との間の静電容量を検出する。位相調整回路140は、マルチプレクサ150により選択された1又は複数の検出電極111に応じて、交流信号の位相進み量を調節する。
【0046】
マルチプレクサ150は、センサ部110と検出回路130Mとの間に設けられており、12個の検出電極111をX方向に4つのグループG1~G4に分けて時分割で出力信号を取得して検出回路130Mに出力する。グループG1に含まれる3個の検出電極111は、マルチプレクサ150に最も近いため、マルチプレクサ150までの配線長が最も短く、グループG1~G4の中では配線の抵抗値が最も小さい。グループG4に含まれる3個の検出電極111は、マルチプレクサ150から最も遠いため、マルチプレクサ150までの配線長が最も長く、グループG1~G4の中では配線の抵抗値が最も大きい。このような配線長の差による時定数の差が、検出電極111から出力される位相差として静電容量検出装置100Mの検出結果に与える影響が大きい場合には、静電容量検出装置100Mのような構成が有用である。
【0047】
検出回路130Mは、グループG1~G4の各々に含まれる3つの検出電極111の出力信号と、交流信号源120から出力される交流信号とに基づいて、3つの検出電極111と手H等の対象物との間の静電容量を時分割的に検出する。このため、検出回路130Mは、乗算器131及びLPF132を3つずつ有していればよい。
【0048】
図9は、静電容量検出装置100Mの各部の信号波形を示す図である。(A)は交流信号源120の交流信号を示し、(B)は位相調整回路140による位相調整量が0度の場合のグループG1に含まれる検出電極111の出力信号を示し、(C)は位相調整回路140による位相調整量が0度の場合のグループG4に含まれる検出電極111の出力信号を示す。グループG1とG4を比べると、マルチプレクサ150に近くて配線長の短いグループG1の検出電極111の出力信号の位相遅れα1度の方が、グループG4の検出電極111の出力信号の位相遅れα4度よりも小さい。配線長が短い分だけ時定数が小さいためである。
【0049】
図10は、静電容量検出装置100Mの位相調整回路140における位相調整量を説明する図である。
図10には、検出対象になるグループG1~G4、位相調整量α1度~α4度、及び時間区分T1~T4を示す。グループG1~G4を検出する時間の区分(時間区分)をT1~T4に分け、時間区分T1~T4において、それぞれ、位相調整回路140が交流信号源120から入力される交流信号の位相をα1度~α4度進めるようにすればよい。このようにすれば、グループ毎に配線長に応じた位相調整量α1度~α4度を用いて、検出回路130MでグループG1~G4の各々の検出電極111から出力される出力信号と、交流信号源120から出力される交流信号とを一致させて、検出電極111と手H等の対象物との間の静電容量を検出することができる。
【0050】
したがって、信号の位相の遅延による検出感度の低下を抑制した静電容量検出装置100M、及び、静電容量検出方法を提供することができる。特に、複数の検出電極111の配線長の違いによる出力信号の位相の差が検出結果に影響を与えるような場合には、マルチプレクサ150で時分割に検出し、グループ毎に位相調整量を設定することが非常に有用である。静電容量検出装置100Mでは、検出回路130Mの出力信号の信号レベルは、グループ毎に検出電極111の出力信号と交流信号源120から出力される交流信号とを乗算してLPF132に通して得られる信号として最大の信号レベルが得られる。
【0051】
以上、本発明の例示的な実施形態の静電容量検出装置、及び、静電容量検出方法について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【0052】
なお、本国際出願は、2020年8月20日に出願した日本国特許出願2020-139645に基づく優先権を主張するものであり、その全内容は本国際出願にここでの参照により援用されるものとする。
【符号の説明】
【0053】
100、100M 静電容量検出装置
110 センサ部
120 交流信号源
130、130M 検出回路
135 差動増幅器
140 位相調整回路
131 乗算器
132 LPF
140A 位相シフト回路
140B 反転増幅回路
150 マルチプレクサ